(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】リチウム含有酸化物結晶、電池およびリチウム含有酸化物結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/22 20060101AFI20241017BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20241017BHJP
C30B 15/34 20060101ALI20241017BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241017BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20241017BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C30B29/22 Z
C30B15/00 Z
C30B15/34
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021507388
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011916
(87)【国際公開番号】W WO2020189705
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019053949
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠宗
(72)【発明者】
【氏名】有賀 智紀
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-119950(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203954(WO,A1)
【文献】特開2006-124223(JP,A)
【文献】特開2019-001693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C30B 15/00
C30B 15/34
H01B 1/06
H01B 1/08
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含むリチウム含有酸化物結晶原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成する溶融部形成工程と、
前記溶融部からリチウム含有酸化物結晶を成長形成する成長工程を有し、
前記成長工程における雰囲気の露点を-65℃以上-45℃以下の範囲内に設定し、
前記リチウム含有酸化物結晶が0.38cm
2
以上1.76cm
2
以下の断面積を有すると共に、前記溶融部から10mm以上の長手方向の寸法で前記リチウム含有酸化物結晶を成長形成することを特徴とするリチウム含有酸化物結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム含有酸化物結晶の製造方法であって、
前記成長工程は、CZ法又はEFG法を用いることを特徴とするリチウム含有酸化物結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有酸化物結晶、電池およびリチウム含有酸化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スマートフォン向けのバッテリーや電気自動車向けのバッテリー等にリチウムイオン電池が採用されている。従来のリチウムイオン電池では、Li(リチウム)イオンが移動可能な電解質として電解液を用いていた。しかし、電解液を用いたリチウムイオン電池では、さらなる高容量化、高電圧化、高エネルギー密度化、及び急速充電性能を図ることが困難になってきている。そこで、これらの各種要求を満たすリチウムイオン電池として、電解液の代わりに固体電解質を用いる全固体電池の開発が進められている。全固体のリチウムイオン電池に用いられる固体電解質としては、硫化物系及び酸化物系のリチウムイオン結晶が挙げられる。
【0003】
硫化物系固体電解質は、Liイオン伝導度が高くエネルギー密度を重視した電池に適している。しかし固体電解質の結晶構造が高温により壊れた場合、有害物質(硫化水素(H2S))が放出されるという課題がある。そこで有害な物質が放出されず、より安全性と安定性が求められる用途向けに、酸化物系固体電解質の開発が進められている。
【0004】
一方で酸化物系固体電解質は、硫化物系固体電解質と比べてLiイオン伝導度が低いという課題がある。バルク型全固体電池へ応用する為には、室温に於ける導電率で10-3(S/cm)以上を示す酸化物系固体電解質が望ましい。10-3(S/cm)程度の導電率を示す酸化物系固体電解質として、例えばペロブスカイト型のLa0.51Li0.34TiO2.94等のリチウム含有酸化物結晶が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】化学、平成24年7月1日発行、インターネット<URL: http://www2.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka2/research/battery_li.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしリチウム含有酸化物結晶では、FZ(Floating Zone)法、CZ(Czochralski)法、及びEFG(Edge-defined Film-fed Growth)法等を用いて成長させた結晶に、クラックが発生するという問題があった。詳述すると、リチウム含有酸化物結晶原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、溶融部からリチウム含有酸化物結晶を成長形成させた際に、結晶成長方向において溶融部の粘性の変化が発生すると共に、成長途中で急激に溶融部のメルトが切れて(FZ法では垂れて)、結晶にクラックが生じてしまう。
【0007】
リチウム含有酸化物結晶では、成長形成させる結晶の外形寸法を大きくする程クラックが生じやすく、歩留まり低下を招いていた。これにより、クラックが無く結晶品質の良好な大型のリチウム含有酸化物結晶を、歩留まり良く製造することは困難であった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、クラックが無く大面積を有するリチウム含有酸化物結晶の提供を目的とするとともに、そのリチウム含有酸化物結晶の製造方法の提供も目的とする。さらに、そのリチウム含有酸化物結晶の少なくとも一部を備える電池の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のリチウム含有酸化物結晶は、クラックが無く、0.38cm2以上の断面積を有し、酸素を含むことを特徴とする。
【0010】
このような本発明のリチウム含有酸化物結晶では、クラックが無い大面積を有することで、全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0011】
また本発明の一態様では、前記断面積が1.76cm2以上100cm2以下である。
【0012】
また本発明の一態様では、長手方向の寸法を有し、前記長手方向の寸法が10mm以上である。
【0013】
また上記課題を解決するために、本発明の電池は、上記何れか一つに記載のリチウム含有酸化物結晶の少なくとも一部を用いることを特徴とする。
【0014】
また上記課題を解決するために、本発明のリチウム含有酸化物結晶の製造方法は、酸素を含むリチウム含有酸化物結晶原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成する溶融部形成工程と、前記溶融部からリチウム含有酸化物結晶を成長形成する成長工程を有し、前記成長工程における雰囲気の露点は-70℃以上-35℃以下の範囲であり、前記リチウム含有酸化物結晶は0.38cm2以上の断面積を有することを特徴とする。
【0015】
また本発明の一態様では、前記露点を-70℃以上-40℃以下の範囲内に設定し、前記溶融部から1.76cm2以上100cm2以下の面積を有する前記リチウム含有酸化物結晶を成長形成する。
【0016】
また本発明の一態様では、前記露点を-65℃以上-45℃以下の範囲内に設定し、前記溶融部から10mm以上の長手方向の寸法で前記リチウム含有酸化物結晶を成長形成する。
【0017】
また本発明の一態様では、前記成長工程は、CZ法又はEFG法を用いる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クラックが無く大面積を有するリチウム含有酸化物結晶およびその製造方法を提供することができる。また、そのリチウム含有酸化物結晶の少なくとも一部を備える電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】リチウム含有酸化物結晶に生じたクラックを示す断面観察写真である。
【
図2】FZ法を用いて成長したリチウム含有酸化物結晶の実施例1,2および比較例についての評価を示す表である。
【
図3】(a)~(c)は、それぞれ実施例1,2および比較例1のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
【
図4】露点条件を変えてFZ法を用いて成長した実施例3~6および比較例2のリチウム含有酸化物結晶の外観写真を示す表である。
【
図5】CZ法を用いて成長したリチウム含有酸化物結晶の実施例7~10についての評価を示す表である。
【
図6】(a)~(d)は、それぞれ実施例7~10のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
【
図7】実施例11のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
【
図8】実施例12のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
【
図9】実施例13のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態の第一の特徴は、リチウム含有酸化物結晶はクラックが無く、0.38cm2以上の断面積を有し、酸素を含むとしたことである。
【0021】
この構成に依れば、クラックが無い大面積を有することで、全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0022】
第二の特徴は、断面積が1.76cm2以上100cm2以下としたことである。
【0023】
この構成に依れば、より大型のリチウム含有酸化物結晶を形成し、さらなる全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0024】
第三の特徴は、長手方向の寸法を有し、長手方向の寸法が10mm以上としたことである。
【0025】
この構成に依れば、リチウム含有酸化物結晶の体積を増加させて、生産性の向上やさらなる全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0026】
第四の特徴は、上記何れか一つに記載のリチウム含有酸化物結晶の少なくとも一部を用いる電池としたことである。
【0027】
この構成に依れば、大型のリチウム含有酸化物結晶を用いることで、例えば0.5(mS/cm)以上の高導電率で高容量な全固体電池を実現できる。
【0028】
第五の特徴は、リチウム含有酸化物結晶の製造方法は、酸素を含むリチウム含有酸化物結晶原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成する溶融部形成工程と、溶融部からリチウム含有酸化物結晶を成長形成する成長工程を有し、成長工程における雰囲気の露点は-70℃以上-35℃以下の範囲であり、リチウム含有酸化物結晶は0.38cm2以上の断面積を有するとしたことである。
【0029】
この構成に依れば、酸素を含むリチウム含有酸化物結晶を、クラックが無く、少なくとも0.38cm2以上の面積を有する大型に実現可能となる。さらに、得られたリチウム含有酸化物結晶を電池に使用することにより、高容量の電池を容易に形成することが可能となる。
【0030】
第六の特徴は、露点を-70℃以上-40℃以下の範囲内に設定し、溶融部から1.76cm2以上100cm2以下の面積を有するリチウム含有酸化物結晶を成長形成するとしたことである。
【0031】
この構成に依れば、より大型のリチウム含有酸化物結晶を形成し、さらなる全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0032】
第七の特徴は、露点を-65℃以上-45℃以下の範囲内に設定し、溶融部から10mm以上の長手方向の寸法でリチウム含有酸化物結晶を成長形成するとしたことである。
【0033】
この構成に依れば、リチウム含有酸化物結晶の体積を増加させて、生産性の向上やさらなる全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0034】
第八の特徴は、成長工程は、CZ法又はEFG法を用いるとしたことである。
【0035】
この構成に依れば、リチウム含有酸化物結晶の大口径化を図ることができ、さらなる全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0037】
本実施形態のリチウム含有酸化物結晶は、酸素を含みクラックが無く0.38cm2以上の断面積を有し、一般式Li7-x-yLa3Zr2-x-yNbxTayO12(0.2≦x+y≦1.0、0≦x≦1.0、0≦y≦1.0)で表され、立方晶系のガーネット型構造を有している。より好ましくは、断面積が1.76cm2以上100cm2以下の範囲である。またリチウム含有酸化物結晶は、長手方向の寸法を有し、長手方向の寸法が10mm以上であることが好ましい。リチウム含有酸化物結晶にクラックが無く大きな面積と体積を有することで、生産性の向上や全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることが可能となる。ここで高導電率とは、電池内部の固体電解質の伝導率が、例えば0.5(mS/cm)以上である。
【0038】
本実施形態においてクラックとは、リチウム含有酸化物結晶に発生する割れのうち、光学顕微鏡で確認可能であり1mmを超える割れを指す。また、クラックが無いリチウム含有酸化物結晶としては、結晶成長直後のas-grownで結晶全体にクラックが存在しないことが好ましいが、部分的にクラックが無い領域が形成されている場合も含む。さらに、結晶成長後に表面を研磨または切断することでクラックを除去した場合も含む。また、クラックが無い断面積とは、リチウムイオン酸化物結晶のうち、クラックの含まれていない領域が最大となる方向の面積を意味するが、結晶成長方向に垂直な面における断面積であることが面内における結晶品質の均一化を図ることができるため好ましい。
【0039】
図1は、リチウム含有酸化物結晶と結晶に生じたクラックを示す断面観察写真である。ここで、
図1の下方に示された目盛りは1mmであり、図中に示したリチウム含有酸化物結晶は直径が7mm程度の円盤状である。
図1に示したように、リチウム含有酸化物結晶を成長方向に垂直な面で切断すると、結晶の外周から内部に向かって複数のクラックが伸びていることがわかる。このように、リチウム含有酸化物結晶にクラックが含まれていると、全固体電池に用いた場合に信頼性の低下や容量の低下、寿命の低下などの不具合が生じるおそれがあるため好ましくない。それに対して、直径が7mm程度の範囲内にクラックが無いリチウム含有酸化物結晶では、0.38cm
2以上の断面積を有しており全固体電池の高容量化と高導電率化を図ることができる。
【0040】
はじめに、本実施形態のリチウム含有酸化物結晶の製造方法は、原料準備工程としてリチウム含有酸化物結晶の各種原料を準備し、粉砕したうえ所定比率で混合して原料を粉末状に加工する。粉砕および混合の方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。その後に、成形工程で粉末状の原料を加圧成形して焼成し、原料焼結体を得る。加圧成形および焼成の方法が限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0041】
リチウム含有酸化物結晶の原料としては、リチウム化合物、ランタン化合物、ジルコニウム化合物、タンタル化合物、ニオブ化合物を用いることができる。リチウム化合物としては、例えばLi2OやLi2CO3などが挙げられる。ランタン化合物としては、例えばLa2O3やLa(OH)3などが挙げられる。ジルコニウム化合物としては、例えばZrO2、ZrCl4、La2Zr2O7、Li2ZrO3などが挙げられる。タンタル化合物としては、例えばTa2O5やTaCl5などが挙げられる。ニオブ化合物としては、例えばNb2O5、LiNbO3、LaNbO4などが挙げられる。
【0042】
次に、溶融部形成工程で原料焼結体の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、成長工程で溶融部を冷却してリチウム含有酸化物結晶を成長させる。溶融部形成工程および成長工程の方法は限定されず、公知の各種溶融法を用いて結晶成長することができ、例えばFZ(Floating Zone)法、ブリッジマン法、キロポーラス法、TSSG(Top Seeded Solution Growth)法、LPE(Liquid Phase Epitaxy)法、CZ(Czochralski)法、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法が挙げられる。リチウム含有酸化物結晶の大口径化を図るためには、CZ法又はEFG法を用いることが好ましい。坩堝を用いる成長方法の場合には、原料メルトと反応しないIrを坩堝の材料として用いることが好ましい。
【0043】
成長工程において用いる雰囲気はN2またはAr、ドライエアーが好適であり、雰囲気の露点を-70℃以上-35℃以下の範囲とする。本実施形態において雰囲気の露点とは、雰囲気中に含まれる水蒸気量が同気圧における飽和水蒸気量となる温度のことを意味する。なお、本実施形態及び後述する実施例と比較例において、雰囲気の露点測定には静電容量式の露点計(株式会社テクネ計測製 オンライン露点計TK-100)を用いた。
【0044】
本出願人は、成長工程における雰囲気の露点によって、結晶に含まれるLi含有量が変化し、クラックが発生することを見出した。リチウム含有酸化物結晶では、Li含有量の変化に伴い外観に白濁やクラックが発生し、結晶内における特性のばらつきが生じてしまう。成長工程における雰囲気の露点を-70℃以上-35℃以下の範囲とすることで、白濁やクラックを抑制して特性のばらつきを抑制して0.38cm2以上の断面積を有する均一なリチウム含有酸化物結晶を得ることができる。
【0045】
また、成長工程における雰囲気の露点を-70℃以上-40℃以下の範囲内に設定することで、溶融部から1.76cm2以上100cm2以下の面積を有するリチウム含有酸化物結晶を成長形成することができる。さらに、成長工程における雰囲気の露点を-65℃以上-45℃以下の範囲内に設定することで、溶融部から10mm以上の長手方向の寸法(即ち、リチウム含有酸化物結晶の成長方向における長さ)でリチウム含有酸化物結晶を成長形成することができる。
【0046】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
(実施例1,2および比較例1)
【0047】
まず、実施例1,2および比較例1として、FZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.5La3Zr1.5Nb0.5O12を成長させた。原料に含まれるLiの量は、得られるリチウム含有酸化物結晶に含まれるLiの108%とした。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧の空気(ドライエアー)を毎分7リットルの流量で流し、実施例1,2および比較例1は、それぞれ露点が-35℃、-55℃、-20℃の条件に設定した。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0048】
図2は、FZ法を用いて成長したリチウム含有酸化物結晶の実施例1,2および比較例1についての評価を示す表である。
図2中の面積の欄は、クラックが生じていない部分における断面積を示し、長さの欄は断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分の成長方向における長さを示している。
図3(a)~(c)は、それぞれ実施例1,2および比較例1のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
図3(a)~(c)における左側が結晶成長の開始側であり、右側に向かって原料の溶融および成長をさせたas-grownの状態を示している。
【0049】
図2および
図3に示したように、実施例1では直径7mmで断面積が0.38cm
2の領域が10mm存在しており、当該領域内においてクラックは生じていなかった。また実施例2では直径7mmで断面積が0.38cm
2の領域が40mm存在しており、当該領域内においてクラックは生じていなかった。一方、比較例1ではリチウム含有酸化物結晶の全面にクラックがあり、クラックが含まれない領域が存在しなかった。したがって、露点が-35℃より大きい場合には、断面積が0.38cm
2以上のクラックが無いリチウム含有酸化物結晶を得られないことがわかる。
(実施例3~6および比較例2)
【0050】
次に、実施例3~6および比較例2として、FZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.5La3Zr1.5Nb0.5O12を成長させた。原料に含まれるLiの量は、得られるリチウム含有酸化物結晶に含まれるLiの108%とした。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧の空気(ドライエアー)を毎分7リットルの流量で流し、実施例3~6および比較例2は、それぞれ露点が-40℃、-43℃、-48℃、-62℃、-68℃の条件に設定した。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0051】
図4は、露点条件を変えてFZ法を用いて成長した実施例3~6および比較例2のリチウム含有酸化物結晶の外観写真を示す表である。
図4に於いて、露点-40℃が実施例3、露点-43℃が実施例4、露点-48℃が実施例5、露点-62℃が実施例6、露点-68℃が比較例2である、実施例3~6の何れにおいても、断面積が0.38cm
2の領域が存在しており、当該領域内においてクラックは生じていなかった。また、実施例3~6および比較例2の何れにおいても、導電率は0.65(mS/cm)以上であり、特に実施例5では0.85(mS/cm)であった。一方、比較例2ではリチウム含有酸化物結晶の結晶成長方向に沿ってクラックが生じており、クラックが含まれない領域が存在しなかった。
【0052】
図4に示したように、実施例3ではLi不足による白濁が部分的に生じており、断面積が0.38cm
2以上でクラックの無い領域は10mm未満であった。また、実施例4でも断面積が0.38cm
2以上でクラックの無い領域は10mm未満であった。したがって、露点を-65℃以上-45℃以下の範囲内に設定することで、断面積が0.38cm
2以上でクラックの無い領域を10mm以上の寸法で形成できることがわかる。
(実施例7~10)
【0053】
次に、実施例7~10として、CZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.5La3Zr1.5Nb0.5O12とLi6.5La3Zr1.5Nb0.25Ta0.25O12を成長させた。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧のN2を毎分2~4リットルの流量で流し、実施例7~10は、それぞれ露点が-40℃、-65℃、-66℃、-69℃の条件に設定した。坩堝にはIr材料を用いた。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0054】
図5は、CZ法を用いて成長したリチウム含有酸化物結晶の実施例7~10についての評価を示す表である。
図5中の面積の欄は、クラックが生じていない部分における断面積を示し、長さの欄は断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分の成長方向における長さを示している。また、実施例7,8,10はLi
6.5La
3Zr
1.5Nb
0.5O
12とあり、実施例9はTaを含むLi
6.5La
3Zr
1.5Nb
0.25Ta
0.25O
12である。
図6(a)~(d)は、それぞれ実施例7~10のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
図6(a)~(d)における左側が結晶成長の開始側であり、右側に向かって原料の溶融および成長をさせたas-grownの状態を示している。
【0055】
図5および
図6に示したように、実施例7では成長初期段階において直径18mmで断面積が2.76cm
2のクラックが無い領域が形成されており、断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分も11mm存在していた。また実施例8では、直径15mmで断面積が1.77cm
2のクラックが無い領域が形成されており、断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分も38mm存在していた。また実施例9では、直径9.6mmで断面積が0.72cm
2のクラックが無い領域が形成されており、断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分も27mm存在していた。また実施例10では、部分的に割れが生じたものの、直径16mmで断面積が2.0cm
2のクラックが無い領域が形成されており、断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分も24mm存在していた。
【0056】
したがって、露点を-70℃以上-40℃以下の範囲内に設定することで、断面積が1.76cm2以上100cm2以下の面積を有するクラックが無いリチウム含有酸化物結晶が得られることがわかる。
(実施例11)
【0057】
次に、実施例11として、CZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.8La3Zr1.8Nb0.2O12を成長させた。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧のN2を毎分2~4リットルの流量で流し、露点が-65℃の条件に設定した。坩堝にはIr材料を用いた。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0058】
以下に、CZ法を用いて成長したリチウム含有酸化物結晶の実施例11についての評価を示す。また
図7は実施例11のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
図7における右側が結晶成長の開始側であり、左側に向かって原料の溶融および成長をさせたas-grownの状態を示している。
【0059】
図7に示したように、実施例11ではクラックが無い領域が、直径9.5mm、断面積0.70cm
2で形成されており、断面積が0.38cm
2以上でクラックが生じていない部分も長手方向の寸法(成長方向における長さ)で30mm存在していた。
【0060】
したがって、露点を-65℃に設定することで、断面積が0.38cm2以上の面積で、且つ長手方向の寸法で10mm以上に亘ってクラックが無いリチウム含有酸化物結晶が得られることがわかる。
【0061】
上述したように本実施形態では、クラックが無く大面積を有するリチウム含有酸化物結晶およびその製造方法を提供することができる。また、そのリチウム含有酸化物結晶の少なくとも一部を備える電池を提供することができる。
(実施例12)
【0062】
次に、実施例12として、CZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.0La3Zr1.0Nb1.0O12を成長させた。原料に含まれるLiの量は、得られるリチウム含有酸化物結晶に含まれるLiの110%とした。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧のN2を毎分4リットルの流量で流し、露点を-62℃の条件に設定した。坩堝にはIr材料を用いた。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0063】
図8は、実施例12のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
図8における左側が結晶成長の開始側であり、右側に向かって原料の溶融および成長をさせたas-grownの状態を示している。
【0064】
図8に示したように、実施例12では直径7mmで断面積が0.38cm
2の領域が11mm存在しており、当該領域内においてクラックは生じていなかった。
(実施例13)
【0065】
次に、実施例13として、CZ法を用いて、リチウム含有酸化物結晶であるLi6.5La3Zr1.5Ta0.5O12を成長させた。成長工程中の雰囲気は、室温で1気圧のN2を毎分4リットルの流量で流し、露点を-69℃の条件に設定した。坩堝にはIr材料を用いた。得られたリチウム含有酸化物結晶について、光学顕微鏡を用いて外観検査を行った。
【0066】
図9は、実施例13のリチウム含有酸化物結晶の外観を示す写真である。
図9における左側が結晶成長の開始側であり、右側に向かって原料の溶融および成長をさせたas-grownの状態を示している。
【0067】
図9に示したように、実施例13では直径7mmで断面積が0.38cm
2の領域が12mm存在しており、当該領域内においてクラックは生じていなかった。
【0068】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。