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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/28 20060101AFI20241017BHJP
   C10G 1/10 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
C10G1/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020128382
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025517
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 匠
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-067882(JP,A)
【文献】特開2004-315766(JP,A)
【文献】特開平07-310076(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03514200(EP,A1)
【文献】特開2000-128901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J11/00-11/28
C10G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物(ただし、芳香族2級アミン系老化防止剤である化合物を除く)50体積%を越える量で含有する反応溶媒と、架橋ゴムとを混合し、得られた混合物を、300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記含窒素芳香族化合物(ただし、芳香族2級アミン系老化防止剤である化合物を除く)が、アミノ基又はニトロ基を有する請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記含窒素芳香族化合物(ただし、芳香族2級アミン系老化防止剤である化合物を除く)が、ニトロ基を有する請求項1又は2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記含窒素芳香族化合物(ただし、芳香族2級アミン系老化防止剤である化合物を除く)が、ニトロ基を1つ有する請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記含窒素芳香族化合物(ただし、芳香族2級アミン系老化防止剤である化合物を除く)が、ニトロベンゼンを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記架橋ゴムを、150~250℃で加熱する請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及び省資源化の視点から、架橋ゴムを再生し、新たな架橋ゴムとして再利用することが検討されている。
例えば、特許文献1には、加硫ゴム廃棄物から再使用可能な液状炭化水素及びカーボンブラックを効率よく簡便に製造するために、加硫ゴム廃棄物等の加硫ゴムを水素供与性溶媒の存在下で加熱分解して、液状炭化水素及びカーボンブラックを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-310076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、例えば、段落番号[0033]に「窒素ガス初圧20kg/cm2、反応温度440℃で、1時間反応させた」とあるように、高圧環境下で架橋ゴムを分解している。
しかしながら、省資源化及び省エネルギー化の観点から穏和な条件でも液状炭化水素を得る方法が望まれる。
また、トルエンやテトラリン等の非極性溶媒は、加硫ゴムとの馴染みが良いことが考えられる。特許文献1では、テトラリンを分解溶媒に用いた発明を開示しているが、更なる分解率の向上が求められていた。
【0005】
本発明は、穏和な条件下においても、液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法を提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 架橋ゴムを、アミノ基、シアノ基及及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物を含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法。
【0007】
<2> 前記含窒素芳香族化合物が、アミノ基又はニトロ基を有する<1>に記載のゴム組成物の製造方法。
<3> 前記含窒素芳香族化合物が、ニトロ基を有する<1>又は<2>に記載のゴム組成物の製造方法。
<4> 前記含窒素芳香族化合物が、ニトロ基を1つ有する<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<5> 前記含窒素芳香族化合物が、ニトロベンゼンを含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【0008】
<6> 前記架橋ゴムを、150~250℃で加熱する<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<7> 前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<8> 前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む<1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、穏和な条件下においても、液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ゴム組成物の製造方法>
本発明のゴム組成物の製造方法は、架橋ゴムを、アミノ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物を含む反応溶媒下において300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得る工程(以下、「分解工程」と称することがある)を有する。
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程に加え、分解工程で得られた反応物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。
また、本発明の製造方法により製造されるゴム組成物に含まれる液状炭化水素は、架橋ゴムを構成するゴム分子であり、架橋ゴムの構成により異なるが、廃タイヤ由来の架橋ゴムを用いた場合、通常、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等を含む。なお、液状とは、室温(25℃)かつ大気圧(0.1MPa)の下で液体状態あるいは石油成分(アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)に容易に可溶化し液体状態になることをいう。
【0011】
本発明のゴム組成物の製造方法により、架橋ゴムを構成するゴム分子由来の炭素原子同士の結合(炭素-炭素結合)、当該炭素原子と架橋剤由来のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)との結合(例えば、炭素-硫黄結合)等において、熱及び溶媒効果により結合が切断され、ラジカル及び/又は新たな結合が生成すると考えられる。
反応溶媒として、既述の含窒素芳香族化合物を用いることで、ラジカルの連鎖移動効果が働き、トルエン等の一般的な非極性溶媒を用いた場合に比べ、高い分解率を実現できると推察される。また、本発明によれば、高い分解率が実現できるため、分解反応の短時間化も実現し得る。
以下、本発明のゴム組成物の製造方法の詳細について説明する。
【0012】
〔架橋ゴム〕
架橋ゴムは、ゴム成分の架橋物であり、架橋ゴムの原料であるゴム成分としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムのいずれでもよい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成ジエン系ゴムは、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
非ジエン系ゴムは、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
以上の中でも、タイヤ等のゴム製品は、一般に、ジエン系ゴムが用いられていることから、ゴム成分は、ジエン系ゴムを50質量%以上含むことが好ましい。すなわち、架橋ゴムは、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物であることが好ましい。ゴム成分は、ジエン系ゴムを70質量%以上含むことがより好ましく、ジエン系ゴムを90質量%以上含むことが更に好ましい。また、ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
ゴム成分の架橋剤は、特に制限されず、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。
タイヤ等のゴム成分は、通常、硫黄系架橋剤(加硫剤)が用いられることから、架橋ゴムは、加硫剤で加硫された加硫物、すなわち、加硫ゴムを含むことが好ましい。
加硫ゴムを、少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物を含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱することで、加硫ゴムの分子構造を主として構成する炭素-硫黄結合が、熱による結合切断、溶媒効果等による交換反応が進行し、切断によって生成する高反応性のラジカル種に少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物から放出された水素原子が引き寄せられて、ラジカルの反応が停止すると考えられる。
架橋ゴム中の加硫ゴムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、架橋ゴムが加硫ゴムである(含有量が100質量%である)ことが特に好ましい。
【0015】
(充填剤)
架橋ゴムは、充填剤を含んでいてもよい。
タイヤは、一般に、タイヤの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を上げるために、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を含む。
充填剤は、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0016】
シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることが好ましい。
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。
架橋ゴム中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40~100質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましい。
【0017】
架橋ゴムは、ゴム成分及び上記充填剤のほか、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤等を含むゴム組成物を架橋した架橋物であってもよい。タイヤは、一般に、これらの配合剤を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムを含む。
【0018】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、アミノ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物を含む。
反応溶媒として当該含窒素芳香族化合物を選択することで、ラジカルの連鎖移動効果により、トルエン等の一般的な非極性溶媒に比べ高い分解率を実現することができる。
反応溶媒が上記含窒素芳香族化合物を含まないと、高い分解率を実現することができない。
含窒素芳香族化合物は、アミノ基、シアノ基及びニトロ基のいずれか1つ以上を有していればよい。また、アミノ基、シアノ基及びニトロ基の数は、それぞれ2つ以上であってもよい。
【0019】
含窒素芳香族化合物は、具体的には、例えば、アニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ベンゾニトリル、フタロニトリル、ニトロベンゾニトリル等が挙げられる。
【0020】
含窒素芳香族化合物は、液状炭化水素をより高分解率で製造する観点から、アミノ基又はニトロ基を有することが好ましく、少なくともニトロ基を含むことがより好ましい。
また、含窒素芳香族化合物は、ニトロ基を1つ有することが好ましい。換言すると、含窒素芳香族化合物が有するニトロ基の数は1つであることが好ましい。
含窒素芳香族化合物は、液状炭化水素をより高分解率で製造する観点から、
【0021】
本発明では、液状炭化水素をより高分解率で製造する観点から、含窒素芳香族化合物は、非含窒素芳香環に、アミノ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素官能基が結合した構造であることが好ましい。非含窒素芳香環と含窒素官能基とは、直接結合していてもよいし、アルキレン、アルケニレンのような2価以上の炭化水素基を介して結合していてもよい。液状炭化水素をより高分解率で製造する観点から、非含窒素芳香環と含窒素官能基とは、直接結合していることが好ましい。
非含窒素芳香環はベンゼン環であることが好ましい。
液状炭化水素をより高分解率で製造する観点から、含窒素芳香族化合物は、アニリン及びニトロベンゼンからなる群より選択される1つ以上を含むことが好ましく、ニトロベンゼンを含むことが好ましい。
【0022】
反応溶媒は、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物からなってもよいし、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物に加え、他の溶媒を含んでいてもよいが、液状炭化水素の分解率を高める観点から、シアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物が反応溶媒の主成分であることが好ましい。
ここで、主成分とは、反応溶媒中のシアノ基及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物の含有量が50体積%を越えることをいい、反応溶媒中の当該含窒素芳香族化合物の含有量は、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%以上であってもよい。
【0023】
分解工程では、反応溶媒を、反応溶媒の体積[mL](Vs)と架橋ゴムの質量[mg](Wg)との比(Vs/Wg)が、好ましくは0.001/1~1/1、より好ましくは0.005/1~0.1/1となる範囲で用いることが好ましい。
反応溶媒を上記範囲で用いることで、加溶媒分解反応がより促進されたり、架橋ゴムに十分な水素原子が供給され、熱分解で生成したラジカルの再結合を抑制し、架橋ゴムを効率よく分解することができる。
【0024】
〔分解工程の反応条件〕
(温度)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒は300℃以下で加熱される。
加熱温度を300℃以下とすることで、省エネルギー化に優れ、また、副反応等による分解率低下を抑制することができる。なお、分解工程における加熱温度を分解温度と称することもある。架橋ゴムをより低温で加熱することで、溶媒が関与する反応を優先させて架橋ゴムを分解することができる。加熱温度は、150℃以上であることが好ましく、155℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましく、また、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、220℃以下がより更に好ましく、210℃以下がより更に好ましい。
【0025】
(分解時間)
分解工程において、架橋ゴムを加熱する時間(分解時間)は、架橋ゴムの分解反応を十分に進める観点から、30分~240分であることが好ましく、60分~180分であることがより好ましい。
【0026】
(圧力)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒に与えられる圧力は特に制限されない。
架橋ゴムの分解反応の反応速度と、省資源及び省エネルギー化の観点から、0~2.0MPa(G)とすることが好ましく、0.01~1.5MPa(G)とすることがより好ましい。単位「MPa(G)」は圧力がゲージ圧であることを意味する。
圧力は、2.0MPa(G)以下であることで、液状炭化水素の分子量を低下させにくく、0.1MPa(G)以上であることで、架橋ゴムに反応溶媒が浸透し易く、反応速度を上げやすい。
【0027】
(雰囲気)
300℃以下の分解工程における反応雰囲気は、特に制限されず、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体の雰囲気(以下、単に不活性ガス雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気からなる気体の雰囲気(以下、単に空気雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で反応を進めてもよい。不活性ガスを用いる場合、2種以上の不活性ガスを混合して用いてもよい。
架橋ゴムの分解をより軽微な設備で行い、また、低エネルギー化を進める観点から、架橋ゴムは、好気環境下、即ち、酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましく、空気を含む気体の雰囲気下で加熱することがより好ましく、空気雰囲気下で加熱することが更に好ましい。
【0028】
〔乾燥工程〕
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程で得られた反応物(液状炭化水素を含むゴム組成物)を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
反応物は、例えば100~150℃の温風を吹き付ければよい。温風は空気であってもよいし、窒素ガスのような不活性ガスであってもよい。
【0029】
以上のように、架橋ゴムを、少なくとも1つの窒素原子を有する含窒素芳香族化合物を含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱することで、液状炭化水素を含むゴム組成物が得られる。ゴム組成物は、一般に、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含む。更に、架橋ゴムとして、廃タイヤを用いた場合、タイヤには、通常、充填剤が含まれることから、固形分には、充填剤も含まれる。
加硫前の生ゴムは、イソプレンゴム(IR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が100万程度、数平均分子量(Mn)が30万程度であり、また、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が30万程度、数平均分子量(Mn)が12万程度である。得られた液状炭化水素のMw及びMnがこれらの値に近いほど、原料ゴムに近い分子鎖のゴムが得られたことを意味する。
液状炭化水素のMw及びMnは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0030】
以上の方法によって製造された液状炭化水素は、架橋ゴムの再生に用いることができる。
また、架橋ゴムの再生には、液状炭化水素単独を原料とするのみならず、液状炭化水素と、分解工程で得られる固形分とを混合した状態で、すなわち、分解工程で得られるゴム組成物から液状炭化水素を分離することなく、ゴム組成物のまま再生ゴムの原料として用いてもよい。
【0031】
<再架橋ゴム>
本発明の再架橋ゴムは、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物を再架橋してなる再架橋ゴムであって、ゴム組成物に含まれる液状炭化水素をゴム成分として含み、ゴム成分中の液状炭化水素の含有量が1~100質量%である。
つまり、本発明の再架橋ゴムは、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素をゴム成分として含むゴム組成物の再架橋物であって、ゴム成分は液状炭化水素を少なくとも1質量%含み、100質量%であってもよい。ゴム成分中の液状炭化水素の含有量は、20質量%以上であってもよいし、30質量%以上であってもよいし、60質量%以上であってもよいし、70質量%以上であってもよい。
【0032】
ゴム成分中の液状炭化水素の含有量が100質量%未満の場合、液状炭化水素と共に用いられる他のゴム成分は特に制限されない。なお、液状炭化水素と共に用いられる他のゴム成分を純ゴム成分と称することがある。
純ゴム成分としては、架橋ゴムの原料であるゴム成分として挙げた既述のゴム成分である。中でも、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0033】
本発明の再架橋ゴムの原料となるゴム組成物は、液状炭化水素を含むゴム成分の他に、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華等を含んでいてもよい。
既述のように、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物は、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含み、固形分には、充填剤も含まれる場合もある。
再架橋ゴムの原料となるゴム組成物は、分解せずに残存する固形分を含んでいてもよい。架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素と共に、分解せずに残存する固形分を用いて再架橋ゴムを製造することにより、環境負担をより低減することができる。
本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物の再架橋の条件は特に制限されない。
本発明の再架橋ゴムは、液状炭化水素を含むゴム成分が加硫剤によって加硫された再加硫ゴムであってもよい。
【0034】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の再架橋ゴムからなる。
タイヤを、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含むゴム組成物を再架橋して得られる再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さいタイヤとすることができる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未架橋のゴム組成物を用いて成形後に架橋して得てもよく、または予備架橋工程等を経て、一旦未架橋のゴム組成物から半架橋ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本架橋して得てもよい。タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0035】
<ゴム工業用品>
本発明のゴム工業用品は、本発明の再架橋ゴムからなる。
ゴム工業用品は、例えば、上記タイヤを除く自動車部品、ホースチューブ類、防振ゴム類、コンベアベルト、クローラー、ケーブル類、シール材等、船舶部品、建材等が挙げられる。ゴム工業用品を、本発明の再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さい工業用品とすることができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
<加硫ゴムの用意>
加硫ゴムとして、下記加硫ゴムを用意した。
加硫ゴム(SBR):スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを加硫して得られた加硫ゴム
【0038】
<液状炭化水素の製造>
〔実施例1〕
(分解工程)
オートクレーブ(EYELA社製、耐圧容器、商品名「HIP-30L」)に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム(SBR)0.4gと、5mLのニトロベンゼンとを投入した。オートクレーブ内を密閉し、オートクレーブを加熱容器(EYELA社製、パーソナル有機合成装置ケミステーション、商品名「PPV-CTRL1」)に入れ、圧力が0~0.3MPa(G)となるように調整しながら、投入物を200℃で2時間加熱した。加熱終了後、加熱容器を冷却水によって常温(25℃)まで戻し、反応物を常温にした。分解反応は空気雰囲気下で行った。
【0039】
(乾燥工程)
分解工程で得られた反応物を、吹付式試験管濃縮装置(EYELA社製、商品名「MGS-3100」)を用い、130℃における窒素フローの条件で乾燥し、実施例1の分解生成有機物を得た。
【0040】
〔実施例2、比較例1~4〕
実施例1の液状炭化水素の製造において、反応溶媒として、ニトロベンゼンから、表1に示す溶媒に変更した方は同様にして、実施例2及び比較例1~4の分解生成有機物を得た。
【0041】
<分解生成有機物の分析>
実施例及び比較例で得られた分解生成有機物を、テトラヒドロフランで溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した。分析結果から、分解生成有機物の可溶化率と重量平均分子量(Mw)を測定した。また、濃度の異なる純ゴム成分のテトラヒドロフラン溶液を用いて検量線を作成した。検量線を利用してテトラヒドロフラン中の液状炭化水素を定量し、分解率を算出した。
【0042】
GPC測定の条件は次のとおりである。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0043】
比較例1で得られた重量平均分子量(Mw)を100.0として、実施例1~2及び比較例2~4の重量平均分子量(Mw)を指数化した。また、比較例1で得られた分解率を100.0として、実施例1~2及び比較例2~4の分解率を指数化した。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1からわかるように、ニトロベンゼン及びアニリンは、比較例の反応溶媒に比べ、高分解率で液状炭化水素を製造することができた。アニリンはニトロベンゼンに比べ、分解率が低いものの、高い分子量の液状炭化水素を製造しており、良好な結果であった。