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  • 特許-グミ組成物の保型性向上方法 図1
  • 特許-グミ組成物の保型性向上方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】グミ組成物の保型性向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
A23G3/34 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019158216
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035347
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-08-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森川 瑤子
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-191838(JP,A)
【文献】特開2007-029018(JP,A)
【文献】特開平11-127786(JP,A)
【文献】特開平08-009901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グミ組成物において、水あめの含有量をグミ組成物の固形分質量の30%以下とし、ソルビトールと4糖以上のオリゴ糖アルコールが合わせて40%以下の組成の糖アルコールの含有量を固形分質量の30%以上とすることを特徴とする、グミ組成物の保型性を向上させる方法(ただしグミ組成物は表面に10μm以上の微結晶からなる被膜を持つものを除く)。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グミ組成物において保存安定性、詳細には保管中のグミの保型性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、砂糖、水あめ、ゼラチンを煮詰め、果汁やフレーバー、着色料などを加えてから、でん粉などの型に流し込んで成形されるグミ組成物は、グミキャンディとも呼ばれる人気のある菓子で、近年は各種のフレーバーや食感の多様性もあり、また、最近では低カロリー化や砂糖不使用の観点から、糖アルコールを使用したものも含め、多くの商品が販売されている。
【0003】
グミ組成物は、型の形状によって、果物の形や動物の形など、様々な形状が表現でき、その形状は小さな子供にも好まれる要素となっている。しかし、このようにさまざまな形状へ成形したとしても、流通時や小売店での倉庫保管の間の温度の影響で溶解などによる形のだれや変形などの形状維持性の問題、つまり保型性が課題であった。
【0004】
このような課題に対しては、グミの水分を一定以下とするなど水分量を調節することで形状を維持する手段が一般的である。しかし、食感や味について、バラエティに富んだ商品を開発するには、水分以外の調整法も望まれている。
【0005】
そのため、新しい提案としては、グミ組成物本体をコラーゲンケーシングに内包することで離水や表面の溶解を抑えて高水分含有を可能とする技術が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、微結晶性皮膜を外周部とし内部に非結晶性状態非結晶性状態である水分を多く含む中心部を持つ特殊なグミ組成物として、特定の糖アルコールとグリセリンを用いてグミ組成物の水分活性を減少させ、保存性を向上させたグミ組成物も開示されている(特許文献2)。
【0007】
さらに糖アルコールを用いたグミキャンディとして、べたつきを抑え、従来のグミキャンディのようなチューイング性と、噛み応えのある硬さを有するシュガーレスのハードグミキャンディについても開示されている(特許文献3)。しかし、これらのグミ組成物においては、形状の維持や保型性についての言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-036305号公報
【文献】特開2015-047118号公報
【文献】特開2012-029646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、グミ組成物において、簡便な方法で、保管時の形状を維持し、保型性を向上する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、グミ組成物において、水あめを一定量以下とすること、さらには、水あめに替えて糖アルコールを使用することで、保型性が向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は第一に、グミ組成物において、水あめの含有量をグミ組成物の固形分質量の30%以下とすることを特徴とする、グミ組成物の保型性を向上させる方法である。
第二に、グミ組成物において、糖アルコールの含有量を固形分質量の30%以上とすることを特徴とする、上記第一に記載の方法である。
第三に、前記糖アルコールが、ソルビトールと4糖以上のオリゴ糖アルコールが合わせて40%以下の組成の糖アルコールであることを特徴とする上記第二に記載の方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便にグミ組成物の保型性を向上し保存安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は基準例および実施例1(シロップAおよびE)の保管前後のグミ組成物の写真を示す。
図2図2は実施例2(シロップAおよびE)の保管前後のグミ組成物の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグミ組成物とは、砂糖やその他の糖類・糖質、ゲル化剤とを含み、これらを加熱溶解させ、必要に応じて、果汁・香料・酸味料・着色料等も混合して得られる組成物であって、特にこれを型に流し込み固化させた組成物をいい、一般にはゼリー菓子の一種であるグミ菓子として用い得る。ゲル化剤としては、一般的にグミ組成物に用いられるものであればいずれでもよく、例えば、ゼラチンやペクチン、寒天、アラビアガム、カラギーナン、ジェランガム、プルランなどがあげられる。型としては、形状を任意に変えやすいスターチモールドのほか、シリコンやプラスチックを成型したシリコンモールドやプラスチックモールドを用いてもよく、ドーム状や各種の造形を施した形状の型を用いてよい。また、得られたグミ組成物は型から外された後に、付着防止のためオイルや食用ワックスでコーティングをしたり、味付けのためにグミ表面に砂糖や酸味料をまぶしたりしてもよい。
【0015】
本発明のグミ組成物は、水あめを含有する一般的なグミ組成物と比べて水あめの含有量が少ないことが特徴である。詳細には、従来のグミ組成物は全体の約半量が水あめであるところ、水あめをグミ組成物全体の30%以下とすると形状が維持しやすくなる。なお、水あめを全く配合しなくてもよい。ここで、水あめとは、でんぷんを酸または酵素で分解し、脱色・脱塩したのち固形分濃度約75%程度まで濃縮されたグルコースや麦芽糖(マルトース)、オリゴ糖を含有する液状のシロップを指す。本発明のグミ組成物が水あめを含有する場合、水あめとしてはオリゴ糖含有量が多いものほど本発明の効果を顕著に得ることができる 。
【0016】
しかし従来のグミ組成物における主要成分である水あめは、単にその量を減らすと、相対的にゼラチンの量が増え、弾力や噛み心地などが大きく変化してしまうため、何らかの成分で減量した水あめの代替をする必要がある。そこで、砂糖を増量させたり、トレハロースやフラクトースなどの糖類を用いてもよいが、たとえば、グミ組成物に用いる糖類を砂糖のみとした場合、経時的に砂糖の結晶が析出し、グミとしての食感が悪化したり、形状が悪くなったりする。水あめは、砂糖の結晶析出防止には有効であるが、形状の維持には減量することが良く、代替物としては食物繊維や糖アルコールなどの炭水化物を用いることが良い。さらに好ましくは糖アルコールを用いると、水あめを使用した場合と近いグミ組成物を得ることができ、保型性を向上させることもできるという利点がある。なお、糖アルコールとともに砂糖を使用すると、水あめを減量した場合でも、味の変化が少なく、影響が少ないものとなるため好ましい。
【0017】
本発明で用いられる糖アルコールは、還元末端を持つ糖を、従来公知の方法で水素添加することにより調製される低カロリー、非齲蝕性の甘味料であり、一例としてソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、イソマルチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトールや各種の4糖以上のオリゴ糖アルコール、これらの混合物である還元麦芽糖水飴や還元でん粉糖化物が挙げられる。いずれの糖アルコールも液体状・シロップ状、粉末状など様々な形態の糖アルコールが使用可能である。この中でも特にマルチトールやマルトトリイトールが好ましく、マルチトールやマルトトリイトールを主要成分とする還元でん粉糖化物を用いるとグミ組成物の物性が、より水あめを用いた場合と近くなり好ましい。
【0018】
糖アルコールを使用する場合は、減量した水あめの量をそのまま置換してもよいし、減量した水あめの一部を糖アルコールとし、残りは他の糖類や食物繊維などを用いてもよい。糖アルコールをグミ組成物全体の30%以上となるように含有させると、保型性と従来のグミ組成物の物性の近さから好ましいものとなる。さらに、糖アルコールの中でもソルビトールが多い場合は、保型性が悪くなりやすくなり、また、4糖以上のオリゴ糖アルコールが多い場合は、その粘度によりグミの製造時のグミ原料液のハンドリングが悪くなるため、使用する糖アルコールが、ソルビトールと4糖以上のオリゴ糖アルコールが合わせて40%以下の組成である糖アルコールを用いると保型性の向上において、より好ましい。
【0019】
糖アルコールは市販品を用いてもよいし、還元でん粉糖化物や各種の糖アルコールを所望の組成となるよう混合して作成してもよい。
【0020】
なお、本発明において、水あめや糖アルコールの重量および重量%は、すべて固形分質量であらわされる。水あめや液状の糖アルコールを用いた場合は、固形分量を計算して用い、水分は本発明において考慮しない。
【0021】
本発明における、保型性の向上は、グミ組成物の形状が製造時のまま維持されやすくなることを指し、詳細には、グミの表面の溶解が起こったり、形状全体がだれて全体に高さがなくなり水平方向に広がってきたりする状態を抑制できることをいう。
【0022】
以下に本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0023】
なお、以下の実施例で用いた水あめは日本食品化工社製のMC-55を用いた。また、使用した糖アルコールとしては、すべて市販の還元でん粉糖化物を用い、ソルビトールと4糖以上のオリゴ糖アルコールの含有量は実施例の中で示した。
【実施例
【0024】
表1の配合により、水あめを減量したグミ組成物(実施例1)および水あめを全く含まないグミ組成物(実施例2)を試作し、水あめを用いた基準例とともに保管試験を行った。グミ組成物の製法としては常法に従い、砂糖、水あめ、糖アルコールなどの糖質を混合してBrix85~90程度まで煮詰め、そこに60℃のお湯で膨潤させたゼラチン、酸味料、香料を添加したのち、Brix78程度となるよう加水し調製したグミ液を、スターチモールドに流し入れ、室温にて18~24時間放置後取り出したものを実施品として保管試験に供した。なお、スターチモールドは直径2cmのドーム状の形状とした。
【0025】
保管試験は、それぞれの配合のグミ組成物をプラスチックシャーレの上に3個のせ、それらを湿度の影響を受けないようにアルミ袋に入れて、40℃で28日間保存し、状態を確認した。そして、保管後の状態として、どの程度の形状変化が起きているかを、シャーレ上でのグミ組成物の広がりによって確認した。グミの保存中に形状が変化する場合、グミ組成物の高さがなくなり、シャーレ上でグミが水平面に広がるため、保管前のシャーレ上のグミを真上から観察してシャーレ上のグミ面積を測定し、これを基準(100)とし、保存後のグミについて同様に面積を測定して相対値であらわした。なお、基準例についても同様の保管試験を行い、実施例と比較した。
また、保管試験前後の基準例と、実施例2のシャーレ上のグミ組成物の外観を示す写真を図1に示す
【0026】
使用した糖アルコールごとに、保管試験の結果を、表2に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
上記の結果から、グミ組成物において、水あめを減量することにより保存時の形状のだれが抑えられ、保型性が向上していることが明らかであった。また、水あめの代替として糖アルコールを用いた場合、その糖組成によって保型性に違いがあり、ソルビトールと4糖以上のオリゴ糖アルコールの合計が少ない糖アルコールのほうが、保型性が向上していた。
【0030】
以上のことから、本発明によれば、グミ組成物において、グミ組成物中の水あめを減量することにより、保型性を向上することができる。
図1
図2