(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】真皮障害を治療または予防するための新規組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/436 20060101AFI20241017BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241017BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20241017BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20241017BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241017BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61K31/436
A61P17/00
A61K47/06
A61K9/52
A61K9/06
A61K9/10
(21)【出願番号】P 2023130574
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2021169263の分割
【原出願日】2016-09-19
【審査請求日】2023-09-08
(32)【優先日】2015-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515015252
【氏名又は名称】ドレクセル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】セル クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ナカレッリ ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】エイザー アシュレイ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-528236(JP,A)
【文献】国際公開第2009/046436(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/022256(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/105521(WO,A1)
【文献】豪国特許出願公告第2013204219(AU,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/
A61P 17/
A61K 31/33-33/44
A61K 47/
A61K 9/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮萎縮および/または光線性角化症を患うヒト対象におけ
る真皮
の厚みを増加させるための、少なくとも1つの皮膚科学的に許容される担体または賦形剤および0.001%~0.01%(w/w)のラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む薬学的組成
物。
【請求項2】
少なくとも1つの皮膚科学的に許容される担体または賦形剤が、溶媒、潤滑剤、皮膚軟化剤、乳化剤、保湿剤、増粘ワックス、柔軟剤、香料、防腐剤、および人工着色料からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
皮膚科学的に許容される担体または賦形剤がペトロラタムを含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
制御放出製剤である、請求項1
に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
20~50%(w/w)のDMSO、
10~20%(w/w)のポリプロピレングリコール、
10~40%(w/w)の分子量100~800のポリエチレングリコール(PEG)、
1~2%(w/w)のゲル化剤、および
0~50%の水
を含むゲル製剤を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
10~50%(w/w)のDMSO、
10~50%(w/w)のPEG、および
1~60%(w/w)のペトロラタム
を含む軟膏製剤を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
鉱油、アルコール、非イオン性界面活性剤、乳化ワックス、グリセロールモノステアレート(GMS)、イソプロピルミリステート(IPM)、および約60~80%の水を含むクリームまたはローション製剤を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
真皮萎縮および/または光線性角化症を患うヒト対象におけ
る真皮
の厚みを増加させるためのキットであって、少なくとも1つの皮膚科学的に許容される担体または賦形剤および0.001%~0.01%(w/w)のラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含有する組成物、アプリケータ、および該対象に該組成物を局所投与するための説明書を含
む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下で、2015年9月24日に出願された米国仮特許出願第62/232,228号に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国立老化研究所(National Institute of Aging)/米国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与された助成金番号AG039799の下で政府の支援によりなされたものである。米政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
皮膚の老化は、内因性の老化プロセス、紫外線への曝露などの、複数の要因によって引き起こされる、老化の過程の最も目立った特徴である。加齢に関連した(加齢性)真皮障害には、例えば、真皮萎縮、光線性角化症、偽瘢痕、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワが含まれる。
【0004】
真皮萎縮は、皮膚萎縮または萎縮症とも呼ばれ、下層組織の減少により皮膚の菲薄化または陥凹が現れる障害である。真皮萎縮は、高齢世代における主要な臨床上の問題である。真皮の完全性が失われると、皮膚の脆弱性が高まり、多くの場合には静脈ラインの使用が不可能になる。創傷治癒障害は、低下した真皮完全性の重大な臨床的続発症であり、損傷後の感染症と合併症の症例数の増加につながる。偽瘢痕は、老人性および初老性の形態として出現し得る、高齢者に自然に発生する星状の病変である。こうした病変は、70歳を過ぎた患者の20%に認められる。黒子(または肝斑)は、年齢とともに発生する色素沈着過度の領域であり、悪性黒子およびメラノーマの前駆病変を表す可能性がある。それらは加齢に伴って増加し、中高年者に共通するようになる。脂漏性または光線性角化症は、表皮肥厚の病巣領域を含むもので、おそらく損傷に対する応答として、発生する可能性がある。同様に、粗いシワも損傷応答から発生すると考えられる。現在、加齢性の真皮萎縮と関連障害の治療には、皮下ヒアルロン酸注射、ボツリヌス毒素の注射、またはビタミンC、緑茶抽出物およびコエンザイムQなどの酸化防止剤の局所適用が含まれるが、これらの薬剤はこうした症状を完全には治療することができない。
【0005】
細胞の老化は、酸化的ストレス、遺伝毒性ストレス、テロメア短縮、または調節不全のマイトジェンシグナル伝達などのいくつかの傷害への曝露時に、哺乳動物細胞によって活性化されるストレス応答である。これらのストレスは、2つの経路、すなわちp53/p21CIP1/WAF1経路およびp16INK4A/Rb経路、を始動させることによって老化反応を活性化するが、これらの経路は老化反応を確立して維持するために必要とされる。老化誘発性の刺激はDNA損傷を引き起こし、かつ持続的なDNA損傷応答(DDR)の引き金となり得る:持続的で解消されないDNA損傷に応答して、毛細血管拡張性運動失調症変異型(Ataxia Telangiectasia Mutant: ATM)キナーゼは、p53とその転写標的p21CIP1/WAF1を活性化して、細胞周期依存性キナーゼを阻害することによって細胞増殖を停止させる。さらに、同様の老化誘発性刺激は、DNA損傷とは無関係に、ストレス活性化プロテインキナーゼp38 MAPKの活性化を引き起こすことができる。p38 MAPKは次に、p16INK4Aの発現を増加させる転写因子HBP1を活性化することによって、細胞周期の停止を促進して、老化を確立することができる。これらの2つの経路は、異なる動力学によって老化を確立するようである:DDR経路は、通常、p21CIP1/WAF1のレベルを増加させることによって初期停止を媒介し、それ以後においてのみ老化はp16INK4Aの発現によって強化される。さらに、p53経路とp38 MAPK経路は、互いにほぼ独立しているように見えるので、それらの間にクロストークが存在するにしても、余剰的である。
【0006】
哺乳類/機構的ラパマイシン標的(mTOR)は、増殖因子と栄養素の両方の利用可能性に応答する細胞内タンパク質複合体であり、ミトコンドリアの機能にも影響を及ぼす。それは、TORキナーゼ(もともとは酵母で同定され、哺乳類ではmTORとして知られる)、アクセサリータンパク質、およびTORの重要な下流標的であるリボソームS6キナーゼ(p70S6K)を含む下流メディエーターから成っている。TORシグナル伝達経路は、真核生物において高度に保存されており、機能的には、高度に特異的な抗真菌剤であるラパマイシンの標的として定義される。
【0007】
コアmTOR複合体を構成するタンパク質は、FRAP1 (FKBP12-ラパマイシン関連タンパク質)としても知られるセリン-スレオニンキナーゼmTOR、およびmLST8 (mammalian lethal with SEC13タンパク質8)である。これらのコア構成因子は、ラパマイシンに対するそれらの感受性によって区別される2つの複合体mTORC1およびmTORC2のいずれかを形成する能力がある。ラパマイシン感受性複合体mTORC1は、足場タンパク質Raptor (regulatory-associated protein of mTOR)を含み、一方ラパマイシン非感受性複合体mTORC2は、足場タンパク質Rictor (rapamycin-insensitive companion of mTOR)を含む。これらの足場タンパク質は、mTORC1およびmTORC2をそれぞれの標的へ向かわせるように機能する。追加の構成因子は各複合体に特有である。例えば、プロリンリッチなAkt/PKB基質40KDa (PRAS40)は、mTORC1と会合した阻害性タンパク質であるのに対して、Sin1 (stress-activated MAP kinase-interacting protein 1)およびproctor (protein observed with Rictor-1)タンパク質はmTORC2と会合している。このmTOR複合体に起因する主な機能は、細胞の増殖・成長の促進である。
【0008】
したがって、当技術分野では、ヒトなどの哺乳類対象において特定の加齢性真皮障害を治療または予防するのに使用することができる新規な組成物および方法が必要とされている。本発明はこうした必要性を満たすものである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、哺乳類対象における加齢性真皮障害を治療または予防する方法を提供する。本発明はさらに、哺乳類の線維芽細胞の寿命を延ばす方法を提供する。本発明はさらに、哺乳類の線維芽細胞の細胞組織化を保存する方法を提供する。本発明はさらに、哺乳類の線維芽細胞の老化を予防するまたは最小限に抑える方法を提供する。本発明はさらに、哺乳類対象における加齢性真皮障害を治療または予防するためのキットを提供する。
【0010】
特定の態様において、前記方法は、該対象に、治療有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を局所投与することを含む。
【0011】
特定の態様において、前記方法は、該線維芽細胞に、有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を接触させることを含む。
【0012】
特定の態様において、加齢性真皮障害は、真皮萎縮、脂漏性または光線性角化症、偽瘢痕、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワからなる群より選択される少なくとも1つの障害である。
【0013】
特定の態様において、mTORC1阻害剤は、BEZ235、ラパマイシン、エベロリムス、AZD8055、テムシロリムス、KU-0063794、PI-103、トルキニブ(Torkinib)、タクロリムス、リダフォロリムス、INK-128、ボクスタリシブ(Voxtalisib)、Torin-1、オミパリシブ、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ジェダトリシブ、AZD-2014、Torin-2、WYE-125132、BGT226、Palomid-529、PP121、WYE-687、CH5132799、Way-600、ETP-46464、GDC-0349、XL388、およびゾタロリムス、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーからなる群より選択される少なくとも1種である。他の態様では、mTORC1阻害剤は、ラパマイシン、リダフォロリムス、およびエベロリムス、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーからなる群より選択される少なくとも1種である。さらに他の態様では、mTORC1阻害剤は、ラパマイシン、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーである。
【0014】
特定の態様において、前記対象はヒトである。他の態様において、前記組成物は対象の皮膚に局所的に適用される。
【0015】
特定の態様において、前記組成物は約0.001~1重量%のmTORC1阻害剤、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む。他の態様では、mTORC1阻害剤は、ラパマイシン、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーである。さらに他の態様では、該組成物は、皮膚科学的に許容される担体をさらに含む。さらに他の態様では、皮膚科学的に許容される担体は、溶媒、潤滑剤、皮膚軟化剤、乳化剤、保湿剤、増粘ワックス、柔軟剤、香料、防腐剤、および人工着色料からなる群より選択される少なくとも1種である。さらに他の態様では、皮膚科学的に許容される担体はペトロラタムを含む。
【0016】
特定の態様において、前記線維芽細胞は真皮の線維芽細胞である。他の態様では、真皮の線維芽細胞はインビボで、かつ哺乳類対象の皮膚の一部である。
【0017】
特定の態様において、前記キットは、有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含有する組成物を含む。他の態様では、該キットはアプリケータをさらに含む。さらに他の態様では、該キットは、対象に該組成物を局所投与するための説明書をさらに含む。
[本発明1001]
それを必要とする哺乳類対象における加齢性真皮障害を治療または予防する方法であって、該対象に、治療有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を局所投与する工程を含んでなり、加齢性真皮障害が、真皮萎縮、脂漏性または光線性角化症、偽瘢痕、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワからなる群より選択される少なくとも1つである、方法。
[本発明1002]
mTORC1阻害剤が、BEZ235、ラパマイシン、エベロリムス、AZD8055、テムシロリムス、KU-0063794、PI-103、トルキニブ(Torkinib)、タクロリムス、リダフォロリムス、INK-128、ボクスタリシブ(Voxtalisib)、Torin-1、オミパリシブ、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ジェダトリシブ、AZD-2014、Torin-2、WYE-125132、BGT226、Palomid-529、PP121、WYE-687、CH5132799、Way-600、ETP-46464、GDC-0349、XL388、およびゾタロリムス、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーからなる群より選択される少なくとも1種である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
mTORC1阻害剤が、ラパマイシン、リダフォロリムス、およびエベロリムス、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーからなる群より選択される少なくとも1種である、本発明1001の方法。
[本発明1004]
mTORC1阻害剤が、ラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーである、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記対象がヒトである、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記組成物が約0.001~1重量%のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
mTORC1阻害剤が、ラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーである、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記組成物が、皮膚科学的に許容される担体をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
皮膚科学的に許容される担体が、溶媒、潤滑剤、皮膚軟化剤、乳化剤、保湿剤、増粘ワックス、柔軟剤、香料、防腐剤、および人工着色料からなる群より選択される少なくとも1種である、本発明1008の方法。
[本発明1010]
皮膚科学的に許容される担体がペトロラタムを含む、本発明1008の方法。
[本発明1011]
哺乳類の線維芽細胞の寿命を延ばす方法であって、該線維芽細胞に、有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を接触させる工程を含んでなる、方法。
[本発明1012]
哺乳類の線維芽細胞の細胞組織化を保存する方法であって、該線維芽細胞に、有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を接触させる工程を含んでなる、方法。
[本発明1013]
哺乳類の線維芽細胞の老化を予防するかまたは最小限に抑える方法であって、該線維芽細胞に、有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む組成物を接触させる工程を含んでなる、方法。
[本発明1014]
mTORC1阻害剤が、BEZ235、ラパマイシン、エベロリムス、AZD8055、テムシロリムス、KU-0063794、PI-103、トルキニブ、タクロリムス、リダフォロリムス、INK-128、ボクスタリシブ、Torin-1、オミパリシブ、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ジェダトリシブ、AZD-2014、Torin-2、WYE-125132、BGT226、Palomid-529、PP121、WYE-687、CH5132799、Way-600、ETP-46464、GDC-0349、XL388、およびゾタロリムス、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーからなる群より選択される少なくとも1種である、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
mTORC1阻害剤が、ラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記線維芽細胞が真皮の線維芽細胞である、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1017]
真皮の線維芽細胞が、インビボかつ哺乳類対象の皮膚の一部である、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記組成物が前記対象の皮膚に局所的に適用される、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1019]
それを必要とする哺乳類対象における加齢性真皮障害を治療または予防するためのキットであって、治療有効量のmTORC1阻害剤またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含有する組成物、アプリケータ、および該対象に該組成物を局所投与するための説明書を含んでなり、該真皮障害が真皮萎縮、偽瘢痕、脂漏性または光線性角化症、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワからなる群より選択される少なくとも1つである、キット。
[本発明1020]
mTORC1阻害剤が、ラパマイシンまたはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーである、本発明1019のキット。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明を例示する目的で、本発明の特定の態様が図面に示されている。しかし、本発明は、図面に示された実施態様の正確な配置および手段に限定されるものではない。
【
図1A】
図1A~1Iは、NRTIおよびラパマイシンに応答したミトコンドリアパラメータの変化を示す一連のグラフである。ヒト心臓線維芽細胞をラパマイシン(1nM)の存在下または非存在下に維持した。NRTIに7日間曝露した後、ミトコンドリアの状態および機能のパラメータを調べた。灰色の棒グラフは標準培養条件下に維持した細胞を表し、黒色の棒グラフはラパマイシンの存在下に維持した細胞を表す。
図1Aは、テトラメチルローダミンエチルエステル過塩素酸塩(TMRE)染色によって評価されたミトコンドリア膜電位を示す棒グラフである。
図1Bは、ミトコンドリアROSレベルを示す棒グラフである。
図1Cは、ミトコンドリア質量を示す棒グラフである。
図1Dは、総細胞ROSを示す棒グラフである。
図1Eは、ミトコンドリア阻害剤オリゴマイシン、カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)、またはロテノンとアンチマイシンAとの組み合わせを添加した後の時間の関数としての酸素消費/細胞を示すグラフである。
図1Fは、計測された基礎呼吸の速度を示す棒グラフである。
図1Gは、計測された最大呼吸の速度を示す棒グラフである。
図1Hは、計測されたATP関連呼吸の速度を示す棒グラフである。
図1Iは、計測されたプロトンリークの速度を示す棒グラフである。各測定は最低3つ組の培養物を表し、全ての測定を最低2回繰り返して、同様の結果を得た。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のラパマイシン処理細胞と未処理細胞との間で有意に異なる値を表す。
【
図2A】
図2A~2Hは、電子伝達系サブユニットおよびミトコンドリアタンパク質の定常状態レベルを示す。
図2Aは、NRTIに曝露した心臓線維芽細胞におけるイムノブロットにより評価された、外側ミトコンドリア膜タンパク質の電位依存性アニオンチャネル(VDAC)と共に、示された電子伝達系(ETC)タンパク質の定常状態レベルを示す。
図2Bは、Pink1、Pink1切断産物、およびパーキン(Parkin)の定常状態レベルを示す。
図2Cは、p62およびアクチンの定常状態レベルを示す。
図2Dは、NADHデヒドロゲナーゼ(ユビキノン)1βサブ複合体8 (NDUFB8)(複合体1)に含まれるETCサブユニットのmRNAレベルのナノストリング(nanostring)解析の結果を示す。
図2Eは、ユビキノール-シトクロムcレダクターゼコアタンパク質II (UQCRC2)(複合体3)に含まれるETCサブユニットのmRNAレベルのナノストリング解析の結果を示す。
図2Fは、コハク酸デヒドロゲナーゼ(ユビキノン)鉄硫黄サブユニット(SDHB)(複合体2)に含まれるETCサブユニットのmRNAレベルのナノストリング解析の結果を示す。
図2Gは、シトクロムcオキシダーゼサブユニットI (mt-Co1)(複合体4)に含まれるETCサブユニットのmRNAレベルのナノストリング解析の結果を示す。
図2Hは、ATP5A1(複合体5)に含まれるETCサブユニットのmRNAレベルのナノストリング解析の結果を示す。各イムノブロットは、同様の結果を有する最低2回の独立した実験を表す。灰色の棒グラフは対照培養物からのデータを表し、黒色の棒グラフはラパマイシン処理培養物からのデータを表す。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のラパマイシン処理細胞と未処理細胞との間で有意に異なる値を表す。ナノストリングの結果は、2つの独立した実験を代表する。
【
図3A】
図3A~3Fは、NRTI曝露が老化反応を誘導し、その老化反応がラパマイシンによって防止されるという知見を示す。ヒト心臓線維芽細胞を、NRTIに7日間曝露した後、ラパマイシン(1nM)の存在下または非存在下に維持した。老化のマーカー類を調べた。
図3Aは、老化反応の間に変化することが知られているp16、p21、p53、ラミンB1およびIL-6の定常状態レベルを示すヒト心臓線維芽細胞からのデータを示す。アクチンレベルはローディング対照として提示される。
図3Bは、SA-βガラクトシダーゼ活性について陽性に染色された細胞の割合を示す棒グラフである。
図3Cは、NRTIに曝露した細胞におけるナノストリング解析によって測定されたp21の定常状態mRNAレベルを示す棒グラフである。
図3Dは、NRTIに曝露した細胞におけるナノストリング解析によって測定されたラミンB1の定常状態mRNAレベルを示す棒グラフである。
図3Eは、初期継代細胞を、複製老化を受けた細胞ならびに寿命延長を可能にするラパマイシン含有培地に維持した細胞と比較する、p21の比較分析を示す棒グラフである。
図3Fは、初期継代細胞を、複製老化を受けた細胞ならびに寿命延長を可能にするラパマイシン含有培地に維持した細胞と比較する、ラミンB1の比較分析を示す棒グラフである。灰色の棒グラフは標準培養条件下に維持した細胞を表し、黒色の棒グラフはラパマイシンの存在下に維持した細胞を表す。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のラパマイシン処理細胞と未処理細胞との間で有意に異なる値を表す。
【
図4A】
図4A~4Eは、ROSスカベンジャーがNRTIに曝露した細胞における老化マーカーの発現を防止するという知見を示す。ヒト心臓線維芽細胞を、NRTIへの曝露中にミトコンドリアROSスカベンジャーmito-Qで処理した。
図4Aは、老化反応の間に変化することが知られているp16、p21、p53、およびラミンB1の定常状態レベルを示す。
図4Bは、リソソームSA-βガラクトシダーゼ活性について陽性に染色された細胞の割合を示す棒グラフである。
図4Cは、NRTIへの曝露中にヒト心臓線維芽細胞にmt-カタラーゼタンパク質を発現するアデノウイルスベクターまたは空のベクターを感染させた後の、老化反応の間に変化することが知られているp16、p21、p53、アクチン、およびカタラーゼの定常状態レベルを示すイムノブロット分析の結果を示す。イムノブロットは、同様の結果を有する最低2回の独立した実験を表す。
図4Dは、NRTIへの曝露中にヒト心臓線維芽細胞にmt-カタラーゼタンパク質を発現するアデノウイルスベクターまたは空のベクターを感染させた後の、リソソームSA-βガラクトシダーゼ活性について陽性に染色された細胞の割合を示す棒グラフである。
図4Eは、老化に関連するp16、p21、およびラミンB1の定常状態レベルを示す。灰色の棒グラフは標準培養条件下に維持した細胞を表し、黒色の棒グラフはラパマイシンの存在下に維持した細胞を表す。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表す。#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のラパマイシン処理細胞と未処理細胞との間で有意に異なる値を表す。
【
図5A】
図5A~5Dは、NRTI曝露に応答するリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化を示す。
図5Aは、ヒト心臓線維芽細胞におけるイムノブロット分析によって評価された、NRTI曝露に応答するリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。標準培養条件下に維持した培養物からの抽出物を左の3つのレーンに示し、1nMのラパマイシンの存在下に維持した培養物を右手の2つのラインに示す。対照培養物の場合には培養物を10または20μMのNRTIに7日間曝露し、一方ラパマイシン処理培養物は20μMのNRTIに7日間曝露した。
図5Bは、細胞をNRTIに7日間曝露し、続いてp70 S6キナーゼ(PF-4708671)またはMEK1/2 (U0126)のいずれかを標的とする特異的キナーゼ阻害剤と最後の2時間インキュベートした後の、リボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。
図5Cは、細胞をNRTIに7日間曝露し、続いてMEK1/2 (U0126)、Raf (GW5047)、またはp90RSK (BI-D1870)を標的とする特異的キナーゼ阻害剤と最後の2時間インキュベートした後の、リボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。追加セットの培養物をNRTIへの曝露中にフリーラジカルスカベンジャーであるトロロックス(Trolox)とN-アセチルシステインの組み合わせで処理した。
図5Dは、細胞をNRTIへの曝露中に特異的p38 MAPK阻害剤(SB203580)で処理した後の、リボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。
図5Dを除いて、各イムノブロットは、同様の結果を有する最低2回の独立した実験を表す。各イムノブロットは、アクチンをローディング対照として用いて示される。
【
図6A】
図6A~6Gは、NRTIに応答するリボソームS6およびMDM2のリン酸化ならびにミトコンドリア活性に及ぼすMito-Qおよびmt-カタラーゼの影響を示す。
図6Aは、NRTI曝露の期間中に、mito-Qまたは不活性キャリアのチアミンピロリン酸(TPP)の存在下で培養した心臓線維芽細胞におけるリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態のイムノブロット分析を示す。
図6Bは、NRTI曝露前に、mt-カタラーゼを発現する構築物または空のウイルスベクターを有するアデノウイルス粒子に感染させた心臓線維芽細胞におけるリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化のイムノブロット分析を示す。各イムノブロットは、同様の結果を有する最低2回の独立した実験を表し、アクチンをローディング対照として用いて示される。
図6Cは、心臓線維芽細胞をNRTIへの曝露中にmito-QまたはTPPで処理した後の、計測された基礎呼吸の速度を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図6Dは、心臓線維芽細胞をNRTIへの曝露中にmito-QまたはTPPで処理した後の、計測された最大呼吸の速度を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図6Eは、心臓線維芽細胞をNRTIへの曝露中にmito-QまたはTPPで処理した後の、計測されたATP関連呼吸の速度を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図6Fは、心臓線維芽細胞をNRTIへの曝露中にmito-QまたはTPPで処理した後の、計測されたプロトンリークの速度を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図6Gは、ミトコンドリアROSの平均蛍光強度を示す棒グラフである。アスタリスクが付された棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のTPP処理細胞とmito-Q処理細胞との間で有意に異なる値を表す。
【
図7A】
図7A~7Bは、酸化的ストレスに応答するリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。
図7Aは、血清枯渇心臓線維芽細胞を漸増濃度の過酸化水素に2時間曝露した後の、リボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態を示す。リボソームS6リン酸化の増殖因子刺激の陽性対照として、血清刺激培養物を右手レーンに示す。
図7Bは、示された濃度のロテノンに16時間曝露した細胞におけるリボソームS6タンパク質のリン酸化状態を示す。血清枯渇心臓線維芽細胞を1~50nMの範囲の濃度でロテノンに曝露した。アクチンの定常状態レベルを、同等のタンパク質ローディングのための対照として示す。
【
図8A】
図8A~8Cは、NRTIの存在下でのミトコンドリアへのRaptorの局在を示す。
図8Aは、ミトコンドリア標的化配列に融合されたGFPタンパク質(緑色)を産生する発現構築物を含むアデノウイルス構築物に感染した細胞を示す一組の画像である。これらの細胞を固定し、Raptorを認識する抗体で染色し(赤色)、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で対比染色してDNAを可視化した(青色)。
図8Bは、NRTIに7日間曝露した後にミトコンドリアGFPを発現する線維芽細胞における共局在化事象を示す、対照線維芽細胞(NRTIへの曝露なし)の代表的な共焦点画像である。
図8Cは、共焦点顕微鏡法とデコンボリューション顕微鏡法の両方によって決定された共局在化事象の定量を示す棒グラフである。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)内のラパマイシン処理細胞と未処理細胞との間で有意に異なる値を表す。共局在化実験は、共焦点顕微鏡法とデコンボリューション顕微鏡法の両方により、Raptorとmt-GFPの共局在化を調べる一連の実験に対して、4人の独立した評価者によって行われた。定量的データは、デコンボリューション顕微鏡法を用いてカウント数から生成した。
【
図9A】
図9A~9Iは、線維芽細胞が、ミトコンドリアROSを上昇させかつリボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化を高める老化を示すという知見を示す。
図9Aは、初期継代の心臓線維芽細胞および老化した心臓線維芽細胞におけるミトコンドリアROSのレベルを示す棒グラフである。
図9Bは、初期継代および老化心臓線維芽細胞における総細胞ROSのレベルを示す棒グラフである。灰色の棒グラフは標準培養条件下に維持した細胞を表し、黒色の棒グラフは1nMのラパマイシンの存在下に維持した細胞を表す。
図9Cは、ミトコンドリア阻害剤であるオリゴマイシン、FCCP、またはロテノンとアンチマイシンAとの組み合わせの添加後の時間の関数としての、細胞数に対して正規化された酸素消費速度を示すグラフである。
図9Dは、ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリア機能の基礎呼吸を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図9Eは、ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリア機能の最大呼吸を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図9Fは、ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリア機能のATP関連呼吸を示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図9Gは、ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリア機能のプロトンリークを示すSeahorse Bioanalyzer分析である。
図9Hは、老化のマーカーp21およびp16、ならびにリボソームS6およびMDM2タンパク質のリン酸化形態についてプローブされた、漸増する集団倍加数での細胞に由来するタンパク質溶解物を示す。
図9Iは、完全に老化した培養物を、ROSスカベンジャーのトロロックスおよびN-アセチルシステイン、p90RSK阻害剤BI-D1870で処理した後の、または該老化培養物に、mt-カタラーゼタンパク質を発現する構築物もしくは空のベクター対照を含むアデノウイルス粒子を感染させた後の、リボソームS6タンパク質およびMDM2のリン酸化状態についてプローブされたタンパク質溶解物を示す。アスタリスクでマークした棒は、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表し、#でマークした棒は、同じ処理群(対照群またはNRTI曝露群)である値を表す。
【
図10】増殖応答または老化停止を生じるための多数のシグナルのmTORC1統合モデルの概略図である。本明細書で実証されるように、mTORC1への追加の入力は、MDM2およびp53活性のp70 S6キナーゼ媒介調節を介して老化増殖停止を支持するようにmTORC1を方向変換することができる細胞レドックス状態およびミトコンドリア機能の形態で存在する。これらの接続は赤で示される(mTORC1→p70S6K--|MDM2--|p53→安定化→p53→老化)。
【
図11A】
図11A~11Fは、NRTIに曝露したヒト心臓線維芽細胞培養物およびラパマイシン処理培養物におけるp53の状態を示す。
図11Aは、NRTIまたは陽性対照としての過酸化水素に曝露した細胞についてのコメットアッセイの結果を示す棒グラフである。白色の棒は対照データを表す;灰色の棒は10または20μg/mlのNRTIに7日間曝露した細胞からのデータを表す;黒色の棒は200μMの過酸化水素に2時間曝露した細胞からのデータを表す。アスタリスクは、P<0.05で相対的な対照値と有意に異なる値を表す。
図11Bは、p53に対する抗体を用いた免疫沈降実験の結果を示す。7日間のNRTI曝露ありまたはなしの、対照培養物およびラパマイシン処理培養物からの細胞溶解物を、抗p53抗体を用いた免疫沈降に供し、続いてMDM2について、その後にp53についてイムノブロット分析を行った。
図11Cは、
図11Aで免疫沈降に使用されたサンプル中のp53、MDM2、およびリン酸化MDM2のレベルを示す。
図11Dは、対照培養物およびラパマイシン処理培養物をNRTIに7日間曝露し、続いてプロテアソーム活性を阻害するためにMG132と2時間インキュベートした後のp53のレベルを示す。改変型p53は、抗p53抗体によって認識される、より高分子量の形態を指す。
図11Eは、NRTIへの曝露なしのMDM2の細胞質レベルを示す画像と、NRTIへの曝露ありのMDM2の細胞質レベルを示す画像である。MDM2(赤色)について染色し、DNA(青色)について対比染色した細胞の代表的な顕微鏡写真。
図11Fは、Image J Analysisによって測定された細胞質MDM2染色の相対強度を示す棒グラフである。
【
図12】
図12A~12Dは、Raptorのミトコンドリア会合を示す一連の画像である。
図12A~12Bは、対照条件下でRaptor(赤色)について染色した、mt-GFPタンパク質(緑色)を発現する細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。
図12C~12Dは、NRTIへの曝露後にRaptorについて染色した、mt-GFPタンパク質を発現する細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。共局在化事象は矢印で示される。
【
図13】ラパマイシン処理がヒト線維芽細胞において寿命延長をもたらすという知見を示すグラフである。ヒト線維芽細胞を、ラパマイシン(1nM)を含むまたは含まない培地で増殖させた。培養物を7日ごとに分割して、毎週同じ細胞数/cm
2で再播種した。正常ヒト線維芽細胞の寿命は、細胞が2倍になる回数で数えられる。ラパマイシン処理細胞は、これらの細胞の正常な寿命をはるかに超えて増殖する。
【
図14】ラパマイシンがヒト線維芽細胞の老化過程で細胞組織化を保存するという知見を示す。低用量のラパマイシンの存在下に維持したヒト線維芽細胞は、秩序ある成長パターンを維持したが、未処理の線維芽細胞は加齢に伴って適切に配向する能力を失った。組織化能力は、正常な線維芽細胞機能の決定的要素であり、正常組織における組織の完全性に寄与する。年齢とともに起こる秩序の破壊は、機能低下の一因となる。
【
図15】損傷に直面するミトコンドリアネットワークをラパマイシンが保存するという知見を示す一連の画像である。パネルAは、ミトコンドリア内に蛍光タンパク質を発現するヒト線維芽細胞が緑色のミトコンドリアのネットワークを示すことを示す。パネルBは、ラパマイシン処理細胞が正常なミトコンドリアネットワークを持つことを示す。パネルCは、ミトコンドリアネットワークが、ミトコンドリア毒素の臭化エチジウム(EthBr)への曝露によって破壊されることを示す。パネルDは、ラパマイシン処理細胞がEthBrへの曝露後にそのミトコンドリアネットワークを維持できることを示す。
【
図16】ラパマイシンがミトコンドリアストレス後のヒト線維芽細胞の生存期間を延長させるという知見を示す棒グラフである。ヒト線維芽細胞を臭化エチジウムに7日間曝露し、その時点で細胞生存率を測定した。
【
図17】ラパマイシンが老化の原因となる遺伝子の発現を阻止するという知見を示す棒グラフである。p21遺伝子は、ヒト線維芽細胞の老化にとって重要なタンパク質を作る。ラパマイシンの存在下で増殖した細胞は、老化するにつれてp21を産生することはないが、対照細胞はp21を発現して老化状態に入る。
【
図18】炎症に関連する遺伝子の発現をラパマイシンが阻止するという知見を示す棒グラフである。IL-6遺伝子は、免疫系を活性化させて免疫細胞を組織損傷領域に動員するタンパク質を作る。ラパマイシンの存在下で増殖した細胞は、老化するにつれてIL-6を産生することはないが、対照細胞はIL-6を発現して老化状態に入る。
【
図19】ラパマイシンが萎縮性皮膚の真皮の厚みを増加させるという知見を示す棒グラフである。真皮の厚みは、乳化ゲル製剤中のラパマイシンで14日間処理した後に、0.001mmまでの認定精度を有するMitoutoyoデジタルキャリパーを用いて測定した。
【
図20】
図19と同様の乳化ゲル製剤中の10μMラパマイシンで21日間処理する前および処理した後の脂漏性角化症病変の写真である。目視検査によって、病変の重症度の顕著な減少が明白であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、一局面では、本発明の組成物および方法を用いて、加齢に関連した真皮障害、例えば、限定するものではないが、真皮萎縮、脂漏性角化症、光線性角化症、偽瘢痕、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワを治療または予防することができる、という予期せぬ発見に関する。特定の態様では、本発明の組成物および方法は、それを必要とする対象における真皮萎縮を治療または予防するのに有用である。他の態様では、本発明の組成物は、治療有効量の少なくとも1種のmTORC1阻害剤を含有する。さらに他の態様では、本発明の組成物は、mTORC1阻害剤を、加齢に関連した真皮障害に有効である唯一の成分として含有する。さらに他の態様では、mTORC1阻害剤はmTORC2阻害剤でもある。
【0020】
本発明の組成物および方法は、線維芽細胞の寿命を引き延ばし、かつ正常線維芽細胞の増殖およびストレス耐性を改善する。いかなる理論にも限定されることを望むものではないが、これは炎症性サイトカイン産生の低下と関連している可能性がある。特定の態様では、真皮層への治療有効量のmTORC1阻害剤の送達は、真皮の恒常性に影響を与える間葉系の応答を引き出す。他の態様では、真皮層への治療有効量のmTORC1阻害剤の送達は、真皮厚みの増加および皮膚機能の改善をもたらす。
【0021】
本明細書で実証されるように、ミトコンドリアROSはmTORC1のための新規な入力(input)であると同定された。蛍光インジケータとROSスカベンジャーの影響との両方に基づいて、本発明の結果は、ミトコンドリアで生成されたROSがmTORC1を活性化するように作用する、という知見を支持する(
図10)。これは、実験的設定で観察されるリボソームS6タンパク質とMDM2の両方のリン酸化の増加によって反映される。ラパマイシンによるmTORC1の阻害はこれらの応答を妨げ、ミトコンドリアを標的としたカタラーゼの発現またはROSスカベンジャーによる処理などの、ミトコンドリアROSの減少を目的とした介入と同様であった。ミトコンドリア活性の尺度としての酸素消費の分析は、NRTIに曝露された細胞ならびに複製老化(replicative senescence)状態にある細胞の両方の設定において、基礎呼吸とATP関連呼吸の増加を明らかにした。同様に、両方の設定では、プロトンリークおよびミトコンドリアROS生成が増加した。これらの知見は、ミトコンドリアROSの生成がmTORC1の活性化の引き金となることを示唆している。この解釈は、ミトコンドリアROSを減らすように設計された介入がリボソームS6タンパク質のリン酸化を減少させた、という事実によって裏付けられる。
【0022】
mTORC1/p70S6K活性のミトコンドリアROS誘導の下流の結果に関して、MDM2リン酸化は、p53の安定化およびp21などの下流標的の発現増加につながるようであった。これと一致して、p53とMDM2との結合の減少がNRTIに曝露した細胞における共免疫沈降および細胞質MDM2の増加によって示された。さらに、NRTIに曝露した細胞にはp53の高分子量形態の減少が観察されたのに対して、ラパマイシン処理細胞では、プロテアソームの阻害後にしか見られないp53のこれらの高分子量形態のレベルが上昇していた。p53に対するラパマイシンのこの効果は、ラパマイシン処理細胞におけるp21などのp53標的遺伝子の活性化の欠如の基礎となっている可能性があり、mTORC1シグナル伝達に影響を及ぼすのに十分であるが増殖を完全に阻止するには十分でない濃度のラパマイシンの存在下で細胞を培養した場合に観察される老化の遅延に貢献した。
【0023】
特定の局面において、本結果は、p70S6Kを介するmTORC1シグナル伝達がミトコンドリアによって生成されたROSに応答性であり得ることを示す。mTORC1/p70S6Kの活性化は、ミトコンドリア機能障害、複製老化の設定において、および老化組織において起こった。ラパマイシンは、ミトコンドリアROS生成を改善して、mTORC1/p70S6K応答を遮断する。ラパマイシンのこれらの効果は、ラパマイシン処理後に、寿命に関して観察され、かつ真皮萎縮のような加齢性障害において観察された、有益な効果を支持した。
【0024】
定義
本明細書で使用する場合、以下の用語の各々は、このセクションおいてその用語に関連した意味を有する。
【0025】
他に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、一般的に、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されているのと同じ意味を有する。ほとんどの場合、本明細書で使用する命名法、ならびに細胞培養、分子遺伝学および化学における実験手順は、当技術分野において周知であって、一般的に使用されているものである。
【0026】
本明細書で使用する冠詞(a, an)は、その冠詞の文法上の対象物の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指す。一例として、「要素(an element)」は1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0027】
本明細書で使用する用語「約」は、当業者によって理解され、それが使用される状況によってある程度変化するであろう。量、持続時間などの測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用する用語「約」は、特定の値からの±20%の変動、つまり±10%、±5%、±1%、もしくは±0.1%の変動を含むことを意味し、そのような変動は開示された方法を実施するのに妥当である。
【0028】
本明細書で使用する「皮膚科学的に許容される担体」または「皮膚科学的に許容される賦形剤」とは、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応などを伴わずに、ヒトケラチン組織と接触させて使用するのに適した組成物または成分を指す。
【0029】
「疾患」は、動物が恒常性を維持することができない動物の健康状態であり、こうした疾患が改善されないと、動物の健康は悪化し続ける。動物における「障害」は、動物が恒常性を維持することができる健康状態ではあるが、その動物の健康状態は、障害がないときと比べて、あまり良くない。未治療のまま放置しても、障害は動物の健康状態のさらなる低下を必ずしも引き起こさない。
【0030】
本明細書で使用する化合物の「有効量」または「治療有効量」または「薬学的有効量」という用語は、その化合物が投与される対象に有益な効果をもたらすのに十分な化合物の量を指すために交換可能に使用される。本明細書で使用する用語「治療する」は、患者もしくは対象が経験する症状の頻度を減らすこと、または薬剤もしくは化合物を投与して、経験する症状の重症度を軽減することを意味する。個々の場合の適切な治療量は、慣例的な実験を用いて当業者によって決定され得る。
【0031】
本明細書で使用する用語「FTC」は、エムトリシタビンまたはその塩もしくは溶媒和物を指す。
【0032】
本明細書で使用する「説明資料」には、出版物、記録、図表、または任意の他の表現手段が含まれ、これらは、対象の全身性免疫反応を抑制または低減するためのキットにおいて本発明の化合物、組成物、アッセイまたは方法の有用性を伝えるために使用することができる。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の同定された化合物、組成物、アッセイもしくは方法を含む容器に貼付されてもよいし、同定された化合物、組成物、アッセイもしくは方法を含む容器と一緒に出荷されてもよい。あるいは、レシピエントが説明資料と化合物、組成物、アッセイまたは方法を協力的に使用することを意図して、説明資料を容器とは別に出荷してもよい。
【0033】
本明細書で使用する用語「モジュレートする」は、本発明の化合物が本発明で意図される受容体に結合することに関連した病状または病態に関して、本発明による化合物の投与前には、最善に達していなかった、多くの場合には、衰弱性で、命を脅かすことさえあった病状または病態を、直接的または間接的に、改善または軽減することを意味する。モジュレーションは、(受容体部位に応じて)アゴニスト活性、アンタゴニスト活性、またはアゴニスト/アンタゴニスト混合活性によって起こり得る。
【0034】
本明細書で使用する用語「NRTI」は、ヌクレオチド系/ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を指す。
【0035】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される」は、組成物の生物学的活性または特性を無効にしない、比較的毒性のない、担体または希釈剤などの物質を指す;すなわち、その物質は、望ましくない生物学的作用を引き起こすことなく、またはそれが含まれる組成物のいずれの成分とも有害なやり方で相互作用することなく、個体に投与することができる。
【0036】
本明細書で使用する用語「薬学的組成物」または「組成物」は、本発明において有用な少なくとも1種の化合物と、他の化学成分、例えば担体、安定剤、希釈剤、分散化剤、懸濁化剤、増粘剤および/または賦形剤との混合物を指す。薬学的組成物は、該化合物の生物への投与を容易にする。当技術分野には、化合物を投与する技術が数多く存在しており、限定するものではないが、静脈内、経口、エアロゾル、非経口、眼内、肺、頭蓋内および局所投与などが含まれる。特定の態様では、投与は局所投与を含む。
【0037】
本明細書で使用する「対象」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物を指す。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよびネズミ科の動物などの、家畜およびペットが含まれる。特定の態様では、対象はヒトである。
【0038】
本明細書で使用する用語「TDF」は、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、またはその塩もしくは溶媒和物を指す。
【0039】
本明細書で使用する「局所投与」または「局所適用」は、皮膚または粘膜のような体表面に適用される投薬を指す。
【0040】
本明細書で使用する用語「治療」または「治療する」は、治療剤、すなわち本発明において有用な組成物(単独または別の薬剤との組み合わせ)を対象に適用または投与すること、あるいは疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害を発症する可能性を治す、癒す、緩和する、軽減する、改変する、救済する、改善する、向上させる、または影響を及ぼす目的で、疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害を発症する可能性を有する対象由来の単離された組織または細胞株に、(例えば、診断またはエクスビボ適用のために)治療剤を適用または投与すること、と定義される。そのような治療は、薬理ゲノム学の分野から得られた知識に基づいて、一人一人に合わせて特別に調整または修正することができる。
【0041】
本開示を通じて、本発明の様々な局面は範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は、単に便宜上のものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、全ての可能な部分範囲ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を具体的に開示したものと考えるべきである。このことは、範囲の広さにかかわらず当てはまる。
【0042】
組成物
本発明の組成物は、治療有効量のmTORC1阻害剤、またはその塩、溶媒和物、エナンチオマーもしくはジアステレオマーを含む。特定の態様では、mTORC1阻害剤は、BEZ235、ラパマイシン、エベロリムス、AZD8055、テムシロリムス、KU-0063794、PI-103、トルキニブ、タクロリムス、リダフォロリムス、INK-128、ボクスタリシブ、Torin-1、オミパリシブ、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ジェダトリシブ、AZD-2014、Torin-2、WYE-125132、BGT226、Palomid-529、PP121、WYE-687、CH5132799、Way-600、ETP-46464、GDC-0349、XL388、およびゾタロリムスからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0043】
BEZ235は、2-メチル-2-(4-(3-メチル-2-オキソ-8-(キノリン-3-イル)-2,3-ジヒドロイミダゾ[4,5-c]キノリン-1-イル)フェニル)プロパンニトリルとしても知られており、下記の式を有する。
【0044】
ラパマイシンは、(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)-9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34,34a-ヘキサデカヒドロ-9,27-ジヒドロキシ-3-[(1R)-2-[(1S,3R,4R)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]-1-メチルエチル]-10,21-ジメトキシ-6,8,12,14,20,26-ヘキサメチル-23,27-エポキシ-3H-ピリド[2,1-c][1,4-オキサアザシクロヘントリアコンチン-1,5,11,28,29(4H,6H,31H)-ペントンとしても知られており、下記の式を有する。
【0045】
エベロリムスは、ジヒドロキシ-12-[(2R)-1-[(1S,3R,4R)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メトキシシクロヘキシル]プロパン-2-イル]-19,30-ジメトキシ-15,17,21,23,29,35-ヘキサメチル-11,36-ジオキサ-4-アザトリシクロ[30.3.1.0]ヘキサトリアコンタ-16,24,26,28-テトラエン-2,3,10,14,20-ペントンとしても知られており、下記の式を有する。
【0046】
AZD8055は、5-(2,4-ビス(S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノールとしても知られており、下記の式を有する。
【0047】
テムシロリムスは、42-[3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロパノアート]-ラパマイシンとしても知られており、下記の式を有する。
【0048】
PI-103は、3-[4-(4-モルホリニル)ピリド[3',2':4,5]フロ[3,2-d]ピリミジン-2-イル]フェノールとしても知られており、下記の式を有する。
【0049】
KU-0063794は、(5-(2-((2R,6S)-2,6-ジメチルモルホリノ)-4-モルホリノピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メトキシフェニル)メタノールとしても知られており、下記の式を有する。
【0050】
トルキニブは、2-(4-アミノ-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-3-イル)-1H-インドール-5-オールとしても知られており、下記の式を有する。
【0051】
タクロリムスは、3S-[3R
*[E(1S
*,3S
*,4S
*)],4S
*,5R
*,8S
*,9E,12R
*,14R
*,15S
*,16R
*,18S
*,19S
*,26aR
*-5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a-ヘキサデカヒドロ-5,19-ジヒドロキシ-3-[2-(4-ヒドロキシ-3-メトキシシクロヘキシル]-1-メチルエテニル]-14,16-ジメトキシ-4,10,12,18-テトラメチル-8-(2-プロペニル)-15,19-エポキシ-3H-ピリド[2,1-c][1,4]オキサアザシクロトリコシン-1,7,20,21(4H,23H)-テトロンとしても知られており、下記の式を有する。
【0052】
リダフォロリムスは、42-(ジメチルホスフィネート)-ラパマイシンとしても知られており、下記の式を有する。
【0053】
INK-128は、3-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミンとしても知られており、下記の式を有する。
【0054】
ボクスタリシブは、N-[4-[[[3-[(3,5-ジメトキシフェニル)アミノ]-2-キノキサリニル]アミノ]スルホニル]フェニル]-3-メトキシ-4-メチル-ベンズアミドとしても知られており、下記の式を有する。
【0055】
Torin-1は、1-[4-[4-(1-オキソプロピル)-1-ピペラジニル]-3-(トリフルオロメチル)フェニル]-9-(3-キノリニル)-ベンゾ[h]-1,6-ナフチリジン-2(1H)-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0056】
オミパリシブは、2,4-ジフルオロ-N-(2-メトキシ-5-(4-ピリダジン-4-イル)キノリン-6-イル)ピリジン-3-イル)ベンゼンスルホンアミドとしても知られており、下記の式を有する。
【0057】
OSI-027は、(1r,4r)-4-(4-アミノ-5-(7-メトキシ-1H-インドール-2-イル)イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)シクロヘキサン-1-カルボン酸としても知られており、下記の式を有する。
【0058】
PF-04691502は、2-アミノ-8-((1r,4r)-4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)-6-(6-メトキシピリジン-3-イル)-4-メチルピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0059】
アピトリシブは、(S)-1-(4-((2-(2-アミノピリミジン-5-イル)-7-メチル-4-モルホリノチエノ[3,2-d]ピリミジン-6-イル)メチル)ピペラジン-1-イル)-2-ヒドロキシプロパン-1-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0060】
GSK1059615は、(Z)-5-((4-(ピリジン-4-イル)キノリン-6-イル)メチレン)チアゾリジン-2,4-ジオンとしても知られており、下記の式を有する。
【0061】
WYE-354は、4-[6-[4-[(メトキシカルボニル)アミノ]フェニル]-4-(4-モルホリニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピペリジンカルボン酸メチルエステルとしても知られており、下記の式を有する。
【0062】
ジェダトリシブは、1-(4-(4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-カルボニル)フェニル)-3-(4-(4,6-ジモルホリノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)ウレアとしても知られており、下記の式を有する。
【0063】
AZD-2014は、3-(2,4-ビス((S)-3-メチルモルホリノ)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-N-メチルベンズアミドとしても知られており、下記の式を有する。
【0064】
Torin-2は、9-(6-アミノ-3-ピリジニル)-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-ベンゾ[h]-1,6-ナフチリジン-2(1H)-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0065】
WYE-125132は、N-[4-[1-(1,4-ジオキサスピロ[4.5]デク-8-イル)-4-(8-オキサ-3-アザビシクロ[3.2.1]オクト-3-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-6-イル]フェニル]-N'-メチルウレアとしても知られており、下記の式を有する。
【0066】
BGT226は、8-(6-メトキシピリジン-3-イル)-3-メチル-1-(4-(ピペラジン-1-イル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-2(3H)-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0067】
Palomid-529は、3-(4-メトキシベンジルオキシ)-8-(1-ヒドロキシエチル)-2-メトキシ-6H-ベンゾ[c]クロメン-6-オンとしても知られており、下記の式を有する。
【0068】
PP121は、1-シクロペンチル-3-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-5-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミンとしても知られており、下記の式を有する。
【0069】
WYE-687は、4-(4-モルホリノ-1-(1-ピリジン-3-イルメチル)ピペリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-6-イル)フェニルカルバミン酸メチルとしても知られており、下記の式を有する。
【0070】
CH5132799は、5-(7-メチルスルホニル)-2-モルホリノ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)ピリミジン-2-アミンとしても知られており、下記の式を有する。
【0071】
WAY-600は、6-(1H-インドール-5-イル)-4-モルホリノ-1-(1-ピリジン-3-イルメチル)ピペリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンとしても知られており、下記の式を有する。
【0072】
ETP-46464は、α,α-ジメチル-4-[2-オキソ-9-(3-キノリニル)-2H-[1,3]オキサジノ[5,4-c]キノリン-1(4H)-イル]-ベンゼンアセトニトリルとしても知られており、下記の式を有する。
【0073】
GDC-0349は、N-エチル-N'-[4-[5,6,7,8-テトラヒドロ-4-[(3S)-3-メチル-4-モルホリニル]-7-(3-オキセタニル)ピリド[3,4-d]ピリミジン-2-イル]フェニル]-ウレアとしても知られており、下記の式を有する。
【0074】
XL388は、[7-(6-アミノ-3-ピリジニル)-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾオキサゼピン-4(5H)-イル][3-フルオロ-2-メチル-4-(メチルスルホニル)フェニル]-メタノンとしても知られており、下記の式を有する。
【0075】
ゾタロリムスは、42-デオキシ-42-(1H-テトラゾール-1-イル)-(42S)-ラパマイシンとしても知られており、下記の式を有する。
【0076】
特定の態様において、本発明で企図されるmTORC1阻害剤は、ラパマイシンである。他の態様では、mTORC1阻害剤は、特定の細胞内区画または細胞小器官、例えばミトコンドリア、核、リソソームおよび/または小胞体など、への送達が改善されているラパマイシンの修飾形態であり得る。
【0077】
特定の態様において、前記組成物中のmTORC1阻害剤の治療有効量は、約0.001~約1重量%の範囲である。他の態様では、該組成物中のmTORC1阻害剤の重量による治療有効量は、約0.002%~約0.75%、約0.005%~約0.5%、約0.008%~約0.25%、約0.01%~約0.2%、約0.02%~約0.15%、または約0.03%~約0.1%の範囲である。
【0078】
特定の態様において、本発明の組成物は、皮膚科学的に許容される担体をさらに含む。本発明の組成物は、約60%~約99.9%、あるいは約70%~約95%、あるいは約80%~約90%の皮膚科学的に許容される担体を含むことができる。特定の態様では、皮膚科学的に許容される担体は、少なくとも、溶媒、潤滑剤、皮膚軟化剤、乳化剤、保湿剤、増粘ワックス、柔軟剤、香料、防腐剤および人工着色料からなる群より選択される。他の態様では、皮膚科学的に許容される担体は、水、脂肪アルコール、および揮発性有機アルコールからなる群より選択される少なくとも1種である。皮膚科学的に許容される担体の1つの非限定的な例はペトロラタムである。
【0079】
方法
一局面において、本発明は、哺乳類の線維芽細胞の寿命を延ばす方法を提供する。別の局面では、本発明は、哺乳類の線維芽細胞における細胞組織化を保存する方法を提供する。さらに別の局面では、本発明は、哺乳類の線維芽細胞の老化を予防するまたは最小限に抑える方法を提供する。さらに別の局面では、本発明は、哺乳類対象における、真皮萎縮、偽瘢痕、脂漏性または光線性角化症、黒子、真皮肥厚の病巣領域、および粗いシワを含む、加齢性の真皮障害を治療または予防する方法を提供する。
【0080】
特定の態様において、本発明の方法は、対象に、治療有効量のmTORC1阻害剤を局所投与することを含み、任意で、mTORC1阻害剤は、皮膚に許容される組成物中に製剤化される。他の態様では、本発明の組成物は、治療有効量のmTORC1阻害剤を含む。さらに他の態様では、該組成物は、皮膚科学的に許容される担体をさらに含む。さらに他の態様では、該組成物は対象の皮膚の患部に局所適用される。
【0081】
特定の態様において、本発明において企図される組成物の局所製剤は、真皮萎縮の治療のために使用される。他の態様では、本発明は、真皮萎縮を治療または予防するための、治療有効量のラパマイシンを含む局所用クリーム剤を提供する。
【0082】
特定の態様において、真皮の萎縮は、真皮層の目盛付きデジタルキャリパー測定を利用して真皮層を測定することによって評価される。他の態様において、脂漏性角化症、黒子、偽瘢痕、粗いシワ、および表皮肥厚の改善は、検査者評価格付けスケール(Investigator evaluation rating scale)1~4により評価され、ここで、1は正常であって病変の徴候がない;2は軽度の病変を表す;3は正常な皮膚と比べて明確に区別される特徴の病変を表す;4は重症度が高い病変を表す。さらに他の態様では、病変は視覚的に、または米国立衛生研究所から入手可能なオープンソースの画像解析ソフトウェアであるImageJのような画像解析ソフトウェアを用いて、検査することができる。さらに他の態様では、病変は、病変の手動測定を用いた面積測定によって、または検査者もしくは調査研究スタッフが撮影した画像の解析によって評価される。
【0083】
製剤
本発明の薬学的組成物中の活性成分、皮膚科学的に許容される担体、および任意の追加の成分の相対量は、治療される対象の個性、サイズおよび状態に応じて変化する。一例として、該組成物は約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤を含み得る。他の態様では、該組成物中のmTORC1阻害剤の重量による治療有効量は、約0.002%~約0.75%、約0.005%~約0.5%、約0.008%~約0.25%、約0.01%~約0.2%、約0.02%~約0.15%、または約0.03%~約0.1%の範囲である。
【0084】
本明細書で提供される薬学的組成物の記載は、主にヒトへの医療向け投与(ethical administration)に適した薬学的組成物に向けられたものであるが、当業者であれば、このような組成物は一般に、あらゆる種類の動物への投与に適していることが理解されよう。種々の動物への投与に適した薬学的組成物を提供するために、ヒトへの投与に適した該組成物を改変することはよく理解されており、通常の知識を有する獣医薬理学者は、たとえ行うにしても、通常の実験を行うだけで、そのような改変を設計して実施することができる。本発明の薬学的組成物の投与が企図される対象には、限定するものではないが、ヒトおよび他の霊長類、哺乳類、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコおよびイヌなどの商業的に関係のある哺乳動物が含まれる。
【0085】
本発明の組成物は、哺乳類に1日数回の頻度で投与することができ、1日1回、週1回、2週間に1回、1ヶ月に1回などのより少ない頻度で、または数ヶ月に1回、1年に1回以下などのさらに少ない頻度で投与してもよい。
【0086】
本発明の組成物を投与するための投薬レジメンは、1日1回または1日2回であり得る。活性薬剤の適用頻度および濃度は、皮膚の状態および真皮の応答に依存する。真皮に対して所望の効果を達成するように適用を継続してもよいし、満足のいく結果が得られた後で適用頻度を減らしてもよい。特定の実施態様では、結果を達成するために投与を最低2週間続ける。継続的な改善を得るために最初の2週間を超えて適用を継続してもよく、その結果が達成されたら、適用頻度を減らすことができる。適用は、どんなときでも病変の相対的重症度に基づいて、様々なレベルの適用を数年間にわたって継続することができる。
【0087】
1日あたりに投与される本発明の組成物の量は、非限定的な例では、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、または5日おきに投与できると認識される。投与頻度は、当業者にはすぐに分かることであり、治療すべき疾患のタイプおよび重症度、動物のタイプおよび年齢などを含むがこれらに限定されない、様々な要因に依存するであろう。
【0088】
特定の態様において、本発明の組成物は、1種または複数種の皮膚科学的に許容される賦形剤または担体を用いて製剤化される。特定の態様では、本発明の薬学的組成物は、治療有効量のmTORC1阻害剤および皮膚科学的に許容される担体を含有する。有用な皮膚科学的に許容される担体には、限定するものではないが、グリセロール、水、生理食塩水、エタノールおよび他の皮膚科学的に許容される塩溶液、例えばリン酸塩および有機酸の塩、が含まれる。これらおよび他の皮膚科学的に許容される担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences (1991, Mack Publication Co., New Jersey)に記載されている。
【0089】
本発明の組成物は、約60%~約99.9%、あるいは約70%~約95%、あるいは約80%~約90%の皮膚科学的に許容される担体を含むことができる。特定の態様では、皮膚科学的に許容される担体は、少なくとも、溶媒、潤滑剤、皮膚軟化剤、乳化剤、保湿剤、増粘ワックス、柔軟剤、香料、防腐剤および人工着色料からなる群より選択される。他の態様では、皮膚科学的に許容される担体は、水、脂肪アルコール、および揮発性有機アルコールからなる群より選択される少なくとも1種である。皮膚科学的に許容される担体の1つの非限定的な例はペトロラタムである。
【0090】
前記担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することにより、分散液の場合には必要とされる粒子サイズを維持することにより、そして界面活性剤を使用することにより、維持することができる。微生物の活動防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウム、またはマンニトール、ソルビトールなどの多価アルコールを組成物中に含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチン、を組成物中に含めることによって達成され得る。
【0091】
製剤は、慣用の賦形剤、すなわち当技術分野で公知の、局所投与に適した薬学的に許容される有機または無機担体物質、との混合物で利用され得る。製剤は、滅菌され、所望により、補助剤、例えば潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧緩衝剤に影響を与える塩、着色剤、香味剤および/または芳香物質などと混合される。それらは、必要に応じて、他の活性薬剤、例えば他の鎮痛剤、と組み合わせることもできる。
【0092】
本明細書で使用する「追加の成分」には、限定するものではないが、以下の成分の1種以上が含まれる:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;顆粒化剤および崩壊剤;結合剤;潤滑剤;着色剤;防腐剤;生理学的に分解可能な組成物、例えばゼラチン;水性のビヒクルおよび溶媒;油性のビヒクルおよび溶媒;懸濁化剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤;粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;酸化防止剤;抗生物質;抗真菌剤;安定剤;および薬学的に許容される高分子材料または疎水性材料。本発明の薬学的組成物中に含めることができる他の「追加の成分」は、当技術分野で公知であり、例えば、Genaro編集 (1985, Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA)に記載されており、これを参照により本明細書に組み入れる。
【0093】
本発明の組成物は、組成物の総重量の約0.005%~2.0%の防腐剤を含むことができる。防腐剤は、環境中の汚染物質に曝された場合の腐敗を防止するために使用される。本発明に有用な防腐剤の例には、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン類、イミド尿素およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。特に好ましい防腐剤は、約0.5%~2.0%のベンジルアルコールと0.05%~0.5%のソルビン酸の組み合わせである。
【0094】
前記組成物は、好ましくは、酸化防止剤およびキレート化剤を含む。いくつかの化合物のための好ましい酸化防止剤は、組成物の総重量の約0.01%~0.3%の好ましい範囲のBHT、BHA、α-トコフェロールおよびアスコルビン酸であり、より好ましくは0.03%~0.1%の範囲のBHTである。好ましくは、キレート化剤は、組成物の総重量の0.01%~0.5%の量で存在する。特に好ましいキレート化剤には、組成物の総重量の約0.01%~0.20%の重量範囲、より好ましくは0.02%~0.10%の範囲のアミノポリカルボン酸塩(例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)およびクエン酸が含まれる。キレート化剤は、製剤の貯蔵寿命に有害であり得る組成物中の金属イオンをキレート化するのに有用である。
【0095】
局所投与
医薬品の局所投与に対する障害物は、表皮の角質層である。角質層は、タンパク質、コレステロール、スフィンゴ脂質、遊離脂肪酸および種々の他の脂質から構成される高度に抵抗性の層であり、角化細胞と生存細胞を含む。角質層を通る化合物の浸透速度(フラックス)を制限する要因の1つは、皮膚表面に負荷または適用することができる活性物質の量である。皮膚の単位面積あたりに適用される活性物質の量が多いほど、皮膚表面と皮膚の下層との間の濃度勾配が大きくなり、ひいては皮膚を通る活性物質の拡散力が大きくなる。したがって、より高濃度の活性物質を含有する製剤は、より低濃度の活性物質を含有し、他の全てのものが等しい製剤と比較して、より一貫した速度での、より多くの活性物質の皮膚への浸透をもたらす可能性が高い。
【0096】
局所投与に適した製剤には、限定するものではないが、液体または半液体製剤、例えば、リニメント剤、ローション剤、水中油型または油中水型エマルジョン、例えばクリーム剤、軟膏剤もしくはペースト剤、および溶液剤または懸濁液剤が含まれる。こうした製剤は、皮膚に直接適用されるか、またはスワブ、アプリケータ、スパチュラなどを利用して、あるいは経皮パッチの形態で適用され得る。特定の態様では、該パッチは、皮膚の洗浄、摩擦、引っ掻きおよび/または擦れによる医薬品の損失を最小限に抑える。他の態様では、該パッチは、皮膚からの医薬品の吸収を高めると同時に、医薬品への皮膚の曝露を最小限に抑える。
【0097】
本発明において企図される局所投与可能な製剤は、例えば、約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤を含むことができるが、mTORC1阻害剤の濃度は、溶媒中の該活性成分の溶解限度まで高くてもよい。局所投与用の製剤は、本明細書に記載される追加の成分を1種以上さらに含み得る。
【0098】
浸透促進剤を使用することができる。これらの物質は、皮膚を通しての薬物透過の速度を増加させる。当技術分野における典型的な促進剤には、エタノール、グリセロールモノラウレート、PGML(ポリエチレングリコールモノラウレート)、ジメチルスルホキシドなどが含まれる。その他の促進剤には、オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、またはN-メチル-2-ピロリドンが含まれる。
【0099】
本発明の組成物のいくつかの局所送達用の1つの許容されるビヒクルは、リポソームを含むことができる。リポソームの組成およびその使用は、当技術分野で公知である(例えば、米国特許第6,323,219号)。
【0100】
別の態様では、局所製剤は、他の成分、例えば、アジュバント、酸化防止剤、キレート化剤、界面活性剤、発泡剤、湿潤剤、乳化剤、増粘剤、緩衝剤、防腐剤などをさらに含む。他の態様では、浸透促進剤または透過促進剤が製剤中に加えられ、これらは、浸透促進剤を含まない組成物に関して、活性成分の角質層中への、さらには角質層を通しての、経皮的浸透を改善するのに有効である。オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、またはN-メチル-2-ピロリドンを含む、種々の浸透促進剤が当業者に公知である。別の局面では、局所製剤はハイドロトロピー剤をさらに含むことができ、それは角質層の構造の不規則性を増大させるように機能し、それによって角質層を通しての輸送の増加を可能にする。イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、またはキシレンスルホン酸ナトリウムなどの様々なハイドロトロピー剤が当業者に知られている。
【0101】
局所製剤中のさらなる非活性成分は、当技術分野において周知である。こうした成分には、限定するものではないが、保湿剤、皮膚軟化剤、pH安定剤、キレート化剤、ゲル化剤、増粘剤、乳化剤、結合剤、緩衝剤、担体、酸化防止剤などが含まれる。このような成分のさらなる例は、オンラインで利用可能な、米国食品医薬品局(U.S. Food & Drug Administration)のInactive Ingredients for Approved Drugs(承認された薬物のための不活性成分)に含まれている。さらなる考察、ならびに製剤に加えることが可能な非活性成分は、「The Science and Practice of Pharmacy」第21版, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa. (2006)に見出すことができる。
【0102】
特定の態様において、本発明のゲル製剤は、約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤、約20~50%(w/w)のジメチルスルホキシド(DMSO)、約10~20%(w/w)のポリプロピレングリコール、約10~40%(w/w)の分子量100~800のポリエチレングリコール(PEG100~PEG800)、約1~2%(w/w)のゲル化剤、および約0~50%の水を含む。
【0103】
他の態様において、本発明のゲル製剤は、約0.001%~約1%(w/w)のラパマイシン、約20~50%(w/w)のジメチルスルホキシド(DMSO)、約10~20%(w/w)のポリプロピレングリコール、約10~40%(w/w)の分子量100~800のポリエチレングリコール(PEG100~PEG800)、約1~2%(w/w)のゲル化剤、および約0~50%の水を含む。
【0104】
さらに他の態様において、本発明の溶液またはスプレー製剤は、約10~50%(w/w)のDMSOと約10~50%(w/w)のPEGを含有する水溶液中の約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤を含む。
【0105】
さらに他の態様において、本発明の溶液またはスプレー製剤は、約10~50%(w/w)のDMSOと約10~50%(w/w)のPEGを含有する水溶液中の約0.001%~約1%(w/w)のラパマイシンを含む。
【0106】
さらに他の態様において、本発明のクリームまたはローション製剤は、約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤、鉱油、任意のタイプのアルコール、Triton X-100などの非イオン性界面活性剤、乳化ワックス、グリセロールモノステアレート(GMS)、イソプロピルミリステート(IPM)、および約60~80%の水を含む。
【0107】
さらに他の態様において、本発明のクリームまたはローション製剤は、約0.001%~約1%(w/w)のラパマイシン、鉱油、任意のタイプのアルコール、Triton X-100などの非イオン性界面活性剤、乳化ワックス、グリセロールモノステアレート(GMS)、イソプロピルミリステート(IPM)、および約60~80%の水を含む。
【0108】
さらに他の態様において、本発明の軟膏製剤は、約10~50%(w/w)のDMSOと約10~50%(w/w)のPEGを含有する水溶液中の約0.001%~約1%(w/w)のmTORC1阻害剤、および約1~60%(w/w)のペトロラタムを含む。
【0109】
さらに他の態様において、本発明の軟膏製剤は、約10~50%(w/w)のDMSOと約10~50%(w/w)のPEGを含有する水溶液中の約0.001%~約1%(w/w)のラパマイシン、および約1~60%(w/w)のペトロラタムを含む。
【0110】
制御放出製剤および薬物送達システム
本発明の薬学的組成物の制御放出または持続放出製剤は、従来の技術を用いて製造することができる。いくつかの場合には、使用される剤形は、その剤形中の1種以上の活性成分の徐放または制御放出として提供され、例えば、ヒドロプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、浸透圧系、多層コーティング、微粒子、リポソーム、ミクロスフェア、またはそれらの組み合わせを用いて、様々な割合で所望の放出特性をもたらすことができる。当業者に知られている適切な制御放出製剤は、本明細書に記載のものを含めて、本発明の薬学的組成物と共に使用するために容易に選択することができる。したがって、局所投与に適した単一ユニット剤形、例えば、制御放出に適しているリニメント剤、ローション剤、水中油型または油中水型エマルジョン、例えばクリーム剤、軟膏剤もしくはペースト剤、経皮パッチ剤、および溶液剤または懸濁液剤は、本発明に包含される。
【0111】
ほとんどの制御放出型の医薬品は、その非制御型の対応品によって達成されるものを超えて薬物療法を改善するという共通の目的を持っている。理想的には、最適に設計された制御放出製剤の医療における使用は、最小限の原薬を使用して最小限の時間で症状を治癒または抑制することにより特徴付けられる。制御放出製剤の利点としては、薬物の長期活性、投与頻度の減少、および患者のコンプライアンスの向上が挙げられる。さらに、制御放出製剤を用いて、作用開始時間または他の特性、例えば薬物の血中濃度、に影響を与えることができ、それゆえに、制御放出製剤は副作用の発生に対して影響を及ぼし得る。
【0112】
大部分の制御放出製剤は、所望の治療効果を速やかに生じさせる量の薬物を最初に放出し、このレベルの治療効果を長期間にわたって維持するために他の量の薬物を徐々に連続的に放出するように設計される。この一定レベルの薬物を体内に維持するためには、代謝されて体内から排出される薬物の量に取って代わる速度で、薬物を剤形から放出させる必要がある。
【0113】
活性成分の制御放出は、様々な誘導因子、例えばpH、温度、酵素、水、または他の生理学的条件もしくは化合物によって刺激され得る。本発明との関連で用語「制御放出成分」とは、本明細書では、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、リポソーム、ミクロスフェアまたはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、活性成分の制御放出を容易にする1種または複数種の化合物として定義される。
【0114】
特定の態様において、本発明の製剤は、限定するものではないが、短期型、急速消失(rapid-offset)型、ならびに制御型、例えば持続放出型、遅延放出型およびパルス放出型の製剤であり得る。
【0115】
持続放出という用語は、その従来の意味において、長期間にわたって徐々に薬物を放出して、必ずではないが、長期間にわたって実質的に一定の血中薬物濃度をもたらし得る製剤を指すために使用される。その期間は、1ヶ月以上もの長さとすることができ、同量の薬剤がボーラス形態で投与される場合よりも長い放出となる。
【0116】
持続放出の場合には、化合物に持続放出特性を与える適切なポリマーまたは疎水性材料を用いて、化合物を製剤化することができる。
【0117】
本発明の特定の態様では、本発明の組成物は、患者に、単独でまたは別の薬剤と組み合わせて、持続放出製剤を用いて投与される。
【0118】
本明細書で使用する遅延放出という用語は、その従来の意味において、薬物投与後に多少遅れて薬物の初期放出をもたらし、必ずではないが、約10分から約12時間までの遅れを含むことができる製剤を指す。
【0119】
本明細書で使用するパルス放出という用語は、その従来の意味において、薬物投与後に薬物のパルス状の血漿プロファイルを生じるような方法で薬物の放出をもたらす製剤を指す。
【0120】
本明細書で使用する即時放出という用語は、その従来の意味において、薬物投与の直後に薬物の放出をもたらす製剤を指す。
【0121】
本明細書で使用する短期型とは、薬物投与後の約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分を含めその時間までの任意の期間と、そのあらゆる全体的または部分的増分を指す。
【0122】
本明細書で使用する急速消失型とは、薬物投与後の約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分を含めその時間までの任意の期間と、そのあらゆる全体的または部分的増分を指す。
【0123】
当業者は、本明細書に記載された特定の手順、態様、特許請求の範囲および実施例に対する多数の均等物を認識しているか、または定型的な実験のみを用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲内であり、添付の特許請求の範囲によって包含されるとみなされる。例えば、反応時間、反応のサイズ/容積、および実験試薬を含むがこれらに限定されない反応条件、例えば、溶媒、触媒、圧力、大気条件(例:窒素雰囲気)、および還元剤/酸化剤を、当技術分野で認識されている代替物を用いて、定型的な実験のみを使用して、変更することは、本出願の範囲内にあることを理解すべきである。
【0124】
本明細書において値および範囲が提供される場合はいつでも、これらの値および範囲に包含される全ての値および範囲は、本発明の範囲内に含まれることを理解すべきである。さらに、これらの範囲内に入る全ての値、ならびに値の範囲の上限または下限も本出願により意図される。
【0125】
以下の実施例は、本発明の局面をさらに説明するものである。しかし、それらは本明細書に記載される本発明の教示または開示を決して限定するものではない。
【実施例】
【0126】
本発明は、以下の実施例を参照して説明される。これらの実施例は説明のためにのみ提供されており、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、むしろ本明細書で提供される教示の結果として明らかな全ての変形を包含する。
【0127】
材料および方法
特に明記しない限り、全ての細胞株、出発材料、試薬および細胞株は、商業的供給業者から入手し、さらなる操作なしで使用した。
【0128】
細胞培養および細胞培養試薬
NRTIを利用した細胞培養実験は、以下の設計の下に実施した。ヒト肺または心臓線維芽細胞の培養物を、これらの細胞の標準的な培養プロトコルに従って培養した(Cristofalo, et al., Journal of Tissue Culture Methods 1980, 6:117-121)。並列セットの培養物を、標準増殖培地または1nMのラパマイシンを添加した標準増殖培地中に維持した。NRTIへの曝露前に2週間、培養物を1nMのラパマイシン(Enzo Biologicals社)で維持した。細胞培養物を、個々の実験で示された濃度(一般的には10~20μg/ml)のNRTIに7日間曝露し、4日目に新鮮なNRTIおよび培地に変えた。ミトコンドリア測定、バイオアナライザ測定、タンパク質発現とリン酸化状態についてのイムノブロッティング、および老化についてのアッセイは、この7日間の最後に実施した。
【0129】
細胞培養試薬は、指示がない限り、Cellgro社から入手した。WI-38胎児肺初代ヒト線維芽細胞またはヒト心臓線維芽細胞を、10%ウシ胎仔血清、1%L-グルタミン、MEMビタミン、およびMEM非必須アミノ酸を補充したMEM中で増殖させた。細胞を5%CO2インキュベータ内に37℃で維持した。処理研究のために、NRTI処理前に細胞を1nMのラパマイシン(Enzo Biologicals社)で2週間処理した。細胞をトリプシン処理して、7日~10日ごとに1×104個/cm2の細胞密度で再播種することによって維持した。エムトリシタビン(FTC)およびテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)は、NIH AIDS Research & Reference Reagentプログラムによって親切にも提供された。NRTIへの7日間の曝露の間に、薬理学的阻害剤PD98059 (10μM、Santa Cruz Biotechnologies社)、BI-D1870、GW5074、およびSB203580 (10μM、Enzo Biologicals社)を、実験に応じて最後の48時間または最後の2時間にわたり培地に添加した。NRTIへの7日間の曝露の間、トロロックス(500μM)およびN-アセチルシステイン(100μM、Acros Organics社)を1日おきに添加した。Mito-Q (20nM)およびTPP (20nM)は、ペンシルバニア大学獣医学部のBrett Kaufmann博士から親切にも提供された。ベクターおよびmt-カタラーゼアデノウイルス(MOI 25、50および75)は、アイオワ大学のGene Transfer Vector Coreから購入した。
【0130】
ウェスタンブロッティングおよび共免疫沈降
細胞タンパク質抽出物は、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich社)、ホスファターゼ阻害剤、NaFおよびオルトバナジン酸ナトリウムを含有する放射免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液で抽出することによって調製した。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce Biotechnology社)を用いてタンパク質濃度を定量した。ウェスタンブロット分析は、15~30μgのタンパク質抽出物を用いて、SDS-PAGE上で泳動し、ニトロセルロース(Biorad社)膜上に移行させて行った。ブロットを、メーカーの指示に従って、以下の物質に特異的な抗体とインキュベートした:β-アクチン(Sigma-Aldrich社)、TFAm、パーキン、p16、ホスホ(S82)HSP27、HSP27 (Santa Cruz Biotechnologies社)、p53、p21、カタラーゼ、MDM2 (EMD Millipore社)、VDAC、ホスホ(S235/236)-リボソームタンパク質S6、リボソームタンパク質S6、ホスホ(S166)-MDM2、ホスホ(S473)-AKT、AKT、β-チューブリン(Cell Signaling社)、p62 (Enzo Biologicals社)、IL-6 (NeoBiolab社)、ラミンB1、PINK1、およびMitoprofile Total OXPHOS Cocktail (複合体I-NDUFB8サブユニット、CII-SDHBサブユニット、CIII-UQCRC2サブユニット、およびCIV-ミトコンドリアCOX1サブユニット)(Abcam社)。ウェスタンブロットは、LI-COR OdysseyでLI-COR Odysseyソフトウェアバージョン3.0 (LI-COR Biosciences社)を使用して、IRDye 680および800 LI-COR二次抗体により可視化した。共免疫沈降のために、細胞タンパク質抽出物を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有するHNTG緩衝液中に調製し、BCAアッセイを用いて定量した。0.5mgの濃度のタンパク質抽出物をプロテインA/Gビーズ(Santa Cruz Biologicals社)で30分間予め清澄化した。2,000rpm、4℃で5分間遠心分離した後、上清をメーカー推奨濃度の一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。IgG抗体(Cell Signaling社)を非特異的対照として用いた。免疫複合体を100μlのプロテインA/Gビーズを用いて4℃で一晩沈降させた。ビーズに結合した免疫複合体を2000rpm、4℃で5分間遠心分離し、HNTG緩衝液を用いて3回洗浄した。2Xサンプル緩衝液を添加し、100℃で沸騰させた後、タンパク質サンプルをウェスタンブロッティングに使用した。
【0131】
総ROS、ミトコンドリア膜電位、ミトコンドリア質量、およびスーパーオキシドアニオンの評価
ミトコンドリア膜電位は、細胞を25nM TMRE (Molecular Probes社)とインキュベートすることによって検出した。ミトコンドリア質量は、細胞を100nMのMitotracker Green FM (Molecular Probes社)とインキュベートすることによって評価した。ミトコンドリアのスーパーオキシドアニオンレベルは、細胞を5μMのMitoSox Red (Molecular Probes社)とインキュベートすることによって検出した。ROSの総細胞レベルは、細胞を1%ウシ胎仔血清補充MEM中で10μMの2',7'-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCF-DA; Sigma-Aldrich社)とインキュベートし、インキュベーション期間後にクレブス・リンゲルリン酸グルコース緩衝液(145mM NaCl, 5.7mM NaH2P04, 4.86mM KCl, 0.54mM CaCl2, 1.22mM MgS04および5.5mMグルコース)で2回洗浄して検出した。上記の評価のために、インキュベーションを5%CO2中37℃で30分間行い、血清含有培地を用いて2.5%トリプシン-EDTA中に細胞を採取した。細胞は、Guava Express Plusプログラム(Guava Technologies社)を利用したGuava EasyCyte Miniを用いて、直ちに分析した。
【0132】
ミトコンドリア呼吸測定
ミトコンドリアの機能は、Seahorse XF24バイオアナライザ(Seahorse Bioscience社)でXF細胞ミトストレス試験キットを用いて測定した。細胞を、XF24マイクロプレートにウェルあたり15,000個の密度で播種した。取得後、該当する場合は、Guava EasyCyte Mini (Millipore社)を用いて計数した106個の細胞に基づいて、結果を正規化した。オリゴマイシン、カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)、およびロテノン/アンチマイシンAを含有するセンサーカートリッジが最初から組み込まれている該バイオアナライザにプレートを入れた。オリゴマイシン、FCCP、およびロテノン/アンチマイシンAの逐次添加の前と後に、酸素消費を3つ組で測定した。呼吸速度およびプロトンリークは、公表された方法(Hill, et al., Biological chemistry 2012, 393: 1485-1512)に概説される通りに評価した。ミトコンドリア呼吸は、少なくとも4つ組で播種した細胞からの酸素消費速度の3つ組での測定値に基づいて算出した。基礎呼吸は初期の酸素消費速度測定値を表し、最大呼吸はFCCP添加後の酸素消費速度測定値を表す。ATP関連呼吸は、基礎酸素消費速度に対するオリゴマイシン感受性酸素変化として表される。プロトンリークは、オリゴマイシン非感受性酸素消費速度を表す。ロテノン/アンチマイシンA非感受性酸素消費速度測定値に対して正規化することにより、酸素消費の非ミトコンドリア源を差し引いた。全てのデータは、ミトコンドリア評価の完了時に各ウェルの細胞を計数することにより、細胞数に対して正規化した。
【0133】
老化関連β-ガラクトシダーゼ検出
SA-β-gal活性の評価は、高密度培養で起こることが知られている偽陽性染色を防ぐために、低密度(0.5×104/cm2)でそれぞれの処理後に細胞のプレーティングを行って実施した。NRTIで1週間処理した後にSA-β-gal染色のために播種を行い、播種の24時間後に染色を行った。細胞をPBSで洗浄し、2%ホルムアルデヒド-0.2%グルタルアルデヒドで室温にて5分間固定し、PBSでもう1回洗浄して、50mg/ml X-gal、100mMフェリシアン化カリウム、100mMフェロシアン化カリウム、5M NaCl、1M MgCl2、および0.2Mクエン酸/リン酸緩衝液(pH6.0)を含有する染色溶液中で37℃にて一晩インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄し、少なくとも500個の細胞を各サンプルについて3つ組でカウントした。陽性細胞(青色細胞)を総細胞数に占める割合として表した。
【0134】
免疫蛍光
細胞を、指定された処理の後、酸洗浄したカバースリップ上に標準密度で播種した。24時間後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton-PBSを用いて透過処理し、適切な動物血清でブロックした。ミトコンドリアを視覚化するためにシトクロムC抗体(EMD Millipore社)を用いて免疫蛍光を行い、FRAP抗体(Santa Cruz社)で共染色した。ミトコンドリアはまた、ミトコンドリアタグ付けされたGFP (mitochondrialtagged GFP)のレンチウイルス形質導入(Vector Core、ピッツバーグ大学)を用いて視覚化し、ピューロマイシンを用いて選択した。適切な実験的処理に続いて、Raptor抗体(Bethyl Laboratories社)を用いてミトコンドリア発現細胞で免疫蛍光を行った。一次抗体インキュベーション後、Alexa-Flour二次抗体(LICOR Biosciences社)および核染色剤としてのDAPI (10ng/ml)を用いて染色を行い、VectaShield封入剤(Fisher Scientific社)で保存した。細胞は、共局在化事象の定量のために、デコンボリューションまたは共焦点顕微鏡法を用いて画像化した。
【0135】
統計分析
結果は少なくとも3つの独立した実験を代表しており、対応のない両側スチューデントt検定を用いて統計的有意性を判定した。データの正規分布を検証するために、データセットを正規性検定にかけた。Bonferroni post-hoc分析を用いた一元配置分散分析は、必要に応じて、対照、NRTI、ラパマイシン、およびラパマイシンNRTIを含む多重比較群で実施した。
【0136】
製剤
本発明の例示的かつ非限定的なエマルジョン製剤(以下、「製剤R」と呼ぶ)は、約0.001%~約1%(w/w)のラパマイシン、約4~6%のパルミテート、約6~8%のグリセリン、および残部の水を含む。
【0137】
患者への投与
本発明の組成物を投与するために、真皮萎縮、脂漏性角化症、光線性角化症、黒子、老人性偽瘢痕、または粗いシワの診断がついた来院患者を選択した。真皮の厚みは、0.001mmまでの認定精度を有するMitoutoyoデジタルキャリパーを用いて測定した。病変(光線性角化症、偽瘢痕、粗いシワ)は、重症度についての検査者評価格付けスケールを利用して評価した。最初の2週間1日1~2回投与に関する指示と共に、製剤Rを患者に提供した。適用領域に有害反応の兆候があった場合には、製剤Rの適用を中止するように患者に忠告した。2週間の適用期間の後、真皮の厚みおよび病変の重症度を週1回の頻度で検査した。
【0138】
実施例1:ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体のミトコンドリア作用はラパマイシンによって緩和される
TDFとFTC(単純化のためにNRTIと呼ぶ)による併用療法の影響を、抗レトロウィルス療法を受けている患者での血清レベルに関係した濃度で、ヒト心臓線維芽細胞とヒト肺線維芽細胞の両方におけるミトコンドリアについて調べた。並列培養物を、1nMのラパマイシンのさらなる存在下で増殖させた。ラパマイシンのこの濃度は、ヒト線維芽細胞の複製寿命を延ばし、かつミトコンドリアのプロファイルを改善することが判明した。NRTIへの7日間の曝露は、ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリア膜電位、ミトコンドリアROS生成、およびミトコンドリア質量の有意な増加をもたらした(
図1A~1C)。同様の結果がヒト肺線維芽細胞でも観察された。さらに、総細胞ROSは、両方の線維芽細胞集団においてNRTIへの曝露後に有意に増加した(
図1D)。ラパマイシンの存在下で増殖させた培養物は、NRTIへの曝露後に、ミトコンドリア膜電位、ミトコンドリアROS、または総細胞ROSの同レベルの増加を示さなかった。
【0139】
ミトコンドリア活性の間接的評価は、標準培地に維持した培養物またはラパマイシンの存在下に維持した培養物を用いて、Seahorse Bioanalyzerにより実施した。計測された基礎呼吸、最大呼吸、ATP関連呼吸、およびプロトンリークの速度は、ヒト心臓線維芽細胞をNRTIに曝露したときに有意に増加した(
図1E~1I)。ラパマイシン処理細胞は、有意に低い基礎呼吸を有し、NRTIに曝露した場合に基礎呼吸または最大呼吸の増加を示さなかった(
図1F~1G)。ATP関連呼吸は、NRTI曝露によって増加し、ラパマイシン処理培養物で減少した(
図1H)。さらに、ラパマイシン処理細胞は、NRTIへの曝露後にプロトンリークの増加を示さなかった(
図1I)。ヒト肺線維芽細胞は、同じ分析にかけたとき、同様の結果を与えた(すなわち、NRTIで処理した細胞では、基礎呼吸と最大呼吸が有意に増加し、プロトンリークも同様であった)。心臓線維芽細胞と同様に、ラパマイシンで処理した肺線維芽細胞は、NRTIへの曝露後にこれらのパラメータの増加を示さなかった。
【0140】
実施例2:ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体およびラパマイシンに応答する電子伝達系成分の変化
電子伝達系タンパク質のサブセットの定常状態レベルに対するNRTI曝露の影響を調べた。複合体IのNADHデヒドロゲナーゼ(ユビキノン)1βサブ複合体8 (NDUFB8)、複合体IIのコハク酸デヒドロゲナーゼ(ユビキノン)鉄硫黄サブユニット(SDHB)、複合体IIIのユビキノール-シトクロムcレダクターゼコアタンパク質II (UQCRC2)、および複合体IVのシトクロムcオキシダーゼサブユニットI (mt-CO1)のレベルは全て、NRTIへの曝露後に増加した(
図2A)。同様に、外膜電位依存性チャネル(VDAC)の定常状態レベルはNRTIに曝露した細胞において増加したのに対して、ATPシンターゼαサブユニット1 (ATP5A)の定常状態レベルは変化しなかった(
図2A)。
【0141】
ラパマイシンで処理した細胞は、NDUFB8、SDHB、UQCRC2、およびmt-CO1のより低い定常状態レベルを発現したが、ATP5Aのレベルは対照細胞と同様であった。さらに、ETCタンパク質レベルは、ラパマイシン処理細胞をNRTIに曝露したときに上昇しなかった(
図2A)。
【0142】
ミトコンドリアクリアランスに関与するタンパク質Pink1およびパーキンのレベルも調べた(
図2B)。NRTIへの曝露は、Pink1およびPink1の切断型の増加、ならびにパーキンの減少を引き起こした。オートファジーカーゴローディングタンパク質(autophagy cargo loading protein)p62/SQSTM1のレベルは、NRTIに応答して増加したが、ラパマイシンに応答して減少した(
図2C)。
【0143】
ミトコンドリア関連遺伝子発現の差異は、ナノストリング法を用いて調べたが、このナノストリング法は、増幅の非存在下でmRNA種の多重評価を可能にし、かつmRNA分子の直接計数を提供する。全てのサブユニットのmRNAレベルがNRTIに曝露した細胞において増加した一方で、ラパマイシンは全てのサブユニットのmRNAレベルを減少させ(
図2D~2H)、mRNAレベルはタンパク質レベルで観察された変化に類似していた。
【0144】
実施例3:ミトコンドリア機能障害に対する老化反応およびラパマイシンによる保護
老化プログラムの分子マーカーをNRTIへの曝露後に調べた(
図3A~3F)。p53、p21およびp16のレベルはNRTIに曝露した線維芽細胞において増加したが、ラパマイシン処理細胞では、これらの老化関連タンパク質のレベルは増加しなかった(
図3A)。さらに、老化に伴って減少することが知られているラミンB1のレベルは、NRTIに曝露した細胞において低下した。ラパマイシンはこの低下を防止した(
図3A)。さらに、老化関連分泌プログラムの成分であるIL-6の細胞内レベルは、NRTIへの曝露後に上昇した。老化プログラムの阻止と一致して、ラパマイシン処理細胞は、NRTIへの曝露後のIL-6のレベル上昇を示さなかった(
図3A)。NRTIに曝露した後、老化マーカーである老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)を発現する細胞集団の割合を調べた。SA-β-galを発現する心臓線維芽細胞の割合の用量依存的増加が観察された(対照細胞では9%であったのに対して、10または20μg/mlのNRTIに曝露した細胞では、それぞれ28%および48%であった;
図3B)。対照的に、ラパマイシン処理培養物はSA-β-galの増加を示さなかった(
図3B)。ナノストリングによるp21およびラミンB1のmRNAレベルの解析は、定常状態mRNAレベルがタンパク質レベルと並行して変化することを明らかにし、NRTIに応答してp21 mRNAは有意に増加したが、ラミンB1 mRNAレベルは有意に減少した(
図3C~3D);これは、複製老化の過程でのp21およびラミンB1の発現への影響と似ていた(
図3E~3F)。
【0145】
肺線維芽細胞は、老化マーカーの点でNRTIに応答して同じ変化を示し、ラパマイシン処理によって保護がもたらされた。試験したいずれの条件下でも、生体染色色素排除アッセイで判定したとき、NRTIに曝露した細胞の生存能力の低下は認められず、カスパーゼ切断のようなアポトーシスの明らかなマーカーも存在しなかった。アルカリコメットアッセイは、DNA損傷が増えたという証拠を示さず、NRTIに対する応答が主に増殖阻害であって、DNA損傷によるものではないことを示している。p53とその重要な調節因子であるMDM2との相互作用についても、NRTI曝露後に調べた。NRTIへの曝露は、p53とMDM2との会合を低下させ、セリン166でのMDM2リン酸化を増加させた。さらに、プロテアソーム阻害剤の使用により、p53の高分子量形態が明らかにされたが、こうした形態はラパマイシン処理培養物で顕著であったものの、NRTI曝露後には減少した。
【0146】
NRTI誘導性の老化反応におけるミトコンドリアROSの役割を調べるために、対照培養物(ラパマイシンなしで増殖させた)を、ミトコンドリアROSを標的とするROSスカベンジャーmito-Qで処理するか、またはミトコンドリア標的カタラーゼ(mt-カタラーゼ)を心臓線維芽細胞に導入した。mito-Qは、NRTIへの曝露後のミトコンドリアROS生成と、老化関連タンパク質p53、p21およびp16の増加を、両方とも改善した(
図4A)。さらに、SA-β-gal染色に対して陽性である細胞の割合は、mito-Qで処理した細胞において減少した(
図4B)。細胞にmt-カタラーゼ構築物を感染させた場合にも同様の結果が得られた。NRTI曝露後の老化関連タンパク質p16およびp21の増加が防止され、かつSA-β-galに対して陽性に染色された細胞の割合が有意に減少した(
図4C~4D)。NRTIに曝露した細胞を酸化防止剤トロロックスとN-アセチルシステインとの組み合わせ(トロロックス/NAC)で処理することによっても、老化の誘導が防止された。SA-β-galの発現、p16およびp21のレベルを含む、老化のマーカーが減少した一方で、老化プログラムの阻害と一致して、ラミンB1のレベルは維持された(
図4E~4F)。
【0147】
実施例4:老化におけるmTORC1/p70S6Kシグナル伝達の活性化
p70S6Kによって媒介されるMDM2リン酸化はNRTIに対する細胞応答の構成要素である、という可能性について検討した。NRTIへの曝露は、p70S6K活性(リボソームS6タンパク質のリン酸化状態を調べることによる)とMDM2のリン酸化状態の両方を増加させることがまず確認された。リボソームS6タンパク質とMDM2の両方のリン酸化は、NRTIへの曝露後の心臓線維芽細胞において増加した(
図5A)。老化の阻害と一致して、ラパマイシン処理培養物は、リボソームS6リン酸化の完全な欠如を示し、かつMDM2リン酸化の増加を示さなかった(
図5A)。この設定でのMDM2リン酸化におけるp70S6Kの役割を、特異的p70S6K阻害剤PF-4708671を用いて調べた。NRTIに応答したMDM2のリン酸化はPF-4708671によって阻害され、該阻害剤の陽性対照としたリボソームS6タンパク質のリン酸化も同様であった(
図5B)。
【0148】
NRTIに曝露した細胞におけるリボソームS6リン酸化とMDM2リン酸化に及ぼすMAPKの阻害剤の影響も調べた。NRTIに曝露した細胞を、MAPKシグナル伝達経路の3種類の阻害剤、MEK1 (U0126)、Raf1 (GW5047)、およびp90RSK (BI-D1870)で処理した。全3種のMAPK阻害剤はリボソームS6リン酸化の多少の減少を引き起こしたが、p90RSKの阻害剤であるBI-D1870が最も大きな影響を及ぼした(
図5C)。対照的に、p38ストレス活性化キナーゼの阻害剤であるSB-203580は、リボソームタンパク質S6またはMDM2のリン酸化に影響を及ぼさなかった(
図5D)。NRTIに応答するリボソームS6およびMDM2のリン酸化事象に対するラパマイシン、p70 S6キナーゼ阻害剤、p90RSKの阻害剤、およびトロロックス/NACの効果は、ヒト肺線維芽細胞において確認された。
【0149】
ROSに対するNRTI誘導性p70S6K活性の依存性は、NRTIに曝露した細胞をトロロックス/N-アセチルシステインで処理して、リボソームS6リン酸化を検査することによって調べられた。リボソームS6リン酸化とMDM2リン酸化の両方は、NRTIに曝露した細胞をトロロックス/N-アセチルシステインで処理した場合に減少した(
図5C)。NADPHオキシダーゼ系の関与を、NADPHオキシダーゼの阻害剤であるアポシアニンを用いて調べた。しかしながら、NRTI曝露細胞をアポシアニンで処理しても、リボソームS6リン酸化の増加を防げなかった。ヒト肺線維芽細胞をNRTIに曝露した場合にも、p70S6キナーゼおよびMDMリン酸化に関して同様の結果が得られた。
【0150】
mTOR活性の活性化におけるミトコンドリアROSの潜在的な役割を調べるために、細胞を、NRTI曝露中にmito-Qで、またはNRTI曝露前にmt-カタラーゼアデノウイルスで処理した。これらmito-Qおよびmt-カタラーゼの発現の介入のどちらも、NRTIへの曝露後にリボソームS6リン酸化およびMDM2リン酸化を減少させた(
図6A~6B)。さらに、ミトコンドリア活性を評価するために、mito-Q処理細胞をSeahorse Bioanalyzerによって分析した。この分析は、mito-Q処理が、基礎呼吸、ATP関連呼吸およびプロトンリークの増加をある程度軽減したが、最大呼吸はそれほど影響されなかったことを明らかにした(
図6C~6F)。さらに、mito-Q処理細胞は、NRTIに曝露したとき、ミトコンドリアROSのより低いレベルを示した(
図6G)。
【0151】
増加したROSがリボソームS6タンパク質のリン酸化を直接誘導できるかどうかを調べるために、心臓線維芽細胞を無血清培地に48時間置いて、mTORC1活性に影響を及ぼし得る増殖因子シグナル伝達を排除した。次いで、細胞を1~400μMの濃度の過酸化水素に2時間曝露した。リボソームS6リン酸化とMDM2リン酸化はいずれも、より低濃度の過酸化水素で増加し、50μMで活性化が最高に達し、100μMを超える濃度ではリボソームS6リン酸化とMDM2リン酸化の両阻害が生じた(
図7A)。過酸化水素に対する応答は、血清応答とは異なった;血清応答は、増殖応答と一致して、リボソームS6タンパク質のリン酸化に導いたものの、MDM2のリン酸化にはつながらなかった(
図7A、右端)。ミトコンドリアROSの誘導がmTORシグナル伝達の活性化を引き起こすかどうかを判定するために、細胞を、ある濃度範囲のロテノンに曝露して、リボソームS6タンパク質のリン酸化を調べた。ナノモル濃度のロテノンに細胞を曝露すると、S6リン酸化の増加につながったが、50nMではS6リン酸化の激しい阻害が生じた(
図7B)。
【0152】
実施例5:ミトコンドリアストレスに応答するmTORC1とミトコンドリアとの会合
細胞をNRTIに曝露したときにmTORC1複合体とミトコンドリアとの会合が増強される可能性について、ミトコンドリア標的化配列に融合した緑色蛍光タンパク質(mt-GFP)を発現するヒト心臓線維芽細胞を用いて調べた。これらの細胞をNRTIに曝露し、mTORC1特異的構成因子Raptorを認識する抗体を用いる免疫蛍光のために固定した。NRTIに曝露した細胞では、Raptorが未処理の細胞よりも過度にミトコンドリアと会合していた(
図8A~8C)。
【0153】
老化におけるミトコンドリアROSの役割を、老化心筋線維芽細胞をミトコンドリアROSスカベンジャーmito-Qで処理することによって、またはミトコンドリア標的カタラーゼを導入することによって調べた。最初に、ミトコンドリアROSと総細胞ROSのレベルを後期継代細胞において調べた。この評価から、後期継代細胞ではミトコンドリアROSおよび総細胞ROSのレベル上昇が明らかになった(
図9A~9B)。Seahorse Bioanalyzerによるミトコンドリア活性の評価は、呼吸の上昇を明らかにし、単離されたミトコンドリアを用いる老化細胞での以前の研究と一致していた。Bioanalyzer分析は、基礎呼吸とATP関連呼吸の速度がどちらも、初期継代細胞と比較して、老化細胞において有意に増加し、プロトンリークも同様であったことを示した(
図9C~9G)。
【0154】
複製老化を通してのリボソームS6およびMDM2リン酸化の漸進的増加は、心臓線維芽細胞において確認された(
図9H)。老化細胞におけるリボソームS6タンパク質のリン酸化のROSへの依存性を試験するために、ROSスカベンジャーであるトロロックスとN-アセチルシステインで老化細胞を処理した。並行して、mt-カタラーゼを老化細胞に導入して、ミトコンドリアのROS生成を減少させた。これらの介入はどちらも、老化線維芽細胞に典型的なリボソームS6リン酸化の高い基底レベルを低下させ、かつリン酸化されたMDM2のレベルを低下させた。さらに、p90RSK阻害剤BI-D1870による処理もまた、老化細胞においてリボソームS6およびMDM2の両リン酸化を減少させた(
図9I)。
【0155】
実施例6:ラパマイシンのインビボ局所適用
単一施設非盲検試験を行った。手に真皮萎縮および光線性角化症の領域がある患者への製剤Rの適用を評価した。同様の真皮厚みを有するが光線性角化症のない反対側の手を対照として使用した。患者に製剤Rを提供して、1日2回の適用を指示した。
【0156】
2週間(14日間)後、患者が自己報告しかつ試験担当者が認めたように、光線性角化症と真皮肥厚のいずれも、改善の兆候を示した。真皮厚みの評価により、約20%の真皮厚みの増加(未処理1.6 SD 0.13に対して処理1.9 SD 0.19)が明らかになった。光線性角化症は、格付け評価が3から2に改善された。14日後の追跡調査訪問時に、有害反応の徴候は観察されず、患者からも報告されなかった。最初の14日間を越えての製剤Rの継続的な適用は引き続き利益をもたらしたが、ラパマイシンを含まない担体製剤の投与は反対側の手の真皮厚みに何の影響も及ぼさない。
【0157】
本明細書に引用されたありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0158】
本発明は特定の態様に関連して開示されているが、当業者であれば、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の態様および変形を考え出すことができることは、明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような態様および等価的変形を包含すると解釈されるものとする。