(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】極低温装置、極低温装置用の伝熱構造、および極低温装置の初期冷却方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/14 20060101AFI20241017BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20241017BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
H10N60/81
(21)【出願番号】P 2021027151
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-502889(JP,A)
【文献】特開2009-231672(JP,A)
【文献】特開2010-109187(JP,A)
【文献】特開2000-182821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1冷却ステージと前記第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを有する極低温冷凍機と、
前記第1冷却ステージと熱的に結合された第1固定部と、
前記第2冷却ステージと熱的に結合された第2固定部と、
前記第1固定部に固定された第1部分と、前記第2固定部に固定された第2部分と、前記第1部分と前記第2部分の間に設けられた破断可能部とを有する伝熱体と、を備え、
前記破断可能部は、前記極低温冷凍機によって前記伝熱体が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断
し、
前記所定の冷却温度まで冷却されるときの収縮率が前記伝熱体に比べて大きい熱収縮材料をさらに備え、
前記第2部分が前記熱収縮材料を介して前記第2固定部に固定されていることを特徴とする極低温装置。
【請求項2】
前記第2部分が
前記熱収縮材料とは別の柔軟伝熱要素を介して前記第2固定部と熱的に結合されていることを特徴とする請求項
1に記載の極低温装置。
【請求項3】
前記所定の冷却温度は、前記第1冷却ステージが冷却される第1冷却温度から20K以内の温度であることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温装置。
【請求項4】
前記熱収縮材料は、エンジニアリングプラスチックまたは合成樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温装置。
【請求項5】
極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に設置可能な第1部分と、前記極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に設置可能な第2部分と、前記第1部分と前記第2部分の間に設けられた破断可能部とを有する伝熱体を備え、
前記破断可能部は、前記伝熱体が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断
し、
前記所定の冷却温度まで冷却されるときの収縮率が前記伝熱体に比べて大きい熱収縮材料をさらに備え、
前記第2部分が前記熱収縮材料を介して前記極低温装置の冷却側または被冷却側の前記他方に固定されることを特徴とする極低温装置用の伝熱構造。
【請求項6】
極低温装置の初期冷却方法であって、前記極低温装置は、第1冷却ステージと前記第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを有する極低温冷凍機と、前記第1冷却ステージと熱的に結合された第1固定部と、前記第2冷却ステージと熱的に結合された第2固定部と、を備え、前記方法は、
伝熱体の第1部分を前記第1固定部に固定するとともに、前記伝熱体の第2部分を前記第2固定部に固定することと、
前記極低温冷凍機によって前記伝熱体を所定の冷却温度まで冷却することにより、前記第1部分と前記第2部分の間で前記伝熱体を破断させることと、を備え
、
前記第2部分は、熱収縮材料を介して前記第2固定部に固定されており、
前記熱収縮材料は、前記所定の冷却温度まで冷却されるときの収縮率が前記伝熱体に比べて大きいことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温装置、極低温装置用の伝熱構造、および極低温装置の初期冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導コイルなどの被冷却物を、液体ヘリウムではなく、極低温冷凍機で直接冷却する伝導冷却式の極低温装置が知られている。極低温装置の起動に際して被冷却物を周囲温度(例えば室温)から所望の極低温に冷却する初期冷却が行われる。初期冷却は典型的に少なくとも数日以上、例えば大型の超伝導コイルであれば一週間以上もの長い時間を要する。
【0003】
そこで、初期冷却中に超伝導コイルとこれを囲む輻射シールドを熱接触させる予冷用熱接触機構が提案されている。一般に、輻射シールドを冷却する極低温冷凍機の第1冷却ステージは超伝導コイルを冷却する第2冷却ステージよりも大きな冷凍能力を有することから、輻射シールドと超伝導コイルの熱接触により第1冷却ステージで超伝導コイルの冷却を補助し、初期冷却時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の予冷用熱接触機構では、輻射シールドと熱的に結合された接触子を先端に有する可動式の押圧棒が設けられ、この押圧棒で接触子を超伝導コイルに押し付けることによって、輻射シールドと超伝導コイルが熱接触する。しかしながら、このような熱接触機構は、実際のところ、接触面での熱抵抗が大きくなりがちであり、その結果、熱接触機構を介して伝わる熱量が小さくなり、初期冷却時間の短縮という利点は減殺される。熱抵抗を低減するには、接触子による接触面積を大きくしたり、押圧棒による押し付け力を大きくしたりする必要があるが、そのためには、諸部材を頑丈で大型とし強力な加圧装置を設置するなど、熱接触機構を大掛かりな構成とせざるを得ない。
【0006】
多くの場合、極低温装置は、初期冷却を完了した後きわめて長い時間にわたって(例えば数年以上)継続して極低温冷却状態に保持される。つまり、初期冷却が行われる頻度はかなり少なく、極低温装置の寿命のなかで初回の起動の一度きりであることもしばしばである。このように使用機会が限定的であるにもかかわらず、大掛かりな熱接触機構を極低温装置に設置するのは経済的でない。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温装置の初期冷却の短縮に役立つ簡便な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、極低温装置は、第1冷却ステージと第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを有する極低温冷凍機と、第1冷却ステージと熱的に結合された第1固定部と、第2冷却ステージと熱的に結合された第2固定部と、第1固定部に固定された第1部分と、第2固定部に固定された第2部分と、第1部分と第2部分の間に設けられた破断可能部とを有する伝熱体と、を備える。破断可能部は、極低温冷凍機によって伝熱体が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断する。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温装置用の伝熱構造は、極低温装置の冷却側または被冷却側の一方に設置可能な第1部分と、極低温装置の冷却側または被冷却側の他方に設置可能な第2部分と、第1部分と第2部分の間に設けられた破断可能部とを有する伝熱体を備える。破断可能部は、伝熱体が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断する。
【0010】
本発明のある態様によると、極低温装置の初期冷却方法が提供される。極低温装置は、第1冷却ステージと第1冷却ステージよりも低温に冷却される第2冷却ステージとを有する極低温冷凍機と、第1冷却ステージと熱的に結合された第1固定部と、第2冷却ステージと熱的に結合された第2固定部と、を備える。本方法は、伝熱体の第1部分を第1固定部に固定するとともに、伝熱体の第2部分を第2固定部に固定することと、極低温冷凍機によって伝熱体を所定の冷却温度まで冷却することにより、第1部分と第2部分の間で伝熱体を破断させることと、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極低温装置の初期冷却の短縮に役立つ簡便な構成を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施の形態に係り、極低温装置の初期冷却のために設けられる伝熱構造をより詳細に示す模式図である。
【
図3】実施の形態に係る伝熱体と熱収縮材料の固定の一例を示す模式図である。
【
図4】実施の形態に係る伝熱体の配置の一例を示す模式図である。
【
図5】実施の形態に係る伝熱体の配置の他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
初期冷却は、極低温装置の組立後に運転準備として行われ、それにより極低温装置は周囲温度(例えば室温)から所望の極低温に冷却される。極低温装置は、その後きわめて長い時間にわたって(例えば数年以上)継続して極低温冷却状態に保持される。極低温装置には、第1冷却温度(例えば30K~80K)に冷却される高温冷却部と、これより低い第2冷却温度(例えば3K~20K)に冷却される低温冷却部が設けられる。極低温装置に設置される極低温冷凍機は一般に、高温冷却部を冷却する冷凍能力が、低温冷却部を冷却する冷凍能力に比べて(例えば数十倍)大きい。
【0016】
詳細は後述するが、実施の形態に係る伝熱構造は、初期状態としてオンとされ、オンからオフへの切替動作を一度だけ可能とする、いわば再使用不能な熱スイッチである。伝熱構造は、これを介した高温冷却部と低温冷却部の熱的な結合を初期冷却においてのみ可能とする。初期冷却の間、高温冷却部のための大きな冷凍能力を利用して低温冷却部の冷却を補助することができ、初期冷却を速くすることができる。伝熱構造は、初期冷却が完了するまでに冷却によって自身に生じる熱収縮で破断する。破断した後は、伝熱構造は伝熱経路として機能し得ない。こうして初期冷却後は高温冷却部と低温冷却部が互いに熱的に切り離され、それぞれ異なる所望の冷却温度に保持される。伝熱構造は、以後の極低温装置の動作を妨げない。初期冷却にのみ機能する伝熱構造を、熱収縮による破断を用いた簡便な構成で実現し、初期冷却にかかる時間を短くすることができる。
【0017】
図1は、実施の形態に係る極低温装置を模式的に示す図である。極低温装置10は、被冷却物12と、被冷却物12を冷却する極低温冷凍機20と、極低温冷凍機20が設置され、被冷却物12を収容する真空容器30とを備える。
【0018】
この実施の形態では、極低温装置10は、超伝導磁石装置であり、被冷却物12は、超伝導コイルである。超伝導磁石装置は、例えば単結晶引き上げ装置、NMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。なお、極低温装置10は、極低温環境を利用する様々な装置であってもよく、被冷却物12は、極低温環境で使用する例えばセンサなど様々な機器、さらにはこうした機器を冷却する例えばヘリウムなどの極低温冷媒であってもよい。
【0019】
極低温冷凍機20は、冷媒ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機20の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷却を提供する。極低温冷凍機20は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。極低温冷凍機20は、極低温に冷却される低温部として、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを備える。これら冷却ステージは、真空容器30の中に配置される。第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bは、例えば、銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。極低温冷凍機20の運転中、第1冷却ステージ22aは、第1冷却温度、例えば30K~80Kに冷却され、第2冷却ステージ22bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20Kに冷却される。
【0020】
また、極低温冷凍機20は、第1シリンダ24aと、第2シリンダ24bと、駆動部26とを備える。第1シリンダ24aは、駆動部26を第1冷却ステージ22aに接続し、第2シリンダ24bは、第1冷却ステージ22aを第2冷却ステージ22bに接続する。第1冷却ステージ22a、第2冷却ステージ22b、第1シリンダ24a、第2シリンダ24bが真空容器30の開口部から真空容器30内に挿入され、この開口部に駆動部26が取り付けられることによって、極低温冷凍機20が真空容器30に設置される。図示の例では、極低温冷凍機20は、駆動部26を上方に、低温部を下方に向けて、縦向きに真空容器30に設置されているが、他の向きで設置されることも可能である。
【0021】
第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ24bが第1シリンダ24aよりも小径である。第1シリンダ24aと第2シリンダ24bは同軸に配置され、第1シリンダ24aの下端が第2シリンダ24bの上端に剛に連結されている。極低温冷凍機20がGM冷凍機である場合、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bにはそれぞれ、蓄冷材を内蔵した第1ディスプレーサと第2ディスプレーサが収容されている。第1ディスプレーサと第2ディスプレーサは互いに連結され、それぞれ第1シリンダ24aと第2シリンダ24bに沿って往復動可能である。
【0022】
駆動部26は、モータと、モータの出力する回転運動を第1ディスプレーサと第2ディスプレーサの往復動に変換するようにモータをこれらディスプレーサに連結する連結機構とを備える。また、駆動部26は、第1シリンダ24aと第2シリンダ24bの内部の圧力を高圧と低圧に周期的に切り替える圧力切替弁を備え、この圧力切替弁も同じモータによって駆動される。
【0023】
なお、
図1では例として、1台の極低温冷凍機20を示しているが、例えば被冷却物12が大型の場合など、必要に応じて、極低温装置10は、一つの同じ被冷却物を冷却する複数台の極低温冷凍機20を備えてもよい。また、極低温冷凍機20は、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0024】
真空容器30は、真空領域32を外部環境14から隔てるように構成される。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。真空領域32は、真空容器30内に定められ、外部環境14は、大気領域であってもよい。被冷却物12と極低温冷凍機20の低温部は、真空領域32に配置され、外部環境14から真空断熱される。断熱性能を高めるために、真空領域32を外部環境14から隔てる真空容器30の壁部材の表面に沿って、または壁部材の内部に、断熱材料が設けられていてもよい。
【0025】
真空領域32には、極低温冷凍機20の低温部および被冷却物12とともに、輻射熱シールド40が配置される。輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却される。輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aに直接取り付けられ、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。あるいは、輻射熱シールド40は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1冷却ステージ22aに取り付けられてもよい。輻射熱シールド40は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。輻射熱シールド40は、第2冷却温度に冷却される被冷却物12、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、およびその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。
【0026】
被冷却物12は、伝熱部材42を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。伝熱部材42は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材であってもよく、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。被冷却物12は、第2冷却ステージ22bに直接取り付けられてもよい。
【0027】
極低温装置10は、第1部分50aと、第2部分50bと、第1部分50aと第2部分50bの間に設けられた破断可能部50cとを有する伝熱体50を備える。
【0028】
第1部分50aは、第1固定部に固定され、第2部分50bは、第2固定部に固定される。第1固定部は、図示の実施の形態では輻射熱シールド40であるが、第1冷却ステージ22aであってもよく、あるいは第1冷却ステージ22aと熱的に結合された任意の部位であってもよい。第2固定部は、例えば被冷却物12であるが、第2冷却ステージ22bであってもよく、あるいは第2冷却ステージ22bと熱的に結合された任意の部位(例えば伝熱部材42)であってもよい。このようにして、伝熱体50は、第1冷却温度に冷却される高温冷却部と第2冷却温度に冷却される低温冷却部を熱的に結合する伝熱経路として働く。伝熱体50は、極低温装置10の製造工程において、例えばボルト等の締結部材による機械的接合またはその他適宜の接合手段により第1固定部および第2固定部それぞれに固定される。
【0029】
この実施の形態では、伝熱体50は、細長い板状の部材であり、その長手方向両端が第1部分50a、第2部分50bとしてそれぞれ第1固定部、第2固定部に固定される。破断可能部50cは、伝熱体50の長手方向中央部に設けられる。伝熱体50は単一の部材であり、つまり伝熱体50の第1部分50a、第2部分50b、破断可能部50cは一体である。なお伝熱体50の形状は板状には限られず、伝熱体50は例えば円筒状のパイプであってもよい。
【0030】
伝熱体50は、例えば、銅(例えば、無酸素銅、タフピッチ銅などの純銅)、アルミニウムなど高い熱伝導率をもつ金属材料で形成される。伝熱体50の破断を容易にするために、伝熱体50の材料は、引張試験での伸び率が小さいことが好ましい。知られているように、金属材料は、合金番号により組成を特定し、質別記号により質別を特定することができる。ある合金番号で特定される伝熱体50に適する金属材料について複数の質別記号がある場合には、引張試験での伸び率がより小さい質別記号を選択してもよく、伝熱体50は、その合金番号および質別記号をもつ金属材料で形成されてもよい。また、伝熱体50は、例えばグラファイトのように銅よりも高い熱伝導率をもつ非金属材料など、その他の適する熱伝導材料で形成されてもよい。
【0031】
破断可能部50cは、極低温冷凍機20によって伝熱体50が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断する。破断可能部50cは、冷却による伝熱体50の熱収縮のもとで破断可能部50cに応力集中を生じさせ破断を促進するさまざまな形態をとりうるものである。一例として、破断可能部50cは、例えばくさび状またはその他の形状をもつ溝、切り込み、亀裂であってもよい。破断可能部50cは、ミシン目など、線に沿って連続する複数の小穴であってもよい。
【0032】
あるいは、第1部分50aと第2部分50bそれぞれに沿って補強材が設けられ、これら補強材が伝熱体50の長手方向中央部で互いに分離されていることにより破断可能部50cが形成されてもよい。この場合、伝熱体50は、厚さを一様とする板状の部材であってもよいし、補強材が分離された部位に溝や切り込みなど破断を促進する形状を有してもよい。
【0033】
第1部分50aと第2部分50bが別部品として用意され、はんだまたは溶接(例えばスポット溶接)により互いに接合されてもよく、この接合部が破断可能部50cとして用いられてもよい。
【0034】
また、第1部分50a、第2部分50b、破断可能部50cが別部品として用意され、互いに結合されてもよい。例えば、破断可能部50cは、シートまたは箔などフィルム状の部材であってもよく、こうした破断可能部50cで第1部分50aと第2部分50bが接続されていてもよい。フィルム状の破断可能部50cは、第1部分50aおよび第2部分50bと同じ材料で形成されてもよい。破断可能部50cを異なる材料で形成してもよく、例えば、第1部分50aと第2部分50bが銅などの金属材料で形成され、破断可能部50cがグラファイト(例えばシート状)で形成されてもよい。なお第1部分50aと第2部分50bは互いに異なる材料で形成されてもよい。
【0035】
破断可能部50cは、互いに長さの異なる複数のフィルム状部材を有してもよく、各フィルム状部材が第1部分50aと第2部分50bを接続していてもよい。これら複数のフィルム状部材は、冷却が進むにつれてその長さが短いフィルム状部材から順次破断してもよい。
【0036】
伝熱体50の設計、とくに破断可能部50cの形状と材料の選択により、破断可能部50cが破断する所定の冷却温度を予め設定することができる。例えば、初期冷却の開始温度である周囲温度(例えば室温)からこの所定の冷却温度に伝熱体50が冷却されるとき伝熱体50に生じる熱収縮の大きさを見積もり、この熱収縮のもとで破断可能部50cに発生する引張応力が破断可能部50cの引張強度を超えるように、伝熱体50および破断可能部50cが設計される。
【0037】
この所定の冷却温度は、例えば、第1冷却温度またはその近傍の温度(例えば、第1冷却温度から10K以内または20K以内の温度)であってもよい。このようにすれば、輻射熱シールド40と伝熱体50が第1冷却温度に冷却されたとき破断可能部50cを破断させることができる。あるいは、所定の冷却温度は、第1冷却温度より低く第2冷却温度より高い温度から選択されてもよい。より低い温度への冷却はより大きい熱収縮をもたらすから、より確実に破断する破断可能部50cを設計することが容易になる。
【0038】
図1では、単一の伝熱体50が極低温装置10に設けられているが、極低温装置10は、各々が高温冷却部と低温冷却部をつなぐ伝熱経路として働く複数の伝熱体50を有してもよい。複数の伝熱体50を設置することにより、被冷却物12をより速く冷却することもできる。また、伝熱体50は、薄板状でコンパクトであるため、僅かな空所にも取付可能であり、設置場所を随意に選択しやすい。そこで、これら複数の伝熱体50は、被冷却物12を一様に冷却することに役立つように、被冷却物12の様々な部位に取り付けられてもよい。
【0039】
第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを伝熱体50を介して熱的に結合することは、極低温装置10の起動時における初期冷却に有利である。初期冷却では、極低温冷凍機20が周囲温度(例えば室温)から目標の極低温まで冷却される。一般的に、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aでの冷凍能力は第2冷却ステージ22bでの冷凍能力よりも大きい。第2冷却ステージ22bが周囲温度のような高温にあるときは第2冷却ステージ22bの冷却の補助に第1冷却ステージ22aの冷凍能力を利用することによって初期冷却の所要時間を短縮することができる。
【0040】
極低温冷凍機20によって伝熱体50を所定の冷却温度まで冷却することにより、第1部分50aと第2部分50bの間で伝熱体50を破断させる。伝熱体50が破断可能部50cで破断し、被冷却物12と第1冷却ステージ22aの熱的な結合は切断される。被冷却物12は、第2冷却ステージ22bによって第2冷却温度へと冷却される。このようにして、極低温冷凍機20の初期冷却が完了すれば、極低温装置10の運転を開始することができる。
【0041】
したがって、実施の形態によると、極低温装置10の初期冷却の短縮に役立つ簡便な構成を提供することができる。既存の提案のような大掛かりな熱接触機構を必要としない。このように簡便な構成は、伝熱体50を安価に製作することを可能にするから、伝熱体50を搭載することによる極低温装置10の追加的な製造コストの増加を抑えられる。また、初期冷却の完了時に破断した後は、極低温装置10が極低温冷却状態に保持されている限り、伝熱体50の第1部分50aと第2部分50bは互いに分離されている。よって、伝熱体50は、以後の極低温装置10の動作を妨げない。伝熱体50は、極低温装置10内に収められているため、極低温装置10の外部からの熱侵入の経路となることもない。
【0042】
上述の実施の形態のように、伝熱体50が高温冷却部と低温冷却部に直接固定されることに代えて、伝熱体50が熱収縮材料を介して高温冷却部と低温冷却部の少なくとも一方に固定されてもよい。
図2(a)および
図2(b)を参照して、そうした実施の形態を以下に述べる。
【0043】
図2(a)および
図2(b)は、実施の形態に係り、極低温装置の初期冷却のために設けられる伝熱構造をより詳細に示す模式図である。
図2(a)には、初期冷却前およびその最中の伝熱構造が示され、
図2(b)には、初期冷却後の伝熱構造が示される。よって、
図2(a)には初期状態(すなわち未破断)の伝熱体50が示され、
図2(b)には破断した伝熱体50が示される。
【0044】
伝熱体50の第2部分50bが熱収縮材料52を介して第2固定部に固定されている。第2固定部は、被冷却物12と熱的に結合された伝熱部材42であってもよい。熱収縮材料52は、例えばボルト等の締結部材による機械的接合またはその他適宜の接合手段により第2部分50bと第2固定部それぞれに固定される。伝熱体50の第2部分50bが板状の部材である場合、その片面に熱収縮材料52が固定される。伝熱体50の第2部分50bが円筒状である場合、熱収縮材料52は第2部分50bの円筒形状に嵌め込まれる円柱形状を有してもよい。
【0045】
熱収縮材料52をより効率的に冷却するために、被冷却物12と熱的に結合された伝熱部材53が設けられてもよい。伝熱部材53は、例えば熱収縮材料52の表面の一部または大部分を覆うように熱収縮材料52と接触してもよい。例えば、伝熱部材53は、熱収縮材料52が伝熱体50と固定される面とは反対側の面で熱収縮材料52と接触してもよい。
【0046】
熱収縮材料52の熱収縮を促進するために、伝熱体50が第2固定部に直接固定されるのではなく、第2部分50bが柔軟伝熱部材54を介して第2固定部と熱的に結合されている。柔軟伝熱部材54は、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。柔軟伝熱部材54は、熱収縮材料52が熱収縮するときの第2部分50bの変位を吸収することができる。
【0047】
熱収縮材料52は、上記の所定の冷却温度まで冷却されるときの収縮率が伝熱体50に比べて大きい。熱収縮材料52は、例えば、MCナイロン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール)、RENY(レニー、登録商標)などのエンジニアリングプラスチック、または、汎用樹脂材料などその他の合成樹脂材料で形成されてもよい。一般に、室温から100K以下のある冷却温度まで冷却したとき、伝熱体50を形成する銅などの金属材料を収縮率は0.3%程度であるのに対して、熱収縮材料52を形成する合成樹脂材料の収縮率は、約1~2%程度の範囲にある。
【0048】
したがって、
図2(a)および
図2(b)に示される実施の形態によると、冷却によって熱収縮材料52が生み出す大きな熱収縮を利用して、伝熱体50の破断可能部50cにより大きな熱応力を作用させることができる。冷却による伝熱体50のより確実な破断が可能となる。
【0049】
伝熱体50を長くするほど伝熱体50の熱収縮量を増加できるが、極低温装置10内の空間的制約により伝熱体50の長さをあまり長くとることができない場合もある。こうした場合に、熱収縮材料52の介在は有用である。
【0050】
なお、伝熱体50の第1部分50aが熱収縮材料52を介して第1固定部たとえば輻射熱シールド40に固定されてもよい。ただし、この場合、輻射熱シールド40によって熱収縮材料52が冷却されたとき伝熱体50が破断する。輻射熱シールド40に比べて被冷却物12の冷却は緩やかに進むと想定されるから、伝熱体50の破断時点で被冷却物12は輻射熱シールド40に比べて充分に冷却されていないかもしれない。このように伝熱体50が早く破断することを避け、初期冷却の完了に破断のタイミングをより近づけるためには、上述のように被冷却物12側に熱収縮材料52を設けることが好ましい。
【0051】
伝熱体50の両端に熱収縮材料52が設けられてもよい。すなわち、第1部分50aが熱収縮材料52を介して第1固定部に固定されるとともに、第2部分50bが熱収縮材料52を介して第2固定部に固定されてもよい。
【0052】
第2固定部に固定された一つの熱収縮材料52に複数の伝熱体50が取り付けられてもよい。
【0053】
図3は、実施の形態に係る伝熱体50と熱収縮材料52の固定の一例を示す模式図である。図示されるように、伝熱体50の第2部分50bと熱収縮材料52は、複数の締結部材56を用いて固定されてもよい。これら締結部材56は、伝熱体50の長手方向(熱収縮材料52の熱収縮の方向)に並んでいる。
【0054】
伝熱体50の破断可能部50cに最も近い締結部材56(図において上側の締結部材56)は、第2部分50bと熱収縮材料52の相対移動を不能とするように第2部分50bを熱収縮材料52に剛に固定する。よって、上側の締結部材56は、熱収縮材料52の熱収縮により生み出される引張力を伝熱体50に伝達することができる。
【0055】
仮に、他の締結部材56(図において下側の締結部材56)も熱収縮材料52と剛に固定されていたとすると、熱収縮材料52が熱収縮するとき伝熱体50のうち締結部材56間の部分の剛性が熱収縮材料52の熱収縮を妨げるように働く。そこで、他の締結部材56は、第2部分50bと熱収縮材料52の相対移動をある程度許容するように第2部分50bを熱収縮材料52に固定する。図示されるように、下側の締結部材56は第2部分50bとの間に隙間58を有する。このようにすれば、熱収縮材料52が熱収縮するとき下側の締結部材56での第2部分50bと熱収縮材料52の位置ずれが許容され、第2部分50bは熱収縮材料52の熱収縮を妨げない。
【0056】
なお、伝熱体50と熱収縮材料52は、伝熱体50の破断可能部50cに最も近い締結部材56(図において上側の締結部材56)のみによって固定されてもよい。
【0057】
図4は、実施の形態に係る伝熱体50の配置の一例を示す模式図である。図示されるように、被冷却物12は、縦方向支持体60により支持されてもよい。縦方向支持体60は、真空容器30に固定され、鉛直方向に沿って輻射熱シールド40を貫通して延在し、被冷却物12に突き当てられている。縦方向支持体60は、例えば被冷却物12の自重など被冷却物12に鉛直方向下向きに働く力を支持することができる。
【0058】
一例として、伝熱体50の第1部分50aが熱収縮材料52を介して第1固定部としての輻射熱シールド40に固定されている。伝熱体50の第2部分50bは、第2固定部としての伝熱部材42に固定されている。伝熱体50の長手方向は鉛直方向に一致している。なお上述のように、伝熱体50の第2部分50bが熱収縮材料52を介して第2固定部としての伝熱部材42または被冷却物12に固定されてもよい。
【0059】
縦方向支持体60は合成樹脂材料で形成されることが多いため、熱収縮材料52と同様に、極低温装置10の冷却に伴い縦方向支持体60も熱収縮しうる。縦方向支持体60の熱収縮に応じて被冷却物12は沈下し、これは第2部分50bを第1部分50aに向けて近づけるように、つまり伝熱体50の破断可能部50cを圧縮するように働く。そうすると、熱収縮材料52の熱収縮量の一部はこの圧縮を緩和するにすぎないものとなる。熱収縮材料52の熱収縮により破断可能部50cに働く引張力は、縦方向支持体60が何ら熱収縮しなかった場合に比べて減ってしまう。
【0060】
そこで、破断可能部50cにより大きな引張応力を作用させるために、熱収縮材料52の長さLaは、縦方向支持体60の長さLdより長くてもよい。ここで、熱収縮材料52の長さLaは、伝熱体50の長手方向(図において上下方向)における熱収縮材料52の長さである。縦方向支持体60の長さLdは、伝熱体50の長手方向における被冷却物12から輻射熱シールド40までの長さである。
【0061】
図5は、実施の形態に係る伝熱体50の配置の他の一例を示す模式図である。図示されるように、被冷却物12は、横方向支持体62により支持されてもよい。横方向支持体62は、真空容器30に固定され、水平方向に沿って輻射熱シールド40を貫通して延在し、被冷却物12に突き当てられている。
【0062】
ここでも、一例として、伝熱体50の第1部分50aが熱収縮材料52を介して第1固定部としての輻射熱シールド40に固定されている。伝熱体50の第2部分50bは、第2固定部としての伝熱部材42に固定されている。伝熱体50の長手方向は水平方向に一致している。なお上述のように、伝熱体50の第2部分50bが熱収縮材料52を介して第2固定部としての伝熱部材42または被冷却物12に固定されてもよい。
【0063】
横方向支持体62は被冷却物12に固定されてもよいが、被冷却物12と接触するにすぎない場合もしばしばある。その場合、横方向支持体62は、被冷却物12を横方向支持体62に押し付ける力を支持することができる。しかし、これと逆向きの力、つまり被冷却物12を横方向支持体62から引き離す力が働くときには、横方向支持体62はこれを支持しない(被冷却物12は横方向支持体62から離れうる)。例えば、図示されるように横方向支持体62が被冷却物12の右側から接触する場合には、横方向支持体62は、被冷却物12に右向きに働く力を支持するが、左向きの力を支持しない。
【0064】
そこで、伝熱体50(および熱収縮材料52)は、自身に熱収縮により働く荷重が被冷却物12を横方向支持体62に向かって引きつけるように働くように設置されることが好ましい。例えば、横方向支持体62が被冷却物12の右側から接触する場合には、図示されるように、伝熱体50は熱収縮により被冷却物12が右向きに引きつけられるように設置される。このようにすれば、伝熱体50が熱収縮するとき、横方向支持体62の剛性を利用して破断可能部50cに働く引張力を強くすることができる。
【0065】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0066】
ある実施の形態においては、伝熱体50が極低温冷凍機20に組み込まれてもよい。この場合、極低温冷凍機20は、第1冷却ステージ22aに固定された第1部分50aと、第2冷却ステージ22bに固定された第2部分50bと、第1部分50aと第2部分50bの間に設けられた破断可能部50cとを有する伝熱体50を備えてもよい。破断可能部50cは、第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bによって伝熱体50が所定の冷却温度まで冷却されることにより破断してもよい。
【0067】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0068】
10 極低温装置、 20 極低温冷凍機、 22a 第1冷却ステージ、 22b 第2冷却ステージ、 50 伝熱体、 50a 第1部分、 50b 第2部分、 50c 破断可能部、 52 熱収縮材料。