IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の走行制御装置 図1
  • 特許-車両の走行制御装置 図2
  • 特許-車両の走行制御装置 図3
  • 特許-車両の走行制御装置 図4
  • 特許-車両の走行制御装置 図5
  • 特許-車両の走行制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20241017BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20241017BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241017BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20241017BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W40/02
B60W60/00
B60W40/09
G08G1/16 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020167840
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059939
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】大見川 享士
(72)【発明者】
【氏名】羽鹿 亮
(72)【発明者】
【氏名】茂木 啓輔
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-84092(JP,A)
【文献】特開2018-20628(JP,A)
【文献】特開2006-251894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、
前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、
前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、
を有し、
前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、前記車線の縁へ寄った走行を前記車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行することができ、
前記逸脱抑制制御は、前記車線の縁へ寄って走行している前記車両の向きを前記車線に沿った方向へ向ける第一段階制御と、前記第一段階制御の後に実行される第二段階制御とを含む複数段階の制御を含み、
前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両についての前記車線での幅方向の位置についての情報を取得し、
前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいてカーブする車線の内側の縁へ寄って走行していると判断する場合、前記逸脱抑制制御についての複数段階の制御の中の、前記第二段階制御以下の制御の実行を禁止する、
車両の走行制御装置。
【請求項2】
道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、
前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、
前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、
を有し、
前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする車線の走行中での前記車線の内側の縁へ寄った走行を前記車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行することができ、
前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両についての前記車線での幅方向の位置についての情報を取得し、
前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいてカーブする車線の内側の縁へ寄って走行していると判断して前記逸脱抑制制御を実行した場合、前記逸脱抑制制御の実行中に前記取得部が取得する情報に基づいて前記車両についての前記車線での幅方向の位置が前記車線の中央範囲へ戻ると判断するまで、前記逸脱抑制制御の実行を禁止する、
両の走行制御装置。
【請求項3】
道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、
前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、
前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、
を有し、
前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする車線の走行において前記車線の前記中央範囲より内側の縁へ寄って走行するインカット走行制御を実行することができ、
前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両が走行している前記車線より内側の状況の情報を取得し、
前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいて前記車両が走行している前記車線のカーブの内側に隣接する車線を他の車両が走行している場合、または前記車両が走行している前記車線のカーブの内側に構造物がある場合、前記インカット走行制御の実行を禁止する
両の走行制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記他の車両または前記構造物と所定距離以下で接近することになる場合に、前記インカット走行制御の実行を禁止する、
請求項記載の、車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記インカット走行制御の実行中に前記取得部が取得する情報に基づいて、前記インカット走行制御の実行を禁止するとしたカーブの走行を継続していると判断する場合には、前記インカット走行制御の実行の禁止を維持する、
請求項3または4記載の、車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両は、車線の車幅方向の中央範囲だけを走行するのではなく、乗員の操舵によっては、車両が不要に車線の縁へ寄って走行してしまうことがある。また、場合によっては、車線の縁へ寄った走行を可能にすることが望ましい。
特許文献1では、自車両の車線幅方向横位置が予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置に達した場合、制御開始と判定する制御開始判定手段と、制御開始判定手段で制御開始と判定した場合、自車走行車線の中央側へ向かうヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御する車両制御手段と、を有する車両運転支援装置を開示する。これにより、特許文献1では、車両が不要に車線の縁へ寄って走行してしまうことを抑制できる。
また、特許文献1では、自車両の車線での横位置が戻ると、制御開始位置を車線幅方向で車線の縁側へ変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-046371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、車線の縁へ寄った走行についての制御の開始位置を、制御の実行状況のみに応じて変更してしまうと、制御の度に異なる開始位置から制御が開始されてしまうようになり、複数回の制御が実行されるような走行状況では乗員は介入制御の不安定さを感じることになる。乗員は介入制御について明らかに不安定な違和感を受けることになる。しかも、特許文献1での制御の開始位置の変更は、車両が実際に走行している走行状況とは無関係な変更であるため、乗員は不安定さの違和感の原因が車両側にあると判断することになる。介入のたびに異なる制御の開始位置において複数回にわたって介入される制御について、乗員は正しい制御であると理解することは難しい。
【0005】
このように車両では、車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より車線の縁へ寄った走行についての制御の実行について改善することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る車両の走行制御装置は、道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、を有し、前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、前記車線の縁へ寄った走行を前記車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行することができ、前記逸脱抑制制御は、前記車線の縁へ寄って走行している前記車両の向きを前記車線に沿った方向へ向ける第一段階制御と、前記第一段階制御の後に実行される第二段階制御とを含む複数段階の制御を含み、前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両についての前記車線での幅方向の位置についての情報を取得し、前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいてカーブする車線の内側の縁へ寄って走行していると判断する場合、前記逸脱抑制制御についての複数段階の制御の中の、前記第二段階制御以下の制御の実行を禁止する。
【0008】
本発明の一形態に係る車両の走行制御装置は、道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、を有し、前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする車線の走行中での前記車線の内側の縁へ寄った走行を前記車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行することができ、前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両についての前記車線での幅方向の位置についての情報を取得し、前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいてカーブする車線の内側の縁へ寄って走行していると判断して前記逸脱抑制制御を実行した場合、前記逸脱抑制制御の実行中に前記取得部が取得する情報に基づいて前記車両についての前記車線での幅方向の位置が前記車線の中央範囲へ戻ると判断するまで、前記逸脱抑制制御の実行を禁止する。
【0009】
本発明の一形態に係る車両の走行制御装置は、道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置であって、前記車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる制御部と、前記車両に設けられ、少なくとも前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部と、を有し、前記制御部は、前記車線の中央範囲を走行する場合より前記車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする車線の走行において前記車線の前記中央範囲より内側の縁へ寄って走行するインカット走行制御を実行することができ、前記取得部は、前記車両が走行している車線での走行状況に関する情報として、前記車両が走行している前記車線より内側の状況の情報を取得し、前記制御部は、前記取得部が取得する情報に基づいて前記車両が走行している前記車線のカーブの内側に隣接する車線を他の車両が走行している場合、または前記車両が走行している前記車線のカーブの内側に構造物がある場合、前記インカット走行制御の実行を禁止する。
【0010】
好適には、前記制御部は、前記他の車両または前記構造物と所定距離以下で接近することになる場合に、前記インカット走行制御の実行を禁止する、とよい。
【0011】
好適には、前記制御部は、前記インカット走行制御の実行中に前記取得部が取得する情報に基づいて、前記インカット走行制御の実行を禁止するとしたカーブの走行を継続していると判断する場合には、前記インカット走行制御の実行の禁止を維持する、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、道路に設けられる車線を走行可能な車両の走行制御装置において車両の走行を制御する制御部は、車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる。そして、制御部は、車両に設けられて少なくとも車両が走行している車線での走行状況に関する情報を取得することができる取得部が取得する情報に応じて、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行を禁止する。これにより、車両は、車両の走行状況に応じて、適応的に、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行を制限することができる。特に、本発明では、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行の制限を、たとえば前回の制限実行からの経過時間といった固定的な制御によらずに、車両が実際に走行している状況に応じてその現実に対応するように制限するので、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行の可否について現実の応じるように最適化することができる。本発明では、車両が実際に走行している状況に対して良好に対応するように、車線の縁へ寄った走行についての制御を実行できるようになる。乗員は、車両が実際に走行している状況に応じて、車線の縁へ寄った走行についての制御を実行が可否制御されるため、違和感を受け難くなる。
本発明では、車両が車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より車線の縁へ寄って走行する場合についての制御の実行を改善することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る走行制御装置が適用される自動車の説明図である。
図2図2は、図1の自動車において走行制御装置として機能する制御系の説明図である。
図3図3は、図2の制御系により実行される逸脱抑制制御のフローチャートである。
図4図4は、カーブする車線を走行する場合での逸脱抑制制御の一例の説明図である。
図5図5は、本発明の第二実施形態において図2の制御系により実行されるインカット走行制御のフローチャートである。
図6図6は、カーブする車線を走行する場合でのインカット走行制御の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る走行制御装置が適用される自動車1の説明図である。
自動車1は、道路を走行可能な車両の一例である。
図1には、自動車1が走行する二車線の直線状の道路が併せて図示されている。図1の道路は、複数の車線として、2つの車線を有する。道路の幅方向の左右両縁と、複数の車線の間とには、複数の車線境界線が設けられる。車線境界線は、連続した実線による白線または黄線であっても、破線状の白線または黄線であってもよい。これにより、道路の各車線の左右両側の縁には、一対の車線境界線が設けられる。道路の各車線は、複数の車線境界線により区切られる。自動車1は、通常、車線境界線により区切られている車線に沿って走行する。
【0016】
図2は、図1の自動車1において自動車1の走行制御装置として機能する制御系10の説明図である。
【0017】
図2の自動車1の制御系10は、自動車1を制御するために複数の制御ECUを有する。複数の制御ECUは、具体的にはたとえば、検出ECU11、操作ECU12、ドライブECU13、通信ECU14、である。なお、自動車1の制御系10は、図示しない他の制御ECUを備えてよい。また、各制御ECUは、制御ECUが実行に使用するプログラムおよびデータを記憶する不図示のメモリなどが接続されてよい。制御ECUは、メモリに記録されているプログラムを読み込んで実行することにより、それぞれの制御を実行する。
複数の制御ECUは、自動車1で採用される例えばCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)、LAN(Local Area Network)、FlexRay、CXPI(Clock Extension Peripheral Interface)といった車ネットワーク17に接続される。車ネットワーク17は、たとえば、複数の制御ECUに接続される複数のバスケーブルと、複数のバスケーブルがバス接続される中継装置としてのセントラルゲートウェイ(CGW)と、で構成されてよい。複数の制御ECUは、車ネットワーク17を通じて相互にメッセージを送受できる。これにより、複数の制御ECUは、自動車1を制御する。
また、図2の車ネットワーク17には、タイマ15、GNSS受信機16、が接続されている。GNSS受信機16は、GNSS(Global Navigation Satellite System)の衛星の電波を受信し、自動車1の現在位置および現在時刻といった情報を含むメッセージを生成して車ネットワーク17へ出力する。
タイマ15は、自動車1で用いる時刻、経過時間、期間を計測し、計測した時の情報を含むメッセージを生成して車ネットワーク17へ出力する。タイマ15の時刻は、GNSS衛星の電波に基づく高精度な世界時刻としての現在時刻により校正されてよい。
【0018】
検出ECU11には、自動車1に設けられるたとえばヨーセンサ21、ステレオカメラ22、レーダー23、Gセンサ24とった検出デバイスが接続される。検出ECU11は、検出デバイスの検出値、それに基づく情報などを車ネットワーク17へ出力する。
【0019】
ヨーセンサ21は、走行する自動車1に生じているヨー角を検出する。検出ECU11は、ヨーセンサ21の検出値に基づいて、走行する自動車1に生じるヨー角を演算してよい。ヨー角は、自動車1の上下方向の軸の周囲において自動車1を回転させる動きの方向および程度を示すものであり、一番的に加速度または角速度の単位で表される。
【0020】
ステレオカメラ22は、たとえば自動車1から前向きに設けられた複数のカメラを有する。複数のカメラは、たとえば自動車1の車幅方向に沿って並ぶ。この場合、複数のカメラは、図1において撮像範囲として示している自動車1の前方を撮像する。検出ECU11は、撮像画像を解析して、自動車1の走行状況についての情報を生成してよい。検出ECU11は、たとえば撮像画像を解析して自動車1の特徴が抽出できる場合、他の自動車100の情報を生成してよい。検出ECU11は、たとえば撮像画像を解析して車線境界線の特徴が抽出できる場合、車線境界線の情報を生成してよい。検出ECU11は、双方のカメラの撮像画像において異なる位置に撮像されている他の自動車100や車線境界線といった被写体の撮像位置の相違に基づいて、複数のカメラの配置に基づく三角法の演算により、自動車1からの被写体の相対的な方向および距離を演算してよい。検出ECU11は、撮像画像での被写体の撮像範囲の情報に基づいて、被写体の種類、大きさ、などを推定してよい。検出ECU11は、たとえば自動車1が走行している道路の車線境界線を含む撮像画像を取得すると、車線境界線の特徴に基づいて自動車1が走行している車線や道路の形状や幅を推定してよい。
【0021】
レーダー23は、たとえば自動車1からその周囲へ向けて設けられている複数の超音波センサを有する。複数の超音波センサは、図1に示すように、自動車1の右前方向を中心する検知範囲、自動車1の左前方向を中心する検知範囲、自動車1の右後方向を中心する検知範囲、自動車1の左後方向を中心する検知範囲、の4つの検知範囲について二次元または三次元的に検知してよい。図1の4つの検知範囲は、自動車1の周囲360度の方向を網羅している。検出ECU11は、レーダー23としての複数の超音波センサの検知パターンから、自動車1の周辺に存在する物体を推定してよい。たとえば走行中の自動車1の周囲の一定方向に存在し続ける検知パターンは、自動車1と同方向へ移動している物体の検知パターンとして推定してよい。検出ECU11は、検知パターンを検出した際の超音波の送信から受信までの期間に基づいて、物体までの距離を演算してよい。
また、検出ECU11は、これら検出デバイスから得られる情報を統合して、自動車1の走行状況の情報、たとえば自動車1の周囲にいる他の自動車100などの物体、車線境界線、車線、道路についての情報を生成してよい。検出ECU11は、たとえばステレオカメラ22に撮像されている被写体までの方向および距離を、レーダー23の検知情報に基づいて生成してよい。検出ECU11は、検出デバイスの検出値に基づいてさらに自動車1の走行状況を判断し、たとえば走行車線の中央範囲を走行しているか、走行車線の右縁へ寄って走行しているか、または走行車線の左縁へ寄って走行しているかを判断し、その判断結果である自動車1の走行状況の情報を車ネットワーク17へ出力してよい。この場合、検出ECU11は、自動車1の制御系10において取得部として機能できる。
【0022】
Gセンサ24は、加減速などにより自動車1に生じている加速度を検出する。Gセンサ24は、たとえば前後方向、車幅方向、および上下方向の3軸方向の加速度を検出してよい。Gセンサ24は、加速度に加えて、角速度、方向を検出する所謂9軸のものでもよい。検出ECU11は、Gセンサ24の検出値に基づいて、自動車1のヨー角、ピッチ角、ロール角を演算してよい。この場合、ヨーセンサ21は不要としてよい。
【0023】
操作ECU12は、自動車1の乗員による自動車1の運転操作を管理する。操作ECU12には、たとえばステアリング31、図示外のペダル、レバー、ボタン、が接続される。ステアリング31などの乗員の操作部材が操作されると、操作ECU12は、その操作値、それに基づく情報などを車ネットワーク17へ出力する。たとえばステアリング31が右へ回されると、操作ECU12には、ステアリング31の右への操作方向および操作量の情報を、車ネットワーク17へ出力する。
【0024】
通信ECU14には、通信デバイス51が接続される。通信デバイス51は、他の自動車100の通信機器、基地局、携帯端末などと通信経路を確立する。通信ECU14は、通信デバイス51により確立される通信経路を用いて、たとえば自動車1の走行や自動運転を支援するサーバ装置と通信して情報を送受する。通信ECU14は、送信する情報を、車ネットワーク17を通じて他の制御ECUから取得し、サーバ装置へ送信する。通信ECU14は、サーバ装置から受信した情報を、車ネットワーク17を通じて他の制御ECUへ出力する。通信ECU14が受信する情報には、たとえば自動車1の自動運転のための進路や走行可能範囲の情報がある。
【0025】
ドライブECU13には、自動車1の移動を制御する制御部である。ドライブECU13には、たとえば、自動車1の操舵を制御する操舵アクチュエータ41、自動車1の加速を制御する駆動アクチュエータ42、自動車1の制動を制御する制動アクチュエータ43、が接続される。操舵アクチュエータ41は、たとえば自動車1のステアリング機構を動作させ、自動車1の前輪の向きを制御する。駆動アクチュエータ42は、たとえば自動車1を駆動するエンジンのスロットルの開度、モータの通電量を制御する。制動アクチュエータ43は、たとえばブレーキ機構を動作させ、ブレーキシューについてのブレーキディスクへの圧力を制御する。制動アクチュエータ43は、モータによる回生を制御してよい。
ドライブECU13は、自動車1に設けられる他の制御ECUから情報を取得し、自動車1の移動を制御する。ドライブECU13は、操作ECU12から取得する乗員操作の情報に基づいて自動車1の移動を制御するだけでなく、さらに検出ECU11から得られる自動車1が走行している車線での走行状況に関する情報を取得して、それに応じて乗員操作の情報を調整して運転支援制御を実行してよい。ドライブECU13は、通信ECU14が取得する自動運転の進路や走行可能範囲に関する情報とともに、検出ECU11から得られる自動車1が走行している車線での走行状況に関する情報を取得して、自動車1の自動運転の制御を実行してよい。
【0026】
ところで、このような運転支援制御または自動運転制御には、自動車1が走行している車線を維持して走行するレーンキープ走行制御がある。レーンキープ走行制御において、ドライブECU13は、自動車1が走行している車線での走行状況に関する情報として、自動車1についての走行車線での幅方向の位置についての情報を生成してまたは他の制御ECUから取得し、自動車1が図1のような走行車線の中央範囲を継続して走行するように自動車1の移動を制御する。図1の走行車線の中央範囲は、左右両側の車線境界線で区切られている走行車線の範囲から、左右両側の車線境界線から所定距離の範囲を除いた範囲となっている。
この場合、ドライブECU13は、基本的に自動車1が走行している走行車線を検出し、走行車線の左右両側の縁を示す複数の車線境界線から中央側へ離れた範囲での走行を続けるように自動車1の走行を制御する。ドライブECU13は、運転支援下でのレーンキープ走行制御において、乗員の運転操舵の有無にかからず、自動車1が走行車線の中央範囲を走行し続けるように自動車1の走行を制御してよい。ドライブECU13は、自動運転下のレーンキープ走行制御において、自動運転のための情報の取得の有無にかからず、自動車1が走行車線の中央範囲を走行し続けるように自動車1の走行を制御してよい。
しかしながら、このようなレーンキープ走行制御を実行していたとしても、たとえば道路や走行車線の幅が変化したり、道路や走行車線のカーブの曲率がカーブの途中において変化したりすることにより、レーンキープ走行制御により走行車線の中央範囲での走行を継続できなくなる可能性がある。自動車1は、レーンキープ走行制御の下で走行していたとしても、走行車線の右縁や左縁に寄って走行してしまう可能性がある。図1に破線で示す制御進路では、直線状の走行車線を走行する自動車1は、右側の隣接車線へ近づいて寄るように走行し始めている。このため、レーンキープ走行制御を実行可能な自動車1などでは、万が一の事態のために、走行車線の中央範囲より走行車線の縁へ寄った走行を、走行車線の中央範囲への走行へ戻す逸脱抑制制御を併せて実行することが望ましい。
【0027】
図1には、自動車1における基本的な逸脱抑制制御の一例が示されている。
【0028】
ドライブECU13は、図1の逸脱抑制制御において、まず、撮像画像などに基づいて、自動車1が走行車線の縁へ寄って走行しているか、またはしようとしているか否かを判断する。たとえば、直線状の走行車線の左右両側の縁にある右側の車線境界線と左側の車線境界線とが撮像画像に非対称に撮像されている場合、近づいている車線境界線までの自動車1からの距離が所定値以下である場合、ドライブECU13は、自動車1が走行車線の縁へ寄って走行している、またはしようとしていると判断する。この場合、ドライブECU13は、自動車1の走行を実際に制御するための逸脱抑制制御を開始する。
【0029】
逸脱抑制制御において、ドライブECU13は、まず、自動車1が走行車線の縁へ寄って走行している自動車1の向きを車線に沿った方向へ向ける第一段階制御を実行する。ドライブECU13は、たとえば、自動車1の操舵の方向を走行車線の中央側へ調整し、ヨーセンサ21などから制御中の自動車1の向きを取得する。そして、自動車1の向きについての、走行車線の縁に対するヨー角がゼロとなると、ドライブECU13は、第一段階制御を終了する。
【0030】
第一段階制御の後に、ドライブECU13は、車線に沿った方向へ向いている自動車1を、車線の縁に沿って走行させる第二段階制御を実行する。ドライブECU13は、たとえば近接している車線境界線が撮像画像において一定の位置で撮像されるように、自動車1の操舵の方向を調整する。直線状の走行車線では、自動車1の操舵の方向は、最終的には前へ進行する方向に維持されるようになる。これにより、自動車1の姿勢や挙動といった走行が安定する。ドライブECU13は、加速度センサなどから制御中の自動車1の挙動の変化を示す情報を取得し、自動車1の挙動といった走行が安定すると、第二段階制御を終了する。
【0031】
第二段階制御の後に、ドライブECU13は、車線の縁に沿って走行している自動車1を、車線の中央へ戻す第三段階制御を実行する。ドライブECU13は、たとえば走行車線の左右両側の車線境界線が撮像画像において対照的な位置で撮像されるように、自動車1の操舵の方向を調整する。これにより、走行車線の縁へ寄って走行している自動車1は、走行車線の中央範囲へ戻る。ドライブECU13は、制御中に撮像画像を取得し、撮像画像において走行車線の中央範囲に復帰していることを判断すると、第三段階制御を終了する。
【0032】
このような第一段階制御から第三段階制御までの複数段階による一連の逸脱抑制制御により、走行車線の縁へ寄って走行している自動車1は、走行車線の中央範囲へ戻って、走行車線の中央範囲を継続して走行することができる状態に復帰できる。ドライブECU13は、走行車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より車線の縁へ寄った走行についての制御として、車線の縁へ寄った走行を車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行することができる。
【0033】
次に、カーブする走行車線を走行している場合を含む、本実施形態での逸脱抑制制御について説明する。カーブする走行車線を走行している場合、上述した第一段階制御から第三段階制御までの複数段階による逸脱抑制制御が、必ずしも最適な制御とは言いきれない。たとえば、カーブする車線の走行中での車線の内側の縁へ寄った走行を車線の中央へ戻す逸脱抑制制御では、第二段階制御や第三段階制御を実行しない方が望ましい。第二段階制御や第三段階制御を実行しない場合でも、カーブする車線の走行中の自動車1は、第一段階制御により逸脱を抑制した後に慣性により、車線の中央へ戻ることが可能である。
【0034】
図3は、図2の制御系10により実行される逸脱抑制制御のフローチャートである。
自動車1に設けられる制御系10のドライブECU13などの制御ECUは、図3の逸脱抑制制御を、たとえば運転支援制御中に繰り返し実行する。図3の逸脱抑制制御は、たとえば検出ECU11とドライブECU13とが分担して実行してよい。この場合、検出ECU11は、ドライブECU13が制御に必要とする情報をたとえばフラグ化して、車ネットワーク17を通じてメッセージとしてドライブECU13へ送信してよい。ここでは、ドライブECU13が図3の逸脱抑制制御を実行する場合を例として説明する。
【0035】
ステップST1において、ドライブECU13は、逸脱抑制制御を開始するにあたり、自動車1の運転モードが、運転支援モードまたは自動運転モードであるか否かを判断する。自動車1には、たとえば、運転支援を伴う手動運転モード、運転支援を伴わない乗員の操作のみに基づく手動運転モード、乗員が自動車1の走行を直接的に操作しない自動運転モード、がある。運転支援を伴う手動運転モード、または自動運転モードが自動車1に設定されている場合、ドライブECU13は、自動車1の運転モードが運転支援モードまたは自動運転モードであると判断し、処理をステップST2へ進める。運転支援を伴わない乗員の操作のみに基づく手動運転モードが自動車1に設定されている場合、ドライブECU13は、逸脱抑制制御を具体的に実行することなく本制御を終了する。
【0036】
ステップST2において、ドライブECU13は、最新の自動車1の走行状況の情報を取得する。ドライブECU13は、たとえば検出ECU11から最新の撮像画像、最新の検出値、最新の判断結果の情報を取得する。
【0037】
ステップST3において、ドライブECU13は、ステップST2で取得した情報に基づいて、自動車1についての走行車線の横位置の情報を生成する。ドライブECU13は、たとえば撮像画像における走行車線の左右両側の車線境界線の撮像位置に基づいて、自動車1についての走行車線内の横位置の情報を生成する。ドライブECU13は、走行車線の中央範囲に収まるように走行しているか、中央範囲より右側へ寄って走行しているか、または中央範囲より左側へ寄って走行しているか、を判断し、該当するケースに応じた値のフラグを横位置の情報として生成してよい。
【0038】
ステップST4において、ドライブECU13は、ステップST3にて生成した横位置の情報を用いて、自動車1が中央範囲よりはみ出して車線の縁に接近するように寄って走行しているか、さらには自動車1が車線の縁からはみ出して逸脱して走行しているか、を判断する。車線の縁に接近しておらず、また逸脱もしていない場合、ドライブECU13は、本制御を終了する。車線の縁に接近している場合、または逸脱している場合、ドライブECU13は、処理をステップST5へ進める。
【0039】
ステップST5から、ドライブECU13は、走行車線の縁へ寄って走行している自動車1を、走行車線の中央範囲へ戻す逸脱抑制制御を具体的に開始する。ドライブECU13は、まず、自動車1が走行車線の縁へ寄って走行している自動車1の向きを車線に沿った方向へ向ける第一段階制御を実行する。
【0040】
ステップST6において、ドライブECU13は、ヨーセンサ21などから制御中の自動車1の向きを取得し、自動車1の向きについての、走行車線の縁に対するヨー角がゼロとなるか否かを判断する。走行車線の縁に対するヨー角がゼロとなっていない場合、ドライブECU13は、処理をステップST5へ戻し、自動車1の操舵の方向の調整を繰り返す。走行車線の縁に対するヨー角がゼロになると、ドライブECU13は、第一段階制御を終了し、処理をステップST7へ進める。
【0041】
ステップST7において、ドライブECU13は、自動車1が寄っている車線境界線が、カーブする走行車線での内側の縁を示す車線境界線であるか否かを判断する。自動車1が寄っている車線境界線がカーブする走行車線での内側の縁を示す車線境界線である場合、ドライブECU13は、逸脱抑制制御を終了して、処理をステップST12へ進める。自動車1が寄っている車線境界線がカーブする走行車線での内側の縁を示す車線境界線ではない場合、たとえば直線状の走行車線の車線境界線である場合、カーブする走行車線での外側の縁を示す車線境界線である場合、ドライブECU13は、逸脱抑制制御を継続して、処理をステップST8へ進める。
【0042】
ステップST8において、ドライブECU13は、第一段階制御の後の制御として、車線に沿った方向へ向いている自動車1を、車線の縁に沿って走行させる第二段階制御を実行する。ドライブECU13は、たとえば近接している車線境界線が撮像画像において一定の位置で撮像されるように、自動車1の操舵の方向を調整する。この調整中に、自動車1の姿勢や挙動といった走行が安定し得る。
【0043】
ステップST9において、ドライブECU13は、加速度センサなどから制御中の自動車1の挙動の変化を示す情報を取得し、自動車1の挙動といった走行が安定しているか否かを判断する。自動車1の走行が安定していない場合、ドライブECU13は、処理をステップST8へ戻し、第二段階制御を繰り返す。自動車1の走行が安定すると、ドライブECU13は、第二段階制御を終了し、処理をステップST10へ進める。
【0044】
ステップST10において、ドライブECU13は、第二段階制御の後の制御として、車線の縁に沿って走行している自動車1を、車線の中央へ戻す第三段階制御を実行する。ドライブECU13は、たとえば走行車線の左右両側の車線境界線が撮像画像において対照的な位置で撮像されるように、自動車1の操舵の方向を調整する。これにより、走行車線の縁へ寄って走行している自動車1は、走行車線の中央範囲へ戻り得る。
【0045】
ステップST11において、ドライブECU13は、制御中に撮像画像を取得し、撮像画像において走行車線の中央範囲に復帰しているか否かを判断する。走行車線の中央範囲に復帰していない場合、ドライブECU13は、処理をステップST10へ戻し、第三段階制御を繰り返す。走行車線の中央範囲に復帰すると、ドライブECU13は、第三段階制御を終了し、本処理を終了する。これにより、ドライブECU13は、逸脱抑制制御を終了する。
【0046】
ステップST12において、ドライブECU13は、ステップST2と同様に、制御中の最新の自動車1の走行状況の情報を取得する。
【0047】
ステップST13において、ドライブECU13は、ステップST3と同様に、ステップST12で取得した情報に基づいて、自動車1についての走行車線の横位置の情報を生成する。
【0048】
ステップST14において、ドライブECU13は、ステップST13にて生成した横位置の情報を用いて、自動車1が中央範囲へ戻っているか否かを判断する。自動車1が中央範囲へ戻っていない場合、ドライブECU13は、処理をステップST12へ戻し、ステップST12からステップST14までの処理を繰り返す。この繰り返し期間では、ドライブECU13の処理はステップST1へ戻らないので、ドライブECU13は次回のステップST5からステップST11の具体的な逸脱抑制制御を実行することができない。自動車1が中央範囲へ戻ると、ドライブECU13は、本処理を終了する。
【0049】
図4は、カーブする車線を走行する場合での逸脱抑制制御の一例の説明図である。
図4には、カーブする1つの車線と、その車線を走行する自動車1とが示されている。そして、自動車1は、現状のまま無制御で走行を続けると、図中に破線で示す無制御時の進路で走行し、カーブする車線の内側の車線境界線を踏み越えるようにイン寄りで走行することになる。
【0050】
このような自動車1の走行状況が生じると、ドライブECU13は、それを判断して、図3の逸脱抑制制御を実行する。ドライブECU13は、走行車線の中央範囲を走行する場合より走行車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする走行車線の走行中での車線の内側の縁へ寄った走行を走行車線の中央へ戻す逸脱抑制制御を実行する。
ただし、自動車1はカーブする車線の内側の車線境界線に寄って走行しようとしているため、ドライブECU13は、ステップST5からステップST11の具体的な逸脱抑制制御の中の、ステップST5からステップST6の第一段階制御のみを実行して、逸脱抑制制御を終了する。ドライブECU13は、制御部として、取得する情報に基づいてカーブする車線を走行中であると判断する場合、逸脱抑制制御の第一段階制御、第二段階制御、および第三段階制御による複数段階の制御の中の、第二段階制御以下の制御である第二段階制御および第三段階制御の実行を禁止する。ドライブECU13は、取得する情報に基づいて、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行を部分的に禁止できる。
また、ドライブECU13は、逸脱抑制制御の第一段階制御を実行した後に、ステップST12からステップST14の処理を実行する。そして、自動車1が中央範囲へ戻っている場合に、ステップST12からステップST14の処理を終了する。これにより、ドライブECU13は、取得する情報に基づいてカーブする車線を走行中であると判断して逸脱抑制制御を実行した場合には、逸脱抑制制御の実行中に取得する最新の情報に基づいて自動車1についての車線での幅方向の位置が車線の中央範囲へ戻ると判断するまで、次回の逸脱抑制制御の実行を禁止することができる。
【0051】
このような制御が実行されることにより、逸脱抑制制御が開始された後の図4のP1の位置では、自動車の走行車線の縁に対するヨー角がゼロとなるように制御される。また、自動車には、カーブする走行車線に沿って走行することにより、カーブの外側へ向かう慣性力が作用する。逸脱抑制制御が終了した後、カーブする走行車線に沿って走行する自動車は、慣性力により、コーナの外側へ膨らみながら走行する。その結果、逸脱抑制制御が終了した後の図4のP2の位置では、自動車は、走行車線の中央ラインに沿って、走行車線の中央範囲を走行するようになる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、道路に設けられる車線を走行可能な自動車1の走行制御装置において自動車1の走行を制御する制御部としての制御ECUは、車線の車幅方向の中央範囲を走行する場合より車線の縁へ寄った走行についての制御を実行することができる。そして、制御ECUは、自動車1に設けられて少なくとも自動車1が走行している車線での走行状況に関する情報を取得する情報に応じて、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行を禁止する。これにより、自動車1は、自動車1の走行状況に応じて、適応的に、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行を制限することができる。特に、本実施形態では、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行の制限を、たとえば前回の制限実行からの経過時間といった固定的な制御によらずに、自動車1が実際に走行している状況に応じてその現実に対応するように制限するので、車線の縁へ寄った走行についての制御の実行の可否について現実の応じるように最適化することができる。本実施形態では、自動車1が実際に走行している状況に対して良好に対応するように、車線の縁へ寄った走行についての制御を実行できるようになる。乗員は、自動車1が実際に走行している状況に応じて、車線の縁へ寄った走行についての制御を実行が可否制御されるため、違和感を受け難くなる。
【0053】
本実施形態では、カーブする車線を走行中である状況を好適に利用して、車線の縁へ寄った走行を車線の中央へ戻す逸脱抑制制御のための、車線の縁へ寄って走行している自動車1の向きを車線に沿った方向へ向ける第一段階制御と、車線に沿った方向へ向いている自動車1を車線の縁に沿って走行させる第二段階制御と、車線の縁に沿って走行している自動車1を車線の中央へ戻す第三段階制御と、の中の、第二段階制御および第三段階制御の実行を禁止する。これにより、カーブする車線の走行中の逸脱抑制制御では、第一段階制御の後に実行される第二段階制御以下の制御の実行を禁止して、車線の内縁へ寄って走行している自動車1の向きを車線に沿った方向へ向ける第一段階制御のみを実行することになる。カーブする車線の内側の縁へ寄って走行する自動車1は、第一段階制御により自動車1の向きが車線に沿った方向に向かい、その後にはカーブする車線を走行中であるためにその慣性により車線の外側である中央範囲へ向けてスムースに移動できる。
しかも、本実施形態では、制御を実行した後に自動車1が再びカーブする車線の内側の縁へ寄ることがあったとしても、同様の第一段階制御のみを安定的に実行することになる。乗員は、複数回での介入制御が同様に安定的になされるため、正しく制御が介入していると理解できる。
また、本実施形態では、第一段階制御、第二段階制御、および第三段階制御で構成される逸脱抑制制御は、カーブする車線の内側の縁に寄って走行中においては第一段階制御のみで制御を終えることになる。本実施形態は、カーブする車線の走行中において、基本的に、第二段階制御および第三段階制御を実行する場合よりも早いタイミングで内側の縁に寄って走行していることを繰り返し判断でき、逸脱抑制制御を何度も安定的に実行することが可能である。
【0054】
本実施形態では、取得する情報に基づいてカーブする車線において内側の縁へよって走行していると判断して逸脱抑制制御を実行した場合、逸脱抑制制御の実行中に取得する情報に基づいて自動車1についての車線での幅方向の位置が車線の中央範囲へ戻ると判断するまで、逸脱抑制制御の実行を禁止する。これにより、たとえば乗員などが意図的にカーブする車線の内側の縁に寄った進路で走行しようとしている場合において、逸脱抑制制御がその意図に反して繰り返し実行されてしまうことがないようにできる。自動車1は、カーブする車線の内側の縁に寄った進路で走行することができる。また、カーブする車線の走行中での車線の内側の縁に沿うように操舵が維持されて走行している最中に逸脱抑制制御が繰り返し実行されなくなり、逸脱抑制制御が繰り返し実行されることによる違和感を乗員などが得ることもない。
【0055】
なお、上述した実施形態では、自動車1がカーブする車線の内側の縁へ寄って走行している場合、制御ECUは、逸脱抑制制御についての第二段階制御以降の制御の実行を禁止している。
この他にもたとえば、自動車1がカーブする車線の内側の縁へ寄って走行している場合、制御ECUは、逸脱抑制制御のすべての制御の実行を禁止してよい。
【0056】
上述した実施形態では、逸脱抑制制御は、レーンキープ走行制御と別に分離された制御として実行されている。
この他にもたとえば、上述した逸脱抑制制御は、レーンキープ走行制御の一部として実行されてよい。
【0057】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る自動車1の走行制御装置について説明する。
第二実施形態に係る自動車1の走行制御装置は、上述した実施形態で説明した制御に加えて、走行車線の中央範囲を走行する場合より走行車線の縁へ寄った走行についての制御として、カーブする走行車線の走行において走行車線の中央範囲より内側の縁へ寄って走行するインカット走行制御を実行する。スポーツ走行などでは、自動車1は、カーブする走行車線をアウトインアウトの進路で通過できることが望ましい。インカット走行制御により、自動車1は、カーブする走行車線を、通常より少し内側を走行するアウトインアウトの進路で通過することが可能になる。
本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0058】
図5は、本発明の第二実施形態において図2の制御系10により実行されるインカット走行制御のフローチャートである。
自動車1に設けられる制御系10のドライブECU13などの制御ECUは、図5のインカット走行制御を、たとえば運転支援制御中に繰り返し実行する。図5のインカット走行制御は、たとえば検出ECU11とドライブECU13とが分担して実行してよい。この場合、検出ECU11は、ドライブECU13が制御に必要とする情報をたとえばフラグ化して、車ネットワーク17を通じてメッセージとしてドライブECU13へ送信してよい。ここでは、ドライブECU13が図5のインカット走行を実行する場合を例として説明する。
【0059】
ステップST21において、ドライブECU13は、インカット走行制御を開始するにあたり、自動車1の運転モードが、運転支援モードまたは自動運転モードであるか否かを判断する。運転支援を伴う手動運転モード、または自動運転モードが自動車1に設定されている場合、ドライブECU13は、自動車1の運転モードが運転支援モードまたは自動運転モードであると判断し、処理をステップST22へ進める。運転支援を伴わない乗員の操作のみに基づく手動運転モードが自動車1に設定されている場合、ドライブECU13は、インカット走行制御を具体的に実行することなく本制御を終了する。
なお、ドライブECU13は、インカット走行制御を許可する設定であるか否かをさらに判断し、インカット走行制御を許可する場合においてのみ、処理をステップST22へ進めてよい。
【0060】
ステップST22において、ドライブECU13は、自動車1が走行している車線での最新の走行状況に関する情報として、自動車1が走行している車線より内側の最新の状況の情報を取得する。ドライブECU13は、たとえば検出ECU11から最新の撮像画像、最新の検出値、最新の判断結果の情報を取得する。
【0061】
ステップST23において、ドライブECU13は、ステップST22で取得した情報に基づいて、たとえば撮像画像に含まれる走行車線の両側の車線境界線がカーブしているか否かを判断し、自動車1がカーブする走行車線を走行しようとしている、または走行しているか否かを判断する。自動車1がカーブする走行車線を走行する場合、ドライブECU13は、処理をステップST24へ進める。自動車1がカーブする走行車線を走行しない場合、ドライブECU13は、インカット走行制御を具体的に実行することなく本制御を終了する。
【0062】
ステップST24以降において、ドライブECU13は、自動車1が走行している車線より内側の状況に基づいて、自動車1がインカット走行制御を実行した場合に乗員に不安を与えることになるか否かを判断する。ドライブECU13は、まず、カーブする走行車線の内側に隣接する車線を、他の自動車100が走行するか否かを判断する。ドライブECU13は、レーダー23により隣接車線を略並んで走行する他の自動車100が検知されている場合、隣接車線を走行する他の自動車100が走行すると判断し、処理をステップST26へ進める。レーダー23により隣接車線を略並んで走行する他の自動車100が検知されていない場合、ドライブECU13は、処理をステップST25へ進める。なお、隣接車線には、対向車か走行してもよい。
【0063】
ステップST25において、ドライブECU13は、カーブする走行車線の内側に構造物があるか否かを判断する。走行車線の内側には、たとえば立木、壁といった構造物があることがある。また、カーブする走行車線の内側に、落下物があることもある。これらの構造物がある場合、ドライブECU13は、処理をステップST26へ進める。構造物がない場合、ドライブECU13は、処理をステップST27へ進める。
【0064】
ステップST26において、ドライブECU13は、インカット走行制御を実行した場合に、ステップST24で判断した他の自動車100またはステップST25で判断した構造物と自車とが所定距離以下で接近するか否かを判断する。ドライブECU13は、インカット走行制御による進路を推定し、その進路と他の自動車100または構造物との最小距離を演算する。他の自動車100または構造物と所定距離以下で接近する場合、ドライブECU13は、処理をステップST28へ進める。他の自動車100または構造物と所定距離以下で接近しない場合、ドライブECU13は、処理をステップST27へ進める。ここで、所定距離は、たとえば自車から1メートル、または走行車線の内側の縁から1メートルとしてよい。また、ドライブECU13は、所定距離以下となる期間が、所定時間以下であるか否かを併せて判断してよい。所定距離以下となる期間が、所定時間以下である場合、ドライブECU13は、処理をステップST27へ進めてよい。
【0065】
ステップST27において、ドライブECU13は、インカット走行制御を具体的に実行する。ドライブECU13は、たとえば他の自動車100が隣接車線を走行しない場合、隣接車線の他の自動車100と接近しない場合、および、走行車線の内側に構造物がない場合、走行車線の内側の構造物と接近しない場合、ステップST27の処理を実行する。それ以外の場合、ドライブECU13は、インカット走行制御を禁止して実行しない。
インカット走行制御において、ドライブECU13は、インカット走行制御をしない場合より、カーブする走行車線の内側を走行するように、自動車1の走行を制御する。ドライブECU13は、操舵、駆動、制動を制御して、インカット走行制御をしない場合より短い時間で走行車線のカーブしている区間を通過できるように自動車1の走行を制御する。自動車1は、走行車線のカーブしている区間を、たとえばアウトインアウトの進路で通過できる。その後、ドライブECU13は、本処理を終了する。
【0066】
ステップST28に処理が進む場合、ドライブECU13は、インカット走行制御を禁止して実行していない。ドライブECU13は、ステップST22と同様に、自動車1が走行している車線での最新の走行状況に関する情報として、自動車1が走行している車線より内側の最新の状況の情報を取得する。ドライブECU13は、たとえば、インカット走行制御を実行することなくカーブする走行車線を走行している最中での最新の撮像画像、最新の検出値、最新の判断結果の情報を、検出ECU11から取得する。
【0067】
ステップST29において、ドライブECU13は、ステップST28で取得した情報に基づいて、たとえば撮像画像に含まれる走行車線の両側の車線境界線がカーブしているか否かを判断し、走行車線のカーブが継続しているか否かを判断する。自動車1がカーブする走行車線を継続して走行している場合、ドライブECU13は、処理をステップST28へ戻す。ドライブECU13は、走行車線のカーブが継続しなくなったと判断するまで、ステップST28およびステップST29の処理を繰り返す。これにより、インカット走行制御を禁止した走行車線のカーブを通過するまで、ドライブECU13は、実質的に次回のインカット走行制御を実行できなくなる。インカット走行制御の禁止が維持される。走行車線のカーブが継続しなくなると、ドライブECU13は、本処理を終了する。
【0068】
図6は、カーブする車線を走行する場合でのインカット走行制御の一例の説明図である。
図6には、カーブする2つの車線と、外側の走行車線を走行する自動車1と、隣接車線を並んで走行する他の自動車100と、が示されている。
【0069】
外側の走行車線を走行する自動車1のドライブECU13は、図5のインカット走行制御の処理を開始すると、ステップST24において隣接車線を並んで走行する他の自動車100が存在すると判断し、ステップST25において隣接車線の他の自動車100と接近するか否かを判断する。
そして、インカット走行することにより隣接車線の他の自動車100と所定距離以下で接近する場合、ドライブECU13は、ステップST27のインカット走行制御の実行を禁止する。外側の走行車線を走行する自動車1は、図中に一点鎖線で示す通常の中央走行ラインに沿って走行することになる。また、インカット走行制御の実行を禁止したカーブの走行中には、ドライブECU13は、ステップST28およびステップST29のインカット禁止維持処理を実行し続ける。
また、インカット走行しても隣接車線の他の自動車100と所定距離以下で接近しない場合、ドライブECU13は、ステップST27のインカット走行制御を実行する。外側の走行車線を走行する自動車1は、図中に破線で示す通常のインカット走行ラインに沿って走行する。自動車1は、通常の中央走行ラインよりも高い平均車速による短い時間で、カーブする走行車線を通過することが可能となる。
【0070】
このような制御が実行されることにより、ドライブECU13は、カーブする走行車線の走行を予想したP11の位置において隣接車線を走行する他の自動車100と近接すると判断する場合には、インカット走行ラインに沿って移動するインカット走行制御ではなく、通常の中央走行ラインに沿って移動するレーンキープ走行制御を実行する。また、ドライブECU13は、カーブする走行車線を通過するまで、新たなインカット走行制御を実行しない。
【0071】
以上のように、本実施形態では、ドライブECU13は、自動車1が走行している車線での走行状況に関する情報として、自動車1が走行している車線より内側の状況の情報を取得する。そして、ドライブECU13は、インカット走行制御を実行する前に取得する情報に基づいて、自動車1が走行している車線のカーブの内側に隣接する車線を他の自動車100が走行している場合、または自動車1が走行している車線のカーブの内側に構造物がある場合、インカット走行制御の実行を禁止する。これにより、カーブする車線を走行する場合において車線の中央範囲より内側の縁へ寄って走行するインカット走行制御は、たとえば自動車1が走行している車線のカーブの内側に隣接する車線を他の自動車100が走行していない場合であって、自動車1が走行している車線のカーブの内側に構造物がない場合において、実行されるようになる。
特に、本実施形態では、インカット走行制御を実行するとした場合において他の自動車100または構造物と所定距離以下で接近することになる場合に、インカット走行制御の実行を禁止し、他の自動車100または構造物と所定距離以下で接近することにならない場合には、インカット走行制御を実行する。本実施形態では、自動車1がインカット走行中に他の自動車100や構造物に接近することに起因して乗員が不安を感じ難くなるようにしながら、インカット走行制御の実行をできるだけ許容することができる。
【0072】
本実施形態では、ドライブECU13は、インカット走行制御の実行中に取得する情報に基づいて、インカット走行制御の実行を禁止するとしたカーブの走行を継続していると判断する場合には、インカット走行制御の実行の禁止を維持する。これにより、1つのカーブする車線を継続して走行している最中に、その途中においてインカット走行制御が実行されるようになってしまうことを抑制できる。カーブする車線の途中において突然にインカット走行制御が実行され始めると、それまで安定していた自動車1の走行や挙動が、カーブの途中において急に変化する可能性があり、乗員に不安定な違和感を与える可能性がある。
【0073】
なお、上述した実施形態では、ドライブECU13は、隣接車線の他の自動車100が所定距離以下で近接する場合、または走行車線の内側に所定距離以下で近接する構造物がある場合に、インカット走行制御の実行を禁止している。
この他にもたとえば、ドライブECU13は、隣接車線の他の自動車100が走行する場合、または走行車線の内側に構造物がある場合に、インカット走行制御の実行を禁止してよい。
【0074】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…自動車(車両)、10…制御系(走行制御装置)、11…検出ECU(取得部)、12…操作ECU、13…ドライブECU(取得部、制御部)、14…通信ECU、15…タイマ、16…GNSS受信機、17…車ネットワーク、21…ヨーセンサ、22…ステレオカメラ、23…レーダー、24…Gセンサ、31…ステアリング、41…操舵アクチュエータ、42…駆動アクチュエータ、43…制動アクチュエータ、51…通信デバイス、100…他の自動車


図1
図2
図3
図4
図5
図6