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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
H02M3/28 D
H02M3/28 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021091774
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022184115
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕二
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-168278(JP,A)
【文献】特開2013-243859(JP,A)
【文献】特開平06-078564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次巻線に印加する逆変換器と、
前記変圧器の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器と、
前記半導体スイッチング素子のオンオフを制御して前記逆変換器の出力電力を調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記逆変換器のスイッチング周期を決定するキャリア波を発生するキャリア波発生部と、
前記変圧器の偏磁量又は該偏磁量の積算に応じて前記キャリア波の周期単位で値が調整された偏磁補償指令値を求める偏磁補償部と、
前記キャリア波と前記偏磁補償指令値とを比較することにより、前記半導体スイッチング素子のゲート信号を生成するゲートドライバ部と、
前記順変換器の出力電圧を制御するためのデューティー指令値を求める指令値演算部と、を有し、
前記偏磁補償部は、
前記変圧器の偏磁量を検出する偏磁検出部を有し、
前記キャリア波の周期単位で値が調整され、平均値が前記偏磁量に対応するオフセット値を求め、該オフセット値と前記デューティー指令値とを加算して前記偏磁補償指令値を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記指令値演算部は、前記キャリア波の整数周期の期間中において一定値の前記デューティー指令値を求め、
前記偏磁補償部は、前記キャリア波の前記整数周期の期間中において、前記キャリア波の周期単位で値が調整された前記オフセット値を求めることを特徴とする、請求項に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記偏磁検出部は、
前記変圧器の一次巻線電流の周期を計数して整数周期に到達した到達信号を発生する周期カウンタ部と、
前記到達信号を遅延させてリセット信号を発生する遅延部と、
前記一次巻線電流を積分して積分値を出力し、かつ前記リセット信号により積分値を初期値にリセットする積分器と、
前記到達信号により、前記積分器より出力された積分値を保持するサンプルアンドホールド部と、
を有することを特徴とする、請求項又はに記載の電力変換装置。
【請求項4】
半導体スイッチング素子をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次巻線に印加する逆変換器と、
前記変圧器の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器と、
前記半導体スイッチング素子のオンオフを制御して前記逆変換器の出力電力を調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記逆変換器のスイッチング周期を決定するキャリア波を発生するキャリア波発生部と、
前記変圧器の偏磁量又は該偏磁量の積算に応じて前記キャリア波の周期単位で値が調整された偏磁補償指令値を求める偏磁補償部と、
前記キャリア波と前記偏磁補償指令値とを比較することにより、前記半導体スイッチング素子のゲート信号を生成するゲートドライバ部と、
前記順変換器の出力電圧を制御するためのデューティー指令値を求める指令値演算部と、を有し、
前記偏磁補償部は、
前記変圧器の偏磁量を積算し、正側又は負側の一定値に到達すると正側偏磁補償信号又は負側偏磁補償信号を送出する偏磁検出部と、
前記正側偏磁補償信号又は前記負側偏磁補償信号により偏磁補償オフセット量を出力する偏磁補償選択部と、
前記偏磁補償オフセット量を前記デューティー指令値に加算する偏磁補償指令値生成部と、を有し、
前記偏磁検出部は、
前記変圧器の一次巻線電流の立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジを検出してエッジ検出パルスを発生するエッジ検出部と、
前記一次巻線電流を積分して積分値を出力し、かつリセット信号により積分値を初期値にリセットする積分器と、
前記エッジ検出パルスにより前記積分器より出力された積分値を保持するサンプルアンドホールド部と、
前記サンプルアンドホールド部により保持された一次巻線電流の一周期毎の偏差の積分値と正側積分閾値とを比較して前記正側偏磁補償信号を出力する比較器Pと、
前記サンプルアンドホールド部により保持された一次巻線電流の一周期毎の偏差の積分値と負側積分閾値とを比較して前記負側偏磁補償信号を出力する比較器Nと、
前記正側偏磁補償信号と前記負側偏磁補償信号との論理和を演算して前記積分器に入力するリセット信号を出力する論理和部と、を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
前記偏磁補償選択部は、
前記正側偏磁補償信号により正側偏磁補償オフセット量を選択する正側偏磁補償選択器と、
前記負側偏磁補償信号により負側偏磁補償オフセット量を選択する負側偏磁補償選択器と、
前記正側偏磁補償選択器の出力と前記負側偏磁補償選択器の出力とを加算する偏磁補償オフセット量加算部と、
を有することを特徴とする、請求項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に係り、特に変圧器を用いて電力変成を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器の鉄心に通る磁束の密度には断面積と素材に依存する上限があり、許容される磁束密度よりも磁束が増加すると磁気飽和が発生し、巻線に過電流を発生させる。
【0003】
また、鉄心に発生する磁束は巻線に印加される電圧の積分に比例することから、巻線に印加される交流電圧の正負が不平衡であった場合には、正負いずれかに偏磁が発生し過電流が発生する。
【0004】
半導体スイッチング素子によるDC/AC変換と変圧器とを使用した電力変成は幅広く使用されており、またそのスイッチング周波数の高周波化によって鉄心が磁気飽和しにくくなるので、変圧器の小型化が可能である。
【0005】
しかし、スイッチング周波数の高周波化が進むと、スイッチング素子自体やドライブ回路の個体差等の要因によるオン時間オフ時間の正負不平衡がスイッチング周期に占める割合が増加するため、スイッチングの正負不平衡が偏磁に繋がる。偏磁による過電流が発生すると、半導体スイッチング素子や周辺回路が破損するおそれがある。
【0006】
そこで、変圧器を用いる電力変換装置の偏磁抑制に関する技術が提案されている。例えば特許文献1には、変圧器の偏磁量を検出し、偏磁量の大きさに対して、変圧器の一次巻線へ交流電力を印加するインバータ部のスイッチング素子のオンオフ信号のデューティー比を変化させることにより、偏磁を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-103200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、偏磁が発生すると、各スイッチング周期においてスイッチング素子のオンオフ時間を補正しているため、偏磁量が小さい場合や、スイッチング周期に対して制御周期が十分に短くない場合には、過補償となって逆方向の偏磁が発生し、過電流が流れるおそれがある。
【0009】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、偏磁の過補償を防ぎ、スイッチングの高周波化に伴うスイッチング周期と制御周期との接近による補償量の低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することが可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、半導体スイッチング素子をブリッジ接続し、直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次巻線に印加する逆変換器と、前記変圧器の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する順変換器と、前記半導体スイッチング素子のオンオフを制御して前記逆変換器の出力電力を調整する制御部と、を備え、前記制御部は、前記変圧器の偏磁量を検出する偏磁検出部と、前記逆変換器のスイッチング周期を決定するキャリア波を発生するキャリア波発生部と、前記偏磁量に応じて前記キャリア波の周期単位で値が調整された偏磁補償指令値を求める偏磁補償部と、前記キャリア波と前記偏磁補償指令値とを比較することにより、前記半導体スイッチング素子のゲート信号を生成するゲートドライバ部と、前記順変換器の出力電圧を制御するためのデューティー指令値を求める指令値演算部と、を有し、前記偏磁補償部は、前記変圧器の偏磁量を検出する偏磁検出部を有し、前記キャリア波の周期単位で値が調整され、平均値が前記偏磁量に対応するオフセット値を求め、該オフセット値と前記デューティー指令値とを加算して前記偏磁補償指令値を生成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電力変換装置において、前記指令値演算部は、前記キャリア波の整数周期の期間中において一定値の前記デューティー指令値を求め、前記偏磁補償部は、前記キャリア波の前記整数周期の期間中において、前記キャリア波の周期単位で値が調整された前記オフセット値を求めることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る電力変換装置において、前記偏磁検出部は、前記変圧器の一次巻線電流の周期を計数して整数周期に到達した到達信号を発生する周期カウンタ部と、前記到達信号を遅延させてリセット信号を発生する遅延部と、前記一次巻線電流を積分して積分値を出力し、かつ前記リセット信号により積分値を初期値にリセットする積分器と、前記到達信号により、前記積分器より出力された積分値を保持するサンプルアンドホールド部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、偏磁の過補償を防ぎ、スイッチングの高周波化に伴う制御周期との接近による補償量の低分解能化を防ぎつつ、偏磁を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置における偏磁補償部の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置における偏磁検出部の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置におけるオフセット値演算部の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成を示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置における偏磁補償部の構成例を示すブロック図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置における偏磁検出部の構成例を示すブロック図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置における偏磁補償選択部の構成例を示すブロック図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成波形、電流波形、エッジパルス、及び偏磁検出量を示す図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係る半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成波形、電流波形、エッジパルス、及び偏磁検出量を示す図である。
図13】本発明の第2の実施形態に係る半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成波形、電流波形、エッジパルス、及び偏磁検出量を示す図である。
図14】従来の電力変換装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図14に、本発明との比較のために、従来の電力変換装置100の構成例を示す。従来の電力変換装置100は、制御部200と、逆変換器3と、変圧器4と、順変換器5と、入力平滑コンデンサ6と、電流検出器7と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9と、出力電圧検出器91と、を備える。
【0018】
制御部200は、指令値演算部21と、三角波発生部22と、ゲートドライバ部23と、を備える。
【0019】
指令値演算部21は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutを、目標とする電圧に制御するためのデューティー指令値Pref,Nrefを求め、ゲートドライバ部23に出力する。
【0020】
三角波発生部22は、逆変換器3のスイッチング周期を決定するキャリア波(三角波)Vtriを発生し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0021】
ゲートドライバ部23は、三角波発生部22により発生された三角波Vtriと、指令値演算部21により生成されたデューティー指令値Pref,Nrefとを比較することにより、PWM(Pulse Width Modulation)制御されたゲート信号G31,G32,G33,G34を生成し、逆変換器3に出力する。
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置1の構成例を示す図である。電力変換装置1は、制御部2と、逆変換器3と、変圧器4と、順変換器5と、入力平滑コンデンサ6と、電流検出器7と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9と、出力電圧検出器91と、を備える。電力変換装置1の制御部2の構成が、従来の電力変換装置100の制御部200と相違する。
【0023】
電力変換装置1は、直流電源10から入力された直流電力を絶縁及び変成し、負荷11へ出力する。
【0024】
入力平滑コンデンサ6は、直流電源10から入力された直流電力を平滑化する。
【0025】
逆変換器3は、半導体スイッチング素子31,32,33,34をブリッジ接続して、中間点a,bを変圧器4の一次巻線に接続する。これにより、逆変換器3は、入力平滑コンデンサ6により平滑化された直流電力を交流電力に変換して、変圧器4の一次巻線に印加する。
【0026】
変圧器4は、巻線が複数設けられており、一次巻線と他の巻線とが独立している。変圧器4は、逆変換器3により生成された交流電力を絶縁しつつ、図1の例では、二次巻線の端子間に交流電力を発生させて、順変換器5に出力する。
【0027】
変圧器4は図1に示す二巻線変圧器に限定されるものではなく、三巻線変圧器であってもよい。変圧器4が三巻線変圧器である場合には、電力変換装置1は、変圧器4の鉄心を共有する順変換器5と、出力リアクトル8と、出力平滑コンデンサ9とを更にもう1組備える。出力電圧検出器91及び制御部2は、1つのままでよい。
【0028】
順変換器5は、変圧器4の他の巻線の端子間の交流電力を直流電力へ変換する。なお、変圧器4の他の巻線とは、変圧器4が二巻線変圧器の場合には二次巻線であり、変圧器4が三巻線変圧器の場合には二次巻線及び三次巻線である。
【0029】
出力リアクトル8及び出力平滑コンデンサ9は、順変換器5により生成された直流電力の品質を整え、電力変換装置1の外部の負荷11に出力とする。
【0030】
電流検出器7は、変圧器4の一次巻線に流れる電流(一次巻線電流)IPriを検出し、制御部2に出力する。
【0031】
出力電圧検出器91は、出力平滑コンデンサ9の両端にて出力電圧を検出し、制御部2に出力する。
【0032】
制御部2は、偏磁補償部20と、指令値演算部21と、三角波発生部(キャリア波発生部)22と、ゲートドライバ部23と、を有する。制御部2は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutと、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriとに基づいて、逆変換器3のゲート信号G31,G32,G33,G34を生成することにより、半導体スイッチング素子31,32,33,34のオンオフを制御して逆変換器3の出力電力を調整する。
【0033】
指令値演算部21は、出力電圧検出器91により検出された出力電圧VOutを、目標とする電圧に制御するためのデューティー指令値Pref,Nrefを求め、偏磁補償部20に出力する。
【0034】
三角波発生部22は、逆変換器3のスイッチング周期を決定するキャリア波(三角波)Vtriを発生し、偏磁補償部20及びゲートドライバ部23に出力する。なお、キャリア波はのこぎり波であってもよい。
【0035】
偏磁補償部20は、変圧器4の偏磁量ISatに応じて、三角波発生部22により発生された三角波Vtriの周期単位で、指令値演算部21により演算されたデューティー指令値Pref,Nrefの値を調整し、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを求める。本明細書において、「値を調整」とは、値を変化させないことも含む。すなわち、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompは、三角波Vtriのある周期においてはデューティー指令値Pref,Nrefから変化し、別のある周期においてはデューティー指令値Pref,Nrefから変化しなくてもよい。偏磁補償部20の詳細については後述する。
【0036】
ゲートドライバ部23は、三角波発生部22により発生された三角波Vtriと、偏磁補償部20により生成された偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompとを比較することによりPWM制御されたゲート信号G31,G32,G33,G34を生成し、逆変換器3に出力する。
【0037】
(偏磁補償部)
図2は、偏磁補償部20の構成例を示すブロック図である。図2に示す偏磁補償部20は、偏磁検出部24と、オフセット値演算部25と、偏磁補償指令値生成部26と、を有する。
【0038】
偏磁検出部24は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを整数周期N(N≧2)の期間にわたって積分して変圧器4の偏磁量ISatを検出し、偏磁量ISatをオフセット値演算部25に出力する。整数周期Nを固定値としない場合には、偏磁検出部24は、周期数Nも出力する。偏磁検出部24の詳細については後述する。
【0039】
オフセット値演算部25は、偏磁量ISatに応じて三角波Vtriの周期単位で値が調整されたオフセット値Icomp を求め、偏磁補償指令値生成部26に出力する。オフセット値Icomp の平均値は偏磁量ISatに対応する値となり、オフセット値Icomp により偏磁量ISatは相殺される。オフセット値演算部25の詳細については後述する。
【0040】
偏磁補償指令値生成部26は、オフセット値演算部25により演算されたオフセット値Icomp と、デューティー指令値Pref,Nrefとを加算して偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを生成し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0041】
((偏磁検出部))
図3は、偏磁検出部24の構成例を示すブロック図である。図3に示す偏磁検出部24は、積分器241と、周期カウンタ部242と、遅延部243と、サンプルアンドホールド部244と、を有する。
【0042】
周期カウンタ部242は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriの周期を計数して、予め設定された整数周期N(N≧2)に到達すると、到達信号を遅延部243及びサンプルアンドホールド部244に出力する。
【0043】
遅延部243は、周期カウンタ部242により発生された到達信号を遅延させてリセット信号を生成し、積分器241に出力する。
【0044】
積分器241は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを積分し、遅延部243から出力されたリセット信号によって周期的に初期値へリセットする積分値を求め、サンプルアンドホールド部244に出力する。
【0045】
サンプルアンドホールド部244は、積分器241により求められた積分値を、周期カウンタ部242により発生された到達信号の入力タイミングで保持し、偏磁量ISatとして出力する。
【0046】
((オフセット値演算部))
図4は、オフセット値演算部25の構成例を示すブロック図である。図4に示すオフセット値演算部25は、PI制御部251と、スケール調整部252と、小数検出部253と、小数補償パルス発生部254と、オフセット値生成部255と、を有する。
【0047】
PI制御部251は、偏磁量ISatをPI制御(比例積分制御)して偏磁補償量CompNtを求め、スケール調整部252及び小数検出部253に出力する。
【0048】
スケール調整部252は、スケール調整と、小数部分の切り捨てを行う。具体的には、PI制御部251により求められた偏磁補償量CompNtに1/Nを乗算して小数点を切り捨てて整数偏磁補償量CompIntとして求め、小数検出部253及びオフセット値生成部255に出力する。ここでNは、上述の偏磁検出部24で用いられた整数の周期数である。
【0049】
小数検出部253は、偏磁補償量CompNtと、整数偏磁補償量CompIntをN倍した値とを減算して、小数部分のみを取り出した小数偏磁補償量CompDecを求め、小数補償パルス発生部254に出力する。
【0050】
小数補償パルス発生部254は、三角波Vtri及び小数偏磁補償量CompDecから、三角波VtriがN周期中にCompDec周期の頻度で単位量変化する小数補償パルスCompDec を発生し、オフセット値生成部255に出力する。ここで、CompDecは整数であり、N>CompDecである。例えば、N=10,CompNt=12の場合、CompDec=2となるので、三角波Vtriの10周期中に2周期の間、CompDec が単位量変化する。単位量とは、整数偏磁補償量CompInt=1に相当する電圧値である。
【0051】
オフセット値生成部255は、整数偏磁補償量CompIntと、小数補償パルスCompDec とを加算して、オフセット値IComp を生成する。このようにして、オフセット値IComp は周期単位で値が調整される。
【0052】
(偏磁抑制制御方法)
図5及び図6は、半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成の概念を示す図である。それぞれのパターンで、横軸は時間経過を示す。上から一番目の波形は、三角波Vtriと、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompとの波形を示している。上から二番目の波形は、逆変換器3のゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形を示している。上から三番目の波形は、逆変換器3のゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形を示している。
【0053】
図5及び図6に示す波形は、図4におけるN=10の場合を示している。ここでは、指令値演算部21は、三角波Vtriの整数周期(10周期)の期間中において一定値のデューティー指令値Pref,Nrefを求めるものとする。また、オフセット値演算部25は、三角波Vtriの周期単位で値が調整されたオフセット値IComp を求めるものとする。
【0054】
図5(a)は、オフセットが0(オフセット値IComp =0)の場合を示している。この場合には、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを一定値とし、ゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形と、ゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形とを、一定のデューティーとする。
【0055】
図5(b)は、オフセットが+1(整数偏磁補償量CompInt=1、小数偏磁補償量CompDec=0)の場合を示している。この場合には、オフセットが0の場合に対して偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを最小単位操作量分オフセットさせることにより、すべてのスイッチング周期において、ゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形のデューティーを大きくし、ゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形のデューティーを小さくする。これにより、偏磁を補償するスイッチングパターンとなる。
【0056】
図5(c)は、オフセットが+1/10(整数偏磁補償量CompInt=0、小数偏磁補償量CompDec=1)の場合を示している。この場合には、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを最小単位操作量分オフセットさせることを10周期に1回ずつ発生させることにより、ゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形のデューティーを大きくし、ゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形のデューティーを小さくするスイッチングパターンを10周期に1回ずつ発生させる。これにより、最小単位操作量より小さな偏磁補償量を得ることができる。
【0057】
図6(a)は、オフセットが+2/10(整数偏磁補償量CompInt=0、小数偏磁補償量CompDec=2)の場合を示している。この場合には、オフセットが+1/10の場合と同様に、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを最小単位操作量分オフセットさせることを10周期に2回ずつ発生させる。これにより、最小単位操作量より小さな偏磁補償量を得ることができる。
【0058】
図6(b)は、オフセットが-1/10(整数偏磁補償量CompInt=0、小数偏磁補償量CompDec=-1)の場合を示している。この場合には、オフセットが+1/10の場合と逆極性に操作することにより、逆極性の偏磁補償が可能となる。
【0059】
オフセットが1よりも大きい場合、及びオフセットが-1よりも小さい場合も同様にしてゲート信号G31~G34を生成することができる。例えば、オフセットが+15/10(整数偏磁補償量CompInt=1、小数偏磁補償量CompDec=5)の場合には、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを10周期のうち5回は最小単位操作量分オフセットさせ、残りの5回は最小単位操作量の2倍オフセットさせる。これにより、偏磁補償量を高精度に制御することができる。
【0060】
電力変換装置1は、図14に示した従来の電力変換装置100に、偏磁補償部20を追加するだけで構成することが可能である。そして、上述したように、電力変換装置1は、変圧器4の偏磁量を検出して偏磁を補償し、かつ偏磁量に応じてキャリア波の周期単位で補償量を調整する。そのため、変圧器4の偏磁を過補償なく高精度に補償することが可能となる。
【0061】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る電力変換装置1aについて説明する。図7は、本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置1aの構成例を示す図である。本実施形態に係る電力変換装置1aは、第1の実施形態に係る電力変換装置1と比較して、偏磁補償部20に代えて偏磁補償部20aを備える点が相違する。その他の構成については第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0062】
(偏磁補償部)
図8は、偏磁補償部20aの構成例を示すブロック図である。図8に示す偏磁補償部20aは、偏磁検出部27と、偏磁補償選択部28と、偏磁補償指令値生成部29と、を有する。
【0063】
偏磁検出部27は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriより変圧器4の偏磁量を検出して積算し、正側の一定値以上となると正側偏磁補償信号Sat を偏磁補償選択部28に出力し、負側の一定値以下となると負側偏磁補償信号Sat を偏磁補償選択部28出力する。偏磁検出部27の詳細については後述する。
【0064】
偏磁補償選択部28は、偏磁検出部27により出力された正側偏磁補償信号Sat 及び負側偏磁補償信号Sat と、正側偏磁補償オフセット量CompP及び負側偏磁補償オフセット量CompNとを入力し、正側偏磁補償信号Sat 又は負側偏磁補償信号Sat が入力された場合に、正側偏磁補償オフセット量CompP又は負側偏磁補償オフセット量CompNを偏磁補償オフセット量Compの出力として選択して偏磁補償指令値生成部29に送出する。偏磁補償選択部28の詳細については後述する。
【0065】
偏磁補償指令値生成部29は、Pref加算器291と、Nref加算器292と、を有する。
【0066】
Pref加算器291は、偏磁補償選択部28により送出された偏磁補償オフセット量Compと、デューティー指令値Prefとを加算して偏磁補償指令値PrefCompを生成し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0067】
Nref加算器292は、偏磁補償選択部28により送出された偏磁補償オフセット量Compと、デューティー指令値Nrefとを加算して偏磁補償指令値NrefCompを生成し、ゲートドライバ部23に出力する。
【0068】
((偏磁検出部))
図9は、偏磁検出部27の構成例を示すブロック図である。図9に示す偏磁検出部27は、積分器271と、エッジ検出部272と、サンプルアンドホールド部273と、比較器P274と、比較器N275と、論理和部276と、を有する。
【0069】
エッジ検出部272は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriの立ち上がり又は立ち下がりのエッジを検出して、エッジパルス信号Edgeをサンプルアンドホールド部273に出力する。
【0070】
積分器271は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriを積分し、積分値をサンプルアンドホールド部273に出力する。積分値は論理和部276から出力されるリセット信号で0にリセットされる。
【0071】
サンプルアンドホールド部273は、積分器271により求められた積分値を、エッジ検出部272により発生されたエッジパルス信号Edgeの入力タイミングで保持し、偏磁量ISatとして出力する。
【0072】
比較器P274は、サンプルアンドホールド部273により保持された偏磁量ISatと、予め設定した正側積分閾値SatPlimと、を比較し、偏磁量ISatが正側積分閾値SatPlimを上回ったときに正側偏磁補償信号Sat を出力する。
【0073】
比較器N275は、サンプルアンドホールド部273により保持された偏磁量ISatと、予め設定した負側積分閾値SatNlimと、を比較し、偏磁量ISatが負側積分閾値SatNlimを下回ったときに負側偏磁補償信号Sat を出力する。
【0074】
論理和部276は、比較器P274により出力された正側偏磁補償信号Sat と、比較器N275により出力された負側偏磁補償信号Sat との論理和を求めて、積分器271にリセット信号を出力する。
【0075】
((偏磁補償選択部))
図10は、偏磁補償選択部28の構成例を示すブロック図である。図10に示す偏磁補償選択部28は、正側偏磁補償選択器281と、負側偏磁補償選択器282と、偏磁補償オフセット量加算部283と、を有する。
【0076】
正側偏磁補償選択器281は、正側偏磁補償信号Sat が入力されたときに予め設定した正側偏磁補償オフセット量CompPを出力し、それ以外のときは0を出力する。
【0077】
負側偏磁補償選択器282は、負側偏磁補償信号Sat が入力されたときに予め設定した負側偏磁補償オフセット量CompNを出力し、それ以外のときは0を出力する。
【0078】
偏磁補償オフセット量加算部283は、正側偏磁補償選択器281の出力と負側偏磁補償選択器282の出力とを加算して偏磁補償オフセット量Compを出力する。
【0079】
(偏磁抑制制御方法)
図11から図13は、半導体スイッチング素子のオンオフパターンの生成波形、電流波形、エッジパルス信号及び、偏磁量の概念を示す図である。それぞれのパターンで、横軸は時間経過を示す。上から一番目の波形は、三角波Vtriと、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompとの波形を示している。上から二番目の波形は、逆変換器3のゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形を示している。上から三番目の波形は、逆変換器3のゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形を示している。上から四番目の波形は、電流検出器7により検出された一次巻線電流IPriの波形を示している。上から五番目の波形は、エッジ検出部272により検出されたエッジパルス信号Edgeの波形を示している。上から六番目の波形は、サンプルアンドホールド部273により保持された偏磁量ISatと、正側積分閾値SatPlim及び負側積分閾値SatNlimの波形を示している。
【0080】
図11から図13に示す波形は、エッジ検出部272において負側立ち上がりエッジを検出した場合を示している。
【0081】
図11は、スイッチング周期に正負アンバランスが無く偏磁が発生していない場合を示している。この場合には、偏磁量ISatが正側積分閾値SatPlim及び負側積分閾値SatNlimを超過しないため、正側偏磁補償選択器281及び負側偏磁補償選択器282いずれも動作しないので偏磁補償オフセット量Compは0となり、偏磁補償指令値生成部29は指令値演算部21により出力されたデューティー指令値Pref,Nrefへ干渉しない。
【0082】
図12は、スイッチング周期に正側に偏磁が発生している場合を示している。この場合には、偏磁量ISatが正側積分閾値SatPlimを超過したとき、正側偏磁補償選択器281が動作し、偏磁補償オフセット量CompはCompPと等しくなり、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを正側偏磁補償オフセット量CompP分オフセットさせて、スイッチング周期一周期期間におけるゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形のデューティーを小さくし、ゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形のデューティーを大きくするスイッチングパターンを発生させる。これにより、必要最低限の偏磁補償を行うことができる。
【0083】
図13は、スイッチング周期に負側に偏磁が発生している場合を示している。この場合には、偏磁量ISatが負側積分閾値SatNlimを超過したとき、負側偏磁補償選択器282が動作し、偏磁補償オフセット量CompはCompNと等しくなり、偏磁補償指令値PrefComp,NrefCompを負側偏磁補償オフセット量CompN分オフセットさせて、スイッチング周期一周期期間におけるゲート信号G31,G34のオンオフ指令の波形のデューティーを大きくし、ゲート信号G32,G33のオンオフ指令の波形のデューティーを小さくするスイッチングパターンを発生させる。これにより、必要最低限の偏磁補償を行うことができる。
【0084】
電力変換装置1aは、図14に示した従来の電力変換装置100に、偏磁補償部20aを追加するだけで構成することが可能である。そして、上述したように、電力変換装置1aは、変圧器4の偏磁量ISatを検出して偏磁を補償し、かつ偏磁量ISatに応じて偏磁補償オフセット量Compの印加周期を調整する。そのため、変圧器4の偏磁を過補償なく高精度に補償することが可能となる。
【0085】
また、特許文献1に開示された技術では、デューティ生成部及びゲートドライブ回路に補正回路が常に影響を及ぼすため、偏磁の発生していない場合や出力が小さい場合などの偏磁補償が必要ない場合においても出力に影響を与えてしまう。この点、電力変換装置1aは、変圧器4に偏磁が発生していない場合には、指令値演算部21のデューティー指令値に偏磁補償オフセット量Compを加算しない。そのため、偏磁が発生していない場合には指令値演算部21の発生したデューティー指令値Pref及びNrefに干渉しない。すなわち、電力変換装置1aは、過度にスイッチング素子のオンオフ信号に干渉することなく、偏磁を抑制することが可能となる。
【0086】
また、本発明に係る電力変換装置1aは、独立して存在する偏磁検出部27と、偏磁補償選択部28と、偏磁補償指令値生成部29と、によって偏磁補償を実現する。そのため、偏磁補償を行っていない既存の電力変換装置に対して簡易に追加することができる。
【0087】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1,1a 電力変換装置
2 制御部
3 逆変換器
4 変圧器
5 順変換器
6 入力平滑コンデンサ
7 電流検出器
8 出力リアクトル
9 出力平滑コンデンサ
10 直流電源
11 負荷
20,20a 偏磁補償部
21 指令値演算部
22 三角波発生部(キャリア波発生部)
23 ゲートドライバ部
24,27 偏磁検出部
22 偏磁補償部
25 オフセット値演算部
26 偏磁補償指令値生成部
28 偏磁補償選択部
31~34 半導体スイッチング素子
91 出力電圧検出器
241 積分器
242 周期カウンタ部
243 遅延部
244 サンプルアンドホールド部
251 PI制御部
252 スケール調整部
253 小数検出部
254 小数補償パルス発生部
255 オフセット値生成部
271 積分器
272 エッジ検出部
273 サンプルアンドホールド部
274 比較器P
275 比較器N
276 論理和部
281 正側偏磁補償選択器
282 負側偏磁補償選択器
283 偏磁補償オフセット量加算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14