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特許7572696被覆銅材の剥離処理方法、処理装置、処理装置制御部およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】被覆銅材の剥離処理方法、処理装置、処理装置制御部およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20241017BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20241017BHJP
   H02G 1/12 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B09B3/80
H02G1/12 087
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024068266
(22)【出願日】2024-04-19
【審査請求日】2024-05-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513194894
【氏名又は名称】ミクロエース株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢司
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】永江 隆治
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061584(JP,A)
【文献】特開平11-323360(JP,A)
【文献】特開2014-069137(JP,A)
【文献】特開2016-180164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 5/00
B09B 3/80
H02G 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅材に被覆されている被覆材料に硫酸溶液を接触させて前記被覆材料を前記硫酸溶液に溶解させて前記銅材から剥離除去し、前記硫酸溶液に溶解した前記被覆材料を、過硫酸を含む電解硫酸溶液によって分解する被覆銅材の剥離処理方法。
【請求項2】
前記電解硫酸溶液における過硫酸濃度が0.5g/L以上である請求項1記載の被覆銅材の剥離処理方法。
【請求項3】
被覆材料を分解した前記硫酸溶液を、前記被覆銅材または他の被覆銅材の剥離除去に再利用する請求項1または2に記載の剥離処理方法。
【請求項4】
前記銅材に被覆されている被覆材料に接触させる前記硫酸溶液は、過硫酸濃度が0.5g/L未満であって、硫酸濃度が85.0質量%以上で、温度が60~140℃の範囲内である請求項1または2に記載の剥離処理方法。
【請求項5】
前記銅材に被覆されている被覆材料に接触させる硫酸溶液が、剥離除去の工程の一部または全部において、過硫酸濃度が0.5g/L以上である電解硫酸溶液であり、かつ硫酸濃度が80.0質量%以上で、温度が60~140℃の範囲内である請求項1に記載の剥離処理方法。
【請求項6】
電解硫酸溶液は、溶液温度を20~60℃にして硫酸溶液の電解を行うものである請求項1またはに記載の剥離処理方法。
【請求項7】
前記被覆材料の分解状態を硫酸溶液の電気伝導度および酸化還元電位の一方または両方で判断する請求項5または6に記載の剥離処理方法。
【請求項8】
前記被覆材料の分解状態が基準に達すると、再生完了と判定し、再生した硫酸溶液を被覆銅材の剥離除去に供する請求項7に記載の剥離処理方法。
【請求項9】
被覆銅材の被覆材料に硫酸溶液を接触させる硫酸溶液接触部と、硫酸溶液中に溶解した被覆材料を電解硫酸溶液で分解する分解部と、を有する剥離除去処理装置。
【請求項10】
前記硫酸溶液接触部が、前記被覆銅材を硫酸溶液中に浸漬する浸漬処理槽および前記被覆材料に硫酸溶液を放出して接触させる放出接触槽の一方または両方を有する請求項9に記載の剥離除去処理装置。
【請求項11】
前記分解部に、硫酸溶液を電解する電解部が備えられている請求項9または10に記載の剥離除去処理装置。
【請求項12】
前記硫酸溶液接触部を複数備え、1または2以上の前記電解部が複数の前記硫酸溶液接触部の硫酸溶液に対し、選択的に電解可能とされている請求項11に記載の剥離除去処理装置。
【請求項13】
前記分解部に分解貯槽と電解部を備え、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路を有している請求項9または10に記載の剥離除去処理装置。
【請求項14】
前記硫酸溶液接触部と前記分解貯槽との間に分解・再生送液路を有している請求項13に記載の剥離除去処理装置。
【請求項15】
前記分解部において硫酸溶液の分解状態を測定する測定部と、
前記電解部の電解、前記電解用循環路および前記分解・再生送液路の送液の制御を行う制御部を有し、
前記制御部は、前記測定部の測定結果を受けて、測定結果に基づいて前記制御の内容を決定する請求項14に記載の剥離除去処理装置。
【請求項16】
過硫酸を含む硫酸溶液における被覆材料の分解状態を測定する測定部と、被覆銅材の被覆材料を硫酸溶液との接触によって溶解させて剥離除去する硫酸溶液接触部と、硫酸溶液に溶解した被覆材料の分解を電解硫酸溶液によって分解させる分解貯槽と、前記硫酸溶液接触部と前記分解貯槽との間に設けられた分解・再生送液路と、硫酸溶液を電解する電解部と、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路と、を有する処理装置に備えられ、
前記測定部の測定結果を受けるとともに、前記電解部の電解、前記電解用循環路および前記分解・再生送液路の送液の制御を行い
前記測定結果を受けて、測定結果に基づいて前記制御の内容を決定する制御を行う処理装置制御部。
【請求項17】
過硫酸を含む硫酸溶液における被覆材料の分解状態を測定する測定部の測定結果を受けるとともに、被覆銅材の被覆材料を硫酸溶液との接触によって溶解させて剥離除去する硫酸溶液接触部と、硫酸溶液に溶解した被覆材料の分解を電解硫酸溶液によって分解させる分解貯槽と、の間に設けられた分解・再生送液路の送液と、硫酸溶液を電解する電解部の電解と、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路の送液と、制御する制御部で実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記硫酸溶液接触部で被覆材料が溶解した硫酸溶液を分解・再生送液路によって分解貯槽に送液するステップと、
前記測定結果を受けるステップと、
前記測定結果が基準に達するまでは、前記電解部による電解と、前記電解用循環路の送液とを実行させるステップと、
前記測定結果が基準とする値に達すると、前記電解部による電解を停止し、前記分解・再生送液路によって分解貯槽の硫酸溶液を前記硫酸溶液接触部に送液するステップと、を
前記制御部に実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材料で被覆された銅材から被覆材料を剥離除去する被覆銅材の剥離処理方法、処理装置、処理装置制御部およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電、産業用などで銅線が多く使用されている。一方、銅の可採年数が40年程度とされており、枯渇が懸念される資源である。また銅鉱山においても、近年徐々に銅精鉱品位の低下が見られ、その採掘・製錬工程の負担は増していると、言われている。
自動車業界では使用している材料や部品をリサイクルする動きが欧州メーカーを主に急激に起こっており、巻き線用銅線についても銅回収を求められている。
【0003】
銅線は、多くの場合、絶縁性などを有する樹脂で被覆されており、銅回収においては被覆材料を銅線から剥離することが必要になる。現在一部の巻き線用銅線では乾式法により被覆材料を剥離している。乾式法の1つでは、回転刃で切れ目を入れ、次に圧延する対向した圧延ローラで粉砕し、比重差で分離する方法である(特許文献1)。
他の処理方法として、特許文献2では樹脂被覆銅線を空気雰囲気下で250℃~380℃で加熱処理し、熱変性した絶縁皮膜を機械的に剥離する回収方法が開示されている。
【0004】
また、湿式法によるリサイクルとしては、特許文献3では過熱水蒸気を用いて500℃~800℃で加熱後、10~35質量%の塩酸で洗浄することで剥離させる回収方法が開示されており、特許文献4では無機アルカリ、炭素数1~10のアルカノールアミン、水を含む剥離液により化学的に剥離する回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5828145号明細書
【文献】特許第6604515号明細書
【文献】特許第6056088号明細書
【文献】特開2021-108531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2では、絶縁皮膜成分の混入などにより被覆材料の剥離率は97%程度と低く、リサイクルするためには製錬工程から処理しなければならない。
特許文献3では、過熱水蒸気を用いて500℃~800℃で加熱後、塩酸によって化学的に剥離させる。これら従来の技術は、加熱処理温度が高いこと、加熱後機械的もしくは化学的に除去が必要であることから処理工程が多くなってしまい、設備コストや処理コストが高くなる。さらに、高温での加熱処理によって銅線に酸化物が形成されるなどして純度を損なう問題がある。
また、特許文献4では、剥離後の銅線の清浄度などの問題があり、また剥離後の溶液状態について一切言及がなく、使用回数が増加するにつれ剥離除去溶液の絶縁皮膜除去能力が懸念される。
【0007】
高純度の銅線を回収する際には、さらに、剥離後の銅線の清浄度や、剥離に際しての銅線の歩留まりが課題となる。
また、回収に際し、エネルギーコストを抑え、かつ二酸化炭素排出を抑えて絶縁皮膜を完全に除去することが当該分野における課題となっている。これら課題を解決する方法として化学的に除去する方法が有効であるが、使用した剥離除去溶液内には溶解した絶縁皮膜成分が含有しており、使用回数が増加するにつれ剥離除去能力が低下することから、使用回数に限界があるという課題もある。
さらに、使用済みとなった剥離除去溶液の廃棄においても、剥離除去処理数の増大に伴い以下の課題が容易に想像される。
(1)廃液処理交換費用および収集運搬費用の増大
(2)多数廃液処理工程による廃液処理費用の増大
(3)廃液処理の交換から再生までの環境負荷の増大
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、化学的処理のみで被覆銅材から高純度の銅材を歩留まりよく回収し、使用した溶液中に溶解している被覆材成分を自己分解することができる回収方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、被覆銅材の剥離処理方法のうち、第一の形態は、銅材に被覆されている被覆材料に硫酸溶液を接触させて前記被覆材料を前記硫酸溶液に溶解させて前記銅材から剥離除去し、前記硫酸溶液に溶解した前記被覆材料を、過硫酸を含む電解硫酸溶液によって分解する。
【0010】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記電解硫酸溶液における過硫酸濃度が0.5g/L以上である。
【0011】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、被覆材料を分解した前記硫酸溶液を、前記被覆銅材または他の被覆銅材の剥離除去に再利用する。
【0012】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記銅材に被覆されている被覆材料に接触させる前記硫酸溶液は、過硫酸濃度が0.5g/L未満であって、硫酸濃度が85.0質量%以上で、温度が60~140℃の範囲内である。
【0013】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記銅材に被覆されている被覆材料に接触させる硫酸溶液が、剥離除去の工程の一部または全部において、過硫酸濃度が0.5g/L以上である電解硫酸溶液であり、かつ硫酸濃度が80.0質量%以上で、温度が60~140℃の範囲内である
【0014】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、電解硫酸溶液は、溶液温度を20~60℃にして硫酸溶液の電解を行うものである。
【0015】
前前記被覆材料の分解状態を硫酸溶液の電気伝導度および酸化還元電位の一方または両方で判断する。
【0016】
前記被覆材料の分解状態が基準に達すると、再生完了と判定し、再生した硫酸溶液を被覆銅材の剥離除去に供する。
【0017】
被覆銅材の剥離除去処理装置の発明は、被覆銅材の被覆材料に硫酸溶液を接触させる硫酸溶液接触部と、硫酸溶液中に溶解した被覆材料を電解硫酸溶液で分解する分解部と、を有する。
【0018】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記硫酸溶液接触部が、前記被覆銅材を硫酸溶液中に浸漬する浸漬処理槽および前記被覆材料に硫酸溶液を放出して接触させる放出接触槽の一方または両方を有する。
【0019】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記分解部に、硫酸溶液を電解する電解部が備えられている。
【0020】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記硫酸溶液接触部を複数備え、1または2以上の前記電解部が複数の前記硫酸溶液接触部の硫酸溶液に対し、選択的に電解可能とされている。
【0021】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記分解部に分解貯槽と電解部を備え、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路を有している。
【0022】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記硫酸溶液接触部と前記分解貯槽との間に分解・再生送液路を有している。
【0023】
他の形態の発明は、前記形態の発明において、前記分解部において硫酸溶液の分解状態を測定する測定部と、
前記電解部の電解、前記電解用循環路および前記分解・再生送液路の送液の制御を行う制御部を有し、
前記制御部は、前記測定部の測定結果を受けて、測定結果に基づいて前記制御内容を決定する。
【0024】
他の形態の剥離装置制御部の発明は、過硫酸を含む硫酸溶液における被覆材料の分解状態を測定する測定部と、被覆銅材の被覆材料を硫酸溶液との接触によって溶解させて剥離除去する硫酸溶液接触部と、硫酸溶液に溶解した被覆材料の分解を電解硫酸溶液によって分解させる分解貯槽と、前記硫酸溶液接触部と前記分解貯槽との間に設けられた分解・再生送液路と、硫酸溶液を電解する電解部と、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路と、を有する処理装置に備えられ、
前記測定部の測定結果を受けるとともに、前記電解部の電解、前記電解用循環路および前記分解・再生送液路の送液の制御を行い
前記測定結果を受けて、測定結果に基づいて前記制御内容を決定する制御を行う。
【0025】
他の形態のプログラムの発明は、過硫酸を含む硫酸溶液における被覆材料の分解状態を測定する測定部の測定結果を受けるとともに、被覆銅材の被覆材料を硫酸溶液との接触によって溶解させて剥離除去する硫酸溶液接触部と、硫酸溶液に溶解した被覆材料の分解を電解硫酸溶液によって分解させる分解貯槽と、の間に設けられた分解・再生送液路の送液と、硫酸溶液を電解する電解部の電解と、前記分解貯槽と電解部との間に硫酸溶液を循環させる電解用循環路の送液と、制御する制御部で実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記硫酸溶液接触部で被覆材料が溶解した硫酸溶液を分解・再生送液路によって分解貯槽に送液するステップと、
前記測定結果を受けるステップと、
前記測定結果が基準に達するまでは、前記電解部による電解と、前記電解用循環路の送液とを実行させるステップと、
前記測定結果が基準とする値に達すると、前記電解部による電解を停止し、前記分解・再生送液路によって分解貯槽の硫酸溶液を前記硫酸溶液接触部に送液するステップと、
前記制御部に実行させる。
【発明の効果】
【0026】
本願発明によれば、被覆銅材の被覆材料に硫酸溶液を接触させることで、被覆材料を銅材から剥離除去し、高純度の銅材を回収することができる。溶解した被覆材料は過硫酸を含む電解硫酸溶液によって分解される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の絶縁皮膜の剥離除去方法及び剥離溶液の再生方法についての実施形態を説明した処理フロー図である。
図3】他の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図である。
図4】他の実施形態における電解・再生工程の手順を示すフローチャートである。
図5】同じく、被覆材料と接触させて剥離除去する溶液として電解硫酸溶液を用いた実施形態を説明したフロー図である。
図6】本発明の他の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図である。
図7】剥離槽を複数用意した際の処理フローである。
図8】本発明のさらに他の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態1)
図1は本発明の一実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図であり、銅材に被覆されている樹脂被膜材料の剥離方法および剥離後の硫酸溶液の再生処理方法について適用可能な処理装置を示している。
【0029】
銅材には、好適には純度が高いもの(例えば、99.96%以上)に好適に使用することができ、線状、板状のものが例示されるが、形状が特定のものに限定されるものではない。
【0030】
被覆材料としては、銅材の表面積に対して厚みが小さい塗膜としてもよく、例えば、絶縁性を有し、さらに耐熱性を有するものに好適に使用される。絶縁性としては、例えば、体積電気抵抗率が大きいものが挙げられる(10Ωcm以上)。また耐熱性としては、用途によって要求が異なるが、本発明の好適な用途ではJIS規格C4003にて規定されている耐熱クラスB種(130℃)以上が挙げられる。
【0031】
被覆材料は、天然樹脂、合成樹脂のいずれでもよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、特定の樹脂に限定されるものではない。
被覆材料には、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂のいずれであってもよい。被覆材料は1種のものに限定されず、複数の種類、例えば異なる材質の層を重ねたものであってもよい。
【0032】
被覆材料は、銅材全体に被覆されるものであってもよく、また、銅材の一部(断面方向や長さ方向)で被覆を行うものであってもよい。被覆材料は、銅材の表面に膜状に形成されるものが挙げられるが、その厚さが限定されるものではない。
なお、以下の実施形態では、銅材として銅線を適用するものについて説明する。
【0033】
処理装置1は、硫酸溶液を収容する処理槽5を有し、処理槽5は、樹脂被覆が施されている銅線2を硫酸溶液に浸漬して被覆材料を剥離する。
【0034】
また処理装置1は、硫酸溶液を電解して剥離材料の分解を行う電解硫酸装置6を有する。
処理槽5は、本発明の硫酸接触部における一形態であり、浸漬接触槽に相当する。
電解処理装置6は、本発明の分解部の一部を構成しており、電解部に相当する。また、この実施形態では、処理槽5は、分解部における分解貯槽としての役割を果たしている。
【0035】
処理槽5内には、必要に応じて槽内を攪拌するため、外部のエアポンプ4やそれに接続する気泡発生器3などの攪拌手段を設けても良い。
処理槽5には、硫酸溶液を再生するための電解硫酸装置6が接続されている。処理槽5に対する接続状態として、溶液の導入路9Aと、溶液の送出路9Bの一端が配置されており、処理槽5内への溶液の導入および処理槽5内からの溶液の送出が可能になっている。導入路9Aおよび送出路9Bは、電解循環路を構成する。
【0036】
溶液の導入路9Aと、送出路9Bの他端側は、電解セル10の通液路に接続されており、溶液の送出路9Bには、循環ポンプ8が介設されている。循環ポンプ8を電解セル側に送液する動作によって、溶液が送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと送られ、溶液の循環が可能になっている。
【0037】
電解セル10では、セルの下端側に溶液の送出路9Bが接続され、セルの上端側に溶液の導入路9Aが接続されており、その間の流路に、陽極10A、陰極10Bが設置され、陽極10Aと陰極10Bの間にバイポーラ電極10Cが設置されており、各電極間の流路で溶液が下方から上方に移動する。陽極10Aと陰極10Bには電解用直流電源器7が介設されている。
【0038】
なお、この実施形態では、バイポーラ電極を有する装置について説明したが、本実施形態としては、バイポーラ電極の有無は特に限定されるものではない。
【0039】
この実施形態では、図1に示す装置を使用するものとして説明したが、電気分解する方法としては特に制限はなく、図1の装置に限定されない。
【0040】
<フローチャート>
図2は、本発明の樹脂の剥離除去方法及び硫酸溶液の分解・再生方法についての手順を示すフローチャートを示す図であり、以下に説明する。
【0041】
ここでは、主として、第1の工程として酸性剥離液である硫酸溶液により銅線2の表面から被覆材料を剥離させて除去する剥離工程と、第2の工程として硫酸溶液を電気分解することによって、電解で生成されるペルオキソ二硫酸およびペルオキソ二硫酸が自己分解して生成されるペルオキソ一硫酸等酸化剤と被覆材料成分である有機物が反応し、有機物が二酸化炭素と水に分解される剥離溶液の再生工程とを有している。
【0042】
最初の剥離工程(ステップS1)では、処理槽5内に硫酸溶液を収容する。硫酸溶液は、硫酸濃度を85質量%以上、温度を60~140℃の範囲内に調整するのが望ましい。さらには、下限を90℃、上限を100℃の温度とするのが一層望ましい。硫酸溶液は、槽内に図示しないヒータを設定して加温して温度調整をすることができる。
この硫酸溶液内に、図示しない被覆材料が形成されている銅線2を浸漬して樹脂の被覆材料と硫酸溶液とを接触させる。
【0043】
なお、硫酸溶液の硫酸濃度は、高くすると、硫酸の解離度が小さくなり、その結果溶液中のイオン濃度が低くなる。すなわち疎水性溶液となり銅線に被覆されている被覆材料を溶解することが可能となる。工業的には被覆材の剥離除去に長時間掛けるわけにはいかないので、硫酸溶液での下限濃度を85.0質量%とするのが望ましい。但し、硫酸溶液を後工程で電解する際には、電解効率の観点から硫酸濃度を94.0質量%以下とするのが望ましい。
【0044】
また、硫酸溶液の溶液温度は、高めることにより溶解速度が速くなる。このため、被覆材料絶縁皮膜に接触させる硫酸溶液及び電解硫酸溶液は、温度を60℃以上にするのが望ましい。同様の理由で90℃以上とするのが望ましい。一方で、溶液温度が高くなると、銅線に酸化物が形成されて純度が低下するとともに銅線の溶解を招き、回収歩留まりが低下する。このため、溶液温度は、140℃以下とするのが望ましい。さらに、同様の理由で100℃以下とするのが望ましい。
【0045】
ここで、硫酸溶液は、硫酸そのものの他に、硫酸塩などとしてもよく、上記した硫酸濃度が得られるものであればよい。なお、被覆材料を剥離除去する溶液には、後述するように過硫酸を含む硫酸溶液を使用することができるが、この形態では過硫酸の作用を求めないものであり、過硫酸フリーか過硫酸濃度が0.5g/L未満のものを用いる。
【0046】
被覆材料で被覆されている銅線2を浸漬する際には、外部のエアポンプ4から気泡発生器3に空気を送って硫酸溶液の攪拌を適宜行うことができる。
被覆材料で被覆されている銅線2では、硫酸溶液との接触によって次第に被覆材料が剥離除去され、被覆材料が硫酸溶液中に溶解する。
【0047】
被覆材料が銅線2から除去されると、銅線2に対する洗浄・乾燥工程(ステップS2)に移行する。
洗浄・乾燥工程(ステップS2)では、被覆材料が剥離除去された銅線2を処理槽5から取り出し、図示しない洗浄液で洗浄し乾燥を行う。洗浄・乾燥された銅線2は、純度が維持され、回収率も高い状態で、リサイクルに供することができる。例えば、銅線の純度は99.96%以上、回収率は98%以上の歩留まりを得ることができる。
リサイクルでは、例えば、回収した銅線を溶解、精製して、高い純度で銅線を製造する工程を採用することができる。
【0048】
被覆材料が溶解している硫酸溶液は、電解硫酸溶液生成工程(ステップS3)で電解硫酸装置6による電解が行われる。
電解硫酸溶液生成工程では、循環ポンプ8を動作させ、処理槽5内の硫酸溶液を送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと循環させる。送出路9Bでは、図示しないクーラなどを介設して、送液される硫酸溶液を、温度を20~60℃の温度に調整するのが電解条件として望ましい。
【0049】
電解時の溶液温度を20℃未満とすると陽極表面へのイオンの拡散速度が遅く、電流密度を高めると電極に使用しているダイヤモンドが損耗する。一方電解時の温度を60℃超とすると、酸化剤の自己分解速度が速くなったり、陰極で酸化剤を還元したりといった弊害が生じる。よって、温度域を20~60℃とすることが望ましい。
【0050】
電解セル10では、陽極10A、陰極10B間に電解用直流電源器7により電圧を印加して電流を通じて、陽極10A、陰極10B、バイポーラ電極10Cにより、流路を流れる硫酸溶液を電解し、ペルオキソ二硫酸等の電解硫酸溶液を生成する。
生成された電解硫酸溶液は、導入路9Aを経由し処理槽5に供給が可能となっており、硫酸溶液の再生工程(ステップS4)に移行することができる。
硫酸溶液の再生工程では、処理槽5に供給された電解硫酸溶液は、導入路9Aに介設したヒータや処理槽5内に設けたヒータなどによって60~140℃に加温して酸化力を高めるのが望ましい。60℃未満では、酸化剤の自己分解速度が遅く、140℃を超えると、自己分解速度が速すぎる。
【0051】
電解硫酸溶液が導入された処理槽5では、高い酸化還元電位を有するペルオキソ二硫酸(S 2-)や、ペルオキソ二硫酸が自己分解したペルオキソ一硫酸(HSO )や過酸化水素(H)と、硫酸溶液中に溶解した被覆材料の成分である有機物が反応し、二酸化炭素と水に分解し、硫酸溶液の再生が行われる。再生された硫酸溶液では、樹脂被覆が形成された別の銅線に対し、被覆材料の剥離除去の工程を再度行うことができる。
なお、被覆材料の分解では、過硫酸濃度が0.5g/L以上であるのが望ましい。0.5g/L未満では被覆材料の分解効率が十分ではない。一方で放出された過硫酸は有機物と即座に反応するため、過硫酸濃度は5.0g/L程度までしか上がらない。5.0g/L超にするには、電解セルが多数となりコストの面から実用的ではない。
【0052】
本発明について化学的に説明を加える。
被覆材料が電解した硫酸溶液に溶解する工程は、疎水性を有する絶縁皮膜が疎水性の硫酸溶液に溶解・拡散する現象、すなわち物理現象であり、化学反応式は存在しない。
硫酸溶液を電気分解した際の化学反応式を示す。式(1)より、硫酸溶液を電気分解すると、硫酸溶液中の硫酸水素イオン(HSO )が反応し、高い酸化還元電位を有するペルオキソ二硫酸(S 2-)が生成される。また、ペルオキソ二硫酸は不安定なため、ペルオキソ一硫酸(HSO )や過酸化水素(H)に分解し(式(2)、(3))、電解硫酸溶液内には3種の酸化剤が存在する。
2HSO → 2H + S 2- + 2e (1)
2- + HO → HSO + HSO (2)
HSO + HO → HSO + H (3)
次に有機物である絶縁皮膜がペルオキソ二硫酸などの酸化剤と反応することにより、二酸化炭素及び水に分解する反応を説明する。
【0053】
電解硫酸溶液を生成することで、式(4)~(5)のように硫酸ラジカルやヒドロキシラジカルへと分解される。生成した硫酸ラジカルやヒドロキシラジカルは、式(6)~(7)のように剥離除去溶液内の樹脂成分を完全に酸化分解する。
2- → 2SO ・ (4)
2SO ・ + 2HO → 2HSO + 2OH・ (5)
C、H + 2SO
→ 2HSO- + xCO + yHO (6)
C、H + 2OH・ → xCO + yHO (7)
【0054】
[被覆材料の分解速度の低下]
絶縁被覆材料の分解速度は、硫酸溶液または電解硫酸溶液中の樹脂濃度が高くなると低下する。また、酸化剤濃度が低くなると被覆材料の分解速度は低下する。
有機物である被覆材料が溶解すると、絶縁体である有機物濃度が高まるに従い電気伝導度が低下する。よって電気伝導度で有機物濃度を推測し分解速度を判断することができる。直接有機物濃度を分析する方法もあるが、装置に組み込むには費用が掛かり過ぎるので、この方法により簡易に判断することができる。
酸化剤は有機物と反応し、有機物を二酸化炭素と水に分解する。よって、酸化剤生成速度と有機物溶解速度とのバランスが重要となる。酸化剤生成速度が有機物溶解速度より遅い場合は硫酸溶液または電解硫酸溶液中に有機物濃度は徐々に高くなり、いずれ有機物は溶解しなくなる。溶液の酸化還元電位を測定することで酸化剤の存在量(濃度)を把握でき、被覆材料の分解速度を判断することができる。したがって、硫酸溶液の分解状態を測定する測定部としては、硫酸溶液の電気伝導度および酸化還元電位の一方または両方を測定するものが好適である。
【0055】
(実施形態2)
図3は、処理槽5に、電気伝導度または酸化還元電位を測定する測定部11を設けた処理装置1Aの例を示すものである。電気伝導度は導電率計で、酸化還元電位は酸化還元電位計により測定することができる。なお、前記で説明した構成と同様のものについては同一の符号を付して説明を省略する。
電気伝導度では、分解の進行に伴って、電気伝導度が大きくなり、予め定めた基準値に達すると分解終了と判定することができる。
酸化還元電位では、分解の進行に伴って、酸化還元電位が高くなり、予め定めた基準値に達すると分解終了と判定することができる。
【0056】
測定部11の測定結果は、制御部20で受けて、電解セル10の制御や、循環ポンプ8の制御に用いることができる。測定部11の測定結果が予め定めた基準に達するまでは、電解セル10の稼働および循環ポンプ8の稼働を継続し、測定結果が基準に達した場合には、再生完了として、電解セル10および循環ポンプ8の稼働を停止することができる。その際には、表示部などを介して通知を行うことができ、装置構成によって、処理槽5の硫酸溶液を移動などするようにしてもよい。
なお、この実施形態では、測定部11は、硫酸溶液の電気伝導度または酸化還元電位を測定するものとして説明したが、本開示ではこれに限定されるものではなく、硫酸溶液における被覆材料の分解状態を測定できるものであれば、その構成は特に限定されない。
【0057】
図4は、電解硫酸溶液生成工程および再生工程を示すフローチャートである。
電解硫酸溶液生成工程に基づいて電解を開始し、再生工程に移行する(ステップs3、4)。次いで、測定器11による測定を行い(ステップs5)、測定結果を制御部20で受信する。制御部20では、予め定められて記憶部に記憶された基準値と比較し、測定値が基準値に達しているかを判定する(ステップs6)。測定値が基準値に達していなければ(ステップs6、No)、電解・再生を継続する(ステップs3へ)。測定値が基準値に達していれば(ステップs6、Yes)、再生が完了したものとして、電解および循環ポンプの稼働を停止する。
その後は、必要に応じて硫酸溶液の再利用を行うことができる。
【0058】
(実施形態3)
次に、処理装置1を用いて、過硫酸を含む硫酸溶液で銅線2に被覆された被覆材料を剥離除去する実施形態3を図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0059】
先ず、電解硫酸溶液生成工程(ステップS10)を実施する。
処理槽5には、硫酸溶液を収容する。この際の硫酸溶液は、硫酸濃度を80質量%以上とするのが望ましい。
実施形態1における硫酸溶液と、この実施形態2における電解硫酸溶液の違いは、強酸化剤の存在有無であり、酸化剤が存在するとその酸化力によって溶解速度が速くなる。このため、過硫酸を含む硫酸溶液によって被覆材料の剥離除去を行う場合は、硫酸濃度の下限を80質量%以上とするのが望ましい。
また、溶液温度は、硫酸溶液の場合と同様に、高めることにより溶解速度が速くなるので、電解硫酸溶液の温度を60℃以上にするのが望ましい。同様の理由により90℃以上が望ましい。一方、硫酸濃度を下げることが可能になり銅線の回収率を高めることができる。
【0060】
電解硫酸溶液生成工程では、循環ポンプ8を動作させ、処理槽5内の硫酸溶液を送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと循環させる。送出路9Bでは、図示しないクーラなどを介設して、送液される硫酸溶液を、温度を20~60℃の温度に調整する。処理槽5に収容する温度を当該温度に調整してもよい。
【0061】
電解セル10では、陽極10A、陰極10B間に電解用直流電源器7により電圧を印加して電流を通じて、陽極10A、陰極10B、バイポーラ電極10Cにより、流路を流れる硫酸溶液を電解し、ペルオキソ二硫酸等の電解硫酸溶液を生成する。
【0062】
生成された電解硫酸溶液は、導入路9Aを経由し処理槽5に供給される。
処理槽5内の硫酸溶液が電解硫酸溶液として生成されると、樹脂の剥離工程(ステップS11)に移行する。樹脂の剥離工程中も電解硫酸装置6による電解を継続する。
なお、この実施形態では、バイポーラ電極を有する装置について説明したが、本実施形態としては、バイポーラ電極の有無は特に限定されるものではない。
【0063】
この実施形態では、図1に示す装置を使用するものとして説明したが、電気分解する方法としては特に制限はなく、図1の装置に限定されない。例えば、上記各実施形態では、処理槽5と電解セル10とをそれぞれ用意したが、これらを共通する槽として剥離除去と分解とを行うことも可能である。ただし、剥離除去と電解とは別々の装置(槽)で行うのが効率的である。
【0064】
被覆材料に剥離除去工程(ステップS11)では、被覆材料で被覆されている銅線2を電解した硫酸溶液に浸漬する。この際の電解した硫酸溶液温度は、60℃以上に加温するのが望ましい。
【0065】
電解した硫酸溶液が銅線2上の被覆材料に接触することで、被覆材料を銅線2から効果的に剥離除去する。電解硫酸溶液は、酸化剤を含まない硫酸溶液と比較して、酸化力が強いため銅線表面を、均一に且つ薄く酸化することで過剰な酸化を抑制し、銅線の純度が高いままで被覆材料の剥離除去を行うことができる。
【0066】
また、被覆銅線から剥離除去された剥離材料は、電解した硫酸溶液内に溶解する。
被覆材料が剥離除去された銅線は、前記実施形態と同様に洗浄・乾燥工程に移行する(銅線の洗浄・乾燥工程;ステップS12)。
また、これと同時に溶解した電解硫酸溶液では、電解硫酸溶液の酸化剤によって被覆座利用成分が分解され、硫酸溶液の再生が行われる(硫酸溶液の再生工程;ステップS13)。
この実施形態によれば、銅線からの被覆材料の剥離除去と、電解硫酸溶液に溶解した被覆材料成分の分解を同時期に行うことができ、処理を効率よく行うことができる。
【0067】
(実施形態4)
上記各実施形態では、被覆銅材を硫酸溶液に浸漬させることにより被覆銅材と硫酸溶液との接触を行ったが、硫酸溶液の噴霧や流下などの適宜の方法により被覆材料と硫酸溶液との接触を行うことができる。
図6は、処理槽5に、硫酸溶液を下方に噴霧するノズル12を設けた処理装置1Bを示すものである。この形態の処理槽5は、本開示における硫酸溶液接触部であって、放出接触槽に相当する。なお、前記実施形態と同様の構成については同一の符号を付して、その説明を省略または簡略にする。
【0068】
ノズル12の下方側には、ステージ13上に載せた、被覆材料で被覆された銅線2を配置し、ノズル12から下方に硫酸溶液を噴霧して被覆材料と硫酸溶液とを接触させる。被覆材料は銅線2から剥離除去され、処理槽5Aから送りライン15Aを介して分解貯槽14に収容される。硫酸溶液には、剥離除去された被覆材料が溶解する。
この硫酸溶液は、前記した実施形態と同様に、電解硫酸装置6で電解して、過硫酸溶液を含む硫酸溶液で分解し、再生することができ、再生した硫酸溶液は、送液ポンプ16により戻りライン15Bを介してノズル12に送って剥離除去工程に利用することができる。
送りライン15A、戻りライン15Bは、分解・再生送液路を構成する。
【0069】
(実施形態5)
上記各実施形態1では、1つの処理槽を有する形態について説明をしたが、処理槽を複数有するものであってもよい、この実施形態5を図7に基づいて説明する。
この形態では、処理槽として、第1処理槽5Aと第2処理槽5Bの2つの処理槽を有し、さらに1つの電解硫酸装置6を有しており、第1処理槽5Aと第2処理槽5Bとはそれぞれ電解硫酸装置6に対し、導入路と送出路とが接続されており、第1処理槽5A、第2処理槽5Bと電解硫酸装置6との接続を導入路および送出路の切り替えにより行うことが可能になっている。電解硫酸装置6には実施形態1と同様に、陽極、陰極、バイポーラ電極および電解用直流電源器を備えている。
【0070】
この実施形態では、1つの処理槽、例えば第1処理槽5Aを使用して、被覆材料が被覆された銅線を硫酸溶液に浸漬して被覆材料の剥離除去を行う(図7のA)。第1処理槽5Aでの塗膜の分解速度が低下すると、剥離除去能力が不足するものとして、銅線の取り出しを行い、電解硫酸装置6との間で硫酸溶液の循環と、電解硫酸装置6における電解硫酸生成を行って、塗膜成分の分解と硫酸の再生を行う。
一方、他方の第2処理槽5Bでは、処理槽に硫酸溶液を収容し、塗膜を被覆されている別の銅線を硫酸溶液に浸漬し、塗膜の剥離除去を行う(図7のB)。
この状態で第2処理槽5Bの溶解度が低下すると、銅線を取り出し、電解硫酸装置6との間で溶液を循環させつつ塗膜成分を分解して硫酸の再生を行う。他方の第1処理槽5Aでは、再生された硫酸溶液に塗膜を被覆されている銅線を浸漬して塗膜の剥離を行う(図7のC)。
【0071】
上記手順を繰り返し行うことで、工程を中断することなく、複数の樹脂を継続して処理することができる。なお、この実施形態では、処理槽が2つ備えられているものについて説明したが、その数は特に限定されるものではなく、電解硫酸装置を2以上備える物であってもよい。
前記被覆材料剥離方法を具体的に実施する装置の形態は、前記被覆材料を剥離除去する槽を複数用意し、前記槽における被覆材料の分解速度の低下に応じて当該槽での被覆材料剥離除去を終了し、前記槽内の硫酸溶液を電気分解する。前記被覆材料剥離除去の終了に際し、他の槽における被覆材料の剥離除去を継続または開始することもできる。
【0072】
(実施形態6)
次に他の実施形態を図8に基づいて説明する。なお、前記各実施形態と同様の構成については同一の符号を付して、その説明を省略または簡略化する。
【0073】
処理装置1Cは、硫酸溶液を収容して、被覆銅材を浸漬する処理槽を複数用意し(処理槽50A、50B、50C、50D)、さらに、被覆樹脂が溶解した硫酸溶液を収容する分解貯槽30と、電解硫酸装置6を備えている。
処理槽50A、50B、50C、50Dは、本開示の硫酸接触部であって浸漬接触槽に相当する。分解貯槽30内には、硫酸溶液中に浸漬して、当該硫酸溶液の電気伝導度または酸化還元電位を測定する測定部11が配置されている。
【0074】
処理槽50A、50B、50C、50Dと分解貯槽30との間には、処理槽で処理された硫酸溶液を分解貯槽30に送る送出路29Aと、分解貯槽30で再生した硫酸溶液を送る導入路29Bを有しており、送出路29Aには送液ポンプ32A、導入路29Bには送液ポンプ32Bが設けられている。さらに、導入路29Bには、送液する硫酸溶液を加熱する加熱部28が設けられている。なお、送出路29A、導入路29Bは、分岐してそれぞれ処理槽50A、50B、50C、50Dに接続されている。送出路29A、導入路29Bは、本開示の分解・再生送液路を構成する。
【0075】
また、分解貯槽30と電解硫酸装置6との間には、電解硫酸装置6の硫酸溶液を分解貯槽30に送る導入路31Aと、分解貯槽30の硫酸溶液を電解硫酸装置6に送る送出路31Bとが設けられており、送入路31Bには、循環ポンプ33と、硫酸溶液を冷却する冷却部34とが設けられている。
また、測定部11の測定結果を受けるとともに、送液ポンプ32A,32B、循環ポンプ33の動作を制御する制御部20が設けられている。
【0076】
次に、処理装置1Cの動作について説明する。
処理槽50A、50B、50C、50Dでは、硫酸溶液を収容する。硫酸溶液は、好適には60~140℃に保持されている。
これらの処理槽50A、50B、50C、50Dでは、全部または一部の処理槽に被覆材料が被覆された銅線を硫酸溶液に浸漬し、被覆材料を溶解させて剥離除去する。
【0077】
稼働初期には、分解貯槽30に硫酸溶液を収容し、送液ポンプ32Bによって導入路29Bを通じて必要な処理槽50A、50B、50C、50Dに硫酸溶液を送ることができる。この際に、加熱部28によって所望の温度(例えば60~140℃)に硫酸溶液を加熱することができる。なお、導入路29Bの各分岐路に電磁バルブを設け、制御部20によって電磁バルブの開閉を制御することによって送液する処理槽を選択するようにしてもよい。
【0078】
処理槽50A、50B、50C、50Dで被覆材料が溶解した硫酸溶液は、送液ポンプ32Aによって送出路29Aを通じて分解貯槽30に送られる。処理槽における溶解状態は目視で行ってもよいが、溶液透過度の測定などの適宜の溶解測定部を使用し、その結果を制御部20で受けて、制御部20において溶解基準値との比較により剥離完了を判定することができる。この場合、制御部20では、各分岐路の電磁弁の開閉や送液ポンプ32Aを制御して送液を行うことができる。
【0079】
分解貯槽30に、被覆材料が溶解した硫酸溶液が収容されると、循環ポンプ33を稼働させて硫酸溶液HSOを分解貯槽30と電解硫酸装置6との間で循環しつつ硫酸溶液の電解を行う。循環に際し、分解貯槽30から送られる硫酸溶液は、送出路31Bに設けられた冷却部34で冷却される(例えば20~60℃)。電解硫酸装置6の電解によって硫酸溶液から過硫酸Hが生成され、導入路31Aを通じて加熱部35を介して分解貯槽30に送られる。この際に、過硫酸濃度は、0.5~5.0g/Lとするのが望ましく、加熱部35で60~140℃に加熱されるのが望ましい。
【0080】
分解貯槽30では、導入された過硫酸を含む硫酸溶液によって、硫酸溶液中に溶解した被覆材料の成分が次第に分解される。
上記した動作を継続することで、硫酸溶液中に溶解している被覆材料の濃度は次第に低下する。硫酸溶液中の被覆材料の分解状況は測定部11で測定されて制御部20に送信されている。制御部20では、測定結果が基準値に達しているかを判定し、基準値に達していないければ硫酸溶液の循環、電解を継続する。測定値が基準値に達している場合、分解完了と判定し、電解処理装置6における印加を停止するとともに、循環ポンプ33の動作を停止する。次いで、送液ポンプ32Bを稼働させて分解貯槽30の硫酸溶液を処理槽50A、50B、50C、50Dのいずれかまたは全部に送液し、被覆銅材の剥離除去に再利用する。なお、再生した硫酸溶液は、同一の用途以外に、他の用途に利用するものであってもよい。
制御部20における基準値は予め設定して不揮発の記憶部に格納してもよく、ネットワークなどを介してサーバなどから取得されるものであってもよい。基準値は、被覆材料の種別などによって異なる数値を設定してもよい。
【0081】
上記実施形態では、被覆銅材の剥離除去および再生処理については、処理槽を特定せずに説明したが、これらの処理を複数の処理槽で同時に行ってもよく、また順次処理を行うようにしてもよい。複数の処理槽で順次処理を行うことで順次処理を行うことで無駄なく効率的な処理が可能になる。
【0082】
以上本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
本実施形態において処理する樹脂被覆銅線は、一般的にマグネットワイヤと称されており、銅線を被覆する絶縁皮膜の樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂のいずれであってもよく、特定の樹脂に限定されるものではない。
また、樹脂被覆銅線形状は、平角線、丸線などいずれの形状であってもよく、樹脂被覆銅線単体に限らず、コイルに巻かれた状態などであっても処理することができる。
本実施形態は、自動車、家電、産業用等に使用される電子機器の巻き線用銅線である樹脂被覆銅線から絶縁皮膜を剥離除去し、銅線を回収する方法に好適に利用することができるが、本実施形態の用途がこれら用途に限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
(実施例1)
硫酸溶液94.0質量%、溶液温度100℃で塗膜剥離処理を行った。目視による処理完了の判定後、銅の純度及び処理による銅の残存率を求めた。
なお、目視で処理の完了を判定するために、処理時間の異なる種々のマグネットワイヤ表面と絶縁皮膜の有無を分析装置で確認した結果とを並べた標準図表を作成している。
【0084】
[剥離処理試験片の条件]
試験片には、剥離条件の異なるポリイミド系絶縁皮膜を有するマグネットワイヤから長さ150mm程度に切り出して使用した。
・銅線断面寸法:1.47mm×2.93mm
・絶縁皮膜被覆断面寸法:1.68mm×3.14mm
・ノミナル皮膜厚さ:102.5μm
[剥離処理槽の仕様]
・処理槽5の容積:25L
【0085】
(実施例2~4)
電解硫酸溶液を用いて塗膜剥離処理を行った。実施例2では電解硫酸溶液の使用以外実施例1と同じである。実施例3では90.0質量%、溶液温度110℃で、実施例4では80.0質量%で、溶液温度120℃で塗膜処理を行った。
[電解硫酸溶液の生成]
硫酸溶液を電気分解する際の処理条件を以下に示す。
・陽極10A及び陰極10Bの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・バイポーラ電極10Cの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・電流密度:5~30A/dm
・電解セル循環流量:2~3L/分
【0086】
(比較例1)
水酸化カリウム、モノエタノールアミン、リン酸を主成分とするアルカリ剥離液を95℃とし、塗膜処理を行った。処理溶液量は1Lで行った。また、使用した試験片等は実施例1と同じである。
【0087】
【表1】
【0088】
各試験例における酸化剤濃度は、電解した溶液を一部採取し、その溶液をヨウ素デンプン反応に供し中和滴定することによって、その液の総酸化力(KI値)を求める。一方、溶液を過マンガン酸カリウムで滴定し、液中の過酸化水素量を測定し、その値をKI値から差し引くことで溶液の酸化力とした。
【0089】
参考例1として、実施例1の条件で、実施例2と同等の時間で処理をした。剥離処理は進行するものの、設定した処理時間内では、絶縁皮膜を完全に除去することができず、より長い時間の処理を要することが分かった。絶縁皮膜の剥離除去においても、実施例2-4のように、過硫酸を含む硫酸溶液においては、より効率的に処理を行えることが分かった。
また、参考例2では、硫酸濃度を望ましい数値よりも低くして処理を行った。剥離処理は進行するものの、180分の処理時間で処理を完了することができないため、180分の処理時間で処理を中断した。硫酸濃度が望ましい数値よりも低くすると、処理効率が低下することが分かった。
なお、参考例1、2では、皮膜の剥離除去が完了していないため、Cu純度およびCu残存率の測定は行わなかった。
【符号の説明】
【0090】
1 処理装置
1A 処理装置
1B 処理装置
1C 処理装置
2 銅線
3 気泡発生器
4 エアポンプ
5 処理槽
5A 第1処理槽
5B 第2処理槽
6 電解硫酸装置
7 電解用直流電源器
8 循環ポンプ
9A 導入路
9B 送出路
10 電解セル
10A 陽極
10B 陰極
10C バイポーラ電極
11 測定部
12 ノズル
14 分解貯槽
15A 送りライン
15B 戻りライン
16 送液ポンプ
20 制御部
28 加熱部
29A 送出路
29B 導入路
30 分解貯槽
31A 導入路
31B 送出路
32A 送液ポンプ
32B 送液ポンプ
33 循環ポンプ
34 冷却部
50A 処理槽
50B 処理槽
50C 処理槽
50D 処理槽
【要約】
【課題】樹脂被覆銅材から銅材を効率よく、高い純度で回収する。
【解決手段】銅材に被覆されている被覆材料に硫酸溶液を接触させて被覆材料を硫酸溶液に溶解させて銅材から剥離除去し、硫酸溶液に溶解した被覆材料を、電解硫酸溶液によって分解し、純度の高い銅材を歩留まりよく回収し、さらに硫酸溶液を再生可能とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8