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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20241017BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20241017BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20241017BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241017BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20241017BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20241017BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241017BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241017BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241017BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C07K7/06
C07K7/08
C07K19/00
A61K38/08 ZNA
A61K38/10
A61P43/00 105
A61P35/00
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020156528
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2021048838
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019168564
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 2018年度 修士論文公開審査会《要旨集》 発行日2019年2月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名、開催場所 2018年度 修士論文公開審査会 長浜バイオ大学 (滋賀県長浜市田村町1266) 開催日2019年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慎
(72)【発明者】
【氏名】朱 耘浩
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/011650(WO,A2)
【文献】Peptides,2005年,Vol.26,pp.2124-2128,doi:10.1016/j.peptides.2005.03.001
【文献】Amino Acids,2013年,Vol.45,pp.143-157,DOI 10.1007/s00726-013-1482-4
【文献】J. Peptide Res.,2002年,Vol.59,pp.105-114
【文献】2P-1431,2017年度生命科学系学会合同年次大会(日本分子生物学会・日本生化学会大会)要旨集,2017年12月07日,3189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 38/08
A61P 43/00
A61P 35/00
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、又は配列番号33で表される配列を含む、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害する作用を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項に記載のポリヌクレオチドを発現可能に含む、ベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチド、請求項に記載のポリヌクレオチド、または請求項に記載のベクターを含む組成物。
【請求項5】
組成物が医薬組成物である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物が、悪性腫瘍の予防及び/又は治療に使用される、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
標的ペプチドに、請求項1に記載のペプチドを結合させることを含む、
標的ペプチドをプロテアソーム20Sコアによる分解から保護する方法。
【請求項8】
配列番号15で表される配列を含む、細胞傷害活性を有するペプチド。
【請求項9】
さらに塩基性ペプチドをN末端、又はC末端に付加した請求項1又は8に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアソームは、タンパク質に分解の目印として付加されたユビキチン修飾を認識し、分解することにより、特定のタンパク質を特定の時期で分解することができる。このユビキチン-プロテアソーム系は、タンパク質の細胞内存在量を負に調節する主要な経路である。ユビキチン-プロテアソーム系は、細胞周期、遺伝子発現、シグナル伝達、免疫応答をはじめとした幅広い生命現象において中心的に機能している。
【0003】
プロテアソーム阻害剤は、抗がん剤として位置づけられ、血液悪性腫瘍の治療に使用されている。
【0004】
ボルテゾミブは最初に臨床応用されたプロテアソーム阻害剤であり、多発性骨髄腫の多剤併用療法における標準的治療薬となっている。
【0005】
ボルテゾミブは、プロテアソームのキモトリプシン様活性を可逆的に阻害する。しかし、一定期間の治療の後、βサブユニットの突然変異により耐性化するケースが多い(非特許文献1)。第二世代であるカルフィルゾミブは、不可逆的なプロテアソーム阻害剤である。カルフィルゾミブは、キモトリプシン様活性に対し、ボルテゾミブよりも高い選択性を示す(非特許文献2)。第三世代のイクサゾミブは経口投与が可能となった。開発段階のものとしては、不可逆的阻害剤であるマリゾミブ(非特許文献3)、経口投与可能なデランゾミブなどが挙げられる(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】E. Suzuki, et al (2011): Molecular Mechanisms of Bortezomib Resistant Adenocarcinoma Cells. PLoS One, 6: e27996, doi: 10.1371/journal.pone.0027996.
【文献】S.D. Demo, et al (2007): Antitumor activity of PR-171, a novel irreversible inhibitor of the proteasome. Cancer Res., 67, pp. 6383-6391
【文献】D. Chauhan, T. Hideshima, and K.C. Anderson (2006): A novel proteasome inhibitor NPI-0052 as an anticancer therapy. Br. J. Cancer, 95, pp. 961-965
【文献】R. Piva, B. Ruggeri, et al, (2008): CEP-18770: a novel, orally active proteasome inhibitor with a tumor-selective pharmacologic profile competitive with bortezomib. Blood, 111, pp. 2665-2675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロテアソーム阻害剤を用いた多剤併用療法により、多発性骨髄腫の患者の余命が大きく向上した。しかし、その一方で、プロテアソーム阻害剤に対するがん細胞の耐性化の問題は克服できていない。このため、耐性化を克服するか、耐性機構が獲得されたプロテアソームの阻害機構とは異なる機構を有する新たなプロテアソーム阻害剤を開発する必要がある。
【0008】
本発明は、前記既存のプロテアソーム阻害剤の耐性化に備え、従来とは異なる阻害機構を持つプロテアソーム阻害活性を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、従来とは異なる阻害機構を持つプロテアソーム阻害活性を有するペプチドを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.下記アミノ酸配列の、第1番目から第7番目、第2番目から第7番目、第3番目から第7番目、第1番目から第6番目、第2番目から第6番目、または第3番目から第6番目の配列を含む、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害する作用を有するペプチド:Ser-Xaa1-Leu-Xaa2-His-Trp-Trp(配列番号1);ここで、Xaa1およびXaa2は任意のアミノ酸残基を示す。
項2.さらに、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のC末端に任意のアミノ酸残基であるXaa3を有する、項1に記載のペプチド。
項3.さらに、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端に、アミノ酸配列Met-Xaa4-Xaa5-Pro-(配列番号5)を有し、Xaa4およびXaa5は任意のアミノ酸残基を示す項1または2に記載のペプチド。
項4.項1から3のいずれか一項に記載のペプチドをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
項5.項4に記載のポリヌクレオチドを発現可能に含む、ベクター。
項6.項1から3のいずれか一項に記載のペプチド、項4に記載のポリヌクレオチド、または項5に記載のベクターを含む組成物。
項7.組成物が医薬組成物である、項6に記載の組成物。
項8.医薬組成物が、悪性腫瘍の予防および/または治療に使用される、項7に記載の組成物。
項9.標的ペプチドに、項1から3のいずれか一項に記載のペプチドを結合させることを含む、標的ペプチドをプロテアソーム20Sコアによる分解から保護する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害するペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】PI-Rank1ペプチドの阻害様式の解析結果を示す。(A)各濃度におけるPI-Rank1ペプチドのLineweaver-Burkプロットを示す。(B)各濃度におけるPI-Rank1ペプチドのDixonプロットを示す。
図2】PI-Rank1のキモトリプシン様活性とカスパーゼ様活性に対するKi値を示す。
図3】N末端またはC末側を欠失させたPI-Rank1(6-17)とPI-Rank1(1-12)の阻害作用を示す。(A)PI-Rank1(1-17)、PI-Rank1(6-17)およびPI-Rank1(1-12)のプロテアソーム20SのCT-L活性に対するIC50を示す。(B)CT-L活性に対する各ペプチドの濃度依存的な阻害曲線を示す。
図4】N末端から、またはC末側から段階的にアミノ酸を欠失させたPI-Rank1ペプチドアナログの20S酵素阻害活性(50%阻害濃度(IC50))の変化を示す。
図5】1アミノ酸ずつアラニンに置換したPI-Rank1ペプチドアナログの20S酵素阻害活性(50%阻害濃度(IC50))の変化を示す。
図6】(A)図3に示した阻害活性をグラフで示す。(B)図4に示した阻害活性をグラフで示す。
図7】26Sプロテアソームに対するPI-Rank1(5-12)の阻害作用を示す。
図8】(A)20Sコアと、PI-Rank1(5-12)との結合性を示す。(B)20Sコアまたは26Sプロテアソームと、PI-Rank1(5-12)との結合性を示す。
図9】(A)20Sコアを構成するサブユニットのうち、PI-Rank1(5-12)と結合する部位を同定するための二次元電気泳動による解析結果を示す。(B)αサブユニットとβサブユニットの立体構造を側面から見た模式図を示す。(C)α1サブユニット部位におけるαサブユニットの断面図を示す。
図10】(A)Rpt3とβ1サブユニットの結合様式の模式図を示す。(B)(A)の断面図を示す。(C)α1サブユニットのRpt3結合ポケットと、Rpt3のC末端側の3アミノ酸残基の結合ポケット内の立体構造を示す。(D)Rpt3とPI-Rank1(5-12)のC末端側アミノ酸配列の比較を示す。(D)中、「酸」は酸性アミノ酸、「中」は中性アミノ酸、「塩」は塩基性アミノ酸、「芳」は芳香族アミノ酸を示す。また、(親)は親水性アミノ酸を示し、(疎)は疎水性アミノ酸を示す。
図11】Rpt3のC末端ペプチドとPI-Rank1(5-12)とが20S酵素活性に及ぼす影響を示す。(A)基質分解の経時的変化を示す。点線は、PI-Rank1(5-12)非存在下でのCT-L活性を、実線は、PI-Rank1(5-12)非存在下でのCT-L活性を示す。(B)PI-Rank1(5-12)の存在下、非存在下におけるRpt3のC末端ペプチドの20S酵素活性促進作用を示す。
図12】細胞膜透過型PI-Rank1(5-12)の効果を示す。(A)実験に用いた化合物の一覧を示す。[AC]は、アセチル化を示す。(B)多発性骨髄腫細胞株に各化合物を添加した後24時間経過後のATP量(細胞の生存率)を示す。(C)多発性骨髄腫細胞株に各化合物を添加した後48時間経過後のATP量(細胞の生存率)を示す。
図13】精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン組換えタンパク質(「αSYN (Trx fusion)」で表す)、およびそのC末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列を付加した精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体(「αSYN+Rank1 (Trx fusion)」で表す)のヒト20Sプロテアソームによる分解率を示す。(A)は、SDS-PAGEの結果を示す。(A)において、“M”は分子量マーカーを示す。“-”はヒト精製20Sプロテアソームを添加していない陰性コントロールを示す。“1h”または“4h”はヒト精製20Sプロテアソームを添加してからの反応時間(時間)を示す。(B)は、(A)のタンパク質バンドの濃度を画像解析して得られた定量結果を示す。
図14】チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体(「αSYN+Rank1 (Trx fusion)」で表す)と、タグ等の付加配列を含まない野生型のヒトα-シヌクレインのリコンビナントポリペプチド(「αSYN recombinant」で表す)の20Sプロテアソームによる分解率を示す。(A)は、SDS-PAGEの結果を示す。(A)において、“M”は分子量マーカーを示す。“-”はヒト精製20Sプロテアソームを添加していない陰性コントロールを示す。“1h”または“4h”はヒト精製20Sプロテアソームを添加してからの反応時間(時間)を示す。また、(B)は(A)のタンパク質バンドの濃度を画像解析して得られた定量結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.プロテアソーム阻害ペプチド
本発明のある実施形態は、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害する作用を有するペプチド(以下、「プロテアソーム阻害ペプチド」ともいう)に関する。26Sプロテアソームは、細胞内に存在し、プロテアーゼ活性を持つ20Sコアと、その両端に会合する19Sとの複合体からなる。また、一部のプロテアソーム20Sコアは、19Sと複合体形成を行うことなく、タンパク質分解酵素活性を示すことが知られている。
【0013】
以下に、プロテアソーム阻害ペプチドの構造を示すが、アミノ酸配列はN末端側からC末端側に向かって記載するものとする。
また、アミノ酸配列の記載及び物性は、下記表1に従うものとする。
【0014】
【表1】
【0015】
アミノ酸には、天然アミノ酸および人工アミノ酸のいずれも包含される。
【0016】
本明細書において、各種アミノ酸の「残基」とは、ペプチドを構成するアミノ酸の構成単位であり、アミノ酸から、主鎖のアミノ基については水素原子が除かれ、および/または主鎖のカルボキシル基については-OHが除かれてなる基を表す。
【0017】
また、本明細書において「有する」は、「含む」、および「からなる」の両方の概念を含み得る。
【0018】
プロテアソーム阻害ペプチドのある実施形態は、主鎖として、下記アミノ酸配列の、第1番目から第7番目、第2番目から第7番目、第3番目から第7番目、第1番目から第6番目、第2番目から第6番目、または第3番目から第6番目の配列を含むSer-Xaa1-Leu-Xaa2-His-Trp-Trp(配列番号1)(ここで、Xaa1およびXaa2は任意のアミノ酸残基を示す)に関する。
【0019】
好ましくは、プロテアソーム阻害ペプチドにおいて、Xaa1およびXaa2は、同一または異なる親水性アミノ酸残基である。より好ましくは、Xaa1およびXaa2は、同一または異なる塩基性アミノ酸残基であり、さらに好ましくはXaa1およびXaa2は共にArg残基である。最も好ましくは、プロテアソーム阻害ペプチドの第1の実施形態は、主鎖として、Ser-Arg-Leu-Arg-His-Trp-Trp(配列番号2)で表されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
プロテアソーム阻害ペプチドの第2の実施形態は、主鎖として、配列番号1で表されるアミノ酸配列のC末端側に、任意のアミノ酸残基であるXaa3を有する。すなわち、プロテアソーム阻害ペプチドの第2の実施形態は、主鎖として、Ser-Xaa1-Leu-Xaa2-His-Trp-Trp-Xaa3(配列番号3)で表されるアミノ酸配列を有する。Xaa3は、好ましくは親水性アミノ酸残基であり、より好ましくは塩基性アミノ酸残基であり、さらに好ましくはArg残基である。最も好ましいプロテアソーム阻害ペプチドの第2の実施形態は、主鎖としてSer-Arg-Leu-Arg-His-Trp-Trp-Arg(配列番号4)で表されるアミノ酸配列を有する。
【0021】
プロテアソーム阻害ペプチドの第3の実施形態は、主鎖として、配列番号1または配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端側に、アミノ酸配列Met-Xaa4-Xaa5-Pro-(配列番号5)を有する。すなわち、プロテアソーム阻害ペプチドの第3の実施形態は、主鎖として、Met-Xaa4-Xaa5-Pro-Ser-Xaa1-Leu-Xaa2-His-Trp-Trp(配列番号6)またはMet-Xaa4-Xaa5-Pro-Ser-Xaa1-Leu- Xaa2-His-Trp-Trp-Xaa3(配列番号7)で表されるアミノ酸配列を有する。ここで、Xaa4およびXaa5は、任意のアミノ酸残基である。好ましくはXaa4およびXaa5のどちらか一方は、疎水性アミノ酸残基であってもよい。より好ましくは、Xaa4が疎水性アミノ酸残基であり、Xaa5は親水性アミノ酸残基である。最も好ましくは、Xaa4およびXaa5は、同一または異なってAla残基またはArg残基である。最も好ましいプロテアソーム阻害ペプチドの第3の実施形態は、主鎖として、Met-Ala-Arg-Pro-Ser-Arg-Leu-Arg-His-Trp-Trp(配列番号8)またはMet-Ala-Arg-Pro-Ser-Arg-Leu-Arg-His-Trp-Trp-Arg(配列番号9)で表されるアミノ酸配列を有する。
【0022】
プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖は、全長で5アミノ酸残基から150アミノ酸残基程度であることが好ましい。プロテアソーム阻害ペプチドの長さの上限は、より好ましくは、7アミノ酸残基程度である。プロテアソーム阻害ペプチドの長さの上限は、より好ましくは、100アミノ酸残基程度、50アミノ酸残基程度、20アミノ酸残基程度、15アミノ酸程度、または12アミノ酸程度から選択し得る。
【0023】
ペプチドの合成方法は、公知である。例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)固相合成法、または9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)固相合成法等により合成することができる。プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖の全長が、100アミノ酸残基を超える場合には、大腸菌、昆虫細胞、哺乳類細胞、酵母、またはカイコ等を使用して、リコンビナントペプチドとして合成してもよい。
【0024】
プロテアソーム阻害ペプチドには、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、またはエステル(-COOR)であるもの、等も包含し得る。
【0025】
プロテアソーム阻害ペプチドは、主鎖の他、修飾を有していてもよい。ここで修飾は、プロテアソーム阻害ペプチドのプロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害しない限り制限されない。修飾は、主鎖のN末端、C末端および主鎖を構成するアミノ酸残基の少なくとも一つの側鎖から選択される少なくとも一カ所に存在し得る。
【0026】
N末端の修飾としては、一般的にペプチドのN末端修飾として使用される修飾を挙げることができる。例えば、N末端の修飾として、アジド化修飾、C1-6アルカノイルなどのC1-6アシル化修飾(アセチル化修飾、ホルミル化修飾等)、スクシニル化修飾、Boc修飾、Fmoc修飾、ビオチン化修飾、ミリスチン化修飾、パルミトイル化修飾、ステアロイル化修飾、蛍光色素修飾(TAMRA標識、FITC標識、ローダミン標識、FAM標識等)、ピログルタミル化修飾、ダンシル化修飾、メチル化修飾等を挙げることができる。
【0027】
C末端の修飾として、一般的にペプチドのC末端修飾として使用される修飾を上げることができる。例えば、C末端の修飾として、アミド化修飾、ビオチン化修飾、メチルエステル化修飾、アルデヒド化修飾、N-ヒドロキシエステル化修飾、pNA標識、MCA標識、βナフチルアミド化修飾等を挙げることができる。
【0028】
主鎖を構成するアミノ酸残基の側鎖の修飾は、ポリエチレングリコール化修飾、リン酸化修飾、アセチル化修飾、メチル化修飾、蛍光修飾、ビオチン化修飾、糖または糖鎖による修飾、脂質修飾等を挙げることができる。但し、側鎖の修飾は、少なくとも配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列には行わないことが好ましい。より好ましくは、配列番号3から配列番号9で表されるアミノ酸配列には、行わないことが好ましい。
【0029】
プロテアソーム阻害ペプチドは、プロテアソーム阻害ペプチドの細胞膜透過性を高めるために、塩基性ペプチドを含んでいてもよい。塩基性ペプチドは、塩基性アミノ酸残基を豊富に含むペプチドである。塩基性アミノ酸残基としては、アルギニン残基が好ましい。塩基性ペプチドは、5から25アミノ酸残基程度であることが好ましい。塩基性ペプチドに含まれる塩基性アミノ酸残基の割合は、少なくとも25%程度であり、好ましくは30%程度以上、40%程度以上、50%程度以上、60%程度以上、70%程度以上、80%程度以上、90%程度以上である。例えば、塩基性ペプチドとして、5つ~8つの連続したアルギニン残基からなるアルギニンペプチド、HIV-1 Tat-(48-60)、HIV-1 Rev-(34-50)、FHV Coat-(35-49)、BMV Gag-(7-25)、HTLV-II Rex-(4-16)、CCMV Gag-(7-25)、P22 N-(14-30)等を挙げることができる。塩基性ペプチドは、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖のN末端またはC末端に連続して、あるいは数アミノ酸残基(好ましくは1~5アミノ酸残基、より好ましくは1~3アミノ酸残基)のリンカー部分を含んで連結することができる。
【0030】
以下、(1)プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖のアミノ酸配列と、塩基性ポリペプチド配列を有するペプチド、(2)プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖のアミノ酸配列と、塩基性ポリペプチド配列と、リンカー配列を有するペプチドを細胞膜透過性プロテアソーム阻害ペプチドと呼ぶ。
【0031】
プロテアソーム20Sコアは、キモトリプシン様活性、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性等のタンパク質分解酵素活性を有する。したがって、プロテアソーム阻害ペプチドのプロテアソーム阻害活性は、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解活性、好ましくは、プロテアソーム20Sのキモトリプシン様活性、またはカスパーゼ様活性、より好ましくは、キモトリプシン様活性を阻害するか否かによって評価することができる。
【0032】
プロテアソーム20Sのキモトリプシン様活性、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性は、公知の方法により測定することができる。これらのタンパク質分解酵素活性は、基質に含まれる特定のペプチドを切断するか否かによって評価することができる。
【0033】
キモトリプシン様活性の評価に使用する基質として、例えば、Suc-LLVY-AMC (Sucはスクシニル基を表し、LLVYはペプチド鎖を表し、AMCは7-アミド-4-メチルクマリンを表す)を使用することができる。トリプシン様活性の評価に使用する基質として、例えば、Boc-LRR-AMC(Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表し、LRR はペプチド鎖を表し、AMCは7-アミド-4-メチルクマリンを表す)を使用することができる。カスパーゼ様活性の評価に使用する基質として、例えば、Z-LLE-AMC(Zはベンジルオキシカルボニル基を表し、LLE はペプチド鎖を表し、AMCは7-アミド-4-メチルクマリンを表す)。例えば、100ng程度のヒトプロテアソーム20Sコア(Enzo ENZ Life Sciences、Inc.)に50mM程度の基質、およびプロテアソーム阻害ペプチドを100μL程度の酵素反応バッファーに添加する。キモトリプシン様活性またはカスパーゼ様活性の測定に用いる酵素反応バッファーとしては、例えば、25 mM程度のHEPES(pH8.0)、0.5mM程度のEDTAおよび0.03%程度のSDSを含む酵素反応バッファーを使用することができる。トリプシン様活性の測定に用いる酵素反応バッファーとしては、例えば、25 mM程度のHEPES(pH8.5)、および0.5mM程度のEDTAを含む酵素反応バッファーを使用することができる。タンパク質分解酵素活性は、30℃程度で10分間隔で、1時間程度、励起波長380nm、蛍光波長460nmで遊離AMCによる蛍光変化を蛍光光度計等でモニタリングすることで測定することができる。
【0034】
2.プロテアソーム阻害ペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび前記ポリヌクレオチドを含むベクター
本発明のある実施形態は、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖を構成するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または細胞透過性プロテアソーム阻害ペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、両者を単に「ポリヌクレオチド」と呼ぶ)に関する。ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAであり得る。ポリヌクレオチドは、好ましくは、DNAである。プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖を構成するアミノ酸配列または細胞膜透過性プロテアソーム阻害ペプチドのアミノ酸配列から、ポリヌクレオチド配列への変換は、一般的なコドン表に従って行うことができる。
【0035】
また、前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現可能にベクターに挿入されていてもよい。ポリヌクレオチドを挿入するベクターは、宿主細胞に応じて選択することができる。例えば、人を含む哺乳類細胞においてポリヌクレオチドを発現させる場合には、ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーター、マルチクローニングサイト、ポリAシグナル等を含むプラスミドベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等を使用することができる。また、大腸菌においてポリヌクレオチドを発現させる場合には、ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーター、マルチクローニングサイト等を含むプラスミドベクターを使用することができる。
【0036】
3.組成物および医薬組成物
本発明にかかる組成物は、前記プロテアソーム阻害ペプチド、前記ポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分とする。本発明にかかる組成物は、前記有効成分と適当な担体または添加剤を組み合わせて調製することができる。当該医薬組成物の調製に用いられる担体や添加剤としては、医薬組成物の剤形に応じて通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤等を例示できる。
【0037】
前記担体としては、ポリマー、脂質、磁気等を含むトランスフェクション試薬等を使用することができる。
【0038】
前記組成物が経口投与されるものである場合の剤形は、特に制限されないが、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(硬質カプセル剤及び軟質カプセル剤を含む)、液剤、丸剤、懸濁剤、および乳剤等を例示できる。また前記医薬組成物が、非経口投与されるものである場合には、注射剤、点滴剤、坐剤、点鼻剤、および経肺投与剤等を例示できる。
【0039】
前記組成物が、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤等の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム等の賦形剤;単シロップ、プドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウム等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フイルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0040】
前記組成物が、丸剤の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0041】
前記組成物が、カプセル剤の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、カプセル剤は有効成分を前記で例示した各種の担体と混合し、硬質カプセル、または軟質カプセル等に充填して調製される。
【0042】
前記製剤が液剤の場合には、水性または油性の懸濁液、溶液、シロップ、エリキシル剤であってもよく、通常の添加剤を用いて常法に従い、調製される。
【0043】
前記組成物が注射剤の場合の調製に際しては、担体として例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の希釈剤;クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のpH調整剤;リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム等の緩衝剤;ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等の安定化剤;凍結乾燥した際の成形剤として例えばマンニトール、イノシトール、マルトース、シュクロース、ラクトース等の糖類を使用できる。なお、この場合等張性の溶液を調整するに十分な量のブドウ糖あるいはグリセリンを製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、無痛化剤、局所麻酔剤等を添加しても良い。これらの担体を添加して、常法により皮下、筋肉内、静脈内用注射剤を製造することができる。
【0044】
前記製剤が点滴剤の場合には、投与化合物を生理食塩水、リンゲル液等を基本とした等張電解質輸液製剤に溶解して調製することができる。
前記組成物は、医薬組成物として使用することができる。
【0045】
本実施形態にかかる医薬組成物の投与量としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、剤型、患者の年齢、性別、病状の程度等によって適宜設定され得る。
【0046】
例えば、プロテアソーム阻害ペプチドを含む医薬組成物を、全身投与する場合には、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖の重量に換算して、成人体重1kgあたり0.01~1,000mg/日となるように投与することができる。プロテアソーム阻害ペプチドを含む医薬組成物を、局所投与する場合には、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖の重量に換算して、標的組織1cmあたり、0.01~100mgとなるように投与することができる。
【0047】
前記ポリペプチドまたはポリペプチドを含む前記ベクターを含む医薬組成物は、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに換算して、全身投与の場合、成人体重1kgあたり0.1~1,000mg/日となるように投与することができる。
【0048】
前記ポリペプチドまたはポリペプチドを含む前記ベクターを含む医薬組成物は、局所投与する場合には、プロテアソーム阻害ペプチドの主鎖のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに換算して、標的組織1cmあたり、0.01~100mg/日となるように投与することができる。ベクターは必要に応じて直鎖化することができる。前記ポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含むベクターは注射器やカテーテルを用いて、標的の組織に注入することができる。この場合、リポソーム等の核酸デリバリー試薬を併用してもよい。
【0049】
医薬組成物は、悪性腫瘍の予防および/または治療のために使用することができる。悪性腫瘍には、非上皮性および上皮性の悪性腫瘍のいずれもが含まれる。具体的には、気管、気管支または肺等から発生する呼吸器系悪性腫瘍;上咽頭、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、S状結腸、直腸または肛門部等から発生する消化管系悪性腫瘍;肝臓癌;膵臓癌;膀胱、尿管または腎臓から発生する泌尿器系悪性腫瘍;卵巣、卵管および子宮等のから発生する女性生殖器系悪性腫瘍;乳癌:前立腺癌;皮膚癌;視床下部、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎等の内分泌系悪性腫瘍;中枢神経系悪性腫瘍;骨軟部組織から発生する悪性腫瘍等の固形腫瘍、および骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、急性骨髄単球性白血病、慢性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、慢性単球性白血病、急性全骨髄性白血病、急性巨核球性白血病、赤白血病、好酸球性白血病、慢性好酸球性白血病、慢性好中球性白血病、成人T細胞白血病、ヘアリー細胞白血病、形質細胞性白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫等の造血系悪性腫瘍;リンパ系悪性腫瘍等の造血器腫瘍が挙げられる。より好ましくは、造血器腫瘍である。造血器腫瘍として、最も好ましくは、多発性骨髄腫である。
【0050】
前記医薬組成物は、抗がん剤として使用してもよい。抗がん剤としては、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、微小血管阻害薬、ホルモンまたはホルモン類似薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、サイトカイン、抗体薬、放射免疫療法薬、分子標的薬、非特異的免疫活薬、及びその他の抗がん剤の中から、対象とする腫瘍に応じて適宜選択することができる。
【0051】
ここで制限はされないものの、アルキル化薬としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、メルファラン、ベンダムスチン塩酸塩、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダガルバジン、プロカルバジン塩酸塩テモゾロミド等;代謝拮抗薬としては、メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、テガフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート水和物、エノシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、メルカプトプリン水和物、フルダラビンリン酸エステル、ネララビン、ペントスタチン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム、ホリナートカルシウム、ヒドロキシカルバミド、L-アスパラギナーゼ、アザシチジン等;抗腫瘍性抗生物質としては、ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、ピラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ペプロマイシン硫酸塩、ジノスタチンスチラマー等;微小血管阻害薬としては、ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、ビノレルビン酒石酸塩、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、エリブリンメシル酸塩等;ホルモンまたはホルモン類似薬(ホルモン剤)としては、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント、フルタミド、ビカルタミド、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物、ゴセレリン酢酸塩、リュープロレリン酢酸塩等;白金製剤としては、シスプラチン、ミリプラチン水和物、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等;トポイソメラーゼ阻害薬としては、イリノテカン塩酸塩水和物、およびノギテカン塩酸塩等のトポイソメラーゼI阻害薬、並びにエトポシド、およびソブゾキサン等のトポイソメラーゼII阻害薬;サイトカインとしては、インターフェロンガンマ-1a、テセロイキン、セルモロイキン等;抗体薬としては、トラスツズマブ、リツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、アレムツズマブ等;放射免疫療法薬としては、イブリツモマブ、チウキセタン配合剤等;分子標的薬としては、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブクエン酸エステル、ゲフィチニブ、イマチニブメシル酸塩、エルロチニブ塩酸塩、ソラフェニブトシル酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、サリドマイド、ニロチニブ塩酸塩水和物、ダサチニブ水和物、ラパチニブトシル酸塩水和物、エベロリムス、レナリドミド水和物、デキサメタゾン、テムシロリムス、ボリノスタット、トレチノイン、およびタミバロテン等;非特異的免疫活薬としては、OK-432、乾燥BCG、かわらたけ多糖体製剤、レンチナン、ウベニメクス等;その他、アセグラトン、ポルフィマーナトリウム、タラポルフィンナトリウム、エタノール、三酸化ヒ素等を例示することができる。制限はされないものの、作用効果の点から好ましくは代謝拮抗薬を挙げることができ、また副作用が少ない点から好ましくは分子標的薬、抗体薬を挙げることができる。
【0052】
分子標的薬としては、造血器腫瘍を対象とする場合には、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブクエン酸エステル、レナリドマイド、デキサメタゾン、シクロホスファミド、イマチニブメシル酸塩、ニロチニブ塩酸塩水和物、ダサチニブ水和物が好ましい。
【0053】
抗体薬として、好ましくはトラスツズマブ、パニツムマブであり、特に好ましくはトラスツズマブである。
【0054】
多発性骨髄腫の治療方法として、一般的に、ボルテゾミブと他の薬剤を組み合わせた3剤または2剤併用の化学療法が行われる。例えば、化学療法としては、VCD療法(ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン)、VRD療法(ボルテゾミブ、レナリドマイド、デキサメタゾン)、BD療法(ボルテゾミブ、デキサメタゾン)等を挙げることができる。多発性骨髄腫の治療方法として、ボルテゾミブに代えて、本発明のプロテアソーム阻害ペプチドを使用することができる。
【0055】
本発明の医薬組成物と抗がん剤との併用(組み合わせ)の態様は、本発明の効果を奏する使用の態様であればよく、特に制限されない。例えば、抗がん剤の投与と同時に医薬組成物を並行して投与してもよいし、また抗がん剤の投与に先立って、または抗がん剤の投与後に医薬組成物を投与してもよい。この場合、医薬組成物と抗がん剤の投与を交互に行ってもよい。さらに、抗がん剤投与後、腫瘍の組織の縮小度合い等に併せて、抗がん剤投与の途中から、医薬組成物を併用投与してもよいし、また逆に、医薬組成物投与後、その途中から抗がん剤を併用投与してもよい。
【0056】
また、本発明の医薬組成物は、抗がん剤と併用する態様であれば、単回投与、連続投与、また間歇的投与のいずれであってもよい。例えば、抗がん剤の投与に先立って本発明の医薬組成物を投与する場合を例にすれば、抗がん剤の投与開始の7日前から投与開始当日まで、または3日前から投与開始当日まで、1日1回連日投与する方法を例示することができる。
【0057】
本発明の医薬組成物は、その投与経路(投与方法)に応じて、種々の形態(剤型)の医薬組成物として調製され、抗がん剤と組み合わせて、対象とする腫瘍患者に投与される。当該腫瘍患者は、化学療法、放射線療法および/または切除手術(外科的療法)などの抗腫瘍治療を受ける前の患者であっても、また治療中、並びに治療後のいずれの段階にある患者であってもよい。
【0058】
医薬組成物の投与経路(投与方法)としては、特に制限されず、経口投与;静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経粘膜投与、経皮投与、および直腸内投与等の非経口投与を挙げることができる。好ましくは経口投与および静脈内投与であり、より好ましくは経口投与である。
【0059】
本発明の医薬組成物の投与量は、治療対象とする腫瘍の種類や場所、腫瘍のステージ(進行度)、患者の病態、年齢、性別、体重、併用する抗がん剤の種類などに応じて、変動し得、これらの要因に応じて適宜設定することができる。
医薬組成物と抗がん剤を併用する場合、抗がん剤の投与は、その薬剤の一般的な投与方法、用量に準じて行うことができる。
【0060】
4.標的ペプチドの保護方法
本発明のある実施形態は、標的ペプチドの保護方法に関する。
第1、第2および第3の実施形態にかかるプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖は、プロテアソーム20Sコアのタンパク質分解酵素活性を阻害することができる
。このため、他のペプチドに第1、第2および第3の実施形態にかかるプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖を付加することにより、前記他のペプチドがプロテアソームによって分解されることを抑制することができる。
【0061】
すなわち、本実施態様は、プロテアソーム阻害ペプチド以外の標的ペプチドに第1、第2および第3の実施形態にかかるプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖を結合させることにより、標的ペプチドをプロテアソーム20Sコアによる分解から保護することを含む。
【0062】
標的ペプチドをプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖に結合させる方法は公知である。例えば、標的ペプチドのN末端またはC末端にプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖を直接または間接的につなげてペプチドを合成してもよい。また、例えば、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの5’末端側、または3’末端側にプロテアソーム阻害ペプチドの主鎖をコードするポリペプチドを直接または間接的につなぎ、このポリヌクレオチドからペプチドを合成することにより取得することができる。
【0063】
5.抗がん剤とプロテアソーム阻害ペプチドの複合体
本発明のプロテアソーム阻害ペプチドには、抗がん剤と複合体形成したプロテアソーム阻害ペプチドも含みうる。抗がん剤とプロテアソーム阻害ペプチドの複合体形成は、プロテアソーム阻害ペプチドのN末端のアミノ基またはC末端のカルボキシル基を利用して行うことができる。例えば、抗がん剤の主成分に含まれるカルボキシル基を、あらかじめカルボジイミドとN-ヒドロキシスクシンイミドを混合して活性エステル型とする。この活性エステル型の抗がん剤と、ペプチドを混合し、ペプチドのN末端アミノ基とアミド結合を形成させることにより抗がん剤とプロテアソーム阻害ペプチドを複合体形成させることができる。
【0064】
また、プロテアソーム阻害ペプチドのN末端のアミノ基をはじめにアセチル化等して保護しておき、プロテアソーム阻害ペプチドのC末端側のカルボキシル基をカルボジイミドとN-ヒドロキシスクシンイミドを混合して活性エステル型に変換し、活性エステル型のプロテアソーム阻害ペプチドをアミノ基を持つ抗がん剤と反応させてアミド結合を形成させることができる。
【0065】
上記アミド結合の形成反応は、公知である。例えば、上記反応は、脱水縮合剤、必要に応じて触媒の存在下で行うことができる。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)などのカルボジイミド系化合物;N,N-カルボニルジイミダゾール)などのイミダゾール系化合物;トリアジン系化合物;ホスホニウム系化合物;ウロニウム系化合物などが挙げられる。好ましくはカルボジイミド系化合物であり、なかでが特に好ましい。脱水縮合剤と共に、触媒を用いることもできる。具体的な触媒は限定されない。例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)1-ヒドロキシー7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)などを挙げることができる。好ましくはHOBtである。
【実施例
【0066】
以下に実施例を示して、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0067】
1.20Sコア結合ペプチドの探索
cDNAディスプレイ法を用いて、プロテアソーム20Sコアに結合するペプチドの探索を行った。
【0068】
1-1.方法
(1)IVVの作製
ランダム8残基のアミノ酸配列をコードするDNA(塩基配列NNKNNKNNKNNKNNKNNKNNKNNKで表される。但しNはA、T、G、またはCを表し、KはTまたはGを表す。)を含むin vitro virus (IVV)の鋳型となるDNAライブラリを作成した。このDNAライブラリをRiboMAXTM Large Scale RNA Production Systems(プロメガ株式会社)を用いてIVVの鋳型mRNAを転写させ、IVVの鋳型mRNAをRNeasy Mini Kit((株)キアゲン)で精製した。精製したIVVの鋳型mRNAにリンカーを介しピューロマイシンを結合させ、IVVの鋳型mRNA とピューロマイシンの第1の複合体を作製した。作製した複合体を網状赤血球の抽出液を利用した無細胞翻訳系に添加し、IVVの鋳型mRNAに由来するペプチドを翻訳させ、前記ペプチドとIVVの鋳型mRNAとが連結したIVVを作製した。さらに、IVVを安定するため、IVV 内のmRNAを逆転写し、ペプチドとピューロマイシンとmRNA-cDNAの2本鎖の第2の複合体を作製した。
【0069】
(2)IVVの選別とIVV内の核酸の増幅
選別過程では標的分子であるヒト20Sコアへの親和性による選別を行った。これには20Sコアを固定した磁性担体を用いた。アフィニティー精製用磁性担体FGビーズ(多摩川精機(株))200 μgをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で3回洗浄した。活性化溶液(1 M N-ヒドロキシンイミド((株)ペプチド研究所)、0.5 Mの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、溶媒DMF)を250 μL加え、振とうしながら室温で2時間反応させた。反応後、上清を除去しDMF100 μlで5回洗浄した。洗浄後、25 mM HEPES(pH7.0)に希釈したヒト20Sプロテアソーム(Enzo Life Sciences 社)10 μgを加え4℃で30分間振とう反応させた。上清を取り除き、タンパク質固定化磁気担体洗浄・保存バッファー(10 mM HEPES緩衝液(pH7.9)、50 mM KCl、1 mM EDTA、10% グリセロール)200 μlで5回洗浄して4℃で使用まで保存した。20Sプロテアソーム固定化担体の分散液100 μl(担体200 ng)を選択分離用バッファー(100 mM NaCl、0.1%Tween-20、PBS(-))150 μlで2回洗浄した。バッファーを取り除いたプロテアソーム固定化磁性担体に選択分離用バッファーとIVV溶液を加え100 μlとし、4℃、回転混和しながら反応させた。反応後、選択分離用バッファー150 μlおよび1×洗浄バッファー(250 mM NaCl、0.1%Tween-20、PBS(-))150 μlを用いて洗浄した。洗浄に用いたバッファーを取り除き、0.1M KOH 35 μlを加え、37℃、10分間反応させた。上清(溶出画分)を回収し、1M Tris-HCl(pH 7.5) 15μlで中和した。その後、標的分子に結合した第2の複合体のcDNAをPCR(94℃15秒→60℃5秒→72℃30秒、15~25サイクル)により増幅した。
【0070】
(3)ペプチドの同定
ペプチドの翻訳、IVVの選別、および第2の複合体中のcDNAの増幅の3つの工程を1サイクルとし、5サイクルを繰り返し、それぞれのサイクルでcDNAのプールを得た。この各サイクルのcDNAプールを次世代シーケンサーにより配列解析し、ペプチド配列を同定した。
【0071】
1-2.配列の解析結果
次世代シーケンサーによる解析において、IVV多様性領域(ランダム8残基のアミノ酸配列をコードする領域)の周辺配列を含むリード配列が各サイクルにおいて平均150万リード得られた。1サイクル目で得られたリード配列に、2回目以降のリード配列を順次加えると、2サイクル目以降、重複したリード配列がサイクルの進行に伴って増加し、5サイクル目には約40万リードの特定の配列への収束が認められた。最も出現頻度の高いリード配列は、5サイクル目に解析された約150万リードの内、5.2%を占めた。
【0072】
シーケンシングされたcDNA配列から翻訳され得る17残基のアミノ酸からなるペプチド配列ののうち最も出願頻度が高い配列はN末端からC末端に向けてMARPSRLRHWWRLRRRV(配列番号10)(以下、「PI-Rank1」と称する)であった。cDNA配列からアミノ酸配列への変換は、一般的なペプチドの表記法に従った。
【0073】
2.20Sコア結合ペプチドの酵素阻害作用
前記1.で特定したペプチドについて、20Sプロテアソームのタンパク質分解酵素活性を阻害できるか否かを検討した。
【0074】
2-1.方法
(1)ペプチドの精製
各ペプチドは、受託業者(コスモバイオ株式会社)により標準的な固相合成法で合成され、担体樹脂から切断された粗精製物を購入した。粗精ペプチドは、以下の手順で精製して使用した。
【0075】
粗精ペプチドを5%CH3CN/0.05%TFA/H2Oに溶解し、HPLC(HITACHI ELITE LaChrom L-2000シリーズ)に接続した逆相カラム(COSMOSIL Packed Column 5C18-AR-II 4.6ID×150mm)を用いて精製した(バッファーA:0.05%TFA/H2O バッファーB:0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)/ CH3CN、検出波長:220nm、温度:40℃、流速:1mL/分、CH3CN 濃度変化:5%-80%)。回収画分は減圧乾燥した後、-20℃で保存した。
【0076】
前記方法により精製されたペプチドは、各ペプチドのN末端は水素原子となり、C末端は水酸基となる。また、以下各ペプチドを単にPI-Rank1のように略記する。
【0077】
(2)酵素活性測定
阻害物質添加時のプロテアソーム酵素活性は、蛍光基質ペプチドの分解速度を測定して評価した。キモトリプシン様活性についてはSuc-LLVY-AMC、カスパーゼ様活性(PGPH様活性)についてはZ-LLE-AMCを蛍光基質ペプチドとして使用した(Sucはスクシニル基、Zはベンジルオキシカルボニル基、Bocはブトキシカルボニル基、AMCは7-アミド-4-メチルクマリンを表す)。100ngのヒトプロテアソーム20Sコア(Enzo ENZ Life Sciences、Inc.) 50mMの各蛍光基質ペプチド、各濃度の阻害ペプチドを100μLの酵素反応バッファー(キモトリプシン様活性、PGPH様活性の測定:25 mM HEPES pH8.0、0.5mM EDTA、0.03% SDS、トリプシン様活性の測定:25 mM HEPES pH8.5、0.5mM EDTA)で反応させた。励起波長380nm、蛍光波長460nmで遊離AMCによる蛍光変化をFusionTMα-FP(株式会社パーキンルマージャパン)を用いて30℃で、10分間隔で1時間測定した。
【0078】
2-2.結果
阻害効果は、IC50値として示す。PI-Rank1はCT-L活性に対するIC50値は1.46μMであった。また、PI-Rank1のPGPH活性のIC50値は0.65 μMであり、PGPH活性に対する阻害作用が高かった。
【0079】
次に、20Sコアに対する阻害活性のKi値、および阻害様式を明らかにするために、PI-Rank1を用いて、CT-L活性に対して基質濃度、およびペプチド濃度を変化させて反応速度の変化を、Lineweaver-Burkプロットとディクソンプロットにより解析した。その結果を図1に示す。図1(A)は阻害様式を決定するためのLineweaver-Burkプロットであり、(B)はKi値を決定するためのディクソンプロットである。Lineweaver-Burkプロットの回帰直線は、いずれもX軸の負の側で交わった。このことからPI-Rank1ペプチドは20Sコアの酵素活性に対して非拮抗的に阻害作用を示すことが示唆された。PI-Rank1のキモトリプシン様活性とカスパーゼ様活性に対するKi値を図2に示す。cDNAディスプレイ法で用いた第2の複合体(IVV)は、長さ168塩基のcDNA、ピューロマイシンリンカー、さらに翻訳された10数残基のペプチドからなる。この分子サイズの大きさから、20Sコアの内部に入りこむことは考えにくい。したがって、20Sコアの外部表面に結合して阻害作用を示したとすれば非拮抗的な用式を示したことは合理的な結果であると考えられた。
【0080】
3.PI-Rank1の構造活性相関
次に、PI-Rank1の17残基のアミノ酸配列の中で20Sコアの酵素活性に対する阻害作用を担う部位を明らかにするために、PI-Rank1のアミノ酸配列に欠失または1アミノ酸置換を導入したPI-Rank1アナログを作製し、これらのアナログの20Sコアの酵素活性に対する阻害作用を評価した。
【0081】
3-1.方法
図3に示す、PI-Rank1のN末端、またはC末端の領域を5残基ずつ欠損させたPI-Rank1(6-17)とPI-Rank1(1-12)を作製した。また、図4に示すPI-Rank1(1-12)のN末端、またはC末端側から1アミノ酸残基ずつ最大6アミノ酸残基が欠失した短鎖アナログを作製した。さらに、図5に示すようにPI-Rank1(1-12)の12アミノ酸残基のうちアラニン「A」以外のアミノ酸を1アミノ酸残基ずつアラニンに置換したアラニン置換アナログを作製した。各アナログの作製は、前記2-1.(1)にしたがった。20Sコアのキモトリプシン様(CT-L)活性は、前記2-1.(2)にしたがって測定し、IC50値を求めた。
【0082】
3-2.結果
図3(A)に、PI-Rank1(6-17)とPI-Rank1(1-12)のIC50値を示す。PI-Rank1(1-12)ではPI-Rank1(1-17)と同等のCT-L活性に対する阻害作用が確認されたが(IC50=0.93±0.30μM)、PI-Rank1(6-17)ではIC50は10μMよりも高く、阻害作用が消失した。また、図3(B)に示すように、PI-Rank1(1-12)の阻害作用は、PI-Rank1(1-17)と同様に濃度依存的であった。このことから、PI-Rank1(1-12)にCT-L活性に対する作用部位があることが明らかとなった。cDNAディスプレイ法での選別段階ではC末端側にピューロマイシンリンカーが結合しており、N末端側に阻害作用を担う領域が見出されたことは、このことと矛盾しないと考えられた。
【0083】
次に、PI-Rank1(1-12)の短鎖アナログとアラニン置換アナログを用いて、阻害作用を担う作用部位の特定を行った。
【0084】
図4にPI-Rank1(1-12)の短鎖アナログのCT-L活性に対するIC50値を示す。また、図6(A)に短鎖アナログのCT-L活性に対するIC50値のグラフを示す。N末端から欠失させた短鎖アナログでは、2残基欠失させると活性がなくなり、さらに3残基および4残基を欠失させると逆に活性が戻った。4残基を欠失させたPI-Rank1(5-12)は、IC50値0.82 μMを示した。しかし、さらに欠失させると阻害活性が大きく減弱した。C末端側から配列を欠損させるとIC50値が大きくなり阻害活性は低下するが、例外として1残基のみを欠失したペプチドPI-Rank1(1-11)は0.72μMのIC50値を示し、より強くCT-L活性を阻害した。以上の結果から、PI-Rank1(1-12)の中でCT-L活性の阻害作用をもたらすのは5残基目のセリンから12残基目のアルギニンまでの8残基の領域であり、阻害活性に対して必要充分な最も短いペプチドはPI-Rank1(5-11)であると考えられた。
【0085】
図5にアラニン置換アナログのCT-L活性に対するIC50値を示す。また、図6(B)にアラニン置換アナログのCT-L活性に対するIC50値のグラフを示す。1番目のメチオニン、4番目のプロリン、5番目のセリン、7番目のロイシン、9番目のヒスチジン、10番目と11番目のトリプトファンをそれぞれアラニン置換すると阻害作用が大きく減弱した。3番目、6番目、8番目、12番目のアルギニンはアラニンに置換しても、活性の大きな変化が見られなかった。
【0086】
4.26SプロテアソームへのPI-Rank1の酵素阻害作用
PI-Rank1が、26Sプロテアソームの機能にどのように影響を及ぼすかを検討するため、以下の実験を行った。
【0087】
4-1.方法
26Sプロテアソーム活性として、 Suc-LLVY-MCAの分解速度を測定することにより、キモトリプシン様活性を測定した。精製26Sプロテアソーム(0.1μg、Enzo Life Sciences, Inc.)を試験用緩衝液(50 mM HEPES [pH 7.5]、40 mM KCl、5 mM MgCl2、50μgのウシ血清アルブミン、0.5 mM ATP、1 mMのジチオスレイトール)100μL中で、種々の阻害化合物濃度(0.1~10μM)の存在下で、蛍光基質ペプチド(50 μM)を添加した。反応混合物中の放出された7-amino-4-methylcoumarin(AMC)(λex= 380nm、λem= 480nm)の蛍光を37℃で1時間モニターした。を用いた。プロテアソーム活性の50%阻害に必要な化合物濃度としてIC50値を定義し、それぞれの阻害曲線から各化合物について決定した。
【0088】
4-2.結果
図7に示すように、PI-Rank1(5-12)を10μMまで加えたが、26SプロテアソームのCT-L活性に対して阻害作用が見られなかった。これは、20Sコアと19S複合体が結合するとPI-Rank1(5-12)が20Sコアに結合できなくなるか、あるいはPI-Rank1(5-12)が結合したとしても20Sコアの酵素活性制御に必要な構造の変化が生じなくなった可能性が考えられた。
【0089】
5.20SコアとPI-Rank1の結合の確認
次に、20SコアにPI-Rank1が実際に結合することを、アフィニティーラベル法により確認した。
【0090】
5-1.方法
(1)光反応性ペプチドの生成
紫外線により活性化して生成するニトレンにより周辺の分子と共有結合を形成するアリルアジド基をPI-Rank1(5-12)に導入するため、修飾基のNHSエステル体をPI-Rank1(5-12)のN末端アミノ基と反応させた。具体的には、50 nmolのPI-Rank1(5-12)と50nmolのSulfo-SBED(Thermo SCIENTIFIC)を、1%TEAを含む10 μLのDMF中で48時間~72時間反応させた。反応後、逆相HPLCで精製し、質量分析で分子量を確認した。このSulfo-SBEDにはビオチン基も導入されているため、Sulfo-SBED 標識PI-Rank1(5-12)と標的タンパク質とを結合させた後、紫外線照射をするこことによりSulfo-SBEDの光反応基が標的タンパク質に架橋される。このため、ビオチンを検出することによりウェスタンブロッティング等でSulfo-SBED 標識PI-Rank1(5-12)と結合した標的タンパク質を検出できる。
【0091】
質量分析は、次の方法で行った。サンプルを0.1%TFAを含む50%CH3CN/水(MS測定溶媒)に溶解した。マトリックスとしてα-CHCAをMS測定溶媒に飽和させたものを用意し、 1:1で混合し、MALDI-TOF型質量分析計(SpiralTOF JMS-S3000、日本電子(株))で測定をした。質量分析により保持時間23分の画分に目的物と一致する分子が確認できた。その質量スペクトルには1833.6と1860.4の2つの質量ピークが検出された。目的とする光反応性ペプチドの理論分量は1859.23であることから、1860.4は水素イオン付加体、1833.6はフェニルアジドがデヒドロアゼビンに変化し、同時に水素イオン付加した場合の分子量と一致する。以下、得られた光反応性ペプチドをSBED-PI-Rank1(5-12)と表記する。
【0092】
(2)SBED-PI-Rank1(5-12)と20Sコアまたは26Sプロテアソームとの反応 SBED-PI-Rank1(5-12)をDMSOで溶解した。終濃度でSBED-PI-Rank1(5-12)が10μM、20Sコアが1 ng/μLをとなるように計10 ngを10μLのBuffer(25mM HEPES、0.5mM EDTA、0.03% SDS、pH8.0)に添加し、室温30分間遮光反応させた。特異な結合を確認する際、競合ペプチドとして未架橋のPI-Rank1(5-12)を10倍量(終濃度100μM)加えた。反応させた後、UVランプを用いて365 nm、高さ5 cmで30分間照射した。その際サンプルは氷冷した。UV照射後のサンプルは16.5%のアクリルアミドゲルを使用し、SDS-PAGE電気泳動を行った(ゲル一枚当たり26 mA定電流1 時間)。プラス電極の上にA液(0.3 M トリス、20% メタノール、0.05% SDS)で浸けたろ紙3枚、B液(25 mM トリス、 20% メタノール、0.05% SDS)で浸けたろ紙1枚、PVDF膜、ゲル、C液(25 mM トリス、40 mM 6-アミノヘキサン酸、20%メタノール、0.05% SDS)で浸けたろ紙2枚の順に重ね、マイナス電極をセットし、セミドライ式ブロッティング装置(株式会社バイオクラフト BE-331)でブロッティング(25V 1mA/cm2 30分)した。その後Blocking One-P(ナカライテスク)につけ1時間振動しながらブロッキングした。TBS-T(50mM トリス、138mM NaCl、2.7mM KCl、0.1% Tween 20)で洗浄した後、ストレプトアビジン-HRP(GE Healthcare)抗体で1 時間反応させた。最後ECL試薬(AmershamTM ECLTM Prime Western Blotting)を用いて、LAS4000でビオチンを検出した。
【0093】
5-2.結果
図示しないが、SDS-PAGE後の銀染色像ではサブユニットの分子量帯である25kDa付近にタンパク質バンドが確認できた。ウェスタンブロッティングの後、ビオチン標識バンドを検出したところ、図8(A)に示すように、SBED-PI-Rank1(5-12)を添加し、UV照射を行った時のみ25kDa付近にバンドが見られた(点線四角枠)。さらに、UV照射時間について比較検討を行った。照射時間を0、15、30分に変化させた。同時に、競合による標識阻害を確認するために、PI-Rank1(5-12)を10倍量添加したサンプルを同様に調製した。その結果、30分のUV照射時のバンドが最もよく標識されており、同時にPI-Rank1(5-12)の過剰添加によりそのバンドが薄くなることが確認された。以上の結果からSBED-PI-Rank1(5-12)は特異的に20Sコアのサブユニットを標識したものと考えられる。
【0094】
同様に、26SプロテアソームがSBED-PI-Rank1(5-12)により標識されるかいなかを確認した。26Sプロテアソームおよび20Sコアのみのサンプルとそれぞれ反応後、30分間UV照射し、ウェスタンブロッティングで確認した。その結果、図8(B)に示すように20Sコアのみ場合でのみ標識バンドが観察され、26Sプロテアソームでは標識バンドは確認できなかった。以上の結果から、PI-Rank1(5-12)は、26Sプロテアソームとは結合しないものと考えられた。前記4.において、PI-Rank1(5-12)が26SプロテアソームのCT-L活性を阻害しなかったことは、PI-Rank1(5-12)が26Sプロテアソームには結合しないことに起因すると考えられた。また、PI-Rank1(5-12)は、20Sコアと19S複合体の結合面に作用する可能性が高いものと考えられた。
【0095】
6.PI-Rank1が結合する20Sコアのサブユニットの同定
次に、PI-Rank1が20Sコアのいずれのサブユニットに結合するか特定するための実験を行った。
【0096】
6-1.方法
(1)二次元電気泳動
前記5-1.(2)に記載の方法に従って、SBED-PI-Rank1(5-12)と20Sコアとを架橋した。総容量は60μlとし、解析サンプルとして用いた。60μLの解析サンプルを1次元目サンプルBuffer(60 mM Tris-HCl、pH8.8、5M 尿素、1M チオ尿素、5 mM EDTA、1% CHAPS、1% NP-40、65 mM DTT)と混合し、6 μL の1Mヨードアセトアミドを添加し10 分反応させた。アガーゲル(ミニサイズ(75 mm) pHレンジ3-10、 A-M 310)にアプライし、2M 尿素を重層した。等電点泳動装置(ATTA discRun AE-6541)を使用し泳動した(上部電極液:0.2 M NaOH、下部電極液:10 mMリン酸、 300 V、 210分)。泳動後カラムからゲルを取り出し固定化した(2.5%トリクロロ酢酸、 3分)。2次元目の電気泳動するためSDS平衡化液(50 mM トリス塩酸、 2%SDS、 0.001%BPB、 10 分)に浸した。1%のアガロースを二次元目の16.5%のアクリルアミドゲルに接着させSDS-PAGE電気泳動をした。その後CBB染色ウェスタンブロッティングを行った。
【0097】
(2)LC-MSによる20Sコアのサブユニットの同定
2次元電気泳動したサンプルをCBB染色した(固定液:20% メタノール、7.5% 酢酸染色液:0.25% CBB、40%メタノール、7.5% 酢酸脱色液 2.5% メタノール、7.5% 酢酸)。CBB染色で見えるバンドを全部切り出した。50%脱色液(50% アセトニトリル、25 mM 重炭酸アンモニウム、 2回)、25%脱色液(25% アセトニトリル、25 mM重炭酸アンモニウム、 2回)、100%アセトニトリルで脱色した後遠心乾燥した。そこに還元用液を入れ56℃、300 分反応し、余りの溶液を除去した。アルキル化溶液を入れ遮光、37℃、30 分反応した。100 mM炭酸水素アンモニウムで洗浄後、アセトニトリルで10 分脱水し、遠心乾燥した。乾燥されたサンプルにトリプシン溶液を入れ、45 分静置した。吸い込まれなかった溶液は捨て、10 mM トリス塩酸(pH8.8)の溶液をゲルが全部浸るまでいれ、37℃、4~16 時間反応した。50% アセトニトリル、0.1%ギ酸溶液を用いて反応産物を回収。そこで0.1%ギ酸のMilliQ水を入れ、遠心乾燥を繰り返すことにより、アセトニトリル濃度を5%以下に減少させた。最後LC-MSで分析し、解析した。
【0098】
6-2.結果
20Sコアを構成する14個(7種類)のサブユニットのSBED-PI-Rank1(5-12)の標識部位を同定するため、二次元電気泳動を行った。その結果、図9(A)に示す3つの標識スポットが観察された。これらのうち2つは、α1およびβ4サブユニットであることが質量分析によるタンパク質同定により判明した。残り1つについては同定できなかったが、同様の解析例からβ5またはβ6の可能性が高い。これらのβサブユニットは、図9(B)に示すようにCT-L活性部位の近傍と考えられ、SBED-PI-Rank1(5-12)が20Sコア内部で分解される際に、標識反応が生じたのではないかと考えられる。一方、検出されたα1サブユニットは、図9(C)に示すように、20Sコアと19S複合体の結合面に位置しており、基質取り込みゲートの開閉に関与するサブユニットである。
【0099】
7.Rpt3のC末端ペプチドとの相互作用
20Sコアのα1サブユニットは、19S複合体の構成サブユニットであるRpt3のC末端ペプチドと相互作用することが知られている(図10(A))。α1サブユニットの19S 複合体の結合面には、ペプチドが作用する溝が存在し(図10(B))、ここにRpt3のC末端ペプチドが結合することで20Sコアの基質取り込みゲートの開閉が制御されている(図10(C))。そこで、PI-Rank1(5-12)とRpt3のC末端8残基を比べると、アミノ酸配列の親水性と疎水性の位置が一致しているように見えた(図10(D))。PI-Rank1(5-12)がα1サブユニットのRpt3相互作用部位に結合する可能性が考えられたため、図10(D)に示すRpt3のC末端8残基のペプチド(Rpt3-C)を合成して、20Sコアの酵素活性に対する作用を検証した。
【0100】
7-1.方法
前記2-1.(2)に記載の方法に従って、Rpt3-Cの存在下での20SコアのCT-L活性を測定した。また、Rpt3-CとPI-Rank1(5-12)とが併存した場合の20SコアのCT-L活性を測定した。
【0101】
7-2.結果
図11(A)にPI-Rank1(5-12)非存在下/存在下におけるRpt3-CのCT-L活性への影響を示す。図11(A)は、活性を折れ線クラフで表した図であり、点線は、PI-Rank1(5-12)非存在下における活性を示す。実線は、PI-Rank1(5-12)存在下における活性を示す。図11(B)は、活性を棒グラフで表したものである。黒棒は、PI-Rank1(5-12)非存在下における活性を示す。白棒は、PI-Rank1(5-12)存在下における活性を示す。PI-Rank1(5-12)非存在下において、Rpt3-Cを添加して20SコアのCT-L活性を測定したところ、20Sコアに対し阻害作用は示さず、逆にRpt3-Cの濃度依存的に、CT-L活性が増強した。また、PI-Rank1(5-12)存在下においては、Rpt3-CによるCT-L活性の増強作用は抑制された。これらの実験から、Rpt3-Cは20Sコアの活性を正に制御し、PI-Rank1(5-12)は、そのRpt3-Cの活性を負に制御することが明らかとなった。従来の研究では、20Sコアの基質取り込みゲートの開放を促すために、酵素反応測定時にSDSを添加している。本実験でも、測定時にはSDSを添加しているが。Rpt3-Cは、SDSを添加しない条件測定する場合には、Rpt3-Cは20Sコアの酵素活性をより増強することから、20Sコアの基質取り込みゲートの開放を促す可能性が示唆された。
【0102】
8.PI-Rank1(5-12)の細胞傷害活性
次に、PI-Rank1(5-12)に、細胞傷害活性があるか否かを検討した。
【0103】
8-1.方法
細胞傷害活性を確認するため、培養細胞として多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞を使用した。RPMI8226細胞は、RPMI1640培地に10%FBS、100 U/mL Penicillin-Streptomycinを添加した培地を使用して維持した。
【0104】
1×103個の細胞を96ウェルプレートに播種した後、12時間培養後、培地を変え、図12(A)に記載の4種の被験薬をそれぞれ図12(B)、図12(C)に示す濃度で添加した。PI-Rank1(5-11)は細胞膜透過性がないため、C末端側に8個のアルギニン「R」からなるポリアルギニンタグを結合させ細胞膜透過性を付与した(「PI-Rank1(5-12)R7G」とする)。陰性コントロールとして、細胞膜透過性のないPI-Rank1(5-12)と、ポリアルギニンタグのみ(「RRRRRRRRG」(配列番号36)からなり「R8G」で表す)を使用した。Bortezomibは既存のプロテアソーム阻害剤であり多発性骨髄腫の治療薬として承認されている。被験薬投与後、24時間後、および48時間後に細胞を回収し、細胞内のATP量を細胞用ATP測定試薬 (東洋ビーネット株式会社)を用いてプレートリーダーで測定した。
【0105】
8-2.結果
図12(B)に示すように、被験薬投与後24時間では、PI-Rank1(5-12)R7Gを1μM投与した場合に、BortezomibよりもATP濃度の減少が認められた。また、被験薬投与後48時間でも、PI-Rank1(5-12)R7Gを1μM投与した場合に、Bortezomibと同程度のATP濃度の減少が認められた。ATP濃度が減少していることは、生細胞が少ないことを意味している。
【0106】
以上の結果から、PI-Rank1(5-12)は細胞傷害活性を有することが示された。また、未修飾のPI-Rank1(5-12)は、細胞膜透過性がなく、細胞毒性は示さなかった。このことから、ドラッグディバリーシステムを併用し、PI-Rank1(5-12)の細胞膜透過性を制御することにより、細胞特異的な導入が可能であると考えられた。
【0107】
上述のように、本発明のプロテアソーム阻害ペプチドについて腫瘍毒性が認められ、抗がん剤としての活性を有することが示された。したがって、他の阻害機構を有する既存のプロテアソーム阻害剤に対して耐性を獲得した腫瘍に対しても、使用できる可能性が示された。
【0108】
9.プロテアソーム阻害ペプチドによる標的ペプチドの保護
次に、プロテアソーム阻害ペプチドを標的ペプチドに結合させることにより、標的ペプチドをプロテアソーム20Sコアによる分解から保護できるか検証した。
【0109】
9-1.組換えタンパク質の発現
ヒトα-シヌクレイン(アミノ酸配列1-140)ポリペプチド、およびそのC末端にPI-Rank1(1-12)のアミノ酸配列(MARPSRLRHWWR:配列番号9)を付加したヒトα-シヌクレイン(アミノ酸配列1-140)ポリペプチドをコードするDNA配列に、さらに前後に制限酵素Hind IIIおよびEcoR Iの認識切断配列をそれぞれ付加したポリヌクレオチドを化学合成した。pET32aプラスミドのマルチクローニングサイト中の対応する制限酵素の切断部位に、これらの合成ポリヌクレオチドを挿入した。これら2種類のプラスミドを用いて大腸菌を形質転換することにより、それぞれのペプチドのN末端側にチオレドキシンおよびヘキサヒスチジン(His6)配列を融合した組換えタンパク質を発現させた。チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン、およびそのC末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列(MARPSRLRHWWR:配列番号9)を付加したチオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加タンパク質を、大量発現させるために、OrigamiTM 2(DE3) Competent Cells(Novagen)に形質導入した。一般的なプロトコルに従って形質転換した後、LB培地(100μg/ml アンピシリンを含む)で培養してコロニーを単離した。コロニーをLB液体培地(100μg/ml アンピシリン)4 mlに接種し、OD600値が0.6~0.9になるまで培養して、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを1 mMになるように添加、更に2時間振とう培養した。培養液を50 ml遠沈管に移し、4,400 rpm、10分で遠心して、菌体を集めた。
【0110】
9-2.組換えタンパク質の精製
凍結大腸菌ペレット1gに対して緩衝液(100 mMリン酸pH8.0緩衝液、300 mM NaCl、0.2 mg/ml リゾチーム、0.2 mg/ml ベンズアミジン、0.5 mM フェニルメタンスルホニルフロリド)5 mlを加え、超音波処理を30秒、10回、氷上で行った後、-80℃で凍結融解した。さらに15,000 rpm、30分、4℃で遠心した。その上清を試料として、次に述べる通りにNi-NTAアガロースを用いて精製した。
【0111】
ベッド体積200μlのNi-NTA アガロース(キアゲン)をクロマトグラフィー用カラム(0.8×4 cm)に入れ、10 mMイミダゾールを上記の緩衝液に加えた平衡化緩衝液200μlを加え、洗浄および平衡化した。上記の大腸菌破砕液500μl加え、ローテーターで60分、4℃で転倒混和した。素通り画分を回収し、10mMイミダゾール 500 μlで2回洗浄、40mMイミダゾール500μlで6回溶出した。この溶出液に含まれる組換えタンパク質を精製サンプルとして、次の実験に用いた。
【0112】
9-3.精製組換えタンパク質の分解実験
ヒト精製20Sプロテアソーム(Enzo Life Sciences, Inc 、1 pmol相当、1 μg)と上記の精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン(4 pmol相当、0.15 μg)、またはそのC末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列を付加したチオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体(50 pmol相当、1.8μg)を20mM HEPES(pH7.5)緩衝液10μL中で、37℃で一定時間反応させた。等量の2×SDS緩衝液と混合して反応を停止させた。98℃で3分加熱し、SDS-PAGE電気泳動で分析した。また、比較検討として、市販の精製ヒトα-シヌクレイン組換えタンパク質(コスモ・バイオ株式会社、50pmol相当、0.73μg)を用いて同様の実験を行った。
【0113】
9-4.結果 精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン組換えタンパク質(図中、「αSYN (Trx fusion)」で表す)、またはそのC末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列を付加した精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体(図中、「αSYN+Rank1 (Trx fusion)」で表す)に、それぞれヒト20Sプロテアソームを加えた場合の経時的変化をSDS-PAGEで観察した。その結果を図13(A)に示す。図13(A)において、“M”は分子量マーカーを示す。“-”はヒト精製20Sプロテアソームを添加していない陰性コントロールを示す。“1h”または“4h”はヒト精製20Sプロテアソームを添加してからの反応時間(時間)を示す。また、図13(B)に図13(A)のタンパク質バンドの濃度を画像解析して得られた定量結果を示す。それぞれの精製組換えタンパク質は、35kDaの分子量バンドとして観察された。20~30 kDa付近の複数のバンドはヒト20Sプロテアソームに由来する。ヒト20Sプロテアソームの添加により、精製チオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン組換えタンパク質は徐々に分解され、1時間で28%程度、4時間で72%程度分解された。これに対して、C末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列を付加したチオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体は、1時間で23%程度、4時間で31.5%程度しか分解されなかった。
【0114】
さらにチオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体(図中、「αSYN+Rank1 (Trx fusion)」で表す)と、タグ等の付加配列を含まない野生型のヒトα-シヌクレインのリコンビナントポリペプチド(図中、「αSYN recombinant」で表す)の20Sプロテアソームによる分解率を比較した。その結果を図14(A)に示す。図14(A)において、“M”は分子量マーカーを示す。“-”はヒト精製20Sプロテアソームを添加していない陰性コントロールを示す。“1h”または“4h”はヒト精製20Sプロテアソームを添加してからの反応時間(時間)を示す。また、図14(B)に図14(A)のタンパク質バンドの濃度を画像解析して得られた定量結果を示す。PI-Rank1配列を持たない天然型α-シヌクレイは、15kDaにタンパク質バンドが観察された。ヒトα-シヌクレインのリコンビナントポリペプチドは、4時間で64%程度が分解されているのに対して、C末端にPI-Rank1(1-12)アミノ酸配列を付加したチオレドキシン融合ヒトα-シヌクレイン-PI-Rank1(1-12)付加体は、4時間で34%程度しか分解されなかった。
【0115】
以上の結果から、プロテアソーム阻害ペプチド配列を標的ポリペプチドに付加することで、標的ペプチドの分解反応がプロテアソーム阻害ペプチドに依存して抑制されることが示された。
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