(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】多層チューブの製造方法及び多層チューブ
(51)【国際特許分類】
C23C 4/134 20160101AFI20241017BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20241017BHJP
B21C 37/09 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C23C4/134
B32B15/01 C
B21C37/09
(21)【出願番号】P 2023509544
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 IB2021057380
(87)【国際公開番号】W WO2022034505
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-04-06
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504117534
【氏名又は名称】テーイー・アウトモティーフェ(ハイデルベルク)ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュターン アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイク ゲオルク
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-063731(JP,A)
【文献】特開平03-274805(JP,A)
【文献】特開平02-238930(JP,A)
【文献】特開2005-060842(JP,A)
【文献】特開平03-229087(JP,A)
【文献】特開2002-046356(JP,A)
【文献】特開平09-193307(JP,A)
【文献】特開2016-089269(JP,A)
【文献】特表2018-507316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/134
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ストリップを巻き上げて、多層チューブを形成し、
前記金属ストリップは、少なくとも1つのスチール層と、前記スチール層に塗布された少なくとも1つのはんだ層と、を有し、
前記はんだ層は
、金属からなり、
前記はんだ層は、前記スチール層に、プラズマコーティングによって塗布され
、
前記はんだ層の材料は、プラズマコーティング装置によって気相に変換され、その後、はんだ層として、前記スチール層に堆積される
ことを特徴とする多層チューブの製造方法。
【請求項2】
前記はんだ層は、少なくとも部分的に銅から
なる
ことを特徴とする請求項1に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項3】
前記はんだ
層は、さらなる金属
層を介在させることなく、前記スチール層に塗布されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項4】
前記スチール層は、100から600μ
mの厚さを有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項5】
前記はんだ
層は、プラズマコーティングにより、1から50μ
mの厚さで前記スチール層に塗布されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項6】
前記スチール層は、前記はんだ層よりも厚
い
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項7】
前記プラズマコーティングは、シアン化物を使用せずに、及び/または、ニッケルを使用せずに塗布されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項8】
前記プラズマコーティングは、常圧または大気圧の下で行われる
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項9】
前記プラズマコーティングは、物理蒸着、及び/または、化学蒸着として行われる
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項10】
前記はんだ層の材
料は、粉末形態でプラズマコーティング装置に供給されている
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項11】
少なくとも前記スチール層及び前記はんだ層からなる前記金属ストリップは、巻き上げられて、二層チューブを形成している
ことを特徴とする請求項1乃至1
0のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項12】
前記スチール層は、両面が前記はんだ層によってコーティングされ
ている
ことを特徴とする請求項1乃至1
1のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項13】
前記多層チュー
ブは、加熱によって、互いにはんだ付けまたは接合されている
ことを特徴とする請求項1乃至1
2のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法。
【請求項14】
巻き上げられた金属ストリップを有す
る請求項1乃至1
3のいずれか1項に記載の多層チューブの製造方法を用いて製造された多層チューブであって、
前記金属ストリップは、少なくとも1つのスチール層と、プラズマコーティングによって前記スチール層に塗布された少なくとも1つのはんだ層を有する
ことを特徴とする多層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本開示は、2020年8月10日に出願された欧州特許出願20190256.6に対する利益を主張するPCT出願であり、それらの出願は、参照により、その全体において本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、多層チューブ(multi-walled tubes)の製造方法に関するものである。金属ストリップ(metal strip)を巻き上げて、多層チューブを形成し、金属ストリップは、少なくとも1つのスチール層(steel layer)と、スチール層に塗布された少なくとも1つのはんだ層(solder layer)と、を有し、はんだ層は、少なくとも部分的に金属からなり、好ましくは少なくとも実質的に金属からなる。金属ストリップを製造するため、製造方法は、スチール層を形成するスチールストリップから始まり、対応するコーティングを経て、巻き上げて多層チューブを形成する。本開示は、そのような巻き上げられた金属ストリップを有する多層チューブにも関するものである。
【背景技術】
【0003】
上述のタイプの製造方法は、実際に良く知られている。はんだ層の堆積は、ガルバニックプロセスを用いて実行されている。しかし、この場合、十分な接着力は、一般に、シアン化物含有電解浴(cyanide-containing electrolyte baths)でのみ達成可能であることがわかった。毒性の高いシアン化物の使用が、かなりの不利益を伴うことは自明である。さらに、ガルバニックプロセスは複雑で高価であり、プロセスパラメータの複雑な設定が必要である。個々の方法ステップ(電解槽の準備、乾燥、洗浄など)にも時間がかかる。さらに、残った残留物の処分が問題である。既知の手段では、はんだ層として銅層を塗布するために、苦労して、スチール層と銅層との間にニッケル層を挟まなければならない。ニッケルも健康に有害であると分類されている。この点で、改善の必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これを考慮して、本開示によって解決される技術的課題は、金属ストリップまたはスチールストリップを、はんだ層でコーティングすることを可能にする、シンプルで、費用対効果が高く、また、低複雑であり、且つ、環境及び健康の観点からの欠点も少ない、上述のタイプの方法を特定することである。この開示はまた、対応する多層チューブを特定するという技術的問題も解決する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的問題を解決するために、本開示はまず、金属ストリップを巻き上げて、多層チューブを形成する多層チューブの製造方法を教示する。金属ストリップは、少なくとも1つのスチール層と、スチール層に塗布された少なくとも1つのはんだ層と、を有し、はんだ層は、少なくとも部分的に金属からなり、好ましくは少なくとも実質的に金属からなり、はんだ層は、スチール層に、プラズマコーティングによって塗布されている。
【0006】
したがって、本開示による金属ストリップを製造するための開始のストリップまたは開始の層として、更なるコーティングが施される、スチールストリップまたはスチール層が使用される。はんだ層を塗布する前に、スチールストリップまたはスチール層は、洗浄されるとよい。本開示の範囲内で特に重要な好ましい実施の形態では、コーティングされるスチールストリップまたはスチール層の表面は、プラズマ処理によって洗浄されることを特徴とする。この洗浄は、以下に説明する、好ましく使用されるプラズマコーティング装置を使用して実施されるとよい。この場合、好ましくは、プラズマジェットまたはプラズマ炎(plasma flame)が、洗浄されるスチールストリップまたはスチール層の表面に施される。この洗浄方法は、本開示の範囲内で特に効果的であることが証明された。
【0007】
本開示の非常に推奨される実施の形態では、はんだ層は、少なくとも部分的に銅からなることを特徴とする。はんだ層は、完全に銅からなるか、または、実質的に銅からなることが好ましい。原理的には、はんだ層には、他の金属を使用することもできる。
【0008】
本開示の範囲内で、本開示の実施の形態は、はんだ層(特に銅層)が、更なる金属層の介在なしに(特にニッケル層の介在なしに)、スチール層またはスチールストリップに塗布されるという点で特に重要である。この点において、本開示は、本開示によるプラズマコーティングのおかげで、ニッケル層を問題なく省略でき、はんだ層の十分な接着を依然として達成できる、という発見に基づいている。これには、ニッケル層に関連する環境上の欠点も回避できるという利点がある。
【0009】
本開示の範囲内で、スチール層またはスチールストリップは、100から600μm、特に、200から400μmの厚さを有する。本開示の特に推奨される実施の形態では、はんだ層(特に銅層)は、プラズマコーティングにより、1から50μm、好ましくは2から20μm、特に、3から10μmの厚さで、スチール層またはスチールストリップに塗布されている。スチール層は、はんだ層よりも厚い方がよく、はんだ層の特に少なくとも5倍、好ましくは少なくとも7倍、好ましくは少なくとも10倍の厚さを有するとよい。
【0010】
本開示の範囲内で、コーティングまたははんだ層によるコーティングは、シアン化物を使用することなく行われる。また、本開示の範囲内で、コーティングまたははんだ層によるコーティングは、ニッケルを使用することなく行われる。この点で、本開示は、本開示によるプラズマコーティングが実施される場合、不利なシアン化物含有電解浴を完全に省くことができる、という発見に基づいている。この開示はまた、スチール層とはんだ層との間、または、スチール層と銅層との間に介在されたニッケル層もまた必要ではないという発見に基づいている。したがって、本開示は、健康面および環境面に関して、かなりの利点を有する。
【0011】
本開示による方法の特に好ましい実施の形態は、プラズマコーティングが常圧または大気圧の下で行われることを特徴とする。この実施の形態は、シンプルさと低複雑性によって特徴付けられる。それでもなお、異なる圧力条件下(例えば真空中)でプラズマコーティングを行うことも可能である。
【0012】
本開示の範囲内で、プラズマコーティングは、物理蒸着及び/または化学蒸着として行われる。プラズマコーティングを施すために、プラズマコーティング装置を使用してもよい。本開示の文脈内で、はんだ層の材料(特にはんだ層の銅材料)は、粉末形態でプラズマコーティング装置に供給される。便宜上、はんだ層の材料(特にはんだ層の銅材料)は、プラズマコーティング装置によって気相に変換され、その後、はんだ層または銅層として、スチール層に堆積される。本開示は、このはんだ層のプラズマコーティングが、驚くほどシンプルで、低複雑な方法で行うことができ、また、とりわけ、ニッケル層の介在なく、スチール層へのはんだ層または銅層の最適な接着が得られる、という発見に基づいている。
【0013】
本開示の特に好ましい実施の形態によれば、少なくともスチール層またはスチールストリップ、及び、これに塗布されたはんだ層からなる金属ストリップは、巻き上げられて、二層チューブを形成している。原理的には、2以上の壁を有するチューブも可能であり、そのようなチューブは、対応する巻き上げによって製造することができる。しかしながら、本開示の範囲内では、二層チューブが特に好ましい。
【0014】
推奨される実施の形態によれば、スチール層またはスチールストリップは、両面が、はんだ層(特に銅層)でコーティングされている。この場合、スチール層またはスチールストリップの両面は、好ましくは、プラズマコーティングによって、はんだ層でコーティングされている。
【0015】
本開示の範囲内で、多層チューブ(特に二層チューブ)の壁層(wall layers)は、加熱によって、互いにはんだ付けまたは接合されている。推奨される実施の形態によれば、金属ストリップは、巻き上げられている、または、ローラを用いて一緒に巻かれている。さらに、本開示の範囲内で、その後、チューブは、誘導炉(induction furnace)によって加熱され、その結果、はんだ層が溶融することが好ましい。このようにして、チューブの壁を互いにはんだ付けすることができ、それによってチューブをシールすることができる。
【0016】
本開示はまた、巻き上げられた金属ストリップを有する多層チューブに関し、金属ストリップは、少なくとも1つのスチール層、または、少なくとも1つのスチールストリップと、プラズマコーティングによってスチール層またはスチールストリップに塗布された少なくとも1つのはんだ層を有する。これは特に好ましくは、二層チューブである。
【0017】
本開示は、本開示による方法により、非常にシンプルで、費用対効果が高く、より低複雑な、多層または二層チューブの製造が可能であるという発見に基づいている。有利なことに、湿式化学的方法ステップは必要なく、特に環境に有害な物質を使用する方法ステップは必要ない。本開示による方法は、実際に知られた、導入部で説明した方法よりも複雑ではない。多くの追加の複雑な方法ステップ(乾燥ステップ、洗浄ステップ、環境に有害な物質の廃棄ステップ等)を回避できる。シアン化物のような有毒物質は完全に省くことができ、特に、本開示による方法では、複雑なニッケル層の介在は必要ない。導入部で説明した既知の方法と比較して、全体的に使用する材料が少なく、エネルギー消費も少ないため、本開示による方法ではコストも低くなる。しかしながら、これらの側面に加えて、プラズマ処理によって施されたコーティングは、実際に知られているコーティングよりもはるかに優れた品質も備えている。はんだ層または銅層は、驚くほど高度な均一性(homogeneity)と、具体的に設定した厚さで施すことができる。これにより、層のはんだ付けも大幅に改善される。全体として、本開示は、多数の利点によって特徴付けられる。特に強調すべきは、シンプルさ、低複雑性、及び、低コストである。
【0018】
本開示は、1つの例示的な実施の形態のみを示す図面を使用して、以下で、より詳細に説明される。図は次の通り:
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、多層チューブを形成するために巻き上げられる前の金属ストリップの斜視図を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、金属ストリップから巻き上げられた二層チューブの断面図である。
【
図3】
図3は、本開示による方法を実行するために好ましく使用される、プラズマコーティング装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面は、多層チューブ1を製造するための本開示による方法を示す。好ましくは、そして、例示的な実施の形態(特に
図2を参照)では、二層チューブ1は、本開示による方法を使用して製造される。この目的のために、金属ストリップ2を巻き上げて二層チューブ1を形成する。例示的な実施の形態では、金属ストリップはスチール層3またはスチールストリップを有していてもよい。好ましくは、そして、例示的な実施の形態では、銅のはんだ層4が、このスチール層3に塗布される。
【0021】
例示的な実施の形態では、スチール層は、200から400μmの厚さを有することができ、はんだ層4または銅層は、3から10μmの厚さを有することができる。好ましくは、また、例示の実施の形態では、スチール層3は、はんだ層4または銅層よりもはるかに厚い。本開示によれば、はんだ層4によるコーティングは、従来技術で知られているようにニッケル層を介在させることなく行われる。
【0022】
本開示によれば、はんだ層4または銅層は、プラズマコーティングによって、スチール層3またはスチールストリップに塗布される。プラズマコーティングは、常圧または大気圧の下で行われるとよい。本開示の範囲内で、プラズマコーティングは物理蒸着として行われる。
【0023】
図3は、本開示による方法に適したプラズマコーティング装置5を示している。
図3は、このプラズマコーティング装置5の電極6及びガス供給チャンバ7を示している。開示の範囲内で、はんだ層4の材料(特にはんだ層4の銅材料)は、プラズマコーティング装置5に対して、粉末形態で供給される。より具体的には、便宜上及び例示的な実施の形態では、ダクト8を通して、粉末形態で供給される。好ましくは及び例示的な実施の形態では、はんだ層4の材料(特にはんだ層4の銅材料)は、プラズマコーティング装置5内で気相に変換され、その後、はんだ層4または銅層として、スチール層3に堆積される。
図3では、プラズマジェット9も確認できる。
【0024】
はんだ層4の堆積後、
図1に示す、コーティングされた金属ストリップ2が得られる。次に、この金属ストリップ2は、好ましくは、ローラを用いて巻き上げられて、
図2に示す二層チューブ1が形成される。本開示の範囲内で、チューブ1またはチューブ1の壁層は、加熱によって、互いにはんだ付けまたは接合されている。この加熱は誘導炉(図示せず)内で行われるとよい。
【0025】
本開示による、多層チューブまたは二層チューブ1の製造は、シアン化物含有電解浴を使用せずに有利に行うことができる。また、はんだ層4及びスチール層3の間にニッケル層を介在させることなく、有利に行うことができる。