IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タツタ電線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ボンディングワイヤ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ボンディングワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024523409
(86)(22)【出願日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2024002559
【審査請求日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2023013193
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 央
(72)【発明者】
【氏名】滝川 圭美
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/065036(WO,A1)
【文献】特開2001-176912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60-H01L 21/607
C22C 5/00-C22C 30/06
C22C 35/00-C22C 45/10
C22F 1/00-C22C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを主成分として含む芯材と、前記芯材の表面に設けられAuを主成分として含む被覆層と、を有するボンディングワイヤにおいて、
前記芯材は、Au、Pd及びInからなる群から選択された1種又は2種以上を含有し、
前記芯材の直径に対する前記被覆層の膜厚の比率が0.0014以上0.0048以下、
前記被覆層の固有抵抗に対する前記芯材の固有抵抗の比率が85%以上115%以下であり、
前記芯材はAu及びPdを含有し、PdよりAuの含有量が多い、ボンディングワイヤ。
【請求項2】
Agを主成分として含む芯材と、前記芯材の表面に設けられAuを主成分として含む被覆層と、を有するボンディングワイヤにおいて、
前記芯材は、Au、Pd及びInからなる群から選択された1種又は2種以上を含有し、
前記芯材の直径に対する前記被覆層の膜厚の比率が0.0014以上0.0048以下、
前記被覆層の固有抵抗に対する前記芯材の固有抵抗の比率が85%以上115%以下であり、
前記芯材はBiを1質量ppm以上50質量ppm以下含有する、ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記芯材はAu及びPdの少なくとも一方を含有する、請求項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記芯材はAu及びPdを含有し、PdよりAuの含有量が多い、請求項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記芯材はInを0.1質量%以上1.0質量%以下含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のボンディングワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag(銀)を主成分とするボンディングワイヤの表面を、Au(金)を主成分とする被覆層で被覆したボンディングワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子上の電極と基板の電極との結線等に用いられるボンディングワイヤは、一般に非常に細いため、導電性が良好で加工性に優れた金属材料により製造されている。特に、化学的な安定性や大気中での取り扱いやすさから、従来からAuを主成分とするボンディングワイヤが広く用いられている。
【0003】
しかし、Auを主成分とするボンディングワイヤは質量の99%以上がAuであり非常に高価である。そこで、Auに換えてAgを主成分とするボンディングワイヤが提案されている(例えば、下記特許文献1~2)。
【0004】
AgはAuと比べ安価ではあるが、Agを主成分とするボンディングワイヤは、Auを主成分とするボンディングワイヤに比べて、ワイヤ表面が硫化して電極に対する接合不良が発生しやすい。Agの硫化による接合不良を抑えるため、Agを主成分とする芯材の表面を、Auを主成分とする被覆層で被覆したボンディングワイヤが提案されている(例えば、下記特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5616165号
【文献】特許第5529992号
【文献】特表2016-517623号
【文献】国際公開WO2013/129253
【文献】国際公開WO2021/205674
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Agを主成分とする芯材の表面にAuを主成分とする被覆層を設けると、電極に対してボールボンディングする際に真球度の高い良好な形状のフリーエアボール(以下、FABと略記する)を安定的に形成するのが難しかったり、FABを電極に接触させ潰した時に形成される1st接合部の形状を良好な円形とすることが難しい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Agを主成分とする芯材の表面にAuを主成分とする被覆層を設けたボンディングワイヤにおいて、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができるとともに、1st接合部の形状を良好な円形とすることができるボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のボンディングワイヤは、Agを主成分として含む芯材と、前記芯材の表面に設けられAuを主成分として含む被覆層と、を有するボンディングワイヤにおいて、前記芯材は、Au、Pd(パラジウム)、及びIn(インジウム)から選択された1種又は2種以上を含有し、前記芯材の直径に対する前記被覆層の膜厚の比率が0.0014以上0.0048以下、前記被覆層の固有抵抗に対する前記芯材の固有抵抗の比率が85%以上115%以下であるものであり、前記芯材はAu及びPdを含有し、PdよりAuの含有量が多いものである。
本発明の他のボンディングワイヤは、Agを主成分として含む芯材と、前記芯材の表面に設けられAuを主成分として含む被覆層と、を有するボンディングワイヤにおいて、
前記芯材は、Au、Pd及びInからなる群から選択された1種又は2種以上を含有し、前記芯材の直径に対する前記被覆層の膜厚の比率が0.0014以上0.0048以下、前記被覆層の固有抵抗に対する前記芯材の固有抵抗の比率が85%以上115%以下であり、前記芯材はBiを1質量ppm以上50質量ppm以下含有するものである。
【0009】
本発明の他のボンディングワイヤにおいて、芯材はAu及びPdの少なくとも一方を含有してもよい。
【0010】
本発明の他のボンディングワイヤにおいて、芯材はAu及びPdを含有し、PdよりAuの含有量が多くてもよい。
【0012】
本発明に係るボンディングワイヤにおいて、芯材はInを0.1質量%以上1.0質量%以下含有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のボンディングワイヤでは、Agを主成分とする芯材の表面にAuを主成分とする被覆層を設けたボンディングワイヤにおいて、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができるとともに、1st接合部の形状を良好な円形とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るボンディングワイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)ボンディングワイヤWの構成
以下、本発明の一実施形態に係るボンディングワイヤWについて図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態のボンディングワイヤWは、半導体装置(パワーIC、LSI、トランジスタ、BGA(BallGrid Array package)、QFN(Quad Flat Non lead package)、LED(発光ダイオード)等)における半導体素子上の電極(例えば、Al合金電極、ニッケル・パラジウム・金被覆電極、Au被覆電極等)と、回路配線基板(リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等)2の導体配線(電極)とをボールボンディング法によって接続するためのボンディングワイヤである。なお、本実施形態のボンディングワイヤWは、半導体装置以外にも種々の態様のボンディングワイヤとして使用することができる。
【0017】
本実施形態に係るボンディングワイヤWは、図1に示すように、Agを主成分とする芯材10と、Auを主成分とする被覆層12とを備え、露出部がないように芯材10の外周面全体を被覆層12が被覆している。
【0018】
具体的には、芯材10は、Agを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有している。芯材10を構成するAgは、精製上不可避的に存在するFe(鉄)等の不純物を含有してもよく、純度99.9質量%以上のAgを用いてボンディングワイヤWを構成するAg合金を製作することが好ましい。
【0019】
芯材10は、Ag以外にAu、Pd及びInからなる群から選択された1種又は2種以上を含有し、芯材10の固有抵抗ρ1が調整されている。つまり、被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率β(=ρ1/ρ2)が85%以上115%以下となるように、好ましくは90%以上110%以下となるように、芯材10におけるAu、Pd及びInの含有量が調整されている。
【0020】
芯材10及び被覆層12の固有抵抗の一例を挙げると、芯材10の固有抵抗を1.95μΩ・cm以上3.26μΩ・cm以下、被覆層12の固有抵抗を2.30μΩ・cm以上2.83μΩ・cm以下とすることができる。
【0021】
被覆層12の固有抵抗が2.3μΩ・cmの場合に、芯材10がAu、Pd及びInからなる群から1種のみを含有して、被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率βを85%以上115%以下とするには、Auを1.3質量%以上4.0質量%以下含有することができ、Pdを0.7質量%以上2.1質量%以下含有することができ、Inを0.2質量%以上0.6質量%以下含有することができる。
【0022】
また、ボンディングワイヤWは、芯材10の直径φに対する被覆層12の膜厚tの比率α(=t/φ)が0.0014以上0.0048以下となるように芯材10の直径φ及び被覆層12の膜厚tが設定されている。芯材10の直径はボンディングワイヤの用途に応じて種々の大きさとしてよい。例えば、芯材10の直径(線径)φは15μm以上150μm以下とすることができる。被覆層12の膜厚tは0.15μm以上であることが好ましく、0.50μm以下であることが好ましい。
【0023】
なお、芯材10の固有抵抗は、評価用試料を3つ作製し、4端子法を用いて室温で3つの評価用試料の固有抵抗をそれぞれ測定し、測定結果の平均値を芯材10の固有抵抗とする。また、被覆層12の固有抵抗は、被覆層12と同じ合金組成で作製したボンディングワイヤから評価用試料を3つ作製し、芯材10と同様、4端子法を用いて室温で3つの評価用試料の固有抵抗をそれぞれ測定し、測定結果の平均値を芯材10の固有抵抗とする。
【0024】
また、芯材10の直径φ及び被覆層12の膜厚tは、蛍光X線膜厚計で、X線を照射し発生した蛍光X線の強度を被覆層の膜厚に換算して求めた。
【0025】
ボンディングワイヤWは、芯材10においてAuを含有することが好ましく、また、AuとともにPdを含有することが好ましい。芯材10がAu及びPdの両元素を含有する場合、PdよりAuの含有量が多いことが好ましい。芯材10がAu及びPdの両元素を含有する場合、Au及びPdの含有量の合計が0.6質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。
【0026】
芯材10は、0.1質量%以上1.0質量%以下のInを含有してもよい。芯材10が0.1質量%以上のInが含有していると、FABを電極に押し当て潰した時に形成される1st接合部の耐食性が向上し、長期信頼性を改善することができる。芯材10におけるInの含有量が1.0質量%以下であるとワイヤの固有抵抗が適切な範囲に維持される。
【0027】
また、芯材10は、Au、Pd、及びInからなる群から選択された1種又は2種以上に加え、1質量ppm以上50質量ppm以下のBiを含有してもよい。
【0028】
なお、本発明では、上記したAu、Pd、Bi及びInに加え、更に、Ca及びCuからから選択された1種又は2種の元素を追加的に含有してもよい。Ca及びCuの含有量の合計が100質量ppm以下であれば、Au、Pd、Bi及びInを添加したことによる上記した作用効果を損なうことがなく、ワイヤの強度を向上させることができる。CaやCuを添加する場合、Ca及びCuの含有量の合計は、1質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5質量ppm以上85質量ppm以下である。
【0029】
被覆層12は、95質量%以上、好ましくは99質量%以上の金を含有し、主成分として金を含有している。被覆層12は、純金(金の含有量99.9%以上)で構成してもよく、また、金に添加元素を加えた金合金により構成してもよい。被覆層12を構成する金合金は、Ag、Pd、Bi、Pt(白金)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Sb(アンチモン)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含有してもよい。
【0030】
(2)ボンディングワイヤWの製造方法
次に、上記構成のボンディングワイヤWの製造方法の一例を説明する。
【0031】
まず、純度99.9質量%以上のAgに、Au、Pd及びInから選択された元素を添加し、必要に応じて、Bi、Ca、Cuを添加して95質量%以上のAgを含有することで、被覆層12の固有抵抗ρ2の85%以上115%以下の固有抵抗のAg合金を鋳造した後、連続鋳造法にて所定の径の棒状インゴットを作製する。
【0032】
次いで、棒状インゴットを伸線加工して、所定の直径の芯材10になるまで縮径する。その後、芯材10の外周全面に、Auを含む被覆層12を形成する。被覆層12は、電気メッキ法、無電解メッキ法、蒸着法などの公知の手段によって形成することができる。
【0033】
そして、被覆層12が形成された芯材10を更に伸線加工して、所定の直径に達するまで縮径する。これにより、芯材10の直径φに対する被覆層12の厚みtの比率αが0.0014以上0.0048以下、被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率βが85%以上115%以下のボンディングワイヤWを得ることができる。
【0034】
なお、必要に応じて伸線加工の途中や伸線加工の終了後にボンディングワイヤWに熱処理を行ってもよい。熱処理の一例を挙げると、大気雰囲気、窒素ガス雰囲気、又は水素5%と窒素95%の混合ガス雰囲気において300~1000℃で0.1~60秒間連続焼鈍処理を施すことができる。
【0035】
(3)効果
本実施形態のボンディングワイヤWでは、芯材10の外周面に金を主成分とする被覆層12が設けられているため、ボンディングワイヤWの耐食性を向上させることができるとともに、Al(アルミニウム)やAuやAgやこれらの合金等の電極を構成する金属に対して良好な接合強度が得られる。
【0036】
ボンディングワイヤWにおいて、被覆層12の膜厚tを芯材10の線径φの0.0014倍以上とすることで、ボンディングワイヤWの耐食性能が発揮され大気中においてボールボンディングが可能となるとともに、電極を構成する金属に対して良好な接合強度が得られる。また、被覆層12の膜厚tを芯材10の線径φの0.0048倍以下とすることで、FAB形成時に溶解したボンディングワイヤWの表面張力のバランスを良好に保つことができ、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができる。
【0037】
ボンディングワイヤWにおいて、被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率を85%以上115%以下とすることで、ボンディングワイヤWの先端を放電加熱した時に、放電した電気がボンディングワイヤWの先端部を均一に流れ、ボンディングワイヤWの先端部がどの方向からも溶解してFABが均一に成長する。そのため、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができるとともに、1st接合部の形状を良好な円形とすることができる。
【0038】
ボンディングワイヤWにおいて、芯材10がAuを含有することにより、放電加熱等によりボンディングワイヤWの先端にFABを形成した時に、被覆層12のAuが芯材10へ拡散しにくくなり、真球度の高い良好な形状のFABをより一層安定して形成することができる。
【0039】
PdはAuより固有抵抗が大きいため、芯材10がAuとともにPdを含有することにより、Au及びPdの合計含有量を抑えつつ、Agを主成分とする芯材10の固有抵抗をAuの固有抵抗に近づけることができる。また、芯材10がAu及びPdの両元素を含有する場合、PdよりAuの含有量が多いことにより、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができるとともに、1st接合部の形状を良好な円形とすることができる。
【0040】
ボンディングワイヤWにおいて、芯材10がBiを1質量ppm以上50質量ppm以下含有していると、真球度の高い良好な形状のFABを安定的に形成することができる。
【0041】
ボンディングワイヤWにおいて、芯材10が0.1質量%以上のInが含有していると、FABを電極に押し当て潰した時に形成される1st接合部の耐食性が向上し、長期信頼性を改善することができる。芯材10におけるInの含有量が1.0質量%以下であるとワイヤの固有抵抗が適切な範囲に維持され、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
純度99.9質量%以上のAg原料を用いて、下記表1に示すような組成のAg合金を溶解し、連続鋳造法にて棒状インゴットを作製した。そして、棒状インゴットに伸線加工を施して直径が105μmの芯材10になるまで縮径した後、電気メッキ法によって芯材10の外周面に下記表1に示すような組成のAu合金からなる被覆層12を形成した。その後、被覆層12が形成された芯材10を更に伸線加工して、線径φが20μm、被覆層12の膜厚tが約57nmに達するまで縮径した後、水素5%と窒素95%の混合ガス雰囲気において400~600℃で0.4~0.5秒間、連続焼鈍処理(熱処理)を施し、実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤを得た。
【0045】
また、芯材10の外周面をAuによって被覆しない点以外は、上記と同様の方法によって、実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤの芯材10のみからなるワイヤと、実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤの被覆層12と同じ合金組成からなるワイヤとを作製した。
【0046】
そして、実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤについて、上記した測定方法によって芯材10の直径φと被覆層12の膜厚tを測定し、これらの測定結果から芯材10の直径φに対する被覆層12の膜厚tの比率αを算出した。
【0047】
また、芯材10のみからなるワイヤと被覆層12と同じ合金組成のワイヤとを用いて、上記した測定方法によって芯材10の固有抵抗ρ1、被覆層12の固有抵抗ρ2を測定した。得られた芯材10の固有抵抗ρ1、被覆層12の固有抵抗ρ2から被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率βを算出した。
【0048】
実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤにおける、芯材10の直径φ、被覆層12の膜厚t、比率α、芯材10の固有抵抗ρ1、被覆層12の固有抵抗ρ2、及び比率βは下記表1に示すとおりである。
【0049】
得られた実施例1~21及び比較例1~7のボンディングワイヤにつき、次の(1)~(4)の評価を行った。具体的な評価方法は以下のとおりである。
(1)FAB真球性(形成性)
ワイヤボンダー(株式会社新川製、UTC-5000NeoCu)にてワイヤ直径の1.9倍~2.1倍の大きさのFABを雰囲気で作製した。FAB真球性(形成性)の評価としては、実施例及び比較例のボンディングワイヤ毎にFABを100個ずつ作製した後、汎用型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-6510LA)にて外観観察を行い、作製したFABのワイヤ平行方向と垂直方向の長さをそれぞれ測定した。FABのワイヤ平行方向の長さXと垂直方向の長さYの比(X/Y)の平均値が100±5%の範囲内であれば「真球性あり」と判断し「A」、上記の比(X/Y)の平均値が92%以上95%未満もしくは105%より大きく108%以下であれば「B」、上記の比(X/Y)の平均値が90%以上92%未満もしくは108%より大きく110%以下であれば「C」、目視して円形でなければ「D」とした。
(2)1st接合部の形状安定性
上記(1)で用いたワイヤボンダーにて大気ガス雰囲気で作製した100個のFABを電極に押し当てて1st接合部の直径がFABの直径の1.4倍の大きさになるようにボンディングを行った。1st接合部の中心と、ワイヤボンダーに設けられたキャピラリのチャンファー径との中心間距離を三次元顕微鏡(オリンパス製小型測定顕微鏡、STM6)にて測定した。100個のFAB全てにおいて中心間距離が2.5μm以下であれば「A」、2.5μmを超えて5μm以下の1st接合部の発生率が20%未満であれば「B」、2.5μmを超えて5μm以下の1st接合部の発生率が20%以上であれば「C」、5μmを超える1st接合部が1個でもあれば真円性が低くファインピッチ用途に不適と考えて「D」とした。
(3)高温放置試験(長期信頼性)
上記(1)で用いたワイヤボンダーにて大気雰囲気でボンディングを行った後、エポキシ樹脂封止をした半導体試料を作成した。市販の恒温槽を用いて作成した半導体試料を150℃で1000時間保持した後、電気的測定を行い、導通評価をした。評価したワイヤ数は500本であり、不良率が1%以下の場合は「A」、1%を超え3%以下の場合は「B」、3%を超える場合は耐性が低いことから「D」とした。
(4)総合評価
上記の(1)~(3)の評価項目において、すべてA評価であれば「A」、A評価が1~2つであれば「B」、A評価がなければ「C」、D評価がひとつでもあれば「D」とした。
【0050】
【表1】

結果は、表1に示すとおりであり、実施例1~21では上記(1)~(4)の全ての評価において良好な結果が得られた。
【0051】
一方、芯材10の直径φに対する被覆層12の厚みtの比率αが0.0014以上0、0048以下の範囲から外れる比較例1~3では、円形のFABが形成されず、FAB真球性及び1st接合部の形状が悪化した。また、被覆層12の固有抵抗ρ2に対する芯材10の固有抵抗ρ1の比率βが85%以上115%以下の範囲から外れる比較例4~7では、1st接合部の形状が悪化した。
【符号の説明】
【0052】
10…芯材、12…被覆層、W…ボンディングワイヤ
【要約】
Agを主成分とする芯材の表面にAuを主成分とする被覆層を設けたボンディングワイヤにおいて、真球度の高い良好な形状のFABを形成することができるボンディングワイヤを提供する。本発明のボンディングワイヤは、Agを主成分として含む芯材10と、芯材10の表面に設けられAuを主成分として含む被覆層12と、を有するボンディングワイヤWにおいて、芯材10は、Au、Pd、及びInからなる群から選択された1種又は2種以上を含有し、芯材10の直径に対する被覆層12の膜厚の比率が0.0014以上0.0048以下、被覆層12の固有抵抗に対する芯材10の固有抵抗の比率が85%以上115%以下のものである。
図1