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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】車輪、及び、車輪の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 19/00 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
B60B19/00 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021192922
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079441
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松本 寛治
(72)【発明者】
【氏名】星野 圭哉
(72)【発明者】
【氏名】下島 勉
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059451(JP,A)
【文献】特開2016-203908(JP,A)
【文献】特表2020-520843(JP,A)
【文献】特開2011-063156(JP,A)
【文献】特開2012-172774(JP,A)
【文献】特開2016-203681(JP,A)
【文献】特開平07-279982(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0188001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の芯体と、
内輪、及び前記内輪に対して相対回転可能な外輪を有し、前記芯体の外周面に前記内輪が固定された複数のベアリングと、
前記外輪に固定され、前記芯体に前記ベアリングを介して回転可能に支持された複数のローラと、
前記ローラの軸線方向両側において前記芯体に固定され、前記内輪の内径よりも小さい円形な内孔を有するカラー部材と、を有し、
前記カラー部材が前記芯体に締り嵌めされ
前記カラー部材はそれぞれ前記内輪の軸線方向の端面に当接している車輪。
【請求項2】
前記ローラは前記ベアリングに結合する円筒状の内筒部材を備え、
前記内筒部材の内孔の軸線方向端部には前記外輪が嵌め込まれる段付き穴が設けられている請求項1に記載の車輪。
【請求項3】
環状の芯体と、前記芯体に固定された内輪及び前記内輪に相対回転可能な外輪を有する複数のベアリングと、前記外輪に固定されることにより、前記ベアリングを介して前記芯体に回転可能に支持された複数のローラとを有する車輪の製造方法であって、
前記ローラが固定された前記ベアリングをパイプ材に装着する装着ステップと、
前記ベアリングを位置決めする位置決めステップと、
前記パイプ材の内孔に流体を注入し加圧することによって、前記内輪を前記パイプ材に固定する加圧ステップと、
前記内輪が固定された前記パイプ材により前記芯体を形成する成形ステップと、を有する車輪の製造方法。
【請求項4】
前記装着ステップにおいて、前記パイプ材の前記ローラの前記パイプ材の延在方向両側に円形な内孔を有するカラー部材が装着され、
前記カラー部材の内径は前記内輪の内径よりも小さい請求項3に記載の車輪の製造方法。
【請求項5】
環状の芯体と、前記芯体に固定された内輪及び前記内輪に相対回転可能な外輪を有する複数のベアリングと、前記外輪に固定されることにより、前記ベアリングを介して前記芯体に回転可能に支持された複数のローラとを有する車輪の製造方法であって、
前記ローラが固定された前記ベアリングと、前記内輪の内径よりも小さい内径を有する2つのカラー部材とをそれぞれ、前記カラー部材が前記ベアリングを介して対峙するようにパイプ材に装着する装着ステップと、
前記カラー部材を前記内輪に近接するように位置決めする位置決めステップと、
前記パイプ材の内孔に流体を注入し加圧することによって、前記カラー部材を前記パイプ材に固定する加圧ステップと、
前記内輪が固定された前記パイプ材により前記芯体を形成する成形ステップと、を有する車輪の製造方法。
【請求項6】
前記位置決めステップは、治具により前記カラー部材によって前記内輪を挟持することによって、前記ローラの位置決めを行う工程含む、請求項4又は請求項5に記載の車輪の製造方法。
【請求項7】
前記加圧ステップにおいて前記カラー部材が前記パイプ材に固定され、前記カラー部材によって前記内輪の前記パイプ材の軸線方向の移動が規制される請求項6に記載の車輪の製造方法。
【請求項8】
前記ローラは前記ベアリングに結合する円筒状の内筒部材を備え、
前記内筒部材の内孔の軸線方向端部には前記外輪が嵌め込まれる段付き穴が設けられている請求項6又は請求項7に記載の車輪の製造方法。
【請求項9】
前記治具は前記カラー部材をそれぞれ前記内輪に向けて押圧する位置決め部材を有し、
前記位置決め部材は、下部材と、前記下部材に結合される上部材とを備え、
前記下部材及び前記上部材の少なくとも一方には、前記パイプ材を受容する凹部が設けられ、
前記上部材と前記下部材とが結合されたときに、前記凹部によって前記位置決め部材には前記パイプ材を貫通させる貫通孔が画定される請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の車輪の製造方法。
【請求項10】
前記パイプ材は前記ローラ及び前記カラー部材が装着されるべく、円弧に沿って延在する円弧部を含み、
前記治具は前記パイプ材を受容した前記位置決め部材を前記円弧の中心点に向けて付勢する付勢部材を含む請求項9に記載の車輪の製造方法。
【請求項11】
前記成形ステップにおいて、半円状の前記パイプ材を接合することにより、前記芯体を構成する、請求項3~請求項10のいずれか1項に記載の車輪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪、及び、車輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、倒立振子型車両に取り付けられる車輪及びその製造方法を開示している。車輪は、多角形状の芯体と、芯体に回転可能に取り付けられた複数のフリーローラとを有する。芯体は左右方向に延びる軸線を回転中心として回転可能であり、フリーローラはそれぞれ、多角形状の芯体の外面に接する接線に平行な軸線を回転中心として回転可能となっている。倒立振子型車両は、芯体及びフリーローラの回転によって、全方向に移動可能となる。
【0003】
車輪は、フリーローラが回転可能に取り付けられたベアリングの内輪にパイプ材を挿入し、内輪をパイプ材に固定した後、パイプ材を環状に成形することによって製造される。内輪の固定は、芯体に形成された爪部を折り曲げて、内輪の軸線方向における端面に当接させることによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6746655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車輪の製造には、内輪の移動を防止するべく、フリーローラごとに爪部を折り曲げる加工を行う必要がある。車輪には複数のフリーローラが設けられているため、爪部の折り曲げ工程を繰り返し行う必要があり、製造工数がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、製造に要する工数の少ない全方向移動装置用の車輪、及び、工数の少ない全方向移動装置用の車輪の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、車輪(17)であって、環状の芯体(36)と、内輪(76)、及び前記内輪に対して相対回転可能な外輪(77)を有し、前記芯体の外周面に前記内輪が固定された複数のベアリング(75)と、前記外輪に固定され、前記芯体に前記ベアリングを介して回転可能に支持された複数のローラ(37)と、を有し、前記内輪は前記芯体に締り嵌めされている。
【0008】
この態様によれば、芯体を拡径しベアリングの内輪を芯体に締り嵌めすることで、芯体に内輪を固定することができるため、内輪をそれぞれ芯体に固定する工程が不要となる。芯体にローラがベアリングを介して回転可能に支持された全方向移動装置用の車輪であって、製造工数の少ない車輪を提供することができる。
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、車輪(17)であって、環状の芯体(36)と、内輪(76)、及び前記内輪に対して相対回転可能な外輪(77)を有し、前記芯体の外周面に前記内輪が固定された複数のベアリング(75)と、前記外輪に固定され、前記芯体に前記ベアリングを介して回転可能に支持された複数のローラ(37)と、前記ローラの軸線方向両側において前記芯体に固定され、前記内輪の内径よりも小さい円形な内孔を有するカラー部材(80)と、を有し、前記カラー部材が前記芯体に対して締り嵌めされている。
【0010】
この態様によれば、芯体を膨張変形させることによって、カラー部材を芯体に締り嵌めすることで、芯体にカラー部材を固定することができる。また、ローラの軸線方向両側にカラー部材が係止されているため、ローラの芯体に沿う方向の移動がカラー部材によって規制されて、車輪が構成される。よって、内輪をそれぞれ芯体に固定する工程が不要となり、製造工数の少ない車輪を提供することができる。また、芯体の膨張変形時に、カラー部材からその変形に抗するようにパイプ材に荷重が加えられるため、カラー部材が設けられていない場合に比べて、ベアリングの内輪にパイプ材の膨張変形による荷重がかかり難くなる。
【0011】
上記の態様において、好ましくは、前記カラー部材はそれぞれ前記内輪の軸線方向の端面に当接している。
【0012】
この態様によれば、カラー部材が内輪に当接していない場合に比べて、内輪の移動範囲がより狭い範囲に制限されるため、内輪と芯体との結合がより強固になる。
【0013】
上記の態様において、好ましくは、前記ローラは前記ベアリングに結合する円筒状の内筒部材(82)を備え、前記内筒部材の内孔の軸線方向端部には前記外輪が嵌め込まれる段付き穴が設けられている。
【0014】
この態様によれば、ローラにベアリングを容易に組付けることができる。
【0015】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、環状の芯体(36)と、前記芯体に固定された内輪(76)及び前記内輪に相対回転可能な外輪(77)を有する複数のベアリング(75)と、前記外輪に固定されることにより、前記ベアリングを介して前記芯体に回転可能に支持された複数のローラ(37)とを有する車輪(17)の製造方法であって、前記ローラが固定された前記ベアリングをパイプ材(81)に装着する装着ステップと、前記ベアリングを位置決めする位置決めステップと、前記パイプ材の内孔に流体を注入し加圧することによって、前記内輪を前記パイプ材に固定する加圧ステップと、前記内輪が固定された前記パイプ材により前記芯体を形成する成形ステップと、を有する。
【0016】
この態様によれば、パイプ材の加圧による変形によって、芯体を構成するパイプ材に複数の内輪を一度に固定することができる。そのため、例えば、ローラごとに内輪を芯体に固定する工程が不要となるため、工数の少ない全方向移動装置用の車輪の製造方法を提供することができる。
【0017】
上記の態様において、好ましくは、前記装着ステップにおいて、前記パイプ材の前記ローラの前記パイプ材の延在方向両側に円形な内孔を有するカラー部材(80)が装着され、前記カラー部材の内径は前記内輪の内径よりも小さい。
【0018】
この態様によれば、カラー部材の内径は内輪の内径よりも小さいため、パイプ材が膨張変形すると、内輪よりも先にカラー部材の内周面がパイプ材に当接する。これにより、カラー部材からその変形に抗するようにパイプ材に荷重が加えられるため、カラー部材が設けられていない場合に比べて、ベアリングの内輪にパイプ材の膨張変形による荷重がかかり難くなる。
【0019】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、環状の芯体(36)と、前記芯体に固定された内輪(76)及び前記内輪に相対回転可能な外輪(77)を有する複数のベアリング(75)と、前記外輪に固定されることにより、前記ベアリングを介して前記芯体に回転可能に支持された複数のローラ(37)とを有する車輪(17)の製造方法であって、前記ローラが固定された前記ベアリングと、前記内輪の内径よりも小さい内径を有する2つのカラー部材(80)とをそれぞれ、前記カラー部材が前記ベアリングを介して対峙するようにパイプ材(81)に装着する装着ステップと、前記カラー部材を前記内輪に近接するように位置決めする位置決めステップと、前記パイプ材の内孔に流体を注入し加圧することによって、前記カラー部材を前記パイプ材に固定する加圧ステップと、前記内輪が固定された前記パイプ材により前記芯体を形成する成形ステップと、を有する。
【0020】
この態様によれば、パイプ材に膨張変形することで、芯体を構成するパイプ材に複数のカラー部材を内輪に近接するように一度に固定することができる。これにより、複数のローラをパイプ材の軸線方向に沿う移動が規制された状態で、芯体に回転可能に取り付けることができるため、工数の少ない全方向移動装置用の車輪の製造方法を提供することができる。
【0021】
上記の態様において、好ましくは、前記位置決めステップは、治具(90)により前記カラー部材によって前記内輪を挟持することによって、前記ローラの位置決めを行う工程含む。
【0022】
この態様によれば、カラー部材が内輪に接触した状態で、パイプ材に固定される。これにより、カラー部材によって内輪の移動が防止されるため、内輪をパイプ材に強固に固定することができる。
【0023】
上記の態様において、好ましくは、前記加圧ステップにおいて前記カラー部材が前記パイプ材に固定され、前記カラー部材によって前記内輪の前記パイプ材の軸線方向の移動が規制される。
【0024】
この態様によれば、カラー部材によって内輪のパイプ材の軸線方向の移動が規制されるため、ローラの内輪を強固にパイプ材に固定することができる。
【0025】
上記の態様において、好ましくは、前記ローラは前記ベアリングに結合する円筒状の内筒部材(82)を備え、前記内筒部材の内孔の軸線方向端部には前記外輪が嵌め込まれる段付き穴(82A)が設けられている。
【0026】
この態様によれば、ローラにベアリングを容易に組付けることができる。
【0027】
上記の態様において、好ましくは、前記治具は前記カラー部材をそれぞれ前記内輪に向けて押圧する位置決め部材(92)を有し、前記位置決め部材は、下部材(98)と、前記下部材に結合される上部材(99)とを備え、前記下部材及び前記上部材の少なくとも一方には、前記パイプ材を受容する凹部(98B、99A)が設けられ、前記上部材と前記下部材とが結合されたときに、前記凹部によって前記位置決め部材には前記パイプ材を貫通させる貫通孔(92C)が画定される。
【0028】
この態様によれば、パイプ材を貫通孔に通した状態で、位置決め部材によってカラー部材をそれぞれ内輪に向けて押圧することができる。これにより、位置決め部材によってカラー部材の端面を周方向に均一に押圧することができるため、カラー部材を芯体のより適正な位置に位置決めすることができる。
【0029】
上記の態様において、好ましくは、前記パイプ材は前記ローラ及び前記カラー部材が装着されるべく、円弧に沿って延在する円弧部(81A)を含み、前記治具は前記パイプ材を受容した前記位置決め部材を前記円弧の中心点(0)に向けて付勢する付勢部材(93)を含む。
【0030】
この態様によれば、パイプ材を凹部に容易に嵌め込むことができる。
【0031】
上記の態様において、好ましくは、前記成形ステップにおいて、半円状の前記パイプ材を接合することにより、前記芯体を構成する。
【0032】
この態様によれば、環状の芯体を容易に構成することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上の構成によれば、製造に要する工数の少ない全方向移動装置用の車輪、及び、工数の少ない全方向移動装置用の車輪の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態に係る製造方法による車輪を備えた全方向移動装置が適用された台車の斜視図
図2】全方向移動装置の断面図
図3】全方向移動装置の側面図
図4】実施形態に係る車輪の斜視図
図5図4のV-V断面図と、その二点鎖線で囲まれた部分の拡大図
図6】加圧工程前のパイプ材にローラが装着されたときの様子を示す斜視図
図7】加圧工程において治具にパイプ材が装着されたときの様子を説明するための斜視図
図8】加圧工程において治具にパイプ材が装着されたときの様子を説明するための上面図
図9】加圧工程において治具にパイプ材が装着されたときの位置決め部材とカラー部材との関係を説明するための斜視図
図10図8の二点鎖線で囲まれた部分に対応する拡大図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る製造方法によって製造される車輪が全方向移動装置に設けられた実施形態について説明する。以下の実施形態では、全方向移動装置が台車に適用されている。
【0036】
図1に示すように、台車1は、車体2と、車体2に設けられ、車体2を床面に沿った全方向に移動させる一対の全方向移動装置3と、車体2に設けられ、使用者の操作を受け付けるハンドル4と、ハンドル4に加わる荷重を検出する力覚センサ5と、力覚センサ5が検出した荷重に基づいて全方向移動装置3を制御する制御装置6とを有する。
【0037】
車体2の前部には、他の装置を支持するための支持台7が設けられている。支持台7に支持される装置は、例えば、X線スキャナー等の検査機器を含む。装置は、支持台7に締結されるとよい。車体2の後部の内部には、制御装置6、バッテリ、各種センサが設けられているとよい。
【0038】
一対の全方向移動装置3は車体2の後部の下部に設けられている。車体2の前部の下部には、サスペンション11を介して左右のキャスター12が支持されている。図1及び図2に示すように、各全方向移動装置3は、フレーム15と、フレーム15に回転可能に支持された一対のドライブディスク16と、一対のドライブディスク16の間に配置された環状の車輪17と、ドライブディスク16のそれぞれを回転させる一対の電動モータ18とを有する。一対のドライブディスク16は車輪17に駆動力を伝達する。
【0039】
図1に示すように、フレーム15は、車体2の下部に結合されたフレーム上部21と、フレーム上部21の左右両端から下方に延びた一対のフレーム側部22とを有する。図2に示すように、一対のフレーム側部22の下端には、左右に延びる支持軸23が架け渡されている。支持軸23には、一対のドライブディスク16が回転可能に支持されている。一対のドライブディスク16は支持軸23の軸線を中心として回転する。各ドライブディスク16は、支持軸23に対して左右方向における位置が規制されている。各ドライブディスク16は、左右方向に互いに距離をおいて対向している。
【0040】
ドライブディスク16は、環状の車輪17の両側にそれぞれ配置され、車輪17に摩擦力を与えて車輪17を中心軸線A1回り及び環状の軸線A2回りに回転させる。ドライブディスク16は、フレーム15に回転可能に支持される円盤状のベース25と、ベース25の外周部に互いに傾斜して回転可能に支持され、車輪17に接触する複数のドライブローラ26とを有する。ベース25は、支持軸23と同軸に配置されている。
【0041】
各ドライブディスク16の互いに相反する面にはドリブンプーリ28がそれぞれ設けられている。ドリブンプーリ28はドライブディスク16と同軸に設けられている。図1に示すように、車体2の下部には、ドライブディスク16のそれぞれを回転させる一対の電動モータ18が設けられている。各電動モータ18の駆動軸にドライブプーリ31が設けられている。ドライブプーリ31は、ベルト32を介して対応するドリブンプーリ28に連結されている。本実施形態では、4つのドライブディスク16に対応して4つの電動モータ18が設けられている。各電動モータ18が互いに独立して回転することによって、各ドライブディスク16が互いに独立して回転する。
【0042】
図2及び図3に示すように、車輪17は、環状をなし、一対のドライブディスク16の間にドライブディスク16と同軸に配置され、複数のドライブローラ26に接触し、中心軸線A1回り及び環状の軸線A2回りに回転可能となっている。
【0043】
車輪17は、環状の芯体36(図3図5参照)と、ベアリング75(図5参照)を介して芯体36に回転可能に支持された複数のローラ37(タイヤともいう)(図3図5参照)と、芯体36に固定された複数のカラー部材80(図4及び図5参照)とを有する。本実施形態では、車輪17は22個のローラ37を備えている。
【0044】
図3及び図4に示すように、芯体36は金属製の部材であって、側面視で真円状をなしている。図5に示すように、芯体36は内部に円環形の空洞を有するトーラス状をなしている。本実施形態では、芯体36は半円形をなすように屈曲された2つの円筒形の管状部材であるパイプ材81(図6参照)が接合されることによって構成されている。但し、この態様には限定されず、芯体36は円環状に屈曲され、両端が接続された円筒形のパイプ材81によって構成されていてもよく、また、2以上の円弧状に屈曲されたパイプ材81が接合されることによって構成されていてもよい。また芯体36は多角形状をなしていてもよい。
【0045】
ベアリング75はラジアル荷重を支持するラジアルベアリングであり、本実施形態では玉軸受である。図5に示すように、ベアリング75は、インナレース76(内輪ともいう)と、アウタレース77(外輪ともいう)と、インナレース76及びアウタレース77の間に介装された複数のボール78と、複数のボール78を保持するリテーナとを有している。インナレース76及びアウタレース77はそれぞれ、同軸な直円筒状をなしている。
【0046】
ローラ37は、スリーブ82(リムともいう)と、スリーブ82の外周面に設けられたゴムリング83とを有する。スリーブ82はローラ37の内周側を構成する内筒部材であって、直円筒状をなしている。スリーブ82は金属によって形成されているとよく、本実施形態ではアルミニウムによって形成されている。ゴムリング83は、スリーブ82に加硫成形等によって接着されているとよい。
【0047】
スリーブ82の内孔両端には段付き穴82Aが設けられている。段付き穴82Aにはそれぞれアウタレース77が嵌め込まれている。
【0048】
図4及び図6に示すように、カラー部材80は同形な円環状の金属部材である。図4に示すように、カラー部材80には円形な内孔が設けられている。図5に示すように、カラー部材80の内孔にはそれぞれ芯体36が挿通されている。カラー部材80の内径はインナレース76の内径よりも小さい。カラー部材80はそれぞれベアリング75の軸線方向両端外側に配置されている。本実施形態では、車輪17は22個のローラ37を備え、全てのローラ37の軸線方向両側にカラー部材80が設けられているため、車輪17は合計で44個のカラー部材80を備えている。カラー部材80は芯体36に締め嵌めされることによって、芯体36の外周面に摩擦係止されて固定されている。カラー部材80は内周面において周方向全周に渡って芯体36の外周面に当接している。
【0049】
インナレース76もまた、芯体36に締め嵌めされることによって、芯体36の外周面に摩擦係止されて固定されている。インナレース76は内周面において周方向全周に渡って芯体36の外周面に当接している。
【0050】
更に、カラー部材80がインナレース76に対してベアリング75の軸線方向両端外側に位置しているため、ベアリング75の芯体36に沿う方向の移動が制限されている。本実施形態では、カラー部材80はそれぞれインナレース76にローラ37の軸線方向両側から当接している。これにより、ローラ37(インナレース76)は芯体36に沿う方向に移動不能となり、芯体36の外周面により強固に固定される。
【0051】
アウタレース77はインナレース76に対して軸線を中心として回転可能であるため、アウタレース77固定されたスリーブ82は芯体36に対して回転可能となる。よって、ローラ37はベアリング75を介して芯体36に、芯体36の環状の軸線A2(詳細には、軸線A2の接線)を中心として回転可能に支持される。
【0052】
図3に示すように、複数のローラ37は、芯体36の円周方向に等間隔で配列されている。ローラ37はそれぞれ、芯体36に対するそれぞれの位置において、芯体36の接線を中心として回転することができる。各ローラ37は、外力を受けて芯体36に対して回転する。
【0053】
図2及び図3に示すように、車輪17は、一対のドライブディスク16の外周部に沿って配置され、各ドライブディスク16に設けられた複数のドライブローラ26と接触している。各ドライブディスク16のドライブローラ26は、車輪17の内周部に接触し、左右両側から車輪17を挟持する。また、左右のドライブディスク16のドライブローラ26は、車輪17の内周部に接触することによって、ドライブディスク16の軸線を中心とした径方向への変位を規制する。これにより、車輪17は左右のドライブディスク16に支持され、車輪17(芯体36)の中心軸線A1は左右のドライブディスク16の軸線と概ね同軸に配置される。車輪17は、複数のローラ37において、左右のドライブディスク16の複数のドライブローラ26に接触する。
【0054】
各全方向移動装置3において、一対のドライブディスク16が同一方向に同一の回転速度で回転する場合には、車輪17は一対のドライブディスク16と共に回転する。すなわち、車輪17は中心軸線A1を中心として前転又は後転する。このとき、ドライブディスク16のドライブローラ26及び車輪17のローラ37は芯体36に対して回転しない。各全方向移動装置3において、一対のドライブディスク16間に回転速度差が生じる場合には、一対のドライブディスク16の回転に起因する円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右のドライブローラ26から車輪17のローラ37に作用する。ドライブローラ26の軸線がドライブディスク16の軸線に直交する面に対して傾斜しているため、ドライブディスク16間に回転速度差に起因して分力が生じる。この分力によって、ドライブローラ26がベース25に対して回転すると共に、ローラ37が芯体36に対して回転する。これにより、車輪17は、左右方向への駆動力を発生させる。
【0055】
左右の全方向移動装置3が前方に同じ速度で回転することによって、台車1が前進する。左右の全方向移動装置3が後方に同じ速度で回転することによって、台車1が後退する。左右の全方向移動装置3の前後方向への回転に速度が生じることによって、台車1は右方又は左方に旋回する。左右の全方向移動装置3の各車輪17のローラ37が回転することによって、台車1は右方又は左方に平行移動する。
【0056】
図1に示すように、力覚センサ5は車体2とハンドル4との間に設けられている。制御装置6は、CPU等のプロセッサ、不揮発性メモリ(ROM)、及び、揮発性メモリ(RAM)等を含む電子制御装置(ECU)である。制御装置6は、プロセッサにおいて不揮発性メモリに格納されたプログラムに沿った演算処理を実行することによって、力覚センサ5によって検出された荷重及びモーメントに基づいて電動モータ18を制御する。これにより、乗員がハンドル4に荷重及びモーメントを加えると、全方向移動装置3が駆動されて、台車1が走行する。
【0057】
次に、車輪17の製造方法について説明する。製造方法は、準備工程と、装着工程(装着ステップ)と、位置決め工程(位置決めステップ)と、加圧工程(加圧ステップ)と、成形工程(成形ステップ)とを順に含む。
【0058】
作業者は、準備工程において、図6に示すように、一部において半円状をなす部分を有するように予め成形されたパイプ材81を用意する。以下、必要に応じて、パイプ材81の半円状をなす部分を円弧部81Aと記載する。円弧部81Aの両端にはそれぞれ直線状に延びる直線部81Bが接続されている。
【0059】
作業者は、更に、スリーブ82の段付き穴82Aにベアリング75のアウタレース77を嵌め込んで固定する(図5参照)。これにより、ローラ37はベアリング75に固定される。このように、スリーブ82の内径はベアリング75(アウタレース77)の外径よりも大きく、スリーブ82には段付き穴82Aが設けられているため、ベアリング75のアウタレース77を嵌め込むことによって、ベアリング75をスリーブ82に容易に組み付けることができる。所定数のベアリング75のスリーブ82への組付けが完了すると、作業者は装着工程を行う。
【0060】
作業者は、装着工程において、カラー部材80の内孔にパイプ材81を挿入し、更に、インナレース76の内孔にパイプ材81を挿入した後、カラー部材80の内孔にパイプ材81を挿入する。これにより、カラー部材80と、ベアリング75及びローラ37と、カラー部材80とが、記載の順にパイプ材81に装着される(図6参照)。また、カラー部材80がローラ37のパイプ材81の延在方向両側に配置される。
【0061】
更に、作業者は、カラー部材80、インナレース76、カラー部材80の順にその内孔にパイプ材81を挿入する工程を所定回数(本実施形態では11回)繰り返す。その後、図6に示すように、カラー部材80及びローラ37を円弧部81Aに移動する。移動が完了すると、作業者は位置決め工程を行う。
【0062】
作業者は、位置決め工程において、図7及び図8に示すように、複数のカラー部材80及び複数のローラ37が装着されたパイプ材81を治具90に装着する。治具90は、図7に示すように、基台91と、複数の位置決め部材92と、複数の付勢部材93とを含む。
【0063】
基台91は、ベース部95と、支持部96と、2つのパイプ固定部97とを備えている
【0064】
図8及び図9に示すように、ベース部95は略平板状の部材であり、水平をなすように配置されている。ベース部95材の上面には下方の凹む複数の溝部95Aが形成されている。溝部95Aは下方に凹み、所定の点Oを中心とする放射状に延びている。溝部95Aは所定の点Oを中心とする扇形をなす領域S内に複数設けられている。隣り合う溝部95A同士のなす角は互いに等しい。
【0065】
支持部96は外側延在部96Aと、複数の内側保持部96Bとを含む。外側延在部96Aは、ベース部95の上面に固定された板状部材によって構成されている。外側延在部96Aは点Oから見て溝部95Aの外側に位置し、点Oを中心とする円弧状をなしている。外側延在部96Aはベース部95にボルト等によって固定されているとよい。図9に示すように、外側延在部96Aの点Oに近接する側面は下方に向かって点Oから離れる方向に傾斜している。
【0066】
図7及び図8に示すように、内側保持部96Bは略直方体状の部材であり、点Oから見て溝部95Aの外側にそれぞれ配置されている。内側保持部96Bはそれぞれ、ベース部95の上面に直交し、且つ、点Oに向く面を有するように配置されている。図9に示すように、内側保持部96Bの点Oから離反する側の面は、下方に向かって点Oから離反する方向に傾斜し、外側延在部96Aに当接している。
【0067】
図8に示すように、パイプ固定部97はそれぞれ半円状の領域S(図8中の一点鎖線参照)外であって、その直線部分Dに近接するように配置されている。図7に示すように、パイプ固定部97は固定部下部97Aと固定部上部97Bとを有している。固定部下部97Aはパイプ固定部97の下半部を構成し、ベース部95の上面に固定されている。固定部上部97Bはパイプ固定部97の上半部を構成する。固定部上部97Bと固定部下部97Aとによって挟み込まれることで、パイプ材81が基台91に固定される。
【0068】
図10には、図8の二点鎖線で囲まれた部分の拡大図が示されている。図10に示すように、位置決め部材92はそれぞれ上面視で、点Oから離れるに従って幅が広くなる三角形状(楔状)をなしている。位置決め部材92は点Oから離れる方向に延びる面Pを中心として対称な左右側面92Aと、軸線に対して直交する後面92Bとを備えている。
【0069】
図9に示すように、位置決め部材92は、その下半部を構成する下部材98と、その上半部を構成する上部材99とを含む。
【0070】
下部材98と上部材99とは共に点Oから離れるに従って幅が広くなる三角形状(楔状)をなしている。下部材98と上部材99とは略同形をなす。
【0071】
図10に示すように、下部材98は、その下面に設けられた突出部98Aと、その上面に設けられた下側凹部98Bとを備えている。
【0072】
突出部98Aはベース部95の溝部95Aの突入し、溝部95Aと協働して、下部材98の移動範囲をベース部95上面に沿った溝部95Aの延在方向に制限する。突出部98Aと溝部95Aとの協働により、下部材98は溝部95Aに沿ってスライド移動可能となっている。
【0073】
図9に示すように、下側凹部98Bは下部材98の上面において下方に凹む凹部である。下側凹部98Bは上面視で点Oから放射状に延びる面P(図10参照)に直交する方向に直線状に延び、両端はそれぞれ下部材98の上面の縁部に達している。
【0074】
上部材99は、下面に設けられた上側凹部99Aを備えている。上側凹部99Aは上部材99の下面において上方に凹む凹部である。上側凹部99Aは上面視で点Oから放射状に延びる面P(図10参照)に直交する方向に直線状に延び、両端はそれぞれ上部材99の上面の縁部に達している。
【0075】
上部材99と下部材98とはその上面と下面とが互いに接するように上下に積層されて、ボルトによって締結されることによって、位置決め部材92が構成される。下部材98は溝部95Aに沿ってスライド移動可能となっているため、位置決め部材92もまた、溝部95Aに沿ってスライド移動可能となっている。
【0076】
上部材99と下部材98とが締結されているときには、上側凹部99Aと下側凹部98Bとは上下に重なり、位置決め部材92を貫通する孔(貫通孔)である挿通孔92Cを構成する。挿通孔92Cは位置決め部材92の左右側面92Aそれぞれにおいて開口している。挿通孔92Cはパイプ材81を挿通可能な大きさに設定されている。本実施形態では、図9に示すように、挿通孔92Cの横断面は正方形状をなしている。挿通孔92Cの横断面の一辺の長さは、カラー部材80の外径よりも小さい。但し、挿通孔92Cの横断面は正方形状には限定されず、パイプ材81を挿通可能であり、カラー部材80が挿通不能な態様であれば、いかなる態様であってもよい。
【0077】
付勢部材93はコイルばねによって構成されている。支持部96と位置決め部材92との間であって、上面視で溝部95Aの延在方向に沿って配置されている。本実施形態では、付勢部材93は内側保持部96B及び上部材99の間と、内側保持部96B及び下部材98の間とにそれぞれ設けられている。図10に示すように、付勢部材93は支持部96に対して位置決め部材92(本実施形態では上部材99及び下部材98)を点Oに向かって付勢すると共に、位置決め部材92に対して内側保持部96Bを点Oから離反する方向に付勢する。
【0078】
図9に示すように、内側保持部96Bが付勢部材93によって点Oから離反する方向に付勢されると、内側保持部96Bは外側延在部96Aの点Oの側の斜面によって下方に移動するように案内される。これにより、内側保持部96Bがベース部95材の上面に押し付けられ、内側保持部96Bがベース部95材に固定される。
【0079】
治具90へのパイプ材81の装着時には、作業者はまず、上部材99を下部材98から外す。その後、作業者は、適宜、下部材98をそれぞれ点Oから離れる方向に押し出しつつ、円弧部81Aを下側凹部98Bに収容させる。但し、作業者は、ローラ37と、ローラ37の軸線方向両側それぞれに位置する2つのカラー部材80とが隣接する下部材98の間になるように留意して、円弧部81Aを下側凹部98Bに収容させる。
【0080】
図10に示すように、パイプ材81の下側凹部98Bへの収容完了時には、下部材98は付勢部材93によって点Oに向けて付勢され、カラー部材80がそれぞれベアリング75のインナレース76の軸線方向端部に押し付けられて、ベアリング75、ローラ37及びカラー部材80が位置決めされる。このとき、パイプ材81の円弧部81Aの軸線の中心点は上面視で点Oに重なり合う位置となっている。このとき、挿通孔92Cは上面視で点Oを中心とする円A3の接線方向に直線状に延び、パイプ材81はその軸線は円A3に沿うように配置される。
【0081】
その後、作業者は更に、上部材99を下部材98に締結することによって、カラー部材80がより強くベアリング75に押し付けられる。これにより、ベアリング75、ローラ37及びカラー部材80がより強固にパイプ材81に固定される。上部材99の締結が完了すると、作業者は直線部81Bをそれぞれパイプ固定部97により固定する。その後、作業者は、加圧工程を行う。
【0082】
作業者は加圧工程において、治具90に固定された一方の直線部81Bを封止し、他方の直線部81Bの端部の内孔に流体を注入して加圧し、パイプ材81を膨張変形させる(液圧成形する)。このとき、パイプ材81は液圧によって内径が大きくなるように変形(すなわち、拡管)する。パイプ材81の拡管によって、パイプ材81の外周面は、まず、カラー部材80の内周面に当接する。更に、加圧を行うと、パイプ材81の外周面は、インナレース76の内周面に当接する(図5の拡大図参照)。これにより、カラー部材80とインナレース76とはそれぞれパイプ材81に締り嵌めされ、パイプ材81に摩擦係止された状態で固定される。
【0083】
本実施形態では加圧用の流体として液体であるオイルが使用されている。但し、この態様には限定されず、流体は、パイプ材81の内孔に注入し、加圧することによって、パイプ材81を膨張変形させるものであれば、液体や気体を含むいかなるものであってもよい。
【0084】
作業者は例えば、パイプ材81の内圧を所定値以上に所定時間に渡って維持した後、パイプ材81の内孔から流体を排出する。排出が完了すると、作業者は、再度、新たに成形済みのパイプ材81を用意し、装着工程、位置決め工程、加圧工程を行う。加圧工程までを終えた2つのパイプ材81の準備が完了すると、作業者は成形工程を行う。
【0085】
作業者は成形工程において、パイプ材81それぞれから直線部81Bを切り取り、2つの半円状のパイプ材81を構成する。その後、半円状のパイプ材81の端部同士を突き合わせて溶接により接合する。これにより、真円状の芯体36を形成されて、車輪17が完成する。このように、2つの半円状のパイプ材81を接合することによって真円状の芯体36が形成できるため、車輪17の製造が容易である。このとき、ローラ37はベアリング75を介して芯体36に回転自在に支持されたフリーローラとして機能する。
【0086】
次に、このように構成した車輪17の製造方法、及び、車輪17の効果について説明する。
【0087】
加圧工程において、パイプ材81を膨張変形させる(液圧成形する)ことで、パイプ材81に複数のインナレース76を一度に固定することができる。そのため、ローラ37ごとにパイプ材81にインナレース76を固定する工程が不要となる。よって、ローラ37ごとにパイプ材81にインナレース76を固定する場合に比べて、工数を少なくすることができるため、車輪17の製造コストを抑えることができる。
【0088】
カラー部材80の内径はインナレース76の内径よりも小さいため、パイプ材81が拡管すると、インナレース76よりも先にカラー部材80の内周面がパイプ材81に当接する。そのため、カラー部材80から拡径に抗するようにパイプ材81に荷重が加えられる。また、インナレース76にパイプ材81が当接した後も、カラー部材80から拡径に抗するようにパイプ材81に荷重が加えられる。よって、カラー部材80が設けられていない場合に比べて荷重が分散され、インナレース76に拡管による荷重がかかり難くなる。よって、拡管による過度な荷重がベアリング75にかかることが防止でき、ベアリング75の耐久性向上を図ることができる。
【0089】
治具90によりカラー部材80によってインナレース76を挟持することによって、インナレース76を位置決めした後、加圧工程が行われる。加圧工程において、パイプ材81が拡管し、カラー部材80によってインナレース76が挟持された状態で、カラー部材80及びインナレース76がパイプ材81に固定される。
【0090】
カラー部材80によってインナレース76が挟持された状態でインナレース76がパイプ材81に固定されるため、インナレース76のパイプ材81に沿う方向の移動が規制される。よって、カラー部材80が設けられていない場合に比べて、インナレース76をより強固にパイプ材81に固定することができる。
【0091】
上部材99の上側凹部99Aと下部材98の下側凹部98Bとによって、位置決め部材92には挿通孔92Cが構成されている。図9及び図10に示すように、パイプ材81が位置決め部材92の挿通孔92Cに挿通された状態で、カラー部材80は位置決め部材92によって位置決めされる。
【0092】
このように、パイプ材81が位置決め部材92を貫通する状態で、位置決め部材92がパイプ材81に取り付けられたカラー部材80を押圧するため、カラー部材80の軸線方向両端面に全周に渡って荷重を加えることができる。これにより、位置決め部材92によってカラー部材80の端面が周方向に渡って均一に押圧され、カラー部材80及びインナレース76が適正な位置に位置決めされる。
【0093】
位置決め部材92はそれぞれ溝の延在方向にスライド可能であり、付勢部材93によって点Oに向けて付勢されている。そのため、加圧工程においてパイプ材81が拡管したときには、位置決め部材92がカラー部材80をインナレース76に向けて押圧したままスライド移動する。よって、カラー部材80及びインナレース76を位置決めしつつ、パイプ材81に過剰に荷重が加わることが防止できる。また、付勢部材93は位置決め部材92を点Oに向くように付勢するため、液圧によってパイプ材81が点Oから離反する方向に拡大変形することが防止できる。
【0094】
また、パイプ材81を治具90に組み付けるときには、下部材98を付勢部材93からの付勢力に抗してスライド移動させることができる。よって、パイプ材81に若干の歪みが生じている場合であっても、下部材98を移動させることによって、パイプ材81を下側凹部98Bに容易に嵌め込むことができる。
【0095】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0096】
上記実施形態では、挿通孔92Cは直線状に延びるように構成されていたが、この態様には限定されない。挿通孔92Cは点Oを中心とする円A3の周方向に沿って円弧状をなすように構成されていてもよい。
【0097】
上記実施形態において、治具90は、基台91と、複数の位置決め部材92と、複数の付勢部材93とに加えて、更に、基体に固定され、位置決め部材92の上面に当接する蓋体を備えていてもよい。液圧によって付勢部材93が押圧され、その後、液圧を下げたときに、付勢部材93の付勢力等によって、内側保持部96B材が上方に移動することが防止できる。
【0098】
上記実施形態において、パイプ材81が膨張変形し、カラー部材80とインナレース76とが共にパイプ材81に締り嵌めされていたが、カラー部材80が設けられておらず、インナレース76が直接、パイプ材81に締り嵌めされて摩擦係止され、パイプ材81に固定される態様であってもよい。
【0099】
また、インナレース76とパイプ材81との間の隙間が十分小さい状態で、カラー部材80のみが締り嵌めされている態様であってもよい。このとき、位置決め部材92によってカラー部材80がインナレース76に押圧され、インナレース76を挟持することによって、ローラ37の位置決めが行われた後、加圧工程が行われて、カラー部材80はローラ37の軸線方向両端側からインナレース76に当接した状態で締り嵌めされているとよい。これにより、インナレース76のパイプ材81に沿う方向の移動が規制されるため、インナレース76をより強固にパイプ材81に固定することができる。
【0100】
また、上記実施形態において、インナレース76とカラー部材80とがそれぞれパイプ材81に締り嵌めするため、パイプ材81を液圧によって拡管していたが、この態様には限定されず、温度変化による膨張収縮を用いてもよい。具体的には、カラー部材80の内径よりも若干小さく外径のパイプ材81を冷却した後、インナレース76及びカラー部材80に挿入する。その後、パイプ材81を常温に戻す等によって膨張変形させることによって、インナレース76とカラー部材80とをそれぞれパイプ材81に締り嵌めしてもよい。また、温度変化による膨張収縮を用いて締り嵌めを行う場合には、芯体36は中実材によって構成されていてもよい。
【0101】
また、上記実施形態において、位置決め部材92の上部材99及び下部材98にそれぞれ上側凹部99A及び下側凹部98Bが設けられていたが、この態様には限定されない。上部材99の下面及び下部材98の上面のいずれか一方にのみ凹部が設けられ、それにより、位置決め部材92に挿通孔92Cが構成されてもよい。
【0102】
また、上記実施形態において、半円状に形成されたパイプ材81を繋ぎ合わせることで芯体36が形成されていたが、この態様には限定されない。パイプ材81を概ね環状をなすように形成し、インナレース76を固定した後、パイプ材81の両端を繋ぎ合わせることで、芯体36を形成してもよい。
【0103】
上記実施形態では、ローラ37は2つのベアリング75を介して芯体36に回転可能に支持されていたが、本発明は、ローラ37と芯体36との間に介在するベアリング75の数には限定されない。ローラ37と芯体36との間に介在するベアリング75は1つでもよく、また3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0104】
17 :車輪
36 :芯体
37 :ローラ
75 :ベアリング
76 :インナレース(内輪)
77 :アウタレース(外輪)
80 :カラー部材
81 :パイプ材
81A :円弧部
82 :スリーブ(内筒部材)
82A :段付き穴
90 :治具
92 :位置決め部材
93 :付勢部材
92C :挿通孔(貫通孔)
98 :下部材
98B :下側凹部(凹部)
99 :上部材
99A :上側凹部(凹部)
O :点(中心点)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10