(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー、電極合剤ペースト、負極活物質層、蓄電デバイス用負極シート及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241017BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241017BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241017BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021509622
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013886
(87)【国際公開番号】W WO2020196805
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019060045
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛成
(72)【発明者】
【氏名】成田 一貴
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】篠原 功一
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035806(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/040308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰返し破断エネルギー保持率が80%以上である蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー(但し、前記バインダーは、下記(a)の条件を満たす。
(a)3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび/またはp-フェニレンジアミンとから得られるポリイミドのみからなるバインダーではない。)。
【請求項2】
前記バインダーの融点が300℃より高いか実質的に存在しない請求項1に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【請求項3】
下記一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られる請求項1または2に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【化1】
(式中、Aは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Bは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれ
る一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
【請求項4】
前記一般式(I)において、AまたはBのいずれか一方の基の50モル%以上が鎖状脂肪族基である請求項3に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【請求項5】
前記一般式(I)において、Aの50モル%以上が下記一般式(II)で表される基である請求項3または4のいずれかに記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【化2】
(式中、Xは単結合か酸素原子であり、nは0から2の整数であり、nが1または2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
下記一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリアミック酸および溶媒を含有し、イミド化反応により請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーを形成しうる、バインダー用樹脂組成物。
【化3】
(式中、Aは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Bは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれ
る一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
【請求項7】
請求項6に記載のバインダー用樹脂組成物と、電極活物質を含む電極合剤ペースト。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダーと、電極活物質とを含む負極活物質層。
【請求項9】
請求項8に記載の負極活物質層を集電体表面に形成してなる蓄電デバイス用負極シート。
【請求項10】
請求項9に記載の蓄電デバイス用負極シートを含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー、電極合剤ペースト、負極活物質層、蓄電デバイス用負極シート及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイス、たとえばリチウム二次電池等は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるため、移動情報端末の駆動電源などとして広く利用されている。近年では、電気・ハイブリッド自動車、無人飛行機器等への搭載など産業用途への応用が検討されており、蓄電デバイスのさらなる高容量化が進められている。高容量化の一例として、蓄電デバイスを構成する負極でいえば、単位体積あたりのリチウム吸蔵量の多いケイ素やスズ、或いはこれらを含む合金を用いて、充放電容量を増大させる検討が行われている。
【0003】
しかし、ケイ素やスズ、或いはこれらを含む合金のような充放電容量の大きな電極活物質は、充放電に伴って非常に大きな体積変化を起こすことが知られている。そのため、これら電極活物質を用いてポリフッ化ビニリデンやゴム系の樹脂など汎用のバインダーで負極活物質層を形成すると、その負極活物質層は、電極活物質の体積変化によって、層の破壊または集電体と負極活物質層との界面剥離などが発生し、蓄電デバイスのサイクル特性が低下するという問題が生じていた。
【0004】
こうした問題に対して、繰り返し充放電時の体積変化によるサイクル特性の低下を改善する手法として、平均粒径が1~10ミクロンのシリコン系粒子を、力学的特性に優れたポリイミドを用いて結着し、熱加圧処理することにより負極活物質層を形成させる方法が提案されている(特許文献1~5)。
【0005】
これら特許文献で開示されているポリイミドをバインダーとして用いた負極は、充放電させると負極活物質層に亀裂が生じ、充電時の体積膨張を吸収できる空間を持つ島状構造が形成されることにより、繰り返し充放電における容量保持率が向上することが指摘されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/004031号
【文献】特開2004-235057号公報
【文献】特開2003-203637号公報
【文献】特開2004-288520号公報
【文献】特開2004-022433号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】第48回電池討論会予稿集,2B23,p.238(2007)(高野靖男 等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来開示されたポリイミドをバインダーとして用いた負極を具備した蓄電デバイスでは、ある程度の容量とサイクル特性の改善が見受けられるものの、電気・ハイブリッド自動車、無人飛行機器などの産業用途に求められる実用性に耐えうるだけの高容量化及び高サイクル特性は実現できていなかった。
【0009】
また、全固体電池では、緩衝役を担う液層が存在しないため、従来開示されたポリイミドでは、機械的特性や電池特性など全固体電池で要求される機能を十分に発現させることは困難であった。
【0010】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、電池容量やサイクル特性をより一層向上させることを可能とする蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーを提供することを目的とする。また、全固体電池であっても優れた高容量化やサイクル特性、機械的特性が発現することを可能とする蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、本発明者らは、高容量化した蓄電デバイスのサイクル特性や機械的特性が電極に使用されるバインダーの破断エネルギーと関連していることを突き止めた。そこで、本発明は、特に以下の各項に関する。
【0012】
[1]繰返し破断エネルギー保持率が70%以上である蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【0013】
[2]前記バインダーの融点が300℃より高いか実質的に存在しない上記項1に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【0014】
[3]下記一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリアミック酸溶液を加熱または化学的にイミド化反応させて得られる上記項1または2に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【0015】
【化1】
(式中、Aは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Bは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれるから選ばれる一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
【0016】
[4]前記一般式(I)において、AまたはBのいずれか一方の基の50モル%以上が鎖状脂肪族基である上記項3に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【0017】
[5]前記一般式(I)において、Aの50モル%以上が下記一般式(II)で表される基である上記項3または4のいずれかに記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー。
【0018】
【化2】
(式中、Xは単結合か酸素原子であり、nは0から2の整数であり、nが1または2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。)
【0019】
[6]下記一般式(I)で表される繰返し単位を含むポリアミック酸および溶媒を含有し、イミド化反応により上記項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーを形成しうる、バインダー用樹脂組成物。
【0020】
【化3】
(式中、Aは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Bは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれるから選ばれる一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
[7]上記項6に記載のバインダー用樹脂組成物と、電極活物質を含む負極活物質層。
【0021】
[8]上記項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダーと、電極活物質とを含む負極活物質層。
【0022】
[9]上記項8に記載の負極活物質層を集電体表面に形成してなる蓄電デバイス用負極シート。
【0023】
[10]上記項9に記載の蓄電デバイス用負極シートを含む蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、蓄電デバイスの特性向上に有用な繰返し破断エネルギー保持率が70%以上であるポリイミド系バインダー提供することができる。こうしたポリイミド系バインダーは、蓄電デバイスに対して、好適な物理的挙動を示すバインダーであるため、負極活物質層及び負極シート等の蓄電デバイスの各種部材のバインダーとして使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<ポリイミド系バインダー>
本発明のポリイミド系バインダーは、繰返し破断エネルギー保持率が70%以上であることを特徴とする。
【0026】
本発明でいう繰返し破断エネルギー保持率とは、以下の式で表される数値をいう。
繰返し破断エネルギー保持率=(TEB200-10)/(TEB0)
(ここで、(TEB0)とは、ASTM D882に準ずる方法で引張破断試験を実施して算出された引張破断エネルギーの初期値であり、(TEB200-10)とは、10%歪みを200回繰り返した後に引張破断試験を実施して算出された引張破断エネルギーをいう。単に、10%繰返し破断エネルギー保持率ともいう。また、同様に20%歪みを200回繰り返した後の保持率を20%繰り返し破断エネルギー保持率といい、(TEB200-20)で表すこともある。30%歪みを200回繰り返した後の保持率を30%繰り返し破断エネルギー保持率といい、(TEB200-30)で表すこともある。)
【0027】
本発明のポリイミド系バインダーは、繰返し破断エネルギー保持率が70%以上であるため、機械的物性を保持しつつ、蓄電デバイスとしての機能を向上させることができる。特に、繰返し破断エネルギー保持率が75%以上、80%以上、85%以上、90%以上であると好ましい。つまり、繰返し破断エネルギー保持率が高ければ高いほど、体積変化率が高い負極活物質を多用した場合であっても、機械的物性を損なうことなく、高サイクル特性等の機能を高水準で発現することができる。蓄電デバイスの用途によっては、20%繰返し破断エネルギー保持率が60%以上、より好ましくは70%以上、特に80%以上であることを追加の指標としてもよい。さらに別の蓄電デバイスの用途によっては、30%繰返し破断エネルギー保持率が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であることを追加の指標としてもよい。
【0028】
このように、繰返し破断エネルギー保持率を用いて、例えば歪みの値(たとえば、「10%」歪みにするか、「20%」歪みにするか等)、破断エネルギーの値、繰返し数、保持率など試験条件の要素の数値とその基準を目的に合わせて適宜決定し、それを指標の一つとすることにより、蓄電デバイスの要求特性に合致するポリイミド系バインダーを開発することができる。
【0029】
別の観点から、本発明のポリイミド系バインダーは、融点が300℃を超えるか融点が実質的に存在しないことが好ましい。特に、融点が330℃を超えるか融点が実質的に存在しないことがより好ましい。ポリイミド系バインダーがこうした特性を具備することによって、高温環境下で使用される可能性がある産業用途であっても、好適に使用することができる。
【0030】
本発明のポリイミド系バインダーは、イミド結合を含む繰り返し単位が全繰り返し単位中50モル%以上ある高分子化合物をいう。このようなポリイミド系バインダーを形成できる高分子としては、たとえば、加熱もしくは化学反応により主鎖にイミド結合を形成しうる基を有する高分子化合物が挙げられ、例えばポリアミック酸、特に、下記式(I)で表される繰り返し単位を好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上含むポリアミック酸が好ましい。
【0031】
【化4】
(式中、Aは、ハロゲンで置換されてもされていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Bは、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれるから選ばれる一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
【0032】
ポリイミド系バインダーの化学構造としては、たとえば、下記一般式(III)で表される繰り返し単位を50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは、90%以上含むポリイミド系バインダーが好ましい。
【0033】
【化5】
(式中、X
1は、ハロゲンで置換されてもされていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれる一種以上の四価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。Y
1は、ハロゲンで置換されていてもよい、芳香族環を有する基、鎖状脂肪族基または脂環構造を有する基から選ばれるから選ばれる一種以上の二価の基であり、これらは同一でもよく二種以上であってもよい。)
【0034】
こうしたポリイミド系バインダーは、式(I)のA構造または式(III)のX1構造を有するテトラカルボン酸成分と、式(I)のB構造または式(III)のY1構造を有するジアミン成分とを必須成分として、必要に応じて他の成分と、を公知の方法を用いて調製することができる。
【0035】
テトラカルボン酸成分としては、特に限定されないが、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物;シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸‐1,2:4,5-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト―7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物;4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,2-トリフルオロ-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-(トリフルオロメチル)ピロピリデン]ジフタル酸無水物、1H-ジフロ[3,4-b:3’,4’-i]キサンテン-1,3,7,9(11H)-テトロン、5,5’-オキシビス[4,6,7-トリフルオロ-ピロメリット酸無水物]、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4-(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4-ジフルオロピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物などのハロゲン置換されたテトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。これらは1種または2種以上使用してもよい。
【0036】
蓄電デバイスの用途によっては、式(I)または式(III)においてAまたはX1が下記式(II)で表される基を50モル%以上含むポリイミド系バインダーを使用することが好ましい。
【0037】
【化6】
(式中、Xは単結合か酸素原子であり、nは0から2の整数であり、nが1または2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。)
【0038】
ジアミン成分としては、特に限定されないが、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、2,4-ジアミノトルエンなどの芳香族ジアミン;2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ジアミノベンゼン、2,4,5,6-テトラフルオロ-1,3-ジアミノベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’-ジフルオロ(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-オキシビス(2,3,5,6-テトラフルオロアニリン)などのハロゲン置換されたジアミン;trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのハロゲンで置換されていてもよい脂環式ジアミン;1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミンなどの直鎖状の鎖状脂肪族ジアミン、これら直鎖状脂肪族ジアミンがアルキル基で置換された分岐構造を有する鎖状脂肪族ジアミンなどを好適に挙げることができる。これらのジアミンは1種または2種以上使用してもよい。本発明の1つの実施形態では、ジアミン成分が、直鎖または分岐構造を有する鎖状脂肪族ジアミンを含有することが好ましく、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらにより好ましくは60モル%以上、さらにより好ましくは70モル%以上の量で含有することができ、100モル%であってもよい。鎖状脂肪族ジアミンの炭素数は好ましくは2以上、より好ましくは6以上、さらにより好ましくは8以上であり、例えば22以下、好ましくは18以下である。鎖状脂肪族ジアミンは直鎖状が好ましいが、分岐状の場合は直鎖部分の炭素数(即ち、2つのアミノ基を結合する炭素数)が前述の炭素数を有していることが好ましい。
【0039】
また、公知のジカルボン酸成分をテトラカルボン酸1モルに対して50モル%未満の割合で添加しエステル結合が形成しうるようにしてもよいし、ポリエーテル構造を有するジアミン、ポリシロキサン構造を有するジアミン、カーボネート構造を有するジアミン等を用いて各種繰り返し単位を導入してもよい。こうした構造は、蓄電デバイスの用途、機能等に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
<バインダー用樹脂組成物>
本発明の実施態様の一つであるバインダー用樹脂組成物は、少なくとも、ポリイミド系バインダーを形成できるポリアミック酸および溶媒を含有し、前述のポリイミド系バインダーを形成できるものである。ポリアミック酸は溶媒中に溶解しており、固形分濃度(ポリイミド換算濃度)として好ましくは5~45質量%の範囲である。ポリアミック酸としては、前記式(I)で表される繰り返し単位を、好ましくは50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むポリアミック酸が挙げられる。バインダー用樹脂組成物は、式(I)のA構造を有するテトラカルボン酸成分と、式(I)のB構造を有するジアミン成分とを必須成分として、必要に応じて他の成分と、溶媒中で反応させて調製することができる。テトラカルボン酸成分およびジアミン成分の具体例は、<ポリイミド系バインダー>の項で前述したとおりである。反応液をそのままバインダー用樹脂組成物として使用してよく、または必要により濃縮または希釈してもよい。
【0041】
溶媒としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等の安息香酸エステル類等の非極性溶媒、水、メタノール、エタノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2-ジメトキシメタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m-クレゾール、フェノール、γ―ブチロラクトン、が好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ―ブチロラクトンが特に好ましい。
【0042】
バインダー用樹脂組成物には、次の<電極合剤ペースト>の項で説明する、電極活物質以外の添加剤を予め含有させておいてもよい。
【0043】
<電極合剤ペースト>
本発明の実施態様の一つである電極合剤ペーストは、ポリアミック酸、電極活物質、溶媒を含む組成物である。ポリアミック酸は、本発明のポリイミド系バインダーを形成しうるポリアミック酸を使用することができる。
【0044】
本発明の電極合剤ペーストで使用しうる電極活物質は、公知のものを好適に用いることができる。本発明のポリイミド系バインダーは負極および正極のどちらでも使用することができる。従って電極活物質は、負極活物質および正極活物質のどちらでもよい。通常、負極の方が、本発明のポリイミド系バインダーを使用する効果が大きい。この場合、電極活物質は負極活物質を含む。電極活物質としては、たとえば、リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末が好ましい。電極合剤ペースト中の電極活物質の量は、特に限定されないが、通常、電極用バインダー樹脂組成物に対して、質量基準で0.1~1000倍、好ましくは1~1000倍、より好ましくは5~1000倍、さらに好ましくは10~1000倍である。電極活物質の量が多すぎると電極活物質が集電体に十分に結着されずに脱落しやすくなる。一方、電極活物質の量が少なすぎると、集電体に形成された負極活物質層に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。所望の容量に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
蓄電デバイス用、たとえばリチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛等〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、又はLi4Ti5O12等のチタン酸リチウム化合物等を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。本発明においては、負極活物質として、少なくともスズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、又はケイ素化合物等のケイ素含電極極活物質を含むことが好ましい。特に、ケイ素(単体)、又はケイ素化合物等のケイ素含有負極活物質は、黒鉛に比べ理論容量が極めて大きい反面、充電時の電極活物質自身の体積膨張率も極めて大きい。
【0046】
本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー用いると、体積膨張に伴う電極活物質の劣化を著しく抑制できるため、サイクル特性等の使用時の特性のみならず、高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を顕著に向上させることができる。
【0047】
ケイ素含有負極活物質の種類は、特に限定されないが、たとえば、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、ケイ素の部分置換体、ケイ素化合物の部分置換体、ケイ素化合物の固溶体等が挙げられる。ケイ素化合物の具体例としては、SiOx(0.05<x<1.95)で表されるケイ素酸化物、式:SiCy(0<y<1)で表されるケイ素炭化物、式:SiNz(0<z<4/3)で表されるケイ素窒化物、ケイ素と異種元素Mとの合金であるケイ素合金等が好適に挙げられる。ケイ素合金において、異種元素M1としては、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が好適に挙げられる。
【0048】
また、ケイ素の部分置換体は、ケイ素(単体)及びケイ素化合物に含まれるケイ素の一部を異種元素M2で置換した化合物である。異種元素M2の具体例としては、たとえば、B、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSn等が好適に挙げられる。これらのケイ素含有活物質の中でも、ケイ素(単体)、ケイ素酸化物、又はケイ素合金が好ましく、ケイ素(単体)又はケイ素酸化物が更に好ましい。
【0049】
ケイ素含有負極活物質の量としては、負極合剤中の正味のケイ素の質量として、高容量化のため、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、サイクル特性向上の観点から、95質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。
【0050】
また、リチウム一次電池用の電極活物質、特に負極活物質としては、リチウム金属又はリチウム合金が挙げられる。
【0051】
本発明の電極合剤ペーストで使用しうる溶媒は、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等の安息香酸エステル類等の非極性溶媒、水、メタノール、エタノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2-ジメトキシメタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m-クレゾール、フェノール、γ―ブチロラクトンが好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ―ブチロラクトンが特に好ましい。
【0052】
溶媒は、バインダー用樹脂組成物中の溶媒をそのまま使用するか、必要により濃縮したり、または追加で溶媒を添加したりして、塗布に適切な濃度することができる。
【0053】
本発明の電極合剤ペーストにおいて、水溶媒系にする場合には、ピリジン類化合物、イミダゾール化合物を含有することが好ましい。これにより、得られるポリイミドの電解液に対する膨潤度をより小さくし、破断伸度及び破断エネルギーをより大きくすることができる。また、負極活物質層を得るための加熱処理温度を低く抑えることができる。ピリジン類化合物は、化学構造中にピリジン骨格を有する化合物のことであり、たとえば、ピリジン、3-ピリジノール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、6-tert-ブチルキノリン、アクリジン、6-キノリンカルボン酸、3,4-ルチジン、ピリダジン、などを好適に挙げることができる。これらピリジン類化合物は、1種または2種以上使用しても差し支えない。イミダゾール化合物としては、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、4-エチル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-4-エチルイミダゾールなどを挙げることができる。用いるイミダゾール類は一種であっても、複数種の混合物であってもよい。
【0054】
ピリジン類化合物の配合量は、限定するものではないが、ポリアミック酸のアミック酸繰り返し単位1モルに対して、好ましくは0.05~2.0モル当量、より好ましくは0.1~1.0モル当量である。添加量がこの範囲外では、水溶媒系とすることが難しい場合がある。イミダゾール化合物の配合量は、限定するものではないが、ポリアミック酸のアミック酸繰り返し単位1モルに対して、1.6モル当量以上、より好ましくは2.0モル当量以上、さらに好ましくは2.4モル当量以上である。
【0055】
本発明の電極合剤ペーストには、必要に応じて、公知の添加剤を配合することができる。たとえば、負極導電剤、塩基、界面活性剤、粘度調整剤、導電補助剤、シランカップリング剤、ポリイミド系以外のバインダーなど本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0056】
負極導電剤は、化学変化を起こさない電子導電材料であれば特に制限はないが、銅、ニッケル、チタン、又はアルミニウム等の金属粉末や炭素材料等を用いることが好ましい。導電剤や負極活物質として用いられる炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる一種以上のカーボンブラック;カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等の繊維状炭素粉末が好適に挙げられる。
【0057】
また、負極導電剤として、グラファイトとカーボンブラック、グラファイトと繊維状炭素粉末、又はカーボンブラックと繊維状炭素粉末のように適宜混合して用いることがより好ましい。特に、繊維状炭素粉末を使用すると、導電性を確保するため、比表面積の大きな導電剤の使用が少なくて済むという効果を有するので好ましい。炭素材料は、導電剤や負極活物質として用いられるが、該炭素材料の負極合剤への添加量は、1~90質量%が好ましく、10~70質量%が更に好ましい。
【0058】
負極導電剤として炭素材料を、ケイ素含有負極活物質と混合して使用する場合、ケイ素含有負極活物質と炭素材料との比率は、炭素材料との混合による電子伝導性向上効果に基づくサイクル改善の観点から、負極合剤中のケイ素含有負極活物質正味のケイ素の全質量に対して、炭素材料が、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、ケイ素含有負極活物質と混合する炭素材料の比率が多すぎると、負極合剤層中のケイ素含有負極活物質量が低下し、高容量化の効果が小さくなる虞があることから、炭素材料の全質量に対して、ケイ素含有負極活物質の正味のケイ素の質量は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。また、前記の導電剤は、ケイ素含有活物質と予め混合し適宜熱処理することにより、複合化されたものであるとより好ましい。
【0059】
黒鉛を使用する場合、黒鉛の格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335~0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが更に好ましい。特に複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、鱗片状天然黒鉛を球形化処理した粒子を用いることが好ましい。
【0060】
負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm3以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と広い温度範囲での電気化学特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、ピーク強度の比I(110)/I(004)の上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0061】
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、広い温度範囲での電気化学特性が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によって高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を低下させる傾向があるが、本発明に係る蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いた場合ではこれらの蓄電デバイスの特性が良好となる。
【0062】
負極用バインダーとしては、本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーを用いる。本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーとその他のバインダーを併用する場合、バインダーの総質量に対するその他のバインダーの質量の割合は1~95質量%が好ましく、5~45質量%が更に好ましい。
【0063】
本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー以外のバインダーとしては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリビニルエーテル、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。
【0064】
また、本発明の電極合剤ペーストは、さらに、固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質としては、たとえば、ペロブスカイト型結晶のLa0.51Li0.34TiO2.94、ガーネット型結晶のLi7La3Zr2O12、NASICON型結晶のLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、アモルファスのLIPON(Li2.9PO3.3N0.46)などの酸化物系固体電解質、Li2S-SiS2系やLi2S-P2S5系などの硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0065】
本発明の電極合剤ペーストは、前記した成分を公知の製造方法を適用し、添加、攪拌、混合等することによって、均一な組成物として製造することができる。たとえば、ポリイミド系バインダーと溶媒とを混合した溶液もしくは分散液を製造した後に、各種添加剤を添加混合することで、電極合剤ペーストを製造してもよい。
【0066】
<負極活物質層>
本発明の実施態様の一つである負極活物質層は、電極合剤ペーストを公知の方法で製膜することにより製造することができる。特に限定されないが、一例を挙げると、ポリイミド系バインダー、溶媒、負極活物質を含む電極合剤ペーストを調製し、この電極合剤ペーストを金属箔またはプラスチックフィルム上に流延あるいは塗布し、加熱処理して溶媒を除去すること、必要に応じてイミド化反応させることにより形成することができる。特に、アルミニウム箔などの金属箔からなる導電性の集電体上に負極活物質層を形成することにより、蓄電デバイス用負極シートを製造することができる。
【0067】
本発明の負極活物質層の厚みは、蓄電デバイスの用途や所望する容量に応じて適宜決定すればよい。限定されるものではないが、たとえば、0.1μm~500μmの範囲で用いることが好ましい。特に、1μm以上、10μm以上、20μm以上がより好ましく、300μm以下、100μm以下、50μm以下がより好ましい。
【0068】
<蓄電デバイス用負極シート>
本発明の実施態様の一つである蓄電デバイス用負極シートは、本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー、負極活物質、並びに適宜導電剤等の任意の成分を混合した電極合剤ペーストを集電体上に流延又は塗布して活物質層を形成したものである。好ましくは、本発明の蓄電デバイス用負極シートは、本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダー、ケイ素含有負極活物質、及び炭素材料を含む負極合剤を銅集電体表面に流延又は塗布して負極活物質層を形成した負極シートである。
【0069】
<正極活物質>
蓄電デバイス用、特にリチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン及びニッケルから選ばれる一種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiCo1-xNixO2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn3/2O4、及びLiCo0.98Mg0.02O2から選ばれる一種以上が挙げられる。また、LiCoO2とLiMn2O4、LiCoO2とLiNiO2、LiMn2O4とLiNiO2のように併用してもよい。
【0070】
また、過充電時の安全性やサイクル特性を向上したり、4.3V以上の充電電位での使用を可能にするために、リチウム複合金属酸化物の一部は他元素で置換してもよい。例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも一種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物を被覆することもできる。
これらの中では、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2のような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1-xMxO2(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる一種以上の元素、0.001≦x≦0.05)等の異種元素置換リチウムコバルト酸化物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、LiNi1/2Mn3/2O4、又はLi2MnO3とLiMO2(Mは、Co、Ni、Mn、又はFe等の遷移金属)との固溶体のようなリチウム原子以外の全金属元素中にニッケル原子及びマンガン原子が占める割合が50原子%以上100原子%以下のリチウム複合金属酸化物等、4.4V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物がより好ましい。高充電電圧で動作するリチウム複合金属酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により広い温度範囲で使用した場合における蓄電デバイスの特性が低下しやすいが、本発明に係る蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いるとこれらの蓄電デバイスの特性の低下を抑制することができる。
【0071】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンから選ばれる一種以上を含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、及びLiMnPO4から選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZr等から選ばれる一種以上の元素で置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePO4又はLiMnPO4が好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0072】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、Cu2O、Ag2O、Ag2CrO4、CuS、CuSO4、TiO2、TiS2、SiO2、SnO、V2O5、V6O12、VOx、Nb2O5、Bi2O3、Bi2Pb2O5,Sb2O3、CrO3、Cr2O3、MoO3、WO3、SeO2、MnO2、Mn2O3、Fe2O3、FeO、Fe3O4、Ni2O3、NiO、CoO3、CoO等の、一種以上の金属元素の酸化物又はカルコゲン化合物、SO2、SOCl2等の硫黄化合物、又は一般式(CFx)nで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)等が挙げられる。中でも、MnO2、V2O5、フッ化黒鉛等が好ましい。
【0073】
<正極導電剤>
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる一種以上のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等の繊維状炭素粉末が好適に挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラック、グラファイトと繊維状炭素粉末、又はカーボンブラックと繊維状炭素粉末の様に適宜混合して用いることがより好ましい。導電剤の正極合剤への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0074】
<正極バインダー>
正極用バインダーとしては、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いることができるが、その他のバインダーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はエチレンプロピレンジエンターポリマーを用いることもできる。
また、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーとその他のバインダーを併用することもできるが、その際の好ましい態様は、〔負極バインダー〕に記載の態様と同様である。
【0075】
<蓄電デバイス用正極シート>
蓄電デバイス用正極シートは、正極バインダー、正極活物質、並びに適宜導電剤等の任意の成分を混合した電極合剤ペーストを集電体上に流延又は塗布して活物質層を形成して得られるものである。
【0076】
<蓄電デバイス>
本発明の実施形態の一つである蓄電デバイスは、前記した蓄電デバイス用負極シートを含むものであり、その他の構成については、蓄電デバイスに必要な公知の構成を採用すればよい。本発明の蓄電デバイスはリチウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等を包含する。別の態様として、蓄電デバイス用負極シートは、高容量化及びシート化が可能であり、機械的物性に優れているため、全固体電池などにも好適に使用できる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0078】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<引張破断エネルギー>
ASTM D882に準拠して、引張破断試験を実施して引張破断エネルギーを算出した。
【0079】
<10%繰返し破断エネルギー保持率>
引張破断エネルギーの初期値を(TEB0)、10%歪みを200回繰り返した後、引張破断試験を実施して算出された引張破断エネルギーを(TEB200-10)として、次式により算出した。
10%繰返し破断エネルギー保持率=(TEB200-10)/(TEB0)
【0080】
<20%繰返し破断エネルギー保持率>
引張破断エネルギーの初期値を(TEB0)、20%歪みを200回繰り返した後、引張破断試験を実施して算出された引張破断エネルギーを(TEB200-20)として、次式により算出した。
20%繰返し破断エネルギー保持率=(TEB200-20)/(TEB0)
【0081】
<30%繰返し破断エネルギー保持率>
引張破断エネルギーの初期値を(TEB0)、30%歪みを200回繰り返した後、引張破断試験を実施して算出された引張破断エネルギーを(TEB200-30)として、次式により算出した。
30%繰返し破断エネルギー保持率=(TEB200-30)/(TEB0)
【0082】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物、
PMDA:ピロメリット酸二無水物、
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、
PPD:p-フェニレンジアミン、
DMD:デカメチレンジアミン、
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0083】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA40.49g(0.202モル)と、s-BPDA59.51g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.2質量%、溶液粘度5.0Pa・sの蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を得た。得られた蓄電デバイス用ポリイミド前駆体をそのままバインダー用樹脂組成物として使用した。
【0084】
得られた蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃30分間、150℃10分間、200℃10分間、250℃10分間、350℃10分間加熱処理することにより、厚さが30μmのバインダー樹脂フィルムを形成した。
【0085】
得られたフィルムの(TEB0)は163MJ/m3、(TEB200-10)は151MJ/m3であり、10%繰返し破断エネルギー保持率は93%であった。
【0086】
〔実施例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP425gを加え、これにDMD13.45g(0.078モル)及びODA15.63g(0.078モル)と、s-BPDA45.92g(0.156モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度13.3質量%、溶液粘度3.4Pa・sの蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を得た。
【0087】
得られた蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃30分間、150℃10分間、200℃120分間加熱処理することにより、厚さが30μmのバインダー樹脂フィルムを形成した。
【0088】
得られたフィルムの(TEB0)は181MJ/m3、(TEB200-10)は179MJ/m3、(TEB200-20)は159MJ/m3、(TEB200-30)は132MJ/m3であり、10%繰返し破断エネルギー保持率は99%、20%繰返し破断エネルギー保持率は88%、30%繰返し破断エネルギー保持率は73%であった。
【0089】
〔実施例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにDMD17.35g(0.101モル)及びODA20.17g(0.101モル)と、ODPA62.48g(0.201モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度5.7Pa・sの蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を得た。
【0090】
得られた蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃30分間、150℃10分間、200℃120分間加熱処理することにより、厚さが30μmのバインダー樹脂フィルムを形成した。
【0091】
得られたフィルムの(TEB0)は147MJ/m3、(TEB200-10)は140MJ/m3であり、10%繰返し破断エネルギー保持率は96%であった。
【0092】
〔実施例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA32.56g(0.163モル)及びPPD4.40g(0.041モル)と、ODPA63.05g(0.203モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.1質量%、溶液粘度6.3Pa・sの蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を得た。
【0093】
得られた蓄電デバイス用ポリイミド前駆体を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃30分間、150℃10分間、200℃120分間加熱処理することにより、厚さが30μmのバインダー樹脂フィルムを形成した。
【0094】
得られたフィルムのTEB0は140MJ/m3、TEB200-10は139MJ/m3であり、10%繰返し破断エネルギー保持率は99%であった。
【0095】
〔比較例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA47.85g(0.239モル)と、PMDA52.15g(0.239モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度4.8Pa・sのポリイミド前駆体を得た。
【0096】
得られたポリイミド前駆体を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃30分間、150℃10分間、200℃10分間、250℃10分間、次いで350℃10分間加熱処理して、厚さが30μmの樹脂フィルムを形成した。
【0097】
得られたフィルムの(TEB0)は138MJ/m3、(TEB200-10)は84MJ/m3であり、10%繰返し破断エネルギー保持率は61%であった。
【0098】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2;93質量%、アセチレンブラック(導電剤)3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(バインダー)4質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極No.1の正極シートを作製した。
また、実施例および比較例で得られたバインダー用樹脂組成物15質量%(固形分量として)、ケイ素単体(Si)60質量%、人造黒鉛(d002=0.335nm)20質量%、繊維状炭素粉末(直径;12nm、繊維長;114nm)5質量%を用い、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し加熱、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き負極シートを作製した。そして、正極シート、微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、非水電解液を加えて、2032型コイン電池を作製した。非水電解液は、エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート/ジエチルカーボネート/4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(体積比25/30/40/5)に対して1M LiPF6+0.05M LiPO2F2を溶解させた組成を有する。
【0099】
作製したコイン電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。このサイクルを200回繰り返し、1回目と200回目の放電容量から容量維持率を求めた。
【0100】
従来のポリイミド(たとえば、比較例1のバインダー用樹脂組成物から得られるポリイミド系バインダー)と比較して、実施例1~4のバインダー用樹脂組成物から得られるポリイミド系バインダーは容量維持率が大きいことがわかった。従って、本発明の蓄電デバイス用ポリイミド系バインダーの使用により、特に高容量化のために電極活物質としてSi又はSiOを使用した負極を具備する蓄電デバイスの特性を大幅に向上させることができることが確かめられた。