(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ウェハの製造に使用されるイオン注入システムのためのエネルギーフィルタ要素
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20241017BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01J37/04 Z
(21)【出願番号】P 2023187393
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2022132936の分割
【原出願日】2017-04-04
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】102016106119.0
(32)【優先日】2016-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518351230
【氏名又は名称】エムアイツー‐ファクトリー ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリッペンドルフ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】カサト,コンスタンティン
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-124245(JP,A)
【文献】特開昭55-39694(JP,A)
【文献】特開2000-306541(JP,A)
【文献】特開昭57-199220(JP,A)
【文献】特開昭55-102226(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011075350(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005061663(DE,A1)
【文献】米国特許第5972728(US,A)
【文献】米国特許第6639227(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板へのイオン注入中にフィルタ仕様への準拠を監視する方法であって、
フィルタをフィルタホルダに挿入するステップであって、前記フィルタは、前記フィルタを通過するイオンビームによって照射されるステップと、
前記フィルタの署名を読み取り、読み取られた前記署名をデータベースに保存されているフィルタの署名と比較することにより、前記フィルタの許容可能な最大温度および前記フィルタの許容可能な最大累積イオン線量の少なくとも1つを含むフィルタの特性を特定するステップと、
前記フィルタの温度および/または前記フィルタの累積イオン線量を連続的に測定しながら、前記フィルタを通過するイオンビームによって前記基板にイオンを注入するステップと、
測定された前記フィルタの前記温度が前記フィルタの許容可能な最大温度に達するか、それを超えたとき、および/または測定された前記フィルタの累積イオン線量が前記フィルタの許容可能な最大累積イオン線量に達するか、それを超えたときに、前記注入を終了するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記フィルタの前記署名は、前記フィルタ上に配置された電子的に読み取り可能なメモリに格納される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記注入を終了するステップは、制御コンピュータによって前記注入を自動的に終了することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタの前記温度および/または前記フィルタの前記累積イオン線量を連続的に測定することは、内蔵センサによって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルタの前記温度を連続的に測定することは、温度センサによって行われる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタの前記累積イオン線量を連続的に測定することは、電荷積分器によって行われる請求項4に記載の方法。
【請求項7】
基板にイオンを注入するシステムにおけるフィルタ仕様への準拠を監視する方法であって、
フィルタをフィルタホルダに挿入するステップであって、前記フィルタは、前記フィルタを通過するイオンビームによって照射されるステップと、
前記フィルタの署名を読み取り、読み取られた前記署名をデータベースに保存されているフィルタの署名と比較することにより、イオン種、イオンビームエネルギー、前記フィルタの許容可能な最大温度および前記フィルタの許容可能な最大累積イオン線量の少なくとも1つを含む、前記フィルタが適用されるプロセスに関連する前記フィルタの特性を特定するステップと、
制御コンピュータによって、特定された前記フィルタの特性に基づいて、前記フィルタが計画された注入プロセスに適しているか否かを判定するステップと、を含む方法。
【請求項8】
前記フィルタの前記署名は、前記フィルタ上に配置された電子的に読み取り可能なメモリに格納される請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入及びその使用のためのエネルギーフィルタ(注入フィルタ)を備えた注入装置、及び注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入により、例えば半導体材料(シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウム)、又は光学材料(LiNbO3)などの任意の所望の材料中のドーピングや欠陥プロファイルの生成を、数ナノメートルから数100マイクロメートルまでの深さの範囲内のあらかじめ定められた深さプロファイルで達成することができる。特に、単一エネルギーイオン照射によって得ることができるドーピング濃度ピーク又は欠陥濃度ピークの深さ分布よりも広い深さ分布によって特徴付けられる深さプロファイルを生成すること、又は、1つ又は幾つかの簡単な単一エネルギー注入によって生成できないドーピング又は欠陥深さプロファイルを生成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1】
図1は、エネルギーフィルタの基本原理を示す図である。単一エネルギーイオンビームのエネルギーは、入射点の関数として微細構造エネルギーフィルタ部品の通過の際に変更される。結果として得られるイオンのエネルギー分布は、基板母体中に注入された物質の深さプロファイルの変更をもたらす。
【
図2】
図2は、左側に、ウェハホイールを示し、被注入基板がこのウェハホイール上の定位置に固定される。処理/注入の間、ホイールは90°傾いて回転する。したがって、緑色で示されたイオンビームは、同心円をホイールに「書き込む」。ウェハ全体の表面に照射するために、ホイールは処理中に垂直に移動される。
図2は、右側に、ビーム開口部の領域に取り付けられたエネルギーフィルタを示す。
【
図3】
図3は、異なる構成のエネルギーフィルタ微細構造(各場合は側面図及び上面図に示される)の様々なドーピングプロファイル(基板内の深さの関数としてのドーパント濃度)の概略図を示す。(a)三角柱形状の構造は、矩形のドーピングプロファイルを生成する。(b)より小さな三角柱形状の構造は、浅い深さ分布を有するドーピングプロファイルを生成する。(c)台形プリズム形状の構造は、プロファイルの始めにピークを有する矩形のドーピングプロファイルを生成する。(d)ピラミッド形状の構造は、三角形のドーピングプロファイルを生成し、基板内の深さが深くなるにつれて高さが高くなる。
【
図4】
図4は、エネルギーフィルタチップを保持するためのフィルタフレームの断面図を示す。
【
図5】
図5は、係止要素を有するエネルギーフィルタ要素を保持するためのフィルタフレーム、及び、取り付けられたエネルギーフィルタの上面図を示す。
【
図6】
図6は、イオン注入装置のビーム経路内にエネルギーフィルタ要素を保持するためのフレームの典型的な設置を示す。この例では、フィルタホルダは、チャンバ壁の一方の側面に配置されている。この例では、この側面は、チャンバ壁の内側、すなわち、注入中にウェハ(図示せず)に面する側である。フィルタチップが挿入されたフレームは、フィルタホルダ内に押し込まれ、その後、注入中にイオンビームが通過するチャンバ壁の開口部を覆う。
【
図7】
図7は、部分的なフレーム(図の左側)と完全なフレーム(図の右端)を示しており、それぞれがエネルギーフィルタ及び/又は別の材料と同じ材料(例えばモノリシック)からなることができる。
【
図8】
図8は、フィルタ又は任意の他の受動的散乱要素を取り囲むフィルタフレームの取り付けのための1つ以上のバーの使用を示す。
【
図9】
図9は、フィルタ又は任意の他の散乱要素を取り囲むフィルタフレームの取り付けのための単一又は複数のサスペンション要素の使用を示す。
【
図10】
図10は、フィルタ又は任意の他の散乱要素を取り囲むフィルタフレームの取り付けのための磁場の使用を示す。
【
図11】
図11は、マルチフィルタの簡単な実現を示す。異なって形成された3つのフィルタ要素がフィルタ保持フレーム内で組み合わされて完全なエネルギーフィルタを形成する。イオンビームは、個々のフィルタ要素全体にわたって均一に通過する。この例(左)では、右に示すドーパント深さプロファイルが生成される。このプロファイルには、番号1,2,及び3の3つの深さプロファイルが含まれている。これらのサブプロファイルのそれぞれは、左側に示される3つのサブフィルタのうちの1つ、すなわち、対応する番号が付されたサブフィルタから生じる。
【
図12】
図12は、マルチフィルタ概念の詳細図を示す。左側には、3つのフィルタ要素が例として示されている。4つの要素が番号付きで記述されている。所与のイオン種及び一次エネルギーについて、ドーパント深さプロファイルが各フィルタ要素から得られる。重み付け、すなわち結果として生じる濃度は、個々のフィルタ要素の表面の寸法を変えることによって調整可能である。この例では、フィルタと基板とが同じエネルギー依存の停止パワーを有すると仮定する。しかしながら、通常そうではない。
【
図13】
図13は、
図12に記載されたフィルタ要素の全てが、適切な重み付けを有する完全なフィルタとして一緒に取り付けられ、適切な一次エネルギーのイオンビームに均一にさらされるときに得られる総和プロファイルを示す。
【
図14】
図14は、マルチフィルタ内の個々のフィルタ要素の例示的な配置を示す。ここに示されている個々の要素F1,F2,F3等は斜めに切断され、互いに直接取り付けられている。
【
図15】
図15は、イオン注入システムに設置されたフィルタの配置を示す。外部冷却装置によって冷却剤が供給される冷却ラインは、フィルタフレームを保持するフィルタホルダ内に組み込まれる。冷却ラインは、フィルタホルダ(図示せず)の表面に配置することもできる。
【
図16】
図16は、単位時間当たりに部分的にのみ照射される大きな表面積を有するエネルギーフィルタを示す。したがって、照射されていない領域は、放射冷却によって冷却することができる。この実施形態は、上述したように、マルチフィルタとして構成することもできる。すなわち、幾つかの異なるフィルタ要素を含むフィルタとして構成することができる。図示された例では、フィルタ付きフレームは、イオンビームの方向に垂直な方向に振動する。イオンビームによって覆われたフィルタの面積は、フィルタの全表面積よりも小さいので、単位時間当たりにフィルタの一部のみがビームにさらされる。この部分は、振動運動のために連続的に変化する。
【
図17】
図17は、中心軸の周りを回転するエネルギーフィルタの配置の別の構成を示す。この場合も、単位時間当たりの照射は部分的であるため、照射されない要素は冷却され得る。この実施形態はまた、マルチフィルタとして構成可能である。
【
図18】
図18は、「ピークのシフト」を概略的に示す。台形のプリズム形状の構造の助けを借りてエネルギーフィルタにイオンを注入することによって、矩形のプロファイルを基板内に生成することができる。最初のピークはエネルギーフィルタに埋め込まれる。この注入プロファイルは、基板の表面で直ちに始まるという有利な特性を有し、これはエネルギーフィルタの適用にとって極めて重要である。
【
図19】
図19は、静的注入中にエネルギーフィルタによってPMMA基板にイオンがどのように注入されるかを示している。イオンはPMMAの分子構造を破壊する。その後の現像プロセスは、イオンのエネルギー分布を明らかにする。高エネルギー堆積の領域は溶けてなくなる。イオンによるエネルギー堆積が低いか又は全くない領域は、現像液によって溶解されない。
【
図20】
図20は、フィルタを識別し、フィルタ仕様(最大温度、最大累積イオン線量)への適合性を監視するための監視システムを示す。
【
図21】
図21は、フィルタホルダに取り付けられたコリメータ構造を示す。アスペクト比は最大角度αを決定する。注入基板への利用可能な距離が十分に大きくない場合、コリメータは、より小さい開口部を並べて配置された幾つかのコリメータユニットから構成することができる。これは、例えば、ハニカムパターンで配列することができる。
【
図22】
図22は、フィルタ上に直接構築されたコリメータ構造を示す。アスペクト比は最大角度αを決定する。ここで、フィルタは、イオンビーム内に背面から前面への構成で配置されている。適切に設計された場合、コリメータは、フィルタに対して有利な機械的安定効果を有し、フィルタチップの表面積の増加の結果として、放射冷却を改善する。
【
図23】
図23は、フィルタ上に直接構築されたコリメータ構造を示す。アスペクト比は最大角度αを決定する。この例では、フィルタは、イオンビーム内に前面から背面への構成で配置される。
【
図24】
図24は、フィルタ上に直接構築されたコリメータ構造を示す。コリメータ構造は、フィルタのレイアウト及び必要な最大角度分布に応じて、ラメラ状、ストリップ状、管状、又はハニカム構造を有することができる。
【
図25】
図25は、ターゲット基板上に直接構築されたコリメータ構造を示す。コリメータ構造は、基板構造のレイアウト及び必要な最大角度分布に応じて、ラメラ状、ストリップ状、管状、又はハニカム構造を有することができる。
【
図26】
図26は、同一のフィルタで異なるコリメータ構造を用いて得られたドーピングプロファイルを示す。
【
図27】
図27は、コリメータ構造の有無による注入によりマルチフィルタによって得られたドーピングプロファイルを示す。
【
図28】
図28は、フィルタの「裏返し」を概略的に示す。(A)フィルタは通常の配置で使用され、これは、微細構造がビームから離れていることを意味する。(B)フィルタは裏返すことができ、これは、微細構造がビームの方を向いていることを意味する。これは、フィルタにおけるスパッタリング効果に有利な効果を有する。
【
図29】
図29は、フィルタの「傾斜」を概略的に示す。エネルギーフィルタが異方性材料で製造されている場合、チャネリング効果があり得る。これは、エネルギーフィルタを傾けることによって防ぐことができる。
【
図30】
図30は、様々な形態のエネルギーフィルタ微細構造(各場合は側面図及び上面図に示される)の様々なドーピングプロファイル(基板内の深さの関数としてのドーパント濃度)を概略的に示す。(A)三角柱形状の構造は、矩形のドーピングプロファイルを生成する。(B)より小さな三角柱形状の構造は、浅い深さ分布を有するドーピングプロファイルを生成する。(C)台形プリズム形状の構造は、プロファイルの始めにピークを有する矩形のドーピングプロファイルを生成する。(D)ピラミッド構造は三角形のドーピングプロファイルを生成し、ドーピングプロファイルは基板の深さが深くなるほど上昇する。
【
図31】
図31は、異なるターゲット材料に基づいて、同じ一次イオン及び同じ一次エネルギーに対する様々なターゲットプロファイル形状を示す。それぞれの場合、フィルタ材料はシリコンである。
【
図32】
図32は、エネルギーの関数として停止パワーの変化を示す[4](SRIMシミュレーション)。
【
図33】
図33は、単純な多層フィルタの出発材料を示す。適切な停止パワーを有するフィルタ材料は、適切な堆積方法によって互いの上に順次配置される。
【
図34】
図34は、異なる停止パワーを有する材料の層状スタックの適切な構成で、複雑なドーパント深さプロファイルが単純なフィルタ形状(ここでは、ストリップ状の三角形)であってもどのように実現できるかを示す。
【
図35】
図35は、個々のフィルタ構造の各々が異なる幾何学的形状を有する材料1~6からエネルギーフィルタを構築する一般原理を示す。
【
図36】
図36は、イオンの平衡電荷状態(黒線:トーマス-フェルミ推定;青線:モンテカルロシミュレーション;赤線:実験結果)を、薄膜を通過する際のイオンの運動エネルギーの関数として示す。イオン:硫黄;膜:炭素[27]。
【
図37】
図37は、イオン衝撃によるエネルギーフィルタの加熱を示す。これらの条件下では透明ではないエネルギーフィルタ中に、6MeVのCイオンが存在する[2]。
【
図38】
図38は、二次電子を抑制する目的で、フィルタホルダに対して規定された(正の)電位でフィルタがフィルタフレームに保持されるフィルタの配置の実施形態を示す。
【
図39】
図39は、幾つかの要素の仕事関数を示している。[25]Materials Science-Poland, Vol. 24, No. 4, 2006
【
図40】
図40は、エネルギーフィルタ注入のための配置を示しており、静止基板の完全な照射が、フィルタの前のイオン偏向システムによって達成されるとともに、フィルタと基板との間の適切な距離(通常は数cmから数mの範囲)の選択によって達成される。
【
図41】
図41は、エネルギーフィルタ注入のための配置を示しており、基板の表面よりも大きなフィルタ表面が、基板の完全な照射を達成するために使用される。照射されるフィルタ領域の直径は、基板の直径よりも大きい。
【
図42】
図42は、その一部のみがアクティブであり、一方向の機械的走査を伴うフィルタを示す。
【
図43】
図43は、マスクされてエネルギーフィルタリングされた注入の場合に、犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの変更を示す。ここに示す例では、注入プロファイルの開始部分が犠牲層内にシフトされている。この原理は、マスクされずエネルギーフィルタリングされたイオン注入と同様に使用することができる。
【
図44】
図44は、マスクされずエネルギーフィルタリングされたイオン注入の場合の、犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの横方向の変更を示す。この原理は、マスクされてエネルギーフィルタリングされた注入と同様に使用することができる。
【
図45】
図45は、フィルタと基板とのy方向の垂直移動の結合を示す。ウェハホイールの回転により、ウェハは基板の後ろでx方向に案内される。イオンビーム(図示せず)は、例えばx方向に拡張され、注入チャンバの垂直振動の結果として、マルチフィルタの表面全体を走査する。この表面は、アクティブなフィルタ領域と非アクティブなホルダ領域で構成されている。(A)に示す配置は好ましくない配置である。y1とy2で照射されたフィルタ表面を考えると、y1では3つのフィルタが照射され、y2ではフィルタは照射されない。その結果、ウェハ上に横方向に不均質なストライプパターンが得られる。(B)に示す配置は、より良い配置の可能な例である。2つのフィルタがy1とy2で照射される。これは全てのyに当てはまる。その結果、ウェハの表面全体にわたって横方向に均質なドーピングが達成される。
【
図46】
図46は、被照射ウェハの配列を有するウェハホイールと、ウェハ間に位置する監視構造を示す。
【
図47】
図47は、イオンビームに対して透明又は部分的に透明な様々なマスク構造Ma1~Ma10の配置の一例を有する監視マスクを示す。
【
図49】
図49は、エネルギーフィルタを用いて生成された濃度の深さプロファイルの一例を示す。
【
図50】
図50は、深さに依存した線量分布を監視するためのマスク構造の一例を示す。
【
図51】
図51は、監視構造による注入プロセスの監視を示す。
【
図52】
図52は、監視構造による注入プロセスの監視を示す。
【
図57】
図57は、非対称な角度分布を監視するためのマスク構造を示す。
【
図58】
図58は、様々な方向のイオン角度分布を検出するためのマスク構造の様々な配置を示す。
【
図59】
図59は、2つの注入プロファイルAとBとの間の遷移の巧みな適合を示しており、結果として得られる全体的な濃度プロファイルは、所望のプロファイル、例えば均質なプロファイルをもたらす。これは、ここに示す図のように2つの層からなる層システムの場合に特に有益であり得る(しかしながら、そうである必要はない)。
【0004】
以下の一連のプロセスによる実現の提案:
(1)下層(注入B)をドーピングするステップ、
(2)上層を成長させるステップ、そして、
(3)上層をドーピングするステップ。
【0005】
注入Aの高エネルギーテールの構成については、限られた可能性しか残されていない。しかしながら、注入Bの低エネルギーテールは、特に、「15:犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの変更」に記載されているような犠牲層の導入によって影響され得る。
【0006】
以下の一連のプロセスによる実現の提案:
(1)犠牲層を成長させるステップ、
(2)下層(注入B)をドーピングするステップ、
(3)犠牲層を除去するステップ、
(4)上層を成長させるステップ、
(5)上層をドーピングするステップ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
図1は、深さプロファイルを生成するための[7]から知られている方法を示す。この場合、イオンビームは、ウェハ処理のためのイオン注入システムにおいて、構造化されたエネルギーフィルタによって基板に注入される。処理後のウェハ内の注入方法及びドーパント分布又は欠陥分布が示されている。特に示されているのは、単一エネルギーイオンビームのエネルギーが、それが入射する点に応じて、微細構造エネルギーフィルタ部品を通過する際にどのように変更されるかである。結果として得られるイオンのエネルギー分布は、基板母体中に注入された物質の深さプロファイルの変更をもたらす。
図1には、この深さプロファイルも示されており、ここに示す例では矩形である。
【0008】
図2は、イオン注入のためのシステムを示す。このシステムは、複数のウェハをウェハホイール上に配置することができる注入チャンバを含む。ウェハホイールは、注入中に回転するので、個々のウェハは、エネルギーフィルタが配置されたビーム開口部を繰り返し通過し、イオンビームが注入チャンバに到達し、ウェハに衝突する。注入の対象となる基板が上に取り付けられているウェハホイールは、
図2の左側に示されている。処理/注入の間、ホイールは90°傾いて回転する。したがって、緑色で示されたイオンビームのイオンは、同心円をホイールに「書き込む」。ウェハ全体の表面に照射するために、ホイールは処理中に垂直に移動される。ビーム開口部に取り付けられたエネルギーフィルタが
図2の右側に示されている。
【0009】
図3は、フィルタの適切な選択によって多数の異なるドーパント深さプロファイルがどのように生成されるかの原理を例示するために、フィルタの幾つかのレイアウト又は3次元構造を例として示す。
図3に示す個々のフィルタプロファイルは、追加のフィルタプロファイル、したがって追加のドーパント深さプロファイルを得るために互いに組み合わせることができる。エネルギーフィルタの断面図(図面の左端)が、それぞれの場合に示されており、エネルギーフィルタの上面図と、達成されたドーパント濃度対ウェハの深さ(深さの関数として)の変化を示す曲線も示されている。ウェハの「深さ」は、イオンが注入されるウェハの表面に垂直な方向である。
図3に示すように、(a)三角柱形状の構造は、矩形のドーパントプロファイルをもたらす。(b)より小さな三角プリズム形状の構造は、(a)の場合よりも深さが小さい矩形のドーパントプロファイルを生成する(したがって、構造のサイズを選択することによってプロファイルの深さを調整することができる)。(c)台形プリズム形状の構造は、プロファイルの始めにピークを有する矩形のドーピングプロファイルを生成する。(d)ピラミッド構造は、基板内の深さが増加するにつれて高さが増加する三角形のドーピングプロファイルを生成する。
【0010】
多くの理由から、従来知られているエネルギーフィルタ(注入フィルタ)又はエネルギーフィルタ要素は、高スループット、すなわち1時間当たりの多くのウェハの達成には適合していない。特に、1時間当たりの高いウェハスループット、取り扱いの容易さ、製造の容易さ、及び、所望のプロファイル形状の実現を有することが望ましい。モノリシックに、すなわち材料の固体のブロックから製造された静的又は可動に取り付けられたフィルタであって、イオンビーム内に個々に取り付けられたフィルタは、文献[2],[3],[4],[5],[6],[7],[8],[9],[10]から知られている。シリコンとは対照的に、SiCウェハのドープ領域の形状は、一般にドーパントプロファイルの外方拡散によって変更することができない[2],[4],[5],[6]。この理由は、Al、B、N、及びPのような一般的なドーパントの非常に小さな拡散定数(高温でさえも)にある。これらの拡散定数は、例えば、シリコンの比較値よりも数桁小さい。この理由から、特に高いアスペクト比を有するドープ領域、すなわちベース表面積と深さとの比が小さいドープ領域を経済的に実現することは今まで不可能であった。
【0011】
半導体ウェハのドーパント深さプロファイルは、エピタキシャル堆積中のin-situドーピングによって、又は(マスクされた)単一エネルギーイオン注入によって生成することができる。in-situドーピングの場合、高レベルの不正確さが生じる可能性がある。均質なドーパントプロファイルの場合でさえ、プロセスの性質は、理想的なドーピングからの著しい偏差がウェハ上で、すなわち中間から端へと予想されることを意味する。勾配深さプロファイルの場合、この不正確さはまた、ドープ領域の垂直方向にも及ぶ。なぜなら、今や局所ドーパント濃度は、例えば、温度、局所ドーパントガス濃度、トポロジー、プラントル境界層の厚さ、成長速度などの多数のプロセスパラメータに依存するからである。単一エネルギーのイオンビームの使用は、許容可能な垂直うねりを有するドーパントプロファイルを得るためには、多くの別個の注入が行われなければならないことを意味する。この手法は、ある程度までしか調整することができず、非常に迅速に経済的に実現不可能となる。
【0012】
本発明の例は、半導体部品、特にSiC半導体材料に基づく部品の工業生産における、エネルギーフィルタ要素の使用に関する要件を満たすことを可能にするイオン注入システム用のエネルギーフィルタ要素の構成に関する。製造条件は、エネルギーフィルタ要素の使用については、例えば以下の態様によって定義される。
【0013】
1.フィルタ交換の技術的な容易さ
生産的環境、すなわち工場では、ほとんどの場合訓練を受けた技術者ではない工業労働者(「オペレータ」)によるイオン注入装置でも生産が行われる。
【0014】
エネルギーフィルタは非常に壊れやすい微細構造の膜であり、破壊することなく取り扱うことが困難である。このフィルタ技術を経済的に使用できるように、短期間の指導の後、専門家でない人(つまり、技術者でない人)でさえ、摩耗した道具のようにフィルタを交換できること、又は、フィルタを注入システム内の別のものと交換することができることが保証されるべきである。
【0015】
2.任意の垂直プロファイル形状
超接合部品又は最適化されたダイオード構造のような新規な半導体部品は、不均一なドーピング曲線を必要とする。しかしながら、[1-6]に記載された単純なエネルギーフィルタは、一定のプロファイルしか生成しない。Rub[8]に記載されているような複雑なフィルタ構造は、技術的に非常に精巧であり、製造方法の技術水準に従って実現することは困難である。目標は、複雑でない、すなわち製造が容易なフィルタ構造の使用によって、複雑な垂直プロファイル形状を実現することである。
【0016】
3.フィルタ移動と組み合わせた高スループット冷却システム
製造条件は、例えば、典型的にはイオン注入装置(タンデム加速器の典型的な端子電圧>1MV~6MV)上で1時間当たりに、約2×1013cm-2のウェハ当たりフルエンスで6インチの直径を有する20~30枚を超えるウェハを製造すべきであることを意味する。この状況で必要な枚数のウェハを製造できるようにするには、1pμA以上かつ数10pμAまでのイオン電流を使用するか、又は、数ワット以上の電力、例えば6W/cm
2をフィルタ(典型的な表面積は1~2cm
2)上に投入する必要がある。これは、フィルタが熱くなることにつながる。問題は、適切な手段でフィルタを冷却することである。
【0017】
4.均質で均一な深さプロファイルを得るためのフィルタ構造の簡単で低コストな製造
フィルタ構造は、異方性湿式化学エッチングによって製造することができる。最も簡単な形態では、フィルタ構造は、可能な限り薄い膜上に周期的に配置された、適切に寸法決めされた長い三角形のラメラ(例えば、高さ6μm、間隔8.4μm、長さ数ミリメートル)からなる。鋭い点を有する三角系のラメラの製造は、湿式化学異方性エッチングが正確に調整されなければならないので、コストが掛かる。鋭い点、すなわち非台形のラメラは、尖ったラメラを得るためにエッチング速度及びエッチング時間が互いに正確に調整されなければならないので、コストが掛かる。実際には、これは、エッチング中のかなり多くのプロセス制御作業をもたらす。何百枚ものラメラを有するチップ上のエッチング中に予想される不均一な処理(湿式化学プロセスのエッチング速度は、決して完全に再現可能ではなく、より広い領域にわたって均質であることは決してない)の結果として、それは、歩留まり損失、すなわち、不完全に構造化されたフィルタ要素につながる。目標は、エネルギーフィルタの生産のための簡単で低コストの方法を実現することである。
【0018】
5.製造されたドーパント領域又は欠陥領域の高い横方向均質性
先に引用した文献[2],[3],[4],[5],[6],[7],[8],[9],[10]に記載されているイオン注入用のエネルギーフィルタは、イオンがフィルタを通過する際にイオンが移動する距離に差異をもたらす内部3次元構造を有する。移動距離のこれらの差異は、フィルタ材料の停止パワーに依存して、透過イオンの運動エネルギーの変更を生じる。したがって、単一エネルギーイオンビームは、異なる運動エネルギーを有するイオンからなるビームに変換される。エネルギー分布は、フィルタの形状及び材料によって決定される。すなわち、フィルタ構造はイオンリソグラフィによって基板に転写される。
【0019】
6.エネルギーフィルタの「寿命末期」の監視
イオンビームとフィルタ材料との核相互作用及び熱負荷のために、フィルタの典型的な耐用期間は、特に、エネルギーフィルタを用いた各イオン注入プロセスの結果となる。約2μmの厚さの支持層、8μmのオーダーの規則的な突起構造、及び、約0.1pμAの電流を有する12MeVの窒素での注入プロセスを有するシリコンのエネルギーフィルタの場合、最大生産量は約100ウェハである(6インチ)。
【0020】
機械オペレータのためとフィルタ製造者の安全のために、特定のフィルタで処理されたウェハの総数を監視する必要がある。
【0021】
7.透過イオンの角度分布の制限
マスクされたドーパント領域、すなわち、限られた横方向寸法を有する領域の製造のために、特に高アスペクト比の場合には、透過イオンの角度スペクトルを制限して、マスキング層の下にイオンを注入することを避けなければならない。
【0022】
8.スパッタリング効果によるフィルタ摩耗の最小化
【0023】
9.イオンビームに対するフィルタの配置によるチャネリング効果(格子誘導効果)の回避
【0024】
10.単純なフィルタ形状による複雑なドーパント深さプロファイルの実現
【0025】
11.フィルタの使用中の電子抑制
固体を通るイオンの透過中に、イオンの電荷が平衡状態をとることが知られている。一次ビームの電子は、固体に放出されるか、固体から受け入れられる。すなわち、透過イオンは、フィルタ材料の特性及び一次エネルギーに応じて、フィルタを通過した後、平均してより高い又はより低い電荷状態を有する[26]。これにより、フィルタの正又は負の充電につながる可能性がある。
【0026】
同時に、高い運動エネルギーの二次電子は、フィルタの前面又は背面のイオン衝撃によって生成することができる。
【0027】
工業生産に必要な高電流密度では、エネルギーフィルタが熱くなる(
図6.5.24参照)。熱電子放出(Richardson-Dushman法)のために、熱電子は、フィルタ材料の温度及び仕事関数の関数として生成される。
【0028】
フィルタと基板との間のイオン加速器の(高真空における)距離は、通常数センチメートル以下である。すなわち、(熱電子放出からの)熱電子の拡散及び(イオン衝撃からの)高速電子の作用は、例えばそこに設置されたファラデーカップによって、基板でのイオン電流の測定を改変してしまう。
【0029】
12.射出成形、鋳造、又は焼結による代替製造方法
文献[2]~[15]には、エネルギーフィルタの製造のためのマイクロ技術の方法が提案されている。特に、フィルタの製造のために、湿式化学エッチング又は乾式化学エッチングと組み合わせてリソグラフィ法を用いることが記載されている。フィルタ製造のために、シリコンにおけるアルカリエッチング液(例えば、KOH又はTMAH)による異方性湿式化学エッチング方法が好ましい。
【0030】
最後に述べた方法によって製造されたフィルタの場合、機能フィルタ層は単結晶シリコンから製造される。したがって、高エネルギーイオンで衝撃を与えた場合、チャネリング効果は、原則として、制御困難な方法でフィルタ層内の有効エネルギー損失に影響を及ぼすことが常に想定されなければならない。
【0031】
13.静止基板を照射するための配置
基体の全表面にわたって高い横方向均質性を有するエネルギーフィルタリング下の静止物質を照射することを可能にする照射装置が使用されるべきである。理由:照射システムの終端局は、点状又はほぼ点状のビームスポットでウェハ全体(ウェハホイール)を走査する完全な機械的能力をしばしば有していない。反対に、多くのシステムは、例えば、ウェハを静電的に(y方向に)走査する静電的に拡張されたビーム(=x方向のストライプ)を有する。場合によっては、部分的に機械的なスキャナが使用される。すなわち、ビームはx方向に拡張され、ウェハは機械的にy方向に(ゆっくりと)移動される。
【0032】
14.大きなフィルタ表面を利用するための配置
基体の全表面にわたって高い横方向均質性を有するエネルギーフィルタリング下の静止基板又は可動基板を照射し、より大きなフィルタ表面にわたってそのように照射することを可能にする照射装置を使用しなければならない。これにより、フィルタの熱的影響や劣化の影響を軽減することができる。
【0033】
15.犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの変更
エネルギーフィルタは、基板内のドーピングプロファイルを操作するためのツールである。特定の条件下では、基板内で生成されるドーピングプロファイルをエネルギーフィルタの後、すなわち、エネルギーフィルタの下流の位置で操作することが望ましい。特に、ドーピングプロファイルの表面近くの始まりを基板から「押し出す」ことが望ましい。これは、様々な理由(特に、散乱によるイオンの損失)のために、基板内のドーパントプロファイルの始まりがフィルタによって正確に調整できない場合に特に有利であり得る。このようなエネルギーフィルタの後のドーピングプロファイル操作は、基板上の犠牲層への注入によって達成することができる。
【0034】
16.犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの横方向の変更
特定の用途では、基板内のドーピングプロファイルが横方向の変化を示すことが望ましい。特に、均質なドーピングプロファイルの注入深さの変化は、半導体部品のエッジ終端のために有利に使用することができる。このようなドーピングプロファイルの横方向の調整は、基板上に横方向の厚さの変動を有する犠牲層を設けることによって達成することができる。
【0035】
17.幾つかの注入プロファイル間のプロファイル遷移の適応
特定の用途では、2つ以上のプロファイルをある深さで「継ぎ目」に沿って互いに接合することが望ましい。さもなければ、層の間に絶縁が存在するからである。この問題は、特に上側のドーピングプロファイルの下端又は下側のドーピングプロファイルの上端が緩やかに先細りする濃度の「テール」を含む層システムで生じる。
【0036】
18.結合された振動運動のためのマルチフィルタ概念の特別な配置
マルチフィルタが、ビームの前方で直線的に前後に(例えば、回転するウェハディスクの場合、垂直走査方向で)移動することができる可動基板チャンバの部分に取り付けられている場合、マルチフィルタは、単に基板チャンバを移動させることによってビームに対して相対的に容易に移動する。フィルタの前方で一方向に走査する磁気又は静的走査装置を用いることにより、例えば、垂直振動距離と水平走査距離との積に等しい非常に大きなマルチフィルタ表面を使用することができる。ウェハとフィルタの動きはこの配置で結合され、これはドーピングの横方向の均質性に関する問題を引き起こす可能性がある。ウェハホイールの回転により、イオンビームはウェハ上に線を「書き込む」。上記配置の結果として、例えばウェハ上の水平照射線の位置は、マルチフィルタ上のある垂直位置に結合される。個々のフィルタ要素間の隙間は、例えば、ウェハ上に不均質にドープされた線をもたらす。したがって、マルチフィルタにおけるフィルタ部品の配置は、フィルタと基板の直線運動の結合にもかかわらず、横方向の均質性が確保されるように選択されなければならない。
【0037】
前述の製造条件を満たす、エネルギーフィルタ、注入装置、又は注入装置の部品の例を以下に説明する。以下に説明する方法及び概念は、所望の方法で互いに組み合わせることができるが、それらの各々はそれ自体で個別に適用することもできることに留意すべきである。
【0038】
ポイント1:フィルタ交換の技術的な容易さ
注入フィルタの取扱いを容易にするフレームを、以下に「フィルタチップ」と呼ぶ問題のフィルタに設置することが提案されている。
図4~
図6に示すように、このフレームは、イオン注入システム上で適切な大きさのあらかじめ設置されたフレームホルダ内で使用できるように構成することができる。フレームはエネルギーフィルタを保護し、取り扱いを容易にし、電気的散逸及び熱放散、及び/又は電気的絶縁を処理する(
図36を参照)。フレームは、フィルタ要素の製造業者によって、フィルタチップを埃のない環境で設けることができ、無塵包装でイオン注入システムに供給することができる。
【0039】
図4及び
図5は、フィルタフレームの幾何学的及び機械的構成の例を示す。それによって保持されるフィルタは、それと共に得られる所望のドーピングプロファイルに従って選択される任意の所望の表面構造を有することができる。フィルタホルダ及び/又はフィルタフレームには、フィルタフレーム及びフィルタホルダから材料が摩耗するのを防止するコーティングを設けることができる。
【0040】
フィルタフレーム及びフィルタホルダは、金属、好ましくは高級鋼などで作ることができる。イオン注入プロセスの間に、散乱イオンによって引き起こされるエネルギーフィルタの局所環境におけるスパッタリング効果が予期される。すなわち、フレーム及びフィルタの表面及びその近傍の材料が持ち去られることが予期される。基板ウェハ上の金属汚染は望ましくない結果となり得る。コーティングは、そのような汚染を防止し、コーティングは非汚染物質からなる。どのような材料が非汚染性であるかは、使用されるターゲット基板の特性に依存する。適切な材料の例としては、シリコン又はシリコンカーバイドが挙げられる。
【0041】
図4は、エネルギーフィルタチップを保持するためのフィルタフレームの断面図を示す。
図4にも示されているエネルギーフィルタチップは、接着剤の使用又は機械ばねなどの様々な方法でフレームに取り付けることができる。
図5は、
図5にも示されているエネルギーフィルタ要素を保持するためのフィルタフレームの上面図を示す。フィルタフレームは、フィルタの交換を可能にするためにフレームを開閉することができる係止要素を含む。
図6は、イオン注入装置のビーム経路内にエネルギーフィルタ素子を保持するためのフレームの設置例を示す。
図6の上部に示されているものは、チャンバ壁とその中に配置されたフィルタホルダを通る断面である。この例では、フィルタホルダは、チャンバ壁の内側表面、すなわち、注入プロセス中にウェハ(図示せず)に対向する側に配置される。注入プロセスの間、チャンバ壁の開口部及び開口部の前方に配置されたフィルタを通過するイオンビームも
図6に概略的に示されている。フィルタホルダに挿入されたフィルタチップを有するフレームは、イオンビームが注入プロセス中に通過するチャンバ壁の開口部を覆う。これは
図6の下部に示されており、
図6の下部には、フィルタホルダが取り付けられたチャンバ壁の正面図が示されている。
【0042】
フレームは、フィルタと同じ材料で構成できる。この場合、フレームはフィルタと共にモノリシックに製造することができ、したがって「モノリシックフレーム」と呼ぶことができる。上述したように、フレームは、金属のようなフィルタの材料とは異なる材料で作ることもできる。この場合、フィルタをフレームに挿入することができる。別の例によれば、フレームは、モノリシックフレームと、モノリシックフレームに取り付けられたフィルタの材料とは異なる材料の少なくとも1つの追加のフレームとを含む。この追加フレームは、例えば金属フレームである。
【0043】
上で説明し図示したように、また
図7の右側に示すように、フレームはフィルタを完全に囲むことができる。追加の例によれば、フレームは、フィルタの全ての(4つの)辺(エッジ)に境界を形成するのではなく、むしろフィルタのエッジのうちの3つ、2つ(反対側)又は1つのみに境界を形成する。したがって、「フレーム」という用語は、この説明に関連して、全ての辺(エッジ)でフィルタを完全に取り囲む立体フレームとして、及び、フィルタの幾つかの辺の周りのみに延在する部分フレームとしても理解されるべきである。そのような部分フレームの例も
図7に示されている。したがって、
図7は、様々な部分フレーム(図の左側)と完全なフレーム(図の右端)を示している。これらのフレームの各々は、エネルギーフィルタと同じ材料(例えばモノリシック)又は異なる材料からなることができる。
【0044】
エネルギーフィルタ又は任意の他の散乱要素は、そのフレームによって様々な方法で注入装置のビーム経路内に取り付けることができ、これは上述の実施例の1つに従って実現することができる。上述したフレームのフィルタホルダへの挿入は、幾つかの可能性のうちの1つに過ぎない。さらなる可能性について以下に説明する。
【0045】
図8に示す一例によれば、フレームは、少なくとも1つのバーを用いてチャンバ壁に取り付けることができる。この場合、少なくとも1つのバーはフィルタホルダとして機能する。
図8に示されているものは、1つのバーのみ、2つのバー、及び3つのバーによる取り付けの例である。3つ以上のバーを設けることもできることは明らかである。
【0046】
図9に示す別の例によれば、フレームをサスペンションブラケット又はサスペンション要素によってチャンバ壁に取り付けることもできる。これらのサスペンション要素は、例えば、可撓性であり、フレームがしっかりと定位置に保持されるように、フレームとチャンバ壁との間に取り付けることができる。サスペンション要素はこの例ではフィルタホルダとして機能する。
図9は、サスペンション要素が1つのみ、サスペンション要素が2つ、サスペンション要素が3つの取り付けの例を示している。もちろん、3つ以上のサスペンション要素を設けることもできる。
【0047】
図10に示す別の例によれば、フィルタ付きのフレームは浮動に(非接触で)磁石によって保持される。この目的のために、磁石は、フレームの前側及び後側並びにチャンバ壁に取り付けられ、それぞれの場合に、チャンバ壁上の磁石又はチャンバ壁に取り付けられたホルダ上の磁石がフレーム上の磁石に対向し、対向する磁石の対向する極が反対の極性であるようにする。磁力の結果として、フレームは、チャンバ壁に取り付けられた磁石とホルダに取り付けられた磁石との間で浮動する。フィルタのフレーム上の磁石は、例えば、熱蒸着又は任意の他の層形成方法によって実現することができる。
【0048】
ポイント2.任意の垂直プロファイル形状
原理的には、イオン注入システムのためのエネルギーフィルタの幾何学的構成は、半導体材料中の任意の所望のドーピングプロファイルを実現することを可能にすることができる。複雑なプロファイルの場合、これは、ピラミッド、定義された壁面傾斜を有するピット、逆ピラミッドなどの、異なるサイズ及び場合によっては異なる高さの幾何学的に要求の厳しい3次元エッチング構造を同一のフィルタチップ上に生成することが必要であることを意味する。
【0049】
単純な三角形構造(マルチフィルタ)によって生成することができるような矩形のプロファイル形状を使用して任意の所望のプロファイルを近似することが提案される。特定の条件下では、非三角形構造(例えばピラミッド)を近似の基本要素として使用することも可能である。
【0050】
すなわち、所望のドーピングプロファイルを例えばボックスプロファイルに分解し、各ボックスプロファイルに対して三角形のフィルタ構造を生成することが提案されている。次に、個々のフィルタチップは、例えば
図6.5.1に示すフレームに、面積加重が問題のボックスプロファイル要素に適したドーパント濃度に対応するように取り付けられる。
図6.5.4を参照せよ。
【0051】
ドーパント深さプロファイルの分解は、ここに示す三角形構造に限定されない。逆に、それは、最も一般的な場合には斜面、又は凸状又は凹状の立ち上がりの側面を含む追加の構造を含むことができる。側面は必ずしも単調に上昇する必要はないが、谷や窪みを含むこともできる。フランク角が90°のバイナリ構造も考えられる。
【0052】
1つの例では、フィルタ要素は斜めに切断され、互いに直接隣接して配置される。斜めの切断は、フィルタのエッジでイオンを遮断するためにフィルタ間の接着結合が不要であるという利点を有する。さらに、このようにして、照射された表面を最適に使用することが可能である。同じ全フィルタ寸法及び所与のイオン電流に対して、これはウェハスループットを増加させる効果を有する。
【0053】
図11は、マルチフィルタの単純な実現例を示す。この例では、3つの異なる形状のフィルタ要素がフィルタホルダのフレーム内で組み合わされて完全なエネルギーフィルタを形成する。
図11の左上には、3つのフィルタ要素を有するフィルタホルダの断面図が示されており、
図11の左下には、3つのフィルタ要素を有するフィルタホルダの上面図が示されている。
図11の右側に、結合されたフィルタで得られるフィルタプロファイルが示されている。このフィルタを注入フィルタとして使用すると、イオンビームは個々のフィルタ要素の全てを均一に通過するため、
図11の右側に示すドーパント深さプロファイルが生成される。このプロファイルには、番号1,2,3の3つの深さプロファイルが含まれている。これらの深さプロファイルの各々は、左側に示される3つのサブフィルタのうちの1つ、すなわち同じ番号によって識別されるサブフィルタから生じる。
【0054】
図12は、例として、組み合わせるとマルチフィルタになる3つの異なるフィルタ要素が機能する方法を示す。この図は、個々のフィルタ要素のそれぞれの断面、これらのフィルタ要素の寸法の例、及び個々のフィルタ要素を用いて得ることができるようなドーピングプロファイルを示している。
図12では、例として、第4のフィルタ要素(図示せず)に対して寸法のみが示されている。重み付け、すなわち結果として得られる濃度又はドーピングプロファイルは、個々のフィルタ要素の表面積の寸法を変えることによって調整することができる。この例では、必ずしもそうである必要はないが、フィルタ及び基板は同じエネルギー依存の停止パワーを有すると仮定する。
図13は、
図12に基づいて説明した4つのフィルタ要素が組み合わされてマルチフィルタとなり、埋め込みに用いられる場合に得られるドーピングプロファイルの一例を示す。この総和プロファイルは、問題の表面にわたって重み付けされたフィルタ要素の加算から生じる。この図では、
図12に基づいて記載されたフィルタ要素が適切な重み付けで組み立てられて完全なフィルタを形成し、適切な一次エネルギーのイオンビームに均一にさらされると仮定するので、示された総和プロファイルが得られる。
【0055】
図11に基づいて説明した例では、マルチフィルタの個々のフィルタ要素は、フレームのウェブによって互いに分離されている。
図14に示す別の例によれば、個々のフィルタ要素を互いに直接隣接させることもできる。
図14は、幾つかの隣接するフィルタ要素F1,F2,F3を備えるマルチフィルタの断面図を示す。マルチフィルタはフィルタフレームに挿入される。個々のフィルタ要素F1,F2,F3は、この例では斜めに切断され、互いに直接隣接して配置されている。
【0056】
ポイント3.フィルタ移動と組み合わせた高スループット冷却システム
所与のターゲットドーピングに対する高いウェハスループットは、高いイオン電流によってのみ実現することができる。イオンビームの一次エネルギーの約20%~約99%がフィルタ膜、すなわちビームが通過する注入フィルタの部分に堆積されるので、高いイオン電流であってもフィルタの温度が過度に上昇するのを防ぐ方法として、冷却方法の使用が提案されている。
【0057】
この種の冷却は、例えば、以下に説明する以下の措置a.~c.のうちの1つ以上を用いて行うことができる。
【0058】
a.フィルタホルダ内の冷却剤の流れ
これにより、加熱されたフィルタチップは、熱放散によって冷却される。
図15は、このような冷却フィルタホルダの例を示している。特に示されているのは、イオン注入装置のチャンバ壁に取り付けられたフィルタホルダを通る断面である。この例では、冷却剤ラインがフィルタフレームを収容するフィルタホルダに組み込まれている。液体冷却剤は、外部冷却装置(図示せず)によってこれらの冷却剤ラインに供給される。これに代えて又は加えて、冷却剤ラインは、フィルタホルダ(図示せず)の表面に配置することもできる。
【0059】
b.フィルタ又はイオンビームの移動
例えば10~15枚のウェハを装填した回転するウェハホイールを使用する場合には、フィルタ又はフィルタホルダは、回転又は直線運動で振動するように構成することが提案されている。あるいは、イオンビームは、フィルタが静止したまま静電的にフィルタ上を移動することができる。
【0060】
これらの変形例では、フィルタはイオンビームによって単位時間当たりに部分的にしか照射されない。その結果、特定の瞬間に照射されないフィルタの部分は放射冷却によって冷却される。したがって、連続使用条件下で所与のフィルタに対してより高い平均電流密度を実現することが可能である。これをどのように実現できるかの例を
図16と
図17に示す。
【0061】
図16は、単位時間当たり部分的にしか照射されない比較的大きな表面積を有するエネルギーフィルタを示す。したがって、照射されていない領域は、放射冷却によって冷却することができる。この実施形態はまた、上述したようなマルチフィルタ、すなわち、幾つかの異なるフィルタ要素を含むフィルタとして構成可能である。示された例では、フィルタ付きフレームは、イオンビームの方向に垂直な方向に振動し、これは概略的に示されている。イオンビームによって覆われたフィルタの面積は、フィルタの全面積よりも小さいので、単位時間当たりにフィルタの一部のみが照射される。この部分は、振動運動の結果として連続的に変化する。
【0062】
図17は、回転するフィルタホルダによって支持されている幾つかのフィルタ要素を備えたフィルタの配置の例を示す。個々のフィルタ要素の各々は、同じ方法で構成することができるが、マルチフィルタを得るために異なる構造を有することもできる。
図17に示すように、個々のフィルタ要素は、ホルダが回転するときに、ホルダの回転軸(中心軸)を中心とする円形経路を横切る。この例でも、単位時間当たりの部分照射のみが起こる。すなわち、全てのフィルタ要素が同時に照射されるわけではないので、照射されないフィルタ要素は冷却され得る。
【0063】
ポイント4.簡素化されたフィルタ設計
正確な高さ及び完全な鋭い点を有する突起構造を有するフィルタ要素の製造は、処理技術の観点から要求されており、それに対応して高価である。
【0064】
基板の表面から出発し、単純な突起構造のみを必要とする簡単なドーピング曲線(例えば、均質なドーピング)の場合、単純化された設計と、それに関連して、単純化された製造プロセスがここで提案される。
【0065】
フィルタの微細構造膜(例えば、突起構造)は、鋭い点の代わりに突起上に平坦部を有するように構成されることが提案され、形成される低エネルギーのドーパントピークがフィルタの支持層に押し込まれ、したがって基板に埋め込まれないように、膜の支持層の厚さが寸法決めされることが提案される。このタイプのフィルタの例を
図18に示す。断面(図の左側)、上面図(中央)、及び、図示されたフィルタの使用によって得られるドーピングプロファイルの例が示されている。図示されているように、矩形のプロファイルは、台形プリズム形状の構造を使用してエネルギーフィルタにイオンを注入することによって基板内に生成することができる。最初のピークはエネルギーフィルタに埋め込まれる。すなわち、基板内にドーパントプロファイルのピークは存在しない。この注入プロファイルは、基板の表面で直ちに始まるという有利な特性を有し、これはエネルギーフィルタの適用にとって極めて重要であり得る。
【0066】
図18のフィルタの断面から分かるように、このフィルタ構造は、鋭い点の代わりに平坦部を含む。したがって、個々の構造要素は、断面が台形である。これにより、フィルタの実現に必要なプロセス技術が大幅に簡素化される。例えば、KOH又はTMAHを用いた湿式化学エッチングによって、三角形構造がシリコン中に生成され得ることが知られている。この目的のためには、三角形の先端をリソグラフィでマスクする必要がある。完全なチップを製造する場合、これは、エッチングがラッカー又はハードマスク構造の下に浸透する可能性があるという問題につながる。ここで提案されているアイデアがなければ、この問題は完璧な(したがって複雑でコストが掛かる)処理によってのみ解決できる。ここで提案されたアイデアは、フィルタ構造の製造を非常に単純化する。RIBE(Reactive Ion Beam Etching)やCAIBE(Chemically Assisted Ion Beam Etching)などの現代のプラズマ支援エッチング方法にも同様に当てはまる。
【0067】
ポイント5.製造されたドーパント領域又は欠陥領域の高い横方向均質性
横方向の均質性の側面は、静的注入の状況において重要であり得る。回転するウェハディスク(ウェハホイール)が、例えば11枚のウェハ及び固定されたイオンビームと共に使用される場合、均質性は、ウェハディスクのイオンビームに対する回転及び並進運動によって決定される。
【0068】
フィルタ-基板間距離:透過イオンの角度分布はエネルギー依存性である。とりわけ、非常に低エネルギーのイオン(核停止状態)がフィルタから出るように、フィルタとイオンのエネルギーとが互いに調整されると、大きな角度の散乱事象が生じるので、広い角度分布が存在する。高エネルギーイオン(電子状態でのみ、dE/dxelectron>dE/dxnuclear)のみがフィルタから出るように、フィルタとイオンのエネルギーとが調整されると、角度分布は非常に狭い。
【0069】
最小距離は、フィルタの構造が基板に転写されないことで特徴づけられる。すなわち、例えば、透過イオンの散乱角の所与の分布の場合、これらのイオンは、少なくともイオンフィルタの格子定数の周期に匹敵する横方向の距離を通過する。
【0070】
最大距離は、特に半導体ウェハのエッジにおける、散乱角の所与の分布についての適用によって依然として許容され得る散乱イオンの損失によって決定される。
【0071】
図19は、PMMA(ポリアクリル酸メチル)基板への静的注入中にエネルギーフィルタを通してイオンを注入した実験の結果を示す。イオンはPMMAの分子構造を破壊するので、その後の現像プロセスは、高エネルギー堆積の領域を溶解することによってイオンのエネルギー分布を明らかにする。イオンによるエネルギー堆積が低いか又はない領域は、現像液によって溶解されない。
【0072】
ここで提案されているアイデアは、動的及び静的注入配置の両方について、フィルタ-基板間距離を正確に選択することによって、高い横方向のドーピング均質性を生成することである。
【0073】
ポイント6.エネルギーフィルタの「寿命末期」の監視
核相互作用と顕著な温度変化(典型的には数100℃までのフィルタの加熱)のために、エネルギーフィルタは、累積された注入イオン線量の関数として劣化する。
【0074】
臨界イオン線量に達すると、実現されるターゲットプロファイルへの影響をもはや無視することができないように、フィルタの化学組成、密度、及び形状が変更される。臨界イオン線量は、使用されるフィルタ材料、注入されたイオン種、エネルギー、形状、及びターゲットプロファイルの許容変動範囲(=仕様)に依存する。
【0075】
したがって、所与のエネルギー、イオン種、プロファイルなどを用いた各フィルタ注入プロセスについて、注入中の最大温度及び最大許容累積イオン線量を含む仕様を定義することができる。一例によれば、エネルギーフィルタの使用が、技術者によって監視されていないときでさえ、フィルタが指定された許容範囲外では使用できないように監視されることが提供される。この目的のために、フィルタが注入装置上のフィルタホルダに挿入されるとすぐに、電子的に読み取り可能な署名に基づいて各フィルタが検出され、この署名が例えば制御コンピュータによって読み取られることが提案される。署名は、この目的のために、フィルタ上に配置された電子的に読み取り可能なメモリに格納される。データベースは、例えば、ある注入装置で使用できるフィルタの署名と、そのフィルタが適用されるプロセス(イオン種、エネルギー)、並びに、どのような累積線量及びどのような最大温度に達することが許容されているかなどの特性とを格納する。署名を読み出し、それをデータベースの情報と比較することによって、制御コンピュータは、フィルタが計画された注入プロセスに適しているかどうかを判断することができる。
【0076】
図20は、フィルタを識別し、フィルタ仕様(最大温度、最大累積イオン線量)に準拠しているかどうかを監視するための監視システムを示す。フィルタが内蔵センサ(電荷積分器及び温度センサ)によって識別されると、例えば、フィルタの累積線量及び温度が連続的に測定される。指定されたパラメータの1つが達するか又は超過したとき、すなわち例えばフィルタが高温になったとき又は最大許容線量がフィルタを介して注入されたときに、注入プロセスは終了する。すなわち、特定の値がもはや仕様を満たさなくなると、信号が制御コンピュータに送信され、制御コンピュータは注入プロセスを終了する。
【0077】
ポイント7.透過イオンの角度分布の制限
ターゲット基板上にブランク領域を必要とする用途では、マスキング材料をターゲット基板に適用することができる。
【0078】
フィルタにより引き起こされた過度に広いイオン分布による構造の横方向の「ぼけ」を避けるために、フィルタを透過したイオンビームをコリメートすることが提案されている。コリメーションは、高アスペクト比を有するストリップ状、管状、格子状、又は六角形の構造によって達成することができ、これらの構造は、透過ビーム内でエネルギーフィルタの後に配置される。これらの構造のアスペクト比は、許容される最大角度を定義する。
【0079】
種々の例が
図21~
図25に示されている。
図21は、ビーム開口部の領域の注入装置のチャンバ壁を通る断面図、フィルタが挿入されてチャンバ壁に固定されたフィルタホルダ、及び、この例ではフィルタホルダのチャンバ壁から離れて面する側に取り付けられたコリメータを示す。コリメータの長さと幅によって決定されるコリメータのアスペクト比は、コリメータの長さ方向に対する最大角度αを決定する。この最大角度αでは、イオンビームは、コリメータに送られ、コリメータを通過することができる。比較的大きな角度で発されたイオンビームのセグメントは、コリメータの壁に当たって、それを通過しない。イオンが注入されるフィルタと基板との間の利用可能な距離が所望のアスペクト比に対して十分でない場合、コリメータは、互いに隣接して配置されたより小さい開口部を有する幾つかのコリメータユニットから構成することもできる。それらは、例えば、ハニカムパターンで配列することができる。
【0080】
あるいは、コリメータ構造は、フィルタ要素の上に直接配置することもできる。このタイプの要素はモノリスとして、又はマイクロボンディング法によって製造することができる。
図22に、フィルタ上に直接配置されたコリメータ構造の2つの例を示す。コリメータ構造は、フィルタの表面積より大きな表面積を有する冷却体として作用することができるので、フィルタ上に直接配置されたこのタイプのコリメータ構造は、フィルタを機械的に安定させることができ、冷却効果も有する。ここで、最大角度αは、フィルタ上に配置された個々のコリメータ構造のアスペクト比によっても定義され、その各々は長さ及び幅を含む。コリメータ構造は、例えば接着剤の使用による接合によって、又は何らかの類似の方法によってフィルタに取り付けることができる。
【0081】
図22に示す例では、コリメータ構造は、フィルタの構造化された側、すなわち、フィルタが隆起部及び窪みを有する箇所に配置される。この例では、構造は台形である。
図23は、
図22の配置の変形例を示す。この例では、コリメータ表面は、フィルタの構造化されていない側に配置されている。両方の場合において、コリメータ構造は、イオンビームの方向に関してフィルタから下流に配置され(
図21及び
図22において矢印によって示される)、したがって、イオンビームは、フィルタを通過した後にのみ、コリメータ構造を通過する。
【0082】
図24は、様々な例によるコリメータ構造の上面図を示す。図示された例では、このコリメータ構造は、上から見たときにラメラ状構造を有するフィルタ上に配置されている。個々の「フィルタラメラ」は、既に上で説明したように、例えば、断面が三角形又は台形であり得る。しかしながら、フィルタのラメラ状構造は一例に過ぎない。前述の他のタイプのフィルタ構造も使用することができる。
図24は、左側及び中央に、コリメータ構造がストリップ状に構成された例を示す。すなわち、それは、フィルタの全幅にわたって延びる複数の平行なストリップを含む。隣接するストリップの各対はコリメータを形成し、このコリメータの幅は隣接するストリップ間の距離によって決定される。コリメータの長さは、個々のストリップの高さによって決定される。ストリップの「高さ」は、図面の平面に垂直な方向の寸法である。コリメータ構造のストリップは、
図24の左側に示すように、フィルタのラメラに対して垂直であってもよく、中央に示すように、ラメラと平行であってもよい。
図24の右側には、コリメータ構造が上面図の格子として現れ、その結果、格子の幾何学的形状によって幾何学的形状が決定される複数のコリメータが形成される例が示されている。図示の例では、個々のコリメータは、コリメータが長方形のチューブの形態であるように、上面図では矩形、特に正方形である。しかしながら、これは一例に過ぎない。個々のコリメータが平面図で円形、楕円形、又は六角形(ハニカム状)であるか、又は他の所望の多角形形状を有するように格子を実現することもできる。
【0083】
ターゲット基板上のハードマスクによるコリメーション
マスクされた注入の場合、フィルタ上のコリメータの代わりに又はそれに加えて、コリメータ構造として作用するようにターゲットウェハにマスキングを適用することが可能である。このマスキングのための条件は、マスキングの停止パワーが、少なくともターゲット基板材料中の透過イオンビームの平均範囲に対応していなければならないことである。角度分布に対して要求される制限がマスキングによっても達成されるように、マスキングのアスペクト比をそれに応じて適合させることができる。
図25は、ターゲット基板上に直接配置された、このタイプのコリメータ構造の例を示している。このコリメータ構造は、先に説明した幾何学的形状のいずれかを有することができ、したがって、基板構造のレイアウト及び必要な最大角度分布に依存して、例えば、ラメラ状、ストリップ状、管状、又はハニカム状であり得る。このコリメータ構造のアスペクト比は、コリメータ構造を形成する基板上のマスクのブランク領域の高さ(
図25のh)と幅(
図25のb)との比である。
【0084】
コリメータ構造は、横方向への散乱だけでなく、深さプロファイルにも影響を及ぼすことが分かっている。これは、
図26に示されており、3つの異なる注入方法のドーピングプロファイルを示しており、それぞれが同じフィルタであるが異なるコリメータ構造で実施されている。この例では、各フィルタは、台形の断面を有するラメラ状構造を有する。しかしながら、これはほんの一例である。図の左側には、注入がコリメータ構造なしに実行される注入方法が示されている。このようにして得られた注入プロファイルは、基板の表面で始まる。
【0085】
図26の中央と右側には、注入がコリメータ構造で実行される注入方法が示されており、右側の例の場合のコリメータ構造のアスペクト比は、中央の例の場合よりも高い。図から分かるように、これらの注入方法によって得られるドーピングプロファイルは、基板の表面ではなく、むしろそこから一定の距離だけ離れて始まっており、アスペクト比が高ければ高いほど、ドーピングプロファイルは表面から遠く、上昇がより平坦になる。これについての説明は、基板の表面近傍領域におけるドーパントプロファイルが、フィルタにおいてより強く停止し、したがってより低いエネルギーを有するイオンによって引き起こされることである。このような低エネルギーのイオンは、高エネルギーのイオンよりもフィルタにより強く散乱され、低エネルギーのイオンは高エネルギーのイオンよりも広い角度分布を有する。したがって、コリメータ構造を通過することができる低エネルギーイオンの数は、高エネルギーイオンの数よりも少なく、コリメータ構造のアスペクト比が大きいほど、効果が顕著になり、イオンがコリメータ構造を依然として通過できる許容最大角度が小さくなる。
【0086】
コリメータ構造にもかかわらず、表面から出発してほぼ均質なドーピングプロファイルを生成することができるように、低エネルギーイオンが「好ましい」ようにフィルタを設計することができる。すなわち、より高エネルギーのイオンよりも低エネルギーのイオンがより多くフィルタを通過する。このタイプのフィルタの例を
図27に示す。この例では、フィルタは、それぞれが最大厚さと最小厚さを有する異なるフィルタ領域を有する。最大厚さは3つの領域全てで同じであるが、最小厚さは異なる。これは、実施例では、フィルタが、個々の領域のそれぞれにおいて、異なる高さ又は厚さを有するベース上に配置された台形構造を有し、したがって台形構造の高さが異なるという点で達成される。第1のセクションでは、ベースが最も薄く、台形構造が最も高く、その結果、このセクションでは隣接する構造間の距離CD1が最大となる。第3セクションでは、ベースが最大の厚さを有し、台形構造が最も低く、その結果、このセクションでは隣接する構造間の距離CD3が最小となる。第2セクションでは、ベースの厚さは、第1セクションの厚さと第3セクションの厚さとの間にある。これに対応して、このセクションにおける台形構造の高さは、第1セクションの高さと第3セクションの高さとの間にあり、隣接する構造間の距離CD2は、このセクションでは、第1セクションの距離CD1と第3セクションの距離CD3との間にある。個々のセクションは、その表面積に関して同じサイズであることができるが、サイズが異なることもある。また、最小フィルタ厚さが異なる3つ以上のセクションを提供できることは明らかである。
【0087】
図27は、注入がコリメータ構造なしで実行されるときに、今説明したフィルタを用いた注入によって得られた注入プロファイルを左側に示す。この注入プロファイルは表面で始まるが、ドーピング濃度は深さが増すにつれて階段状に減少する。この図において、CD1は、フィルタの第1セクションに起因するドーピングプロファイルの領域を示し、CD2は、フィルタの第2セクションに起因するドーピングプロファイルの領域を示し、CD3は、フィルタの第3セクションに起因するドーピングプロファイルの領域を示す。関連するセクションのベースの最小厚さが厚いほど、問題のフィルタ領域を通過するイオンが基板に浸透する深さがそれほど深くなくなる、すなわちそのエネルギーが低くなることが、ドーピングプロファイルに基づいて分かる。ドーピングプロファイルはまた、低エネルギーのイオンが高エネルギーイオンよりもより多くこのフィルタを通過することを示している。上述したように、低エネルギーイオンは高エネルギーイオンよりも強く散乱され、したがってコリメータ構造を通過する低エネルギーイオンは高エネルギーイオンよりも少ないため、表面から始まるほぼ均質なドーピングプロファイルは、このようなフィルタをコリメータ構造と組み合わせて使用することによって得られる。これは、
図27の右側に示されており、説明されたフィルタとコリメータ構造を使用した注入方法が示されている。この例のコリメータ構造は基板上に配置されているが、フィルタ上に配置することもできる。
【0088】
ポイント8.スパッタリング効果によるフィルタ摩耗の低減
基板に対するフィルタの注入配置:ある場合には、突起は基板に面し、他の場合には突起は基板から離れる方向に向く(→スパッタリング、衝撃時の散乱)。先に説明した注入方法及び以下に説明する注入方法の間、フィルタは、それぞれの場合に、フィルタの微細構造が基板に面しているように、すなわち、
図28(a)に示されているようにイオンビームから離れているように使用することができる。あるいは、
図28(b)に示すように、フィルタの微細構造が基板から離れるように、すなわちイオンビームに向いているように、フィルタを回転させることもできる。後者は、スパッタリング効果に有利な影響を与えることができる。
【0089】
ポイント9.イオンビームに対するフィルタの配置によるチャネリングの回避
フィルタ及び/又は基板の傾斜
フィルタ及び/又は基板が結晶材料からなる限り、望ましくないチャネリング効果が生じる可能性がある。すなわち、イオンは、特定の結晶方向に沿って増加した範囲を達成することができる。効果の大きさと受容角は、温度とエネルギーの関数である。フィルタ及び基板に使用される出発材料の注入角及び結晶学的表面配向は重要な役割を果たす。一般的に、チャネリング効果は、上述のパラメータがウェハごとに、及び、1つの注入システムと他の注入システムとで異なる可能性があるため、ウェハ全体にわたって確実に再現することができない。
【0090】
したがって、チャネリングは避ける必要がある。フィルタと基板を傾斜させることにより、チャネリングを防止することができる。フィルタ又は基板中のチャネリングは、特にフィルタ及び基板が異なる材料からなる場合に、注入されたドーパントの深さプロファイルに全く異なる影響を及ぼす可能性がある。
【0091】
図29は、フィルタのベース表面が基板の表面とゼロよりも大きい角度を形成するように、注入プロセス中に基板に対して傾けられたフィルタを概略的に示す。この角度は、例えば、3°より大きく、5°より大きく、又は10°より大きく30°未満である。特に、エネルギーフィルタが異方性材料で製造される場合、このようにしてチャネリング効果を防止又は低減することが可能である。
【0092】
ポイント10.単純なフィルタ形状による複雑なドーパント深さプロファイルの実現
上述のように、より複雑なドーパント深さプロファイルは、フィルタ要素の幾何学的設計を適合させることによって実現することができる。以下の説明を簡単にするために、全てのタイプの散乱効果は無視される。
【0093】
イオンの停止パワー(dE/dx)がフィルタ及び基板材料の両方において同じである場合、
図30に例示されるような状況が起こり得る。
図30は、異なる設計のエネルギーフィルタの様々なドーピングプロファイル(基板内の深さの関数としてのドーパント濃度)の概略図を示し、その各々は側面図及び上面図で示されている。図示されているように、(a)三角柱形状の構造は矩形のドーピングプロファイルを生成する。(b)より小さな三角柱形状の構造は、(a)に示すより大きな三角柱形状の構造よりも深さ分布の少ないドーピングプロファイルを生成する。(c)台形構造は、プロファイルの始めにピークを有する矩形のドーピングプロファイルを生成する。(d)ピラミッド構造は、基板内の深さが増加するにつれて高さが増加する三角形のドーピングプロファイルを生成する。
【0094】
例えば、ホウ素でドープされる基板材料としてシリコンを用いて、例えば、エネルギーフィルタを異種材料で構成する場合には、基板内のドーパント深さプロファイルの変化は、実際の運動イオンエネルギーの関数としてのフィルタの密度及びdE/dxの変化に応じて得られる。深さ方向のドーピングにおける完全に均質な、すなわち一定の変化は、フィルタと基板の両方に同一の材料が使用される場合にのみ達成される。これは、同一の注入プロセス、すなわち、同じ一次イオン及び同じ一次エネルギーによる注入プロセスによって得られた様々な基板材料(ターゲット材料)におけるドーピングプロファイルが示されている
図31に示されている。それぞれの場合、フィルタ材料はシリコンであった。ドーピングプロファイルは、異なる基板材料の結果として異なる。
【0095】
図32は、
図31のダイアグラムが基づいている様々な基板材料についてのエネルギーの関数としての停止パワーの変化を示す[4](SRIMシミュレーション)。
【0096】
所与の表面形状に対して、例えば、多層システムとしてのフィルタの設計によって、停止パワーのエネルギー依存的な変化を適応させることが提案されている。
【0097】
イオンエネルギーの関数としての(すなわち、所与のイオン種及び一次エネルギーに対するフィルタ突起における垂直位置の関数としての)停止パワーの変化は、全体的に(すなわち、イオンのフィルタへの入射から照射された基板の終点まで)、運動エネルギーの全損失が得られるように、フィルタ上の入射位置(より正確には、フィルタ及び基板を通るイオンの実際の経路)によってモデル化されることが提案される。したがって、フィルタにおけるエネルギー損失は、もはやフィルタ材料の照射された長さによってのみ決定されるのではなく、停止パワーの位置依存変化によって決定される。
【0098】
したがって、適切なモデル化及び固定された幾何形状を用いて、例えば、深さ方向に上昇又は下降するドーピング曲線を生成することが可能である。したがって、停止パワーは横方向位置の関数となる。このようなフィルタの例を
図33~
図35に示す。これらの各図における横方向の位置は「y」で示されている。
【0099】
図33は、多層フィルタの多層出発材料を示す。この実施例では、出発材料は1-4で示される4つの異なる層を含む。しかしながら、4つの層の使用は一例に過ぎない。4層未満又は4層以上を使用することも可能である。個々の層は、使用される材料だけでなく、その厚さも異なっていてもよい。2つの層が同じ材料を含み、異なる材料からなる2つ以上の層によって分離されることも可能である。個々の層は、適切な堆積方法によって、互いの上に逐次的に堆積又は生成することができる。
【0100】
異なる停止パワーを有する材料の層状スタックの適切な構成では、複雑なドーパント深さプロファイルは、単純なフィルタ形状でも実現することができる。
図34は、
図33で製造された出発材料に基づいて実現され、図示の例では、ベースと、ベース上に配置された三角形構造とを含むフィルタの断面を示す。これらの三角形構造は、ストリップの形態であってもよく、すなわち、図面の平面に垂直な方向に延在していてもよく、ピラミッド構造の一部であってもよい。
【0101】
図35に示すように、フィルタは、いくつかの構造が横方向(y方向)に互いに隣接して配置されるように実現されてもよく、これらの構造は異なる幾何学的形状及び/又は異なる層状スタック、すなわち、個々の層及び/又は個々の層の材料のシーケンスに関して異なる構造を有する積層スタックを含む。例えば、6つの異なる材料が図示されたフィルタに使用され、これらの層は1~6で示されている。
【0102】
選択はこのような材料に限定されないが、例えば、シリコン、シリコン化合物、又は金属が個々の層の材料として適切である。シリコン化合物としては、例えば、シリコンカーバイド(SiC)、二酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)等が挙げられる。適切な金属には、例えば、銅、金、白金、ニッケル、及びアルミニウムが含まれる。一例によれば、シリコン化合物の少なくとも1つの層がシリコン層上に成長され、金属層がシリコン化合物の少なくとも1つの層上に気相から堆積される。金属層は、シリコン層上に直接蒸着することもできる。異なる層を有するフィルタを得るために、蒸着によって互いの上に様々な金属層を製造する可能性も存在する。
【0103】
ポイント11.電子抑制
固体を通るイオンの透過中に、一次ビームの電子は固体中に残るか、又はイオンによって吸収されることが知られている。すなわち、フィルタ材料の特性及び一次エネルギーに依存して、透過イオンは、フィルタを通過した後、平均してより高い又はより低い電荷状態を有する[26]。電子はフィルタに放出又は吸収される。
【0104】
図36は、薄膜への照射に対するイオンの運動エネルギーの関数としてのイオン(黒線:トーマス-フェルミ推定、青線:モンテカルロシミュレーション、赤線:実験結果)の平衡電荷状態を示す。イオン:硫黄。膜:炭素[27]。
【0105】
イオン衝撃の結果として、高い運動エネルギーを有する二次電子がフィルタの前面と裏面の両方で同時に生成されることが可能である。工業生産に必要な高電流密度では、エネルギーフィルタが熱くなる。熱電子放出(Richardson-Dushman法)の結果として、熱電子は、フィルタ材料の温度及び仕事関数の関数として生成される。これは、イオン衝撃によるエネルギーフィルタの加熱を示す
図37に示されている。示された曲線は、6MeVの高エネルギーの炭素(C)イオンをフィルタに照射した実験に基づいている。この場合のフィルタは不透明なエネルギーフィルタであった[2]。
【0106】
フィルタと基板との間のイオン加速器の(高真空における)距離は、通常数センチメートル以下である。したがって、例えば、そこに取り付けられたファラデーカップによる基板でのイオン電流の測定は、(熱電子放出からの)熱電子の拡散及び(イオン衝撃からの)高速電子の作用によって改変される。
【0107】
前述したように、フィルタの観点からは、電子を発生するプロセス(一次イオンのストリッピング)と電子を放出するプロセスの両方が存在する。したがって、実装された電気的に絶縁されたフィルタの電位は十分に規定されていない。逆に、それは、イオン電流、真空条件、温度などの関数として、注入プロセス中に変化する。正味の負の電荷は電子の放出を促進するが、正味の正の電荷は電子の放出を抑制する傾向がある。このような充電を防止する種々の方法を以下に説明する。
【0108】
(a)規定された(正の)電位におけるエネルギーフィルタ要素
エネルギーフィルタは、イオン衝撃中にフィルタが常に規定された電位になるように、設計され取り付けられることが提案されている。
図38は、これが保証されているフィルタの配置の断面を示す。このフィルタの配置では、フィルタフレーム内のフィルタは、二次電子を抑制するために、フィルタホルダに対して規定された(正の)電位に保持される。フィルタフレームは、電圧源に接続され、フィルタホルダ及び注入装置のチャンバ壁から電気的に絶縁されている。
【0109】
フィルタホルダの電位は調整することが可能である。これは、例えば、注入プロセスに起因する電荷バランスとは無関係に、被注入基板の電位又は接地電位に対する定電位が注入の間維持されるような方法で行うことができる。この目的のために、電流源による正又は負の電荷の制御された供給を提供することができる。
【0110】
維持される電位は、特に、例えば、フィルタからの電子の放出が完全に抑制され、したがって、透過イオン電流の(正の)電荷のみが基板の隣又は基板上のファラデーカップで測定されるように、選択することができる。このような(正の)電位の典型的な値は、数10Vから数千Vの範囲内である。
【0111】
エネルギーフィルタがその材料組成のために非常に高オーミックである場合、フィルタは、数ナノメートルから数十ナノメートルの範囲の厚さを有する薄い高導電性層を片面又は両面に備えることが提案されている。この層の停止パワーは、フィルタが設計されているときに停止パワーの全体的なバランスに組み込まれなければならない。適用された層(基板から遠ざかる面に適用されている場合でさえ)が原則的に、被注入基板材料にいかなる有害な汚染をも確実に引き起こさないように注意する必要がある。SiC基板の処理のために、この層は、例えば、炭素からなることができる。
【0112】
(b)エネルギーフィルタは、仕事関数の高い材料でコーティングされている。
【0113】
強い熱電子放出を減少させるために、エネルギーフィルタが片側又は両側を高い電子仕事関数を有する材料でコーティングされて、所定の温度で可能な限り熱電子放出が生じないようにすることが提案される。幾つかの要素の仕事関数を
図39に示す[25]、Materials Science Poland, Vol. 24, No. 4, 2006。特に、仕事関数が3.5eVより大きく、4eVより大きく、又は4.5eVより大きい材料が適している。
【0114】
この層の停止パワーは、フィルタの設計時に計算される停止パワーの全体的なバランスに含める必要がある。適用された層(基板から離れた面に適用された場合にも)が原則として、被注入基板材料にいかなる有害な汚染をも確実に引き起こさないように注意する必要がある。
【0115】
ポイント12.射出成形、鋳造又は焼結を用いる代替製造方法
注入フィルタは、湿式化学エッチング又は乾式化学エッチングと組み合わせたリソグラフィのようなマイクロ技術の方法によって製造することができる。特に、アルカリエッチング液(例えば、KOH又はTMAH)による異方性湿式化学エッチングは、シリコンからのフィルタ製造のために使用される。このタイプのフィルタでは、機能フィルタ層は単結晶シリコンからなる。したがって、高エネルギーイオンによる衝撃の間、チャネリング効果は、制御が困難な方法でフィルタ層の有効エネルギー損失に影響を及ぼす可能性がある。どのようにしてそのような効果を回避できるかについての例を以下に説明する。
【0116】
(a)一例では、典型的なマイクロ技術プロセスによる製造のために、単結晶材料を必要とする湿式化学異方性エッチングが乾式化学エッチングに置き換えられることが提供され、これは多結晶又は非晶質の出発材料がフィルタ膜に使用されることを意味する。その材料構造のために、結果として得られるフィルタは、チャネリングに関して改善された特性を示す。
【0117】
(b)別の例では、フィルタは、典型的なマイクロ技術プロセスのシーケンスではなく、むしろインプリント、射出成形、鋳造又は焼結によって製造されることが提供される。コアアイデアは、型又は金型インサートがエネルギーフィルタ膜の最終形状を決定するような方法で上述のプロセスを実施することである。選択されたフィルタ材料は、問題の方法に対して慣れ親しんだ形で処理される。すなわち、所定の鋳造用金型、金型インサート、打ち型などにより、軟質状(インプリント用)、液状(射出成形用及び鋳造用)、又は粒状(焼結用)などの所要の形状が付与される。
【0118】
上述の方法の使用の利点の1つは、単結晶フィルタ膜が典型的には得られず、したがってチャネリングが抑制されることである。別の利点は、利用可能なフィルタ膜材料の範囲が非常に大きいことである。例えば、SiC基板における均質なドーピングプロファイルの製造のための焼結SiCのフィルタ膜の使用が特に有利である。
【0119】
別の利点は、上述の成形方法を使用することにより、多数のフィルタ要素の製造コストをマイクロ技術による製造コストと比較して大幅に低減できることである。
【0120】
ポイント13.静止基板の照射
図40に一例として示すように、静止基板の均質でエネルギーフィルタリングされた照射は、フィルタの前のイオンビームを「ぐらつかせること」(=制御された偏向)と、ウォブリングユニット(=イオンビーム偏向システム)と静止基板との間にフィルタを配置することと、正しい偏向角、及び、フィルタと基板との間の正しい距離d(通常、数cmからm)を選択することとによって達成される。
図40は、エネルギーフィルタを通る基板への注入のための配置を示す。この配置は、フィルタの前に配置されたイオンビームの偏向装置を含む。この偏向装置によって達成され得るイオンビームの偏向は、注入のために、基板が完全に照射され得るように、すなわち、その表面全体を照射され得るように、フィルタと基板との間の距離(典型的には数cm~数mの範囲内)と調整される。
【0121】
ポイント14.大きなフィルタ表面積を利用するための配置
(a)フィルタ表面全体がアクティブである配置
図41は、ビーム面積が適切な手段によって拡大され、照射されたフィルタ表面積が基板表面積よりも大きい、エネルギーフィルタ注入(すなわち、エネルギーフィルタによる注入)のための配置を示す。その結果、基板を完全に照射することができ、大きなフィルタ表面を使用することができる。照射されるフィルタ領域の直径は、基板の直径よりも大きい。基板は静的でも可動でもよい。この配置により、大きなフィルタ表面を用いることが可能となり(=フィルタの劣化の影響や熱的影響の低減)、基板の全面に確実に照射することができる。このタイプの配置の使用は、必要なフィルタ構造が「大きい」場合に特に有利である。高耐圧Si-IGBT又はSiパワーダイオードにプロトンをドープするには、100μmを超える浸透深さが必要である。したがって、この用途のためには、>100μmの「突起高さ」を有するフィルタ構造が提供されなければならない。このようなフィルタ構造は、大きな基板(例えば、6インチ又は8インチ)の場合でも、十分な機械的安定性で非常に容易に製造することができる。
【0122】
ここで説明する配置では、基板とフィルタとの間に一定の最小距離を維持し、散乱効果の結果として注入されたイオンの十分な横方向均質化が保証されるようにすべきである。
【0123】
(b)フィルタ表面の一部が非アクティブである配置
最初にセクション14(a)で説明したのと同じ構成が使用される。ビーム面積が適切な手段によって拡大され、照射されたフィルタ表面が基板表面よりも大きいエネルギーフィルタ注入のための配置。それにもかかわらず、フィルタ面全体がここではアクティブではない。逆に、フィルタ表面のある部分のみがアクティブである。これは、フィルタが、例えばストリップの形態の多数のフィルタ要素の配列からなることを意味する。これらのフィルタ要素は、例えば適切な製造プロセスによって基板からモノリシックに製造することができる。フィルタ表面の他の(非アクティブな)部分は、フィルタ膜を安定化させるために使用される。この部分は、イオンビームが影を投射する原因となる。したがって、この配置では、シャドーイング効果を補償するために、基板又はフィルタのいずれかを移動させなければならない。この配置により、大きなフィルタ面を利用することが可能となり(=フィルタの劣化の影響や熱的影響の低減)、基板の全面に確実に照射することができる。
図42は、非アクティブ部分を有し、一方向の機械的走査を伴うフィルタを示す。
【0124】
ポイント15.犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの変更
さらに、厚さ及び停止パワーが適切に選択された犠牲層を基板に適用することができるので、注入プロファイルは基板内で所望の方法で深さ方向にシフトされる。このタイプの犠牲層は、マスクされたイオン注入(
図43を参照)及びマスクされていないイオン注入のためにも使用することができる。特に、この方法は、ドーピングプロファイルの望ましくない開始部分を基板から犠牲層に「押し込む」こと、すなわちプロファイルの開始部分を犠牲層に埋め込むことを可能にする。
【0125】
図43は、マスクされてエネルギーフィルタリングされた注入の場合に、犠牲層によって得られる基板内のドーピングプロファイルの変更を示す。ここに示す例では、注入プロファイルの開始部分が犠牲層内に押し込まれる。この原理は、
図43とは対照的に、マスクされずエネルギーフィルタリングされたイオン注入、すなわちマスキング層が存在しない注入の場合と同様に利用することができる。
【0126】
ポイント16.犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの横方向の変更
その停止パワーと、ウェハ表面上の厚さの変化が基板に対して適切に選択された犠牲層を適用することにより、注入プロファイルは、ウェハ上の横方向位置の関数として基板内に深さ方向に所望のようにシフトさせることができる。このタイプの犠牲層は、マスクされたイオン注入のために、またマスクされていないイオン注入のためにも使用され得る(
図44を参照)。特に、均質なドーピングプロファイルの注入深さの変化は、半導体部品のエッジ終端のために有利に使用することができる。
【0127】
図44は、マスクされずエネルギーフィルタリングされたイオン注入の場合の、犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの横方向の変更を示す。ここでは、横方向の犠牲層の厚さの変化によって、注入深さの横方向の変更が達成される。この原理は、マスクされエネルギーフィルタリングされた注入に類似して使用することができる。
【0128】
ポイント17.幾つかの注入プロファイル間のプロファイル遷移の適応
2つ以上のドーピングプロファイルを巧みに重ね合わせることができ、その結果、特にオーバーラップの領域において所望の総体的なドーピングプロファイルが得られる。この技術は、特に多層の成長及びドーピングに有利である。代表的な例は、幾つかのSiCエピ層の成長とそれらのエネルギーフィルタリングされたドーピングからなる。層間の良好な接触が保証される必要がある。
【0129】
ポイント18.結合された振動運動を伴うマルチフィルタ概念の特別な配置
巧みな配置を使用することができるので、フィルタと基板との結合された振動運動にもかかわらず、すなわち、フィルタと基板との間の相対的な垂直移動がないにもかかわらず、イオンの分布の横方向の均質性が達成される。このタイプの配置を
図45に示す。ウェハは、基板の後ろでウェハホイールのx方向の回転によって案内される。イオンビーム(図示せず)は、例えば、x方向に拡張され、注入チャンバの垂直振動運動によってマルチフィルタ表面全体を走査する。フィルタ表面は、アクティブなフィルタ領域と非アクティブなホルダ領域とからなる。配置(A)は好ましくない配置である。照射されたフィルタ表面をy1とy2について考えると、y1では3つのフィルタが照射され、y2ではフィルタは全く照射されない。その結果、ウェハ上に横方向に不均質なストライプパターンが得られる。配置(B)は、より良い配置の可能な例を示す。2つのフィルタが、y1とy2の両方について照射される。これは全てのyに当てはまる。その結果、ウェハ表面上の横方向に均質なドーピングが達成される。
【0130】
図45に示すように、フィルタと基板のy方向の垂直移動が結合されている。ウェハは、ウェハホイールの回転によってフィルタの後ろでx方向に沿って案内される。イオンビーム(図示せず)は、例えば、x方向に拡張され、注入チャンバの垂直振動運動によってマルチフィルタ表面全体を走査する。フィルタ表面は、アクティブなフィルタ領域と非アクティブなホルダ領域とからなる。配置(A)はむしろ好ましくない配置である。照射されたフィルタ表面をy1とy2について考えると、y1では3つのフィルタが照射され、y2ではフィルタは全く照射されない。その結果、ウェハ上に横方向に不均質なストライプパターンが得られる。配置(B)は、より良い配置の可能な例を示す。2つのフィルタが、y1とy2の両方について照射される。これは全てのyに当てはまる。その結果、ウェハ表面上の横方向に均質なドーピングが達成される。
【0131】
ポイント19.監視
別の態様は、エネルギーフィルタによって変更されたイオン注入の重要なパラメータを監視するという問題を解決することを意図している。そのようなパラメータは、例えば、最小又は最大の「投影飛程」、フィルタの幾何学的形状によって決定される深さ濃度分布、(エネルギー依存的な)角度分布である。イオン注入されたイオン種などの他のパラメータの監視も有用であり得る。特に、イオンが注入されたウェハ上、又は、(同時に)ウェハの近くの(複数の)構造上で監視が可能でなければならない。1つの態様によれば、監視は、監視構造又はウェハの更なる処理を必要とせずに実行されるべきである。
【0132】
監視は、スペクトル吸収、分光透過率、分光反射率、屈折率の変化、全体的な吸収(測定装置に依存する波長範囲)、並びに、全体的な透過及び反射(測定装置に依存する波長範囲)のような光学パラメータを測定することによって行うことができる。
【0133】
1つの態様によれば、上記注入パラメータのモニタリングのために、マスク及び基板材料の配置が使用されることが提供される。マスク及び基板材料の配置は、(1)被注入表面上の適切な位置、例えばウェハホイールに配置され、(2)例えば、「注入されたまま」の方法で、すなわち更なる後処理を必要とせずにイオン注入の結果として、それらの光学特性を変化させる。例えば、この変化は、所与のイオン種についての注入されたイオン線量に比例する。(2)で引用した材料は、例えばPMMA(プレキシガラス)、PMMA、SiC、LiNbO3、KTiOPO4などである。
【0134】
イオン放射に対して光学的に敏感な材料が同時にターゲット基板の材料である場合には、ターゲット基板(例えば、SiCウェハ)を光学監視のために直接使用することができる。
【0135】
光学特性の変化に加えて、PMMAなどの材料は、イオンによる照射後に、ある種の酸及び溶媒中でその溶解度を変化させることが知られている。したがって、イオン照射後に変更された構造の深さ(又はエッチング速度又は結果として生じるエッチング形状など)は、注入されたイオン線量の尺度と考えることができる。
【0136】
イオン照射による物理的パラメータの他の変化の監視が考えられる。このような変化は、例えば、監視材料の機械的特性、監視材料の電気特性、又は高エネルギーイオン照射による監視材料の核-物理的活性化を含むことができる。
【0137】
一態様によれば、検出は、光学特性の変化に基づいて進行すべきである。このタイプの実装を以下で説明する。被注入ターゲット基板上で監視が行われないことが頻繁に起こる場合には、別個の監視構造の実装が提案される。監視構造は、1つ以上のマスク構造を有する適切な基板材料の配置からなる。例を
図47及び
図48に示す。
【0138】
図46に示されているように、1つの監視構造又は複数の監視構造(監視チップ)は、ウェハホイール上のような適切な場所に配置される。監視チップの読み出しは、例えば更なる後処理なしで注入後に行われる。場合によっては、読み出し測定のためにマスクを監視基板から除去する必要がある。1つの態様によれば、マスクは再使用可能である。
【0139】
監視チップのマスク材料及び基板材料は、異なる材料からなることもできる。マスク材料の選択の基準は、例えば、(スパッタリング効果によって引き起こされる汚染を排除するために)ターゲット基板の材料との適合性である。別の基準は、高いアスペクト比を有するマスク構造を製造することができるような、高エネルギーイオンの停止パワーである。
【0140】
監視チップのマスク材料及び基板材料を同じ材料から製造することも可能である。マスク及び基板はモノリシックに製造することもできる。この場合、マスク又は基板のいずれかを再使用することは通常不可能である。
【0141】
イオン注入後のマスク構造の性能と評価:
1.エネルギーフィルタにより変更されたイオン注入の性能
2.マスクの除去は可能であるが必ずしも必要ではない。なぜなら、読み出し測定は、基板の裏面からの反射によっても行うことができるからである。
【0142】
3.光学測定
a.吸収スペクトル、波長分解される
b.透過スペクトル、波長分解される
c.反射率、波長分解される
d.単純な全体的な吸収、すなわち、波長分解されない
e.単純な全体的な透過、すなわち、波長分解されない
f.屈折率の変化の測定
g.偏光の変化
4.較正曲線又は比較標準との比較、及び注入プロセスが予想どおりに行われたかどうかの判定。
【0143】
説明された監視構造を使用することにより、以下の注入パラメータを試験することができる。
【0144】
A.深さに依存した線量
したがって、これは、フィルタの劣化の試験であり、注入線量が機械側で正しく設定されているかどうかを判断するための試験である。
【0145】
B.最大/最小投影飛程
したがって、これは、正しい注入エネルギーの試験、フィルタの劣化の試験、及び生成されたフィルタ構造の正確さの試験である。
【0146】
C.注入されたイオンの角度分布
したがって、これは、フィルタの劣化の試験、フィルタの正しい形成の試験、及び注入チャンバ内の正確な幾何学的配置のための試験である。
A.注入されたイオンの深さ分布の監視
【0147】
ポイントA.深さに依存した線量
図49~52は、一例として、エネルギーフィルタによって設定された注入されたイオン線量の深さ分布の監視を示す。この例では、次の簡単な前提が適用される。
【0148】
・光学特性の変化は、局所的に注入されたイオン線量とそれによって引き起こされた固有欠陥によってのみ生じる。
【0149】
・例えば、(濃度領域C2に到達するように)イオン濃度C1(
図51)で深さ領域IIIのみを通過するイオンは、光学特性にそれ以上の変化をもたらさない。
【0150】
・正確には、例えば電子的停止の結果として、PMMAにおいてこのような光学特性の変化が観察されることが考えられる。
【0151】
・これは原則的に評価の可能性については問題ではないが、
図51及び
図52の例では、簡略化のために除外する。
【0152】
図50に示されているか又は説明されているマスク構造は、所望の深さ分解能に応じて、厚さ及び数に関して互い違いになっている、すなわち「傾斜面」又は連続傾斜として構成されている。したがって、最大の厚さについては、以下のことが例として適用される:「マスクの厚さ」>Rp,max
個々の構造の横方向の寸法は、読み出し装置の要件に応じて、平方マイクロメートルから平方ミリメートルから平方センチメートルの範囲であり得る。
【0153】
ポイントB.最大投影飛程の監視
図53は、最大投影飛程の監視に適合した構造を示す。
【0154】
Aに記載されているような評価手順を用いた類似の構造もまた、最小投影飛程を測定又は監視するために使用することができる。
【0155】
ポイントC.注入されたイオンの角度分布の監視
イオン注入のためのエネルギーフィルタは、フィルタ通過後にイオン角度のエネルギー依存スペクトルを生成することが知られている。
【0156】
原理的には、フィルタの表面に垂直に到来する単一エネルギーのイオンの場合、フィルタの後に結果として得られるより低いエネルギーのイオンが、高エネルギーのものよりも強く散乱されることは事実である。
【0157】
したがって、結果として得られる角度分布は、フィルタの幾何学的形状、フィルタの耐用期間中の幾何学的形状の変化、チャネリング効果の発生、使用されるイオン種、一次エネルギー、結果として生じる透過イオンの最大及び最小エネルギー、及び注入チャンバ内の幾何学的配置の関数である。角度分布を監視することにより、これらのパラメータをすべて追跡することが可能である。
【0158】
個々のパラメータの監視のために、
図55~
図58に図示し説明するように、監視チップ内に配置することができる異なるマスク構造が提案される。
【0159】
角度分布の評価のためには、重要であるのはマスク構造のアスペクト比のみであることが多いことに留意しなければならない。
【0160】
したがって、マスク材料における最大投影飛程より僅かに厚い薄マスク用のマスク構造における開口部のサイズは、マイクロメートル又はサブメートル範囲内にあることができる。
【0161】
このようなモニタリング構造は、全体的な光学的評価(すなわち、数mm2又はcm2の表面にわたって)を行うことができるように、好ましくは、多数の個々の構造からなるアレイとして配置される。
【0162】
対照的に、同じアスペクト比、及び例えばミリメートル範囲のマスク厚さの場合、開口部のサイズはミリメートル又はセンチメートルの範囲内にあることができる。これらの場合、特別な技術的努力なしに、アレイに配置されていない個々の構造を評価することも可能である。
【0163】
提案されたマスク構造:
1.固定されたマスクの厚さ、様々な形状のマスク開口部→アスペクト比の変化;
2.可変マスク厚さ、マスク開口部の固定された幾何形状→アスペクト比の変化;
3.1と2の組み合わせ;
4.互いに異なる1,2,又は3の角度からなる複数のアレイ(又は個々の構造)の配置によって、角度分布の方向依存性を監視することができる。
【0164】
円形配置も考えられる。
【0165】
図58に示すように、同心円状のリングに加えて、様々な寸法の個々の円及び円形のリングもまた、エネルギーフィルタによって透過されるイオンの角度分布の監視に特に有利である。
【0166】
上記で説明した最後の態様の核心は、材料の(好ましい)光学パラメータの(本質的な)線量依存的な変更が、エネルギーフィルタ注入プロセスの「注入されたまま」の監視に使用されることにある。その結果、光学的測定(例えば)によって、結果として得られた注入は、複雑な後処理(例えば、アニーリング及び金属接触の適用)を必要とせずに、その最も重要なパラメータに関して可能な限り完全に監視することができる。
【0167】
したがって、欠陥のある注入を安価かつ迅速に検出することが可能になり、影響を受けるウェハを選別することが可能になる。
【0168】
図59は、2つの注入プロファイルAとBとの間のプロファイル遷移の巧みな適合を示しており、結果として得られる全体的な濃度プロファイルは、例えば、所望の均質なプロファイルを生成することができる。これは、この図に示されているような2つの層の層システムに対して特に有利であり得る(必ずしもそうである必要はない)。次の一連のプロセスによる実現の提案:
(1)下層(注入B)をドーピングするステップ、
(2)上層を成長させるステップ、
(3)上層をドーピングするステップ。注入Aの高エネルギーテールを構成する可能性は限られているが、注入Bの低エネルギーテールは、特に、「ポイント15:犠牲層による基板内のドーピングプロファイルの変更」に記載されているような犠牲層の導入によって影響を受ける可能性がある。
【0169】
以下の一連のプロセスによる実現の提案:
(1)犠牲層を成長させるステップ、
(2)下層(注入B)をドーピングするステップ、
(3)犠牲層を除去するステップ、
(4)上層を成長させるステップ、
(5)上層をドーピングするステップ。
【0170】
上記で説明した概念は、半導体産業のための製造に価値のある注入方法、すなわち工業生産プロセスにおける注入方法の経済的応用を開発することを可能にする。ここで説明する概念は、単純な三角形のフィルタ構造によって実現される均質なドーピングに加えて、特に、注入されたイオンの低い角度分布を有する高度に柔軟な方法(マルチフィルタ概念)で複雑な垂直ドーピング濃度曲線を実現することを可能にする。特に、全てのタイプのドーピング濃度曲線は、コリメータ構造と組み合わせた三角形のフィルタ構造の使用によって近似することができる。別の重要な態様は、基板上のイオン電流測定を改変してしまうアーチファクトの抑制に関する。
【0171】
結論として、上で説明したポイント1~19の対策は、単独で、又は任意の所望の互いの組み合わせで適用することができることをもう一度指摘すべきである。例えば、説明された「寿命末期」検出は、フレームに取り付けられたフィルタに適用することができるが、他の方法で取り付けられたフィルタにも適用することができる。
【0172】
上述のウェハは、さらに、半導体ウェハであってもよいが、PMMAのような他の被注入材料から構成することもできる。
【0173】
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