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特許7572735部分的強磁性アノードを備えるデュオプラズマトロンイオン源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】部分的強磁性アノードを備えるデュオプラズマトロンイオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
H01J37/08
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022524236
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 US2020057092
(87)【国際公開番号】W WO2021081347
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】62/925,280
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504318142
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ アリゾナ ステート ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ ピーター
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-119895(JP,A)
【文献】特開平1-146231(JP,A)
【文献】特開平5-121024(JP,A)
【文献】特開昭52-110399(JP,A)
【文献】米国特許第3137801(US,A)
【文献】米国特許第3458743(US,A)
【文献】Rafael Schnitzer et al.,Bakeable hollow cathode duoplasmatron ion source,Review of scientific instruments,1976年09月01日,Volume 47, Issue 9,Pages 1219-1221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/10
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地電極に近接して配置されるように構成されるデュオプラズマトロンイオン源であって、
カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置され、Z電極開口を画定する磁性中間電極(Z電極)と、
を備え、
前記アノードは、非強磁性部と接合部において接合された強磁性部を備える部分的強磁性領域を備え、前記強磁性部は前記Z電極開口に隣接して配置されるイオン抽出開口を画定し、
前記接合部は前記イオン抽出開口から横方向にオフセットしており、前記部分的強磁性領域は非対称な強磁性/非強磁性構造を有し、
前記部分的強磁性領域は、前記デュオプラズマトロンイオン源の作動中に前記デュオプラズマトロンイオン源が前記接地電極に近接して配置されるとき、電子が前記イオン抽出開口から移行して、前記接地電極に接触することを低減する又は排除する非対称な磁場を生成するように構成される、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記アノードは、前記部分的強磁性領域を形成する取り外し可能な挿入体をさらに備える、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項3】
請求項2に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記取り外し可能な挿入体は、前記アノードのネジ付き受容開口に係合するように構成されるネジ付き面を備える、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記接合部は、前記イオン抽出開口から少なくとも3mmの距離だけ横方向にオフセットしている、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記接合部は、前記アノード開口から約5mmの距離だけ横方向にオフセットしている、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記強磁性部及び前記非強磁性部の各々は金属製である、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項7】
請求項6に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記強磁性部は鉄金属を備える、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項8】
請求項7に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記非強磁性部は非強磁性のステンレス鋼合金を備える、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
陽イオン又は陰イオンのうち少なくとも一方を生成するように構成される、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
陰イオンを生成するように構成され、前記Z電極開口は前記イオン抽出開口と同軸上に位置合わせされる、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデュオプラズマトロンイオン源であって、
前記部分的強磁性領域は、前記Z電極に向かって凸状である円錐の断面形状を有する、デュオプラズマトロンイオン源。
【請求項12】
接地電極に近接して配置されるとともに、磁気回路の一部を形成するように構成されるデュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードであって、
非強磁性部と接合部において接合された強磁性部を備える部分的強磁性領域を備え
前記強磁性部はイオン抽出開口を画定し、
前記接合部は前記イオン抽出開口から横方向にオフセットし、前記部分的強磁性領域は非対称な強磁性/非強磁性構造を有し、
前記部分的強磁性領域は、前記デュオプラズマトロンイオン源の作動中に前記部分的強磁性アノードが前記接地電極に近接して配置されるとき、電子が前記イオン抽出開口から移行して前記接地電極に接触することを低減する又は排除する非対称な磁場を生成するように構成される、部分的強磁性アノード。
【請求項13】
請求項12に記載の部分的強磁性アノードであって、
前記部分的強磁性アノードは、前記部分的強磁性領域を形成する取り外し可能な挿入体を備える、部分的強磁性アノード。
【請求項14】
請求項13に記載の部分的強磁性アノードであって、
前記取り外し可能な挿入体は、前記アノードの強磁性の残部のネジ付き受容開口に係合するように構成されるネジ付き面を備える、部分的強磁性アノード。
【請求項15】
請求項12に記載の部分的強磁性アノードであって、
前記部分的強磁性領域は、前記部分的強磁性アノードの残部と一体的に形成される、部分的強磁性アノード。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか1項に記載の部分的強磁性アノードであって、
前記接合部は前記イオン抽出開口から少なくとも3mmの距離だけ横方向にオフセットしている、部分的強磁性アノード。
【請求項17】
請求項12から15のいずれか1項に記載の部分的強磁性アノードであって、
前記イオン抽出開口を画定する前記部分的強磁性領域の少なくとも一部は、円錐の断面形状を有し、
前記部分的強磁性アノードは、イオン生成放電を含む上流領域と、イオンが前記接地電極に向かって加速する下流領域と、を分離し、
前記部分的強磁性アノードは前記上流領域に向かう方向に凸状である、部分的強磁性アノード。
【請求項18】
デュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを製造するための方法であって、
非強磁性部材を接合部において強磁性部材に接合して、部分的強磁性ストックを製造することと、
前記部分的強磁性ストックを加工して、部分的強磁性アノード領域を形成し、この際、前記強磁性部材はイオン抽出開口を画定し、前記接合部は前記イオン抽出開口から横方向にオフセットされ、前記部分的強磁性アノード領域は非対称な強磁性/非強磁性構造を有することと、含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記非強磁性部材を前記強磁性部材に接合することには、強磁性金属を非強磁性金属にろう接することを含む、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、
前記部分的強磁性ストックを加工することには、前記部分的強磁性アノード領域の少なくとも一部を円錐形状に形成することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[政府支援]
本発明は、アメリカ国立科学財団により授与された第1819550号のもとに、政府支援によりなされたものである。米国政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年10月24日に出願された米国仮特許出願第62/925,280号の利益を主張するものであり、該出願の全内容を参照により本願に援用する。
【0003】
[技術分野]
本出願は、強力なイオンビームの生成のためのイオン源に関する。
【0004】
[背景]
デュオプラズマトロンは、1950年代に東ドイツでマンフレート・フォン・アルデンヌにより発明された、強力なイオンビームの生成のために普及している陰イオン源及び陽イオン源である(例えば、1956 Tabellen der Elektronenphysik, Ionenphysik und U(Uウムラルト)bermikroskopie. Bd. 1. Hauptgebiete VEB Dt. Verl. d. Wissenschaften.を参照)。今日、デュオプラズマトロンは、粒子加速器のための正の水素(H)及び負の水素(H)のイオンビームの生成や、二次イオン質量分析計でスパッタされる二次イオンを発生させるための、正の酸素(O )及びの負の酸素(O)の一次イオンビームの生成に幅広く用いられている。
【0005】
デュオプラズマトロンイオン源は、(a)電子放出カソードと、(b)中間電極又は「Zwischen(Z中間)」電極(Z電極)と、(c)放電によるイオンが抽出される小さなイオン抽出開口を有する正に帯電したアノードと、の3つの主要部品からなるガス放電装置である。カソードは、フィラメントカソード、又はガスが導入されてプラズマを生成する真空チャンバ内にある中空カソードであってもよい。従来のZ電極及びアノードは、一般的には、強磁性金属(一般的には、それぞれ、ニッケル、及び軟鉄又は軟鋼)で製造され、電流を流す銅製の外部ワイヤコイル、又は外部永久磁石により動く磁気回路の両極を形成する。Z電極の機能は、電流を強制的に小さなZ電極開口(例えば、直径1.5mm)に流すことにより放電を収縮させるとともに、さらには、アノードに向けてZ電極開口から出ていく磁場を収束させることで、そのような磁場によりZ電極から放出された電子を強制的にZ電極開口の中心軸に向かって収束させながら電流を抑制することである。
【0006】
多くの商用二次イオン質量分析計により用いられるデュオプラズマトロンイオン源のアノードには、強磁性のアノード挿入体の直径3ミリ(mm)の孔に圧入されるモリブデン等の耐火金属の金属円板に、直径400ミクロン(μm)の孔を穿設したものを利用する。モリブデンは強磁性で無いため、これにより、アノードの磁極片に直径3mmの磁性孔が形成されて、この磁性孔が磁場を拡大するように作用することで、磁性を有するZ電極の磁場を集中させる機能をゆがめて、いくらか無効にする。
【0007】
放電によるイオンは、接地された抽出電極を、アノードのイオン抽出開口の外側に、ある程度の距離(一般的には、1cm)を有して(すなわち、Z電極から離間した側に)配置しつつ、デュオプラズマトロンイオン源を数キロボルトの正電位又は負電位まで浮動させる高電圧電源を用いることで抽出される。
【0008】
典型的には水素(H)ガス又は酸素(O,O )ガスである陰イオンを製造するために従来の設計によるデュオプラズマトロンを用いた場合、問題が発生する。放電の電子密度は陰イオン密度よりも桁違いに大きいため、抽出された電子電流が大幅に高電圧電源の電流容量を超えてしまい、それにより、高価な高電流・高電圧電源が使用されない限りは、高圧電位が降下して、イオン源が使用不可能となる。
【0009】
電子抽出の問題を軽減しようとするためには、Z電極開口の軸心とアノードのイオン抽出開口とが互いに変位するように、Z電極を横方向に移動することが通例である。これは、ローレンス(1965, Nuclear Instruments and Methods 32:357-359)により示唆されるように、Z電極開口の出口での放電の周囲で、陰イオンが集中するという説に基づくものである。実際に、放電における電子や陽イオンと同様に、放電における陰イオンもまた、Z電極開口の軸と同一線上にある放電の中心部において集中する。中心部から外れたZ電極の効果は、アノードのイオン抽出開口から抽出された電子を偏向させて、電子が接地電極に達して電源を消耗させることを防ぐ磁場における非対称性を生み出すことである。しかしながら、イオン抽出開口と同一線上に配置されないZ電極開口は、その結果として、放電の中心部からより強力な陰イオンのビームを抽出する可能性を犠牲にしている。
【0010】
したがって、当技術分野で周知であるイオン源に関連した制約に対処するイオン源が求められている。
【0011】
[発明の概要]
デュオプラズマトロンイオン源、デュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノード、及びデュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを製造するための方法が提供される。デュオプラズマトロンイオン源は、イオン源として、二次イオン質量分析計や粒子加速器等の多様な用途に使用可能である。アノードは、部分的強磁性領域を備える。部分的強磁性領域は、イオン抽出開口から横方向にオフセットする接合部において非強磁性部と接合される強磁性部を含む。部分的強磁性領域の大半は、強磁性材料を備えてもよい。動作時、アノードの部分的強磁性領域は、イオン抽出開口から出る電子を偏向し得る磁場を生成するように構成され、それにより、電子がイオン抽出開口から移行して、デュオプラズマトロンが共に動作するように構成される接地電極に接触することを低減する又は排除する。
【0012】
一態様において、本開示は、接地電極に近接して配置されるように構成されるデュオプラズマトロンイオン源に関する。デュオプラズマトロンイオン源は、カソードと、アノードと、カソードとアノードとの間に配置されたZ中間電極(Z電極)と、を備える。Z電極は、Z電極開口を画定する。アノードは、非強磁性部と接合部において接合される強磁性部を備える部分的強磁性領域を備える。強磁性部はイオン抽出開口を画定する。接合部は、イオン抽出開口から横方向にオフセットしている。アノードの部分的強磁性領域は、電子がイオン抽出開口から移行して、接地電極に接触することを低減する又は排除する磁場を生成するように構成される。
【0013】
特定の実施形態において、アノードは、部分的強磁性領域を形成する取り外し可能な挿入体を備える。特定の実施形態において、取り外し可能な挿入体は、アノードの強磁性の残部に画定されたネジ付き受容開口に係合するように構成されるネジ付き面を備える。
【0014】
特定の実施形態において、接合部は、イオン抽出開口から少なくとも3mmの距離(例えば、特定の実施形態において、約5mmの距離)だけ横方向にオフセットしている。
【0015】
特定の実施形態において、強磁性部及び非強磁性部の各々は、金属製である(すなわち、金属又は合金で形成される)。特定の実施形態において、強磁性部は、鉄金属を備える。特定の実施形態において、非強磁性部は非強磁性のステンレス鋼合金を備える。
【0016】
特定の実施形態において、デュオプラズマトロンイオン源は、陽イオン及び/又は陰イオンを生成するように構成されてもよい。
特定の実施形態において、デュオプラズマトロンイオン源は陰イオンを生成するように構成される。Z電極開口は、イオン抽出開口と同軸上に位置合わせ(又はほぼ同軸状に位置合わせ)される。
【0017】
特定の実施形態において、アノードの部分的強磁性領域は、Z電極開口に向かって凸状である円錐の断面形状を有する。この円錐形状により、イオン抽出開口の位置において、Z電極とアノードとの間の磁場の密度が増加する。
【0018】
本開示の別の態様は、接地電極に近接して配置されるとともに、磁気回路の一部を形成するように構成されるデュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを対象とする。部分的強磁性アノードは、非強磁性部と接合部において接合される強磁性部を備える部分的強磁性領域を備える。強磁性部は、イオン抽出開口を画定する。接合部は、イオン抽出開口から横方向にオフセットする。部分的強磁性領域は、電子がイオン抽出用開口から移行して、接地電極に接触することを低減する又は排除する磁場を生成するように構成される。
【0019】
特定の実施形態において、部分的強磁性アノードは、部分的強磁性領域を形成する取り外し可能な挿入体を備える。特定の実施形態において、取り外し可能な挿入体は、部分的強磁性アノードのネジ付き受容開口に係合するように構成されるネジ付き面を備える。
【0020】
特定の実施形態において、部分的強磁性領域は、部分的強磁性アノードの残部と一体的に形成される。
特定の実施形態において、接合部は、イオン抽出開口から少なくとも3mmの距離だけ(例えば、特定の実施形態において、約5mmの距離だけ)横方向にオフセットしている。
【0021】
特定の実施形態において、イオン抽出開口を画定する部分的強磁性領域の少なくとも一部は、円錐の断面形状を有する。部分的強磁性アノードは、イオン生成放電を含む上流領域と、イオンが接地電極に向かって加速する下流領域と、を分離する。部分的強磁性アノードは、上流領域に向かう方向に凸状である。
【0022】
別の態様において、本開示は、デュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを製造するための方法に関する。このような方法は、非強磁性材料を接合部において強磁性材料に接合して部分的強磁性ストックを製造し、その後、部分的強磁性ストックを加工して、部分的強磁性アノード領域を形成することを備える。強磁性部は、イオン抽出開口を画定する。接合部は、イオン抽出開口から横方向にオフセットしている。
【0023】
特定の実施形態において、非強磁性材料を強磁性材料に接合することには、強磁性金属を非強磁性金属にろう接することを備える。
特定の実施形態において、部分的強磁性ストックを加工することには、部分的強磁性アノード領域の少なくとも一部を円錐形に形成することを備える。
【0024】
別の態様において、本明細書に開示される様々な実施形態による上記した態様及び/又は特徴の任意のものを、追加の利点のために組み合わせてもよい。
当業者であれば、以下に続く好適な実施形態の詳細な説明を、添付の図面に関連づけて読めば、本開示の範囲を理解し、かつ本開示のさらなる局面を実現するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本明細書に組み入れられて、その一部を構成する添付の図面は、本開示のいくつかの局面を図示し、かつ説明と共に本開示の本質を説明する役割を果たす。
図1】本開示の1つ又は複数の実施形態による例示的なデュオプラズマトロンイオン源の断面図である。
図2図1のデュオプラズマトロンイオン源のZ中間電極(Z電極)の概略図であり、Z電極によりもたらされる磁気収束機能を図示している。
図3A図1で示したようなデュオプラズマトロンイオン源のための、部分的強磁性アノード挿入体の側方断面図である。
図3B図3Aの部分的強磁性アノード挿入体の底面図である。
図4図3Aから図3Bによる部分的強磁性アノード挿入体を備えるアノードに近接した配置されたZ電極の断面概略図であって、磁場線が非強磁性材料を通って、イオン抽出開口の下流領域に侵入している図を含む。
図5図1のデュオプラズマトロンイオン源を用いた、イオン顕微鏡での負の酸素(O)イオンの一次ビームの径の測定を、グラフ表示(距離に対するAlのカウント数をマイクロメートルで表示)したものである。
図6A】試験試料及び図1のデュオプラズマトロンイオン源を用いて得られた第1のイオンマイクロプローブ画像である。
図6B図6Aの画像を色反転させたものである。
図6C】試験試料及び図1のデュオプラズマトロンイオン源を用いて得られた第2のイオンマイクロプローブ画像である。
図6D図6Cの画像を色反転させたものである。
図7】正のアルミニウム(Al)イオンの画像の強度を、図6Aの試験試料の画像の尖端にわたってラインスキャンしたものをグラフ表示したものである。
図8】一実施形態による、デュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを製造するための方法を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[詳細な説明]
デュオプラズマトロンイオン源、デュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノード、及びデュオプラズマトロンイオン源のための部分的強磁性アノードを製造するための方法が提供される。アノードは、部分的強磁性領域を備える。部分的強磁性領域は、イオン抽出開口から横方向にオフセットした接合部において、非強磁性部と接合される強磁性部を含む。部分的強磁性領域は、イオン抽出開口から出る電子を偏向し得る磁場を生成するように構成される。部分的強磁性アノードの強磁性部と非強磁性部との間に、イオン抽出開口からオフセットしている接合部を設けることで、イオン抽出開口をZ電極開口と同軸上に配置する(又はほぼ同軸上に同一線上に配置する)ことが可能になる。部分的強磁性アノード領域によりもたらされる磁気の非対称性により、デュオプラズマトロンイオン源が共に動作するように構成される接地電極へ電子が移行することを抑制しつつ、Z電極開口と同軸上に位置合わせされるイオン抽出開口からイオンが抽出されることが可能になる。
【0027】
以下に記載される実施形態は、当業者がその実施形態を実施できるようにするために必要な情報を示すとともに、その実施形態を実施する最良の態様を図示する。添付の図面を鑑みて以下の説明を読むと、当業者であれば本開示の概念を理解するとともに、本明細書では特に取り扱われないこれらの概念の用途を認識するであろう。これらの概念や用途が本開示の範囲及び添付の図面に属するものであることは理解されるべきである。
【0028】
第1の、第2の等の用語は本明細書において様々な要素を説明するために用いられ得るが、それらの要素はこれらの用語に限定されるものではないと理解される。これらの用語は、ある要素を別の要素と区別するためにのみ用いられる。例えば、本開示の範囲から逸脱することなく、第1の要素を第2の要素と称することができ、また同様に、第2の要素を第1の要素と称することも可能である。本明細書で用いられるように、「及び/又は(and/or)」なる用語は、関連する記載項目の1つ又は複数の記載項目のうちのいずれか又は全ての組み合わせを含む。
【0029】
層、領域、又は基板等の要素が、別の要素「の上に(on)」位置する又は「の上に(onto)に」延在するとして言及される場合、当該要素は他の要素の上に直接位置していてもよく又は直接延在していてもよく、或いは介在する要素が存在していてもよいことが理解されるであろう。これに対し、ある要素が、別の要素「の上に直接(directly on)」位置しているか、又は「の上に直接(directly on)」延在するとして言及される場合は、介在要素は存在しない。同様に、層、領域、又は基板等の要素が、別の要素「の上方に(over)」位置しているか、又は「の全体にわたって(over)」延在するとして言及される場合、当該要素は、他の要素の上方に直接位置していてもよく又はその全体にわたって延在していてもよく、或いは介在する要素が存在していてもよいことが理解されるであろう。これに対し、ある要素が別の要素「の上方に直接(directly over)」位置しているか、又は「の全体にわたって直接(directly over)延在するとして言及される場合には、介在要素は存在しない。ある要素が、別の要素に「接続される(connected)」又は「結合される(coupled)」として言及される場合、当該要素は、他の要素に直接接続又は結合されていてもよく、或いは、介在要素が存在していてもよいことも理解されるであろう。これに対し、ある要素が別の要素に「直接接続される(directly connected)」又は「直接結合される(directly coupled)」として言及される場合には、介在要素は存在しない。
【0030】
「下方の(bellow)」又は「上方の(above)」、「上の(upper)」又は「下の(lower)」、「水平の(horizontal)」又は「垂直の(vertical)」等の相対的用語は、ある要素、層、又は領域の別の要素、層、又は領域に対する図面に示したような位置関係を説明するために、本明細書で使用する場合がある。これらの用語及び先に論じたものが、図面に示す向きに加えて、デバイスの異なる向きを包含することを意図したものであることが理解されるであろう。
【0031】
本明細書で用いられる「約(about)」、「おおよその(approximate)」、又は「ほぼ(approximately)」等の概略的な用語は、所定の値に関して、当業者であれば理解するであろうおおよその範囲を定めるものとして理解されるべきである。別段の定義がなされない限り、このような用語は、提供された値のプラスマイナス5パーセントの範囲内を意味するものとする。
【0032】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであって、本開示を限定することは意図されていない。本明細書で用いられるように、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈でそうでないことを明確に示さない限り、複数形も同様に含むことが意図されている。「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、及び/又は「含む(including)」なる用語は、本明細書で用いられる場合は、言及された特徴、整数、工程、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を明示するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、動作、要素、構成要素、及び/又はその群の存在又は追加を除外しないことが理解されるであろう。
【0033】
別段の定義がなされない限り、本明細書において用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同一の意味を有する。本明細書において用いられる用語は、本明細書及び関連技術の文脈における意味に一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書において明示的に定義された場合を除き、理想化された又は過度に形式張った意味に解釈されないことがさらに理解されるであろう。
【0034】
本明細書において用いられるように、「強磁性の」なる用語は、磁場に対して強い誘引力を発揮する材料のことを指す。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、磁鉄鉱、ジスプロシウム、ガドリニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書において用いられるように、「非強磁性の」なる用語は、強磁性材料以外の材料を指す。
本明細書において用いられるように、「部分的強磁性の」なる用語は、要素のうち、ある部分が強磁性であり、別の部分が非強磁性であるもの(例えば、アノード)を指す。
【0036】
本明細書において用いられるように、「磁気回路」なる用語は、磁束を含む閉ループ経路であって、その磁束がギャップ(例えば、デュオプラズマトロンイオン源のZ電極とアノードとの間のギャップ)を通過するもののことを指す。
【0037】
部分的強磁性アノードを備えるデュオプラズマトロンイオン源が提供される。デュオプラズマトロンイオン源は、イオン源として、二次イオン質量分析計や粒子加速器等の多様な用途において使用することができる。部分的強磁性アノードは、自身の強磁性部にイオン抽出開口を画定している部分的強磁性領域を含み、例えば、部分的強磁性アノード挿入体である。特定の実施形態によるアノードの部分的強磁性領域(例えば、部分的強磁性挿入体)では、より質量分率が大きく且つより体積分率が大きい材料が、(非強磁性とは対照的に)強磁性を有していてもよい。部分的強磁性領域は、接合部において互いに接合されて、イオン抽出開口を形成するように加工される強磁性部と非強磁部とを有する。この部分的強磁性アノード領域は、イオン抽出開口が対応するZ電極のZ電極開口と同軸上に配置される場合であっても、イオン抽出開口から出る電子を偏向し得る磁場を生成するように構成されている。このような偏向は、デュオプラズマトロンイオン源が共に動作するように構成される接地電極に、電子が到達することを抑制する。Z電極開口とイオン抽出開口との同軸上の位置合わせにより、デュオプラズマトロンイオン源のソースプラズマの中心であり最も強力な領域から、陽イオン又は陰イオンを抽出することが可能となる。
【0038】
図1は、本開示の実施形態による部分的強磁性アノードを利用することができる例示的なデュオプラズマトロンイオン源10の概略図である。デュオプラズマトロンイオン源10は、ガス供給によりイオンビームを供給する。負に帯電したカソード12は、電極を真空チャンバ14に送る。カソード12は、電気的に加熱された金属のフィラメント(熱イオンカソード)又は未加熱の金属円筒からなる中空カソードであってもよい。
【0039】
真空チャンバ14内へのガス供給が(例えば、カソード12の又はカソード12と隣り合うガス供給開口を介して)行われると、イオン化した粒子のプラズマ16が、ガス供給の電子衝突により生成される。中間電極又は「Z中間」電極(例えば、Z電極18)は、放電を、物理的な収縮と、磁場をZ電極18の出口とアノード22との間の領域において収束させることと、の両方により収縮させる。プラズマ16からの陽イオン又は陰イオンは、その後、アノード22により画定されたイオン抽出開口20を通じて加速されて、イオンビームを生成する。
【0040】
いくつかの例では、デュオプラズマトロンイオン源10は、カソード12とアノード22との間の約300ボルト(V)の電位差(例えば、アーク電流源24により提供される)で動作する。この電位差は、デュオプラズマトロンイオン源10のガス圧が約0.1~1トルほどである場合にアーク放電を維持するのに十分なものである。イオン抽出開口20は差動ポンプ開口としても機能し、アーク放電を維持するのに十分な高さの内部ガス圧を可能にし、その一方で、外部ガス圧を10-5~10-4トルの範囲に維持して、抽出されたイオンが、デュオプラズマトロンイオン源10の外部のガスと許容できない量の散乱衝突を起こすことなく加速されるようにする。
【0041】
デュオプラズマトロンイオン源10全体は、数キロボルト(kV)から数十キロボルト(kV)ほどの加速電位で浮動される。加速電位の極性に応じて、アノード22の表面における電子-イオンプラズマ16からの陽イオン又は陰イオンのうちのいずれかは、イオン抽出開口20から出ることができ、且つイオン抽出開口20の外面からわずかな距離(例えば、1センチメートルほど)をあけて位置する接地電位の抽出電極26に向けて加速が可能である。抽出電極26の抽出電極開口28は、イオンを通過させてイオン鏡筒に進入させる。
【0042】
デュオプラズマトロンイオン源10を決定づける特徴は、放電を収縮させる際にZ電極18が果たす二重の役割である。Z電極18は、放電電流が通過することを制限される小さい流路を含む。二次イオン質量分析法(SIMS)装置では、流路径は1から2ミリメートル(mm)までの範囲であるが、より高電流のデュオプラズマトロンイオン源10で、より幅が大きい流路が使用されてもよい。放電をより小さい断面積に制限することの効果は、イオン電流密度を高くし、ひいてはイオン抽出開口20におけるプラズマ16の密度を高めることである。重要なことには、強磁性金属(一般的には、ニッケル)でZ電極18を製造して、この電極を、Z電極18とアノード22とが磁石の2極である磁気回路の一部とし、これら2つの間の空隙に強力な磁場(例えば、1つ又は複数の外部磁石30によるものであり、これらは永久磁石又は電磁石でもよい)を生成することで、プラズマ16のさらなる収縮が実現する。この空隙は、通常は、1mm~2mmほどである。Z電極流路とアノード22との間の磁場は、Z電極流路からイオン抽出開口20まで延びる中心軸に向かって強力に収束している。そして、この収束している磁場が、さらに放電プラズマを中心軸に向かって収縮させるとともに、イオン抽出開口20に影響を与える放電電流の密度を高めている。
【0043】
いくつかの例において、デュオプラズマトロンイオン源10は追加の構成要素を含む。例えば、デュオプラズマトロンイオン源10は、磁石30又はデュオプラズマトロンイオン源10その他の部品を冷却するための、1つ又は複数の冷却剤流路32を含んでもよい。
【0044】
例示的実施形態では、カソード12は中空カソードである。アノード22は、部分的強磁性アノード挿入体134(すなわち、従来のアノード挿入体34の代用)を含み、これにイオン抽出開口20が画定される。以下、アノード22は、図3Aから図3Bに関連してさらに説明される。デュオプラズマトロンイオン源10のアノード22(例えば、アノードプレート)、部分的強磁性アノード挿入体34、及びZ電極18は、強磁性材料を備え、磁気回路の2極を形成する。いくつかの例では、アノード22は軟鋼で製造され、Z電極18はニッケルで製造される。磁気回路(図示せず)の軟鋼製のリターンヨークは、磁石30(例えば、磁気コイル)の外側且つ裏側を通ってアノード22とZ電極18とを磁気的に接続し、また、デュオプラズマトロンイオン源10の真空チャンバ14を完成させる。
【0045】
従来のデュオプラズマトロン源において、イオン抽出開口は、モリブデン等の耐火(且つ非強磁性)金属の円板(すなわち、「イオン抽出開口円板」)に穿設されている。それは、完全に磁性を帯びた(例えば、完全に強磁性の)アノード挿入体(本明細書で開示される、新規の部分的強磁性アノード挿入体34の代わりとして)の直径3mmの孔に圧入される。それゆえ、アノードの磁極片には、直径3mmの磁気孔が存在する。この磁気孔の効果は、Z電極の出口から収束する磁場を、再び発散させることであり、これにより、イオン抽出開口に影響を与える放電電流の密度を減ずるとともに、イオン抽出開口から抽出され得るイオン電流を減ずることができる。本発明の一態様は、この磁気孔の存在及び影響を回避することを目的としている。
【0046】
いくつかの例において、中空カソード12もまたニッケルである(そして、それゆえ強磁性である)が、強磁性の中空カソード12は必要ではなく、非強磁性カソード材料(例えば、モリブデン)を使用することもできる。ニッケルは、放電のための二次電子を容易に放出する酸化物表面を形成するため、酸素放電を伴う作業に好適である場合がある。カソード12をアノード22から電気的に絶縁することは、カソード12のための取り付けフランジ(図示せず)と真空チャンバ14との間の薄い絶縁層36(例えば、テフロン絶縁体シート)により行われる。
【0047】
Z電極18は、アセンブリからさらに絶縁されており、通常は、電気的に浮動可能となっている。カソードにZ電極を加えたアセンブリは、真空チャンバ14の外部にあるネジにより、カソード12をアノード22から絶縁するように作用する絶縁層36(例えば、テフロンシート)の上を摺動しながら、軸上及び軸外で横方向(例えば、図示のように縦方向)に移動することができる。図1のデュオプラズマトロンイオン源10は、カソード12とZ電極18とのアセンブリが縦方向に変位した状態で示されている。そして、イオン抽出開口20はZ電極18のZ電極開口38の端部と位置合わせされる。
【0048】
図2は、図1のデュオプラズマトロンイオン源10のZ電極18の概略図であり、Z電極18によりもたらされる磁気収縮の作用を図示している。Z電極18から出ている破線19は、磁力線を示している。磁場の基本的特徴の1つは、磁気面の付近において、磁場はその面に対して垂直であるということである。それゆえ、アノード22の表面と(図2の上下において)平行なZ電極18の一部から出ている力線は、アノード22に対して垂直に向かっている。しかしながら、Z電極開口38の内面から出ている力線は、図示のとおり、始めは放射状に内側に向かっている。力線は互いに交わることができないため、図示のとおり湾曲して、放電の電子に強力な収縮効果をもたらす。
【0049】
カソード12からZ電極開口38を通って移動する発光電子は、力線の周りを螺旋に回るように、つまりは力線に沿うように強いられる。これにより、放電電流にさらなる顕著な収縮が生じ、それゆえ、イオン抽出開口20の領域に影響を与える放電の電流密度がさらに増加する。これら機械的収縮及び磁気収縮の2つの収縮は、イオン抽出開口20がZ電極開口38と同軸上に配置された場合に、Z電極18の軸に沿って、ひいてはこのイオン抽出開口において、高いイオン密度を発生させることをともに意図している。
【0050】
但し、従来の設計では、イオン抽出開口20を画定する円板を何らかの非強磁性の耐火材(例えば、モリブデン)で製造することにより、イオン抽出開口20の付近で磁場の発散を招き、アーク密度を減少させるとともに、磁性Z電極18の収束機能をやや打ち消す場合もあるはずである。
【0051】
非強磁性材料により画定されるイオン抽出開口20を備える従来のデュオプラズマトロンの設計は、水素、酸素、アルゴン等の様々なガスから陽イオンを生成するために設計された通りに機能することができる。しかしながら、陰イオン(例えば、水素の陰イオン又は酸素の陰イオン)を放電から抽出することが望まれる場合に、問題が生じる。Z電極アノード開口38がイオン抽出開口20と同軸上に配置されている場合、放電から強力な電子の束が抽出される。これは、陰イオンの束と比較して1000倍以上大きく、高電圧電源に過負荷をかけるおそれがある。
【0052】
ある1965年の論文(G. P. Lawrence, R. K. Beauchamp, and J. L. McKibben, Nucl. Instr. Methods 32, 357 (1965))の著者らは、高いアーク電流(2アンペア(A))で、最大260ミリアンペア(mA)の電子電流をもたらす従来の負の水素(H)のデュオプラズマトロン源を用いて、約65マイクロアンペア(μA)の最大H電流と比較して、報告した。高い電子電流は、アノードのイオン抽出開口20を中心としたZ電極開口38により得られた。その一方で、最も高いイオン電流は、アノードのイオン抽出開口20からオフセットしたZ電極開口18により得られた。この論文では説明されていない理由により、Z電極18がイオン抽出開口20の中心とされた場合は、H電流がゼロにまで下降した。高電子電流が高電圧電源に負荷をかけたため、この論文で使用された質量分析計にHビームを通過させるには低いHイオンエネルギーは不適当であった可能性が高いようである。
【0053】
ある著者は、これらの問題に対する解決策は、Z電極18の軸を、イオン抽出開口20に対して横に変位させることであると報告した。これにより、0.035インチ(in)の変位で、電子電流がゼロにまで低下し、H電流は、この変位で、最大65μAまで増加した。1965年の論文の著者らは、Hイオンが、放電の高強度の中心部を囲む拡散「シース」領域において生成され、比較的脆弱なHイオン(およそ0.7電子ボルトの電子親和力を有する)は、その大部分がこの中心部で破壊されたと推測した。このシース議論は、その後の多くの論文で繰り返され、デュオプラズマトロンは、これらの仮定したシースイオンを特に抽出しようと設計された。しかしながら、ソースの性能の改良には全く成功しなかった。この議論は、実際には誤っていたのである。
【0054】
Z電極18を横に変位させて陰イオンを抽出する技術は、二次イオン質量分析において一般的な方法となった。該方法では、絶縁対象をスパッタさせるのに、負の酸素(O)イオンを用いることが望ましい。なぜならば、それにより、試料の帯電が最小限に抑えられるためである。二次イオン質量分析計の1つの設計(Cameca-Ametek社製のNanoSIMS、フランスのパリ)では、正の二次イオンを生成するためにOの一次イオンビームの使用することが必要不可欠である。なぜならば、この設計では、正の二次イオン極性とは反対の、一次イオン極性が必要になるためである。一般的には、このZ電極18の変位技術により生成されるOの一次イオン電流は、軸上にあるZ電極18で生成される正の酸素(O )のイオン電流の約10分の1である。その結果、最小集光ビーム径もまた、陰イオンでは、陽イオンと比較して低下する。NanoSIMS二次イオン質量分析計における最小集光ビーム径は、メーカーにより、200ナノメートル(nm)と指定されている。
【0055】
図3A及び図3Bは、それぞれ、図1の部分的強磁性アノード挿入体34の側断面図及び底面図である。部分的強磁性アノード挿入体34は、従来の磁性アノード挿入体を、前述の非強磁性(例えば、モリブデン)のイオン抽出開口に代えている。部分的強磁性アノード挿入体34の設計は、シースの仮定、すなわち、陰イオンは放電の周囲においてのみ生成され、高強度の中央領域では破壊されるという考えは誤っているとの認識から導出されている。実際に、以下に示すように、陽イオン及び陰イオンの両方の集団は、Z電極18の集中作用により、放電の軸上で最大化する。従来のアプローチのもとでのZ電極18(ひいては、放電の軸)の変位では、イオン抽出開口20を陰イオン生成のより高密度の領域に位置合わせしないが、代わりに、陰イオンと共に抽出されるいかなる電子も偏向するように作用するシステムに、磁気の非対称性を単に導入して、その電子が接地電極に到達しないようにするとともに、それらが加速電圧電源を消耗させないようにする。しかしながら、その結果、この変位は、従来のアプローチのもとでのイオン抽出開口20が、放電の中心部であり最も強力な部分を抽出しないことを意味している。
【0056】
これに対して、図3Aから図3Bの部分的強磁性アノード挿入体134は、強磁性部140と非強磁性部142とを含む。このアノード挿入体134は、図1のデュオプラズマトロンイオン源10におけるアノード挿入体34の代わりに使用してもよい。イオン抽出開口120は、強磁性部140に画定される。強磁性部140及び非強磁性部142は、部分的強磁性アノード挿入体134の中心線(図1のアノード22のようなアノードの中心線と同軸である)から、横方向にオフセットした(例えば、図示した実施形態では5mm)接合部144において接合される。このように横方向にオフセットしていることや、アノードからわずかな距離(例えば、図1に図示した実施形態では、わずか2mm)を空けて位置しているZ電極(図1の参照符号18)により、アノード(図1の参照符号22)とZ電極(図1の参照符号18)との間の空隙(例えば、1.5~2mm)における磁場は、軸対称からの歪みが最小限で済む。
【0057】
それゆえ、部分的強磁性アノード挿入体134の強磁性部140及び非強磁性部142は、イオン抽出開口120の領域における磁場が、部分的強磁性アノード挿入体134により生じる磁場の非対称に影響されないように、十分に横方向にオフセットして接合部144で接合される。それゆえ、部分的強磁性アノード挿入体134がデュオプラズマトロンイオン源10で使用される場合、イオン源10は最適な軸対称を維持する。
【0058】
いくつかの例では、部分的強磁性アノード挿入体134は、円錐形(例えば、図1のZ電極18に向かって凸状である円錐形)で製造される。これは、磁場を、部分的強磁性アノード挿入体134を組み込んだアノード(例えば、図1のアノード22)の中心に向かって(例えば、イオン抽出開口120が位置する円錐の頂点)集中させるように作用する。いくつかの例において、イオン抽出開口120は、部分的強磁性アノード挿入体134の強磁性部140に直接穿設されて、磁場がイオン抽出開口120の領域で可能な限り集中することを維持するようにする。その結果、アノード22には、従来の非強磁性(例えば、モリブデン)のイオン抽出開口片のような「磁性開口」は存在しない。
【0059】
引き続き図3Aから図3Bを参照する。部分的強磁性アノード挿入体134は、筒状部154と円錐テーパ部156とを含む。円錐テーパ156は、外面151と内面152とを有する。空洞155は、筒状部154と円錐テーパ部156の外面151とにより境界づけられている。図示するように、イオン抽出開口120に画定可能な中心軸に関し、円錐テーパ部156の外面151は、その中心軸に対する垂直線から、20度に(すなわち、特定の実施形態では、20プラスマイナス5度)角度づけられていてもよく、円錐テーパ部156の内面152は、中心軸に対する垂直線から10度(すなわち、特定の実施形態では、10プラスマイナス5度)に角度づけられていてもよい。部分的強磁性アノード挿入体134は、部分的強磁性アノード挿入体134が、デュオプラズマトロンイオン源のアノードの対応する内向きネジ付き開口(図示せず)に、取り外し可能に受容されることを可能にする外向きネジ付き側面158をさらに有する。図3Bを参照するに、筒状部154は、端面160により境界づけられている。端面160は、部分的強磁性アノード挿入体134をアノードの強磁性の残部に螺合し易くするための工具(図示せず)を受容するために使用され得る2つの切欠き162を画定している。図示するように、強磁性部140と非強磁性部142との間の接合部144は、特定の実施形態において、線形の境界面を備えていてもよい。他の実施形態では、非線形の(例えば、湾曲した)境界面が設けられていてもよい。特定の実施形態において、接合部144は、ろう接された又ははんだ付けされた境界面を備えていてもよい。
【0060】
図3Aから3Bに示す例示的実施形態において、部分的強磁性アノード挿入体134は、外径が30mm、内径が25mm、そして外向きのネジ付き側面158に沿った深さが10mmである。これらの寸法は、本質的に例示的なものであり、他の実施形態では異なるように寸法決めされ得ると理解されるべきである。イオン抽出開口120もまた、異なる径を有してもよく、例えば、所望の最終用途に応じて400μm又は600μmである。
【0061】
特定の実施形態において、部分的強磁性アノード挿入体134の強磁性部140は、軟鉄、ニッケル、軟鋼、又は別の適切な強磁性材料で形成されてもよい。特定の実施形態では、非強磁性部142は、非強磁性のステンレス鋼合金、又は強磁性部140との接合に対応した別の適切な非磁性材料で形成されてもよい。例示的な実施形態において、強磁性部140及び非強磁性部142は、互いにろう接されて、次いで加工される。他の例では、強磁性部140及び非強磁性部142を、はんだ付け、溶接、成形、接着等の、別の適切な技法によって接合してもよい。
【0062】
部分的強磁性アノード挿入体134は、ネジ付けされるか、又は別様に加工されて、アノード(図1の参照符号22。任意にアノードプレートで具体化されている。)内に該挿入体を固定しやすくしてもよいと認識すべきである。特定の実施形態において、部分的強磁性アノード領域134は、アノード22と一体的に形成されるか、又は別様に結合されて、それにより部分的強磁性領域をイオン抽出開口に近接して設けてもよい。
【0063】
図4は、図3Aから図3Bの部分的強磁性アノード挿入体134を備えるアノード(例えば、アノードプレート)22に近接して配置されたZ電極18の断面概略図である。部分的強磁性アノード挿入体134の外向きネジ付き側面158は、アノードプレート22の内向きネジ付き開口57に受容される。部分的強磁性挿入体134の強磁性部140に画定されたイオン抽出開口120は、Z電極18により画定されたZ電極開口38に近接して配置されるとともに、それと同軸上に位置合わせされる。磁場線19は、Z電極18から発する磁場を示している。図示するように、磁場19のうち、部分的強磁性アノード挿入体134の強磁性部140に突き当たる部分は、空洞155内までは延在しない。それに対して、磁場19’の一部は、非強磁性部142に侵入して空洞155内に入り込むので、イオン抽出開口120を通過する電子の軌道に影響を与えて(例えば、偏向する)、電子が接地電極(図示せず)へ移行することを低減又はなくしてもよい。
【0064】
本明細書で説明されるデュオプラズマトロン設計又は他の任意の設計により抽出され得るイオン電流の大きさは、イオン抽出開口内のプラズマの前面における(すなわち、Z電極から離間した)電界の強度に依拠する。この電界の強度は、アノードとその近位の接地電極との間の電位差、及びこれら2つの部品間の間隔の関数であるが、イオン抽出開口の詳細な形状の関数でもある。前述の二次イオン質量分析計で用いられるような100mA以下の低いアーク電流については、放電プラズマの界面は、接地抽出電極から離間したイオン抽出開口の底部に位置する。導電性金属の開口内へ侵入する電界は、侵入距離が増大するほど減衰することが知られている。当該分野で一般的に理解されている近位値は、開口の直径に匹敵する深さで、電界強度が約10分の1に減少するものである。それゆえ、プラズマ放電からイオンを抽出するように作用する電界は、イオン抽出開口の深さがその直径と同程度である場合、10分の1程度に減少し得る。したがって、この開口の深さを、最小限に抑えることが有効である。本明細書に説明されるいくつかの結果では、開口の深さは、開口の直径の約4分の1から3分の1、すなわち直径600μmの開口に対して150μm~200μm以下であった。
【0065】
[性能]
図3Aから図3Bの部分的強磁性アノード挿入体134は、イオン顕微鏡及びイオンマイクロプローブの2つの二次イオン質量分析法(SIMS)装置においてOイオンビームの生成について評価された。顕微鏡の要件は、一般的には、迅速な分析を容易にするための、大きいビーム電流(試料における集光スポット径が適度なもの)である。イオンマイクロプローブでは、迅速な分析は重要ではあるが、それに加えて、試料における集光スポットが可能な限り小さいことが望ましい。
【0066】
重要なことは、これらの評価に基づく最初の観察で、陽イオンと陰イオンとの両方についての最大抽出イオン電流が、Z電極18と同一のほぼ軸上の位置で得られたということである。この発見は、上述の「シース」仮説を決定的に否定しているとともに、図3Aから図3Bに示す部分的強磁性アノード挿入体134の設計思想を有効としている。
【0067】
[イオン顕微鏡の性能]
イオン顕微鏡は、イオン顕微鏡法と称される結像(imaging)アプローチを用いる。該アプローチにおいて、試料は数百マイクロメートル四方の領域にわたりラスター化した一次イオンビームにより照射され、結像はスパッタされた二次イオンビームで動作する無収差イオンレンズを用いて行われる。それゆえ、結像には、極端に小さい集光一次ビームは不要である。代わりに、集光ビームの実現可能な最も高い電流密度とともに、実現可能な最も高い総電流が望まれる。イオン顕微鏡の主な分析用途は、「深さ方向分析」であり、この分析用途では、試料中のいくつかのイオン種が、底が平坦なクレータが試料に侵食していく際の時間の関数として監視される。
【0068】
そのような深さ方向分析における一次ビームに関する要件は、(a)一辺が約200μmの正方領域にわたりラスター化する(削り取る)と、底が平坦な均一なクレータを生成することができる適度に良好に集光した一次イオンビーム(直径約10μm~30μm)、(b)可能な限り最速で分析を行うために、10μm~30μmのビームスポットに流れる最大使用可能電流、及び(c)一次イオン種の試料への侵入深さが比較的浅いこと、である。このような分析で達成可能な深さ分解能は、一次イオンの侵入深さにより制限される。なぜならば、侵入したイオンがこの深さにわたり表面下の原子を変位させて混合するためである。より低い一次イオン衝撃エネルギーを用いて深さ分解能を向上することができるが、エネルギーを低下させることで一次イオンの性能を損なう可能性がある。つまり、イオン源からのイオン抽出効率が低減して、エネルギーが低いほどビームの集光がより劣る。代替的なアプローチは、O の分子イオン種を用いることである。このイオン種は表面に衝突すると、2つの独立したO原子の投射物体に分裂して、それぞれが初期粒子エネルギーの半分になり、それゆえ侵入深さも半分となる。しかしながら、従来のデュオプラズマトロン源では、O 電流は低すぎて有用ではない。
【0069】
従来のデュオプラズマトロン源では、一般的な最大一次電流値(Ip)は、以下の通りであった。
の最大電流:最大1μA
の最大電流:最大1μA
の最大電流:最大200nA~300nA
及びOに関するデータは、メーカーの仕様に従うものである。
【0070】
イオン顕微鏡のデュオプラズマトロンに取り付けられた、600μmのイオン抽出開口120を備える部分的強磁性アノード挿入体134を用いることで(従来のデュオプラズマトロン源に関しては、ほかの全ての一次イオンのカラムパラメータは同じまま)以下の性能試験数値が達成された。
【0071】
の最大電流:最大6μA
の最大電流:最大6μA
の最大電流:最大1.8μA
したがって、これらの電流性能数値は、従来のデュオプラズマトロン設計よりも最大で6倍優れている。
【0072】
図5は、図1のデュオプラズマトロンイオン源10を使用するイオン顕微鏡でのOイオンの一次ビーム径の測定をグラフで示したものである。集光したOの一次ビーム径は、ビーム電流密度を決定するために測定された。ビーム径は、平坦な銅製円板に圧入されたアルミ製のグリッドを用いて測定された。グリッドバーは、25μmの中心で、厚さが8μmである。図5は、集光したOビームをアルミ製のグリッドバーの端にわたって走査させ、正のアルミニウム(Al)の二次イオンのカウント数をビーム位置の関数として監視したステップ走査結果を示している。ビーム径は、信号値が最大値の84%~16%まで低下する距離であることが許容されると定義される。これは、ビーム電流の68%が測定範囲内にあるか、又はガウスビーム形状の場合は、プラスマイナス1の標準偏差であることを意味している。
【0073】
プロットのビーム径は、2.0μmである。ビーム電流が0.8nAである場合、算出されるビーム電流密度は、25mA/cmである。アルミニウムのグリッド端にはある程度の粗さがあるはずなので、おそらくこの値は最小値である。従来のデュオプラズマトロン源に匹敵する工場仕様は、10mA/cmである。
【0074】
[イオンマイクロプローブの性能]
従来のデュオプラズマトロン源を使用したイオンマイクロプローブに関する工場仕様は以下の通りである(ビーム径は、上述の16%から84%の基準により定義される)。
【0075】
試料の表面で達成可能な最小のビーム径は≦200nm
Ip=2pA Oの場合、ビーム径は≦400nm
図6A及び図6Cは、図1のデュオプラズマトロンイオン源10を用いて生成した、試験試料のイオンマイクロプローブによる画像である。この画像は、400μmのイオン抽出開口120を有する部分的強磁性アノード挿入体134を用いて生成した集光Oビームにより生成された。試験試料はアルミニウム金属にプレス加工されて、その後平坦な表面に研磨されたシリコン粒子からなる。図6A及び図6Cの画像は、集光したOイオンビームを、10μm四方の領域にわたり走査して、スパッタされたAl及び陽シリコン(Si)の二次イオンの信号強度を監視することにより得られた。
【0076】
図7は、図6Aの試験試料画像の尖端を横切るAlイオンの画像強度のライン走査をグラフで示したものである。ライン走査は、画像の左上の隅の縁部を横切って捉えられた。上述の84%~16%の定義を用いて、ビーム径は75nmであると算出される。この測定の一次電流は、0.25pAであった。従来のデュオプラズマトロン源を用いた最小ビーム径(<200nm)の電流は、メーカーによって指定されてはいないが、おそらく同様の範囲である。
【0077】
図7に示す性能のビーム電流密度は5.7mA/cmである。ビーム径400nmに2pAの従来のデュオプラズマトロン源の仕様の場合、電流密度は1.6mA/cmである。同一の状況下において、従来のデュオプラズマトロン源による最大電流は、250nA~300nAであり、部分的強磁性アノード挿入体134によれば、12μAのO電流が得られた(これらの最大電流数は、イオン顕微鏡の数値とは異なる。なぜならば、一次イオンカラムの設計が異なっており、異なるイオン抽出開口径が用いられたためである。したがって同一の装置で行った比較のみが有効である)。
【0078】
要約すると、部分的強磁性アノード挿入体134の性能向上は、上述の両方のSIMS装置設計において非常に類似している。従来のデュオプラズマトロン源と比較するに、最大O電流は4~6倍大きく、ビーム電流密度は、イオン顕微鏡では、従来のデュオプラズマトロン源よりも少なくとも2.5倍大きく、イオンマイクロプローブでは3倍大きい。そして、最小ビーム径は、イオンマイクロプローブでは、従来のデュオプラズマトロン源の2.7分の1である。
【0079】
なお、イオン顕微鏡の最大O 電流もまた、完全に強磁性のアノードを備えるデュオプラズマトロンイオン源と比較して4~5倍の増進を示している。完全に強磁性のアノードを備えるデュオプラズマトロンイオン源を、陽イオンの抽出のためにZ電極18を軸上に置いて、両方のイオン源を動作させたにもかかわらず、である。これは、部分的強磁性アノード挿入体134の円錐形の設計によるものである可能性がある。
【0080】
図8は、デュオプラズマトロンイオン源10のための部分的強磁性アノードを製造するための処理を図示したフロー図である。本処理は、操作700において、非強磁性部材を強磁性部材に接合して、部分的強磁性ストック(すなわち、部分的強磁性アノードを形成するために、さらに加工される被加工物)を製造することから始まる。例示的な態様において、非強磁性材料は、強磁性材料にろう接される。本処理は、操作702において、部分的強磁性ストックを加工して(例えば、機械加工)、非強磁性材料と、イオン抽出開口から横方向にオフセットした磁性材料との間に接合部を備える部分的強磁性アノードを形成することを進める。
【0081】
図8の操作は連続して図示されているが、これは例示目的のためであって、同操作は必ずしも順序に依拠するものではない。いくつかの操作は、示した順序と異なる順序で実行されてもよい。例えば、少なくとも一部の機械加工は、非強磁性材料を強磁性材料に接合する前に実行されてもよい。さらには、本開示の範囲に属する操作であれば、図8に示すものよりも少ない又は多い工程を含んでいてもよい。
【0082】
図5から図8に関して上述したように、図3Aから図3Bの部分的強磁性アノード挿入体134を備える図1のデュオプラズマトロンイオン源10は、二次イオン質量分析計や粒子加速器等の多様な用途に有用である。部分的強磁性アノード挿入体134は、イオン抽出領域(例えば、イオン抽出開口120とZ電極18との間)において非対称な磁場を生成するために、強磁性(例えば、軟鉄)且つ非強磁性(例えば、321ステンレス鋼合金)であるろう接された(又は別様に接合された)部分的強磁性ストックから製造されてもよい。
【0083】
強磁性部(図3Aから図3Bの参照符号140)と非強磁性部(図3Aから図3Bの参照符号142)との間の接合部は、十分に中心から離れている(例えば、図3Aから図3Bに示した例示的実施形態では、5mm)ので、イオン抽出開口120の領域の磁場は、磁場の非対称性から受ける影響が最小であり、最適な軸対称に近いままとなる。アノード22片の非対称な強磁性/非強磁性構造により生じる加速ギャップにおいて歪められた磁場は、イオン抽出開口120がZ電極開口38と同軸上に配置された場合、このイオン抽出開口からの電子の抽出を抑制し、ソースプラズマの中心であり、最も強力な領域から陽イオン又は陰イオンを抽出できるようにする。
【0084】
いくつかの例では、アノード22の少なくとも一部(例えば、図3Aから図3Bに図示した部分的強磁性アノード挿入体134)は、円錐形(例えば、図1のZ電極18に向かって凸状である)であるため、アノード22とZ電極18との間の空隙における磁場は、イオン抽出開口120が位置する円錐の頂点で集中する。イオン抽出開口120が穿設されたアノード22の領域は、強磁性の軟鉄又類似の材料でもよく、それにより、イオン抽出開口120に近接した磁場をさらに最適化する。
【0085】
イオン顕微鏡及びイオンマイクロプローブの両装置の設計の最大陰イオンイオンビーム電流とイオンビーム電流密度とにおいて、約4~6倍の性能向上が達成される。そして、(例えば、イオン顕微鏡の)最小集光スポット径は、2.7分の1である。
【0086】
当業者は、本開示の好適な実施形態への改良及び修正を認識するであろう。これら改良及び修正は全て、本明細書及び以下の特許請求の範囲に開示された概念の範囲内で検討される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8