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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20241017BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20241017BHJP
   B60R 1/20 20220101ALI20241017BHJP
   B60R 1/27 20220101ALI20241017BHJP
【FI】
E02F9/26 B
E02F9/24 G
B60R1/20 100
B60R1/27
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024077737
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2020171620の分割
【原出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2024105507
(43)【公開日】2024-08-06
【審査請求日】2024-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】段口 将志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 頌梧
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257724(JP,A)
【文献】特開2018-021374(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032267(WO,A1)
【文献】特開2021-088840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/26
E02F 9/24
B60R 1/20
B60R 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の周囲を監視する監視部と、
前記建設機械の動作モードに応じて、前記監視部の監視結果に基づく前記建設機械の動作規制の実行を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記動作モードが前記建設機械の動作を自動制御する特定モード以外の通常モードである場合に、前記監視結果に基づく前記動作規制を実行する一方、前記動作モードが前記特定モードである場合に、前記監視結果に基づく前記動作規制の実行を停止する、建設機械。
【請求項2】
前記特定モードは、前記建設機械が転倒防止のための動作を実行する転倒防止モードである請求項1記載の建設機械。
【請求項3】
前記制御部は、前記監視部が前記建設機械の周囲に障害物を検知した場合において、前記動作モードが前記通常モードであるときに、前記動作規制を実行する一方、前記動作モードが前記特定モードであるときに、前記動作規制の実行を停止する、請求項1又は2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記制御部が前記監視結果に基づく前記動作規制の実行を停止したときに、前記動作規制の実行停止を報知する実行停止報知装置をさらに備え、
前記実行停止報知装置は、前記制御部が前記監視結果に基づく前記動作規制の実行を停止したときに、前記監視部の監視結果に関係なく、前記動作規制の実行停止を報知する請求項1から3のいずれかに記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ショベルなどの建設機械が種々提案されている。例えば、特許文献1では、物体検知手段によってショベルの周囲に物体が検知されたときに、ショベルの動作制限を行い、または物体が検知されたことの報知を行うショベルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2018/008504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ショベルの動作モードには、走行、旋回、掘削などの通常の動作または作業を行う通常モードのほか、吊り作業を行うクレーンモードなどの特定の動作モード(以下、特定モードとも称する)が含まれる場合がある。特許文献1のように、ショベルの動作モードに関係なく、ショベルの周囲に物体が検知されたときに、一律にショベルの動作制限(例えば動作の停止)を行うことは、危険を回避する点で必ずしも妥当でない場合がある。
【0005】
例えば、クレーンモードでの吊り作業中に、周囲の物体の検知に基づいて、旋回、走行および作業機の昇降動作を急に停止させる動作規制を行った場合、吊り下げた対象物が慣性力により暴れて、周囲の人、物等と衝突するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、有用な建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る建設機械は、建設機械の周囲を監視する監視部と、前記建設機械の動作モードに応じて、前記監視部の監視結果に基づく前記建設機械の動作規制の実行を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記動作モードが前記建設機械の動作を自動制御する特定モード以外の通常モードである場合に、前記監視結果に基づく前記動作規制を実行する一方、前記動作モードが前記特定モードである場合に、前記監視結果に基づく前記動作規制の実行を停止する。
【発明の効果】
【0008】
特定モード以外のモード(通常モード)では、建設機械の周囲の状態(監視結果)に基づいて動作規制を実行することにより、建設機械が周囲の障害物と衝突するなどの通常生じ得る危険を回避することができる。一方、特定モードでは、周囲の状態に基づく動作規制の実行を停止することにより、動作を規制すると却って生じる危険を回避して、作業の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の一形態に係る建設機械の一例である油圧ショベルの概略の構成を示す側面図である。
図2】上記油圧ショベルの主要部の構成を示す説明図である。
図3】上記油圧ショベルが有する表示部の表示画面の一例を示す説明図である。
図4】上記油圧ショベルにおける動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0011】
〔1.建設機械〕
図1は、本実施形態の建設機械の一例である油圧ショベル1の概略の構成を示す側面図である。油圧ショベル1は、下部走行体2と、作業機3と、上部旋回体4と、を備える。
【0012】
ここで、図1において、方向を以下のように定義する。まず、下部走行体2が直進する方向を前後方向とし、そのうちの一方側を「前」とし、他方側を「後」とする。図1では、例として、走行モータ22に対してブレード23側を「前」として示す。また、前後方向に垂直な横方向を左右方向とする。このとき、操縦席41aに座ったオペレータ(操作者)から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向を上下方向とし、重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。
【0013】
下部走行体2は、エンジン40からの動力を受けて駆動し、油圧ショベル1を走行させる。下部走行体2は、左右一対のクローラ21と、左右一対の走行モータ22と、を備える。各走行モータ22は、油圧モータである。左右の走行モータ22が、左右のクローラ21をそれぞれ駆動することにより、油圧ショベル1を前後進させることができる。下部走行体2には、整地作業を行うためのブレード23と、ブレードシリンダ23aとが設けられる。ブレードシリンダ23aは、ブレード23を上下方向に回動させる油圧シリンダである。
【0014】
作業機3は、エンジン40からの動力を受けて駆動し、土砂等を掘り取る掘削作業を行う。作業機3は、ブーム31、アーム32、およびバケット33を備える。ブーム31、アーム32、およびバケット33を独立して駆動することにより、掘削作業を行うことができる。
【0015】
ブーム31は、ブームシリンダ31aによって回動される。ブームシリンダ31aは、基端部が上部旋回体4の前部に支持され、伸縮自在に可動する。アーム32は、アームシリンダ32aによって回動される。アームシリンダ32aは、基端部がブーム31の先端部に支持され、伸縮自在に可動する。バケット33は、バケットシリンダ33aによって回動される。バケットシリンダ33aは、基端部がアーム32の先端部に支持され、伸縮自在に可動する。ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、およびバケットシリンダ33aは、油圧シリンダによって構成される。
【0016】
バケット33は、作業機3の先端に設けられ、掘削作業を行うためのツメを備えた容器状の部材である。バケット33は、アーム32の先端にピン34を介して回動可能に取り付けられる。さらに、バケット33は、リンク機構35を介してバケットシリンダ33aと連結される。
【0017】
アーム32の先端部には、クレーン作業用のフック36が取り付けられている。フック36は、クレーン作業を行う鉤状の部材であり、リンク機構35に回動可能に設けられる。ここで、クレーン作業とは、吊り下げ対象となる対象物を吊り下げて昇降させる吊り作業を言う。フック36は、リンク機構35の軸を回動支点として回動可能に支持されてお
り、バケット33から突出させた展開状態(図1参照)と、バケット33側に格納された格納状態(不図示)との間で姿勢変更することができる。例えば、バケット33による掘削作業を行う場合には、フック36を格納状態にする。一方、フック36によるクレーン作業を行う場合には、フック36を展開状態にする。
【0018】
上部旋回体4は、下部走行体2に対して旋回ベアリング(不図示)を介して旋回可能に構成される。上部旋回体4には、操縦部41、旋回台42、旋回モータ43、機関室44等が配置される。上部旋回体4は、油圧モータである旋回モータ43の駆動により、旋回ベアリングを介して旋回する。上部旋回体4の後部には、各部に動力を提供するエンジン40のほか、複数の油圧ポンプP0(図2参照)が配置されている。
【0019】
各油圧ポンプP0は、油圧モータ(例えば左右の走行モータ22、旋回モータ43)、および油圧シリンダ(例えばブレードシリンダ23a、ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、バケットシリンダ33a)に作業油(圧油)を供給する。任意の油圧ポンプP0から作動油が供給されて駆動される油圧モータおよび油圧シリンダを、まとめて油圧アクチュエータAC(図2参照)と呼ぶ。
【0020】
オペレータが乗車する操縦部41には、操縦席41aが配置される。操縦席41aの周囲(特に前方、左右)には、操作部41bが配置される。
【0021】
操作部41bは、油圧アクチュエータACを駆動するための操作レバー、スイッチ、ボタン等で構成される。オペレータが操縦席41aに着座して操作部41bを操作することにより、油圧アクチュエータACが駆動される。これにより、下部走行体2の走行、ブレード23による整地作業、作業機3による掘削作業、クレーン作業、上部旋回体4の旋回、等を行うことができる。
【0022】
油圧ショベル1は、動作モードとして、通常モードと、クレーンモードと、を有する。通常モードとは、走行(下部走行体2の駆動)、旋回(上部旋回体4の駆動)、掘削(作業機3の駆動)などの動作または作業を行う動作モードである。オペレータは操作部41bを操作することにより、油圧ショベル1を通常モードで動作させて、走行、旋回、掘削等を実行させることができる。一方、クレーンモードとは、フック36によって対象物を吊り下げてクレーン作業を行う動作モードである。オペレータは、後述する入力部72(図2参照)を操作してクレーンモードを設定し、操作部41bを操作することにより、油圧ショベル1にクレーン作業を実行させることができる。
【0023】
〔2.油圧ショベルの主要部の構成〕
図2は、油圧ショベル1の主要部の構成を模式的に示している。油圧ショベル1は、監視部50と、制御部60と、モニタ装置70と、回転灯81と、発光部82と、発報部83と、をさらに備えている。
【0024】
(2-1.監視部)
監視部50は、油圧ショベル1の周囲の障害物の有無を検出することによって周囲を監視する。なお、上記の障害物には、人、物、動物などの監視対象物が含まれる。つまり、油圧ショベル1は、油圧ショベル1の周囲を監視する監視部50を備える。本実施形態では、監視部50は、油圧ショベル1の周囲の画像を取得することによって、油圧ショベル1の周囲を監視する。より具体的に説明すると、監視部50は以下の構成を有する。
【0025】
監視部50は、撮像部51と、画像処理部52と、俯瞰画像生成部53と、を有する。撮像部51は、油圧ショベル1の左方、右方、後方をそれぞれ撮影して画像を取得する左カメラ51a、右カメラ51b、後方カメラ51cを含む。なお、撮像部51が撮影によって取得する画像は、例えば動画であるが、所定のフレーム周期での撮影によって取得される静止画であってもよい。
【0026】
画像処理部52は、撮像部51で取得された画像(例えば右側方を撮影した画像)を入力として画像認識処理を行うことにより、上記画像に含まれる物体が障害物であるか否かを検知するとともに、監視領域への侵入物の検知を行う。
【0027】
俯瞰画像生成部53は、撮像部51の複数のカメラ(左カメラ51a、右カメラ51b、後方カメラ51c)で取得された複数の画像から、画像処理により、油圧ショベル1を中心とする俯瞰画像(鳥瞰画像)を生成する。
【0028】
上記した画像処理部52および俯瞰画像生成部53は、例えばCPU(Central Processing Unit)と呼ばれる中央演算処理装置、またはGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置によって構成される。
【0029】
なお、監視部50において、所要の範囲内で障害物を検出できる限り、カメラの個数や設置箇所、設置方法は特に限定されない。また、カメラの代わりに障害物センサを用いて障害物を検知する構成であってもよい。障害物センサとしては、障害物の距離情報を取得可能な公知の測距装置を用いることができる。例えば、超音波を用いた超音波レーダ、ミリ波帯の電波を用いたミリ波レーダ、レーザー照射に対する散乱光を測定して距離を求めるライダー(LIDER)、複数台のカメラ機能を一体に備え、撮影画像から対象物までの距離を測定するステレオカメラなどを、障害物センサとして用いることができる。
【0030】
(2-2.制御部)
制御部60は、油圧ショベル1の各部の動作を制御する。特に、本実施形態では、制御部60は、油圧ショベル1の動作モードが例えば通常モードであるときに、監視部50の監視結果に基づく油圧ショベル1の動作規制を実行し、油圧ショベル1の動作モードが例えばクレーンモードであるときに、監視部50の監視結果に基づく油圧ショベル1の動作規制の実行を停止する。つまり、油圧ショベル1は、油圧ショベル1の動作モードに応じて、監視部50の監視結果に基づく油圧ショベル1の動作規制の実行を制御する制御部60を備える。このような制御部60は、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる
電子制御ユニットで構成される。上記の動作規制には、例えば、走行等の動作の完全な停止のほか、走行速度の制限(低速化)、エンジン回転数の低下などが含まれる。なお、制御部60の制御による動作の詳細については後述する。
【0031】
なお、制御部60には、記憶部が含まれていてもよい。記憶部は、制御部60を動作させるためのプログラムや各種の情報を記憶する。このような記憶部としては、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、不揮発性メモリ等を用いることができる。
【0032】
(2-3.モニタ装置)
モニタ装置70は、操縦席41aの近傍(例えば斜め前方)に配置され、各種の情報を表示して、操縦席41aに着座したオペレータに必要な情報を提供する。このモニタ装置70は、表示部71と、入力部72と、を有する。なお、モニタ装置70自体が内部にECU(モニタECU)を備え、モニタECUによってモニタ装置70内の各部を制御する構成であっても構わない。
【0033】
表示部71は、例えば液晶表示装置で構成され、監視部50によって取得された画像を表示する。例えば、図3は、表示部71の表示画面の一例を模式的に示している。同図では、監視部50の撮像部51を構成する左カメラ51a、右カメラ51b、後方カメラ5
1cのそれぞれで撮影されて取得された画像から画像処理部52が作成した俯瞰画像Bvを、表示部71に表示した状態を示している。なお、俯瞰画像Bvの代わりに、左カメラ51a、右カメラ51b、後方カメラ51cのそれぞれで撮影されて取得された画像そのものを表示部71に表示してもよい。このように、本実施形態の油圧ショベル1は、監視部50で取得された画像を表示する表示部71を備える。
【0034】
また、表示部71には、監視部50が障害物を検知したときに、障害物を検知したことを示す情報(アイコン、テキスト等)が表示される。例えば、図3では、俯瞰画像Bvにおいて、油圧ショベル1の左側方および後方に障害物の一例である「人」が監視部50によって検知されたときに、左側方の障害物が「人」であることを示すアイコンM1と、油圧ショベル1の左側方に「人」が検知されたことを示す左向きの矢印を示すアイコンA1と、検知方向が油圧ショベル1に対して左側方であることを示す位置情報P1(図3では破線の太線円弧で図示)と、後方の障害物が「人」であることを示すアイコンM2と、油圧ショベル1の後方に「人」が検知されたことを示す後方向きの矢印を示すアイコンA2と、検知方向が油圧ショベル1に対して後方であることを示す位置情報P2(図3では実践の太線円弧で図示)とが、表示部71において俯瞰画像Bvの表示領域の外側に同時に表示されている状態を示している。
【0035】
このように、表示部71にアイコンM1等を表示することにより、オペレータは、表示部71に表示されたアイコンM1等を見て、監視部50が障害物を検知したこと、障害物の種類(人であるか否か)、障害物の検知方向を即座に把握することができる。
【0036】
このとき、油圧ショベル1から障害物までの距離に応じて、表示部71にてアイコンを色分け表示してもよい。例えば、監視部50によって油圧ショベル1から障害物までの距離が測定された場合において、上記距離が2m未満であれば、黄色でアイコンM1等を表示し、上記距離が2m以上の場合、赤色でアイコンM1等を表示してもよい。
【0037】
また、表示部71には、後述するように、特定の動作モード(例えばクレーンモード)において、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止したときに、動作規制の実行停止を示す情報も表示される。図3では、表示部71において、俯瞰画像Bvの表示領域の上側に、動作規制の実行停止を示す情報Rとして、「動作制限システム停止中」のテキスト情報が表示されている状態を示している。なお、クレーンモードなどの特定の動作モードのことを、以下では「特定モード」とも称する。
【0038】
上記の他、表示部71には、油圧ショベル1の動作モードがクレーンモードであるか否か、燃料の量、シートベルト装着等に関する警告情報等、各種の情報も表示される。また、動作モードがクレーンモードである場合、定格重量(図3では、例えば3.0t)および現在の吊り下げ荷重(図3では、例えば2.8t)の情報も表示部71に表示される。
【0039】
入力部72は、各種の情報を設定、入力するためにオペレータによって操作される。この入力部72は、例えば表示部71に重ねて配置されるタッチパネル入力装置で構成される。なお、入力部72は、機械式の入力ボタンで構成されてもよいし、ジョグダイヤルで構成されてもよい。オペレータが入力部72を操作(例えば押圧)することにより、油圧ショベル1の動作モードとしてクレーンモードを設定することができる。図3の例では、表示部71の表示画面上で「クレーン」の表示領域(入力部72の入力位置)をオペレータが押圧することにより、クレーンモードを設定することができる。このように、油圧ショベル1は、特定モードの設定を受け付ける入力部72を備える。
【0040】
また、オペレータは、表示部71の表示画面上で「カメラ」の表示領域(入力部72の入力位置)を押圧することにより、表示部71に表示される画像を、俯瞰画像Bvと、個々のカメラ画像(左カメラ51aで取得された画像、右カメラ51bで取得された画像、後方カメラ51cで取得された画像)とで切り替えることができる。
【0041】
(2-4.回転灯、発光部、発報部)
図2で示す回転灯81は、監視部50が障害物を検知したときに回転するランプで構成される。発光部82は、例えば発光ダイオード(LED)で構成され、監視部50が障害物を検知したときに点灯または点滅する。発報部83は、監視部50が障害物を検知したときに音を出力するブザーで構成される。なお、発報部83は、監視部50が障害物を検知したときに音声(電子音)を出力する音声出力部で構成されてもよい。回転灯82のランプの回転、発光部82の点灯(または点滅)、発報部63によるブザー音または音声の出力により、オペレータは監視部50が障害物を検知したことを認識することができる。
【0042】
以上のように、モニタ装置70の表示部71、回転灯81、発光部82、および発報部83は、監視部50が障害物を検知したときに、アイコン等の表示、ランプの回転、発光、音の出力によって警報を出力する。このことから、表示部71、回転灯81、発光部82、および発報部83は、監視部50の監視結果に基づいて、警報を出力する警報装置90を構成すると言える。つまり、本実施形態の油圧ショベル1は、監視部50の監視結果に基づいて、警報を出力する警報装置90を備える。なお、警報装置90は、表示部71、回転灯81、発光部82、および発報部83の全てを備える必要はなく、少なくともいずれかを備えて構成されればよい。
【0043】
また、本実施形態では、特定モード(例えばクレーンモード)において、制御部60が油圧ショベル1の動作規制の実行を停止したときも、回転灯81のランプは回転し、発光部82は点灯または点滅し、発報部83は、動作規制の実行を停止したことを示す音または音声を出力する。したがって、モニタ装置70の表示部71、回転灯81、発光部82、および発報部83は、制御部60が特定の動作モード(例えばクレーンモード)において、油圧ショベル1の動作規制の実行を停止したときに、表示、ランプの回転、発光、音の出力により、動作規制の実行を停止したことを報知する実行停止報知装置100を構成すると言える。つまり、本実施形態の油圧ショベル1は、制御部60が監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止したときに、動作規制の実行停止を報知する実行停止報知装置100を備える。なお、実行停止報知装置100は、表示部71、回転灯81、発光部82、および発報部83の全てを備える必要はなく、少なくともいずれかを備えて構成されればよい。
【0044】
〔3.油圧回路について〕
次に、油圧ショベル1の油圧回路について、図1および図2に基づいて説明する。油圧ショベル1は、複数の油圧アクチュエータACと、複数の油圧アクチュエータACに圧油を圧送する油圧ポンプP0と、パイロットポンプPPと、を備える。なお、図2では、便宜的に、1つの油圧アクチュエータACに対応する油圧回路を示しているが、他の油圧アクチュエータACについても同様の油圧回路が構成されている。
【0045】
複数の油圧アクチュエータACは、下部走行体2を駆動させる走行用油圧アクチュエータである左右の走行モータ22、ブレード23を上下回動させる油圧アクチュエータであるブレードシリンダ23a、上部旋回体3を駆動させる旋回用油圧アクチュエータである旋回モータ43、作業機3を駆動させる作業用油圧アクチュエータであるブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、バケットシリンダ33aを含む。ブレードシリンダ23a、ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、バケットシリンダ33aをまとめて、油圧シリンダCYと呼ぶ。
【0046】
なお、油圧ショベル1は、上部旋回体4に対して作業機3(ブーム31)を左右にスイングさせる、所謂ブームスイング機能を有して構成されてもよい。油圧ショベル1がブームスイング機能を有する場合、油圧シリンダCYには、ブーム31をスイングさせる油圧アクチュエータであるスイングシリンダも含まれる。一般に、ブームスイング機能は、狭隘な場所での施工に供されるミニショベル(小型油圧ショベル)に装備される。
【0047】
複数の油圧ポンプP0は、可変容量型ポンプと、固定容量型ポンプと、を含み、エンジン40によって駆動される。可変容量型ポンプは、左右の走行モータ22、ブームシリンダ31a、アームシリンダ32aおよびバケットシリンダ33aに圧油を圧送する。固定容量型ポンプは、ブレードシリンダ23a、旋回モータ43およびスイングシリンダ(図示せず)に圧油を圧送する。
【0048】
複数のアクチュエータACには、それぞれ対応する方向切換弁CVが設けられている。この方向切換弁CVは、油圧ポンプP0(可変容量型ポンプまたは固定容量型ポンプ)から圧送された圧油の方向および流量を切り換え可能なパイロット式の方向切換弁であり、コントロールバルブとも呼ばれる。本実施形態の方向切換弁CVには、左右の走行モータ22に対応する方向切換弁、ブームシリンダ31aに対応する方向切換弁、アームシリンダ32aに対応する方向切換弁、バケットシリンダ33aに対応する方向切換弁、ブレードシリンダ23aに対応する方向切換弁、旋回モータ43に対応する方向切換弁、およびスイングシリンダに対応する方向切換弁が含まれる。
【0049】
パイロットポンプPPは、方向切換弁CVに対する入力指令となるパイロット油を吐出する。エンジン40によって駆動されるパイロットポンプPPは、圧油を吐出することにより、パイロット油路内にパイロット圧を発生させる。油圧ショベル1では、パイロットポンプPPから方向切換弁CVの各々に至るパイロット油路が設けられる。
【0050】
操作部41bは、方向切換弁CVに供給される圧油の向きおよび圧力を切り換えるためのリモコン弁RVを有する。リモコン弁RVには、パイロットポンプPPから吐出された圧油が供給される。リモコン弁RVは、操作部41bの操作方向および操作量に応じてパイロット圧を生成する。操作部41bは、例えば油圧ショベル1を走行させるための走行レバーおよび作業機3等を操縦するための操縦レバーなどを含む。
【0051】
パイロットポンプPPと各リモコン弁RVとの間の油路には、電磁弁SVが設けられている。電磁弁SVは、制御部60からの制御指令に応じて、パイロットポンプPPによって発生するパイロット圧を調整する。パイロット圧を調整することにより、例えば、複数の油圧アクチュエータACの駆動を一斉に停止することができるとともに、複数の油圧アクチュエータACの駆動速度を一律に制御することができる。
【0052】
〔4.動作について〕
次に、上記構成の油圧ショベル1の動作について説明する。図4は、制御部60の制御による油圧ショベル1の動作の流れの一例を示すフローチャートである。オペレータが油圧ショベル1の操縦部41に乗り込み、操縦席41aに着座して操作部41bを操作し(例えばイグニションキーを回転させ)、エンジン40をかけると、監視部50による周囲の監視が開始される(S1)。
【0053】
監視部50が油圧ショベル1の周囲に障害物を検知すると(S2でYes)、制御部60は、警報装置90から警報を出力させる(S3)。例えば図3で示したように、制御部60は、警報装置90として機能する表示部71に、監視部50によって生成された俯瞰画像Bvとともに、障害物のアイコンM1、M2、A1、A2、および位置情報P1、P2を表示させる。また、制御部60は、必要に応じて、回転灯81、発光部82、発報部83の少なくともいずれかを制御して、障害物を検知したことを示す警報を出力させる(例えば回転ランプを回転させる、LEDを点灯させる、音声を出力させるなど)。
【0054】
なお、S3で、警報装置90に警報を出力させるか否かは、オペレータが入力部72を操作することによって自由に設定することができる。例えば、S3では、制御部60は、オペレータによる入力部72の操作に基づき、表示部71に俯瞰画像Bvを表示させる一方、警報(アイコンM1等)を表示させない制御を行うことも可能である。
【0055】
次に、制御部60は、入力部72の操作によって油圧ショベル1の動作モードがクレーンモードに設定されているか否かを判断する(S4)。クレーンモードに設定されていない場合には(S4でNo)、制御部60は、油圧ショベル1が通常モードでの作業中に障害物と衝突する危険を回避するために、油圧ショベル1の動作規制を実行する(S5)。例えば、制御部60は、油圧ショベル1の走行および旋回を停止させる制御を行う。より詳しくは、制御部60は、所定の油圧アクチュエータACに対応するパイロット圧を遮断する制御指令を電磁弁SVに出力する。これにより、所定の油圧アクチュエータACをロックさせて、油圧ショベル1の走行および旋回を停止させることができる。
【0056】
その後、障害物が監視部50の監視領域から退出するなど、監視部50によって障害物が検知されなくなると(S6)、制御部60は、監視部50による警報の出力を停止させる(S7)。例えば、制御部60は、表示部71にて、アイコンM1等を非表示にする。そして、オペレータによってエンジン40の停止操作がされるまで、つまり、油圧ショベル1による作業が終了するまで(S8にてNo)、S2以降の処理を繰り返し、作業が終了すると(S8にてYes)、一連の処理を終了する。
【0057】
一方、S4において、油圧ショベル1の動作モードがクレーンモードに設定されている場合には(S4でYes)、制御部60は、油圧ショベル1の動作を規制すると却って危険性が増大すると判断し、油圧ショベル1の動作規制の実行を停止する(S9)。これにより、オペレータは、操作部41bにより、作業機3のブーム31、アーム32等を適切に操作して、クレーン作業によって吊り下げた対象物が障害物と衝突する危険を回避することができる。
【0058】
S9にて、動作規制の実行が停止されると、制御部60は、実行停止報知装置100により、動作規制の実行停止を報知させる(S10)。例えば図3で示したように、制御部60は、実行停止報知装置100として機能する表示部71において、俯瞰画像Bvの表示領域の上側に、動作規制の実行停止を示す情報Rを表示させる。また、制御部60は、必要に応じて、回転灯81、発光部82、発報部83の少なくともいずれかを制御して、動作規制の実行停止を報知させる(例えば回転ランプを低速で回転させる、LEDを点滅させる、ブザー音を出力させるなど)。
【0059】
その後、障害物が監視部50の監視領域から退出するなど、監視部50によって障害物が検知されなくなると(S11)、制御部60は、S7と同様に、警報装置90による警報の出力を停止させる(S12)。そして、制御部60は、実行停止報知装置100による動作規制の実行停止の報知を停止させる(S13)。例えば、制御部60は、表示部71にて、情報Rを非表示にする。その後は、S8に移行し、上記と同様の処理が行われる。
【0060】
〔5.効果〕
以上のように、制御部60は、油圧ショベル1の動作モードが特定モード以外の通常モードである場合に、監視部50の監視結果に基づく動作規制を実行する一方、動作モードが特定モードである場合に、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止する(S4、S5、S9)。
【0061】
油圧ショベル1の動作モードが通常モード(例えば走行、旋回、掘削などを行う動作モード)である場合、監視部50が障害物を検知すると、動作規制が実行され、例えば油圧ショベル1の走行が停止する。これにより、油圧ショベル1が走行中に障害物と衝突するなどの、通常生じ得る危険を回避することができる。一方、油圧ショベル1の動作モードが特定モード(例えばクレーンモード)である場合、監視部50が障害物を検知した場合でも、油圧ショベル1の動作規制が実行されない。つまり、クレーンモードにおける吊り作業の動作が停止されない。クレーンモードにおいて、対象物を吊り下げたまま動作が停止すると、慣性力により対象物が暴れて障害物と衝突する場合があり、却って危険性が増大する。この場合は、油圧ショベル1の吊り作業の動作を可能にするほうが、対象物を地面に降ろすなどの危険を回避する措置が直ちに可能となり、危険を回避できる点で好ましい。つまり、動作を停止させると却って危険性が増大する特定モードでは、監視結果に基づく動作規制の実行を停止することにより、危険を回避して油圧ショベル1による作業の安全を確保することができる。
【0062】
特に、制御部60は、監視部50が油圧ショベル1の周囲に障害物を検知した場合において、動作モードが通常モードであるときに、動作規制を実行する一方、動作モードが特定モードであるときに、動作規制の実行を停止する(S2、S4、S5、S9)。
【0063】
監視部50が障害物を検知した場合において、特定モード以外の通常モードでは、油圧ショベル1の動作規制が実行されるため、油圧ショベル1が障害物と衝突する危険を回避することができる。一方、特定モードでは、油圧ショベル1の動作規制の実行が停止されるため、油圧ショベル1の動作を継続して行うことができる。これにより、特定モードでは、監視部50が障害物を検知した場合でも、危険を回避するための動作を油圧ショベル1に実行させて、作業の安全を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、建設機械が油圧ショベル1であり、特定モードは、対象物の吊り作業を行うクレーンモードである(S4)。油圧ショベル1がクレーンモードで動作している場合、対象物を吊り下げた状態で油圧ショベル1の動作を停止させると、対象物が揺れて障害物と衝突するなどの危険性が増大する可能性がある。クレーンモードでは、監視部50の監視結果に基づく油圧ショベル1の動作規制の実行が停止されるため、吊り下げた対象物に揺れが生じた場合でも、吊り下げた対象物が障害物と衝突することを回避する動作を可能にして、上記衝突による危険を早期に回避することができる。
【0065】
また、制御部60は、入力部72によって特定モードの設定を受け付けたときに、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止する(S4、S9)。オペレータが入力部72を操作して特定モードを設定することにより、制御部60は、動作モードが特定モードであることを認識して、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止する制御を行うことができる。
【0066】
また、油圧ショベル1は警報装置90を備える。これにより、例えば、監視部50が障害物を検知した場合には、制御部60が動作規制を実行するか停止するかに関係なく、警報装置90から警報を出力させて、油圧ショベル1のオペレータまたは周囲の人に注意を促し、作業の安全を図ることができる。
【0067】
また、油圧ショベル1は実行停止報知装置100を備える。実行停止報知装置100による動作規制の実行停止の報知により、動作規制の実行が停止されたという事実を、油圧ショベル1のオペレータまたは周囲の人に知らせて注意を促すことができる。
【0068】
また、表示部71は、警報装置90および実行停止報知装置100を兼ねており、監視部50によって取得された画像に加えて、監視部50の監視結果に基づく警報を表示し(S3)、さらに、動作規制の実行が停止されたときに、実行停止を示す情報を表示する(S10)。この構成では、1つの表示部71に、オペレータに知らせるべき複数の情報(撮影画像、警報、動作規制の実行停止の情報)がまとめて表示される。これにより、オペレータは表示部71を見るだけで、複数の情報を容易に認識することができる。
【0069】
〔6.その他〕
以上では、油圧ショベル1の動作規制を実行する特定モードとして、クレーンモードを例に挙げて説明したが、特定モードはクレーンモードには限定されない。例えば、特定モードは転倒防止モードであってもよく、この場合でも、本実施形態と同様の動作規制の実行/停止の制御を適用することができる。
【0070】
転倒防止モードでは、油圧ショベル1の姿勢(ブーム31およびアーム32の回動角度、上部旋回体4の旋回角度等)に応じて変化する油圧ショベル1の重心位置を上記回動角度等から算出し、その算出結果に基づいて、転倒を防止するための動作(例えばブーム31およびアーム32の巻き込み動作)が制御部60による自動制御で行われる。転倒防止モードが働いている間、監視部50による障害物の検知に基づいて、転倒防止動作の規制が実行されると、ブーム31およびアーム32の巻き込み動作が停止して転倒を防止することができなくなり、油圧ショベル1が転倒する危険が生じる。したがって、転倒防止モードを特定モードとし、転倒防止モードのときに、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止させることにより、転倒防止のための動作を実行可能にして、油圧ショベル1の転倒の危険を回避することができる。
【0071】
また、油圧ショベル1が、バケット33に代えてグラップラー(図示せず)を作業機3の先端にアタッチメントとして装着できるように構成される場合、特定モードは、グラップラーで作業を行うグラップルモードであってもよい。グラップラーで重量物を掴んで作業を行っているときに、監視部50による障害物の検知に基づいて動作規制が実行されると、重量物を空中で掴んだままグラップラーの動作が停止する場合がある。この場合、グラップラーで掴んでいる重量物が落下するおそれがある。したがって、グラップルモードを特定モードとし、グラップルモードのときに、監視部50の監視結果に基づく動作規制の実行を停止させることにより、グラップラーで掴んでいる重量物を地面に置く動作を可能にして、重量物の落下の危険を回避することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、例えば油圧ショベルなどの建設機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 油圧ショベル(建設機械)
41b 操作部
50 監視部
60 制御部
71 表示部(警報装置、実行停止報知装置)
72 入力部
81 回転灯(警報装置、実行停止報知装置)
82 発光部(警報装置、実行停止報知装置)
83 発報部(警報装置、実行停止報知装置)
90 警報装置
100 実行停止報知装置
図1
図2
図3
図4