(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインでアクセルペダルが解放される間により低速のギアへのシフトの実行を制御する方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/688 20060101AFI20241017BHJP
F16H 63/46 20060101ALI20241017BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20241017BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20241017BHJP
F16D 48/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F16H61/688
F16H63/46
F16H63/50
F16H59/18
F16D48/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020158630
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】102019000017513
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519463178
【氏名又は名称】フェラーリ エッセ.ピー.アー.
【氏名又は名称原語表記】FERRARI S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Emilia Est, 1163, 41100 MODENA, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ バローネ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア ナンニーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ センセリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ マルコーニ
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02653755(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/00-48/06
F16H 59/18
F16H 61/688
F16H 63/46
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在のギア(A)から前記現在のギア(A)よりも
低速の後続のギア(B)へとシフトするためにデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション(7)を備えるドライブトレイン(6)でアクセルペダル(22)が解放される間に、より低速のギアへのシフトの実行を制御する方法であって、
前記ドライブトレイン(6)は、2つの主シャフト(15)と、駆動輪(3)に接続される少なくとも1つの副シャフト(17)と、それぞれが内燃エンジン(4)のドライブシャフト(5)と対応する主シャフト(15)との間に介挿される2つのクラッチ(16A,16B)とを有するデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション(7)を備え、
前記制御方法は、
第1の時点(t
1)に、前記現在のギア(A)と関連付けられる出力クラッチ(16A)を開放するステップと、
前記第1の時点(t
1)に、前記後続のギア(B)と関連付けられる入力クラッチ(16B)を閉鎖するステップと、
第2の時点(t
2)に前記出力クラッチ(16A)の開放を完了するステップと、
前記第2の時点(t
2)に前記入力クラッチ(16
B)の閉鎖を完了するステップと、
前記第2の時点(t
2)と第3の時点(t
3)との間で、前記内燃エンジン(4)の回転速度(ω
E)を前記入力クラッチ(16B)の回転速度(ω
B)、すなわち、前記後続のギア(B)のギア比によって課せられる回転速度(ω
B)と同期させるステップと、
前記第2の時点(t
2)と前記第3の時点(t
3)との間で前記入力クラッチ(16B)を制御して、前記
入力クラッチ(16B)がシフト直後に
前記後続のギア(B)に伝達しようとしているトルクよりも大きく且つシフト直前に前記出力クラッチ(16A)が
前記現在のギア(A)に伝達したトルク(T
A)よりも大きいトルク(T
B)を前記入力クラッチ(16B)に一時的に伝達させて、前記ドライブトレイン(6)を備える路上走行車両(1)により所有される運動エネルギーを使用して前記内燃エンジン(4)を加速させるステップと、
を含む制御方法において、
前記第1の時点(t
1)と前記
第2の時点(t
2
)の前である第4の時点(t
4)との間でトルク(T
E)を生成するように前記内燃エンジン(4)を起動するステップを更に含むことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記路上走行車両(1)の縦方向の減速度(α)が前記第1の時点(t
1)と前記第2の時点(t
2)との間で減少する、請求項
1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記第2の時点(t
2)で前記路上走行車両(1)の前記縦方向の減速度(α)がゼロである、請求項
2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第2の時点(t
2)で前記路上走行車両(1)がプラスの縦方向の加速度(α)を有する、請求項
2に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、その開示全体が参照により本願に組み入れられる2019年9月30日に出願されたイタリア特許出願第102019000017513号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインでアクセルペダルが解放される間により低速のギアへのシフト(すなわち、後続のギア又は入力ギアが前回のギア又は出力ギアよりも低速であるギアシフト)の実行を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインは、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフトと、それぞれがそれぞれの主シャフトを内燃エンジンのドライブシャフトに接続するようになっている2つの同軸クラッチと、動きを駆動輪に伝達するとともにそれぞれがギアを形成するそれぞれのギアトレインによって主シャフトに結合され得る少なくとも1つの副シャフトとを備える。
【0004】
ギアシフト中、現在のギアが副シャフトを主シャフトに結合し、一方で、追従するギアが副シャフトを他の主シャフトに結合し、結果として、ギアシフトは、2つのクラッチを交差させることによって、すなわち、現在のギアに関連付けられるクラッチを開放することによって及び同時に追従するギアと関連付けられるクラッチを閉じることによって行われる。
【0005】
平均的なドライバーは、従来のシングルクラッチトランスミッションによって伝達される感覚に慣れているため、より低速のギアへのシフト中に、(エンジンブレーキを増大させるはずである新たなより低速のギアに起因して)路上走行車両の縦方向の減速度の大幅な変化に気付くはずである。しかしながら、デュアルクラッチトランスミッションの標準的なギアシフトでは、より低速のギアへのシフト中に、ギア比の漸進的な短縮に起因して路上走行車両の縦方向の減速度の漸進的な(したがって、殆ど気付かない)増大があり、このギアシフトモードは、性能の観点からは非常に建設的であるが、ドライバーの大多数では、全く逆の印象、つまり、性能を悪化させる印象をもたらす。
【0006】
ドライバーが表明した意見は、それが技術的に間違っている場合でも、十分に考慮に入れられなければならないことに留意すべきである。これは、前記ドライバーの大部分が客観的基準に基づかずに自分達が気付いて信じることに基づいて路上走行車両の挙動を判断するからである。言い換えると、最も重要なことは、車両がドライバーにより納得のいくものとして認識されることである(性能がある程度低下している場合でも)。
【0007】
特許出願である欧州特許出願公開第2239484号明細書及び欧州特許出願公開第3139069号明細書は、デュアルクラッチトランスミッションを備えるドライブトレインでより低速のギアへのシフトの実行を制御する方法について記載しており、該方法は、ドライバーにより認識されるギアシフト感覚を改善する(すなわち、ドライバーがギアシフト時に良好な感触をもつことができるようにする)が、(大幅な)性能悪化を伴わない。
【0008】
特許出願である欧州特許出願公開第2653755号明細書及び欧州特許出願公開第3139070号明細書は、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインでアクセルペダルが解放される間により低速のギアへのシフトの実行を制御する方法について記載している。この方法は、以下のステップ、すなわち、第1の時点に、現在のギアと関連付けられる出力クラッチを開放するとともに、後続のギアと関連付けられる入力クラッチを閉鎖するステップと、第2の時点に、出力クラッチの開放を完了するとともに、入力クラッチの閉鎖を完了するステップと、第2の時点と第3の時点との間で、内燃エンジンの回転速度を、入力クラッチの回転速度と、すなわち、後続のギアのギア比によって課される回転速度と同期させるステップと、第2の時点と第3の時点との間で、内燃エンジンのブレーキトルクよりも大きいトルクを入力クラッチに一時的に伝達させて路上走行車両により所有される運動エネルギーを使用して内燃エンジンを加速させるように入力クラッチを制御するステップとを含む。内燃エンジンは、第2の時刻(つまり、同期時間の正に最初)に作動されるとともに、内燃エンジンの回転速度を上げるのに役立つトルクを生成するために第3の時刻(つまり、同期時間の正に最後)に作動停止され、このようにして、同期時間の全体にわたって(つまり、第2の時刻から第3の時刻まで)内燃エンジンがトルクを生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインでアクセルペダルが解放される間により低速のギアへのシフトの実行を制御する方法を提供することであり、前記方法は、前述の欠点を被らず、同時に、実施が容易で経済的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に係る、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインでアクセルペダルが解放される間により低速のギアへのシフトの実行を制御する方法が提供される。
【0011】
添付の特許請求の範囲は、本発明の好ましい実施形態を記載し、明細書本文の一体部分を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
ここで、本発明の非限定的な実施形態を示す添付図面を参照して本発明を説明する。
【
図1】本発明の制御方法にしたがって制御される、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを伴うドライブトレインを備える後輪駆動の路上走行車両の概略平面図である。
【
図3】より低速のギアへの既知のシフト中における、デュアルクラッチトランスミッションの2つのクラッチによって伝達されるトルク、内燃エンジンのドライブシャフトの回転速度、路上走行車両の縦方向の減速度、及び、内燃エンジンにより生成されるトルクの時間変化を示す。
【
図4】本発明に係る方法を用いて行われるより低速のギアへのシフト中における、デュアルクラッチトランスミッションの2つのクラッチによって伝達されるトルク、内燃エンジンのドライブシャフトの回転速度、路上走行車両の縦方向の減速度、及び、内燃エンジンにより生成されるトルクの時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、数字1は、全体として、2つの前従動(すなわち、非駆動)輪2と2つの後駆動輪3とを備える路上走行車両(特に、自動車)を示す。前方位置には、ドライブトレイン6によって駆動輪3に伝達されるトルクT
Eを生成するドライブシャフト5を備える内燃エンジン4がある。ドライブトレイン6は、後輪駆動アセンブリに配置されるデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7と、ドライブシャフト5をデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の入力に接続するトランスミッションシャフト8とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、トレインのような態様でセルフロック差動装置9に接続され、セルフロック差動装置9からは一対のアクスルシャフト10が延び、各アクスルシャフト10は駆動輪3と一体である。
【0014】
路上走行車両1は、内燃エンジン4を制御する内燃エンジン4の制御ユニット11と、ドライブトレイン6を制御するドライブトレイン6の制御ユニット12と、バスライン13とを備え、バスライン13は、例えばCAN(カー・エリア・ネットワーク)プロトコルにしたがって製造され、路上走行車両1全体に延びるとともに、2つの制御ユニット11,12が互いに通信できるようにする。言い換えると、内燃エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、バスライン13に接続され、したがって、バスライン13を介して送信されるメッセージによって互いに通信できる。更に、内燃エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、専用の同期ケーブル14によって互いに直接に接続可能であり、専用の同期ケーブル14は、バスライン13によって引き起こされる遅延を伴うことなく、ドライブトレイン6の制御ユニット12から内燃エンジン4の制御ユニット11へ信号を直接に送信できる。或いは、同期ケーブル14がなくてもよく、また、2つの制御ユニット11,12間の全ての通信がバスライン13を使用してやりとりされてもよい。
【0015】
図2によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフト15を備える。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、それぞれがそれぞれの主シャフト15をトランスミッションシャフト8の介在により内燃エンジン4のドライブシャフト5に接続するようになっている2つの同軸クラッチ16を備え、各クラッチ16は、オイルバスクラッチであり、そのため、圧力制御され(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16内のオイルの圧力によって決定される)、別の実施形態によれば、各クラッチ16は、乾式クラッチであり、したがって、位置制御される(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16の可動要素の位置によって決定される)。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0016】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、ローマ数字で示される7つの前進ギア(第1のギアI、第2のギアII、第3のギアIII、第4のギアIV、第5のギアV、第6のギアVI、及び、第7のギアVII)と後進ギア(Rで示される)とを有する。主シャフト15及び副シャフト17は複数のギアトレインによって互いに機械的に結合され、各ギアトレインは、それぞれのギアを形成するとともに、主シャフト15に取り付けられる主ギアホイール18と、副シャフト17に取り付けられる副ギアホイール19とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の正確な動作を可能にするために、全ての奇数ギア(第1のギアI、第3のギアIII、第5のギアV、第7のギアVII)が同じ主シャフト15に結合され、一方、全ての偶数ギア(第2のギアII、第4のギアIV、及び、第6のギアVI)は他方の主シャフト15に結合される。
【0017】
各主ギアホイール18は、常に主シャフト15と一体に回転するようにそれぞれの主シャフト15にスプライン結合されるとともに、それぞれの副ギアホイール19と恒久的に噛み合い、一方、各副ギアホイール19は、副シャフト17に遊動態様で装着される。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は4つの同期装置20を備え、各同期装置は、副シャフト17と同軸に装着され、2つの副ギアホイール19間に配置されるとともに、2つのそれぞれの副ギアホイール19を副シャフト17に対して二者択一的に取り付けるべく(すなわち、2つのそれぞれの副ギアホイール19が副シャフト17と角度的に一体になるようにするべく)動作されるように設計される。言い換えると、各同期装置20は、副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく一方向に移動され得る、或いは、他の副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく他方向に移動され得る。
【0018】
デュアルクラッチトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0019】
図1によれば、路上走行車両1は、ドライバーのための運転位置を確保する乗員室を備え、運転位置は、シート(図示せず)と、ステアリングホイール21と、アクセルペダル22と、ブレーキペダル23と、2つのパドルシフタ24,25とを備え、2つのパドルシフタ24,25はデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7を制御してステアリングホイール21の両側に接続される。アップシフトパドルシフタ24は、アップシフト(すなわち、現在のギアよりも高く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作され、一方、ダウンシフトパドルシフタ25は、ダウンシフト(すなわち、現在のギアよりも低く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作される。
【0020】
以下、アクセルペダル22が解放される間(すなわち、内燃エンジン4が、カットオフ状態にあって、エンジンブレーキモードで動作してブレーキトルクTEを生成する間)における、現在のより高速のギアAから後続のより低速のギアBへのダウンシフトの実行の形態について説明し、すなわち、現在のギアAは後続のギアBよりも大きいギア比を有する(そのため、路上走行車両1が同じ速度であるとすると、現在のギアAにより内燃エンジン4が後続のギアBよりもゆっくりと作動する)。
【0021】
最初の状況(すなわち、ギアシフトの前)において、出力クラッチ16Bは、主シャフト15Aに動きを伝達するために閉じられ、主シャフト15Aは、噛み合わされる現在のギアAを介して動きを副シャフト17に伝達し、一方、入力クラッチ16Bは、開放しており、したがって、主シャフト15Bをトランスミッションシャフト8から分離する。アップシフトを開始する前に、ギアBを介して主シャフト15Bを副シャフト17に接続するために後続のギアBが噛み合わされる。ドライバーがギアシフトコマンドを送ると、ギアシフトは、主シャフト15A(したがってギアA)をトランスミッションシャフト8から(すなわち、内燃エンジン4のドライブシャフト5から)切り離すべくクラッチ16Aを開放すると同時に、主シャフト15B(したがって、ギアB)をトランスミッションシャフト8に(すなわち、内燃エンジン4のドライブシャフト5に)接続するべく入力クラッチ16Bを閉じることによって実行される。
【0022】
図3は、より低速のギアへの既知のシフトが実行される方法を示し、ドライバーは、ダウンシフトパドルシフタ25に作用することによってダウンシフトコマンドを送信する。
図3は、上から順に、
内燃エンジン4の回転速度ω
E、出力クラッチ16Aの回転速度ω
A、及び、入力クラッチ16Bの回転速度ω
Bの時間変化を示す第1の線図、
2つのクラッチ16A,16Bによって伝達されるトルクT
A,T
Bの時間変化を示す第2の線図、
内燃エンジン4によって生成されるトルクT
E(内燃エンジン4は、カットオフ状態にあり、したがって、負のトルクT
Eを生成するエンジンブレーキモードで動作する)の時間変化を示す第3の線図、
車両1の縦方向の加速度αの時間変化を示す第4の線図(車両1の縦方向の加速度αが常に負であり、すなわち、内燃エンジン4が負のトルクT
Eを生成している、つまり、ブレーキをかけている、したがって、エンジンブレーキモードで動作しているために車両1が減速していることに留意すべきである)、
を示す。
【0023】
ドライブトレイン6の制御ユニット12がドライバーからギアシフトコマンドを受信する(時点t0)と直ぐに、ドライブトレインの制御ユニット12が直ちに入力クラッチ16Bを充填し初め、すなわち、制御ユニットは、直ちに加圧オイルを入力クラッチ16Bへ供給し始め、実際に、後続のギアBと関連付けられる入力クラッチ16Bは、加圧オイルの充填が完了したときにのみ駆動後輪3に大きなトルクを伝達でき、したがって、加圧オイルは、それが入力クラッチ16Bの内側の更なる容積を占めることができないため、入力クラッチ16Bのディスクを圧縮する推力を及ぼす。結果として、後続のギアBと関連付けられる入力クラッチ16Bが実際に大きなトルクを駆動後輪3に伝達し始めることができる前に、所定の遅延時間間隔(一般に80~220千分の1秒)にわたって待つ必要があり、その間に、オイルによる入力クラッチ16Bの充填が完了する。入力クラッチ16Bの充填の完了は、通常、入力クラッチ16B内のオイルの圧力を検出する圧力センサによって監視され、入力クラッチ16B内のオイルの圧力が所定の閾値を超えると、これにより、入力クラッチ16Bの内容積が完全に満たされ、したがって、クラッチ16B内のオイルが圧縮し始める。結果として、(遅延時間が経過した後に)入力クラッチ16Bがオイルで充填されて大きなトルクをいつでも伝達できる時点t1は、入力クラッチ16B内のオイルの圧力が所定の閾値を超えるときに定められる。
【0024】
ドライブトレインの制御ユニット12が直ちに入力クラッチ16Bを閉じ始める時点t0から、遅延時間が経過した後に入力クラッチ16Bがオイルで充填されて大きなトルクをいつでも伝達できる時点t1まで、路上走行車両1の動態には何も起こらず、つまり、内燃エンジン4により生成される全トルクTE(内燃エンジン4がカットオフ状態にあり、したがってエンジンブレーキとして作用するため、負のトルクTE、つまり、ブレーキトルクTEである)は、ギアシフトの開始前と同様に、完全にクラッチ16Aによって伝達される。時点t1において、入力クラッチ16BはトルクTBを伝達し始め(すなわち、トルクTBが増大し始める)、同時に、クラッチ16Aは開放するように命じられ(すなわち、トルクTAが減少し始める)、クラッチ16Aが既に加圧オイルで満たされているため、現在のギアAと関連付けられるクラッチ16Aの開放が遅延を伴うことなく行われ、この段階では、ソレノイドバルブを開くことによりオイルの一部を抜いてクラッチ16Aを空にするだけで済む(したがって、その動作は瞬時的である)ことに留意すべきである。
【0025】
時点t1と時点t2との間には、2つのクラッチ16A,16B間でのトルクの伝達があり、すなわち、クラッチによって伝達されるトルクは(多かれ少なかれ漸進的に)減少し、同時に、入力クラッチ16Bによって伝達されるトルクは(多かれ少なかれ漸進的に)増大し、したがって、2つのクラッチ16A,16B間の交差が決定される。時点t2では、クラッチ16Aが完全に開放し(したがって、クラッチはもはやトルクを伝達しない)一方、入力クラッチ16Bは、内燃エンジン4の全トルクTEを伝達する。時点t1と時点t2との間にはシフト時間があり、その間に、クラッチ16Aにより伝達されるトルクはそれがゼロになるまで減少し、同時に、入力クラッチ16Bにより伝達されるトルクは、それが内燃エンジン4により生成されるトルクTEに達するまで増大し(既に前述したように、内燃エンジン4は、カットオフ状態にあり、そのため、エンジンブレーキとして作用し、したがって負のトルクTEを生成する)、すなわち、その間に、クラッチ16Aが駆動輪3からそれ自体を切り離し、入力クラッチ16Bが駆動輪3に接続されるようになる。
【0026】
内燃エンジン4の回転速度ω
Eは、時点t
2までのギアシフト前に現在のギアAのギア比によって課される回転速度ω
Aに等しく、ギアシフト中に後続のギアのギア比によって課される回転速度ω
Bに向かって漸進的に増大するとともに、ギアシフト後の回転速度ω
Bに等しい。
図3によれば、時点t
2まで、クラッチ16Aは未だ完全に開放しておらず、したがって、内燃エンジン4の回転速度ω
Eは、クラッチ16Aと関連付けられる現在のギアAのギア比によって課される回転速度ω
Aに等しく(一致し)、その結果、クラッチ16Aが完全に開放された後でのみ内燃エンジン4の回転速度ω
Eが増大される。
【0027】
時点t2と時点t3との間には同期時間があり、その間に、内燃エンジン4の回転速度ωEは、現在のギアAのギア比によって課される回転速度ωAから、後続のギアBのギア比によって課される回転速度ωBまで増大し、すなわち、回転速度ωEは回転速度ωBと同期される。
【0028】
クラッチ16Aの完全な開放後に内燃エンジン4の回転速度ωEを増大させるために、路上走行車両1が保有する唯一の運動エネルギーが使用され(すなわち、内燃エンジン4は、決してオンにされることなく、常にエンジンブレーキとしてのみ作用する)、内燃エンジン4の回転速度ωEを入力クラッチ16Bの回転速度ωBと同期させるのに必要な時間を短縮するために、時点t2と時点t3との間で入力クラッチ16Bが過度に閉鎖され、したがって、より大きなトルクを駆動輪3に伝達するためにオイルの圧力が増大される。その後、入力クラッチ16Bは、ギアシフト直後にクラッチ16Bが伝達しようとしているトルクTBよりも大きく且つギアシフトの直前に出力クラッチ16Aが伝達したトルクTAよりも大きいトルクTBを一時的に伝達するように制御される。言い換えると、内燃エンジン4の回転速度ωEを入力クラッチ16Bの回転速度ωBと同期させるために、一時的に増大されるのは、内燃エンジン4により生成されるトルクTEではなく、路上走行車両1から内燃エンジン4へ運動エネルギーをより迅速に伝達するために一時的に増大される入力クラッチ16Bにより伝達されるトルクTBである。つまり、内燃エンジン4の回転速度ωEを初期値ωAから最終値ωBまで漸進的に増大させるために内燃エンジン4により生成される(負の)トルクTEよりも(絶対値で)大きい(負の)トルクを駆動後輪3に伝達するように入力クラッチ16Bが制御され、この状況において、入力クラッチ16Bは、内燃エンジン4によって生成される(負の)トルクTE及びドライブシャフト5が所有する運動エネルギーの増大によって生成される(すなわち、ドライブシャフト5の加速によって生成される)更なる(追加の)(負の)トルクの両方を後輪3に伝達するように制御される。
【0029】
車両1の縦方向の加速度αは、ほぼ一定であり、ギアシフトの直前の値αA(車両が減速しているため、負である)に等しく、ほぼ一定であり、ギアシフト直後の値αB(車両が減速しているため、負であり、また、絶対値でαAよりも大きい)に等しい。ギアシフト中の車両1の縦方向の加速度αの(絶対値での)増大は、内燃エンジン4によって生成される(負の、すなわち、ブレーキ)トルクTEが、一定のままであって、ギア比(ギアAがギアBよりも高い)の減少を伴って伝達され、したがって、増大するブレーキトルクが駆動後輪3に印加されるという事実に起因する。
【0030】
図3によれば、入力クラッチ16Bを一時的に過度に閉じるという前述の解決策は、時点t
2と時点t
3との間に減速度ピーク(すなわち、車両1の縦方向の加速度αの突然の減少)をもたらし、この減速度ピークは、特に関連する急速な減速度ジャンプΔαを決定するとともに、快適な乗り心地が悪化する場合であってもスポーツドライビング感覚をドライバーに与える。実際に、時点t
2と時点t
3との間の僅かな時間(約80~150ミリ秒)内の縦方向の減速度αの増大(絶対値)及びその後の減少(絶対値)は、首の「関節」周りでの車両の搭乗者の頭部の振動運動を決定し、車両の搭乗者の頭部の前方への動き(負の縦方向加速度αが絶対値で増大するとき)及び後方への動き(負の縦方向加速度αが絶対値で減少するとき)は、スポーツドライビングモードが使用されているときにそれが行なわれなければ不快であると認識される。結果として、入力クラッチ16Bを一時的に過度に閉じるという前述の解決策は、スポーツモードでの運転中に快適さを犠牲にしてさえも「運転の喜び」(つまり、高い「スポーツドライビング」感覚)に到達しなければならない場合にのみ使用される。
【0031】
前述したように、入力クラッチ16Bは、一時的に過度に閉じられるように制御され、そのため、ギアシフト直後にクラッチ16Bが伝達しようとするトルクTBよりも大きく且つギアシフトの直前に出力クラッチ16Aが伝達したトルクTAよりも大きいトルクTBを伝達し、このようにして、ドライブシャフト5を加速させるのに必要なトルクは、路上走行車両1の動きから「引き出され」、また、内燃エンジン4は、同期時間中(すなわち、時点t2と時点t3との間)にオンにされる必要がない。この戦略は、それが内燃エンジン4によるプラスのトルクTEの生成を必要とせず、したがって、ギアシフト中の燃料消費を伴わないため、エネルギーの観点から特に効率的である。しかしながら、他方で、この戦略(短時間でダウンシフトを実行すること、すなわち、時点t2と時点t3との間の同期時間を含むことを目的とする)は、特に高い衝撃ブレーキトルクを駆動輪3に印加することを伴い、それにより、不利な状況下(つまり、路面のグリップが小さい場合)では、駆動輪3の一時的なブロックが引き起こされる可能性があり、これは、ドライバーに伝えられる感覚の観点から(理想的な運転は常に車輪のブロックを決して伴わないため、駆動輪3のブロックは常に「エラー」である)、タイヤの摩耗の観点から、及び、安全性の観点から(車輪がブロックすると、車輪の方向性が失われる)確実にマイナスである。
【0032】
ダウンシフト中に駆動輪3をブロックする危険にさらすのを回避するために、
図4にしたがって、僅かに異なる態様で操作することができる。すなわち、同期時間の前(時点t
2と時点t
3との間)、内燃エンジン4は、内燃エンジン4により生成されるトルクT
Eを増大させるために一時的にオンにされ、そのため、内燃エンジン4の回転速度ω
Eを後続のギアのギア比により課される回転速度ω
Bと同期させるのに役立つ。特に、時点t
1(入力クラッチ16Bが閉まり始めてクラッチ16Aが開放し始める時点)と、回転速度ω
E,ω
Bの同期が完了されて入力クラッチ16Bの過度の閉鎖が終了する、時点t
3の前の時点t
4との間では、内燃エンジン4によって生成されるトルクT
Eを増大させるために内燃エンジン4がオンにされる。このようにして、時点t
1と時点t
2との間では、車両1の縦方向の加速度αが増大し(ゼロ或いは更には僅かにプラスの値に達する)、その後、後続の減速度ピーク(すなわち、車両1の縦方向の減速度αの突然の減少)が時点t
2と時点t
3との間で起こり、この減速度ピークは、特に関連性があり急速であるとともに
図3に示される制御モードを使用して得られる減速度ジャンプΔαと実質的に同じ度合いを有する減速度ジャンプΔαを決定する。しかしながら、
図4に示される制御モードを使用すると、減速度ジャンプΔαは、
図3に示される制御モードを使用して得られる減速度ジャンプと同じ度合いを特徴とするにもかかわらず、絶対値では、非常に高い減速度値に到達せず、したがって、駆動輪3を一時的にブロックするリスクはない。実際に、
図4に示される制御モードを使用すると、減速度ジャンプは、より高い初期値(時点t
1と時点t
4との間で内燃エンジン4をオンにすることによって得られる)から始まり、より高い最終値(つまり、より小さな減速度)に達する。
【0033】
ダウンシフト中、内燃エンジン4は、時点t
2と、常に時点t
3の前である時点t
4との間でトルクT
Eを生成するように作動される。
図4に示される実施形態では、時点t
4が時点t
2と時点t
3との間にあり、すなわち、時点t
4は、時点t
2の後であるとともに、時点t
3の前であり、特に、時点t
4は時点t
2の近傍(近く)であるとともに、時点t
3から遠い(つまり、時点t
2と時点t
4との間で経過する時間間隔は、t
4とt
3との間で経過する時間間隔よりも短い)。本明細書中に示されない異なる実施形態によれば、時点t
4は時点t
2の前であり、すなわち、内燃エンジン4は時点t
2の前にオフにされる。
【0034】
言い換えると、ある瞬間に、ドライバーにより期待される感覚は極めてスポーツのようなものであり、それは一般に急速な加速と音の変化とをもたらすことになり、これらの感覚に到達したいという要望に加えて、短いシフト時間の観点では路上走行車両1のより迅速な応答の必要性もある。ダウンシフトの場合、これらの要求は、閉じようとしている入力クラッチ16Bに追加トルクTBを印加して路上走行車両1の運動エネルギーにより内燃エンジン4を加速させることによって満たすことができ、こうすることで、減速度ピークを得ることができ(減速度が急増した後に急減する)、したがって、極めてスポーツのような感覚をドライバーに与えることができる。しかしながら、スポーツのような高性能なダウンシフトへの欲求は、安全の必要性を無視することができず、したがって、ダウンシフト中に駆動輪3をブロックする危険を回避するために、トルク交換段階中に内燃エンジン4が一時的にオンにされ、それにより、同じ減速度ジャンプΔαに達するが、「危険」な(すなわち、非常に高い)減速度値に達することない(ちなみに、内燃エンジン4の再始動は、ダウンシフト中に心地よい音をもたらす)。したがって、トルク交換段階中に内燃エンジン4を一時的にオンにすることにより、スポーツシフト感覚を確保することが可能であるが、煩わしいだけでなく非常に危険にもなり得るブロック現象に駆動輪3を晒すことがない。
【0035】
本明細書中に記載される実施形態は、この理由で本発明の保護の範囲を越えることなく、互いに組み合わせられ得る。
【0036】
前述の制御方法は様々な利点を有する。
【0037】
まず最初に、前述したより低速のギアへのシフトを実行する制御方法は、(ダウンシフト中の内燃エンジン4の再始動に起因する)内燃エンジン4の「心地よい」音と相まって高性能の感覚(「スポーティさ」)をドライバーに与え、これもドライバーから高く評価される。
【0038】
更に、前述の制御方法は、追加の計算機能が必要ないことから、追加の物理的構成要素の設置を必要とせず、ドライブトレイン6の制御ユニット12の拡張を求めないため、実施が容易で経済的である。
【符号の説明】
【0039】
1 路上走行車両
2 前輪
3 後輪
4 エンジン
5 ドライブシャフト
6 ドライブトレイン
7 トランスミッション
8 トランスミッションシャフト
9 差動装置
10 アクスルシャフト
11 エンジン制御ユニット
12 ドライブトレイン制御ユニット
13 バスライン
14 同期ケーブル
15 主シャフト
16 クラッチ
17 副シャフト
18 主ギアホイール
19 副ギアホイール
20 同期装置
21 ステアリングホイール
22 アクセルペダル
23 ブレーキペダル
24 アップシフトパドルシフタ
25 ダウンシフトパドルシフタ
ωE 回転速度
ωA 回転速度
ωB 回転速度
TE トルク
TA トルク
TB トルク
α 加速度
t0 時点
t1 時点
t2 時点
t3 時点
t4 時点