(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】圃場水管理システム
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20241017BHJP
H04Q 9/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
H04Q9/00 301Z
(21)【出願番号】P 2021204176
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2023-12-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売の申出1 2021年4月23日 エスケー産業株式会社に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出2 2021年4月8日 青森県農林総合研究所に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出3 2021年4月8日 青森県農林水産部農産園芸課に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出4 2021年4月14日 長野県農業試験場に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出5 2021年4月24日 有限会社後藤ライスに「圃場水管理システム」を販売 販売の申出6 2021年4月20日 香川県農業試験場に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出7 2021年5月31日 空知総合振興局に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出8 2021年5月21日 安藤有一に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出9 2021年6月25日 大雪土地改良区に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出10 2021年8月5日 佐藤邦夫に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出11 2021年9月8日 壱岐市スマート農業推進協議会に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出12 2021年10月21日 長野県下高井農林高等学校に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出13 2021年11月25日 長野県佐久平総合技術高等学校に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出14 2021年12月14日 長野県上伊那農業高等学校に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出15 2021年11月25日 長野県須坂創成高等学校に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出16 2021年12月9日 山形県立置賜農業高等学校に「圃場水管理システム」を販売 販売の申出17 2021年4月19日 滋賀県東近江農業農村振興事務所に「圃場水管理システム」を販売
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】井内 友昭
(72)【発明者】
【氏名】谷川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】四元 友治
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-103285(JP,A)
【文献】特開2008-206450(JP,A)
【文献】特開平04-192996(JP,A)
【文献】特開2003-102068(JP,A)
【文献】特開2019-185085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00-25/16
H03J 9/00-9/06
H04Q 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池で駆動され、各圃場に備えた給水栓または排水栓を含む圃場機器を制御する圃場機器制御装置と、
前記圃場機器制御装置と所定周期で通信して前記圃場の状態を管理する圃場水管理サーバと、
前記圃場水管理サーバを介して前記圃場機器制御装置を遠隔操作する管理者端末と、
を備えている圃場水管理システムであって、
前記圃場機器制御装置は、前記圃場水管理サーバと通信する通信部と、前記圃場機器を制御する圃場機器制御部と、を備え、
前記通信部と前記圃場機器制御部は其々異なるタイミングで省電力状態から復帰し、省電力状態に移行するように構成され、
前記通信部は、第1通信周期で省電力状態から復帰して前記圃場水管理サーバ
に対して通信を確立し、通信の後に省電力状態に移行する第1通信モードと、第1通信周期より短い第2通信周期で前記圃場水管理サーバ
に対して通信を確立し、所定の復帰時間が経過すると前記第1通信モードに切り替わる第2通信モードと、の何れかで動作するように構成され、前記圃場水管理サーバからの要求または前記圃場機器制御装置に備えた電源スイッチまたはモード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作に基づいて、前記第1通信モードから前記第2通信モードに切替え可能に構成されている圃場水管理システム。
【請求項2】
前記圃場機器制御部は、前記通信部からの通信の要求または前記モード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作に基づいて省電力状態から復帰して、前記圃場機器に対する制御の終了または前記通信部との通信の終了の後に所定の省電力移行時間が経過すると省電力状態に移行するように構成されている請求項1記載の圃場水管理システム。
【請求項3】
圃場水管理サーバからの要求により前記第2通信モードに移行する場合よりも、前記電源スイッチまたは前記モード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作により前記第2通信モードに移行する場合の方が、前記所定の復帰時間が長い値に設定されている請求項1または2記載の圃場水管理システム。
【請求項4】
前記通信部は、前記圃場機器制御装置への電源投入時に前記第2通信モードで動作し、前記所定の復帰時間が経過すると前記第1通信モードに切り替わるように構成され、圃場水管理サーバからの要求により前記第2通信モードに移行する場合よりも、前記所定の復帰時間が長い値に設定されている請求項1または2記載の圃場水管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池で駆動され、各圃場に備えた給水栓または排水栓を含む圃場機器を制御する圃場機器制御装置と、前記圃場機器制御装置と所定周期で通信して前記圃場の状態を管理する圃場水管理サーバと、前記圃場水管理サーバを介して前記圃場機器制御装置を遠隔操作する管理者端末と、を備えている圃場水管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、給水栓と、給水栓を制御する給水栓制御装置と、給水栓制御装置に対する遠隔操作情報を設定入力する遠隔操作端末と、遠隔操作端末から遠隔操作情報を受信して対応する給水栓制御装置を遠隔制御する圃場水管理サーバと、を備えている圃場水管理システムが開示されている。
【0003】
遠隔操作端末として圃場の管理者が所有するスマートフォンやパーソナルコンピュータのような管理者端末が用いられ、管理者端末から圃場水管理サーバに所定の圃場に対する給水要求を送信すると、圃場水管理サーバから当該圃場に備えた給水栓制御装置に給水指令が送信される。
【0004】
このような給水栓制御装置は、給水栓を作動させるアクチュエータと、アクチュエータを制御する給水制御部と圃場水管理サーバと交信する通信部とを有する電子制御回路と、電子制御回路及びアクチュエータに給電する蓄電池とを備えている。
【0005】
そして、電子制御回路は、蓄電池の電力消費を抑制する省電力状態と、圃場水管理サーバとの通信を含む制御動作を実行可能な動作状態と、を蓄電池の残容量に基づいた所定の周期で切り替えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、所定の周期が長くなると、例えば管理者端末から圃場水管理サーバを介して給水栓制御装置に送信した給水要求に対して、給水栓制御装置から圃場水管理サーバを介して管理者端末に送信される返信が、少なくとも1周期は遅延することになり、管理者が給水要求に対する結果を迅速に確認できないという課題があった。例えば、所定の周期が10分であるとするなら、管理者端末により返信を確認するまでの時間が少なくとも10分は必要になり、状況によっては20分必要になる場合もある。
【0008】
そこで、所定の周期を短い値に設定すると、給水要求などの指令に対する応答の遅延時間が短くなるが、蓄電池の消耗が進むことになる。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、蓄電池の消耗を回避しつつ、管理者端末からの要求に対する応答の遅れを短くすることができる圃場水管理システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による圃場水管理システムの第一の特徴構成は、蓄電池で駆動され、各圃場に備えた給水栓または排水栓を含む圃場機器を制御する圃場機器制御装置と、前記圃場機器制御装置と所定周期で通信して前記圃場の状態を管理する圃場水管理サーバと、前記圃場水管理サーバを介して前記圃場機器制御装置を遠隔操作する管理者端末と、を備えている圃場水管理システムであって、前記圃場機器制御装置は、前記圃場水管理サーバと通信する通信部と、前記圃場機器を制御する圃場機器制御部と、を備え、前記通信部と前記圃場機器制御部は其々異なるタイミングで省電力状態から復帰し、省電力状態に移行するように構成され、前記通信部は、第1通信周期で省電力状態から復帰して前記圃場水管理サーバに対して通信を確立し、通信の後に省電力状態に移行する第1通信モードと、第1通信周期より短い第2通信周期で前記圃場水管理サーバに対して通信を確立し、所定の復帰時間が経過すると前記第1通信モードに切り替わる第2通信モードと、の何れかで動作するように構成され、前記圃場水管理サーバからの要求または前記圃場機器制御装置に備えた電源スイッチまたはモード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作に基づいて、前記第1通信モードから前記第2通信モードに切替え可能に構成されている点にある。
【0011】
第1通信モードでは、省電力状態から復帰して圃場水管理サーバに対して通信を確立した後に再度省電力状態に移行する動作が第1通信周期で実行されるので、蓄電池の電力消費を効果的に抑制できる。第2通信モードでは、第1通信周期よりも短い第2通信周期で圃場水管理サーバに対して通信を確立するため、通信の遅延による弊害を解消することができる。第2通信モードは、第1通信モードよりも通信に要する電力消費が嵩むことになるが、所定の復帰時間が経過すると第1通信モードに切り替わるので、全体として蓄電池の電力消費を抑制することができる。例えば管理者端末から圃場水管理サーバを介して圃場機器に対する制御要求があった場合に、第2通信モードに移行することで、管理者端末で制御要求に対する圃場の状態を迅速に確認できるようになる。また、例えば圃場機器制御装置に備えた電源スイッチまたはモード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチを管理者が操作した後に、管理者端末から圃場水管理サーバを介して圃場機器に対する制御要求があった場合でも、同様に管理者端末で制御要求に対する圃場の状態を迅速に確認できるようになる。そして、通信部と圃場機器制御部は其々異なるタイミングで省電力状態から復帰し、省電力状態に移行するように構成されているため、通信と機器独立して効率的に省電力管理できる。
【0012】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記圃場機器制御部は、前記通信部からの通信の要求または前記モード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作に基づいて省電力状態から復帰して、前記圃場機器に対する制御の終了または前記通信部との通信の終了の後に所定の省電力移行時間が経過すると省電力状態に移行するように構成されている点にある。
【0013】
圃場機器制御部は通信部からの通信要求に基づいて、省電力状態から復帰して通信部と通信することで、通信部を介して圃場水管理サーバに圃場の状態を適切に送信することができる。また、圃場機器制御部に備えたモード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチを管理者が操作することでも、圃場機器制御部は省電力状態から復帰して通信部と通信することで、通信部を介して圃場水管理サーバに圃場の状態を適切に送信することができる。そして、圃場機器に対する制御の終了または前記通信部との通信の終了の後に所定の省電力移行時間が経過すると、省電力状態に移行する。通信部と圃場機器制御部とが個別に省電力制御されるので、より効果的に蓄電池の電力消費を抑制することができる。
【0014】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、圃場水管理サーバからの要求により前記第2通信モードに移行する場合よりも、前記電源スイッチまたは前記モード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチの操作により前記第2通信モードに移行する場合の方が、前記所定の復帰時間が長い値に設定されている点にある。
【0015】
例えば管理者端末から圃場水管理サーバを介して圃場への給水を要求するような場合には、その後に圃場機器が適切に制御されたか否かが管理者端末で確認できればよいので、所定の復帰時間は然程長い値に設定する必要はない。圃場機器の調整など、比較的長い時間を要するような場合には、モード設定スイッチを含む操作パネルの何れかのスイッチを操作することで、十分な調整時間及び管理者端末での確認時間を確保することができる。
【0016】
同第四の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記通信部は、前記圃場機器制御装置への電源投入時に前記第2通信モードで動作し、前記所定の復帰時間が経過すると前記第1通信モードに切り替わるように構成され、圃場水管理サーバからの要求により前記第2通信モードに移行する場合よりも、前記所定の復帰時間が長い値に設定されている点にある。
【0017】
圃場機器制御装置への電源投入時とは、圃場機器を圃場に設置して動作確認するような場合が該当する。そのような場合に第2通信モードで動作し、1通信モードに切り替わる所定の復帰時間を長い時間に設定することにより、圃場水管理サーバを介して管理者端末に送信される圃場機器の動作状態を、十分な時間応答遅れなく監視することができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した通り、本発明によれば、蓄電池の消耗を回避しつつ、管理者端末からの要求に対する応答の遅れを短くすることができる圃場水管理システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】圃場機器制御装置に備えた通信部の動作を示すフローチャート
【
図4】圃場機器制御装置に備えた通信部の動作を示すフローチャート
【
図5】圃場機器制御装置に備えた制御部の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明による圃場水管理システムを説明する。
[圃場水管理システムの構成]
図1に示すように、稲作が行なわれている各圃場1には、給水管10に流れる用水を、導水路11を介して圃場1に導く給水栓12A及び給水栓12Aを制御する給水栓制御装置12Bを備えた給水栓装置12と、放水路21を介して圃場1の水を排水路20に排水する排水栓22A及び排水栓22Aを制御する排水栓制御装置22Bを備えた排水栓装置22が設けられている。給水栓装置12には圃場1の水位を計測する静電容量式の水位センサ2が設けられている。
【0021】
各給水栓制御装置12B及び排水栓制御装置22Bと、圃場水管理サーバ34と、圃場1の管理者が所有するスマートフォンなどの管理者端末36と、がインターネット30を介して通信可能に接続されて圃場水管理システム100が構成されている。
【0022】
給水栓制御装置12B及び排水栓制御装置22Bは、省電力広域通信媒体であるLPWA(Low Power Wide Area)や、ゲートウェイサーバを介して圃場水管理サーバ34と無線通信可能に接続されている。LPWA(Low Power Wide Area)として、例えばLoRaWANなどの非セルラー系LPWAや、LTE、LTE-Mなどのセルラー系LPWAが用いられる。
【0023】
管理者端末36はスマートフォンに限らずタブレット式コンピュータのような携帯型端末であってもよいし、パーソナルコンピュータなどの据え置き型のコンピュータであってもよい。管理者端末36には、圃場1に備えた給水栓装置12や排水栓装置22を、圃場水管理サーバ34を介して遠隔制御するアプリケーションプログラムがインストールされている。
【0024】
例えば、圃場1で稲を栽培する場合には、代掻き、田植え、活着期、分げつ期(前期、後期)、幼穂形成期~出穂開花期、登熟期など、各時期に応じて圃場1の貯水水位を調整する必要がある。
【0025】
そのため、管理者が管理対象となる圃場1の近傍で、管理者端末36に備えたタッチパネル式の表示部を操作して給水要求や排水要求を入力すると、給水要求や排水要求が圃場水管理サーバ34を介して各圃場1に設置された給水栓制御装置12Bや排水栓制御装置22Bが遠隔制御される。そして、給水栓制御装置12Bや排水栓制御装置22Bから送信された制御状態が圃場水管理サーバ34を介して管理者端末36の表示部に表示される。管理者は、給水栓制御装置12Bや排水栓制御装置22Bの作動状態を目視しながら表示部の表示内容を確認することができる。なお、管理者が圃場1の近傍で管理者端末36を操作するのではなく、圃場1から離れた自宅で操作する場合もある。
【0026】
また、圃場水管理サーバ34は、給水対象となる圃場を特定する圃場ID、給水日時、給水水位などを含む給水要求を各管理者端末36から受信して、各圃場1に対する給水スケジュールを生成して記憶部に記憶し、記憶した給水スケジュールに従って各圃場1に給水することも可能に構成されている。
【0027】
さらに、圃場水管理サーバ34は、排水対象となる圃場を特定する圃場ID、排水日時、排水水位などを含む配水要求を各管理者端末36から受信して、各圃場1に対する排水スケジュールを生成して記憶部に記憶し、記憶した排水スケジュールに従って各圃場1から排水することも可能に構成されている。
【0028】
[圃場機器及び圃場機器制御装置の構成]
給水栓装置12は、圃場に設けられた給水桝101に設置された給水栓12Aと、給水栓12Aの上面に着脱自在に構成された給水栓制御装置12Bで構成されている。また、排水栓装置22は、排水桝201に設置された排水栓22Aと、排水栓22Aに着脱自在に構成された排水栓制御装置22Bで構成されている。即ち、給水栓12A及び排水栓22Aが圃場機器となり、給水栓制御装置12B及び排水栓制御装置22Bが圃場機器制御装置となる。
【0029】
図2に示すように、給水栓制御装置12Bは、電源スイッチ127と、給水栓12Aを開閉駆動するアクチュエータ121と、アクチュエータ121を制御する給水制御部122と、圃場水管理サーバ34と通信する通信部123と、蓄電池125と、蓄電池125を充電するソーラーセル126と、モード設定スイッチ124などの複数の操作スイッチを備えた操作パネルなどを備えている。電源スイッチ127が投入されると、蓄電池125の電力がアクチュエータ121、給水制御部122、通信部123のそれぞれに供給される。なお、モード設定スイッチ124は、例えばモメンタリスイッチで構成され、その接点入力が給水制御部122に入力されている。
【0030】
給水制御部122及び通信部123は、其々CPU、メモリ、入出力回路、省電力制御回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の給水機能が実現される。即ち、給水制御部122では主に給水栓12Aに備えた弁機構に対する開閉制御機能が実現され、通信部123では圃場水管理サーバ34及び給水制御部122との各通信機能が実現される。
【0031】
給水制御部122は、通信部123を介して圃場水管理サーバ34から給水指令を受信すると、予め設定された弁開度まで開弁するべくアクチュエータ121を介して弁機構を開弁制御するとともに、水位センサ2の値を読み取り、給水栓12Aの状態及び水位センサ2の値や異常の有無を通信部123に出力する。給水制御部122は、通信部123を介して圃場水管理サーバ34から給水停止指令を受信すると、弁機構を閉弁制御する。
【0032】
排水栓制御装置22Bは、電源スイッチ227と、排水栓22Aを開閉駆動するアクチュエータ221と、アクチュエータ221を制御する排水制御部222と、圃場水管理サーバ34と通信する通信部223と、蓄電池225と、蓄電池225を充電するソーラーセル226と、モード設定スイッチ224などの複数の操作スイッチを備えた操作パネルなどを備えている。電源スイッチ227が投入されると、蓄電池225の電力がアクチュエータ221、排水制御部222、通信部223のそれぞれに供給される。なお、モード設定スイッチ224は、例えばモメンタリスイッチで構成され、その接点入力が排水制御部222に入力されている。
【0033】
排水制御部222及び通信部223は、其々CPU、メモリ、入出力回路、省電力制御回路などの周辺回路を備えて構成され、メモリに格納された制御プログラムがCPUで実行されることにより所定の排水機能が実現される。即ち、排水制御部222では主に排水栓22Aに備えた堰体を上下移動させて排水水位を調整する排水制御機能が実現され、通信部223では圃場水管理サーバ34及び排水制御部222との各通信機能が実現される。
【0034】
排水制御部222は、通信部223を介して圃場水管理サーバ34から排水指令を受信すると、予め設定された高さまで堰体を移動させるべくアクチュエータ221を制御するとともに、堰体の高さや異常の有無を通信部123に出力する。
【0035】
本実施形態では、地中に布設されたパイプラインである給水管10からの用水を圃場1に導くバルブを備えた給水栓12Aを説明したが、給水栓は、圃場の側方に設置された開水路からの用水を圃場1に導く開閉ゲートなどを含む概念である。また、放水路21を介して圃場1の水を排水路20に排水する排水栓22Aを説明したが、排水栓は、落水ますや排水ゲートを含む概念である。
【0036】
二次電池である蓄電池125,225の無駄な電力消費を回避するために、給水制御部122及び通信部123、排水制御部222及び通信部223を構成する各CPUは、所定の省電力移行条件が成立すると一部の機能を除いて動作を停止する省電力状態に移行して蓄電池125,225の電力消費を抑制し、省電力制御回路から割り込み信号が入力されると、省電力状態から通常動作状態に復帰するように構成されている。
【0037】
省電力制御回路は、各CPUの周辺回路として個々に設けられ、CPUが省電力状態に移行した状態から通常動作状態に復帰するための割り込み信号をCPUに出力する回路で、例えば、外部から省電力制御回路に入力される通信要求などのトリガー信号に応答して割り込み信号をCPUに出力、内臓のタイマー回路が所定時間計時すると割り込み信号をCPUに出力するような回路であり、CPUに内蔵される場合もある。
【0038】
以下に、圃場機器制御装置として給水栓制御装置12Bを例にして、省電力制御について詳述する。なお、以下の説明は、排水栓制御装置22Bであっても同様である。上述したように、給水栓制御装置12Bは、圃場水管理サーバ34と通信する通信部123と、給水栓12Aを制御する給水制御部122を備えている。
【0039】
[圃場水管理サーバと圃場機器制御装置に備えた通信部との間の通信]
LTEやLTE-Mなどのセルラー系LPWAを用いて全二重通信が可能な場合、各給水栓制御装置12Bに備えた通信部123と、圃場水管理サーバ34とがLTE-M回線を介して直接通信可能に構成され、各通信部123は、後述するように第1通信周期T1または第2通信周期T2で、圃場水管理サーバ34に対して自らのID及び自他のアドレスを発して通信を確立する。
【0040】
その後、通信部123は、圃場水管理サーバ34から受信した時刻情報を含む各種情報を記憶部に記憶するとともに、給水制御部122から取得して記憶部に記憶している管理情報を時刻情報と共に圃場水管理サーバ34に送信する。さらに、給水制御部122とローカル接続した双方向の通信線を介して、圃場水管理サーバ34から受信した情報を給水制御部122に送信するとともに、給水制御部122から管理情報を取得して記憶部に記憶する。なお、第1通信周期T1は第2通信周期T2の整数倍に設定されている。圃場水管理サーバ34と給水制御部122との間のデータの送受信が第2通信周期T2の間隔またはその整数倍の間隔で行われると、その後のデータ処理が容易になる。
【0041】
圃場水管理サーバ34から受信する各種情報とは、給水要求など給水栓制御装置12Bに何らかの制御動作を要求する情報や、後述する通信モードの変更要求などをいう。管理情報とは、給水栓12Aに備えた弁の開度情報、水位情報、給水栓制御装置12Bの各部位の故障情報などの他、モード設定スイッチ124の操作状態が含まれる。
【0042】
LoRaなどの非セルラー系LPWAを用いる場合、各給水栓制御装置12Bに備えた通信部123と中継機とが、例えばLoRaを介して半二重通信し、中継機と圃場水管理サーバ34とがLTE-M回線を介して全二重通信可能に構成される。圃場水管理サーバ34から通信部123に送信される時刻情報を含む各種情報は中継器に備えた記憶部にバッファリングされ、中継器から通信部123への往路通信で各種情報が送信される。また、通信部123から中継機への復路通信で管理情報が中継器に備えた記憶部にバッファリングされ、直ちに圃場水管理サーバ34に送信される。
【0043】
通信部123は、中継機との間での往路通信を行なう際に、第1通信周期T1または第2通信周期T2で、中継器にアクセスして中継器の記憶部に格納されている各種情報を取得する。通信部123は、中継機との間での復路通信を行なう際には、第1通信周期の2倍の通信周期で、給水制御部122から取得して記憶部に記憶している管理情報を時刻情報とともに中継器に送信する。中継器は当該管理情報を時刻情報とともに直ちに圃場水管理サーバ34に送信する。なお、通信部123が中継器をアクセスするタイミングは、往路通信と復路通信でほぼ同じ時期であってもよい。
【0044】
さらに、給水制御部122とローカル接続した双方向の通信線を介して、圃場水管理サーバ34から受信した情報を給水制御部122に送信するとともに、給水制御部122から管理情報を取得して記憶部に記憶する。なお、この場合も、第1通信周期T1は第2通信周期T2の整数倍に設定されている。
【0045】
[通信部の省電力制御の詳細]
通信部123は、第1通信モードと第2通信モードとの何れかで動作するように構成されている。第1通信モードでは、第1通信周期T1で省電力状態から復帰して圃場水管理サーバ34と通信し、通信の後に省電力状態に移行する。例えば、省電力制御回路から割り込み信号が入力されて省電力状態から復帰したときに、省電力制御回路に備えたタイマー回路に第1通信周期T1をセットして計時を開始しておくことで、通信部123が一連の通信処理の後に省電力状態に移行しても、タイマー回路で第1通信周期T1が経過すると省電力制御回路から通信部123に割り込み信号が入力され、省電力状態から復帰するように構成できる。
【0046】
第2通信モードでは、第1通信周期T1より短い第2通信周期T2で圃場水管理サーバ34と通信し、予め設定した所定の復帰時間が経過すると第1通信モードに切り替わる。所定の復帰時間については後述する。
【0047】
第1通信モードから第2通信モードへの切替えは、圃場水管理サーバ34からの要求、または、給水栓制御装置12Bに備えたモード設定スイッチ124の操作に基づいて行なうように構成されている。なお、モード設定スイッチ124以外の操作パネルの何れかのスイッチの操作に基づいて行なうように構成されていてもよい。
【0048】
第1通信モードでは、省電力状態から復帰して圃場水管理サーバ34と通信した後に再度省電力状態に移行する動作が第1通信周期T1で実行されるので、蓄電池125の電力消費を効果的に抑制できる。また、第2通信モードでは、第1通信周期T1よりも短い第2通信周期T2で圃場水管理サーバ34と通信するため、通信の遅延による弊害を解消することができる。
【0049】
例えば、給水栓制御装置12Bが第1通信モードで動作しているときに、管理者端末36から圃場水管理サーバ34を介して給水栓制御装置12Bに給水要求が送信されると、その後給水栓制御装置12Bからの応答が圃場水管理サーバ34を介して管理者端末36に送信されるまでに、T1~2T1の時間を要する。例えばT1が10分とすると、10分~20分前後の遅延が生じ、管理者が管理者端末36を介して給水栓の動作を確認するまでに非常に長い時間待つ必要がある。
【0050】
そのような場合に、給水栓制御装置12B(通信部123)が第1通信モードから第2通信モードに切り替わると、圃場水管理サーバ34と給水栓制御装置12Bとの間の通信が第1通信周期T1よりも短い第2通信周期T2で通信が行われるようになる。例えば、第2通信周期T2を1分とすると、最短でT2(=1分)の遅延時間で管理者端末36に結果が表示されるようになる。
【0051】
第2通信モードは、第1通信モードよりも通信頻度が上昇するため通信に要する電力消費が嵩むことになるが、所定の復帰時間が経過すると第1通信モードに切り替わるように構成すれば、全体として蓄電池の電力消費を抑制することができる。
【0052】
つまり、管理者端末36から圃場水管理サーバ34を介して給水栓12Aに対する制御要求があった場合に、圃場水管理サーバ34から第2通信モードに移行するように要求することで、管理者端末36で制御要求に対する圃場1の状態を迅速に確認できるようになる。
【0053】
給水栓制御装置12Bに備えたモード設定スイッチ124の操作に基づいて通信モードを第1通信モードから第2通信モードに切り替える場合には、管理者がモード設定スイッチ124を操作した後に、管理者端末36から圃場水管理サーバ34を介して給水栓12Aに対する給水要求を送信することで、同様に管理者端末36で制御要求に対する圃場1の状態を迅速に確認できるようになる。
【0054】
第1通信モードから第2通信モードに移行する所定の復帰時間は、圃場水管理サーバ34からの要求により第2通信モードに移行する場合よりも、モード設定スイッチ124の操作により第2通信モードに移行する場合の方が長い値に設定されている。
【0055】
例えば管理者端末36から圃場水管理サーバ34を介して圃場1への給水を要求するような場合には、その後に給水栓12Aが適切に制御されたか否かが管理者端末36で確認できればよいので、所定の復帰時間は然程長い値に設定する必要はなく、例えば第1通信周期T1と同じ10分程度に設定すればよい。
【0056】
管理者が圃場に設置した給水栓12Aを作動させつつ調整作業を行なうなど、比較的長い時間を要するような場合には、モード設定スイッチ124を操作することで、十分な調整時間及び管理者端末36での確認時間を確保することができる。この場合の所定の復帰時間として、例えば1時間程度に設定すればよい。
何れの場合でも復帰時間は、第2通信周期T2の整数倍に設定しておくことが好ましい。
【0057】
上述した例では、第2通信モードで通信部123が省電力状態に移行するか否かについて限定していないが、圃場水管理サーバ34と通信し、さらに給水制御部122との通信が終了すると、第1通信モードと同様に省電力状態に移行するように構成してもよい。
【0058】
[圃場機器制御部の省電力制御の詳細]
圃場機器制御部である給水制御部122は、通信部123からの通信の要求またはモード設定スイッチ124の操作に基づいて省電力状態から復帰した場合に、給水栓12Aに対する制御の終了または通信部123との通信の終了の後に所定の省電力移行時間が経過すると省電力状態に移行するように構成されている。
【0059】
給水制御部122のCPUに備えた省電力制御回路に、通信部123から通信要求信号が入力される度にCPUに割り込み信号が入力されて、省電力状態から通常動作状態に復帰する。その際に通信部123を介して圃場水管理サーバ34から受信した要求に従って、給水栓12Aなどを制御するとともに、それまでに取得した圃場1の管理情報を通信部123に送信する。モード設定スイッチ124の操作が無く、通信部123との通信が終了した後、或いは要求された給水栓12Aなどの制御が終了した後、所定の省電力移行時間が経過すると省電力状態に移行する。制御の終了とは、例えば給水栓12Aの弁開度を所定の目標開度に調整した時点や弁開度を閉じた時点をいう。所定の省電力移行時間は、適宜設定すればよく、本実施形態では10秒に設定されている。
【0060】
さらに、通信部123は、給水栓制御装置12Bへの電源投入時に、第2通信モードで動作するように構成されている。そして、所定の復帰時間が経過すると第1通信モードに切り替わるように構成されている。この場合の所定の復帰時間は、圃場水管理サーバからの要求により第1通信モードに移行する場合よりも長い値、例えば1時間程度に設定されている。
【0061】
給水栓制御装置12Bへの電源投入時とは、給水栓12Aを圃場1に設置して動作確認するような場合が該当する。そのような場合に第2通信モードで動作し、第1通信モードに切り替わる所定の復帰時間を長い時間に設定することにより、圃場水管理サーバ34を介して管理者端末に送信される給水栓12Aの動作状態を、十分な時間応答遅れなく監視することができるようになる。
【0062】
図3及び
図4には、給水栓制御装置12Bに備えた通信部123の動作が示されている。排水栓制御装置22Bに備えた通信部223の動作も、給排水の相違があるが基本は同様である。
通信部123に電源が投入されて制御プログラムがCPUで実行されると、先ず通信周期が第1通信モードに対応した第1通信周期T1(T1=10分)に初期設定される(SA1)。続いて電源投入のエッジであると(SA2,Y)、復帰時間を規定する復帰時間RT1(=1時間)が設定されて(SA3)、第2通信周期T2(=1分)の第2通信モードで圃場水管理サーバ34と通信するように設定される(SA8)。
【0063】
電源投入のエッジでなく(SA2,N)、圃場水管理サーバ34からの第2通信モードへの変更要求があると(SA4,Y)、復帰時間を規定する復帰時間RT2(=10分)が設定されて(SA5)、第2通信周期T2(=1分)の第2通信モードで圃場水管理サーバ34と通信するように設定される(SA8)。
【0064】
圃場水管理サーバ34からの第2通信モードへの変更要求がなく(SA4,N)、操作パネルのモード設定スイッチ124が操作されると(SA6,Y)、復帰時間を規定する復帰時間RT3(=1時間)が設定されて(SA7)、第2通信周期T2(=1分)の第2通信モードで圃場水管理サーバ34と通信するように設定される(SA8)。
【0065】
モード設定スイッチ124が操作されなければ(SA6,N)、初期設定された通信周期T1(=10分)の第1通信モードで圃場水管理サーバ34と通信するように設定される。なお、モード設定スイッチ124の操作に限らず、操作パネルに備えた何れかのスイッチが操作された場合も同様に処理してもよい。
【0066】
ステップSA3,SA5,SA7で設定された復帰時間が計時されると(SA9)、通信周期T1(=10分)の第1通信モードに切り替えられて圃場水管理サーバ34と通信するように設定され(SA10)、省電力状態に移行する(SA11)。なお、ステップSA9の計時処理はCPUが省電力状態に移行しても実行されるようにCPUが構成されている。
【0067】
ステップSA1,SA8,SA10の何れかで設定された通信周期が、省電力制御回路に備えたタイマー回路で計時されると(SA12)、CPUに割り込み信号が入力されて省電力状態から通常動作状態に復帰する(SA13)。通信部123は、圃場水管理サーバ34との間で通信を行ない、圃場水管理サーバ34からの要求を受信するとともに、給水制御部122から前回に得られた管理情報を圃場水管理サーバ34に送信する(SA14)。
【0068】
さらに、通信部123は、給水制御部122と通信を行ない、圃場水管理サーバ34からの要求を給水制御部122に送信するとともに、給水制御部122から管理情報を受信して記憶部に記憶し(SA15)、ステップSA2に戻る。
【0069】
図5には、給水栓制御装置12Bに備えた給水制御部122の動作が示されている。排水栓制御装置22Bに備えた排水制御部222の動作も、給排水の相違はあるが基本は同様である。
通信部123から通信要求信号が入力される度に、給水制御部122に備えた省電力制御回路からCPUに割り込み信号が入力され(SB1)、通常動作状態でなければ(SB2,N)、省電力状態から通常動作状態に復帰する(SB3)。
【0070】
給水制御部122は、通信部123と通信を行なって、圃場水管理サーバ34からの要求を受信するとともに、管理情報を通信部123に出力する(SB4)。
【0071】
続いて、圃場水管理サーバ34からの要求である給水栓12Aの開閉に関する制御要求があり、または、給水栓12Aの制御動作中である場合(SB5,Y)、通常動作状態でなければ(SB6,Y)、省電力状態から通常動作状態に復帰して(SB7)、給水栓12Aを制御する(SB8)。ステップSB6で通常動作状態であれば、ステップSB8に進む。モード設定スイッチ124の操作や給水制御部122との通信が無く、給水栓12Aの制御が終了すると(SB9,Y)、省電力移行タイマーをセットし(SB10)、その後、省電力移行タイマーの計時が終了すると(SB11,Y)、省電力状態に移行する(SB12)。
【0072】
圃場水管理サーバ34からの制御要求がなく、かつ、給水栓12Aの制御が終了した場合(SB5,N)、省電力状態に移行していると(SB13,Y)、ステップSB1に戻り、省電力状態に移行していなければ(SB13,N)、ステップSB10に進む。
【0073】
以上説明した実施形態は本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されることを意図するものではなく、給水栓装置、排水栓装置、圃場水管理サーバなどの具体的構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。同様に、第1通信周期、第2通信周期、復帰時間、省電力移行時間などの具体的な値も、実施形態に記載された数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0074】
100:圃場水管理システム
1:圃場
2:水位センサ
10:給水管
12:給水栓装置
12A:給水栓
12B:給水栓制御装置
20:排水路
22:排水栓装置
22A:排水栓
22B:排水栓制御装置
34:圃場水管理サーバ
123,223:通信部
121,221:アクチュエータ
122:給水制御部
123,223:通信部
124,224:モード切替スイッチ
125,225:蓄電池
126,226:ソーラーセル
127,227:電源スイッチ
222:排水制御部