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特許7572705水性ポリマーエマルション、メークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】水性ポリマーエマルション、メークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20241017BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20241017BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241017BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/06
A61Q1/00
A61Q3/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020064323
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161066
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上井 和也
(72)【発明者】
【氏名】古田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 峰大
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-320261(JP,A)
【文献】特開2019-094428(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181833(WO,A1)
【文献】特開昭54-028836(JP,A)
【文献】特開昭57-005410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 1/00-90/00
C08F 2/00- 2/60
C08F 6/00-246/00
C09D 1/00-201/10
B01J 13/00-13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。
【請求項2】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルション。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
請求項1に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体(a)が前記エチレン性不飽和単量体(c)を含有し、前記エチレン性不飽和単量体(a)に対する、前記エチレン性不飽和単量体(a)中の前記エチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和単量体(b)が前記エチレン性不飽和単量体(c)を含有し、前記エチレン性不飽和単量体(b)に対する、前記エチレン性不飽和単量体(b)中の前記エチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和単量体(c)は、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和単量体(a)に対する前記高分子乳化剤(B)の割合は、15質量%以上60質量%以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項8】
前記ポリマー粒子(A)のガラス転移温度は、10℃以上60℃以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項9】
前記高分子乳化剤(B)の酸価は、70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和単量体(b)は、炭素数8以上18以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b2)を含有する、
請求項1から9のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸エステル(b2)の割合は、前記エチレン性不飽和単量体(b)に対して5質量%以上60質量%以下である、
請求項10に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項12】
メークアップ化粧料用である、
請求項1から11のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項13】
請求項12に記載の水性ポリマーエマルションを含有する、
メークアップ化粧料。
【請求項14】
爪用化粧料である、
請求項13に記載のメークアップ化粧料。
【請求項15】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、
水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含み、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項16】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、
水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含み、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリマーエマルション、メークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法に関し、詳しくはメークアップ化粧料に適した水性ポリマーエマルション、この水性ポリマーエマルションを含有するメークアップ化粧料及びこの水性ポリマーエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マニキュアや水性ネイルエナメルなどの爪用化粧料は、爪を装飾することで人に活力や魅力を与える。爪用化粧料の目的の一つとして、爪へのつやの付与が挙げられる。
【0003】
爪用化粧料として、一般にはシリコーン系製剤がよく用いられている。例えば特許文献1には、(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体、ニトロセルロース、可塑剤及び非芳香族系溶剤を含有する溶剤系美爪料が開示されている。
【0004】
しかし、(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体などのシリコーン系製剤を用いると、爪用化粧料の密着性が低くなりやすく、爪から爪用化粧料が剥離したり、爪用化粧料の重ね塗りによって爪の上に複数の膜を重ねた場合に膜間の剥離が起こったりしやすくなる。
【0005】
発明者は、溶剤系ではなくメークアップ用途においてよく用いられるO/W型エマルションを爪用化粧料に適用することも検討した。
【0006】
しかし、O/W型エマルションには、凍結してしまうと、常温に戻しても粒子が凝集したり破壊されたりしてしまうため、再使用不可能となるという問題がある。
【0007】
この問題に関し、特許文献2には、凍結安定性、凍結復元性の付与のため、スチレン系単量体15~35重量%、アクリル酸系単量体及び/又はメタアクリル酸系単量体65~85重量%及び共重合性単量体0~40重量%からなる共重合体又はその塩からなるロジン系サイズ剤用乳化分散剤を用いることが、開示されている。
【0008】
しかし、このような乳化剤は、凍結安定性、凍結復元性の付与のためには多量に使用される必要がある。そのため、特に爪用化粧料に適用される場合には、爪用化粧料から作製される膜のつやなどの特性が悪化しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-70070号公報
【文献】特開平7-229087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、O/W型エマルションを実現でき、凍結してから常温に戻しても流動性が損なわれにくく、かつ膜を作製した場合に膜がつやを有しやすい水性ポリマーエマルション、この水性ポリマーエマルションを含有するメークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る水性ポリマーエマルション(X)は、ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する。前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である。前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体である。前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有する。
【0012】
本発明の一態様に係るメークアップ化粧料は、前記水性ポリマーエマルション(X)を含有する。
【0013】
本発明の一態様に係る水性ポリマーエマルション(X)の製造方法は、ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する水性ポリマーエマルション(X)の製造方法である。本方法は、水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含む。前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体である。前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、O/W型エマルションを実現でき、凍結してから常温に戻しても流動性が損なわれにくく、かつ膜を作製した場合に膜がつやを有しやすい水性ポリマーエマルション(X)、この水性ポリマーエマルション(X)を含有するメークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルション(X)の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本実施形態に係る水性ポリマーエマルション(X)は、ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する。ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体である。高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体である。エチレン性不飽和単量体(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有する。
【0017】
本実施形態では、ポリマー粒子(A)と高分子乳化剤(B)とは、ポリマー粒子(A)を高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成できる。すなわち、エマルション粒子は、コアであるポリマー粒子(A)と、シェルである高分子乳化剤(B)とを備えている。このため、水性ポリマーエマルション(X)は、O/W型エマルションを実現でき、この水性ポリマーエマルション(X)中ではエマルション粒子が安定して分散しやすい。また、水性ポリマーエマルション(X)が凍結してから常温に戻してもエマルション粒子の凝集及び破壊が生じにくい。すなわち、水性ポリマーエマルション(X)は、良好な凍結復元性を有しやすい。さらに、エチレン性不飽和単量体(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方が、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有することで、水性ポリマーエマルション(X)から作製された膜は良好なつやを有しやすい。
【0018】
本実施形態について、さらに詳しく説明する。
【0019】
本実施形態において、水性ポリマーエマルション(X)とは、水(D)を含有する溶媒と、溶媒中に分散しているエマルション粒子とを含むエマルションをいう。上述のとおり、エマルション粒子は、コアであるポリマー粒子(A)と、シェルである高分子乳化剤(B)とを備えている。
【0020】
上述のとおり、ポリマー粒子(A)はエチレン性不飽和単量体(a)の重合体、高分子乳化剤(B)はエチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、かつエチレン性不飽和単量体(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有する。すなわち、エチレン性不飽和単量体(a)とエチレン性不飽和単量体(b)とのうち一方のみがエチレン性不飽和単量体(c)を含有してもよく、両方がエチレン性不飽和単量体(c)を含有してもよい。言い換えると、ポリマー粒子(A)と高分子乳化剤(B)とのうち一方のみがエチレン性不飽和単量体(c)に由来する構成単位を有してもよく、両方がエチレン性不飽和単量体(c)に由来する構成単位を有してもよい。
【0021】
エチレン性不飽和単量体(c)の屈折率とは、例えば25℃のエチレン性不飽和単量体(c)にNaのD線(589.3nm)を照射して測定される値でありうる。
【0022】
エチレン性不飽和単量体(c)は、芳香環を有する単量体を含有することが好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)から作製される膜は耐水性を有しやすく、そのため汗、水などに晒された場合の膜の耐久性が高くなりやすい。また芳香環を有する単量体は屈折率が高く、膜の良好なつや感を得ることができる。芳香環を有する単量体は、例えばスチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、及びジビニルベンゼン等の芳香族モノ及びジビニル化合物;並びにm-フェノキシベンジルアクリレート(mPBA)及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)等の芳香環を有する(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0023】
エチレン性不飽和単量体(c)は、芳香環を有する(メタ)アクリル系単量体を含有することが好ましい。この場合、エチレン性不飽和単量体(c)は、エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々を構成する他の(メタ)アクリル系単量体との共重合性が良く、かつ膜のガラス転移温度の過度な上昇を引き起こしにくい。そのため、膜が形成されやすく、かつ膜が脆くなりにくい。エチレン性不飽和単量体(c)がm-フェノキシベンジルアクリレート(mPBA)及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)のうち、少なくとも一方を含有すれば、より好ましい。エチレン性不飽和単量体(c)は、芳香族モノビニル化合物、芳香族ジビニル化合物などの、芳香族ビニル化合物を含有しないことが好ましい。この場合、膜がより形成されやすく、かつ膜がより脆くなりにくい。ただし、本実施形態の効果を過度に損なわない範囲内でエチレン性不飽和単量体(c)が芳香族ビニル化合物を含有してもよい。
【0024】
エチレン性不飽和単量体(a)がエチレン性不飽和単量体(c)を含有する場合、エチレン性不飽和単量体(a)に対する、エチレン性不飽和単量体(a)中のエチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下であることが好ましい。この割合が1質量%以上であると、膜のつやが特に良好になりやすい。また、この割合が80質量%以下であると、水性ポリマーエマルション(X)が安定したO/W型エマルションを特に実現しやすい。この割合は、5質量%以上70質量%以下であればより好ましく、10質量%以上60質量%以下であれば更に好ましい。
【0025】
エチレン性不飽和単量体(b)がエチレン性不飽和単量体(c)を含有する場合、エチレン性不飽和単量体(b)に対する、エチレン性不飽和単量体(b)中のエチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下であることが好ましい。この割合が1質量%以上であると、膜のつやが特に良好になりやすい。また、この割合が80質量%以下であると、水性ポリマーエマルション(X)が安定したO/W型エマルションを特に実現しやすい。この割合は、5質量%以上70質量%以下であればより好ましく、10質量%以上60質量%以下であれば更に好ましい。
【0026】
またエチレン性不飽和単量体(c)の割合が水性ポリマーエマルション(X)の固形分に対して1質量%以上80質量%以下であれば、膜のつやがより良好になりやすい。この割合は5質量%以上70質量%以下であればより好ましく、10質量%以上60質量%以下であれば更に好ましい。
【0027】
エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々は、エチレン性不飽和単量体(c)以外に、適宜の単量体を含有でき、親水性単量体と疎水性単量体とのうちいずれも含有できる。
【0028】
エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々が親水性単量体を含有する場合、親水性単量体は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びクロトン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、及びポリエチレングリコールモノメタクリレート等のヒドロキシ基又はグリシジル基含有エチレン性単量体;並びにアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、及びN-ダイアセトンアクリルアミド等のエチレン性アミド;アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N,N-トリメチルアミノエチルアクリレート、及びN,N,N-トリメチルアミノエチルメタクリレート等のエチレン性アミン及びその塩等からなる群から選択される少なくとも一種の単量体を含有する。
【0029】
エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々が疎水性単量体を含有する場合、疎水性単量体は、例えばスチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、及びジビニルベンゼン等の芳香族モノ及びジビニル化合物;m-フェノキシベンジルアクリレート(mPBA)及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)等の芳香環を有する(メタ)アクリル系単量体;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ターシャリーブチルアクリレート、及びターシャリーブチルメタクリレート等のアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;並びに塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル等からなる群から選択される少なくとも一種の単量体を含有する。なお、このように、上記のエチレン性不飽和単量体(c)に含まれる芳香族モノ及びジビニル化合物及び芳香環を有する(メタ)アクリル系単量体は、疎水性単量体に含まれる。
【0030】
エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々は、(メタ)アクリル系単量体を含有することが好ましい。また、エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々は、スチレン系単量体などの芳香族ビニル化合物を含有しないことが好ましい。この場合、エチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々を構成する(メタ)アクリル系単量体との共重合性が良く、かつ膜のガラス転移温度の過度な上昇を引き起こしにくいので、膜が形成されやすく、かつ膜が脆くなりにくい。ただし、本実施形態の効果を過度に損なわない範囲内でエチレン性不飽和単量体(a)及びエチレン性不飽和単量体(b)の各々が芳香族ビニル化合物を含有してもよい。
【0031】
エチレン性不飽和単量体(a)中の、親水性単量体の含有割合は0質量%以上30質量%以下であり、疎水性単量体の含有割合は70質量%以上100質量%以下であることが好ましい。この場合、高分子乳化剤(B)を用いた乳化重合によりポリマー粒子(A)が特に安定して合成されやすく、かつエマルション粒子が特に安定して分散しやすい。親水性単量体の含有割合が0質量%以上15質量%以下であり、疎水性単量体の含有割合は85質量%以上100質量%以下であれば、より好ましい。
【0032】
エチレン性不飽和単量体(b)中の、親水性単量体の含有割合は5質量%以上40質量%以下であり、疎水性単量体の含有割合は60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。この場合、高分子乳化剤(B)を用いた乳化重合によりポリマー粒子(A)が特に安定して合成されやすく、かつエマルション粒子が特に安定して分散しやすい。親水性単量体の含有割合が10質量%以上35質量%以下であり、疎水性単量体の含有割合は65質量%以上90質量%以下であれば、より好ましい。
【0033】
エチレン性不飽和単量体(b)は、特にアニオン性のエチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。すなわち、高分子乳化剤(B)はアニオン性であることが好ましい。この場合、高分子乳化剤(B)を用いた乳化重合によりポリマー粒子(A)が安定して合成されやすく、かつポリマー粒子(A)と高分子乳化剤(B)とを備えるエマルション粒子が安定して分散しやすい。アニオン性のエチレン性不飽和単量体は、例えば(メタ)アクリル酸等を含有する。
【0034】
高分子乳化剤(B)の酸価が70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることも好ましい。すなわち、高分子乳化剤(B)の酸価が70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であるように、エチレン性不飽和単量体(b)中のアニオン性のエチレン性不飽和単量体の割合が規定されていることが好ましい。この場合、高分子乳化剤(B)を用いた乳化重合によりポリマー粒子(A)が特に安定して合成されやすく、かつ水性ポリマーエマルション(X)中でエマルション粒子が特に安定して分散しやすい。高分子乳化剤(B)の酸価は、100mgKOH/g以上230mgKOH/g以下であればより好ましく、140mgKOH/g以上210mgKOH/g以下であれば更に好ましい。
【0035】
エチレン性不飽和単量体(b)が、炭素数8以上18以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b2)を含有することも好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)が凍結安定性を有しやすい。(メタ)アクリル酸エステル(b2)の割合は、エチレン性不飽和単量体(b)に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)が凍結安定性を有しつつ、安定的にポリマー粒子(A)が合成されやすい。この割合は10質量%以上40質量%以下であればより好ましく、15質量%以上30質量%以下であれば更に好ましい。
【0036】
高分子乳化剤(B)のガラス転移温度は、-50℃以上100℃以下であることが好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)から作製される膜のガラス転移温度の過度な上昇を引き起こしにくいので、膜が形成されやすく、かつ膜が脆くなりにくい。このガラス転移温度は、30℃以上70℃以下であればより好ましい。
【0037】
高分子乳化剤(B)の重量平均分子量は6000以上20000以下であることが好ましい。この場合、ポリマー粒子(A)を安定的に合成しやすく、かつエマルション粒子が安定して分散しやすい。この重量平均分子量は、8000以上15000以下であればより好ましい。なお、高分子乳化剤(B)の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)により測定される。
【0038】
なお、高分子乳化剤(B)は、市販品から選択されてもよい。
【0039】
エチレン性不飽和単量体(a)に対する高分子乳化剤(B)の割合は、15質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この場合、高分子乳化剤(B)を用いた乳化重合により、水性ポリマーエマルション(X)が凍結安定性を有しつつ、ポリマー粒子(A)が特に安定して合成されやすく、かつエマルション粒子が特に安定して分散しやすい。この割合は、20質量%以上50質量%以下であればより好ましく、25質量%以上40質量%以下であれば更に好ましい。
【0040】
ポリマー粒子(A)の重量平均分子量は300000以下であることが好ましく、150000以上250000以下であれば更に好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)から作成される膜は丈夫かつ耐水性を有しやすい。この場合のポリマー粒子(A)の重量平均分子量は、150000以上220000以下であればより好ましい。なお、ポリマー粒子(A)の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)により測定される。
【0041】
ポリマー粒子(A)のガラス転移温度は、10℃以上60℃以下であるであることが好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)から作製される膜のガラス転移温度の過度な上昇を引き起こしにくいので、膜が形成されやすく、かつ膜が脆くなりにくい。このガラス転移温度は、15℃以上40℃以下であればより好ましい。
【0042】
コアであるポリマー粒子(A)とシェルである高分子乳化剤(B)とを備えるエマルション粒子のガラス転移温度は、10℃以上50℃以下であることが好ましい。この場合、水性ポリマーエマルション(X)から作製される膜のガラス転移温度の過度な上昇を引き起こしにくいので、膜が形成されやすく、かつ膜が脆くなりにくく、べたつきを生じない。このガラス転移温度は、15℃以上35℃以下であればより好ましい。
【0043】
水性ポリマーエマルション(X)は水性溶媒を含有し、水性溶媒は水(D)を含有する。すなわち、水性ポリマーエマルション(X)は水(D)を含有する。水性溶媒は水(D)のみを含有してもよく、水(D)と親水性有機溶媒とを含有してもよい。親水性有機溶媒とは、水と容易に混和する、あるいは水に容易に溶解する有機溶媒である。親水性有機溶媒は、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及び2-ヒドロキシイソ酪酸メチルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0044】
水性ポリマーエマルション(X)の製造方法について説明する。
【0045】
水性ポリマーエマルション(X)の製造方法は、水性溶媒中で、高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することでポリマー粒子(A)を合成することを含む。
【0046】
水性溶媒は、水(D)を含有する。水性溶媒は、水(D)のみを含有してもよく、水(D)と親水性有機溶媒とを含有してもよい。親水性有機溶媒については既に説明したとおりである。
【0047】
エチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合させる際には、分散安定化のために、高分子乳化剤(B)以外の界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤には特に制限はなく、一般のアニオン系、カチオン系及びノニオン系界面活性剤、エチレン性不飽和結合をもつ反応性活性剤からなる群から選択される少なくとも一種を使用できる。アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤との組合せ、カチオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤の組合せ等のように、二種以上の界面活性剤を併用してもよい。ノニオン系界面活性剤は、例えばポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテル、及びポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイドブロックコポリマー等からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。アニオン系界面活性剤は、例えばアルキルベンゼンスルホネート、アルキルナフタレン-スルホネート、及びポリエチレンオキサイドアルキルエーテルサルフェート等からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。
【0048】
カチオン系界面活性剤は、例えば脂肪族炭化水素基を有する第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、及び第4級アンモニウム塩等からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。
【0049】
エチレン性不飽和結合を持つ反応性活性剤は、アニオン系とノニオン系のどちらでもよく、例えばアルキルエーテル系、スルホコハク酸エステル系、アルキルフェニルエーテル系、アルキルフェニルエステル系、(メタ)アクリレート硫酸エステル系、リン酸エステル系からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。
【0050】
界面活性剤の量は、エチレン性不飽和単量体(a)100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。この場合、膜の物性及び密着性が劣化しにくい。
【0051】
重合開始剤の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合させることも好ましい。重合開始剤は、例えば有機系重合開始剤と無機系重合開始剤とのうち少なくとも一方を含有する。有機系重合開始剤は、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びパラメンタンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、及びラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド類;並びにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。無機系重合開始剤は、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。重合開始剤は、更に重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸及びその塩等の還元剤を含有してもよい。有機系重合開始剤と無機系重合開始剤とのうち少なくとも一方と、還元剤との組み合わせにより、レドックス系重合開始剤が構成される。なお、重合開始剤は前記のみには制限されない。
【0052】
水性ポリマーエマルション(X)を製造する際には、例えばまず必要に応じて水性溶媒中に、エチレン性不飽和単量体(a)を中和するための中和剤を加える。中和剤は例えばアンモニア水である。続いて水性溶媒を必要により加熱しながら、水性溶媒に高分子乳化剤(B)を加える。続いて、不活性雰囲気下で、水性溶媒を加熱しながら、水性溶媒中に重合開始剤とエチレン性不飽和単量体(a)とを加える。これにより、水性溶媒中でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合させて、ポリマー粒子(A)を合成する。これにより、水性ポリマーエマルション(X)が得られる。エチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合させるための反応条件は、高分子乳化剤(B)の組成、エチレン性不飽和単量体(a)の組成などに応じて、適宜設定される。
【0053】
水性溶媒中にエチレン性不飽和単量体(a)を加える際には、あらかじめエチレン性不飽和単量体(a)を界面活性剤の存在下で乳化させることでプレ乳化物を作製してから、このプレ乳化物を溶媒に加えてもよい。この場合、ポリマー粒子が安定的に合成されやすく、かつエマルション粒子が安定して分散しやすい。また水性ポリマーエマルションから得られる膜が丈夫で、耐水性を有しやすい。
【0054】
なお、水性ポリマーエマルション(X)を製造する方法は、上記のみには制限されない。
【0055】
メークアップ化粧料について説明する。メークアップ化粧料は、水性ポリマーエマルション(X)を含有する。そのため、メークアップ化粧料は、良好な凍結復元性を有しやすく、またメークアップ化粧料から作製された膜は良好なつやを有しやすい。
【0056】
メークアップ化粧料は、水性ポリマーエマルション(X)に加えて、適宜の添加剤を含有できる。例えばメークアップ化粧料は、可塑剤、皮膜形成剤、ゲル化剤、粉体、繊維、希釈剤、粘度調整剤、油剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、保湿剤、香料、顔料、水性成分、無機酸、及び有機酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。可塑剤は、例えばジプロピレングリコール、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、及びカンフル等からなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。特にメークアップ化粧料が可塑剤を含有すると、メークアップ化粧料から膜が特に作製されやすくなり、丈夫な膜を得られやすい。可塑剤の割合は、メークアップ化粧料に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この場合、エマルション粒子のTgが高く成膜性が低いメークアップ化粧料でも、べたつきを生じることなく、丈夫な膜が得られやすくなり、またこれにより膜のつやが更に良好になりやすい。
【0057】
メークアップ化粧料は、上記の利点を有することから、特に爪用化粧料であることが好ましい。ただし、メークアップ化粧料は、爪用化粧料に限らず、アイライナー、マスカラ等であってもよい。
【実施例
【0058】
以下、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、以下の実施例のみには制限されない。
【0059】
1.水性ポリマーエマルションの調製
(1)実施例1~23、比較例1
高分子乳化剤として、表1~3に示す組成を有する単量体(b)の共重合体を用意した。表1~3の単量体(b)の成分の詳細は下記のとおりである。
Aa:アクリル酸(屈折率1.42)。
MAa:メタクリル酸(屈折率1.43)。
HEMA:メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(屈折率1.45)。
MMA:メタクリル酸メチル(屈折率1.41)。
BMA:メタクリル酸ブチル(屈折率1.43)。
BA:アクリル酸ブチル(屈折率1.41)。
HA:アクリル酸-2-エチルヘキシル(屈折率1.44)。
LMA:メタクリル酸ラウリル(屈折率1.44)。
mPBA:m-フェノキシベンジルアクリレート(屈折率1.57)。
【0060】
この高分子乳化剤のガラス転移温度(Tg)、酸価(AV)、及び重量平均分子量(Mw)は、表1~3に示すとおりである。
【0061】
また、ポリマー粒子を合成するためのモノマーとして、表1~3に示す組成を有する単量体(a)を用意した。水50質量部中で、単量体(a)100質量部を、界面活性剤であるαオレフィンスルホン酸ナトリウムとジオクチルスルホコハク酸ナトリウムとの混合物1質量部の存在下で乳化することで、エチレン性不飽和単量体(a)のプレ乳化物を含む液を得た。表1~3の単量体(a)の成分の詳細は下記のとおりである。
MAa:メタクリル酸(屈折率1.42)。
HEMA:メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(屈折率1.45)。
MMA:メタクリル酸メチル(屈折率1.41)。
BMA:メタクリル酸ブチル(屈折率1.43)。
BA:アクリル酸ブチル(屈折率1.41)。
HA:アクリル酸-2-エチルヘキシル(屈折率1.44)。
St:スチレン(屈折率1.59)。
BZA:ベンジルアクリレート(屈折率1.51)。
mPBA:m-フェノキシベンジルアクリレート(屈折率1.57)。
HPPA:2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(屈折率1.53)。
【0062】
反応容器として、還流冷却器、温度計、窒素吹込管、滴下漏斗、及び攪拌機が取り付けられた容量1リットルの4つ口フラスコを用い、この反応容器中に溶媒である水90質量部と25%アンモニア水とを加えた。25%アンモニア水の量は、高分子乳化剤中のカルボキシル基の中和率が100%になるように調整した。
【0063】
反応容器内に高分子乳化剤を徐々に加え、反応容器内の液を70℃まで昇温して1時間保持することで高分子乳化剤を液中に溶解させた。続いて反応容器内の液を窒素気流下で80℃まで昇温した。続いて反応容器内にプレ乳化物を含む液と、開始剤である過硫酸アンモニウム(APS)の5%水溶液とを、一緒に、4時間かけて滴下した。各成分の配合量は表1~3の「配合量」の欄に示すとおりである。これにより、反応用器内に、水性ポリマーエマルションを得た。
【0064】
(2)比較例2、3
ポリマー粒子を合成するためのモノマーとして、表3に示す組成を有する単量体(a)を用意した。水50質量部中で、単量体(a)100質量部を、界面活性剤であるαオレフィンスルホン酸ナトリウムとジオクチルスルホコハク酸ナトリウムとの混合物1質量部の存在下で乳化することで、エチレン性不飽和単量体(a)のプレ乳化物を含む液を得た。
【0065】
反応容器として、還流冷却器、温度計、窒素吹込管、滴下漏斗、及び攪拌機が取り付けられた容量1リットルの4つ口フラスコを用い、この反応容器中に溶媒である水90質量部と、界面活性剤としてαオレフィンスルホン酸ナトリウムとジオクチルスルホコハク酸ナトリウムとの混合物を加え、続いて反応容器内の液を窒素気流下で80℃まで昇温した。続いて反応容器内にプレ乳化物を含む液と、開始剤である過硫酸アンモニウム(APS)の5%水溶液とを、一緒に、4時間かけて滴下した。各成分の配合量は表3の「配合量」の欄に示すとおりである。これにより、反応用器内に、水性ポリマーエマルションを得た。
【0066】
2.評価試験
下記の評価試験を行った。その結果を表1~3に示す。
【0067】
(1)ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)
ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)は、単量体(a)の組成割合から理論的に計算される値であり、下記のFoxの式で算出した値である。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg
上記Foxの式において、nは1以上の整数であり、単量体(a)として用いるモノマーの種類を示す。すなわち、n種類のモノマーの重合によってポリマー粒子を得た場合の計算式である。W,W,・・・Wは、n種類のモノマーの各質量分率を示し、Tg,Tg,・・・Tgは、n種類のモノマーのホモポリマーの各ガラス転移温度を示す。上記Foxの式におけるガラス転移温度の単位は絶対温度「K」であり、その計算値をセルシウス温度「℃」に変換した値をポリマー粒子のガラス転移温度とする。
【0068】
(2)エマルション粒子のガラス転移温度(Tg)
エマルション粒子のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量計(DSC)により測定した。
【0069】
(3)エマルション安定性
水性ポリマーエマルションを40℃雰囲気下に30日間暴露し、その間に沈降物が認められない場合を「A」、沈降物がわずかに見られる場合を「B」と、評価した。
【0070】
(4)凍結復元性
水性ポリマーエマルション20gを、-20℃の雰囲気下に2時間曝露することで、凍結させた。続いて水性ポリマーエマルションを室温で解凍した。解凍後の水性ポリマーエマルションを観察し、流動性が損なわれておらず、かつ沈降物が認められない場合は「A」、流動性が損なわれていないが沈降物が認められた場合は「B」、流動性が損なわれ、かつ沈降物が認められる場合は「C」と、評価した。
【0071】
(5)膜評価
試料として実施例1~5、8~11、14~23及び比較例1~3の場合は水性ポリマーエマルションをそのまま用い、実施例6、7、12、13の場合は水性ポリマーエマルションに可塑剤としてジプロピレングリコールを表1、2に示す含有割合になるように加えたものを用いた。
【0072】
ネイル用の刷毛を用いて、ガラス板に試料を塗布してから、自然乾燥させることで、膜を作製した。
【0073】
(5-1)成膜性
膜を観察した結果に基づいて成膜性を評価した。評価にあたっては、膜にクラックが入っていない場合を「A」、膜にわずかにクラックが入っている場合を「B」、膜に大きなクラックが入り、または多数のクラックが入っている場合を「C」と、評価した。
【0074】
(5-2)耐水性
膜を40℃の水に10分浸漬してから、膜の外観を観察した。その結果、膜に変色及び白濁が認められない場合を「A」、膜がやや青白くなった場合を「B」、膜が白濁した場合を「C」と、評価した。
【0075】
(5-3)つや
10人の評価者が、膜の外観を観察して、膜のつやの程度を判断した。その結果、つやが良好であると判断した評価者が7人以上である場合を「A」、3人以上6人以下である場合を「B」、2人以下である場合を「C」と、評価した。
【0076】
(5-4)べたつき
10人の評価者が、膜を指で触れ、膜のべたつきの程度を判断した。その結果、べたつくと判断した評価者が2人以下である場合を「A」、3人以上5人以下である場合を「B」、6人以上である場合を「C」と、評価した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】