(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ナノ複合充填材料を含むポリマーを有する受容材料
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20241017BHJP
B41M 5/382 20060101ALI20241017BHJP
B44C 1/17 20060101ALI20241017BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241017BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B41M5/52 400
B41M5/382 310
B44C1/17 A
B32B27/20 A
B32B27/00 B
(21)【出願番号】P 2021549573
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 US2020019682
(87)【国際公開番号】W WO2020176489
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-27
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591203428
【氏名又は名称】イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】モーベン マカプライン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード エリス
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-513092(JP,A)
【文献】特開2002-293047(JP,A)
【文献】特開2009-006573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0137089(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/52
B41M 5/382
B44C 1/17
B32B 27/20
B32B 27/00
B32B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニルコポリマー樹脂の1種以上を含み、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子
より形成された無機小板材料を含むポリマーフィルム集成物
であって、前記無機粒子はモンモリロナイトスメクタイト粘土とこのモンモリロナイトスメクタイト粘土の有機変性剤を含み、前記有機変性剤は窒素、メチル基、及び水素化獣脂を含むポリマーフィルム集成物と、
前記ポリマーフィルム集成物の界面に結合したキャリアフィルム、
を含み、前記ポリマーフィルム集成物が前記界面と反対側のこのポリマーフィルム集成物の受容表面上に染料、顔料、又はインキの1種以上を含む、転写可能な材料。
【請求項2】
ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニルコポリマー樹脂の1種以上を含むポリマーフィルム集成物であって、このポリマーフィルム集成物の受容表面上に染料、顔料、又はインキの1種以上を含むポリマーフィルム集成物と、
前記ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニルコポリマー樹脂の1種以上中において粘土及びこの粘土の有機変性剤より形成された、少なくとも1:200かつ1:500以下であるアスペクト比を有する無機小板であって、前記有機変性剤が窒素、メチル基、及び水素化獣脂を含む無機小板と、
前記ポリマーフィルム集成物の前記受容表面の反対側の界面に結合したキャリアフィルムであって、130℃~220℃の温度領域でキャリアフィルムに熱が加えられると、界面に沿ってポリマーフィルム集成物から分離するように構成されているキャリアフィルム
を含む転写可能な材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国特許出願第15/873,432号(2018年1月17日出願)の一部継続出願であり、かつ米国特許出願第12/919,785号(2010年8月27日出願、2018年1月23日に登録された現在の米国特許第9,873,278号)の継続出願であり、英国特許出願第0803760.8号(2008年2月29日出願)の優先権を主張するPCT出願PCT/GB2009/050169号(2009年2月20日出願)の国内移行手続きである、米国特許出願第16/284,350号(2019年2月25日出願)の優先権を主張する。これらの出願のそれぞれの全内容は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、熱転写用途で使用することができる受容材料に関する。例えば、本明細書に記載される1つ以上の実施の形態を使用して、熱転写リボンに含まれる受容材料を作製することができる。任意選択で、本明細書に記載される受容材料を熱転写用途以外の用途で使用することができる。
【背景技術】
【0003】
染料拡散型熱転写印刷は、1種以上の熱転写可能な染料を局所的な熱の適用により染料シートの選択された領域から受容材料に転写し、それにより画像を形成する方法である。このようにして、イエロー、マゼンタ、及びシアンの3原色の染料を使用してフルカラー画像を作成することができる。異なる色の染料コートの同様のセットを複数有し、各セットが各染料色のパネル(例えば、イエロー、マゼンタ、及びシアンに加えて、任意選択でブラック)を含み、これらのパネルがリボンの長さを横切って延びている個別のストライプの形であり、かつリボンの長さに沿って繰り返しの配列で配置されている耐熱性基材、典型的にはポリエチレンテレフタレートポリエステルフィルムの細長いストリップ又はリボンの形の染料シートを使用して、印刷を行うことが便利である。
【0004】
染料拡散型熱転写印刷を使用して、様々な基材、例えばポリ塩化ビニル(PVC)上に直接印刷することができる。しかしながら、幾つかの基材、例えばポリカーボネート、或る特定のポリエステル及びABSは、それらに直接印刷することによって高品質の画像を形成するには染料受容性が不十分である。
【0005】
この問題はよく知られており、1つの既知の解決手段は、基材の製造中に、受容層とも呼ばれる染料受容性コーティングを適用することである。
【0006】
そのようなコーティングを基材に接着するには、該コーティングが十分に接着性でなければならない。しかしながら、染料拡散型熱転写印刷は、印刷リボンと印刷される基材との物理的接触を伴うため、これは、リボン剥離力が過大となるどころかリボンが貼り付くことにより困難を招く場合がある。
【0007】
この問題を克服するために、そのようなコーティングは典型的には硬化性であり、こうして、コーティングが基材から引き離される危険性なく、架橋の間にそれらの接着的性質が低減される。リボンの接着の危険性を更に減らすために、剥離剤、例えばシリコーン油がコーティング中に組み込まれ得る。しかしながら、しばしば基材の小さな領域しか印刷されないため、基材の製造の間に基材をコーティングすることは不必要なコストを招く可能性がある。
【0008】
代替的な解決手段は、熱の適用によって受容層を基材に転写することである。これには、基材に接着するために、優れた接着特性を有する染色可能な樹脂の熱転写がしばしば必要とされる。この場合、コーティング過程の間に、すなわち転写前に硬化させると、受容層の基材への転写が妨害される又は妨げられるので、受容層は典型的には硬化されない。後続の印刷時のリボン剥離力を減らすために、剥離剤を使用することができるが、これはしばしばリボン剥離力の十分な低下をもたらさず、特に優れた接着性を有する受容層が使用される場合には、リボンの貼り付きの問題は排除されない。
【0009】
この問題の解決手段として、2層又はそれどころか3層を熱転写することが提案されている。例えば、接着剤層に続いて受像層及び最上剥離層を含む配列物が、欧州特許第0474355号で提案されている。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様において、本明細書に記載される主題は、剥離剤と、少なくとも部分的に層間挿入状態又は層剥離状態にある膨潤性の無機層状材料とを含む、染料拡散型熱転写印刷で使用される受容層を提供する。
【0011】
受容層を有する基材上に連続したカラーパネルが印刷されると、リボン剥離力が増加する。最初のカラーパネル(例えば、イエロー)又はそれどころか後続のカラーパネル(例えば、マゼンタ)を印刷するときに、リボン剥離力は許容可能であるかもしれないが、後続のパネル、特に未硬化の受容層に対する剥離力は高くなりすぎる。
【0012】
印刷が進むにつれて剥離力が増加するのは、印刷中に剥離剤が受容層から引き取られる、つまり「掻き出される(clawed back)」ためであると考えられている。したがって、最初のカラー印刷中には十分な剥離剤が存在し得るが、後続のカラー印刷中に剥離剤が失われることで、リボンが受容層に接着する可能性がある。
【0013】
受容層は熱転写可能であり得る。
【0014】
本明細書に記載される主題の1つ以上の実施の形態は、少なくとも部分的に層間挿入状態又は層剥離状態にある無機層状材料を使用する。この状態にある材料は、受容層内に曲がりくねった経路を作り出し、剥離剤分子の動きを妨げるため、印刷中の剥離剤の掻き出しの量が減ると考えられる。
【0015】
これにより、1層で優れた接着性を有し、染料受容性であり、かつ許容可能な剥離特性を有する熱転写可能な層等の受容層を製造することが可能となる。これらの特性を1層で実現することによって、この層をより簡単かつ削減されたコストで作製することが可能となる。
【0016】
基材に適用する前に、受容層は、例えばサーマルプリントヘッドによって又はホットローラーによる押圧によって基材上へと転写され得るようにベースフィルム上にコーティングされ得る。受容層は、印刷前にベースフィルム上に長尺物としてコーティングされ得るか、又は代替的には、受容層は、例えばイエローパネル、マゼンタパネル、シアンパネル、ブラックパネル、及びオーバーレイパネルを含むパネル化された染料シートの一部としてパネルからコーティングされ得る。
【0017】
無機材料は粘土材料であり得て、少なくとも部分的に層剥離状態にあり得る。
【0018】
本明細書に記載される本発明の主題の1つ以上の実施の形態にて使用される無機層状材料、例えば粘土は、従来のマクロ複合物とは構造的に異なる(
図1を参照)。無機層状材料は、マクロ複合物中の小板を膨張させるポリマー材料を含むことで、ポリマー分子が小板間に侵入することにより膨潤が引き起こされ、層間挿入されたナノ複合物が生成される。これに続いて小板の秩序が更に壊されて、層剥離したナノ複合物としても知られるポリマー材料内に小板が分散したものが生じ得る。この分散と小板の秩序の欠如とが受容層内に曲がりくねった経路を作り出すと考えられる。
【0019】
無機層状材料が粘土である場合に、この材料は有機変性モンモリロナイトスメクタイト粘土等の有機変性粘土であり得る。しかしながら、或る特定の状況で、例えば水を水溶性ポリマーと組み合わせて膨潤剤として使用する場合には、非有機変性粘土が使用され得る。
【0020】
有機変性は、ポリマーと層状材料との間の親和性を高めることができる。好ましい有機変性剤は、層状材料を膨潤させるのに使用されるポリマー材料に応じて選択された官能基が結合されたアンモニウムイオンを基礎としている。そのような官能基は、適切には長鎖アルキル基、ヒドロキシル基、芳香族環、又は単に水素であり得る。有機変性は、層状材料と有機変性剤との間のイオン交換過程を使用することによって実施され得る。この方法を使用して、例えばポリマーが層状粒子上で反応することができるように層状材料上に重合性基を追加することもできる。
【0021】
ポリマーの使用による層状材料のマクロ複合物構造の破壊は、幾つかの方法で実現することができる。例えば、溶剤(又は溶液)法、溶融配合法、及びin-situ重合法の全てが適切である。現在では、溶剤(又は溶液)法が好ましい。
【0022】
受容層は、0.5ミクロン~5.0ミクロン、例えば1.5ミクロン~3.5ミクロンの厚さを有し得る。
【0023】
無機層状材料の量を増やすと、相応してリボン剥離力の低下がもたらされるが、粘土の量が多すぎると、染料が受容層内に拡散する能力が低下し、得られる印刷物の光学密度が減少する場合があることが判明した。好ましくは、部分的に層剥離又は層間挿入された材料は、0.5重量%~8.0重量%の量で、より好ましくは1.0重量%~5.0重量%の量で受容層内に存在する。
【0024】
適切な剥離剤の例としては、シリコーン、リン酸エステル界面活性剤、フッ素界面活性剤、高級脂肪酸エステル、及びフッ素化合物が挙げられる。剥離剤は、1.0重量%~10重量%、好ましくは1.0重量%~5.0重量%の量で受容層内に含まれ得る。
【0025】
好ましくは、受容層は、望ましくは優れた転写特性及び接着特性を有する樹脂を含む。樹脂は、ポリエステル、アクリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、又はそれらの混合物を含み得る。樹脂はポリエステルを含み得て、6000~10000の範囲内の分子量を有し得る。存在する場合に、樹脂は、受容層の70重量%~99.5重量%、好ましくは80重量%~99重量%、より好ましくは90重量%~99重量%を構成し得る。
【0026】
一実施の形態において、転写可能な受容材料は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含むポリマーフィルム集成物(assembly:アセンブリ)を含む。ポリマーフィルム集成物は、キャリアフィルムと接合され得て、かつポリマーフィルム集成物は、熱の適用時にキャリアフィルムから分離して、規定の端部に沿って対象物体表面と接合されるように構成され得る。任意選択で、ポリマーフィルム集成物は、熱の適用時に対象物体表面に転写されるように構成されたホログラフィー画像を含む。ポリマーフィルム集成物は、対象物体上に熱転写するための1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容するように構成され得る。
【0027】
一実施の形態において、多層構造物は、表面を有する平坦な対象物体と、対象物体の表面と接合されたポリマーフィルム集成物とを含む。ポリマーフィルム集成物は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含む。ポリマーフィルム集成物は、対象物体上に画像を形成する1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を含む。一例では、この構造物は識別カードであるが、任意選択で別の物体であり得る。
【0028】
一実施の形態において、ポリマーフィルム集成物の表面上に1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容することを含む方法が提供される。ポリマーフィルム集成物は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含む。この方法は、ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を使用して、画像を対象物体上にサーマル印刷することも含む。
【0029】
ここで、本発明の主題を添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来のマクロ複合物と、層間挿入されたナノ複合物と、層剥離されたナノ複合物との間の構造的違いを示す図である。
【
図2】粘土を含まない(コーティングB~コーティングE)及び粘土を含む(コーティングG~コーティングK)受容層についてのシアン剥がし力(cyan peel force)を示す図表である。
【
図3】粘土を含まない(コーティングD)及び粘土を含む(コーティングI)受容層についての事前のシアン255印刷の回数に対する、シアン剥がし力を示す図表である。
【
図4】粘土を含まない(コーティングC)及び粘土を含む(コーティングH)受容層についての事前のシアン255印刷の回数に対する、シアン剥がし力を示す図表である。
【
図5】粘土を含まない(コーティングF)及び粘土を含む(コーティングK)受容層についての事前のシアン255印刷の回数に対する、シアン剥がし力を示す図表である。
【
図6】サーマル印刷染料シート又はサーマル印刷染料リボンの一実施形態の断面図を示す図である。
【
図7】
図6に示されるポリマーフィルム集成物又は
図6に示されるポリマーフィルム集成物の少なくとも1つの層の断面図の一例を概略的に示す図である。
【
図8】
図6に示されるサーマル印刷染料シート又はサーマル印刷染料リボンを使用して、対象物体の印刷面に印刷する一例を示す図である。
【
図9】同様に
図6に示されるサーマル印刷染料シート又はサーマル印刷染料リボンを使用して、対象物体の印刷面に印刷する一例を示す図である。
【
図10】同様に保護ラミネートを有しない
図6に示されるサーマル印刷染料シート又はサーマル印刷染料リボンを使用して、対象物体の印刷面に印刷する一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
試料作製
ナノ複合物作製の溶剤(又は溶液)法が使用され、ここで、ポリマーが可溶であり、かつ粘土が膨潤可能である溶剤が選択される。最初に粘土を適切な溶剤中で膨潤させる。次に、膨潤された粘土とポリマー溶液とを混合すると、ポリマー鎖が粘土ギャラリー内に層間挿入されて、溶剤分子が押しのけられる。次いで、溶剤を除去すると、ポリマー-粘土ナノ複合物が形成される。溶剤は膨潤剤として作用するため層剥離プロセスを促進し、ポリマーとの混合前に粘土小板間の間隔を広げる。ポリマー鎖が粘土ギャラリー内に層間挿入されると、ポリマー鎖のエントロピーが失われる。それを引き起こす原動力は、溶剤分子の脱着によって獲得されたエントロピーである。
【0032】
粘土の少なくとも部分的な層剥離の兆候として、分散された粘土/溶剤分散液の粘度の増加及び混濁の欠如、並びに24時間放置した際の粘土からの何らかの沈降の欠如を使用した。剥離剤を粘土/溶剤予備分散液に添加した後に、樹脂/溶剤溶液を添加して、コーティング溶液を形成した。試料を再び、経時的な何らかの粘土の沈殿について観察した。粘土がコーティング溶液内で層剥離状態のままであることの指標として、粘土からの沈降の欠如を使用した。マイヤーバーを使用して手作業でコーティングを適用して、6μmのポリエステルベースフィルム上に約12μmのウェットコート重量を得た。ベースフィルムは、印刷プロセスの間にサーマルヘッドから保護する耐熱性バックコートと、転写の間に受容体の剥離をもたらす架橋アクリルサブコートとで既にコーティングされていた。最初にコーティングをヘアードライヤーで乾燥させ、次に110℃のオーブンで30秒間乾燥させた。
【0033】
例1
Southern clay productsから入手した3種の有機変性粘土(クロイサイト)を試験した。これらは全て、それらの有機変性の点で異なるモンモリロナイトスメクタイト粘土であった。3種のクロイサイトの有機変性剤を以下に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
HT=水素化獣脂(約65%のC18、約30%のC16、約5%のC14)
T=獣脂(約65%のC18、約30%のC16、約5%のC14)
【0038】
コーティング溶液A(比較)を以下から作製した:
【表1】
【0039】
コーティング溶液B(比較)を以下から作製した:
【表2】
【0040】
コーティング溶液C(比較)を以下から作製した:
【表3】
【0041】
コーティング溶液D(比較)を以下から作製した:
【表4】
【0042】
コーティング溶液E(比較)を以下から作製した:
【表5】
【0043】
コーティング溶液F(比較)を以下から作製した:
【表6】
【0044】
コーティング溶液G(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)を以下から作製した:
【表7】
【0045】
コーティング溶液H(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)を以下から作製した:
【表8】
【0046】
コーティング溶液I(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)を以下から作製した:
【表9】
【0047】
コーティング溶液J(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)を以下から作製した:
【表10】
【0048】
コーティング溶液K(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)を以下から作製した:
【表11】
【0049】
コーティング溶液L(比較)を以下から作製した:
【表12】
【0050】
コーティング溶液M(比較)を以下から作製した:
【表13】
【0051】
コーティングB~コーティングFのそれぞれは、本発明の主題の1つ以上の実施形態によるコーティングG~コーティングKとの比較用である。
【0052】
Vylon 885(商標)は、東洋紡株式会社から入手可能なポリエステルである。Tegoglide A115(商標)は、有機変性ポリシロキサンである。Tegoglide 410(商標)は、ポリエーテルシロキサンコポリマーである。Tegoprotect 5000(商標)は、変性ポリジメチルシロキサン樹脂である。Tegomer Csi 2342(商標)は、線状有機官能性ポリシロキサンである。Tegoglide 450(商標)は、ポリエーテルシロキサンコポリマーである。全てのTego添加剤は、Degussaから入手可能である。
【0053】
試験
上記の試料作製の節で記載されるように、有機粘土の分散液を観察した。
【0054】
【0055】
表1に含まれる観察から、クロイサイト15Aは、少なくとも部分的に層剥離した状態にあると突き止められたが、クロイサイト93A及びクロイサイト30Bは、非層剥離状態、つまり、従来の粘土充填剤のような状態にあると突き止められた。これは、適切な条件及び配合、つまり、粘土が膨潤可能な溶剤が使用され、粘土が層剥離状態のままであるポリマー溶液が使用され、又は層剥離を達成する種々の方法、例えばin situ重合が使用される限りは、クロイサイト93A、クロイサイト30B、又は任意の膨潤性層状ケイ酸塩(変性又は非変性)を本明細書に開示される用途で使用することができないということではない。
【0056】
コーティングを接合して染料シートとし、Pebble-3プリンター(Evolis製)を使用して、PVCカード及びポリカーボネートカード上に単色パネルとして印刷した。受容層を転写について視覚的に評価し、カードが完全に覆われていること、そしてはみ出しがないこと(つまり、受容層が印刷領域の端に沿ってきれいな破面を与え、パネルにギザギザな裂けた端部がないこと)を確認した。ICIの標準的なYMCKO染料リボンを使用してPebble-3プリンターで高密度カラー画像(黒い背景に赤い唇の画像)を印刷することによって、受容層を印刷試験した。
【0057】
シアン剥がし力は、最初に、印刷後に染料シートを取り除かないサーマルプリントヘッド機構を使用してイエロー255を印刷することによって測定された。印刷されたイエローの染料シートを手動で取り除いた後に、同じカードにマゼンタ255を印刷した。マゼンタの染料シートを手動で取り除き、漸増する濃淡バー(density bars)からなるシアンの画像を印刷した。この段階では、シアンの染料シートを取り除かなかった。Instron 6021を使用して、シアンの染料シートをカードから引き剥がした。染料シートを取り除く間に記録された最大剥がし力を書き留めて、その試料についてのシアン剥がし力として報告した。
【0058】
上記の全ての例は、サーマルプリントヘッドによる加熱によって申し分なく転写され、はみ出しの兆候なしに、全ての例で完全に転写された。以下の表2は、シアン剥がし力及び印刷試験の結果をまとめたものである。上記の試料作製の節で記載された方法を使用して、溶液L及び溶液Mに含まれる有機粘土は層剥離状態にはないと推断されたため、剥離剤の掻き取りを減らす有益なバリア効果をもたらすことは予想されるものではない。表2において、TTは全体転写(total transfer)を表す、つまり、リボンの部分がカードに貼り付いた場合を表す。
【0059】
【0060】
コーティング溶液B~コーティング溶液Kについての樹脂+剥離剤受容層と、樹脂+剥離剤+有機粘土受容層とを比較したシアン剥がし力の結果が
図2にまとめられている。シアンの印刷前にマゼンタのリボンが貼り付いているせいで(手動で剥がすことにより取り除くことができなかった)、この試料について値を得ることができなかったため、コーティング溶液Fは含まれていない。
【0061】
染色可能な樹脂+剥離剤の受容層に有機粘土を添加すると、シアン剥がし力が低下し、染料拡散型印刷の性能が向上することがはっきりと分かる。
【0062】
例2
上記の試料作製の節に記載されるように、熱転写可能な受容層を作製し、転写した。ICIからの標準的なYMCKOリボンを使用して、以下に記載される3つの試料を印刷した:
1)先行する印刷を有しない漸増する濃淡シアンバー(density cyan bars)
2)シアン255を1回印刷し、染料シートを手動で取り除いた後の漸増する濃淡シアンバー
3)シアン255を2回印刷し、染料シートを手動で取り除いた後の漸増する濃淡シアンバー
【0063】
上記の試験の節で記載されたようにシアン剥がし力を測定した。
図3~
図5は、先行する印刷の回数が増えるにつれてシアン剥がし力が高まることを示している。
【0064】
少なくとも部分的に層間挿入状態又は層剥離状態にある本発明の無機層状材料の1つ以上の実施形態は、画像を通して見る保護熱転写材料の製造に使用され得る。本明細書に記載される主題は、「昇華法」としても知られる染料拡散型熱転写(D2T2)印刷等の様々な(又はあらゆる)画像化技術と組み合わせて使用され得る。
【0065】
染料拡散型熱転写印刷は、国民識別カード、運転免許証等の識別文書上に人物の写真画像等のカラー画像を作成するのに使用され得る。これは、発行時点で文書所有者の高品質のフルカラー写真を作成する優れた印刷技術である。
【0066】
染料拡散型熱転写印刷を使用してデジタル画像を印刷するには、染料を含む染料シート及び受容体として知られる基材が必要とされる。受容基材は、印刷中に染料を受け取り、貼り付かずに染料シートから分離することで、印刷が可能となる。受容基材は、染料を受け取ることができる単純なポリマーであり得るか、又は染料拡散型プリンターで機能するように設計された特別に設計された受容コーティングであり得る。
【0067】
したがって、染料拡散型熱転写印刷では、染料シート又は染料リボンは、カラー画像の印刷が求められる基材と密接に接触して配置される。染料シート又は染料リボンは、バックコートを有するポリエステル(例えば、PET)キャリアフィルムと、当該技術分野で知られる適切な方法によりバックコートの反対側でPETキャリアに付着された複数のパネルとを備える。染料パネルの接着を促進するために、PETキャリア上に接着剤層を使用することができる。この接着剤層は、ベースの製造中に適用され得るか、又は染料配合物のコーティング前にPET上にコーティングされ得る。
【0068】
リボンは、様々な(例えば、あらゆる)形式及びパネルの長さのリボンであり得る。リボンの例としては、限定されるものではないが、単色リボン、YMCリボン、YMCKリボン、YMCKOリボン、及びYMCKOKリボンが挙げられ、ここで、Y=染料拡散型のイエロー、M=染料拡散型のマゼンタ、C=染料拡散型のシアン、K=マストランスファー型のブラック、及びO=オーバーレイである。使用される材料に応じて拡散型又はマストランスファー型のいずれかとして機能し得る他のパネルを挙げることもできる。これらのパネルは、紫外(UV)光の下で蛍光を発する材料、光学的に可変の顔料、タガント等を使用する場合にセキュリティ特徴として機能し得る。
【0069】
染料拡散型熱転写印刷の間に、染料シート又は染料リボンは、各パネルが基材上に相次いで位置決めされるように基材上に割出しされる。コンピューター制御のサーマルプリントヘッドは、コンピュータープログラムによって決定された所望の位置で各パネルを選択的に加熱して、基材上にカラー画像を生成する。
【0070】
イエロー、マゼンタ、及びシアンのパネルが順番に加熱されると、熱が加えられた位置でそれぞれの着色染料がパネルから拡散され、コンピューター画像プログラムに従って、基材上にそれぞれの色が生成され、画像が形成される。転写される染料の量はプリントヘッドのピクセルの温度に依存する。これは、転写が「オン」又は「オフ」のいずれかであり、画像が着色ドットのディザー化パターンで形作られるマストランスファー型印刷プロセスとは異なる。染料拡散型熱転写印刷プロセスでは、各構成要素の色の256色の色合いを実現することができ、各構成要素の色を他の2つの構成要素の色と混色して、莫大な色域(例えば、1670万色)を得ることができるため、連続階調画像が可能である。これにより、染料拡散プロセスで非常に高品質の画像を生成することが可能となる。
【0071】
染料拡散型印刷には、直接式及び再転写式の2つの基本的な方法がある。どちらの染料拡散型印刷も、上記のような染料シート及び加熱方法を利用することができる。
【0072】
直接式の染料拡散型印刷は、染料シートを加熱し、染料を画像通りに基材に直接転写して、最終的な画像化された文書を形成することを含む。例えば、PVC製の識別カード又は運転免許証を印刷する場合に、染料が画像通りにPVC製カードの表面に直接印刷される直接式の染料拡散型印刷を利用することができる。このPVC製カードは最終的な識別カード文書を形成し、このカードが本明細書に記載される加熱方法を介して染料シートからPVCへと直接的に染料を受容した。次に、この画像はYMCKOタイプの染料シートからのオーバーレイパネルの追加により保護され得るか、又はこの画像は異なる消耗品から追加される別個のカバー材料、例えばサーマルプリントヘッド若しくはホットロールラミネーターのいずれかによる熱の適用を介して最終的な文書の印刷表面に転写される透明パッチラミネート材料、ホログラフィックパッチ、若しくはホログラフィックオーバーレイで保護され得る。
【0073】
直接式の染料拡散型印刷法を利用するには、最終的な文書基材が染料を受容し、かつ印刷プロセス中に染料シートを剥離することができなければならない。基材はまた、印刷欠陥を引き起こさずに又はプロセス中に染料シート若しくはサーマルプリントヘッドを損傷せずに、印刷プロセスの間に熱及び圧力をかけて染料シート及びサーマルプリントヘッドを基材表面に押圧することができるように、平滑で平らな表面を有さなければならない。
【0074】
染料拡散型印刷で材料を印刷する他の方法は、再転写印刷技術を利用することである。再転写印刷は、上記のように、サーマルプリントヘッドから特別に設計された再転写受容フィルムへの熱の適用を介して染料拡散画像を印刷する最初の工程を含む。再転写受容フィルムは、PETフィルムの片面に適用されたクリアコーティングを有するPETキャリアフィルム(通常は12ミクロン~23ミクロンの厚さ)からなる。これらのクリアコーティングは、限定されるものではないが、受容層、接着剤層、バリア層、タイ層、UV保護層、耐摩耗層、電離放射線硬化層、電離放射線硬化性層、熱硬化層、熱硬化性層、不正操作防止層、不正開封防止層、反応性層、特殊効果層、ホログラフィー画像層、エンボス加工層、エンボス加工可能層、高屈折率層、メタリック層、トップコート保護層、及び剥離層を含み得る。これらの層は、あらゆる組合せで、PETキャリアへのあらゆるコーティングの順序で、かつ最終用途及び性能要件に最適な列記されたもののいずれかを追加又は省略して利用され得る。電離放射線は、光(例えば、紫外線又は別の波長)、電子線、又は別の形態の放射線を指し得る。画像は、上記のように、本明細書に表される実施例では印刷プロセス中の最上層、つまり、PETキャリアフィルムから最も遠い層である受容層上に印刷される。
【0075】
再転写フィルムの受容層へと画像を印刷した後に、この材料はその後、画像化される最終的な文書に「再転写」される。PETキャリアフィルム上に存在していた特別に設計されたコーティングは、熱の適用を介して、典型的にはホットロールラミネーターを介して、キャリアフィルムから最終的な基材に転写される。ホットロールラミネーターは、典型的には、130℃~220℃の温度領域で、つまり、最初の印刷プロセス中にサーマルプリントヘッドに典型的に予想され得るよりも低い温度範囲で機能する。この転写工程にホットロールラミネーションを使用すると、サーマルプリントヘッドを介するような他の転写技術を利用することによって達成される同様の転写結果とは異なり、端から端までの転写が容易になるだけでなく、最終的な転写された材料に平滑で光沢のある仕上げが与えられる。しかしながら、ホットロールラミネーションは、画像に応じて、又はサーマルプリントヘッドによる転写に従って材料が転写される最終的な基材のサイズ及び形状に応じて、オンとオフとを切り替える能力を有しない。したがって、キャリアフィルムがまだホットロールラミネーターによって加熱されているが、材料の転写は望まれない場合に、基材の端を越えるような望ましくない領域で、余分な材料がキャリアフィルムから転写され得ることが当該技術分野で知られている問題である。
【0076】
ホットロールラミネーションによる転写後に、染料の受容層として機能した最上層は後に、最終的な基材に押圧される層になり、そしてPETキャリア層に最も近い層、通常、保護トップコート層は、最終的な基材表面から最も遠い層である完成した基材の最上面になる。転写される特別に設計されたコーティングは、受容フィルムとして機能する必要があるとともに、後に最終的には、最終的な基材に再転写されたら画像の保護フィルムとして機能する必要もある。
【0077】
再転写印刷技術は、ポリカーボネート等の直接式の染料拡散型印刷には適さない可能性のある基材上に染料拡散型印刷画像を転写することを可能にする。再転写印刷はまた、直接式の染料拡散型印刷には適さないメタリックチップを含む基材等の表面に不規則性を含み得る基材上に染料拡散型印刷画像を転写することを可能にする。再転写印刷技術はまた、最終的な基材上に「端から端まで」印刷された画像も可能にする。直接式の染料拡散型印刷では、この印刷技術は「端を越えて印刷する」ことができないため、最終的な基材の側面周りに印刷されていない端部ができることとなる。再転写技術では、画像を最終的な基材よりも僅かに大きいサイズで再転写フィルム上に印刷することができるため、これを後に最終的な基材上に再転写すると、画像化領域は完全に最終的な基材の端まで広がる。これは、画像を含む熱転写可能なポリマーフィルムのカードの端部周りの転写の画定が重要であり得ることを意味する。このフィルムが最終的な基材の端を越えて完璧できれいな端部で転写されない場合に、これは「はみ出し」として知られる欠陥をもたらすこととなる。
【0078】
はみ出しとは、ポリマー材料をキャリアフィルムから基材上へと転写するときに、最終的な基材の端を越えて転写し得る余分な不要な材料を指す。これにより、端部の見た目が悪くなり、余分な材料が最終的な基材の端からぶら下がるため、最終的な印刷基材の美観を低下させる。はみ出しはまた、最終的な基材の端をきれいにしてこの余分な材料を除去することを必要とする場合もあり、なおも悪いことには、この余分な材料は転写されるが基材の端でたるんでいるため、基材が移送されるときにプリンター内で取り除かれる場合があることから、印刷機器内に汚染が引き起こされ、これが後続の印刷で印刷欠陥を招く場合があるか、又は清掃のために停止時間を要する場合がある。写真品質の画像で印刷された基材を作製しようとする場合に、これらの潜在的な欠陥は受け入れることができない場合がある。再転写印刷技術を利用するには、完璧にきれいな端部で、すなわちはみ出しなしで、最終的な基材へと転写することができる再転写フィルムが望まれ得る。完全にきれいな端部とは、転写可能なフィルム又は材料が(本明細書に記載されるように)キャリアフィルムから分離し、熱の適用時に(切断刃又は切断装置を使用せずに)1つ以上の画定された真っ直ぐな及び/又は湾曲した端部に沿って対象物体表面に結合して、転写可能なフィルムの端を越えた部分はキャリアフィルムから対象物体表面に一切転写されないことを意味し得る。
【0079】
画像化された材料が最終的な基材に転写されたら、転写された層は画像用の保護層としても機能し得る。転写後に、印刷された画像は、最終的な基材とPETキャリアから基材上に転写された材料の層との間に挟み込まれる。したがって、これらの層は、保護層として機能するのに耐久性が高い必要がある場合があり、最終使用者がこれらの層を通して印刷された画像を見るので、優れた光学的透明度を備えている必要がある場合もある。
【0080】
通常、優れた耐久性特性、例えば高いTg、高いMw、高い破断点伸び、ポリマーの高い凝集強さ等を備えたコーティングされた材料をもたらすポリマー特性は、熱転写プロセス中に端部で良好できれいな転写をもたらすことができる特性、例えば低いMw、低い凝集強さ、脆性、低い破断点伸び等とは反対の特性である。これらの明らかに相反する特性は、ポリマー材料から必要な特性を得るのにバランスを取るのが非常に難しい場合がある。これは、全体的な構造にコーティングの厚さが加わり、これが転写時にきれいな端部を達成するための別の有害な特性になり得る多層系が使用される場合に特に困難である。
【0081】
したがって、これらのタイプのコーティングに多量の非ポリマー材料を添加して、耐久性のために強靭なポリマーを利用しながら転写を補助する場合、又はより低い強度のポリマーを利用しながら耐久性を高める場合がしばしばある。例えば、ポリマー層の鮮明できれいな転写を支援するのに、多量のシリカタイプの材料を使用することが当該技術分野で知られている。しかしながら、転写/耐久性のバランスの問題に対するこれらの明らかな解決手段に関連する問題は、コーティングの光学的透明度に悪影響を与えることである。転写可能性を改善するのに十分な量で清澄なポリマーコーティングに標準的な無機充填材料を添加すると、ヘイズ及び混濁が発生するため、光学的透明度が低下することとなる。これは、転写されたフィルムが高品質の画像化技術に使用されていない場合には、低い水準で受け入れ可能であり得る。しかしながら、染料拡散型印刷プロセスで使用する場合に、特に画像の観察者が多層系を通して印刷された画像を見る必要がある場合には、各層内の充填剤が透明度/視覚的外観に対して相加的な悪影響を与えることは受け入れることはできない。
【0082】
これらの問題の1つ以上を解決するために、本明細書に記載される本発明の主題の1つ以上の実施形態において、ポリマーナノ複合物の使用が提案される。ポリマーナノ複合材料は、ナノメートル範囲の少なくとも1つの寸法を有する無機材料をポリマーマトリックスに組み込んで複合物が形成された材料である。特に、光学的透明性、ひいてはそのような材料を通して見られる印刷された画像の優れた視覚的外観を維持しながら転写品質の改善の最も有益なバランスを達成するために、ナノメートル範囲の1つの寸法と、ナノメートル範囲を大幅に上回る第2の寸法とを有する無機材料(すなわち、板状材料)を含むポリマー-粘土ナノ複合物が提案されている。例えば、無機材料を含むナノ複合物の各粒子は、2つの直交方向(例えば、x方向又はx軸及びy方向又はy軸に沿って)の方が、第3の直交方向(例えば、z方向又はz軸に沿って)の外寸法よりも大幅に大きな外寸法を有し得る。一実施形態において、或る寸法が別の寸法よりも大幅に大きい場合は、より大きな寸法がより小さな寸法よりも少なくとも10倍大きい(例えば、より長い)場合である。別の実施形態において、或る寸法が別の寸法よりも大幅に大きい場合は、より大きな寸法がより小さな寸法よりも少なくとも100倍大きい(例えば、より長い)場合である。別の実施形態において、或る寸法が別の寸法よりも大幅に大きい場合は、より大きな寸法がより小さな寸法よりも少なくとも1000倍大きい(例えば、より長い)場合である。例えば、粒子は、1ナノメートル~100ナノメートル程度の厚さを有すると同時に、直交方向の粒子の直径が0.2ミクロンから1ミクロンの間である丸い板又は円形の板の形状であり得る。
【0083】
ポリマー-ナノ複合材料を形成する作製方法は、ポリマー/充填剤分散液の作製方法とは異なる。単純な撹拌を使用し、任意選択で分散剤を使用してプロセスを補助することにより、充填材料をポリマー溶液内に分散させることができる。ポリマーナノ複合物の作製には、これらの層をナノメートル厚の薄板に分離(層剥離プロセス)することができる層状材料を選択し、次に層剥離プロセスを実施し、層剥離された材料を選ばれたポリマーと合することが含まれ得る。このタイプの層剥離及びポリマーナノ複合物の作製に特に適した材料としては、層状複水酸化物、及びモンモリロナイト、ベントナイト、ラポナイト、バーミキュライト等の層状ケイ酸塩材料が挙げられる。有機変性された層状ケイ酸塩粘土材料は、有機変性の選択により有機変性材料とポリマー材料との間の優れた相互作用が可能となり得るため、粘土材料が加工及び使用の間に層剥離状態に留まることができるので、このプロセスに特に適している。一実施形態において、無機粒子(例えば、ケイ酸塩粘土材料又は粒子)は、親油性炭素-水素鎖で表面変性されている。
【0084】
「標準的な」充填剤のサイズ(つまりミクロン)は、ポリマーフィルムへと組み込まれると肉眼で視認することができるため、ポリマー/充填剤溶液及び/又はコーティングに対して或る程度の不透明度をもたらすことを意味する。例えば、この溶液又はコーティングは、10センチメートル未満の距離から拡大の補助なしに人間の眼で見たときに不透明であり得る。本明細書に記載されるナノ複合物充填剤の大幅により小さいナノメートル範囲の寸法のため、これらの材料は、溶液中又はコーティングされたフィルム上にあるときに、肉眼では視認することができない可能性がある。例えば、この溶液又はコーティングは、10センチメートル未満の距離から拡大の補助なしに人間の眼で見たときに不透明ではない場合があり、又は視認することができない場合がある。
【0085】
ナノシリカ等の「標準的なナノサイズ」の充填材料が入手可能であり、これらは、ナノメートル範囲の1つの寸法と、ナノメートル範囲を上回る1つの寸法とを有するこの層剥離された板状形態ではない。これらの「標準的なナノ充填剤」は、サイズが小さいにもかかわらず、主に標準的な充填剤のように機能する。これらはしばしば、より標準的な充填剤に近いものとなる凝集に関する問題を抱える場合があり、しばしば分散剤を使用して適切に分離された場合でも、該充填剤は、層剥離されたポリマー-ナノ複合物によってもたらされる程度の利益をもたらさない。同じ負荷量では、これらの充填剤は、本明細書で提案されるポリマー-粘土ナノ複合物によって得られる熱伝達性能の改善をもたらさない。これは、所与の配合物内でしばしば高い負荷量が使用されるため、光学的透明度及び視覚的外観を低下させる可能性があることを意味する。標準的な「ナノ」充填剤とは異なり、提案されたポリマー-粘土ナノ複合材料は、事前層剥離及び/又は層間挿入が可能であることにより、分離された層がナノメートル範囲の1つの寸法と、ナノメートル範囲を上回る第2の寸法とを有する非常に高いアスペクト比を有する層状ケイ酸塩材料を利用することとなる。
【0086】
例えば、本明細書で挙げられるクロイサイト15等の有機変性モンモリロナイト粘土は、1nmから100nmの間の厚さ及び0.2ミクロンから1ミクロンの間の直径を有し、こうして1:2から1:1000までの、ほとんどは1:200から1:500までの範囲のアスペクト比がもたらされる円盤状の小板へと分離することができる。この高いアスペクト比及びナノメートル範囲の1つの寸法により、これらの材料は、少ない添加量で、ポリマーに比べて熱の作用下での転写等の物理的特性の優れた改善をもたらすことができ、したがって、これらはポリマーコーティングの光学的透明度及び優れた視覚的外観を維持する。
【0087】
ポリマーコーティング内でのナノ複合材料の使用は、以前に熱転写媒体において或る特定の性能特性を改善するために提案されてきたが、本明細書で提案されているのは、これらのコーティングを通して見られる写真品質の画像の表示を可能にする光学的透明度も維持しながら、熱の作用下でポリマーコーティングの転写品質を劇的に改善するためのこれらの材料の新規使用である。
【0088】
例示
有機粘土を、有機粘土の層剥離の溶剤法を利用して、最初に膨潤溶剤中に予備分散した。粘土の少なくとも部分的な層剥離の兆候として、分散された粘土/溶剤分散液の粘度の増加及び混濁の欠如、並びに24時間放置した際の充填剤からの何らかの沈降の欠如を使用した。粘土/溶剤予備分散液を樹脂/溶剤溶液に添加して、コーティング溶液を形成した。比較目的のためのコーティング溶液として、粘土/溶剤予備分散液が存在しない同じ樹脂/溶剤溶液を使用した。
【0089】
本発明に使用され得る市販の幾つかの有機変性粘土が存在する。或る特定の水準の層剥離及び/又は層間挿入を達成するのに適切な条件が使用される限りは、あらゆるものを使用することができる。例えば水性コーティング系が使用されるのであれば、非有機変性粘土を使用することもできる。本発明内では、有機変性粘土の特定の例が特定のポリマー系で非常によく機能することが実証されているが、本明細書に開示される一般的な概念は、ポリマーと、層剥離及び/又は層間挿入されてナノメートル範囲の1つの寸法及びナノメートル範囲より大きな第2の寸法を有する小板となることができる層状充填剤とのあらゆる組合せで使用され得る。
【0090】
最初に、単層コーティングを作製して、所与のポリマー層の転写品質を改善することに対する、ポリマー材料への層剥離されたナノ粘土予備分散液の添加の有効性を実証した。
【0091】
ナノ粘土予備分散液を、上記の溶液法に従って、BYK additivesから入手可能な有機変性モンモリロナイトスメクタイト粘土であるクロイサイト15を使用してトルエン中で作製した。ポリマー溶液を、50/50のMEK/トルエン中で約16%(重量/重量)の固形分にて撹拌によって作製した。
【0092】
マイヤーバーを使用して、層剥離されたナノ粘土を含む及び含まないポリマー溶液をコーティングして、6μmのポリエステルベースフィルム上に24ミクロンのウェットコート重量を得た。ベースフィルムは、印刷プロセス中にサーマルヘッドからの保護をもたらす耐熱性バックコートと、転写の間にポリマー層の剥離をもたらす剥離サブコートとで既にコーティングされていた。コーティングを最初にヘアードライヤーで乾燥させた後に、110℃のオーブンで30秒間乾燥させた。コーティングを接合して染料シートとし、Securionプリンター(Evolis製)を使用して、PVC製カード上に単色パネルとして印刷した。転写された層を転写について視覚的に評価し、カードが完全に覆われていること、そしてはみ出しがないこと、つまり、カードの端を越えて余分な材料が転写されていないことと、透明度及び不透明度の欠如とを確認した。
【0093】
例1(比較)
Vylon 270(東洋紡株式会社)
【0094】
例2(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Vylon 270(東洋紡株式会社)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0095】
例3(比較)
Dynacoll S1611(Evonik)
【0096】
例4(比較)
Dynacoll S1611(Evonik)
+3%のSyloid 244(Grace)
【0097】
例5(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Dynacoll S1611(Evonik)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0098】
例6(比較)
Vinnol H15/50(Wacker)
【0099】
例7(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Vinnol H15/50(Wacker)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0100】
例8(比較)
Vylon GK880(東洋紡株式会社)
【0101】
例9(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Vylon GK880(東洋紡株式会社)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0102】
例10(比較)
Ucar Mag 527(Union Carbide)
【0103】
例11(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Ucar Mag 527(Union Carbide)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0104】
例12(比較)
Neocryl B805(DSM)
【0105】
例13(本発明の主題の1つ以上の実施形態による)
Neocryl B805(DSM)
+3%の(トルエン中で事前層剥離された)クロイサイト15(ポリマーに対する重量/重量)
【0106】
【0107】
試験された全てのポリマーの転写性能は、事前層剥離されたナノ粘土を添加することにより劇的に改善された。このナノ粘土材料を添加した場合に、はみ出しは観察されず、転写は良好できれいな端部を伴って完璧であった。ナノ粘土は、ポリマー層の視覚的品質に悪影響を及ぼさなかった。「標準的な」充填剤をポリマー材料の1つを用いて試したところ、これにより、はみ出しは僅かに改善されるが、これはナノ粘土のように完全には取り除かれず、視覚的外観においても幾らかの低下が起こり始めることが実証された。同じポリマーで、ナノ粘土は粗悪な転写/はみ出しの兆候を全て完全に取り除き、優れた視覚的品質を与えた。
【0108】
層剥離されたナノ粘土充填材料をポリマー層に使用すると、視覚的品質を低下させることなく、転写品質の大幅な改善がもたらされる。これは、対象となる製品が多層系であって、どの層でも転写の問題が悪化する可能性があり、製品の品質に非常に不利益である可能性がある場合だけでなく、写真品質の画像が印刷されており、これらの多層を通して見ることができなければならない場合にも、極めて重要な要素になり得る。
【0109】
幾つかのポリマーは、キャリアフィルムから基材にニートポリマーフィルムとして転写することが可能であるが、これらは、耐久性のある保護フィルムに望ましい選択と、きれいな転写を容易にするのに必要とされる選択とが相反するものであるという制限をしばしば有する。例えば、ポリマーの分子量を考慮する必要があり(低いほど転写には良いが、耐久性には良くない)、コーティングの厚さを考慮する必要もある(低いほど転写に良くて、高いほど耐久性に良い)。相反する要件及び制限は、ニートポリマーフィルムで特性の適切なバランスを得ることが非常に難しいことを意味し得るため、これが理想的な特性のバランスを得るためにポリマー-粘土ナノ複合物が提案される所以である。
【0110】
以下の表4は、そのような制限の例を示している。この場合に、「耐久性」は耐摩耗性として表されているが、本発明を設計する最終製品の目的のためには、小分子浸透に対するバリア耐性(ポリマーのTgを考慮しなければならない側面)等の更に多くの耐久性の側面を考慮する必要があることに留意すべきである。
【0111】
耐摩耗性は、500g重を有するCS-10F テーバー摩耗ホイールの500サイクルによって摩耗されるポリマー層の下に印刷された合成ブラックの残りの光学密度のパーセンテージとして表される。耐摩耗性試験は、Tabor 5130を使用して、CS-10FホイールをTabor 5130に取り付けて実施した。
【0112】
【0113】
低分子量ポリマーは、はみ出しなく申し分なく転写することができるが、これらのポリマーは良好な耐久性を与えない。高分子量の「強靭な」ポリマーの使用は、同様のタイプの低分子量のポリマーよりも耐久性を与えるのにより効果的である。低分子量ポリマーのコート厚さを増やすと耐久性を改善することができるが、改善は最小限であり、転写の問題は発生する。ポリマー-粘土ナノ複合物の使用により耐久性のあるポリマーの転写特性を改善することは、耐久性の特性をもたらしながら、良好な転写品質を達成するのにはるかに効果的である。
【0114】
図6は、受容シート600の一実施形態の断面図を示す。受容シート600は、任意選択で、再転写フィルムと呼ばれ得る。受容シート600は、材料を対象物体の表面に転写して画像(例えば、絵、テキスト、数字、記号、他の表示等)を形成するサーマル印刷、転写、又は再転写の用途で使用され得る。受容シート又は再転写フィルム600は、キャリアフィルム604に接合されたポリマーフィルム集成物602を含む。ポリマーフィルム集成物602は、ポリマーフィルム集成物602の一部又は全てを対象物体の表面に転写する前に画像が印刷されるポリマー材料の1つ以上の層を含む。一実施形態において、ポリマーフィルム集成物602は、単一の層を含むが、任意選択で、ポリマーフィルム集成物602として、互いに接続された2つ以上の層を含むことができる。単一の層の実施形態に関して、ポリマーフィルム集成物602は、キャリアフィルム604を結合する界面606から、キャリアフィルム604とは逆を向いた反対側の受容表面608まで同じ材料から形成され得る。代替的には、ポリマーフィルム集成物602は、本明細書に記載されるナノサイズの無機粒子を有するポリマーフィルムの2つ以上の層から形成され得る。2つ以上の層が使用される場合に、ナノサイズの無機粒子はあらゆる層に含まれ得る。ナノサイズの無機粒子は、多層の層の1つに含まれ得るか、又は多層製品の全ての層を含むそれ以下の任意の更なる層へと添加され得る。
【0115】
ポリマーフィルム集成物602(又はキャリアフィルム604から最も遠いポリマーフィルム集成物602内の最外層)は、対象物体上にサーマル印刷するための染料、顔料、インキ、特殊効果材料、金属、マストランスファー型印刷された材料等を受容する受容層と呼ばれ得る。例えば、ポリマーフィルム集成物602は、本明細書に記載されるような、対象物体の表面にサーマル印刷するのに使用される染料、顔料、インキ、特殊効果材料、金属、マストランスファー型印刷された材料等を有する1つ以上の領域612を受容する又はこれらを含む。ポリマーフィルム集成物602は、上記のような染料拡散型印刷又はマストランスファー型印刷を介して、染料、顔料、インキ、特殊効果材料、金属、ホログラフィー画像等を受容することができる。
【0116】
任意選択で、ポリマーフィルム集成物602は、エンボス加工されたホログラフィー画像及び高屈折率層を含み得る又はこれらを有する層であり得る。これにより、ポリマーフィルム集成物602を対象物体表面に転写して、対象物体表面にホログラフィー効果を生成することが可能となり得る。ポリマーフィルム集成物602は、様々な厚さで提供され得る。一例では、ポリマーフィルム集成物602は、2ミクロンより大きい場合がある。
【0117】
キャリアフィルム604は、画像を印刷する間に又は受容表面608へと1種以上の染料を適用する間に、ポリマーフィルム集成物602を輸送する間に、そしてポリマーフィルム集成物602の少なくとも一部を対象物体の表面に熱転写する間に、ポリマーフィルム集成物602に構造的支持を与える。一実施形態において、キャリアフィルム604は、PETの12ミクロン厚のフィルム等のPETの層である。任意選択で、キャリアフィルム604は、別の材料から形成され得る、及び/又は別の厚さを有し得る。
【0118】
ポリマーフィルム集成物602は、本明細書に記載される1種以上のポリマーと無機粒子との組合せから形成され得る。
図7は、ポリマーフィルム集成物602又はポリマーフィルム集成物602の少なくとも1つの層の断面図の一例を概略的に示す。ポリマーフィルム集成物602全体又はポリマーフィルム集成物602内の少なくとも1つの層は、マトリックス700内に無機粒子702を有するポリマーフィルムマトリックス700から形成され得る。一実施形態において、粒子702は、層剥離又は層間挿入された粒子であり、例えば、ナノメートル範囲の少なくとも1つの寸法と、ナノメートル範囲よりも大幅に大きい少なくとも第2の寸法とを有するナノ粒子である。粒子702は、上記のように、層剥離されたナノ粘土充填材料であり得る。
【0119】
各粒子702は、100ナノメートル以下の長さの第1の外寸法704と、100ナノメートルより長い第2の外寸法706とを有し得る。例えば、各粒子702は、1ナノメートル~100ナノメートルの範囲内の第1の外寸法704と、0.2ミクロン~1ミクロンの範囲内の少なくとも第2の外寸法706とを有し得る。粒子702は、各粒子の厚さ704が1ナノメートル~100ナノメートルであり、かつ各粒子702の直径706が0.2ミクロン~1ミクロンである板形状を有し得る。粒子702の形状は、少なくとも1:2であるアスペクト比を有する粒子702をもたらし得る。任意選択で、粒子702のアスペクト比は、1:1000以下であり得る。
【0120】
ポリマーフィルム集成物602は、上記の実施例の1つ以上に従って形成され得る。例えば、無機粒子702は、ポリマーフィルムマトリックス700内に最大5重量%及び/又は最大3体積%まで添加され得る。代替的には、無機粒子702は、ポリマーフィルムマトリックス700内に最大3重量%及び/又は最大3体積%まで添加され得る。上記のように、無機粒子702をフィルム集成物602に添加することで、キャリアフィルム604の適用表面610に適用される熱及び/又は圧力に応じたキャリアフィルム604から、印刷される対象物体の表面へのフィルム集成物602の転写が改善され得る(
図6に示される)。ポリマーマトリックス700は、ポリマーマトリックス700が比較的高いガラス転移温度T
gを有し得るという点で、ポリマーフィルム集成物602に強度を与えることができる。例えば、ポリマーマトリックス700は、少なくとも50℃のガラス転移温度を有し得る。
【0121】
図8及び
図9は、
図6に示される受容シート600を使用して、対象物体802の印刷面800上に印刷する一例を示す。一実施形態において、対象物体802は、PVC製識別カード等のカードであり得る。
図8及び
図9に示される印刷プロセスは、上記のような再転写染料拡散型印刷プロセスであり得る。ポリマーフィルム集成物602は、対象物体802の印刷面800に近接される。サーマルプリントヘッド又はホットロールラミネーター804が、キャリアフィルム604の表面610に熱及び/又は圧力を加える。この熱及び/又は圧力により、ポリマーフィルム集成物602の少なくとも一部が対象物体802の印刷面800に転写されて、対象物体802の表面800上に画像が印刷される又はそうでなければ画像が形成される。熱及び/又は圧力を加えた後に、
図9に示されるように、ポリマーフィルム集成物602の少なくとも一部が対象物体802に転写されて、サーマル印刷された物体900が形成される。
【0122】
このサーマル印刷された物体900は、任意選択で多層構造物と呼ばれ得る。ポリマーフィルム集成物602においてナノ複合充填剤粒子702を使用することで、ポリマーフィルム集成物602をより透明にし、又は高められた光学的透明度を有しながらも、ポリマーフィルム集成物602をより容易かつきれいにキャリアフィルム604から分離することが可能となる(例えば、ポリマーフィルム集成物602のはみ出し又は外縁部分が対象物体802に転写されない)。例えば、ポリマーフィルム集成物602が厚くても(例えば、少なくとも2ミクロンの厚さ)、ポリマーフィルム集成物602を通して構造物900の対象物体802上の印刷された画像を見ることができる場合がある。構造物900は、識別カード、金融取引カード等に相当し得る。例えば、構造物900は、86ミリメートル×54ミリメートル(0.8ミリメートル未満のような実質的により薄い厚さ)以下の寸法を有する主に平坦なカードであり得る。任意選択で、ポリマーフィルム集成物602を対象物体802に転写した後に、1つ以上の追加の層をポリマーフィルム集成物602の表面606に追加することができる。例えば、1層以上のラミネーション又は保護ラミネート902を表面606に適用して、ポリマーフィルム集成物602を更に保護することができる。このラミネーション902は、観察者がラミネーション902及びポリマーフィルム集成物602を通して対象物体802上の画像を見ることができるように透明又は半透明であり得る。しかしながら、ラミネーション902がポリマーフィルム集成物602に適用されない場合もある(例えば、
図10)。任意選択で、ポリマーフィルム集成物602を対象物体802に転写することができ、これがホログラフィー特徴及び/又は印刷されたセキュリティ特徴(限定されるものではないが、UV蛍光性特徴、光学的に可変な特徴、不正開封防止特徴、タガント特徴等を含む)等の他の機能を含むことで、印刷された対象物体802に格別なレベルのセキュリティ保護を追加することができる。
【0123】
一実施形態において、転写可能な受容材料は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含むポリマーフィルム集成物を含む。ポリマーフィルム集成物は、キャリアフィルムと接合され得て、かつポリマーフィルム集成物は、熱の適用時にキャリアフィルムから分離して、規定の端部に沿って対象物体と接合されるように構成され得る。任意選択で、ポリマーフィルム集成物は、熱の適用時に対象物体表面に転写されるように構成されたホログラフィー画像を含む。ポリマーフィルム集成物は、対象物体上に熱転写するための1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容するように構成され得る。
【0124】
任意選択で、無機粒子は、少なくとも1:2であるアスペクト比を有する。少なくとも1つの実施形態において、無機粒子のアスペクト比は、1以下:1000であり得る。
【0125】
転写可能な材料はまた、ポリマーフィルム集成物と接合されて、かつキャリアフィルムに熱又は圧力の1つ以上を適用してポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を対象物体に転写する間にポリマーフィルム集成物を支持するように構成されているキャリアフィルムを含むことができる。ポリマーフィルム集成物は、ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を対象物体に転写することで対象物体に転写される画像を含み得る。少なくとも1つの実施形態において、無機粒子を有するポリマーフィルム集成物を通して対象物体上に画像を視認することができる。
【0126】
一実施形態において、ポリマーフィルム集成物は、最大5%の無機粒子を含み得る。ポリマーフィルム集成物内の無機粒子は、親油性炭素-水素鎖で表面変性されていてもよい。例えば、これらの無機粒子は、任意選択で、親油性炭素-水素鎖表面変性粒子と呼称され得る。
【0127】
ポリマーフィルム集成物は、無機粒子を有する単一のポリマー層を含み得る。ポリマーフィルム集成物は、無機粒子を有する複数のポリマー層を含み得て、複数のポリマー層は、ポリマーフィルム集成物内で一緒に接合され得る。例えば、これらの複数のポリマー層は別々に形成され得るが、ポリマーフィルム集成物の機能性を壊すことなく、ポリマー層が互いに分離され得ないように互いに接続され得る。これらの複数のポリマー層は、熱の適用時にポリマーフィルム集成物から分離するキャリアフィルムを含まない。ポリマーフィルム集成物は、ポリマーフィルム集成物の表面上での染料拡散型印刷又はマストランスファー型印刷を介して1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容するように構成され得る。ポリマーフィルム集成物は、少なくとも2ミクロンの厚さであり得る。
【0128】
一実施の形態において、多層構造物は、表面を有する平坦な対象物体と、対象物体の表面と接合されたポリマーフィルム集成物とを含む。ポリマーフィルム集成物は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含む。ポリマーフィルム集成物は、対象物体上に画像を形成する1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を含む。一例では、この構造物は識別カードであるが、任意選択で別の物体であり得る。
【0129】
無機粒子は、少なくとも1:2であるアスペクト比を有し得る。無機粒子を有するポリマーフィルム集成物を通して対象物体上に画像を視認することができる場合がある。ポリマーフィルム集成物は、最大5%の無機粒子を含み得る。該構造物は、任意選択でポリマーフィルム集成物が保護ラミネーションと対象物体との間に位置するようにポリマーフィルム集成物上に配置された保護ラミネーションを含む。
【0130】
一実施の形態において、ポリマーフィルム集成物の表面上に1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容することを含む方法が提供される。ポリマーフィルム集成物は、100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含む。この方法は、ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を使用して、画像を対象物体上にサーマル印刷することも含む。
【0131】
上記記載は、限定的ではなく例示的であるように意図されていることが理解されるべきである。例えば、上述した実施形態(及び/又はその態様)は、互いに組み合わせて使用することができる。さらに、本発明の主題の範囲から逸脱することなく、その教示に対して特定の状況又は材料を適合させるように、多くの変更を行うことができる。本明細書に記載する材料の寸法及びタイプは、本発明の主題のパラメーターを定義するように意図されているが、決して限定するものではなく、例示的な実施形態である。上記記載を検討して、当業者には他の多くの実施形態が明らかとなろう。したがって、本発明の主題の範囲は、添付の特許請求の範囲を、こうした特許請求の範囲に権利が与えられる均等物の全範囲とともに参照することにより、判断されるべきである。添付の特許請求の範囲において、「including」及び「in which」という用語は、それぞれ「comprising」及び「wherein」という用語のプレインイングリッシュでの同義語として用いられている。さらに、添付の特許請求の範囲において、「第1の」、「第2の」及び「第3の」等の用語は、単に標識として用いられており、それらの対象物に対して数値的要件を課すようには意図されていない。さらに、添付の特許請求の範囲の限定は、こうした特許請求の範囲の限定が更なる構造を記述しない機能的表現に伴い「~手段(means for)」という句を明示的に使用しない限り、ミーンズプラスファンクション(means-plus-function)形式で書かれておらず、米国特許法第112条(f)に基づいて解釈されるようには意図されていない。
【0132】
本明細書は、例を用いて、本発明の主題の幾つかの実施形態を開示するとともに、当業者が、任意のデバイス又はシステムを作製し使用し、任意の組み込まれた方法を実行することを含めて、本発明の主題の実施形態を実施するのを可能する。本発明の主題の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者には想到する他の例を含むことができる。こうした他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言語とは異ならない構造的要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文字通りの言語から実質的には相違のない均等の構造的要素を含む場合、特許請求の範囲内にあるように意図される。
【0133】
本明細書で用いる、単数で列挙され「a」又は「an」といった語が先行する要素又は工程は、複数の上記要素又は工程の排除が明示的に述べられていない限り、これらを排除しないものとして理解されるべきである。さらに、本発明の主題の「一実施形態」に言及する場合、それは、列挙された特徴を同様に組み込む更なる実施形態の存在を排除するものとして解釈されるようには意図されていない。さらに、明示的に相反すると述べられていない限り、特定の特性を有する単数又は複数の要素を「備える」、「含む」又は「有する」実施形態は、その特性を有していない更なるこうした要素を含む可能性がある。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]-[20]に記載する。
[1]
100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含むポリマーフィルム集成物を含む、転写可能な材料。
[2]
前記ポリマーフィルム集成物は、キャリアフィルムと接合されており、かつ前記ポリマーフィルム集成物は、熱の適用時に前記キャリアフィルムから分離して、規定の端部に沿って対象物体表面と接合されるように構成されている、項目1に記載の転写可能な材料。
[3]
前記ポリマーフィルム集成物は、熱の適用時に対象物体表面に転写されるように構成されたホログラフィー画像を含む、項目1に記載の転写可能な材料。
[4]
前記ポリマーフィルム集成物は、対象物体上に熱転写するための1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容するように構成されている、項目1に記載の転写可能な材料。
[5]
前記無機粒子は、少なくとも1:2であるアスペクト比を有する、項目1に記載の転写可能な材料。
[6]
前記無機粒子の前記アスペクト比は、1:1000以下である、項目5に記載の転写可能な材料。
[7]
前記ポリマーフィルム集成物と接合されており、かつキャリアフィルムに熱又は圧力の1つ以上を適用して対象物体に前記ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を転写する間に前記ポリマーフィルム集成物を支持するように構成されているキャリアフィルムを更に含む、項目1に記載の転写可能な材料。
[8]
前記ポリマーフィルム集成物は、前記ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を前記対象物体に転写する際に前記対象物体に転写される画像を含み、ここで、前記無機粒子を有する前記ポリマーフィルム集成物を通して前記対象物体上に前記画像を視認することができる、項目7に記載の転写可能な材料。
[9]
前記ポリマーフィルム集成物は、最大5%の前記無機粒子を含む、項目1に記載の転写可能な材料。
[10]
前記ポリマーフィルム集成物内の前記無機粒子は、親油性炭素-水素鎖で表面変性されている、項目1に記載の転写可能な材料。
[11]
前記ポリマーフィルム集成物は、前記無機粒子を有する単一のポリマー層を含む、項目1に記載の転写可能な材料。
[12]
前記ポリマーフィルム集成物は、前記無機粒子を有する複数のポリマー層を含み、ここで、前記複数のポリマー層は、前記ポリマーフィルム集成物内で一緒に接合されている、項目1に記載の転写可能な材料。
[13]
前記ポリマーフィルム集成物は、前記ポリマーフィルム集成物の表面上での染料拡散型印刷又はマストランスファー型印刷を介して、1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容するように構成されている、項目12に記載の転写可能な材料。
[14]
前記ポリマーフィルム集成物は、少なくとも2ミクロンの厚さである、項目1に記載の転写可能な材料。
[15]
表面を有する平坦な対象物体と、
前記対象物体の前記表面と接合されたポリマーフィルム集成物と、
を含み、前記ポリマーフィルム集成物が100ナノメートルよりも小さい第1の寸法と、100ナノメートルよりも大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含む、多層構造物であって、前記ポリマーフィルム集成物は、前記対象物体上に画像を形成するための1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を含む、多層構造物。
[16]
前記無機粒子は、少なくとも1:2であるアスペクト比を有する、項目15に記載の多層構造物。
[17]
前記無機粒子を有する前記ポリマーフィルム集成物を通して前記対象物体上に画像を視認することができる、項目15に記載の多層構造物。
[18]
前記ポリマーフィルム集成物は、最大5%の前記無機粒子を含む、項目15に記載の多層構造物。
[19]
前記ポリマーフィルム集成物が保護ラミネーションと前記対象物体との間に位置するように、前記ポリマーフィルム集成物上に配置された保護ラミネーションを更に含む、項目15に記載の多層構造物。
[20]
100ナノメートルより小さい第1の寸法と、100ナノメートルより大きい直交する第2の寸法とを有する無機粒子を含むポリマーフィルム集成物の表面上に1種以上の染料、顔料、インキ、特殊効果材料、又は特殊効果金属を受容することと、
前記ポリマーフィルム集成物の少なくとも一部を使用して、画像を対象物体上にサーマル印刷することと、
を含む、方法。