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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】重ね合わせブランク及びその成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
B21D22/20 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021190423
(22)【出願日】2021-11-24
(65)【公開番号】P2023077210
(43)【公開日】2023-06-05
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】仲村 宗起
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-129059(JP,A)
【文献】特開平07-232223(JP,A)
【文献】特開2020-175400(JP,A)
【文献】特開2020-131226(JP,A)
【文献】特開2013-184221(JP,A)
【文献】特開2021-98451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00 - 26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨らんだ余肉部と、前記余肉部に隣接して設けられた第1平坦部と、前記第1平坦部とは反対側に前記余肉部に隣接して設けられた第2平坦部とを備える第1金属板と、
前記第1平坦部と前記第2平坦部において重ね合わされている平坦な第2金属板と、
前記第1平坦部と前記第2金属板とが接合された第1接合部と、
前記第2平坦部と前記第2金属板とが接合された第2接合部と、
を備え
前記第2接合部の接合強度は、前記第1接合部の接合強度に比べて高い、重ね合わせブランク。
【請求項2】
膨らんだ余肉部と、前記余肉部に隣接して設けられた第1平坦部と、前記第1平坦部とは反対側に前記余肉部に隣接して設けられた第2平坦部とを備える第1金属板と、
前記第1平坦部と前記第2平坦部において重ね合わせられている平坦な第2金属板と、
前記第1平坦部と前記第2金属板とが接合された第1接合部と、
前記第2平坦部と前記第2金属板とが接合された第2接合部と、
を備え
前記第2接合部の接合強度は、前記第1接合部の接合強度に比べて高い、重ね合わせブランクを準備し、
前記第1金属板を前記重ね合わせブランクの曲げの外側に位置させた状態で、前記重ね合わせブランクを曲げ加工する、重ね合わせブランクの成形方法。
【請求項3】
前記余肉部の長さは、前記余肉部の直線長さに前記第1金属板の線長変化代と前記第2金属板の線長変化代の差異を加えた長さよりも大きく設定される請求項2に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
【請求項4】
前記余肉部の長さは、以下の関係を満たす請求項2又は請求項3に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
L0+0.65(t1+t2)≦L1≦L0+1.35(t1+t2)
L0:余肉部の直線距離
L1:余肉部の長さ
t1:第1金属板の板厚
t2:第2金属板の板厚
【請求項5】
前記第1金属板及び前記第2金属板は、鋼板である請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
【請求項6】
前記第1金属板及び前記第2金属板は、高張力鋼板である請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
【請求項7】
前記第1金属板と前記第2金属板とは、スポット溶接によって接合される請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
【請求項8】
前記曲げ加工は、
成形品の肩部を形成するための凸形状のパンチ肩部を有するパンチ、及び、前記凸形状に対応する凹形状のダイ肩部を内部に有するダイを用意し、
前記重ね合わせブランクの前記余肉部の少なくとも一部が前記パンチの前記パンチ肩部にオーバラップするように配置し、
前記ダイを前記パンチに対して相対的に下降させる
請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の重ね合わせブランクの成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせブランク及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の骨格部材を金属板のプレス成形により製造する技術が知られている。このような自動車の骨格部材では、軽量化、低コスト化及び高強度化のために、板厚を部分的に増厚した金属板をプレス成形する場合がある。
【0003】
特許文献1には、第1金属板と第2金属板とを重ね合わせ、重なった部分を線溶接によって接合した重ね合わせブランクを形成し、重ね合わせブランクをハット状にプレス成形する成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-197969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された重ね合わせブランクのプレス成形方法では、プレス成形の時点で既に第1金属板と第2金属板とが接合部で拘束されているため、曲げの際、線長差に起因して曲げの内側にある部材には圧縮、外側にある部材には引っ張りが生じる傾向にある。このため、接合部に剪断応力が生じ、接合部が破断する場合がある。また、曲げ加工後に荷重を除き製品を離型すると弾性的な回復が起こって形状が戻る、いわゆるスプリングバックが生じ、プレス成形品の形状が所望の形状と一致しなくなる場合がある。
【0006】
本発明は、重ね合わせブランク及びその成形方法において、重ね合わせて接合された複数の金属板からなる重ね合わせブランクを曲げ加工するプレス成形時に、接合部の破断の回避と、スプリングバックの抑制を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、膨らんだ余肉部と前記余肉部に隣接して設けられた第1平坦部と、前記第1平坦部とは反対側に前記余肉部に隣接して設けられた第2平坦部とを備える第1金属板と、前記第1平坦部と前記第2平坦部において重ね合わされている平坦な第2金属板と、前記第1平坦部と前記第2金属板とが接合された第1接合部と、前記第2平坦部と前記第2金属板とが接合された第2接合部と、を備え、前記第2接合部の接合強度は、前記第1接合部の接合強度に比べて高い、重ね合わせブランクを提供する。
【0008】
本発明によれば、余肉部が接合部間に設けられるので、重ね合わせブランクを曲げ加工するプレス成形時に、第1金属板と第2金属板の接合部間の線長差に起因する歪を余肉部の変形で吸収し、接合部に生じる剪断応力を軽減できるので、溶接部の破断が回避される。また、曲げ加工時に、第1金属板は余肉部が延びることで変形するので、余肉部が備えられていない場合よりも曲げによる引張応力が抑制され、スプリングバックを抑制できる。さらに、余肉部がつぶれ変形することによって、第1金属板には、圧縮応力が生じる。この圧縮応力によって、スプリングバックを生じさせる第1金属部材の引張応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランクのスプリングバックがさらに抑制できる。
【0009】
第2金属板は第1金属板に拘束されているので、曲げ加工中に生じる余肉部の変形時において、第2金属板には、曲げ加工時に生じる圧縮応力に加えて、第1金属板の余肉部の変形に追従することによる引張応力が生じる。この引張応力によって、スプリングバックを生じさせる第2金属板の圧縮応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランクのスプリングバックが抑制される。
【0010】
また第2金属板に生じた引張応力によって、重ね合わせブランクの接合部間における第2金属板の圧縮方向の曲げ変形が抑制されるので、第2金属板と第2金属板に対向する金型との間に隙間が生じる。
【0011】
その後、曲げ変形が進むに連れて、金型によって前記隙間を消失させるように第2金属板が幅方向内側に向かって変形する。これにより、第2金属板の曲げの内側の面には、さらに引張応力が生じ、スプリングバックを生じさせる第2金属板の圧縮応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランクのスプリングバックがさらに抑制される。
【0012】
本発明の第2の態様は、膨らんだ余肉部と、前記余肉部に隣接して設けられた第1平坦部と、前記第1平坦部とは反対側に前記余肉部に隣接して設けられた第2平坦部とを備える第1金属板と、前記第1平坦部と前記第2平坦部において重ね合わせられている平坦な第2金属板と、前記第1平坦部と前記第2金属板とが接合された第1接合部と、前記第2平坦部と前記第2金属板とが接合された第2接合部と、を備え、前記第2接合部の接合強度は、前記第1接合部の接合強度に比べて高い、重ね合わせブランクを準備し、前記第1金属板を前記重ね合わせブランクの曲げの外側に位置させた状態で、前記重ね合わせブランクを曲げ加工する、重ね合わせブランクの成形方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、前記重ね合わせブランクを曲げ加工するプレス成形時と同様の効果が得られる。
【0014】
前記余肉部を設けたことによる線長増加は、曲げ加工前後の前記第1金属板の線長変化代と前記第2金属板の線長変化代の差異よりも大きく設定されることが好ましい。
【0015】
本構成によれば、余肉部の長さが第1金属板の曲げ加工前後の線長変化代よりも大きく設定されているので、線長変化後に残った余肉部が金型によって圧縮変形される。これにより、第1金属板には、曲げ加工によって生じる引張応力に加えて圧縮応力が生じるので、スプリングバックを生じさせる第1金属板の引張応力の一部が圧縮応力によってキャンセルされて、重ね合わせブランクのスプリングバックが抑制される。
【0016】
前記余肉部の長さは、以下の関係を満たすことが好ましい。
【数1】
L0:余肉部の直線距離
L1:余肉部の長さ
t1:第1金属板の板厚
t2:第2金属板の板厚
【0017】
本構成によれば、余肉部の長さが適切に設定することができるので、接合部の破断を回避しつつ、重ね合わせブランクのスプリングバックを抑制できる。具体的には、余肉部の長さがL0+0.65(t1+t2)未満である場合、良好な接合部の破断及びスプリングバックの抑制効果が得られにくい。余肉部の長さがL0+1.35(t1+t2)よりも大きい場合、第1金属板の余肉部が過剰に余ってしまい、その余肉部を所定の形状まで変形させた際に第1金属板と第2金属板の接合部にせん断応力が生じ、接合部が破断する可能性がある。
【0018】
前記第1金属板及び前記第2金属板は、鋼板であってもよい。
【0019】
本構成によれば、プレス加工時の加工圧の上昇による接合部の破断、および、スプリングバックが大きくなりやすい引張強度の高い鋼板に本発明の構成を適用することで、好適に効果を発揮する。
【0020】
前記第1金属板及び前記第2金属板は、高張力鋼板であってもよい。
【0021】
本構成によれば、プレス加工時の加工圧の上昇による接合部の破断、および、スプリングバックが大きくなりやすい引張強度の高い高張力鋼板に本発明の構成を適用することで、より好適に効果を発揮する。
【0022】
前記第1金属板と前記第2金属板とは、スポット溶接によって接合されてもよい。
【0023】
本構成によれば、線溶接等に比べて接合部の強度が低いスポット溶接であっても、接合部の破断が抑制できるので、線溶接に比べてコストを低減できる。
【0024】
前記曲げ加工は、成形品の肩部を形成するための凸形状のパンチ肩部を有するパンチ、及び、前記凸形状に対応する凹形状のダイ肩部を内部に有するダイを用意し、前記重ね合わせブランクの前記余肉部の少なくとも一部が前記パンチの前記パンチ肩部にオーバラップするように配置し、前記ダイを前記パンチに対して相対的下降させることが好ましい。
【0025】
本構成によれば、線長変化の大きいパンチ肩部に余肉部を配置することで、余肉部による線長変化の吸収、及び、引張応力の低減がより達成されやすい。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる重ね合わせブランク及びその成形方法によれば、重ね合わせて接合された複数の金属板からなるブランクを曲げ加工するプレス成形時に、溶接部の破断の回避と、スプリングバックの抑制ができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】重ね合わせブランクの曲げ加工前を示す斜視図。
図2図1における矢印II方向で見た拡大底面図。
図3図1におけるIII-III線に沿った部分拡大断面図。
図4】本発明の実施形態に係る重ね合わせブランクのプレス成形品の成形方法を実行する成形装置を模式的に示す断面図。
図5】曲げ加工前のパンチ、ダイ及び重ね合わせブランクを示す断面図。
図6】重ね合わせブランクをパンチ及びダイでプレスした状態(下死点)を示す断面図。
図7】本発明の実施形態に係る重ね合わせブランクの成形方法によって成形された成形品の斜視図。
図8】重ね合わせブランクをパンチ及びダイでプレスした状態(下死点18mmアップ)での応力分布図。
図9】重ね合わせブランクをパンチ及びダイでプレスした状態(下死点8mmアップ)での応力分布図。
図10】重ね合わせブランクの下死点での応力分布図。
図11】重ね合わせブランクの変形例を示す斜視図及び成形後の断面図。
図12】比較例及び実施例に係る重ね合わせブランクのスプリングバックの解析結果を示す模式図。
図13】比較例及び実施例に係る重ね合わせブランクの下死点での応力分布図。
図14】余肉部のパンチ肩部に対する位置を変化させた場合のスプリングバックの解析結果を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0029】
本発明の実施形態に係る重ね合わせブランクの成形方法は、第1金属板と、第2金属板とを重ね合わせて接合した重ね合わせブランクをプレス成形して所望の形状のプレス成形品を得るものである。本方法は、特に自動車の車体骨格を構成する車体構成部材を形成するために使用されることができる。以下では、本方法を使用して断面ハット状の車体構成部材を成形する方法について説明する。
【0030】
図1から図3は、本発明の実施形態に係る重ね合わせブランク1を示す。図1を参照すると、この重ね合わせブランク1は、板厚一定の金属板からなる本体部材2(第1金属板)と、同様に板厚一定の金属板からなる補強部材3(第2金属板)とを備える。本実施形態では、本体部材2及び補強部材3は、例えば、引張強度が590MPa以上のいわゆる高張力鋼板である。
【0031】
図1を参照すると、本体部材2は、幅方向の中心線C1を挟んで両側にそれぞれ、膨らんだ余肉部2aと、余肉部2aに隣接して設けられた第1平坦部2bと、第1平坦部2bとは反対側で余肉部2aに隣接して設けられた第2平坦部2cとを備える。補強部材3は、第1平坦部2bと第2平坦部2cとにおいて重ね合わされている。余肉部2aは、本体部材2を曲げの外側に突出するように撓ませることで形成され、長手方向に延びている。具体的には、余肉部2aは、本体部材2の長手方向の一端から他端まで連続して延びている。
【0032】
補強部材3は、本体部材2の内側(重ね合わせブランク1のプレス成形時における曲げの内側)に必要に応じて部分的に補強部材3を重ね合わせて接合することで、重ね合わせブランク1を形成する。本実施形態の重ね合わせブランク1は、補強部材3の幅方向の中央部と本体部材2の幅方向の中央部との位置が一致している。
【0033】
本実施形態では、補強部材3は本体部材2よりも幅狭かつ本体部材2と同じ長手方向長さである。重ね合わせブランク1のうち本体部材2と補強部材3とが重ね合わされている領域を、以下、重合部4ともいう。重ね合わせブランク1は、重合部4が設けられた中央部の厚さが幅方向両端部よりも厚く、強度が高められている。
【0034】
図1に示すように、重ね合わせブランク1は、重合部4(補強部材3)の幅方向中央部に位置する第1接合部11と、重合部4(補強部材3)の幅方向両端部に設けられた第2接合部12とを有する。言い換えると、第1接合部11は、第2平坦部2cと第2平坦部2cに重ね合わせられた補強部材3とが溶接された部位であり、第2接合部12は、第1平坦部2bと第1平坦部2bに重ね合わさせられた補強部材3とが溶接された部位である。第1接合部11及び第2接合部12では、長手方向に沿って一列に並ぶ複数の第1及び第2溶接打点11a,12aが設けられ、本体部材2と補強部材3とが接合されている。
【0035】
図2は、図1の矢印II方向から重ね合わせブランク1を見たときの底面図であって、重ね合わせブランク1の中心線C1の一方側のみを示している。図2に示すように、第1接合部11の長手方向に隣接する第1溶接打点11aの間隔W1は、第2接合部12の長手方向に隣接する第2溶接打点12aの間隔W2よりも大きいさい。本実施形態においては、第1接合部11の第1溶接打点11aの間隔W1は、例えば、50mmで、第2接合部12の第2溶接打点12aの間隔W2は、例えば、25mmである。溶接打点間の距離を狭く設定することで、第2接合部12の接合強度は、第1接合部11の接合強度に比べて高められている。
【0036】
図3は、図1のIII-III線に沿った断面図であって、重ね合わせブランク1の中心線C1の一方側のみを示している。図3に示すように、本実施形態の余肉部2aは、円弧状の断面形状を有する。余肉部2aでは、本体部材2が補強部材3の上面から離間している部分である。余肉部2aによって、本体部材2と補強部材3との間には隙間S1が形成されている。余肉部2aは、長手方向に延びているので、隙間S1も余肉部2a同様に長手方向に延びている。余肉部2aは、幅方向の両端においてそれぞれ補強部材3の上面から離間する第1立ち上がり部2d及び第2立ち上がり部2eと、第1及び第2立ち上がり部2b,2c間の中央部2fとを有する。
【0037】
中央部2fは、補強部材3よりも下方(曲げ内側)に位置する曲率中心O1を中心として曲率半径R1である円弧状に延びている。第1立ち上がり部2dは、第1接合部11の第1溶接打点11aよりも幅方向外側の位置から補強部材3から離間する方向(曲げの上側)に向かって延びる円弧状に形成されている。第2立ち上がり部2eは、第2接合部12の第2溶接打点12aよりも幅方向内側の位置から補強部材3から離間する方向に向かって延びる円弧状に形成されている。
【0038】
第1立ち上がり部2d及び第2立ち上がり部2eは、本体部材2よりも上方(曲げ外側)に位置する曲率中心O2を中心として曲率半径R2を有する。第1立ち上がり部2d及び第2立ち上がり部2eによって、中央部2fと本体部材2の上面とが滑らかに接続されている。第1立ち上がり部2d及び第2立ち上がり部2eの曲率半径R2は、中央部2fの曲率半径R1よりも小さく設定されている。
【0039】
本実施形態の第1及び第2立ち上がり部2b,2cの曲率半径R2は、例えば、5.0mmに設定されている。本実施形態の中央部2fの曲率半径R1は、例えば、13.7mmに設定されている。本実施形態において、余肉部2aの本体部材2の上面からの突出量t3は、例えば、6mm以下に設定されている。突出量t3が6mmよりも大きくなると、成形時に余肉部を押しつぶす際に、余肉部が横倒れして折れ重なる場合がある。また、突出量t3が6mmよりも大きくなると、成形品の状態では、余肉部が消失せずに残ってしまう虞がある。突出量t3は、第2接合部12の第2溶接打点12aが設けられている本体部材2の第2平坦部2cの上面から余肉部2aの中央部2fの上端までの高さである。本実施形態においては、余肉部2aを円弧で規定したが、これに限られるものではなく、放物線などでもよい。
【0040】
長手方向に直交する断面における余肉部2aの断面長さL1と直線長さL0との差異(L1-L0)は、余肉を設けなかった場合の本体部材2の曲げ加工前後の線長変化代と補強部材3の曲げ加工前後の線長変化代の差異ΔLより大きい。ここで、断面長さL1は、余肉部2aの第1立ち上がり部2dの幅方向内端から第2立ち上がり部2eの幅方向外端までの長さである。線長変化代ΔLは、曲げ加工後の本体部材2の第1接合部11の接合打点11aと第2接合部12の接合打点12aとの距離L12(図6参照)と曲げ加工後の補強部材3の第1接合部11の接合打点11aと第2接合部の接合打点12aとの距離L13(図6参照)の差としてもよい。
【0041】
より詳しくは、余肉部2aの長手方向に直交する断面における長さ(断面長さ)は、以下の関係を満足する。
【数2】
L0:余肉部の直線距離
L1:余肉部の長さ
t1:第1金属板の板厚
t2:第2金属板の板厚
本実施形態において、本体部材2の板厚t1は、例えば、1.4mmである。補強部材3の板厚t2は、例えば、1.4mmである。
【0042】
図4を参照して、プレス成形装置20は、板状の重ね合わせブランク1をハット状にプレス成形する装置である。
【0043】
本実施形態のプレス成形装置20は、固定台21と、金型30と、駆動機構22とを備える。金型30は、パンチ31と、ダイ32とを備える。また、駆動機構22の詳細な構成はプレス成形装置20に一般に使用されるものと相違ないため、詳細な説明および図示は省略する。
【0044】
固定台21は、固定されており不動である。固定台21には上向きに突出するようにパンチ31が取り付けられている。従って、パンチ31も、固定されており不動である。ダイ32は、油圧式又は機械式の駆動機構22の作動により上下方向に駆動されて昇降する(矢印A1参照)。駆動機構22は、ダイ32の昇降を停止させ、加圧状態を保持できる。
【0045】
パンチ31は、凸形状を有している。パンチ31は、パンチ頂部31aと、パンチ頂部31aの両端に設けられた左右一対のパンチ肩部31bと、各パンチ肩部31bから斜め下方に延びるパンチ側部31cとを備える。パンチ頂部31aは、水平な平坦面であり、パンチ頂部31aの幅は、重ね合わせブランク1の補強部材3(重合部4)の幅よりも小さい。成形時に、パンチ31のパンチ頂部31aの幅方向中央と、重ね合わせブランク1の幅方向中央部とを一致させて配置した場合、重合部4は、パンチ頂部31aからパンチ側部31cに跨って配置される。
【0046】
パンチ側部31cは、段差31dのある平坦面となっている。段差31dの高さは、補強部材3の厚みt2に概ね対応している。したがって、パンチ31の表面は、補強部材3の大きさに対応してパンチ肩部31bから段差31dにかけて一段下げられている。
【0047】
パンチ側部31cは、固定台21と共に角部31eを形成する。固定台21は、角部31eを介しフランジ面部31fを構成している。フランジ面部31fは、水平方向外側に延びる平坦面となっている。
【0048】
ダイ32は、内部に凹形状を有している。ダイ32は、中央に位置する第1ダイ(パッド)33と、第1ダイ33を挟んで両側に位置する第2ダイ34及び第3ダイ35とを備える。第1ダイ33と、第2及び第3ダイ34,35とは、駆動機構22によって異なるタイミングで昇降可能となっている。
【0049】
第1ダイ33は、正面視において矩形状を有し、上下方向に延びている。第1ダイ33は、ダイ32の凹形状のダイ底面32aを構成し、パンチ頂部31aに対向する水平な平坦面を有する。プレス成形の際には、二点鎖線で示すように最初に第1ダイ33が下降して、重ね合わせブランク1に接触するようにされている。ダイ底面32aの幅は、余肉部2a間の幅よりも小さい。したがって、プレス成形の際に、ダイ底面32aとパンチ頂部31aとによって重ね合わせブランク1が挟持される段階では、余肉部2aが変形されない。
【0050】
図5に示すように、ダイ底面32aの幅は、幅方向一対の第1溶接打点11aと幅方向位置がオーバラップするように設定されている。したがって、プレス成形の際に、幅方向一対の第1溶接打点11a間が第1ダイ33とパンチ頂部31aによって拘束されて、幅方向一対の第1溶接打点11a間の変形が抑制される。これにより、プレス成形の際に、第1溶接打点11aと第2溶接打点12aとの間の本体部材2と補強部材3との間の線長変化代ΔLを余肉部2aで吸収しやすい。
【0051】
第2ダイ34及び第3ダイ35は、正面視において概ね倒L字状を有する。第2ダイ34及び第3ダイ35は、上下方向に延びるベース部34a,35aと、ベース部34a,35aの幅方向内側(第1ダイ33に向かう側)の面の一部を切り欠いた切欠き部34b,35bと、を備える。切欠き部34b,35bは、長手方向に連続して形成されている。
【0052】
切欠き部34b,35bは、ダイ32の凹形状のダイ肩部32b及びダイ肩部32bから斜め下方に延びるダイ側部32cを構成し、ダイ側部32cは、平坦面となっている。ダイ側部32cは、パンチ側部31cと対向し、概ね平行に形成されている。
【0053】
ダイ側部32cの下端には、肩R部32dと、肩R部32dを介してフランジ面部32eが接続されている。フランジ面部32eは、固定台21のフランジ面部31fと対向し、幅方向外側に延びる平坦面となっている。
【0054】
次に、図4図7を参照しながら、重ね合わせブランク1の成形方法について説明する。図4図7は、本実施形態に係る重ね合わせブランク1の成形方法の各工程を順に示している。なお、図5図7では、図示を明瞭にするため、重ね合わせブランク1と金型30の幅方向一方側の断面のみが示されている。
【0055】
まず、上方に突出する余肉部を備えた本体部材2と、平坦な補強部材3とを互いに重ね合わせて接合した重ね合わせブランク1を準備し、本体部材2を重ね合わせブランク1の曲げの外側に位置させた状態で、重ね合わせブランク1を曲げ加工する。プレス成形は室温等で実施されるいわゆる冷間で行っても、ホットスタンプ等の熱間で行ってもよい。
【0056】
図4は、準備工程を示している。準備工程では、重ね合わせブランク1を金型30にセットする。このとき、重ね合わせブランク1は、本体部材2が上側に位置して配置されている。このように配置されると、余肉部2aが線長変化の大きい曲げの上側に配置されることになる。
【0057】
図5及び図6は、曲げ加工を実行する曲げ工程を示している。図5は、曲げ加工前を示しており、図6は曲げ加工後を示している。
【0058】
図5に示すように、曲げ加工前の状態では、駆動機構22(図4参照)によって第1ダイ33が下降され、第1ダイ33のダイ底面32aが重ね合わせブランク1の重合部4に接触する。パンチ31のパンチ頂部31aとダイ32のダイ底面32aとによって重合部4を挟み込んだ状態となる。このとき、重ね合わせブランク1は、余肉部2aの少なくとも一部がパンチ31のパンチ肩部31bにオーバラップするように配置される。
【0059】
具体的には、余肉部2aの幅方向の中心線C2よりも幅方向内側の領域Z1が、パンチ肩部31bよりも幅方向位内側となるように配置される。より好ましくは、余肉部2aの第1立ち上がり部2dは、パンチ肩部31bの幅方向外側のR止まりを通る図5の破線で示す直線Xよりも幅方向内側の領域Z2に位置する。重ね合わせブランク1を曲げ加工する際に、重ね合わせブランク1の幅方向中央部、より詳しくは、幅方向一対の余肉部2a間が、パンチ31のパンチ頂部31aと第1ダイ33のダイ底面32aによって拘束される。
【0060】
そして、曲げ加工前の状態では、駆動機構22(図4参照)によって第2ダイ34及び第3ダイ35が下降されて、第2ダイ34及び第3ダイ35の肩R部32dが重ね合わせブランク1に接触する。具体的には、第2ダイ34及び第3ダイ35の肩R部32dが、余肉部2aの幅方向の中心線C2よりも幅方向外側の領域Z3に当接する。より好ましくは、肩R部32dは、余肉部2aの中央部2fのうち第2立ち上がり部2e側の部位と当接する。
【0061】
その後、図6に示すように第2ダイ34及び第3ダイ35を下死点(曲げ加工完了となるダイ32の下端位置)まで下降させて、重ね合わせブランク1を曲げ加工する。曲げ加工中の重ね合わせブランク1の変形及び重ね合わせブランク1に発生する応力分布の変化について詳細を後述する。
【0062】
このようにして、図7に示すようなハット状のプレス成形品5を製造することができる。プレス成形品5は、頂面部5aと、頂面部5aの幅方向両側の肩部5bと、肩部5bから下方に向かって幅方向外側に傾斜する縦壁部5cと、縦壁部5cの下端から幅方向外側へ延びるフランジ部5dとを有する。
【0063】
補強部材3は、頂面部5aと縦壁部5cに跨るようにプレス成形品5の内面側に設けられている。言い換えると、重合部4が頂面部5aと縦壁部5cに跨って形成されている。プレス成形品5の状態では、第1接合部11の接合打点11aは頂面部5aに位置し、第2接合部12の接合打点12aは縦壁部5cに位置し、余肉部2aによって形成された隙間S1が消失する。
【0064】
次に、図8図10を参照しながら、曲げ加工の際の本体部材2及び補強部材3に生じる応力分布について説明する。図8図10では、引張応力が作用する部分を濃色で示し、圧縮応力が作用する部分を淡色で示す。図8は、余肉部2aによって線長変化が吸収された(本実施形態においては、例えば、ダイ32を下死点から18mm上方に位置させた)状態における応力分布が示されている。図9は、余肉部2aをダイ32で圧縮変形させる(本実施形態においては、例えば、ダイ32を下死点から8mm上方に位置させた)状態における応力分布が示されている。図10は、ダイ32を下死点に位置させた状態における応力分布が示されている。なお、図8図10は、図示を明瞭にするため、重ね合わせブランク1と金型30の肩部周辺のみが拡大表示されている。
【0065】
図8では、第3ダイ35の肩R部32dによって、重ね合わせブランク1の余肉部2aよりも外側の部分(第1平坦部2b)が押し下げられることで曲げ変形が生じている。したがって、図8に示す下死点から18mm上方に位置する時点では、余肉部2aの曲げの外側の面(反補強部材3側の面)と、第3ダイ35とは当接していないため、余肉部2aの曲げの内側の面(補強部材3側の面)に引張応力(矢印a1参照)が生じ、本体部材2は余肉部2aが上下方向に延びるように変形する。その結果、余肉部2aによって形成されている本体部材2と補強部材3との間に設けられた隙間S1が小さくなる。
【0066】
このとき、補強部材3は、本体部材2と第1接合部11及び第2接合部12で互いに拘束されているため、余肉部2aの変形(余肉部2aが上下方向に延びる変形)に追従する。これにより、成形後に補強部材3の肩部となる部分に生じる曲げ変形による圧縮応力は、図8の仮想線で示す第2接合部12を設けずに補強部材3がパンチ31に形状になじむように変形する場合に比べて、低減されている。このとき、補強部材3はパンチ31の形状になじまず、補強部材3とパンチ31との間に隙間S2が生じる。
【0067】
図9に示すように、さらに曲げ加工を進めると、下降する第3ダイ35のダイ側部32cによって、余肉部2aと補強部材3との間の隙間S1が消失する(つぶされる)ように、線長変化後に残った本体部材2の余肉部2aが圧縮変形され、余肉部2aの曲げの外側の面には圧縮応力(矢印a2参照)が生じる。これにより、本体部材2に線長変化後に残る余肉部2aを設けない場合に比べて、成形後に本体部材2の肩部となる部分に生じる曲げ変形による引張応力(矢印a3参照)が、低減される。このとき、補強部材3とパンチ31との間の隙間S2は残った状態である。
【0068】
図10に示すように、ダイ32が下死点に至ると、下降する第3ダイ35のダイ側部32cによって、補強部材3とパンチ31との間の隙間S2が消失する(つぶされる)ように補強部材3が圧縮変形され、補強部材3の本体部材2側の面に圧縮応力が生じ、反本体部材2側の面には引張応力(矢印a4参照)が生じる。これにより、成形後に補強部材3の縦壁部となる部分に生じる引張応力によって、成形後に補強部材3の肩部となる部分生じる圧縮応力(矢印a5参照)が減少される。
【0069】
このように、余肉部2aを設けることで本体部材2の縦壁部に圧縮応力が発生すると共にパンチ肩部31bの引張応力が減少する。縦壁部に接合部を設けることで、本体部材2ではパンチ肩部の引張応力が減少し、縦壁部で圧縮応力が増加する。また、補強部材3ではパンチ肩部の圧縮応力が減少し、側壁部で引張応力が発生する。これにより、離型時におけるスプリングバックが抑制される。
【0070】
以上の構成により、本実施形態に係る重ね合わせブランク1の成形方法は以下の効果が得られる。
【0071】
重ね合わせブランク1を曲げ加工する際、本体部材2と補強部材3は、第1接合部11及び第2接合部12によって互いに拘束されている。したがって、曲げの進行に伴い、線長差に起因して曲げの内側にある補強部材3には圧縮応力、曲げの外側にある本体部材2には引張応力が生じる傾向にある。このため、第1溶接打点11aに剪断応力が生じ、本体部材2及び補強部材3の接合部11,12に大きな負荷がかかって第1溶接打点11aが破断する場合がある。また、曲げ加工で加工後に荷重を除き製品を離型すると弾性的な回復が起こって形状が戻る、いわゆるスプリングバックが生じ、プレス成形品の形状が所望の形状と一致しなくなる場合がある。
【0072】
本実施形態においては、第1接合部11と第2接合部12間に余肉部2aが設けられているので、重ね合わせブランク1を曲げ加工するプレス成形時に、本体部材2と補強部材3の第1接合部11と第2接合部12間の線長差に起因するひずみを余肉部2aの変形で吸収し、接合部に生じる剪断応力を軽減できるので、第1溶接打点11aの破断を回避できる。
【0073】
曲げ加工時に本体部材2は余肉部2aが延びるように変形するので、余肉部が備えられていない場合よりも曲げによる引張応力が抑制されて、スプリングバックが抑制できる。さらに、余肉部が2aつぶれ変形することによって、本体部材2には、圧縮応力が生じる。この圧縮応力によって、スプリングバックを生じさせる本体部材2の引張応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランク1のスプリングバックがさらに抑制できる。
【0074】
補強部材3は本体部材2に拘束されているので、補強部材3には、曲げ加工時に生じる圧縮応力に加えて、本体部材2の余肉部2aの変形に追従することによる引張応力(図8矢印a1参照)が生じる。これにより、スプリングバックを生じさせる補強部材3の圧縮応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランク1のスプリングバックが抑制される。
【0075】
引張応力によって、重ね合わせブランク1の第1及び第2接合部11,12間における補強部材3の圧縮方向の曲げ変形が抑制されるので、プレス成形過程の前半においては、補強部材3と補強部材3に対向するパンチ側部31cとの間に隙間S2が生じる。
【0076】
曲げ変形が進むに連れて、前記隙間S2を消失させるように補強部材3が幅方向内側に向かって変形するので、補強部材3の曲げの内側の面にはさらに引張応力(図10矢印a4参照)が生じる。これにより、スプリングバックを生じさせる補強部材3の圧縮応力の一部がキャンセルされて、重ね合わせブランク1のスプリングバックがさらに抑制される。
【0077】
余肉部2aの断面長さL1と直線長さL0との差異(L1-L0)は、余肉を設けなかった場合の本体部材2の曲げ加工前後の線長変化代と補強部材3の曲げ加工前後の線長変化代の差異ΔLよりも大きく設定されているので、線長変化後に残った余肉部2aが金型30によって圧縮変形される。これにより、本体部材2には、曲げ加工によって生じる引張応力に加えて圧縮応力(図9矢印a2参照)が生じるので、スプリングバックを生じさせる本体部材2の引張応力(図9矢印a3参照)の一部が圧縮応力によってキャンセルされて、重ね合わせブランク1のスプリングバックが抑制される。
【0078】
余肉部2aの長さL1は、本体部材2の板厚をt1とし、補強部材の板厚をt2としたときに、L0+0.65(t1+t2)以上、L0+1.35(t1+t2)以下に設定されるので、接合部11,12の破断を回避しつつ、重ね合わせブランク1のスプリングバックを抑制できる。
【0079】
具体的には、余肉部の長さがL0+0.65(t1+t2)未満である場合、良好な接合部の破断及びスプリングバックの抑制効果が得られにくい。余肉部の長さがL0+1.35(t1+t2)よりも大きい場合、第1金属板の余肉部が過剰に余ってしまい,その余肉部を所定の形状まで変形させた際に第1金属板と第2金属板の接合部にせん断応力を生じ,接合部が破断する可能性がある。
【0080】
本体部材2及び補強部材3は、鋼板、例えば高張力鋼板で形成されているので、スプリングバックが大きくなりやすい強度の高い鋼板に適用することで、好適に効果を発揮する。
【0081】
本体部材2と補強部材3とは、線溶接に比べて接合部の強度が低いスポット溶接によって接合されている場合においても接合部11,12の破断が抑制できるので、線溶接に比べてコストを低減できる。
【0082】
重ね合わせブランク1は、余肉部2aの少なくとも一部がパンチ肩部31bにオーバラップするように配置されるので、余肉部2aによる線長変化の吸収、及び、引張応力の低減がより達成されやすい。
【0083】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0084】
本実施形態においては、本体部材2及び補強部材3は、引張強度が590Mpa以上の高張力鋼板であることを説明したが、これに限られず、アルミニウム合金からなる金属板、鋼板、引張強度590MPa未満の高張力鋼板等であってもよい。
【0085】
本実施形態においては、本体部材2及び補強部材3の板厚t1,t2がいずれも1.4mmであることを説明したが、これに限られず、板厚t1,t2の板厚が異なっていてもよい。
【0086】
本実施形態においては、本体部材2の幅方向の中央部と補強部材3の幅方向の中央部との位置が一致することを説明したが、これに限られず、補強部材3の中央部が本体部材2の中央部に対して幅方向位置がずれて配置されていてもよく、例えば、ハット状の成形品の一方側の肩部のみに補強部材3が設けられていてもよい。
【0087】
本実施形態においては、本体部材2に比べて補強部材3が幅狭であることを説明したが、これに限られず、補強部材3は本体部材2と同じ幅以上であってもよい。
【0088】
本実施形態においては、本体部材2の内側に補強部材3が重ね合わせられていることを説明したが、これに限られず、図11に示すように、補強部材3が本体部材2の外側に重ね合わせられていてもよい。この場合、補強部材3を第1金属板とし、本体部材2を第2金属板として、補強部材3に余肉部が設けられていればよい。
【0089】
本実施形態においては、第1接合部11の第1溶接打点11aの間隔W1が第2接合部12の第2溶接打点12aの間隔W2よりも大きいことを説明したが、これに限られず、第1接合部11の間隔W1と第2接合部12の間隔W2は同じであってもよいし、成形品の頂面部5aに位置する第1接合部11を設定しなくてもよい。部材強度上に問題がなく第1接合部11を設定しない場合は、基準穴を設けてロケートピンで幅方向のずれを拘束できればよい。
【実施例
【0090】
表1には、比較例1および実施例1の重ね合わせブランクについて、接合部の破断の解析を行った結果が示されている。比較例1及び実施例1の重ね合わせブランクは、いずれも本体部材と補強部材には引張強度が980MPaの高張力鋼板を冷間プレス成形することでハット状のプレス成形品を得る。接合部の破断抑制の効果は、スポット打点が所定の破断判定基準に到達した場合に、解析中に要素が消滅するかどうかを評価した。
【0091】
比較例1は、側壁部に接合部を設けると共に余肉部が設けられていない従来例に係る重ね合わせブランクである。実施例1は、余肉部及び側壁部に接合部が設けられている本発明の実施形態に係る重ね合わせブランクである。
【0092】
【表1】
【0093】
表1からわかるように、余肉部が設けられていない比較例1では、成形後に接合部が破断している。これに対し、余肉部が設けられている実施例1では、成形後においても接合部の破断が生じない。したがって、本体部材に余肉部を設けることによって、成形中に本体部材と補強部材との間に生じるひずみ差を緩和し、接合部にかかる応力を減少させて、側壁部における接合部の破断が回避されている。
【0094】
図11には、比較例1,2および実施例1の重ね合わせブランクについて、成形後のスプリングバック量の解析を行った結果が模式的に示されている。比較例1,2および実施例1の重ね合わせブランクは、いずれも本体部材と補強部材には引張強度が980MPaの高張力鋼板を冷間プレス成形することでハット状のプレス成形品を得る。スプリングバック抑制の効果は、重ね合わせブランクをハット状に成形し、その後、スプリングバック解析した結果(実線)と、下死点での形状(二点鎖線)を重ね合わせて、両者の差に基づいて評価した。
【0095】
比較例1及び実施例1は、表1に示す比較例1及び実施例1の条件と同一であるが、成形後に接合部が破断するため比較例1については、側壁部の接合部を設けずに解析を行った。比較例2は、余肉部を設けると共に側壁部に接合部が設けられていない従来例に係る重ね合わせブランクである。
【0096】
図11から明らかなように、実施例1では、比較例1に比べて、縦壁部5c及びフランジ部5dにおける下死点での成型品の形状(二点鎖線)とスプリングバック後の形状(実線)との差が小さくなって、スプリングバック量が抑制されており、実施例1はスプリングバックの抑制にも効果があることがわかる。余肉部が設けられると共に側壁部に接合部が設けられていない比較例2では、縦壁部5c及びフランジ部5dにおける下死点での成型品の形状(二点鎖線)とスプリングバック後の形状(実線)とに大きな差はみられず、スプリングバック量の大きな抑制効果が見られない。したがって、実施例1のように余肉部を設けかつ側壁部に接合部を設けることで、スプリングバックが抑制されることがわかる。
【0097】
図12には、前述の比較例1,2および実施例1の重ね合わせブランクを曲げ加工した際の下死点における応力変化の解析を行った結果が示されている。図12では、引張応力が作用する部分を濃色で示し、圧縮応力が作用する部分を淡色で示す。
【0098】
比較例1と比較例2の結果を比較すると、余肉部を設けることで、比較例1に比べて比較例2では、本体部材の側壁部に圧縮応力(b1)が発生すると共に、パンチ肩部の引張応力(b2)が減少していることがわかる。これにより、比較例1で本体部材に生じていた引張応力(b12)の一部が本体部材に発生した圧縮応力(b1)によってキャンセルされていると考えられる。一方、補強部材3については、肩部に発生する圧縮応力に大きな変化が見られない。
【0099】
比較例2と実施例1の結果から、側壁部をスポット溶接することで、本体部材のパンチ肩部の引張応力(b22)が減少し、本体部材の側壁部で圧縮応力(b21)が増加している。また、補強部材ではパンチ肩部の圧縮応力(b23)が減少し、補強部材の側壁部で引張応力(b24)が発生する。以上より、スプリングバックが抑制されていることがわかる。
【0100】
図13には、重ね合わせブランクの余肉部2aの幅方向位置をパンチ肩部31b及びダイ肩部32dに対して変化させた場合のスプリングバック量の解析を行った結果が示されている。実施例1では、重ね合わせブランクは、余肉部2aの一部がパンチ肩部31bにオーバラップすると共に、ダイ肩部32dが余肉部2aの幅方向中心よりも幅方向外側に位置するように金型30に配置されている。比較例4では、重ね合わせブランクは、余肉部2aがパンチ肩部31bよりも幅方向外側に位置すると共に、ダイ肩部32dが余肉部2aの幅方向中心よりも幅方向内側に位置するように金型30に配置されている。実施例1と比較例4のスプリングバックの結果を比較すると、図13に示すように、差は大きくないものの、比較例4に比べて実施例1の方が、スプリングバックが抑制されており、成形下死点(二点鎖線)での形状に近づくことがわかる。
【0101】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のように、本発明によれば、重ね合わせブランク及びその成形方法によれば、重ね合わせて接合された複数の金属板からなるブランクを曲げ加工するプレス成形時に、溶接部の破断の回避と、スプリングバックの抑制ができるので、自動車等の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0103】
1 重ね合わせブランク
2 本体部材(第1金属板)
2a 余肉部
2b 第1平坦部
2c 第2平坦部
3 補強部材(第2金属板)
11 第1接合部
12 第2接合部
31 パンチ
31b パンチ肩部
32 ダイ
32b ダイ肩部
L1 余肉部の長さ
ΔL 線長変化代
t1 第1金属板の板厚
t2 第2金属板の板厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14