(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】鉄道車両用試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/08 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
G01M17/08
(21)【出願番号】P 2021145126
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 三紀子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 鎮喜
(72)【発明者】
【氏名】小暮 浩史
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-240547(JP,A)
【文献】特開2018-174624(JP,A)
【文献】特開2009-159649(JP,A)
【文献】国際公開第2020/008575(WO,A1)
【文献】特開2020-016440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0163451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ駆動される電動機である供試機を制御する供試機制御装置に電源を供給する電源装置と、前記電源装置を制御する電源装置用制御器とを組み合わせ、当該組み合わせを前記供試機と供試機制御装置との組み合わせに合わせて1以上備え、
1以上の前記電源装置用制御器は、前記電源装置が出力する電圧を、鉄道車両に電源を供給する電車線の電源パターンに従った電圧に制御して前記供試機制御装置に供給し、前記電車線の条件および状態に応じた模擬を実行して、前記鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行う
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用試験装置であって、
1以上の前記電源装置用制御器は、前記供試機制御装置の動作状態を検出し、検出した前記動作状態を前記電車線の条件および状態に加えた状況に応じた模擬を実行して、前記鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行う
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用試験装置であって、
検出した前記供試機制御装置の動作状態としては、軽負荷回生制御を含む前記鉄道車両の回生ブレーキ動作が対応する
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の鉄道車両用試験装置であって、
複数の前記電源装置用制御器を相互に接続し、
複数の前記電源装置用制御器それぞれは、相互の動作状態を検出し、前記電源装置が出力する電圧を、検出した自ら以外の前記電源装置用制御器の動作状態も考慮して制御する
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両用試験装置であって、
検出した自ら以外の前記電源装置用制御器の動作状態としては、前記鉄道車両の軽負荷回生状態または前記鉄道車両の電車線離線状態が対応する
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の鉄道車両用試験装置であって、
複数の前記電源装置用制御器を統括する統括制御装置を備え、
前記統括制御装置は、
前記電源装置用制御器に替わって、複数の前記電源装置各々が出力する電圧を、前記電源パターン各々に従った電圧に制御して前記供試機制御装置各々に供給すると共に、複数の前記電源装置用制御器各々から前記電源装置用制御器の動作状態または当該電源装置用制御器に組み合わせた前記電源装置の動作状態を検出する機能を有し、
検出した前記電源装置用制御器の動作状態または検出した前記電源装置用制御器に組み合わせた前記電源装置の動作状態を、前記電車線の条件および状態または前記電車線の条件および状態に前記供試機制御装置の動作状態を加えた状況に対して、さらに加えた状況に応じた模擬を実行して、前記鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行う
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両用試験装置であって、
検出した前記電源装置用制御器の状態または検出した前記電源装置用制御器に組み合わせた前記電源装置の状態としては、前記鉄道車両の電車線離線状態、前記鉄道車両が運行する電化区間での交直切替え動作および軽負荷回生制御を含む前記鉄道車両の回生ブレーキ動作の少なくともいずれかが対応する
ことを特徴とする鉄道車両用試験装置。
【請求項8】
インバータ駆動される電動機である供試機を制御する供試機制御装置に電源を供給する電源装置から鉄道車両に電源を供給する電車線の電圧を供給して試験を行う鉄道車両用試験方法であって、
前記電源装置が出力する電圧を、前記電車線の電源パターンに従った電圧に制御して前記供試機制御装置に供給し、前記電車線の条件および状態に応じた模擬を実行して、前記鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行う鉄道車両用試験方法。
【請求項9】
請求項8に記載の鉄道車両用試験方法であって、
前記供試機制御装置の動作状態を検出し、検出した前記動作状態を前記電車線の条件および状態に加えた状況に応じた模擬を実行して、前記鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行う鉄道車両用試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバータやインバータを用いて駆動される電動機などの鉄道車両用の駆動システムを試験するための鉄道車両用試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両用の駆動システムの小型かつ高効率化が図られ、同時に、駆動システムの性能を評価する試験装置として実際の車両走行の環境を模擬したシミュレーターや試験装置が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ノッチ指令入力から受け取ったノッチ情報によってインバータ制御によりモータを駆動し、レール条件入力、電車線からの電力供給条件入力、車体条件入力および変電所条件入力といった演算に必要な諸情報を読み込んで、インバータ電力、電車速度、電力蓄積装置の電力とエネルギー量および集電装置電圧を演算するシミュレーターが開示されている。また、直流電化区間での運転、交流電化区間での運転、乗客乗車による車両重量の変動をインバータで模擬し、制御装置、測定装置などを配置して電車の推進装置をテストする試験台が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-240547号公報
【文献】米国特許出願公開第2004/0163451号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の試験装置は、車両走行状態を模擬しているが、架線などを模擬する電源装置は1台であるため、同一き電区間内に複数の編成が在線し、その区間内で複数編成の車両が走行している場合に、車両の加速や減速動作時における電源電圧の変動や車両の集電装置が架線から離線するなど一時的に電源が車両に供給されない電源急変による、車両走行への影響を評価することが困難である。
【0006】
実際の車両走行では、直流電化や交流電化などの電化方式、電圧、交流電化の場合の周波数、車両の集電装置の架線からの離線、および他編成の減速時の回生ブレーキ動作で生じた回生エネルギーを同一き電区間内の別の編成(車両)や機器などで消費できないときに架線電圧が上昇する(軽負荷回生状態)場合など、車両走行中に電車線から集電装置を介して車両に供給される電源は、路線条件や車両走行条件によって変化する。実際の車両走行時の状態と同じ環境を実現するために、上記のような電源変動を模擬し、試験可能な電源装置とする必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、上述した課題に鑑み、その目的は、複数の編成(車両)が同一のき電区間内に在線する場合などに、それら編成(車両)の加速や減速動作に伴い電源電圧の変動などを模擬するに当たり、架線離線、直流と交流の電化区間の切替え、車両の減速時の回生ブレーキ動作時における架線電圧の上昇(軽負荷回生状態)などによる電源電圧変動を模擬し、試験対象の鉄道車両用駆動システムの電源変動を、実際の車両走行状態と同じ環境を実現することが可能な鉄道車両用試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を達成するために、代表的な本発明の鉄道車両用試験装置の一つは、インバータ駆動される電動機である供試機を制御する供試機制御装置に電源を供給する電源装置と、電源装置を制御する電源装置用制御器とを組み合わせ、当該組み合わせを供試機と供試機制御装置との組み合わせに合わせて1以上備え、1以上の電源装置用制御器は、電源装置が出力する電圧を、鉄道車両に電源を供給する電車線の電源パターンに従った電圧に制御して供試機制御装置に供給し、電車線の条件および状態に応じた模擬を実行して、鉄道車両が運行する路線に対応する試験を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試験対象の鉄道車両用駆動システムの電源変動を、実際の車両走行状態と同じ環境で実現することができる。これにより、例えば、編成(車両)の加速や減速動作に伴う架線電源電圧の変動などを、電源装置の出力を制御することで模擬可能となる。また、離線に伴う電源電圧急変や軽負荷回生状態の電圧上昇などの模擬も同様に、電源装置の出力電圧を制御することで可能となる。
【0010】
さらに、複数台の電源装置と統括制御装置を備えることにより、ある編成(車両)の加速、減速、惰行動作への移行などに伴う架線電源の変動を、他の別の複数の編成(車両)の架線電源の変動として与えることができ、例えば、同一き電区間内にある複数の編成(車両)間の電源変動の相互干渉を模擬し、その影響を試験対象の各々の駆動システムに与えることができる。
【0011】
よって、試験対象の鉄道車両用駆動システムの電源変動を、実際の車両走行状態と同じ環境で実現することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1および2に係る鉄道車両用試験装置の電源装置および供試機器の全体構成を示す図である。
【
図2】実施例1および2の電源装置を構成する電源部と電源装置用制御器それぞれの内部構成を示す図である。
【
図3】実施例1による電源部と電源装置用制御器とによる出力電源の制御手法を示す図である。
【
図4】実施例2よる電源部と電源装置用制御器とによる出力電源の制御手法を示す図である。
【
図5】本発明の実施例3に係る鉄道車両用試験装置の電源装置および供試機器の全体構成を示す図である。
【
図6】実施例3による統括制御装置、電源部および電源装置用制御器による出力電源の制御手法を示す図である。
【
図7】架線離線時の車両の状態と架線電圧対時間の関係を示す図である。
【
図8】直流電化区間から交流電化区間へ無電区間を通って鉄道車両が走行する時の鉄道車両と架線電圧対時間の関係を示す図である。
【
図9】本発明の実施例4に係り、鉄道車両の回生ブレーキ動作時の鉄道車両の動作と架線電圧の状態を示す図である。
【
図10】鉄道車両の回生ブレーキ動作時の架線電圧を模擬する制御手法を示す図である。
【
図11】本発明の実施例5に係る鉄道車両用試験装置の電源装置および供試機器の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照して、本発明を実施するための形態として、実施例1から5について説明する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1および2に係る鉄道車両用試験装置の電源装置1および供試機器2の全体構成を示す図である。
【0015】
また、
図2は、実施例1および2の電源装置1を構成する電源部20と電源装置用制御器30それぞれの内部構成を示す図である。
【0016】
鉄道車両用試験装置の電源装置1は、電源装置用制御器30と電源部20とから構成され、供試機器2に電車線の電圧を模擬した電源を供給する。
【0017】
電源装置1を構成する電源部20は、
図2に示すとおり、1台または複数台の電源で構成され、以下の(1)から(5)の5つのパターンを示す。
(1)パターン1:1台の直流電源装置(1)26
(2)パターン2:複数台の直流電源装置として、1台目の直流電源装置(1)26からn台目までの直流電源装置(n)27
(3)パターン3:1台の交流電源装置(1)28
(4)パターン4:複数台の交流電源装置として、1台目の交流電源装置(1)28からn台目までの交流電源装置(n)29
(5)パターン5:1台または複数台の直流電源装置(1)26と、1台または複数台の交流電源装置(1)との組み合わせ
【0018】
電源装置1を構成する電源装置用制御器30も、
図2に示すとおり、1台または複数台の制御器で構成され、上記した電源部20と対応して、以下の(a)から(d)となる。
(a)直流電源装置(1)26を制御する直流電源装置用制御器(1)36
(b)直流電源装置(n)27を制御する直流電源装置用制御器(n)37
(c)交流電源装置(1)28を制御する交流電源装置用制御器(1)38
(d)交流電源装置(n)29を制御する交流電源装置用制御器(n)39
【0019】
それぞれが一対になって、電源装置用制御器30が電源部20を制御する。
このように、上記した電源部20の5つ((1)から(5))のパターン構成に従った組合せで、電源装置用制御器30は構成される。
【0020】
一方、供試機器2は、供試機4と供試制御装置3とから構成する。供試機4は、エンジンや電動機などであり、供試機制御装置3は、供試機4を制御する装置である。
【0021】
図3は、本発明の実施例1による、電源部20と電源装置用制御器30とによる出力電源の制御手法を示す図である。
【0022】
電源装置用制御器30の制御は、電源パターン11、電圧指令値生成部14および電圧制御部17によって行われる。
【0023】
電源パターン11は、車両に電源を供給する電車線の電圧のデータである。例えば、このデータは、時系列や距離などに対して電車線の電圧をテーブル化したものである。
【0024】
電圧指令値生成部14は、電源パターン11に従って所定の電圧を出力するための電圧指令値を生成し、電源制御部17へ出力する。
【0025】
電圧制御部17は、電圧指令値生成部14が出力する電圧指令値を基にして、電源パターン11と同じ電圧になるように電源部20を制御するための電圧指令を出力する。
【0026】
電源部20は、電源装置用制御器30の電圧制御部17からの電圧指令に従って電圧変換部21をして、電車線の電圧を模擬した電源パターンの電源電圧を供試機器2に供給する。
【0027】
本発明では、上記した実施例1を始め以降で説明する実施例2から6それぞれの構成および制御手法により、路線によって異なる鉄道車両に、電車線が供給する電源の電化方式、電圧および交流電化の周波数などを模擬することができる。これにより、試験対象の鉄道車両が運行する路線の電化方式で試験を行うことができる。また、バイモード車両への適用も可能である。
【実施例2】
【0028】
図4は、本発明の実施例2による、電源部20と電源装置用制御器30とによる出力電源の制御手法を示す図である。
【0029】
実施例2は、構成的には
図1に示す実施例1と同様であるが、
図3に示す実施例1の制御手法と比較して、電源装置用制御器30に供試機器2の動作状態を検出する機能が加わった点で異なる。
【0030】
電源装置用制御機器30は、
図3に示す実施例1の場合と同様に、電圧指令値生成部14は、電源パターン11からのデータを受け取る。さらに、電圧指令値生成部14は、供試機器2の動作状態の検出信号も受け取り、電源パターン11のデータに供試機器2の力行や回生ブレーキ動作などの動作状態を加味して、電源パターン11のデータと同じ電源電圧を供試機器2に供給するための電圧指令を出力する。
【0031】
電圧制御部17は、電圧指令値生成部14が出力する電圧指令値を基にして、電源パターン11と同じ電圧になるように電源部20を制御するための電圧指令を出力する。
【0032】
電源部20は、電源装置用制御器30の電圧制御部17からの電圧指令に従って電圧変換21をして、電車線の電圧を模擬した電源パターンの電源電圧を供試機器2に供給する。
【0033】
実施例2では、上記した構成と制御手法により、供試機器2が力行または回生ブレーキ動作をする状態を加味した試験を行うことができる。
【0034】
産業機器など電源が大容量の場合、発電所からの電力系統と同じ三相交流が主に用いられている。一方で、鉄道については、車両側の機器設計を簡潔にするために、直流電源の直流き電方式も多く採用されている。
【0035】
直流電化区間は、車両が変電所から離れると電車線から供給される電源の電圧が降下し、朝の通勤・通学ラッシュや夜の帰宅ラッシュに対応して、走行する鉄道車両が多い時間帯に電車線から供給される電源電圧がさらに降下する。
【0036】
そのため、大容量の電源を必要とする新幹線には交流電源(交流電化)が採用されている。交流電化は、電圧を高くすることができるので変電所間隔を長くすることができる。
【0037】
このように、鉄道には、路線によって、直流電化と交流電化といった異なる電源方式がある。また、上記したように、車両の走行地点と変電所との距離により電源電圧が低下するなどその影響がある。
【0038】
本発明によれば、供試機器2が力行動作をしている時、供試機器2の回転速度などから車両が走行している場所を算出し、車両が走行している場所と電源パターン11とを照らし合わせて、電圧指令値生成部14は、電圧指令値を電圧制御部17へ出力する。電圧制御部17は、この電圧指令値に従って電源部20を制御し、車両が走行している地点の電圧を模擬する。
【0039】
電源部20は、電圧制御部17の制御に従って、変電所からの電圧を電圧変換21し、供試機器2に対して、力行動作時の車両が走行している地点の電源を模擬した電圧を供給することができる。
【0040】
他方、鉄道車両が回生ブレーキ動作をしたとき、走行しているき電区間に回生エネルギーを送る。その時に、同一き電区間に回生エネルギーを消費できる機器または車両が無い場合、回生エネルギーの行き場所がなくなる状態(軽負荷回生状態)となるため、鉄道車両側が軽負荷回生制御をして、回生ブレーキと空気ブレーキとを併用してブレーキ動作をする。
【0041】
また、交流電化区間では、変電所との距離が遠いところで回生ブレーキ動作をすると、変電所からの距離が遠いため電車線のインダクタンス成分が大きくなり、集電装置点電圧が上昇する。
【0042】
本発明によれば、供試機器2が回生ブレーキ動作をしている時、上記したように供試機器2の回転速度などから車両が走行している場所を算出し、実際の走行地点の電車線の電圧を加味して、回生エネルギーを電車線に送った場合の電車線の電圧模擬や、軽負荷回生状態を模擬することができる。
【実施例3】
【0043】
図5は、本発明の実施例3に係る鉄道車両用試験装置の電源装置1および供試機器2の全体構成を示す図である。
【0044】
実施例3は、
図1に示す実施例1の構成と比較して、鉄道車両用試験装置の電源装置1内に統括制御装置10を加えた点で異なる。
【0045】
統括制御装置10は、電源装置用制御器30内の直流電源装置用制御器(1)36から交流電源装置用制御器(n)39までのそれぞれに接続される。
【0046】
図6は、実施例3による、統括制御装置10、電源部20および電源装置用制御器30による出力電源の制御手法を示す図である。
【0047】
統括制御装置10は、電源パターン11および電圧指令値生成部14から構成される。電源パターン11は、実施例1および2の電源装置用制御器30が担っていた、鉄道車両に電源を供給する電車線の電圧のデータ(
図3および4)を、電圧指令値生成部14へ出力する。また、電源部20の動作状態を、電圧制御部17を有する電源装置用制御器30から検出する機能を有する。また、実施例2で説明した、供試機器の動作状態の検出を受け取った電圧指令値生成部14が行う機能を、併せ持つことも可能である。
【0048】
実施例1および2の電源装置用制御器30を構成する直流電源装置用制御器(1)36から(n)37および交流電源装置用制御器(1)38から(n)39は、個々で電源パターンを有し、電圧指令を生成する。しかし、この手法では、電源装置用制御器30を構成する直流電源装置用制御器(1)36から(n)37および交流電源装置用制御器(1)38から(n)39が別々に動作することになるため、電源部20の動作周期に同期をとることが難しい。
【0049】
そこで、実施例3では、
図1に示す電源装置用制御器30が担っていた電圧指令値生成部14の機能を、統括制御装置10に持たせることで、電源指令の同期を可能にする。
【0050】
これにより、電源部20を構成する直流電源装置(1)26から(n)27および交流電源装置(1)28から(n)29を同期させて動作することができる。よって、車両の集電装置が電車線と離線し一時的に電源が車両に供給されない電源電圧の急変や、交流電化区間から直流電化区間へ電化方式が変わる無電区間の電源等の状態を模擬することができる。
【0051】
図7は、架線離線時の車両の状態と架線電圧対時間の関係を示す図である。
図7では、架線40を電車線の一例として示す。
【0052】
架線離線は、架線40であるトロリ線とパンタグラフ60との接触が離れた時に、一時的に架線から車両へ電源が供給されず電源電圧が急変する現象のことである。
【0053】
架線離線の試験に際しては、例えば、電源供給を中断し、数秒後に電源供給を再開させる。しかし、実際の架線離線は、路線によってトロリ線の種類が異なることや、鉄道車両の走行速度によって架線離線の仕方や割合が異なる。
【0054】
架線離線を模擬する時、架線離線を起こさせる供試機器2を選定し、統括制御装置10の電源パターン11を架線離線用に切り替えて電圧指令値を生成する。
【0055】
統括制御装置10は、電源装置用制御器30に電圧指令値を出力し、電源装置用制御器30は、電圧指令に従って電圧制御部17で電源部20を制御することにより、架線離線による電源電圧の急変を模擬することができる。
【0056】
次に、電化方式や鉄道会社間の接続地点が無電区間を介して切り替わる場合の模擬の例について説明する。
図8は、直流電化区間70から交流電化区間72へ無電区間71を通って鉄道車両が走行する時の鉄道車両と架線電圧対時間の関係を示す図である。
【0057】
直流電化区間70と交流電化区間72の両者を走行する場合、それぞれの電化方式に対応した交直流電車で走行する。無電区間71は絶縁している区間のため、車両に架線40から電源が供給されず、無電区間71を惰行運転する。
【0058】
路線情報に従って、始発地点から終着地点まで車両が通して走行することを想定した試験をする場合、路線中に直流電化区間70と交流電化区間72との切替えをする区間が存在すると、単純に直流電源装置21と交流電源装置22とを切替えるだけでは、切り替えるタイミングなど、実際に車両が路線を走行する状態と異なることがある。
【0059】
また、試験ごとに切り替えるタイミングが異なり、実際に車両が無電区間を介して電化方式が切り替わる区間を走行している状態の再現性が難しい試験になる可能性がある。
【0060】
同様に、交流電化区間72から直流電化区間70に切り替えるとき、また、交流電圧区間で周波数を切り替えるときも、上記と同様の理由で模擬することは難しい。
【0061】
統括制御装置10の電源パターン11としては、架線電圧と同様な時系列データとしての電源パターンを設定する。電源パターン11から電圧指令値生成部14に模擬する架線電圧値を出力する。
【0062】
電圧指令値生成部14は、電源パターン11からの模擬する架線電圧値と電源部20の動作状態を検出し、動作させる電源装置26から29を選択し、電源装置用制御器30に電圧指令値を出力する。電源装置用制御器30は、統括制御装置10からの電圧指令値に従って、電圧制御部17を介して、選択された電源部20を動作させる。
【0063】
これにより、直流電圧と交流電圧との切替えや交流電圧の周波数変換を模擬することができ、架線電圧が切り替わる路線の始発駅から終着駅まで通して走行することを想定した試験に対応することができる。
【実施例4】
【0064】
図9は、本発明の実施例4に係り、鉄道車両の回生ブレーキ動作時の鉄道車両の動作と架線電圧の状態を示す図である。ここで、鉄道車両用試験装置の電源装置1の構成は、
図5に示す実施例3と同じである。また、電車線としては架線を示す。
【0065】
図9(a)には、時間に対する架線電圧の推移を示す。
図9(b)には、鉄道車両の減速時における回生ブレーキ動作で生じた回生エネルギーを架線40に戻す時の一編成で複数車両を構成する車両(2両の牽引車43および1両の付随車44))の動作状態を示す。ここで、複数車両が回生ブレーキ動作を行う場合、全ての車両が同時に回生ブレーキ動作を行うとは限らない。運転台からの回生ブレーキ動作指令に対して、運転台がある先頭車両から最後尾車両に指令を伝送する時間が先頭車両に対して遅延する場合がある。この場合には、例えば、運転台から近い先頭車両から順に回生ブレーキ動作を行う。
【0066】
図9(c)には、1編成が回生ブレーキ動作した時に、回生エネルギー50を架線40に流す状態を示す。回生ブレーキ動作を行うと、回生エネルギーが鉄道車両のパンタグラフ60から架線40に流れる。ところが、架線40に戻した回生エネルギー50が同一き電区間内に他の車両や機器などで消費できない場合には、回生エネルギーの行き場がない状態となる。これを、「軽負荷回生」状態という。この状態は、
図9(a)に示すように、回生エネルギーによる架線電圧の上昇と軽負荷回生制御時の架線電圧として確認することができる。
図9(d)には、軽負荷回生制御した時の複数車両の状態を示す。
【0067】
軽負荷回生制御状態下では、
図5に示す供試機制御装置3内に内蔵されているフィルタコンデンサの電圧が上昇するため、供試機制御装置3は、軽負荷回生制御をすることでフィルタコンデンサ電圧の上昇を抑えることができるが、回生ブレーキ動作が弱まるため回生エネルギーは低下する(
図9では、エネルギーの大小を楕円枠の大きさで示す)。
【0068】
図10は、鉄道車両の回生ブレーキ動作時の架線電圧を模擬する制御手法を示す図である。この制御手法のために、構成として、
図5に示す実施例3の鉄道車両用試験装置の電源装置1と供試機器2との間で電源部20から供試機器2へ電圧を出力するところに、検出器51を追加している。
【0069】
統括制御装置10は、検出器51から電源部20の出力電圧値の検出信号を受け取る。例えば、供試機器(1)5が、回生ブレーキ動作を行った時、供試機器(1)5と電源部20との間の電圧値が上昇する。そのときの電圧値をセット値として、統括制御装置10に対してトリガをかける。統括制御装置10は、このセット値を検知したら供試機器(1)5が回生ブレーキ動作を行っていることを認識する。
【0070】
続いて、統括制御装置10は、回生ブレーキ動作用の電源パターンに切替える。回生ブレーキ動作用の電源パターンに切り替えたら、電源部20の動作状態を、電源装置用制御器30を介して判別し、電圧指令値を出力する電源装置用制御器30を選択する。
【0071】
統括制御装置10は、回生ブレーキ動作用の電源パターン11から電圧指令値生成部14を介して、選択した電源装置用制御器30に電圧指令値を出力する。電源装置用制御器30は、電圧指令値に従って電圧制御部17を介して電源部20を制御し、供試機器(1)5に電圧を出力する。
【0072】
これにより、複数の車両で先頭車両から順に回生ブレーキ動作を行った時の各供試機器の電源電圧の変動や、複数車両の軽負荷回生状態を模擬した電源電圧変動を、各供試機器の電源として模擬することができる。
【実施例5】
【0073】
図11は、本発明の実施例5に係る鉄道車両用試験装置の電源装置1および供試機器2の全体構成を示す図である。実施例5は、実施例1に係る鉄道車両用試験装置の電源装置1の構成の変形例である。
【0074】
電源装置1は、
図1に示す構成と同様に、電源部20および電源部20を制御する電源装置用制御器30とから構成される。
【0075】
電源部20は、
図2に示す実施例1の電源部20と類似するが、複数台の電源で構成され、実施例1の説明で(2)、(4)および(5)として示した3つのパターンとなる(3つのパターンの説明は、実施例1の場合と同様)。
【0076】
電源装置用制御器30も、
図2に示す実施例1の電源装置用制御器30と類似するが、複数台の制御器で構成され、実施例1の説明で(a)から(d)として示した4つの対応関係となり(4つの対応関係の説明は、実施例1の場合と同様)、それぞれ一対になって、電源装置用制御器30が電源部20を制御する。
【0077】
よって、電源部20の3つのパターン構成に従った組合せで電源装置用制御器30を構成する。
【0078】
さらに、実施例5では、1つの直流電源用制御器(1)36からn個目までの直流電源用制御器(n)37および1つの交流電源用制御器(1)38からn個目までの交流電源用制御器(n)39を組み合わせた構成で、各制御器間を全て接続する。
【0079】
各制御器間を全て接続することによって、1つの直流電源用制御器(1)36からn個目までの直流電源用制御器(n)37および1つの交流電源用制御器(1)38からn個目までの交流電源用制御器(n)39それぞれは、お互いの動作状態を検出し、検出した自ら以外の制御器の動作状態も考慮することにより制御器間で協調した電圧制御を行い、電源部20を制御する。
【0080】
これにより、軽負荷回生状態の電源を模擬し、電車線離線などの電源電圧急変など過渡的な電源の動作を模擬して試験をすることができる。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1:鉄道車両用試験装置の電源装置、2:供試機器、3:供試制御装置、4:供試機、
5:供試機器(1)、6:供試機器(n)、10:統括制御装置、11:電源パターン、12:電源パターン(1)、13:電源パターン(n)、14:電圧指令値生成部、
15:電圧指令値生成部(1)、16:電圧指令値生成部(n)、17:電圧制御部、
18:電圧制御部(1)、19:電圧制御部(n)、20:電源部、21:電圧変換、
22:電圧変換(1)、23:電圧変換(n)、26:直流電源装置(1)、
27:直流電源装置(n)、28交流電源装置(1)、29:交流電源装置(n)
30:電源装置用制御器、36:直流電源装置用制御器(1)、
37:直流電源装置用制御器(n)、38:交流電源装置用制御器(1)、
39:交流電源省制御器(n)、40:架線、41:レール、43:牽引車、
44:付随車、50:回生エネルギー、51:検出器、60:パンタグラフ、
70:直流電化区間、71:無電区間、72:交流電化区間