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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】RFIDタグ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/38 20060101AFI20241017BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20241017BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20241017BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
H01Q1/38
G06K19/077 248
G06K19/077 280
H01Q9/16
H01Q1/24 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022074174
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023163335
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】720008759
【氏名又は名称】渡辺 明
(73)【特許権者】
【識別番号】523106643
【氏名又は名称】ラハマン アシク
(72)【発明者】
【氏名】河村 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 明
(72)【発明者】
【氏名】ラハマン アシク
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-501513(JP,A)
【文献】特開2011-120303(JP,A)
【文献】特開2006-254081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/38
G06K 19/077
H01Q 9/16
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられ、インピーダンス整合のために形成された開口を有するアンテナパターンと、
前記開口の近傍で前記アンテナパターンに電気的に接続されたICチップと、を備え、
前記アンテナパターンは、
前記開口を形成する環状パターンと、
前記環状パターンから第1端部まで第1方向に延伸する第1パターンと、
前記環状パターンから第2端部まで前記第1方向とは反対向きの第2方向に延伸する第2パターンと、を含み、
前記ICチップから前記第1端部まで前記第1方向の第1長さは、前記ICチップから前記第2端部まで前記第2方向の第2長さよりも短く、
前記第1方向に平面視で直角な方向を第3方向とするとき、
前記第1パターンは、前記第3方向の幅である第1導体幅を有し、
前記第2パターンは、前記第3方向の幅である第2導体幅を有し、
前記環状パターンは、前記第3方向の幅である第3導体幅を有し、
前記第1導体幅と前記第3導体幅は等しく、
前記第2導体幅は、前記第3導体幅よりも狭く、
前記ICチップが、温度センサー機能を備え、
比誘電率が12 以上88 以下の誘電体に接触した状態で装着し、
温度センサー機能を備える前記ICチップにより温度計測を行い、計測したデータを前記アンテナパターンを介してRFIDリーダに対して送信することで、無線通信により温度計測を行う、
UHF帯RFIDタグ。
【請求項2】
前記第2端部から前記第1端部までの前記第1方向のアンテナ長は、3cm以上5cm以下であり、
前記第2導体幅が、0.3cm以下である、
空気中での通信距離CL(空気)よりも、肌に直接接触した状態での通信距離CL(肌)が長いことを特徴とする、
請求項1に記載のUHF帯RFIDタグ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のUHF帯RFIDタグを用いた、
無線通信による、比誘電率が12 以上88 以下の誘電体の、温度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、電磁界や電波を用いて非接触でデータの読み書きを行い、それらのデータによって認証を行うRFID(Radio Frequency Identification)技術が知られている。RFID技術は、在庫管理、入出荷管理、商品管理、物流等における業務の効率化・省力化を目的として、近年広く用いられている。
【0003】
RFID技術における通信周波数帯としては、HF帯域(3~30MHz)やUHF帯(920MHz)が用いられている。しかし、RFIDタグとリーダ・ライタとの間での通信距離を比較すると、HF帯域(3~30MHz)では数十cmの通信距離であるのに対して、UHF帯(920MHz)では数mの通信距離が可能となる。
【0004】
その反面、HF帯域RFIDタグは、UHF帯RFIDタグに比べて、高誘電体や金属と接触した場合の通信距離の低下が少ないという特徴を有している。これは、HF帯域RFIDタグの通信機構が、主に電磁誘導方式(磁界結合方式)のためである。これに対して、UHF帯RFIDタグの通信機構は、主に電波方式であるが、金属や多量に水を含む対象物上に直接貼付した場合に、通信距離の大幅な低下が起こってしまうことから、その解決を目指した技術開発が行われてきた。
【0005】
UHF帯においても、水分を多量に含む対象物上に直接貼付して使用する、Near Field型RFIDタグがある。しかしながら、このRFIDタグの通信機構は、UHF帯RFIDリーダーが発する電磁波の電界成分と磁界成分のうち、近傍界(Near Field)で強くなる磁界成分による電磁誘導方式(磁界結合方式)である。電磁誘導方式(磁界結合方式)のUHF帯RFIDタグは、通信距離は数cm~数十cmと短く、電波方式のUHF帯RFIDタグに比べて、通信距離の面での制限がある。
【0006】
一方、UHF帯RFIDタグにおいては、最近では、認証機能だけにとどまらず、貼付した対象物の温度データを非接触で取得できるセンサー機能を有したRFID用ICとこれを用いたタグが開発されている。
【0007】
このようなセンサー機能を有したUHF帯RFIDタグは、人体の状態を検知するためのバイタルセンシングや、情報通信技術(ICT)を駆使してのスマート農業やスマート漁業分野での応用が期待される。しかしながら、水や人体のような高誘電体に接触した場合の、通信距離の低下や通信障害が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-241778号公報
【文献】特開2013-114513号公報
【文献】特許第6079520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来においては、人体のような水分を多量に含む高誘電体に、UHF帯のRFIDタグが近接する場合、水による電磁波の反射や吸収の低減を考え、RFIDタグと高誘電体との間に空隙やスペーサー層を設けることで、通信距離の低下を防ぐことが考えられてきた。
【0010】
この場合、UHF帯RFIDタグと対象物は、空隙やスペーサー層で分離された状態となり、温度センサー等のセンサー機能を有したRFIDタグによって、対象物の状態を正確にセンシングすることが難しくなる。
【0011】
例えば、センサー機能を有したUHF帯RFIDタグによるセンシングを行う上では、貼付する対象物にRFID用ICが、より近接した状態であることが好ましい。
【0012】
また、センサー機能を有したUHF帯RFIDタグを、バイタルセンシング、スマート農業、及びスマート漁業分野で用いるためには、数m以上の通信距離が必要である。そのため、通信可能距離が数cm~数十cmであるような、従来のUHF帯Near Field型RFIDタグを用いることは難しい。
【0013】
本開示は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、人体や水のような高誘電体に接触した状態での通信距離の低下を抑制可能なRFIDタグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一態様では、
絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられ、開口を有するアンテナパターンと、
前記開口の近傍で前記アンテナパターンに電気的に接続されたICチップと、を備え、
前記アンテナパターンは、
前記開口を形成する環状パターンと、
前記環状パターンから第1端部まで第1方向に延伸する第1パターンと、
前記環状パターンから第2端部まで前記第1方向とは反対向きの第2方向に延伸する第2パターンと、を含み、
前記ICチップから前記第1端部まで前記第1方向の第1長さは、前記ICチップから前記第2端部まで前記第2方向の第2長さよりも短い、RFIDタグが提供される。
【0015】
例えば、比誘電率が12以上88以下の誘電体が前記絶縁層に接触した状態での通信距離は、空気中での通信距離に比べて長くなる。
【0016】
前記第1方向に平面視で直角な方向を第3方向とするとき、
前記第1パターンは、前記第3方向の幅である第1導体幅を有し、
前記第2パターンは、前記第3方向の幅である第2導体幅を有し、
前記環状パターンは、前記第3方向の幅である第3導体幅を有し、
前記第3導体幅は、前記第1導体幅と略等しくてもよい。
【0017】
前記第2導体幅は、前記第3導体幅と略等しくてもよい。
【0018】
あるいは、本開示の一態様では、
前記第2導体幅は、前記第3導体幅よりも狭くてもよい。
【0019】
あるいは、本開示の一態様では、
前記第2パターンは、前記第2端部で開放するスリットを有してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一態様によれば、人体や水のような高誘電体に接触した状態での通信距離の低下を抑制可能なRFIDタグを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】種々の物質及び人体を構成する各種の組織について、920MHz帯での比誘電率と誘電正接tanδを示す表である。
図2】ダイポールアンテナ形状を有するUHF帯RFIDタグが高誘電体に接触した状態での、電荷の分布及び電界の状態を模式的に示す図である。
図3A】比較の形態1(対称アンテナ形状A)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。
図3B】実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。
図3C】実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。
図3D】実施の形態3(非対称アンテナ形状D)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。
図4A】比較の形態1(対称アンテナ形状A1)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4B】実施の形態1(非対称アンテナ形状B1)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4C】実施の形態2(非対称アンテナ形状C1)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4D】実施の形態2(非対称アンテナ形状C2)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4E】実施の形態2(非対称アンテナ形状C3)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4F】実施の形態2(非対称アンテナ形状C4)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4G】実施の形態2(非対称アンテナ形状C5)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図4H】実施の形態2(非対称アンテナ形状C6)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図5】実施の形態3(非対称アンテナ形状D1)に係るUHF帯RFIDタグの電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。
図6A】UHF帯RFIDタグの特性を表すパラメータであるフリースペース(空気中)での通信距離CLaの測定に関する概念図である。
図6B】UHF帯RFIDタグが高誘電体の人体に接触している状態での通信距離CLdの測定に関する概念図である。
図7】比較の形態1(対称アンテナ形状A)と実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、アンテナ長LTと、長さL1,L2と、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)と、水に直接接触した状態での通信距離CL(水)との関係を示す表である。
図8】実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグに搭載されたICチップにより検出された温度の測定結果を示すグラフである。
図9】実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、長さL2の変化によりアンテナ長LTを変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との変化を示すグラフである。
図10】比較の形態1(対称アンテナ形状A)と実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、アンテナ長LTと、長さL1,L2と、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)と、肌に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との関係を示す表である。
図11】実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、幅W2及び長さL3を変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)の変化を示す表である。
図12】実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、第2放射導体の長さL3と肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との関係を示すグラフである。
図13】実施の形態3(非対称アンテナ形状D)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、幅S1及び長さL1,L2,L4を変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)の変化を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。理解の容易のため、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、ならびに、同一および等しいなどの用語には、実施形態の作用及び効果を損なわない程度のずれが許容される。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。
【0023】
図1は、種々の物質及び人体を構成する各種の組織について、920MHz帯での比誘電率と誘電正接tanδを示す表である。水は、80以上88以下の非常に高い比誘電率を有する。70%前後の体内水分を含む人体では、肌は、40以上の高い比誘電率を有し、爪は、12以上の比誘電率を有する。
【0024】
また、図1に示すように、水及び人体は、一般的な樹脂と比較して、0.1以上0.5以下の非常に大きな誘電正接(tanδ)を有する。誘電正接(tanδ)が大きい誘電体では、交流電圧が印加されたとき、エネルギーの一部が熱になって散逸する誘電損失が起こることが知られている。
【0025】
図2は、ダイポールアンテナ形状を有するUHF帯RFIDタグが高誘電体に接触した状態での、電荷の分布及び電界の状態を模式的に示す図である。図2Aは、UHF帯RFIDタグの平面図を示す。図2Bは、高誘電体に接触したUHF帯RFIDタグの断面図であり、ある瞬間において、電荷の分布及び電界の状態を示すものである。図2Cは、高誘電体に接触したUHF帯RFIDタグの断面図であり、図2Bとは異なる瞬間において、電荷の分布及び電界の状態を示すものである。
【0026】
図2(2A,2B,2C)において、ダイポールアンテナを構成する導体パターンであるアンテナパターン30が電波を受けると、アンテナパターン30の長手方向に交流電場が生じ、これによって時間的に変動する電荷分布が生じる。アンテナパターン30と絶縁体81を介して接触する高誘電体80においても、アンテナパターン30上の電荷分布の変化に誘起されて、電荷あるいは双極子の分布変化が生じると考えられる。これによって、アンテナパターン30と高誘電体80との間にも電界が生じ、その方向は、アンテナパターン30上の電子の移動方向と直交する。その影響が大きい場合には、アンテナパターン30上の電子の移動を阻害すると考えられる。
【0027】
このような、高誘電体80に生じる電荷あるいは双極子によるアンテナパターン30上の電子の移動の阻害が、高誘電体80によるUHF帯RFIDタグ101の通信距離の低下を引き起こす因子の一つになっていることが考えられる。このような因子の影響を低減するためには、アンテナパターン30と高誘電体80との間に存在する絶縁体81を厚くすればよく、そのような構造として発泡体層等の適用が考えられる。しかし、絶縁体81が厚くなるほど、RFIDタグ101と、センシング対象である高誘電体80とが隔離され、センシングの感度の低下が起こることになる。
【0028】
本実施の形態に係るUHF帯RFIDタグは、人体や水のような比誘電率が12以上88以下の高誘電体に接触した状態での通信距離の低下を抑制するため、図3B,3C,3Dに示すようなダイポールアンテナ型の非対称形状を有する。本実施の形態に係るUHF帯RFIDタグは、略四辺形の開口40を形成するインピーダンス整合部32及び給電部31に設けられたICチップ20に対して非対称なアンテナ形状を有することで、高誘電体との接触による通信距離の低下の抑制を実現する。これにより、医療分野、バイタルセンシング分野、スマート農業分野、又はスマート漁業分野等において、UHF帯RFID技術が適用可能な応用分野をさらに広げることができる。
【0029】
図2及び図3Aに示すRFIDタグ101は、インピーダンス整合部32及びICチップ20がアンテナパターン30の中央部に配置される対称構造を有する。上述の通り、RFIDタグ101においては、高誘電体との接触によってアンテナパターン30と高誘電体との間に電界が生じ、その電界によってアンテナパターン30上の電子の移動が阻害される。
【0030】
これに対し、図3B,3C,3Dに示すRFIDタグは、インピーダンス整合部32及びICチップ20が、アンテナパターン30の中央部ではなく、アンテナパターン30の電荷密度の変化が中央部に比べて顕著な先端に近い部分に配置される非対称構造を有する。アンテナパターン30の電荷密度の変化が中央部に比べて顕著な先端とは、図3B,3C,3Dに示す例では、第1端部35に相当する。このような非対称構造が採用されることで、高誘電体に生じる電荷あるいは双極子の影響が相対的に低減し、ICチップ20への電子の供給が促進すると考えられる。その結果、高誘電体との接触による通信距離の低下を抑制できると考えられる。
【0031】
アンテナパターン30の長手方向の両サイドの形状は、図3Bのようにアンテナパターン30の長手方向だけでなく、図3C,3Dのようにアンテナパターン30の幅方向で相違しても、高誘電体との接触による通信距離の低下を抑制する点で効果的である。このような非対称形状が採用されることで、高誘電体との接触による通信距離の低下を抑制可能なUHF帯RFIDタグが実現される。
【0032】
図4A~4H及び図5は、種々の形状のRFIDタグに対する電磁界シミュレーションにより得られた電流分布および電流ベクトルを示す図である。各図において、電流分布密度の高いところほど、より明るく白く表示されている。また、アンテナ形状C3~C6,D1の拡大図において、白い三角形の頂角方向が電流ベクトルの方向を示す。このような電流分布及び電流ベクトルは、アンテナが受ける電波によって生じる交流電場の時間変化に依存している。図4A~4H及び図5は、ある時点での、交流電場によって変動している電流分布及び電流ベクトルの状態を示したものである。
【0033】
長さL1と長さL2が相違する非対称のアンテナ形状B1(図3Bのアンテナ形状Bの一例)は、長さL1と長さL2が等しい対称のアンテナ形状A1(図3Aのアンテナ形状Aの一例)に比べて、電流がインピーダンス整合部32及びICチップ20に集中する。
【0034】
長さL1と長さL2が相違するだけでなく幅W1と幅W2とが相違する非対称のアンテナ形状C1~C6(図3Cのアンテナ形状Cの複数の例)では、幅W2の導体パターンと幅W1の導体パターンとの接合部分で電流密度が高くなっている。このような接合部分が、インピーダンス整合部32及びICチップ20に近接する形状であるほど(例えば、アンテナ形状C5)、当該接合部分に集中する電流が、効果的にインピーダンス整合部32及びICチップ20に誘導される(図4C~4H参照)。
【0035】
インピーダンス整合部32及びICチップ20への効果的な電流の誘導は、図5に示すように、スリット構造を有する非対称のアンテナ形状D1(図3Dのアンテナ形状Dの一例)においても起こり得る。
【0036】
次に、上記の種々のアンテナ形状を有するUHF帯RFIDタグの各要素を詳述する。
【0037】
(実施の形態1)
図3Bは、実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。図3Bを参照して、実施の形態1に係るRFIDタグ102について説明する。実施の形態1に係るRFIDタグ102は、絶縁基材10、アンテナパターン30及びICチップ20を備える。
【0038】
絶縁基材10は、絶縁層の一例である。絶縁基材10は、第1表面11と第2表面12とを有する板状又はフィルム状の部材である。第1表面11は、Z軸方向の正側に面する。第2表面12は、第1表面11とはZ軸方向において反対側の表面であり、Z軸方向の負側に面する。この例では、絶縁基材10は、平面視において、X軸方向を長手方向とする矩形状の外形を有する。しかし、絶縁基材10の外形は、矩形以外の形状でもよく、例えば、X軸方向に平行な長軸を有する楕円、X軸方向に平行な辺とY軸方向に平行な辺が等しい正方形などでもよい。
【0039】
絶縁基材10の材質は、特に限定はされないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン(PU)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素化樹脂共重合体、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ樹脂、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリアセタール等の樹脂基材や、紙基材等、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材等の複合基材等が挙げられる。可撓性の観点からは、樹脂基材や紙基材等が好ましい。絶縁基材10の厚さは、基板の柔軟性、強度の観点から、8~1000μmが好ましく、8~150μmがより好ましい。
【0040】
アンテナパターン30は、第1表面11の側に設けられた平面状の導体であり、開口40を有する。アンテナパターン30は、絶縁基材10の第1表面11に所定の公知の方法で平面状に形成された導電層でよい。
【0041】
アンテナパターン30の材質は、特に限定はされないが、導電性を有する導体から形成される。例えば、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、クロム、亜鉛、鉛、タングステン、鉄等の金属であってもよい。アンテナパターン30の材質は、酸化スズもしくはITO(酸化インジウムスズ)等の金属酸化物、金、銀もしくは銅等の金属ナノワイヤーを用いた導電膜、樹脂に上記金属粉や導電性カーボン材料を混合した導電性樹脂混合物、または導電性樹脂のフィルム等であってもよい。アンテナ層(アンテナパターン30)の厚さは、柔軟性、強度の観点から、0.05~1000μmが好ましく、1~100μmがより好ましい。
【0042】
ICチップ20は、開口40の近傍でアンテナパターン30に電気的に接続された半導体部品である。ICチップ20は、RFIDタグ102外部に存在するリーダー等の通信機器との間で、所定の情報をアンテナパターン30によって送受する。ICチップ20は、RFIDタグ102が接触する高誘電体の状態を検知するセンサーを有してもよい。ICチップ20は、アンテナパターン30を介して、センサーにより検知された状態を表す情報を送信する。センサーにより検知される物理量は、特に限定されず、例えば、温度、電流、電圧、抵抗値、圧力、気流などでもよい。RFIDタグ102が接触する高誘電体が人体の場合、センサーは、人体の生体情報(例えば、体温、脈拍、血圧など)を検知するものでもよい。
【0043】
ICチップ20は、アンテナパターン30と同層に配置されてもよいし、アンテナパターン30とは異なる層に配置されてもよい。ICチップ20は、アンテナパターン30に引き出し線を介して電気的に接続されてもよいし、アンテナパターン30に設けられた電極に実装されてもよい。ICチップ20は、アンテナパターン30に形成されたスリット又は切り欠きを跨ぐように配置されてもよい。
【0044】
アンテナパターン30は、給電部31、インピーダンス整合部32、第1放射導体33及び第2放射導体34を含み、ダイポールアンテナを形成するパターンである。
【0045】
給電部31は、ICチップ20が電気的に接続された箇所である。ICチップ20は、給電部31を介してアンテナパターン30に給電する。給電部31は、例えば、アンテナパターン30に形成された導体部(例えば、引き出し線、電極、スリット又は切り欠きなど)である。
【0046】
インピーダンス整合部32は、開口を形成する環状パターンの一例である。インピーダンス整合部32は、給電部31が近傍に設けられた辺41を有する略四辺形の開口40を形成する環状導体である。開口40は、X軸方向に平行な一対の辺41と、Y軸方向に平行な一対の辺42とを有する。インピーダンス整合部32は、給電部31を含む領域において、開口40を囲うループ回路を形成する。インピーダンス整合部32は、このループ回路の作用によって、ICチップ20とアンテナパターン30との間で(具体的には、ICチップ20と第1放射導体33及び第2放射導体34との間で)、インピーダンスを整合する。
【0047】
開口40の形状は、図示の形態では、X軸方向に平行な一対の長辺(一対の辺41)と、Y軸方向に平行な一対の短辺(一対の辺42)とを有する略四辺形である。しかし、開口40の形状は、図示の形態に限られず、例えば、X軸方向に平行な一対の短辺と、Y軸方向に平行な一対の長辺とを有する略四辺形でもよい。開口40の形状である略四辺形には、完全な四辺形が含まれてもよい。"略"とは、角又は辺が丸みを帯びていることを表す。四辺形には、長方形、ひし形、平行四辺形、正方形が含まれてもよい。開口40の形状は、四辺形以外の多角形、円形、楕円でもよい。
【0048】
アンテナパターン30とICチップ20との間でインピーダンス整合が取れていない場合には、信号の反射が起こってしまい、RFIDタグ102の通信距離が低下する。UHF帯RFIDタグ用のICチップ20のインピーダンスは、数十~百数十Ωの範囲であり、統一されてはいない。インピーダンス整合部32のループ状構造の大きさや形状によって、複素インピーダンスの虚部(リアクタンス)を制御することで、ICチップ20とのインピーダンス整合を取ることができる。
【0049】
第1放射導体33は、環状パターンから第1端部まで第1方向に延伸する第1パターンの一例である。第1放射導体33は、第1方向(この例では、X軸方向の正側)に向けて、インピーダンス整合部32の第1方向側から延伸する。この例では、第1放射導体33は、X軸方向を長手方向とする帯状領域である。第1放射導体33は、第1方向側の第1端部35を有する。
【0050】
第2放射導体34は、環状パターンから第2端部まで第1方向とは反対向きの第2方向に延伸する第2パターンの一例である。第2放射導体34は、第1方向とは反対向きの第2方向(この例では、X軸方向の負側)に向けて、インピーダンス整合部32の第2方向側から延伸する。この例では、第2放射導体34は、X軸方向を長手方向とする帯状領域である。第2放射導体34は、第2方向側の第2端部36を有する。
【0051】
この例では、第1放射導体33は、インピーダンス整合部32のY軸方向の幅と同一幅でインピーダンス整合部32から第1端部35まで第1方向に延伸する。一方、第2放射導体34は、インピーダンス整合部32のY軸方向の幅と同一幅でインピーダンス整合部32から第2端部36まで第2方向に延伸する。
【0052】
第1方向に平面視で直角な方向を第3方向とすると、この例では、Y軸方向の正側又は負側に向かう方向に相当する。第1放射導体33は、第3方向の幅である第1導体幅を有し、第2放射導体34は、第3方向の幅である第2導体幅を有し、インピーダンス整合部32は、第3方向の幅である第3導体幅を有する。ここでは、第1放射導体33の第3方向の幅をW1、第2放射導体34の第3方向の幅をW2、インピーダンス整合部32の第3方向の幅をW3と定義する。導体幅W1,W2,W3を、まとめて、アンテナ幅Wともいう。図3Bは、幅W1と幅W2と幅W3が等しい場合を例示する。しかし、幅W1と幅W2と幅W3は、0.5cm以上3.0cm以下を満たす限り、互いに異なる寸法でもよい。例えば、後述の非対称アンテナ形状Cでは、幅W2は、幅W1又は幅W3と相違する。
【0053】
RFIDタグ102は、アンテナパターン30及びICチップ20を覆う不図示の絶縁層を備えてもよい。アンテナパターン30及びICチップ20は、絶縁基材10と当該絶縁層との間に挟まれる。絶縁層は、アンテナパターン30及びICチップ20の保護膜(カバーフィルム)として機能する。絶縁層の材質及び厚さの例示は、絶縁基材10の材質及び厚さの上述の例示と同じでよい。
【0054】
ICチップ20から第1端部35まで第1方向の第1長さをL1、ICチップ20から第2端部36まで第2方向の第2長さをL2とする。第2端部36から第1端部35までの第1方向の長さをアンテナ長LTとする。アンテナ長LTは、長さL1と長さL2との和に等しい。アンテナ形状Bでは、L1はL2と異なるので、アンテナパターン30の形状は、非対称である。図示の例では、L1はL2よりも短いので、インピーダンス整合部32及びICチップ20は、アンテナパターン30の長手方向での中央部に対して第1端部35寄りに位置する。インピーダンス整合部32及びICチップ20がアンテナパターン30の長手方向での中央部に対して第1端部35寄りに位置するので、電流がインピーダンス整合部32及びICチップ20に集中し、高誘電体との接触による通信距離の低下を抑制できる。
【0055】
図6図6A,6B)は、UHF帯RFIDタグの通信距離の測定方法を示す概念図である。図6Aは、UHF帯RFIDタグの特性を表すパラメータであるフリースペースでの通信距離CLaの測定に関する概念図である。図6Bは、UHF帯RFIDタグが高誘電体の人体に接触している状態での通信距離CLdの測定に関する概念図である。
【0056】
測定装置70は、リーダ・ライタ71とアンテナ72を有する。図6Aでは、空気中に配置された状態でのタグ73の通信距離を測定するため、タグ73は、発泡スチロールプレート74に固定されている。図6Bでは、タグ73は、人体75の肌(肩)に取り付けられている。通信距離CL(図6Aの通信距離CLa又は図6Bの通信距離Cld)は、アンテナ72の表面とタグ73のICチップとの間の距離として計測される。
【0057】
ここで、図3Bの非対称アンテナ形状Bを有するRFIDタグ102において、比誘電率が12以上88以下の誘電体がRFIDタグ102の絶縁基材10に接触した状態でのRFIDタグ102の通信距離をDLBとする。図3Aの対称アンテナ形状Aを有するRFIDタグ101において、比誘電率が12以上88以下の誘電体がRFIDタグ101の絶縁基材10に接触した状態でのRFIDタグ101の通信距離をDLAとする。このとき、アンテナ長LTが10cm以上13cm以下であると、DLB/DLAは10以上(DLBはDLAの10倍以上)となる。つまり、非対称アンテナ形状Bを採用することで、対応アンテナ形状Aに比べて、比誘電率が12以上88以下の高誘電体に接触した状態での通信距離は増大する。DLBをDLAの10倍以上とするには、非対称アンテナ形状Bの長さL2は、例えば、6cm以上9cm以下が好ましい。
【0058】
なお、DLB/DLAの上限値は、特に限定されないが、例えば、100、80、60、又は40である。
【0059】
非対称アンテナ形状Bを有するRFIDタグ102は、第1RFIDタグの一例である。対称アンテナ形状Aを有するRFIDタグ101は、第2RFIDタグの一例である。第2RFIDタグは、開口40が第1端部35と第2端部36との間の中心に位置し且つ第1長さL1が第2長さL2と同じであることを除いて、第1RFIDタグと同一形態のRFIDタグである。言い換えれば、第2RFIDタグは、L1とL2の大小関係および開口40の位置を除いて、各部の寸法及び材質が第1RFIDタグと同一である。
【0060】
図7は、比較の形態1(対称アンテナ形状A)と実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、アンテナ長LTと、長さL1,L2と、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)と、水に直接接触した状態での通信距離CL(水)との関係を示す表である。CLA(水)は、DLAの一例であり、対称アンテナ形状Aを有するRFIDタグ101の通信距離CL(水)を表す。CLB(水)は、DLBの一例であり、非対称アンテナ形状Bを有するRFIDタグ102の通信距離CL(水)を表す。いずれのRFIDタグにおいても、第3方向の幅W1, W2, W3は0.5cmとし、開口40は略四辺形 (7.9mm×2.7mm、四隅の半径0.5mm)の孔とした。
【0061】
アンテナ長LTが10cm以上13cm以下の範囲において、フリースペースでの通信距離CL(空気)は、対称アンテナ形状A(L1=L2)及び非対称アンテナ形状B(L1≠L2)のいずれも、5m以上で違いは無く、良好な値である。
【0062】
一方、アンテナ長LTが10cm以上13cm以下の範囲において、比誘電率88の水に直接接触した状態での通信距離CL(水)は、対称アンテナ形状A及び非対称アンテナ形状Bで、大きく相違する。
【0063】
対称アンテナ形状Aでは、アンテナ長LTが10cm以上13cm以下の範囲においては、通信距離CL(水)は、10cm前後である。このような近距離(Near field)に限られる通信機構は、電波の共振によるものではなく、リーダー側のアンテナとRFIDタグのアンテナとの間での電磁誘導機構に帰属される。
【0064】
これに対して、非対称アンテナ形状Bでは、アンテナ長LTが10cm以上13cm以下の範囲においては、通信距離CL(水)は、100cm以上であり、対称アンテナ形状Aに比べて10倍以上の値である。LT=10cmにおいては、通信距離CL(水)は、ほぼ2mに達する。特に、非対称アンテナ形状Bでは、長さL2が6cm以上9cm以下であると、通信距離CL(水)は、対称アンテナ形状Aに比べて長くなる。非対称アンテナ形状BのCLB(水)は、対称アンテナ形状AのCLA(水)よりも10倍以上40倍以下に長くなる。このように、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の場合には、電波方式の通信が可能であり、高誘電体に接触した状態での通信距離の低下を抑制できる。
【0065】
図8は、実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグ(LT:10cm、L1:4cm、L2:6cm、W1,W2,W3:0.5cm)に搭載されたICチップにより検出された温度の測定結果を示すグラフである。図8は、温度センサー機能を有するICチップ20を搭載するRFIDタグ102を、熱電対とともに水中に入れた状態で、ICチップ20により測定されて空気中に配置されたリーダーにより取得された温度と、熱電対により測定された温度とを示す。リーダーにより取得された温度は、熱電対により測定された温度とほぼ同じように変化することから、水温の変化をリモートでセンシングすることが可能である。
【0066】
図9は、実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、長さL2の変化によりアンテナ長LTを変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との変化を示すグラフである。温度センサー機能を有するICチップ20を搭載するRFIDタグを人体に貼付した状態で体温センシングが可能であれば、装着負荷(装着感)の低いRFIDタグによって、被験者のID情報と体温を同時に検知できるバイタルセンシングが可能となる。
【0067】
この場合、装着負荷低減の観点からは、身体に装着するタグはできるだけ小さいことが好ましい。図9においては、アンテナ長LTが3cm以上7cm以下の範囲において、高誘電体接触状態での通信距離CL(肌)は、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)よりも長く、1m以上の通信距離が得られる。特に、長さL2は、2cm以上6cm以下であると、高誘電体接触状態での通信距離CL(肌)は、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)よりも長く、1m以上の通信距離が得られる。
【0068】
温度センサー付きのタグを人体に装着して、RFIDリーダーとアンテナとからなるスマートゲートを通過するときの通過者の識別情報と体温情報とを管理しようとした場合には、人体に装着したタグと、未装着状態で所持しているタグとを、区別することが必要となる。そのためには、未装着でフリースペース(空気中)にあるRFIDタグの通信距離CL(空気)は検知可能な範囲よりも短く、人体に装着したタグのみが通信可能で、リーダーで読み込まれることが好ましい。図9においては、アンテナ長LTが短くなるほど、未装着タグと装着タグの通信距離の比であるCL(空気)/CL(肌)のパラメータが小さくなっており、そのような要件を満たすものとなっている。
【0069】
図10は、比較の形態1(対称アンテナ形状A)と実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、アンテナ長LTと、長さL1,L2と、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)と、肌に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との関係を示す表である。
【0070】
アンテナ長LTが、身体装着時の装着負荷のより少ない範囲(3cm以上5cm以下)にあると、肌に直接接触した状態での通信距離CL(肌)は、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の方が、対称アンテナ形状A(L1=L2)に比べて長くなる。このとき、非対称アンテナ形状Bでは、長さL2が2cm以上4cm以下であると、通信距離CL(肌)は、対称アンテナ形状Aに比べて長くなる。また、非対称アンテナ形状Bでは、アンテナ長LTが3cm以上5cm以下であると、特に長さL2が2cm以上4cm以下であると、高誘電体接触状態での通信距離CL(肌)は、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)よりも長くなる。
【0071】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係るUHF帯RFIDタグについて説明する。実施の形態2の説明において、実施の形態1と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
【0072】
図3Cは、実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。図3Cを参照して、実施の形態2に係るRFIDタグの103について説明する。実施の形態2に係るRFIDタグ103は、第1放射導体33の幅W1が第2放射導体34の幅W2と異なる点で、実施の形態1(非対称アンテナ形状B)と相違する。
【0073】
アンテナ形状Cでは、L1はL2と異なり且つW1はW2と異なるので、アンテナパターン30の形状は、非対称である。図示の例では、W3は、W1と等しく、W2は、W3よりも狭い。第2放射導体34は、エレメント長L3及び幅W2を有するエレメント47を含む。エレメント長L3は、エレメント47の第2方向の長さである。W2がW3よりも狭いので、幅W2の部分と幅W3の部分との接合部分で電流密度が高くなる。当該接合部分に集中する電流が、インピーダンス整合部32及びICチップ20に誘導されるので、高誘電体との接触による通信距離の低下を抑制できる。
【0074】
例えば、幅W1は、幅W3よりも狭く又は広くてもよい。幅W2は、幅W1よりも狭く又は広くてもよく、幅W1と同じでもよい。
【0075】
図11は、実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、幅W2及び長さL3を変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)の変化を示す表である。
【0076】
人体装着時における負荷低減の観点からは、アンテナ長のより短いLT=3cmあるいはLT=4cmのアンテナのほうが、LT=5cmあるいはLT=6cmのアンテナよりも好ましい。しかし、前者では後者に比べて通信距離の低下が起こる。アンテナ長LTの短いアンテナでの通信距離の向上を目的として、非対称アンテナ形状C(LT:4cm、W1,W3:0.5cm)における幅W2の影響の検討を行い、図11に示した。なお、図11において、L3=0の場合は、非対称アンテナ形状B(LT:4cm、W1,W2,W3:0.5cm、L3:0cm)を表す。
【0077】
図11において、非対称アンテナ形状B(LT:4cm、W1,W2,W3:0.5cm、L3:0cm)を基準として比較すると、非対称アンテナ形状Cでは、幅W2が広いほど、通信距離CL(肌)は低下する。一方、非対称アンテナ形状Cでは、幅W2が狭いほど(図11では、幅W2=0.3cm及びW2=0.1cm)、通信距離CL(肌)は増加する。
【0078】
幅W2が幅W3よりも狭い場合には、図4C図4Hの電磁界シミュレーションによる電流分布及び電流ベクトルで示されるように、インピーダンス整合部32及びICチップ20への効果的な電流注入が起こる。これに対して、幅W2が幅W3よりも広い場合には、幅W2の部分と幅W3の部分との接合部分で電流が分散することで、インピーダンス整合部32及びICチップ20への効果的な電流注入が起こりづらいと考えられる。
【0079】
図12は、実施の形態2(非対称アンテナ形状C)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、第2放射導体の長さL3と肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)との関係を示すグラフである。"L2-L3"が短くなるほど(エレメント47のエレメント長L3が長くなるほど)、通信距離CL(肌)が長くなる。これは、図4C図4Hの電磁界シミュレーションによる電流分布及び電流ベクトルで示されるように、インピーダンス整合部32及びICチップ20への電流注入が、より効果的に起こるためである。このように、(L2-L3)が0cm超2cm以下であると、特にL3が1cm以上3cm未満であると、高誘電体との接触時の通信距離が長くなる。
【0080】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3に係るUHF帯RFIDタグについて説明する。実施の形態3の説明において、実施の形態1及び2と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
【0081】
図3Dは、実施の形態3(非対称アンテナ形状D)に係るUHF帯RFIDタグの平面図及び断面図である。図3Dを参照して、実施の形態3に係るRFIDタグの104について説明する。実施の形態3に係るRFIDタグ104は、第2放射導体34がスリット39を有する点で、実施の形態1(非対称アンテナ形状B)と相違する。スリット39は、第2端部36で開放する。L4は、スリット39の第2方向の長さ(スリット長)である。S1は、スリット39の第3方向の幅(スリット幅)である。
【0082】
幅S1のスリット39を有する非対称アンテナ形状Dにおいては、図5の電磁界シミュレーションによる電流分布及び電流ベクトルで示されるように、インピーダンス整合部32及びICチップ20への電流注入がより起こりやすい。そのために、非対称アンテナ形状Bに比べて、より長い通信距離CL(肌)を得ることができる。また、スリット39を設けることで、比誘電率が12以上88以下の誘電体が絶縁基材10に接触した状態での通信距離は、空気中での通信距離に比べて長くなる。
【0083】
図13は、実施の形態3(非対称アンテナ形状D)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、幅S1及び長さL1,L2,L4を変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)の変化を示す表である。幅S1がゼロの場合は、スリット39がない非対称アンテナ形状Bを表す。スリット39がない非対称アンテナ形状Bに比べて、幅S1のスリット39を有する非対称アンテナ形状Dは、より長い通信距離CL(肌)を示す。スリット39のスリット長L4が1cm以上3cm以下のとき、通信距離CL(肌)は、アンテナ形状Bに比べてアンテナ形状Dの方が長くなる。
【0084】
(具体例)
次に、本実施の形態の具体的な実施例及び比較の形態の具体的な比較例について説明する。本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。なお、具体例で使用した材料および装置は、以下のとおりである。
【0085】
[材料]
(1)アンテナパターン形成用導体:日東電工株式会社製;アルミテープ、軟質アルミ箔、厚さ0.05mm、テープ層厚0.1mm×幅50mm×長さ10m
(2)絶縁フィルム:スリーエムジャパン株式会社製; ポリエステル(PET)フィルム、厚さ0.10mm
(3)カバーフィルム:株式会社ニトムズ製;ポリプロピレンテープ、厚さ0.07mm
(4)伸縮性Agペースト:ナミックス株式会社製;XE181G
(5)薄型フィルムドレッシング:日東電工株式会社製;パーミロールLite、厚さ 8μm
(6)弱粘着テープ:スリーエムジャパン株式会社製;スコッチテープ 811-3-24、厚さ 0.051mm
(7)ICチップ20:AXZON社製;Magnus-S3、サイズ 1.6BSC×1.6BSC、厚さ 0.35mm
[装置]
(8)固定型UHF帯RFIDリーダ・ライタ:NordicID社;AR62,日本国内電波法対応、構内無線局タイプ、916.8 MHz - 920.4 MHz、RF出力 日本最大30.0dBm、感度 -81dBm
(9)固定型UHF帯RFIDリーダ・ライタ:Impinj社;SPEEDWAY REVOLUTION IPJ-REV-R420-JP22M、日本国内電波法対応、916.8 MHz - 920.4 MHz、RF出力 日本最大30.0dBm、感度 -84dBm
(10)UHF帯 (920MHz) アンテナ: MTI Wireless Edge社、MT-263020、円偏波
(11)355nmナノ秒パルスレーザー光源:Inngu laser社; Pulse 355-3A,355nm、3W、繰り返し周波数 30kHz、パルス幅 13ns
(12)ガルバノスキャナー:MASTER LASER社製;Model GH2D10C f‐θレンズ焦点距離 100mm、制御ソフトウェア BJJCZ社製 EzCAD
(13)熱電対:理化工業株式会社;貼付型温度センサー(ポリイミド樹脂タイプ)ST-51-100-C
(14)データロガー:GRAPHTEC; midi LOGGER GL240
(15)電子体温計:OMROM;MC-680。
【0086】
(実施例1)
[RFIDタグの作成]
アルミテープを、ガルバノスキャナーのf‐θレンズ下にマグネットプレートで固定し、制御ソフトウェアのEzCADで作成したアンテナパターンのデータを用いて、f‐θレンズで集光した355nmナノ秒パルスレーザー光をガルバノスキャナーで走査することによって、アルミテープのレーザーカット加工を行った。レーザーカット加工における、レーザー光のスキャン速度は5mm/sで、アンテナパターン形状のレーザー光スキャン操作を4サイクル行った。レーザーカット加工で形成したアルミニウム(Al)アンテナパターンを、絶縁基材の一例であるPETフィルム上に張り付けてRFIDタグのアンテナとした。
【0087】
上記Alアンテナパターンにおいては、ICチップを装着するインピーダンス整合部の1箇所に、数mmのギャップが形成されており、この部分に、市販のUHF帯用RFIDタグからICチップの部分を切り出して、移植した。Alアンテナパターンと移植したICチップとの接合部に、伸縮性Agペーストを塗布し、70℃で加熱乾燥することで、電気的な導通をとった。
【0088】
上記のPETフィルム上のICチップを有するAlアンテナパターン上に、ポリプロピレンテープをカバーフィルムとして貼付することで封止を行い、アンテナ形状A等の複数種のアンテナ形状を有するアンテナを作成した。
【0089】
上記製造プロセスによって、アンテナ形状A、B,C,Dの複数種のアンテナ形状を有するアンテナを作成した。しかし、RFIDタグを製造するための材料や加工プロセスは、それらに限定されるものではない。
【0090】
(実施例2)
[RFIDタグアンテナにおける電流分布及び電流密度の電磁界シミュレーション]
電磁界解析(NI AWRソフトウェア)により、RFIDタグアンテナ上の電流分布及び電流ベクトルのシミュレーションを行った。高誘電体である人体(肌)に接触したRFIDタグのシミュレーションに用いたモデルは、図1の肌(wet)の比誘電率(46.0)及び誘電正接(0.362)を有する高誘電体層を考え、その厚さは、解析において厚さ依存性の起こらない十分な厚さである40mmとした。そして、その上層に、PET絶縁層(厚さ100μm)、Alパターン(厚さ50μm)を設け、それらの層が、上下ともに、60mmの厚さの空気層で挟まれた積層構造とした。
【0091】
本実施の形態に係るRFIDタグでは、封止構造形成のためのポリプロピレンテープが上記のAlパターンの上側に配置される構造が考えられる。しかし、ポリプロピレンテープは、通信距離CL(肌)にほとんど影響を及ぼさないことが実際の測定で確かめられたことから、電磁界シミュレーションのモデルには加えなかった。
【0092】
図4A~4H及び図5には、種々形状のアンテナが、高誘電体である人肌(wet)に接触した状態に対して、電磁界シミュレーションにより得られた電流分布及び電流ベクトルを示した。各アンテナの図において、電流分布密度の高いところほど、より明るく白く表示されている。また、電流ベクトルの方向は、拡大図において、三角形の頂角方向で示している。この場合のインピーダンス整合部の開口は、略四辺形(7.9mm×2.7mm、四隅の半径0.5mm)の孔とした。
【0093】
(実施例3)
[UHF帯RFIDタグの通信距離の測定]
上記で作成したUHF帯RFIDタグの通信距離の評価は、図6図6A,6B)に示すような、UHF帯リーダ・ライタ71(NordicID社 AR62)、アンテナ72、及びRFIDタグ73の配置で行った。床からアンテナ中心までの距離は、1.0mであった。ここでの通信距離の定義は、RFIDタグのICの識別情報を、UHF帯リーダ・ライタで読み込むことが可能な最長距離とした。UHF帯リーダ・ライタ、アンテナ、及びアンテナケーブルからなる測定系の等価等方輻射電力(EIRP)は、電波法により免許局(構内無線局)で許される、4W(36dBm)とした。
【0094】
上記UHF帯RFIDタグの通信距離の評価において、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)は、図6Aに示されるような測定系で行った。通信距離の評価においては、RFIDタグを発泡スチロールからなるプレート(長さ22cm×幅9cm×厚さ0.5cm)の上に弱粘着テープで固定した。発泡スチロールのような発泡体は、空気を内包し、RFIDタグのフリースペース(空気中)での特性の評価に影響しない点で、好ましい物質となる。
【0095】
上記発泡スチロールプレートの先端に固定したRFIDタグを、以下の3通りの配向方向(a)(b)(c)に変え、通信可能な距離の測定を行った。(a)は、タグアンテナ面がリーダー側のアンテナ面に平行でタグアンテナの長手方向が地面に対して横向きの配向方向を表す。(b)は、タグアンテナ面がリーダー側のアンテナ面に平行でタグアンテナの長手方向が地面に対して縦向きの配向方向を表す。(c)は、タグアンテナ面がリーダー側のアンテナ面に垂直でタグアンテナの長手方向が地面に対して平行の配向方向を表す。これらの異なるアンテナ配向での測定値のなかで、最も通信距離が長いものを、CL(空気)として評価した。
【0096】
上記UHF帯RFIDタグを、人体の右肩部に、薄型フィルムドレッシング(厚さ8μm)をタグの上から被せて貼り付けることにより、人肌に密着した状態で装着した。この時、ICチップの上面(金属との導通がとられている面の反対側)を人肌に密着させるように装着した。右肩への装着においては、アンテナの長手方向が、腕の長さ方向になるようにし、略四辺形の開口を形成するインピーダンス整合部に設けられたICチップが、人体から向かって、略四辺形の開口の長手方向の右辺に位置するようにした。
【0097】
ここで用いた薄型フィルムドレッシングは、水蒸気透過性に優れたポリウレタン系の材料からできている。薄型フィルムドレッシングは、極薄で柔軟なことから、人肌への装着時に容易に伸び縮みすることで、人肌に密着した状態への影響が無視できる材質である。
【0098】
上記のように人肌(右肩)に装着したRFIDタグの通信距離を、右腕を下した状態で、アンテナと身体との位置を変えながら測定した。RFIDタグのICの識別情報をUHF帯リーダ・ライタで読み込むことが可能な最長距離を、高誘電体である人肌(肩)に装着した場合の通信距離CL(肌)とした。この場合、RFIDタグのアンテナの長手方向を、右腕が伸びた方向に合わせて、RFIDタグを薄型フィルムドレッシングで装着した。右腕を下した状態で測定していることから、RFIDタグのアンテナの長手方向は、地面に対して縦向きの配向方向であった。
【0099】
(実施例4)
[水中でのUHF帯RFIDタグの通信距離の測定]
水に直接接触した状態での通信距離CL(水)は、RFIDタグをプラスチック容器(内径 長さ157mm×幅60mm×高さ50mm、スチロール樹脂厚:2mm)の底にテープで固定した状態で、150mlの水道水(室温と同温度の22℃に温度調整)を注水して測定された。
【0100】
上記のRFIDタグを設置し、水道水を注水したプラスチック容器を、発泡スチロール製のブロック(長さ21cm×幅10cm×厚さ6cm)の上に設置した。RFIDタグのICの識別情報を、UHF帯リーダー・ライタ(NordicID社 AR62)で読み込むことが可能な最長距離を計測し、その最長距離を、水に直接接触した状態での通信距離CL(水)とした。
【0101】
図7は、非対称アンテナ形状Bを有するUHF帯RFIDタグについて、フリースペース(空気中)での通信距離肌CL(空気)と水に直接接触した状態での通信距離CL(水)を、対称アンテナ形状Aを有するRFIDタグと比較して示した。いずれのRFIDタグにおいても、第3方向の幅W1, W2, W3は0.5cmとし、開口40は略四辺形 (7.9mm×2.7mm、四隅の半径0.5mm)の孔とした。アンテナ長LTが、10~13cmの範囲において、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気中)は、対称アンテナA形状(L1=L2)及び非対称アンテナ形状B(L1≠L2)のいずれにおいても、5m以上で違いは無く、良好な値であった。
【0102】
水に直接接触した状態での通信距離CL(水)に関しては、対称アンテナ形状A(L1=L2)及び非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の違いは大きかった。対称アンテナ形状A(L1=L2)では、アンテナ長LTが、10~13cmの範囲においては、CL(水)の値は10cm前後であった。このような近距離(Near field)に限られる通信機構は、電波の共振によるものではなく、リーダー側のアンテナとRFIDタグのアンテナとの間での電磁誘導機構に帰属される。
【0103】
これに対して、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)のCL(水)は、図7において、いずれも100cm以上で、対称アンテナ形状A(L1=L2)に比べて10倍以上40倍以下の値となった。LT=10cmにおいては、ほぼ2mに達する通信距離を達成することができた。このような1mを超える通信距離から、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の場合には、電波方式の通信が可能であった。また、高誘電体に接触した状態での通信距離の低下を抑制できた。
【0104】
(実施例5)
[RFIDタグによる水温測定]
非対称アンテナ形状Bのアンテナパターン30と温度センサー機能を内蔵するICチップ20とを備えるRFIDタグ(LT:10cm、L1:4cm、L2:6cm、W1,W2,W3:0.5cm)によって、水温変化の測定を行った。測定においては、RFIDタグと熱電対とをプラスチック容器(内径 長さ157mm×幅60mm×高さ50mm)の底に設置し、50mlの水道水を注水した後に、熱水50mlを60秒間隔で加えて、水温を変化させた。このとき、RFIDタグとRFIDリーダー(NordicID社 AR62)に接続したアンテナとの距離は、1mに設定した。
【0105】
図8のグラフには、温度センサータグからの温度データと、熱電対からの温度データとを比較して示した。両者での良好な一致が確認された。温度センサータグの温度変化は、熱電対のそれに比べてややレスポンスが遅くなった。これは、温度センダータグの容積が熱電対のそれよりも大きく、比熱容量が異なることに起因している。また、ICチップ20にMagnus-S3を採用すると、ICチップに書き込んでおく温度校正用のパラメータを補正することで、より測定温度の精度を上げることができる。
【0106】
(実施例6)
[身体(肌)に装着したUHF帯RFIDタグの通信距離の測定]
図9には、高誘電体である人体の右肩に貼付した、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)のRFIDタグの通信距離CL(肌)を、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)と比較して示した。非対称アンテナ形状Bにおいては、L1=1cm、W1=0.5cmを共通パラメータとして、L2の長さを変えて、通信距離への影響を検討した。ここで、アンテナ長LTは、(1+L2)cmとなる。通信距離の測定は、AR62(NordicID社)によって行った。
【0107】
人体にRFIDタグを装着してバイタルセンシングを行う場合、装着負荷低減の観点からは、身体に装着するタグは、できるだけ小さいことが好ましい。図9においては、フリースペース(空気中)での通信距離肌CL(空気)と、肌に接触した状態での通信距離CL(肌)との逆転が、アンテナ長LT=7cm(L2=6cm)で起こった。アンテナ長LTが3cmから6cmの範囲において、1m以上の通信距離が得られた。
【0108】
図10には、比較の形態1(対称アンテナ形状A)と実施の形態1(非対称アンテナ形状B)に係るUHF帯RFIDタグについて、LT、L1及びL2を変化させた場合の、フリースペース(空気)での通信距離CL(空気)と肌(肩)に直接接触して装着した状態での通信距離CL(肌)を示した。対称アンテナ形状A(L1=L2)の場合も非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の場合も、W1とW2は、0.5cmとした。
【0109】
身体装着時の装着負荷のより少ない範囲(アンテナ長LTが3cmから5cmの範囲)においては、非対称アンテナ形状B(L1≠L2)の通信距離CL(肌)は、対称アンテナ形状A(L1=L2)の通信距離CL(肌)よりも長くなった。
【0110】
(比較例1)
[RFIDのリーダ・ライタ機種の違いによる通信距離の変化]
上記の実施例においては、通信距離の測定は、温度測定関連のソフトウェアが使用可能なRFIDリーダ・ライタであるAR62(NordicID社)によって行った。ここで、測定される通信距離は、使用するUHF帯RFIDリーダ・ライタの性能によって変化する。主に、リーダ・ライタのRF出力及び感度が、通信距離に影響を与えるパラメータとなる。AR62(NordicID社)のRF出力の仕様は30.0dBmで、感度は-81dBmとなっている。
【0111】
UHF帯RFIDリーダ・ライタの仕様による、測定される通信距離の変化を検討するため、アンテナ形状Aを有するRFIDタグの通信距離を、AR62(NordicID社)及びSPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)とで測定し比較した。SPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)のRF出力は、30.0dBmで、感度は-84dBmの仕様となっている。両装置は、感度の面で違いがあり、SPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)のほうが、3dBm感度が高くなっている。リーダーがRFIDタグからの電波を検知できる通信距離で表せば、SPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)での計測値は、AR62(NordicID社)の計測値の2倍前後になることが予想される。
【0112】
比較測定に用いたRFIDタグのアンテナ形状Aの第1例は、アンテナ長LTを6cmとし、アンテナ幅W1を0.5cmとした。人体(肩)に装着した場合の通信距離CL(肌)は、SPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)及びAR62(NordicID社)で計測した場合、それぞれ、340cm及び235cmであった。それらの比は、1.45であった。
【0113】
比較測定に用いたRFIDタグのアンテナ形状Aの第2例は、アンテナ長LTを8cmとし、アンテナ幅W1を0.5cmとした。人体(肩)に装着した場合の通信距離CL(肌)は、SPEEDWAY REVOLUTION(Impinj社)及びAR62(NordicID社)で計測した場合、それぞれ、340cm及び231cmであった。それらの比は、1.47であった。
【0114】
上記の計測においては、ICチップとしてMagnus-S3(AXZON社)を用いたが、通信距離はICチップの仕様によっても変化する。
【0115】
(実施例7)
[非対称アンテナ形状CのRFIDタグ]
図11に、非対称アンテナ形状C(LT:4cm、W1,W3:0.5cm、L1≠L2)における幅W2の影響を示した。RFIDリーダ・ライタには、AR62(NordicID社)を用いた。非対称アンテナ形状B(LT:4cm、W1,W2,W3:0.5cm、L3:0cm)を基準として比較すると、非対称アンテナ形状Cでは、幅W2が大きいほどCL(肌)は低下し、W2=0.3cm及びW2=0.1cmにおいてCL(肌)の増加が示された。
【0116】
図12には、非対称アンテナ形状CのRFIDタグ(L1:1cm、L2:3cm、W1,W3:0.5cm、W2:0.1cm)において、長さL3と、肌(右肩)に直接接触して装着した状態での通信距離CL(肌)との関係を表すグラフを示した。L3が長く、幅W3の矩形パターンと幅W2の矩形パターンとの接合部分が、インピーダンス整合部及びICチップに近いほど、通信距離CL(肌)が長くなった。
【0117】
(実施例8)
[非対称アンテナ形状D]
図13には、実施の形態3(非対称アンテナ形状D)に係るUHF帯RFIDタグにおいて、幅S1及び長さL1,L2,L4を変化させた場合の、フリースペース(空気中)での通信距離CL(空気)および肌(肩)に直接接触した状態での通信距離CL(肌)の変化を示した。幅S1がゼロのスリット39がない非対称アンテナ形状Bに比べて、幅S1のスリット39を有する非対称アンテナ形状Dは、より長い通信距離CL(肌)を示した。スリット39のスリット長L4が1cm以上3cm以下のとき、通信距離CL(肌)は、アンテナ形状Bに比べてアンテナ形状Dの方が長くなった。
【0118】
(実施例9)
[RFIDタグによる体温測定]
非対称アンテナ形状Cを有するUHF帯RFIDタグ(L1:1cm、L2:3cm、L3:2.5cm、W1,W3:0.5cm、W2:0.1cm、ICチップ:温度センサー機能を有するMagnus-S3)を人体の右肩に装着し、RFIDリーダ(NordicID社、AR62)との距離を1mとして、体温計測を行ったところ、34.2℃という値が示された。このときに、電子体温計を脇に挟んで計測した体温は、36.7℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示により、人体や水のような高誘電体(比誘電率12~88)と直接接触しても、RFIDリーダ・ライタとの間でのデータ通信が可能なUHF帯RFIDタグを得ることができる。これにより、水温や体温等のセンシングに応用することができる。また、本開示により、人体のような高誘電体に対して、フリースペース(空気中)よりも人体装着時の通信距離のほうが長くなる。これにより、それらの比が1よりも小さくなるようなUHF帯RFIDタグを得ることができ、未装着状態のタグ(空気中)と身体に装着状態のタグとの判別が容易となり、未装着状態のタグからのデータ混在によるデータ処理の煩雑化を防ぐことができる。よって、高誘電率の水や水分を多量に含む人体等の高誘電体に直接接触する環境下での、スマート農業及びスマート漁業や、医療分野及びバイタルセンシング分野において、好適に利用できる。
【0120】
以上、実施形態を説明したが、本開示の技術は上記の実施形態に限定されない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【符号の説明】
【0121】
10 絶縁基材
11 第1表面
12 第2表面
20 ICチップ
30 アンテナパターン
31 給電部
32 インピーダンス整合部
33 第1放射導体
34 第2放射導体
35 第1端部
36 第2端部
37 第1接続部
38 第2接続部
39 スリット
40 開口
41,42 辺
43,44 アンテナ端
47 エレメント
70 測定装置
75 人体
80 高誘電体
81 絶縁体
101,102,103,104 RFIDタグ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13