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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 9/12 20060101AFI20241017BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20241017BHJP
   F27D 9/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F27B9/12
C21D1/00 B
C21D1/00 118Z
F27D9/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021193988
(22)【出願日】2021-11-30
(65)【公開番号】P2023080567
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591076109
【氏名又は名称】エヌジーケイ・キルンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯野 隆規
(72)【発明者】
【氏名】金南 大樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 倫弘
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017100(JP,A)
【文献】特表2003-501612(JP,A)
【文献】登録実用新案第3053262(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を熱処理する熱処理部と、
前記熱処理部で熱処理された前記被処理物を冷却する冷却部と、
前記熱処理部及び前記冷却部内で前記被処理物を搬送する搬送装置と、を備えており、
前記冷却部は、前記搬送装置で搬送される前記被処理物の搬送経路の下方に配置され、その内部を流れる液体により前記搬送装置で搬送される前記被処理物を冷却する筐体を備えており、
前記筐体は、前記搬送装置で搬送される前記被処理物と対向する上板を備えており、
前記筐体内に前記液体を流したときに、前記上板の所定の部位に空気が溜まるように、前記上板が傾斜しており、
前記上板は、前記被処理物の搬送方向に沿って見たときに、一方の端面が他方の端面より高くなるように傾斜している、熱処理炉。
【請求項2】
前記上板は、前記搬送方向にさらに傾斜している請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記上板は、2度以上傾斜している、請求項に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記筐体は、記被処理物の搬送方向に沿って見たときの高くなっている端部の上面が断熱材に覆われている、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記筐体は、
前記上板が傾斜により低くなっている位置に配置される液体の供給部と、
前記上板が傾斜により高くなっている位置に配置される液体の排出部と、を備えている、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記筐体は、前記上板の上面に設けられ、前記冷却部内の空間に露出するフィンをさらに備えている、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、被処理物を熱処理する熱処理炉に関する。詳細には、熱処理炉において熱処理後の被処理物を冷却する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉(例えば、ローラーハースキルン等)を用いて、被処理物を熱処理することがある。一般的に、熱処理炉には、熱処理部で熱処理した被処理物を冷却する冷却部が設けられている。冷却部では、その内部を流れる液体(例えば、水)によって被処理物を冷却する筐体(典型的には、水冷ジャケット)を炉内に設置して、被処理物を冷却することがある。例えば、特許文献1には、水冷ジャケットの一例が開示されている。熱処理炉の冷却部には、冷却用の筐体が、被処理物の搬送経路の上方や下方に、搬送方向に沿って配置される。このため、冷却用の筐体は、一般的に、搬送方向に沿って配置される直方体形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-75184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術のように、冷却用の筐体として直方体形状の筐体を用いると、筐体には、製作誤差等により歪みが生じ、直方体形状の各面を完全に平坦にすることは困難である。筐体の上面に生じた歪みによって筐体の上面に膨らんだ部分が形成されると、この膨らんだ部分(すなわち、筐体内の空間であって膨らんだ部分に対応する部位)に気体が溜まってしまうことがある。冷却用の筐体を被処理物の下方に配置した場合、筐体の上面は、熱処理部から搬送された熱処理後の被処理物からの輻射によって高温になる。このため、冷却部内の空間に気体が溜まると、この部分が筐体内を流れる液体によって十分に冷却されないこととなる。その結果、筐体の一部(すなわち、気体が溜まった部分)が局所的に筐体の耐熱温度を超えてしまい、筐体が早期に劣化する虞があった。
【0005】
本明細書は、冷却部に設置される冷却用の筐体が早期に劣化することを抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する熱処理炉は、被処理物を熱処理する熱処理部と、熱処理部で熱処理された被処理物を冷却する冷却部と、熱処理部及び冷却部内で被処理物を搬送する搬送装置と、を備えている。冷却部は、搬送装置で搬送される被処理物の搬送経路の下方に配置され、その内部を流れる液体により搬送装置で搬送される被処理物を冷却する筐体を備えている。筐体は、搬送装置で搬送される被処理物と対向する上板を備えている。筐体内に液体を流したときに、上板の所定の部位に気体が溜まるように、上板が傾斜している。
【0007】
上記の熱処理炉では、筐体内に液体を流したときに、上板の所定の部位に気体が溜まるように、上板が傾斜している。これにより、気体が溜まる部位を把握でき、意図しない部位に液体が溜まってしまうことを回避できると共に、気体が溜まる部位(すなわち、所定の部位)が局所的に高温とならないように対処できる。このため、筐体が局所的に耐熱温度を超えることで筐体が早期に劣化することを回避し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1、2に係る熱処理炉の概略構成を示す図であり、被処理物の搬送方向に平行な平面で熱処理炉を切断したときの縦断面図。
図2図1のII-II線における断面図。
図3図2のIII-III線における断面図。
図4】搬送ローラの下方に配置される筐体の上面図。
図5】実施例2において下方に配置される筐体の構成を説明するための断面図。
図6】実施例2において下方に配置される筐体の構成を説明するための斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0010】
本明細書に開示する熱処理炉では、上板は、搬送方向に傾斜していると共に、被処理物の搬送方向に沿って見たときに傾斜していてもよい。このような構成によると、搬送方向と搬送方向に垂直な方向の2方向に傾斜していることにより、最も高くなる領域が限定される。このため、より容易に気体が溜まる部位が局所的に高温とならないようにするための対処をすることができる。
【0011】
本明細書に開示する熱処理炉では、上板は、2度以上傾斜していてもよい。このような構成によると、上板が2度以上傾斜していることにより、気体が溜まる部位を、上板の中央部分ではなく端部側にすることができる。
【0012】
本明細書に開示する熱処理炉では、筐体は、処理物の搬送方向に沿って見たときの高くなっている端部の上面が断熱材に覆われていてもよい。このような構成によると、高くなっている端部、すなわち、気体が溜まる部位の上面が断熱材で覆われる。これにより、気体が溜まる部位が局所的に高温となることを抑制することができる。
【0013】
本明細書に開示する熱処理炉では、筐体は、上板が傾斜により低くなっている位置に配置される液体の供給部と、上板が傾斜により高くなっている位置に配置される液体の排出部と、を備えていてもよい。このような構成によると、筐体内の供給部(すなわち、低くなっている位置)から排出部(すなわち、高くなっている位置)に向かって、液体を容易に流すことができる。また、傾斜の低い側から高い側に液体が流れるため、最も高くなっている部位以外に気体を溜まり難くすることができる。
【0014】
本明細書に開示する熱処理炉では、筐体は、上板の上面に設けられ、冷却部内の空間に露出するフィンをさらに備えていてもよい。このような構成によると、筐体がフィンを備えることによって、筐体による冷却部の冷却能力を向上させることができる。
【実施例
【0015】
(実施例1)
図面を参照して、本実施例に係る熱処理炉10について説明する。図1に示すように、熱処理炉10は、熱処理部20と、冷却部40と、搬送装置(52、54)を備えている。熱処理炉10は、搬送装置によって被処理物12が熱処理部20内を搬送される間に、被処理物12を熱処理すると共に、搬送装置によって被処理物12が冷却部40を搬送される間に、熱処理部20で熱処理された被処理物12を冷却する。なお、図1では、図の見易さのため、冷却部40に配置される筐体44、60(後述)の図示を省略している。
【0016】
被処理物12としては、例えば、セラミックス製の誘電体(基材)と電極とを積層した積層体や、リチウムイオン電池の正極材や負極材等が挙げられる。熱処理炉10を用いてセラミック製の積層体を熱処理する場合には、これらを平板状のセッターに載置して炉内を搬送することができる。また、熱処理炉10を用いてリチウムイオン電池の正極材や負極材を熱処理する場合には、これらを箱状の匣鉢に収容して炉内を搬送することができる。本実施例の熱処理炉10では、搬送ローラ52(後述)上に複数のセッターや匣鉢を搬送方向(X方向)及び/又はその直交方向(Y方向)に並んだ状態で載置して搬送することができる。以下、本実施例においては、熱処理する物質と、その熱処理する物質を載置したセッターや収容した匣鉢を合わせた全体を「被処理物12」という。
【0017】
図1及び図2に示すように、熱処理炉10は、略直方体形状の炉体14によって形成されており、炉体14内に熱処理部20と冷却部40が設けられている。炉体14は、天井壁22aと、底壁22bと、側壁22c~22fによって囲まれている。天井壁22aは、底壁22bに対して平行に(すなわち、XY平面と平行に)配置されている。図1に示すように、側壁22cは、搬送経路の入口端に配置されており、搬送方向に対して垂直に(すなわち、YZ平面と平行に)配置されている。側壁22dは、搬送経路の出口端に配置されており、側壁22cに対して平行に(すなわち、YZ平面と平行に)配置されている。図2に示すように、側壁22e、22fは、搬送方向に対して平行、かつ、天井壁22a及び底壁22bに対して垂直に(すなわち、XZ平面と平行に)配置されている。炉体14は、内部に隔壁24が配置されている。炉体14には、隔壁24の上流側に熱処理部20が設けられ、隔壁24の下流側に冷却部40が設けられている。
【0018】
熱処理部20は、天井壁22aと、底壁22bと、側壁22c、22e、22fと、隔壁24によって囲まれている。熱処理部20には、複数のヒータ30、32と、複数の搬送ローラ52が配置されている。ヒータ30は、搬送ローラ52の上方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置され、ヒータ32は、搬送ローラ52の下方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置されている。ヒータ30、32が発熱することで、熱処理部20内の空間28が加熱されると共に被処理物12が加熱される。なお、図示は省略するが、熱処理部20は、内部にさらに隔壁を配置し、複数の空間に分割されていてもよい。この場合、複数の空間は、異なる雰囲気温度となるように調整されていてもよい。
【0019】
冷却部40は、熱処理部20の下流側に配置されている。冷却部40は、天井壁22aと、底壁22bと、隔壁24と、側壁22d、22e、22fによって囲まれている。また、冷却部40は、内部に隔壁25a、25bが配置されている。冷却部40は、隔壁25a、25bによって複数の空間42(本実施例では、3つの空間42a、42b、42c)に分割されている。各空間42a、42b、42cには、冷却用の筐体44、60が配置されている。筐体44、60については、後に詳述する。
【0020】
図1に示すように、側壁22cには、開口26aが形成されており、側壁22dには、開口26cが形成されている。また、隔壁24には、開口26bが形成されており、隔壁25a、25bには、開口27a、27bがそれぞれ形成されている。被処理物12は、搬送装置によって開口26aから熱処理炉10内に搬送され、熱処理部20内を搬送され、開口26bから冷却部40に搬送される。そして、被処理物12は、搬送装置によって開口27a、27bを通って冷却部40の複数の空間42a、42b、42cを搬送され、開口26cから熱処理炉10外へ搬送される。
【0021】
搬送装置(52、54)は、複数の搬送ローラ52と、駆動装置54を備えている。搬送ローラ52は、被処理物12を搬送する。搬送装置(52、54)は、開口26aから熱処理部20内に被処理物12を搬送し、熱処理部20及び冷却部40において被処理物12を搬送する。そして、搬送装置(52、54)は、開口26cから被処理物12を冷却部40外に搬送する。
【0022】
搬送ローラ52は円筒状であり、その軸線は搬送方向と直交する方向に(すなわち、Y方向に)伸びている。複数の搬送ローラ52は、全てが同じ直径を有しており、搬送方向に一定のピッチで等間隔に配置されている。搬送ローラ52は、その軸線回りに回転可能に支持されており、駆動装置54の駆動力が伝達されることによって回転する。
【0023】
駆動装置54は、搬送ローラ52を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。駆動装置54は、動力伝達機構を介して、搬送ローラ52に接続されている。駆動装置54の駆動力が動力伝達機構を介して搬送ローラ52に伝達されると、搬送ローラ52は回転するようになっている。動力伝達機構としては、公知の機構を用いることができ、例えば、スプロケットとチェーンによる機構を用いることができる。駆動装置54は、搬送ローラ52が略同一の速度で回転するように、搬送ローラ52のそれぞれを駆動する。駆動装置54は、制御装置56によって制御されている。
【0024】
次に、冷却部40に配置される筐体44、60について説明する。図2及び図3に示すように、冷却部40には、筐体44、60が配置されている。筐体44は、搬送ローラ52の上方の位置に配置されている。筐体44は、直方体形状であり、本実施例では、ステンレス鋼で形成されている。筐体44は、その内部に液体(本実施例では、水)が流れるように構成されている。筐体44は、冷却部40の空間42内の上方に位置しており、筐体44の下面が空間42に面している。筐体44は、外部から水を供給する供給部46と、外部へと水を排出する排出部48を備えている。供給部46から供給された水は、筐体44の内部を通過して、排出部48から排出される。筐体44内を水が流れることによって、筐体44の下面側から空間42を冷却する。
【0025】
筐体60は、搬送ローラ52の下方の位置に配置されている。筐体60は、略直方体形状であり、本実施例では、ステンレス鋼で形成されている。筐体60は、その内部に液体が流れるように構成されており、本実施例では、筐体60内に水を流している。なお、筐体60内に流す液体は、水に限定されない。筐体60は、外部から水を供給する供給部64と、外部へと水を排出する排出部66を備えている。供給部64から供給された水は、筐体60の内部を通過して、排出部66から排出される。筐体60の内部を水が通過することによって、筐体60の上面側から空間42を冷却する。
【0026】
図2図4に示すように、筐体60は、上板62aと、下板62bと、側板62c、62d、62e、62fを備えている。上板62a、下板62b、側板62c、62d、62e、62fは平板状であり、筐体60の内部には、上板62a、下板62b、側板62c、62d、62e、62fに囲まれた空間63が形成されている。空間63には、隔壁70が配置されている。隔壁70については、後に詳述する。上板62aは、被処理物12と対向して配置されている。上板62aは、水平方向に対して(例えば、底壁22bの上面に対して)傾斜している。図2に示すように、上板62aは、被処理物12の搬送方向(図2では、X方向)に沿って見たときに(すなわち、YZ断面において)、一方の端面(図2では、+Y方向側の端面)が他方の端面(図2では、-Y方向側の端面)より高くなるように傾斜している。なお、本実施例では、上板62aは、平板状であるため、上板62aを傾斜するように配置すると、上板62aの上面(空間42に露出している面)が傾斜すると共に、上板62aの下面(筐体60内の面)も傾斜する。上板62aが傾斜していることにより、筐体60内の気体は傾斜により高くなっている一方の端面(+Y方向側の端面)側に移動する。すなわち、他方の端面(-Y方向側の端面)や、一方の端面と他方の端面との間の部分には気体が溜まり難くなる。
【0027】
上板62aは、製造上の誤差等により歪みが生じることがあり、完全な平坦面にすることが難しい。上板62aに歪みによる窪みが存在すると、その窪みに気体が溜まってしまうことがある。上板62aを傾斜させて配置することにより、筐体60内の気体は、歪みにより生じた窪み等に溜まることなく、傾斜させた高い方向に移動し易くなる。これにより、気体が溜まる部位を意図した部位に限定することができ、意図しない部位に気体が溜まることを回避することができる。
【0028】
また、図3に示すように、上板62aは、被処理物12の搬送方向(図3では、+X方向)に沿って(すなわち、XZ断面において)、一方の端面(図3では、+X方向側(下流側)の端面)が他方の端面(図3では、-X方向側(上流側)の端面)より高くなるようにさらに傾斜している。すなわち、上板62aは、上面視したときに、+X方向かつ+Y方向の角部が最も高くなり、-X方向かつ-Y方向の角部が最も低くなっている(図4参照)。このように、上板62aの角部が最も高くように傾斜させることによって、気体が溜まる領域(図4に示す領域68)を特定の範囲に限定し易くなる。
【0029】
また、上板62aの傾斜角度α(図2参照)は、水平方向に対して2度以上かつ45度以下とすることができる。傾斜角度を2度以上にすることによって、最も高くされている領域68以外の部分に気体が溜まることを抑制し、より確実に領域68に気体を移動させることができる。また、傾斜角度を45度以下にすることによって、最も低くされる部位が被処理物12から離れすぎてしまい、被処理物12を冷却する能力が低下することを抑制できる。また、傾斜角度を45度以下にすることによって、熱処理炉の上下方向の寸法が大きくなり過ぎることを抑制できる。
【0030】
また、図2に示すように、上板62aの最も高くされる領域68に対応する上面には、断熱材80が設置されている。領域68は、最も高い位置に配置されるため、被処理物12との間の距離が近くなることがある。被処理物12は、冷却部40に搬送される前に熱処理部20内を搬送されて高温となっている。高温の被処理物12からの輻射により、上板62aの領域68の部分が、筐体60の耐熱温度を超えて高温になる虞がある。領域68の上部を断熱材80で覆うことによって、被処理物12からの輻射により上板62aの領域68の部分が高温となることを抑制することができる。本実施例では、上板62aを傾斜させているため、領域68以外の部分には気体が溜まり難くなっている。このため、領域68のみを断熱材80で覆うことで、上板62a全体が耐熱温度を超えることを回避することができる。
【0031】
次いで、筐体60内の水の流れについて説明する。図4に示すように、供給部64は、-X方向かつ-Y方向の角部近傍に設置されており、排出部66は、+X方向かつ+Y方向の角部近傍に配置されている。すなわち、供給部64は上板62aが最も低くされている部位の近傍に配置され、排出部66は上板62aが最も高くされている部位(領域68)の近傍に配置されている。したがって、筐体60内には、上板62aが最も低くされている部位から水が供給され、上板62aが最も高くされている部位から水が排出される。これにより、筐体60内を流れる水に気泡が発生したとしても、発生した気泡が水とともに領域68に向かって流れ易くなり、領域68以外の部分に気体が溜まり難くなる。また、図2に示すように、排出部66の上端は、空間63内の上板62a近傍に配置されており、排出部66は、上板62a近傍から水を排出する。すなわち、筐体60内の水は、領域68において上板62a近傍から排出される。これにより、筐体60内の水は、空間63内の最も高くされている位置から排出される。
【0032】
また、筐体60の内部には、水が移動する流路が形成されている。すなわち、筐体60の内部には、複数の隔壁70が設置されている。隔壁70は、板状であり、Y方向に延びている。隔壁70のY方向の寸法は、筐体60のY方向の寸法より小さい。隔壁70は、一方の端部が筐体60の側壁に接続しており、他方の端部が筐体60の側壁から離間している。また、複数の隔壁70は、X方向に間隔を空けて配置されている。隔壁70は、X方向に隣接して配置される他の隔壁70とは異なる端部が筐体60の側壁に接続するように配置されている。すなわち、1の隔壁70は、+Y方向側の端部が筐体60の側壁に接続され、それに隣接する他の隔壁70は、-Y方向側の端部が筐体60の側壁に接続している。複数の隔壁70がこのように配置されていることにより、筐体60内に供給された水は、筐体60内を蛇行するように移動する。これによって、筐体60内の全体に水が流れるようにでき、筐体60の冷却能力を向上することができる。また、隔壁70は、上板62aにスポット溶接されている。すなわち、隔壁70と上板62aは部分的に溶接され、溶接されていない部分では隔壁70と上板62aとの間で水や気体が移動可能となる。これにより、隔壁70と上板62aとの間で気体が溜まり難くなり、水及び気体を流路の途中で溜めることなく、排出部66(すなわち、領域68)まで移動させることができる。
【0033】
本実施例では、筐体60の上板62aを傾斜して配置することにより、筐体60内の所望の位置(最も高くなっている部位)に気体を移動させ易くなる。これにより、意図しない位置に気体溜まりが生じることを回避することができる。仮に、筐体60内に気体溜まりが形成されると、気体溜まりが形成された部位は水により冷却され難くなるため、被処理物12からの輻射により局所的に高温となり、その部位において筐体の耐熱温度を超えてしまうことがある。温度が高くなる部分を断熱材で覆えば耐熱温度を超えることは回避できるが、広範囲に亘って筐体60の表面を断熱材で覆うと筐体60の冷却能力が低下してしまうので、気体溜まりが生じる部分のみを断熱材で覆うことが望ましい。このため、意図しない位置に気体溜まりが生じると、その部位が高温となることを回避するための対策(例えば、断熱材で覆う等)を講じることが難しい。本実施例では、上板62aを傾斜させることで、意図した領域に気体溜まりが形成され易くなる。このため、気体が溜まる位置を事前に把握でき、断熱材80で覆う等の高温になりすぎないための対策を容易に講じることができる。また、冷却部40として影響が少ない領域(例えば、端部側)に気体溜まりを生じさせることができる。
【0034】
なお、上述した筐体44(すなわち、冷却部40の上方に配置する筐体44)は、上板と下板を傾斜させなくてもよい。筐体44では、下板が被処理物12の近傍に位置する。このため、筐体44の上板は高温になり難く、筐体44の上板に製造上の誤差等によって窪みが生じたとしても、窪みに溜まった気体は高温になり難い。また、気体は上方に溜まるため、筐体44の下板に製造上の誤差等により窪みが生じたとしても、その窪みには気体が溜まらない。すなわち、筐体44の下板は、筐体44内を流れる水によって十分に冷却され、局所的に高温になることが抑制される。したがって、筐体44は、上板や下板を傾斜させなくても、製造上の歪みによる影響をほとんど受けることがない。
【0035】
また、本実施例では、筐体60内の気体溜まりの位置を制御可能であるため、冷却部40の複数の空間42a~42cの全てを水冷方式により冷却することが可能となる。熱処理部20側の空間42aでは、被処理物12が高温であるため、従来の水冷方式(上板を傾斜させない直方体状の筐体を用いた水冷方式)を適用すると、気体溜まりが形成された部位が耐熱温度を超えて高温になることがあった。このため、一般的には、熱処理部20側の空間42aでは、空冷方式(すなわち、内部で空気等の気体を循環させる筐体を用いた冷却方式)により被処理物12を冷却し、冷却部40の下流側の空間42b、42cにおいて水冷方式を採用している。本実施例では、筐体60内の気体溜まりの位置を制御可能であることにより、熱処理部20側の空間42aにおいても水冷方式を適用することが可能となる。この場合、上板62aの全体が高温になる場合は、筐体60の上板62a全体を断熱材で覆ってもよい。例えば、上板62a全体を覆う断熱材の厚さは、熱処理部20側の空間42aにおいて筐体60が耐熱温度を超えず、かつ、空冷方式による冷却能力より高くなるような厚さとする。これにより、熱処理部20側の空間42aにおける冷却能力を向上させることができ、冷却部40の長さを短くすることできる。冷却部40の長さ(具体的には、空間42aの搬送方向の長さ)が短くなることで、冷却時間(すなわち、熱処理炉10による処理時間)を短縮することができる。
【0036】
(実施例2)
上記の実施例1では、筐体44、60の空間42に露出する面は、略平坦であったが、このような構成に限定されない。例えば、図5に示すように、筐体144、160の冷却部140内の空間142に露出する面には、フィン50、74が設けられていてもよい。なお、本実施例では、筐体144、160の構成が、実施例1の筐体44、60の構成と相違しており、その他の構成は略一致している。そこで、実施例1の熱処理炉10と同一の構成については、その説明を省略する。
【0037】
筐体144、160は、冷却部140に配置されている。筐体144は、搬送ローラ52の上方の位置に配置されている。筐体144の下面には、複数のフィン50が設けられている。複数のフィン50は、空間142内に露出している。筐体160は、搬送ローラ52の下方の位置に配置されている。筐体160の上面にも、複数のフィン74が設けられており、空間142内に露出している。フィン50、74は、筐体144、160と同様にステンレス鋼で形成されている。なお、フィン50、74は、伝熱性の高い材料で形成されていればよく、例えば、鉄(例えば、SS400)又はアルミニウム等で形成されていてもよい。
【0038】
ここで、フィン74についてさらに説明する。なお、フィン50の構成は、フィン74と略同一であるため、詳細な説明は省略する。図6に示すように、フィン74は、搬送方向(図6のX方向)に伸びており、複数のフィン74は、搬送方向と平行に配置されている。フィン74の高さ方向の寸法である高さHは、隣接するフィン74の間の距離Pとの比率(H/P)が0.1~5となっている。また、フィン74の搬送方向の寸法である長さLは、上板62aの搬送方向の寸法である長さL′との比率(L/L′)が0.5~1となっている。また、複数のフィン74が上板62aの上面を専有する面積(すなわち、フィン74の搬送方向に直交する寸法である幅W×フィン74の搬送方向の長さL×上板62aに設けられるフィン74の数)は、上板62aの上面の面積Sに対して0.005~0.5倍となっている。複数のフィン74は、断熱材80で覆われている部分を除き、上面62aの表面全体に設けられている。
【0039】
本実施例では、筐体144、160の空間142に露出する面にフィン50、74が設置されている。複数のフィン50、74により、筐体144、160が空間142内に露出する表面積が大きくなり、筐体144、160の冷却能力を向上させることができる。
【0040】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
10:熱処理炉
12:被処理物
14:炉体
20:熱処理部
30,32:ヒータ
40、140:冷却部
44、144:筐体
50:フィン
52:搬送ローラ
54:駆動装置
56:制御装置
60、160:筐体
62a:上板
64:供給部
66:排出部
70:隔壁
74:フィン
80:断熱材
図1
図2
図3
図4
図5
図6