(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】酸素発生を触媒するためのペロブスカイト
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20241017BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241017BHJP
B01J 23/843 20060101ALI20241017BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241017BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20241017BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C25B11/075
C25B1/04
B01J23/843 M
H01M4/90 X
H01M12/06 F
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020569768
(86)(22)【出願日】2019-06-15
(86)【国際出願番号】 US2019037397
(87)【国際公開番号】W WO2019245929
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-14
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヤング シャオ‐ホーン
(72)【発明者】
【氏名】ユーリイ ロマン
(72)【発明者】
【氏名】デニス クズネツォフ
(72)【発明者】
【氏名】リヴィア ジョルダーノ
(72)【発明者】
【氏名】ジアユ ペング
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502120(JP,A)
【文献】特開2016-096141(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0122886(US,A1)
【文献】KNEE CHRISTOPHER S.,Influence of Oxygen Defects on the Structure and Magnetic Properties of Sr1-xBixCoO3-y(0.1≦x≦0.2) supercell Perovskites,CHEMISTRY OF MATERIALS,2006年03月01日,vol.18,No.5,page 1354-1364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/075
C25B 1/04
B01J 23/843
H01M 4/90
H01M 12/06
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極及び第2の電極に電気的に接続している電圧源;並びに該第1の電極及び該第2の電極と接触している電解質を含む電気化学的システムであって;該第2の電極が、式(I)の触媒:
Bi
xSr
1-xCoO
3±δ (I)
(式中、xは0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である)を含み;該システムが、該触媒が、酸素発生電圧が該第1の電極と該第2の電極の間に印加される場合に酸素発生反応を触媒するように構成されている、前記システム。
【請求項2】
xが、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
xが0.20である、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
δが、0~0.5、0~0.15、0~0.1、0~0.05の範囲であるか、又は、零である、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
炭素を含む電極表面上に
ペレットとしての又は堆積された、式(I)の触媒:
Bi
xSr
1-xCoO
3±δ (I)
(式中、xは0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である)
を含む、電極。
【請求項6】
xが、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35である、請求項5記載の電極。
【請求項7】
xが0.20である、請求項5記載の電極。
【請求項8】
δが0~0.5の範囲である、請求項5記載の電極。
【請求項9】
δが0~0.15の範囲である、請求項5記載の電極。
【請求項10】
δが0~0.1の範囲である、請求項5記載の電極。
【請求項11】
δが0~0.05の範囲である、請求項5記載の電極。
【請求項12】
δが零である、請求項5記載の電極。
【請求項13】
酸素発生電圧を請求項1~4記載のシステムに印加することを含む、酸素を発生させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本願は、2018年6月15日に出願された米国仮特許出願第62/685,726号の優先権を主張し、それを引用によりその全体として組み込む。
【0002】
(技術分野)
本発明は、例えば酸素発生反応の触媒作用のための、触媒材料を使用する電気化学的な方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
水素ガス及び金属空気電池は、カーボンフリーなエネルギー貯蔵媒体として多くの利点を示す。両者とも、全エネルギー貯蔵技術のうち最高の質量基準エネルギー密度を有する。水素ガスは、再生可能エネルギーにより電力が供給される水の電気分解により持続可能な方法で容易に形成でき、金属空気電池も、再生可能な電力の印加により充電できる。水素燃料及び金属空気電池の幅広い採用は、電子移動反応、とりわけ、
2H2O→O2+4H++4e- (1)
と書かれ、
低pH水電気分解の場合:
4OH-→O2+2H2O+4e- (2)
と書かれ、
高pH水電気分解の場合:
MxOy→(y/2)O2+xM(2y/x)++4e- (3)
と最後に書かれ、金属空気電池の場合その全てが触媒表面で起こる酸素発生反応(OER)の制御に依存する。(1)及び(2)では、OERは太陽光駆動水分解(solar-driven water splitting)又は電解槽中で起こり、電力を使用して水素及び酸素ガスが生成する。(3)では、OERは金属空気電池の電力駆動型充電で起こり、電力を使用して還元型の金属及び/又は金属酸化物並びに酸素ガスが形成する。
【0004】
OER用の周知の触媒としては、高価な貴金属及び貴金属酸化物、例えばIrO2がある。しかし、貴金属元素の非常に高額なコスト及び希少性のために、実際的な用途におけるそれらの使用が制限されている。第一列遷移金属酸化物(NiCo2O4及びコバルトリン酸塩系触媒など)は代わりの解決法を与えるが、IrO2よりも活性が低くなり得る。
【発明の概要】
【0005】
(概要)
一態様において、電気化学的システムは、第1の電極及び第2の電極に電気的に接続している電圧源;並びに該第1の電極及び該第2の電極と接触している電解質を含み得るが;ここで、該第2の電極は、式(I)の触媒:
BixSr1-xCoO3±δ (I)
を含み(式中、xは、0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である);該システムは、該触媒が、酸素発生電圧が第1の電極と第2の電極の間に印加される場合に酸素発生反応を触媒するように構成されている。
【0006】
別の態様において、電極は、式(I)の触媒:
BixSr1-xCoO3±δ (I)
(式中、xは0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である)を含み得る。
別の態様において、酸素を発生させる方法は、該システム又は電極に酸素発生電圧を印加することを含み得る。
特定の状況において、xは、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35であり得る。
特定の状況において、δは、0~0.5、0~0.15、0~0.1、0~0.05、又はおよそ零であり得る。
他の態様、実施態様、及び特徴は、以下の説明、図面、及び請求項から明らかだろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1Aは、本明細書に記載の組成物の性質の描写である。
図1Bは、本明細書に記載の組成物の粉末X線回折(PXRD)パターンである。
【
図2】
図2Aは、10mVs
-1の走査速度でO
2-飽和0.1M又は1M KOH中で測定された、Co含有化合物の選択されたCV曲線を描写するグラフである。
図2Bは、C/20及びC/50のレートでO
2-飽和1M KOH中で記録された、SrCoO
3-δ及びBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ(BSCO)の定電流充電曲線を描写するグラフである。
【
図3】
図3Aは、定電流充電前後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ(BSCO)酸化物のCV測定値(2回目のスキャン、10mVs
-1)を描写するグラフである。定電流実験は、ガラス状炭素電極上に担持された酸化物膜(Nafion及びアセチレンブラックカーボンを含む)に対して、O
2-飽和1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディング(oxide loading)で実施した。BSCO含有膜を、一定の電流密度6.1 mA g
-1で20時間(C/20)、又は2.4 mA g
-1で50時間(C/50)保ち、SrCoO
3-δ含有膜を、一定の電流密度7 mA g
-1で20時間(C/20)保った。例えば、引用によりその全体として組み込まれるLee, Y.; Suntivich, J.; May, K. J.; Perry, E. E.; Shao-Horn, Y.の文献「酸及びアルカリ性溶液中での酸素発生のためのルチルIrO2及びRuO2ナノ粒子の合成及び活性(Synthesis and Activities of Rutile IrO2 and RuO2 Nanoparticles for Oxygen Evolution in Acid and Alkaline Solutions)」(J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 399-404)を参照されたい。
図3Bは、選択されたペロブスカイト酸化物のターフェルプロットを描写するグラフである。測定は、O
2-飽和0.1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで実施した。データポイントは定電流測定値から抽出した。LaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3-δ、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3-δ、SrCoO
3-δのデータは、引用によりその全体として組み込まれるGrimaud, A.; Diaz-Morales, O.; Han, B.; Hong, W. T.; Lee, Y.-L.; Giordano, L.; Stoerzinger, K. A.; Koper, M. T. M.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素発生を触媒するために金属酸化物における格子酸素酸化還元反応を活性化する(Activating Lattice Oxygen Redox Reactions in Metal Oxides to Catalyse Oxygen Evolution)」(Nat. Chem. 2017, 9, 457-465)から採ったものである。
図3Cは、C/50で充電されたBSCO含有膜の定電流測定から得たOER活性のpH依存性を描写するグラフである。エラーバーは、ESIに示される通り(
図9及び10)少なくとも3つの独立した測定値から得た標準偏差を表す。
図3Dは、測定されたpHの関数としての、0.25mg
酸化物cm
ディスク
-2の酸化物ローディングのガラス状炭素電極の、RHEに対して1.55Vでの比OER活性を描写するグラフである。
【
図4】
図4Aは、電解質濃度の関数としての、BSCO(C/50)試料のOER前の平均酸化還元ピーク中心の位置(左、赤色)及び定電流測定から得たターフェルプロットから見積もられた~60μA cm
酸化物
-2OER電流を達成するのに必要とされる電位として推定されるOER開始電位(右、青色)を描写するグラフである。
図4Bは、BSCO(C/50)試料の開始電位(~60μA cm
酸化物
-2OER電流で測定)とOER前の平均酸化還元ピーク中心の位置との間の関係を描写するグラフである。異なる電解質濃度でのCV測定を、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで、O
2-飽和1M KOH電解質中で定電流充電された酸化物膜で実施した。
【
図5】
図5Aは、元のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ(BSCO)パウダーのTEM画像である。
図5Bは、2.4 mA/gで50時間定電流処理され、それに続いてOER測定(measurments)された(
図8)、インクから堆積させたBSCOのTEM画像である。定電流実験は、O
2-飽和1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで、ガラス状炭素電極に担持されたNafion及びアセチレンブラックカーボンを含む酸化物膜に実施した。
図5Cは、定電流充電及びOER測定後のBSCO粒子の代表的な高角環状暗視野(HAADF)画像化及び走査TEMエネルギー分散型分光法(STEM-EDX)のTEM画像である。EDX結果の定量化はHAADF画像に示されている。さらなるEDX結果は
図13に示されている。
図5Dは、EDXにより測定された充電及びOER測定の前後のBSCO中のバルク及び表面Bi、Sr及びCo金属組成を描写するグラフである。(d)中のエラーバーは、少なくとも8スポットの標準偏差を表す。
【
図6】
図6Aは、異なる化学量論のACoO
3ペロブスカイトの、フェルミ準位に対するO 2pバンドセンターに対するCo 3dバンドセンターとO 2pバンドセンターの差を描写するグラフである。LaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3のデータは、引用によりその全体として組み込まれるGrimaud, A.; Diaz-Morales, O.; Han, B.; Hong, W. T.; Lee, Y.-L.; Giordano, L.; Stoerzinger, K. A.; Koper, M. T. M.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素発生を触媒するために金属酸化物における格子酸素酸化還元反応を活性化する(Activating Lattice Oxygen Redox Reactions in Metal Oxides to Catalyse Oxygen Evolution)」(Nat. Chem. 2017, 9, 457-465)から採ったものである。
図6Bは、完全な酸素化学量論を有するLaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3、SrCoO
3、及びBa
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3の、フェルミ準位に対する計算された酸素2p-バンドセンターと比べた酸素空孔(O
2に対する)の計算された生成エンタルピーを描写するグラフであり、酸素空孔生成エネルギー論とフェルミ準位に対する酸素2p-バンドセンターとの間のほぼ直線的な相関を示している。LaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3、SrCoO
3(E
vacのみ)、及びBa
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3のデータは、引用によりその全体として組み込まれるLee, Y.-L.; Kleis, J.; Rossmeisl, J.; Shao-Horn, Y.; Morgan, D.の文献「第一原理記述子による固体酸化物燃料電池カソード活性の予測(Prediction of Solid Oxide Fuel Cell Cathode Activity with First-Principles Descriptors)」(Energy Environ. Sci. 2011, 4, 3966-3970)から採ったものである。完全に化学量論的なBi
0.125Sr
0.875CoO
3及びBi
0.25Sr
0.75CoO
3の酸素空孔の生成エンタルピーは、直線的相関に従って、これら2種の化合物の計算された酸素2pバンドセンターによりさらに推定された。
【
図7】
図7は、選択されたペロブスカイト酸化物及びRuO
2のOERターフェルプロットを描写するグラフである。測定は、O
2-飽和0.1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングでペロブスカイトに対して実施された。データポイントは定電流測定から抽出された。La
0.5Sr
0.5CoO
3-δ、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3-δ、SrCoO
3-δのデータは、引用によりその全体として組み込まれるGrimaud, A.; Diaz-Morales, O.; Han, B.; Hong, W. T.; Lee, Y.-L.; Giordano, L.; Stoerzinger, K. A.; Koper, M. T. M.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素発生を触媒するために金属酸化物における格子酸素酸化還元反応を活性化する(Activating Lattice Oxygen Redox Reactions in Metal Oxides to Catalyse Oxygen Evolution)」(Nat. Chem. 2017, 9, 457-465)から、RuO
2のデータは引用によりその全体として組み込まれるStoerzinger, K. A.; Rao, R. R.; Wang, X. R.; Hong, W. T.; Rouleau, C. M.; Shao-Horn, Y.の文献「ルチル二酸化ルテニウム表面でのpH-依存性酸素発生におけるRu酸化還元の役割(The Role of Ru Redox in pH-Dependent Oxygen Evolution on Rutile Ruthenium Dioxide Surfaces)」(Chem 2017, 2, 668-675)から採ったものである。
【
図8】
図8は、一定の電流密度6.1 mA g
-1で20時間(C/20)、又は2.4 mA g
-1で50時間(C/50)保たれたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ電極の充電曲線を描写するグラフである。定電流実験は、O
2-飽和1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングでガラス状炭素電極上に担持されたNafion及びアセチレンブラックカーボンを含む酸化物膜(「インク」と称される)に対して、又はグラフェンシート(厚さ0.120mm)に付着させたペレット化されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δパウダー(60mg、直径5mmペレット)(「ペレット」と称される)に対してO
2-飽和1M KOH中で実施した。
【
図9】
図9は、O
2-飽和1M KOH中で、一定の電流密度2.4 mA g
-1で50時間(C/50)保たれたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ電極予備体(electrode preliminary)の代表的な独立したCV及び定電流実験を描写するグラフである。実験は、ガラス状炭素電極上に担持されたNafion及びアセチレンブラックカーボンを含む酸化物膜に対して、O
2-飽和1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで実施した。
【
図10】
図10は、O
2-飽和1M KOH中で、一定の電流密度2.4 mA g
-1で50時間(C/50)保たれたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ電極予備体の代表的な独立したCV及び定電流実験を描写するグラフである。実験は、ガラス状炭素電極上に担持されたNafion及びアセチレンブラックカーボンを含む酸化物膜に対して、O
2-飽和0.1M KOH電解質中で、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで実施した。
【
図11】
図11は、RHEに対するHg/HgO参照電極の較正を描写するグラフである。CVスキャンは、走査速度10mVs
-1で、直径5mmの多結晶白金作用電極、Ptワイヤカウンター電極、及びHg/HgO参照電極の3電極構成で、H
2-飽和1M KOH電解質中で、異なる回転速度で記録された。類似の手順が、0.1M、0.3M KOH電解質中での参照電極の較正のために採用された。0.03M KOHでは、Ag/AgCl参照電極がHg/HgOの代わりに使用された。
【
図12】
図12は、どちらもガラス状炭素基材上に堆積された、元のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δパウダー及びO
2-飽和1M KOH中で、一定の電流密度2.4 mA g
-1で50時間(C/50)保たれたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δのラマンスペクトルを描写するグラフである。実験は、ガラス状炭素電極上に担持されたNafion及びアセチレンブラックカーボンを含む酸化物膜に対して、0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクの酸化物ローディングで実施された。
【
図13】
図13は、充電及びOER測定前後の個別のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ粒子の、EDXにより測定されたバルク及び表面のBi、Sr及びCo金属組成を描写する一連のグラフである。
【
図14】
図14は、化学量論的SrCoO
3、Bi
0.125Sr
0.875CoO
3、及びBi
0.25Sr
0.75CoO
3ペロブスカイトの計算された全状態密度(DOS)並びにCo 3d及びO 2p状態に投影されたDOSを描写する一連のグラフである。黒点線はフェルミ準位の位置に対応する。
【
図15】
図15は、異なるACoO
3ペロブスカイトのO K-吸収端XASスペクトルを描写するグラフである。LaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3、Pr
0.5Ba
0.5CoO
3のデータは、引用によりその全体として組み込まれるRao, R. R.; Kolb, M. J.; Halck, N. B.; Pedersen, A. F.; Mehta, A.; You, H.; Stoerzinger, K. A.; Feng, Z.; Hansen, H. A.; Zhou, H.; らの文献「酸素発生の触媒作用におけるRuO2(110)上の活性部位の特定に向けて(Towards Identifying the Active Sites on RuO2(110) in Catalyzing Oxygen Evolution)」(Energy Environ. Sci. 2017, 10, 2626-2637)から採ったものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(詳細な説明)
ここで、発明者らは、塩基性溶液中での酸素発生反応(OER)の記録的な固有活性を示すビスマス置換ストロンチウムコバルトペロブスカイト、Bi0.2Sr0.8CoO3-δの合成を報告する。Bi0.2Sr0.8CoO3-δのOER速度は、低いターフェル勾配(<30mV/decade)及びOERステップの1つの間のプロトンの分離及び電子移動を仮定してRHEスケールのpH依存性を示すことが見出された。SrCoO3-δなどの他の活性触媒と比べたBi0.2Sr0.8CoO3-δの増大したOER速度は、表面電荷に影響して脱プロトン速度を促進し、部分的Co還元及び誘起効果によりフェルミ準位に対してBi0.2Sr0.8CoO3-δの低められたOpバンド中心を有することにより酸化物安定性を増大させ得る電気陰性な強いルイス酸Bi3+イオンの存在に帰され得る。この研究は、効率がよく持続可能なエネルギー貯蔵を可能にする、金属置換により誘起される誘起効果による酸化物触媒のOER活性及び安定性の増大のための新規設計戦略を実証する。
【0009】
図1Aはこの開発の態様を描写する。
太陽エネルギーなどの持続可能な源からの電気エネルギーの分配及びオンデマンド使用は、費用対効果が高く、地球に豊富に存在する元素を含む貯蔵技術を必要とする。例えば、それぞれ引用により全体として組み込まれる、Gray, H. B.の文献「太陽燃料により地球に電力を供給する(Powering the Planet with Solar Fuel)」(Nat. Chem. 2009, 1, 7-7); Lewis, N. S.; Nocera, D. G.の文献「地球に電力を供給する: 太陽エネルギー利用における化学的課題(Powering the Planet: Chemical Challenges in Solar Energy Utilization)」(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2006, 103, 15729-15735); Montoya, J. H.; Seitz, L. C.; Chakthranont, P.; Vojvodic, A.; Jaramillo, T. F.; Norskov, J. K.の文献「太陽燃料及び化学製品の材料(Materials for Solar Fuels and Chemicals)」(Nat. Mater. 2017, 16, 70-81); 及びTachibana, Y.; Vayssieres, L.; Durrant, J. R.の文献「太陽光による水分解のための人工光合成(Artificial Photosynthesis for Solar Water-Splitting)」(Nat. Photonics 2012, 6, 511-518)を参照されたい。太陽エネルギーは、水分解又はCO
2還元により水素又は炭化水素(例えば、CO、メタノール及びメタン)をエネルギーキャリアとして生成させることにより化学結合の形態で貯蔵でき、ここで酸素発生反応(OER)はこれらの反応を完了するために要求される。これらの技術は、大規模貯蔵のためのリチウムイオン電池に好都合であるが、その理由は、それらが高い質量エネルギー密度を有し、エネルギー貯蔵に使用される化学結合が地球で最も豊富なものである元素(O、H、Cなど)を含むからである。対照的に、現行のLiイオン電池によるエネルギー貯蔵には、1つの遷移金属イオンを使用して各電子を貯蔵することが必要であり、そのため、この技術により地球に電力を供給することは、地殻中のコバルト及びニッケルなどの金属の利用可能性により制限される。しかし、これらの貯蔵技術の効率は、酸素発生反応の触媒作用により大幅に限定されており、酸素発生反応は、遅い反応速度並びにRuO
2及びIrO
2などの貴金属触媒の必要性を特徴とする。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるMcCrory, C. C. L.; Jung, S.; Ferrer, I. M.; Chatman, S. M.; Peters, J. C.; Jaramillo, T. F.の文献「太陽光による水分解のための水素発生反応及び酸素発生反応電気触媒を評価する(Benchmarking Hydrogen Evolving Reaction and Oxygen Evolving Reaction Electrocatalysts for Solar Water Splitting Devices)」(J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 4347-4357); Hong, W. T.; Risch, M.; Stoerzinger, K. A.; Grimaud, A.; Suntivich, J.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素電気触媒作用のための遷移非貴金属酸化物の合理的設計に向けて(Toward the Rational Design of Non-Precious Transition Metal Oxides for Oxygen Electrocatalysis)」(Energy Environ. Sci. 2015, 8, 1404-1427); Dau H.; Limberg C.; Reier T.; Risch M.; Roggan S.; Strasser P.の文献「水の酸化の機構: 電気分解から均一系触媒作用を経て生体触媒作用へ(The Mechanism of Water Oxidation: From Electrolysis via Homogeneous to Biological Catalysis)」(ChemCatChem 2010, 2, 724-761); Lee, Y.; Suntivich, J.; May, K. J.; Perry, E. E.; Shao-Horn, Y.の文献「酸及びアルカリ性溶液中での酸素発生のためのルチルIrO2及びRuO2ナノ粒子の合成及び活性(Synthesis and Activities of Rutile IrO2 and RuO2 Nanoparticles for Oxygen Evolution in Acid and Alkaline Solutions)」(J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 399-404); Fang, Y.-H.; Liu, Z.-P.の文献「RuO2(110)上での水の酸素への電気酸化の機構及びターフェル線(Mechanism and Tafel Lines of Electro-Oxidation of Water to Oxygen on RuO2(110))」(J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 18214-18222); Reier, T.; Oezaslan, M.; Strasser, P.の文献「Ru、Ir、及びPt触媒上での電気触媒による酸素発生反応(OER): ナノ粒子及びバルク材料の比較研究(Electrocatalytic Oxygen Evolution Reaction (OER) on Ru, Ir, and Pt Catalysts: A Comparative Study of Nanoparticles and Bulk Materials)」(ACS Catal. 2012, 2, 1765-1772); Sanchez Casalongue, H. G.; Ng, M. L.; Kaya, S.; Friebel, D.; Ogasawara, H.; Nilsson, A.の文献「酸素発生反応の間の酸化イリジウムナノ粒子上の表面種のインサイチュ観察(In Situ Observation of Surface Species on Iridium Oxide Nanoparticles during the Oxygen Evolution Reaction)」(Angew. Chem. 2014, 126, 7297-7300); Bernicke, M.; Ortel, E.; Reier, T.; Bergmann, A.; Ferreira de Araujo, J.; Strasser, P.; Kraehnert, R.の文献「高活性酸素発生触媒としてのテンプレート化された細孔度を有する酸化イリジウムコーティング: 表面-活性関係(Iridium Oxide Coatings with Templated Porosity as Highly Active Oxygen Evolution Catalysts: Structure-Activity Relationships)」(ChemSusChem 2015, 8, 1908-1915)を参照されたい。したがって、地球に豊富に存在する材料で構成された、酸素発生反応(OER)のための効率よい電気触媒の開発は、これらの技術の大規模な実施のために極めて重大である。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるDu, P.; Eisenberg, R.の文献「水分解のための地球に豊富にある元素(Co、Ni、Fe)でできている触媒: 最近の進歩及び将来の課題(Catalysts Made of Earth-Abundant Elements (Co, Ni, Fe) for Water Splitting: Recent Progress and Future Challenges)」(Energy Environ. Sci. 2012, 5, 6012-6021); 及びSuen, N.-T.; Hung, S.-F.; Quan, Q.; Zhang, N.; Xu, Y.-J.; Chen, H. M.の文献「酸素発生反応のための電気触媒作用: 最近の発展及び将来の視点(Electrocatalysis for the Oxygen Evolution Reaction: Recent Development and Future Perspectives)」(Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 337-365)を参照されたい。
【0010】
ここで、発明者らは、金属置換と関連する最近報告された誘起効果を利用して、コバルト系ペロブスカイトの酸化還元電位及びOER活性を調査する。親金属イオンより電子に対する親和性が高い、すなわち電気陰性度が高い金属置換基は、親金属イオンから電子を引いて、金属リガンドの反結合状態のエネルギーを低下させることができ、M-リガンドの酸化還元と関連する電子エネルギーを低下させ、酸化還元電位を正にシフトさせるが、これはOER活性の増大と相関することが示されている。例えば、引用によりその全体として組み込まれるKuznetsov, D. A.; Han, B.; Yu, Y.; Rao, R. R.; Hwang, J.; Roman-Leshkov, Y.; Shao-Horn, Y.の文献「金属酸化物及び錯体における誘起効果による酸化還元遷移の調整並びに酸素電気触媒作用における関係(Tuning Redox Transitions via Inductive Effect in Metal Oxides and Complexes, and Implications in Oxygen Electrocatalysis)」(Joule 2018, 2, 225-244)を参照されたい。ここで、発明者らは、ビスマス置換ストロンチウムコバルト酸化物、Bi0.2Sr0.8CoO3-δのOER活性を調査するが、ここで、Bi3+置換基は、2+/3+イオンの中で最高のルイス酸性を有し16、pKa値は1.58で、Sr2+ (13.18)、Ba2+(13.36)、La3+(9.06)、及びPr3+(8.55)のpKa値よりはるかに低い。
【0011】
Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δは、実験の項に詳述される通り、Bi
2O
3、CoO、及びSrCO
3前駆体から出発して従来の固体状態経路により合成された。より高レベルのビスマス置換(bismith subsitution)は、以前に報告された~20%の溶解度の限界のため調査されなかった。例えば、引用によりその全体として組み込まれているKnee, C. S.; Lindberg, F.; Khan, N.; Svensson, G.; Svedlindh, P.; Rundlof, H.; Eriksson, S. G.; Borjesson, L.の文献「Sr1-xBixCoO
3-y (0.1≦x≦0.2)スーパーセルペロブスカイトの構造及び磁気的性質に対する酸素欠乏の影響(Influence of Oxygen Defects on the Structure and Magnetic Properties of Sr1-xBixCoO
3-y (0.1≦x≦0.2) Supercell Perovskites)」(Chem. Mater. 2006, 18, 1354-1364)を参照されたい。粉末X線回折(PXRD)パターン(
図1B)のリファインメントにより、Pm-3m空間群を有する立方構造及び元の研究で報告されたもの(~3.9Å)と基本的に同一である3.8955(1)Åの単位胞パラメーター(表1)が確認された。したがって、発明者らは、以前の研究で測定されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの酸素空孔含量(δ≒0.4)及びコバルト酸化状態(~+3)が発明者らの試料のものと同等なはずであると仮定できる。
表1. 異なる充電状態におけるBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの結晶構造及び格子パラメーター
【表1】
【0012】
1M KOH中のガラス状炭素(GC)電極にキャストされたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ薄膜のサイクリックボルタンメトリー曲線は、RHEに対して~1.1及び~1.4Vで2つの酸化還元ピークを示したが(
図2A)、それは、LiCoPO
4及びCo(OH)
2に見られるCo
2+/Co
3+酸化還元対並びにLiCoO
2に見られるCo
3+/Co
4+酸化還元対の~1.4Vに帰することができる。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるNakayama, M.; Goto, S.; Uchimoto, Y.; Wakihara, M.; Kitajima, Y.の文献「4.8-V 正極材料としてのリン酸リチウムコバルトのコバルトイオンとオキシドイオンの間の電子構造の変化(Changes in Electronic Structure between Cobalt and Oxide Ions of Lithium Cobalt Phosphate as 4.8-V Positive Electrode Material)」(Chem. Mater. 2004, 16, 3399-3401); Burke, M. S.; Kast, M. G.; Trotochaud, L.; Smith, A. M.; Boettcher, S. W.の文献「コバルト-鉄(オキシ)水酸化物酸素発生電気触媒: 活性、安定性、及び機構に対する構造及び組成の役割(Cobalt-Iron (Oxy)Hydroxide Oxygen Evolution Electrocatalysts: The Role of Structure and Composition on Activity, Stability, and Mechanism)」(J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 3638-3648); Mizushima, K.; Jones, P. C.; Wiseman, P. J.; Goodenough, J. B.の文献「LixCoO2 (0<x≦1): 高エネルギー密度の電池のための新たなカソード材料(LixCoO2 (0<x≦1): A New Cathode Material for Batteries of High Energy Density)」(Mater. Res. Bull. 1980, 15, 783-789); 及びHan, B.; Qian, D.; Risch, M.; Chen, H.; Chi, M.; Meng, Y. S.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素の還元及び発生速度論におけるLiCoO2表面終端の役割(Role of LiCoO2 Surface Terminations in Oxygen Reduction and Evolution Kinetics)」(J. Phys. Chem. Lett. 2015, 6, 1357-1362)を参照されたい。これら2つの酸化還元プロセスは、1M KOH中のGC上にキャストされたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ薄膜から収集された定電流データにおいても明確に表され、RHEに対して1.1及び1.3Vを中心にした2つの緩いプラトーを示し(
図2B)、それは、SrCoO
3-δでみられるものに類似なBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δへの酸素インターカレーション(Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの式単位当たり~0.8電子に等しい)に帰され得る:
Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ+2δOH
-→Bi
0.2Sr
0.8CoO
3 +δH
2O+2δe
- (1)。
【0013】
Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの定電流充電曲線の形状は、La
0.5Sr
0.5CoO
3-δの形状に類似しているが、その理由は、充電曲線が特定の化学作用に応じて種々の形状を取り入れることができると仮定すると、どちらもSrCoO
3-δ中の酸素インターカレーションに対応する平坦で水平なプラトーを欠いていることである。興味深いことに、LaCoO
3-δ(δ≒0)では、酸素欠乏酸化物の場合とは異なり、電位はほぼ直ちに酸素発生に対応する安定な値に達し、これは完全な酸素化学量論を有する材料に特徴的である。例えば、引用によりその全体として組み込まれるGrimaud, A.; Diaz-Morales, O.; Han, B.; Hong, W. T.; Lee, Y.-L.; Giordano, L.; Stoerzinger, K. A.; Koper, M. T. M.; Shao-Horn, Y.の文献「酸素発生を触媒するために金属酸化物における格子酸素酸化還元反応を活性化する(Activating Lattice Oxygen Redox Reactions in Metal Oxides to Catalyse Oxygen Evolution)」(Nat. Chem. 2017, 9, 457-465)を参照されたい。構造を保持しながらのコバルト酸化状態の変化は、定電流充電されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δペレット電極(カーボン及びNafion結合剤なし)のXRD分析により支持されるが(
図1B)、それは立方体ペロブスカイト構造の格子定数の減少を示した(それぞれ、a=3.838Å、Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δC/20及びC/50試料ではa=3.835Å)。
【0014】
式単位あたり1つの電子の移動に対応する2種の電流密度での20時間(C/20)又は50時間(C/50)にわたる定電流測定前後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δのサイクリックボルタンメトリーは、
図3A~3Dに示される通り、定電流処理後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ試料(酸素欠乏性、δが低下した)が、元のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δよりもはるかに高いOER活性を有したことを示す。さらに、C/50で定電流処理されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ試料は、C/20で充電されたよりも高いOER活性を有し、この系でのより高いCo原子価及びより低い酸素空孔がより高いOER活性をもたらすことを示す。発明者らは、ここで、そのような傾向が普遍的ではなく、活性が金属部位の酸化状態と釣り合わないかもしれないことを記さなければならない。例えば、二元金属のABO
3酸化物の場合、A-O結合イオン性の増大による金属部位の完全酸化時の酸化物の安定性の減少及び溶液へのA
n+イオンの浸出が起こり得る。例えば、引用によりその全体として組み込まれるGrimaud, A.; May, K. J.; Carlton, C. E.; Lee, Y.-L.; Risch, M.; Hong, W. T.; Zhou, J.; Shao-Horn, Y.の文献「アルカリ性溶液中の酸素発生のための高活性触媒のファミリーとしてのダブルペロブスカイト(Double Perovskites as a Family of Highly Active Catalysts for Oxygen Evolution in Alkaline Solution)」(Nat. Commun. 2013, 4, 2439)を参照されたい。OERにおける酸化物の最高活性を与える最適なe
g軌道の満たしがあり、それが、金属の酸化状態と非線形的に釣り合うことも示された。例えば、引用によりその全体として組み込まれるSuntivich, J.; May, K. J.; Gasteiger, H. A.; Goodenough, J. B.; Shao-Horn, Y.の文献「分子軌道原理からの酸素発生触媒作用のために最適化されたペロブスカイト酸化物(A Perovskite Oxide Optimized for Oxygen Evolution Catalysis from Molecular Orbital Principles)」(Science 2011, 334, 1383-1385)を参照されたい。また、触媒前駆体中の四面体配位環境におけるコバルトCo
tetr
2+の存在が触媒活性の増加に有益であるため、活性部位の配位環境も活性に影響し得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるWang, H.-Y.; Hung, S.-F.; Chen, H.-Y.; Chan, T.-S.; Chen, H. M.; Liu, B.の文献「スピネル Co3O4の幾何学的部位依存的な水の酸化活性のインオペランド特定(In Operando Identification of Geometrical-Site- Dependent Water Oxidation Activity of Spinel Co3O4)」(J. Am. Chem. Soc. 2016, 138 (1), 36-39); 及びXu Lei; Jiang Qianqian; Xiao Zhaohui; Li Xingyue; Huo Jia; Wang Shuangyin; Dai Limingの文献「酸素発生反応のための酸素空孔及び高表面積を有するプラズマによりエングレーブされたCo3O4ナノシート(Plasma-Engraved Co3O4 Nanosheets with Oxygen Vacancies and High Surface Area for the Oxygen Evolution Reaction)」(Angew. Chem. 2016, 128 (17), 5363-536)を参照されたい。後者の報告とは対照的に、La
xSr
1-xCoO
3-δペロブスカイトの活性は、コバルトの酸化状態の増加と共に単調に増加する。例えば、引用によりその全体として組み込まれるMefford, J. T.; Rong, X.; Abakumov, A. M.; Hardin, W. G.; Dai, S.; Kolpak, A. M.; Johnston, K. P.; Stevenson, K. J.の文献「La1-xSrxCoO
3-δペロブスカイト電気触媒上での水電気分解(Water Electrolysis on La1-xSrxCoO
3-δ Perovskite Electrocatalysts)」(Nat. Commun. 2016, 7, 11053)を参照されたい。結局、これらの研究は、活性部位の酸素空孔及び酸化状態の効果が極めて複雑であり、普遍的な記述子がまだ開発されていないことを表す。
【0015】
酸化物還元及びバルクにおける酸化からの寄与が、サイクリックボルタンメトリーデータから抽出されたOER電流から完全に排除できないので、0.1M及び1M KOH中の50時間の定電流充電後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δのOER活性は定電流測定により評価され、それからBET酸化物表面積に対して正規化された比活性が
図7及び3Bに示される。表2を参照されたい。
表2. Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δのBET表面積及び対応する充電電流
【表2】
【0016】
定電流充電されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ(δ≒0、C/50)の比OER活性は、0.1M(
図7)及び1M KOH(
図3B)中で、OERの黄金律であると考えられているRuO
2(110)、LaCoO
3、La
0.5Sr
0.5CoO
3、及びPr
0.5Ba
0.5CoO
3-δのものよりもはるかに高い。さらに、定電流充電されたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ(δ≒0、C/50)は、SrCoO
3-δ(~60mV/decade)を含む報告された全OER触媒と比べて~25mV decade
-1の並外れて低いターフェル勾配を有することが見出され、記録的なOER活性を示し、高電流密度で前例のない(unpredecented)OER活性を与える。2.303 RT/αFのターフェル勾配(α= 0.5を仮定することにより~120mV decade
-1)が1つの電子移動で期待される。例えば、引用によりその全体として組み込まれる、「光電気化学太陽燃料生成: 基本原理から先端装置まで(Photoelectrochemical Solar Fuel Production: From Basic Principles to Advanced Devices); Gimenez, S., Bisquert, J.編; Springer International Publishing, 2016; pp 41-104のDoyle, R. L.; Lyons, M. E. G.の文献「酸素発生反応:力学的コンセプト及び触媒設計(The Oxygen Evolution Reaction: Mechanistic Concepts and Catalyst Design)」を参照されたい。ターフェル勾配に基づいてOER機構(machanism)を推論するのは困難であるが、低いターフェル勾配は、触媒反応シーケンスの最後に近い律速段階を示し得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるShinagawa, T.; Garcia-Esparza, A. T.; Takanabe, K.の文献「エネルギー変換のための水性電気触媒作用のミクロ反応速度論分析からのターフェル勾配の洞察(Insight on Tafel Slopes from a Microkinetic Analysis of Aqueous Electrocatalysis for Energy Conversion)」( Sci. Rep. 2015, 5, 13801); 及びSuen, N.-T.; Hung, S.-F.; Quan, Q.; Zhang, N.; Xu, Y.-J.; Chen, H. M.の文献「酸素発生反応のための電気触媒作用: 最近の発展及び将来の視点(Electrocatalysis for the Oxygen Evolution Reaction: Recent Development and Future Perspectives)」(Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 337-365)を参照されたい。さらに、Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δはpH依存性のOER活性を有し(
図3C)、OER活性はpHの増加と共に増加した。RHEに対して1.55Vで、Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δが、調査された全pHで、SrCoO
3-δよりも一桁(one order of magntidue)高いOER電流を示すことは言及に値し(
図3D)、Bi
3+置換のOER活性に対する正の役割を強調している。La
0.2Sr
0.8CoO
3-δと比べると、Bi
3+は、La
3+と比べてはるかに高いルイス酸性を特徴とし(水和されたイオンのpK
a値は、Bi
3+及びLa
3+でそれぞれ1.58及び9.06である)、OER活性の著しい増加をもたらし、それは、OER反応中間体の最適化された結合及び/又は促進された(faciliated)脱プロトン反応速度に帰され得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるMefford, J. T.; Rong, X.; Abakumov, A. M.; Hardin, W. G.; Dai, S.; Kolpak, A. M.; Johnston, K. P.; Stevenson, K. J.の文献「La1-xSrxCoO
3-δペロブスカイト電気触媒上での水の電気分解(Water Electrolysis on La1-xSrxCoO
3-δ Perovskite Electrocatalysts)」(Nat. Commun. 2016, 7, 11053); 及びDean, J. A.; Lange, N. A.の文献「Langeの化学ハンドブック(Lange’s Handbook of Chemistry)」;(Lange’s Handbook of Chemistry; McGraw-Hill, 1999)を参照されたい。同様なOER速度増大は、La
3+をより酸性であるGd
3+及びEu
3+で置換した場合のLnNiO
3ペロブスカイトでも観察された。比較的活性が低いLnCoO
3(Ln=La、Nd、Gd、Sm、Eu)ではOER活性が電子移動により制限されており、それらのOER活性に対する誘起効果が、実験誤差を考慮すると明確ではなかった(
図7)ことに留意すべきである。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるHong, W. T.; Welsch, R. E.; Shao-Horn, Y.の文献「酸化物の酸素発生活性の記述子: 統計的評価(Descriptors of Oxygen-Evolution Activity for Oxides: A Statistical Evaluation)」(J. Phys. Chem. C 2016, 120, 78-86; 及びHong, W. T.; Stoerzinger, K. A.; Lee, Y.-L.; Giordano, L.; Grimaud, A.; Johnson, A. M.; Hwang, J.; Crumlin, E. J.; Yang, W.; Shao-Horn, Y.の文献「ペロブスカイト酸化物の電荷移動エネルギー依存性の酸素発生反応機構(Charge-Transfer-Energy-Dependent Oxygen Evolution Reaction Mechanisms for Perovskite Oxides)」(Energy Environ. Sci. 2017, 10, 2190-2200)を参照されたい。
【0017】
OER前のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの酸化還元ピークは、
図3Cに示される通りpHの増加と共に負にシフトする(~-40mV/pH)ことが分かった。類似のシフト(shifits)が、OER前の酸化還元ピークで、Ni-Feオキシ水酸化物(最大-60mV/pH)、(111)、(001)、(101)RuO
2表面(最大-27mV/pH)、及び(110)IrO
2表面(-7.5mV/pH)に見られた。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるGorlin, M.; Ferreira de Araujo, J.; Schmies, H.; Bernsmeier, D.; Dresp, S.; Gliech, M.; Jusys, Z.; Chernev, P.; Kraehnert, R.; Dau, H.; らの文献「Ni-Feオキシ水酸化物酸素発生反応電気触媒における触媒酸化還元状態及び反応ダイナミクスを追跡する: 触媒担体及び電解質PHの役割(Tracking Catalyst Redox States and Reaction Dynamics in Ni-Fe Oxyhydroxide Oxygen Evolution Reaction Electrocatalysts: The Role of Catalyst Support and Electrolyte PH)」(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2070-2082); Stoerzinger, K. A.; Rao, R. R.; Wang, X. R.; Hong, W. T.; Rouleau, C. M.; Shao-Horn, Y.の文献「ルチル二酸化ルテニウム表面でのpH依存性酸素発生におけるRu 酸化還元の役割(The Role of Ru Redox in pH-Dependent Oxygen Evolution on Rutile Ruthenium Dioxide Surfaces)」(Chem 2017, 2, 668-675); 及びKuo, D. Y.; Kawasaki, J. K.; Nelson, J. N.; Kloppenburg, J.; Hautier, G.; Shen, K. M.; Schlom, D. G.; Suntivich, J.の文献「IrO2(110)上での酸素発生反応に対する表面吸着の影響(Influence of Surface Adsorption on the Oxygen Evolution Reaction on IrO2(110))」(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 3473-3479)を参照されたい。RHEスケールでのOER前の酸化還元特性の位置(
図4A~4B)はpHの減少と共に正にシフトし(非ネルンストシフト)、反応中間体のpH依存性結合を意味しているが、それは、異なるpHでの酸化物/水界面構造変化又はこの反応段階の間に移動する非整数の数の電子に帰され得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるWatanabe, E.; Rossmeisl, J.; Bjorketun, M. E.; Ushiyama, H.; Yamashita, K.の文献「電気化学的条件下のRuO2/水界面の原子スケール分析(Atomic-Scale Analysis of the RuO2/Water Interface under Electrochemical Conditions)」(J. Phys. Chem. C 2016, 120, 8096-8103); Schwarz, K.; Xu, B.; Yan, Y.; Sundararaman, R.の文献「ステップに結合した水の部分的酸化は金属電極ステップエッジに対して異常なPH効果をもたらす(Partial Oxidation of Step-Bound Water Leads to Anomalous PH Effects on Metal Electrode Step-Edges)」(Phys. Chem. Chem. Phys. 2016, 18 (24), 16216-16223); 及び van der Niet, M. J. T. C.; Garcia-Araez, N.; Hernandez, J.; Feliu, J. M.; Koper, M. T. M.の文献「よく規定された白金表面での水の解離:電気化学的視点(Water Dissociation on Well-Defined Platinum Surfaces: The Electrochemical Perspective)」(Catal. Today 2013, 202, 105-113)を参照されたい。
【0018】
活性のpH依存性(
図3C及び3D)は、SrCoO
3-δに関して最近報告されたものに類似であり、OER活性のpH非依存性をもたらす4つの協奏的プロトン共役電子移動段階を含む従来のOER機構によっては説明できない。対照的に、あまり活性が高くないLaCoO
3などの触媒はpH非依存性OER活性を有するので、従来のOER機構に従い得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるRossmeisl, J.; Qu, Z.-W.; Zhu, H.; Kroes, G.-J.; Norskov, J. K.の文献「酸化物表面での水の電気分解(Electrolysis of Water on Oxide Surfaces)」(J. Electroanal. Chem. 2007, 607, 83-89); Rossmeisl, J.; Logadottir, A.; Norskov, J. K.の文献「(酸化された)金属表面での水の電気分解(Electrolysis of Water on (Oxidized) Metal Surfaces)」(Chem. Phys. 2005, 319, 178-184); Goodenough, J. B.; Manoharan, R.; Paranthaman, M.の文献「水溶液中の酸化物の表面プロトン化及び電気化学的活性(Surface Protonation and Electrochemical Activity of Oxides in Aqueous Solution)」(J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 2076-2082)を参照されたい。そのようなpH依存性OER活性(4つのプロトン共役電子移動段階を仮定するコンピューターによるOER機構において捉えられない)は、律速段階又は律速段階に先立つ(preceeding)化学段階に関与する、部分的に荷電した反応中間体か表面脱プロトンのいずれかを有することに帰され得る。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるMan, I. C.; Su, H.-Y.; Calle-Vallejo, F.; Hansen, H. A.; Martinez, J. I.; Inoglu, N. G.; Kitchin, J.; Jaramillo, T. F.; Norskov, J. K.; Rossmeisl, J.の文献「酸化物表面での酸素発生電気触媒作用における普遍性(Universality in Oxygen Evolution Electrocatalysis on Oxide Surfaces)」(ChemCatChem 2011, 3, 1159-1165); 及びGiordano, L.; Han, B.; Risch, M.; Hong, W. T.; Rao, R. R.; Stoerzinger, K. A.; Shao-Horn, Y.の文献「酸化物のOER活性のpH依存性: 現在及び将来の見通し(pH Dependence of OER Activity of Oxides: Current and Future Perspectives)」(Catal. Today 2016, 262, 2-10)を参照されたい。例えば、Ni-Feオキシ水酸化物の活性のpH依存性は、負に帯電した中間体の形成をもたらす表面水酸化物脱プロトンと組み合わさった非協奏的金属酸化から生じることが提案されてきた。例えば、引用によりその全体として組み込まれるGorlin, M.; Ferreira de Araujo, J.; Schmies, H.; Bernsmeier, D.; Dresp, S.; Gliech, M.; Jusys, Z.; Chernev, P.; Kraehnert, R.; Dau, H.; らの文献「Ni-Feオキシ水酸化物酸素発生反応電気触媒における触媒酸化還元状態及び反応ダイナミクスを追跡する: 触媒担体及び電解質PHの役割(Tracking Catalyst Redox States and Reaction Dynamics in Ni-Fe Oxyhydroxide Oxygen Evolution Reaction Electrocatalysts: The Role of Catalyst Support and Electrolyte PH)(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2070-2082)を参照されたい。興味深いことに、RuO
2では、異なる結晶方位が、pHによって異なるように影響される。あまり活性がない(110)及び(100)がpH非依存性OER活性を示す一方で、(101)、(001)、及び(111)方位は、pH依存性のルテニウム酸化及びOER速度を有し、それは、様々なpHでのOER中間体安定化(例えば水素結合相互作用による)の程度が異なるためである可能性がある。例えば、引用によりその全体として組み込まれるRao, R. R.; Kolb, M. J.; Halck, N. B.; Pedersen, A. F.; Mehta, A.; You, H.; Stoerzinger, K. A.; Feng, Z.; Hansen, H. A.; Zhou, H.; らの文献「酸素発生の触媒作用におけるRuO2(110)上の活性部位の特定に向けて(Towards Identifying the Active Sites on RuO2(110) in Catalyzing Oxygen Evolution)」(Energy Environ. Sci. 2017, 10, 2626-2637)を参照されたい。
【0019】
Bi0.2Sr0.8CoO3-δでは、OER前の酸化還元プロセスがプロトン移動を含むと仮定し、コバルト系酸化物のRHEに対して1.4V付近のピークを、金属酸化と組み合わさった表面水酸化物脱プロトンに帰する最近の報告を考慮に入れると、OER前の酸化還元特性の電位は、以下の式2に表される通り、金属酸化還元と組み合わさった表面水酸化物脱プロトンの反応の熱力学的ポテンシャルに相当するかもしれない(例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるhang, M.; de Respinis, M.; Frei, H.の文献「酸化コバルトナノ粒子触媒上の水の酸化中間体の時間分解観察(Time-Resolved Observations of Water Oxidation Intermediates on a Cobalt Oxide Nanoparticle Catalyst)」(Nat. Chem. 2014, 6, 362); 及びGerken, J. B.; McAlpin, J. G.; Chen, J. Y. C.; Rigsby, M. L.; Casey, W. H.; Britt, R. D.; Stahl, S. S.の文献「pH 0~14のコバルト系電気触媒による電気化学的な水の酸化: 触媒構造、安定性、及び活性の熱力学的基本(Electrochemical Water Oxidation with Cobalt-Based Electrocatalysts from pH 0-14: The Thermodynamic Basis for Catalyst Structure, Stability, and Activity)」(J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 14431-14442)を参照されたい):
[Mn+-OH]+OH-→[Mn+1-O]+H2O+e- (2)
【0020】
したがって、この反応のギブズの自由エネルギー(又は測定される電位):
ΔG1=ΔG(Mn+1-O)-ΔG(Mn+-OH)-eU+ΔGf(H2O)-ΔGf(OH-)=ΔGO*-ΔGHO*-eU+定数
は、Man、Rossmeislらにより提案された普遍的なOER活性記述子を表す(Man, I. C.; Su, H.-Y.; Calle-Vallejo, F.; Hansen, H. A.; Martinez, J. I.; Inoglu, N. G.; Kitchin, J.; Jaramillo, T. F.; Norskov, J. K.; Rossmeisl, J.による文献「酸化物表面での酸素発生電気触媒作用における普遍性(Universality in Oxygen Evolution Electrocatalysis on Oxide Surfaces)」(ChemCatChem 2011, 3, 1159-1165)を参照されたい)。したがって、表面に結合した*OHと*OOH種の結合エネルギーの間の直線的な関係(ΔEOOH-ΔEOH=3.2eV)(電位に依存せず、酸素中間体と酸化物表面の間の相互作用を記載するのみ)を考慮に入れ、式2が、OER開始前のBi0.2Sr0.8CoO3-δ酸化物の酸化還元特性を生み出す酸化還元事象の化学作用を正しく記述していると仮定すると、この酸化還元の測定された電位は、先に提案された活性記述子ΔGO*-ΔGHO*に対応し得て、理論的に推定された傾向の実験的な証拠である。例えば、引用によりその全体として組み込まれるMan, I. C.; Su, H.-Y.; Calle-Vallejo, F.; Hansen, H. A.; Martinez, J. I.; Inoglu, N. G.; Kitchin, J.; Jaramillo, T. F.; Norskov, J. K.; Rossmeisl, J.の文献「酸化物表面での酸素発生電気触媒作用における普遍性(Universality in Oxygen Evolution Electrocatalysis on Oxide Surfaces)」(ChemCatChem 2011, 3, 1159-1165)を参照されたい。
【0021】
非常に活性が高い数種のペロブスカイト酸化物、例えば、Ba
0.5Sr
0.5Co
0.8Fe
0.2O
3-δ(BSCF)がOERの間にアモルファス化することが知られており、OERの低いターフェル勾配(~40~50mV decade
-1)も有することを前提として、定電流充電(C/50でRHEに対して~1.4Vまで、
図8)及びその後のOER測定前後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの透過型電子顕微鏡(TEM)画像化及びEDX元素分析(
図5A~5D及び13)が実施された。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるSuntivich, J.; May, K. J.; Gasteiger, H. A.; Goodenough, J. B.; Shao-Horn, Y.の文献「分子軌道原理からの酸素発生触媒作用のために最適化されたペロブスカイト酸化物(A Perovskite Oxide Optimized for Oxygen Evolution Catalysis from Molecular Orbital Principles)」(Science 2011, 334, 1383-1385); 及びMay, K. J.; Carlton, C. E.; Stoerzinger, K. A.; Risch, M.; Suntivich, J.; Lee, Y.-L.; Grimaud, A.; Shao-Horn, Y.の文献「ペロブスカイト酸化物触媒の表面に対する水の酸化の間の酸素発生の影響(Influence of Oxygen Evolution during Water Oxidation on the Surface of Perovskite Oxide Catalysts)」(J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 3264-3270)を参照されたい。充電され、サイクルされたBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの表面アモルファス化はTEM画像化(
図4B)及びラマン分光法(spectrsocopy)(
図12)からは全く検出されなかったが、BSCFでは、OER電位での迅速な表面アモルファス化、A-サイト金属浸出、及び表面稜共有八面体層の形成が報告された。さらに、EDX元素分析(
図5C、5D及び13)は、定電流充電及びOER測定後のBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δ粒子の表面組成の顕著な変化が全くないことを明らかにし、したがって、A-サイト又はB-サイト金属浸出が全くないことが確認され、表面上のコバルト原子の原子価状態がバルクと同じであることも意味している。上記の結果により、定電流充電後及びOER電位でのBi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの高い安定性が確認された。
【0022】
Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δに観察される高い安定性は、Bi
3+置換と関連する誘起効果に帰することができ、それは、完全に酸化されたBi
0.125Sr
0.875CoO
3及びBi
0.25Sr
0.75CoO
3の発明者らの計算された状態密度(DOS)により支持される。結果は、SrCoO
3中の25%のSr
2+がより電気陰性であるBi
3+により置換された(substitutied)後に、Bi
0.25Sr
0.75CoO
3のCo 3dバンドセンターが、フェルミ準位に対して~0.25eVだけ低エネルギーにシフトすることを示す(
図14)。興味深いことに、O 2pバンドセンターも、ほぼ同じ量だけ低エネルギーにシフトした(
図6A)。O 2pバンドセンターが、ペロブスカイト酸化物中の酸素空孔の生成エンタルピーと相関し得ることを仮定すると、非常にOER活性が高いペロブスカイトの中で比較的低いO 2pバンドセンターを有すること(
図6B)により、Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δの高い安定性が確認される。例えば、引用によりその全体として組み込まれるLee, Y.-L.; Kleis, J.; Rossmeisl, J.; Shao-Horn, Y.; Morgan, D.の文献「第一原理記述子による固体酸化物燃料電池カソード活性の予測(Prediction of Solid Oxide Fuel Cell Cathode Activity with First-Principles Descriptors)」(Energy Environ. Sci. 2011, 4, 3966-3970)を参照されたい。さらに、SrCoO
3の高いCo-O共有原子価はBi置換の後に保たれており(
図5A)、これは、Bi
0.2Sr
0.8CoO
3-δが高い固有のOER活性も有することを説明する可能性がある。興味深いことに、Bi
xSr
1-xCoO
3ファミリー(x=0、0.125、0.250)内の酸素2pバンドセンターの位置及び酸素空孔生成のエンタルピー(どちらもOER性能にとって極めて重要である)はxと直線的に釣り合うので(
図6A及び6B)、発明者らが、実験的に観察された触媒活性もこの置換範囲内でx値と釣り合うだろうと仮説を立てることが可能である。電子構造の著しい(siginificant)変化は、異なるLnCoO
3ペロブスカイトと比べる場合、O K-吸収端XASスペクトルに反映される(
図15)。
【0023】
低いターフェル勾配は、SrCoO3-δと比べたBi0.2Sr0.8CoO3-δで、高電位ではるかに高い電流密度を生じさせることができ、それが、酸化物表面のルイス酸性が高いBi3+の存在により増大した表面脱プロトンから生じる可能性がある一方で、コバルトは酸素種(*O、*OH、*OOH)の結合が起こる部位である。Bi3+の高いルイス酸性は、表面吸着したヒドロキソ-又はヒドロペルオキソ-基のO-H結合のイオン性を増加させることができ、その結果、律速段階がこれら表面種の脱プロトンと関連する場合に反応速度を促進する。
【0024】
Bi0.2Sr0.8CoO3-δペロブスカイト酸化物のOER活性はアルカリ性電解質中で報告されている。ビスマス置換と関連する誘起効果及び増大した表面脱プロトンは、親SrCoO3-δ材料と比べて触媒性能の劇的な改善をもたらす。アルカリ性媒体中のBi0.2Sr0.8CoO3-δの固有のOER活性と、現在の最先端の材料のOER活性との比較は、Bi0.2Sr0.8CoO3-δが、以前に報告された化合物よりも明らかに優れた性能を有し、アルカリ性媒体中のOER触媒作用の新たなベンチマークを設定したことを表した。酸化還元特性の観察されたpH依存性及びRHEスケールでのOER活性により、発明者らは、Bi0.2Sr0.8CoO3-δにより触媒されるOER機構の重要な詳細を推論できた。誘起効果による材料の性能に対する金属置換の極めて大きい効果を実証することにより、この研究は、触媒用途のための新規材料の設計の新たな見通しも強調する。
【0025】
電気化学的システムにおいて有用な触媒材料は式(I)を有し得る:
BixSr1-xCoO3±δ (I)
(式中、xは、0.1~0.4の範囲、例えば、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35であり、δは0~1の範囲である)。δは、酸素部位の空き(すなわち-δ)又は余剰(すなわち+δ)の平均数を表し得る;いくつかの場合に、δは、0~0.5、0~0.25、0~0.15、0~0.1、又は0~0.05の範囲である。いくつかの場合に、δはおよそ零であり得て、すなわち酸素部位の空き又は余剰の数は実質的に零である。
【0026】
OER及び他の電気化学的技法を実施するための組成物、電極、システム、及び方法が記載される。該組成物、電極、及びシステムは、典型的には水素/酸素生成又は金属形成に使用される触媒材料を含み得て、該触媒材料は酸化物を含む。いくつかの場合に、該酸化物はペロブスカイト酸化物であり得る。該システムは、改善された活性で、例えば、低い絶対値の過電圧、高い電流密度、著しい効率、安定性、又はこれらの組合せで運転し得る。該触媒材料は、また、高価な貴金属又は貴金属酸化物を含まないこともあり得る。該システムは、必ずしも高度に純粋な溶媒源又は組合せを必要とせずに、中性又はそれより高いpHでも運転できる。該組成物、電極、システム、及び方法は、エネルギー貯蔵、エネルギー使用、並びに水素及び/又は酸素ガスの製造などの用途に有用である。
【0027】
記載される組成物、電極、システム、及び方法は主としてOERに関連するが、それらはこのように限定されてはいない。システムが、第1の電極及び/又は第2の電極(その一方又は両方が触媒材料を含み得る)を含み、水の電気分解により第1の電極で酸素ガスが生成され、且つ/又は第2の電極で水素ガスが生成されることが記載される場合、第1の電極が水又は他の種の酸化を促進して酸素ガス又は別の酸化生成物を製造できることが理解されるべきである。この状況で酸化され得る反応物の例は、メタノール、ギ酸、アンモニアなどを含み得る。酸化生成物の例は、CO2、N2などを含み得る。第2の電極で、水(又は水素イオン)が還元されて水素ガスがつくられる反応が促進され得るが、水に限定されない種々の反応物(例えば、金属酸化物、又はイオン、酢酸、リン酸など)が還元されて、水素ガス及び/又は金属及び/又は還元反応の他の生成物(例えば、金属水酸化物、酢酸塩、リン酸塩など)が形成され得ることが理解されるべきである。第2の電極でのこの反応は、「燃料電池」運転において、水素ガス(及び/又は他の上述の例示的な生成物)が酸化されて水(及び/又は他の上述の例示的な反応物)が形成されるように逆に行われ得る。いくつかの場合に、該組成物、電極、方法、及び/又はシステムは、水素ガスを還元するために使用され得る。いくつかの場合に、該組成物、電極、方法、及び/又はシステムは、光電気化学セルと接続して使用され得る。
【0028】
電解装置、燃料電池、及び金属空気電池は、本明細書に提供される電気化学的装置の非限定的な例である。エネルギーは、太陽電池、風力発電機、又は他のエネルギー源により電解装置に供給され得る。
【0029】
電気分解は、そうでなければ自発的に起こらない化学反応を起こすための電流の使用を指す。例えば、電気分解は、電流の印加による、少なくとも1つの種の酸化還元状態の変化並びに/又は少なくとも1つの化学結合の形成及び/若しくは分裂を含む。水の電気分解は、一般的に、水を、酸素ガス及び水素ガス、又は酸素ガス及び別の水素含有種、又は水素ガス及び別の酸素含有種、又は組合せに分解することを含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のシステムは、逆反応を触媒することが可能である。すなわち、システムを利用して、水素ガスと酸素ガス(又は他の燃料)を合わせて水を生成させることからエネルギーを生産することができる。
【0030】
電源は、電気化学的システム内にDC又はAC電圧を供給し得る。非限定的な例には、電池、送電網、再生可能な電力供給装置(例えば、風力発電機、太陽電池、潮力発電機)、発電機などがある。電源は、1つ以上のそのような電力供給装置(例えば、電池及び太陽電池)を含み得る。特定の実施態様において、電力供給装置は1つ以上の太陽電池であり得る。いくつかの場合に、電気化学的システムは、太陽電池に電気的に接続可能で太陽電池により駆動されることが可能であるように構成及び配置され得る(例えば、太陽電池が該システムの電圧又は電力源であり得る)。太陽電池は、光を吸収してそれを電気エネルギーに変換する光活性材料を含む。
【0031】
電気化学的システムを追加の電気化学的システムと組み合わせて、より大きい装置又はシステムを形成できる。これは、たくさんの装置又はサブシステム(例えば、燃料電池及び/又は電解装置及び/又は金属空気電池)の形態をとって、より大きい装置又はシステムを形成し得る。
【0032】
電極、電源、電解質、セパレーター、容器、電気回路、絶縁材、ゲート電極など、装置の種々の構成要素は、種々の構成要素のいずれか並びに本明細書に記載の特許出願のいずれかに記載のものから当業者により製造され得る。構成要素は、未焼成又は焼成された状態で、成型され、機械加工され、押出され、プレスされ、等方プレスされ(isopressed)、浸潤され(infiltrated)、被覆され得るか、又は他の任意の好適な技法により形成され得る。当業者は、本明細書の装置の構成要素を形成するための技法を容易に知る。
【0033】
概して、電気化学的システムは、電解質と接触している2つの電極(すなわちアノード及びカソード)を含む。電極は互いに電気的に接続している;電気接続は、システムの意図される用途に応じて、電源(所望の電気化学反応が電気エネルギーを必要とする場合)又は電気負荷(所望の電気化学反応が電気エネルギーを生み出す場合)を含み得る。電気化学的システムは、化学エネルギー及び/又は電気エネルギーを生成、貯蔵、又は変換するために使用できる。
【0034】
図16は、電解質120を収容する容器110を含む電気化学的システム100を模式的に表す。第1の電極130及び第2の電極140はそれぞれ電解質120と接触している。
図16は水の電気分解用に構成されたシステムを示すが、一般的な電気化学的システムの他の構成も可能である。例えば、電気化学的システムは燃料電池を含み得るが、その場合、水素ガス及び酸素ガスは水及び電力に変換され、それは電気負荷を駆動するのに使用できる。
【0035】
電極130及び140は、それぞれ個別に触媒材料を含み得る;とりわけ、示される構成において、電極130は、OERを触媒するのに有効な触媒を含み得る。電源150は、電気コネクター160により電極130及び140に接続している。このようにして、電源150は、電極130と140の間に電位差を供給できる。特定の値の電位差で、電極130でのOERを含む示される反応が起こり得る。示されている構成において、水素ガスが電極140で生成され得る。
【0036】
電極構造の詳細を含む装置及びシステムのさらなる詳細は当技術分野に公知である。この点において、例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2011/0048962号、同2010/0028746号、及び同2009/0068541号を参照されたい。
【実施例】
【0037】
(実施例)
(実験の詳細)
(合成及び特性化)
Bi2O3 (99.999%、Sigma)、CoO (99.99%、Sigma)、Co3O4 (99.9985%、Alfa Aesar)、SrCO3 (99.9%、Sigma)、Sr(NO3)2 (99.9965%、Alfa Aesar)、Bi(NO3)3・5H2O (99.999%、Sigma)、La2O3 (99.99%、Sigma)、Sm2O3 (99.9%、Fisher)、Gd2O3 (99.9%、Sigma)、Nd2O3 (99.99%、Sigma)、Eu2O3 (99.99%、Fisher)、EDTA (99.995%、Sigma)、クエン酸水和物(99.5%、Alfa Aesar)は、Bi2O3及びLn2O3酸化物(Ln=ランタニド)を脱水のために空気中で600~800℃で6時間加熱した以外、さらに精製せずに使用した。Bi0.2Sr0.8CoO3-δを、Bi2O3、CoO、及びSrCO3前駆体から出発して固体状態経路を使用して合成した17。化学量論量のパウダーを、瑪瑙乳鉢中で完全に粉砕し、ペレット化し、空気中で、温度850、900、及び最後に950℃で、それぞれ中間の(intemediate)再粉砕をはさんで15時間焼いた。XRDスペクトルの約24°及び30°のピーク48により検出され得るBi2Sr2Co3Oyの二次相の割合を最小限にするために17、試料を、全ての熱処理後に室温に急冷した。LnCoO3酸化物を、Ln2O3及びCo3O4前駆体から出発して固体状態経路を使用して合成した。化学量論量のパウダーを瑪瑙乳鉢中で完全に粉砕し、ペレット化し、酸素流中で、40時間、中間に(intemediate)再粉砕をはさんで1200℃で加熱した。
【0038】
粉末X線回折(PXRD)パターンを、θ/2θブラッグ・ブレンターノ型及びNiフィルターを通したCuKα線(Kα1=1.5406Å、Kα2=1.5444Å、Kα1/Kα2=0.5)を備えたBruker Advance II回折計により記録した。管電圧及び電流は、それぞれ40kV及び40mAであった。粉末X線回折(XRD)測定により評価された格子定数は、以前に報告されたものと一致する。
各酸化物試料の比表面積は、150℃での12時間のガス放出後に実施された一点式BET分析から、Quantachrome ChemBET PulsarでBET分析を使用して測定した。
【0039】
TEM画像化は、200KeVで運転するJEOL 2010透過電子顕微鏡で実施したが、それは電界放出電子銃及び超高分解能ポールピースを備えており、1.4Åの分解能で格子縞を画像化する能力を有し1.9Åの点分解能をもたらす。フーリエ分析を、Gatan Digital Micrographソフトウェアv2.01(Gatan)を使用して実施した。超高分解能ポールピースを備えたJEOL 2010F透過電子顕微鏡(TEM)を使用してHADDF-STEM画像及び0.19nmの点分解能を有するエネルギー分散型分光法(EDS)をこの研究で収集した。平行ビームEDS結果を収集し、INCA(Oxford Instruments)ソフトウェアを使用して分析した。各試料では、~2nmの直径の少なくとも3つの異なるスポットを使用して、バルク化学組成及び表面化学組成を収集した。EDSデータから得た元素組成のエラーバーは、少なくとも3つのスポット上の結果の標準偏差を表す。元のBSCOの試料は、BSCOパウダーをTHF中で数分間超音波処理することにより調製した。次いで、分散液をレースカーボングリッド上にドロップキャストした。充電した電極の試料は、予めエタノールにより洗浄したガラス状炭素表面を拭き取って充電実験後に表面に残存するKOHを除くことにより調製した。
【0040】
(電気化学測定)
CV及び定電流測定に使用する電極は、酸化物触媒パウダーを含むインクをガラス状炭素電極上にドロップキャストすることにより調製した
49。ガラス状炭素電極表面(0.196cm
-2)に、5:1:1(酸化物触媒:アセチレンブラックカーボン: Nafion)の質量比を使用して0.25mg
酸化物cm
-2
ディスクをロードした。或いは、定電流実験のための電極を、ペレット化したパウダー(60mg、直径5mm)をグラフェンシート(厚さ0.12mm)に、カーボンペーストを使用して付着させることによっても調製した。定電流充電は、20又は50時間で酸化物1モルあたり1モルの電子の交換を意味するC/20又はC/50のCレートに設定した電流密度を使用して実施した。ペレットを定電流充電実験(
図8)後に注意深く粉砕し、パウダーをXRDにより調査した。
【0041】
OER測定を、酸素-飽和KOH中で、Ag/AgCl参照電極(0.03M KOH電解質用)又はHg/HgO参照電極(0.1M、0.3M、及び1M KOH電解質用)及びPtカウンター電極と共にガラス電気化学セルを使用して回転円盤電極構成で実施した。0.03M、0.1M、0.3M、及び1M KOH(純度99.99%、Sigma-Aldrich)電解質溶液は、脱イオン水(>18MΩcm)を使用して調製した。電位を、Biologic SP-300ポテンショスタットを使用して制御した。10mVs
-1の走査速度を全CVで使用し、回転を1600rpmに設定した。Ag/AgCl及びHg/HgO参照電極を、OER実験の前に対応するKOH電解質中で較正し、異なる回転速度での白金電極での水素酸化/発生からの零電流の点を、可逆水素電極(RHE)に対して0Vと定義した(
図11)。
【0042】
サイクリックボルタンメトリーからのOER反応電流を、順方向と逆方向スキャンの間の平均をとって容量電流寄与を除くことにより得て、次いでそれをオーム損失に関して補正した。オーム損失は、高周波交流インピーダンスにより測定された電解質抵抗を使用して、オーム電圧降下を測定された電位から引くことにより補正したが、ここで、iR-補正された電位はE-iRと称される(iは電流であり、Rは電解質抵抗である)。OER活性の定電流測定は、徐々に増加した電流を印加することによりC/50で酸化された試料予備体に対して実施した;E-t曲線のプラトーに対応する電位を計算に使用した。エラーバーは、少なくとも3つの独立した測定から得た標準偏差を表す。
【0043】
(密度汎関数理論計算)
Co 3d電子のハバードU補正を含むDFT計算を、450eVのカットオフでプロジェクター拡張平面波法(projector-augmented plane-wave method)を使用してVienna Ab-initio Simulation Package (VASP)で実施した。例えば、それぞれが引用によりその全体として組み込まれるLee, Y.-L.; Kleis, J.; Rossmeisl, J.; Shao-Horn, Y.; Morgan, D.の文献「第一原理記述子による固体酸化物燃料電池カソード活性の予測(Prediction of Solid Oxide Fuel Cell Cathode Activity with First-Principles Descriptors)」(Energy Environ. Sci. 2011, 4, 3966-3970); Kresse, G.; Hafner, J.の文献「液体金属のAb Initio分子動力学(Ab Initio Molecular Dynamics for Liquid Metals)」(Phys. Rev. B 1993, 47, 558-561); Kresse, G.; Furthmuller, J.の文献「平面波基底関数系を使用するAb Initio 全エネルギー計算の効率よい反復スキーム(Efficient Iterative Schemes for Ab Initio Total-Energy Calculations Using a Plane-Wave Basis Set)」(Phys. Rev. B 1996, 54, 11169-11186); Blochl, P. E.の文献「プロジェクター拡張波法(Projector Augmented-Wave Method)」(Phys. Rev. B 1994, 50, 17953-17979)を参照されたい。酸化物の生成エンタルピーをフィッティングすることにより最適化された3.3eVのUeff値をCo 3d状態に使用した。エネルギー収束は、Monkhorst-Pack 4×4×4 k点メッシュを使用してペロブスカイト式単位あたり3meV以内であった。ソフトなO_s酸素擬ポテンシャルを酸素に使用した。交換相関をPerdew-Wang-91一般化勾配近似(GGA)で処理した。例えば、引用によりその全体として組み込まれるPerdew, J. P.; Wang, Y.の文献「電子-ガス相関エネルギーの正確で簡潔な解析表現(Accurate and Simple Analytic Representation of the Electron-Gas Correlation Energy)」(Phys. Rev. B 1992, 45, 13244-13249)を参照されたい。完全緩和化学量論的バルクペロブスカイト計算を、2×2×2ペロブスカイトスーパーセルによりシミュレートした。全計算を、一貫した扱いやすい磁気構造のセットを使用するために強磁性状態で実施した。O 2p-バンドと金属3d-バンドセンターの両方を、フェルミ準位に対するO 2p及び金属3d状態(占有状態と非占有状態の両方)の射影状態密度の重心をとることにより決定した。
【0044】
(X線吸収分光法)
XASデータを、Canadian Light SourceのBeamline 10ID-2で収集した。実験を、室温の試料に、超高真空(UHV)条件(10-9トル)で、入射ビームの直線偏光を試料表面に対して45°にして実施した。O K-吸収端(1sから2p)スペクトルを全蛍光収量(TFY)及び全電子収量(TEY)で収集したが、報告されるデータは部分蛍光収量(PEY)である。~521eVのO Kα2及びKα3ラインを使用して、積分幅を120eVとしてO K-吸収端XASを得た。Co XASは、~770eVのLα2及びLβ1蛍光線及び120eVの積分幅を使用することにより得た。データを、試料ステージの前に配置された金メッシュの電流を使用して、入射ビーム強度に対して正規化した。酸素K-吸収端データを、520eVと525eVの間に直線をフィッティングし、それをデータから引くことによりバックグラウンド除去した。さらに、最後の20eV(550~570eV)の平均をとり、データの正規化に使用した。全てのXESスペクトル及びCo L2,3-吸収端XASを、最高強度の点を1とすることにより正規化した。
【0045】
他の実施態様は、以下の請求項の範囲内にある。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
第1の電極及び第2の電極に電気的に接続している電圧源;並びに該第1の電極及び該第2の電極と接触している電解質を含む電気化学的システムであって;該第2の電極が、式(I)の触媒:
Bi
x
Sr
1-x
CoO
3±δ
(I)
(式中、xは0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である)を含み;該システムが、該触媒が、酸素発生電圧が該第1の電極と該第2の電極の間に印加される場合に酸素発生反応を触媒するように構成されている、前記システム。
(態様2)
xが、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35である、態様1記載のシステム。
(態様3)
xが0.20である、態様1記載のシステム。
(態様4)
δが0~0.5の範囲である、態様1記載のシステム。
(態様5)
δが0~0.15の範囲である、態様1記載のシステム。
(態様6)
δが0~0.1の範囲である、態様1記載のシステム。
(態様7)
δが0~0.05の範囲である、態様1記載のシステム。
(態様8)
δがおよそ零である、態様1記載のシステム。
(態様9)
式(I)の触媒:
Bi
x
Sr
1-x
CoO
3±δ
(I)
(式中、xは0.1~0.4の範囲であり、δは0~1の範囲である)
を含む電極。
(態様10)
xが、0.15、0.20、0.25、0.30、又は0.35である、態様9記載の電極。
(態様11)
xが0.20である、態様9記載の電極。
(態様12)
δが0~0.5の範囲である、態様9記載の電極。
(態様13)
δが0~0.15の範囲である、態様9記載の電極。
(態様14)
δが0~0.1の範囲である、態様9記載の電極。
(態様15)
δが0~0.05の範囲である、態様9記載の電極。
(態様16)
δがおよそ零である、態様9記載の電極。
(態様17)
酸素発生電圧を態様1~8記載のシステムに印加することを含む、酸素を発生させる方法。