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特許7572865学習装置およびプログラム、ならびに金型異常予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】学習装置およびプログラム、ならびに金型異常予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20241017BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021009639
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113410
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 京治
(72)【発明者】
【氏名】西岡 康二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 佑介
(72)【発明者】
【氏名】南 椋介
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 隆
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019016(JP,A)
【文献】特許第6779457(JP,B1)
【文献】特開2020-042519(JP,A)
【文献】特開昭63-199034(JP,A)
【文献】特開2018-063668(JP,A)
【文献】特開2020-049512(JP,A)
【文献】特開2011-079050(JP,A)
【文献】特開2020-062650(JP,A)
【文献】特開昭54-131182(JP,A)
【文献】特開平04-033721(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19952834(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/00 - 37/20
B30B 15/00 - 15/34
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G08B 19/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習装置であって、
前記プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データと前記プレス機のフレームの支柱に取り付けられた振動計が検出した略水平方向の振動データとを含む測定データを、プレスサイクルごとに取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する特徴量算出手段と、
前記特徴量算出手段により算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された予測モデルを記憶するモデル記憶手段とを備える、学習装置。
【請求項2】
プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習装置であって、
前記プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データと前記プレス機のフレームの振動データとを含む測定データを、プレスサイクルごとに取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する特徴量算出手段と、
前記特徴量算出手段により算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された予測モデルを記憶するモデル記憶手段とを備え、
前記振動特徴量が、波高ベクトル、時刻ベクトル、および周波数ベクトルのうちの少なくとも一つを含む、学習装置。
【請求項3】
前記生成手段は、金型パターンごとに、複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習し、
前記モデル記憶手段は、金型パターンを識別する金型識別情報に関連付けて、予測モデルを記憶する、請求項1または2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記プレス機は、複数の金型を搭載する多段式のプレス機であり、
前記生成手段は、複数種類の特徴量を入力とし、個々の金型に対する異常の有無を出力とする予測モデルを生成する、請求項1~3のいずれかに記載の学習装置。
【請求項5】
前記フレームは、前記複数の金型の上流側および下流側にそれぞれ設けられた第1および第2の支柱を有しており、
前記特徴量算出手段は、前記第1の支柱に取り付けられた振動計からの振動データに基づいて第1の振動特徴量を算出し、前記第2の支柱に取り付けられた振動計からの振動データに基づいて第2の振動特徴量を算出する、請求項に記載の学習装置。
【請求項6】
前記特徴量算出手段は、荷重特徴量および振動特徴量に加えて、金型接触時間、ダイハイト値、金型温度、金型潤滑液量、および、金型ショット数のうちの少なくとも一つをさらに算出する、請求項1~のいずれかに記載の学習装置。
【請求項7】
プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための金型異常予測装置であって、
請求項1~のいずれかに記載の学習装置によって生成された予測モデルを記憶する記憶手段と、
前記プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データと前記プレス機のフレームの振動データとを含む測定データを、プレスサイクルごとに取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する特徴量算出手段と、
前記特徴量算出手段により算出された複数種類の特徴量を、前記記憶手段に記憶された予測モデルに入力して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測する予測手段と、
前記予測手段による予測結果を出力する出力手段とを備える、金型異常予測装置。
【請求項8】
前記記憶手段には、金型パターンを識別する金型識別情報に関連付けて、複数の予測モデルが記憶されており、
前記プレス機によるプレス運転開始前に、前記複数の予測モデルのうち、今回のプレス運転に対応する金型パターンに基づいて、金型の異常予測に用いる予測モデルを判別するモデル判別手段をさらに備える、請求項に記載の金型異常予測装置。
【請求項9】
プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習プログラムであって、
前記プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データと前記プレス機のフレームの支柱に取り付けられた振動計が検出した略水平方向の動データとを含む測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出するステップと、
算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成するステップと、
生成された予測モデルをモデル記憶手段に記憶するステップとをコンピュータに実行させる、学習プログラム。
【請求項10】
プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習プログラムであって、
前記プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データと前記プレス機のフレームの振動データとを含む測定データに基づいて、荷重特徴量と、波高ベクトル、時刻ベクトル、および周波数ベクトルのうちの少なくとも一つを含む振動特徴量と、を含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出するステップと、
算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成するステップと、
生成された予測モデルをモデル記憶手段に記憶するステップとをコンピュータに実行させる、学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置およびプログラム、ならびに金型異常予測装置に関し、特に、プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習装置およびプログラム、ならびに、機械学習により生成された予測モデルに基づいて金型の異常の有無を予測する金型異常予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造プレス装置は、クランク軸を回転駆動してスライドを昇降動作させることにより、ワークをプレス加工する。このような鍛造プレス装置では、特開2019-13947号公報(特許文献1)に記載されているように、加工中にワークに加わる荷重を監視し、荷重のピーク値に基づいて異常を検出することが従来から行われている。荷重のピーク値が製品の良否と高い相関があることが分かっているためである。
【0003】
また、特開2019-13976号公報(特許文献2)に記載されているように、プレス機の運転状況を検出する複数のセンサを利用することで、プレス機の故障を予測する技術が従来から提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-13947号公報
【文献】特開2019-13976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、荷重のピーク値に基づいて不良品を検出することができるが、その要因(異常要因)まで特定することができない。
【0006】
特許文献2では、複数のセンサから得られた計測結果の初期正常状態からの変化をモニタリングPCで確認し、過去の経験則も照らし合わせてプレス機の故障を予測するため、経験の浅い作業者が故障の予測を的確に行うことは困難である。
【0007】
特に、プレス機の金型は、他のパーツに比べて故障頻度が高いため、作業者の経験に頼らずに金型の異常(故障、破損など)を検出できる技術が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、プレス機に搭載された金型の異常を精度良く検出可能とするための学習装置およびプログラム、ならびに、金型異常予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う学習装置は、プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習装置であって、データ取得手段と、特徴量算出手段と、生成手段と、モデル記憶手段とを備える。データ取得手段は、プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データとプレス機のフレームの振動データとを含む測定データを、プレスサイクルごとに取得する。特徴量算出手段は、データ取得手段により取得された測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する。生成手段は、特徴量算出手段により算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成する。モデル記憶手段は、生成手段により生成された予測モデルを記憶する。
【0010】
好ましくは、生成手段は、金型パターンごとに、複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習し、モデル記憶手段は、金型パターンを識別する金型識別情報に関連付けて、予測モデルを記憶する。
【0011】
プレス機が、複数の金型を搭載する多段式のプレス機である場合、生成手段は、複数種類の特徴量を入力とし、個々の金型に対する異常の有無を出力とする予測モデルを生成することが望ましい。なお、個々の金型とは、広義には、上型、下型を区別することなく、工程ごとの金型を意味し、狭義には、各工程の上型、下型を意味する。
【0012】
フレームが、複数の金型の上流側および下流側にそれぞれ設けられた第1および第2の支柱を有している形態において、特徴量算出手段は、第1の支柱に取り付けられた振動計からの振動データに基づいて第1の振動特徴量を算出し、第2の支柱に取り付けられた振動計からの振動データに基づいて第2の振動特徴量を算出することが望ましい。各振動特徴量は、波高ベクトル、時刻ベクトル、および周波数ベクトルのうちの少なくとも一つを含み、少なくとも周波数ベクトルを含むことが望ましい。より望ましくは、周波数ベクトルと、波高ベクトルまたは時刻ベクトルとを含む。
【0013】
特徴量算出手段は、荷重特徴量および振動特徴量に加えて、金型接触時間、ダイハイト値、金型温度、金型潤滑液量、および金型ショット数のうちの少なくとも一つをさらに算出することが望ましい。なお、特徴量の種類には、金型温度および金型潤滑液量が含まれることが望ましい。これらを予測モデルの説明変数に加えることにより、金型への負荷の大きさを精度良く検出できる。プレス機が、複数の金型を搭載する多段式のプレス機である場合、金型温度、金型潤滑液量、および金型ショット数は、個々の金型(少なくとも工程ごと)に対して測定されることが望ましい。
【0014】
この発明の他の局面に従う金型異常予測装置は、プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための金型異常予測装置であって、上記いずれかに記載の学習装置によって生成された予測モデルを記憶する記憶手段を備えている。また、プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重データとプレス機のフレームの振動データとを含む測定データを、プレスサイクルごとに取得するデータ取得手段と、データ取得手段により取得された測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する特徴量算出手段と、特徴量算出手段により算出された複数種類の特徴量を、記憶手段に記憶された予測モデルに入力して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測する予測手段と、予測手段による予測結果を出力する出力手段とを備える。
【0015】
好ましくは、記憶手段には、金型パターンを識別する金型識別情報に関連付けて、複数の予測モデルが記憶されている。この場合、金型異常予測装置は、プレス機によるプレス運転開始前に、複数の予測モデルのうち、今回のプレス運転に対応する金型パターンに基づいて、金型の異常予測に用いる予測モデルを判別するモデル判別手段をさらに備えることが望ましい。
【0016】
この発明のさらに他の局面に従う学習プログラムは、プレス機に搭載された金型の異常の有無を予測するための予測モデルを機械学習により生成する学習プログラムであって、プレス機によるプレス運転時にワークに加わる荷重波形データとプレス機のフレームの振動波形データとを含む測定データに基づいて、荷重特徴量と振動特徴量とを含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出するステップと、算出された複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習して、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成するステップと、生成された予測モデルをモデル記憶手段に記憶するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、予測モデルにより、金型の異常を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る鍛造プレス装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鍛造プレス装置が備えるプレス機およびセンサ類を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるプレス機の周辺構造、ならびに、センサ類により検出される運転状況情報を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるプレス機が備える金型の配置例を模式的に示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】本発明の実施の形態に係る学習装置による予測モデルの生成方法を示すフローチャートである。
図7】(A)~(C)は、フレーム振動の特徴量の算出方法を説明するためのグラフである。
図8】(A)~(D)は、フレーム振動の特徴量の算出方法を説明するためのグラフである。
図9】本発明の実施の形態に係る金型異常予測装置の機能構成を示すブロック図である。
図10】本発明の実施の形態に係る金型異常予測装置による金型の異常予測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
本実施の形態では、鍛造プレス装置が、学習装置での学習結果に基づいて、金型の異常を検出する機能を有しているものとして説明する。
【0021】
<鍛造プレス装置の概略構成>
はじめに、図1図3を参照して、鍛造プレス装置10の概略構成について説明する。図1に示されるように、鍛造プレス装置10は、ワークをプレス加工するプレス機11と、プレス機11の運転を制御するPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)40とを備える。
【0022】
図2に示されるように、プレス機11は、フレーム3内の上下に対向するように設けられたスライド1およびボルスタ2を備えている。フレーム3は、プレス機11の正面側に配置された一対の支柱3a,3bと、プレス機11の後方側に配置された一対の支柱3c,3dとを含む。プレス機11は、クランク軸4を回転駆動させることにより、コンロッド5に連結されたスライド1が昇降動作するように構成されている。
【0023】
クランク軸4の一端側には、メインモータ6でベルト7によって回転駆動されるフライホイール8が、クラッチ9を介して接続されている。クランク軸4の他端側には、クランク軸4の回転を止めてスライド1を停止させるブレーキ装置12が取り付けられている。プレス機11は、メインモータ6でフライホイール8を一定速度で回転駆動し、クラッチ9を入りとして、フライホイール8の回転をクランク軸4に伝達することによってスライド1を昇降させて、ボルスタ2上に載置されたワークを鍛造する。ワークは、ボルスタ2上に設置された下型(図示せず)とスライド1の下端に設置された上型(図示せず)とを含む金型のパターンに応じた大きさおよび形状に加工され、最終製品となる。「金型」とは、鍛造に使用される型を意味する。金型は、典型的には特殊鋼により形成される。
【0024】
本実施の形態における鍛造プレス装置10は、熱間鍛造によりワークを加工する装置である。鍛造プレス装置10は、プレス機11の運転状況を検出するために、以下に示すような複数のセンサ類を備えている。なお、後述するように、プレス機11は、複数工程を経てワークを加工する多段式のプレス機であってもよい。つまり、プレス機11に、複数の金型が搭載されていてもよい。
・荷重センサ20:ワークに加わる荷重を検知する。たとえば、フレーム3の歪みを検出する歪みゲージで構成される。
・角度センサ21:クランク軸4の回転角度(プレス角度)を検出することによって、スライド1の位置、および、スライド1の速度(ストローク)を検知する。
・ブレーキ緩み圧センサ22:ブレーキ装置12の緩み圧を検出する。
・クラッチ圧センサ23:クラッチ9の圧力を検出する。
・クラッチタンク圧センサ24:クラッチ9を駆動する作動油の圧力を検出する。
・ブレーキタンク圧センサ25:ブレーキ装置12の冷却水の圧力を検出する。
・冷却水流量センサ26:ブレーキ装置12の冷却水の流量を検出する。
・BKO位置変位センサ27:プレス機11の下ノックアウト装置の位置(BKO位置)を検出する。
・SKO位置変位センサ28:上ノックアウト装置の位置(SKO位置)を検出する。
・測温抵抗体29:プレス機11の各部温度を検出する。
・潤滑液流量センサ30:金型を潤滑する潤滑液の流量を検出する。
・エアブロー圧力センサ31:プレス機11に供給される高圧エアの圧力を検出する。
・材料温度センサ32:プレス機11に供給される材料の温度を検出する。
・ダイハイト変位センサ33:プレス機11のダイハイト(ボルスタ2とスライド1の下死点位置との間隔)を検出する。
・型温度センサ34:金型の温度を検出する。
【0025】
図3に示されるように、鍛造プレス装置10は、搬送装置13およびヒータ14をさらに備えている。搬送装置13は、たとえばベルトコンベアにより構成され、ワークWを、前工程からプレス機11(ボルスタ2の位置)まで搬送する。ヒータ14は、プレス機11よりも上流側に配置され、搬送装置13で搬送途中のワークWの硬化を防止するために設けられている。ヒータ14は、たとえばトンネル炉により構成されている。
【0026】
上記した材料温度センサ32は、ヒータ14を通過直後のワークW(ヒータ14の出口付近のワークW)の温度を検知する。型温度センサ34は、プレス機11に搭載された金型の温度を検知する。
【0027】
なお、鍛造プレス装置10は、上記したセンサ類の他、ワークWがヒータ14の出口からプレス位置に到達するまでに要した時間(ヒータ出口-プレス時間)を検出するタイマ(図示せず)などをさらに備えていてもよい。また、ヒータ14の出口付近においてワークWの有無を検知するワーク有無センサ(図示せず)がさらに設けられていてもよい。
【0028】
本実施の形態におけるプレス機11は、多段式のプレス機であって、複数の金型を用いて段階的にワークWを成形する。金型の配置例を図4に示す。図4の例では、プレス機11が、ワークWの搬送方向A1に沿って配置された3個の金型51~53を備えている。この場合、ワークWは、金型51による第1工程(工程I)、金型52による第2工程(工程II)、金型53による第3工程(工程III)を順に経て、段階的に成形される。
【0029】
金型51~53それぞれの上型51a,52a,53aは、フレーム3内のスライド1の下端部に固定されており、同時に昇降移動する。金型51~53それぞれの下型51b,52b,53bは、フレーム3内のボルスタ2の上端部に固定されている。以下の説明において、上下三対の型51a,51b,52a,52b,53a,53bを区別する必要がない場合には、これらを「型50」と表現する。
【0030】
プレス機11の金型51~53は、各々が、型潤滑手段60(想像線で示す)から供給される潤滑液により潤滑される。この場合、潤滑液流量センサ30および型温度センサ34は、典型的には、型50ごとに設けられる。
【0031】
上述の荷重センサ20は、フレーム3のいずれか一つの支柱(たとえば支柱3c)に取り付けられている。また、フレーム3の左右の支柱3c,3dに一つずつ振動計35が取り付けられている。支柱3c,3dの一方(支柱3c)は、工程Iの金型51よりも搬送方向上流側に位置し、支柱3c,3dの他方(支柱3d)は、工程IIIの金型53よりも搬送方向下流側に位置している。各振動計35は、たとえば加速度センサにより構成され、フレーム3の振動を検出する。具体的には、各振動計35は、自身が取り付けられた支柱3c,3dの略水平方向(前後方向または左右方向)の振動を検出する。
【0032】
再び図1を参照して、鍛造プレス装置10は、金型51~53の異常の有無を予測する金型異常予測装置(以下「異常予測装置」と略す)200を備えている。異常予測装置200は、学習装置100により生成された予測モデルに基づいて、各型50の異常の有無を予測する。学習装置100および異常予測装置200によって、金型異常予測システムSYSが構成されている。
【0033】
学習装置100および異常予測装置200は、PLC40を介して、またはPLC40を介することなく、複数のセンサ類からの検出信号を取得する。PLC40とこれらの装置100,200とは有線または無線にて接続されている。学習装置100および異常予測装置200は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサとメモリを含むコンピュータにより実現される。なお、本実施の形態では、PLC40と異常予測装置200とが別個に設けられた例を示しているが、限定的ではなく、PLC40が、後述するような異常予測装置200の機能を有していてもよい。
【0034】
<学習装置>
(機能構成について)
図5は、本実施の形態に係る学習装置100の機能構成を示すブロック図である。学習装置100は、データ取得部101と、形式変換部102と、結果取得部103と、学習部104と、モデル記憶部114とを主に備えている。モデル記憶部114には、金型パターンごとの予測モデルM1,M2,・・・が格納される。
【0035】
本実施の形態において、「金型パターン」は、金型51~53の形状に対応する品番(型番)、および、金型51~53へのワークWの配置パターンを示すワークパターンにより特定される。鍛造プレス装置10によって連続的にワークWをプレス加工する場合、これらのワークWの品番は共通である。金型51~53へのワークWの配置パターンには、金型51~53の全てにワークWが配置されたパターン、最初の金型51にのみワークWが配置されたパターン、最後の金型53にのみワークWが配置されたパターン、などが含まれる。品番に対応するワークWの配置モードは1対1で定められているものの、ワークWは順次搬送されるため、プレス運転の開始時および終了時などは、ワークWの配置モードとは異るパターンで、金型51~53の一部にのみワークWが配置される。なお、品番に対応するワークWの配置モードとしては、金型51~53の全てにワークWを順次配置するパターン、金型51~53に一つ飛ばしでワークWを配置するパターン、などが含まれる。金型パターンを特定するための情報に、ワークWの投影面積がさらに含まれてもよい。
【0036】
データ取得部101は、プレス機11の運転時(鍛造プレス装置10によるプレス運転時)に、鍛造プレス装置10が備えるセンサ類から測定データを取得する。本実施の形態では、データ取得部101は、プレスサイクルごとに測定データ(以下、「サイクル測定データ」という)および金型パターンデータを取得する。
【0037】
サイクル測定データは、一次データであって、荷重センサ20から得られる荷重データ、および、振動計35から得られる振動データを少なくとも含む。サイクル測定データは、望ましくは、型温度センサ34から得られる各型50の温度データ、潤滑液流量センサ30から得られる各型50の潤滑液データ、ならびに、プレスサイクルごとにカウントされる各型50のショット数データの少なくとも一つをさらに含む。
【0038】
データ取得部101により取得されたサイクル測定データは、一意に定められた識別番号(以下「サイクルNo.」という)を見出しとして、一次データ記憶部111に時系列に記憶される。各サイクル測定データDT1は、対応する金型パターンデータとともに、一次データ記憶部111に記憶される。金型パターンデータは、上述のように、対象のワークWの品番およびワークパターンを含む。ワークWの品番は、たとえば、鍛造プレス装置10によるプレス運転開始前に、入力部(図示せず)を介してユーザ(作業者または管理者)により入力される。ワークパターンは、鍛造プレス装置10が備えるワークパターン検知手段(図示せず)により検知される。
【0039】
形式変換部102は、一次データの形式を、機械学習に適した形式の二次データに変換する。具体的には、形式変換部102は、特徴量算出手段として機能し、サイクル測定データDT1に基づいて、予測モデルの説明変数となる複数種類の特徴量を算出する。より具体的には、少なくとも荷重特徴量および振動特徴量を含む複数種類の特徴量を、プレスサイクルごとに算出する。
【0040】
形式変換部102により算出される特徴量(二次データ)の種類の詳細を、下記の表1に示す。表1では、特徴量の種類と、種類ごとのデータ項目とが列挙されている。また、各データ項目の型(スカラまたはベクトル)が併記されている。
【0041】
【表1】
【0042】
「荷重特徴量」は、荷重センサ20から得られる荷重データに基づき算出可能な指標であり、荷重ピーク値または荷重増加傾きを含む。なお、荷重増加傾きは、成形荷重曲線の立ち上がり位置とピーク位置の2点を通る一次式の傾きとして算出される。本実施の形態では、荷重特徴量は、荷重ピーク値と荷重増加傾きとの両方を含む。これにより、製品の良否に直結する各型50の異常の有無を精度良く予測することが可能であると考えられる。
【0043】
「金型接触時間」もまた、荷重センサ20から得られる荷重データに基づき算出可能な指標であり、成形荷重曲線の立ち上がり位置とピーク位置との2点間の時間が、金型接触時間として算出される。このように、金型接触時間は、金型51~53ごとではなく、1つの特徴量として算出される。
【0044】
「ダイハイト値」の特徴量は、上記ダイハイト変位センサ33からの出力値(ダイハイトデータ)により算出される。荷重特徴量だけでなくダイハイト値を考慮することにより、金型51~53の摩耗の有無をより精度良く予測することが可能になる。
【0045】
「金型温度」の特徴量は、各型50に取り付けられた型温度センサ34から得られる温度データに基づいて算出される。型温度センサ34は、たとえば工程I~IIIそれぞれの下型51b,52b,53bにのみ設けられており、下型51b,52b,53bの温度の特徴量だけが算出されてもよい。各型50(少なくとも下型51b,52b,53b)の温度の特徴量は、たとえば、プレス直前(ワーク搬送中)における、指定エリアの平均温度として算出される。なお、金型温度の特徴量には、平均温度に加え/代えて、最高温度、最低温度などが採用されてもよい。
【0046】
「金型潤滑液量」の特徴量は、各型50への潤滑液路に設けられた潤滑液流量センサ30から得られる潤滑液量データに基づいて算出される。各型50の潤滑液量の特徴量は、たとえばプレス直前(ワーク搬送中)における、型50ごとの潤滑液量(総量)である。
【0047】
「フレーム振動」の特徴量は、フレーム3の左右の支柱3c,3dにそれぞれ設けられた振動計35から得られる振動データに基づいて算出される。左右各々のフレーム振動の特徴量は、たとえば、1サイクルの特定区間における波高ベクトル、時刻ベクトル、および周波数ベクトルのうちの少なくとも一つを含む。なお、表1に示されるように、フレーム振動の特徴量は、波高ベクトルおよび周波数ベクトルの2項目を含むことが望ましいものの、時刻ベクトルおよび周波数ベクトルの2項目を含むようにしてもよい。このように、少なくとも周波数ベクトルを含むことが望ましい。具体的なフレーム振動の特徴量の算出方法の詳細については後述する。
【0048】
「金型ショット数」の特徴量は、一次データと共通の値であり、各型50のショット数(累計)を含む。
【0049】
形式変換部102により算出された複数種類の特徴量を含むサイクル特徴データDT2は、二次データとして、二次データ記憶部112に記憶される。各サイクル特徴データDT2は、たとえば元のサイクル測定データDT1と同じサイクルNo.および金型パターンデータに関連付けて、二次データ記憶部112に記憶される。
【0050】
結果取得部103は、たとえば、操作部120などの入力手段を介してユーザから入力された金型異常情報を取得する。金型異常情報は、たとえば何番目のプレスサイクルのときに、どの型50に異常が発生したかを示す情報である。結果取得部103は、取得した金型異常情報に基づいて、プレスサイクルごとの金型状態を示す結果データ(以下、「サイクル結果データ」という)を生成する。結果取得部103により生成されたサイクル結果データDT3は、たとえばサイクルNo.に関連付けて、結果データ記憶部113に記憶される。「金型状態」とは、各型50の状態(異常あり/なし)を表わす。なお、各サイクル結果データDT3は、どのサイクル測定データDT1またはサイクル特徴データDT2に対応するデータであるかが識別可能であればよく、サイクルNo.に関連付けて記憶される形態に限定されない。
【0051】
学習部104は、二次データ記憶部112に記憶された多数のサイクル特徴データDT2、および、結果データ記憶部113に記憶された多数のサイクル結果データDT3を教師データとして、プレスサイクルごとの複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習する。すなわち、プレスサイクルごとに金型の異常の有無を予測するための予測モデルを生成する。予測モデルの機械学習アルゴリズムとしては、公知のアルゴリズム、たとえばアイソレーションフォレストが用いられる。アイソレーションフォレストは、異常検知に用いられる汎用的な機械学習アルゴリズムである。
【0052】
本実施の形態では、学習部104は、「金型パターン」ごとに、複数種類の特徴量と金型状態との相関を機械学習し、金型パターンの個数(すなわち、品番とワークパターンとの組み合わせの数)分、予測モデルM1,M2,・・・を生成する。学習部104により生成された複数の予測モデルM1,M2,・・・は、モデル記憶部114に格納される。つまり、モデル記憶部114は、金型パターンを識別する金型識別情報に関連付けて、各予測モデルを記憶する。
【0053】
上述のデータ取得部101、形式変換部102、結果取得部103、および学習部104の機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することにより実現される。操作部120は、たとえばキーボード、マウス、タッチパネルなどのユーザインターフェイスにより構成される。一次データ記憶部111、二次データ記憶部112、結果データ記憶部113、モデル記憶部114は、典型的には、コンピュータが備える不揮発性の記憶装置により構成される。
【0054】
(動作について)
図6は、本実施の形態に係る学習装置100による予測モデルの生成方法を示すフローチャートである。図6に示すモデル生成処理は、学習装置100のプロセッサがメモリに予め記憶された学習プログラムを実行することにより実現される。なお、この処理は、操作部120を介してユーザにより学習開始の指示が入力されたことに応じて開始される。本実施の形態では、この処理が開始される前に、一次データ記憶部111に、複数のサイクル測定データDT1がサイクルNo.および金型パターンデータと対応付けて時系列で記憶されているものとする。また、結果データ記憶部113には、複数のサイクル結果データDT3がサイクルNo.と対応付けて記憶されているものとする。
【0055】
図6を参照して、学習装置100は、ワークWの品番およびワークパターンの組み合わせの中から一つの金型パターンを(所定の順序で)特定し(ステップS2)、一次データ記憶部111において、その金型パターンに対応付けられたサイクル測定データDT1を検索する(ステップS4)。
【0056】
その後、形式変換部102が、検索された(対象の)サイクル測定データDT1を、一次データ記憶部111から全て読み出して(ステップS6)、読み出した各サイクル測定データDT1を、サイクル特徴データDT2に変換する(ステップS8)。つまり、形式変換部102は、サイクル測定データDT1に含まれる各データに基づいて、上記表1に示した複数種類の特徴量を算出し、サイクル特徴データDT2として二次データ記憶部112に記録する。ここで、「フレーム振動」の特徴量の算出例について、図7および図8を参照して説明する。
【0057】
図7(A)は、時間軸に沿ったスライド1のストロークを示すグラフである。図7(B),(C)は、図7(A)と同一の時間軸に沿った振動(パルス)の大きさの推移を示すグラフであり、縦軸の単位は一例として「m/s」である。図8(B)は、図7(A)と同じく、スライド1のストロークを示すグラフである。図8(A)は、同一の時間軸に沿ったブレーキ緩み信号を示すグラフである。図8(C)は、図7(B),(C)と同じく、振動(パルス)の大きさの推移を示すグラフである。図8(D)は、周波数を横軸(単位:Hz)としたパワースペクトル密度の推移を示すグラフである。なお、ここでは、たとえばフレーム3の後方左側の支柱3cに取り付けられた振動計35が検知した振動を示しているものとする。
【0058】
図7(B)を参照して、波高ベクトルの算出方法について説明する。形式変換部102は、ベースライン(所定値)BLを上回っている区間TSのパルスを抽出し、時間軸に沿って、抽出された区間TSを短冊状にd個に分割する。そして、パルスデータをd次元ベクトル(p=[h,h,・・・,h,・・・,h])に加工し、波高ベクトルを算出する。ただし、「h」は個々の短冊内の平均値とする。
【0059】
図7(C)を参照して、時刻ベクトルの算出方法について説明する。形式変換部102は、区間TS内のパルスを、波高方向にd個に分割し、この分割線(水平線)と交差する2d個の時間を取得する。そして、時間データを2d次元ベクトル(q=[w,w,・・・,w,・・・,w2d])に加工し、時刻ベクトルを算出する。ただし、「w」には、パルス頂点位置に対する外側の交差点を2つ選択するものとする。たとえば、分割線Lxに注目すると、外側の交差点の時間t1,t4を選択し、時間t2,t3は選択しない。時間t1は、金型51~53の上型がワークWに接触し始める時間に相当し、時間t4は、金型51~53の上型がワークWから離れ始める時間に相当する。
【0060】
図8を参照して、周波数ベクトルの算出方法について説明する。形式変換部102は、図8(C)に示す振動波形から、3種類の解析区間、すなわち「ストローク前区間」、「金型接触前区間」、および「金型接触中区間」を切り出す。「ストローク前区間」は、図8(A)に示すブレーキ緩み信号がONとなった時点t11よりも前の区間である。「金型接触前区間」は、時点t11から、図8(B)に示すストローク位置が金型接触位置となった時点t12までの区間である。「金型接触中区間」は、時点t12から、図8(A)に示すブレーキ緩み信号がOFFとなった時点t13までの区間である。
【0061】
形式変換部102は、解析区間ごとに、振動信号をフーリエ変換し、パワースペクトル密度PSDを算出する。図8(D)には、周波数が0~fs/2Hzまでのパワースペクトル密度の波形が示されている。「fs」はサンプリング周波数であり、この例では、fs/2=50である。
【0062】
形式変換部102は、たとえば下限周波数fmin=0、上限周波数fmax=fs/2と定めて、この区間FSを短冊状にd個(たとえば20個)に分割し、区間FS内のパワースペクトル密度PSDを、波高ベクトルと同様に、d次元ベクトル(p=[h,h,・・・,h,・・・,h]、ただし「h」は個々の短冊内の平均値)に加工する。これにより、解析区間ごとの周波数ベクトルが得られる。
【0063】
なお、3種類の解析区間のうち、金型51~53との関連性が強い「金型接触中区間」の周波数ベクトルのみ算出してもよい。つまり、「ストローク前区間」および「金型接触前区間」の周波数ベクトルは、サイクル特徴データDT2に含めなくてもよい。
【0064】
また、周波数ベクトルの算出に用いた解析区間を、上記した波高ベクトルの算出に用いてもよい。すなわち、図8(C)に模式的に示すように、各解析区間を短冊状にd個(たとえば20個)に分割し、解析区間ごとに、パルスデータをd次元ベクトルに加工して、波高ベクトルを算出してもよい。この場合も、形式変換部102は、「金型接触中区間」の波高ベクトルのみを算出してもよい。
【0065】
上記のような手法で算出された振動波高ベクトル、振動時刻ベクトル、および振動周波数ベクトルの少なくとも一つを含むサイクル特徴データDT2が、対象のサイクル測定データDT1と同じサイクルNo.に対応付けて二次データ記憶部112に記録される。図5に示したように、サイクル特徴データDT2は、対象の金型パターンデータにも対応付けられて記憶されてもよい。
【0066】
再び図6を参照して、次に、学習部104が、ステップS6で読み出したサイクル測定データDT1に対応するサイクル結果データDT3を、結果データ記憶部113から全て読み出す(ステップS10)。具体的には、対象のサイクル測定データDT1と同じサイクルNo.に対応付けられたサイクル結果データDT3を読み出す。これにより、ステップS8で得られた各サイクル特徴データDT2に対応する結果データ(つまり、各型50の異常の有無を示すデータ)が抽出される。
【0067】
学習部104は、ステップS8で得られたサイクル特徴データDT2と、ステップS10で読み出されたサイクル結果データDT3との相関を機械学習する(ステップS12)。すなわち、学習部104は、複数種類の特徴量を入力とし、各型50(個々の金型)に対する異常の有無、すなわち金型状態を出力とする、予測モデルを生成する。学習部104は、予測モデルを生成すると、ステップS2で特定された金型パターン(品番、ワークパターン)を識別する金型識別情報に関連付けて、モデル記憶部114に記憶する(ステップS14)。
【0068】
ワークWの品番およびワークパターンの組み合わせのうち、未処理の金型パターンがある場合(ステップS16にてYES)、ステップS2に戻り、上記処理を繰り返す。全ての金型パターンに対する処理が完了すると(ステップS16にてNO)、一連のモデル生成処理を終了する。これにより、モデル記憶部114には、ワークWの品番およびワークパターンの組み合わせの数だけ、予測モデルM1,M2,・・・が記憶される。図5の例では、予測モデルM1が、品番“30”、ワークパターンNo.“15”の学習済モデルであり、予測モデルM2が、品番“80”、ワークパターンNo. “15”の学習済モデルであることが示されている。
【0069】
上述のように、本実施の形態によれば、荷重ピーク値または荷重増加傾きを含む荷重特徴量に加えて、少なくとも、左側(上流側)の支柱3cの振動特徴量と、右側(下流側)の支柱3dの振動特徴量とが、予測モデルの説明変数に用いられる。複数の金型51~53のうちのいずれかに異常が発生すると、その位置(工程)により、左右の振動特徴量に差が生じたり、ほとんど差がなくても両方の振動特徴量が異常値となったりするので、左右の振動特徴量を予測モデルの説明変数に含めることにより、金型51~53のどれに異常が発生したかを予測することができる。また、本実施の形態では、予測モデルの説明変数に、型50ごとの温度データ、潤滑液量データ、およびショット数データの少なくとも一つを加えることにより、金型51~53の上型、下型のいずれに異常が発生したかを精度良く予測することが可能となる。
【0070】
<異常予測装置>
(機能構成について)
図9は、本実施の形態に係る異常予測装置200の機能構成を示すブロック図である。異常予測装置200は、モデル記憶部213と、データ取得部202と、形式変換部203と、予測部204と、出力部230とを主に備えている。
【0071】
モデル記憶部213は、学習装置100により生成された複数の予測モデルM1,M2,・・・を予め記憶している。モデル記憶部213においても、各予測モデルは、金型識別情報に対応付けて記憶されている。学習装置100および異常予測装置200は、たとえばネットワークを介して接続されており、異常予測装置200の通信部(図示せず)が、学習装置100の通信部(図示せず)から、モデル記憶部114に記憶された予測モデルM1,M2,・・・を受信して、受信した予測モデルM1,M2,・・・をモデル記憶部213に格納している。あるいは、着脱可能な記録媒体を用いて、学習装置100のモデル記憶部114に記憶された予測モデルM1,M2,・・・を、モデル記憶部213に格納してもよい。
【0072】
データ取得部202は、プレス機11の運転開始後に、プレスサイクルごとに、学習装置100におけるサイクル測定データDT1と同種の測定データ(サイクル測定データ)DT11を、金型パターンデータとともに取得する。
【0073】
形式変換部203は、学習装置100の形式変換部102と同様に、特徴量算出手段として機能する。すなわち、サイクル測定データDT11に基づいて、上記表1に示した複数種類の特徴量を算出し、これらの特徴量を含むサイクル特徴データDT12を生成する。
【0074】
予測部204は、まず、取得した金型パターンデータに基づいて、サイクルごとに、金型51~53の異常予測に用いる予測モデルを判別する。具体的には、モデル記憶部213に記憶された複数の予測モデルM1,M2,・・・のうち、今回のサイクルにおける金型パターンに対応する予測モデルを判別する。そして、サイクル特徴データDT12に含まれる複数種類の特徴量を、判別された予測モデルに入力して、金型51~53の異常の有無を予測する。つまり、予測モデルが出力する「金型状態」が、予想結果となる。
【0075】
出力部230は、予測部204による予測結果を出力する。出力部230は、プレスサイクルごとに、各型50の異常の有無を出力する。また、表1に列挙したデータ項目の重要度(予測結果への影響度合)や予測結果の確信度をさらに出力してもよい。
【0076】
上述のデータ取得部202、形式変換部203、予測部204の機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することにより実現される。モデル記憶部213は、典型的には、コンピュータが備える不揮発性の記憶装置により構成される。出力部230は、典型的には、予測結果を表示する表示部により構成される。なお、出力部230は、PLC40を介して、またはPLC40を介することなく、図1に示したモニタリングPC42に予測結果を出力する通信部などにより構成されてもよい。
【0077】
(動作について)
図10は、本実施の形態に係る異常予測装置200による金型51~53の異常予測方法を示すフローチャートである。図10に示す異常予測処理は、異常予測装置200のプロセッサがメモリに予め記憶された異常予測プログラムを実行することにより実現される。
【0078】
図10を参照して、プレス機11の運転が開始されると、データ取得部202が、鍛造プレス装置10が備える所定のセンサ類からの出力データを含むサイクル測定データDT11を、金型パターンデータとともに取得する(ステップS26)。
【0079】
続いて、形式変換部203は、ステップS26においてデータ取得部202が取得したサイクル測定データDT11を、サイクル特徴データDT12に変換する(ステップS28)。つまり、形式変換部203は、サイクル測定データDT11に含まれる各データに基づいて、上記表1に示した複数種類の特徴量を算出する。
【0080】
また、予測部204は、ステップS26においてデータ取得部202が取得した金型パターンデータに基づいて、モデル記憶部213に記憶された複数の予測モデルM1,M2,・・・のうち、今回使用する予測モデルを判別する(ステップS29)。予測モデルの判別処理は、データ形式の変換処理と並行して行われてもよい。
【0081】
予測部204は、ステップS28で得られたサイクル特徴データDT12(つまり、1サイクル分の複数種類の特徴量)を、ステップS29で判別された予測モデルに入力し、プレスサイクルごとに、各型50の異常の有無を予測する(ステップS30)。
【0082】
出力部230は、予測モデルの出力である予測結果、すなわち各型50の異常の有無を出力する(ステップS32)。一例として、図9に示されるように、金型51の上型(金型I上)、金型51の下型(金型I下)、金型52の上型(金型II上)、・・・、金型53の下型(金型III下)それぞれについて、異常の有無が表示される。これにより、異常の可能性のある型50を容易に特定することができる。なお、上型、下型の区別なく、金型51~53の異常予測結果を出力してもよい。
【0083】
また、出力部230は、表1に列挙したデータ項目の、ステップS30での予測結果(予測モデルの出力)への影響度合を、たとえばグラフ化して出力するとともに、ステップS30での予測結果の確信度を、数値(%)として出力する(ステップS33)。確信度は、型50ごとの予測結果(異常あり/異常なし)に対して出力されてもよい。
【0084】
このように、本実施の形態では、i)金型51~53の異常予測結果、ii)予測結果に対する各データ項目の重要度、iii)予測結果の確信度、が出力される。これにより、予測結果に対する措置を容易に講ずることができる。
【0085】
上記ステップS26~S33の処理は、プレス運転が終了するまで繰り返し実行される(ステップS34にてNO)。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態に係る金型異常予測システムSYSは、学習装置100を備えている。そのため、異常予測装置200は、学習装置100が生成した予測モデルを用いることにより、作業者の経験に頼ることなく金型51~53の異常を検出(予測)することができる。金型51~53は、他のパーツに比べて故障頻度が高いため、本実施の形態によれば、作業者の負担を軽減することができる。
【0087】
また、本実施の形態では、金型51~53の異常の有無を、プレスサイクルごとにリアルタイムで予測できるので、金型51~53の異常を早期に発見することができる。したがって、プレス機11により不良品が量産されてしまうことを防止または抑制できる。なお、予測モデルによりいずれかの型50の異常が予測された場合に、プレス機11の運転を自動で停止するようにしてもよい。
【0088】
(変形例)
本実施の形態では、振動計35が、フレーム3の後方側の支柱3c,3dに取り付けられ、後方側の支柱3c,3dの振動特徴量を異常予測に用いる例について説明したが、限定的ではなく、振動計35を正面側の支柱3a,3dに取り付けて、後方側の支柱3c,3dの振動特徴量を異常予測に用いてもよい。あるいは、振動計35を、4本の支柱3a~3dの全てに取り付けて、4本の支柱3a~3dの振動特徴量を異常予測に用いてもよい。
【0089】
また、本実施の形態では、学習部104が、各型50の異常の有無を出力とする予測モデルを生成することとしたが、上型、下型の区別なく、プレス機11が備える工程ごとの金型51~53に対する異常の有無を出力とする予測モデルを生成してもよい。
【0090】
また、本実施の形態では、プレス機11が金型51~53を搭載する例について説明したが、金型の個数は3個に限定されない。また、金型は、複数個に限定されず、1個であってもよい。
【0091】
また、異常予測装置200のモデル記憶部213には、予め予測モデルM1,M2,・・・が記憶されることとしたが、学習装置100による機械学習に応じて、モデル記憶部213の予測モデルM1,M2,・・・が更新されてもよい。あるいは、異常予測装置200が学習装置100の機能を有していてもよい。
【0092】
また、本実施の形態では、鍛造プレス装置10が異常予測装置200を備えることとしたが、限定的ではなく、異常予測装置200はオフラインで金型51~53の異常の有無を予測してもよい。
【0093】
なお、学習装置100により実行される学習方法を、プログラムとして提供することもできる。同様に、異常予測装置200により実行される金型51~53の異常予測方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0094】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0095】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0096】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
3 フレーム、3a,3b,3c,3d 支柱、10 鍛造プレス装置、11 プレス機、20 荷重センサ、35 振動計、51,52,53 金型、100 学習装置、101,202 データ取得部、102,203 形式変換部、103 結果取得部、104 学習部、111 一次データ記憶部、112 二次データ記憶部、113 結果データ記憶部、114,213 モデル記憶部、120 操作部、200 異常予測装置、204 予測部、230 出力部、DT1,DT11 サイクル測定データ、DT2,DT12 サイクル特徴データ、DT3 サイクル結果データ、M1,M2 予測モデル、SYS 金型異常予測システム、W ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10