(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】1‐メチルニコチンアミドの測定方法及びニコチンアミド-N-メチル基転移酵素阻害剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20241017BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20241017BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241017BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241017BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
G01N33/52 C
C12Q1/48
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/54 ZNA
(21)【出願番号】P 2020174186
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-09-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」「代謝シグナルによる未分化性制御機構を標的とした新規がん治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 敦
(72)【発明者】
【氏名】生越 友樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 将也
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218079(JP,A)
【文献】国際公開第2015/189325(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0032189(US,A1)
【文献】国際公開第2020/074776(WO,A1)
【文献】MASAYA Ueno、他17名,Pillar[6]arene acts as a biosensor for quantitative detection of a vitamin metabolite in crude biological samples ,Communications Chemistry ,2020年12月07日,Vol.3,No.183,https://doi.org/10.1038/s42004-020-00430-w,PMID:36703437
【文献】GUOCAN Yu、他6名,Pillar[6]arene/paraquat molecular recognition in water: high binding strength, pH-responsiveness, and application in controllable self-assembly, controlled release, and treatment of paraquat poisoning,J Am Chem Soc,2012年11月28日,Vol.134,No.47,Page.19489-19497. , doi: 10.1021/ja3099905. Epub 2012 Nov 15.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/48
G01N 33/15
C12N 15/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含有する試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドを測定する方法であって、
前記試料が、血液、血漿、血清、脳脊髄液、リンパ液、尿、漿液、関節液、眼房水、涙液及び唾液からなる群より選択される生物検体であり、
前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、混合物を得る工程
(ただし、ヒト体内において混合物を得る場合を除く)と、
前記混合物の蛍光強度を測定する工程とを含む、
1‐メチルニコチンアミドの測定方法。
【請求項2】
前記生物検体が尿である、請求項
1に記載の1‐メチルニコチンアミドの測定方法。
【請求項3】
ニコチンアミド‐N‐メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法であって、
ニコチンアミド存在下で、NNMTと、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ、試料を得る工程
(ただし、ヒト体内において試料を得る場合を除く)、
前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物を得る工程、及び
前記混合物の蛍光強度を測定する工程を含む、NNMT阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記試料を得る工程が、in vitro又はin vivoで行われる、請求項
3に記載のNNMT阻害剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1‐メチルニコチンアミドの測定方法及びニコチンアミド-N-メチル基転移酵素阻害剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームは、内臓肥満に、高血圧、脂質異常、高血糖などが合わさった状態のことを意味し、人の健康に深刻な悪影響をもたらすことが知られている。また、メタボリックシンドロームは、心疾患、血管疾患、2型糖尿病、及び様々な癌を発症するリスクと関連していることが知られている。
【0003】
これらの疾患では代謝異常が観察されることが知られていた(例えば非特許文献1参照)。代謝異常に関連する、尿中や、血中の代謝物の濃度を迅速かつ速やかに知ることは、疾患の診断にきわめて重要である。
【0004】
従来から、比較的大きな分子量を有するタンパク質の検出には、様々な特異的抗体が利用されてきた。例えばモノクロナール抗体によるタンパク質の特異的認識を利用し、生物検体中の特定のタンパク質を定量したり、簡単な方法や簡単な装置を用いてタンパク質の細胞内局在を可視化したりすることが従来から行われてきた(例えば非特許文献2参照)。これらの方法は、非常に迅速に実施することができるため、臨床診断及び大規模研究において有効な手法である。
【0005】
一方で、比較的低分子量の代謝物を定量する方法としては、高分解能核磁気共鳴(NMR)分光法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)等が研究室で一般的に用いられている。しかしながら、これらの方法は、高価な装置と熟練したオペレータを必要とする。このため、これらの方法は薬物スクリーニングや大規模研究等のハイスループット解析には適していない。このため、代謝物が比較的低分子量である場合に使用可能な、特定の代謝物を特異的に認識するセンサーの開発が求められている。
【0006】
ところで、1‐メチルニコチンアミド(1‐MNA)はビタミンB3(ナイアシン(ニコチン酸とニコチンアミドの総称))のアミド体であるニコチンアミドの一次代謝物であり、ニコチンアミド-N-メチル基転移酵素(NNMT(E.C.2.1.1.1))の酵素反応により生成される。NNMTは、メチル基供与体として作用するS‐アデノシルメチオニン(SAM)を用いて、ニコチンアミドのメチル化を触媒し、S‐アデノシル‐L‐ホモシステイン(SAH)と1‐MNAを生成する。
【0007】
ニコチンアミドは食品から摂取する以外にも、生体内においてトリプトファンから生合成される。このため、ナイアシン及びトリプトファンの摂取量が不足すると、ペラグラと呼ばれる、ナイアシン欠乏症を引き起こすことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Intlekofer, A.M., and Finley, L.W.S. Metabolic signatures of cancer cells and stem cells. Nature Metabolism. (2019). 1, 177-188.
【文献】Ellington, A.A., Kullo, I.J., Bailey, K.R., and Klee, G.G. Antibody-based protein multiplex platforms: technical and operational challenges. Clinical Chemistry. (2010). 56, 186-193.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、分子量が約137と小さいために定量することが困難な1‐メチルニコチンアミドの濃度を速やかに知ることができれば、有用性は極めて高いと考えた。
【0010】
そこで、本開示の目的は、速やかに1‐メチルニコチンアミドの濃度を知ることが可能な、1‐メチルニコチンアミドの測定方法を提供することである。
また、本開示の別の目的は、ニコチンアミド-N-メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、水溶性ピラー[6]アレーンを用いることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本開示に至った。
【0012】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0013】
(1) 複数の成分を含有する試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドを測定する方法であって、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、混合物を得る工程と、前記混合物の蛍光強度を測定する工程とを含む、1‐メチルニコチンアミドの測定方法。
(2) 前記試料が生物検体である、(1)に記載の1‐メチルニコチンアミドの測定方法。
(3) 前記生物検体が尿である、(2)に記載の1‐メチルニコチンアミドの測定方法。
(4) ニコチンアミド‐N‐メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法であって、ニコチンアミド存在下で、NNMTと、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ、試料を得る工程、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物を得る工程、及び前記混合物の蛍光強度を測定する工程を含む、NNMT阻害剤のスクリーニング方法。
(5) 前記試料を得る工程が、in vitro又はin vivoで行われる、(4)に記載のNNMT阻害剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、速やかに1‐メチルニコチンアミドの濃度を知ることが可能な、1‐メチルニコチンアミドの測定方法を提供することができる。
【0015】
また、本開示により、ニコチンアミド-N-メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】1-MNA生成量の基質(ニコチンアミド及びSAM)濃度依存性を評価した図である。
【
図2】(a)1-MNA生成量の酵素反応時間依存性を評価した図であり、(b)LC‐MS/MSから求めた1-MNAの濃度と、蛍光測定から求めた%阻害の値の相関を示した図である。
【
図3】1-MNA生成量が6‐メトキシニコチンアミドの濃度に依存して阻害されることを評価した図である。
【
図4】(a)マウス尿中のLC‐MS/MSから求めた1‐MNAの濃度と、蛍光測定から求めた%阻害の値を評価した図であり、(b)LC‐MS/MSから求めた1‐MNAの濃度と、蛍光測定から求めた%阻害の値の相関を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の一態様は、複数の成分を含有する試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドを測定する方法であって、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、混合物を得る工程と、前記混合物の蛍光強度を測定する工程とを含む、1‐メチルニコチンアミドの測定方法である。
【0018】
また、本実施形態の別の一態様は、ニコチンアミド‐N‐メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法であって、ニコチンアミド存在下で、NNMTと、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ、試料を得る工程、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物を得る工程、及び前記混合物の蛍光強度を測定する工程を含む、NNMT阻害剤のスクリーニング方法である。
【0019】
本実施形態の一態様に係る1‐メチルニコチンアミドの測定方法では、水溶性ピラー[6]アレーンを用いることにより、NMR分光法、HPLC、LC-MS/MS等の方法、すなわち高価な装置と熟練したオペレータを必要とする方法で、1‐メチルニコチンアミドの測定を行った場合と、遜色のない精度で、1‐メチルニコチンアミドの濃度を知ることができる。蛍光強度の測定は、簡便な装置を用いて、容易かつ短時間で実施することが可能であるため、ハイスループット解析等様々な状況で本実施形態の一態様に係る1‐メチルニコチンアミドの測定方法を実施することができる。
【0020】
本実施形態の一態様に係るNNMT阻害剤のスクリーニング方法では、水溶性ピラー[6]アレーンを用いることにより、混合物の蛍光強度を測定することにより、NNMT阻害剤の候補物質が、どの程度NNMTを阻害しているか評価することができる。蛍光強度の測定は、簡便な装置を用いて、容易かつ短時間で実施することが可能であるため、本実施形態の一態様に係るNNMT阻害剤のスクリーニング方法は、多くのNNMT阻害剤の候補物質が存在する場合であっても、迅速にスクリーニングすることができる。
【0021】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
(水溶性ピラー[6]アレーン)
本実施形態では、水溶性ピラー[6]アレーンが使用される。ピラーアレーンは、ベンゼン環構造やキノイド構造などの六員環構造を2,5位にてメチレン鎖で連結し、環状構造を形成している化合物である。つまり、所定の繰り返し単位が連結した環状化合物である。ピラーアレーンは、Journal of the American Chemical Society 2008,130,5022において初めて報告された化合物であり、以後さまざまな報告がされている。
【0022】
水溶性ピラー[6]アレーンは、ピラーアレーンの中でも、水溶性を有する化合物であり、かつ繰り返し単位が6個連結した環状化合物である。
【0023】
水溶性ピラー[6]アレーンとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0024】
【化1】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立に、水素、ナトリウム、又はアンモニウムである。)
【0025】
式(1)で表される水溶性ピラー[6]アレーンは、水中や水溶液中では、通常Xが電離し、アニオンとして存在する。式(1)で表される化合物のXが電離した状態を式(1’)に示す。なお、本開示では、式(1)で表される水溶性ピラー[6]アレーンをP6Aとも記し、該化合物が電離した状態(式(1’))をP6A-とも記す。水溶性ピラー[6]アレーンを含む混合物では、一部のXが電離し、一部のXは電離していない状態でもよく、本開示では、これらを厳密には区別しないものとする。
【0026】
【0027】
P6A-は、水溶液中で、最大発光波長330nmの蛍光を発する。なお、この時の励起波長は、好ましくは230nmである。P6A-は、繰り返し単位が形成する環状構造中に、1‐メチルニコチンアミドが入りこみ結合すると、前記蛍光が消光する。このため、本実施形態では、P6A-の環状構造に化合物が結合していない場合の蛍光強度と比べた際の、蛍光強度の減少幅を、P6A-と、1‐メチルニコチンアミドとが結合した量の指標とすることができる。
【0028】
(試料)
本実施形態の一態様に係る1‐メチルニコチンアミドの測定方法における試料は、複数の成分を含有する試料である。なお複数の成分を含有する試料とは、水以外に2以上の成分を含有する試料を意味する。
【0029】
試料としては、例えば生物検体、食品、飼料(ペットフードを含む)、工業的に合成された不純物を含む1‐メチルニコチンアミド等が挙げられる。試料としては、様々な夾雑物を含むため一般に分析が困難な生物検体が好ましい。1‐メチルニコチンアミドの測定方法では、これらの試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドの量を測定することができる。試料が固体の場合には、測定を容易に行うため、後述の混合物を得る工程の前に、水に溶かし水溶液として用いてもよい。
【0030】
試料が生物検体である場合には、生物検体は、1‐メチルニコチンアミドを含む可能性のある、生物由来の検体であればよく、特に制限されない。生物検体としては、測定が容易な、体液検体であることが好ましい。生物検体としては例えば、血液(血漿、血清)、脳脊髄液、リンパ液、尿、漿液、関節液、眼房水、涙液、唾液が挙げられる。なお、生物検体は、測定前に不純物を取り除く目的で前処理を行った後に、水溶性ピラー[6]アレーンと混合されてもよい。1‐メチルニコチンアミドは、代謝の過程で尿中に含まれることが知られているため、生物検体としては尿が好ましい。
【0031】
前記前処理としては、例えば生物検体に疎水性分子が含まれる場合には、疎水性分子の除去のためにスピンカラム等のカラムを用いた遠心操作を行うことができる。例えば尿等の生物検体には、トリプトファン等の蛍光を発する代謝物が含まれることがあるため、スピンカラム等のカラムを用いた前処理を行うことが好ましい。また、生物検体にタンパク質が溶解している場合にはタンパク質の除去のためにエタノール沈殿を行うことができる。
【0032】
生物検体は、いかなる生物由来の検体でもよいが、生物としては好ましくは哺乳動物、例えば、ヒト又は非ヒト動物が挙げられる。生物としては、具体的にはヒト、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の齧歯類、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の偶蹄目、ウマ等の奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコ等が挙げられる。
【0033】
試料が食品である場合には、食品としては、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、機能性表示食品、特定保健用食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊婦用食品)及びサプリメントが挙げられる。食品には1‐メチルニコチンアミド以外の成分が含まれており、1‐メチルニコチンアミド以外の成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、増粘剤、安定剤、乳化剤、分散剤、防腐剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0034】
試料が飼料である場合には、1‐メチルニコチンアミド及び前記食品の説明で記載した1‐メチルニコチンアミド以外の成分を含む物が挙げられる。なお、飼料とは、ヒト以外の動物に摂取させることを目的とした餌を意味する。
【0035】
試料が工業的に合成された不純物を含む1‐メチルニコチンアミドである場合には、その製法については、特に制限されない。
【0036】
(1‐メチルニコチンアミドの測定方法)
本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法は、複数の成分を含有する試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドを測定する方法であって、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、混合物を得る工程と、前記混合物の蛍光強度を測定する工程とを含む。
【0037】
[混合物を得る工程]
1‐メチルニコチンアミドの測定方法における、混合物を得る工程では、前述の試料と、前述の水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、混合物が得られる。
【0038】
混合する試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの量としては、通常は試料中に含まれる1‐メチルニコチンアミドの量に対して、水溶性ピラー[6]アレーンの量が過剰になるように調整される。
【0039】
試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドの量が、測定前に大よそ予測可能な場合には、その量に対して、水溶性ピラー[6]アレーンの量が十分過剰になるように、試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを混合すればよい。
【0040】
試料に含まれる1‐メチルニコチンアミドの量が、測定前に予測が困難である場合には、試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとを、仮の量で混合し、一度測定を行い後述の%阻害が100%に近い場合には、水溶性ピラー[6]アレーンの量を増やして再度測定を行い、%阻害が0%に近い場合には、水溶性ピラー[6]アレーンの量を減らして再度測定を行う等、適宜実験条件を調整すればよい。
【0041】
後述の%阻害が、10~95%、好ましくは30~80%になるように、試料と水溶性ピラー[6]アレーンとの量を調整することが好ましい。なお、複数の試料を同条件で比較する場合には、複数の試料の中で後述の%阻害が最も大きくなるものが、10~40%、好ましくは30~40%になるように、試料と水溶性ピラー[6]アレーンとの量を調整することが好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0042】
混合は、試料に対して、水溶性ピラー[6]アレーンを加えてもよく、水溶性ピラー[6]アレーンに対して、試料を加えてもよい。混合の際には、攪拌等を行ってもよい。水溶性ピラー[6]アレーンは、化合物をそのまま用いてもよく、水溶液等の溶液として用いてもよい。なお、容易に蛍光を測定するために、得られる混合物は好ましくは溶液、より好ましくは水溶液として調製される。混合の際には、必要に応じて、水を別途添加してもよい。
【0043】
混合を行う際の温度としては、特に制限はなく、冷却条件下で行ってもよく、室温で行ってもよく、加温条件下で行ってもよいが、好ましくは冷却条件下又は室温で行われる。具体例としては、温度は16℃~30℃で行うことが好ましく、20℃~25℃で行うことがより好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。なお、後述の実施例では、温度については室温、20℃~25℃の範囲で行った。
【0044】
[蛍光強度を測定する工程]
1‐メチルニコチンアミドの測定方法における、蛍光強度を測定する工程では、前述の混合物を得る工程で得られた混合物の蛍光強度が測定される。
蛍光強度の測定方法としては、分光蛍光光度計等を用いて測定すればよく、特に制限はされない。試料数が多い場合、一つあたりの試料量が少ない場合等は、蛍光測定機能を備えたマルチ検出モードプレートリーダー、例えばSpark(テカン(TECAN)製)等を用いてもよい。
【0045】
蛍光強度を測定する際の温度としては、特に制限はなく、冷却条件下で行ってもよく、室温で行ってもよく、加温条件下で行ってもよいが、好ましくは冷却条件下又は室温で行われる。具体例としては、温度は16℃~30℃で行うことが好ましく、20℃~25℃で行うことがより好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。なお、後述の実施例では、温度については室温20℃~25℃の範囲で行った。
【0046】
蛍光強度については、蛍光がどの程度阻害されているか、すなわち、下記式(I)で表される%阻害で評価することが好ましい。%阻害は、1‐メチルニコチンアミドと結合していない水溶性ピラー[6]アレーンの蛍光強度を初期値(F0)とし、混合物の蛍光強度をFとして求めることができる。例えば、尿と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物の蛍光強度を測定する際には、1‐メチルニコチンアミドを実質的に含まないNnmt欠損マウスから採取した尿サンプルと水溶性ピラー[6]アレーンとを混合し、測定対象の混合物と同濃度の水溶性ピラー[6]アレーンを含むサンプルを調製し、該サンプルの蛍光強度をF0して採用することにより、%阻害を算出することができる。なお、本開示において1‐メチルニコチンアミドを実質的に含まないとは、例えばLC-MS/MSで分析した際に、1‐メチルニコチンアミドが、検出されないか50nM以下で検出されることを意味し、好ましくは検出されないか5nM以下で検出されることを意味する。
【0047】
%阻害=[1-(F/F0)]×100 ・・・(I)
式(I)においてFは、混合物の蛍光強度を示す。F0は混合物と同濃度の水溶性ピラー[6]アレーンを含む1‐メチルニコチンアミドを実質的に含まないサンプルの蛍光強度を示す。
【0048】
本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法で、得られた%阻害の結果は、後述の実施例で示したように、LC-MS/MSで測定した結果と、非常に近似したものであった。
【0049】
ピラー[6]アレーンは、環状構造を有する化合物であり、その環の中に別の化合物(ゲスト化合物)が入りこみ、結合することは従来から知られていた。この結合を形成するか否かは、ピラーアレーンの環の大きさと極性、及びゲスト化合物の大きさと極性等の関係で決まるが、ゲスト化合物の特異性はほとんど研究されていなかった。このため、複数の成分を含有する試料における、ある物質の量をピラーアレーンを利用して測定することは、従来検討されていなかった。特に生物検体は、様々な代謝物等を含むため、多種多様な化合物を含む混合物であり、その中から、特定の成分を特異的に吸着することはできないと考えられていた。また、超分子を用いて生物検体中の特定の分子を特異的に吸着する等の報告は発明者の知る限りなく、このような発想自体が存在しなかった。
【0050】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、生物検体、好ましくは尿中の1‐メチルニコチンアミドと、超分子の一種である水溶性ピラー[6]アレーンとが特異的に結合し、蛍光強度を測定することにより、1‐メチルニコチンアミドの量が分かることを見出した。この結果は極めて予想が難しいものであった。
【0051】
また、本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法は、様々な応用が可能である。
【0052】
例えば、メタボリックシンドロームでは、代謝異常により、NNMTの活性が亢進し、ニコチンアミドからの1‐メチルニコチンアミドの生成が増加することがある。このため、本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法の応用例としては、被検体に1‐メチルニコチンアミドの測定方法を実施する工程と、その結果と対照群の測定値を比較する工程とを有する、メタボリックシンドローム診断補助方法を提供することができる。なお、対照群としては、特に制限はないが、健常者の対照群、メタボリックシンドロームと確定診断されている患者の対照群等の測定値をあらかじめ用意することが好ましい。
【0053】
別の例としては、ペラグラは、ナイアシン及びトリプトファンの摂取量が不足することが原因であると知られている。ナイアシン及びトリプトファンの摂取量が不足すると、その代謝物である1‐メチルニコチンアミドの量も低下すると考えられる。このため、本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法の応用例としては、被検体に1‐メチルニコチンアミドの測定方法を実施する工程と、その結果と対照群の測定値を比較する工程とを有する、ペラグラ診断補助方法を提供することができる。なお、対照群としては、特に制限はないが、健常者の対照群、ペラグラと確定診断されている患者の対照群等の測定値をあらかじめ用意することが好ましい。
【0054】
また、別の例としては、一部のがんにおいては、がん組織において、1‐メチルニコチンアミド産生量が亢進することが知られている。このため、本実施形態の一態様である1‐メチルニコチンアミドの測定方法の応用例としては、被検体に1‐メチルニコチンアミドの測定方法を実施する工程と、その結果と対照群の測定値を比較する工程とを有する、がん診断補助方法を提供することができる。なお、対照群としては、特に制限はないが、健常者の対照群、がんと確定診断されている患者の対照群等の測定値をあらかじめ用意することが好ましい。
【0055】
生物検体中の1‐メチルニコチンアミドが増減する理由は複数考えられるため、前記応用例は、各応用例単独で、ヒトを診断する方法に該当することはなく、診断補助方法にとどまる。これらの補助方法を検査技師等の医師以外の者が実施し、補助方法により得られた結果を医師に提供し、医師が他の検査結果と組み合わせることにより、患者がある疾患に罹患しているか診断することを可能にする。
【0056】
(NNMT阻害剤のスクリーニング方法)
本実施形態の一態様であるニコチンアミド‐N‐メチル基転移酵素(NNMT)阻害剤のスクリーニング方法は、ニコチンアミド存在下で、NNMTと、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ、試料を得る工程、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物を得る工程、及び前記混合物の蛍光強度を測定する工程を含む。なお、NNMT阻害剤とは、NNMTの酵素活性を阻害することが可能な物質であればよく、例えばタンパク質であってもよく、低分子化合物であってもよい。また、NNMT阻害剤の候補物質としては、人工的に合成された物質であってもよく、天然資源から抽出された物質であってもよい。
【0057】
[試料を得る工程]
NNMT阻害剤のスクリーニング方法における、試料を得る工程では、ニコチンアミド存在下で、NNMTと、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ、試料が得られる。試料を得る工程は、in vitro又はin vivoで行うことができる。なお、NNMTとしては、実施例で使用したGST‐NNMTのような融合タンパク質を用いてもよい。
【0058】
試料を得る工程をin vitroで行う場合には、例えば、緩衝液中にNNMT、ニコチンアミド、S‐アデノシルメチオニン(SAM)及び、NNMT阻害剤の候補物質を加え、酵素反応を行い、試料を得る方法が挙げられる。
【0059】
試料を得る工程をin vitroで行う別の例としては、緩衝液、液体培地等の液体媒体中のNNMT発現細胞に、ニコチンアミド、S‐アデノシルメチオニン(SAM)及び、NNMT阻害剤の候補物質に接触させ、前記細胞内での酵素反応を行い、前記液体媒体又は細胞破砕物を試料として得る方法が挙げられる。
【0060】
試料を得る工程をin vivoで行う場合には、例えば、前記(試料)の項目で記載した生物に、NNMT阻害剤の候補物質を投与し、生物の体内に存在するNNMT、ニコチンアミド、S‐アデノシルメチオニン(SAM)と、NNMT阻害剤の候補物質とを接触させ試料を得る方法が挙げられる。なお、生物にはニコチンアミドの投与を行ってもよく、SAMの投与を行ってもよい。
【0061】
[混合物を得る工程]
NNMT阻害剤のスクリーニング方法における、混合物を得る工程では、前記試料と、水溶性ピラー[6]アレーンとの混合物が得られる。
【0062】
試料を得る工程を、in vitroで行った場合には、例えば試料に対して、水溶性ピラー[6]アレーンを加えてもよく、水溶性ピラー[6]アレーンに対して試料を加えてもよい。加える際、又は加えた後には適宜攪拌等を行ってもよい。前記試料を得る工程と、混合物を得る工程との間には、精製工程を含んでいてもよい。また、試料を得る工程において、同時に水溶性ピラー[6]アレーンを加えることにより、試料を得る工程と、混合物を得る工程とを同時に行ってもよい。
【0063】
試料を得る工程を、in vivoで行った場合には、例えば試料を、生物の尿等の検体として回収し、検体に対して水溶性ピラー[6]アレーンを加えてもよく、水溶性ピラー[6]アレーンに検体を加えてもよい。加える際、又は加えた後には適宜攪拌等を行ってもよい。前記試料を得る工程と、混合物を得る工程との間には、精製工程を含んでいてもよい。また、試料を得る工程において、経口投与、注射(例えば静脈注射、皮下注射)等の方法により、生物の体内中に水溶性ピラー[6]アレーンを加えることにより、試料を得る工程と、混合物を得る工程とを同時に行ってもよい。なお、水溶性ピラー[6]アレーンを注射により、静脈内に投与した場合には、検体は血液であることが好ましい。
【0064】
混合物を得る工程では、水溶性ピラー[6]アレーンは、化合物をそのまま用いてもよく、水溶液等の溶液として用いてもよい。
【0065】
[蛍光強度を測定する工程]
NNMT阻害剤のスクリーニング方法における、蛍光強度を測定する工程では、前記混合物の蛍光強度を測定する。蛍光強度を測定する工程は、前記1‐メチルニコチンアミドの測定方法における[蛍光強度を測定する工程]と同様の方法で行うことができる。
【0066】
本実施形態の一態様であるNNMT阻害剤のスクリーニング方法を行うことにより、あるNNMT阻害剤の候補物質の%阻害の結果が優れている場合、すなわち%阻害が高い場合に、このNNMT阻害剤の候補物質を、NNMT阻害剤として用いることができる可能性が高い物質として、さらなる研究を行うことができる。NNMT阻害剤のスクリーニング方法としては、より容易に実施可能なin vitroでのスクリーニングを行い、in vitroで有望な結果が得られた候補物質に対して、in vivoでのスクリーニングを行うことが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0068】
(水溶性ピラー[6]アレーン(P6A)の合成)
水溶性ピラー[6]アレーン(P6A)を、J Am Chem Soc. (2012), 134, 19489-19497.に記載された方法に従って合成した。なお、実施例では水溶性ピラー[6]アレーン(P6A)は全て水溶液の状態で使用した。
【0069】
なお、水溶性ピラー[6]アレーン(P6A)は、通常水中、水溶液中で電離した状態で存在するため、電離した状態の水溶性ピラー[6]アレーン(P6A-)を式(1’)に示した。
【0070】
【0071】
(NNMT発現ベクターの構築)
グルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質発現系を用いて、NNMT組換えタンパク質の生成を行った。
【0072】
大腸菌でGST‐NNMT融合タンパク質を生産するための発現ベクターを構築するために、NNMTタンパク質をコードするDNA断片を増幅した。
【0073】
まず、相補的DNA(cDNA)を合成するために、QuantiTect逆転写キット(QIAGEN製、ドイツ)を用いて逆転写反応を行った。
【0074】
RNeasy Mini Kit(QIAGEN製)を用い、製品のマニュアルに従い、ヒト白血病細胞株K562から全RNAを単離し、全RNA1μgからcDNAを合成した。
【0075】
NNMT遺伝子を増幅するために、DNA Taqポリメラーゼ(Ex Taq;タカラバイオ株式会社製、日本)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
合成されたcDNAを、以下に示すようにPCRにおいて鋳型DNAとして用いた。PCRプライマーのペアは、Thermo Fisher Scientific社(米国)から購入した。
【0076】
センスプライマーは、5’ヌクレオチド配列に由来し、下記配列を有していた。
[5’- GAA TTC CAT GGA ATC AGG CTT CAC CTC CAA-3’](配列番号1)
【0077】
アンチセンスプライマーは、ヒトNNMT遺伝子の3’末端に由来し、下記配列を有していた。
[5’- CTC GAG TCA CAG GGG TCT GCT CAG CTT CCT-3’](配列番号2)に由来した。
【0078】
なお、クローニングのために、センスプライマーは5’末端にEcoRI制限酵素認識配列(配列番号1の5'末端側6塩基)を含み、アンチセンスプライマーは5’末端にXhoI制限酵素認識配列(配列番号2の5'末端側6塩基)を含む。
【0079】
PCRは、94℃で2分間の初期変性を行い、続いて94℃で30秒間、55℃で30秒間及び72℃で1分間を40サイクル行い、そして72℃で5分間の最後の伸長ステップを行った。
【0080】
PCRで増幅したDNA断片(NNMTコード領域)及びpGEX‐4T‐3プラスミド(GE Healthcare製、米国)をEcoRI及びXhoIで消化した。消化後、T4 DNAリガーゼを用いて、両DNAを連結し、pGEX‐NNMTを構築した。pGEX‐4T‐3プラスミドはlacオペレータ制御下にGST遺伝子を含み、GST遺伝子の下流にEcoRI及びXhoIサイトを含むマルチクローニングサイトを含む。このため構築された前記pGEX‐NNMTは、lacオペレータ制御下にGST遺伝子及びNNMT遺伝子を含む。
【0081】
(NNMT組換えタンパク質の精製)
前記コンストラクト(pGEX‐NNMT)を用いて大腸菌(E. coli DH5α (東洋紡株式会社製、日本))を形質転換した。
【0082】
得られた形質転換体を、アンピシリン(0.1mg/mL)を含むLB培地で、37℃の振とうインキュベーター中で増殖させた。融合タンパク質の発現は、0.1mMイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)(富士フイルム和光純薬株式会社製、日本)を添加して誘導した。
【0083】
GST融合タンパク質(GST‐NNMT)を、グルタチオンセファロース(Glutathione Sepharose)カラム(GE ヘルスケア製、米国)により細菌溶解物から精製した。
【0084】
過剰の還元型グルタチオンを添加することにより、グルタチオンカラムからタンパク質が溶出した。緩衝液からグルタチオンを除去するために、溶出したタンパク質をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に対して透析した。
【0085】
(NNMT組換えタンパク質のゲル電気泳動)
60mMのTris-HCl、2%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、10%のグリセロール、及び5%の2-メルカプトエタノールを含むSDS試料緩衝液にGST‐NNMTを溶解し、試料とした。試料を95℃で5分間加熱し、ポリアクリルアミド勾配(4~20%)ゲル(富士フイルム和光純薬株式会社製)で電気泳動により分離した。Coomassie Brilliant Blue R-250を用いて染色し、タンパク質を可視化した。
【0086】
GST‐NNMTは単一の主要タンパク質バンドが観察され、純度が十分に高いことが確認された。
【0087】
(無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐1)
NNMTによるメチル基転移反応を以下の方法で行った。
【0088】
緩衝液として、20mMのTris(pH 8.0)、50mMのNaCl、1mMのEDTA、3mMのMgCl2、1mMのDTTを含むものを用いた。
【0089】
緩衝液に300μg/mlのGST‐NNMT、並びに、ニコチンアミド及びS‐アデノシルメチオニン(SAM)を加えた。ニコチンアミド及びS‐アデノシルメチオニン(SAM)は、0~1mMの範囲で、同濃度で加えた。ニコチンアミド及びS‐アデノシルメチオニン(SAM)の濃度を変えた複数のサンプルを用意した。
【0090】
37℃で3時間酵素反応を行った。酵素反応後、サンプルチューブに20倍量のエタノールを加えて、タンパク質を沈殿させた後、12,000rpmで10分間遠心分離して除去した。
【0091】
エタノール混合物を別のチューブに移し、蒸発させた。すべてのエタノールを蒸発さっせた後、得られたペレットを超純水(メルクミリポア製、アメリカ)で再懸濁し、測定試料を得た。
【0092】
(無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐2)
NNMTによるメチル基転移反応を以下の方法で行った。
【0093】
ニコチンアミド及びS‐アデノシルメチオニン(SAM)の濃度を、それぞれ1mMとし、酵素反応時間を、0分、1分、5分、10分、20分、30分、40分、又は60分とした以外は、前述のメチル化アッセイ‐1と同様に行い、測定試料を得た。
【0094】
(LC‐MS/MSによる1‐MNAの定量)
前記測定試料中に含まれる1‐MNAを、LC‐MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて定量した。
1‐MNAの濃度は、LC‐MS‐8050トリプル四重極型LC-MS/MS(株式会社島津製作所製、日本)とLC-30Aシステム(株式会社島津製作所製)を組み合わせて測定した。
【0095】
クロマトグラフィーは、InertSustain amideカラム(ID 2.0mm ×50mm;GL Sciences社製)を用いて、40℃でステップグラジエント法(流速、0.4mL/min)により行った。
【0096】
溶離液としては、0.1%のギ酸を含む水(A)と、0.1%のギ酸を含むアセトニトリル(B)とを混合したものを、以下のように組成を変えながら使用した。
0~2.0分 13%A/87%B、
2.0~2.5分 13%A/87%B~50%A/50%B、
2.5~4.0分 50%A/50%B、
4.0~4.5分 50%A/50%B~13%A/87%B、
4.5~7.0分 13%A/87%B
【0097】
各化合物の分子イオンとプロダクトイオンの質量数は次のとおりであった。
1‐MNA(137.2→94.2、CE -22.0 V)、
1‐MNA‐d3(トロントリサーチケミカルズ製、カナダ)(140.0→97.2、 CE -22.0 V)。
検出限界は各化合物で1ng/mLであった。
【0098】
前記無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐1で得られた測定試料より、1‐MNA生成量の基質(ニコチンアミド及びSAM)濃度依存性を評価し、
図1左図に示した。
【0099】
前記無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐2で得られた測定試料より、1‐MNA生成量の酵素反応時間依存性を評価し、
図2a左図に示した。
【0100】
(P6A-を用いた蛍光測定による1‐MNAの定量)
50μLの前記測定試料に、150μLのP6A-(最終濃度は、水中で20μM)を加え、96ウェルプレートのウェルに入れた。次いで、Spark(テカン(TECAN)製、スイス)を用いて、直ちに蛍光スペクトルを測定した。
【0101】
P6A-は1‐MNAを細孔中に取り込むと、蛍光(最大発光波長330nm)が消光することが知られている。各測定試料において蛍光がどの程度阻害されているのか、以下の式(I)により算出した。
%阻害=[1-(F/F0)]×100 ・・・(I)
上記式においてFは、各測定試料の蛍光強度を示す。F0は酵素反応前(反応時間0分)の蛍光強度を示す。%阻害は、図において% inhibitionと記す。
【0102】
前記無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐1で得られた測定試料より、1‐MNA生成量の基質(ニコチンアミド及びSAM)濃度依存性を評価し、
図1右図に示した。
【0103】
前記無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化アッセイ‐2で得られた測定試料より、1‐MNA生成量の酵素反応時間依存性を評価し、
図2a右図に示した。
図2aに示した、LC‐MS/MSから求めた1‐MNAの濃度と、蛍光測定から求めた%阻害の値との相関を
図2bに示す。R
2が0.9771と非常に高く、両者の結果は正確に一致していることが確認された。
【0104】
(無細胞系におけるニコチンアミドのメチル化抑制の観測)
NNMTの阻害剤として報告されている6‐メトキシニコチンアミドを用い、6‐メトキシニコチンアミド存在下でのNNMTによるメチル基転移反応について観測した。
【0105】
緩衝液として、20mMのTris(pH 8.0)、50mMのNaCl、1mMのEDTA、3mMのMgCl2、1mMのDTTを含むものを用いた。
【0106】
緩衝液に300μg/mlのGST‐NNMT、1mMのニコチンアミド、1mMのS‐アデノシルメチオニン(SAM)及び6‐メトキシニコチンアミドを加えた。6‐メトキシニコチンアミドは、0~1.25mMの範囲で加えた。6‐メトキシニコチンアミドの濃度を変えた複数のサンプルを用意した。
【0107】
37℃で3時間酵素反応を行った。酵素反応後、サンプルチューブに20倍量のエタノールを加えて、タンパク質を沈殿させた後、12,000rpmで10分間遠心分離して除去した。
【0108】
エタノール混合物を別のチューブに移し、蒸発させた。すべてのエタノールを蒸発さっせた後、得られたペレットを超純水(メルクミリポア製、アメリカ)で再懸濁し、測定試料を得た。
【0109】
前述の(LC‐MS/MSによる1‐MNAの定量)及び(P6A
-を用いた蛍光測定による1‐MNAの定量)に記載した方法で、1-MNAの定量を行った。
結果を
図3に示す。
図3に示したように、LC‐MS/MS(
図3左図)、蛍光測定(
図3右図)のいずれでも6‐メトキシニコチンアミドの濃度依存的に、1-MNA濃度が減少することが示された。この結果より、P6A
-を用いた蛍光測定が、NNMT阻害剤のスクリーニング方法に使用可能であることが示唆された。
【0110】
(実験動物)
以下の遺伝子組換え動物の作出及びマウスを用いた実験は、金沢大学動物実験委員会(the Committee for Ethical Use of Experimental Animals at Kanazawa University)により承認済である。
【0111】
(Nnmt KOマウスの樹立)
受精卵において、ゲノムDNAからNnmt遺伝子のエクソン2のCRISPR媒介除去を行った。
【0112】
エクソン2の欠失はオープンリーディングフレームとノックアウト(KO)遺伝子のフレームシフトを引き起こした。
【0113】
マウスNnmtを標的とするgRNAの調製のために、Nnmtのイントロン1の3’末端を標的とするgRNA#1(5’‐GGA TTG TGC CAT TTT TGT TG-3')(配列番号3)とNnmtのイントロン2の5’末端を標的とするgRNA#2(5’‐TGT ACC ACC AGA GTA CTA TT-3')(配列番号4)を設計した。gRNAを生成するための各CRISPR RNA(crRNA)は、Integrated DNA Technologies社(IDT)(米国)によってAlt-R CRISPR crRNA(製品)として合成された。
【0114】
受精前核期胚は、雄性のC57BL/6Jマウス(日本エスエルシー株式会社)の精子と過剰排卵した雌のC57BL/6Jマウスの卵母細胞を用いて、ヒト卵管液培地(HTF;アーク・リソース株式会社、日本)中で体外受精により調製した
【0115】
次に、Opti-MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、米国)に懸濁したcrRNA(各2μM)、tracrRNA(IDT、4μM)及びCas9タンパク質(IDT、100ng/μL)の複合体を、エレクトロポレーションにより前核期胚に導入した。
【0116】
エレクトロポレーション後、胚を洗浄し、一晩カリウムシンプレックス最適化培地(KSOM;アーク・リソース株式会社)で一晩培養した。培養で得られた2細胞胚を偽妊娠レシピエントICRマウス(日本クレア株式会社、日本)に移植した。
【0117】
移植された胚から誕生したマウスをF0世代とした。F0世代のマウスの遺伝子型を、尾部生検により抽出したゲノムDNAを用いたPCRにより解析した。
【0118】
ゲノム編集領域を含むDNA断片を増幅するために、プライマー5’-TTT ACC CAC TGA CCG TCT CC-3’(配列番号5)及び5’-GAC CAT CAC TCC AGG CCT TA-3’(配列番号6)、並びに、GoTaq(プロメガ社、米国)を用いて、ジェノタイピングPCRを行った。
【0119】
PCRは、95℃で2分間の初期変性を行い、続いて95℃で30秒間、58℃で30秒間及び72℃で1分間を35サイクル行い、そして72℃で7分間の最後の伸長ステップを行った。
【0120】
PCR産物を2%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロミド染色によりDNAを可視化した。
【0121】
CRISPR編集をサンガー配列決定法により検証するために、ゲル抽出キット(QIAGEN)を用いてPCR産物をゲル精製し、pGEM‐T Easyベクター(プロメガ社)を用いてTAクローニングを行った。
【0122】
ゲノム編集されたマウスにおけるDNA配列を決定するために、サンガー配列決定法でプラスミドDNAが利用された。
【0123】
得られた2匹のファウンダー(F0)マウスは、3つの対立遺伝子は、2つのgRNA、すなわちgRNA#1及びgRNA#2の標的となる部分に隣接する領域を除去する欠失を保有していた。
【0124】
次に、Nnmtヘテロ接合性欠失対立遺伝子を保有する1匹の変異マウス(#2)を野生型マウスと戻し交配し、F1世代を得て、Nnmt変異対立遺伝子を精製した。戻し交配は、F0世代の対立遺伝子の不均一性又はモザイク性のために生じたと考えられる表現型変異を除くことを可能にした。
【0125】
3世代の戻し交配と近親交配の後、Nnmtヘテロ接合体欠損(Ht)マウスを交配することにより、Nnmtホモ接合体欠損マウス(Nnmt KOマウス)を作製した。
【0126】
(マウス尿中の1‐MNAの定量)
実験にはC57BL/6マウス雌を日本エスエルシー株式会社(日本)から購入して使用した。
なお、陰性コントロールとして、前記Nnmt KOマウスを使用した。
【0127】
C57BL/6マウス雌にニコチンアミドを含まない飲料水を自由接種させた。飲料水を2日間与えた後、尿をマウスごとに採取した。採尿のために、各マウスをペトリ皿上に保持し、膀胱付近を穏やかに押して膀胱を刺激し、排尿を促した。なお、この尿を分析した結果を、
図4中ではWtと表記した。
【0128】
C57BL/6マウス雌に2mg/mLのニコチンアミドを含む飲料水を自由接種させた。飲料水を2日間与えた後、尿をマウスごとに採取した。採尿のために、各マウスをペトリ皿上に保持し、膀胱付近を穏やかに押して膀胱を刺激し、排尿を促した。なお、この尿を分析した結果を、
図4中ではWt+NAと表記した。
【0129】
Nnmt KOマウスにニコチンアミドを含まない飲料水を自由接種させた。飲料水を2日間与えた後、尿をマウスごとに採取した。採尿のために、各マウスをペトリ皿上に保持し、膀胱付近を穏やかに押して膀胱を刺激し、排尿を促した。なお、この尿を分析した結果を、
図4中ではNnmt KOと表記した。
【0130】
前述の(LC‐MS/MSによる1‐MNAの定量)及び(P6A
-を用いた蛍光測定による1‐MNAの定量)に記載した方法で、尿中の1-MNAの定量を行った。マウスの種類ごとに1-MNA量を平均し、LC‐MS/MSによる1‐MNAの定量結果(
図4a左図)、及びP6A
-を用いた蛍光測定による1‐MNAの定量結果(
図4a右図)示した。
【0131】
なお、P6A-を用いた蛍光測定による1‐MNAの定量の前に、尿について以下の前処理を行った。
尿試料から疎水性分子を除去するために、シリカモノリスを用いた前処理用スピンカラムであるMonoSpin C18カラムを用いた。スピンカラムの前処理は、0.2mLのメタノールを用いて5,000rpmで1分間、次いで0.2mLのPBSを用いて5,000rpmで1分間行った。
【0132】
次に、合計50μLの尿サンプルを前処理したカラムに供給し、5,000rpmで1分間遠心分離を行った。このステップをさらに二回行った。
【0133】
得られたフロースルーをエタノール沈殿法によりさらに精製した後、蛍光測定に用いた。蛍光測定は、精製後の尿5μLを、195μLのP6A-(最終濃度は、200μM)に添加したものを測定サンプルとして行った。
なお、%阻害の算出におけるF0としては、1-MNAを実質的に含まないNNMT欠損マウスの尿とP6A-水溶液(濃度200μM)との混合物の蛍光強度を採用した。
【0134】
図4aに示した、LC‐MS/MSから求めた1‐MNAの濃度(
図4a左図)と、蛍光測定から求めた%阻害の値(
図4a右図)の相関を
図4bに示す。R
2が0.8576と非常に高く、両者の結果は正確に一致していることが確認された。
【0135】
上述の実験結果より、本実施形態では、水溶性ピラー[6]アレーンを用いて蛍光強度を測定することにより、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)と同程度の精度で、1‐メチルニコチンアミドの量を、蛍光の阻害率として測定することができることが分かった。蛍光強度の測定はLC-MS/MSと比べ、簡便な操作で短時間に行うことができるため、本実施形態の有用性は極めて高いことが示唆された。
【0136】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【配列表】