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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】対象物の解体方法及び部材の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 19/18 20060101AFI20241017BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20241017BHJP
   B09B 101/15 20220101ALN20241017BHJP
   B09B 101/17 20220101ALN20241017BHJP
   B09B 101/18 20220101ALN20241017BHJP
【FI】
B02C19/18 Z ZAB
B09B3/35
B09B101:15
B09B101:17
B09B101:18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020081408
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175566
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-04-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「製品ライフサイクル管理とそれを支える革新的解体技術開発による統合循環生産システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】林 秀原
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-037622(JP,A)
【文献】特開2021-023839(JP,A)
【文献】特開2016-013692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/08
B02C 19/18
B09B 3/35、5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の部材が接合されてなる対象物であって、一の絶縁体の部材及び他の絶縁体の部材を含む対象物の一の絶縁体の部材及び他の絶縁体の部材のうち、薄い方の側の絶縁体の部材の表面の一部分に導電性材料を接触させるか、又は、セラミックコーティングされた鉄板のセラミックコーティング側の表面の一部分に導電性材料を接触させ、
大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させて、前記対象物の接合部位に衝撃波を作用させることで前記対象物の部材同士を剥離させる、対象物の解体方法であり、
前記導電性材料に高電圧パルスを印加する際の、静電容量は10~10000μFであり、印加電圧は2~100kVであり、印加回数は1~10回以下である、対象物の解体方法(ただし、太陽光パネルを構成するセルシート上の導体の離間した位置に複数の電極を当接し、前記複数の電極間に電圧を印加して電気パルスにより、前記セルシートから有用物質を選択的に取り出すことを特徴とする太陽光パネルの解体方法を除く。)。
【請求項2】
前記導電性材料が細線である、請求項1に記載の対象物の解体方法。
【請求項3】
前記細線の線径が0.01~4mmである、請求項2に記載の対象物の解体方法。
【請求項4】
前記細線が銅を含む、請求項2又は3に記載の対象物の解体方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の対象物の解体方法を使用して、剥離させた部材を回収して再利用する、部材の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の解体方法及び部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
故障や製品ライフサイクルの変化に伴い使用されなくなった通信端末機器や家電製品などは、業者により回収された後、分解・解体してリサイクルやリユースすることが求められている。従来、この種の作業は人手による分解を経た後、破砕機などで物理的に解体されることが多かった。しかし、そのような作業では人手を多く要し、解体後の部材のリサイクルやリユースにも問題があった。
【0003】
このような事情から、近年では液体中においてパルスパワー放電を起こすことにより、対象物を分解する方法が種々提案されている(たとえば、特許文献1~5)。特に、特許文献5の請求項12及び実施例には、一対の基板の内面側に電極(透明電極)が設けられた液晶パネルからの材料回収方法であって、液晶パネルを液体中に浸漬させた状態で前記電極(透明電極)に電流を流すことによって、前記一対の基板を個々の基板に分割する、液晶パネルからの材料回収方法が開示されている。
また、特許文献6には、プラズマディスプレイパネルの非表示面に接着剤を介して金属板を接着した金属板付きパネルを有するプラズマディスプレイ装置の解体方法であって、前記金属板付きパネルを誘導加熱することにより前記プラズマディスプレイパネルと前記金属板とを分離するプラズマディスプレイ装置の解体方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-517892号公報
【文献】特開平9-75769号公報
【文献】特表2018-506429号公報
【文献】特開2017-104796号公報
【文献】特開2002-254059号公報
【文献】特開2004-111092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1~4に記載された発明は、いずれも水などの液体媒体中において解体するものであって、大気中で解体を行うものではない。そのため、いずれも放電経路に対するランダム性が高く、一定の大きさを有する対象物の特定部位を選択的、局所的に解体することは困難であった。
【0006】
さらに、解体したい対象箇所を解体するために、高電圧パルスの照射回数を多くすると、対象物全体を解体することになったり、必要以上に細かく粉砕されることになる。不必要な部位まで細かく解体されることに伴い、解体に要するエネルギー量が大きくなるという問題があった。
【0007】
前記特許文献5の請求項12及び実施例に開示された方法は、解体の対象物である液晶パネルの2枚のガラス基板の内面に透明電極を有するので、2枚のガラス基板を分割できたのであって、内面側に導電性部材(電極)を有しない対象物には適用できない。
【0008】
前記特許文献6に記載された発明は、金属板付きパネルを誘導加熱することを必須としており、導電性部材(金属板)を有しない対象物には適用できない。
【0009】
本発明は上述した事情に照らし、対象物が導電性部材を有するか否かに拘らず、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能であり、解体に要するエネルギー量が少なく、解体を短時間で行うことができる対象物の解体方法、及び部材の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を含む。
【0011】
[1] 少なくとも2個の部材が接合されてなる対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、
大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させて、前記対象物の接合部位に衝撃波を作用させることで前記対象物の部材同士を剥離させる、対象物の解体方法。
[2] 前記導電性材料が細線である、前記[1]に記載の対象物の解体方法。
[3] 前記細線の線径が0.01~4mmである、前記[2]に記載の対象物の解体方法。
[4] 前記細線が銅を含む、前記[2]又は[3]に記載の対象物の解体方法。
[5] 前記導電性材料に高電圧パルスを印加する際の、静電容量は10~10000μFであり、印加電圧は2~100kVであり、印加回数は1~10回以下である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の対象物の解体方法。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の対象物の解体方法を使用して、剥離させた部材を回収して再利用する、部材の再生方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物が導電性部材を有するか否かに拘らず、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能であり、解体に要するエネルギー量が少なく、解体を短時間で行うことができる対象物の解体方法、及び部材の再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る第1実施形態の対象物の解体方法を示す模式図である。図1の(a1)、(a2)及び(a4)は断面図であり、(a3)は上面図である。
図2】本発明に係る第2実施形態の対象物の解体方法において、部材1A~1Dを備える対象物2の表面のうち、部材1Aの表面に、導電性材料3を接触させている様子を示す断面模式図である。
図3】小型冷蔵庫から取り外したガラスドアパネル16の前面のガラス板に、銅製の細線17を接触させた外観を示す写真である。
図4】細線爆発の結果、図3に示したガラスドアパネル16が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
図5】小型冷蔵庫から取り外したガラスドアパネルの一端側におけるガラス板と樹脂製筐体との境界にアルミニウム製の細線を配置し、細線をガラスドアパネルの表面に接触させた外観を示す写真である。
図6】細線爆発の結果、図5に示したガラスドアパネルの細線付近の一部分が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
図7図6に示した一部分が衝撃波で解体したガラスドアパネルに対して、図5の細線の配置と向かい合う他端側におけるガラス板と樹脂製筐体との境界にアルミニウム製の細線を配置し、細線をガラスドアパネルの表面に接触させた外観を示す写真である。
図8】細線爆発の結果、図7に示したガラスドアパネルの樹脂製筐体が衝撃波で壊れ、ガラス板と樹脂製筐体との間で剥離して、対象物としてのガラスドアパネルが解体した様子を示した外観写真である。
図9】細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
図10】2回目の細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
図11】細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
図12】参考例1の対象物の解体前を示す外観正面写真である。
図13】参考例1の対象物の解体後を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<対象物の解体方法>>
本発明の対象物の解体方法は、少なくとも2個の部材が接合されてなる対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させて、前記対象物の接合部位に衝撃波を作用させることで前記対象物の部材同士を剥離させる。
【0015】
対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加することで、前記導電性材料がプラズマ化して衝撃波を発生させる。前記衝撃波が部材中を伝搬し、前記対象物の接合部位に衝撃波を作用させることで前記対象物の部材同士を剥離させ、前記対象物を解体する。
本発明の対象物の解体方法は、対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させるので、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能である。導電性材料を衝撃波の発生源とするので、解体に要するエネルギー量が少なく、解体を短時間で行うことができる。
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態である対象物の解体方法について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る第1実施形態の対象物の解体方法を模式的に表す模式図である。図1の(a1)、(a2)及び(a4)は断面図であり、(a3)は上面図である。
【0018】
(対象物)
本実施形態における対象物2はセラミックコーティング試料である。部材1Aは絶縁体としてのセラミック膜であり、部材1Bは鉄板である。対象物2は、鉄板の一面の全体にセラミック膜が接合されている(図1の(a1))。
【0019】
部材1A及び部材1Bの組み合わせは、セラミック膜及び鉄板の組み合わせに限定されず、絶縁体及び絶縁体の組合せであってもよく、絶縁体及び導電性部材の組合せであってもよく、導電性部材及び導電性部材の組み合わせであってもよい。対象物は、少なくとも一の絶縁体の部材を有することが好ましい。
【0020】
絶縁体の部材1Aは、板状、膜状又はフイルム状であることが好ましい。絶縁体の部材1Aとしては、セラミック膜の他、プラスチック板、ガラス板等が挙げられる。
【0021】
部材1Aの厚さは、剥離させたい対象物の接合箇所に近くなることから、50000μm以下であることが好ましく、10000μm以下であることがより好ましく、5000μm以下であることがさらに好ましい。部材1Aの厚さは、2μm以上であることが好ましく、10μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。部材1Aの厚さは、2~50000μmであることが好ましく、10~10000μmであることがより好ましく、50~5000μmであることがさらに好ましい。
【0022】
(導電性材料)
本実施形態において、導電性材料3は金属製の細線である。導電性材料3としての細線の金属種は、細線爆発により衝撃波を起こし得るものであれば限定されない。細線の金属種として、銅、アルミニウム、銀、タングステンなどが挙げられる。細線は、銅又はアルミニウムを含むことが好ましく、銅を含むことが好ましい。細線は、細線電気抵抗が小さく(大電流が流れやすく)、融点・沸点が低く、比熱が小さく、比重が小さい(ジュール熱が発生しやすい)ものが好ましい。
導電性材料3は、高電圧パルスを印加することで対象物の部材同士を剥離させることのできる衝撃波を発生させることができれば、金属製の細線に限定されない。導電性材料3として、金属製の細線のほか、導電性ペースト、金属箔等が挙げられる。導電性ペーストとしては、銀ペースト、カーボンペースト等が挙げられ、金属箔としては、アルミ箔、銅箔等が挙げられる。
【0023】
(導電性材料を接触させる工程)
図1において、初めに、セラミックコーティング試料のうち、セラミック膜の側の表面の長手方向に沿った中央部に金属製の細線を接触させる(図1の(a1)⇒(a2))。本実施形態では、セラミック膜の表面の一辺から向かい合う他辺まで横断するように、細線を接触させている(図1の(a2))。細線を接触させる位置は、対象物の剥離させたい部材同士の位置に応じて選択すればよいが、対象物の少なくとも絶縁体部分を含む位置が好ましい。本実施形態においては、絶縁体の部材1Aの側の表面に導電性材料を接触させることが好ましい。
一の絶縁体の部材及び他の絶縁体の部材を含む対象物の解体方法においては、衝撃波は、到達距離が長くなるにつれて減衰するので、剥離させたい対象物の接合箇所に近い位置に導電性材料を接触させることが好ましく、一の絶縁体の部材及び他の絶縁体の部材のうち、薄い方の側の絶縁体の部材の表面の一部分に導電性材料を接触させることがより好ましい。
【0024】
細線の長さは、細線を接触させる方の側の部材の長手方向の長さよりも長くてもよく、短くてもよい。対象物が絶縁体の部材及び導電性部材を含む場合には、細線の長さは、細線を接触させる方の側の絶縁体の部材の長手方向の長さよりも短い方がよい。これにより、細線が導電性部材に通電して、対象物の解体後に機能を残したい導電性部材を傷つけるおそれを軽減できる。
【0025】
導電性材料を対象物の表面に接触させる際、導電性材料の長手方向の長さは、効率の点から、導電性材料を接触させる方の側の部材の長手方向の長さに対して、0.4倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、0.6倍以上であることがさらに好ましい。導電性材料を対象物の表面に接触させる長手方向の長さは、導電性材料を接触させる方の側の部材の長手方向の長さに対して、1.0倍以下であることが好ましく、0.9倍以下であることがより好ましく、0.8倍以下であることがさらに好ましい。導電性材料を対象物の表面に接触させる長手方向の長さは、導電性材料を接触させる方の側の部材の長手方向の長さに対して、0.4~1.0倍であることが好ましく、0.5~0.9倍であることがより好ましく、0.6~0.8倍であることがさらに好ましい。
【0026】
導電性材料を対象物の表面に接触させる長さは、10~2000mmであってもよく、20~1000mmであってもよく、40~500mmであってもよい。
【0027】
導電性材料が細線であるとき、細線の線径は、0.01~4mmであってもよく、0.2~2mmであってもよく、0.4~1mmであってもよい。対象物の少なくとも一部の表面に接触させる細線の本数に限定はなく、1本であってもよく、1~2本であってもよく、1~3本であってもよく、解体する対象物の材質や大きさに合わせて適宜増減すればよい。
【0028】
本実施形態では、次に、細線の両端に、高電圧パルス印加装置6に電線7,8を介して接続された電極9,10を当接する(図1の(a3))。細線は、セラミック膜の中央付近の表面の一辺から向かい合う他辺までの距離よりも長い。電極9,10は、鰐口クリップである。細線の両端のセラミック膜からはみ出た箇所に鰐口クリップを挟んでいる。高電圧パルス印加装置6との接続方法はこれに限られない。
【0029】
高電圧パルス印加装置6は、静電容量の大きなコンデンサに充電した電荷を一気に放電することができる。高電圧パルス印加装置は、公知の装置から適宜選択することができる。高電圧パルス印加装置6の好適な出力条件は、導電性材料を接触させる方の側の部材の厚さ、剥離させたい対象物の接合部位の面積、接合強度等に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
例えば、高電圧パルス印加装置6の静電容量は、10μF以上であることが好ましく、20μF以上であることがより好ましく、30μF以上であることがさらに好ましい。高電圧パルス印加装置6の静電容量は、10000μF以下であることが好ましく、1000μF以下であることがより好ましく、100μF以下であることがさらに好ましい。高電圧パルス印加装置6の静電容量は、10~10000μFであることが好ましく、20~1000μFであることがより好ましく、30~100μFであることがさらに好ましい。
【0031】
(対象物の接合の剥離工程)
次に、導電性材料3である金属製の細線に高電圧パルスを印加して金属をプラズマ化させ衝撃波を発生させて、対象物の部材1Aと部材1Bとの接合部位に衝撃波を作用させること(図1の(a4))で、対象物の部材1Aと部材1Bとを剥離させる。導電性材料3である金属製の細線はプラズマ化して細線爆発し、衝撃波は部材1Aを伝搬する。衝撃波が対象物の部材1Aと部材1Bとの接合部位に伝わり、部材1A及び部材1Bの2つの材料の音響インピーダンス(密度×音速)が異なることで、部材1Aと部材1Bとの界面に応力が発生し、部材同士が剥離する。この時、導電性材料3である金属製の細線はプラズマ化し、粉々の微粒子に変化し、導電性材料を接触させる方の側の部材1Aも断片又は微粒子となり破壊されてよい。導電性材料が接触しない方の側の部材1Bの鉄板は、部材1Bの機能を保持できるように、高電圧パルス印加装置6の出力を調整することで、導電性材料が接触しない方の側の部材1Bを破壊させないことができる。
【0032】
剥離させる部材同士は、音響インピーダンス(密度×音速)が大きく異なることが好ましい。音速は、部材の組成や微細構造、粒子または繊維の配向、多孔性、温度等々、多くの物性に影響を受ける。
【0033】
衝撃波の伝搬方向と剥離させたい方向は同じ方が効率がよい。図1の(a2)では、剥離させたい部材1A及び部材1Bの接合面と、導電性材料を接触させた対象物の表面とは略平行である。図1の(a4)では、衝撃波の伝搬方向は、導電性材料3→部材1A→部材1Bの向きであり、部材1Aと部材1Bとの剥離の方向(図1の(a4)において上下方向)と同じである。
【0034】
高電圧パルス印加装置6からの印加電圧は、対象物の部材同士の剥離を充分に実行できる条件であれば限定されないが、2kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい。高電圧パルス印加装置6からの印加電圧は、100kV以下であることが好ましく、50kV以下であることがより好ましく、20kV以下であることがさらに好ましい。高電圧パルス印加装置6からの印加電圧は、2~100kVであることが好ましく、5~50kVであることがより好ましく、10~20kVであることがさらに好ましい。
【0035】
本実施形態の対象物の解体方法において、高電圧パルス印加装置6の印加回数は、1回以上であり、10回以下であることが好ましく、5回以下であることがより好ましく、3回以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態の対象物の解体方法は、対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させるので、対象物が導電性部材を有するか否かに拘らず、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能であり、印加回数を少なくして、解体に要するエネルギー量が少なく、解体を短時間で行うことができる。
【0037】
加えて、導電性材料が接触しない方の側の部材を、ほぼ、そのままの形態を維持して残すことができる。
【0038】
本実施形態の対象物の解体方法は、導電性材料を接触させる位置や、導電性材料に高電圧パルスを印加する際の静電容量、印加電圧、印加回数等の条件を選択することで、対象物をリサイクルし易い形状もしくは材質に解体することができる。リサイクルし易い形状もしくは材質とは、例えば、直径数mmの粉体、特定のセラミックと特定の金属とに分離することである。
【0039】
[第2実施形態]
図2は、本発明に係る第2実施形態の対象物の解体方法において、部材1A~1Dを備える対象物2の表面のうち、部材1Aの表面に、導電性材料3を接触させている様子を示す断面模式図である。
【0040】
本実施形態における対象物2は冷蔵庫のガラスドアパネルである。部材1Aは絶縁体としてのガラス板であり、部材1Bは銀色の化粧紙であり、部材1Cはウレタン樹脂であり、部材1Dは樹脂製筐体である。部材1Aは部材1Bと接合されており、部材1Bは部材1Dと接合されている。部材1Bと部材1Cとは接合されていない。本実施形態において、導電性材料3は、銅製の細線である。
【0041】
第2実施形態の対象物の解体方法は、部材1Aのガラス板の長手方向に沿った中央部の表面に導電性材料3の細線を接触させ、導電性材料3の細線に高電圧パルスを印加して銅製の細線をプラズマ化させ衝撃波を発生させ、対象物2のうち、部材1Bの銀色の化粧紙と、部材1Dの樹脂製筐体とを剥離させる。第2実施形態において、導電性材料3の銅製の細線はプラズマ化して粉々の微粒子に変化し、部材1Aのガラス板及び部材1Bの銀色の化粧紙は断片に変化する。部材1Cのポリウレタン樹脂及び部材1Dの樹脂製筐体は、ほぼそのままの形態を残すことができる。
【0042】
第2実施形態の対象物の解体方法においても、第1実施形態と同様に、対象物の表面の一部分に導電性材料を接触させ、大気中で前記導電性材料に高電圧パルスを印加して衝撃波を発生させるので、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能であり、印加回数を少なくして、解体に要するエネルギー量が少なく、解体を短時間で行うことができる。
【0043】
本実施形態の対象物の解体方法は、導電性材料を接触させる位置や、導電性材料に高電圧パルスを印加する際の静電容量、印加電圧、印加回数等の条件を選択することで、対象物をリサイクルし易い形状もしくは材質に解体することができる。リサイクルし易い形状もしくは材質とは、例えば、直径数mmの粉体、特定のガラスと特定の樹脂とに分離することである。
【0044】
[その他の実施形態]
本発明の対象物の解体方法において、導電性材料を接触させる対象物の表面は、剥離させたい対象物の接合箇所に応じて、適宜、選択することができる。
図1において、部材1A及び部材1Bを横断するように、導電性材料3を、部材1Aの側面及び部材1Bの側面に接触させてもよい。
図1において、導電性材料3を部材1A及び部材1Bの境界に配置して、導電性材料3を、部材1Aの側面及び部材1Bの側面に接触させてもよい。
図2において、部材1A、部材1B及び部材1Dを横断するように、導電性材料3を、部材1Aの側面、部材1Bの側面及び部材1Dの側面に接触させてもよい。
図2において、導電性材料3を部材1A及び部材1Bの境界に配置して、導電性材料3を、部材1Aの側面及び部材1Bの側面に接触させてもよい。
【0045】
<<部材の再生方法>>
本発明の部材の再生方法は、前記対象物の解体方法を使用して、剥離させた部材を回収して再利用する。
本発明の対象物の解体方法は、対象物の特定部位を選択的、局所的に解体可能であり、対象物をリサイクルし易い形状もしくは材質に解体することができるので、前記対象物の解体方法を使用して、剥離させた部材を回収して再利用することができる。回収した部材はそのまま利用するか、または、加工を加えて再利用することができる。
【実施例
【0046】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
近年、高級冷蔵庫にはガラスドアパネル16が採用されている。図3は、市販の小型冷蔵庫から取り外したガラスドアパネル16の前面のガラス板に、銅製の細線17を接触させた外観を示す写真である。ガラス板の長手方向に沿った中央部の表面に、銅製の細線17を接触させている。
ガラスドアパネル16(すなわち、対象物2)においては、図2に示される形態と同様に、部材1Aのガラス板の長手方向に沿った中央部の表面に、導電性材料3に相当する細線17が接触している。図2における部材1Bは銀色の化粧紙であり、部材1Cはウレタン樹脂であり、部材1Dは樹脂製筐体である。部材1Aのガラス板は部材1Bの銀色の化粧紙と接合されており、部材1Bの銀色の化粧紙は部材1Dの樹脂製筐体と接合されている。部材1Dの樹脂製筐体の内部は断熱材としてのウレタン樹脂1Cが詰め込まれている。また、部材1Bの銀色の化粧紙と樹脂製筐体1Dとの合わせ面は、接着シートにより強固に接合され、高い断熱性能を確保している。
【0048】
ガラスドアパネル16の寸法は、250mm×170mm×85mmである。銅製の細線は長さ260mm、線径0.9mmである。このように強固に接合されたガラスドアパネル16の解体は、従来の解体技術であるレーザーカット法では困難であり、未だ解体方法は定まっていない。
【0049】
この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。
【0050】
図4は、細線爆発の結果、図3に示したガラスドアパネル16が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。細線の配置付近で細線爆発により生じた衝撃波によりガラス板及び銀色の化粧紙と樹脂製筐体との間で剥離し、解体できた。実施例1では、1回の印加回数で、ガラスドアパネルを、ウレタン樹脂及び樹脂製筐体を残して選択的、局所的に解体できた。
【0051】
[実施例2]
図5は、実施例2に係る対象物の解体方法において、市販の小型冷蔵庫から取り外したガラスドアパネルの一端側におけるガラス板と樹脂製筐体との境界にアルミニウム製の細線を配置し、細線をガラスドアパネルの表面に接触させた外観を示す写真である。この小型冷蔵庫のガラスドアパネル16の寸法は、240mm×150mm×85mmであり、内部構造は実施例1のガラスドアパネル16と同様である。アルミニウム製の細線は長さ260mm、線径0.9mmである。
【0052】
この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。
【0053】
図6は、細線爆発の結果、図5に示したガラスドアパネルの細線付近の一部分が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。
【0054】
図7は、図6に示した一部分が衝撃波で解体したガラスドアパネルに対して、図5の細線の配置と向かい合う他端側におけるガラス板と樹脂製筐体との境界にアルミニウム製の細線を配置し、細線をガラスドアパネルの表面に接触させた外観を示す写真である。アルミニウム製の細線は長さ260mm、線径0.9mmである。
【0055】
この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。
【0056】
図8は、細線爆発の結果、図7に示したガラスドアパネルの樹脂製筐体が衝撃波で壊れ、ガラス板と樹脂製筐体とが剥離して、対象物としてのガラスドアパネルが解体した様子を示した外観写真である。実施例2では、2回の印加回数で、ガラスドアパネルを、ウレタン樹脂の多くを残して選択的、局所的に解体できた。
【0057】
[実施例3]
鉄板の一方の面がセラミックコーティングされた試料対象物の解体を試みた。鉄板の寸法は、100mm×100mm×5mmであり、セラミックコーティング膜の厚さは100μmである。試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:120mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。
【0058】
図9は、細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。細線の配置箇所を含む、幅20mmの部分のセラミックコーティングが鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0059】
[実施例4]
実施例3のセラミックコーティング膜の厚さを500μmに変更した他は、実施例3のセラミックコーティングされた試料対象物と同様の試料対象物について、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:120mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。ただし、セラミックコーティング膜の剥離は確認されなかった。更に、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、2回目の細線爆発を起こした。
【0060】
図10は、2回目の細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。細線の長さを短くした。その結果、セラミックコーティング膜の約半分が鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0061】
[実施例5]
実施例4と同じ、セラミックコーティング膜の厚さ500μmの試料対象物について、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。ただし、セラミックコーティング膜の剥離は確認されなかった。更に、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、同じく、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、2回目の細線爆発を起こした。
【0062】
2回目の細線爆発の結果、実施例4と同様、セラミックコーティング膜の約半分が鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0063】
[実施例6]
実施例3のセラミックコーティング膜の厚さを300μmに変更した他は、実施例3のセラミックコーティングされた試料対象物と同様の試料対象物について、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。ただし、セラミックコーティング膜の剥離は確認されなかった。更に、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、同じく、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、2回目の細線爆発を起こした。
【0064】
2回目の細線爆発の結果、細線の配置箇所を含む幅30mmの部分のセラミックコーティングが鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0065】
[実施例7]
実施例3と同じ、セラミックコーティング膜の厚さ100μmの試料対象物について、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、細線爆発を起こした。ただし、セラミックコーティング膜の剥離は確認されなかった。更に、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、同じく、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の細線を接触させた。この細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、2回目の細線爆発を起こした。
【0066】
2回目の細線爆発の結果、細線の配置箇所を含む幅30mmの部分のセラミックコーティング膜が鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0067】
[実施例8]
実施例4と同じ、セラミックコーティング膜の厚さ500μmの試料対象物について、試料対象物のセラミックコーティング側の中央付近に、長さ:70mm、線径:0.9mmの銅製の2本の細線を十文字に配置し、接触させた。これらの細線のうち、1本の細線の両端に当接させた電極から、コンデンサ容量:40μF、印加電圧:15kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、1回目の細線爆発を起こした。
【0068】
図11は、1回目の細線爆発の結果、セラミックコーティングされた試料対象物が衝撃波で解体した様子を示した外観写真である。1回目の細線爆発で、セラミックコーティング膜の約94%の面積の部分が鉄板から剥離し、鉄板の方の側をそのまま残して選択的、局所的に解体できた。
【0069】
[参考例1]
図12は、市販の小型冷蔵庫から取り外したガラスドアパネル16(対象物)の外観正面写真であって、参考例1の対象物の解体前を示す。この小型冷蔵庫のガラスドアパネルの寸法は、250mm×170mm×85mmであり、内部構造は実施例1のガラスドアパネル16と同様である。
【0070】
ガラスドアパネル16のガラス板の表面に一対の電極を70mm離して当接し、前記一対の電極から、コンデンサ容量:0.8μF、印加電圧:45kVの条件で、高電圧パルスを印加した。その結果、一対の電極を接触させた箇所を含む局所部分のガラス板が破壊されて、銀色の化粧紙と共に樹脂製筐体から剥離した。また、ガラスドアパネル16のガラス板の表面の別の箇所に一対の電極を70mm離して当接し、前記一対の電極から同じ条件で高電圧パルスを印加した。その結果、ガラス板が2回目の破壊を起こした。更に、同様にして、高電圧パルスを13回印加して、15回目の破壊を起こさせた。
【0071】
図13は、15回目の破壊の結果、図12に示したガラスドアパネル16が解体した様子を示す写真である。
【0072】
実施例1~8では、1回~3回の高電圧パルスの印加で対象物を解体できたのに対して、参考例1では、15回の高電圧パルスの印加で漸く対象物を解体することができた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の対象物の解体方法は、故障や製品ライフサイクルの変化に伴い使用されなくなった家電製品や携帯通信端末などの対象物の解体に利用することができる。また、本発明の対象物の解体方法を使用して、剥離させた部材を回収して再利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1A・・・部材A
1B・・・部材B
1C・・・部材C
1D・・・部材D
2・・・対象物
3・・・導電性材料
6・・・高電圧パルス印加装置
7,8・・・電線
9,10・・・電極
16・・・ガラスドアパネル
17・・・細線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13