(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】被接合対象物と機能性基材との接合体
(51)【国際特許分類】
F03D 80/00 20160101AFI20241017BHJP
F15D 1/12 20060101ALI20241017BHJP
B32B 7/04 20190101ALI20241017BHJP
B64C 3/58 20060101ALI20241017BHJP
B64C 11/18 20060101ALI20241017BHJP
B64C 27/467 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F03D80/00
F15D1/12
B32B7/04
B64C3/58
B64C11/18
B64C27/467
(21)【出願番号】P 2021562739
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045168
(87)【国際公開番号】W WO2021112210
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019219644
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(73)【特許権者】
【識別番号】518375672
【氏名又は名称】株式会社北拓
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 延由
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英昭
(72)【発明者】
【氏名】武山 昌史
(72)【発明者】
【氏名】尾立 志弘
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-180027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F15D 1/12
B32B 7/04
B64C 3/58
B64C 11/18
B64C 27/467
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合対象物の湾曲面及び/又は平滑面に沿ってその面上に機能性基材が設けられており、前記機能性基材の周縁側面の周縁最先端部より内側で、前記被接合対象物との対向面側にて、前記被接合対象物と前記機能性基材との間に周縁隙間部位が設けられており、前記周縁隙間部位ごと埋めつつ前記周縁側面から前記湾曲面及び/又は前記平滑面に沿って保持部材が層状に末広がりに延長して
おり、
前記機能性基材は、誘電体基材と電極若しくはダイバータストリップの金属チップ又は金属箔とを有するものであって、前記被接合対象物の非対向面側に設けられた第一電極と、前記誘電体基材内に設けられた第二電極とからなる電極を有し、若しくは前記誘電体基材内に前記ダイバータストリップの金属チップ又は前記金属箔を有し、
前記周縁隙間部位が、前記周縁最先端部より内側で前記被接合対象物と前記機能性基材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物と接合補助部材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物とスペーサー部材によって、形成され、
前記誘電体基材と、前記第二電極、前記金属チップ及び前記金属箔の何れかとが、並びに前記保持部材と前記被接合対象物とが、分子接着剤の単分子膜層との付加結合及び置換結合から選ばれる結合がなされていることにより、
若しくはその表面のヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされていることにより、又は表面活性化されたヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がな
されていることにより、若しくはコロナ処理面、紫外線処理面、エキシマ処理面、及び
イトロ処理面から選ばれる何れかの処理面
となっていることにより、接合(但し、(1)前記誘電体基材と前記第二電極とは、(1-1)前記結合がなされ、(1-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(1-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がな
されているものに限り、若しくは(2)前記誘電体基材と前記金属チップとは、(2-1)前記結合がなされ、(2-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(2-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がな
されているものに限り、若しくは(3)前記誘電体基材と前記金属箔とは、(3-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(3-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がな
されているものに限る。かつ、(4)前記保持部材と前記被接合対象物とは、(4-4)前記何れかの処理面となっているものに限る。)されており、
前記第二電極又は前記金属チップ又は前記金属箔よりも周縁側にて前記周縁隙間部位で下側周縁側面ごと前記保持部材により前記機能性基材が埋まっていることを特徴とする被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項2】
前記保持部材で、前記機能性基材の全体を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項3】
前記保持部材が、保護膜及び/又は塗装膜であることを特徴とする請求項2に記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項4】
前記分子接着剤が、シランカップリング剤、シラノール化合物、アルミネート化合物、チタネート化合物、トリアジン環含有化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、及びアミン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項5】
前記被接合対象物の前記湾曲面に沿って、前記保持部材が段差無く末広がりに延長していることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項6】
前記保持部材が、前記被接合対象物の前記湾曲面に沿う末広がりの先端部までの曲率を、前記機能性基材の厚みの分だけ、前記湾曲面の曲率よりも、大きくしていることにより、段差無く末広がりに延長していることを特徴とする請求項5に記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項7】
前記周縁側面が、前記機能性基材における前記被接合対象物の非対向面側から、前記機能性基材の厚み方向の途中に在る前記周縁最先端部にまで又は前記機能性基材における前記被接合対象物との前記対向面に在る前記周縁最先端部にまで、前記被接合対象物との前記対向面側ほど裾が広がるように傾斜していることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項8】
前記周縁隙間部位が、前記周縁最先端部よりも1~5mmの前記内側まで至っていることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項9】
前記機能性基材が、最大で厚みを3mmとすることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項10】
前記接合補助部材が、層状接着材、層状両面接着テープ、層状両面粘着テープ、及び/又は接着剤層であることを特徴とする請求項4に記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項11】
前記保持部材及び/又は前記機能性基材が、被接合対象物非対向面側で、保護層で被覆されており、前記保護層が、前記湾曲面及び/又は前記平滑面に沿って層状に末広がりに延長していることを特徴とする請求項1~10の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項12】
前記機能性基材が、気流制御電極装置、気流発生装置、ダイバータストリップ、ボルテックスジェネレーター、タービュレーター、及び/又は保護シートであることを特徴とする請求項1~11の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項13】
前記被接合対象物が、フィン、ファン、ブレード、自動車、鉄道車両、航空輸送機、昇降機、ロケット、及び建造物から選ばれる何れかであることを特徴とする請求項1~12の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【請求項14】
前記保持部材が、弾性体であることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載の被接合対象物と機能性基材との接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風を受けて回転する風力発電のブレード又は送風機のフィン・ファンのような回転体や、高速で移動することによって風を受ける自動車、鉄道車両、航空輸送機、昇降機、ロケットのような乗物や、強風を受ける高層ビル・橋梁・鉄塔のような建造物等の被接合対象物に、機能性基材が付されたもので、風で機能性基材が剥がれない接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風を動力源にしてブレードを回転させる風力発電での回転効率を上げつつブレードが風を切る時の騒音を低減するため、放電プラズマ気流制御によって気流を発生させブレードで発生する流れの剥離を抑制する気流発生装置が、ブレードの翼長に沿って付される。このような放電プラズマによる気流制御は、ブレードのような被接合対象物上で、絶縁体を挟んで対向する電極間に高電圧を印加することにより生じる放電プラズマの作用で、イオン風と呼ばれる薄い噴流の気流が誘起され、その気流が流れの境界層部分に作用して、境界層部分の流れを加速したり擾乱を与えたりすることにより剥離が抑制されて、被接合対象物まわりの流れをスムーズにするというものである
【0003】
また、風力発電のブレードに落雷があったときに地上へ誘導する落雷用ダイバータストリップが、ブレードの先端近傍に付される。最も落雷し易いブレード先端部にレセプタ(受雷部材)が設けられており、ブレード先端部以外の場所に落雷した落雷電流を、ダイバータストリップ誘導線を経由させてブレード表面に沿って流れさせてレセプタに誘導し、避雷導線を通ってアースするようになっている。
【0004】
或いは、高速で移動する乗物例えば自動車や航空機の周りを流れる空気は、乗物やその表面付属物の後ろ側で走行抵抗となる渦を生じてしまう。そこで、この渦を生じないように、渦生成の直前部位に、乱流形成突起を設けて故意に乱流を発生させる車両用のボルテックスジェネレーターが、ドアミラー取付部、リアフェンダー、ルーフ後方、トランク後方、ボンネット後方などに、付されたり、航空機用のタービュレーターが翼に付されたりする。また、建造物の所謂ビル風による騒音を低減するため、これら建造物に気流発生装置が付される。
【0005】
若しくは、風雨による劣化や、石・砂・雹・霰・鳥・虫等との衝突に起因する凹み発生やエロージョン(浸食)からこれら回転体や乗物や建造物等の表面を保護したり、破損した部分を一時的に防水保護したり、気流制御電極装置、気流発生装置、ダイバータストリップ、ボルテックスジェネレーター、タービュレーターを保護したりするため、それらは、必要に応じて保護シートで覆われる。
【0006】
例えば、特許文献1に、FRP製の翼体本体の少なくともリーディングエッジの少なくとも一部に、積層保護シートを接着してなり、該積層保護シートは、翼体本体側から順に、粘着材層、中間基布層及び表面耐久層を有する翼体が記載されている。
【0007】
このような気流制御電極装置や気流発生装置やダイバータストリップである機能性基材、又はボルテックスジェネレーターやタービュレーターの乱流形成突起を付すために備えた機能性基材、及び/又は保護シートのような機能性基材は、被接合対象物から機能性基材の厚み分だけ突き出ている所為で、突き出た部位の周縁端部ほど風雨による応力が集中して掛かり易いため、長期間使用していると、機能性基材が剥がれたり捲れたり浮き上がったりしてしまうと、十分な作用効果を発現できなくなる。一方、剥がれないほど強力に接合してしまうと、修理や補修の際に取り換えできなくなってしまうので、気流制御電極装置の断線の修理や補修の度に解体できないような大型の回転体や乗物や建造物等には、向かない。また、気流制御電極装置などを硬質で厚手の保護シートで剥がれ難いように多重に覆うと、ブレードなどの被接合対象物表面での放電プラズマが弱まってしまい気流を生じ難くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、風のような流体を受ける回転体や乗物や建造物等の被接合対象物に機能性基材が付され、流体により機能性基材の作用効果を損なわず悪影響を及ぼさないように、また機能性基材がその端部から風雨で剥がれない程度の強い接合性と修理や補修の際に剥がし易い程度の剥離性とを併せ持つように、機能性基材と被接合対象物とを接合しつつ機能性基材の端部を埋めた接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた被接合対象物と機能性基材との接合体は、被接合対象物の湾曲面及び/又は平滑面に沿ってその面上に機能性基材が設けられており、前記機能性基材の周縁側面の周縁最先端部より内側で、前記被接合対象物との対向面側にて、前記被接合対象物と前記機能性基材との間に周縁隙間部位が設けられており、前記周縁隙間部位ごと埋めつつ前記周縁側面から前記湾曲面及び/又は前記平滑面に沿って保持部材が層状に末広がりに延長しているというものである。
この接合体にあっては、前記機能性基材は、誘電体基材と電極若しくはダイバータストリップの金属チップ又は金属箔とを有するものであって、前記被接合対象物の非対向面側に設けられた第一電極と、前記誘電体基材内に設けられた第二電極とからなる電極を有し、若しくは前記誘電体基材内に前記ダイバータストリップの金属チップ又は前記金属箔を有し、
前記周縁隙間部位が、前記周縁最先端部より内側で前記被接合対象物と前記機能性基材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物と接合補助部材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物とスペーサー部材によって、形成され、
前記誘電体基材と、前記第二電極、前記金属チップ及び前記金属箔の何れかとが、並びに前記保持部材と前記被接合対象物とが、分子接着剤の単分子膜層との付加結合及び置換結合から選ばれる結合がなされていることにより、若しくはその表面のヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされていることにより、又は表面活性化されたヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がなされていることにより、若しくはコロナ処理面、紫外線処理面、エキシマ処理面、及びイトロ処理面から選ばれる何れかの処理面となっていることにより、接合(但し、(1)前記誘電体基材と前記第二電極とは、(1-1)前記結合がなされ、(1-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(1-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がなされているものに限り、若しくは(2)前記誘電体基材と前記金属チップとは、(2-1)前記結合がなされ、(2-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(2-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がなされているものに限り、若しくは(3)前記誘電体基材と前記金属箔とは、(3-2)前記ヒドロキシ基の脱水縮合による分子接着がなされ、又は(3-3)前記ヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着がなされているものに限る。かつ、(4)前記保持部材と前記被接合対象物とは、(4-4)前記何れかの処理面となっているものに限る。)されており、
前記第二電極又は前記金属チップ又は前記金属箔よりも周縁側にて前記周縁隙間部位で下側周縁側面ごと前記保持部材により前記機能性基材が埋まっている。
【0011】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記保持部材で、前記機能性基材の全体を覆っているというものであってもよい。
【0012】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記保持部材が、保護膜及び/又は塗装膜であるというものであってもよい。
【0013】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記周縁隙間部位が、前記周縁最先端部より内側で前記被接合対象物と前記機能性基材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物と接合補助部材によって、及び/又は前記機能性基材と前記被接合対象物とスペーサー部材によって、形成されているというものであってもよい。
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記分子接着剤が、シランカップリング剤、シラノール化合物、アルミネート化合物、チタネート化合物、トリアジン環含有化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、及びアミン化合物である。
【0014】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記被接合対象物の前記湾曲面に沿って、前記保持部材が段差無く末広がりに延長していると、好ましい。
【0015】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記保持部材が、前記被接合対象物の前記湾曲面に沿う末広がりの先端部までの曲率を、前記機能性基材の厚みの分だけ、前記湾曲面の曲率よりも、大きくしていることにより、段差無く末広がりに延長していると、なお一層好ましい。
【0016】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記周縁側面が、前記機能性基材における前記被接合対象物の非対向面側から、前記機能性基材の厚み方向の途中に在る前記周縁最先端部にまで又は前記機能性基材における前記被接合対象物との前記対向面に在る前記周縁最先端部にまで、前記被接合対象物との前記対向面側ほど裾が広がるように傾斜しているというものであってもよい。
【0017】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、例えば、前記周縁隙間部位が、前記周縁最先端部よりも1~5mmの前記内側まで至っているというものである。
【0018】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、例えば、前記機能性基材が、最大で厚みを3mmとするというものである。
【0019】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記接合補助部材が、層状接着材、層状両面接着テープ、層状両面粘着テープ、及び/又は接着剤層であるというものであってもよい。
【0020】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、前記保持部材及び/又は前記機能性基材が、被接合対象物非対向面側で、保護層で被覆されており、前記保護層が、前記湾曲面及び/又は前記平滑面に沿って層状に末広がりに延長していることが好ましい。
【0021】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、例えば前記機能性基材が、気流制御電極装置、気流発生装置、ダイバータストリップ、ボルテックスジェネレーター、タービュレーター、及び/又は保護シートであるというものである。
【0022】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、例えば前記被接合対象物が、フィン、ファン、ブレード、自動車、鉄道車両、航空輸送機、昇降機、ロケット、及び建造物から選ばれる何れかであるというものである。
【0023】
この被接合対象物と機能性基材との接合体は、例えば前記保持部材が、弾性体であると好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の被接合対象物と機能性基材との接合体は、被接合対象物の湾曲面や平滑面に沿ってその面上に機能性基材が設けられており、被接合対象物と機能性基材との間の周縁隙間部位ごと埋めつつ保持部材が層状に末広がりに延長していることにより、機能性基材が被接合対象物の湾曲面や平滑面から突き出しているにも拘らず機能性基材の周縁側面が恰も湾曲面や平滑面と一体化しているかの如く段差を有することなく延長している。そのため、風などの流体が接合体に当たっても、機能性基材の周縁端部から機能性基材が剥がれたり捲れたり浮き上がったりしない。
【0025】
この接合体は、風のような流体を受ける回転体や乗物や建造物等の被接合対象物に用いて、機能性基材による放電プラズマ気流制御のような気流制御や、落雷電流誘導や、乱流のような気流発生による流れのスムーズ化や、渦発生抑制などの各種作用効果を損なわず悪影響を及ぼさない。
【0026】
しかも、この被接合対象物と機能性基材との接合体は、被接合対象物に機能性基材が接合されつつ、保持部材で機能性基材の周縁側面が周縁隙間部位ごと埋めつつ末広がりに延長しているので、また機能性基材がその端部から風雨で剥がれない程度の強い接合性と修理や補修の際に剥がし易い程度の剥離性とを併せ持っている。そのため、この接合体は、風力発電のブレードのような回転体や、自動車、鉄道車両、航空輸送機、昇降機、ロケットのような乗物や、高層ビル・橋梁・鉄塔のような建造物など、巨大な被接合対象物に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明を適用する被接合対象物と機能性基材との接合体の一部切欠の模式斜視図である。
【
図2】本発明を適用する被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図3】本発明を適用する別な被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図4】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図5】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図6】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図7】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図8】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図9】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体の模式断面図である。
【
図10】本発明を適用する別な態様の被接合対象物の曲率と、接合体の曲率とを、模式的に示す概要図である。
【
図11】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体を用いている斜視図である。
【
図12】本発明を適用する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体を用いている斜視図である。
【
図13】本発明を適用する被接合対象物と機能性基材との接合体の試料について評価する際のブラスト処理試験の概要図である。
【
図14】本発明を適用する被接合対象物と機能性基材との接合体の試料についてブラスト処理試験前後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の被接合対象物と機能性基材との接合体1について、長尺形状の一態様について一部を切欠いた模式斜視図である
図1を参照して説明する。
図1は、接合体1が、風力発電のブレードの前縁に付された気流制御電極装置として機能する態様を示したものである。
【0030】
被接合対象物50である風力発電のブレードと機能性基材10との接合体1は、被接合対象物50の湾曲面51に沿って、その面51上でブレード前縁に機能性基材10が設けられている。
【0031】
機能性基材10は、被接合対象物50の対向面側にある下側誘電体基材12bと、被接合対象物50の非対向面側にある上側誘電体基材12aとからなる誘電体基材を有している。誘電体基材12a・12bは、絶縁性のゴム弾性基材である。
【0032】
さらに、機能性基材10は、上側誘電体基材12a上で被接合対象物50の非対向面側に第一電極11aと、上側誘電体基材12a及び下側誘電体基材12bとの間に第二電極11bとからなる電極を有している。これら電極11a・11bは、導電性材料箔乃至導電性材料板例えば金属製や導電性樹脂製や金属メッシュ入り樹脂製である均等厚のものである。好ましくは薄膜である金属箔のような導電性材料箔である。
【0033】
第一電極11aは、例えば絶縁性のゴム弾性基材である上側誘電体基材12a上で被接合対象物50の非対向面側にて、金属蒸着及び引き続くエッチングで付されたものであってもよく、上側誘電体基材12aと金属箔との少なくとも一方を表面活性化処理した後、分子接着を用いたエーテル結合のような化学結合を介して付されたものであってもよい。
【0034】
第二電極11bは、例えば絶縁性のゴム弾性基材である上側誘電体基材12a上で被接合対象物50の対向面側にて、又は絶縁性のゴム弾性基材である下側誘電体基材12b上で被接合対象物50の非対向面側にて、金属蒸着及び引き続くエッチングで付されたものであってもよく、上側誘電体基材12aと金属箔との少なくとも一方を表面活性化処理した後、シランカップリング剤例えば単分子膜層による分子接着を用いた付加結合・置換結合、若しくは表面のヒドロキシ基又は表面活性化されたヒドロキシシリル基の脱水縮合による分子接着を用いたエーテル結合のような化学結合を介して付されたものであってもよい。
【0035】
上側誘電体基材12aと下側誘電体基材12bとは、第二電極11bごと、少なくとも一方を表面活性化処理した後、シランカップリング剤例えば単分子膜層による分子接着を用いた付加結合・置換結合、若しくは表面のヒドロキシ基又は表面活性化されたヒドロキシシリル基の脱水縮合によるエーテル結合のような化学結合を介して付されたものであってもよく、接着剤で接着したものであってもよい。
【0036】
第一電極11a及び第二電極11bは、長手方向(紙面前後方向)に沿う第二電極11bの内側端面(同図中の左側の端面)の真上(同図中の厚み方向の上方向)に、同じく長手方向に沿う第一電極11aの内側端面(同図中の右側の端面)が来るように、配置されている。第一電極11a及び第二電極11bと上側誘電体基材12aとの各接合面の延長面同士が平行になっている。それによって、第一電極11a及び第二電極11bが、平行な段違いになっている。
【0037】
第一電極11aの一端部近傍から金属接合された接続電線61aが延び、第二電極11bの一端部近傍から金属接合された接続電線61bが延びている。接続電線61a・61bは、電源回路と電源制御回路とを内蔵した電源ユニット60に接続されている。
【0038】
機能性基材10は、下側誘電体基材12bが、中程で、被接合対象物50の対向面側に接合補助部材40で、被接合対象物50に接合されている。周縁隙間部位21は、機能性基材10と被接合対象物50との間に形成されている。
【0039】
機能性基材10は、厚みTが最大で3mm程度である。その半分の厚み同士の上側誘電体基材12a及び下側誘電体基材12bとの側面で、周縁側面14を有している。機能性基材10は、周縁最先端部15を境に、下側誘電体基材12bが被接合対象物50の対向面側にある下側周縁側面14bと、上側誘電体基材12aが被接合対象物50の非対向面側にある上側周縁側面14aとからなる周縁側面14を成している。
【0040】
機能性基材10は、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとが、周縁最先端部15から長さLだけ内側に上下対称に傾斜している。下側周縁側面14bが傾斜していることによって、機能性基材10と被接合対象物50との間に間隙が生じる結果、周縁隙間部位21が形成されている。また、この周縁隙間部位21は、機能性基材10と被接合対象物50と接合補助部材40との間に間隙が生じる結果、周縁隙間部位21が形成されている。
【0041】
周縁最先端部15より内側で、被接合対象物50との対向面側にて、被接合対象物50と機能性基材10との間に設けられた周縁隙間部位21ごと埋めつつ、周縁側面14(即ち下側周縁側面14bと上側周縁側面14a)から湾曲面51に沿って保持部材20が層状に末広がりに段差なく延長している。
【0042】
保持部材20は、上側誘電体基材12a及び下側誘電体基材12b、並びに被接合対象物50との接着性に優れるものであれば、材質は特に限定されないが、接着性に優れたものであることが好ましく、例えばシリコーンゴム又はシリコーン樹脂、具体的には変性シリコーン、より具体的には主鎖に有機ポリマー鎖を有し末端にシリコーンユニットを有するものであってもよく、エポキシ樹脂であってもよく、ウレタン樹脂であってもよい。
【0043】
保持部材20は、弾性体であることが好ましく、具体的にはショアA硬度で80以下のものが挙げられる。
【0044】
このような保持部材20で、周縁隙間部位21ごと埋めつつ、周縁側面14から湾曲面51に沿って保持部材20が層状に末広がりに段差なく延長していると、保持部材20と、上側誘電体基材12a及び下側誘電体基材12b、並びに被接合対象物50との接着性に起因して、保持部材20が周縁隙間部位21の分だけ潜り込むようになって接着硬化するとともに、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとの接触面積が、傾斜を有しない場合よりも格段に広くなるので、機能性基材10を確りと固定できるようになる。しかも、それによって、機能性基材10の周縁側面14(即ち下側周縁側面14bと上側周縁側面14a)近傍が剥がれたり捲れたり浮き上がったりすることがない。
【0045】
このような保持部材20が、被接合対象物50の湾曲面51に沿う末広がりの先端部までの曲率を、機能性基材10の厚みTの分だけ、湾曲面51の曲率よりも、大きくしていることによって、層状に末広がりに段差なく延長している。保持部材20が、同一の曲率を有するようにしてもよいが、被接合対象物50の湾曲面51に応じて保持部材20の曲率を末広がりの先端部に向け被接合対象物50の湾曲面51の曲率とほぼ同じになるように徐々に変えてもよい。
【0046】
その曲率は、湾曲面51の曲率に近いほど、層状に末広がりの範囲が広くなるが、保持部材20が、段差無く末広がりに延長している範囲であれば、被接合対象物50の湾曲面51に応じて適宜決めることができる。
【0047】
このような保持部材20は、機能性基材10の周縁側面14である下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとに接合するように設けられていればよく、
図1に示すように、上側周縁側面14aを越えないで接合していることが好ましい。
【0048】
このような保持部材20は、機能性基材10の翼長方向に沿う周縁側面14に接合している状態しか図示していないが、勿論、機能性基材10の翼長方向先のブレード根元側及び先端側でも同様に周縁側面に接合している(不図示)。
【0049】
このような保持部材20は、必要に応じて保護層30で被覆されていてもよい。機能性基材10も必要に応じて保護層30で被覆されていてもよいが、第一電極11aを厚くコーティングし過ぎると、放電プラズマ気流を生じ難くなるので、第一電極11aをコーティングしないようにするか、放電プラズマ気流を生じ得る程度に薄くコーティングすることが好ましい。
【0050】
なお、保護層30は、被接合対象物50の非対向面側にて機能性基材10の一部又は全部を被覆していてもよく、この場合、好ましくは少なくとも機能性基材10の周縁側面14で被接合対象物50の非対向面側にて機能性基材10を覆いつつ、第一電極11aからの放電プラズマ気流発生し易くするため第一電極11aを覆わないように、被覆するようにする。
【0051】
保護層30は、主に保持部材20、必要に応じて機能性基材10を保護するものであれば、特に限定されないが、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましく用いられる。
【0052】
下側誘電体基材12bが被接合対象物50の非対向面側にて内側で窪み、そこに接合補助部材40が嵌って、下側誘電体基材12bと被接合対象物50とを接合するものである。下側誘電体基材12bがその窪みを有さず、接合補助部材40が下側誘電体基材12bと被接合対象物50とを接合していてもよい。
【0053】
接合補助部材40は、層状接着材、層状両面接着テープ、層状両面粘着テープ、接着剤層、及び/又は分子接着層が挙げられる。
【0054】
図1を参照して、被接合対象物50の湾曲面51上に機能性基材10がブレードの前縁に設けられた例を示したが、被接合対象物50の平滑面上例えばブレードの翼上面又は翼下面若しくは翼先近傍面に機能性基材10が設けられていてもよい(不図示)。平滑面は、湾曲面の他、平坦面であってもよい。
【0055】
図1のように、保持部材20が機能性基材10の側方から層状に末広がりに延長しており、必要に応じて保護層30で被覆されている例を示したが、
図2(a)に示すように、保持部材20で、機能性基材10の全体を覆うようにしてもよい。
【0056】
図2(a)の場合、保持部材20は、機能性基材10を確りと把持するコーキング特性と、機能性基材10を保護する保護コーティング特性との両方の役割も兼ねるので、上側誘電体基材12a及び下側誘電体基材12b、並びに被接合対象物50との接着性に優れ剥がれないようにし、かつ砂・雨水・雹・霰・霙などで破けたり削れたりし難いように適度な弾性を有していることが好ましい。
【0057】
この場合、保持部材20の材質は、特に限定されないが、接着性・弾性に優れたものであることが好ましく、フッ素樹脂、フッ素ゴム、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン-メチレンゴム、イソブチレン-イソプレン共重合ゴム、イソプレンゴム、及び天然ゴムが挙げられ、中でも優れたエロージョン耐性と接着性とを発現するシリコーンゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好ましく、それらの中でも、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂、具体的には変性シリコーン、より具体的には主鎖に有機ポリマー鎖を有し末端にシリコーンユニットを有するシリコーンゴムがより一層好ましい。
【0058】
保持部材20を形成する組成物に分子接着剤のような接着性を向上させる成分を含有させて、その組成物を塗工して保持部材20を形成するものであってもよい。また、分子接着剤が被接合対象物50の湾曲面51や機能性基材10の表面官能性基例えば水酸基と反応して表面処理された上に、保持部材20を形成する組成物を塗工して、保持部材20を形成するものであってもよい。
【0059】
この官能性基が、コロナ処理、紫外線処理、エキシマ処理、イトロ処理から選ばれる少なくとも何れかによってその表面に生じているものであってもよい。
【0060】
分子接着剤が、例えば、シランカップリング剤、シラノール化合物、アルミネート化合物、チタネート化合物、トリアジン環含有化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、及びアミン化合物が挙げられる。中でもシランカップリング剤が好ましい。具体的にはビニルアルコキシシリル基を有するビニルアルコキシシランユニットが2~6ユニットのシランカップリング剤で例示されるビニル基及びアルコキシ基含有シラン化合物;ビニル基及びアセトキシ含有シラン化合物;スチリル基及びアルコキシ基含有シラン化合物;(メタ)アクリル基及びアルコキシ基含有シラン化合物;アリル基及びアルコキシ含有シラン化合物、アルキニル基及びアルコキシ基含有シラン化合物であると一層好ましい。
【0061】
同図(b)に示すように、保持部材20ごと保護層30で覆われていてもよい。保護層30は前記のモノが挙げられる。
【0062】
このような保持部材20は、直接、液状の原料組成物を塗布・噴霧・浸漬など適切な塗工方法により、形成することができる。
【0063】
風力発電のブレードの先端近傍の平坦面に付された落雷用ダイバータストリップとして機能する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体1について、模式断面図を
図3に示す。
【0064】
図1に示す接合体1は、機能性基材10が、一対の第一電極11a・第二電極11bと、二体の上側誘電体基材12a・下側誘電体基材12bとを有していたのに代えて、
図3に示す接合体1は、機能性基材10が、一定の間隔で配置されたダイバータストリップの複数の金属チップ11cと、一体の誘電体基材12cとを有しているというものである。誘電体基材12cは、周縁側面14の下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとが、周縁最先端部15から長さLだけ内側に上下対称に傾斜している。それによって、機能性基材10の下側周縁側面14bと被接合対象物50との間に、周縁隙間部位21が形成されている。保持部材20が、周縁隙間部位21ごと埋めつつ、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとの周縁側面14から湾曲平滑面52に沿って層状に末広がりに段差なく延長していることによって、機能性基材10が確りと接合されている。保護層30は、保持部材20上を厚く、機能性基材10上を薄く、被覆しつつ、平滑面52に沿って層状に末広がりに段差なく延長している。
【0065】
また、落雷用ダイバータストリップとして機能する別な態様の被接合対象物と機能性基材との接合体1について、模式断面図を
図4~
図7に示す。
図3の接合体1との相違点を中心に説明する。
【0066】
接合体1は、
図4に示すように、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとを有する誘電体基材12cを備えた機能性基材10は、被接合対象物50の平滑面52側でその接合部位に、接合補助部材40が付されており、これにより、機能性基材10から突き出た接合補助部材40と下側周縁側面14bと被接合対象物50との間に、周縁隙間部位21が形成される。
【0067】
別な接合体1は、
図5に示すように、誘電体基材12cが、誘電体基材12cは、周縁側面14の下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとが、周縁最先端部15から長さLだけ内側に上下対称に傾斜しつつ、被接合対象物50の平滑面52側で、周縁最先端部15から長さLだけ内側に短くなったスペーサー部材13を有している。スペーサー部材13と機能性基材10の誘電体基材12cとは、分子接着又は接着剤又は粘着剤で貼付されている。誘電体基材12cと被接合対象物50とは、スペーサー部材13で窪んだ凹みに嵌った接合補助部材40で貼付されていてもよく、図示されていない接着剤又は粘着剤で貼付されていてもよい。これにより、機能性基材10から突き出たスペーサー部材13と下側周縁側面14bと被接合対象物50との間に、周縁隙間部位21が形成される。
【0068】
別な接合体1は、
図5のようなスペーサー部材13で窪んだ凹みを有さず、
図6に示すように、誘電体基材12cと被接合対象物50とは、スペーサー部材13と同長さ又はやや短長の接合補助部材40で貼付されていてもよい。これにより、機能性基材10から突き出たスペーサー部材13と接合補助部材40と下側周縁側面14bと被接合対象物50との間に、周縁隙間部位21が形成される。
【0069】
図1~5に示す接合体1は、下側誘電体基材12bの下側周縁側面14bが周縁最先端部15から長さLだけ内側で、被接合対象物50の対向面側ほど狭まるように傾斜していたのに代えて、接合体1は、
図7に示すように、誘電体基材12cが、被接合対象物50の非対向面側で、周縁最先端部15から長さLだけ内側に短くなり周縁最先端部15に向け末広がりに傾斜した上側周縁側面14dを有しつつ、被接合対象物50の平滑面52側で、周縁最先端部15から長さLだけ内側に短くなったスペーサー部位13aを有しており、それによって、周縁隙間部位21が形成されていてもよい。
図1~5に示す接合体1のように下側周縁側面14bが単に傾斜して略三角柱状の周縁隙間部位21を形成するよりも、
図7に示す接合体1のように略四角柱状の周縁隙間部位21を形成した方が、周縁隙間部位21の形状が複雑となり、被接合対象物50・機能性基材10との接触面積が大きくなり、機能性基材10を確りと固定できる。スペーサー部位13aと被接合対象物50とは、接着剤又は粘着剤で貼付されていてもよく、接合補助部材40で貼付されていてもよい。
【0070】
接合体1は、
図8に示すように、誘電体基材12cが、被接合対象物50の非対向面側のみで、周縁最先端部15から長さLだけ内側に短くなった上側周縁側面14dを有しており、被接合対象物50の平滑面52側でその接合部位に、スペーサー部材を兼ねる接合補助部材40が付され、それによって、周縁隙間部位21が形成されていてもよい。
【0071】
さらに、ボルテックスジェネレーター又はタービュレーターとして機能する別な態様として、自動車などの乗物である被接合対象物50と乱流形成突起16が取り付けられた機能性基材10との接合体1について、模式断面図を
図9に示す。
【0072】
接合体1は、
図9に示すように、硬質樹脂製の乱流形成突起16と共に一体成型された硬質樹脂製の機能性基材10が、被接合対象物50に付されている。機能性基材10は、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとが、周縁最先端部15から長さLだけ内側に上下対称に傾斜している。下側周縁側面14bが傾斜していることによって、周縁隙間部位21が形成されている。機能性基材10は、被接合対象物50との対向面(平滑面52)側で、機能性基材10の窪みに又は窪んでいない表面に付された接合補助部材40によって、被接合対象物50に貼付されている。保持部材20が、周縁隙間部位21ごと埋めつつ、下側周縁側面14bと上側周縁側面14aとの周縁側面14から湾曲平滑面52に沿って層状に末広がりに段差なく延長していることによって、機能性基材10が確りと接合されている。保護層30は、保持部材20及び機能性基材10上を必要に応じて、平滑面52に沿って層状に末広がりに段差なく延長している。
【0073】
接合体1は、機能性基材10と、保持部材20と、必要に応じて保護層30や接合補助部材40とで形成される曲率と、被接合対象物50との曲率とが、近いほど好ましい。
【0074】
例えば被接合対象物50として風力発電のブレードの模式断面図である
図10(a)に示すように、ブレード前縁の湾曲面に、機能性基材10・保持部材20・保護層30・接合補助部材40が最大の総厚みT
aで設けられた例で説明すると、曲率半径R
50aを有する被接合対象物50の前縁の円弧と、曲率半径R
1aを有する接合体1外装(即ち機能性基材10・保持部材20・保護層30・接合補助部材40の外装)の前縁の円弧とは、円弧両端が共通して段差とならないようになっている。
【0075】
また、
図10(b)に示すように、ブレードの後縁で多少湾曲した略平坦面である平滑面に、最大の総厚みT
bで設けられた例で説明すると、曲率半径R
50bを有する被接合対象物50の前縁の円弧と、曲率半径R
1bを有する接合体1外装(即ち機能性基材10・保持部材20・保護層30・接合補助部材40の外装)の前縁の円弧とは、円弧両端が共通して段差とならないようになっている。
【0076】
機能性基材10・保持部材20・保護層30・接合補助部材40の総厚みTa・Tbは、接合体1外装の曲率に影響するため、極力小さいことが好ましく、さらに総厚みTa・Tbは3.5mm以下であるとより好ましい。また、保持部材20は、機能性基材10から接合補助部材40の総厚みTa・Tbの5倍以上の範囲で滑らかに形成されているのが好ましい。このように保持部材20により、被接合対象物50の外装、例えば風力発電のブレードの翼面の曲率延長となっていることが好ましい。
【0077】
接合体1は、
図11に示すように、被接合対象物50として風力発電装置70のブレード71に取り付けられる気流発生装置として用いられるものであってもよい。例えば、地上に設置されたタワー74の上端にナセル73が設けられ、ナセル73から突き出て回転可能なハブ72に3本のブレード71が設けられている。ナセル73またはハブ72には、電源回路と電源制御回路とを内蔵した電源ユニット11(
図1参照)が収納され、さらにブレード71の角度調整器とハブ72の軸に増速器・ブレーキ装置・動力伝達軸が接続された発電機と(不図示)が収納されている。気流発生装置の作用を発現する機能性基材10は、ほぼブレード71と同じ長さであり、ブレード71前縁近傍に取り付けられている。
【0078】
接合体1は、
図12に示すように、風力発電のブレード71に取り付けられるダイバータストリップ80であってもよい。ダイバータストリップ80は、レセプタ81に繋がっている。ダイバータストリップ80及びレセプタ81はアース電線(不図示)に接続されている。
【0079】
図示しないが、ボルテックスジェネレーターやタービュレーターとして用いられるものであってもよい。このような接合体は、電製品や減圧・加圧エアーポンプ又は減圧コンプレッサのような小型製品のフィンやファンから、風力発電のブレードの他、車両・電車・エレベータ・ロケット・建造物のような大型製品に、気流発生装置、ダイバータストリップ、ボルテックスジェネレーター、タービュレーターとしても用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を適用する実施例、及び本発明を適用外の比較例について、説明する。
【0081】
本発明を適用する端部の構造が異なる接合体を作製し、その耐久性能を比較した。作製した端部構造の一覧を表1に記載した。
【0082】
【0083】
(機能性部材の作製)
シリコーンゴム:TSE221-5U(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を用い、120mm×40mm×2mmのシリコーンゴムシートを作製した。得られたシリコーンゴムシートの長手方向の端部を、45度カッターを用いて所定の形状に加工し、機能性部材を得た。
【0084】
(保持部材の作製)
得られた機能性部材をPETシートの上に置き、加工した端部に保持部材としてシリコーンシーラント:TB5222L(株式会社スリーボンド社製)を塗布した。塗布は、加工した端部の側面側に材料を適量取り出し、金属製スクレーパーを用いて機能性部材の加工面が十分に埋まり、且つ機能性部材の厚みとほぼ同等の厚みになるように塗布した。塗布後、室温にて24時間静置して硬化させ、接合体を得た。
【0085】
(保護層の作製)
まず、得られた接合体表面の機能性部材の中心部に120mm×30mmのマスキングテープを張り、マスキングを行った。その後接合体表面のマスキングをしかった箇所にコロナ放電処理機:コロナマスターPS-1M(信光電気計装株式会社社製)にて、速度70mm/s、出力14kVにてコロナ放電処理を行った。表面処理後、表面処理をした面にアミノシランカップリング剤:KBM-603(信越化学工業株式会社社製)を0.1%にエタノールで希釈した希釈溶液を塗布し、室温で乾燥させた。乾燥後、保護層としてローレックス 上塗(中国塗料株式会社製;商品名)をハケで塗布した。塗布後、室温にて24時間静置して硬化させ、保護層付き接合体を得た。
【0086】
(エロージョン耐久性能試験)
得られた各種保護層付き接合体について、ブラスト装置を用いてエロージョン耐久性能を加速試験にて実施した。試験方法は、試験条件の模式図を
図13に示す通り、得られた保護層30付きの接合体1を疑似風車翼に固定し、機能性部材10と保持部材20の境界に向けて、ブラスト処理機のノズル90から樹脂メディア91でブラスト照射を行い、機能性部材と保持部材が剥離するまでの時間にて評価を行った。また、
図14(a)に試験前の写真、同図(b)に試験後の写真を示す。疑似風車翼としてΦ84.2mmのアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合合成樹脂製の円柱を用い、固定は接合補助部材40として層状両面接着テープ:No.5302A(日東電工社製)にて固定した。使用したブラスト装置は、ブラスト洗浄機:ニューマ・ブラスターFD-4ST(B)S-501-H668(不二製作所社製)を用い、樹脂メディア:PLAMEDIA(ユー・エス・テクノロジー,ファーイースト社製)粒径200~700μmタイプ、空気量893L/minにて行った。結果を表2に記載した。
【0087】
【0088】
表2から明らかな通り、比較例1と比べ、実施例1及び実施例2は機能性部材と保持部材の強度が高くなっていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の被接合対象物と機能性基材との接合体は、家電製品や減圧・加圧エアーポンプ又は減圧コンプレッサのような小型製品のフィンやファンから、風力発電のブレードや車両・電車・エレベータ・ロケット・建造物のような大型製品に用いて、風の流れをスムーズににしたり、ブレードやファンやフィンへの風を効率的に誘導したり、空気との摩擦音を低減して騒音を少なくしたり、落雷をアースしたりするのに、用いられる。
【符号の説明】
【0090】
1は接合体、10は機能性基材、11aは第一電極、11bは第二電極、11cはダイバータストリップの複数の金属チップ、12a・12b・12cは誘電体基材、13はスペーサー部材、13aはスペーサー部位、14は周縁側面、14aは上側周縁側面、14b・14cは下側周縁側面、14dは上側周縁側面、15は周縁最先端部、16は乱流形成突起、20は保持部材、21は周縁隙間部位、30は保護層、40は接合補助部材、50は被接合対象物、51は湾曲面、52は平滑面、60は電源ユニット、61a・61bは接続電線、70は風力発電装置、71はブレード、72はハブ、73はナセル、74はタワー、80はダイバータストリップ、81はレセプタ、90はブラスト処理機のノズル、Tは厚み、Ta・Tbは総厚み、Lは長さ、R1a・R1b接合体の曲率、R50a・R50Bは被接合対象物の曲率である。