(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】車両のサイドドア用ドアビーム構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
B60J5/00 Q
(21)【出願番号】P 2021056556
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】相馬 貴之
(72)【発明者】
【氏名】平野 栄治
(72)【発明者】
【氏名】家村 侑
(72)【発明者】
【氏名】粂野 宏之
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 昂三郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 正憲
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-092719(JP,A)
【文献】特開2019-104429(JP,A)
【文献】特開2010-143453(JP,A)
【文献】特開2016-022937(JP,A)
【文献】米国特許第05580120(US,A)
【文献】特開2006-264681(JP,A)
【文献】特開平04-278825(JP,A)
【文献】特開2010-149841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空断面を有するドアビームを備える車両のサイドドア用ドアビーム構造であって、
ドアスキン側で前記ドアビームの中空のフランジ部を形成する外側部分と、
前記ドアビームの中空のドアビーム本体部を形成する内側部分と、
を備え
、
前記外側部分のドアスキンとの対向面には、前記ドアビームの長手方向に直交する横断ビードが前記ドアビームの長手方向に沿って複数並ぶように形成されていることを特徴とする車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項2】
中空断面を有するドアビームを備える車両のサイドドア用ドアビーム構造であって、
ドアスキン側で前記ドアビームの中空のフランジ部を形成する外側部分と、
前記ドアビームの中空のドアビーム本体部を形成する内側部分と、
を備え、
前記フランジ部の幅は、前記ドアビームの長手方向の中央部から両端部のそれぞれに近付くほど徐々に短くなっていることを特徴とする車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項3】
前記外側部分のドアスキンとの対向面には、前記ドアビームの長手方向の中央部で長手方向に延在するように補強ビードが形成されていることを特徴とする
請求項1に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項4】
前記ドアビームの長手方向及び内外方向に延びる前記ドアビーム本体部の壁面には、少なくも3面を有してなる突出部が前記ドアビームの長手方向に沿って複数並ぶように形成されていることを特徴とする
請求項1に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項5】
前記外側部分のドアスキンとの対向面には、前記ドアビームの長手方向に直交する横断ビードを前記ドアビームの長手方向に沿って並ぶように複数形成されており、
前記横断ビードと、前記突出部とは、前記ドアビームの長手方向に直交する方向に整列していることを特徴とする請求項4に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項6】
前記外側部分のドアスキンとの対向面には、前記ドアビームの長手方向に直交する横断ビードを前記ドアビームの長手方向に沿って並ぶように複数形成されており、
前記横断ビードと、前記突出部とは、前記ドアビームの長手方向に直交する方向に互い違いに整列していることを特徴とする請求項4に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項7】
前記ドアビームの前端側にドアヒンジが固定され、後端側に係合フックが固定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項8】
前記横断ビードは、前記ドアビームの長手方向の両端部を除いて形成されていることを特徴とする
請求項1に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造。
【請求項9】
請求項1に記載の車両のサイドドア用ドアビーム構造の製造方法であって、
金型内で加熱した鋼管内にガスを供給して前記鋼管を膨張させて金型内に前記外側部分と前記内側部分とを備える前記ドアビームをプレス成形するブロー成形工程を有することを特徴とする車両のサイドドア用ドアビーム構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサイドドア用ドアビーム構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドアビームをドアスキンの内側に沿って延在するように配置した車両のサイドドア用ドアビーム構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このドアビームは、鋼板をロール成形した管状部材であり、長手方向に交差する断面視で上下2連の閉断面形状を有している。具体的には、ドアビームの断面は、上下に対称となる2つの直角台形同士が並ぶことで全体として一つの略等脚台形を形成している。そして、このドアビームは、等脚台形を構成する上底及び下底のうち上底側(短辺側)がドアスキンに面するように配置されている。これにより等脚台形を構成する2つの脚辺同士は、ドアスキン側に向かうほど互いの間隔を徐々に減じるように傾斜している。
このようなドアビーム構造によれば、車外側からドアに衝突荷重が入力された際に、ドアビームの傾斜した前記台形の脚辺に対応する部分によって、ドアビームの変形が抑制されて衝突の抗力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のドアビーム構造(例えば、特許文献1参照)は、上下2連の閉断面形状同士が向き合う隔壁部分にて鋼板が上下に重なることで、ドアビーム全体としての重量が増加する問題がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、衝突時の衝撃吸収性能に優れ、しかもドアビームの軽量化を達成することができる車両のサイドドア用ドアビーム構造及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する車両のサイドドア用ドアビーム構造は、中空断面を有するドアビームを備える車両のサイドドア用ドアビーム構造であって、ドアスキン側で前記ドアビームの中空のフランジ部を形成する外側部分と、前記ドアビームの中空のドアビーム本体部を形成する内側部分と、を備え、前記外側部分のドアスキンとの対向面には、前記ドアビームの長手方向に直交する横断ビードが前記ドアビームの長手方向に沿って複数並ぶように形成されていることを特徴とする。
また、課題を解決する車両のサイドドア用ドアビーム構造は、中空断面を有するドアビームを備える車両のサイドドア用ドアビーム構造であって、ドアスキン側で前記ドアビームの中空のフランジ部を形成する外側部分と、前記ドアビームの中空のドアビーム本体部を形成する内側部分と、を備え、前記フランジ部の幅は、前記ドアビームの長手方向の中央部から両端部のそれぞれに近付くほど徐々に短くなっていることを特徴とする。
また、前記課題を解決する前記の車両のサイドドア用ドアビーム構造の製造方法は、金型内で加熱した鋼管内にガスを供給して前記鋼管を膨張させて金型内に前記外側部分と前記内側部分とを備える前記ドアビームをブロー成形するドアビーム成形工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝突時の衝撃吸収性能に優れ、しかもドアビームの軽量化を達成することができる車両のサイドドア用ドアビーム構造及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るドアビーム構造を適用した車両用ドアの側面図である。
【
図4A】
図3のIVa方向から見たドアビームの平面図である。
【
図4B】
図3のIVb方向から見たドアビームの側面図である。
【
図6】ドアビームにおける突出部の部分拡大斜視図である。
【
図7】ドアビームにおける閉断面徐変構造を示す模式図である。
【
図9】ドアビームのブロー成形工程の説明図である。
【
図10】衝突荷重入力時におけるドアビーム断面の経時変化図である。
【
図11】インパクタストロークと、ドアビームに対する入力荷重及びドアビームの吸収エネルギ量との関係を示したグラフである。
【
図12】ドアビームの変形例を示す側面図であり、
図4Bに対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を実施する形態(本実施形態)のドアビーム構造について詳細に説明する。本実施形態のドアビーム構造は、ドアビームが中空のドアビーム本体部(内側部分)と、ドアスキン側に配置される中空のフランジ部(外側部分)とを有することを主な特徴とする。そして、本実施形態でのドアビームは、後に詳しく説明するようにパイプ圧縮成形体からなる。
図1は、本実施形態に係るドアビーム構造1を適用した車両左側のサイドドア2の側面図である。
図2は、
図1のII-II断面図である。なお、本実施形態での前後上下左右の方向は、車両の前後上下左右の方向に一致している。
図1中、ドアスキン4(
図2参照)は、作図の便宜上、省略している。
以下では、車両左側のサイドドア2に適用されるドアビーム構造1についてのみ説明し、車体中心軸を挟んでこれと対称構造となる右側のサイドドア2に適用されるドアビーム構造1についての説明は省略する。
【0010】
<サイドドア>
図1に示すように、ドアビーム構造1が適用されるサイドドア2は、車両側部の前側開口(図示を省略)を開閉する前側のサイドドア2aと、車両側部の後側開口(図示を省略)を開閉する後側のサイドドア2bとを備えている。
【0011】
前側のサイドドア2aは、インナパネル3aと、このインナパネル3aの車幅方向外側(
図1の紙面手前側)に配置されるドアスキン4(
図2参照)と、を備えている。ちなみに、本実施形態でのドアスキン4は、インナパネル3aとの間に所定間隔を開けて配置されるとともに、インナパネル3aの周縁にヘム加工にて接合されたものを想定している。
インナパネル3aは、第1補強部材7と、第1のドアビーム8aとを備えている。この第1のドアビーム8aは、次に説明する後側のサイドドア2bの第2のドアビーム8bとともに、特許請求の範囲にいう「ドアビーム」に相当する。
【0012】
第1補強部材7は、窓部11aの下縁を形成するインナパネル3aの上部で前後方向に沿うように配置される長尺状の部材である。
第1のドアビーム8aは、第1補強部材7の下方でインナパネル3aの前縁と後縁との間を前後方向に延びるように配置されている。具体的には、第1のドアビーム8aは、後方に向けて延びるほど徐々に下方に変位するように傾斜している。
ちなみに、本実施形態での第1のドアビーム8aは、後に詳しく説明するように、サイドドア2aの上下一対のドアヒンジ5,5のうち、上側のドアヒンジ5と、サイドドア2aの閉時に車体と係合する係合フック6とに跨るように延びている。
【0013】
後側のサイドドア2bは、インナパネル3bと、このインナパネル3bの車幅方向外側(
図1の紙面手前側)に配置されるとともに、サイドドア2aのドアスキン4(
図2参照)と同様に、インナパネル3bに対してヘム加工にて接合されたドアスキン(図示を省略)と、を備えている。
インナパネル3bは、第2補強部材9と、第3補強部材10と、第2のドアビーム8bと、を備えている。
第2補強部材9は、窓部11bの下縁を形成するインナパネル3bの上部で前後方向に沿うように配置される長尺状の部材である。
第3補強部材10は、第2補強部材9の下方でインナパネル3bの前縁と後縁との間を前後方向に延びるように配置されている。具体的には、第3補強部材10は、後方に向けて延びるほど徐々に下方に変位するように傾斜している。ちなみに、本実施形態での第3補強部材10は、第2のドアビーム8bと略平行となるように延びている。
【0014】
第2のドアビーム8b(ドアビーム)は、第3補強部材10の下方で後方に向けて延びるほど徐々に下方に変位するように傾斜している。なお、本実施形態での第2のドアビーム8bは、サイドドア2bの上下一対のドアヒンジ(図示を省略)のうち、下側のドアヒンジと、サイドドア2bの閉時に車体と係合する係合フック6とに跨るように延びている。
そして、本実施形態での第1のドアビーム8aと第2のドアビーム8bとは、
図1に示す車体側面視で、インナパネル3aの上方前端部と、インナパネル3bの下方後端部とを繋ぐ線(図示を省略)に沿って延在するように配置されることとなる。
なお、以下では、サイドドア2a,2b同士、インナパネル3a,3b同士、並びに第1及び第2のドアビーム8a,8b同士のそれぞれについて特に区別をしない場合には、単にサイドドア2、インナパネル3、及びドアビーム8と称することがある。
【0015】
<ドアビーム構造>
次に、前側のサイドドア2a(
図1参照)の第1のドアビーム8a(
図1参照)を例にとって、本実施形態のドアビーム構造1(
図1参照)について具体的に説明する。
図1のII-II断面図である
図2に示すように、本実施形態のドアビーム構造1は、サイドドア2のドアスキン4とインナパネル3との間に配置されるドアビーム8を備えて構成されている。なお、
図2中、ドアヒンジ5は、作図の便宜上、仮想線(二点鎖線)で表している。
【0016】
ドアビーム8は、閉時のサイドドア2において、車幅方向外側(
図2の左側)に配置されるドアスキン4の内壁面に沿うように延びている。具体的には、ドアビーム8は、ドアビーム8の前後両端部を除いて、その長手方向の殆どを占める一般部8cが、ドアスキン4の外側に凸となる湾曲面の曲率に合わせて、車幅方向外側に僅かに凸となるように湾曲している。
なお、
図2に示したドアスキン4と、ドアビーム8の一般部8cとの間隔は、誇張して描いたものであり、本実施形態でのドアスキン4とドアビーム8の一般部8cとは、マスチックシーラ(図示を省略)を介して密着している。
【0017】
そして、本実施形態でのドアビーム8の前端は、ドアヒンジ補強部材13を介してインナパネル3と接合されている。また、本実施形態でのドアビーム8の後端は、係合フック6(係合部材)の補強部材14を介してインナパネル3と接合されている。
【0018】
次に、ドアビーム8(
図2参照)についてさらに具体的に説明する。
図3は、ドアビーム8の全体斜視図である。
図4Aは、
図3のIVa方向から見たドアビーム8の平面図である。
図4Bは、
図3のIVb方向から見たドアビーム8の側面図である。
図5Aは、
図4A又は
図4BのVa-Va断面図である。
図5Bは、
図4A又は
図4BのVb-Vb断面図である。
【0019】
図3に示すように、ドアビーム8は、中空断面(閉断面)を有する管状体で形成されている。
本実施形態でのドアビーム8は、ドアスキン4(
図2参照)側でドアビーム8の中空のフランジ部17を形成する外側部分15と、ドアビーム8の中空のドアビーム本体部18を形成する内側部分16と、を備えている。
具体的には、ドアビーム8は、長手方向に交差する断面視で、ハット形状を呈している。すなわち、ドアビーム8は、ハット形状の山高部に対応するドアビーム本体部18と、ハット形状の鍔部に対応するフランジ部17と、を有している。そして、フランジ部17の中空部とドアビーム本体部18の中空部とは連続している。
このようなドアビーム8の閉断面形状については
図5A及び
図5Bを参照しながら後に詳しく説明する。
【0020】
図3に示すように、ドアビーム8の外側部分15には、ドアスキン4(
図2参照)に対向することとなる外面21が形成される。この外面21は、特許請求の範囲にいう「ドアスキンとの対向面」に相当する。
また、ドアビーム8の内側部分16を形成するドアビーム本体部18には、ハット形状における山高部の側面に対応するように側壁面23が規定され、山高部の頂面に対応するように内面22が規定される。なお、側壁面23は、特許請求の範囲にいう「ドアビーム本体部の壁面」に相当する。
【0021】
図4Aに示すように、ドアビーム8の外面21には、補強ビード19と、横断ビード20とが形成されている。
補強ビード19は、ドアビーム8の長手方向の中央部で長手方向に延在するように形成されている。
図4AのVa-Va断面図である
図5Aに示すように、補強ビード19は、ドアビーム8の外面21を規定する板体が部分的に窪むことによって形成されている。これにより補強ビード19は、ドアビーム8の中空部25側に向けて部分的に条となって突出することとなる。
【0022】
そして、ドアビーム8の外面21には、補強ビード19に対応するようにドアビーム8の長手方向に延在する溝19aが形成されることとなる。
図5A中、符号Vは、
図4AのV-V線におけるドアビーム8の外形輪郭を仮想線(二点鎖線)で表したものである。
なお、
図5Aに示すように、ドアビーム8の外形輪郭Vは、上下方向に平坦な外面21及び内面22と、一対の側壁面23とによって、等脚台形形状を呈している。そして、等脚台形形状の下底(長辺)に対応する外面21の上下方向の両端にフランジ部17が形成されることとなる。ちなみに、本実施形態での両フランジ部17は、等脚台形形状を呈するドアビーム本体部18から上下方向のそれぞれに離れるほど車幅方向内側(
図5Aの右側)に向けて円弧状に反り返るように形成されている。
【0023】
そして、
図5Aに示すように、このようなドアビーム8の外形輪郭Vとの相対位置で、補強ビード19に対応する溝19aの深さはD1で示される。
ちなみに、本実施形態での補強ビード19は、ドアビーム8の上下幅方向に、2列に並ぶものを想定しているが、これに限定されるものではなく1又は3以上とすることもできる。また、補強ビード19は、車幅方向外側(
図5Aの左側)に凸となる条で形成することもできる。
【0024】
図4Aに示すように、横断ビード20は、ドアビーム8の長手方向に直交するように形成されている。
図4AのVb-Vb断面図である
図5Bに示すように、横断ビード20は、ドアビーム8の外形輪郭Vから深さD2にてドアビーム8の外面21を規定する板体が部分的に窪むことによって形成されている。これにより横断ビード20は、ドアビーム8の中空部25側に向けて部分的に条となって突出することとなる。そして、ドアビーム8の外面21には、横断ビード20に対応するようにドアビーム8の長手方向に直交する溝19bが形成されることとなる。
ちなみに、
図5Bに示すように、横断ビード20に対応する溝19bが形成される外側部分15においても、本実施形態でのフランジ部17の中空部は、溝19bによって消失することがない程度に厚さTHが確保されることとなる。
【0025】
このような横断ビード20は、
図4Aに示すように、ドアビーム8の長手方向に沿って複数並ぶように形成されている。
ただし、本実施形態での横断ビード20は、補強ビード19が形成されるドアビーム8の中央部を除いてドアビーム8の外面21に形成されている。
また、本実施形態での横断ビード20は、図示は省略するが、ドアビーム8の長手方向の両端部を除いて形成されていることが望ましい。特に、横断ビード20は、
図2に示すドアビーム8の一般部8cに形成されるものが望ましい。
【0026】
図4Bに示すように、ドアビーム8の側壁面23には、突出部24がドアビーム8の長手方向に沿って複数並ぶように形成されている。
図4BのVb-Vb断面図である
図5Bに示すように、突出部24は、ドアビーム8の外形輪郭Vから突出高さPにて突出するように形成されている。
【0027】
図6は、ドアビーム8における突出部24の部分拡大斜視図である。
図6に示すように、突出部24は、外面21に対して略垂直であって、平面形状が二等辺三角形の第1面24aと、外形輪郭V(
図5A及び
図5B参照)が規定される側壁面23の基準面24cから立ち上がり、第1面24aにおける一対の二等辺のそれぞれに接続される平面形状が台形の一対の第2面24bとの合計3面にて構成されている。
ただし、突出部24は、このような少なくとも3面を有するもので構成されていれば、後記する型抜き時に金型31(
図9参照)と干渉しない限り、4面以上で構成することもできる。
【0028】
このような突出部24は、横断ビード20に対してドアビーム8の長手方向に直交する方向に整列している。つまり、
図4Bに示す突出部24の前後方向の中心線Cは、横断ビード20の位相と一致している。
なお、ドアビーム8は、後に詳しく説明するように、
図4Bに示す突出部24の前後方向の中心線Cが、横断ビード20の位相と逆転した構成とすることもできる(
図12参照)。
【0029】
次に、ドアビーム8における閉断面徐変構造について説明する。
本実施形態でのドアビーム8は、後に詳しく説明するように、パイプ圧縮成形体からなる。つまり、前記のように、断面ハット形状の管体からなる本実施形態でのドアビーム8の周長は、ドアビーム8の原材料となるパイプ(鋼管)の周長と同じに設定することができる。
【0030】
図7は、ドアビーム8における閉断面徐変構造を示す模式図である。
図7に示すように、本実施形態でのドアビーム8における車幅方向(
図7の左右方向)の高さは、ドアビーム8の中央側から端部に向かうほど徐々に低くなっている。また、ドアビーム8の上下幅は、中央側から端部に向かうほど徐々に大きくなっている。つまり、ドアビーム8の中央側から端部に向かって並ぶ任意の断面Cs1,Cs2,Cs3において、断面Cs1,Cs2,Cs3のそれぞれにおける高さH1,H2,H3は、H1>H2>H3の関係式を満たすとともに、それぞれにおける上下幅W1,W2,W3は、W1<W2<W3の関係式を見たすようになっている。
また、本実施形態でのドアビーム8は、その長手方向に亘って周長が一定値となることを前提に、断面Cs1,Cs2,Cs3のそれぞれにおけるフランジ部17の延出長さ(幅)L1,L2,L3は、L1>L2>L3の関係式を満たすようになっている。
【0031】
<ドアビーム構造の製造方法>
次に、ドアビーム構造1(
図1参照)の製造方法について説明する。
以下ではまず、ドアビーム8(
図3参照)の製造装置について説明する。
図8は、ドアビーム製造装置30の構成説明図である。
図8に示すように、ドアビーム製造装置30は、ドアビーム8(
図3参照)の外形を模ったキャビティを内側に形成する上型31aと下型31bとからなるブロー成形金型31と、ブロー成形金型31内に配置されたパイプ33(ドアビームの原材料となる鋼管)に通電する電極32と、パイプ33内にガスを供給するガス供給機構34と、ガス供給機構34をパイプ33の端部に向けて押圧する押圧機構35と、を主に備えて構成されている。
【0032】
このドアビーム製造装置30によれば、電極32を介してパイプ33に通電されることで、パイプ33に発生したジュール熱によってパイプ33が軟化する。その一方で、押圧機構35によってパイプ33の端部に押圧されたガス供給機構34を介して高圧ガスが断続的にパイプ33内に送り込まれる。これにより上型31aと下型31bとの間に配置されたパイプ33は、膨張する。そして、上型31aと下型31bとが閉じられることで、ブロー成形金型31内には、中空状のドアビーム8がブロー成型されることとなる。また、このドアビーム製造装置30によれば、上型31aと下型31bとが閉じられる際に、得られるドアビーム8に対して金型接触冷却が行われる。これによりドアビーム8のブロー成形工程とドアビーム8の焼入れ工程とが同時に又は並行して行われる。
【0033】
次に、ブロー成形金型31(以下、単に金型31と称する)によるドアビーム8(
図3参照)の成形工程(ブロー成形工程)について説明する。
図9は、ドアビーム8のブロー成形工程の説明図である。
図9の上段に示すように、この成形工程においては、上型31aと、下型31bとの間にドアビーム8(
図1参照)の原材料となる、例えば冷却によるマルテンサイト変態が可能な鋼種のパイプ33が配置される。なお、本実施形態での上型31aには、突出部24(
図5B参照)が形成されたドアビーム本体部18(
図5B参照)とフランジ部17(
図5B参照)の内側半体が模られている。また、本実施形態での下型31bには、補強ビード19(
図5A参照)及び横断ビード20(
図5A参照)が形成されたフランジ部17(
図5A参照)の外側半体が模られている。
【0034】
次に、前記のように、パイプ33が加熱され、そしてパイプ33内に高圧ガスが供給されることによってパイプ33が膨張する。次いで、
図9の中段に示すように、上型31aと、下型31bとが閉じられていくに従って、パイプ33は、金型31の内壁面(キャビティ)の形状に追従するように塑性変形する。
【0035】
そして、
図9の下段に示すように、上型31aと、下型31bとが完全に閉じられることによって、金型31のキャビティ内には、所定肉厚で形成された閉断面ハット形状の管体からなるドアビーム8が形成される。
【0036】
次に、本実施形態に係るドアビーム構造1(
図1参照)の製造方法においては、金型31(
図9参照)から取り出されたドアビーム8(
図9参照)の両端部が所定形状となるように加工される。具体的には、ドアビーム8の端部のそれぞれが、インナパネル3(
図2参照)の所定箇所に接合可能な形状にレーザカット加工にて整形される。
そして、
図2に示すように、本実施形態でのドアビーム8の前端が、ドアヒンジ補強部材13を介してインナパネル3と接合される。また、ドアビーム8の後端は、係合フック6(係合部材)の補強部材14を介してインナパネル3と接合される。そして、ドアビーム8の外面21(
図2参照)は、マスチックシーラ(図示を省略)を介してドアスキン4(
図2参照)の内面に接合される。
【0037】
また、
図2に示すように、ドアビーム8の前端は、ドアヒンジ補強部材13とインナパネル3とが三枚重ねになった部分が、ドアヒンジ5の回動側端部に締結される。
また、ドアビーム8の後端は、係合フック6(係合部材)の補強部材14とインナパネル3とが三枚重ねになった部分が、係合フック6とともにボルトBなどによって共締めされる。これにより本実施形態に係るドアビーム構造1(
図1参照)の製造方法の一連の
工程が終了する。
【0038】
<作用効果>
次に、本実施形態に係るドアビーム構造1及びその製造方法の奏する作用効果について説明する。
本実施形態のドアビーム構造1は、ドアビーム8が、従来のドアビーム構造(例えば、特許文献1参照)と異なって、内側部分16に中空のドアビーム本体部18を有するとともに、ドアスキン4と対向する外側部分15に中空のフランジ部17を有している。
このようなドアビーム構造1によれば、衝突時の衝撃吸収性能に優れ、しかもドアビームの軽量化を達成することができる。
【0039】
図10は、衝突荷重入力時におけるドアビーム断面の経時変化図である。
図10の左図に示すように、ドアビーム8は、中空のフランジ部17を有するドアビーム8の外側部分15がドアスキン4側に配置されている。
このようなドアビーム構造1に車両の側突時の荷重Fが入力すると、
図10の中図に示すように、ドアビーム8の外側部分15における中空のフランジ部17が、荷重Fに対する反力を発生させながら変形する。これによりフランジ部17は、側突前半での衝撃エネルギの吸収に寄与することができる。
次いで、
図10の右図に示すように、フランジ部17が潰れた後、ドアビーム8の内側部分16におけるドアビーム本体部18が座屈することで衝撃エネルギを吸収する。
【0040】
図11は、インパクタストローク[Stroke(mm)]と、ドアビーム8(
図3参照)に対する入力荷重[Force(kN)]及びドアビーム8の吸収エネルギ量[EA(kJ)]との関係を示したグラフである。
図11に示すグラフは、本発明の実施例に係るドアビームと、比較例に係るドアビームとについて行った試験結果を表すものである。
【0041】
実施例のドアビームは、
図5A及び
図5Bに示す断面形状を有するもので、上下の最大幅が69mmで、左右の最大幅が44.5mmで、肉厚が1.6mmのものを使用した。また、比較例のドアビームは、外径が35mmで、肉厚が3.3mmの円管を使用した。なお、実施例と比較例のドアビームは、断面形状が前記のように相違するほかは、材質、長さともに同じである。また、実施例と比較例のドアビームは、単位長さ当たりの重量が同じになっている。
【0042】
図11に示すように、実施例のドアビームは、比較例のドアビームに比べて、吸収エネルギ量が大きいことが検証された。
また、実施例のドアビームは、比較例のドアビームに比べて、入力されたインパクタ荷重に対する初期の反力の立ち上がりが急峻であることが検証された。
また、比較例のドアビームが
図11中、白抜き矢印で示すストローク位置で中折れしたのに対して、実施例のドアビームには、中折れが生じなかった。
【0043】
また、本実施形態に係るドアビーム構造1は、ドアビーム8の中央部に補強ビード19が形成されている。
このようなドアビーム構造1によれば、衝突荷重がドアビーム8に入力された際に、衝突荷重に対する初期の反力が、補強ビード19がないものと比べてより大きくなる。またこのようなドアビーム構造1は、ドアビーム8の中央部での歪みの集中を軽減することができ、中央部での破断を防止することができる。
【0044】
また、このドアビーム構造1においては、ドアビーム8に横断ビード20が複数形成されている。
このようなドアビーム構造1によれば、ドアビーム8の長手方向に複数並ぶ横断ビード20が、入力荷重によるドアビーム8の外側部分15での変形を誘発することで、ドアビーム8の内側部分16の中央部での折れを抑制する。つまり、横断ビード20は、断面面積の小さな内側部分16の破断モードから断面面積の広い外側部分15の座屈モードに変更するようにコントロールしている。これによりドアビーム構造1は、側突時の衝撃エネルギの吸収量を高めることができる。
【0045】
また、このドアビーム構造1においては、ドアビーム本体部18の側壁面23に、複数の突出部24が形成されている。
このようなドアビーム構造1によれば、側突前半でフランジ部17の中空部が潰れて側壁面23に底付いた際に、突出部24を有する内側部分16の側壁面23が、入力荷重に対して大きい反力を生起する。
【0046】
また、このドアビーム構造1においては、横断ビード20と突出部24とがドアビーム8の長手方向に直交する方向に整列している。
このようなドアビーム構造1によれば、ドアビーム8の長手方向にわたる広い範囲で、しかも外側部分15から内側部分に向かって効率よく衝撃エネルギを吸収することができる。
【0047】
また、このドアビーム構造1においては、フランジ部17の延出長さ(幅)は、ドアビーム8の中央部から両端部のそれぞれに近付くほど徐々に短くなっている。
このようなドアビーム構造1によれば、周長一定のドアビーム8においては、端部でフランジ部17が短くなった分に応じて、車幅方向の厚さ(高さ)を大きく確保することができる。これによりドアビーム構造1は、ドアビーム8の両端部における支持強度を、より一層高めることができる。
【0048】
また、このドアビーム構造1においては、ドアビーム8の前端側にドアヒンジ5が固定され、後端側に係合フック6が固定されている。
このようなドアビーム構造1によれば、ドアビーム8の両端部における支持強度が高まって、側突時の衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。
【0049】
また、このドアビーム構造1においては、横断ビード20は、ドアビーム8の長手方向の両端部を除いて形成されている。
このようなドアビーム構造1によれば、ドアビーム8の両端部での横断ビード20の形成を省略することで、ドアビーム8の両端部における支持強度を高めることとなる実質的なドアビーム8の車幅方向の高さを稼ぐことができる。
【0050】
また、このドアビーム構造1においては、ドアビーム8とドアスキン4との間にマスチックシーラを介在させた構成となっている。
このようなドアビーム構造1によれば、ドアスキン4に対向する外側部分15が、フランジ部17の形成により内側部分16よりも広くなっており、マスチックシーラの介在面積を広く確保することができる。これによりドアビーム構造1は、ドアスキン4の面剛性を高めることができるとともに、サイドドア2の制振性能を高めることもできる。また、このようなドアビーム構造1によれば、マスチックシーラの介在面積を広く確保することができるので、マスチックシーラ用の別体のブラケットも不要となる。
【0051】
また、本実施形態に係るドアビーム構造1の製造方法は、ドアビーム8のブロー成形工程を含んでいる。
このような製造方法によれば、中空のフランジ部17や、ドアビーム本体部18の突出部24など、従来のロール成形では製造不可能な形状を得ることができる。また、この製造方法によれば、中空のドアビーム8の成形工程と、焼き入れ工程とを行うことができ、高強度で軽量のドアビーム8を得ることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
図12は、ドアビーム8の変形例を示す側面図であり、
図4Bに対応する図である。
図12に示すように、変形例に係るドアビーム8は、突出部24が、横断ビード20に対してドアビーム8の長手方向に直交する方向に互い違いに整列している。つまり、突出部24の前後方向の中心線Cは、横断ビード20の位相と逆転している。言い換えれば、横断ビード20は、隣接する突出部24の中心線Cの中間位置に形成されている。
このようなドアビーム構造1によれば、衝撃エネルギによってドアビーム8がより確実に破断しにくくなる。
【符号の説明】
【0053】
1 ドアビーム構造
4 ドアスキン
5 ドアヒンジ
6 係合フック
8 ドアビーム
15 外側部分
16 内側部分
17 フランジ部
18 ドアビーム本体部
19 補強ビード
20 横断ビード
24 突出部
31 金型
33 パイプ(鋼管)