(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】過酸化マグネシウムを含有する組成物、酸素供給剤および該組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 15/043 20060101AFI20241017BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C01B15/043
C01B13/02 B
(21)【出願番号】P 2020059769
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広幸
(72)【発明者】
【氏名】大前 薫
(72)【発明者】
【氏名】生田目 渉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真紀
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-286206(JP,A)
【文献】特開2004-217464(JP,A)
【文献】特開2017-222566(JP,A)
【文献】特開平04-089302(JP,A)
【文献】特開2016-016995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0112128(US,A1)
【文献】特開昭62-017006(JP,A)
【文献】特開2004-107127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される過酸化マグネシウムを含有する組成物であって、前記組成物における
エチドロン酸と金属からなる錯体を含有する不純物の濃度が5質量%以下であり、
含水率が3~12質量%であり、
炭酸塩の濃度がCO
3
2-の質量に換算して2~20質量%であることを特徴とする組成物。
【化1】
[式(1)中、X
pはエチドロン酸と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0超~0.1を表し、cは0超~0.9を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるX
pが、
Ca、Mn、Fe、CuまたはAlを含有する錯体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含有する酸素供給剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の組成物
に水および/または炭酸塩を添加して造粒前試料を得る工程、
次いで、得られた造粒前試料を造粒する工程、及び
造粒された試料を乾燥する工程、を含む、過酸化マグネシウム粒剤の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(2)で表される過酸化マグネシウムを含有する組成物の製造方法であって、
工程1および工程2を行うことを含む製造方法。
【化2】
[式(2)中、X
pはエチドロン酸と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0超~0.1を表し、cは0超~0.9を表す。]
工程1:マグネシウムの水酸化物または酸化物と、
キレート剤としてのエチドロン酸を含有する組成物と、
過酸化水素と、を反応させて過酸化物を得ること。
工程2:工程1で得られる過酸化物に、
二酸化炭素または炭酸塩を含有させること。
【請求項6】
前記工程1または工程2を連続で行うことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化マグネシウムを含有する組成物、酸素供給剤および該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化マグネシウム(MgO2)は、水と反応し加水分解することにより酸素を放出する性質から、酸素供給剤として、農業用途、土壌浄化または水質改善など幅広い分野で応用・開発されている(特許文献1~4など)。MgO2の農業用途としては、低温下での水稲種子の出芽促進性が、過酸化カルシウム(CaO2)より優れていることが知られている。
【0003】
過酸化マグネシウム(MgO2)は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)と、過酸化水素(H2O2)とを多量の水中で反応させて得られる過酸化物である。これまでに、反応において二酸化炭素、炭酸またはその水溶性塩とともに反応させて安定化させる製造方法(特許文献6)、不純物であるCaOを低減させたMg(OH)2原料を用いる製造方法(特許文献7)、MgO2中の含水率を調整することにより効率化した造粒方法(特許文献8)などの製造方法が知られている。
【0004】
しかしながら、従来のMgO2の製造方法では、酸素供給性能に重要な、高い有効酸素濃度を示す高純度MgO2を得ること、かつ、MgO2の分解を抑制した安定性の高い製品を得ることが困難であった。また、ろ過性の悪さ、造粒の困難性、過酸化カルシウムに比べ高い製造コスト、などの合成上の問題も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-516465号公報
【文献】特開2017-222566号公報
【文献】特開2018-955号公報
【文献】特開2012-229352号公報
【文献】特開昭61-166304号公報
【文献】特開昭61-286206号公報
【文献】特開2004-107127号公報
【文献】特開2016-16995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い有効酸素濃度および安定性を有する過酸化マグネシウムを含有する組成物、酸素供給剤、および、該組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題の解決を目的に検討して得られたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
1.下記一般式(1)で表される過酸化マグネシウムを含有する組成物であって、
前記組成物における
キレート剤と金属からなる錯体を含有する不純物の濃度が5質量%以下であり、
含水率が3~12質量%であり、
炭酸塩の濃度が2~20質量%であることを特徴とする組成物。
【0009】
【0010】
[式(1)中、Xpはキレート剤と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0~0.1を表し、cは0~0.9を表す。]
【0011】
2.前記一般式(1)におけるXpが、
有機リン化合物と金属からなる錯体である組成物。
【0012】
3.前記有機リン化合物がエチドロン酸、ピロリン酸またはオルトリン酸である組成物。
【0013】
4.前記一般式(1)におけるXpが、
Ca、Mn、Fe、CuまたはAlを含有する錯体である組成物。
【0014】
5.前記組成物を含有する酸素供給剤。
【0015】
6.前記組成物を含有する過酸化マグネシウム粒剤の製造方法。
【0016】
7.下記一般式(2)で表される過酸化マグネシウムを含有する組成物の製造方法であって、工程1および工程2を行うことを含む製造方法。
【0017】
【0018】
[式(2)中、Xpはキレート剤と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0~0.1を表し、cは0~0.9を表す。]
【0019】
工程1:マグネシウムの水酸化物または酸化物と、
キレート剤を含有する組成物と、
過酸化水素と、を反応させて過酸化物を得ること。
【0020】
工程2:工程1で得られる過酸化物に、
二酸化炭素または炭酸塩を含有させること。
【0021】
8.前記工程1または工程2を連続で行うことを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物は、高い有効酸素濃度を有し、かつ高い安定性を有しているため酸素供給剤として有用である。また、本発明の製造方法により、高い有効酸素濃度を有し、かつ高い安定性を示す過酸化マグネシウムを含有する組成物を効率的または連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る製造方法の工程の一例を説明する図である。
【
図2】本発明の実施例4~実施例7の反応時間と残存過酸化水素濃度の関係を示す図である。
【
図3】本発明の実施例4~実施例7の反応時間と過酸化マグネシウムを含有する組成物の有効酸素の関係を示す図である。
【
図4】本発明の実施例8~実施例11、比較例5および比較例6の過酸化マグネシウムを含有する組成物の40℃における安定性試験の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例12~実施例15の反応温度と過酸化マグネシウム含有組成物の有効酸素の関係を示す図である。
【
図6】本発明の実施例16~実施例18の添加する過酸化水素の濃度と過酸化マグネシウム含有組成物の有効酸素の関係を示す図である。
【
図7】本発明の実施例16、実施例19および実施例20の過酸化水素水溶液の添加(滴下)時間と過酸化マグネシウム含有組成物の有効酸素の関係を示す図である。
【
図8】本発明の実施例21の過酸化水素の添加量と過酸化マグネシウム含有組成物の有効酸素の関係を示す図である。
【
図9】本発明の実施例21の反応中における過酸化水素濃度の変化と過酸化マグネシウム含有組成物の有効酸素の変化の関係を示す図である。
【
図10】本発明の実施例31の連続製造システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されず、本発明要旨の範囲の様々な形態で実施することができる。
【0025】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」は、過酸化マグネシウム(MgO2)をその生成物(製造物、生産物)中に、MgO2を主成分として含有する(以下、「MgO2含有組成物」などと略称する場合がある)。MgO2は、マグネシウムの過酸化物であり、下記反応式(3)のように、主に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)と過酸化水素(H2O2)を反応させて得られる。MgO2は、加水分解によりMgO2 1molあたり1個の酸素原子を放出することができる。よって、MgO2の単位質量あたりの理論有効酸素(濃度(質量%))は、分子量の比から16.0/56.3=28.4質量%である。
【0026】
【0027】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」は、前記過酸化マグネシウムと、「キレート剤と金属からなる錯体を含有する不純物」と、水と、炭酸塩と、その他の成分と、を含む組成物である。従って、本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」は、下記一般式(1)で表される。
【0028】
【0029】
[式(1)中、Xpはキレート剤と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0~0.1を表し、cは0~0.9を表す。]
【0030】
本発明の過酸化マグネシウム(MgO2)を含有する組成物は、上記のような、組成物中に含まれるマグネシウム(Mg)または他の金属原子を、キレート剤と金属原子からなる錯体として含有する不純物として取り込むこと、および、MgO2中に炭酸塩を含有させること、を特徴とする構成により、高い有効酸素濃度および高い安定性を得ることができるものである。
【0031】
本発明の「キレート剤と金属からなる錯体」における「キレート剤」とは、複数の配位座において金属イオンと配位結合し、錯体(キレート錯体)を形成することのできる化合物(配位子)を表す。具体的には、
1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(エチドロン酸、HEDP)、
ピロリン酸(二リン酸)、オルトリン酸、
ニトリロトリ(メチルホスホン酸)(NTMP)、
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、
エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、
1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン(DPPM)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(DPPP)1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(DPPF)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、4,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9’-ジメチルキサンテン(Xantphos)、その他のジホスフィン、
1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン、
ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィンなどのトリホスフィン、
などの有機リン化合物;
グリシン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、
trans-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、
ニトリロ三酢酸(NTA)、
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、
N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、
トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-六酢酸(TTHA)、
1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(PDTA)、
1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン-N,N,N’,N’-四酢酸(DPTA-OH)、
N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、
N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)、
グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、
N,N-ジカルボキシメチルグルタミン酸四ナトリウム塩(GLDA)、
エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)、などのアミノカルボン酸;
エチレンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、などのアルキレンジアミン;
トリスヒドロキシメチルアミノメタン;
ビピリジン、フェナントロリン;
シュウ酸、クエン酸、グルコン酸;
ポルフィリン類、クラウンエーテル類などの環状化合物;などがあげられる。
【0032】
前記キレート剤は、過酸化マグネシウム(MgO2)を含有する組成物を製造する過程において、マグネシウムを含む各種の金属イオンと錯体を形成することができる。MgO2の原料に含まれるMg以外の金属は、目的とするMgO2を含有する組成物においては不純物である。そのため、本発明の過酸化マグネシウム(MgO2)を含有する組成物中においては、Mg以外の金属が少ないことが好ましく、前記キレート剤とMg以外の金属からなる錯体を含有する不純物の濃度が小さいことが好ましく、具体的には、5質量%以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の組成物における「キレート剤と金属からなる錯体を含有する不純物」における「不純物」としては、「キレート剤と金属からなる錯体」(Xp)が含まれ、その他のキレート錯体を形成しない金属原子や金属イオンを含有する不純物が含まれ、さらに、金属以外の原子、イオン、分子(水を除く)が含まれる。これらの不純物は、MgO2の原料に主に含まれ、その他の不純物は、水、キレート剤、炭酸塩もしくはこれらの原料に含有される。
【0034】
過酸化マグネシウムの原料としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)または酸化マグネシウム(MgO)があげられ、前記式(3)で示すように、水酸化マグネシウムが好ましい。本発明の「キレート剤と金属からなる錯体を含有する不純物」における不純物の具体例としては、水酸化マグネシウムを含有する原料における不純物である。本発明においては、水酸化マグネシウムの原料としては、海水(鹹水)または水滑石、菱苦土石などのMgを含有する鉱物など、特に限定されず、市販の水酸化マグネシウムを使用することができる。これらのMg(OH)2に含有される、金属の不純物としては、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)などの、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の金属、またはこれらの金属イオン、酸化物もしくはその他これらを含有する化合物があげられる。
【0035】
本発明の「キレート剤と金属からなる錯体を含有する不純物」における不純物として、金属以外の不純物としては、金属酸化物またはSiO2中の酸素、塩素イオン、硫酸イオン、その他の水溶性もしくは非水溶性成分、その他の有機化合物、有機金属化合物などがあげられる。
【0036】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」には水が含まれ、水分の含有量は、組成物全体における水の質量比、すなわち含水率(質量%)で表される。本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物における「含水率」が示す水は、原料の水酸化マグネシウムなどを懸濁して懸濁液(スラリー)を形成する水であってもよく、前記反応式(3)に含まれる「H2O」であってもよく、MgO2生成後の乾燥工程の後に得られる組成物中に含有してもよい水分を表す。本発明においては、前記「過酸化マグネシウムを含有する組成物」中における含水率は3~12質量%である。
【0037】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」は、該組成物における過酸化マグネシウムを、二酸化炭素(CO2)、炭酸(H2CO3)またはその塩を用いて部分的に炭酸塩化(MgCO3化)することによって、経時変化など品質変化を防止することができる。このように、前記「過酸化マグネシウムを含有する組成物」中には、その安定化のために、主成分である過酸化マグネシウムの他に、炭酸塩(Z)が含まれていてもよい。
【0038】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」における「炭酸塩」、または、一般式(1)において「Z」で表される「炭酸塩」は、MgCO3が主成分であってもよく、MgCO3、Mg(OH)2、水、炭酸水素マグネシウム(Mg)、酸化マグネシウム(MgO)、または、前記した過酸化マグネシウム原料中に含まれる金属(Cu、Fe、Mn、Naなど)との炭酸塩、具体的には、MnCO3、FeCO3などであってもよく、その他の成分を混在させた組成物であってもよい。また、前記炭酸塩化における際に添加する剤(安定化剤)としては、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素アンモニウム(NH4NaHCO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、過酸化マグネシウム(Mg(CO3))など炭酸塩または、その他のLi、Na、K、H、NH4を含有する炭酸塩であってもよい。これらの炭酸塩が、前記「過酸化マグネシウムを含有する組成物」に含まれる濃度は、CO3
-の質量に換算して2~20質量%である。
【0039】
以上のように、本発明の「過酸化マグネシウム」または「過酸化マグネシウムを含有する組成物」は、前記一般式(1)で表され、式(1)中、MgO2、XpまたはZの各組成比は、それぞれ、a、b、cで表され、それぞれ独立に0~1である。aは0.1~1が好ましく、0.65~1がより好ましく、0.80~1がさらに好ましい。bは0~0.1が好ましく、0~0.01がより好ましい。cは0~0.9が好ましく、0~0.7がより好ましく、0~0.5がさらに好ましい。なお、これらの好ましいa、bまたはcの値は、原料中のMgまたはMgO2に相当する成分以外の不純物が、製造過程において精製されて除去されなかった場合の最大値に基づいている。従って、aは上記のaの好ましい範囲において、より大きいことが好ましく、bは上記のbの好ましい範囲においてより小さいことが好ましい。なお、前記一般式(1)には水は含まれないものとする。a=1とした場合、bは0~0.003が好ましく、cは0~0.3が好ましい。
【0040】
一般式(1)における「キレート剤と金属からなる錯体」(Xp)は、「有機リン化合物と金属からなる錯体」であることが好ましい。また、「有機リン化合物と金属からなる錯体」における「有機リン化合物」は、エチドロン酸、ピロリン酸またはオルトリン酸であることが好ましい。
【0041】
一般式(1)における「キレート剤と金属からなる錯体」(Xp)は、Ca、Mn、Fe、CuまたはAlを含有する錯体であることが好ましい。
【0042】
以下、下記一般式(2)で表される「過酸化マグネシウムを含有する組成物」の製造方法について具体的に説明する。本発明における製造方法は、下記の工程1および工程2を行うことを含む、過酸化マグネシウムを含有する組成物の製造方法である。下記一般式(2)における各記号は、前記一般式(1)と同じ意味を表す。
【0043】
【0044】
[式(2)中、Xpはキレート剤と金属からなる錯体を表し、Zは炭酸塩を表し、
aは0.1~1を表し、bは0~0.1を表し、cは0~0.9を表す。]
【0045】
工程1:マグネシウムの水酸化物または酸化物と、
キレート剤を含有する組成物と、
過酸化水素と、を反応させて過酸化物を得ること。
【0046】
工程2:工程1で得られる過酸化物に、
二酸化炭素または炭酸塩を含有させること。
【0047】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物の製造方法は、上記の組成物および工程で構成されている製造方法であり、高い有効酸素濃度を有し、かつ高い安定性を有する過酸化マグネシウムを効率的に製造することができる方法である。
【0048】
最初に工程1の詳細を説明する。工程1において、「マグネシウムの水酸化物または酸化物」としては、具体的に、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)または酸化マグネシウム(MgO)を主成分として含有する原料を表す。特に、原料である水酸化マグネシウムとしては、前記一般式(1)で表される「過酸化マグネシウムを含有する組成物」において示したものと同様に、海水(鹹水)または水滑石、菱苦土石などのMgを含有する鉱物など、特に限定されず、市販の水酸化マグネシウムを使用することができる。さらに具体的には、酸化マグネシウムの含有率が60質量%以上(実測値または規格値)のものを使用できるが、特に限定されない。
【0049】
工程1において、前記Mg(OH)2などの「マグネシウムの水酸化物または酸化物」以外の成分としては、前記「過酸化マグネシウムを含有する組成物」で示したものと同様に、Ca、Fe、Al、Siなどの金属またはそれらの金属酸化物が含有されていてもよい。金属以外の成分としては、金属酸化物またはSiO2中の酸素、塩素イオン、硫酸イオン、その他の水溶性もしくは非水溶性成分、その他の有機化合物、有機金属化合物などがあげられる。一方、酸化マグネシウムからは、公知の方法で、水と水和反応させることにより、Mg(OH)2を得ることができ、同様な原料として使用することができる。このようなMg(OH)2を含有する原料は、工程1を行う前に、適当量の水と混合、撹拌し、ろ過または脱水し、Mg(OH)2以外の水溶性の不純物や他の金属を含有する異物を除去する洗浄工程を行ってもよい。このような洗浄によって、Mg以外の金属が除去されることで過酸化水素の分解を抑制することなどにより、過酸化マグネシウムを含有する組成物中の有効酸素を増加する効果が得られる。
【0050】
工程1における「マグネシウムの水酸化物または酸化物」の粉末の粒度は、粒径分布の中央値が80μm以下であればよく、また、30μm以下であっても、さらに10μm以下であってもよい。粉末のかさ密度は特に限定されず、例えば0.5~0.9g/mLであってよい。粉末の比表面積は、特に限定されず、40~60μmであってよい。
【0051】
工程1における「キレート剤を含有する組成物」における「キレート剤」としては、前記一般式(1)で例示したものと同じものをあげることができる。キレート剤は、有機リン化合物であることが好ましく、有機リン化合物としては、エチドロン酸、ピロリン酸またはオルトリン酸、であることがより好ましい。また、本発明の「キレート剤」は、水などの溶媒で希釈されていてもよく、希釈する水などの溶媒を含む溶液を表していてもよい。「キレート剤を含有する組成物」は、キレート剤を含有する水溶液であることが好ましい。キレート剤が希釈されている場合、任意の濃度でよく、20~80質量%の濃度で希釈されていてもよい。
【0052】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」の製造方法に使用する水は、特に限定されず、通常の水でよく、水道水、工業用水、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水などがあげられる。本発明の有利な効果を妨げない限り、製造後の組成物を水で洗浄する観点から、金属イオン濃度が低いものが好ましい。
【0053】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物を製造する装置としては、公知のものを使用できる。容器は、マグネシウムの水酸化物もしくは酸化物(粉末またはスラリー)と、キレート剤を含有する組成物もしくは水溶液、過酸化水素もしくは過酸化水素水溶液、または、水、などの原料を均一に混合・撹拌できるものであれば限定されない。反応容器の材質は、ガラス製容器、ステンレス鋼などの金属製容器、樹脂製容器、いずれも使用可能であるが、耐酸性、耐塩基性のものが好ましく、加熱や乾燥のための耐熱性を有するものが好ましい。容器の大きさは、十分な撹拌のために、液体、粉体などすべての試料の総体積の1.5~3倍の容量を有するものが好ましい。
【0054】
以下、マグネシウム含有原料として、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いた工程1の具体例について説明する。工程1においては、最初に、Mg(OH)2と水を混合させて得られる混合物または懸濁液(スラリー)を調製することが好ましい。スラリー中のマグネシウム成分の濃度は、Mg(OH)2の場合で30質量%以上であってもよく、具体的には、35~50質量%であってよい。または、既にスラリーとして調製された市販品ものを使用して、適当に希釈してもよい。
次に、Mg(OH)2/水の混合物を入れた容器に、キレート剤を含有する組成物として、例えば、キレート剤水溶液を添加して混合する。キレート剤は、Mg(OH)2/水と均一に混合させるために、あらかじめ水溶液の状態にして溶解させておくことが好ましい。キレート剤は、市販の水溶液などの溶液を使用することができる。
【0055】
工程1における「マグネシウムの水酸化物または酸化物」と「キレート剤を含有する素組成物」の混合比は、例えば、Mg(OH)2に対し、キレート剤が、0.05~1.2質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%がより好ましく、0.1~0.5質量%がさらに好ましい。また、工程1における総仕込量(Mg(OH)2、H2O2水溶液、キレート剤、水の質量の合計)に対して規定してもよく、その場合、総仕込量の1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0056】
工程1において、例えば上記のように、Mg(OH)2、キレート剤、および水が適した比率で混合された後、室温の変化や反応による発熱などを考慮して、反応容器は、撹拌され、適した温度で加熱または冷却し、温度を一定に保持することが好ましい。次に、この混合液中に過酸化水素(H2O2)を添加し、反応させて過酸化物を得る方法について、具体例で説明する。H2O2は、適当な濃度で水と混合した水溶液であることが好ましく、特に限定されないが、通常、H2O2濃度は、10~65質量%であればよく、20~50質量%がより好ましい。また、工程1において、「マグネシウムの水酸化物または酸化物」と「過酸化水素」との混合比は、前記反応式(3)で表されるように、同程度のモル比、または、過酸化水素のモル比が「マグネシウムの水酸化物または酸化物」のモル比以上であり、大きくとも約2倍のモル比に相当することが好ましい。
【0057】
工程1において、前記過酸化水素(H2O2)の添加の速度は、全量の添加を短時間で行わず、一定時間かけて行うことが好ましい。具体的には、H2O2量が多いほど添加時間が長い方が好ましく、または、15分~2時間の間で適当に選択することが好ましく、20~60分の間で行うことがより好ましい。さらに、添加時の反応による急激な温度上昇を避けるために、添加速度を調製し、温度変化を最小限に抑えることが好ましい。また、温度調整のために、加熱装置または冷却装置を使用してもよい。反応時の温度は、30~70℃が好ましく、35~55℃がより好ましい。また、H2O2全量添加後に、反応の進行または均一な混合のため、撹拌を一定時間継続することが好ましく、撹拌中の温度は、一定温度を保持していてもよく、徐冷させてもよく、撹拌時間は30分、1時間、2時間もしくはそれ以上の任意の撹拌時間を設定することができる。ただし、H2O2添加後に反応が終了し、過酸化マグネシウム(MgO2)含有組成物の量が最大となった場合でも、そのまま反応後の水溶液中に放置したり、途中でろ過して湿潤状態のまま放置すると、MgO2含有組成物が有する有効酸素濃度が低下することがある。このため、反応は、液中のH2O2濃度を確認しながら、H2O2の消費後、適当な撹拌後に下記の工程2に移行することが好ましい。工程1から工程2への操作は中断することなく、連続的に行うことが好ましい。以上の工程1により過酸化物を得ることができ、具体例としては、反応液中に、過酸化物として「過酸化マグネシウムを含有する組成物」を含む水との混合液を得ることができる。
【0058】
工程2は、前記工程1の反応を行った後、工程1で得た過酸化物と、二酸化炭素または炭酸塩を含有させるための反応(炭酸塩化)を行う。具体的には、前記工程1の後の過酸化マグネシウムを含有する反応液中に、二酸化炭素(CO2)または炭酸塩を添加する。工程2における炭酸塩は、前記一般式(1)において、(Z)で表される炭酸塩と同じものがあげられる。ここでは、CO2の添加による炭酸塩化の具体例を説明する。
【0059】
工程2における二酸化炭素(CO2)の添加量は、得られた過酸化マグネシウム中で、MgO2の安定化を増加させる添加量であれば適量でよく、具体的には、目的の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」中における炭酸塩の濃度が、2質量%以上であることが好ましく、2~20質量%となる濃度で、CO2を添加することがより好ましい。
【0060】
工程2における二酸化炭素(CO2)または炭酸塩を添加するための方法としては、CO2の場合は、工程1で得られた過酸化物を含有する液中に、CO2を送るための送気管(ガス導入管)などを使用して、過酸化物と反応させてもよい。CO2ガスの純度は適当でよく、例えば、純度99%以上であっても、99.5%以上であってもよい。送気速度も適当に選択することができる。
【0061】
前記工程2において、過酸化物(の内部)に、二酸化炭素または炭酸塩を含有させる反応を行った後、過酸化マグネシウム(MgO2)含有組成物が水分を含んでいる場合、公知のろ過装置(加圧式、吸引式など)または遠心分離機などの装置を使用してろ過(または脱水)することができる。ろ過後における含水率は適宜調整することができる。さらに、ろ過後、バット状の容器内に組成物の湿潤物を広げて常温で風乾してもよく、棚式乾燥機などの温風乾燥機を用いて乾燥することができる。乾燥温度および乾燥時間は、水分が除去できる温度および時間であれば、限定されないが、40~100℃の範囲の温度で、例えば1~12時間の間で適当な乾燥時間を選択できる。乾燥後のMgO2含有組成物の含水率は、15質量%以下が好ましく、保存のためにはより少ない方が好ましく、12質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。このように乾燥して得たMg含有組成物は、さらに、公知の粉砕機を使用して粉砕してもよく、粒度を揃えるために篩や分級機を使用してもよい。
【0062】
以上のような本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物(MgO
2含有組成物)の製造方法の一例を、具体的な工程図として
図1に示す。
【0063】
本発明の「過酸化マグネシウムを含有する組成物」中の「過酸化マグネシウム」の純度に相当する量を測定する方法として、単位質量あたりの該組成物が放出することのできる酸素の質量の割合を表す有効酸素濃度(質量%)(または単に有効酸素(%))を測定する方法があげられる。測定試料がすべて過酸化マグネシウムであった場合、理論有効酸素(%)は28.4質量%となる。組成物中の有効酸素を分析する方法の具体例としては、酸化還元滴定法(過マンガン酸カリウム滴定法)などがあげられる。
【0064】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物の含水率の測定方法としては、赤外線または近赤外線吸収法;電量滴定法や容量滴定法を用いたカールフィッシャー(KF)法;熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)装置を用いた熱分析法;加熱乾燥式水分計などを用いた加熱乾燥法;ガスクロマトグラフィー(GC)法;核磁気共鳴吸収法;電気抵抗法;誘電率法;蒸留法;などの方法があげられる。
【0065】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物(MgO2含有組成物)の製造方法は、
工程1において、「マグネシウムの水酸化物または酸化物」、「キレート剤を含有する組成物」、または「過酸化水素」などの原料を連続的に供給することによって、連続的に「過酸化物」を得ることができる。具体的には、前記原料を反応させる容器(反応槽)に、これらの原料を連続的に供給するための配管、送液装置などの供給装置を接続して、反応させる工程1を連続で行うことが方法としてあげられる。この連続的な供給のための装置、容器の材質などは特に限定されず、公知の物を使用することができる。原料を供給する速度や量、反応温度は適宜調節することができる。また、「過酸化物」を受け取る容器は、一定量の反応毎に交換してもよいし、この容器から別の容器や反応装置、貯蔵容器などに連絡されていてもよい。
【0066】
また、工程2において、「工程1で得られる過酸化物」および「二酸化炭素または炭酸塩」を連続的に供給することによって、工程2における「工程1で得られる過酸化物に、二酸化炭素または炭酸塩を含有させる」ための反応を連続で行うことができる。具体的には、前記工程1における連続的に「過酸化物」を得るための装置、二酸化炭素などのガス供給装置(ボンベやその配管)、撹拌装置、送液装置(ローラーポンプ、送液ポンプなど)、加熱もしくは冷却装置、各種の容器などが使用できる。その他、工程1で使用したものを同様に使用することができる。また、本発明における「前記工程1または工程2を連続で行うこと」とは、「工程1」および「工程2」を、それぞれ別々に、交互に、または、同時に連続して行うことを含み、具体的には、過酸化マグネシウムを含有する組成物の製品のム大量合成を目的とした連続製造システムを構築することができる。
【0067】
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物(MgO2含有組成物)は、応用例として、前記した農業や土壌浄化などの幅広い用途で酸素供給剤などの剤として利用することができる。目的の剤の効果に影響しない範囲で、該組成物に他の成分、例えば、固体担体や液体担体などの担体、界面活性剤、その他の補助剤を適宜選択し混合してもよく、造粒または表面を被覆することもできる。これらの混合用の成分は、本発明の製造方法の工程内または工程後に適宜添加することができる。また、本発明のMgO2含有組成物は、公知の材料や造粒装置を用いて、適当な粒径に造粒し、過酸化マグネシウム粒剤を製造することができる。さらに、該組成物の粒子の表面を適当な物質で被覆することもできる。これらの材料の成分の濃度、または、混合時・造粒時の温度などの製造条件は、安全性や効果を考慮して、適宜調整することができる。
【0068】
固体担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;硫酸塩;過酸化カルシウムなどの過酸化物;ベントナイト、カオリンクレー、珪石クレー、ろう石クレー、酸性白土、タルク、珪藻土、ゼオライト(沸石)、酸化ケイ素、ケイ酸塩、その他各種塩類などの天然または合成の鉱物の微粉末または粒状物などがあげられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。固体担体は、あらかじめ粉砕したものを用いてもよい。
【0069】
液体担体としては、例えば、水;脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、灯油、マシン油、などの炭化水素類;アルコール類;シクロヘキサノンなどのケトン類;脂肪酸メチルエステルなどのエステル類;ヤシ油、大豆油、菜種油などの植物油;ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの有機溶剤;などがあげられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。液体担体としては、環境への影響を考慮して、水が好ましい。また、液体担体は、上記固体担体を混合して使用してもよい。
【0070】
界面活性剤としては、例えば、ジアルキルスルホサクシネート塩、アルキルアリールスルホネート塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩などの陰イオン界面活性剤;アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、アルキルアミドアミン塩などの陽イオン界面活性剤;などがあげられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
その他の補助剤としては、例えば、粉砕助剤、粉末化助剤、結合助剤、滑助剤、乳化剤、増粘剤、pH調整剤、塗布剤用補助剤、消泡剤、溶解助剤または懸濁分散助剤などがあげられ、具体的には、糖類、リグニンスルホン酸塩やアルギン酸塩その他の塩類、カルボン酸塩(ギ酸塩、酢酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、プロピオン酸塩)、ポリビニルアルコール、カルボシキメチルセルロース、ステアリン酸、アラビアゴム、有機ベントナイト、フェニルキシリルエタン、ポリエチレングリコール、酢酸ビニル、ワセリン、生分解性プラスチック(生分解性のポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリウレタン、ポリウレアなど)、などがあげられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0073】
[実施例1および実施例2]
<水酸化マグネシウム原料中の不純物の分析>
下記の2種類の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)原料を用意した。:
(実施例1)Mg(OH)2(ナイカイ塩業株式会社製)
(実施例2)Mg(OH)2(神島化学工業株式会社製、型番:#200)
最初に、これらのMg(OH)2原料に含まれる不純物を分析するために、製品のICP発光分析を行った。製品の粉末をそのまま測定した結果と、下記の方法でイオン交換水で洗浄したろ液中の金属濃度を測定した結果を比較した。500mL容ガラス製フラスコに、イオン交換水165g、上記のMg(OH)2 100gを入れ、10分間撹拌して洗浄し、吸引ろ過した。このMg(OH)2原料の洗浄後のろ液中の金属濃度をICP発光分析により測定した(アジレント・テクノロジー株式社製、装置名:マルチタイプ ICP発光分光分析装置(ICP-OES)、型式:720-ES)。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
表1より、Mg(OH)2原料および原料の洗浄後のろ液中には、過酸化水素を分解させる金属として鉄(Fe)およびマンガン(Mn)が検出された。また、Mg(OH)2原料中の不純物濃度が製品によりそれぞれ異なり、さらに、液中に溶出しているFeやMnなどの金属の量もそれぞれ異なることが確認された。本発明においては、これらの金属不純物をキレート剤を用いて封鎖することによって、高い有効酸素濃度を示し、安定性の高い過酸化マグネシウムを含有する組成物を製造する。この方法によって、多量の水で原料を洗浄する前処理については行ってもよいが、必ずしも必要な工程ではなくなり、製造コストを抑えることができる。
【0076】
[実施例3]
室温(20~25℃)下で、500mL容のガラス製蓋付き反応容器に、イオン交換水163g、キレート剤(キレスト株式会社製、製品名:キレストPH-210(60質量%エチドロン酸(HEDP)/溶液)、分子量206.028g/mol)0.24gを入れて撹拌した。なお、前記キレート剤(キレストPH-210)は、以下「安定化剤」とも呼称する。液中に、実施例1で用いた水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)(ナイカイ塩業株式会社製)100g(1.71mol)を入れ、撹拌した。この懸濁液に、45質量%過酸化水素(保土谷化学工業株式会社製、H2O2濃度調整品)207g(2.74mol)を、30分かけて添加し、反応させた(反応時間:30分)。反応時の温度は40℃を保持した。反応後、撹拌しながら、20℃まで冷却した。また、上記の撹拌条件は、溶液が均一に混合される適当な撹拌条件で行った。上記のように各成分の仕込量を総仕込量とし、表2にまとめて示す。
【0077】
Mg(OH)2のモル比(a)を1とし、エチドロン酸のモル比(b)とすると、反応後のMgO2含有組成物にこれらすべてのMgとエチドロン酸成分が含まれる場合、表2の値より、b=0.0007/1.71=約0.0004となりうる。実際の反応では、Mgの一部がXpで表される「キレート剤と金属からなる錯体」またはZで表される「炭酸塩」に含まれるため、a:bの比は上記の比よりもbが大きい方に変化する。
【0078】
【0079】
次に、二酸化炭素(CO2)(東北エア・ウオーター株式会社製、液化炭酸ガス(純度99.95%以上)30kg入ボンベ)10g(0.23mol、5.09L/標準状態STP)(Mg(OH)2の10質量%に相当。Mg(OH)2に対するCO2は0.23/1.71=約0.13となり、CO2すべてがMgのみの炭酸塩化に使用される場合、MgO2:Mg炭酸塩のモル比a:cは0.87:0.13となりうる。実際はCO2の一部が他の金属不純物などの炭酸塩化やロスとして消費されるため、cの比は低くなりうる。)を、反応後の懸濁液中にホース通して、10分間かけて吹き込みを行った(以下の実施例、比較例では、一部、CO2吹込みの記載を省略している)。CO2吹き込み後、吸引ろ過し、湿潤状態の質量218gの固形物(Wet)をろ取し、ろ液220gを得た。ろ物を乾燥機(富士科学器機株式会社製、製品名:BOX炉標準機、型式:TYPE-G)中で、100℃で2時間乾燥し、過酸化マグネシウム(MgO2)を含有する組成物(収量95g、Dry、乾燥MgO2)を得た。
【0080】
上記のMgO2含有組成物の乾燥後の含水率は、水分計(株式会社ケツト科学研究所製、装置名:赤外線水分計、型式:FD-800)で測定した結果、1.0質量%であった。また、組成物中の有効酸素濃度(以下、単に有効酸素(質量%))を下記の過マンガン酸カリウム滴定法で測定した結果、12.45質量%であった。さらに、ろ液中の過酸化水素(H2O2)濃度(質量%)は、過マンガン酸カリウム滴定法で同様に分析した結果、11.7質量%であった。
【0081】
<過酸化マグネシウムの分析法(過マンガン酸カリウム滴定法)>
下記の試薬を調製する。
・硫酸溶液(1+9):1L容器に純水900mLを入れ撹拌しながら硫酸(特級、96%)を100mL加え冷却する。
・1N過マンガン酸カリウム標準液(和光純薬工業株式会社製など)
・15体積%硝酸溶液:1L容器に純水750mLを入れ撹拌しながら硝酸(60質量%)を250mL加え冷却する。
次に、試料を約0.5~1gを正確に秤量し(試料採取量:S(g))、純水約50mL、、硝酸10mL、硫酸溶液10mLを順次加え溶解させる。この試料溶液を1N過マンガン酸カリウム標準液で滴定する。滴定液が薄い桃色に変わり30秒続いた所を終点とする。有効酸素(%)は次式で求められる。
有効酸素(%)=[(8/1000)×f1×A]/S(g)×100(%)
f1:1N過マンガン酸カリウム標準液のファクター
A:1N過マンガン酸カリウム標準液の滴定数(mL)
S:試料採取量(g)
【0082】
[比較例1]
実施例3において、安定化剤としてのキレート剤(キレストPH-210)に代えて、過酸化水素用の安定化剤である、ポリ-α-ヒドロキシアクリル酸ソーダ(保土谷化学工業株式会社製、ペールプラック1200(PHAS 30質量%溶液、平均分子量10,000~15,000)を用い、PHAS添加量を実施例3のキレート剤と同様に、0.24g(Mg(OH)2に対して0.24質量%、総仕込量の0.05質量%)とし、他の製造条件についても実施例3と同様にして、MgO2含有組成物の製造を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0083】
[比較例2]
実施例3において、安定化剤としてのキレート剤(キレストPH-210)に代えて、過酸化水素用の安定化剤である、3号珪酸ソーダ(小宗化学薬品株式会社製)を用い、添加量を実施例3のキレート剤と同様に0.24g(Mg(OH)2に対して0.24質量%、総仕込量の0.05質量%)とし、他の製造条件も実施例3と同様に、MgO2含有組成物の製造を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0084】
[比較例3]
実施例3において、安定化剤としてのキレート剤(キレストPH-210)の添加量を、0.24gから2.35g(Mg(OH)2に対して2.35質量%、モル比 a:b=Mg(OH)2:エチドロン酸=1.72:0.007=1:0.004、総仕込量の0.5質量%)に変えて、他の製造条件については実施例3と同様にして、MgO2含有組成物の製造を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0085】
[比較例4]
実施例3の方法に代えて、以下の方法で過酸化マグネシウムを含有する組成物を製造した。イオン交換水210g、Mg(OH)2(ナイカイ塩業株式会社製)140g(2.4mol、実施例3の1.4倍モル当量)を1L容器に入れて、キレート剤を添加せず、撹拌した。容器に69.5質量%H2O2水溶液187g(3.84mol←Mg(OH)2の量に対し1.6モル当量)を10分かけて添加し(総仕込量537g)、30分間反応させた。反応時の温度は40℃を保持した。反応後、20℃まで冷却し、吸引ろ過し、湿潤状態(Wet)のろ物(MgO2含有組成物)266.2g、ろ液274gを得た。ろ物(組成物)を100℃で1時間、棚式乾燥機内で乾燥し、湿潤状態の組成物148.2g中に、実施例3と同様の方法でCO2の吹き込みを行った。CO2吹き込み後、CO2含有のMgO2含有組成物が158.2gに増量し、さらに100℃で1.5時間撹拌しながら乾燥し、143.1gのMgO2含有組成物を得た。この乾燥後のMgO2含有組成物の含水率(質量%)および有効酸素(%)、ろ液中のH2O2濃度を実施例3と同様の方法で測定した。結果を表3にまとめて示す。
【0086】
【0087】
表3に示すように、実施例で得られたMgO2含有組成物の有効酸素は、他の安定化剤を添加したものよりも優れていた。また、それぞれの反応において、実施例3および比較例3は反応中の液温40℃を保持するために容器を加熱する必要があったが、比較例1、比較例2および比較例4では、冷却が必要であった。このことから、実施例の反応中の発熱は、比較例よりも少なく安全である。また、実施例3と比較例3の比較より、キレート剤(安定化剤)の添加量が多い場合、過酸化マグネシウム合成がほとんど進行しないことがわかった。
【0088】
表3の結果から、仕込液中に反応前に存在したH2O2水溶液の有効酸素の量を100%とし、実施例3で得られたMgO2含有組成物中の有効酸素の割合(反応量)を求めると27.0%となる。同様にろ液やWet組成物中に残存したH2O2水溶液中の有効酸素の割合(残存量)は43.1%となり、反応に無効だった有効酸素の量(無効分解量)は29.9%となる。このように比較例1~比較例4についても、反応量、残存量、無効分解量を計算した結果を、表4にまとめて示す。
【0089】
【0090】
表4から、実施例3と比較して、比較例3において、H2O2残存量が多く、かつ、無効分解量が少ないにもかかわらず、MgO2の反応量が少ない理由として、安定化剤としてのキレート剤が過剰であったためと推察される。一方、安定化剤の添加の無い比較例4では、H2O2の残存量も少なく、無効分解量が多い。これらのことから、安定化剤の適切な濃度が、MgO2含有組成物の有効酸素を向上させるために必要である。
【0091】
[実施例4]
<反応時間とMgO2組成物の有効酸素の関係>
実施例3と同じ方法で、イオン交換水163g、キレート剤(キレストPH-210)0.24g(総仕込量に対して0.05質量%)、Mg(OH)2(ナイカイ塩業株式会社製、実施例1で使用したものと同じMg(OH)2原料に対応。洗浄せず使用。)100g(1.72mol)を入れて撹拌した(モル比 Mg(OH)2:エチドロン酸=1:0.0004)。この混合液に、45質量%H2O2水溶液207g(2.74mol)を添加して(総仕込量470g)、反応を開始した。その他の製造条件は実施例3と同じである。H2O2添加開始時刻を0分とし、H2O2添加は0~10分で行った。H2O2添加終了時(10分)から15分間隔で反応中の混合液を採取(約0.5~1g)し、ろ過し、過マンガン酸カリウム滴定法により、ろ液中の残存H2O2濃度(質量%)を分析した。また、ろ物はイオン交換水で洗浄後、100℃-10分で乾燥し、有効酸素(%)を分析した。H2O2添加開始後130分を反応終了とした。反応終了後、130~140分の間に炭酸塩化を行い、過酸化マグネシウム含有組成物(Dry、乾燥MgO2)を得て、乾燥後のMgO2含有組成物の有効酸素(%)を測定した。結果を表5に示す。
【0092】
[実施例5および実施例6]
<反応時間とMgO2組成物の有効酸素の関係>
実施例4において、キレート剤(キレストPH-210)の添加量を、総仕込量に対して0.1質量%(モル比 a:b=Mg(OH)2:エチドロン酸=1:0.0008)および0.2質量%(モル比 a:b=Mg(OH)2:エチドロン酸=1:0.0016)とした以外は、実施例4と同様の実験を行い、反応時間と残存H2O2濃度(質量%)およびMgO2含有組成物の有効酸素(%)の関係を分析した。結果を表5に示す。
【0093】
[実施例7]
<反応時間とMgO2組成物の有効酸素の関係>
実施例5において、Mg(OH)2(ナイカイ塩業株式会社製)を、実施例2で使用したものと同じMg(OH)2原料(神島化学工業株式会社製、型番:#200 洗浄せず使用)に代えた以外は、実施例5と同じ総仕込量に対するキレート剤添加量(0.1質量%)(モル比 a:b=Mg(OH)2:エチドロン酸=1:0.0008)、その他同じ条件で実験で行い、反応時間と残存H2O2濃度(質量%)およびMgO2含有組成物の有効酸素(%)の関係を分析した。結果を表5にまとめて示す。
【0094】
【0095】
表5の結果について、反応時間と、残存H
2O
2濃度およびMgO
2含有組成物中の有効酸素濃度をグラフにしたものを
図2および
図3に示す。表および図より、実施例1で用いたMgO
2原料(ナイカイ塩業株式会社製)を使用した場合、キレート剤添加量が総仕込量に対して0.1質量%のときにMgO
2含有組成物の有効酸素が最大であった。
図2より、反応時間30分前後では、残存H
2O
2濃度が約15質量%あり、反応時間を延長することで効率よく反応できることが示唆された。また、
図3より、反応時間を実施例3の30分以上に延長しても、有効酸素はほぼ一定であり低下しなかった。比較例3において、反応液中へのキレート剤添加量は総仕込量に対して0.5質量%では過剰であり反応が進行しないことがわかっている。
図3実施例6より、添加量0.2質量%では有効酸素の立ち上がりが遅く、反応開始が遅れており、添加量がやや過剰である。実施例1および実施例2で使用したMg(OH)
2原料の違いにより、最終的に得られた乾燥MgO
2含有組成物の有効酸素が異なることがわかった。
【0096】
[実施例8~実施例11]
<過酸化マグネシウム含有組成物の長期安定性試験>
実施例4~実施例7で製造した、4種類のMgO
2含有組成物(いずれも製造日は異なる)をスチロール棒瓶に10g採取し、40℃の恒温槽(楠本化成株式会社製、装置:高温恒温槽、型式:ETAC HT220)で約2ヶ月間(62日間)静置した。この間、0、13、28および62日目に、それぞれのサンプル管から0.5~1g採取し、有効酸素を測定した。安定性の指標として、0日目の有効酸素に対する62日目の有効酸素の比を、MgO
2含有組成物の安定度(%)として得た。結果を表6および
図4に示す。
【0097】
[比較例5]
比較例4で製造したMgO
2含有組成物(実施例1のMg(OH)
2原料(ナイカイ塩業株式会社製)を用い、キレート剤を添加せずに製造したもの)について、実施例8~実施例11と同様の実験方法で40℃静置0、13、28および62日目の有効酸素および安定度を測定した。結果を表6および
図4に合わせて示す。
【0098】
[比較例6]
実施例2のMg(OH)
2原料(神島化学工業株式会社製、型番:#200)を用い、比較例4と同様の方法でMgO
2含有組成物を製造したのものについて、実施例8~実施例11と同様に40℃で静置し、0、13、28および62日目の有効酸素および安定度を測定した。結果を表6および
図4に合わせて示す。
【0099】
【0100】
表6および
図4より、0日目の有効酸素の値が10~16質量%と幅があるが、62日経過後、すべての試料において94%以上の安定度を維持している。なお、実施例8~実施例11、比較例5および比較例6の測定において、含水率の変化は考慮していないため、比較例6の結果のように安定度が100%を超えることがある。過酸化マグネシウムは吸湿性が強く、0日目の時点では含水率が62日目よりも高い。そのため、サンプル管からの測定用採取量が毎回同じ場合、日数が経過するほど乾燥しており、有効酸素が見かけ上高い値となり、安定度が100%を超えることがあると推察される。
【0101】
[実施例12~実施例15]
<反応温度の検討>
実施例3において、100gのMg(OH)
2を使用した方法を基本とし、表7に示すように、使用するイオン交換水およびキレート剤の量を変えて仕込量とした。キレート剤(キレストPH-210)をイオン交換水に予め溶解して反応容器に入れ、撹拌しながら水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)(ナイカイ塩業株式会社製)100g入れて懸濁させた。この懸濁液に、表7で示す35質量%の過酸化水素(H
2O
2)水溶液を60分かけて滴下し添加した。反応時の温度は、容器を温度制御することにより、40℃、45℃、50℃または60℃とした。H
2O
2滴下(添加)開始時を反応開始(0分)とし、20分毎に懸濁液を10mL採取した。各10mL採取試料をろ過し、ろ物をイオン交換水で洗浄し、前記水分計(実施例3で使用)を用いて100℃で10分間乾燥、含水率を分析し、乾燥物中の生成したMgO
2含有組成物中の有効酸素を、前記過マンガン酸カリウム滴定法により分析した。反応時間120分まで分析を行った。反応温度(℃)と、添加開始時からの反応時間におけるMgO
2含有組成物の有効酸素(%)との関係を測定した結果を表8および
図5に示す。なお、表8の有効酸素の値は、水分の減少を考慮し、水分を除いたマグネシウム含有部分の有効酸素に換算したものである(以下の実施例で、特に指定が無ければ、水分を考慮した有効酸素を示す。)。
【0102】
【0103】
【0104】
表8および
図5より、35質量%H
2O
2濃度を用いた、MgO
2含有組成物の製造では、反応時間100~120分において、反応温度が40℃または45℃で行ったものが、50℃または60℃で行ったものよりも有効酸素が高い。反応温度が高いほど有効酸素が減少する傾向が見られた。
【0105】
[実施例16~実施例18]
<添加過酸化水素濃度の検討>
実施例12および実施例13において、40℃、45℃でMgO
2含有組成物の有効酸素が高いことから、反応温度を42℃とし、その他の実験条件は、表9のように、添加するH
2O
2濃度を35質量%、45質量%または60質量%とし、実施例12~実施例15と同様に反応時間120分までの検討を行った。結果を表10および
図6に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
表9および
図6より、35質量%H
2O
2水溶液を添加したものが最も有効酸素が高い。H
2O
2濃度が増加するほど有効酸素が減少する傾向が見られた。
【0109】
[実施例19および実施例20]
<過酸化水素溶液の添加時間の検討>
実施例16におけるH
2O
2添加(滴下)時間の60分を、20分または40分で行った以外は、実施例16と同様に、35質量%H
2O
2水溶液を用い、反応温度42℃、反応時間120分までのMgO
2含有組成物の有効酸素の分析を行った。結果を、実施例16の結果と合わせて、表11および
図7に示す。
【0110】
【0111】
表11および
図7より、H
2O
2滴下時間を20分から60分の間で変えることによって、有効酸素に大きな変化はなかった。
【0112】
[実施例21]
<過酸化水素の添加量の検討>
実施例16の原料のMg(OH)
2 13.6molに対し、35質量%H
2O
2水溶液1.7molを反応させて行った試験において、Mg(OH)
2とH
2O
2のモル量が同じに(1倍モル量)なるように35質量%H
2O
2水溶液の添加(滴下)量を増加させて、反応温度42℃で実施例16と同様に実験を行い、反応時間10分毎にMgO
2含有組成物の有効酸素の分析、および、ろ液中のH
2O
2濃度分析を行った。さらにH
2O
2モル量をMg(OH)
2の1.25倍モル量、1.5倍モル量と増加させて同様に反応を行った。これらの結果を
図8に示す。
図8より、H
2O
2添加量が増加するほど有効酸素が増加する傾向が見られた。
【0113】
実施例21で得られた1.5倍モル量のH
2O
2を使用した反応において、ろ液中のH
2O
2濃度の変化と、MgO
2含有組成物の有効酸素の変化と、を比較して
図9に示す。
図9より、反応時間20分付近のH
2O
2濃度が18質量%に達して反応が開始し、反応時間が70分付近のH
2O
2濃度2質量%以下、さらに詳しくは1質量%以下で反応が終了することがわかった。
【0114】
[実施例22~実施例24]
<大量製造の検討>
実施例20で実施した製造条件の仕込量、H2O2水溶液の濃度、反応温度、H2O2滴下(添加)時間の同様の試験条件で、表12に示す40倍の質量のスケール(Mg(OH)2 4kg)で実施例22の試験を行った。また、実施例20で使用した過酸化マグネシウム(ナイカイ塩業株式会社製、実施例1の原料)に代えて、実施例23および実施例24では過酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製、型番:#200、実施例2の原料)を用いて、Mg(OH)2 100gまたは4kgの同様の試験条件で試験を行った。得られたMgO2含有組成物の分析の結果を表12に合わせて示す。
【0115】
【0116】
表12のように、実施例1のMg(OH)2原料では、100g→20kgのスケール増での実験により、有効酸素の最高値は減少した。一方、実施例2のMg(OH)2原料では、100g、20kgともに実施例1よりも高い有効酸素の最高値が得られた。
【0117】
[実施例25]
<乾燥条件の検討>
実施例24で得られた4kg-Mg(OH)2原料を用いて製造したMgO2含有組成物の乾燥は、以下のように実施した。水分を含んだMgO2含有組成物を適当に大部分の水分が除去できるまで脱水した。前記棚式乾燥機内で、1つに対してろ過物をそれぞれ3kg、2kg、1kgに分けて棚(480mm×750mm)内に均等に広げて乾燥を行った。広げた組成物の厚さは、それぞれ、5mm、10mm、15mmとなった。乾燥機内の温度は90℃に設定し乾燥した。乾燥時間60分、120分、180分において、乾燥時間とMgO2含有組成物の有効酸素の関係を測定した。表13に結果を示す。
【0118】
【0119】
乾燥は、表13において、含水率が5%以下で終了とした。表13より、乾燥時間が短いほど、有効酸素が高い傾向が得られた。
【0120】
[実施例26]
実施例25と同様に製造した4kg-Mg(OH)2原料を用いて製造したMgO2含有組成物において、2kgの乾燥前の組成物を乾燥温度90℃を行った試験を、80℃または100℃に代えて試験した。いずれの結果も、120~180分で含水率を5質量%以下に乾燥することができた。乾燥後の有効酸素は13~16%となった。
【0121】
[実施例27~実施例29]
実施例23の方法と同様に、実施例2のMg(OH)2原料(神島化学工業株式会社製、型番:#200)を用い、表14の仕込量でMgO2含有組成物の製造を行った。イオン交換水、エチドロン酸溶液、Mg(OH)2原料を仕込んだ後、H2O2水溶液の添加(滴下)を開始した。H2O2水溶液添加後、反応液の温度上昇が起こるため、温度が下がるのを待ち添加再開することを繰り返した。添加終了後60分間撹拌を行い、反応中のH2O2濃度が2質量%以下になった時点を反応終了とした。反応終了後、CO2吹き込みを行い、、脱水し、湿潤状態のMgO2含有組成物を得た。乾燥は、前記棚式乾燥機(実施例3で使用)と振動乾燥器(中央化工機株式会社製、型式:VU-95)を使用した。乾燥温度は90℃とし、乾燥終了は含水率が10%以下になった時とした。得られたMgO2含有組成物を市販の粉砕機で粉砕した後、20.05kgずつ袋に入れて封をした。上記に記載のない製造条件は他の実施例と同様である。以上のように製造したMgO2含有組成物の含水率および有効酸素を表14にまとめて示す。
【0122】
【0123】
[実施例30]
<過酸化マグネシウム造粒試験>
本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物を用いた粒剤(過酸化マグネシウム粒剤)の製造方法(造粒方法)について、以下の実施例で説明する。実施例29で製造したMgO2含有組成物に、水を添加し、含水率を24~35質量%の組成物を調製し、造粒前試料とした。このように含水率調整後の組成物を市販のパグミキサー(穴径1mm)を用いて造粒を行い、前記方法と同様に乾燥した。また、含水率調整のために、含水率を35質量%に調整したMgO2含有組成物に、炭酸マグネシウム(MgCO3)(市販品)を一定量加え、水分調整後、造粒を行った。結果を表15に示す。
【0124】
【0125】
表15より、含水率を26~28質量%に調整することで造粒が可能である。水分調整用として、過酸化マグネシウム以外の粉体を使用した場合は有効酸素が低下することがわかった。また、比較例として、MgO2含有組成物にベントナイト、パーウェルG(過酸化カルシウム)を含水率調整用として使用するした際、混合時、無効分解によると思われる発熱があり、造粒を中止した。これらの粉体を混合するして、過酸化マグネシウム粒剤を製造する場合は、混合時の冷却が必要になる。
【0126】
[実施例31]
<連続製造の検討>
MgO
2含有組成物を連続的に反応させて製造する方法(連続製造方法と略する場合もある)を検討した。
図10に本発明の連続製造方法を構築するシステムの模式図で表した一例を示す。
図10を参照しながら、MgO
2含有組成物の連続製造方法を以下に説明する。これらの加熱・冷却機器、ポンプ、撹拌機などの機器、または、材質は、ガラス製、金属製、樹脂製、適当に選択して使用した。
(1)反応槽(31-1)に30質量%Mg(OH)
2/水混合液(スラリー)を200g採り、反応槽に付属した加熱冷却装置を用いて一定温度に加熱する。反応槽は撹拌装置(31-4)を用いて撹拌されている。
※30質量%Mg(OH)
2/水混合液(スラリー)調製方法:
Mg(OH)
2(神島化学工業株式会社製、型番:#200)300g、イオン交換水691g、10質量%キレート剤(キレストPH-210を10倍に希釈したもの)9g(合計1000g)を混合する。
(2)一定温度になったら、送液ポンプ(31-5)を介して、Mg(OH)
2(主にMg(OH)
2スラリー)貯蔵層(31-2)からMg(OH)
2スラリーを反応槽(31-1)に添加開始し、同時に、過酸化水素水貯蔵槽(31-3)から60質量%H
2O
2水溶液を、反応槽(31-1)に添加開始する。
(3)反応槽(31-1)内の液が一定量に達し、反応槽に付属した管から液が流出してくる(オーバーフロー)。オーバーフローが始まったら、管の出口にあるオーバーフロー受器(31-6)の冷却を開始し、同時に、CO
2吹き込みを開始する。オーバーフロー受器には、撹拌装置(スターラーなど)で撹拌されており、加熱・冷却装置(氷水冷却も含む)、および、二酸化炭素ボンベおよびその配管などのガス供給装置が付属している。
(4)オーバーフロー開始後、一定時間毎にオーバーフロー受器(31-6の容器部分)を交換する。
(5)オーバーフロー受器への流出液の質量を測定し、吸引ろ過器などでろ過する。
(6)ろ液中のH
2O
2濃度を分析する。同時に、ろ物(湿潤状態のMgO
2含有組成物乾燥する(棚式乾燥機、乾燥温度:90℃、乾燥時間:3~4時間)。
(7)乾燥後のMgO
2含有組成物の含水率および有効酸素を分析する。
【0127】
上記の連続製造方法を用いて、反応温度を50~70℃で変えた試験(実施例31-1~3)、表16の反応条件で、Mg(OH)2スラリーおよびH2O2水溶液の添加速度を変えることにより反応時間を12~31分と変化させた試験(実施例31-4~6)、および、Mg(OH)2スラリーおよびH2O2水溶液の添加速度を変えることにより反応させる過酸化水素/Mg(OH)2のモル比を変えた試験(実施例31-7~9)を行った。結果を表16に合わせて示す。
【0128】
【0129】
表16より、反応温度が高くなると、反応液中のH2O2および生成したMgO2がともに分解するため、MgO2含有組成物の有効酸素が低くなった。また、反応時間が長くなることによっても、分解が起こり有効酸素が低くなった。さらに、H2O2のMg(OH)2に対するモル比が低い場合、有効酸素が低くなった。
【0130】
[実施例32]
<安定性試験>
MgO2含有組成物の安定性を調べる目的のため、下記の試験を行った。各種のMgO2含有組成物を約100mL容スチロール棒瓶(三進工業株式会社製)に数十g採取し、40℃の恒温槽(株式会社カトー製)で1ヶ月(30日)間静置した(通常の温度、湿度の環境での1年間放置試験と考えてよい。)。10日毎に、組成物を0.5~1g採取し、有効酸素を過マンガン酸カリウム滴定法で分析し、安定度を調べた。試料は次の3種類とした。:
(1)過酸化マグネシウム含有組成物(実施例29同様に製造)
(2)過酸化マグネシウム水和剤
(MgO2:界面活性剤(東邦化学工業株式会社製、ソルポール5060)=95:5(質量比)で混合)
(3)2%PVA配合過酸化マグネシウム
(ポリニルアルコール(PVA)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を使用。全体中に2質量%となるようにPVAとMgO2を、ニーダー(不二パウダル株式会社(株)(現株式会社ダルトン)製、型番:KDHJ-20型)を用いて混合。)
安定性の指標は、各経過日数の安定度(%)として、試験開始時(0日目)の有効酸素を基準(100%)とした有効酸素の割合(%)で表す。結果を表17に示す。
【0131】
【0132】
過酸化マグネシウム(MgO2)の有効酸素が経過日数とともに低下していくということは、MgO2の分解により酸素が発生していることを意味する。MgO2が分解して発生する酸素量は、下記式(4)の分解反応式から求められる。1molの過酸化マグネシウムの分解で0.5molの酸素を放出する。表17の安定度試験の結果を用いて、下記のように過酸化マグネシウム含有組成物1kgあたりの分解酸素発生量(体積(L))を算出した。結果を表18に示す。この結果から、本発明の過酸化マグネシウムを含有組成物の有する酸素供給剤としての性能(安定性など)を得ることができる。
【0133】
【0134】
【0135】
これらの実施例より、本発明の過酸化マグネシウムを含有する組成物は、高い有効酸素濃度を有し、かつ、高い安定性を有する過酸化マグネシウムを含有する組成物であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の製造方法により得られた過酸化マグネシウムを含有する組成物は、高い有効酸素濃度および安定性を有する過酸化マグネシウムを含有する組成物を提供することができる。本発明により得られた組成物を酸素供給剤として使用し、農業用途、土壌浄化または水質改善などの用途に活用することができる。
【符号の説明】
【0137】
31 過酸化マグネシウムを含有する組成物の連続製造システム
31-1 反応槽
31-2 Mg(OH)2スラリー貯蔵槽
31-3 過酸化水素水貯蔵槽
31-4 撹拌装置
31-5 送液ポンプ
31-6 オーバーフロー受器(加熱・冷却・撹拌・CO2供給システムを含む。)