(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/16 20200101AFI20241017BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B60W30/16
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021019571
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】余 開江
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006762(JP,A)
【文献】特開2015-022421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0001848(US,A1)
【文献】特開2015-063245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/16
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺状況を認識する認識部と、
前記認識部による認識の結果に基づいて、他車両が自車両の前方に割り込んだ後に自車両の前方から退避する割込退避走行を予測する予測部と、
他車両との車間距離と相対車速の少なくとも一方に基づく減速開始条件が成立すると、自車両が減速するようにアクチュエータを制御する減速制御を行うアクチュエータ制御部と、を備え、
前記予測部は、他車両に対する自車両の車幅方向における衝突余裕時間の変化量に基づいて他車両が前記割込退避走行を行うか否かを予測し、前記変化量が所定程度以上であるとき、他車両が前記割込退避走行を行うと予測し、
前記アクチュエータ制御部は、前記予測部により前記割込退避走行
を行うと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても前記減速制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行制御装置において、
前記認識部は、自車両から所定距離内における他車両の走行状況を認識し、
前記予測部は、前記認識部により認識された他車両の走行状況に基づいて、他車両が自車両の前方に割り込むか否かを予測するとともに、他車両が自車両の前方に割り込むと予測すると、他車両が前記割込退避走行を行うか否かを予測し、
前記アクチュエータ制御部は、前記予測部により他車両が前記割込退避走行を行わないと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立したときに前記減速制御を行い、前記予測部により他車両が前記割込退避走行を行うと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても前記減速制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走行制御装置において、
前記アクチュエータ制御部は、自車両が先行車両に追従する追従走行を行っているとき、自車両の前方へ割り込む割込車両の有無に基づく追従切換条件が成立すると、割込車両に追従するようにアクチュエータを制御する追従切換制御を行う一方、前記予測部により前記割込退避走行が予測されると、他車両の割り込みにより追従切換条件が成立しても前記追従切換制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行を制御する走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、自車両が走行する自車線の前方に割り込んだ割込車両との位置関係に基づいて自車両の減速を制御するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の装置では、割込車両との相対速度がゼロ以下であるとき自車両を減速する減速制御を行い、相対車速がプラスの値であるとき、減速制御を行わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、車間距離と相対車速とに基づいて減速制御されるため、割込車両が自車両の前方に一時的に割り込んだ後に車線変更するような場合にも、減速されることとなり、不要な減速制御が行われるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である走行制御装置は、自車両の周辺状況を認識する認識部と、認識部による認識の結果に基づいて、他車両が自車両の前方に割り込んだ後に自車両の前方から退避する割込退避走行を予測する予測部と、他車両との車間距離と相対車速の少なくとも一方に基づく減速開始条件が成立すると、自車両が減速するようにアクチュエータを制御する減速制御を行うアクチュエータ制御部と、を備え、予測部は、他車両に対する自車両の車幅方向における衝突余裕時間の変化量に基づいて他車両が割込退避走行を行うか否かを予測し、変化量が所定程度以上であるとき、他車両が割込退避走行を行うと予測し、アクチュエータ制御部は、予測部により割込退避走行を行うと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても減速制御を行わない。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両の前方に割り込む割込車両に対する不要な減速を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両制御システムの全体構成を概略的に示すブロック図。
【
図2】複数の車線を有する本線に合流車線が合流する合流地点の一例を示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係る走行制御装置の要部構成を示すブロック図。
【
図4】
図3のコントローラのCPUで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図4を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る走行制御装置は、自動運転機能を有する車両、すなわち自動運転車両に適用することができる。なお、本実施形態に係る走行制御装置が適用される車両を、他車両と区別して自車両と呼ぶことがある。自車両は、内燃機関(エンジン)を走行駆動源として有するエンジン車両、走行モータを走行駆動源として有する電気自動車、エンジンと走行モータとを走行駆動源として有するハイブリッド車両のいずれであってもよい。自車両は、ドライバによる運転操作が不要な自動運転モードでの走行だけでなく、ドライバの運転操作による手動運転モードでの走行も可能である。
【0009】
まず、自動運転に係る概略構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る走行制御装置を有する車両制御システム100の全体構成を概略的に示すブロック図である。
図1に示すように、車両制御システム100は、コントローラ10と、コントローラ10にそれぞれ通信可能に接続された外部センサ群1と、内部センサ群2と、入出力装置3と、測位ユニット4と、地図データベース5と、ナビゲーション装置6と、通信ユニット7と、走行用のアクチュエータACとを主に有する。
【0010】
外部センサ群1は、自車両の周辺情報である外部状況を検出する複数のセンサ(外部センサ)の総称である。例えば外部センサ群1には、自車両の全方位の照射光に対する散乱光を測定して自車両から周辺の障害物までの距離を測定するライダ、電磁波を照射し反射波を検出することで自車両の周辺の他車両や障害物等を検出するレーダ、自車両に搭載され、CCDやCMOS等の撮像素子を有して自車両の周辺(前方、後方および側方)を撮像するカメラなどが含まれる。
【0011】
内部センサ群2は、自車両の走行状態を検出する複数のセンサ(内部センサ)の総称である。例えば内部センサ群2には、自車両の車速を検出する車速センサ、自車両の前後方向の加速度および左右方向の加速度(横加速度)をそれぞれ検出する加速度センサ、走行駆動源の回転数を検出する回転数センサ、自車両の重心の鉛直軸回りの回転角速度を検出するヨーレートセンサなどが含まれる。手動運転モードでのドライバの運転操作、例えばアクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作、ステアリングホイールの操作等を検出するセンサも内部センサ群2に含まれる。
【0012】
入出力装置3は、ドライバから指令が入力されたり、ドライバに対し情報が出力されたりする装置の総称である。例えば入出力装置3には、操作部材の操作によりドライバが各種指令を入力する各種スイッチ、ドライバが音声で指令を入力するマイク、ドライバに表示画像を介して情報を提供するディスプレイ、ドライバに音声で情報を提供するスピーカなどが含まれる。
【0013】
測位ユニット(GNSSユニット)4は、測位衛星から送信された測位用の信号を受信する測位センサを有する。測位衛星は、GPS衛星や準天頂衛星などの人工衛星である。測位ユニット4は、測位センサが受信した測位情報を利用して、自車両の現在位置(緯度、経度、高度)を測定する。
【0014】
地図データベース5は、ナビゲーション装置6に用いられる一般的な地図情報を記憶する装置であり、例えばハードディスクや半導体素子により構成される。地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、交差点や分岐点の位置情報が含まれる。なお、地図データベース5に記憶される地図情報は、コントローラ10の記憶部12に記憶される高精度な地図情報とは異なる。
【0015】
ナビゲーション装置6は、ドライバにより入力された目的地までの道路上の目標経路を探索するとともに、目標経路に沿った案内を行う装置である。目的地の入力および目標経路に沿った案内は、入出力装置3を介して行われる。目標経路は、測位ユニット4により測定された自車両の現在位置と、地図データベース5に記憶された地図情報とに基づいて演算される。外部センサ群1の検出値を用いて自車両の現在位置を測定することもでき、この現在位置と記憶部12に記憶される高精度な地図情報とに基づいて目標経路を演算するようにしてもよい。
【0016】
通信ユニット7は、インターネット網や携帯電話網倒に代表される無線通信網を含むネットワークを介して図示しない各種サーバと通信し、地図情報、走行履歴情報および交通情報などを定期的に、あるいは任意のタイミングでサーバから取得する。ネットワークには、公衆無線通信網だけでなく、所定の管理地域ごとに設けられた閉鎖的な通信網、例えば無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等も含まれる。取得した地図情報は、地図データベース5や記憶部12に出力され、地図情報が更新される。
【0017】
アクチュエータACは、自車両101の走行を制御するための走行用アクチュエータである。走行駆動源がエンジンである場合、アクチュエータACには、エンジンのスロットルバルブの開度(スロットル開度)を調整するスロットル用アクチュエータが含まれる。走行駆動源が走行モータである場合、走行モータがアクチュエータACに含まれる。自車両の制動装置を作動するブレーキ用アクチュエータと転舵装置を駆動する転舵用アクチュエータもアクチュエータACに含まれる。
【0018】
コントローラ10は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。より具体的には、コントローラ10は、CPU(マイクロプロセッサ)等の演算部11と、ROM,RAM等の記憶部12と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。なお、エンジン制御用ECU、走行モータ制御用ECU、制動装置用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、
図1では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ10が示される。
【0019】
記憶部12には、高精度の詳細な地図情報(高精度地図情報と呼ぶ)が記憶される。高精度地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、道路の勾配の情報、交差点や分岐点の位置情報、車線数の情報、車線の幅員および車線毎の位置情報(車線の中央位置や車線位置の境界線の情報)、地図上の目印としてのランドマーク(信号機、標識、建物等)の位置情報、路面の凹凸などの路面プロファイルの情報が含まれる。記憶部12に記憶される高精度地図情報には、通信ユニット7を介して取得した自車両の外部から取得した地図情報、例えばクラウドサーバを介して取得した地図(クラウド地図と呼ぶ)の情報と、外部センサ群1による検出値を用いて自車両自体で作成される地図、例えばSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等の技術を用いてマッピングにより生成される点群データからなる地図(環境地図と呼ぶ)の情報とが含まれる。記憶部12には、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報についての情報も記憶される。
【0020】
演算部11は、機能的構成として、自車位置認識部13と、外界認識部14と、行動計画生成部15と、走行制御部16と、地図生成部17とを有する。
【0021】
自車位置認識部13は、測位ユニット4で得られた自車両の位置情報および地図データベース5の地図情報に基づいて、地図上の自車両の位置(自車位置)を認識する。記憶部12に記憶された地図情報と、外部センサ群1が検出した自車両の周辺情報とを用いて自車位置を認識してもよく、これにより自車位置を高精度に認識することができる。なお、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサで自車位置を測定可能であるとき、そのセンサと通信ユニット7を介して通信することにより、自車位置を認識することもできる。
【0022】
外界認識部14は、ライダ、レーダ、カメラ等の外部センサ群1からの信号に基づいて自車両の周囲の外部状況を認識する。例えば自車両の周辺を走行する周辺車両(前方車両や後方車両)の位置や速度や加速度、自車両の周囲に停車または駐車している周辺車両の位置、および他の物体の位置や状態などを認識する。他の物体には、標識、信号機、道路の区画線や停止線等の標示、建物、ガードレール、電柱、看板、歩行者、自転車等が含まれる。他の物体の状態には、信号機の色(赤、青、黄)、歩行者や自転車の移動速度や向きなどが含まれる。
【0023】
行動計画生成部15は、例えばナビゲーション装置6で演算された目標経路と、自車位置認識部13で認識された自車位置と、外界認識部14で認識された外部状況とに基づいて、現時点から所定時間先までの自車両の走行軌道(目標軌道)を生成する。目標経路上に目標軌道の候補となる複数の軌道が存在するときには、行動計画生成部15は、その中から法令を順守し、かつ効率よく安全に走行する等の基準を満たす最適な軌道を選択し、選択した軌道を目標軌道とする。そして、行動計画生成部15は、生成した目標軌道に応じた行動計画を生成する。行動計画生成部15は、先行車両を追い越すための追い越し走行、走行車線を変更する車線変更走行、先行車両に追従する追従走行、走行車線を逸脱しないように車線を維持するレーンキープ走行、減速走行または加速走行等の走行態様に対応した種々の行動計画を生成する。行動計画生成部15は、目標軌道を生成する際に、まず走行態様を決定し、走行態様に基づいて目標軌道を生成する。
【0024】
走行制御部16は、自動運転モードにおいて、行動計画生成部15で生成された目標軌道に沿って自車両が走行するように各アクチュエータACを制御する。より具体的には、走行制御部16は、自動運転モードにおいて道路勾配などにより定まる走行抵抗を考慮して、行動計画生成部15で算出された単位時間毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。そして、例えば内部センサ群2により検出された実加速度が目標加速度となるようにアクチュエータACをフィードバック制御する。すなわち、自車両が目標車速および目標加速度で走行するようにアクチュエータACを制御する。なお、手動運転モードでは、走行制御部16は、内部センサ群2により取得されたドライバからの走行指令(ステアリング操作等)に応じて各アクチュエータACを制御する。
【0025】
地図生成部17は、手動運転モードで走行しながら、外部センサ群1により検出された検出値を用いて、3次元の点群データからなる環境地図を生成する。具体的には、カメラにより取得された撮像画像から、画素ごとの輝度や色の情報に基づいて物体の輪郭を示すエッジを抽出するとともに、そのエッジ情報を用いて特徴点を抽出する。特徴点は例えばエッジの交点であり、建物の角や道路標識の角などに対応する。地図生成部17は、抽出された特徴点を順次、環境地図上にプロットし、これにより自車両が走行した道路周辺の環境地図が生成される。カメラに代えて、レーダやライダにより取得されたデータを用いて自車両の周囲の物体の特徴点を抽出し、環境地図を生成するようにしてもよい。
【0026】
自車位置認識部13は、地図生成部17による地図作成処理と並行して、自車両の位置推定処理を行う。すなわち、特徴点の時間経過に伴う位置の変化に基づいて、自車両の位置を推定する。地図作成処理と位置推定処理とは、例えばSLAMのアルゴリズムにしたがって同時に行われる。地図生成部17は、手動運転モードで走行するときだけでなく、自動運転モードで走行するときにも同様に環境地図を生成することができる。既に環境地図が生成されて記憶部12に記憶されている場合、地図生成部17は、新たに得られた特徴点により環境地図を更新してもよい。
【0027】
ところで、自車両101が走行する自車線の前方に他車両が割り込んできたとき、自車両101は、その他車両(割込車両)との適切な車間距離を保つために、減速制御を行う。例えば、
図2に示すように、自車両101が先行車両103に追従走行しているとき、車線LN1,LN2からなる本線TLと合流車線MLとが合流する合流地点MPにおいて、他車両102が合流車線MLから自車両101の前方に割り込むように本線SLへ進入するときがある(経路RT1)。このとき、自車両101は、他車両(割込車両)102との車間距離が保たれるように減速制御を行う。そして、追従するべき先行車両を他車両103から割込車両102に切り換える。なお、本線SLは、左側通行の片側2車線の道路である。
【0028】
しかしながら、割込車両102が自車両101の前方に一時的に割り込んだ後車線変更するようなときには(経路RT2)、上記のような減速制御を行うことなく、現在の走行状態(
図2の例では、他車両103に追従する追従走行)を継続することが好ましい。そこで、自車両の前方へ他車両が一時的に割込んだときに不要な減速制御が行われないように、本実施形態では、以下のように走行制御装置を構成する。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係る走行制御装置50の要部構成を示すブロック図である。この走行制御装置50は、自車両101の走行動作を制御するものであり、
図1の車両制御システム100の一部を構成する。
図3に示すように、走行制御装置50は、コントローラ10と、カメラ1aと、レーダ1bと、ライダ1cと、アクチュエータACを有する。
【0030】
カメラ1aは、CCDやCMOS等の撮像素子(イメージセンサ)を有する単眼カメラであり、
図2の外部センサ群1の一部を構成する。カメラ1aはステレオカメラであってもよい。カメラ1aは、自車両101の周囲を撮像する。カメラ1aは、例えば自車両101の前部の所定位置に取り付けられ、自車両101の前方空間を連続的に撮像し、対象物の画像データ(以下、撮像画像データまたは単に撮像画像と呼ぶ)を取得する。カメラ1aは、撮像画像をコントローラ10に出力する。レーダ1bは、自車両101に搭載され、電磁波を照射し反射波を検出することで自車両101の周辺の他車両や障害物等を検出する。レーダ1bは、検出値(検出データ)をコントローラ10に出力する。ライダ1cは、自車両101に搭載され、自車両101の全方位の照射光に対する散乱光を測定して自車両101から周辺の障害物までの距離を検出する。ライダ1cは、検出値(検出データ)をコントローラ10に出力する。
【0031】
コントローラ10は、演算部11(
図1)が担う機能的構成として、認識部141と、予測部142と、アクチュエータ制御部161とを有する。認識部141と予測部142とは、例えば
図1の外界認識部14により構成される。アクチュエータ制御部161は、例えば
図1の行動計画生成部15および走行制御部16により構成される。
【0032】
認識部141は、カメラ1aにより取得された撮像画像や、レーダ1bの検出データ、ライダ1cの検出データに基づいて、自車両の周辺状況を認識する。より詳細には、認識部141は、自車両101から所定距離内の他車両、すなわち、自車両101との距離が所定距離以下である他車両の走行状況(位置や、速度、加速度など)を認識する。なお、認識部141は、自車両101が走行する車線(自車線)に隣接する隣接車線を走行する他車両や、
図2の他車両102のように合流車線を合流地点MPに向かって走行する車両など、自車両101の前方に割り込む可能性が所定程度以上である車両を認識対象とする。したがって、自車両101から所定距離内の他車両であっても、自車線の前方を走行する他車両など、自車両101の前方に割り込む可能性が所定程度未満である他車両は、認識対象とされない。
【0033】
予測部142は、認識部141により認識された他車両が自車両の前方に割り込むか否かを予測し、その他車両が自車両の前方に割り込むと予測したとき、さらに、その他車両が自車両の前方に割り込んだ後に自車両101の前方から退避するか否かを予測する。以下、他車両が自車両101の前方に割込んだ後に自車両101の前方から退避する走行態様を割込退避走行と呼ぶ。
【0034】
ここで、上記
図2を用いて、予測部142による割込退避走行の予測について説明する。予測部142は、まず、認識部141により他車両102が認識されると、他車両102の走行状況に基づいて、他車両102が自車両101の前方に割り込むか否かを予測する。詳細には、予測部142は、他車両102の走行位置および走行速度に基づいて、他車両102との進行方向における衝突余裕時間(TTC:Time To Collision)と、他車両102との進行方向における車間時間(THW:Time HeadWay)と、他車両102との車幅方向における衝突余裕時間(横TTC)とを算出する。この算出は、認識部141により他車両102が認識されると、単位時間毎に繰り返し実行される。以下、自車両101の進行方向をX方向と呼び、自車両101の車幅方向をY方向と呼ぶ。
【0035】
予測部142は、TTCが第1所定値以下であり、THWが第2所定値以下であり、さらに、横TTCが第3所定値以下であるとき、他車両102が自車両101の前方に割り込むと予測する。なお、このとき予測の対象とされる割り込みは、自車両101の減速制御が必要とされる割り込みであり、減速制御が必要とされない割り込みは予測の対象とされない。例えば、他車両102が、自車両101との車間距離を十分に保った状態で自車両101の前方に割り込むときには自車両101は減速する必要がないので、そのような割り込みは予測部142による予測の対象とされない。したがって、第1所定値、第2所定値および第3所定値は、減速制御が必要とされない割り込みが予測の対象とされないようにそれぞれ設定される。
【0036】
予測部142は、他車両102が自車両101の前方に割り込むと予測すると、次いで、横TTCの値の変化に基づいて、他車両102が割込退避走行を行うか否かを予測する。詳細には、予測部142は、横TTCの急激な変化(絶対値の減少)を認識すると、他車両102が自車両101の前方に割り込んだ後に車線LN2へ移動する割込退避走行を行う、と予測する。例えば、予測部142は、所定程度以上の横TTCの変化量(単位時間あたりの減少量)を認識すると、他車両102が割込退避走行を行うと予測する。
【0037】
なお、横TTCを算出する際、自車位置のY方向の位置(Y座標)の代わりに、合流地点のソフトノーズ(
図2の例では部分SN)の位置(Y座標)を用いてもよい。これにより、他車両102の割り込みおよび割込退避走行をより早いタイミングで予測することができる。また、他車両102が割込退避走行を行うか否かの判定において、横TTCだけでなく、自車位置のX方向の位置(X座標)の代わりに合流地点のソフトノーズの位置(X座標)を用いて算出したTHW(以下、第2THWと呼ぶ)を横TTCとともに用いてもよい。これにより、割込退避走行を行うか否かをより精度よく判定することができる。
【0038】
アクチュエータ制御部161は、自車両の前方車両との車間距離と相対車速の少なくとも一方に基づく減速開始条件が成立すると、自車両が減速するようにアクチュエータを制御する。以下、この制御を減速制御と呼ぶ。アクチュエータ制御部161は、予測部142により自車両101の前方に他車両が割り込むと予測された後、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立すると減速制御を開始する。ただし、アクチュエータ制御部161は、予測部142により他車両が割込退避走行を行うと予測されたときには、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても減速制御を開始せずに、現在の走行態様を維持するようにアクチュエータを制御する。
【0039】
図4は、予め定められたプログラムに従い
図3のコントローラ10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば、コントローラ10に電源が投入されると開始され、所定周期で繰り返される。
【0040】
まず、ステップS11で、自車両101から所定距離内において他車両が認識されたか否かを判定する。ステップS11は肯定されるまで繰り返される。ステップS11で肯定されると、ステップS12で、ステップS11で認識された他車両が自車両101の前方に割り込むか否かを予測する。ステップS12で否定されると、ステップS14において、現在の走行態様を維持すると決定する。このとき、
図2のように自車両101が他車両103に追従走行している場合には、その追従走行がそのまま継続される。ステップS12で肯定されると、すなわち、他車両が自車両101の前方に割り込むと予測すると、ステップS13で、他車両が割込退避走行を行うか否かを予測する。
【0041】
ステップS13で肯定されると、すなわち、他車両が割込退避走行を行うと予測すると、ステップS14に進み、現在の走行態様を維持すると決定する。これにより、他車両が一時的に自車両101の前方に割り込んだときに不要な減速制御が行われることを抑制することができる。一方、ステップS13で否定されると、ステップS15において、減速制御すると決定する。このとき、
図2のように自車両101が他車両103に追従走行している場合には、減速開始条件が成立したときに減速制御が行われる。これにより、割込車両との接近を回避することができる。その後、割込車両に追従するような走行制御が行われる。
【0042】
本発明の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)走行制御装置50は、自車両101の周辺状況を認識する認識部141と、認識部141による認識の結果に基づいて、他車両が自車両の前方に割り込んだ後に自車両101の前方から退避する割込退避走行を予測する予測部142と、他車両との車間距離と相対車速の少なくとも一方に基づく減速開始条件が成立すると、自車両101が減速するようにアクチュエータを制御する減速制御を行うアクチュエータ制御部と、を備える。アクチュエータ制御部161は、予測部142により割込退避走行が予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても減速制御を行わない。これにより、他車両が一時的に自車両の前方に割り込んだときに自車両が減速しないようにでき、割込車両に対する不要な減速を抑制することができる。
【0043】
(2)認識部141は、自車両101から所定距離内における他車両の走行状況を認識する。予測部142は、認識部141により認識された他車両の走行状況に基づいて、他車両が自車両の前方に割り込むか否かを予測するとともに、他車両が自車両の前方に割り込むと予測すると、他車両が割込退避走行を行うか否かを予測する。アクチュエータ制御部161は、予測部142により他車両が割込退避走行を行わないと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立したときに減速制御を行い、予測部142により他車両が割込退避走行を行うと予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても減速制御を行わない。これにより、割込車両との接近または衝突を回避しつつ、割込車両に対する不要な減速を抑制することができる。
【0044】
(3)予測部142は、他車両に対する自車両101の車幅方向における衝突余裕時間の変化量に基づいて他車両が割込退避走行を行うか否かを予測し、変化量が所定程度以上であるとき、他車両が割込退避走行を行うと予測する。これにより、他車両が割込退避走行を行うか否かを精度よく予測できる。
【0045】
(4)アクチュエータ制御部161は、自車両101が先行車両に追従する追従走行を行っているとき、自車両101の前方へ割り込む割込車両の有無に基づく追従切換条件が成立すると、割込車両に追従するようにアクチュエータを制御する追従切換制御を行う一方、予測部142により割込退避走行が予測されると、他車両の割り込みにより追従切換条件が成立しても追従切換制御を行わない。これにより、追従走行中に他車両による一時的な割り込みがあったときに、追従するべき先行車両を切り換えずに追従走行を継続することができ、不要な先行車両の切換を抑制できる。
【0046】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、予測部142が、自車両101の車幅方向における衝突余裕時間の変化量に基づいて他車両が割込退避走行を行うか否かを予測するようにしたが、予測部の構成はこれに限らない。予測部は、カメラ1a等の検出データに基づいて他車両の向き(進行方向)を認識し、その認識結果に基づいて他車両が割込退避走行を行うか否かを予測してもよい。例えば、予測部は、他車両が自車線に対して所定の角度(自車線の延在方向に対する角度)以上で進入すると認識したとき、他車両が割込退避走行を行うと予測してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、予測部142が、他車両が割込退避走行を行うか否かを予測したが、予測部の構成はこれに限定されない。また、アクチュエータ制御部161が、予測部142により割込退避走行が予測されると、他車両の割り込みにより減速開始条件が成立しても減速制御しないようにしたが、アクチュエータ制御部の構成はこれに限定されない。例えば、予測部は、割込退避走行する他車両と自車両101とが自車線内において最接近するときの接近度合いを予測してもよい。そして、アクチュエータ制御部は、予測部により予測された接近度合いが所定程度以上であるとき、他車両(割込退避走行する他車両)の割り込みにより減速開始条件が成立すると、その接近度合いに基づいて減速制御してもよい。例えば、アクチュエータ制御部は、その接近度合いが所定程度を超えないように減速制御してもよい。これにより、他車両が割込退避走行するときに、自車両と自車線を横断中の他車両との接近を回避することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、自車両101が追従走行しているときを例にして説明したが、自車両101がクルーズコントロールにより定速走行しているときにも同様に、本実施形態の走行制御装置50を適用できる。また、上記実施形態では、自車両101が合流地点の本線を走行しているときを例にして説明したが、自車両101が合流地点以外の地点を走行しているときにも同様に、本実施形態の走行制御装置50を適用できる。例えば、自車両101が左側通行の片側2車線の道路の走行車線を走行しているときに、他車両が、道路の左側に設置された駐車場や店舗から走行車線に進入し、自車両101の前方を通過しながら追越車線に車線変更するときにも適用可能である。さらに、上記実施形態では、走行制御装置50を自動運転車両に適用したが、走行制御装置50は、自動運転車両以外の車両にも適用可能である。例えば、ADAS(Advanced driver-assistance systems)を備える手動運転車両にも走行制御装置50を適用することができる。
【0049】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の一つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1a カメラ、1b レーダ、1c ライダ、10 コントローラ、50 走行制御装置、141 認識部、142 予測部、161 アクチュエータ制御部、100 車両制御システム、AC アクチュエータ