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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】摩耗量算出システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20241017BHJP
   B60C 11/24 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C11/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021124312
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019534
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯村 太紀
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 律也
(72)【発明者】
【氏名】内田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩上 寛
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02531746(GB,A)
【文献】特開2012-126308(JP,A)
【文献】特開2019-053391(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033587(WO,A1)
【文献】特開2020-164126(JP,A)
【文献】特開2015-051704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0297149(US,A1)
【文献】実開昭58-093810(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に於ける車輪の摩耗量を算出する摩耗量算出システムであって、
前記車輪の回転数を検出する回転数センサと、
前記車両の走行方向の加速度を検出する加速度センサと、
前記車両の前記加速度を用いて走行距離を算出し、前記走行距離及び前記車輪の前記回転数を用いて車輪摩耗量を算出する制御装置とを有し、
前記車輪が、略左右を向く軸線を有する環状体と、前記環状体の周方向に配置されて、配置位置に於ける前記環状体の接線方向の軸線周りに回転可能に前記環状体に支持された複数のドリブンローラとを有する主輪を含み、
前記回転数センサは、前記主輪の回転数と、前記ドリブンローラの回転数とを検出可能であり、
前記加速度センサは、前後方向の加速度と、左右方向の加速度とを検出可能であり、
前記制御装置が、
前記前後方向の加速度を用いて前後方向の走行距離を算出し、前記前後方向の走行距離及び前記主輪の前記回転数を用いて第2摩耗量を算出し、
前記左右方向の加速度を用いて左右方向の走行距離を算出し、前記左右方向の走行距離及び前記ドリブンローラの前記回転数を用いて第3摩耗量を算出し、
前記第2摩耗量及び前記第3摩耗量を用いて第1摩耗量を算出し、
前記第1摩耗量を前記車輪摩耗量とする摩耗量算出システム。
【請求項2】
前記制御装置が、前記第2摩耗量及び前記第3摩耗量の和を前記第1摩耗量とする請求項1に記載の摩耗量算出システム。
【請求項3】
前記環状体の前記軸線と、前記軸線に対向する前記ドリブンローラの外周面部分との間の距離を測定する測定装置を有し、
前記制御装置が、前記距離を用いて第4摩耗量を算出し、前記第4摩耗量が前記第1摩耗量より大きい場合には、前記第4摩耗量を前記車輪摩耗量とする請求項1又は2に記載の摩耗量算出システム。
【請求項4】
前記車両が前後方向に走行する時に、前記ドリブンローラを所定スケジュールで回転させる駆動ユニットを更に有する請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗量算出システム。
【請求項5】
前記車両が、左右に配置された一対の前記車輪を有し、
前記駆動ユニットが、前記車両が前後方向に走行する時に、前記車輪の各々の前記ドリブンローラを、前記所定スケジュールで同時に互いに逆向きに回転させる請求項4に記載の摩耗量算出システム。
【請求項6】
前記車輪摩耗量、前記第1摩耗量、前記第2摩耗量、及び前記第3摩耗量のうちの少なくとも1つを表示する表示ユニットを有する請求項1~5のいずれか1項に記載の摩耗量算出システム。
【請求項7】
前記ドリブンローラの温度を検出する温度センサ及び前記車両の荷重を検出する荷重センサを更に含み、
前記制御装置が、前記温度下に於ける前記ドリブンローラの剛性及び前記荷重に基づいて、前記ドリブンローラ及び又は前記主輪の有効径を算出し、前記有効径を考慮して、前記ドリブンローラの前記回転数及び又は前記主輪の前記回転数を算出する請求項1~6のいずれか1項に記載の摩耗量算出システム。
【請求項8】
前記主輪の各側方に、円盤状のハブ、及び、前記ハブの外周に配置されて、前記ハブの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に支持され、前記ドリブンローラに当接する複数のドライブローラを含む一対のドライブディスクが配置されている請求項1~7のいずれか1項に記載の摩耗量算出システム。
【請求項9】
前記回転数センサが、前記ドライブディスクを駆動するための動力部の回転数を検出可能であって、
前記制御装置が、前記動力部の前記回転数に0より大きく1以下の所定係数を乗じた値を、前記ドリブンローラの前記回転数及び又は前記主輪の前記回転数とする請求項8に記載の摩耗量算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の摩耗量を算出するための摩耗量算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪の保守上の理由から、車輪の摩耗量を算出し、その摩耗量を使用者に表示するための方法が広く知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、GPS衛星から取得した車両の位置情報に基づいて車両の直進走行距離を計測し、その計測結果に基づいて車輪の摩耗量を推定するシステムが開示されている。特許文献1に記載の技術では、車両が所定の走行距離を進むために要した車輪の回転数を計測し、その回転数に基づいて車輪の直径の変化、すなわち摩耗量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-051704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムは、GPS衛星から取得した車両の位置情報に基づいて車両の直進走行距離を計測するため、車両がトンネルを走行する場合や、車両が屋内で使用されるものである場合には、GPS衛星から位置情報を取得できず、このシステムを利用できないという問題点があった。また、GPS衛星から取得する位置情報は通常数メートル程度の誤差を含み、かつ位置情報の取得間隔も比較的長いため、このシステムによって検出される車輪の摩耗量の検出精度は比較的低い。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、GPS衛星から位置情報を取得できない場所を走行する場合でも、車両に於ける車輪の摩耗量を、比較的高い精度で算出できる摩耗量算出システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、車両(2)に於ける車輪(3)の摩耗量を算出する摩耗量算出システム(100)であって、前記車輪(3)の回転数を検出する回転数センサ(48)と、前記車両(2)の走行方向の加速度を検出する加速度センサ(49)と、前記車両(2)の前記加速度を用いて走行距離を算出し、前記走行距離及び前記車輪(3)の前記回転数を用いて車輪摩耗量を算出する制御装置(7)とを有する摩耗量算出システム(100)を提供する。
【0008】
この態様によれば、GPS衛星を用いて位置情報を取得できない場所を走行する場合でも、車両に於ける車輪の摩耗量を算出することができる。また、加速度センサを用いた車両の位置情報の取得頻度は、GPS衛星を用いた取得頻度と比べて比較的高く設定できるため、比較的高い精度で摩耗量を算出することができる。
【0009】
上記の態様に於いて、前記車輪(3)が、略左右を向く軸線(Y1)を有する環状体(31)と、前記環状体(31)の周方向に配置されて、配置位置に於ける前記環状体(31)の接線方向の軸線周りに回転可能に前記環状体(31)に支持された複数のドリブンローラ(32)とを有する主輪(19)を含み、前記主輪(19)の各側方に、円盤状のハブ(18A)、及び、前記ハブ(18A)の外周に配置されて、前記ハブ(18A)の中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に支持され、前記ドリブンローラ(32)に当接する複数のドライブローラ(18A)を含む一対のドライブディスク(18)が配置され、前記回転数センサ(48)は、前記主輪(19)の回転数と、前記ドリブンローラ(32)の回転数とを検出可能であり、前記加速度センサ(49)は、前後方向の加速度と、左右方向の加速度とを検出可能であり、前記制御装置(7)が、前記前後方向の加速度を用いて前後方向の走行距離を算出し、前記前後方向の走行距離及び前記主輪(19)の前記回転数を用いて第2摩耗量を算出し、前記左右方向の加速度を用いて左右方向の走行距離を算出し、前記左右方向の走行距離及び前記ドリブンローラ(32)の前記回転数を用いて第3摩耗量を算出し、前記第2摩耗量及び前記第3摩耗量を用いて第1摩耗量を算出し、前記第1摩耗量を前記車輪摩耗量とするとよい。
【0010】
この態様によれば、全方向に移動可能な車輪に於いて、車両の前後方向への走行距離と左右方向への走行距離とを考慮して車輪摩耗量が算出されるため、比較的高い精度で摩耗量を算出することができる。
【0011】
上記の態様に於いて、前記制御装置(7)が、前記第2摩耗量及び前記第3摩耗量の和を前記第1摩耗量とするとよい。
【0012】
この態様によれば、比較的高い精度で摩耗量を算出することができる。
【0013】
上記の態様に於いて、前記環状体(31)の前記軸線(Y1)と、前記軸線(Y1)に対向する前記ドリブンローラ(32)の外周面部分との間の距離を測定する測定装置(52)を有し、前記制御装置(7)が、前記距離を用いて第4摩耗量を算出し、前記第4摩耗量が前記第1摩耗量より大きい場合には、前記第4摩耗量を前記車輪摩耗量とするとよい。
【0014】
この態様によれば、第1摩耗量及び第4摩耗量のうちの大きい方を車輪摩耗量とすることで、一層高い信頼性をもって摩耗量を算出することができる。
【0015】
上記の態様に於いて、前記車両(2)が前後方向に走行する時に、前記ドリブンローラ(32)を所定のスケジュールで回転させる駆動ユニット(4)を更に有するとよい。
【0016】
この態様によれば、ドリブンローラ間の摩耗のばらつきを抑制できる。
【0017】
上記の態様に於いて、前記車両(2)が、左右に配置された一対の前記車輪(3)を有し、前記駆動ユニット(4)が、前記車両(2)が前後方向に走行する時に、前記車輪(3)の各々の前記ドリブンローラ(32)を、前記所定スケジュールで同時に互いに逆向きに回転させるとよい。
【0018】
この態様によれば、車両が全体として左右方向に移動することなく、ドリブンローラ間の摩耗のばらつきを抑制できる。
【0019】
上記の態様に於いて、前記車輪摩耗量、前記第1摩耗量、前記第2摩耗量、及び前記第3摩耗量のうちの少なくとも1つを表示する表示ユニット(45)を有するとよい。
【0020】
この態様によれば、使用者が車輪の摩耗量を容易に認識することができる。
【0021】
上記の態様に於いて、前記ドリブンローラ(32)の温度を検出する温度センサ(50)及び前記車両(2)の荷重を検出する荷重センサを更に含み、前記制御装置(7)が、前記温度下に於ける前記ドリブンローラ(32)の剛性及び前記荷重に基づいて、前記ドリブンローラ(32)及び又は前記主輪(19)の有効径を算出し、前記有効径を考慮して、前記ドリブンローラ(32)の前記回転数及び又は前記主輪(19)の前記回転数を算出するとよい。
【0022】
この態様によれば、温度変化による車輪の軟化又は硬化が車輪の径に与える影響を考慮に入れて摩耗量を算出することで、摩耗量の算出精度を更に高めることができる。
【0023】
上記の態様に於いて、前記回転数センサ(48)が、前記ドライブディスク(18)を駆動するための動力部(25)の回転数を検出可能であって、前記制御装置(7)が、前記動力部(25)の前記回転数に0より大きく1以下の所定係数を乗じた値を、前記ドリブンローラ(32)の前記回転数及び又は前記主輪(19)の前記回転数とするとよい。
【0024】
この態様によれば、主輪の回転数を比較的容易に検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、GPS衛星から位置情報を取得できない場所を走行する場合でも、車両に於ける車輪の摩耗量を、比較的高い精度で算出できる摩耗量算出システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る摩耗量算出システムが搭載された台車の斜視図
図2】第1実施形態に係る台車の上面図
図3】第1実施形態に係る台車に設けられた全方向車輪の側面図
図4】第1実施形態に係る全方向車輪の縦断面図
図5】第1実施形態に係る摩耗量算出システムが実施する摩耗量算出処理のフローチャート
図6】第2実施形態に係る摩耗量算出システムが実施する摩耗量算出処理のフローチャート
図7】第3実施形態に係る摩耗量算出システムが実施する摩耗量算出処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、第1実施形態に係る摩耗量算出システム100が搭載された台車1について、図1図4を参照して説明する。まず、第1実施形態の摩耗量算出システム100が搭載される台車1の概要を、図1及び図2を参照して説明する。以下、車体2を基準として各方位を定める。
【0028】
図1に示すように、台車1は、車体2と、車体2に設けられ、車体2を床面に沿った全方向に移動させる少なくとも1つの全方向車輪3と、全方向車輪3のそれぞれを駆動する駆動ユニット4と、車体2に設けられ、使用者の操作を受け付けるハンドル5と、ハンドル5に加わる荷重を検出する力覚センサ6と、力覚センサ6のそれぞれが検出した荷重に基づいて駆動ユニット4を制御する制御装置7とを有する。
【0029】
車体2は、前後に延びている。車体2の後部2Aは、前部2Bよりも上方に延びている。車体2の前部2Bには、他の装置を支持するための支持台11が設けられている。支持台11に支持される装置は、例えば、X線スキャナー等の検査機器を含む。装置は、支持台11に締結されるとよい。車体2の後部2Aの内部には、制御装置7、バッテリ、各種センサが設けられているとよい。
【0030】
本実施形態では、一対の全方向車輪3が車体2の後部2Aの下部に設けられている。また、車体2の前部2Bの下部には、サスペンションを介して左右のキャスター13が支持されている。サスペンションは、車体2の下方に配置され、左右に延びるアーム14と、車体2とアーム14との間に配置されたばね15及びショックアブソーバ16とを有する。各キャスター13は、アーム14の左端及び右端の下方に配置されている。各キャスター13は、アーム14に上下に延びる軸線を中心として回転可能に結合されたフォーク13Aと、フォーク13Aに水平方向に延びる軸線を中心として回転可能に支持された車輪13Bとを有する。フォーク13Aはアーム14に対して自由に回転し、車輪13Bはフォーク13Aに対して自由に回転する。
【0031】
図2に示すように、一対の全方向車輪3は、左右に間隔を於いて配置されている。本実施形態では、一対の全方向車輪3は、車体2の後部2Aの左下及び右下に配置されている。図3に示すように、各全方向車輪3は、フレーム17と、フレーム17に回転可能に支持された一対のドライブディスク18と、一対のドライブディスク18の間に配置された環状の主輪19とを有する。
【0032】
図1及び図3に示すように、フレーム17は、車体2の下部に結合されたフレーム上部17Aと、フレーム上部17Aの左右両端から下方に延びた一対のフレーム側部17Bとを有する。一対のフレーム側部17Bの下端には、左右に延びる支持軸21が架け渡されている。支持軸21には、一対のドライブディスク18が回転可能に支持されている。一対のドライブディスク18は支持軸21の軸線Y1を中心として回転する。各ドライブディスク18は、支持軸21に対して左右方向に於ける位置が規制されている。各ドライブディスク18は、左右方向に互いに距離を於いて対向している。
【0033】
ドライブディスク18は、環状の主輪19の両側にそれぞれ配置され、主輪19に摩擦力を与えて主輪19を中心軸線回り及び環状の軸線回りに回転させる。ドライブディスク18は、フレーム17に回転可能に支持される円盤状のハブ18Aと、ハブ18Aの外周部に互いに傾斜して回転可能に支持され、主輪19に接触する複数のドライブローラ18Bとを有する。ハブ18Aは、支持軸21と同軸に配置されている。
【0034】
各ドライブディスク18の互いに相反する面にはドリブンプーリ18Cがそれぞれ設けられている。ドリブンプーリ18Cはドライブディスク18と同軸に設けられている。駆動ユニット4は、車体2の下部に設けられ、各ドライブディスク18に対応した複数の電動モータ25を有する。本実施形態では、4つのドライブディスク18に対応して4つの電動モータ25が設けられている。各電動モータ25の出力軸にはドライブプーリ26が設けられている。対応するドライブプーリ26とドリブンプーリ18Cとはベルト27によって接続されている。各電動モータ25が互いに独立して回転することによって、各ドライブディスク18が互いに独立して回転する。
【0035】
図4に示すように、主輪19は、環状をなし、一対のドライブディスク18の間にドライブディスク18と同軸に配置され、複数のドライブローラ18Bに接触し、中心軸線回り及び環状の軸線回りに回転可能となっている。主輪19は、円環状の環状体31と、環状体31に回転可能に支持された複数のドリブンローラ32とを有する。複数のドリブンローラ32は、環状体31の円周方向に等間隔で配列されている。各ドリブンローラ32は、環状の環状体31の軸線A1(環状の軸線)を中心として回転可能に環状体31に支持されている。各ドリブンローラ32は、環状体31に対するそれぞれの位置に於いて、環状体31の接線を中心として回転することができる。各ドリブンローラ32は、外力を受けて環状体31に対して回転する。
【0036】
主輪19は、一対のドライブディスク18の外周部に沿って配置され、各ドライブディスク18に設けられた複数のドライブローラ18Bと接触している。各ドライブディスク18のドライブローラ18Bは、主輪19の内周部に接触し、左右両側から主輪19を挟持する。また、左右のドライブディスク18のドライブローラ18Bは、主輪19の内周部に接触することによって、ドライブディスク18の軸線Y1を中心とした径方向への変位を規制する。これにより、主輪19は左右のドライブディスク18に支持され、主輪19(環状体31)の中心軸線は左右のドライブディスク18の軸線Y1と同軸に配置される。主輪19は、複数のドリブンローラ32に於いて、左右のドライブディスク18の複数のドライブローラ18Bに接触する。
【0037】
各全方向車輪3に於いて、一対のドライブディスク18が同一方向に同一の回転速度で回転する場合には、主輪19は一対のドライブディスク18と共に回転する。すなわち、主輪19は軸線Y1と一致する自身の回転軸線を中心として前転又は後転する。このとき、ドライブディスク18のドライブローラ18B及び主輪19のドリブンローラ32は環状体31に対して回転しない。各全方向車輪3に於いて、一対のドライブディスク18間に回転速度差が生じる場合には、一対のドライブディスク18の回転に起因する円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右のドライブローラ18Bから主輪19のドリブンローラ32に作用する。ドライブローラ18Bの軸線がドライブローラ18Bの周方向に対して傾斜しているため、ドライブディスク18間に回転速度差に起因して分力が生じる。この分力によって、ドライブローラ18Bがハブ18Aに対して回転すると共に、ドリブンローラ32が環状体31に対して回転する。これにより、主輪19は、左右方向への駆動力を発生させる。
【0038】
左右の全方向車輪3が前方に同じ速度で回転することによって、台車1が前進する。左右の全方向車輪3が後方に同じ速度で回転することによって、台車1が後退する。左右の全方向車輪3の前後方向への回転に速度が生じることによって、台車1は右方又は左方に旋回する。左右の全方向車輪3の各主輪19のドリブンローラ32が回転することによって、台車1は右方又は左方に平行移動する。
【0039】
制御装置7は、車体2とハンドル5との間に介装された力覚センサ6の信号に基づいて駆動ユニット4を制御する。力覚センサ6は、使用者がハンドル5に加える操作力(荷重)の大きさ及び方向を検出する。制御装置7は、力覚センサ6からの信号に基づいて車体2の進行方向及び速度を決定し、決定した車体2の進行方向及び速度に基づいて駆動ユニット4の各電動モータ25の制御量を決定するとよい。
【0040】
また、制御装置7は、車体2が前進又は後退する時に、左右の全方向車輪3の各々のドリブンローラ32を所定のスケジュールで同時に互いに逆向きに回転させるべく、駆動ユニット4の各電動モータ25の制御量を決定する。これにより、車体2が全体として左方又は右方に移動することなく、左右のドリブンローラ32同士が互いに逆向きに回転する。各ドリブンローラ32の回転速度は、主輪19の回転速度よりも小さいことが好ましい。
【0041】
次に、第1実施形態に係る摩耗量算出システム100について詳述する。摩耗量算出システム100は、車体2の前後方向への走行に起因する全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)を算出する。摩耗量算出システム100は、車体2の駆動を制御する制御装置7に組み込まれている。別の実施形態として、摩耗量算出システム100を、制御装置7とは別個の装置をなすものとしてもよい。
【0042】
図1及び図2に示すように、ハンドル5の近傍には操作盤が設けられている。操作盤には、全方向車輪3が交換されたことを摩耗量算出システム100に通知するためのスイッチ43と、情報を使用者に表示するための表示ユニット44とが設けられている。
【0043】
車体2の後部2Aの内部には、全方向車輪3の回転数、すなわち主輪19の回転数を検出する回転数センサ(図示せず)を含む回転数計測モジュール48と、車体2の加速度を検出するジャイロスコープ等の加速度センサ(図示せず)を含む走行距離算出モジュール49とが設けられている。また、車体2の、ドリブンローラ32に対向する位置には、ドリブンローラ32の温度を非接触式に計測する温度計測モジュール52が設けられている。更に、車体2の、主輪19について左右方向に対向する位置には、主輪19の軸線Y1と、この軸線Y1に対向するドリブンローラ32の外周面部分との間の距離を測定する距離計測モジュール50が設けられている。これらのモジュールからの信号は、それぞれ制御装置7に入力される。
【0044】
次に、図5を参照して、摩耗量算出システム100が実施する摩耗量算出処理について説明する。まず、摩耗量算出システム100は、全方向車輪3の交換を通知するスイッチ43からの信号に基づいて、全方向車輪3が新品のものに交換されたか否かを判断する。車体2の出荷時或いは全方向車輪3の交換が行われた場合には新規の摩耗量算出処理を開始し、そうでない場合には既存の摩耗量算出処理を再開する(S101)。
【0045】
使用者がハンドル5を操作するなどして車体2が前後方向に走行を開始すると、回転数計測モジュール48は、回転数センサによって主輪19の回転数を検出し、その回転数を累積する(S102)。
【0046】
走行距離算出モジュール49は、加速度センサによって車体2の前後方向への加速度(以下、前後加速度)を検出する(S103)。その後、当業者に知られている任意の方法を用いて、この前後加速度を車体2の前後方向への走行距離(以下、前後走行距離)に変換する。例えば、加速度センサによって得られた前後加速度を2回積分することにより、前後走行距離を算出できる。
【0047】
次に、車体2の前後走行距離と、回転数計測モジュール48が累積する主輪19の回転数に予め入力された主輪19の直径及び円周率を乗じて算出される走行距離とを比較することにより、主輪19の直径の変化を算出し、これを第1摩耗量として採用する(S104)。ここで、所定時間当たりの主輪19の回転数をn、所定時間当たりの車体2の前後走行距離をd、主輪19の半径をr、主輪19の摩耗量をΔrとすると、d=2π(r-Δr)×nという関係が成立する。すなわち、第1摩耗量Δrは、Δr=r-d/(2πn)と算出することができる。この場合、所定の走行距離、又は所定の走行時間毎に第1摩耗量Δrを算出することにより、摩耗の履歴を記録することができる。不可避的な測定誤差のために摩耗の履歴が不規則になるため、測定値を最小二乗法などにより平滑化するとよい。
【0048】
摩耗量算出システム100は、このようにして算出された第1摩耗量を、車体2の前後方向への走行に起因する全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)として採用する。その後、車輪摩耗量が表示ユニット44に送信され、表示ユニット44が車輪摩耗量をディスプレイ(図示せず)に表示してもよい。また、表示ユニット44は、送信された車輪摩耗量の大きさに応じて、対応する全方向車輪3を交換すべきか否かを判断し、その判断結果をディスプレイに表示してもよい。
【0049】
次に、第1実施形態に係る摩耗量算出システム100の効果を詳述する。摩耗量算出システム100によれば、GPS衛星を用いて位置情報を取得できない場所を走行する場合でも、車体2の主輪19の摩耗量を算出することができる。また、加速度センサを用いた車両の位置情報の取得頻度は、GPS衛星を用いた取得頻度と比べて比較的高く設定できるため、比較的高い精度で摩耗量を算出することができる。
【0050】
次に、図6を参照して、第2実施形態に係る摩耗量算出システム200が実施する摩耗量算出処理について説明する。摩耗量算出システム200は、車体2の前後方向及び左右方向への走行に起因する全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)を算出する。摩耗量算出システム200は、摩耗量算出システム100と比較して、第1摩耗量の算出方法のみが異なるため、他の処理については詳細を省略する。
【0051】
車体2が前後方向及び左右方向に走行を開始すると、摩耗量算出システム200の回転数計測モジュール48は、まず、駆動ユニット4の電動モータ25の回転数を検出する。次に、回転数計測モジュール48は、駆動系に於ける滑り等による伝達ロスを考慮するために、電動モータ25の回転数に所定係数を乗じた補正回転数を、対応する主輪19の回転数及びドリブンローラ32の回転数に採用し、それらの回転数を個別に累積する(S202)。この所定係数は、0より大きく1以下の値である。
【0052】
摩耗量算出システム200の走行距離算出モジュール49は、加速度センサによって、車体2の前後加速度及び車体2の左右方向への加速度(以下、左右加速度)をそれぞれ検出する(S203)。その後、当業者に知られている任意の方法を用いて、この前後加速度及び左右加速度を、それぞれ対応する車体2の前後走行距離及び車体2の左右方向への走行距離(以下、左右走行距離)に変換する。例えば、加速度センサによって得られた前後加速度を2回積分することにより、前後走行距離及び左右走行距離を算出できる。
【0053】
次に、回転数計測モジュール48が累積する主輪19の回転数に、予め入力された主輪19の直径及び円周率を乗じて算出される走行距離と、車体2の前後走行距離とを比較することで、車体2の前後方向への走行に起因する主輪19の直径の変化を算出し、これを第2摩耗量として採用する。また、回転数計測モジュール48が累積するドリブンローラ32の回転数に、予め入力されたドリブンローラ32の直径及び円周率を乗じて算出される走行距離と、車体2の左右走行距離とを比較することで、車体2の左右方向への走行に起因するドリブンローラ32の直径の変化を算出し、これを第3摩耗量として採用する(S204)。
【0054】
その後、第2摩耗量及び第3摩耗量の和を計算し、これを第1摩耗量として採用する(S205)。また、別の実施形態として、第2摩耗量及び第3摩耗量に基づいて、当業者に知られている任意の手段を用いて第1摩耗量を算出及び採用してもよい。例えば、第2摩耗量及び第3摩耗量のうちの大きい方を第1摩耗量として採用してもよい。摩耗量算出システム200は、このようにして算出された第1摩耗量を、車体2の前後方向及び左右方向への走行に起因する全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)として採用する。その後、車輪摩耗量が表示ユニット44に送信され、表示ユニット44が車輪摩耗量をディスプレイ(図示せず)に表示してもよい。
【0055】
次に、第2実施形態に係る摩耗量算出システム200の効果を詳述する。摩耗量算出システム200は、第2摩耗量及び第3摩耗量を用いて第1摩耗量を算出する。これにより、全方向車輪3の摩耗量が、車体2の前後方向への走行距離と左右方向への走行距離とを考慮して算出されるため、高い精度で摩耗量を算出することができる。更に、摩耗量算出システム200は、第2摩耗量及び第3摩耗量の和を第1摩耗量とするため、一層高い精度で車輪摩耗量を算出することができる。
【0056】
また、摩耗量算出システム200は、電動モータ25の回転数に所定係数を乗じた補正回転数を、対応する主輪19の回転数及びドリブンローラ32の回転数に採用している。これにより、主輪19の回転数及びドリブンローラ32の回転数を、比較的容易に検出することができる。
【0057】
また、制御装置7は、車体2が前進又は後退する時に、全方向車輪3のドリブンローラ32を所定のスケジュールで回転させるべく、駆動ユニット4の各電動モータ25の制御量を決定する。これにより、ドリブンローラ32間の摩耗のばらつきが抑制される。更に、より詳細には、制御装置7は、左右の全方向車輪3の各々のドリブンローラ32を所定のスケジュールで同時に互いに逆向きに回転させるべく、駆動ユニット4の各電動モータ25の制御量を決定する。これにより、車体2が全体として左右方向に移動することなく、ドリブンローラ32間の摩耗のばらつきを抑制できるため、使用者は、比較的違和感なく車体2を操作することができる。
【0058】
次に、図7を参照して、第3実施形態に係る摩耗量算出システム300が実施する摩耗量算出処理について説明する。摩耗量算出システム300は、摩耗量算出システム200と同様に、車体2の前後方向及び左右方向への走行に起因する全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)を算出する。摩耗量算出システム300は、摩耗量算出システム200と比較して、主輪19の回転数及びドリブンローラ32の回転数を検出するプロセス、並びに、第1摩耗量の算出(S205)以降のプロセスのみが異なるため、他の処理については詳細を省略する。
【0059】
摩耗量算出システム300の温度計測モジュール52は、ドリブンローラ32の温度を非接触式に計測する温度センサ(図示せず)と、車体2に加えられる上下方向への荷重を検出する荷重センサ(図示せず)とを有する。その後、摩耗量算出システム300は、検出した温度下に於けるドリブンローラ32の剛性と、荷重センサにより計測された荷重とに基づいて、主輪19及びドリブンローラ32の有効径を算出する。回転数計測モジュール48は、これらの有効径を考慮して、それぞれ対応する主輪19及びドリブンローラ32の回転数を算出する(S302)。これにより、温度変化による主輪19及びドリブンローラ32の軟化又は硬化が径に与える影響を考慮に入れて摩耗量が算出されるため、摩耗量の算出精度を一層高めることができる。その後、摩耗量算出システム200と同様のプロセスを用いて、第1摩耗量を算出する(S303、S304、S305)。
【0060】
次に、摩耗量算出システム300は、距離計測モジュール50により、軸線Y1と、軸線Y1の略直上に位置するドリブンローラ32の外周面部分との間の距離を測定する(S306)。距離計測モジュール50は、接触プローブ又はレーザセンサであるとよい。
【0061】
その後、摩耗量算出システム300は、距離計測モジュール50により検出された上記の距離と、対応する摩耗量算出処理の開始時に於ける環状体31の軸線Y1とドリブンローラ32間の距離との差を算出することにより、第4摩耗量を算出する(S307)。その後、摩耗量算出システム300は、第1摩耗量及び第4摩耗量を比較する(S308)。第1摩耗量が第4摩耗量よりも大きい場合には、第1摩耗量を全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)として採用する(S309)。第4摩耗量が第1摩耗量よりも大きい場合には、第4摩耗量を全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)として採用する(S310)。従って、全方向車輪3の摩耗量(車輪摩耗量)が、2つの別個の手段を用いて算出された摩耗量同士を比較してすることで得られるため、摩耗量の算出精度を一層高めることができる。
【0062】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、表示ユニット44は、車輪摩耗量、第1摩耗量、第2摩耗量、第3摩耗量、及び第4摩耗量のうちの任意の組み合わせをディスプレイに表示してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 :台車
2 :車体
3 :全方向車輪
4 :駆動ユニット
5 :ハンドル
6 :力覚センサ
7 :制御装置
17 :フレーム
18 :ドライブディスク
18A :ハブ
18B :ドライブローラ
19 :主輪
25 :電動モータ
27 :ベルト
31 :環状体
32 :ドリブンローラ
45 :表示ユニット
48 :回転数計測モジュール
49 :走行距離算出モジュール
50 :温度計測モジュール
52 :距離計測モジュール
100 :摩耗量算出システム
200 :摩耗量算出システム
300 :摩耗量算出システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7