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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】固体二次電池の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241017BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20241017BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241017BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241017BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/056
H01M4/139
H01M10/052
H01B1/06 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021517128
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 IB2020053579
(87)【国際公開番号】W WO2020222065
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019087082
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】栗城 和貴
(72)【発明者】
【氏名】田島 亮太
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-016286(JP,A)
【文献】特開2004-079528(JP,A)
【文献】特開2001-076710(JP,A)
【文献】特開2003-282142(JP,A)
【文献】特開2011-192922(JP,A)
【文献】特開2003-313654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01L 21/68
H01M 4/00-4/62
H01B 1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクアライメント室と、
前記マスクアライメント室と連結する第1の搬送室と、
前記第1の搬送室と連結する第2の搬送室と、
前記第2の搬送室と連結する第1の成膜室と、
前記第1の搬送室と連結する第3の搬送室と、
前記第3の搬送室と連結する第2の成膜室と、を有し、
前記第1の成膜室は、スパッタリング法により正極活物質層または負極活物質層を成膜する機能を有し、
前記第2の成膜室は、リチウムの有機錯体と、SiO(0<X≦2)とを共蒸着して固体電解質層を成膜する機能を有し、
前記マスクアライメント室から前記第1の成膜室間、及び前記マスクアライメント室から前記第2の成膜室間は大気に触れることなく基板が搬送される固体二次電池の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、さらに前記第2の搬送室と連結する加熱室を有する固体二次電池の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記リチウムの有機錯体は、8-ヒドロキシキノリナト-リチウムである固体二次電池の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器またはそれらの製造方法に関する。特に蓄電装置の製造方法及び製造装置に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
使用者が携帯する電子機器や、使用者が装着する電子機器が盛んに開発されている。
【0004】
使用者が携帯する電子機器や、使用者が装着する電子機器は、蓄電装置の一例である一次電池または二次電池を電源として動作する。使用者が携帯する電子機器は、長時間使用することが望まれ、そのために大容量の二次電池を用いればよい。電子機器に大容量の二次電池を内蔵させると大容量の二次電池は大きく、重量がかさむ問題がある。そこで携帯する電子機器に内蔵できる小型または薄型で大容量の二次電池の開発が進められている。
【0005】
キャリアイオンであるリチウムイオンを移動させるための媒体として有機溶媒などの電解液を用いるリチウムイオン二次電池が一般に普及している。しかし、液体を用いる二次電池においては、液体を用いているため使用温度範囲、使用電位による電解液の分解反応の問題や二次電池外部への漏液の問題がある。また、電解液を用いる二次電池は、漏液による発火のリスクが有る。
【0006】
液体を用いない二次電池として燃料電池があるが、電極に貴金属を用い、固体電解質の材料も高価なデバイスである。
【0007】
また、液体を用いない二次電池として固体電解質を用いる固体電池と呼ばれる蓄電装置が知られている。例えば、特許文献1が開示されている。
【0008】
特許文献1には、スパッタリング法により正極集電体上にコバルト酸リチウム膜を形成する例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第8404001号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固体二次電池の作製を全自動化できる製造装置を実現することを課題とする。また、固体二次電池の作製を短時間に行うことのできる製造装置を実現することも課題の一つとする。また、固体二次電池の作製を歩留まりよく行うことのできる製造装置を実現することも課題の一つとする。
【0011】
また、固体二次電池を大気に触れることなく作製する方法も課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書で開示する製造装置の構成は、マスクアライメント室と、マスクアライメント室と連結する第1の搬送室と、第1の搬送室と連結する第2の搬送室と、第2の搬送室と連結する第1の成膜室と、第1の搬送室と連結する第3の搬送室と、第3の搬送室と連結する第2の成膜室と、を有し、第1の成膜室は、スパッタリング法により正極活物質層または負極活物質層を成膜し、第2の成膜室は、リチウムの有機錯体と、SiO(0<X≦2)とを共蒸着して固体電解質層を成膜し、マスクアライメント室から第1の成膜室間、及びマスクアライメント室から第2の成膜室間は大気に触れることなく基板が搬送される固体二次電池の製造装置である。
【0013】
上記構成において、さらに第2の搬送室と連結する加熱室を有する構成としてもよい。加熱室は、加熱処理前後において、排気機構により大気圧よりも低い圧力(減圧雰囲気)下で維持することが好ましい。真空度が高いほど、より効率的に絶縁膜の表面に吸着した水などを脱離させることができる。例えば、加熱処理を行うチャンバー内部の基板挿入時の圧力を、1×10-7Pa以上1×10-3Pa以下、好ましくは1×10-6Pa以上1×10-4Pa以下とすればよい。
【0014】
上記構成において、成膜室及び搬送室の清浄度を維持することで良好な特性を有する固体二次電池を作製することができる。
【0015】
上述した第1の成膜室の背圧(全圧)は、排気機構により1×10-4Pa以下、好ましくは3×10-5Pa以下、さらに好ましくは1×10-5Pa以下とする。上述した第1の成膜室の質量電荷比(m/z)が18である気体分子(原子)の分圧は、3×10-5Pa以下、好ましくは1×10-5Pa以下、さらに好ましくは3×10-6Pa以下である。また、上述した第1の成膜室のm/zが28である気体分子(原子)の分圧は、3×10-5Pa以下、好ましくは1×10-5Pa以下、さらに好ましくは3×10-6Pa以下である。また、上述した第1の成膜室のm/zが44である気体分子(原子)の分圧は、3×10-5Pa以下、好ましくは1×10-5Pa以下、さらに好ましくは3×10-6Pa以下である。
【0016】
なお、第1の成膜室などの真空チャンバー内の全圧および分圧は、質量分析計を用いて測定することができる。例えば、株式会社アルバック製四重極形質量分析計(Q-massともいう。)Qulee CGM-051を用いればよい。
【0017】
また、上記構成において、搬送室は、大気圧から低真空または中真空(数100Paから0.1Pa程度)まで真空ポンプを用いて排気され、バルブを切り替えて中真空から高真空または超高真空(0.1Paから1×10-7Pa程度)まではクライオポンプを用いて排気される構成としてもよい。
【0018】
また、作製方法も本明細書で開示する発明の一つであり、その構成は、絶縁表面上に接して第1の導電層を形成し、第1の導電層上に負極活物質層を形成し、負極活物質層上に、リチウムの有機錯体と、SiO(0<X≦2)とを共蒸着して固体電解質層を形成し、固体電解質層上に第1の正極活物質層を形成し、絶縁表面上に接し、且つ、第1の正極活物質層上に第2の導電層を形成し、第2の導電層上に第2の正極活物質層を形成し、固体電解質層は、負極活物質層の側面と接し、第2の導電層は、固体電解質層の一部の側面と接し、第1の正極活物質層と、第2の正極活物質層は重ならない固体二次電池の作製方法である。
【0019】
上記作製方法において、第1の正極活物質層と第2の正極活物質層は、同じスパッタリングターゲットを用いることで製造コストを低減することができる。
【0020】
また、上記作製方法において、第1の導電層と第2の導電層は、同じスパッタリングターゲットを用いることで製造コストを低減することができる。
【0021】
上記構成において、リチウムの有機錯体は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の単体、有機錯体または化合物のいずれかであり、例えば、Li、LiOなどを挙げることができる。特に、リチウムの有機錯体が好ましく、中でも、特性が良好であるため、8-ヒドロキシキノリナト-リチウム(略称:Liq)が好ましい。SiO(0<X≦2)と共蒸着させる他の有機材料としては、ジリチウムフタロシアニン(フタロシアニン二リチウム)、リチウム2-(2-ピリジル)フェノラート(略称:Lipp)、リチウム2-(2’,2’’―ビピリジンー6’―イル)フェノラート(略称:Libpp)を用いることもできる。
【発明の効果】
【0022】
大気に触れることなく、不純物の混入しにくい環境で固体二次電池を作製することにより、良好な特性を有する固体二次電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1は本発明の一態様を示す製造装置の上面模式図である。
図2は本発明の一態様を示す製造装置の一部の断面図である。
図3Aは本発明の一態様を示す二次電池の上面図であり、図3Bは断面図である。
図4Aは本発明の一態様を示す二次電池の作製途中の上面図であり、図4Bは完成後の上面図である。
図5は本発明の一態様を示す断面図である。
図6は本発明の一態様を示す製造フロー図である。
図7Aは電池セルの斜視図であり、図7Bは電子機器の一例を示す図である。
図8A図8B図8Cは電子機器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態では、二次電池の第1の電極から第2の電極までの作製を全自動化できるマルチチャンバー方式の製造装置の例を図1に示す。
【0026】
図1は、ゲート80、81、82、83、84、85、86、87、88、ロードロック室70、マスクアライメント室91、第1搬送室71、第2搬送室72、第3搬送室73、複数の成膜室(第1成膜室92、第2成膜室74)、加熱室93、第2の材料供給室94、第1の材料供給室95、第3の材料供給室96を備えるマルチチャンバーの製造装置の一例である。
【0027】
マスクアライメント室91は、ステージ51と基板搬送機構52とを少なくとも有する。
【0028】
第1搬送室71は基板カセット昇降機構を有し、第2搬送室72は、基板搬送機構53を有し、第3搬送室は基板搬送機構54を有する。
【0029】
第1成膜室92、第2成膜室74、第2の材料供給室94、第1の材料供給室95、第3の材料供給室96、マスクアライメント室91、第1搬送室71、第2搬送室72、第3搬送室73はそれぞれ排気機構と接続している。排気機構としては、各室の使用用途に応じて適宜排気装置を選定すれば良く、例えば、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、チタンサブリメーションポンプ等の、吸着手段を有するポンプを備えた排気機構や、ターボ分子ポンプにコールドトラップを備えた排気機構等が挙げられる。
【0030】
基板に成膜する手順としては、基板50または基板カセットをロードロック室70に設置し、基板搬送機構52によってマスクアライメント室91に搬送する。マスクアライメント室91では予めセットされている複数のマスクの中から、用いるマスクをピックアップし、ステージ51上で基板と位置合わせを行う。位置合わせが終わった後、ゲート80を開け、基板搬送機構52によって第1搬送室71に搬送される。第1搬送室71に基板を運び、ゲート81を開けて基板搬送機構53によって第2搬送室72に搬送する。
【0031】
第2搬送室72にゲート82を介して設けられている第1成膜室92はスパッタ成膜室である。スパッタ成膜室にはRF電源と、パルスDC電源を切り替えてスパッタターゲットに電圧を印加できる機構となっている。また、スパッタターゲットは2種または3種類セットすることができる。本実施の形態では、単結晶シリコンターゲットと、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)を主成分とするスパッタリングターゲットと、チタンターゲットと、を設置する。第1成膜室92に基板加熱機構を設け、ヒータ温度700℃まで加熱したまま成膜することも可能である。
【0032】
単結晶シリコンターゲットを用いるスパッタ法では負極活物質層を形成することができる。また、負極としてArガスとOガスによる反応性スパッタ法を用いてSiOとした膜を負極活物質層としても良い。ArガスとNガスによる反応性スパッタ法により窒化シリコン膜を封止膜として用いる事も可能である。また、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)を主成分とするスパッタリングターゲットを用いるスパッタ法では正極活物質層を形成することができる。チタンターゲットを用いるスパッタ法では、集電体となる導電膜を形成することができる。ArガスとNガスによる反応性スパッタ法により窒化チタン膜とし、集電体層と活物質層の間に拡散防止層として用いる事も可能である。
【0033】
正極活物質層を形成する場合は、マスクと基板を重ねた状態で基板搬送機構53によって第2搬送室72から第1成膜室92に搬送し、ゲート82を閉めて、スパッタリング法による成膜を行う。成膜を終えた後は、ゲート82及びゲート83を開けて、加熱室93に搬送し、ゲート83を閉めた後、加熱を行うことができる。加熱室93の加熱処理には、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置を用いることができる。RTA装置には、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(LampRapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。加熱室93の加熱処理は、窒素、酸素、希ガス、または乾燥空気の雰囲気下で行うことができる。また、加熱時間は1分以上24時間以下とする。
【0034】
そして、成膜または加熱処理を終えた後は、基板及びマスクをマスクアライメント室91まで戻し、新たなマスクを位置合わせする。位置合わせを終えた基板及びマスクは、基板搬送機構52によって第1搬送室71に搬送される。第1搬送室71の昇降機構によって基板を運び、ゲート84を開けて基板搬送機構54によって第3搬送室73に搬送する。
【0035】
第3搬送室73とゲート85を介して接続している第2成膜室74は蒸着による成膜を行う。
【0036】
第2成膜室74の構成の断面構造の一例を図2に示す。図1中の点線で切断した断面模式図が図2である。第2成膜室74は排気機構49と接続し、第1の材料供給室95は排気機構48と接続している。第2の材料供給室94は排気機構47と接続している。図2に示す第2成膜室74は、第1の材料供給室95から移動させた蒸着源56を用いて蒸着を行う蒸着室であり、複数の材料供給室からそれぞれ蒸着源を移動させ、複数の物質を同時に気化して蒸着、即ち共蒸着ができる。図2においては第2の材料供給室94からも移動させた蒸着ボート58を有する蒸着源を示している。
【0037】
また、第2成膜室74は、ゲート86を介して第2の材料供給室94と接続されている。また、第2成膜室74は、ゲート88を介して第1の材料供給室95と接続されている。また、第2成膜室74は、ゲート87を介して第3の材料供給室96と接続されている。従って、第2成膜室74は3元共蒸着が可能である。
【0038】
蒸着を行う手順としては、基板を基板保持部45に設置する。基板保持部45は回転機構65と接続されている。そして、第1の材料供給室95である程度、第1の蒸着材料55を加熱し、蒸着レートが安定した段階でゲート88を開け、アーム62を伸ばして蒸着源56を移動させ、基板の下方の位置にくるようにする。蒸着源56は、第1の蒸着材料55と、ヒータ57と、第1の蒸着材料55を収納する容器と、で構成される。また、第2の材料供給室94においてもある程度、第2の蒸着材料を加熱し、蒸着レートが安定した段階でゲート86を開け、アーム61を伸ばして蒸着源を移動させ、基板の下方の位置にくるようにする。
【0039】
その後、シャッター68、及び蒸着源シャッター69を開けて共蒸着を行う。蒸着の間は回転機構65を回転させて膜厚の均一性を高める。蒸着を終えた基板は、同じ経路をたどり、マスクアライメント室91に搬送される。製造装置から基板を取り出す場合にはマスクアライメント室91からロードロック室70に搬送して取り出すこととなる。
【0040】
また、図2では、基板保持部45に基板50及びマスクが保持されているときを一例として示す。基板回転機構により基板50(及びマスク)を回転させることで、成膜の均一性を高めることができる。基板回転機構は、基板搬送機構を兼ねていても良い。
【0041】
また、第2成膜室74には、CCDカメラ等の撮像手段63を備えていても良い。撮像手段63を備えることで、基板50の位置確認が可能となる。
【0042】
また、第2成膜室74では、膜厚計測機構67の測定結果により、基板表面に成膜された膜厚が予測できる。膜厚計測機構67としては、例えば、水晶振動子等を備えていれば良い。
【0043】
なお、気化した蒸着材料の蒸着を制御するため、蒸着材料の気化の速度が安定するまで基板と重なるシャッター68や、蒸着源56や蒸着ボート58と重なる蒸着源シャッター69を備えている。
【0044】
蒸着源56において、抵抗加熱方式の例を示しているが、EB(Electron Beam)蒸着方式であってもよい。また、蒸着源56の容器としてルツボの例を示しているが、蒸着ボートであってもよい。ヒータ57で加熱するルツボには第1の蒸着材料55として有機材料を入れる。また、ペレットや粒子状のSiOなどを蒸着材料として用いる場合には蒸着ボート58を用いる。蒸着ボート58は3つのパーツからなり、凹面を有する部材と、2つの穴の開いた中蓋と、一つの穴の開いた上蓋とが重ねられている。なお、中蓋は取り外して蒸着を行ってもよい。蒸着ボート58は通電させることで抵抗として働き、蒸着ボート自身が加熱する仕組みである。
【0045】
また、本実施の形態ではマルチチャンバー方式の例を示したが特に限定されず、インライン方式の製造装置としてもよい。
【0046】
以下では、図1及び図2に示した製造装置を用い、二次電池を作製する場合を一例とし、図3A及び図3Bを用いて説明する。図3Aは二次電池の上面図であり、図3B図3A中の線AA’で切断した断面図に対応している。
【0047】
図3Bに示すように基板50上には、負極集電体203を形成し、負極集電体203上に負極活物質層205、固体電解質層202、正極活物質層204、正極集電体201、保護層206の順で積層している。各膜厚は、10nm以上10μm以下、好ましくは100nm以上2μm以下とする。
【0048】
これらの膜は、それぞれメタルマスクを用いて形成することができる。負極集電体203と負極活物質層205のメタルマスクを共通とし、正極集電体201と正極活物質層204のメタルマスクを共通とすることで4枚の異なるメタルマスクを用いて二次電池を作製することができる。
【0049】
まず、基板50を図1に示すロードロック室70にセットし、マスクアライメント室91に搬送する。マスクアライメント室91にて第1のメタルマスクと位置合わせを行う。そして、搬送室71と搬送室72を経由して第1の成膜室92に搬送し、スパッタリング法により、負極集電体203であるチタン膜と、負極活物質層205であるシリコン膜を選択的に成膜する。
【0050】
基板50としては、絶縁表面を有する基板である、石英基板、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられる。また、絶縁表面を有する半導体基板を用いることもできる。半導体基板には、予め半導体素子などの回路を形成しておき、後に形成する二次電池と電気的に接続させてもよい。
【0051】
負極集電体203と負極活物質層205の成膜を終えると、マスクアライメント室91に戻し、第2のメタルマスクと位置合わせを行う。そして、搬送室71と搬送室73を経由して第2の成膜室74に搬送し、蒸着法により固体電解質層202を選択的に成膜する。
【0052】
第2の成膜室74にて固体電解質層202は、Si粉末(SiO、SiO、SiOとSiOの混合したものなど)と、Liq粉末をそれぞれ蒸着させて共蒸着させることで成膜を行う。Liqは、リチウムの有機錯体であり、8-ヒドロキシキノリナト-リチウムを指している。なお、共蒸着は、抵抗加熱源または電子ビーム蒸着源を用いる。なお、Si粉末(SiO)に限定されずペレット形状、粒子状のものを用いてもよい。
【0053】
固体電解質層202の成膜を終えると、マスクアライメント室91に戻し、第3のメタルマスクと位置合わせを行う。そして、搬送室71と搬送室72を経由して第1の成膜室92に搬送し、スパッタリング法により、正極活物質層204であるLiCoO膜と、正極集電体201であるチタン膜と、を選択的に成膜する。
【0054】
正極活物質層204と正極集電体201の成膜を終えると、マスクアライメント室91に戻し、第4のメタルマスクと位置合わせを行う。そして、搬送室71と搬送室72を経由して第1の成膜室92に搬送し、スパッタリング法により、窒素雰囲気下で単結晶シリコンターゲットを用いて保護層206となる窒化シリコン膜(SiN膜とも呼ぶ)を選択的に成膜する。
【0055】
図3Aに示すように負極集電体203の一部を露出させて負極端子部を形成している。負極端子部以外の領域は、保護層206で覆われている。また、正極集電体201の一部を露出させて正極端子部を形成している。正極端子部以外の領域は、保護層206で覆われている。
【0056】
保護層206の成膜を終えると、マスクアライメント室91に戻し、さらにロードロック室70に搬送した後、二次電池の形成された基板を取り出す。
【0057】
図1及び図2に示す製造装置を用い、以上の一連の工程によって、図3A及び図3Bに示す薄膜型の固体二次電池を製造することができる。
【0058】
また、固体二次電池を積層することで容量を大きくすることができ、並列接続された薄膜型の固体二次電池を製造することもできる。固体二次電池を積層する場合は、正極の両面に接するように正極活物質層を形成し、負極の両面に接するように負極活物質層を形成する。
【0059】
(実施の形態2)
固体二次電池の出力電圧を大きくするために、固体二次電池を直列接続することができる。実施の形態1では単層セルの例を示したが、本実施の形態では直列接続させた固体二次電池を作製する例を示す。
【0060】
図4Aに1つ目の固体二次電池を形成直後の上面図を示し、図4Bは、2つの固体二次電池が直列接続されている上面図を示す。なお、図4A及び図4Bにおいて、実施の形態1に示す図3と同一の部分には同一の符号を用いる。
【0061】
図4Aは、正極集電体201を成膜した直後の状態を示している。図3とは正極集電体201の上面形状が異なっている。図4Aに示す正極集電体201は、固体電解質層側面と一部接し、基板の絶縁表面とも接している。この絶縁表面は1つめの負極とも接している。
【0062】
そして、1つめの正極活物質と重ならない正極集電体201の領域上に第2の正極活物質層を形成する。そして、第2の固体電解質層212を形成し、その上に第2の負極活物質層及び第2の負極集電体213を形成する。図4Bに示すように、最後に保護層206を形成する。
【0063】
図4Bは2つの固体二次電池が平面上に並び、直列接続している構成を示している。
【0064】
直列接続させた複数の薄膜型の固体二次電池も図1及び図2に示す製造装置を用いれば、大気に触れることなく作製することができる。
【0065】
(実施の形態3)
実施の形態1では単層セルの例を示したが、本実施の形態では多層セルの例を示す。図5図6は、薄膜型の固体二次電池の多層セルの場合について示す実施の形態の一つである。
【0066】
図5は3層セルの断面の一例を示している。
【0067】
基板50上に正極集電体201を形成し、正極集電体201上に正極活物質層204、固体電解質層202、負極活物質層205、負極集電体203を順次、形成することで、1つ目のセルを構成している。
【0068】
さらに、負極集電体203上に2層目の負極活物質層、2層目の固体電解質層、2層目の正極活物質層、2層目の正極を順次、形成することで2つ目のセルを構成している。
【0069】
さらに、2層目の正極上に3層目の正極活物質層、3層目の固体電解質層、3層目の負極活物質層、3層目の負極を順次、形成することで、3つ目のセルを構成している。
【0070】
図5では、最後に保護層206が形成されている。図5に示す3層積層は、電圧を大きくするために、直列接続する構成となっているが、外部結線で並列に接続させることもできる。また、外部結線で直列と並列または直並列を選択することもできる。
【0071】
なお、固体電解質層202、2層目の固体電解質層、3層目の固体電解質層は、同じ材料を用いると製造コストを低減できるため、好ましい。
【0072】
また、図5に示す構造を得るための製造フローの一例を図6に示す。
【0073】
図6においては、作製工程を少なくするために、正極活物質層としてLCO膜を用い、集電体(導電層)としてチタン膜を用いてチタン膜を正極とみなしている。また、負極活物質層としてシリコン膜を用い、集電体(導電層)としてチタン膜を用い、負極とみなしている。チタン膜を共通電極として用いることで少ない構成で3層積層セルを実現している。
【0074】
薄膜型の固体二次電池の多層セルも図1及び図2に示す製造装置を用いれば、大気に触れることなく作製することができる。
【0075】
本実施の形態は実施の形態1または実施の形態2と自由に組み合わせることができる。
【0076】
(実施の形態4)
本実施の形態では、薄膜型二次電池を用いた電子機器の例について図7及び図8を用いて説明を行う。
【0077】
図7Aは、薄膜型二次電池3001の外観斜視図である。固体二次電池の正極と電気的に接続する正極リード電極510と、負極と電気的に接続する負極リード電極511が突出するようにラミネートフィルムまたは絶縁フィルムで封止している。
【0078】
図7Bは、本発明に係る薄膜型二次電池を用いた応用機器の一例であるICを含むカードである。電波3005からの給電により得られた電力を薄膜型二次電池3001に充電することができる。ICを含むカード3000内部にはアンテナ及びIC3004や、薄膜型二次電池3001が配置されている。ICを含むカード3000上には、管理バッジを装着する作業者のID3002及び写真3003が貼り付けされている。薄膜型二次電池3001に充電した電力を用いてアンテナから認証信号などの信号を発信することもできる。
【0079】
また、写真3003に代えてアクティブマトリクス表示装置を設けてもよい。アクティブマトリクス表示装置としては反射型液晶表示装置や有機EL表示装置や電子ペーパーなどがある。アクティブマトリクス表示装置に映像(動画または静止画)や時間を表示させることもできる。アクティブマトリクス表示装置の電力は、薄膜型二次電池3001から供給することができる。
【0080】
ICを含むカードはプラスチック基板が用いられるため、フレキシブル基板を用いた有機EL表示装置が好ましい。
【0081】
また、写真3003に代えて太陽電池を設けてもよい。外光の照射により光を吸収し、電力を発生させ、その電力を薄膜型二次電池3001に充電することができる。
【0082】
また、薄膜型二次電池は、ICを含むカードに限定されず、車載に用いるワイヤレスセンサの電源、MEMSデバイス用の二次電池などに用いることができる。
【0083】
図8Aは、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活使用または屋外使用において水による耐水性を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0084】
例えば、図8Aに示すような眼鏡型デバイス400に二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス400は、フレーム400aと、表示部400bを有する。湾曲を有するフレーム400aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス400とすることができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0085】
また、ヘッドセット型デバイス401に二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス401は、少なくともマイク部401aと、フレキシブルパイプ401bと、イヤフォン部401cを有する。フレキシブルパイプ401b内やイヤフォン部401c内に二次電池を設けることができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0086】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス402に二次電池を搭載することができる。デバイス402の薄型の筐体402aの中に、二次電池402bを設けることができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0087】
また、衣服に取り付け可能なデバイス403に二次電池を搭載することができる。デバイス403の薄型の筐体403aの中に、二次電池403bを設けることができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0088】
また、ベルト型デバイス406に二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス406は、ベルト部406aおよびワイヤレス給電受電部406bを有し、ベルト部406aの内部に、二次電池を搭載することができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0089】
また、腕時計型デバイス405に二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス405は表示部405aおよびベルト部405bを有し、表示部405aまたはベルト部405bに、二次電池を設けることができる。実施の形態1に示した薄膜型二次電池を備えてもよく、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0090】
表示部405aには、時刻だけでなく、メールや電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0091】
また、腕時計型デバイス405は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康維持に役立てることができる。
【0092】
図8Aに示した腕時計型デバイス405について、以下に詳細な説明を行う。
【0093】
図8Bに腕時計型デバイス405の斜視図を示す。
【0094】
また、腕時計型デバイス405の側面図を図8Cに示す。図8Cには、内部に薄膜型二次電池913を内蔵している様子を示している。薄膜型二次電池913は図7Aに示した二次電池である。薄膜型二次電池913は表示部405aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【符号の説明】
【0095】
45:基板保持部、47:排気機構、48:排気機構、49:排気機構、50:基板、51:ステージ、52:基板搬送機構、53:基板搬送機構、54:基板搬送機構、55:蒸着材料、56:蒸着源、57:ヒータ、58:蒸着ボート、61:アーム、62:アーム、63:撮像手段、65:回転機構、67:膜厚計測機構、68:シャッター、69:蒸着源シャッター、70:ロードロック室、71:搬送室、72:搬送室、73:搬送室、74:成膜室、80:ゲート、81:ゲート、82:ゲート、83:ゲート、84:ゲート、85:ゲート、86:ゲート、87:ゲート、88:ゲート、91:マスクアライメント室、92:成膜室、93:加熱室、94:第2の材料供給室、95:第1の材料供給室、96:第3の材料供給室、201:正極集電体、202:固体電解質層、203:負極集電体、204:正極活物質層、205:負極活物質層、206:保護層、212:固体電解質層、213:負極集電体、400:眼鏡型デバイス、400a:フレーム、400b:表示部、401:ヘッドセット型デバイス、401a:マイク部、401b:フレキシブルパイプ、401c:イヤフォン部、402:デバイス、402a:筐体、402b:二次電池、403:デバイス、403a:筐体、403b:二次電池、405:腕時計型デバイス、405a:表示部、405b:ベルト部、406:ベルト型デバイス、406a:ベルト部、406b:ワイヤレス給電受電部、510:正極リード電極、511:負極リード電極、913:二次電池、3000:カード、3001:薄膜型二次電池、3002:ID、3003:写真、3004:IC、3005:電波
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C