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特許7573023窒化ケイ素板及びその製造方法、複合基板及びその製造方法、並びに、回路基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】窒化ケイ素板及びその製造方法、複合基板及びその製造方法、並びに、回路基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20241017BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H05K1/02 G
H05K3/00 N
H05K3/00 X
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022512241
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013393
(87)【国際公開番号】W WO2021200867
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020060858
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】江嶋 善幸
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-028192(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170895(WO,A1)
【文献】特開2014-042066(JP,A)
【文献】特開2006-321702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板の製造方法であって、
窒化ケイ素を含む基材の表面にレーザー光で底部を有する複数の穴を形成して前記スクライブラインを設ける工程を有し、
前記複数の穴のそれぞれは、前記レーザー光を複数回に分けて照射することによって形成され、
前記表面の方が前記穴の内面よりも酸素リッチ層の厚みが小さい、窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光を複数回に分けて照射する際の1回当たりの前記レーザー光のエネルギーは15mJ未満である、請求項1に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項3】
前記表面における前記穴の開口径は50μm以上であり、前記穴の深さは50μm以上である、請求項1又は2に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項4】
前記穴の底部における酸素リッチ層の最大厚みが8μm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項5】
前記穴の深さは前記窒化ケイ素板の厚みの1/3以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板の製造方法。
【請求項6】
表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板であって、
前記スクライブラインを構成する複数の穴の内面の少なくとも一部が酸素リッチ層で覆われており、前記酸素リッチ層の厚みは穴の底部で最も大きくなっており、前記底部における前記酸素リッチ層の厚みが8μm未満である、窒化ケイ素板。
【請求項7】
表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板であって、
前記表面の方が前記スクライブラインを構成する底部を有する複数の穴の内面よりも酸素リッチ層の厚みが小さい、窒化ケイ素板。
【請求項8】
前記表面における前記穴の開口径は50μm以上であり、前記穴の深さは50μm以上である、請求項6又は7に記載の窒化ケイ素板。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法で得られた窒化ケイ素板の前記表面を覆うようにして金属板を前記窒化ケイ素板に接合して複合基板を得る工程を有する、複合基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で得られた複合基板における前記金属板の一部を除去し、前記スクライブラインで画定される区画部毎に独立する導体部を形成して回路基板を得る工程を有する、回路基板の製造方法。
【請求項11】
請求項6~8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板と、
前記表面を覆うように前記窒化ケイ素板に接合される金属板と、を備える複合基板。
【請求項12】
請求項6~8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素板と、
前記スクライブラインで画定される区画部毎に独立するように前記表面上に設けられる導体部と、を備える回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ケイ素板及びその製造方法、複合基板及びその製造方法、並びに、回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスに搭載される回路基板には、絶縁性のセラミックス板が用いられる場合がある。このような回路基板の製造方法としては、特許文献1に記載されるような以下の技術が知られている。すなわち、炭酸ガスレーザー又はYAGレーザー等を用い、セラミックス板の表面にスクライブラインを設けた後、当該表面に金属層を接合して複合基板を形成する。そして、複合基板の表面の金属層をエッチングにより回路パターンに加工する。その後、スクライブラインに沿って複合基板を分割し複数の回路基板を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-324301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化ケイ素板は、金属板との接合、及び回路の形成等、各種工程を経て製品又は部品となる。電子デバイスの更なる高性能化に伴い、要求される品質レベルも益々高くなりつつある。このような状況下、製造工程において発生する異物が、外観の悪化のみならず、製品性能の低下等の要因になることも懸念される。
【0005】
そこで、本開示は、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる窒化ケイ素板及びその製造方法を提供する。また、本開示は、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる複合基板及びその製造方法を提供する。また、本開示は、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
窒化ケイ素板のスクライブラインは、後工程において窒化ケイ素板を円滑に分割できるようにするため、ある程度の深さを有する必要がある。所定の深さを有するスクライブラインを形成するためには、相応のエネルギーを有するレーザー光を照射する必要がある。ところが、レーザー光のエネルギーが過大になると、基材に含まれる窒化ケイ素が焦げ付いて穴の内部に異物が生成し、これが窒化ケイ素板の汚れの要因となる。
【0007】
そこで、本開示は、一つの側面において、表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板の製造方法であって、窒化ケイ素を含む基材の表面にレーザー光で複数の穴を形成してスクライブラインを設ける工程を有し、複数の穴のそれぞれは、レーザー光を複数回に分けて照射することによって形成される、窒化ケイ素板の製造方法を提供する。
【0008】
上記製造方法では、スクライブラインとなる複数の穴を形成する際に、それぞれの穴を、レーザー光を複数回に分けて照射して形成している。このため、1回のみの照射で穴を形成する場合に比べて、1回(1ショット)当たりに照射されるレーザー光のエネルギーを小さくすることができる。これによって、穴の形成にレーザー光を効率的に利用することが可能となり、焦げ付きを抑制することができる。したがって、異物である酸素リッチ層の生成を抑制し、窒化ケイ素板の良好な外観を維持することができる。このような窒化ケイ素板は、剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、後工程において酸素リッチ層の剥離及び飛散による各製造設備の汚染を抑制することができる。
【0009】
レーザー光を複数回に分けて照射する際の1回(1ショット)当たりのレーザー光のエネルギーは15mJ未満であってよい。これによって、穴の内部に形成される酸素リッチ層の生成量を十分に低減することができる。
【0010】
上記製造方法で得られる窒化ケイ素板の表面における穴の開口径は50μm以上であり、穴の深さは50μm以上であってよい。このような穴で構成されるスクライブラインを有する窒化ケイ素板は、円滑に分割することができる。
【0011】
上記穴の底部における酸素リッチ層の最大厚みは8μm未満であってよい。これによって異物である酸素リッチ層を十分に低減し、汚れの発生を十分に抑制することができる。
【0012】
上記表面の方が上記穴の内面よりも酸素リッチ層の厚みが小さくてよい。これによって、窒化ケイ素板の表面の汚れを十分に抑制するとともに接合性を向上することができる。
【0013】
本開示は、一つの側面において、表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板であって、スクライブラインを構成する複数の穴の底部における酸素リッチ層の厚みが8μm未満である、窒化ケイ素板を提供する。この窒化ケイ素板は、異物である酸素リッチ層が十分に低減されている。このため、汚れの発生を十分に抑制し、良好な外観を維持することができる。このような窒化ケイ素板は、剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。
【0014】
本開示は、一つの側面において、表面にスクライブラインを有する窒化ケイ素板であって、表面の方がスクライブラインを構成する複数の穴の内面よりも酸素リッチ層の厚みが小さい、窒化ケイ素板を提供する。この窒化ケイ素板は、表面における酸素リッチ層が低減されていることから汚れの発生を十分に抑制できる。したがって、良好な外観を維持することができる。また、窒化ケイ素板の表面に接合される部材との接合性を向上することができる。このため信頼性にも優れる。また、表面に露出する酸素リッチ層を低減できることから、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。なお、表面に酸素リッチ層は全くなくてもよい。
【0015】
上記表面における穴の開口径は50μm以上であり、穴の深さは50μm以上であってよい。このような穴で構成されるスクライブラインを有する窒化ケイ素板は、円滑に分割することができる。
【0016】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの製造方法で得られた窒化ケイ素板の表面を覆うようにして金属板を窒化ケイ素板に接合して複合基板を得る工程を有する、複合基板の製造方法を提供する。この複合基板は、上述のいずれかの製造方法で得られた窒化ケイ素板を備えることから、異物である酸素リッチ層が低減されており、良好な外観を維持することができる。このような複合基板は、窒化ケイ素板の穴から剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、上述の製造方法で得られた複合基板における金属板の一部を除去し、スクライブラインで画定される区画部毎に独立する導体部を形成して回路基板を得る工程を有する、回路基板の製造方法を提供する。この回路基板は、上述の製造方法で得られた複合基板を用いていることから、異物である酸素リッチ層が低減されており、良好な外観を維持することができる。このような回路基板は、窒化ケイ素板の穴から剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。
【0018】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの窒化ケイ素板と、その表面を覆うように窒化ケイ素板に接合される金属板と、を備える複合基板を提供する。この複合基板は、上述のいずれかの窒化ケイ素板を備えることから、異物である酸素リッチ層が低減されており、良好な外観を維持することができる。このような複合基板は、窒化ケイ素板の穴から剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。
【0019】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの窒化ケイ素板と、スクライブラインで画定される区画部毎に独立するように表面上に設けられる導体部と、を備える回路基板を提供する。この回路基板は、上述のいずれかの窒化ケイ素板を備えることから、異物が低減されており、良好な外観を維持することができる。このような回路基板は、窒化ケイ素板の穴から剥離する酸素リッチ層を低減できるため信頼性にも優れる。また、酸素リッチ層の剥離及び飛散に伴う各製造設備の汚染を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる窒化ケイ素板及びその製造方法を提供することができる。また、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる複合基板及びその製造方法を提供することができる。また、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態に係る窒化ケイ素板の斜視図である。
図2図2は、図1の窒化ケイ素板のII-II線断面図である。
図3図3は、図1の窒化ケイ素板のIII-III線断面図である。
図4図4は、窒化ケイ素板の表面の一部分に設けられたスクライブラインを拡大して示す部分拡大図である。
図5図5は、図4の窒化ケイ素板のV-V線断面図である。
図6図6は、窒化ケイ素板の穴が形成された部分の断面を拡大して示す断面図である。
図7図7は、ろう材が塗布された窒化ケイ素板の一例を示す斜視図である。
図8図8は、一実施形態に係る複合基板の斜視図である。
図9図9は、表面にレジストパターンが形成された複合基板の一例を示す斜視図である。
図10図10は、一実施形態に係る回路基板の斜視図である。
図11図11は、スクライブラインを構成する複数の穴が形成された実施例1の窒化ケイ素板の表面及び断面のSEM写真である。
図12図12は、スクライブラインを構成する複数の穴が形成された比較例1の窒化ケイ素板の表面及び断面のSEM写真である。
図13図13は、穴が形成された窒化ケイ素板の断面を、250倍及び500倍に拡大して撮影したSEM写真である。
図14図14は、穴が形成された窒化ケイ素板の断面を、1000倍及び2500倍に拡大して撮影したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
図1は、一実施形態に係る窒化ケイ素板の斜視図である。図1の窒化ケイ素板100は、平板形状を有する。窒化ケイ素板100の表面100Aは、スクライブラインによって複数に区画されている。表面100Aには、第1の方向に沿って延在し且つ等間隔で並ぶ複数のスクライブラインL1と、第1の方向に直交する第2の方向に沿って延在し且つ等間隔で並ぶ複数のスクライブラインL2と、が設けられている。スクライブラインL1とスクライブラインL2とは互いに直交している。
【0024】
スクライブラインL1,L2は、レーザー光によって形成される複数の穴で構成される。レーザー源としては、例えば、炭酸ガスレーザー及びYAGレーザー等が挙げられる。このようなレーザー源からレーザー光を間欠的に照射することによって複数の穴を所定の方向に沿って形成することで、スクライブラインを設けることができる。なお、スクライブラインL1,L2は、等間隔で並んでいなくてもよく、また、直交するものに限定されない。また、直線状ではなく、曲線状であってもよいし、折れ曲がっていてもよい。
【0025】
図2図1のII-II線断面図であり、図3図1のIII-III線断面図である。図1図2及び図3に示すように、区画部10は、スクライブラインL1,L2で囲まれる一方の表面100Aの領域と、当該領域に対応する他方の表面100Bの領域と、スクライブラインL1,L2から窒化ケイ素板100の厚さ方向に平行に描かれる仮想線VL1,VL2と、で囲まれる3次元の領域で構成される。すなわち、窒化ケイ素板100は、スクライブラインL1及びスクライブラインL2によって画定される複数の区画部10(図1では9個)を有する。
【0026】
図1図2及び図3では、スクライブラインL1,L2が窒化ケイ素板100の一方側の表面100Aのみに形成されている例を示したが、これに限定されない。すなわち、スクライブラインL1,L2は、窒化ケイ素板100の表面100Aとは反対側の表面100Bにも形成されていてもよい。
【0027】
図4は、窒化ケイ素板100の表面100Aの一部分に設けられたスクライブラインL1を拡大して示す部分拡大図である。スクライブラインL1(L2)は、その長手方向に沿って並ぶ複数の穴20によって構成される。互いに隣り合う穴20同士は繋がっていてもよいし、離れていてもよい。表面100Aにおける穴20の開口部20Eは円形であってよい。開口部20Eの直径、すなわち開口径rは、50μm以上であってよいし、70μm以上であってもよい。このような開口径rを有する穴20で構成されるスクライブラインL1(L2)を有する窒化ケイ素板100は、スクライブラインL1(L2)に沿って円滑に分割することができる。開口径rは、窒化ケイ素板100の機械的強度を維持する観点から、300μm以下であってよく、200μm以下であってもよい。なお、変形例では、隣り合う穴20同士は離れていてもよい。別の変形例では、隣り合う穴20同士は、その一部が重なっていてもよい。
【0028】
図5は、図4のV-V線断面図である。すなわち、図5は、窒化ケイ素板100を、スクライブラインL1(L2)を通り、表面100Aに垂直な面で切断したときの断面図である。穴20は、開口部20Eから窒化ケイ素板100の内部に向かって先細りとなるすり鉢形状を呈している。穴20は、表面100Aにおける開口部20Eから底部20Bまでの深さdを有する。窒化ケイ素板100の厚みが0.15~1mmのとき、深さdは、50μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。このような深さdを有する穴20で構成されるスクライブラインL1(L2)を有する窒化ケイ素板100は、スクライブラインL1(L2)に沿って円滑に分割することができる。深さdは、窒化ケイ素板100の機械的強度を維持する観点から、窒化ケイ素板100の厚みの半分以下であってよく、1/3以下であってもよい。複数の穴20の深さdは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
図6は、窒化ケイ素板の穴20が形成された部分の断面を図5よりもさらに拡大して示す断面図である。図6に示されるように、すり鉢状の穴20の内面の少なくとも一部は酸素リッチ層22で覆われていてよい。表面100Aには酸素リッチ層22が実質的に形成されておらず、表面100Aの方が穴20の内面よりも酸素リッチ層22の厚みが小さくなっている。これによって、酸素リッチ層22に起因する汚れの発生を十分に抑制することができる。また、表面100Aに接合される部材との接合性を向上することができる。
【0030】
穴20の底部20Bにおける酸素リッチ層22の最大厚みtは、8μm未満であってよく、6μm未満であってよく、5μm未満であってよい。酸素リッチ層22は、スクライブラインL1,L2が形成されていない部分の窒化ケイ素板100の表面100Aに対して、質量基準の酸素濃度が3倍以上の領域である。酸素濃度は、EPMA(電子線マイクロアナライザ)で測定することができる。
【0031】
酸素リッチ層22は、窒化ケイ素とは異なる異物で構成される。酸素リッチ層22は、例えば酸化物を含有してよい。酸化物は、例えば二酸化ケイ素であってよい。また、酸素リッチ層22の厚みは、通常、穴20の底部20Bで最も大きくなる。このため、最大厚みtを小さくすることによって、酸素リッチ層22が低減され、酸素リッチ層22の剥離による汚れを抑制することができる。このような窒化ケイ素板100は、酸素リッチ層22の剥離に起因する信頼性の低下を抑制することができる。また、各製造設備の酸素リッチ層22による汚染を低減することができる。なお、最大厚みtは、表面100Aに垂直な方向に沿って測定される。
【0032】
図6では、穴20の内面全体が酸素リッチ層22で覆われる例が示されているが、このような例に限定されない。例えば、穴20の内面の一部のみが酸素リッチ層22で覆われていてもよいし、穴20の内面が酸素リッチ層22で全く覆われていなくてもよい。この場合、異物による汚れの発生を防止することができる。このような窒化ケイ素板100は、十分に優れた信頼性を有する。
【0033】
一実施形態に係る窒化ケイ素板の製造方法として、窒化ケイ素板100の製造方法を説明する。窒化ケイ素板100の製造方法は、窒化ケイ素を含む基材を作製する工程と、基材の表面にレーザー光で複数の穴を形成してスクライブラインを設けて窒化ケイ素板100を得る工程とを有する。
【0034】
窒化ケイ素を含む基材は、以下の手順で製造することができる。まず、窒化ケイ素粉末、バインダ樹脂、焼結助剤、可塑剤、分散剤、及び溶媒等を含むスラリーを成形してグリーンシートを得る。焼結助剤としては、希土類金属、アルカリ土類金属、金属酸化物、フッ化物、塩化物、硝酸塩、及び硫酸塩等が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよいし二種以上を併用してもよい。焼結助剤を用いることにより、無機化合物粉末の焼結を促進させることができる。バインダ樹脂の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0035】
可塑剤の例としては、精製グリセリン、グリセリントリオレート、ジエチレングリコール、ジ-n-ブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の二塩基酸系可塑剤等が挙げられる。分散剤の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸-マレイン酸塩コポリマーが挙げられる。溶媒としては、エタノール及びトルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0036】
スラリーの成形方法の例としては、ドクターブレード法及び押出成形法が挙げられる。このような方法によってグリーンシートを作製する。グリーンシートの脱脂及び焼結を行って、窒化ケイ素を含む基材が得られる。脱脂は、例えば、400~800℃で、0.5~20時間加熱して行ってよい。これによって、窒化ケイ素の酸化及び劣化を抑制しつつ、有機物(炭素)の残留量を低減することができる。焼結は、窒素、アルゴン、アンモニア又は水素等の非酸化性ガス雰囲気下、1700~1900℃に加熱して行ってよい。
【0037】
上述の脱脂及び焼結は、グリーンシートを複数積層した状態で行ってもよい。積層して脱脂及び焼結を行う場合、焼成後の基材の分離を円滑にするため、グリーンシート間に離型剤による離型層を設けてよい。離型剤としては、例えば、窒化ホウ素(BN)を用いることができる。離型層は、例えば、窒化ホウ素の粉末のスラリーを、スプレー、ブラシ、ロールコート、又はスクリーン印刷等の方法により塗布して形成してよい。積層するグリーンシートの枚数は、基材の量産を効率的に行いつつ、脱脂を十分に進行させる観点から、例えば8~100枚であってよく、30~70枚であってもよい。
【0038】
このようにして得られた窒化ケイ素を含む基材の表面に、レーザー光を照射して複数の穴を形成する。これによって、図1図3に示すような、表面100AにスクライブラインL1,L2を有する窒化ケイ素板100を得る。レーザー光としては、例えば、炭酸ガスレーザー及びYAGレーザー等が挙げられる。図4図5に示される複数の穴20のそれぞれは、レーザー光を複数回に分けて照射することによって形成される。これによって、1回のみの照射で穴を形成する場合に比べて、1回(1ショット)当たりに照射されるレーザー光のエネルギーを小さくすることができる。したがって、穴20の形成にレーザー光を効率的に利用することが可能となり、窒化ケイ素の焦げ付きを抑制することができる。その結果、図6に示される酸素リッチ層22の発生を抑制し、窒化ケイ素板の良好な外観を維持することができる。このような窒化ケイ素板100は、剥離する酸素リッチ層22を低減できることから、信頼性に優れる。また、窒化ケイ素板100及びこれを用いる各製造設備の汚染を低減することができる。
【0039】
穴20は、バーストパルスモードによって形成してもよいし、サイクルパルスモードによって形成してもよい。バーストパルスモードは、以下の手順で行う。レーザー光を複数回に分けて同じ位置に照射して、一つ目の穴20を形成する。続いて、一つ目の穴20に隣り合うように、レーザー光を複数回に分けて照射して二つ目の穴20を形成する。これによって、互いに隣り合う2つの穴20を形成する。このような手順を複数回繰り返して行いn個の穴20を形成する(nは2以上の正の整数)。このようにしてn個の穴20で構成されるからなるスクライブラインL1(L2)を形成することができる。1個の穴20を形成するために2回レーザー光を照射する場合、n個の穴20を形成するためにはレーザー光を2n回に分けて照射することになる。
【0040】
サイクルパルスモードは、例えば以下の手順で行う。1番目からn番目までの穴20を、それぞれ1回ずつのレーザー光の照射で形成する。その後、1番目からn番目までの穴20に、再びレーザー光を1回ずつ照射する。この場合も、n個の穴20を形成するためにレーザー光を2n回に分けて照射することになる。なお、各穴20の形成のためにレーザー光を3回以上照射してもよい。作業効率の観点から、各穴20の形成のためにレーザー光を照射する回数(ショット数)は10回以下であってよい。穴20の形成方法は上述の2つの方法に限定されない。例えば、バーストパルスモードとサイクルパルスモードを組み合わせてもよい。
【0041】
一つの穴20を形成するために照射される複数回のレーザー光の照射間隔は、レーザー光の照射によって加熱される窒化ケイ素板100の冷却時間を確保するため、100μ秒間以上(10kHz以下)であってよく、1000μ秒間以上(1kHz以下)であってよい。
【0042】
1回当たりに照射されるレーザー光のエネルギー、すなわち1ショット当たりのエネルギーは、15mJ未満であってよく、12mJ以下であってよく、10mJ以下であってもよい。このように1回当たりに照射されるエネルギーを小さくすることによって、穴20の内面に生成する酸素リッチ層22の最大厚みtを十分に小さくすることができる。なお、穴20を効率よく形成する観点から、1回当たりに照射されるレーザー光のエネルギーは2mJ以上であってよく、4mJ以上であってもよい。
【0043】
レーザー光のパルス幅は、窒化ケイ素板100の表面100Aに十分な大きさの穴20を形成しつつ、窒化ケイ素板100へのダメージを低減する観点から、3~20μ秒であってよく、5~15μ秒であってもよい。
【0044】
このようにして、スクライブラインL1,L2を設けることによって、窒化ケイ素板100を得ることができる。スクライブラインL1,L2は、後工程において、窒化ケイ素板100(回路基板)を分割する際の切断線となる。
【0045】
上述の窒化ケイ素板の製造方法では、スクライブラインL1(L2)を構成する穴20は、それぞれ、レーザー光を複数回照射することによって形成される。このため、1回のみの照射で穴を形成する場合に比べて、1回(1ショット)当たりに照射されるレーザー光のエネルギーを小さくすることができる。これによって、穴20の内面に生成する異物(酸素リッチ層22)を低減し、窒化ケイ素板100の良好な外観を維持することができる。このような窒化ケイ素板100は、酸素リッチ層22を低減できるため、信頼性にも優れる。また、後工程において酸素リッチ層22の剥離及び飛散による各製造設備の汚染を抑制することができる。
【0046】
一実施形態に係る複合基板の製造方法は、上述の窒化ケイ素板100を用いる。すなわち、この製造方法は、窒化ケイ素板100の表面100A及び表面100Bをそれぞれ覆うように一対の金属板を積層し、一対の金属板を窒化ケイ素板100に接合して複合基板を得る工程を有する。金属板は、窒化ケイ素板100と同様の平板形状であってよい。一対の金属板は、ろう材を介して、窒化ケイ素板100の表面100A及び表面100Bにそれぞれ接合される。
【0047】
具体的には、まず、窒化ケイ素板100の一対の表面100A,100Bに、ロールコーター法、スクリーン印刷法、又は転写法等の方法によってペースト状のろう材を塗布する。ろう材は、例えば、銀及びチタン等の金属成分、有機溶媒、並びにバインダ等を含有する。ろう材の粘度は、例えば5~20Pa・sであってよい。ろう材における有機溶媒の含有量は、例えば、5~25質量%、バインダ量の含有量は、例えば、2~15質量%であってよい。
【0048】
図7は、ろう材40が塗布された窒化ケイ素板100の一例を示す斜視図である。図7に示すように、ろう材40は、区画部10毎に独立して塗布されてよい。図7には、表面100A側のみを示しているが、表面100B側にも同様にろう材40が塗布されていてよい。変形例では、表面100Aと表面100Bの全面にろう材を塗布してもよい。
【0049】
このようにして、ろう材40が塗布された窒化ケイ素板100の表面100A及び表面100Bに、金属板を貼り合わせて接合体を得る。その後、加熱炉で加熱して窒化ケイ素板100と一対の金属板とを十分に接合させて複合基板を得る。加熱温度は例えば700~900℃であってよい。加熱炉内の雰囲気は窒素等の不活性ガスであってよく、大気圧未満の減圧下で行ってもよいし、真空下で行ってもよい。加熱炉は、複数の接合体を連続的に製造する連続式のものであってもよく、一つ又は複数の接合体をバッチ式で製造するものであってもよい。加熱は、接合体を積層方向に押圧しながら行ってもよい。
【0050】
窒化ケイ素板100は、スクライブラインL1,L2を構成する穴20の内面における酸素リッチ層22が低減されているため、良好な外観を有する複合基板を得ることができる。また、焼成時に、酸素リッチ層の飛散が抑制されるため、加熱炉内部の汚染を低減することができる。また、剥離する酸素リッチ層22を低減できることから、金属板と窒化ケイ素板100との接合性を向上することができる。
【0051】
図8は、一実施形態に係る複合基板の斜視図である。複合基板200は、互いに対向するように配置された一対の金属板110と、一対の金属板110の間に窒化ケイ素板100を備える。一対の金属板110は、窒化ケイ素板100の表面100A及び表面100Bを覆うように窒化ケイ素板100に接合されている。金属板110としては、銅板が挙げられる。窒化ケイ素板100と、金属板110の形状及びサイズは同じであってもよいし、異なっていてもよい。複合基板200は、上述の製造方法によって製造することができる。窒化ケイ素板100の穴20に形成される酸素リッチ層22が低減されていることから、良好な外観を維持することができる。このような複合基板200は、酸素リッチ層22が低減されていることから信頼性に優れる。また、複合基板200及びこれを用いる各製造設備の汚染を低減することができる。
【0052】
一実施形態に係る回路基板の製造方法は、上述の複合基板の製造方法に引き続いて、複合基板における金属板の一部を除去して区画部毎に独立した導体部を形成する工程を行う。この工程は、例えば、フォトリソグラフィによって行ってよい。具体的には、まず、複合基板の表面に感光性を有するレジストを印刷する。そして、露光装置を用いて、所定形状を有するレジストパターンを形成する。レジストはネガ型であってもよいしポジ型であってもよい。未硬化のレジストは、例えば洗浄によって除去する。
【0053】
図9は、表面200Aにレジストパターン30が形成された複合基板200の一例を示す斜視図である。図9は、表面200A側のみを示しているが、表面200B側にも同様のレジストパターンが形成されてよい。レジストパターン30は、表面200A及び表面200Bにおいて、窒化ケイ素板100の各区画部10に対応する領域に形成される。
【0054】
レジストパターン30を形成した後、エッチングによって、金属板110のうちレジストパターン30に覆われていない部分を除去する。これによって、当該部分には窒化ケイ素板100の表面100A及び表面100Bが露出する。その後、レジストパターン30を除去して、区画部10毎に独立した導体部を形成する。以上の工程によって、回路基板が得られる。
【0055】
窒化ケイ素板100は、スクライブラインL1,L2を構成する穴20の内面における酸素リッチ層22が低減されているため、良好な外観を有する回路基板を得ることができる。また、剥離する酸素リッチ層22を低減できるため、露光装置等の内部の汚染を抑制することができる。また、導体部と窒化ケイ素板100との接合性を向上することができる。
【0056】
図10は、一実施形態に係る回路基板の平面図である。回路基板300は、窒化ケイ素板100と、窒化ケイ素板100を挟んで対向配置された導体部50と、を備える。導体部50は、区画部10毎に独立して、表面100A及び表面100B上に設けられている。すなわち、区画部10毎に、互いに対向するように配置された一対の導体部50が設けられている。
【0057】
回路基板300は、スクライブラインL1,L2に沿って切断され、複数の分割基板に分割される。分割基板は例えばパワーモジュール等の部品として用いられる。分割基板における導体部50には、例えば電子部品が実装される。回路基板300は、上述の製造方法によって製造することができる。上述の製造方法では、穴20の内面における酸素リッチ層22が低減された窒化ケイ素板100を用いていることから、回路基板300及びその分割基板は良好な外観を維持することができる。分割基板を作製すると、スクライブラインL1,L2を構成していた穴20の内面が外縁部に露出することとなる。このため、穴20の内面における酸素リッチ層22が低減された窒化ケイ素板100を用いることによって、分割基板のみならず分割基板が搭載されるパワーモジュール等の良好な外観を維持することができる。また、パワーモジュールの信頼性も向上することができる。
【0058】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、各区画部10に設けられる導体部50の形状は同一である必要はなく、区画部10毎に異なる形状を有していてもよい。また、窒化ケイ素板及び複合基板は、四角柱形状以外の形状を有していてもよい。
【0059】
回路基板300における導体部50には任意の表面処理を施してもよい。例えば、ソルダーレジスト等の保護層で導体部50の表面の一部を被覆し、導体部50の表面の他部にめっき処理を施してもよい。
【実施例
【0060】
[スクライブラインを有する窒化ケイ素板の作製]
(実施例1)
平板形状の窒化ケイ素板(縦×横×厚さ=139.7mm×190.5mm×0.32mm)を準備した。この窒化ケイ素板の表面に、炭酸ガスレーザー加工機を用いて、一方向に沿って連なる複数の穴を形成し、スクライブラインを設けた。複数の穴の形成は、バーストパルスモードで、同一位置にレーザー光の照射を2回に分けて行った(ショット数:2)。1ショット当たりのレーザー光のエネルギー、及び、パルス幅は、表1に示すとおりであった。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同じ形状及び材質の窒化ケイ素板を準備した。この窒化ケイ素板の表面に、炭酸ガスレーザー加工機を用いて、一方向に沿って連なる複数の穴を形成し、スクライブラインを設けた。それぞれの穴は、レーザー光の照射を1回のみ照射して形成した(ショット数:1)。1ショット当たりのレーザー光のエネルギー、及び、パルス幅は、表1に示すとおりであった。
【0062】
[スクライブラインを構成する穴の評価1]
図11は、スクライブラインを構成する複数の穴が形成された実施例1の窒化ケイ素板の表面及び断面のSEM写真を示している。図11のSEM写真Aは、複数の穴20が形成された実施例1の窒化ケイ素板の表面を示している。図11のSEM写真Bは、複数の穴20が形成された実施例1の窒化ケイ素板の断面を示している。すなわち、SEM写真Bは、窒化ケイ素板のスクライブラインが設けられた表面に垂直で且つスクライブラインを通る面で切断したときの断面を示している。
【0063】
図12は、スクライブラインを構成する複数の穴が形成された比較例1の窒化ケイ素板の表面及び断面のSEM写真を示している。図12のSEM写真Aは、複数の穴20が形成された比較例1の窒化ケイ素板の表面を示している。図12のSEM写真Bは、複数の穴20が形成された比較例1の窒化ケイ素板の断面を示している。すなわち、SEM写真Bは、窒化ケイ素板のスクライブラインが設けられた表面に垂直で且つスクライブラインを通る面で切断したときの断面を示している。
【0064】
図13は、実施例1及び比較例1の、穴が形成された窒化ケイ素板の断面を、250倍及び500倍に拡大して撮影したSEM写真である。図14は、実施例1及び比較例1の、穴が形成された窒化ケイ素板の断面を、1000倍及び2500倍に拡大して撮影したSEM写真である。図13及び図14は、窒化ケイ素板のスクライブラインが形成された表面に垂直で且つスクライブラインの長手方向に垂直な面で切断したときの断面を示している。
【0065】
図13及び図14に示されるように、比較例1では、穴の内面が窒化ケイ素の色よりも白い色の層で覆われていることが確認された。この白色の層のEPMA分析を行ったところ、酸素を含有することが確認された。すなわち、白色の層は、窒化ケイ素板の内部よりも酸素を多く含有する酸素リッチ層であることが確認された。穴の底部における酸素リッチ層の最大厚みtを測定したところ、10μmであった。
【0066】
一方、実施例1では、比較例1よりも穴の内面及び底部における酸素リッチ層(酸素濃度は比較例1と同様)の厚みが薄かった。穴の底部における酸素リッチ層の最大厚みtは、3μmであった。このことから、穴を形成する際のレーザー光の照射を複数回に分けて行うことによって、穴の内面に形成される酸素リッチ層を低減できることが確認された。
【0067】
[スクライブラインを構成する穴の評価2]
実施例1と比較例1の窒化ケイ素板の表面のうち、スクライブラインが形成された部分を、光学顕微鏡(倍率:250倍)で観察し、穴20の開口径rを測定した。その結果は、表1に示すとおりであった。また、実施例1と比較例1の窒化ケイ素板を、スクライブラインに沿って折って、図11及び図12のSEM写真Bに示すような断面を得た。この断面を光学顕微鏡(倍率:250倍)で観察し、穴20の深さdを測定した。その結果は、表1に示すとおりであった。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1の窒化ケイ素板では、スクライブラインを構成する穴の底部に生成する酸素リッチ層の厚みが、比較例1よりも大幅に小さかった。このような窒化ケイ素板は、酸素リッチ層の剥離による汚れが抑制され、良好な外観を維持することができる。また、酸素リッチ層の剥離に伴う信頼性の低下を抑制するとともに、各製造設備の汚染を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示によれば、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる窒化ケイ素板及びその製造方法を提供することができる。また、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる複合基板及びその製造方法を提供することができる。また、良好な外観を維持しつつ、信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
10…区画部、20…穴、20B…底部、20E…開口部、22…酸素リッチ層、30…レジストパターン、40…ろう材、100…窒化ケイ素板、100A,100B…表面、110…金属板、200…複合基板、200A,200B…表面、300…回路基板、L1,L2…スクライブライン、VL1,VL2…仮想線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14