(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ドライエッチング方法、半導体デバイスの製造方法及びエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20241017BHJP
C23F 4/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
C23F4/00 A
(21)【出願番号】P 2021554123
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033073
(87)【国際公開番号】W WO2021079624
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2019192524
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山内 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】北山 光
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
【審査官】▲はま▼中 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-151383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0107274(US,A1)
【文献】特開2018-186149(JP,A)
【文献】特開2018-110229(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134930(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179449(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
C23F 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体の表面に形成された、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は前記金属の酸化物を含む被エッチング膜に、β-ジケトン及び二酸化窒素を反応させて、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項2】
前記M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は前記金属の酸化物は、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、ハフニウム金属、ジルコニウム金属、チタン金属、及び、アルミニウム金属からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記被エッチング膜は、ハフニウム酸化物膜、ジルコニウム酸化物膜、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物膜、ハフニウム金属膜、ジルコニウム金属膜、チタン金属膜、及び、アルミニウム金属膜からなる群から選択される少なくとも1種の膜である請求項1又は2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
前記β-ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトン又はトリフルオロアセチルアセトンである、請求項1~3のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
前記β-ジケトン及び前記二酸化窒素を含むエッチングガスAを前記被エッチング膜と接触させる請求項1~4のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
前記エッチングガスAを前記被エッチング膜と接触させる際の前記被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下である、請求項5に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
前記エッチングガスAにおける前記β-ジケトンと前記二酸化窒素の体積比は、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.001以上100以下である、請求項5~6のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項8】
前記エッチングガスAにおける前記β-ジケトンと前記二酸化窒素の体積比は、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.01以上10以下である、請求項7に記載のドライエッチング方法。
【請求項9】
前記被エッチング膜に、前記エッチングガスAを接触させる際、前記被エッチング膜が形成された被処理体が置かれる処理容器内の圧力が、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲である、請求項5~8のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項10】
前記被エッチング膜が、酸化ハフニウム(HfO
x(xは1以上3以下))、酸化ジルコニウム(ZrO
u(uは1以上3以下))、酸化アルミニウム(AlO
v(vは1以上2以下))、及び酸化チタン(TiO
w(wは1以上3以下))からなる群から選択される少なくとも1種からなる膜であり、
前記β-ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、
前記β-ジケトン及び前記二酸化窒素を前記被エッチング膜に接触させる際の前記被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下であり、
前記エッチングガスAにおけるβ-ジケトンと二酸化窒素の体積比は、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.001以上100以下であり、
前記被エッチング膜に、前記エッチングガスAを接触させる際、前記被エッチング膜が形成された被処理体が置かれる処理容器内の圧力が、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲であり、
前記被エッチング膜のエッチング速度が0.1nm/分以上である、請求項5に記載のドライエッチング方法。
【請求項11】
前記エッチングガスAは、N
2、Ar、He、Ne及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスをさらに含む、請求項5~10のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項12】
前記エッチングガスA中の不活性ガスの含有率は、1体積%以上90体積%以下である、請求項11に記載のドライエッチング方法。
【請求項13】
前記エッチングガスA中の不活性ガスの含有率は、30体積%以上50体積%以下である、請求項11に記載のドライエッチング方法。
【請求項14】
前記二酸化窒素を含むエッチングガスBを前記被エッチング膜と接触させる第1のエッチング工程と、
前記β-ジケトンを含むエッチングガスCを前記被エッチング膜と接触させる第2のエッチング工程とを備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項15】
前記第1のエッチング工程と前記第2のエッチング工程とを複数サイクル繰り返し行う請求項14に記載のドライエッチング方法。
【請求項16】
前記エッチングガスBを前記被エッチング膜と接触させる際の前記被エッチング膜の温度、及び、前記エッチングガスCを前記被エッチング膜と接触させる際の前記被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下である、請求項14又は15に記載のドライエッチング方法。
【請求項17】
前記被エッチング膜に前記エッチングガスBを接触させる際、及び、前記被エッチング膜に前記エッチングガスCを接触させる際、前記被エッチング膜が形成された被処理体が置かれる処理容器内の圧力が、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲である、請求項14~16のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項18】
被エッチング膜が、酸化ハフニウム(HfO
x(xは1以上3以下))、酸化ジルコニウム(ZrO
u(uは1以上3以下))、酸化アルミニウム(AlO
V(vは1以上2以下))、及び酸化チタン(TiO
w(wは1以上3以下))からなる群から選択される少なくとも1種からなる膜であり、
前記β-ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、
前記エッチングガスBを前記被エッチング膜と接触させる際の前記被エッチング膜の温度、及び、前記エッチングガスCを前記被エッチング膜と接触させる際の前記被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下であり、
前記被エッチング膜に前記エッチングガスBを接触させる際、及び、前記被エッチング膜に前記エッチングガスCを接触させる際、前記被エッチング膜が形成された被処理体が置かれる処理容器内の圧力が、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲である、請求項14に記載のドライエッチング方法。
【請求項19】
前記エッチングガスB及び前記エッチングガスCは、N
2、Ar、He、Ne及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスをさらに含む、請求項14~18のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項20】
前記エッチングガスB及び前記エッチングガスC中の不活性ガスの含有率は、1体積%以上90体積%以下である、請求項19に記載のドライエッチング方法。
【請求項21】
前記エッチングガスB及び前記エッチングガスC中の不活性ガスの含有率は、30体積%以上50体積%以下である、請求項20に記載のドライエッチング方法。
【請求項22】
基板上のM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は前記金属の酸化物を含む被エッチング膜に、β-ジケトン及び二酸化窒素を反応させて、プラズマ状態を伴わずにエッチングする工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項23】
前記被エッチング膜は、ハフニウム酸化物膜、ジルコニウム酸化物膜、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物膜、ハフニウム金属膜、ジルコニウム金属膜、チタン金属膜、及び、アルミニウム金属膜からなる群から選択される少なくとも1種の膜である請求項22に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項24】
加熱可能な処理容器内に設けられ、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は前記金属の酸化物を含む被エッチング膜が表面に形成された被処理体を載置する載置部と、
β-ジケトンを前記被処理体に供給するβ-ジケトン供給部と、
二酸化窒素を前記被処理体に供給する二酸化窒素ガス供給部と、
を備えることを特徴とするエッチング装置。
【請求項25】
不活性ガスを前記被処理体に供給する不活性ガス供給部を、さらに備えることを特徴とする請求項24に記載のエッチング装置。
【請求項26】
前記被エッチング膜は、ハフニウム酸化物膜、ジルコニウム酸化物膜、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物膜、ハフニウム金属膜、ジルコニウム金属膜、チタン金属膜、及び、アルミニウム金属膜からなる群から選択される少なくとも1種の膜である請求項24又は25に記載のエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドライエッチング方法、半導体デバイスの製造方法及びエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの回路パターンの微細化に対応して、電界効果トランジスタの微小化も進んでいるため、ゲート絶縁膜を、SiO2(誘電率k=3.9)でなく、高誘電率(high-k)材料の一種であるHfO2(誘電率k=25)等で形成することが検討されている。
【0003】
高誘電率材料でゲート絶縁膜を形成するためには、製膜後にエッチングをし、所定の形状にする必要がある。
【0004】
特許文献1には、MOSトランジスタなどの製法に関して、基板上に形成されたAl、Zr、Hf、Y、La、Ce、及びPrの少なくともいずれかを含んでいる金属膜及び金属酸化膜をエッチングする方法において、基板の損傷を低減させるためにβ-ジケトンを含むエッチングガスを用いることが記載されており、実施例には、ウェハの温度を約450℃としてヘキサフルオロアセチルアセトンガスに酸素を加えてHfO2膜をエッチングする方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、半導体素子の製法に関して、Si膜上に形成されたハフニウム酸化物などの高比誘電率膜試料をCおよびHを含有するCH系エッチングガスをプラズマ状態に励起して高比誘電率膜をエッチングする方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、β-ジケトンと、NOまたはN2Oを含むガスを用いて、基板表面に、メタルゲート材料、電極材料、又は磁性材料を成膜する成膜装置に付着した金属膜をクリーニングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-91829号公報
【文献】特開2006-310676号公報
【文献】特開2013-194307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように半導体デバイスの回路パターンの微細化に対応して、高誘電率材料をゲート絶縁膜として用いる技術が開発されているが、ハフニウム酸化物などの高誘電率材料の多くは難エッチング材料である。
【0009】
特許文献1に記載の発明では、エッチングガスに酸素の他に水及びアルコールの少なくともいずれかを含んでいることが好ましく、また、ウェハの温度が400℃以下の低温ではエッチングが進行しないことが開示されている。すなわち、特許文献1の
図9からは、ヘキサフルオロアセチルアセトンと酸素の混合ガスの場合は、ウェハの温度が400℃以下ではエッチングが進行しないことが分かる。ウェハの温度が400℃を超える温度にてエッチング工程を行う場合、半導体デバイスへのダメージが大きいため、400℃以下、より好ましくは300℃以下の低温でハフニウム酸化物をエッチングできる方法が望まれていた。
【0010】
特許文献2には、C2H2をプラズマエッチングガスとして用いて1.0nm/分のエッチング速度が得られたことが開示されているが、プラズマエッチング方法は、半導体デバイスのエッチング対象でない部分にプラズマがダメージを与える上に、プラズマを発生させるためのRF電源により装置が高額となるため、プラズマを用いない方法が望まれていた。また、特許文献3には、金属膜のクリーニング方法が記載されているだけであり、HfO2をエッチングした実施例は開示されていない。
【0011】
本開示は、上記した課題に鑑み、ハフニウム酸化物膜を含む特定種類の金属酸化物膜又は金属膜をプラズマレスで、かつ低温でエッチングすることが可能なガス組成物によるドライエッチング方法を提供することを目的とする。さらに、本開示は、上記ドライエッチング方法を用いた半導体デバイスの製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、β-ジケトンの添加ガスとして二酸化窒素を用いると、他の添加ガスを使用した場合に比べて特異的に、温度が400℃以下、さらには300℃以下であってもハフニウム酸化物等の特定の金属酸化物膜や金属膜のエッチングが進行することを見出し、本開示に至った。
【0013】
本開示のドライエッチング方法は、被処理体の表面に形成された、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜に、β-ジケトン及び二酸化窒素を反応させて、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることを特徴とする。
【0014】
M-O結合エネルギーとは、金属として存在する状態と酸素として存在する状態との間でのポテンシャルエネルギーの差であり、上記結合エネルギーが大きいほど、金属と酸素との結合が強固であると言える。
上記M-O結合エネルギーが5eV以上の金属では、金属と酸素との結合が強固で金属酸化物は安定であり、エッチングが難しい材料である。金属自体も、二酸化窒素により酸化され易いため、実質的に金属酸化物をエッチングすることとなり、エッチングが難しいと考えられるが、本開示のドライエッチング方法では、300℃以下でもエッチングが可能である。
【0015】
本開示のドライエッチング方法において、上記M-O結合エネルギーが5eV以上の金属としては、例えば、ハフニウム、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等が挙げられ、これらの金属の酸化物としてはハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、アルミニウム酸化物等が挙げられる。これらの金属は単独で用いることができるとともに2種以上を含む合金であってもよい。従って、これらの金属の酸化物も、1種の金属の酸化物であってもよく、これらの金属の合金の酸化物であってもよい。
【0016】
本開示のドライエッチング方法としては、前記β-ジケトン及び前記二酸化窒素を含むエッチングガスAを前記被エッチング膜と接触させる第1のドライエッチング方法を採用してもよく、前記二酸化窒素を含むエッチングガスBを前記被エッチング膜と接触させる第1のエッチング工程と、前記β-ジケトンを含むエッチングガスCを前記被エッチング膜と接触させる第2のエッチング工程とを備える第2のドライエッチング方法を採用してもよい。
【0017】
本開示の半導体デバイスの製造方法は、基板上のM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜に、β-ジケトン及び二酸化窒素を反応させて、プラズマ状態を伴わずにエッチングする工程を備えることを特徴とする。
本開示の半導体デバイスの製造方法においても、上記した第1のドライエッチング方法を採用してもよく、第2のドライエッチング方法を採用してもよい。
【0018】
本開示のエッチング装置は、加熱可能な処理容器内に設けられ、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜が表面に形成された被処理体を載置する載置部と、β-ジケトンを上記被処理体に供給するβ-ジケトン供給部と、二酸化窒素を上記被処理体に供給する二酸化窒素ガス供給部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本開示のドライエッチング方法によれば、温度が400℃以下、さらには300℃以下であっても、上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む難エッチング性の被エッチング膜を、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることが可能なドライエッチング方法を提供することができる。
本開示のドライエッチング方法によれば、上記の第1のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記の第2のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記した同様の効果を有するドライエッチング方法を提供することができる。
【0020】
本開示の半導体デバイスの製造方法によれば、温度が400℃以下、さらには300℃以下であっても、基板上の上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む難エッチング性の被エッチング膜を、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることが可能な半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
本開示の半導体デバイスの製造方法によれば、上記の第1のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記の第2のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記した同様の効果を有する半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【0021】
本開示のエッチング装置によれば、このエッチング装置を用いることにより、温度が400℃以下、さらには300℃以下であっても、上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む難エッチング性の被エッチング膜を、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることが可能となる。
本開示のエッチング装置を用いることにより、上記の第1のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記の第2のドライエッチング方法を採用した場合であっても、上記した同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るエッチング装置を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について具体的に説明する。
しかしながら、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0024】
[ドライエッチング方法]
本開示のドライエッチング方法は、被処理体の表面に形成された、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜に、β-ジケトン及び二酸化窒素を反応させて、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法である。
【0025】
上記のM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物は、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、ハフニウム金属、ジルコニウム金属、チタン金属、及び、アルミニウム金属からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
さらに、上記のM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜は、ハフニウム酸化物膜、ジルコニウム酸化物膜、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物膜、ハフニウム金属膜、ジルコニウム金属膜、チタン金属膜、及び、アルミニウム金属膜からなる群から選択される少なくとも1種の膜であることが望ましい。
上記の被エッチング膜は、上記した単独の金属又は金属酸化物の膜であってもよく、上記金属を2種以上含む合金又は合金の酸化物の膜であってもよい。
【0026】
本開示のドライエッチング方法によれば、温度が400℃以下、さらには300℃以下であっても、上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む難エッチング性の被エッチング膜を、プラズマ状態を伴わずにエッチングすることが可能なドライエッチング方法を提供することができる。
【0027】
β-ジケトンの一種であるヘキサフルオロアセチルアセトン(以下、HFAcともいう)の分解温度は375℃であるため、特許文献1に記載されているようなエッチング温度が400℃を超える温度である場合、HFAcの分解が生じ、エッチング対象である被エッチング膜上に炭素成分が堆積し、その後のプロセスにおいて、不都合が発生することが充分に想定される。
一方、本開示のドライエッチング方法では、HFAcとNO2をエッチングガスとして用いることにより、エッチング温度を375℃以下まで低下させることができるため、HFAcの分解による炭素膜の形成を抑制することができる。
エッチング温度を低下させることができる理由としては、被エッチング膜の表面にエッチングガスを構成するNO2が吸着し、上記した金属酸化物を構成する金属と酸素との間の結合力が弱まり、HFAcとの反応性が向上し、低温でもエッチングが可能になるのではないかと推定される。
【0028】
[第1のドライエッチング方法]
まず、本開示のドライエッチング方法として、上記β-ジケトン及び上記二酸化窒素を含むエッチングガスAを上記被エッチング膜と接触させる第1のドライエッチング方法について説明する。
【0029】
本開示の第1のドライエッチング方法において、被処理体としては、シリコン基板、化合物半導体基板、石英基板、ガラス基板を挙げることができる。被処理体の表面には、上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む膜以外に、シリコン膜、シリコン酸化物膜、シリコン窒化物膜、上記金属以外の金属配線膜などが形成されていてもよい。被処理体は、載置部に載置され、載置部を加熱することで、被処理体、及び、被処理体の表面に形成されたM-O結合エネルギーが5eV以上の金属若しくは上記金属の酸化物を含む被エッチング膜が加熱される。
【0030】
被処理体の温度は、実質的に上記被エッチング膜の温度に等しい。加熱した状態の上記被エッチング膜にβ-ジケトンと二酸化窒素を含むエッチングガスを接触させると、β-ジケトンと二酸化窒素とM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物とが反応して、上記被エッチング膜上に錯体を生成する。この錯体は蒸気圧が高いため、錯体が気化することにより被エッチング膜をエッチングすることができる。
【0031】
M-O結合エネルギーが5eV以上の金属の酸化物を構成するハフニウム酸化物としては、酸化ハフニウム(HfOx(xは1以上3以下)、特にHfO2)、酸化ケイ素ハフニウム、酸化アルミニウムハフニウムを挙げられる。酸化ケイ素ハフニウムとしては、Hf1-xSixOy、Hf1-xSixOyNzを挙げられ、酸化アルミニウムハフニウムとしては、Hf1-xAlxOm、Hf1-xAlxOmNnを挙げられる。ただし、x、y、z、m、nは0<x<1、0<y≦2、0<z≦1.33、0<m≦1.5、0<n≦1を示す。
【0032】
ジルコニウム酸化物としては、酸化ジルコニウム(ZrOu(uは1以上3以下)、特にZrO2)を挙げられる。アルミニウム酸化物としては、酸化アルミニウム(AlOv(vは1以上2以下)、特にAl2O3)を挙げられる。チタン酸化物としては、酸化チタン(TiOw(wは1以上3以下)、特にTiO2)を挙げられる。
【0033】
被処理体表面へのM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、化学的気相成長(CVD)法や、スパッタリング法を挙げることができる。また、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜の厚さも特に限定されないが、例えば、0.1nm以上1μm以下の厚さとすることができる。
【0034】
β-ジケトンの種類は、特に限定されないが、例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFAc、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオン)、トリフルオロアセチルアセトン(1,1,1-トリフルオロ-2,4-ペンタンジオン)等が挙げられる。β-ジケトンとして、1種の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を用いてもよい。
【0035】
エッチングガスA中に含まれるβ-ジケトンと二酸化窒素の体積比は、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.001以上100以下であることが好ましく、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.01以上10以下であることがより好ましく、β-ジケトン:二酸化窒素=10:0.1以上10以下であることがさらに好ましい。エッチングガス中にβ-ジケトンが少なすぎると、エッチング速度が低下する傾向にあり、多すぎるとエッチングガスが高価になりすぎてしまう。また、エッチングガス中の二酸化窒素が少なすぎても多すぎてもエッチングが進みにくくなってしまう。
【0036】
上記エッチングガスAは、β-ジケトンと二酸化窒素のみからなっていてもよいが、O2、NO、N2O、CO、CO2、H2O、H2O2、アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加ガスをさらに含んでもよいし、N2、Ar、He、Ne及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスをさらに含んでもよい。また、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどを使用することができる。
【0037】
エッチングガスAが二酸化窒素以外の添加ガスを含む場合、エッチングガスA中に含まれる二酸化窒素とそれ以外の添加ガスの合計の含有率は、前述の二酸化窒素の含有率と同じとすることができる。
【0038】
エッチングガスAが不活性ガスを含む場合、エッチングガスA中に含まれる不活性ガスの含有率は、1体積%以上90体積%以下であることが好ましく、10体積%以上80体積%以下であることがより好ましく、30体積%以上50体積%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
[第2のドライエッチング方法]
次に、本開示のドライエッチング方法として、二酸化窒素を含むエッチングガスBを被エッチング膜と接触させる第1のエッチング工程と、β-ジケトンを含むエッチングガスCを被エッチング膜と接触させる第2のエッチング工程とを備える第2のドライエッチング方法について説明する。
【0040】
本開示の第2のドライエッチング方法において、被処理体としては、第1のドライエッチング方法の場合と同様、シリコン基板、化合物半導体基板、石英基板、ガラス基板を挙げることができる。被処理体の表面には、上記したM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物の膜以外に、シリコン膜、シリコン酸化物膜、シリコン窒化物膜、上記金属以外の金属配線膜などが形成されていてもよい。被処理体は載置部に載置され載置部を加熱することで被処理体及び被処理体の表面に形成されたM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜が加熱される。
【0041】
被処理体の温度は、実質的に上記被エッチング膜の温度に等しい。加熱した状態の上記被エッチング膜に、第1のエッチング工程として、二酸化窒素を含むエッチングガスBを接触させると、被エッチング膜の表面に二酸化窒素が吸着する。この後、第2のエッチング工程として、β-ジケトンを含むエッチングガスCを上記被エッチング膜と接触させると、表面に二酸化窒素が吸着した、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物と、β-ジケトンとが反応し、第1のドライエッチング方法の場合と同様に、被エッチング膜上に錯体が生成する。この錯体は蒸気圧が高いため、錯体が気化することによりM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜をエッチングすることができる。
本開示の第2のドライエッチング方法では、被エッチング膜を繰り返しエッチングするために、上記工程を複数回繰り返してもよい。1サイクルのエッチング工程において、一定厚さエッチングすることが可能であるので、サイクル数を特定することにより、精密に所望の厚さの層をエッチングすることができる。
【0042】
M-O結合エネルギーが5eV以上の金属の酸化物を構成するハフニウム酸化物としては、上記の第1のドライエッチング方法の場合と同様のものを使用することができる。
【0043】
被処理体表面へのM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、化学的気相成長(CVD)法や、スパッタリング法を挙げることができる。また、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1nm以上1μm以下の厚さとすることができる。
【0044】
β-ジケトンとしては、上記の第1のドライエッチング方法の場合と同様のものを用いることができる。
【0045】
上記エッチングガスCは、β-ジケトンのみからなっていてもよく、エッチングガスBは二酸化窒素のみからなっていてもよいが、O2、NO、N2O、CO、CO2、H2O、H2O2、アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加ガスをさらに含んでもよいし、N2、Ar、He、Ne及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスをさらに含んでもよい。また、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどを使用することができる。
【0046】
エッチングガスBが二酸化窒素以外の添加ガスを含む場合、エッチングガスA中に含まれる二酸化窒素とそれ以外の添加ガスの合計の体積比は、前述のエッチングガスA中に含まれるβ-ジケトンと二酸化窒素の体積比と同じとすることができる。
また、エッチングガスCがβ-ジケトン以外の添加ガスを含む場合、エッチングガスC中に含まれるβ-ジケトンとそれ以外の添加ガスの合計の体積比は、前述のエッチングガスA中に含まれるβ-ジケトンと二酸化窒素の体積比と同じとすることができる。
【0047】
エッチングガスB及びエッチングガスCが不活性ガスを含む場合、エッチングガスB及びエッチングガスCに含まれる不活性ガスの含有率は、1体積%以上90体積%以下であることが好ましく、10体積%以上80体積%以下であることがより好ましく、30体積%以上50体積%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
[エッチング装置]
本開示のドライエッチング方法は、例えば、半導体製造工程に使用される一般的なエッチング装置を使用することにより実現することができる。このようなエッチング装置も、本開示の1つである。
【0049】
図1は、本開示の一実施形態に係るエッチング装置を模式的に示す概略図である。
図1に示すエッチング装置100は、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物が表面に形成された被処理体10を配置する処理容器110と、処理容器110に接続して気体のβ-ジケトンを供給するβ-ジケトン供給部140と、気体の二酸化窒素を供給する二酸化窒素ガス供給部150と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部160と、処理容器110を加熱する加熱手段170と、を備える。なお、エッチング装置100は、不活性ガス供給部160を備えていなくてもよい。
【0050】
さらにエッチング装置100は、図示しない制御部を備えている。この制御部は、例えばコンピュータからなり、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムは、第1のエッチング方法又は第2のエッチング方法における一連の動作を実施するようにステップ群が組み込まれており、プログラムに従って、被処理体10の温度の調整、各供給部のバルブの開閉、各ガスの流量の調整、処理容器110内の圧力の調整などを行う。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、メモリーカード等に収納され制御部にインストールされる。
【0051】
処理容器110は、被処理体10を載置するための載置部111を具備する。処理容器110は、使用するβ-ジケトンに対する耐性があり、所定の圧力に減圧できるものであれば特に限定されるものではないが、通常、半導体のエッチング装置に備えられた一般的な処理容器などが適用される。また、エッチングガスを供給する供給管やその他の配管などもβ-ジケトンに対する耐性にあるものであれば特に限定されるものではなく一般的なものを使用することができる。
【0052】
β-ジケトン供給部140は、バルブV1及びV2と流量調整手段MFC1で供給量を調整して、β-ジケトンを配管141及び142から配管121に供給する。
【0053】
二酸化窒素ガス供給部150は、バルブV3及びV4と流量調整手段MFC2で供給量を調整して、二酸化窒素を配管151及び152から配管121に供給する。
【0054】
不活性ガス供給部160は、バルブV5及びV6と流量調整手段MFC3で供給量を調整して、不活性ガスを配管161及び162から配管121に供給する。
【0055】
処理容器110の外部には、処理容器110を加熱する加熱手段170が配設される。また、載置部111の内部には、第2の加熱手段として、ヒーター(図示せず)を備えてもよい。なお、複数の載置部を処理容器110に配置する場合は、載置部毎にヒーターを備えることにより、それぞれの載置部上の被処理体の温度を個別に所定の温度に設定することができる。
【0056】
処理容器110の一方には、反応後のガスを排出するためのガス排出手段が配設される。ガス排出手段の真空ポンプ173により、配管171を介して処理容器110から反応後のガスが排出される。反応後のガスは、配管171と配管172との間に配設された液体窒素トラップ174により回収される。配管171及び172には、バルブV7及びV8を配設して、圧力を調整することができる。また、
図1中、PI1及びPI2は、圧力計であり、その指示値を基に、制御部が各流量調整手段及び各バルブを制御することができる。
【0057】
このエッチング装置100を例として、具体的にエッチング方法を説明する。
[上記エッチング装置を用いた第1のドライエッチング方法]
本開示の第1のドライエッチング方法では、β-ジケトン及び二酸化窒素を含むエッチングガスAを被エッチング膜と接触させる。
【0058】
第1のドライエッチング方法では、まず、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜が形成された被処理体10を処理容器110内に配置する。次に、真空ポンプ173により、処理容器110、配管121、配管141及び142、配管151及び152、配管161及び162、液体窒素トラップ174、配管171及び172の内部を所定の圧力まで真空排気後、加熱手段170により、被処理体10を加熱する。
被処理体10が所定の温度に到達したら、β-ジケトン供給部140と二酸化窒素ガス供給部150とからβ-ジケトンと二酸化窒素ガスを所定の流量で配管121に供給する。なお、不活性ガス供給部160から不活性ガスを所定の流量で配管121に供給してもよい。
【0059】
β-ジケトンと二酸化窒素は所定の組成で混合され、処理容器110に供給される。混合されたエッチングガスを処理容器110内に導入しながら、処理容器110内を所定の圧力に制御する。所定の時間、エッチングガスとM-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜とを反応させることにより、錯体を形成させ、エッチングを行う。このエッチング方法では、プラズマ状態を伴わないプラズマレスでエッチング可能であり、エッチングの際、プラズマ等でのエッチングガスの励起は不要である。エッチングガスの流量は、処理容器の容積と圧力などに基づいて適宜設定することができる。
【0060】
なお、プラズマ状態を伴うエッチングとは、反応装置の内部に、例えば、0.1~10Torr程度のガス等を入れ、外側のコイルあるいは対向電極に高周波電力を与えて反応装置中に低温のガスプラズマを発生させ、その中にできるイオンやラジカルなど活性化学種によりエッチングを行うことをいう。
本開示のドライエッチング方法では、ガスを、プラズマ状態を伴わずに接触させ、上記したガスプラズマを発生させることなく、ドライエッチングを行う。
【0061】
エッチング工程が終了した後、加熱手段170による加熱を停止し降温するとともに、真空ポンプ173を停止し、不活性ガスで置換して真空を開放する。以上のように、上記エッチング装置を用いた第1のドライエッチング方法により、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜のエッチングを行うことができる。
【0062】
(第1のドライエッチング方法におけるエッチング条件)
本開示の第1のドライエッチング方法において、エッチングガスAを前記被エッチング膜と接触させる際の被エッチング膜の温度は、錯体が気化可能な温度であればよく、特に、除去対象の被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下であることが好ましく、275℃以上375℃以下であることがより好ましく、275℃以上350℃以下であることがより好ましく、275℃以上325℃以下であることがより好ましい。
【0063】
また、被エッチング膜に、前記エッチングガスAを接触させる際、前記被エッチング膜が形成された被処理体が置かれる処理容器内の圧力は、特に限定されないが、通常、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲である。
【0064】
充分なエッチング速度を得る観点から、エッチング工程における処理容器内の圧力は、20Torr以上300Torr以下(2.67kPa以上39.9kPa以下)であることが好ましく、20Torr以上200Torr以下(2.67kPa以上26.7kPa以下)であることがより好ましく、20Torr以上100Torr以下(2.67kPa以上13.3kPa以下)であることがさらに好ましい。
【0065】
エッチング工程の処理時間は、特に限定されないが、半導体デバイス製造プロセスの効率を考慮すると、60分以内であることが好ましい。ここで、エッチング工程の処理時間とは、被処理体が設置されている処理容器内にエッチングガスを導入し、その後、エッチング処理を終えるために処理容器内のエッチングガスを真空ポンプ等により排気するまでの時間を指す。
【0066】
[エッチング装置100を用いた第2のドライエッチング方法]
本開示の第2のドライエッチング方法では、二酸化窒素を含むエッチングガスBを被エッチング膜と接触させる第1のエッチング工程と、β-ジケトンを含むエッチングガスCを被エッチング膜と接触させる第2のエッチング工程とを備える。
【0067】
第2のドライエッチング方法では、まず、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜が形成された被処理体10を処理容器110内に配置する。次に、真空ポンプ173により、処理容器110、配管121、配管141及び142、配管151及び152、配管161及び162、液体窒素トラップ174、配管171及び172の内部を所定の圧力まで真空排気後、加熱手段170により、被処理体10を加熱する。
【0068】
被処理体10が所定の温度に到達したら、最初に、二酸化窒素ガス供給部150から二酸化窒素ガスを所定の流量で配管121に供給する。なお、不活性ガス供給部160から不活性ガスを所定の流量で配管121に供給してもよい。二酸化窒素ガス又は二酸化窒素ガスと不活性ガスとを処理容器110内に導入しながら、処理容器110内を所定の圧力に制御する。所定の時間、二酸化窒素ガスを処理容器110内に導入することにより、二酸化窒素を被エッチング膜に吸着させる。
二酸化窒素ガスを含むガスを真空排気した後、β-ジケトン供給部140からβ-ジケトンガスを所定の流量で配管121に供給する。なお、不活性ガス供給部160から不活性ガスを所定の流量で配管121に供給してもよい。β-ジケトンガス又はβ-ジケトンガスと不活性ガスとを処理容器110内に導入しながら、処理容器110内を所定の圧力に制御する。所定の時間、β-ジケトンガスを処理容器110内に導入することにより、先に吸着した二酸化窒素とβ-ジケトンとが反応して錯体を形成し、さらに、上記錯体が上記被エッチング膜と反応し、上記被エッチング膜をエッチングすることができる。
【0069】
本開示の第2のドライエッチング方法では、二酸化窒素ガスを処理容器110内に導入する第1のエッチング工程とβ-ジケトンを処理容器110内に導入する第2のエッチング工程を1サイクルとする工程を複数サイクル繰り返して行うことができる。
本開示の第2のドライエッチング方法では、1サイクルのエッチング条件を所定の条件に設定することにより、1サイクルでエッチングできる被エッチング膜の厚さをコントロールすることができるので、1サイクルでエッチングできる被エッチング膜の厚さを薄く設定することにより、精密にエッチングする厚さをコントロールすることができる。
【0070】
なお、第2のドライエッチング方法でも、プラズマ状態を伴わないプラズマレスでエッチング可能であり、エッチングの際、プラズマ等でのエッチングガスの励起は不要である。二酸化窒素とβ-ジケトンとの流量は、処理容器の容積と圧力などに基づいて適宜設定することができる。
【0071】
このように、上記エッチング装置を用いた本開示の第2のドライエッチング方法では、ガスを、プラズマ状態を伴わずに接触させることができ、上記したガスプラズマを発生させることなく、ドライエッチングを行うことができる。
【0072】
エッチング工程が終了した後、加熱手段170による加熱を停止し降温するとともに、真空ポンプ173を停止し、不活性ガスで置換して真空を開放する。以上により、M-O結合エネルギーが5eV以上の金属又は上記金属の酸化物を含む被エッチング膜のエッチングを行うことができる。
【0073】
(第2のドライエッチング方法におけるエッチング条件)
本開示の第2のドライエッチング方法において、エッチング工程を行う際の被エッチング膜の温度は、錯体が気化可能な温度であればよく、特に、除去対象の被エッチング膜の温度が、250℃以上375℃以下であることがより好ましく、275℃以上375℃以下であることがより好ましく、275℃以上350℃以下であることがより好ましく、275℃以上325℃以下であることがより好ましい。第1のエッチング工程と第2のエッチング工程における被エッチング膜の温度は、同じであることが望ましい。
【0074】
また、エッチング工程における処理容器内の圧力は、特に限定されないが、通常、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力範囲である。
【0075】
充分なエッチング速度を得る観点から、第1のエッチング工程及び第2のエッチング工程における処理容器内の圧力は、20Torr以上300Torr以下(2.67kPa以上39.9kPa以下)であることが好ましく、20Torr以上200Torr以下(2.67kPa以上26.7kPa以下)であることがより好ましく、20Torr以上100Torr以下(2.67kPa以上13.3kPa以下)であることがさらに好ましい。第2のエッチング工程における処理容器内の圧力は、第1のエッチング工程における処理容器内の圧力より高いことが望ましい。
【0076】
第1のエッチング工程及び第2のエッチング工程における処理時間は、特に限定されないが、第1のエッチング工程の1サイクルにおける処理時間は、60分以内であることが好ましく、第2のエッチング工程の1サイクルにおける処理時間は、60分以内であることが好ましい。ここで、エッチング工程の処理時間とは、被処理体が設置されている処理容器内にエッチングガスを導入し、その後、エッチング処理を終えるために処理容器内のエッチングガスを真空ポンプ等により排気するまでの時間を指す。
【0077】
[半導体デバイスの製造方法]
上述した本開示のドライエッチング方法は、従来の半導体デバイスのハフニウム酸化物膜やハフニウム金属等に所定のパターンを形成するためのエッチング方法として使用可能である。本開示のドライエッチング方法を用いて基板上のハフニウム酸化物膜やハフニウム金属等をエッチングすることにより、半導体デバイスを安価に製造することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本開示をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
図1に示すエッチング装置100を用いて、シリコンウエハの表面に形成された酸化ハフニウム(HfO
2)膜(形状1cm×1cm、膜厚5nm)からなる被エッチング膜を有する被処理体10のエッチングを行った。
【0080】
処理容器110、配管121、配管141及び142、配管151及び152、配管161及び162、液体窒素トラップ174、配管171及び172の内部を10Pa未満まで真空引きした。その後、加熱手段170及び載置部111の内部に配設したヒーターにより、載置部111に載置している被処理体10を加熱した。被処理体10の温度が300℃に達したことを確認後、β-ジケトン供給部140から気体のヘキサフルオロアセチルアセトン(HFAc)と、二酸化窒素ガス供給部150からNO2ガスとを所定の流量で配管121に供給することで、エッチングガスを処理容器110内に導入しながら、処理容器110内部の圧力を90Torrに制御し、エッチング工程を行った。被処理体の温度は300℃とし、エッチングガスの流量は、HFAc=10sccm、NO2=1sccmとした。エッチングガスの導入を開始して30分が経過した後、エッチングガスの導入を停止した。その後、処理容器110の内部を10Pa未満まで真空引きし、不活性ガス供給部160から供給するN2ガスで置換した後に被処理体10を取り出し、膜厚を測定し、エッチング量を評価した。
【0081】
なお、下記の実施例2~20を含む実施例1~22では、β-ジケトン及び二酸化窒素を含むエッチングガスAを被エッチング膜と接触させる第1のドライエッチング方法を採用しており、比較例4、7、10、12及び17を除く比較例1~17でも、β-ジケトン及び表1及び2に示すガスを含むエッチングガスを被エッチング膜と接触させている。なお、比較例4、7、10、12及び17では、β-ジケトンのみを含むエッチングガスを被エッチング膜と接触させている。
【0082】
(実施例2~4、比較例1~4)
下記の表1には、上記したエッチングにおける添加ガスの種類、HFAcの流量、添加ガスの流量、処理容器内の圧力、エッチング時の温度、エッチング時間及びエッチング可否を示している。
エッチング可否は、エッチング速度が0.1nm/分以上であれば○、エッチング速度が0.1nm/分未満の場合を×とした。エッチング速度とは、エッチング前後の膜の厚さの変化を、エッチングに要した時間で除した値をいう。
実施例2~4と比較例1~4の実施例1との相違点を説明する。実施例2では、添加ガスであるNO2の流量を変更した。実施例3では、添加ガスであるNO2の流量とエッチング時間、被処理体10の温度を変更した。実施例4では、被処理体10の温度を変更した。比較例1~3では、それぞれ、添加ガスとして一酸化窒素(NO)、酸素(O2)、一酸化二窒素(N2O)を用い、比較例4では添加ガスを使用せずに処理した。その他の点については、実施例1と同様の操作を実施し、酸化ハフニウム(HfO2)膜のエッチングの可否を評価した。
【0083】
【0084】
(実施例5~22、比較例5~17)
図1に示すエッチング装置100を用いて、シリコンウエハの表面に形成された、それぞれ形状が1cm×1cm、膜厚60nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜、酸化ジルコニウム(ZrO
2)膜、酸化ハフニウム(HfO
2)膜、及び、酸化チタニウム(TiO
2)膜からなる被エッチング膜を有する被処理体のエッチングを行った。
【0085】
被エッチング膜の材料、エッチングガスの種類と流量、処理容器内の圧力、及び、エッチング時の被処理体の温度を表2(275℃、300℃、350℃)に示すように変更した他は、実施例1と同様の操作を行い、被エッチング膜のエッチング速度を測定した。結果を表2に示す。
表2には、エッチング速度が0.1nm/分以上1.0nm/分未満をA、1.0nm/分以上10.0nm/分未満をB、10.0nm/分以上50.0nm/分未満をC、0.1nm未満をXとして表示している。
【0086】
【0087】
以上の結果から、エッチングガスとしてHFAcとNO2を用いた場合には、350℃以下の被処理体温度で、0.1nm/min以上の速度で酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ハフニウム膜、ハフニウム金属膜、及び、酸化チタニウム膜のエッチングが可能であり、特に被処理体の温度が300℃でもエッチングが可能であった。また、被処理体の温度がHFAcの分解温度(375℃)以下でエッチングできたことから、実施例1~4においては、被処理体表面に炭素膜が形成されていなかった。
一方で、添加ガスとしてNO、O2、N2Oを用いた場合や、添加ガスを使用しなかった場合には、被処理体温度が350℃でも、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ハフニウム膜、ハフニウム金属膜、及び、酸化チタニウム膜のエッチングができなかった。
【0088】
(実施例23~26)
これらの実施例では、二酸化窒素を含むエッチングガスBを被エッチング膜と接触させる第1のエッチング工程と、β-ジケトンを含むエッチングガスCを被エッチング膜と接触させる第2のエッチング工程とを繰り返し行う第2のドライエッチング方法を採用して、シリコンウエハの表面に形成された酸化ハフニウム(HfO2)膜(形状1cm×1cm、膜厚60nm)からなる被エッチング膜のエッチングを行った。
【0089】
まず、処理容器110、配管121、配管141及び142、配管151及び152、配管161及び162、液体窒素トラップ174、配管171及び172の内部を10Pa未満まで真空引きした。その後、加熱手段170及び載置部111の内部に配設したヒーターにより、載置部111に載置している酸化ハフニウム(HfO2)膜を有する被処理体10を加熱した。
【0090】
被処理体10の温度が350℃に達したことを確認後、二酸化窒素ガス供給部150からNO2ガスを配管121に供給し、処理容器110内部の圧力を30Torrに制御しながら、処理容器110の内部にNO2ガスを流した。被処理体の温度は350℃とし、エッチングガスの流量は、NO2=5sccmとし、表3に示した時間、NO2ガスを流し、被エッチング膜と接触させた。その後、エッチングガスの導入を停止し、処理容器110の内部を10Pa未満まで真空引きした。
【0091】
次に、β-ジケトン供給部140から気体のヘキサフルオロアセチルアセトン(HFAc)を配管121に供給し、処理容器110内部の圧力を60Torrに制御しながら、処理容器110の内部にHFAcガスを流した。被処理体の温度は350℃とし、エッチングガスの流量は、HFAc=10sccmとし、表3に示した時間、HFAcガスを流し、被エッチング膜と接触させた。その後、エッチングガスの導入を停止し、処理容器110の内部を10Pa未満まで真空引きした。
【0092】
上記したNO2ガスを処理容器110内部に流す工程とHFAcガスを処理容器110内部に流す工程とを1サイクルとする工程を表3に示す回数(サイクル数)繰り返した後、処理容器110の内部を10Pa未満まで真空引きし、不活性ガス供給部160から供給されるN2ガスで処理容器110の内部を置換した後に被処理体10を取り出し、膜厚を測定し、トータルのエッチング厚さを測定するとともに、1サイクル当たりのエッチング厚さを算出した。その結果を表3に示す。
【0093】
【0094】
表3に示す結果から明らかなように、エッチングの条件を一定とすることで、1サイクル当たりにエッチングできる被エッチング膜の厚さがほぼ一定となるので、サイクル数を設定することで、被エッチング膜をほぼ正確に要求される厚さでエッチングできることが判明した。
【符号の説明】
【0095】
10 被処理体
100 エッチング装置
110 処理容器
111 載置部
121 配管
140 β-ジケトン供給部
141、142 配管
150 二酸化窒素ガス供給部
151、152 配管
160 不活性ガス供給部
161、162 配管
170 加熱手段
171、172 配管
173 真空ポンプ
174 液体窒素トラップ
MFC1、MFC2、MFC3 流量調整手段
PI1、PI2 圧力計
V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8 バルブ