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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20241017BHJP
   F02M 59/44 20060101ALI20241017BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241017BHJP
   F02M 37/08 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F02D41/22
F02M59/44 C
F02D45/00 345
F02M37/08 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021057238
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154288
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳平
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053741(JP,A)
【文献】特開2009-174415(JP,A)
【文献】特開2009-250060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02M 37/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに燃料を供給する燃料供給装置であって、
前記エンジンに設けられ、燃料を噴射するインジェクタと、
前記インジェクタに燃料供給経路を介して接続され、燃料を圧送する第1燃料ポンプと、
前記燃料供給経路に設けられ、燃料を圧送する第2燃料ポンプと、
前記エンジンの排気系に設けられ、空燃比を検出する空燃比センサと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記インジェクタ、前記第1燃料ポンプおよび前記第2燃料ポンプを制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、前記インジェクタの作動状況に基づいて、前記第1燃料ポンプの推定仕事率を算出し、
前記制御システムは、前記第1燃料ポンプの作動状況に基づいて、前記第1燃料ポンプの実仕事率を算出し、
前記制御システムは、前記実仕事率が前記推定仕事率を上回り、かつ前記空燃比が閾値よりもリーン側である場合に、前記第1燃料ポンプを停止させる、
燃料供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料供給装置において、
前記空燃比と比較される閾値は、理論空燃比よりもリーン側に設定される、
燃料供給装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料供給装置において、
前記制御システムは、前記実仕事率が前記推定仕事率を上回り、前記実仕事率と前記推定仕事率との差分が閾値を上回り、かつ前記空燃比が閾値よりもリーン側である場合に、前記第1燃料ポンプを停止させる、
燃料供給装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の燃料供給装置において、
前記制御システムは、前記インジェクタに作用する燃圧に基づいて、前記第1燃料ポンプの回転速度を制御する、
燃料供給装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の燃料供給装置において、
前記第2燃料ポンプは、燃料を加圧する加圧室が形成されるポンプ本体と、前記ポンプ本体に取り付けられて前記加圧室を開閉する電磁弁と、を備え、
前記制御システムは、前記第1燃料ポンプ、前記第2燃料ポンプおよび前記インジェクタの作動状況に基づいて推定燃圧を算出し、かつ前記インジェクタと前記第2燃料ポンプとの間に位置する圧力センサから実燃圧を取得し、
前記制御システムは、前記実燃圧が前記推定燃圧を下回り、前記推定燃圧と前記実燃圧との差分が閾値を上回る場合に、前記第2燃料ポンプの前記加圧室を開放する、
燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンには、低圧燃料ポンプおよび高圧燃料ポンプ等からなる燃料供給装置が設けられている。燃料タンク内の燃料は、低圧燃料ポンプおよび高圧燃料ポンプを経てインジェクタに供給される(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-53741号公報
【文献】特開2006-161675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料供給装置において燃料漏れ等の異常が発生した場合には、エンジン停止等の処置を実施することが必要である。このため、燃料供給装置の異常を適切に検出することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、燃料供給装置の異常を適切に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態の燃料供給装置はエンジンに燃料を供給する燃料供給装置であって、前記エンジンに設けられ、燃料を噴射するインジェクタと、前記インジェクタに燃料供給経路を介して接続され、燃料を圧送する第1燃料ポンプと、前記燃料供給経路に設けられ、燃料を圧送する第2燃料ポンプと、前記エンジンの排気系に設けられ、空燃比を検出する空燃比センサと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記インジェクタ、前記第1燃料ポンプおよび前記第2燃料ポンプを制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、前記インジェクタの作動状況に基づいて、前記第1燃料ポンプの推定仕事率を算出し、前記制御システムは、前記第1燃料ポンプの作動状況に基づいて、前記第1燃料ポンプの実仕事率を算出し、前記制御システムは、前記実仕事率が前記推定仕事率を上回り、かつ前記空燃比が閾値よりもリーン側である場合に、前記第1燃料ポンプを停止させる。
【発明の効果】
【0007】
一実施形態の燃料供給装置は、プロセッサおよびメモリを備える制御システムを有する。制御システムは、インジェクタの作動状況に基づいて、第1燃料ポンプの推定仕事率を算出し、制御システムは、第1燃料ポンプの作動状況に基づいて、第1燃料ポンプの実仕事率を算出し、制御システムは、実仕事率が推定仕事率を上回り、かつ空燃比が閾値よりもリーン側である場合に、第1燃料ポンプを停止させる。これにより、燃料供給装置の異常を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態である燃料供給装置を備えた車両の構成例を示す図である。
図2】燃料供給装置の構成例を示す図である。
図3A】高圧燃料ポンプの作動状況を示す図である。
図3B】高圧燃料ポンプの作動状況を示す図である。
図3C】高圧燃料ポンプの作動状況を示す図である。
図4】各制御ユニットの構成を簡単に示した図である。
図5】分配配管内の燃圧と低圧燃料ポンプの回転速度との関係の一例を示す図である。
図6】異常判定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図7】異常判定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図8】異常判定制御の実行状況の例を示す図である。
図9】異常判定制御の実行状況の例を示す図である。
図10】空燃比と比較される閾値の一例を示す図である。
図11】空燃比がリッチであるときの燃料系の作動状況を示す図である。
図12】空燃比がリーンであるときの燃料系の作動状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両構成]
図1は本発明の一実施の形態である燃料供給装置10を備えた車両11の構成例を示す図である。図1に示すように、車両11には、エンジン12および変速機13を備えたパワートレイン14が搭載されている。変速機13の出力軸15には、プロペラ軸16およびデファレンシャル機構17を介して車輪18が連結されている。また、車両11にはガソリン等の燃料を溜める燃料タンク19が設けられており、燃料タンク19とエンジン12とは燃料供給経路20を介して互いに接続されている。
【0011】
[エンジン]
図2は燃料供給装置10の構成例を示す図である。図2に示すように、エンジン12は、ピストン21を収容するシリンダブロック22と、シリンダブロック22に搭載されるシリンダヘッド23と、を有している。シリンダヘッド23には、燃焼室24に連通する吸気ポート30が形成されており、燃焼室24に連通する排気ポート40が形成されている。また、シリンダヘッド23には、吸気ポート30を開閉する吸気バルブ31が組み付けられており、排気ポート40を開閉する排気バルブ41が組み付けられている。さらに、シリンダヘッド23には、吸気バルブ31を駆動する吸気カム軸32が設けられており、排気バルブ41を駆動する排気カム軸42が設けられている。なお、吸気カム軸32や排気カム軸42は、図示しないクランク軸にタイミングチェーン等を介して連結される。
【0012】
シリンダヘッド23の吸気ポート30には吸気管33が接続されており、シリンダヘッド23の排気ポート40には排気管43が接続されている。エンジン12の吸気系34を構成する吸気管33には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ35が接続されており、吸入空気からダストを除去するエアクリーナボックス36が接続されている。また、エンジン12の吸気管33には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ37が設けられている。また、エンジン12の排気系44を構成する排気管43には、排出ガスの酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサ45が設けられている。なお、空燃比とは、燃焼室24内に供給される空気と燃料との質量比である。
【0013】
[燃料系]
エンジン12は、燃焼室24に燃料を供給する燃料系50を有している。燃料系50は、ガソリン等の燃料を溜める燃料タンク19と、燃焼室24に燃料を噴射するインジェクタ51と、を有している。また、燃料系50は、燃料タンク19に設けられる低圧燃料ポンプ(第1燃料ポンプ)52と、インジェクタ51の分配配管53に接続される高圧燃料ポンプ(第2燃料ポンプ)54と、を有している。低圧燃料ポンプ52と高圧燃料ポンプ54とは燃料配管55を介して接続されており、高圧燃料ポンプ54とインジェクタ51とは燃料配管56および分配配管53を介して接続されている。つまり、低圧燃料ポンプ52とインジェクタ51とは、燃料配管55、高圧燃料ポンプ54、燃料配管56および分配配管53からなる燃料供給経路20を介して接続されている。なお、インジェクタ51にはノズルを開閉する図示しない電磁弁が組み込まれており、この電磁弁によって燃料噴射量が制御される。また、分配配管53には、圧力調整弁57を備えた戻し配管58が接続されている。
【0014】
高圧燃料ポンプ54は、加圧室60が形成されるポンプ本体61と、ポンプ本体61に往復動自在に組み付けられるプランジャ62と、を有している。ポンプ本体61には、加圧室60に連通する吸入ポート63および吐出ポート64が形成されている。ポンプ本体61の吸入ポート63には、低圧燃料ポンプ52側の燃料配管55が接続されており、ポンプ本体61の吐出ポート64には、逆止弁65を介してインジェクタ51側の燃料配管56が接続されている。また、高圧燃料ポンプ54は、吸気カム軸32に取り付けられるポンプカム66と、ポンプカム66とプランジャ62とに挟まれるリフター67と、を有している。さらに、高圧燃料ポンプ54は、吸入ポート63を開閉つまり加圧室60を開閉する電磁弁68を有している。エンジン運転によってポンプカム66が駆動されると、プランジャ62はポンプカム66に追従して往復運動を行う。このとき、電磁弁68によって吸入ポート63を開閉させることにより、高圧燃料ポンプ54の動作を制御することが可能となる。
【0015】
図3A図3Cは、高圧燃料ポンプ54の作動状況を示す図である。図3Aおよび図3Bに示すように、高圧燃料ポンプ54によって燃料を圧送する際には、プランジャ62の往復運動に合わせて電磁弁68の開閉制御が実行される。すなわち、図3Aに示すように、プランジャ62が下死点に向けて下降移動する際には、電磁弁68によって吸入ポート63が開放される。このように、加圧室60の拡張に合わせて吸入ポート63を開くことにより、燃料配管55から加圧室60に燃料を流入させることができる。続いて、図3Bに示すように、プランジャ62が上死点に向けて上昇移動する際には、電磁弁68によって吸入ポート63が閉塞される。このように、加圧室60の縮小に合わせて吸入ポート63を閉じることにより、加圧室60内の燃料をプランジャ62によって加圧することができ、逆止弁65および燃料配管56を経て分配配管53に高圧の燃料を圧送することができる。
【0016】
一方、図3Cに示すように、高圧燃料ポンプ54による燃料の加圧を停止させる際には、電磁弁68によって吸入ポート63が開放状態に保持される。このように、高圧燃料ポンプ54の加圧室60を開放することにより、ポンプカム66が回転してプランジャ62が上昇する場合であっても、加圧室60から燃料配管55に燃料を戻すことができ、高圧燃料ポンプ54による燃料の加圧を停止させることができる。なお、図3Cに示した状況であっても、低圧燃料ポンプ52から圧送される燃料は、加圧室60および逆止弁65を経てインジェクタ51に供給される。
【0017】
[制御システム]
図2に示すように、燃料供給装置10には、前述した燃料系50を制御するため、複数の電子制御ユニットからなる制御システム70が設けられている。制御システム70を構成する電子制御ユニットとして、スロットルバルブ35、インジェクタ51、低圧燃料ポンプ52および高圧燃料ポンプ54等を制御するエンジン制御ユニットCU1がある。また、制御システム70を構成する電子制御ユニットとして、エンジン制御ユニットCU1に制御信号を出力する車両制御ユニットCU2がある。これらの制御ユニットCU1,CU2は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワーク71を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニットCU2は、エンジン制御ユニットCU1や後述する各種センサからの入力情報に基づき、エンジン12や燃料系50の作動目標を設定する。そして、エンジン12や燃料系50の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号をエンジン制御ユニットCU1に対して出力する。
【0018】
車両制御ユニットCU2に接続されるセンサとして、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ72があり、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ73があり、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサ74がある。また、車両制御ユニットCU2には、制御システム70を起動する際に運転者によって操作されるスタートスイッチ75が接続されている。さらに、車両制御ユニットCU2には、燃料系50の異常発生時に点灯する警告灯76が接続されており、燃料系50の異常発生時に車外のサーバ等と通信する通信ユニット77が接続されている。
【0019】
また、エンジン制御ユニットCU1には、燃料の圧力を検出する低圧圧力センサ80および高圧圧力センサ81が接続されている。低圧圧力センサ80は、低圧燃料ポンプ52から燃料が供給される燃料配管55に取り付けられている。また、高圧圧力センサ(圧力センサ)81は、高圧燃料ポンプ54から燃料が供給される分配配管53に取り付けられている。なお、高圧圧力センサ81の取付箇所としては、分配配管53に限られることはなく、燃料配管56であっても良い。つまり、高圧圧力センサ81の取付箇所としては、インジェクタ51と高圧燃料ポンプ54との間に位置する燃料供給経路20であれば良い。
【0020】
図4は各制御ユニットCU1,CU2の構成を簡単に示した図である。図4に示すように、各制御ユニットCU1,CU2は、プロセッサ90およびメモリ91等が組み込まれたマイクロコントローラ92を有している。メモリ91には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ90によってプログラムの命令セットが実行される。プロセッサ90とメモリ91とは、互いに通信可能に接続されている。なお、図示する例では、マイクロコントローラ92に1つのプロセッサ90と1つのメモリ91とが組み込まれているが、これに限られることはなく、マイクロコントローラ92に複数のプロセッサ90を組み込んでも良く、マイクロコントローラ92に複数のメモリ91を組み込んでも良い。
【0021】
また、各制御ユニットCU1,CU2には、入力変換回路93、駆動回路94、通信回路95、外部メモリ96および電源回路97等が設けられている。入力変換回路93は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ92に入力可能な信号に変換する。駆動回路94は、マイクロコントローラ92から出力される信号に基づき、前述したスロットルバルブ35等のアクチュエータに対する駆動信号を生成する。通信回路95は、マイクロコントローラ92から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路95は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ92に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路97は、マイクロコントローラ92、入力変換回路93、駆動回路94、通信回路95および外部メモリ96等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等の外部メモリ96には、非通電時にも保持すべきデータ等が記憶される。
【0022】
[低圧燃料ポンプの駆動制御]
低圧燃料ポンプ52の駆動制御について説明する。燃料系50には、低圧燃料ポンプ52として、電動モータによって駆動されるトロコイドポンプやウエスコポンプ等が設けられている。制御システム70は、分配配管53内の燃料圧力(以下、燃圧と記載する。)を所定範囲内に維持するように、電動モータを制御することで低圧燃料ポンプ52の回転数つまり回転速度を制御している。
【0023】
図5は分配配管53内の燃圧と低圧燃料ポンプ52の回転速度との関係の一例を示す図である。図5に示すように、制御システム70は、分配配管53内の燃圧が所定の目標範囲Xaに収まるように、低圧燃料ポンプ52の回転速度を制御している。すなわち、制御システム70は、燃料噴射量の減少等によって燃圧が上昇する際には(矢印a1)、低圧燃料ポンプ52の回転速度を低下させる(矢印b1)。一方、制御システム70は、燃料噴射量の増加等によって燃圧が低下する際には(矢印a2)、低圧燃料ポンプ52の回転速度を上昇させる(矢印b2)。このように、制御システム70は、インジェクタ51に作用する燃圧に基づいて、低圧燃料ポンプ52の回転速度を制御している。これにより、低圧燃料ポンプ52の消費電力を抑制することができるため、車両11のエネルギー効率を高めることができる。なお、図5に示した例では、低圧燃料ポンプ52の目標回転速度を連続的に変化させているが、これに限られることはなく、低圧燃料ポンプ52の目標回転速度を段階的に変化させても良い。
【0024】
[異常判定制御]
続いて、燃料系50の異常を判定する異常判定制御について説明する。図6および図7は異常判定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。図6および図7に示したフローチャートにおいては、符号Aの箇所で互いに接続されている。また、図8および図9は異常判定制御の実行状況の例を示す図である。なお、図6および図7のフローチャートに示される各ステップには、制御システム70を構成する1つまたは複数のプロセッサ90によって実行される処理が示されている。また、図6および図7に示される異常判定制御は、運転者によってスタートスイッチ75が操作され、車両制御ユニットCU2等からなる制御システム70が起動された後に、制御システム70によって所定周期毎に実行される制御である。
【0025】
図6に示すように、ステップS10において、制御システム70は、低圧燃料ポンプ52の作動状況、高圧燃料ポンプ54の作動状況およびインジェクタ51の作動状況に基づいて、推定燃圧P1を算出する。この推定燃圧P1は、燃料系50の作動状況から推定される分配配管53内の燃圧である。例えば、低圧燃料ポンプ52の回転速度が高くなるにつれて推定燃圧P1は高く算出される。低圧燃料ポンプ52の消費電力が増加するにつれて推定燃圧P1は高く算出される。また、高圧燃料ポンプ54のポンプカム66の回転速度が高くなるにつれて推定燃圧P1は高く算出される。さらに、インジェクタ51の燃料噴射量が減少するにつれて推定燃圧P1は高く算出される。なお、推定燃圧P1を算出する際には、所定の演算式を用いても良く、低圧燃料ポンプ52の回転速度や消費電力等に基づき予め作成された所定の燃圧データを用いても良い。
【0026】
続くステップS11において、制御システム70は、高圧圧力センサ81から実燃圧P2を取得する。この実燃圧P2は、分配配管53内の実際の燃圧であり、インジェクタ51に作用する実際の燃圧である。ステップS11において実燃圧P2が取得されると、制御システム70は、ステップS12に進み、推定燃圧P1から実燃圧P2を減算した値が、所定の閾値Pxを上回るか否かを判定する。ステップS12において、推定燃圧P1から実燃圧P2を減算した値が閾値Px以下になる状況とは、図8にケース1,2として示した状況である。つまり、実燃圧P2が推定燃圧P1を上回る状況、または実燃圧P2が推定燃圧P1を下回ったとしても、推定燃圧P1と実燃圧P2との差分が閾値Px以下となる状況である。この場合には、実燃圧P2が十分に確保されていることから、制御システム70は、燃料系50が正常であると判定し、ルーチンを抜ける。なお、閾値Pxとして、0以上の正の値を設定することが可能である。
【0027】
一方、ステップS12において、推定燃圧P1から実燃圧P2を減算した値が閾値Pxを上回る状況とは、図8にケース3として示した状況である。つまり、実燃圧P2が推定燃圧P1を下回り、かつ推定燃圧P1と実燃圧P2との差分が閾値Pxを上回る状況である。この場合には、実燃圧P2が過度に低下していることから、制御システム70は、燃料系50における燃料漏れの虞があると判定し、ステップS13に進む。ステップS13において、制御システム70は、運転者に燃料系異常を通知するため、警告灯76を点灯させる。続くステップS14において、制御システム70は、高圧燃料ポンプ54の吸入ポート63を開いて加圧室60を開放させることにより、高圧燃料ポンプ54による燃料の加圧を停止させる。なお、ステップS14において、低圧燃料ポンプ52は燃料の圧送を継続しており、低圧燃料ポンプ52からインジェクタ51に対する燃料供給は継続される。
【0028】
次いで、制御システム70は、ステップS15に進み、燃料系50に設けられたポンプ52,54等の各種デバイスが正常であるか否か、つまり各種デバイスから発せられる異常信号の有無を判定する。ステップS15において、各種デバイスから異常信号が出力されていない場合に、制御システム70は、各種デバイスが正常であると判定し、ステップS16に進む。ステップS16において、制御システム70は、高圧圧力センサ81および低圧圧力センサ80が正常であるか否かを判定する。ステップS16においては、高圧燃料ポンプ54による加圧が停止されることから、高圧燃料ポンプ54の前後の燃圧は互いに等しくなる。このため、制御システム70は、ステップS16において、双方の圧力センサ80,81によって検出される燃圧が所定範囲内に収まるか否かを判定する。そして、制御システム70は、双方の圧力センサ80,81によって検出される燃圧が所定範囲内に収まる場合に、双方の圧力センサ80,81が正常であると判定し、ステップS17に進む。一方、ステップS15において各種デバイスの異常信号を検出した場合や、ステップS16において双方の圧力センサ80,81によって検出される燃圧が所定範囲から外れた場合に、制御システム70は、異常判定制御の継続が困難であると判定し、ルーチンを抜ける。
【0029】
図7に示すように、ステップS17において、制御システム70は、インジェクタ51の作動状況に基づいて、低圧燃料ポンプ52の推定仕事率W1を算出する。この推定仕事率W1は、インジェクタ51の作動状況から推定される低圧燃料ポンプ52の仕事率である。ステップS17において、制御システム70は、インジェクタ51の作動状況から単位時間当たりの燃料噴射量を算出し、この単位時間当たりの燃料噴射量に基づき低圧燃料ポンプ52の推定仕事率W1を算出する。つまり、インジェクタ51の燃料噴射量が増加するにつれて、低圧燃料ポンプ52による燃料の圧送量が増加するため、制御システム70は、燃料噴射量が増加するにつれて推定仕事率W1を高く算出する。なお、推定仕事率W1を算出する際には、所定の演算式を用いても良く、燃料噴射量等に基づき予め作成された所定の仕事率データを用いても良い。
【0030】
続いて、制御システム70は、ステップS18に進み、低圧燃料ポンプ52の作動状況に基づいて、低圧燃料ポンプ52の実際の仕事率である実仕事率W2を算出する。ステップS18において、制御システム70は、低圧燃料ポンプ52の回転速度や消費電力等に基づいて、低圧燃料ポンプ52の実仕事率W2を算出する。例えば、低圧燃料ポンプ52の回転速度が高くなるにつれて実仕事率W2は高く算出され、低圧燃料ポンプ52の消費電力が高くなるにつれて実仕事率W2は高く算出される。なお、実仕事率W2を算出する際には、所定の演算式を用いても良く、低圧燃料ポンプ52の回転速度や消費電力等に基づき予め作成された所定の仕事率データを用いても良い。
【0031】
ステップS18において実仕事率W2が算出されると、制御システム70は、ステップS19に進み、実仕事率W2から推定仕事率W1を減算した値が、所定の閾値Wxを上回るか否かを判定する。ステップS19において、実仕事率W2から推定仕事率W1を減算した値が閾値Wx以下になる状況とは、図9にケース4,5として示した状況である。つまり、実仕事率W2が推定仕事率W1を下回る状況、または実仕事率W2が推定仕事率W1を上回ったとしても、実仕事率W2と推定仕事率W1との差分が閾値Wx以下となる状況である。この場合には、低圧燃料ポンプ52の実仕事率W2が過度に増加していないことから、制御システム70は、燃料系50が正常であると判定し、ルーチンを抜ける。
【0032】
一方、ステップS19において、実仕事率W2から推定仕事率W1を減算した値が閾値Wxを上回る状況とは、図9にケース6として示した状況である。つまり、実仕事率W2が推定仕事率W1を上回り、かつ実仕事率W2と推定仕事率W1との差分が閾値Wxを上回る状況である。この場合には、低圧燃料ポンプ52の実仕事率W2が過度に増加していることから、制御システム70は、燃料系50における燃料漏れの虞があると判定し、ステップS20に進む。ステップS20において、制御システム70は、空燃比センサ45によって検出された空燃比が、所定の閾値αを下回る状況であるか否かを判定する。
【0033】
図10は空燃比と比較される閾値αの一例を示す図である。図10に示すように、空燃比と比較される閾値αは、理論空燃比よりもリーン側に設定されている。なお、空燃比とは、燃焼室24内に供給される空気と燃料との質量比であり、空気質量に対する燃料質量の比である。つまり、空燃比がリーン側に変化するということは、空気割合が多くなることであり、空燃比の値が大きくなることを意味している。また、空燃比がリッチ側に変化するということは、空気割合が少なくなることであり、空燃比の値が小さくなることを意味している。また、燃料がガソリンである場合の理論空燃比は14.7である。
【0034】
図11は空燃比がリッチであるときの燃料系50の作動状況を示す図であり、図12は空燃比がリーンであるときの燃料系50の作動状況を示す図である。前述した図7のステップS20から「Yes」に進む状況とは、実仕事率W2から推定仕事率W1を減算した値が閾値Wxを上回り、かつ空燃比が閾値α以上である状況である。つまり、インジェクタ51の燃料噴射量に対して低圧燃料ポンプ52の燃料吐出量が多い状況であり、かつ燃焼室24に供給された燃料が多い状況である。このため、図11に矢印X1で示すように、インジェクタ51からシリンダ内に対して燃料漏れが発生している状況であると想定される。そこで、制御システム70は、ステップS21に進み、低圧燃料ポンプ52からインジェクタ51に対する燃料供給を継続させることにより、エンジン12の運転状態を維持している。このように、エンジン12外に燃料が漏れていない状況においては、整備工場等までの車両移動を可能にするため、エンジン12の運転状態を維持している。
【0035】
一方、図7のステップS20において、空燃比が閾値αを上回ると判定されると、制御システム70は、ステップS22に進み、低圧燃料ポンプ52を停止させる。つまり、図7のステップS20から「No」に進む状況とは、実仕事率W2から推定仕事率W1を減算した値が閾値Wxを上回り、かつ空燃比が閾値αを下回る状況である。つまり、インジェクタ51の燃料噴射量に対して低圧燃料ポンプ52の燃料吐出量が多い状況であり、かつ燃焼室24内に供給された燃料が少ない状況である。このため、図12に矢印X2,X3で示すように、燃料供給経路20から燃料漏れが発生している虞のある状況であると想定される。
【0036】
そこで、制御システム70は、ステップS22に進み、低圧燃料ポンプ52を停止させ、ステップS23に進み、エンジン12を停止させる。また、制御システム70は、ステップS24に進み、警告音やディスプレイ表示等を用いて車内の乗員に退避を通知する。その後、制御システム70は、ステップS25に進み、乗員の退避が完了したか否かを判定する。ステップS25において乗員の退避が完了していないと判定されると、制御システム70は、ステップS26に進み、通信ユニット77を用いて警察等の緊急連絡先に通報を行ってルーチンを抜ける。なお、ステップS25において、制御システム70は、乗員の着座を検出する図示しないシートセンサからの信号や、車体ドアの開閉を検出する図示しないドアセンサからの信号等に基づいて、乗員が車室内から退避したか否かを判定する。
【0037】
これまで説明したように、制御システム70は、低圧燃料ポンプ52の実仕事率W2が推定仕事率W1を上回り、実仕事率W2と推定仕事率W1との差分が閾値Wxを上回り、かつ空燃比が閾値αを下回る場合に、燃料供給経路20からの燃料漏れを想定して低圧燃料ポンプ52を停止させる。これにより、燃料供給装置10の異常を適切に検出することができ、燃料供給装置10の異常に適切に対処することができる。また、閾値Wxとしては、0以上の正の値を設定することが可能である。つまり、制御システム70は、低圧燃料ポンプ52の実仕事率W2が推定仕事率W1を上回り、かつ空燃比が閾値αを下回る場合に、低圧燃料ポンプ52を停止させるように制御可能である。また、空燃比と比較される閾値αについては、図10に示すように、理論空燃比よりもリーン側に設定されているが、これに限られることはない。例えば、閾値αとして、理論空燃比と一致する閾値を設定しても良く、理論空燃比よりもリッチ側の閾値を設定しても良い。
【0038】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、複数の制御ユニットCU1,CU2によって制御システム70を構成しているが、これに限られることはない。例えば、1つの制御ユニットによって制御システム70を構成しても良い。また、前述の説明では、燃料としてガソリンを例示しているが、これに限られることはない。例えば、燃料として、軽油を用いても良く、エタノールを用いても良く、ガソリンとエタノールとの混合物を用いても良い。また、図示する例では、低圧燃料ポンプ52を燃料タンク19内に設置しているが、これに限られることはなく、低圧燃料ポンプ52を燃料タンク19外に設置しても良い。また、前述の説明では、高圧燃料ポンプ54のポンプカム66を吸気カム軸32によって駆動しているが、これに限られることはなく、ポンプカム66を他の回転軸を用いて駆動しても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 燃料供給装置
11 車両
12 エンジン
20 燃料供給経路
44 排気系
45 空燃比センサ
51 インジェクタ
52 低圧燃料ポンプ(第1燃料ポンプ)
54 高圧燃料ポンプ(第2燃料ポンプ)
60 加圧室
61 ポンプ本体
68 電磁弁
70 制御システム
81 高圧圧力センサ(圧力センサ)
90 プロセッサ
91 メモリ
W1 推定仕事率
W2 実仕事率
Wx 閾値
α 閾値
P1 推定燃圧
P2 実燃圧
Px 閾値
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12