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特許7572927光学フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ
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  • 特許-光学フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ 図1
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  • 特許-光学フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ 図4
  • 特許-光学フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】光学フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241017BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20241017BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20241017BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20241017BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20241017BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B60K35/23
C03C27/12 D
C03C27/12 Z
G02B27/01
G02B27/28 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021146303
(22)【出願日】2021-09-08
(62)【分割の表示】P 2021503624の分割
【原出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022008348
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2019152428
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平良 義彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知宏
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198981(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168726(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161894(WO,A1)
【文献】特開2017-198951(JP,A)
【文献】特開平06-018706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284431(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108761789(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B27/00-30/60
B32B 1/00-43/00
B60J 1/00- 1/20
B60K35/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)光学機能層と(B)ブロック層とを備える光学フィルムであって、
前記(B)ブロック層が、(B-1)熱可塑性樹脂と(B-2)紫外線硬化性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物を有し、
前記(B-1)熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、
前記(B-2)紫外線硬化性樹脂が(メタ)アクリロイル基を有する樹脂であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記(B-1)熱可塑性樹脂が、分子量10,000以上60,000以下の熱可塑性樹脂である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記(B-1)熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセトアセタール樹脂である請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記(B-1)熱可塑性樹脂のブロック層中の含有量が、1質量%以上80質量%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記(メタ)アクリロイル基を有する樹脂がエポキシ(メタ)アクリレート樹脂である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記(B)ブロック層のガラス転移温度が80℃以上300℃以下である請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記(A)光学機能層が、以下(A-1)~(A-4)のいずれかである請求項1乃至のいずれか1項に記載の光学フィルム。
(A-1)1/2波長板、
(A-2)1/4波長板、
(A-3)1/2波長板と円偏光反射層の積層体、および
(A-4)1/4波長板と円偏光反射層の積層体
【請求項8】
前記1/2波長板または1/4波長板が、偏光軸を変換させる作用を有する層として重合性液晶層を含む請求項に記載の光学フィルム。
【請求項9】
更に(C)支持基板を有する請求項1乃至のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の光学フィルムに中間膜が積層された光学積層体。
【請求項11】
請求項1に記載の光学積層体とガラス板とを備える機能性ガラス。
【請求項12】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の光学フィルム、請求項1に記載の光学積層体、または請求項1に記載の機能性ガラスと、画像表示を示す表示光を出射する画像表示手段とを備えるヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばヘッドアップディスプレイに利用するのに好適な光学フィルム、およびこれを用いた光学積層体および機能性ガラスに関し、また、これらを用いたヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機等の運転者に情報を表示する方法として、ナビゲーションシステム、ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」ともいう)等が用いられている。HUDは液晶表示体(以下、「LCD」ともいう)等の画像投影手段から投射された画像を、例えば自動車のフロントガラス等に投影するシステムである。
【0003】
画像表示手段から出射した出射光は、反射鏡にて反射し、さらにフロントガラスで反射した後、観察者へ到達する。観察者はフロントガラスに投影された画像を見ているが、画像はフロントガラスよりも遠方の画像位置にあるように見える。この方法では、運転者はフロントガラスの前方を注視した状態でほとんど視線を動かすことなく、様々な情報を入手することができるため、視線を移さなければならなかった従来のカーナビゲーションに比べ安全である。
【0004】
HUDシステムにおいて、表示情報は実際にフロントガラスから見える景色に重ねて投影されるが、表示光は、フロントガラスの室内側と室外側の2つの表面で反射されるため、反射像が二重像となり、表示情報が見づらいという問題があった。
【0005】
この問題に対して、偏光方向を90°変えることができる位相差素子を自動車用フロントガラスに用いることにより、反射像が二重像になるという問題を改善できることが知られている。例えば、特許文献1には、フィルム状の旋光子を内部に具備する自動車用フロントガラスに、S偏光とした表示光をブリュースター角で入射した場合には、車内側のフロントガラスの表面でS偏光の一部を反射させ、当該表面を透過したS偏光を旋光子によりP偏光に変換し、さらに車外側のフロントガラスの表面でP偏光の全てを車外に出射して二重像を防ぐことが開示されている。
【0006】
一方、このような自動車用フロントガラス等において、位相差素子が所望とする波長で適切な偏光変換を行うためには、位相差素子の位相差値が重要である。しかしながら、この位相差値は種々の環境条件、例えば高温雰囲気下、高温高湿度雰囲気下等で変化するという問題がある。
【0007】
この問題を解消するために、例えば、劣化因子の光反射層への到達を抑制するブロック層を用いる技術が特許文献2に開示されている。しかしながら、当該ブロック層に求められる耐久性(主に耐熱性)、合わせガラスとしたときの外観および密着性については、詳細には開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-40271号公報
【文献】特開2017-198981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐久性に優れ、高温雰囲気下において位相差素子の位相差値の変化が少なく、安定した光学性能を維持できる光学フィルム、並びにこれを用いた光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、光学フィルムに熱可塑性樹脂を含有するブロック層を設けることにより、高温雰囲気下においても安定した光学性能を維持し、また、光学フィルムの耐久性が優れることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、以下1)~14)に関するものである。
1)
(A)光学機能層と(B)ブロック層とを備える光学フィルムであって、
前記(B)ブロック層が、(B-1)熱可塑性樹脂と(B-2)紫外線硬化性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物を有する光学フィルム。
2)
前記(B-1)熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である上記1)に記載の光学フィルム。
3)
前記(B-1)熱可塑性樹脂が、分子量10,000以上60,000以下の熱可塑性樹脂である上記1)又は2)に記載の光学フィルム。
4)
前記(B-1)熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセトアセタール樹脂である上記1)乃至3)のいずれか一つに記載の光学フィルム。
5)
前記(B-1)熱可塑性樹脂のブロック層中の含有量が、1質量%以上80質量%以下である上記1)乃至4)のいずれか一つに記載の光学フィルム。
6)
前記(B-2)紫外線硬化性樹脂が、(メタ)アクリロイル基を有する樹脂である上記1)乃至5)のいずれか一つに記載の光学フィルム。
7)
前記(メタ)アクリロイル基を有する樹脂がエポキシ(メタ)アクリレート樹脂である上記6)に記載の光学フィルム。
8)
前記(B)ブロック層のガラス転移温度が80℃以上300℃以下である上記1)乃至7)のいずれか一つに記載の光学フィルム。
9)
前記(A)光学機能層が、以下(A-1)~(A-4)のいずれかである上記1)乃至8)のいずれか1つに記載の光学フィルム。
(A-1)1/2波長板、
(A-2)1/4波長板、
(A-3)1/2波長板と円偏光反射層の積層体、および
(A-4)1/4波長板と円偏光反射層の積層体
10)
前記1/2波長板または1/4波長板が、偏光軸を変換させる作用を有する層として重合性液晶層を含む上記9)に記載の光学フィルム。
11)
更に(C)支持基板を備える上記1)乃至10)のいずれか1つに記載の光学フィルム。
12)
上記1)乃至11)のいずれか1つに記載の光学フィルムに中間膜が積層された光学積層体。
13)
上記12)に記載の光学積層体とガラス板とを備える機能性ガラス。
14)
上記1)乃至11)のいずれか1つに記載の光学フィルム、上記12)に記載の光学積層体、又は上記13)に記載の機能性ガラスと、画像表示を示す表示光を出射する画像表示手段とを備えるヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性に優れ、高温雰囲気下において位相差素子の位相差値の変化が少なく、安定した光学性能を維持できる光学フィルム、ならびにこれを用いた機能性ガラス、光学積層体およびヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従うヘッドアップディスプレイシステムの一実施形態を示す模式図 である。
図2】本発明に従うヘッドアップディスプレイシステムの他の実施形態を示す模式 図である。
図3】本発明に従う光学フィルムの一実施形態を示す側面断面図である。
図4】本発明に従う光学積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
図5】本発明に従う機能性ガラスの一実施形態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従う実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、下記の実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。また、以下において、「(メタ)アクリロイル」等の用語は、「アクリロイル」又は「メタクリロイル」を意味し、例えば「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。また、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0015】
本発明の光学フィルムは、(A)光学機能層および(B)ブロック層を備える。図3には、本発明の光学フィルムの一実施形態が示されており、光学フィルム10は、光学機能層101とブロック層102とが積層された構成をなしている。図3では、光学機能層101の一方の面にブロック層102が積層されているが、光学機能層101の両方の面にブロック層102が積層されていてもよい。また、光学機能層101の一方の面にブロック層102が積層されている場合、光学機能層101の他方の面に、後述する(C)支持基板が設けられていることが好ましい。
【0016】
[(A)光学機能層]
本発明に使用される光学機能層は、入射光の偏光軸を変換する機能を有する層であれば特に限定されるものではなく、所望の偏向光を得るために適宜設計できる。例えば1/2波長板又は1/4波長板のような位相差素子、当該位相差素子の複数の積層体、又は、位相差素子と円偏光反射層との積層体を挙げることができる。具体的には(A-1)1/2波長板、(A-2)1/4波長板、(A-3)1/2波長板と円偏光反射層の積層体、又は(A-4)1/4波長板と円偏光反射層の積層体を例示することができるが、例えば光学フィルムを上記HUDシステムに使用する場合には、1/2波長板を使用するのが好ましい。
【0017】
光学機能層として1/2波長板を使用する場合、1/2波長板は、P偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する、すなわち偏向軸を変換する機能を持つ位相差素子であり、例えば、ポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを位相差が波長の1/2となるように一軸延伸したり、水平配向する重合性液晶を位相差が波長の1/2となるような厚さで配向させたりすることによって得ることができる。一般に、水平配向する重合性液晶を使用した1/2波長板は、偏光軸を変換させる作用を有する層としての重合性液晶層と、当該重合性液晶層を形成する塗布液が塗布される支持基板とから構成されている。このような1/2波長板の厚さの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、1/2波長板の厚さの下限値は、液晶の重合性の観点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。光が1/2波長板の主表面に対して斜めの位置から入射する場合、光の入射角によって位相差が変化する場合がある。このような場合、より厳密に位相差を適合させるため、例えば、位相差素子の屈折率を調整した位相差素子を用いることにより、入射角に伴う位相差の変化を抑制することができる。例えば、位相差素子の面内での遅相軸方向の屈折率をnx、位相差素子の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、位相差素子厚さ方向の屈折率をnzとするとき、下記式(1)で示される係数Nzが、好ましくは0.3以上1.0以下、より好ましくは0.5以上0.8以下となるように制御する。
【0018】
【数1】
【0019】
このような1/2波長板を使用した光学フィルムが後述する本発明の機能性ガラスに設けられ、当該機能性ガラスをHUDシステムに適用した場合、当該HUDシステムにおいて、P偏光をS偏光に、又はS偏光をP偏光に効率的に変換するために、機能性ガラスの表面に垂直な軸から45°以上65°以下に傾斜した位置から入射するS偏光の偏光軸またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度θを、35°以上47°以下に制御することが好ましい。1/2波長板に入射するS偏光またはP偏光の入射角を45°以上65°以下の範囲にすることにより、P偏光が機能性ガラスに入射した場合には、機能性ガラスの表面での反射率を理論的に2%以下に抑制することができる。透過したP偏光は1/2波長板によりS偏光に変換し、変換されたS偏光は入射側と反対側の機能性ガラスの空気との界面で反射する。反射したS偏光が1/2波長板により再びP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。また、S偏光が機能性ガラスに入射した場合には、S偏光は機能性ガラスの表面で反射し、このS偏光が観察者に到達する。透過した一部のS偏光は1/2波長板によりP偏光に変換し、変換されたP偏光は入射側と反対側の機能性ガラスもしくは機能性ガラスと空気との界面で反射されず、通過する。このように、機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の入射角を制御することにより、二重像の発生を抑制することができる。また、角度θが35°未満または47°よりも大きい場合、機能性ガラスに入射したP偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する偏光軸変換性能が低く、その結果、ディスプレイ上表示画像も暗くなってしまうおそれがある。この角度θを適切に制御することにより、1/2波長板は良好な偏光軸変換性能を示し、その結果、表示画像はより鮮明に視認できるようになる。
【0020】
1/2波長板が示す偏光軸の変換性能を適切に制御するため、角度θは、下記式(2)および(3)から算出される値であることが好ましい。ここで、下記式(2)および(3)の技術的意義を説明する。機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光が、空気とは異なる屈折率を有する媒質である1/2波長板を通過する際、1/2波長板に入射する入射角が変化する。ここで、機能性ガラスに対するS偏光またはP偏光の入射角をα、1/2波長板に実際に入射する入射角、すなわち1/2波長板の屈折角をβ、空気の屈折率をnαα、1/2波長板の屈折率をnβとすると、スネルの法則にしたがい、sinα/sinβ=nβ/nαが成立し、この式をβが求まる方程式に簡略化すると、式(3)が導かれる。
一方、機能性ガラスに入射するS偏光の偏光軸をx軸、P偏光の偏光軸をy軸、y軸と1/2波長板の遅相軸とのなす角をθとしたときの位相差値がReである場合、ベクトル的解析により、y軸はRe・cosθ、x軸はRe・sinθで表される。ここで、1/2波
長板の偏光軸変換性能は、1/2波長板の遅相軸に対して45°で光が入射されるときに最大となることが知られているため、理論上、1/2波長板の遅相軸に対する入射角は、45°であることが望ましい。しかしながら、上述のように、機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の入射角をθとしても、実際には、1/2偏光板に入射する角度はβである。そこで、Re・cosθのy軸(理論上のy軸)について、x軸を中心に角度β傾斜した際のy軸(事実上のy軸)を求めると、Re・cosθ/事実上のy軸=sin(90°-β)が成立し、事実上のy軸は、Re・cosθcosβで表される。機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度を望ましい入射角である45°にするためには、x軸(Re・sinθ)と、事実上のy軸(Re
・cosθcosβ)を等しくする必要がある。そのため、Re・sinθ=Re・cos
θcosβが求まり、この式を簡略化することにより、式(2)が導かれる。このように、下記式(2)および(3)から算出された値に基づき、角度θを実際に1/2偏光板に入射する角度βとの関係で厳密に制御することにより、1/2波長板が示す偏光軸変換性能を最大限に活かすことができる。
【0021】
【数2】
【0022】
角度θの範囲は、当該角度θの値の±5°の範囲に制御されていることが好ましく、±3°の範囲に制御されていることがより好ましい。角度θが式(2)および(3)から算出される値を満たす角度の±5°の範囲外であると、1/2波長板が示すP偏光からS偏光への偏光軸の変換効率が低くなる。角度θの範囲を、式(2)および(3)から算出された値に基づき制御することにより、1/2波長板によるP偏光からS偏光への偏光軸の変換効率の低下を抑制することができる。
【0023】
式(3)に代入される1/2波長板の屈折率は、1/2波長板の遅相軸方向の屈折率をnx、1/2波長板の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、1/2波長板の厚さ方向の屈折率をnzとし、これらの和を平均化した値を平均屈折率として用いる。また、市販品の1/2波長板を使用する場合、平均屈折率はカタログ等に載せられた値を使用することもできる。また、1/2波長板の材料として後述する重合性液晶を用いた場合、液晶本来の常光屈折率noと異常光屈折率neを用いると、平均屈折率は(nx + ny+ nz)/3=(no+ne)/2で表される。式(2)および(3)から算出されるθの具体例を示すと、例えば、空気の屈折率を1.00とし、屈折率1.55の1/2波長板を用い、S偏光またはP偏光の入射角が45°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は42°であるため、θの範囲は好ましくは37°以上47°以下であり、より好ましくは39°以上45°以下である。S偏光またはP偏光の入射角が50°の場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は41°であるため、θの範囲は36°以上46°以下であることが好ましく、38°以上44°以下であることがより好ましい。また、S偏光またはP偏光の入射角が56°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であるため、θの範囲は35°以上45°以下であることが好ましく、37°以上43°以下であることが好ましい。さらに、S偏光またはP偏光の入射角が65°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は39°であるため、θの範囲は34°以上44°以下が好ましく、36°以上42°以下がより好ましい。機能性ガラスの表面に垂直な軸から45°以上65°以下に傾斜した位置から入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度が、35°以上47°以下に制御することにより、1/2波長板は良好な偏光軸変換性能を示し、その結果、表示画像がより鮮明に視認可能なHUDシステムを提供することができる。
【0024】
上述のように、本発明では、機能性ガラスに入射するP偏光またはS偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角θを制御することで、1/2波長板が示す偏光軸変換性能をより高めることができる。そのような場合、1/2波長板の遅相軸の制御性および生産コスト的な観点から、偏光軸を変換させる作用を有する層として重合性液晶層を含む1/2波長板を使用することが特に好ましい。
【0025】
重合性液晶とは、分子内に重合性基を有し、ある温度範囲あるいは濃度範囲で液晶性を示すネマチック液晶モノマーである。重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコニル基、シンナモイル基およびエポキシ基などが挙げられる。また、重合性液晶が液晶性を示すためには、分子内にメソゲン基があることが好ましい。メソゲン基とは、例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、またはアセナフトキノキサリン基等のロッド状、板状の置換基、あるいはトリフェニレン基、フタロシアニン基、またはアザクラウン基等の円盤状の置換基、すなわち、液晶相挙動を誘導する能力を有する基を意味する。ロッド状または板状の置換基を有する液晶化合物は、カラミティック液晶として当該技術分野で既知である。このような重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、例えば、特開2003-315556号公報および特開2004-29824号公報等に記載されている重合性液晶、PALIOCOLORシリーズ(BASF社製)およびRMMシリーズ(Merck社製)等の重合性液晶が挙げられる。これら重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、単独で使用しても、あるいは複数混合して使用してもよい。
【0026】
さらに、重合性基を有するネマチック液晶モノマーと反応可能な液晶性を有しない重合性化合物を添加することも可能である。そのような化合物としては、例えば、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6-ヘキサメチレン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、イソシアヌル環を有するトリイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、プロピレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール-ジ-(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6-ヘキサンジオール-ジ-(メタ)アクリレート、グリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、エチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用してもあるいは複数混合して使用してもよい。これら液晶性を持たない紫外線硬化型樹脂は、ネマチック液晶モノマーを含む組成物が液晶性を失わない程度に添加しなければならず、好ましくは、重合性基を有するネマチック液晶モノマー100質量部に対して0.1~20質量部、より好ましくは1.0~10質量部である。
【0027】
上述した重合性基を有するネマチック液晶モノマーおよび液晶性を有しない重合性化合物が紫外線硬化型である場合、これらを含んだ組成物を紫外線により硬化させるために、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1(BASF社製イルガキュアーRTM907)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製イルガキュアーRTM184)、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン(BASF社製イルガキュアーRTM2959)、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアーRTM953)、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアーRTM1116)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製イルガキュアーRTM1173)およびジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製イルガキュアーRTM651)等のベンゾイン系化合物;ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン(日本化薬社製カヤキュアーRTMMBP)等のベンゾフェノン系化合物;ならびに、チオキサントン、2-クロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTMCTX)、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン(カヤキュアーRTMRTX)、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTMCTX)、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTMDETX)および2,4-ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTMDITX)等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。好ましくは、光重合開始剤としては、例えば、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 184、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 819、Irgacure 127、Irgacure 907およびIrgacure 1173(いずれもBASF社製)が挙げられ、特に好ましくは、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300およびIrgacure 907が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種類または複数を任意の割合で混合して使用することができる。
【0028】
光重合開始剤としてベンゾフェノン系化合物またはチオキサントン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-ブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、および4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
【0029】
上述した光重合開始剤および助剤の添加量は、上述の組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することが好ましく、その量は、当該組成物中の紫外線で硬化する化合物100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上8質量部以下である。また、助剤は光重合開始剤に対して、0.5倍量以上2倍量以下であることが好ましい。
【0030】
また、下記式(4)で表される化合物、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、単に「添加化合物」ともいう。)が、液晶性化合物と共に添加されることにより、1/2波長板の耐熱性がさらに向上し、高温雰囲気下においても1/2波長板の位相差値の変化をさらに少なくすることができる。
【0031】
【化1】
【0032】
式(4)~式(6)中、R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立して炭素数5以上の分岐構造を有するアルキル基を表す。R1-1、R1-2およびR1-3が、それぞれ独立して分岐構造を有するアルキル基であるときに、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化が特に小さくなる。炭素数は6以上18以下であることが好ましい。R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立してCH-(CH-CHRX-基であることがより好ましい。ここで、RXは、炭素数1~5のアルキル基を表し、R1-1、R1-2およびR1-3は、それぞれ独立してCH-(CH-CH(C)-基であることがさらに好ましく、2-エチルヘキシル基又は2-エチルブチル基であることが特に好ましい。ここで、mは1~6の範囲内の整数を表す。式(5)中、Rは-(CH)p-基又はフェニレン基を表し、pは4~8の整数を表す。Rがフェニレン基である場合、フェニレン基はo位、m位、p位のいずれに置換基を有してもよいが、o位に置換基を有することが好ましい。式(6)中、Rは置換フェニレン基を表し、置換フェニレン基はo位、m位、p位のいずれに置換基を有してもよいが、o位及びp位に置換基を有することが好ましい。式(4)中、Rは-CH-CH-基、-CH-CH(CH)-基又は-CH-CH-CH-基を表し、-CH-CH-基が好ましい。
【0033】
式(4)で表される化合物は、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ペンタエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、オクタエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ノナエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートおよびデカエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0034】
式(5)で表される化合物は、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2-エチルブチル)、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アゼライン酸ビス(2-エチルブチル)、セバシン酸-ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸-ジ-2-エチルブチル、フタル酸-ジ-2-エチルヘキシルおよびフタル酸-ジ-2-エチルブチル等が挙げられる。
【0035】
式(6)で表される化合物は、例えば、トリメリット酸-トリ-2-エチルヘキシルおよびトリメリット酸-トリ-2-エチルブチル等が挙げられる。
【0036】
式(4)で表される化合物、式(5)で表される化合物、式(6)で表される化合物は、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、式(4)で表される化合物は、上述した液晶性化合物との相溶性に優れ、安定した位相差素子を得ることができるため好ましい。式(4)で表される化合物のうち、液晶性化合物との相溶性に優れ、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果に特に優れることから、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)およびトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)がより好ましく、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)がさらに好ましい。
【0037】
式(4)で表される化合物、式(5)で表される化合物及び式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の添加化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、上記液晶性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上300質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上50質量部以下がより好ましく、0.8質量部以上30質量部以下がさらに好ましく、1質量部以上15質量部以下が特に好ましい。上記添加化合物の含有量が0.1質量部未満であると、高温雰囲気下における1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果が得られないことがある。一方、上記添加化合物の含有量が300質量部を超えても、高温雰囲気下での1/2波長板の位相差値の変化の抑制効果は変わらないため、上記添加化合物の含有量の上限値は、材料コストの観点から300質量部以下が好ましい。
【0038】
HUDシステムの設計に応じて、光学機能層として1/4波長板を使用することもできる。1/4波長板は、円偏光を直線偏光に変換する機能を持つ位相差素子であり、例えば、ポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを位相差が波長の1/4となるように一軸延伸したり、あるいは、水平配向する重合性液晶を位相差が波長の1/4となるような厚さで配向させたりすることによって得ることができる。また、1/4波長板は上述した重合性液晶層を含むことが好ましい。このような場合、1/4波長板は、偏光軸を変換させる作用を有する層として上述の重合性液晶層と、当該重合性液晶層を形成する塗布液が塗布される支持基板とから構成されている。
【0039】
1/4波長板として、波長分散による位相差のずれが大きい場合には、広帯域1/4波長板と呼ばれる位相差素子を用いてもよい。広帯域1/4波長板とは、位相差の波長依存性が低減した位相差素子であり、例えば、同じ波長分散をもつ1/2波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸のなす角度が60゜となるように積層した位相差素子、位相差の波長依存性を低減したポリカーボネート系位相差素子(帝人社製:ピュアエースWR-S)等が挙げられる。さらには、HUDのように、光の入射角が1/4波長板に対して斜めから入射する場合、位相差素子によっては、光の入射角度によって位相差が変化する場合がある。このような場合に、より厳密に位相差を合わせる方法として、例えば、位相差素子の屈折率を調整した位相差素子を用いることにより、入射角に伴う位相差の変化を抑制することができる。そのような例としては、位相差素子の面内での遅相軸方向の屈折率をnx、位相差素子の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、位相差素子の厚さ方向の屈折率をnzとするとき、上記式(1)で示される係数Nzが、好ましくは0.3~1.0、より好ましくは0.5~0.8となるように制御する。
【0040】
このような1/4波長板を使用した光学フィルムが後述する本発明の機能性ガラスに設けられ、当該機能性ガラスをHUDシステムに適用する場合、光学機能層は、1/4波長板と円偏光反射層との積層体であることが好ましい。具体的には、円偏光反射層と、円偏光反射層の一方の面に積層された第1の1/4波長板と、円偏光反射層の他方の面に積層された第2の1/4波長板7とで構成されていることが好ましい。円偏光反射層としては、コレステリック液晶を用いた光反射層が好適に用いられる。このような構成の場合、HUDシステムにおいて、2枚の1/4波長板のうち、S偏光またはP偏光が入射する側に第1の1/4波長板が設けられ、円偏光反射層を透過した円偏光が入射する側に第2の1/4波長板が設けられる。例えば、円偏光反射層が右円偏光反射機能を有している場合、P偏光が第1の1/4波長板に入射すると、第1の1/4波長板の界面ではほとんどP偏光は反射されず、第1の1/4波長板を透過する。透過するP偏光は第1の1/4波長板により右円偏光に変換され、この右円偏光は、円偏光反射層の右円偏光変換性能により、右円偏光の一部が円偏光反射層で反射される。反射した右円偏光は、再度第1の1/4波長板により元のP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。また、円偏光反射層で反射されず円偏光反射層を透過する右円偏光は、第2の1/4波長板により、元のP偏光に戻るが、このP偏光は、第2の1/4波長板の外側の界面でほとんど反射されずに透過する。一方、S偏光が第1の1/4波長板に入射した場合にも、S偏光は第1の1/4波長板の表面で反射し、このS偏光が観察者に到達する。第1の1/4波長板で反射されず、第1の1/4波長板を透過するS偏光は、第1の1/4波長板により左円偏光に変換される。この左円偏光は、右円偏光反射機能を有する円偏光反射層では反射されず円偏光反射層を透過し、第2の1/4波長板により、元のS偏光に戻るが、このS偏光も、第2の1/4波長板の外側の界面でほとんど反射されずに透過する。円偏光反射層が左円偏光反射機能を有している場合においても、同様の原理でP偏光またはS偏光が観察者に到達する。
【0041】
1/4波長板の厚さの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、1/4波長板の厚さの下限値は、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、円偏光反射層の厚さの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、円偏光反射層の厚さの下限値は、液晶の重合性の観点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。
【0042】
本発明の光学フィルムにおいて、(A)光学機能層は2以上設けられていてもよい。この場合、光学機能層間には何も用いず、すなわち各光学機能層を直接積層してもよいが、光学機能層間に粘着剤を用いた接着層が設けられていることが好ましい。粘着剤としては、アクリル系またはゴム系の粘着剤が挙げられるが、接着性、保持力等を調整しやすいアクリル系粘着剤が好ましい。接着剤としては、紫外線硬化型樹脂組成物、熱硬化型樹脂組成物、及びこれらの混合物が挙げられる。紫外線硬化型樹脂組成物の場合は、アクリロイル基あるいはエポキシ基を有するモノマーを複数混合した当該組成物を、光重合開始剤の存在下で紫外線を照射し硬化させることで光学機能層間を接着させることができる。熱硬化型樹脂組成物の場合は、エポキシ基を有するモノマーを複数混合した当該組成物を、酸触媒の存在下で加熱し硬化させることで光学機能層間を接着することができる。あるいは、アミノ基、カルボキシル基、水酸基を有する複数のモノマーまたはポリマーからなる組成物をイソシアネート基またはメラミンを有する化合物の存在下で加熱し硬化させることで光学機能層間を接着することができる。
【0043】
[(B)ブロック層]
本発明の光学フィルムにおいて、ブロック層は、(B-1)熱可塑性樹脂と(B-2)紫外線硬化性樹脂とを含む樹脂組成物(以下、「ブロック層形成用樹脂組成物」ともいう)の硬化物(硬化膜)を有する。光学フィルムに熱可塑性樹脂を含有するブロック層が設けられることにより、(A)光学機能層として設けられる位相差素子を劣化因子から保護することができる。また、このようなブロック層を有する光学フィルムは、耐久性、主には耐熱性試験後の色相変化(ΔE)に優れており、当該光学フィルムを用いて合わせガラスとしたときの外観および密着性にも優れている。そのため、高い可視光透過率を維持しながら、高温雰囲気下において耐久性、特に耐熱性が高く、長期間に亘って位相差素子の位相差値の変化を抑制できる光学フィルムを提供することができる。なお、ブロック層は単層であってもよく、2以上が積層していてもよい。
【0044】
[(B-1)熱可塑性樹脂]
(B-1)熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではなく、加熱により成形できる程度の熱可塑性が得られる樹脂であればよい。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニルコポリマー、アイオノマー樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・塩素化ポリスチレン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合樹脂、シリコーンゴム・アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、セルロース・アセテート・ブチレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、メタクリル樹脂、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー樹脂、エチレン・エチルアクリレート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ4フッ化エチレン樹脂、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合樹脂、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、ポリ3フッ化塩化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、芳香族ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリフロロアルコキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、生分解樹脂、バイオマス樹脂等を例示することができる。熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、エスレックRTMBL-1、BL-1H、BL-2、BL-2H、BL-5、BL-10、BL-S、BL-L、BM-1、BM-2、BM-5、BM-S、BH-3、BH-6、BH-S、BX-1、BX-1、BX-5、KS-10、KS-1、KS-3、KS-5(いずれも積水化学工業社製);非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂のバイロンRTMシリーズ、水分散ポリエステル樹脂のバイロナールRTMシリーズ、ポリエステルウレタン樹脂のバイロンRTMURシリーズ、非晶性ポリ乳酸樹脂のバイロエコールRTMシリーズ(いずれも東洋紡績社製);スチレン系エラストマーのセプトンRTMシリーズ、ハイブラーRTMシリーズ、アクリル系ブロック共重合体のクラリティRTMシリーズ、熱可塑性エラストマーコンパウンドのアーネストンRTMシリーズ、イソプレン系のクラプレンRTMシリーズ(いずれもクラレ社製);ポリビニルアルコールのデンカポバールRTM(デンカ社製);テルペン樹脂のYSレジンRTMPXシリーズ、YSレジンRTMPXNシリーズ、芳香族変性テルペン樹脂のYSレジンRTMTO(いずれもヤスハラケミカル社製);ならびに、テルペンフェノール樹脂のYSポリスターRTMU、YSポリスターRTMT、YSポリスターRTMS、YSポリスターRTMG、YSポリスターRTMN、YSポリスターRTMK、YSポリスターRTMTH(いずれもヤスハラケミカル社製)などを挙げることができる。
【0046】
これらのうち、光学フィルムを用いて合わせガラスとしたときの外観、密着性、耐熱試験前後における色相変化(ΔE)、耐熱試験前後における光学特性等の観点からポリビニルアセタール樹脂が好ましい。ポリビニルアセタール樹脂とはポリビニルアルコールにアルデヒドを反応させて得られる樹脂であり、下記式(7)で表される化合物である。
【0047】
【化2】
【0048】
式(7)中、RはC1~C10の直鎖、分岐または環状のアルキル基を表し、好ましくはC1~C6の直鎖アルキル基であり、更に好ましくはC1~C4の直鎖アルキル基であり、特に好ましくはC1、すなわちメチル基(ポリビニルアセトアセタール樹脂)、又はC4、すなわちn-ブチル基(ポリビニルブチラール樹脂)であり、最も好ましくはメチル基である。Rがメチル基の場合、すなわち、熱可塑性樹脂がポリビニルアセトアセタール樹脂である場合、特に耐久性試験前後における色相の変化が少なく、実用性が高い。
【0049】
上記式(7)中、nは繰り返し単位数を表し、好ましくは50以上1500以下である。nの上限としては、より好ましくは1000であり、更に好ましくは800であり、特に好ましくは600であり、最も好ましくは200である。またnの下限としては、より好ましくは70であり、更に好ましくは100であり、特に好ましくは120であり、最も好ましくは150である。
【0050】
また、熱可塑性樹脂の好ましい分子量(重量平均分子量:Mw)は、6,000以上1,000,000以下である。分子量の上限としては、より好ましくは120,000であり、更に好ましくは96,000であり、特に好ましくは60,000であり、最も好ましくは20,000である。また分子量の下限としては、より好ましくは8,500であり、更に好ましくは10,000であり、特に好ましくは12,000であり、最も好ましくは16,000である。すなわち、熱可塑性樹脂の分子量は、10,000以上60,000以下であることが最も好ましい。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。
【0051】
熱可塑性樹脂のブロック層における含有量が、1質量%以上80質量%以下である場合が好ましい態様の一つである。熱可塑性樹脂のブロック層中の含有量の上限として、より好ましくは50質量%であり、更に好ましくは40質量%であり、特に好ましくは30質量%である。また、熱可塑性樹脂のブロック層中のより好ましい下限は2質量%であり、更に好ましくは5質量%であり、特に好ましくは10質量%である。すなわち、熱可塑性樹脂のブロック層中の含有量として、10質量%以上30質量%以下が最も好ましい。
【0052】
[(B-2)紫外線硬化性樹脂]
(B)ブロック層は、(B-2)紫外線硬化性樹脂を有する。紫外線硬化性樹脂とは、例えば、ビニル基、ビニルエーテル基、アリル基、マレイミド基、(メタ)アクリロイル基等を有する樹脂が挙げられる。そのなかでも、反応性および汎用性の観点から、紫外線硬化性樹脂は(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、例えば(メタ)アクリレート化合物が好ましい。紫外線硬化性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
(メタ)アクリロイル基を有する樹脂としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、水酸基含有(メタ)アクリレートと多カルボン酸化合物の酸無水物の反応物であるハーフエステル,ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬社製、KAYARADRTMHX-220、HX-620等)、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールとε-カプロラクトンの反応物のポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート(例えば日本化薬社製、KAYARADRTMDPHA等)、モノ又はポリグリシジル化合物と(メタ)アクリル酸の反応物であるエポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート樹脂を挙げることができる。これらのうち、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂が最も好適に用いられる。
【0054】
モノ又はポリグリシジル化合物と(メタ)アクリル酸の反応物であるエポキシ(メタ)アクリレートに用いられるグリシジル化合物としては、特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’-ビフェニルフェノール、テトラメチルビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、ジメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチル-4,4’-ビフェノール、ジメチル-4,4’-ビフェニルフェノール、1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[4-(1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ジイソプロピリデン骨格を有するフェノール類、1,1-ジ-4-ヒドロキシフェニルフルオレン等のフルオレン骨格を有するフェノール類、フェノール化ポリブタジエン、ブロム化ビスフェノールA、ブロム化ビスフェノールF、ブロム化ビスフェノールS、ブロム化フェノールノボラック、ブロム化クレゾールノボラック、クロル化ビスフェノールS、クロル化ビスフェノールA等のポリフェノール類のグリシジルエーテル化物が挙げられる。
【0055】
これらモノ又はポリグリシジル化合物と(メタ)アクリル酸の反応物であるエポキシ(メタ)アクリレートは、そのエポキシ基に当量の(メタ)アクリル酸をエステル化反応させることによって得ることができる。この合成反応は一般的に知られている方法により行うことができる。例えば、レゾルシンジグリシジルエーテルにその当量の(メタ)アクリル酸を、触媒(例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン等)及び重合防止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等)と共に添加して、例えば80~110℃でエステル化反応を行う。こうして得られた(メタ)アクリル化レゾルシンジグリシジルエーテルは、ラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂である。また、分子内に極性官能基と2以上の(メタ)アクリロイル基とを併せ持つバインダー樹脂である場合が特に好ましい。
【0056】
また、(メタ)アクリロイル基を有する樹脂は、分子内に極性官能基と2以上の(メタ)アクリロイル基とを併せ持つバインダー樹脂であることが特に好ましい。極性官能基とは、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホスホ基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、シアノ基、イソシアナト基、ニトロ基、ニトロソ基、ヒドラジノ基、ウレイド基、グアニジノ基、スルファニル基、スルフィノ基、スルホ基、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピロリジニル基、ピリジル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、モルホリノ基、キノリル基等を挙げることができる。また、極性官能基はアルキル基、アルコキシ基等で置換されていてもよい。また、ウレタン結合、エーテル結合、エステル結合((メタ)アクリロイル基中のエステル結合を除く)等の置換基とは異なる極性結合部位も極性官能基として含まれる。
【0057】
極性官能基を有する2以上の(メタ)アクリロイルと極性官能基を併せ持つバインダー樹脂としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(KAYARADRTMPET-30、日本化薬社製)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(KAYARADRTMDPHA、日本化薬社製)、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(701A、新中村化学社製)、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(A-9300、新中村化学社製)、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(A-9300-1CL、新中村化学社製)等の(メタ)アクリレートモノマー化合物;ビスフェノールA型エポキシアクリレート(R-115F、R-130、R-381等、日本化薬社製)、ビスフェノールF型エポキシアクリレート(ZFA-266H、日本化薬社製)、酸変性エポキシアクリレート(ZARシリーズ、ZFRシリーズ、ZCRシリーズ、日本化薬社製)等のエポキシアクリレート樹脂;ならびに、ポリエステル系ウレタンアクリレート(UX3204、UX-4101、UXT-6100、日本化薬社製)、混合系ウレタンアクリレート(UX-6101、UX-8101、日本化薬社製)、ポリエーテル系ウレタンアクリレート(UX-937、UXF-4001-M35、日本化薬社製)、エステル系ウレタンアクリレート(DPHA-40H、UX-5000、UX-5102D-M20、UX-5103D、UX-5005、日本化薬社製)等のウレタンアクリレート樹脂等を挙げることができる。
【0058】
紫外線硬化性樹脂として、より好ましくは2以上9以下の(メタ)アクリロイルと極性官能基を併せ持つバインダー樹脂であり、更に好ましくは3以上6以下の(メタ)アクリロイルと極性官能基を併せ持つバインダー樹脂である。反応性基である(メタ)アクリロイルが10以上である場合、得られる硬化物が剛直になり過ぎて、接着強度の低下を招く可能性がある。
【0059】
ブロック層中、紫外線硬化性樹脂の含有量は10質量%以上99質量%以下であることが好ましい。紫外線硬化性樹脂の含有量の上限として、より好ましくは95質量%であり、更に好ましくは90質量%であり、特に好ましくは85質量%である。また、紫外線硬化性樹脂の下限は、より好ましくは20質量%であり、更に好ましくは50質量%であり、特に好ましくは75質量%である。すなわち、紫外線硬化性樹脂の含有量として75質量%以上85質量%以下が最も好ましい。
【0060】
ブロック層は、更に紫外線硬化性樹脂を硬化するラジカル重合開始剤を含有する。ラジカル重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤及び/又は熱ラジカル重合開始剤を意味する。
【0061】
光ラジカル重合開始剤としては、紫外線の照射によって、ラジカルまたは酸を発生し、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン、2-エチルアンスラキノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-メチル-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-1-プロパン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、カンファーキノン、9-フルオレノン、ジフェニルジスルヒド等を挙げることができる。具体的には、IRGACURERTM 651、184、2959、127、907、369、379EG、819、784、754、500、OXE01、OXE02、DAROCURERTM1173、LUCIRINRTM TPO(いずれもBASF社製)、セイクオールRTMZ、BZ、BEE、BIP、BBI(いずれも精工化学社製)等を挙げることができる。
【0062】
光ラジカル重合開始剤が用いられる場合、その含有量は紫外線硬化性樹脂の総量100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。光ラジカル重合開始剤の含有量の上限としては、より好ましくは7質量部であり、更に好ましくは5質量部であり、特に好ましくは4質量部であり、最も好ましくは3質量部である。また、光ラジカル重合開始剤の下限としては、より好ましくは0.01質量部であり、更に好ましくは0.1質量部であり、特に好ましくは1質量部であり、最も好ましくは1.5質量部である。
【0063】
また、熱ラジカル重合開始剤としては、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾピナコール等が挙げられ、ベンゾピナコールが好適に用いられる。例えば、有機過酸化物としては、カヤメックRTMA、M、R、L、LH、SP-30C、パーカドックスCH-50L、BC-FF、カドックスB-40ES、パーカドックス14、トリゴノックスRTM22-70E、23-C70、121、121-50E、121-LS50E、21-LS50E、42、42LS、カヤエステルRTMP-70、TMPO-70、CND-C70、OO-50E、AN、カヤブチルRTMB、パーカドックス16、カヤカルボンRTMBIC-75、AIC-75(化薬アクゾ社製)、パーメックRTMN、H、S、F、D、G、パーヘキサRTMH、HC、TMH、C、V、22、MC、パーキュアーRTMAH、AL、HB、パーブチルRTMH、C、ND、L、パークミルRTMH、D、パーロイルRTMIB、IPP、パーオクタRTMND(日油社製)などが市販品として入手可能である。また、アゾ化合物としては、例えば、VA-044、V-070、VPE-0201、VSP-1001(和光純薬工業社製)等が市販品として入手可能である。
【0064】
熱ラジカル重合開始剤が用いられる場合、その含有量は紫外線硬化性樹脂の総量100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。熱ラジカル重合開始剤の含有量の上限としては、好ましくは7質量部であり、更に好ましくは5質量部であり、特に好ましくは4質量部であり、最も好ましくは3質量部である。また、熱ラジカル重合開始剤の下限としては、好ましくは0.01質量部であり、更に好ましくは0.1質量部であり、特に好ましくは1質量部であり、最も好ましくは1.5質量部である。
【0065】
上記成分の他、ブロック層は、必要に応じて、例えばレベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤、可塑剤、無機微粒子、フィラー等を添加し、それぞれ目的とする機能性を付与することも可能である。レベリング剤としてはフッ素系化合物、シリコーン系化合物、およびアクリル系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、およびトリアジン系化合物等が挙げられる。光安定化剤としてはヒンダードアミン系化合物およびベンゾエート系化合物等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系化合物等が挙げられる。重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、およびハイドロキノン等が挙げられる。架橋剤としては、前記ポリイソシアネート類およびメラミン化合物等が挙げられる。これらの各成分の添加量は、その目的に応じて適宜決定することができる。
【0066】
ブロック層のガラス転移温度(Tg)は、80℃以上300℃以下であることが好ましく、90℃以上200℃以下であることがより好ましく、150℃以上250℃以下であることが更に好ましい。ガラス転移温度は、例えば、DMA法によって、以下の測定条件で測定することができる。動的粘弾性測定装置(DMS-6100:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用し、引っ張りモードにて周波数10Hz、昇温温度2℃/分の条件の条件で測定する。損失弾性率と貯蔵弾性率との比(JIS:K 7244-1:1998)から損失係数Tanδが得られる。得られた損失係数Tanδが最大値となる温度をガラス転移温度とする。
【0067】
ブロック層の厚さは、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましく、1μm以上10μm以下であることが更に好ましい。ブロック層の厚さが0.1μm以上であることにより、光学フィルムを後述する光学積層体に適用する場合に、中間膜として使用される可塑剤の侵入による光学機能層が有する位相差値の変化を防ぐ効果を有する。また、ブロック層の厚さが50μm以下であることにより、光学フィルム作製時の外観および光学フィルムを備える機能性ガラス作製時の外観に優れる。ブロック層は、ブロック層形成用樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が上記の好ましい範囲になるように塗布し、乾燥後、紫外線照射により硬化させて硬化膜を形成させることにより得ることができる。
【0068】
ブロック層形成用樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、マイクログラビア塗工、マイクロリバースグラビアコーター塗工、ダイコーター塗工、ディップ塗工、スピンコート塗工、およびスプレー塗工等が挙げられる。
【0069】
(B-1)熱可塑性樹脂と(B-2)紫外線硬化性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物を有するブロック層は、後述する光学積層体が備える中間膜との密着性及び、耐久性に優れる。特にブロック層形成時にシワが生じ難く、耐久性においても、耐熱試験前後において偏光変換透過率、色相、密着性に変化が少ない。
【0070】
ブロック層形成用樹脂組成物は、硬化のために紫外線を照射するが、電子線などを使用することもできる。紫外線により硬化させる場合、光源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDなどを有する紫外線照射装置を使用することができ、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80~120W/cm2のエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5~60m/分で硬化させるのが好ましい。一方、電子線によりブロック層形成用樹脂組成物を硬化させる場合は、100~500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用するのが好ましく、その場合には、光重合開始剤は使用しなくてもよい。
【0071】
[(C)支持基板]
本発明の光学フィルムにおいて、(A)光学機能層の一方の面のみに(B)ブロック層が設けられる場合、光学機能層の他方の面は、フィルム状の(C)支持基板であることが好ましい。このような支持基板は、表示画像の視認性を保つために、可視光領域において透明であることが好ましく、具体的には、波長380~780nmの非偏光透過率が50%以上であればよく、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。ここで、非偏光透過率とは、光の振動に規則性がない光の透過率、すなわち自然光の透過率を意味する。また、支持基板は、着色されていてもよいが、着色されていないか、着色が少ないことが好ましい。さらに、支持基板の屈折率は1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.8であることがより好ましい。支持基板の厚さは、用途に応じて適宜選択すればよく、好ましくは5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~250μmであり、特に好ましくは15μm~150μmである。
【0072】
(C)支持基板は、単層であっても2層以上の積層体であってもよい。支持基板の例としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンおよびポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これらのなかでも、入射されるP偏光またはS偏光の偏光軸を変化させないために、複屈折性の少ないトリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィンおよびアクリルなどが好ましい。
【0073】
[光学フィルムの製造方法]
次に、本発明の光学フィルムを作製する方法の一例を説明する。このような方法としては、例えば、光学機能層を構成する位相差素子を作製するための材料として重合性基を有するネマチック液晶モノマーを溶剤に溶解させ、次いで光重合開始剤を添加する。このような溶剤は、使用する液晶モノマーを溶解できれば、特に限定されるものではないが、例えば、シクロペンタノン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、シクロペンタノンおよびトルエン等が好ましい。その後、この溶液を支持基板として用いられるTACフィルム等のプラスチック基板上に厚みができるだけ均一になるように塗布し、加熱により溶剤を除去させながら、プラスチック基板上で液晶となって配向するような温度条件で一定時間放置させる。このとき、プラスチック基板表面を塗布前に所望とする配向方向にラビング処理、あるいは偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料をプラスチック基板表面に成膜し偏光照射する等の配向処理をしておくことで、液晶の配向をより均一にすることができる。これにより、1/2波長板、1/4波長板、円偏光反射層等の位相差素子の遅相軸を所望とする角度に制御し、かつ、位相差素子のヘイズ値を低減することが可能となる。次いでこの配向状態を保持したまま、高圧水銀灯等でネマチック液晶モノマーに紫外線を照射し、液晶の配向を固定化させることにより、所望とする遅相軸を有する位相差素子を得ることができる。
【0074】
重合性液晶モノマーが、上述のような配向処理された支持基板上に直接塗布された構成である場合、すなわち、光学機能層を構成する位相差素子が、配向処理された支持基板上に設けられた重合性液晶層を有する場合、支持基板がブロック層と同様に位相差素子の位相差値の低下を防ぐ機能を有する。位相差素子がこのような構成を有することにより、例えば、後述する中間膜等の位相差値の変化原因となり得る物質が、位相差素子の重合性液晶層と直接接触せず、その結果、位相差素子の位相差値の低下を抑制することができる。また、このような構成は、光学機能層の両面にブロック層を設ける構成と比較し、ブロック層を1層塗布する製造工程を減らすことができるため、より安価に本発明に用いる光学積層体を作製することができる。
【0075】
<光学積層体>
本発明の光学積層体は、上述した光学フィルムに中間膜が積層されている。中間膜は、熱可塑性樹脂の樹脂フィルムであることが好ましく、ポリビニルブチラールのフィルムであることが特に好ましい。中間膜は1枚であっても、複数枚であってもよいが、2枚の中間膜によって光学フィルムが挟持された構造を有する光学積層体が好ましい。
【0076】
図4には、本発明の光学積層体の一実施形態が示されており、光学積層体20は、光学フィルム10が2枚の中間膜201により挟持された構成をなし、光学フィルム10は、例えば、図3の光学フィルムに相当する。光学フィルム10は、光学機能層101において偏光軸を変換させる作用を有する層が存在する側のみにブロック層を有する構成であってもよい。このような場合、中間膜201は、ブロック層側に形成されていればよく、1/2波長板の支持基板側にも形成されていてもよい。
【0077】
<中間膜>
中間膜としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、一般的に用いられている車載用中間膜を用いることができることが好ましい。このような車載用中間膜としては、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合系樹脂(EVA)、またはシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。これらの樹脂で作製された中間膜は、合わせガラス用中間膜として汎用的であるために好ましい。また、中間膜の厚さは、後述するHUDシステムに光学積層体を適用する際、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0078】
合わせガラス用中間膜がPVB樹脂製であるとき、中間膜と接する重合性液晶からなる1/2波長板、1/4波長板、円偏光反射層などの位相差素子は、高温条件下で劣化し、位相差値が低下してしまう場合がある。これは、位相差素子に隣接するPVB樹脂自体の浸食、PVB樹脂中に含まれる可塑剤等の影響であると考えられる。本発明の光学積層体では、このようなPVB樹脂製の中間膜、または可塑剤を含むPVB樹脂製の中間膜が光学フィルムに直接接するように積層されていても、1/2波長板、1/4波長板、円偏光反射層などの位相差素子の劣化が抑えられ、また、位相差値の変化を抑制することができる。
【0079】
重合性液晶からなる位相差素子の位相差値を低下させる可塑剤としては、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、または、有機リン酸、有機亜リン酸等の有機リン酸可塑剤等が挙げられる。上記一塩基性有機酸エステルは、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。
【0080】
上記多塩基性有機酸エステルは、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4~8の直鎖または分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。
【0081】
上記有機エステル可塑剤は、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコール-ジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、トリエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコール-ジ-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物等が挙げられる。
【0082】
上記有機リン酸可塑剤は、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、およびトリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0083】
合わせガラス用中間膜には、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤等が適宜添加配合されていてもよく、とりわけ、赤外線を吸収する微粒子が分散された中間膜は、高性能な遮熱合わせガラスを作製する上で重要である。赤外線を吸収する微粒子には、Sn、Ti、Zn、Fe、Al、Co、Ce、Cs、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、当該金属の酸化物、当該金属窒化物、あるいはこれらの中から少なくとも2種以上を含む複合物などの導電性を有する材料の微粒子を用いる。また、これらの材料には、Sn、Sb、F等がドープされていてもよい。特に、可視光線の領域で透明である錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫が、透明性が求められる建築用、自動車用の窓として合わせガラスを用いる場合に好ましい。中間膜に分散させる赤外線を吸収する微粒子の粒径は、0.2μm以下であることが好ましい。微粒子の粒径が0.2μm以下であれば可視光線の領域での光の散乱を抑制しつつ赤外線を吸収でき、合わせガラスにヘイズを発生させず、電波透過性と透明性を確保しつつ、接着性、透明性、耐久性等の物性を未添加の中間膜と同等に維持し、さらには通常の合わせガラス製造ラインでの作業で合わせガラス化処理を行うことができる。なお、中間膜にPVBを用いる場合には、中間膜の含水率を最適に保つために、恒温恒湿の部屋で合わせ化処理を行う。また、中間膜には、その一部が着色したもの、遮音機能を有する層をサンドイッチしたもの、HUDにおけるゴースト現象(二重写り)を軽減するための厚さに傾斜があるもの(楔形)などが使用できる。
【0084】
合わせガラス用中間膜と、1/2波長板または1/4波長板などの光学機能層を有する光学フィルムとをラミネートする方法に特に制限はないが、例えば、ニップロールを用いて、中間膜と光学フィルムを同時に圧着によりラミネートする方法が挙げられる。ラミネートする際にニップロールが加熱できる場合は、加熱しながら圧着することも可能である。また、中間膜と光学フィルムとの密着性が劣る場合は、コロナ処理、プラズマ処理などによる表面処理を予め行ってからラミネートしてもよい。
【0085】
中間膜は、溶剤に溶解させた状態で、光学フィルムの片面または両面に直接積層してもよい。中間膜としポリビニルブチラール系樹脂(PVB)を使用する場合、ブチラール化度は40モル%以上85モル%以下であることが好ましく、ブチラール化度の下限値は5モル%であることがより好ましく、60モル%であることが特に好ましい。一方、ブチラール化度の上限値は80モル%であることがより好ましく、75モル%であることが特に好ましい。なお、ブチラール化度は、赤外吸収スペクトル(IR)法により、測定することができ、例えば、FT-IRを用いて測定することができる。
【0086】
ポリビニルブチラール系樹脂の水酸基量のは、15モル%以上35モル%以下であることが好ましい。水酸基量が15モル%未満であると、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下したり、合わせガラスの耐貫通性が低下したりすることがある。一方、水酸基量が35モル%を超えると、中間膜が硬くなることがある。
【0087】
ポリビニルブチラール系樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。また、ポリビニルアルコールの重合度のは4000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2500以下であることが特に好ましい。重合度が4000を超えると、中間膜の成形が困難となることがある。
【0088】
<機能性ガラス>
本発明の機能性ガラスは、上述の光学積層体とガラス板とを備える。ガラス板は1枚であっても、複数枚であってもよいが、2枚のガラス板によって光学積層体が挟持された構造を有する機能性ガラスが好ましい。このような機能性ガラスは、HUDシステムにおける表示媒体として好適に用いられる。
【0089】
機能性ガラスは、例えば、上述の光学積層体をガラス板に貼り合わせることによって作製される。光学積層体をガラス板に貼り合わせる方法の一例としては、粘着剤もしくは接着剤を光学積層体の片側あるいは両側に塗布し、次いで、ガラス板を貼り合わせることによって得ることができる。粘着剤や接着剤には特に制限はないが、後に剥がすことがある場合は、リワーク性に優れて粘着性がよい材料、例えばシリコーン粘着剤やアクリル系粘着剤等が好ましい。
【0090】
ガラス板は、例えば、本発明の機能性ガラスをフロントガラスとして利用しても、前方の景色が十分に視認可能な透明性があれば特に限定されるものではない。また、ガラス板の屈折率は1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.8であることがより好ましい。また、ガラス板の厚さ、形状等も、後述するHUDシステムに機能性ガラスを適用する際、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。また、ガラス板には反射面に多層膜からなる増反射膜、遮熱機能をも兼ねる金属薄膜等が設けられていてもよい。これらの膜は入射する偏光の反射率を向上させることができるが、例えば、自動車用フロントガラスとして、本発明の機能性ガラスを用いる場合は、機能性ガラスの可視光線透過率が70%以上となるように反射率を調整することが好ましい。
【0091】
本発明の光学積層体を用いる場合は、2枚のガラス板の間に、光学積層体を配置し、高温・高圧にて圧着することにより合わせガラス内に光学積層体が配置された機能性ガラスを得ることができる。図5は、本発明に従う機能性ガラスの一実施形態を示している。図5に示す機能性ガラス30は、光学積層体20が、2枚のガラス板301により挟持された構成をなし、光学積層体20は、例えば、図4の光学積層体に相当する。光学積層体20を構成する光学フィルム10は、図3に示されるように、光学機能層101の一方の面にブロック層102を有し、他方の面が支持基板(図示せず)であってもよく、あるいは光学機能層101の両面にブロック層102を有していてもよい。図5に示されるように、光学積層体20が機能性ガラス30を構成する場合、中間膜201は、2枚のガラス板301と光学積層体20との密着性を保持するための粘着剤または接着剤としての機能も有している。
【0092】
本発明の光学フィルムを用いて機能性ガラスを作製する方法の一例を具体的に説明する。まず、2枚のガラス板を準備する。自動車のフロントガラス用の合わせガラスとして用いる場合は、フロート法で作られたソーダライムガラスを使用する。ガラスは透明、緑色に着色されたもの、いずれでもよく、特に制限はない。これらのガラス板の厚さは、通常、約2mmtのものを使用するが、近年のガラスの軽量化の要求に応じて、これよりも若干薄い厚さのガラス板も使用できる。ガラス板を所定の形状に切り出し、ガラスエッジに面取りを施し洗浄する。黒色の枠状やドット状のプリントが必要な際には、ガラス板にこれを印刷する。フロントガラスのように曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を650℃以上に加熱し、その後、モールドによるプレスや自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように整形し、ガラスを冷却する。このとき、冷却速度を早くしすぎると、ガラス板に応力分布が生じて強化ガラスとなるために、徐冷する。このように作製したガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に本発明の光学フィルムを重ね、さらにもう一方のガラス板を置く。あるいは、ガラス板の上に中間膜、光学フィルム、中間膜を順に重ね、最後にもう一方のガラス板を置くといった方法でもよい。このとき、光学フィルムにおいて、光学機能層としての位相差素子は、車外側になるように配置する。次いで、ガラス板のエッジからはみ出した光学フィルム、中間膜は、カッターで切断・除去する。その後、サンドイッチ状に積層したガラス板、中間膜、光学フィルムとの間に存在する空気を脱気しながら温度80℃から100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法にはガラス板/中間膜/光学フィルム/中間膜/ガラス板の積層物を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法と、ガラスの端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法の2種があり、どちらの方法を用いてもよい。予備接着が終了後、ゴムバッグから取り出したガラス板/中間膜/光学フィルム/中間膜/ガラス板の積層物、もしくはゴムリングを取り外した積層物をオートクレーブに入れ、10~15kg/cmの高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20分~40分間、加熱・加圧処理する。処理後、50℃以下に冷却したのちに除圧し、ガラス/中間膜/光学フィルム/中間膜/ガラスからなる本発明の機能性ガラスをオートクレーブから取り出す。
【0093】
また、上記の実施形態では、中間膜は1つの独立した膜として、ガラス板と光学フィルムとの間に重ねて配置されているが、それに代えて、中間膜が、予め光学フィルムに直接積層された状態、すなわち、光学積層体の状態で配置されていてもよい。具体的には、2枚の中間膜のうち、少なくとも一方の中間膜が、予め光学フィルムに直接積層された光学積層体を用いてもよい。このような中間膜の使用により、光学フィルムとガラス板との間に中間膜を配置する工程を省くことができ、その結果、製造コストを削減することが可能となる。
【0094】
こうして得られた機能性ガラスは、普通自動車、小型自動車、軽自動車などとともに、大型特殊自動車、小型特殊自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして使用できる。さらには、鉄道車両、船舶、航空機の窓としても、また、建材用および産業用の窓材としても使用できる。使用の形態であるが、UVカットや調光機能を有する部材と、積層あるいは貼合して用いることができる。
【0095】
<ヘッドアップディスプレイシステム>
本発明の光学フィルムは、当該光学フィルムを用いて合わせガラスとしたときの密着性よび外観にも優れるため、ヘッドアップディスプレイシステムの使用に好適である。図1に本発明のHUDシステムの一実施形態を示す。図1に示されるHUDシステムは、表示画像を示す表示光をP偏光にして出射する表示器2と、表示器2から出射された表示光を反射する反射鏡3と、表示器2から出射されたP偏光またはS偏光が入射される本発明の機能性ガラス4とを備えている。表示器2から出射されたP偏光またはS偏光を反射鏡3で反射させ、この反射された表示光をフロントガラスとして機能する本発明の機能性ガラス4に照射することにより、観察者1に光路5を介してP偏光またはS偏光が到達し、虚像として表示画像6を視認できる。なお、図1に示されるHUDシステムにおいて、表示器2から出射された表示光は、反射鏡3を介して機能性ガラス4に入射しているが、表示器2から直接機能性ガラス4に入射していてもよい。
【0096】
<表示器>
表示器2は、最終的に機能性ガラス4に到達するまでに、所望とするP偏光またはS偏光を出射することができれば特に限定されるものではないが、例えば、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OELD)等が挙げられる。表示器2が液晶表示装置である場合、出射光は通常直線偏光となっているため、そのまま用いることができる。一方、表示器2が有機ELディスプレイである場合、例えば、図2に示すように、表示器2は、光源2AとP偏光またはS偏光を出射可能な偏光板2Bとから構成されていてもよい。また、HUDシステムを自動車に使用する場合、液晶表示装置、有機ELディスプレイは、例えばダッシュボードのような光出射口に偏光板、1/2波長板等の光学部材を配置して、表示器2からP偏光またはS偏光が出射できるように調整することも可能である。また、表示器2に使用される光源も特に限定されるものではなく、レーザー光源やLED光源等を使用することができる。また、光学機能層を構成する位相差素子の中心反射波長を、上記の光源の発光スペクトルに対応するように設定することで、より効果的に表示画像を鮮明することができる。
【0097】
本発明のHUDシステムは、表示器2から出射された表示光がP偏光であり、さらに、機能性ガラスに対するP偏光のブリュースター角をαとしたとき、機能性ガラス4に入射するP偏光の入射角が、α-10°以上α+10°以下の範囲であることが好ましい。すなわち、表示器2からのP偏光をブリュースター角近傍の入射角で機能性ガラス4へ入射させることにより、機能性ガラス4のガラス板表面でのP偏光の反射が大幅に低減される。機能性ガラス4を構成する光学積層体において、光学機能層として1/2波長板を有する光学フィルムが用いられる場合、ガラス板を透過したP偏光は、光学機能層を構成する1/2波長板でS偏光に変換され、変換されたS偏光は他方のガラス板の界面で反射する。反射したS偏光が1/2波長板により再びP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。これにより、表示画像は虚像として観察者に視認可能となる。一方、P偏光の入射角がα-10°未満、またはα+10°より大きい場合、P偏光の入射角は、ブリュースター角近傍からずれてしまうため、P偏光の反射率が増加し、二重像が発生してしまう場合がある。このように、P偏光の入射角をブリュースター角近傍に調整することにより、二重像の発生を大幅に軽減させることができる。また、一般に路面からの反射光はS偏光であるため、観察者が偏光サングラスを使用場合がある。偏光サングラスは、S偏光を吸収できるように設計されているため、S偏光を利用した従来のHUDシステムでは、偏光サングラスを介したHUDの表示画像の視認性が極端に低下してしまう。一方、観察者にP偏光が到達する、P偏光を利用したHUDシステムであれば、二重像の発生を抑制できると共に、偏光サングラス着用時においても、表示画像の視認性を高めることができる。
【0098】
<反射鏡>
本発明のHUDシステムは、必要に応じて反射鏡を備えていてもよい。反射鏡は、表示器からの表示光を光学積層体に向けて反射することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、平面鏡、凹面鏡などから構成される。反射鏡として凹面鏡を用いた場合、凹面鏡は、表示器からの表示光を所定の拡大率で拡大することも可能である。
【実施例
【0099】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではなく、実施例において「部」は質量部を意味する。
【0100】
[実施例1]
<塗布液(液晶組成物)の調製>
表1に示す組成を有する塗布液Aを調製した。
【0101】
【表1】
【0102】
<ブロック層形成用の紫外線硬化樹脂塗布液の調製>
表2に示す組成を有する紫外線硬化樹脂組成物(ブロック層形成用樹脂組成物)の塗布液Bを調製した。
【0103】
【表2】
【0104】
<光学フィルムの作製>
調製した塗布液Aを用い、下記の手順にてそれぞれ光学フィルムを作製した。また、支持基板としてのプラスチック基板は、特開2002-90743号公報の実施例1に記載された方法で予めラビング処理されたTACフィルム(厚さ80μm)を使用した。
【0105】
(1)塗布液Aを、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる光学機能層としての1/2波長板の厚さが2μmになるように、TACフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。
(2)得られた塗膜を、50℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、TACフィルム上に重合性液晶層を積層した1/2波長板を作製した。
(3)1/2波長板の重合性液晶層側に、乾燥後にそれぞれ得られるブロック層の厚さが3.0μmになるように、ブロック層形成用樹脂組成物である塗布液Bを、室温で、ワイヤーバーを用いて塗布した。
(4)得られた塗膜を、80℃にて1分間加熱して溶剤を除去し、次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、1/2波長板の重合性液晶層側にブロック層を積層させた。こうして、1/2波長板の一方の面にブロック層を有し、1/2波長板の一方の面が支持基板(TACフィルム)である光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムをパラレルに配置した偏光板の間に置き、島津製作所製「紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」により偏光変換されるときの透過率を測定し、更には透過率が最小となる波長、すなわち偏光変換(性能)が最大となる波長を測定した。測定した結果、光学フィルムの偏光変換(性能)が最大となる波長は545nmであった。
【0106】
<光学積層体の作製>
厚さが0.38mmであり、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有したポリビニルブチラール樹脂製の透明な中間膜を2枚用い、作製した光学フィルムをポリビニルブチラールフィルムの中間膜の間に配置した。次いで、光学フィルムと2枚の中間膜とをラミネーターにて加圧圧着することにより、光学積層体を作製した。
【0107】
<機能性ガラスの作製>
1枚の厚さが2mmのガラス板2枚の間に、作製した光学積層体を配置し、次いで、下記方法にて、加圧・加熱することにより、機能性ガラスを作製した。
【0108】
まず、透明なガラス板上に、作製した光学積層体、透明なガラス板を順に重ねた。次にガラス板のエッジ部からはみ出した光学積層体の余分な部分を切断・除去した。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。予備圧着した光学積層体を室温まで冷却し、次いでこれをゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cm2の高圧下で30分間加熱・加圧した。こうして、外観が良好な機能性ガラスを作製した。作成した機能性ガラスについて、全光線透過率を測定したところ89.5%であり、優れた透過率を示した。なお、全光線透過率は、東京電色製の全自動ヘイズメーター「TC-HIIIDPK」を用いて、JIS規格品 K7105に準拠して測定した。
【0109】
[実施例2~8、比較例1~3]
実施例2~8、比較例1~3に係る光学フィルム、光学積層体および機能性ガラスは、表2における(B-1)熱可塑性樹脂を、表3に示す熱可塑性樹脂に変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。なお、比較例1はブロック層を有さず、また比較例2、3はブロック層中に熱可塑性樹脂を有さない構成である。比較例3の機能性ガラスについて、実施例1と同様にして全光線透過率を測定したところ88.5%であった。
【0110】
実施例1~8、比較例1~3に係る光学フィルムおよび機能性ガラスの各特性を以下のように測定および評価した。
【0111】
<オートクレーブ加工による波長シフト量>
光学フィルムから機能性ガラスを作製したときの偏光変換における最小波長を測定し、その差をオートクレーブ加工による波長シフト量S1(nm)として算出した。結果は表3に示すとおりであった。なお、オートクレーブ加工による波長シフト量S1(nm)は以下により求めた値である。
【0112】
【数3】
【0113】
<耐熱性評価>
実施例及び比較例で得られた機能性ガラスを120℃の高温雰囲気下に1200時間投入し、投入前後の波長シフトを測定した。結果は表3に示すとおりであった。なお、位相差値の変化の程度を示す耐久試験による波長シフト量S2(nm)は以下により求めた値である。
【0114】
【数4】
【0115】
<色相変化(ΔE)>
C領域において50mm×50mmの寸法で実施例1~8、比較例1~3に係る光学フィルム測定用試験片を切り出し、分光測色計コニカミノルタ社製CM-3600Aを用い、フィルム平面の法線と入射光が一致するように試験片をセットし、試験片上の任意の箇所の色度a*、色度b*、明度L*を、測定径Φ8mmのターゲットマスク条件下で、透過光にて測定した。その後測定箇所の中心から20mm以上あけるように試験片を移動させて同様の測定を4回繰り返し、5回の平均値からC領域の色度a*、色度b*、明度L*をそれぞれ、a*C、b*C、L*C、とした。同様の測定をE領域についても実施し、5回の平均値からE領域の色度a*、色度b*、明度L*をそれぞれa*E、b*E、L*E、とし、色相変化ΔEはC領域とE領域の色度a*、色度b*、明度L*の組み合わせで式(V)~(VIII)を用いて算出した。得られた色相変化ΔEの結果は表3に示すとおりであった。なお、色相変化試験は、耐熱促進試験機を用い、100℃-dryの条件下で1200時間行った。
【0116】
ΔL*=L*C-L*E・・・(V)
Δa*=a*C-a*E・・・(VI)
Δb*=b*C-b*E・・・(VII)
ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2・・・(VIII)
【0117】
<ヘイズの測定>
機能性ガラスをヘイズメーターで測定し、評価した。結果は表3に示すとおりであった。
【0118】
<密着性>
密着性はパンメル試験により評価した。具体的には、機能性ガラスを-18℃±0.6℃の温度で16時間冷凍機に投入したのち、機能性ガラスの中央部(縦150mm×横150mmの部分)を0.45kgのヘッドを有するハンマーで打って、ガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕した。ガラスが部分剥離した後のブロック層の露出度をパンメル値で判定した。求めたパンメル値より下記の基準で評価し、「△」以上を合格とした。結果は表3に示すとおりであった。
【0119】
○:剥れなし
△:ハンマーで打った後に剥れはないが、手で剥がそうとすると剥がすことができる
×:ハンマーで打った後に剥れがある
【0120】
<光学歪み>
機能性ガラスを透かして観察しときと光を反射させてみたときの光学歪みの有無を目視により評価した。像に歪みが観察されない場合を「○」、僅かに像に歪みが観察された場合を「△」、像に歪みが観察された場合を「×」とそれぞれ評価し、「△」以上を合格とした。結果は表3に示すとおりであった。
【0121】
【表3】
【0122】
・KS-10:ポリビニルアセトアセタール樹脂(積水化学工業社製、製品名「エスレックKS-10」)
・BL-1:ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、製品名「エスレックBL-1」)
・BM-S:ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、製品名「エスレックBM-S」)
・BL-S:ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、製品名「エスレックBL-S」)
・MD-1480:ポリエステル樹脂(東洋紡社製、製品名「バイロナールMD-1480」)
・MD-2000:ポリエステル樹脂(東洋紡社製、製品名「バイロナールMD-2000」
・UR-1700:ポリエステルウレタン樹脂(東洋紡社製、製品名「バイロンUR1700」)
・LIR-403:イソプレン樹脂(クラレ社製、製品名「クラプレンLIR-403」)
・PET30:ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬社製、製品名「KAYARAD PET30」)
・UX-4101:ウレタン樹脂(日本化薬社製、製品名「KAYARAD UX-4101」)
【0123】
表3より、熱可塑性樹脂を含むブロック層を有する実施例1~8で作製した機能性ガラスは、比較例1~3で作製した機能性ガラスに比べて、いずれも、オートクレーブ加工時の波長シフトS1、耐久試験による波長シフト量S2、色相変化ΔEにおいて優れた特性を示した。そのため、実施例1~8では、耐久性が高く、高温雰囲気下において、長期間に亘って位相差素子の位相差値の変化を抑制可能な光学フィルムを提供することができた。
【0124】
一方、ブロック層を有していない比較例1で作製した機能性ガラスは、オートクレーブ加工時の波長シフトS1および耐久試験による波長シフト量S2が多く、耐久性および高温雰囲気下における光学性能に劣っていた。また、密着性試験においてもブロック層とPVB層との間で剥がれが観察された。
【0125】
ブロック層中に熱可塑性樹脂を有していない比較例2、3で作製した機能性ガラスにおいても、オートクレーブ加工時の波長シフトS1および耐久試験による波長シフト量S2が多く、耐久性および高温雰囲気下における光学性能に劣っていた。また、光学歪み評価においても像に歪みが観察された。
【0126】
このように、本発明により、高い可視光透過率を維持しながら、特定の偏光の反射率のみを有効に向上させ、かつ耐久性が高く、長期間に亘って位相差値の変化を抑制することのできる光学フィルム、並びにこれを用いた光学積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。また、本発明の光学フィルムに用いられるブロック層は、上記位相差素子等の光学積層体との積層を容易になし得るものであり、作業性にも優れるため有用である。
【符号の説明】
【0127】
1:観察者
2:表示器
2A:光源
2B:偏光板
3:反射鏡
4:機能性ガラス
5:光路
6:表示画像
10:光学フィルム
101:光学機能層
102:ブロック層
20:光学積層体
201:中間膜
30:機能性ガラス
301:ガラス板


図1
図2
図3
図4
図5