(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】医療用針及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20241017BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61M5/158 500H
A61M5/32
A61M5/158 500B
(21)【出願番号】P 2021032364
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真洋
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-524013(JP,A)
【文献】特開昭53-5891(JP,A)
【文献】米国特許第04249530(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針体と、前記針体が挿入される貫通孔が設けられた針ハブと、前記針体の外周面と前記貫通孔の内周面との隙間に介在して前記針体及び前記針ハブを接合する接着剤と、を備える医療用針であって、
前記針体は、前記貫通孔の延在方向の一端側に設けられた注入開口を介して前記貫通孔の外側に突出し、
前記隙間は、前記注入開口よりも前記延在方向の他端側に配置された減速部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記一端側で前記減速部に隣接する第1隣接部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記他端側で前記減速部に隣接する第2隣接部と、を有し、
前記減速部では、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも、前記延在方向に直交する断面積が大きく、
前記減速部と前記第2隣接部との境界には、設定位置が設けられ、
前記隙間の少なくとも前記注入開口と前記設定位置との間に、前記接着剤が充填されて
おり、
前記注入開口は、前記針ハブの先端部に設けられ、
前記減速部では、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも前記貫通孔の内径が大きいことで前記断面積が大きく、
前記減速部は、前記第1隣接部から前記針ハブの基端方向に向かって前記貫通孔の内径が拡径することで形成される第1テーパ部と、前記第1テーパ部から前記第2隣接部に向かって前記貫通孔の内径が縮径することで形成される第2テーパ部とを有し、
前記隙間は、前記注入開口から前記基端方向に延在する導入部(40)と、前記導入部の基端側に隣接する導入テーパ部(50)と、前記導入テーパ部の基端側に隣接する中継部(42)と、前記中継部の基端側に隣接する中継テーパ部(52)と、をさらに有し、
前記隙間の前記断面積は、前記導入部で最大となり、
前記導入テーパ部は、前記基端方向に向かって縮径し、
前記中継部は、前記導入部よりも前記断面積が小さく、前記第1隣接部よりも前記断面積が大きく、且つ前記針ハブの軸線と平行に延在し、
前記中継テーパ部は、前記基端方向に向かって縮径し、
前記中継テーパ部の基端側に、前記第1隣接部が隣接し、
前記第1隣接部の前記断面積と、前記第2隣接部の前記断面積とは、互いに同じである、医療用針。
【請求項2】
針体と針ハブとを接着剤を介して接合して医療用針を得る医療用針の製造方法であって、
前記針ハブに設けられた貫通孔に前記針体を挿入し、且つ前記貫通孔の延在方向の一端側に設けられた注入開口から前記貫通孔の外側に前記針体を突出させる針体挿入工程と、
前記注入開口から、前記針体の外周面と前記貫通孔の内周面との隙間に前記接着剤を供給する接着剤供給工程と、
を有し、
前記隙間は、前記注入開口よりも前記延在方向の他端側に配置された減速部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記一端側で前記減速部に隣接する第1隣接部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記他端側で前記減速部に隣接する第2隣接部と、を備え、
前記減速部は、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも、前記延在方向に直交する断面積が大きく、
前記減速部と前記第2隣接部との境界には、設定位置が設けられ、
前記注入開口は、前記針ハブの先端部に設けられ、
前記減速部では、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも前記貫通孔の内径が大きいことで前記断面積が大きく、
前記減速部は、前記第1隣接部から前記針ハブの基端方向に向かって前記貫通孔の内径が拡径することで形成される第1テーパ部と、前記第1テーパ部から前記第2隣接部に向かって前記貫通孔の内径が縮径することで形成される第2テーパ部とを有し、
前記隙間は、前記注入開口から前記基端方向に延在する導入部と、前記導入部の基端側に隣接する導入テーパ部と、前記導入テーパ部の基端側に隣接する中継部と、前記中継部の基端側に隣接する中継テーパ部と、をさらに有し、
前記隙間の前記断面積は、前記導入部で最大となり、
前記導入テーパ部は、前記基端方向に向かって縮径し、
前記中継部は、前記導入部よりも前記断面積が小さく、前記第1隣接部よりも前記断面積が大きく、且つ前記針ハブの軸線と平行に延在し、
前記中継テーパ部は、前記基端方向に向かって縮径し、
前記中継テーパ部の基端側に、前記第1隣接部が隣接し、
前記第1隣接部の前記断面積と、前記第2隣接部の前記断面積とは、互いに同じであり、
前記接着剤供給工程では、前記注入開口から少なくとも前記設定位置に到達するまで前記隙間に前記接着剤を充填する、医療用針の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を介して接合された針体及び針ハブを備える医療用針及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、体内に穿刺するための針体と、該針体に接続されてユーザが把持可能な針ハブとを備える医療用針が知られている。針ハブには、針体の延在方向に沿って貫通孔が形成され、該貫通孔に、針体の基端側が挿入されている。すなわち、針体は、貫通孔の延在方向の一端側に設けられた開口から貫通孔の外側に突出している。また、貫通孔の内周面と、針体の外周面との隙間には、針体と針ハブとを接着するための接着剤が介在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の医療用針を製造する場合、例えば、先ず、貫通孔に針体を挿入して、上記の隙間を形成する。この隙間に、貫通孔の上記の開口(以下、注入開口ともいう)を介して接着剤を供給する。上記の隙間では、接着剤と接触する針体の外周面及び貫通孔の内周面(以下、壁面ともいう)の表面張力が、接着剤の表面張力よりも大きくなる。このため、注入開口に供給された接着剤は、壁面を濡らして、延在方向の他端側に向かって上記の隙間に流れ込む。このようにして隙間に供給した接着剤を硬化させることで、針体と針ハブとが接合され、医療用針が得られる。
【0005】
ところで、製造した医療用針の品質を保証する観点からは、上記の隙間に対する接着剤の配設状態を検査することが好ましい。すなわち、針体及び針ハブを十分な強度で接合可能とする所定量の接着剤が上記の隙間に充填されているか否かを確認することが好ましい。そこで、例えば、カメラ等により医療用針を撮像し、画像処理を行うことで、上記の隙間に配設された接着剤の下流側端部が所定の位置に達しているか否かを確認することが考えられる。
【0006】
しかしながら、上記の隙間では、針体の外周面と貫通孔の内周面との距離(以下、壁面距離ともいう)が、貫通孔及び針体の周方向でばらついている場合がある。上記の隙間では、壁面距離が小さいほど、接着剤の表面張力に対して壁面の表面張力が大きくなる傾向にある。このため、貫通孔の周方向で、壁面距離がばらつくこと等によって、接着剤が流れる速度がばらつくと、接着剤の下流側端部が、貫通孔の周方向で異なる位置に存在することがある。
【0007】
このような医療用針では、貫通孔の周方向の一部分において、接着剤の下流側端部が所定の位置に達していたとしても、貫通孔の周方向の他部分では、接着剤の下流側端部が所定の位置に達していない懸念がある。このため、接着剤の配設状態を高精度に検査するためには、医療用針を貫通孔の周方向の全体にわたって確認する必要があり煩雑であった。
【0008】
そこで、本発明は、針体と針ハブとを接合する接着剤の配設状態を容易且つ高精度に確認することが可能な医療用針及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、針体と、前記針体が挿入される貫通孔が設けられた針ハブと、前記針体の外周面と前記貫通孔の内周面との隙間に介在して前記針体及び前記針ハブを接合する接着剤と、を備える医療用針であって、前記針体は、前記貫通孔の延在方向の一端側に設けられた注入開口を介して前記貫通孔の外側に突出し、前記隙間は、前記注入開口よりも前記延在方向の他端側に配置された減速部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記一端側で前記減速部に隣接する第1隣接部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記他端側で前記減速部に隣接する第2隣接部と、を有し、前記減速部では、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも、前記延在方向に直交する断面積が大きく、前記減速部と前記第2隣接部との境界には、設定位置が設けられ、前記隙間の少なくとも前記注入開口と前記設定位置との間に、前記接着剤が充填されている。
【0010】
本発明の別の一態様は、針体と針ハブとを接着剤を介して接合して医療用針を得る医療用針の製造方法であって、前記針ハブに設けられた貫通孔に前記針体を挿入し、且つ前記貫通孔の延在方向の一端側に設けられた注入開口から前記貫通孔の外側に前記針体を突出させる針体挿入工程と、前記注入開口から、前記針体の外周面と前記貫通孔の内周面との隙間に前記接着剤を供給する接着剤供給工程と、を有し、前記隙間は、前記注入開口よりも前記延在方向の他端側に配置された減速部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記一端側で前記減速部に隣接する第1隣接部と、前記減速部よりも前記延在方向の前記他端側で前記減速部に隣接する第2隣接部と、を備え、前記減速部は、前記第1隣接部及び前記第2隣接部の各々よりも、前記延在方向に直交する断面積が大きく、前記減速部と前記第2隣接部との境界には、設定位置が設けられ、前記接着剤供給工程では、前記注入開口から少なくとも前記設定位置に到達するまで前記隙間に前記接着剤を充填する。
【発明の効果】
【0011】
この医療用針では、針体の外周面と、針ハブの貫通孔の内周面との隙間に減速部が設けられている。減速部は、貫通孔の延在方向で減速部に隣接する第1隣接部及び第2隣接部の各々よりも、延在方向に直交する断面積が大きい。このため、隙間に接着剤を供給する際、該接着剤に接触する針体の外周面及び貫通孔の内周面(以下、壁面ともいう)の表面張力は、第1隣接部及び第2隣接部よりも減速部で小さくなる。つまり、注入開口から延在方向の他端側に流れ込む接着剤の流通速度は、第1隣接部及び第2隣接部よりも減速部で遅くなる。
【0012】
例えば、隙間の注入開口から第1隣接部までの間で、貫通孔の周方向における一部の接着剤の流通速度が速くなり、残部の接着剤の流通速度が遅くなっていた場合、流通速度が速い接着剤の一部が先に減速部に流入する。減速部では、上記の通り、流通速度が遅くなるため、先に減速部に流入した接着剤が該減速部を流れる間に、流通速度が遅い接着剤の残部も減速部に到達する。
【0013】
従って、隙間に対して、注入開口から、少なくとも減速部と第2隣接部との境界に設けられた設定位置に到達するまで接着剤を充填することで、接着剤の下流側端部(延在方向の他端側端部)の位置を、貫通孔の周方向に揃えることができる。このため、医療用針を貫通孔の周方向の全体にわたって検査することなく、接着剤の配設状態を容易且つ高精度に確認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る医療用針の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る医療用針の製造方法の針体挿入工程を説明する針体及び針ハブの縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る医療用針の製造方法の接着剤供給工程を説明する針体及び針ハブの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る医療用針及びその製造方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、
図1に示す本実施形態に係る医療用針10が、生体内(静脈)から血液を採取するための採血針である例について説明する。しかしながら、医療用針10は、採血針には限定されず、例えば、輸液を体内に注入するためのもの等であってもよい。
【0016】
図1及び
図2に示すように、医療用針10は、鋭利な針先12aを有する中空状の針体12と、針体12の針先12a側(矢印X1側)を覆うプロテクタ14(キャップ)と、針体12の基端側(矢印X2側)に設けられた針ハブ16と、針体12と針ハブ16とを接合する接着剤18と、針ハブ16の基端側に接続可能なチューブ20とを備える。
【0017】
針体12は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム或いはアルミニウム合金、チタン或いはチタン合金のような金属材料、又はポリフェニレンサルファイド等の硬質樹脂材料等から形成することができる。針体12は、血液の流路となる内孔を有する円筒状の部材である。針体12の針先12a側及び基端側には、血液の出入口として機能する開口がそれぞれ形成されている。
【0018】
プロテクタ14は、その内部に針体12を収容可能な中空状の部材である。また、プロテクタ14は、針ハブ16から突出した針体12の針先12a側を覆った状態で、針ハブ16の先端側(矢印X1側)に嵌合可能である。例えば、医療用針10の使用前においては、針体12が露出しないように針ハブ16にプロテクタ14が装着される。また、医療用針10の使用時等には、針ハブ16に対してプロテクタ14を先端方向(矢印X1方向)に引っ張ることで、針ハブ16からプロテクタ14を取り外して、針体12を露出させることができる。
【0019】
針ハブ16は、例えば、射出成形によって一体的に成形された樹脂成形品である。針ハブ16を構成する樹脂材料としては、熱収縮性の比較的小さいものが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリカーボネート、硬質ポリ塩化ビニル、MSB樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。
【0020】
後述するように、針ハブ16には、延在方向の位置によって内径が異なる貫通孔22が形成される。このような針ハブ16を製造する場合、不図示ではあるが、例えば、貫通孔22の形状に応じたコアピンを挿通した状態で射出成形体を得て、該射出成形体からコアピンを引き抜くことで針ハブ16が得られる。このため、針ハブ16を構成する樹脂材料としては、射出成形体を弾性変形させつつコアピンを引き抜くことが可能な程度に弾性を有するものであることが好ましい。
【0021】
針ハブ16について、先ず、該針ハブ16をその外表面側からみた外観形状を説明する。針ハブ16は、先端側(矢印X1側)から基端側(矢印X2側)に向かって、小径部24と、大径部26と、フランジ部28と、把持部30とがこの順に設けられている。小径部24の先端から針体12の針先12a側が突出している。大径部26は、プロテクタ14に内嵌可能に構成されている。フランジ部28には、大径部26と嵌合したプロテクタ14の基端面が当接する。
【0022】
把持部30は、略直方体形状であり、互いに対向する一組の側面に把持面30aがそれぞれ設けられている。把持面30aは、例えば、ユーザが手指で針ハブ16を把持し易い形状に形成されている。また、把持部30の把持面30aに周方向に隣接する一組の側面には、該把持部30の内側に向かって凹む肉抜き部30bがそれぞれ設けられている。なお、把持部30の形状は、上記の略直方体形状に限定されるものではなく、例えば、円筒状や、扁平した円筒状等であってもよい。ユーザは、把持部30の把持面30aを把持してプロテクタ14の着脱操作や針体12の皮膚への穿刺操作等を行うことが可能になっている。
【0023】
次に、針ハブ16の内部の構成を説明する。
図2に示すように、針ハブ16は、針体12の基端側が挿入される貫通孔22と、チューブ20が挿入されるチューブ挿入穴32とが設けられている。貫通孔22は、針体12の延在方向(矢印X方向)に沿って針ハブ16を貫通している。貫通孔22の先端側(矢印X1側、延在方向の一端側)に設けられた注入開口34を介して貫通孔22の外側に針体12の針先12a側が突出する。また、貫通孔22の基端側(矢印X2側、延在方向の他端側)に設けられた基端側開口36を介して貫通孔22の外側に針体12の基端部12bが突出する。すなわち、本実施形態では、貫通孔22に対して、その延在方向の全体に針体12が挿入されている。なお、針体12の基端部12bは、基端側開口36から突出せずに、貫通孔22の内部に配置されていてもよい。
【0024】
図2~
図4に示すように、貫通孔22に挿入された針体12の外周面12cと、貫通孔22の内周面22aとの間には接着剤18(
図2、
図4)を介在させることが可能な大きさの隙間38が設けられている。隙間38は、導入部40、中継部42、第1隣接部44、減速部46、第2隣接部48を有する。導入部40、中継部42、第1隣接部44、減速部46、第2隣接部48は、貫通孔22の延在方向の先端側から基端側に向かってこの順に配設されている。また、本実施形態では、針体12の外径は、延在方向に一定である。このため、隙間38の延在方向に直交する断面積(以下、単に断面積ともいう)は、貫通孔22の内径に応じて設定される。
【0025】
導入部40は、注入開口34から基端側に向かって延在する。導入部40における貫通孔22の内径は、注入開口34の内径と同じである。隙間38の断面積(貫通孔22の内径)は、導入部40で最大となっている。中継部42は、導入部40の基端側に導入テーパ部50を介して連続する。中継部42の断面積は、導入部40の断面積よりも小さい。このため、導入テーパ部50における貫通孔22の内周面22aは、導入部40から延在方向の基端側に向かって貫通孔22の内径を縮径する方向に傾斜する。
【0026】
第1隣接部44は、中継部42の基端側に中継テーパ部52を介して連続する。第1隣接部44の断面積は、中継部42の断面積よりも小さい。このため、中継テーパ部52における貫通孔22の内周面22aは、中継部42から延在方向の基端側に向かって貫通孔22の内径を縮径する方向に傾斜する。
【0027】
また、第1隣接部44は、減速部46よりも先端側(矢印X1側)で減速部46に隣接する。減速部46よりも基端側(矢印X2側)では、第2隣接部48が減速部46に隣接する。減速部46は、第1隣接部44から基端側に向かって貫通孔22の内径が拡径することで形成される第1テーパ部54と、第1テーパ部54から第2隣接部48に向かって貫通孔22の内径が縮径することで形成される第2テーパ部56とを有する。つまり、減速部46では、第1隣接部44及び第2隣接部48の各々よりも断面積が大きくなっている。なお、本実施形態では、隙間38は、第1隣接部44、減速部46、第2隣接部48からなる組み合わせを一組のみ有している。しかしながら、隙間38は、上記の組み合わせを一組以上備えてもよい。すなわち、隙間38が有する上記の組み合わせの個数は、特に制限されるものではない。
【0028】
本実施形態では、第1隣接部44の断面積と、第2隣接部48の断面積とが同じであり、第1テーパ部54におけるテーパ角と、第2テーパ部56におけるテーパ角とは同じである。しかしながら、特にこれらには限定されず、第1隣接部44の断面積と、第2隣接部48の断面積とは互いに異なっていてもよい。また、第1テーパ部54におけるテーパ角と、第2テーパ部56におけるテーパ角とは互いに異なっていてもよい。
【0029】
延在方向における減速部46と第2隣接部48との境界には、設定位置58が設けられている。設定位置58は、注入開口34から設定位置58に達するまで隙間38に接着剤18が充填された際、該隙間38内の接着剤18が、針体12と針ハブ16とを十分な強度で接合可能な量となるように予め設定されている。
図2に示すように、第2隣接部48の基端側は、貫通孔22の基端側開口36に連続している。第2隣接部48における貫通孔22の内径は、基端側開口36の内径と同じである。
【0030】
チューブ挿入穴32は、針ハブ16の基端側に設けられた内側筒部60及び外側壁部62の間に設けられている。内側筒部60は、円筒状であり、その内側に貫通孔22が形成されている。内側筒部60の基端側(矢印X2側)の端部に、貫通孔22の基端側開口36が設けられている。
【0031】
内側筒部60の外周面は、チューブ挿入穴32を挟んで外側壁部62の内周面と対向する。つまり、チューブ挿入穴32は、貫通孔22の基端側において、該貫通孔22の外周を周回する円環状である。内側筒部60の基端面60aは、外側壁部62の基端面62aよりも先端側(矢印X1側)に配置されている。
【0032】
内側筒部60の外径は、チューブ20の内径と同じか、チューブ20の内径よりも僅かに大きい。このため、チューブ挿入穴32にチューブ20が挿入された際、内側筒部60がチューブ20に内嵌される。これによって、針ハブ16にチューブ20が固定されるとともに、貫通孔22の基端側開口36から突出する針体12の内部とチューブ20の内部とが連通する。
【0033】
接着剤18は、注入開口34から設定位置58に達するまで隙間38に充填されて、針体12と針ハブ16とを接合している。本実施形態では、接着剤18の一部は、注入開口34から針体12が突出する方向と同じ方向に突出している。接着剤18としては、例えば、紫外線硬化型接着剤(紫外線硬化性樹脂)及びエポキシ系接着剤等を用いることができる。
【0034】
本実施形態に係る医療用針10は、基本的には上記のように構成される。以下、本実施形態に係る医療用針10の製造方法について説明する。この製造方法では、先ず、針体挿入工程を行う。針体挿入工程では、針ハブ16に設けられた貫通孔22に針体12を挿入し、且つ注入開口34から貫通孔22の外側に針体12の針先12a側を突出させる。これによって、
図3に示すように、貫通孔22の内周面22aと針体12の外周面12cとの間に隙間38が形成される。
【0035】
次に、
図4に示すように、注入開口34から隙間38に接着剤18を供給する接着剤供給工程を行う。隙間38では、接着剤18と接触する針体12の外周面12c及び貫通孔22の内周面22a(以下、壁面ともいう)の表面張力が、接着剤18の表面張力よりも大きくなる。このため、注入開口34から供給された接着剤18は、壁面を濡らして、延在方向の基端側(矢印X2側)に向かって隙間38に流れ込む。この隙間38では、針体12の外周面12cと貫通孔22の内周面22aとの距離(以下、壁面距離ともいう)が短いほど、換言すると、隙間38の断面積が小さいほど、接着剤18の表面張力に対して壁面の表面張力が大きくなる傾向にある。つまり、隙間38では、断面積が小さい部分ほど、接着剤18が流れる流通速度が速くなる。
【0036】
このため、本実施形態では、注入開口34から隙間38に供給された接着剤18は、導入部40を流通した後、導入テーパ部50を介して中継部42に流入する。中継部42では、導入部40よりも断面積が小さいため、導入部40を流れる接着剤18の流通速度よりも速い流通速度で接着剤18が流通する。中継部42を流通した接着剤18は、中継テーパ部52を介して第1隣接部44に流入する。第1隣接部44では、中継部42よりも断面積が小さいため、中継部42を流れる接着剤18の流通速度よりも速い流通速度で接着剤18が流通する。第1隣接部44を流通した接着剤18は、減速部46に流入する。
【0037】
減速部46は、第1隣接部44及び第2隣接部48の各々よりも断面積が大きい。このため、接着剤18は、第1隣接部44を流れる流通速度よりも遅い流通速度で減速部46を流れながら、減速部46に充填されていく。接着剤供給工程では、接着剤18の下流側端部(矢印X2側端部)が、減速部46と第2隣接部48との境界に設けられた設定位置58に達するまで、隙間38への接着剤18の供給を行う。なお、接着剤供給工程では、貫通孔22の基端側開口36を介して隙間38内を吸引することにより、接着剤18の流通を促してもよい。
【0038】
次に、接着剤硬化工程を行う。接着剤硬化工程では、上記のようにして隙間38に供給した接着剤18に、例えば、紫外線を照射すること等によって、接着剤18を硬化させる。これによって、針ハブ16と針体12とが接着剤18を介して接合された医療用針10を得ることができる。
【0039】
以上から、この医療用針10では、針体12の外周面12cと、針ハブ16の貫通孔22の内周面22aとの隙間38に減速部46が設けられている。減速部46の延在方向に直交する断面積は、貫通孔22の延在方向(接着剤18の流通方向)で減速部46に隣接する第1隣接部44及び第2隣接部48の各々の断面積よりも大きい。このため、隙間38に接着剤18を供給する際、該接着剤18に接触する壁面の表面張力は、第1隣接部44及び第2隣接部48よりも減速部46で小さくなる。つまり、注入開口34から延在方向の基端側(矢印X2側)に流れ込む接着剤18の流通速度は、第1隣接部44及び第2隣接部48よりも減速部46で遅くなる。
【0040】
ここで、例えば、貫通孔22に挿通された針体12の軸心が、貫通孔22の軸心からずれること等によって、貫通孔22の周方向で壁面距離がばらつくことがある。この場合、隙間38の注入開口34から第1隣接部44までの間で、貫通孔22の周方向の一部の接着剤18の流通速度が速くなり、残部の接着剤18の流通速度が遅くなることがある。つまり、流通速度が速い接着剤18の一部が先に減速部46に流入することがある。
【0041】
この場合であっても、減速部46では、上記の通り、流通速度が遅くなるため、先に減速部46に流入した接着剤18の一部が該減速部46を流れる間に、流通速度が遅い接着剤18の残部も減速部46に到達する。従って、隙間38に対して、注入開口34から、少なくとも設定位置58に到達するまで接着剤18を充填することで、接着剤18の下流側端部の位置を、貫通孔22の周方向に揃えることができる。
【0042】
従って、医療用針10では、隙間38に対する接着剤18の配設状態を容易に検査することができる。すなわち、例えば、注入開口34から設定位置58に達するまで隙間38に接着剤18が充填された際、該隙間38内の接着剤18が、針体12と針ハブ16とを十分な強度で接合できる量となるように予め設定する。そして、不図示のカメラ等により医療用針10を一方向から撮像し、画像処理を行う。
【0043】
これによって、隙間38に配設された接着剤18の下流側端部が設定位置58に達していれば、貫通孔22の周方向の全体で接着剤18の下流側端部が設定位置58に達していると判断することができる。ひいては、針体12と針ハブ16とを十分な強度で接合できる所定量の接着剤18が隙間38に充填されていると判断することができる。つまり、医療用針10を貫通孔22の周方向の全体にわたって撮像することなく、接着剤18の配設状態を容易且つ高精度に確認することが可能になる。
【0044】
上記の実施形態に係る医療用針10の減速部46では、第1隣接部44及び第2隣接部48の各々よりも貫通孔22の内径が大きいことで断面積が大きく、減速部46は、第1隣接部44から延在方向の他端側に向かって貫通孔22の内径が拡径することで形成される第1テーパ部54と、第1テーパ部54から第2隣接部48に向かって貫通孔22の内径が縮径することで形成される第2テーパ部56とを有することとした。
【0045】
このように貫通孔22の内径に応じて隙間38の断面積を設定することで、例えば、減速部46における針体12の外径を、第1隣接部44及び第2隣接部48の各々における針体12の外径よりも小さくする場合よりも容易且つ高精度に減速部46の断面積を設定することが可能になる。また、減速部46を第1テーパ部54及び第2テーパ部56を有する形状とすることで、例えば、上記のように射出成形により針ハブ16を作製する際、貫通孔22の形状に応じたコアピンを射出成形体から引き抜く作業を容易にすることができる。
【0046】
なお、医療用針10では、減速部46における針体12の外径を、第1隣接部44及び第2隣接部48の各々における針体12の外径よりも小さくすることで、減速部46の断面積を第1隣接部44及び第2隣接部48の各々の断面積よりも大きくしてもよい。また、減速部46は、第1テーパ部54及び第2テーパ部56を備えていなくてもよい。この場合、減速部46における貫通孔22の内径は、延在方向に等径であってもよい。また、減速部46における貫通孔22の内周面22aは、円弧状に湾曲していてもよい。
【0047】
上記の実施形態に係る医療用針10では、隙間38は、注入開口34から延在方向の他端側(基端側)に延在する導入部40を有し、隙間38の断面積は、導入部40で最大となることとした。この場合、注入開口34及び導入部40から隙間38に接着剤18を容易に供給することが可能になる。
【0048】
上記の実施形態に係る医療用針10では、延在方向で、導入部40と第1隣接部44との間には、導入部40よりも断面積が小さく、第1隣接部44よりも断面積が大きい中継部42が設けられていることとした。この場合、隙間38を流れる接着剤18の流通速度の調整や、接着剤18の下流側端部が設定位置58に達した際に隙間38に充填される接着剤18の量等の調整を容易にすることができる。
【0049】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0050】
例えば、上記の実施形態では、貫通孔22の延在方向の先端側(矢印X1側)に注入開口34が設けられ、注入開口34から針体12の針先12a側が突出し、貫通孔22の延在方向の先端側から基端側(矢印X2側)に向かって接着剤18が隙間38を流通することとした。しかしながら、貫通孔22の延在方向の基端側に注入開口34が設けられ、該注入開口34から針体12の基端部12b側が突出し、貫通孔22の延在方向の基端側から先端側に向かって接着剤18が隙間38を流通することとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…医療用針 12…針体
12c…外周面 16…針ハブ
18…接着剤 22…貫通孔
22a…内周面 34…注入開口
38…隙間 40…導入部
42…中継部 44…第1隣接部
46…減速部 48…第2隣接部
54…第1テーパ部 56…第2テーパ部
58…設定位置