(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】清拭用シート並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/25 20060101AFI20241017BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241017BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20241017BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241017BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61K8/25
A61Q19/00
A61K8/34
A61K8/73
A61K8/02
(21)【出願番号】P 2020025238
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】500066539
【氏名又は名称】株式会社コーヨー化成
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】山下 里恵
(72)【発明者】
【氏名】志田 正人
(72)【発明者】
【氏名】柏木 敏
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040938(JP,A)
【文献】特開2019-206521(JP,A)
【文献】特開2001-233758(JP,A)
【文献】特開2004-075555(JP,A)
【文献】特表2008-514347(JP,A)
【文献】特開2017-110085(JP,A)
【文献】国際公開第00/044346(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と
、アルコールと
、爽感発現粒子であるタルクと、幅3~100nmであり、且つ添加割合が固形分量0.1~1%の範囲であるセルロースナノファイバー(CNF)と
が混合さ
れ、
セルロースナノファイバー(CNF)が形成する三次元ネットワークに、爽感発現粒子が包接及び/又は担持され
、且つタルクの質量1に対するセルロースナノファイバー(CNF)の混合質量は、0.1~1.0である冷爽感持続性薬液を、基布シートに含浸させて成ることを特徴とする
清拭用シート。
【請求項2】
複数の基布シートを具えて成るブランク素材を包装資材で半ば覆い、この覆われた状態のブランク素材に対し、前
記冷爽感持続性薬液を個別にスプレーすることにより、前記冷爽感持続性薬液を基布シートに含浸させ、個別包装体に形成されることを特徴とする
請求項1記載の清拭用シート。
【請求項3】
前記基布シートに対する冷爽感持続性薬液の含浸率は、重量比で2倍~5倍であることを特徴とする請求項
1または
2記載の清拭用シート。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバー(CNF)により、
使用者の体に二往復分塗布を行ったときの、
30秒後の塗布部位の皮膚温度差が-3℃以上とされることを特徴とする請求項
1または
3記載の清拭用シート。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバー(CNF)により、
使用者の体に二往復分塗布を行ったときの、
塗布部位の皮膚温度が、セルロースナノファイバー(CNF)を含まない薬液を含浸した清拭用シートを用いた場合に比べて低温とされた状態を、
210秒以上、維持されることを特徴とする請求項
1または
3記載の清拭用シート。
【請求項6】
撹拌容器に対し、水と
、アルコールと
、冷爽発現粒子
であるタルクと
、セルロースナノファイバー(CNF)とを投入し
、投入に当たっては、前記セルロースナノファイバー(CNF)については幅3~100nmであり、且つ添加割合を固形分量0.1~1重量%の範囲とするものであり、
またタルクとセルロースナノファイバー(CNF)との混合比は、タルクの質量1に対し、セルロースナノファイバー(CNF)の混合質量を、0.1~1.0とするものであり、
前記撹拌容器によりこれらを撹拌し、セルロースナノファイバー(CNF)が形成する三次元ネットワークに、爽感発現粒子を包接及び/又は担持させ
た冷爽感持続性薬液
を得て、
この、冷爽感持続性薬液を、基布シートに含浸させることを特徴とする
清拭用シートの製造方法。
【請求項7】
複数の基布シートを具えて成るブランク素材を包装資材で半ば覆い、この覆われた状態のブランク素材に対し、前
記冷爽感持続性薬液を個別にスプレーすることにより、前記冷爽感持続性薬液を基布シートに含浸させ、個別包装体に形成することを特徴とする
請求項6記載の清拭用シート
の製造方法。
【請求項8】
前記基布シートに対する冷爽感持続性薬液の含浸率を、重量比で2倍~5倍とすることを特徴とする請求項
6または
7記載の清拭用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の皮膚を拭くことにより冷爽感を長時間発現させることのできる、清拭用シート並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時の気候変動の一つの象徴として、いわゆる酷暑が上げられる。このような気象状況に対応して、冷涼感を発現する清拭用シート等のいゆる冷感グッズが市場に求められ、提供されている。
これらの多くは、冷涼感を感得させるためにメントールやアルコールを薬液中に含ませていたり、いわゆるサラサラ感を出すためにタルク、球状シリカ等の微細固形粒子を含ませている(例えば特許文献1~5参照)。
しかしながらこのような従来手法にあっては、概ね以下のような不充分さは克服されていない。
【0003】
まず、冷涼感を感得させるためのメントールは、TRPチャネル(感覚受容体)を刺激して冷涼感を感得させているだけで、実際に皮膚温度を低下させるものではなく、また冷涼感の持続も長時間に及ぶものではない。更に皮膚への刺激を伴うものである。
またアルコールは、気化熱によって実際に皮膚温度を低下させるものであるが、揮発性が高いため長くは持続しない。
また冷涼感を感得させるための成分として、trans-4 -tert-ブチルシクロヘキサノールなど、化学合成品が多く用いられている一方、天然由来のものは少ない。
また従来の清拭シートの中には、シートの形状を改良し、これにより強い冷感を得ることができるようにしたものもあるが、この場合、シート構造が繁雑で且つコストが高くなってしまう。
【0004】
更に、いわゆるサラサラ感を発現する固形成分である例えばタルクは、原料タンク内では薬液下部に沈殿する傾向があり、これを次工程で不織布に噴霧してこれに含浸させるときには、たとえ原料タンク内で撹拌装置により分散を図ったとしても、完全な均一分散は難しく、ひいては製品のバラツキをも生じさせてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-71099公報
【文献】特開2014-100250公報
【文献】特開2015-124146公報
【文献】特開2018-126450公報
【文献】特開2018-123094公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、使用者に「冷爽感」を長期に亘って感得させることのできる、清拭用シート並びにその製造方法を開発することを技術課題とした。
なおここで「冷爽感」とは、皮膚を清拭した際の感覚であって、いわゆるスーとしてヒンヤリする「冷涼感」とともに、いわゆるサラサラ感を感得させる「爽快感」を伴った感得状態を云うものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載の清拭用シートは、水と、アルコールと、爽感発現粒子であるタルクと、幅3~100nmであり、且つ添加割合が固形分量0.1~1%の範囲であるセルロースナノファイバー(CNF)とが混合され、
セルロースナノファイバー(CNF)が形成する三次元ネットワークに、爽感発現粒子が包接及び/又は担持され、且つタルクの質量1に対するセルロースナノファイバー(CNF)の混合質量は、0.1~1.0である冷爽感持続性薬液を、基布シートに含浸させて成ることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載の清拭用シートは、前記要件に加え、複数の基布シートを具えて成るブランク素材を包装資材で半ば覆い、この覆われた状態のブランク素材に対し、前記冷爽感持続性薬液を個別にスプレーすることにより、前記冷爽感持続性薬液を基布シートに含浸させ、個別包装体に形成されることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載の清拭用シートは、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記基布シートに対する冷爽感持続性薬液の含浸率は、重量比で2倍~5倍であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載の清拭用シートは、前記請求項1または3記載の要件に加え、前記セルロースナノファイバー(CNF)により、
使用者の体に二往復分塗布を行ったときの、
30秒後の塗布部位の皮膚温度差が-3℃以上とされることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載の清拭用シートは、前記請求項1または3記載の要件に加え、前記セルロースナノファイバー(CNF)により、
使用者の体に二往復分塗布を行ったときの、
塗布部位の皮膚温度が、セルロースナノファイバー(CNF)を含まない薬液を含浸した清拭用シートを用いた場合に比べて低温とされた状態を、
210秒以上、維持されることを特徴として成るものである。
【0012】
更にまた請求項6記載の清拭用シートの製造方は、撹拌容器に対し、水と、アルコールと、冷爽発現粒子であるタルクと、セルロースナノファイバー(CNF)とを投入し、投入に当たっては、前記セルロースナノファイバー(CNF)については幅3~100nmであり、且つ添加割合を固形分量0.1~1重量%の範囲とするものであり、
またタルクとセルロースナノファイバー(CNF)との混合比は、タルクの質量1に対し、セルロースナノファイバー(CNF)の混合質量を、0.1~1.0とするものであり、
前記撹拌容器によりこれらを撹拌し、セルロースナノファイバー(CNF)が形成する三次元ネットワークに、爽感発現粒子を包接及び/又は担持させた冷爽感持続性薬液を得て、
この、冷爽感持続性薬液を、基布シートに含浸させることを特徴として成るものである。
【0013】
更にまた請求項7記載の清拭用シートの製造方法は、前記請求項6記載の要件に加え、複数の基布シートを具えて成るブランク素材を包装資材で半ば覆い、この覆われた状態のブランク素材に対し、前記冷爽感持続性薬液を個別にスプレーすることにより、前記冷爽感持続性薬液を基布シートに含浸させ、個別包装体に形成することを特徴として成るものである。
【0014】
更にまた請求項8記載の清拭用シートの製造方法は、前記請求項6または7記載の要件に加え、前記基布シートに対する冷爽感持続性薬液の含浸率を、重量比で2倍~5倍とすることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0015】
まず請求項1及び6記載の発明によれば、水とアルコールとの混合液にセルロースナノファイバー(CNF)を添加するという簡易な方法で、皮膚温度を長時間低下させることができ、冷涼感を長続きさせることが可能な薬液を得ることができる。
また爽感発現粒子の分散性を良好に保つことができる。
なおセルロースナノファイバー(CNF)はバイオマス由来の天然素材であり安全性が高く、メントールのような刺激性がないため、皮膚の弱い箇所や乳幼児への適用が可能となる。
また、セルロースナノファイバー(CNF)添加による冷涼感の持続性及び爽感発現粒子の分散性を、好適なものとすることができる。
また、タルクによって良好な爽快感、いわゆるサラサラ感を感得させることができる。 また、爽感発現粒子の均一分散性を24時間以上維持することが可能となる。
また、良好な「冷爽感」を発現することのできる清拭用シートを提供することができる。
【0016】
また請求項2及び7記載の発明によれば、流通可能な製品としての個装された清拭用シートを、効率的に製造することができる。
【0017】
また請求項3及び8記載の発明によれば、冷爽感持続性薬液の含浸率を適切なものとして、清拭による皮膚の濡れ具合を、「冷爽感」を感得するのに好適なものとすることができる。
【0018】
また請求項4及び5記載の発明によれば、セルロースナノファイバー(CNF)を含む冷爽感持続性薬液を、基布シートに含浸させた清拭用シートにより、優れた冷爽感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の清拭用シートによって使用者の前腕部を清拭する様子を示す側面図及
び冷爽感持続性薬液における爽感発現粒子とセルロースナノファイバー(CNF)との様子を拡大して示す概念図である。
【
図2】セルロースナノファイバー(CNF)の添加量を異ならせた試料のタルクの分散性の相違を示す正面図である。
【
図3】包装資材に内包された基布シートに対して冷爽感持続性薬液
を含浸させて清拭用シート包装体を製造する様子を示す斜視図である。
【
図4】水及びCM-CNF0.3wt%水溶液の塗布経過時間-表面温度差特性を示すグラフである。
【
図5】セルロースナノファイバー(CNF)を含む薬液と含まない薬液の塗布経過時間-表面温度差特性を示すグラフである。
【
図6】セルロースナノファイバー(CNF)を含む薬液と含まない薬液の塗布経過時間-表面温度差特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を実施するための最良の形態について説明するが、この形態に対して、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【0021】
〔冷爽感持続性薬液〕
まず冷爽感持続性薬液1について説明する。
冷爽感持続性薬液1は、水2とアルコール3との混合液に対し、爽感発現粒子4とセルロースナノファイバー(以下、CNFと記す)5とが混合されて成るものである。
前記アルコール3は、使用者に対し、主に水2とともに気化熱による「冷涼感」を感得させるためのものであり、一方、前記爽感発現粒子4は、使用者に対し、いわゆるサラサラ感である「爽快感」を感得させるためのものである。
そして冷爽感持続性薬液1は、使用者に対し「冷涼感」と「爽快感」との双方を感得させることにより、「冷爽感」を感得させることができるものである。
なお冷爽感持続性薬液1においては、CNF5が水2、アルコール3と三次元ネットワークを形成することでこれらを保持することとなり、これら保持された水2、アルコール3による熱吸収がもたらす「冷涼感」も感得させることとなる。すなわち冷爽感持続性薬液1においては、水2、アルコール3の気化熱による「冷涼感」と、熱吸収による「冷涼感」との相乗効果により、長時間にわたり皮膚温度を低下させ、「冷涼感」を感得させることが可能となっている。
また前記水2に対して化粧水成分、香料成分を加えるようにしてもよい。
【0022】
前記アルコール2としては一例としてエタノールが適用される。
また前記爽感発現粒子4としては、一例としてタルク(含水ケイ酸マグネシウムから成る板状の粘度鉱物)が用いられるものであり、粒径5~20μm、好ましくは5~15μm、更に好ましくは5~10μmとされる。
なお爽感発現粒子4としては、前記タルクの他にシリカ等を採用することもできる。
また前記冷爽感持続性薬液1に対する爽感発現粒子4の添加量は、使用者に良好な「爽快感」を感得させるために、0.01~5重量%、好ましくは0.01~1重量%、更に好ましくは0.01~0.1重量%の範囲とされる。
【0023】
また前記CNF5として、一例としてカルボキシメチル化CNF( 以下CM-CNFと記す)を採用するものであり、その性状は、幅3~100nm、好ましくは幅3~80nm、更に好ましくは幅3~50nmとされる。
また前記冷爽感持続性薬液1に対するCNF5の添加量は、固形分量で0.1~1重量%、好ましくは0.1~0.5重量%、更に好ましくは0.1~0.2重量%の範囲とされる。
なおCNF5の添加量は後述するように爽感発現粒子4としてのタルクの添加量に応じた適正量とされるものである。
また前記CNF5は、その製法に由来して、化学的解繊セルロースナノファイバー(CNF)と機械的解繊セルロースナノファイバー(CNF)とに分類されるが、本発明には双方ともに利用が可能である。
【0024】
〔冷爽感持続性薬液の製造方法〕
次に冷爽感持続性薬液1の製造方法について説明する。
そして前記冷爽感持続性薬液1を得るにあたっては、撹拌容器に対し、水2とCNF5とアルコール3と冷爽発現粒子4とを投入するとともに、これらを撹拌する。
【0025】
このようにして得られる冷爽感持続性薬液1中において、前記CNF5が水、エタノールと三次元ネットワークを形成するものであり、
図1(a)に示すように爽感発現粒子4が、CNF5が形成する三次元ネットワークに包接された状態、あるいは
図1(b)に示すように爽感発現粒子4がCNF5に担持された状態が得られる。
【0026】
〔清拭用シートの製造方法〕
次に本発明の清拭用シート7の製造方法を説明する。
本発明の清拭用シート7は、冷爽感持続性薬液1を、基布シート6の一例である不織布シート(メッシュタイプ、プレーンタイプ等)に含浸させることにより得られるものである。なお基布シート6の素材としては、プラスチック素材、紙素材、布素材あるいはこれらの混合素材を採用することができる。
また冷爽感持続性薬液1を基布シート6に含浸させるにあたっては、一例として
図3に示すように、基布シート6を包装資材8で包装して包装体Pを得る際に行うものとする。
具体的には
図3(a)に示すように、いわゆるピロー包装を行うものであって、一定長毎に弱化線61が形成されて複数枚の基布シート6が連接状態とされ、使用時には基布シート6単枚として使用できるようにした原反60を、ロール状に巻いたブランク素材62を、シート状の包装資材8で包み込むように半ば覆い、この覆われた状態のブランク素材62に対し、冷爽感持続性薬液1をノズルNから供給してこれに含浸させることにより清拭用シート7を得る。次いで包装資材8の合わせ目をサック貼りするとともに一定長さ毎に仕切貼りし、更に仕切貼りした部位を切断することにより、清拭用シート7が個装状態とされた包装体Pを得るものである。
なおブランク素材62としては
図3(a)中、仮想線で示すように、既に単枚として形成され、折り畳まれた基布シート6を一定数重ねたものを採用することもできる。
【0027】
なお包装体Pは上述したピロー包装タイプの他、図3(b)に示すように、包装資材8を予め袋状に形成したフィルム容器にブランク素材62を収納し、次いでノズルNから冷爽感持続性薬液1を供給してブランク素材62に含浸させて清拭用シート7とした後、開口部を封止することにより個装状態とした形態のものとすることもできる。
【0028】
そしてこのように冷爽感持続性薬液1をブランク素材62に含浸させる際、爽感発現粒子4としてのタルクは、冷爽感持続性薬液1中において均一に分散しているため、薬液タンク(図示省略)に充填された冷爽感持続性薬液1は、爽感発現粒子4の分散性が維持された状態でノズルNから噴出されるため、基布シート6に対して均一に分布させることができ、均質な製品製造が可能となる。またこのように清拭シート7の製造方法が簡易であることから、製造時間の短縮を可能とし、コスト面での優位性を確保することができる。
【0029】
〔冷爽感持続性薬液に含まれる成分の効果についての検証〕
ここで冷爽感持続性薬液1に含まれる成分の効果についての検証結果を以下に示す。
(1)セルロースナノファイバー(CNF)の添加による爽感発現粒子の分散性の検証
まず、CNF5の添加による爽感発現粒子4の分散性の検証を行った。具体的には、下表1に示したように爽感発現粒子4(タルク)の添加量を1wt%とし、CNF5の添加量を異ならせた試料を4種類作製し、充分に撹拌した後、1日静置後のタルク分散性について確認を行った。
【0030】
【0031】
結果は
図2に示すように、まず試料(1)については、1 日(24時間)でタルクが沈降したことが確認された。また試料(2)は、少し沈降が見られるが、試料(1)よりも分散が安定していたことが確認された。また試料(3)、(4)については、1日経った後も、タルクの沈降は見られないことが確認された。
以上の結果から、CNF5を適量(タルク1重量部に対して0.1重量部以上1.0重量部以下、好ましくは0.5重量部以上1.0重量部以下添加することにより、爽感発現粒子4としてのタルクの沈降を抑制し、均一分散性を維持して、ノズルNからの供給に好適な状態とすることが可能であることが確認された。
【0032】
2.セルロースナノファイバー(CNF)の添加による冷涼感の検証
次にCNF5の添加による冷涼感の検証を行った。
具体的には、「水」と、「カルボキシメチル化CNF水溶液( 以下CM-CNF 0.3wt%水溶液と記す)」との比較実験を行った。
実験方法は、28℃、50%R.H.の恒温恒湿室にて、3cm×3cmの人工皮革を、温めたホットプレート上に静置し、34±1℃になるまで温めた。
次に温めた人工皮革の表面温度を、熱画像装置(NEC三栄(株):TH9100PWV)を用いて測定した。
次に「水」、または「CM-CNF0.3wt%水溶液」を4ml浸み込ませたコットンパフを人工皮革に4回塗布し、塗布直後、30秒、60秒、120秒、180秒後の表面温度測定を行った。
【0033】
解析方法は、熱画像装置によって得られた画像から塗布前、塗布後の解析範囲を決定し、決定した範囲において、皮膚の表面温度の平均値を求めた。
そして求めた塗布前の表面温度から塗布後の表面温度の差を算出し、皮膚温度差の比較を行った。
結果は
図4に示すように、「CM-CNF 0.3wt%水溶液」を塗布した人工皮革の表面温度差は、「水」を塗布した人工皮革の表面温度差と比べ、塗布30秒、60秒後で大幅に大きくなっていることが確認された。このことから、CNF5の添加により、「冷涼感」が増大し、持続性も向上することが確認された。
なお
図4のグラフでは、120秒及び180秒で水の方が表面温度差が大きくなっているが、その値は極僅かであり、測定誤差の範囲内であると考えられる。
【実施例】
【0034】
次に冷爽感持続性薬液1の実施例を記載するものであり、各成分の含有量を以下に示すとともに、この冷爽感持続性薬液1を含浸させた清拭用シート7によって実際に人体の皮膚を清拭し、その際の温度を測定した結果を示す。
水 :97.7g
アルコール :43.2g(エタノール)
爽感発現粒子:0.144g(タルク(粒径15μm))
CNF :0.144g(CM-CNF 0.1wt%)
基布シート :40g(メッシュタイプの不織布シート)
なお比較のため、上記実施例の冷爽感持続性薬液1と、CNF5を含まない以外の配合を同じとした下記の薬液1′を含浸させた清拭用シート7′についても温度測定を行った。
水 :97.9g
アルコール :43.2g(エタノール)
爽感発現粒子:0.144g(タルク(粒径15μm))
基布シート :40g(メッシュタイプの不織布シート)
【0035】
測定方法は、被験者を28℃、50%R.H.の恒温恒湿室にて15分間安静にさせ、シートによる塗布前の前腕部Aの皮膚温度を熱画像装置にて測定し、その後、各シートにより、
図1に示すように被験者の前腕部Aに二往復分塗布を行った。
そして塗布後210秒後まで、30秒間隔で皮膚温度を測定した。なお被験者の人数は10名とした。また解析方法は前記冷涼感の検証時と同様とした。
【0036】
結果は
図5、6に示すように、CNF5を含まない薬液を含浸した清拭用シート7′を用いた場合に比べ、CNF5を含む冷爽感持続性薬液1を含浸した清拭用シート7を用いた場合には、多くの被験者において、塗布30秒後から210秒後までのほとんどの時間で皮膚温度の低下(皮膚温度差)が大きくなっており、CNF5を含む冷爽感持続性薬液1が、CNF5を含まない薬液よりも、冷爽感が優れている状態を長時間(210秒以上)維持することができることが確認された。
なお被験者2では150秒及び180秒で、CNF5を含まない薬液の方が、CNF5を含む冷爽感持続性薬液1よりも、極僅かに(0.1~0.2℃)温度差が大きくなっているが、210秒では両者とも同じ値となっており、全体の傾向から判断して、150秒、180秒及び210秒の値は測定誤差の範囲内であると考えられる。
また被験者5では180秒で、CNF5を含まない薬液の方が、CNF5を含む冷爽感持続性薬液1よりも、極僅かに(0.1℃)温度差が大きくなっているが、210秒でCNF5を含む冷爽感持続性薬液1の方が温度差が大きくなっており、全体の傾向から判断して、180秒の値は測定誤差の範囲内であると考えられる。
【0037】
また大部分の被験者において、30秒後の温度差を3℃以上(-3℃)とすることができることも確認された。なお30秒後の温度差の平均値は3.6℃(-3.6℃)、最大値は4.5℃(-4.5℃)であった。
【0038】
以上のように冷却爽快感持続性薬液1は、冷却爽快感持続性薬液1を含浸させた清拭用シート7を用いる等して使用者の前腕部A等を清拭した際に、長時間に亘って皮膚温度を低下させて「冷涼感」を感得させることができるものである。更に水2及びアルコール3が蒸発した後は、皮膚表面に爽感発現粒子4が均等に分布するため、「爽快感」を満遍なく感得させることができるものである。
なおCNF5はバイオマス由来の天然素材であり、安全性が高く、メントールのように刺激性がない、皮膚に優しい素材であるため、やわらか「冷爽感」を感得させることができるものである。
【符号の説明】
【0039】
1 冷爽感持続性薬液
2 水
3 アルコール
4 爽感発現粒子(タルク)
5 セルロースナノファイバー(CNF)
6 基布シート
60 原反
61 弱化線
62 ブランク素材
7 清拭用シート
8 包装資材
A 前腕部
N ノズル
P 包装体