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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20241017BHJP
   H02P 25/022 20160101ALI20241017BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02P25/022
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021012186
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115549
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 雅史
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
(72)【発明者】
【氏名】北山 武志
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-177641(JP,A)
【文献】特開2014-204517(JP,A)
【文献】特開2015-126609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/14
H02P 25/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向複数箇所に配置されたステータコイルを有するステータと、
前記ステータに対して相対的に回転可能であり、互いに分離して配置された第1ロータ及び第2ロータと、を備え、
前記第1ロータは、周方向に交互に配置された極性の異なる複数の第1磁石を備え、前記第2ロータは、周方向に交互に配置された極性の異なる複数の第2磁石を備え、
前記第1ロータの前記第1磁石と前記第2ロータの前記第2磁石の周方向に沿った位相を変更可能であり、前記第1磁石と前記第2磁石との周方向に沿った磁極の位相の差を示す位相差角γが0°にならない構成とされていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
記ステータコイルに流れる電流I、前記第1ロータ及び前記第2ロータに対する電流進角θ、前記第2ロータに対する摩擦トルクTfである場合、
前記位相差角γは、前記第1ロータに生ずるトルクT1(I,θ)と前記第2ロータに生ずるトルクT2(I,θ+γ)とが逆方向であり、前記第2ロータに生ずるトルクT2(I,θ+γ)が前記摩擦トルクTfを超える値を有する条件を満たす角度以上に制限されていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機であって、
前記第1ロータと前記第2ロータとがいわゆる同相時において、前記第1ロータに対して前記第2ロータを相対的に回転させる際に、前記ステータコイルに流れる電流Iは、当該電流Iが発生させる磁束の中心が前記第1ロータの磁極の中心と前記第2ロータの磁極の中心の間に位置するように制御されることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記位相差角γは、0°より大きく12°以下とすることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な回転電機では、ロータ磁力を増大させることによってモータの最大トルクを増加させることができる。しかしながら、発生する誘起電圧も増大し、モータ制御の上限電圧を超えてしまい、高速回転ができなくなる。
【0003】
そこで、周方向に沿って複数箇所にステータコイルが配置されたステータと、ステータに対して回転可能であり、回転軸方向に分離して配置された第1ロータと第2ロータと、を備え、第1ロータに対する第2ロータの相対位相差であるロータ間の位相を遷移させるようにステータコイルの電流をベクトル制御する回転電機制御システムが開示されている(特許文献1,2)。当該構成では、第1ロータと第2ロータとの磁性が同相(同極)の状態と逆相(逆極)の状態とを切り替えることで、低速時は同相として最大トルクを増加させ、高速時は逆相として誘起電圧を低下させることが可能となる。
【0004】
例えば、モータを搭載した車両においてアクセルを踏んでトルクを掛けながら加速する際、ある回転数以上となったときに第1ロータと第2ロータとを相対的に回動させて磁石の位相を変更する。このとき、第1ロータと第2ロータとを連続的に相対的に回動させるためには、回動中も第1ロータから出力軸にトルクを出力し続けながら、第1ロータと第2ロータとの間に回動トルクを発生させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-204517号公報
【文献】特開2018-042433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出力軸に接続された第1ロータに対して相対的に回動可能な第2ロータを設けた構成において、同相(同極)及び逆相(逆極)のときに第2ロータに発生するトルクが第1ロータ及び出力軸に伝達される構成となっている。第2ロータは第1ロータと機械的に(例えば、ロックピン等で係止されることで)接続され、第2ロータに発生するトルクが第1ロータ及び出力軸に伝達されると共に、機械的に開放されることで第2ロータは回動可能となる。しかしながら、同極、逆極時にトルクを出力するためには、例えば、図5(a)に示すように、同極時はロックピン34を使って第2ロータ32のトルクを第1ロータ30に伝達させる必要があるが、トルクが掛かっている状態でロックピン34を抜いて開放することは摩擦等の関係で困難である。これに対して、図5(b)に示すように、ロックピン34を使わず第2ロータ32のトルクを第1ロータ30に直接伝える構成とすることでロックピン34に力が加わらなくなり、ロックピン34を抜くことが可能となる。ただし、当該構成にする場合、出力トルクの方向とは逆の方向に第2ロータ32を回動させる必要がある。
【0007】
しかしながら、従来の回転電機では、同相(同極)の場合に、出力軸に対する出力トルクの方向と、第1ロータと第2ロータとの間の相対的な回動トルクの方向が一致するので、トルクを出力しながら、それとは反対の方向に第1ロータと第2ロータとの間に回動トルクを発生することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、周方向複数箇所に配置されたステータコイルを有するステータと、前記ステータに対して相対的に回転可能であり、互いに分離して配置された第1ロータ及び第2ロータと、を備え、前記第1ロータは、周方向に交互に配置された極性の異なる複数の第1磁石を備え、前記第2ロータは、周方向に交互に配置された極性の異なる複数の第2磁石を備え、前記第1ロータの前記第1磁石と前記第2ロータの前記第2磁石の周方向に沿った位相を変更可能であり、前記第1磁石と前記第2磁石との周方向に沿った磁極の位相が一致しない構成とされていることを特徴とする回転電機である。
【0009】
ここで、前記第1ロータと前記第2ロータとがいわゆる同相時において前記第1ロータの前記第1磁石と前記第2ロータの前記第2磁石の周方向に沿った位相の差を示す位相差角γ、前記ステータコイルに流れる電流I、前記第1ロータ及び前記第2ロータに対する電流進角θ、前記第2ロータに対する摩擦トルクTfである場合、前記第1ロータに生ずるトルクT1(I,θ)と前記第2ロータに生ずるトルクT2(I,θ+γ)とが逆方向であり、前記第2ロータに生ずるトルクT2(I,θ+γ)が前記摩擦トルクTfを超える値を有する条件を満たすように前記第1磁石と前記第2磁石との周方向に沿った磁極の位相差角γとすることが好適である。
【0010】
また、前記第1ロータと前記第2ロータとがいわゆる同相時において、前記第1ロータに対して前記第2ロータを相対的に回転させる際に、前記ステータコイルに流れる電流Iは、当該電流Iが発生させる磁束の中心が前記第1ロータの磁極の中心と前記第2ロータの磁極の中心の間に位置するように制御されることが好適である。
【0011】
また、前記第1ロータと前記第2ロータは、回転軸方向に互いに分割されていることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力トルクを維持しつつ、第1ロータと第2ロータとの間に出力トルクとは逆向きの回動トルクを発生させる回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態における回転電機システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における第1ロータと第2ロータとの位相差を説明する図である。
図3】本発明の実施の形態における電流進角と第1ロータ及び第2ロータに発生するトルクの関係を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における位相差角と最大トルクの減少率との関係を示す図である。
図5】従来技術の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態における回転電機システム100は、図1に示すように、回転電機102、駆動回路104、電源106及び制御装置108を含んで構成される。回転電機システム100は、例えばハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等に搭載される。回転電機システム100は、駆動力を発生させるモータとして使用可能であると共に、発電機、モータ及び発電機の両方の機能をもつモータジェネレータとしても使用可能である。
【0015】
回転電機102は、筐体10、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及び回転角センサ24を含んで構成される。なお、軸受22を設けず、回転軸14に対して第2ロータ18を摺動させるような構成としてもよい。本実施の形態では、センサレス制御として1つの回転角センサ24のみを設けた構成としたが、第1ロータ16及び第2ロータ18のそれぞれに回転角センサ24を設けた構成としてもよい。
【0016】
回転電機102は、制御装置108に制御される駆動回路104によって、電源106から供給される電力を用いて回転軸14に対して駆動力を発生させる。また、回転軸14に与えられた回転エネルギーを駆動回路104によって電力に変換して電源106へ回生させる。駆動回路104は、電源106からの電力を交流に変換するインバータを含んで構成することができる。電源106は、例えば二次電池を含む蓄電システムを含んで構成することができる。
【0017】
筐体10は、回転電機102を機械的に支持するための構成である。筐体10内に、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及び回転角センサ24が収納される。
【0018】
ステータ12は、ステータコアとステータコイルを備える。ステータコアは、電磁鋼板を回転軸14の軸方向に積層した積層体からなる中空円筒形状の部材である。ステータコイルは、ステータコアの内周面に設けられた複数のティースに巻回されたコイルである。駆動回路104を介して電源106からステータコイルに電流を流すことによって、ステータコイルに磁場を発生させることができる。
【0019】
回転軸14には、第1ロータ16及び第2ロータ18が軸方向に沿って間隔をおいて配置される。本実施の形態における回転電機システム100では、2つに分割された第1ロータ16a,16bの間に第2ロータ18が配置される。
【0020】
第1ロータ16a,16bは、回転軸14に固定されている。また、第2ロータ18は、回転軸14に対して回転方向において移動可能に設置されている。すなわち、第2ロータ18は、回転軸14に対して相対的に回転可能とされている。例えば、第2ロータ18は、軸受22を介して回転軸14に取りつけられており、軸受22によって回転軸14に対して回転可能とされている。
【0021】
さらに、第2ロータ18は、回転軸14に対して固定できるようにロック機構20が設けられる。例えば、図5に示したように、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18との間にギアを設け、ロックピンを用いたロック機構20によって回転軸14に対して第2ロータ18が回転しないようにロックすることが可能な構成とされている。ただし、第2ロータ18に設けられるロック機構は、これに限定されるものではなく、第2ロータ18を回転軸14に固定できる機構を有するものであればよい。
【0022】
第1ロータ16(16a,16b)は、回転軸14に固定される基部と、基部の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。当該積層体には、複数の第1磁石が周方向に沿ってN極及びS極を交互に外側に向けて間隔をおいて埋め込まれて磁極が構成されている。第2ロータ18は、上記のロック機構20及び軸受22を介して回転軸14に設置された基部と、基部の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。当該積層体には、複数の第2磁石が周方向に沿ってN極及びS極を交互に外側に向けて間隔をおいて埋め込まれて磁極が構成されている。
【0023】
第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18の磁石の配置は、基本的に同一である。すなわち、周方向に沿って、第1ロータ16(16a,16b)の第1磁石の配置(磁極としての位相)と、第2ロータ18の第2磁石の配置(磁極としての位相)が同一(同相)になった場合、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18を合わせた界磁が最大となる。一方、周方向に沿って、第1ロータ16(16a,16b)の第1磁石の配置と第2ロータ18の第2磁石の配置がちょうど反対になった場合、すなわち磁極としての位相が逆相になった場合、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18を合わせた界磁が最小となる。
【0024】
回転電機システム100の通常の運転時は、ロック機構20によって第2ロータ18を回転軸14に対して回転しないような状態として、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18の両方が回転軸14の回転に寄与する状態とする。一方、界磁調整時は、ロック機構20を開放して第2ロータ18を回転軸14に対して回転可能として、第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を相対的に回転させ、周方向の位置を調整することで、ロータ全体としての界磁を調整することができる。
【0025】
第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18とが同相となったときの界磁に対して逆相となったときの界磁が半減するようにするためには、第1ロータ16(16a,16b)に設けた第1磁石の磁力が第2ロータ18に設けた第2磁石の磁力が3倍となるように設定すればよい。例えば、回転軸14の軸方向にロータ全体を4分割し、第1ロータ16(16a,16b)の合計の軸長が第2ロータ18の軸長の3倍となるように構成すればよい。
【0026】
このような構成において、ロック機構20を結合状態として回転軸14に対して第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が回転しない状態(通常運転状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することでステータ12に対して回転軸14を回転させる出力トルクを発生させることができる。また、逆に、回転軸14の回転エネルギーをステータ12のステータコイルに流れる電流に変換して回生させることができる。
【0027】
また、ロック機構20を開放状態して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(調整状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することで、第1ロータ16(16a,16b)から回転軸14へ出力トルクを発生させつつ、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の位相差を調整することができる。
【0028】
このとき、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18に回転角センサ24を設け、回転角センサ24から出力される第1ロータ16(16a,16b)の回転角及び第2ロータ18の回転角を受けた制御装置108によって磁極の位相差の調整を行う。すなわち、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18の磁極の位相差を調整する場合、まずロック機構20を開放状態して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(調整状態)とする。調整状態において、ステータ12のステータコイルの電流を流すことによって第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の位相差を変更する。そして、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との位相差が所望の値となった状態でロック機構20を結合状態にして回転軸14に第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が固定された状態に戻すことができる。
【0029】
従来の回転電機システムでは、図2(a)に示すように、第1ロータ16(16a,16b)の磁極の位相と第2ロータ18の磁極の位相とが完全に一致する状態となり得る構成とされていた。これに対して、本実施の形態における回転電機システム100では、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18とを同極にした際に、図2(b)に示すように、第1ロータ16(16a,16b)の磁極の位相と第2ロータ18の磁極の位相とが完全に一致しないように構成される。例えば、第1ロータ16(16a,16b)の磁極の位相と第2ロータ18の磁極の位相とが完全に一致した状態ではクラッチ機構が機能しないようにロック機構20を構成し、少なくとも所定の位相角以上ずれた状態でしか第2ロータ18が回転軸14に固定されないようにする。
【0030】
例えば、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18とが完全に同相(同極)となった状態を0°とし、逆相(逆極)となった状態を180°とした場合、従来の回転電機システムでは0°~180°の位相範囲をとることが可能な構成としていたが、本実施の形態における回転電機システム100では初期の位相角差γを4°とすると4°~180°の位相範囲で制御する。
【0031】
これによって、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18とが完全な同相(同極:0°)ではない初期の位相角差γだけ位相差を有する時において、回転軸14に対して出力トルクを出力した状態を維持しつつ、第1ロータ16(16a,16b)が出力する出力トルクとは逆方向に第2ロータ18を回転させる回動トルクを発生させることができる。なお、本発明では、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18とが完全な同相(同極:0°)ではない初期の位相角差γだけ位相差を有する時をいわゆる同相(同極)時とする。以下、当該作用について説明する。
【0032】
第1ロータ16(16a,16b)に生じるトルクの電流進角特性をT1(I,θ)とし、第2ロータ18に生ずるトルクの電流進角特性をT2(I,θ)とする。ここで、Iはステータ12の電流実効値、θはステータ12の電流進角(以下、電気角として示す)である。第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18に対してステータ12は共通であるので、電流実効値Iと電流進角θも共通である。
【0033】
ロック機構20を開放して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態において、第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を回転させる制御を行う場合について検討する。以下、いわゆる同相(同極)時における第1ロータ16(16a,16b)に対する第2ロータ18の初期の位相差角γ(以下、電気角として示す)、回転軸14に対する第2ロータ18の摩擦トルクTfとする。この状態で、第1ロータ16(16a,16b)で出力できるトルクT1(I,θ)が出力トルクとなる。そして、第2ロータ18に生ずるトルクT2(I,θ+γ)が第1ロータ16(16a,16b)のトルクT1(I,θ)と逆向きであり、かつ、トルクT2(I,θ+γ)が摩擦トルクTfを超える値であれば第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を相対的に逆向きに回転させることができる。
【0034】
なお、いわゆる同相(同極)時においてステータ12のステータコイルに流す電流は、当該電流が発生させる磁束の中心が第1ロータ16(16a,16b)の磁極の中心と第2ロータ18の磁極の中心の間に位置するようにベクトル制御することが好適である。
【0035】
以下、具体例を示す。回転電機システム100のトルクが磁石トルク主体である場合、トルクTの電流進角依存性は数式(1)で表される。ここで、Pnは極対数、φaは磁石磁束、Iaは電流である。そこで、単純にトルクT=Icosθとおくとする。
【0036】
【数1】
【0037】
第1ロータ16(16a,16b)の磁力(軸長)が第2ロータ18の磁力(軸長)の3倍であるとすると、それぞれのトルクの電流進角特性は第1ロータ16(16a,16b)のトルクT1=3Icos(θ)及び第2ロータ18のトルクT2=Icos(θ+γ)と表すことができる。
【0038】
図3は、いわゆる同相(同極)時における初期の位相差角γ=10°とした場合の第1ロータ16(16a,16b)のトルクT1及び第2ロータ18のトルクT2の関係を示す。この場合、電流進角θが82°~90°の範囲で摩擦トルクTfに打ち勝って第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を逆方向に回転させることができる。
【0039】
ここで、初期の位相差角γを大きくすることで電流進角の幅(上記例では82°~90°)を大きくすることができる。さらに、トルクT2を大きくすることができる。一方、初期の位相差角γを大きくすることで、いわゆる同相(同極)時における最大トルクが減少してしまう。
【0040】
図4は、初期の位相差角γと回転電機システム100が出力できる最大トルクとの関係を示す。例えば、トルクの減少を0.5%程度まで抑える必要がある場合に許容できる初期の位相差角γは12°以下とすることが好適である。
【符号の説明】
【0041】
10 筐体、12 ステータ、14 回転軸、16 第1ロータ、18 第2ロータ、20 ロック機構、22 軸受、24 回転角センサ、100 回転電機システム、102 回転電機、104 駆動回路、106 電源、108 制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5