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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】モータ駆動装置及びこれを用いた冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
F04B49/02 331D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021558178
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020032981
(87)【国際公開番号】W WO2021100279
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019210968
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 義典
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 好正
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-214486(JP,A)
【文献】特開2007-267451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0257044(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0086080(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシプロ型の圧縮機が有するピストンを駆動するブラシレスDCモータと、
前記圧縮機の駆動停止中に前記ピストンを上死点からずらすよう前記ブラシレスDCモータを回転させるピストン位置変更部と、を備え
前記ピストン位置変更部は、前記ブラシレスDCモータを回転させる際、前記ブラシレスDCモータに通電し、
前記ピストン位置変更部が前記ブラシレスDCモータに通電する位相は、上死点を含み、出力が周期的に変更するように設定される、
モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置が駆動する前記圧縮機を筐体上部に備える、
冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機のブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置及びこれを用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来の圧縮機のブラシレスDCモータを駆動する冷蔵庫用のモータ駆動装置を開示する。このモータ駆動装置で駆動する圧縮機を搭載した冷蔵庫等の冷凍装置は、冷却運転の停止時、冷凍サイクルを高圧側と低圧側とにサイクル上分離して、冷媒の流れ込みを防ぐことにより、省エネルギ化を図る。しかし、そのように構成した場合、圧縮機の内部において、吸入圧力と吐出圧力とに大きな差が残る、すなわち吸入部と吐出部とに大きな圧力差が生じる。したがって、圧縮機の起動時、圧縮工程を乗り越える、すなわち圧縮工程を達成するために、大きなエネルギが必要となる。
【0003】
そこで、従来の圧縮機駆動用のモータ駆動装置では、起動前の圧縮機のピストンの位置を、上死点および下死点の間における上死点隣まで移動させる。ピストンを上死点隣まで移動させた後、圧縮機を起動させることにより、大きな加速が行われ、エネルギが蓄えられる。これにより、圧縮工程を乗り越える、すなわち圧縮工程が達成され、圧縮機が起動する。
【0004】
図6は、特許文献1に記載された従来のモータ駆動装置を示す。このモータ駆動装置は、ブラシレスDCモータ201およびブラシレスDCモータ201のロータに連結されたピストン202を有する圧縮機203と、モータを下死点に移動させる初期整列段階、吸入工程内の上死点隣に起動位置を移動させる強制整列段階およびブラシレスDCモータ201の回転子を加速させる加速段階を含む制御部204と、制御部204での駆動信号からモータに電力を供給するインバータ205とから構成されている。
【0005】
上記のように構成されたモータ駆動装置は、圧縮機203の停止時に、ピストン202が圧縮工程の手前で停止する確率が高く、ピストン202が下死点付近に停止しやすい。したがって、制御部204は、初期整列段階において、ピストン202が下死点の位相となる信号をインバータ205に送る。その後、インバータ205が電流をブラシレスDCモータ201のステータに流すことにより、ブラシレスDCモータ201のロータが回転し、ピストン202は下死点に移動する。
【0006】
次に、制御部204は、強制整列段階において、ピストン202が下死点の位相から逆転方向に順次切替わる信号をインバータ205に送る。これにより、ピストン202の位置は、吸入工程における上死点隣まで移動させる。
【0007】
そして、制御部204は、加速段階において、ブラシレスDCモータ201を起動し加速させる信号をインバータ205に送る。これにより、ブラシレスDCモータ201は回転する。ピストン202は、上死点近傍から加速しているため、圧縮工程における速度が大きくなり、圧縮工程を乗り越える、すなわち圧縮工程が達成され、起動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-107523号公報
【発明の概要】
【0009】
本開示は、圧縮機の吸入圧力と吐出圧力とに差があるような負荷トルク変動が大きな状態であっても、安価であり、振動を抑制しかつ安定して起動できるモータ駆動装置を提供する。
【0010】
本開示におけるモータ駆動装置は、レシプロ型の圧縮機が有するピストンを駆動するブラシレスDCモータと、前記圧縮機の駆動停止中に前記ピストンを上死点からずらすよう前記ブラシレスDCモータを回転させるピストン位置変更部とを備える。
【0011】
本開示のモータ駆動装置は、圧縮機の駆動停止中に前記ピストンを上死点からずらすので、トルク不足を解消できる。したがって、高トルク駆動時および高負荷駆動時の駆動性能が向上する。このため、負荷トルク変動が大きな状態であっても、安定して起動できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図
図2】実施の形態1における圧縮機を構成する部品の模式図
図3A】実施の形態1における圧縮機のピストンにかかる圧力と回転子の回転角度との関係を示す波形図
図3B】実施の形態1におけるブラシレスDCモータが正転方向での運転中に必要なトルクと回転子の回転角度との関係を示す波形図
図3C】実施の形態1におけるブラシレスDCモータが逆転方向での運転中に必要なトルクと回転子の回転角度との関係を示す波形図
図4A】従来の構成における上死点から起動させるために必要なトルクを表した波形図
図4B】従来の構成における上死点からピストンを移動させるために出力するトルクを表した波形図
図4C】従来の構成における上死点から起動したときの回転子の速度を表した波形図
図5A】実施の形態1における上死点から起動させるために必要なトルクを表した波形図
図5B】実施の形態1における上死点からピストンを移動させるために出力するトルクを表した波形図
図5C】実施の形態1における上死点から起動したときの回転子の速度を表した波形図
図6】従来のモータ駆動装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、特許文献1に記載されたモータ駆動装置が提供されていた。従来のモータ駆動装置は、圧縮機の吸入圧力と吐出圧力とに差があるため、負荷トルク変動が大きく、振動を抑制しつつ安定して起動することが困難であった。
【0014】
特許文献1の構成では、ピストンが下死点付近に停止していることが想定されている。したがって、クランクシャフトの連結部およびピストンとシリンダ等との間において、冷媒に含まれるオイルが周囲に押しのけられることにより金属接触となる。このため、摩擦力が大きくなる上死点付近にピストンが停止した場合、ピストンを上死点から動かすために必要なトルクは、運転中よりも大きくなる。そのため、トルクが不足し、ピストンを正しい位置に移動させることができない。したがって、モータ駆動装置の起動不良などが発生するという課題を有している。
【0015】
また、ピストンが上死点に停止した際に、ピストンを動かすために必要なトルクを印加すると、ピストンが動き出した際にオイルが回り、摩擦力が低下する。これにより、急激な加速が発生し、振動となって表れるという課題を有している。つまり、差圧起動を行う際に上死点付近にピストンが停止すると、モータ駆動装置の起動不良または振動が発生するという課題を有している。発明者らはこのような課題を見出し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0016】
本開示は、圧縮機の吸入圧力と吐出圧力とに差があるような負荷トルク変動が大きな状態であっても、安価に振動を抑制しつつ安定して起動するモータ駆動装置を提供する。
【0017】
以下、図面を参照しながら、実施の形態、すなわち冷蔵庫に搭載した圧縮機のモータ駆動装置を例にして説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0018】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0019】
(実施の形態1)
以下、図1図5Cを用いて、実施の形態1を説明する。
【0020】
[1-1.構成]
図1は、本開示の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。図2は同実施の形態1における圧縮機17を構成する部品の模式図である。
【0021】
図1に示すように、モータ駆動装置30は、交流電源1に接続され、ブラシレスDCモータ5を駆動する。図2に示すように、ブラシレスDCモータ5の回転子5a、クランクシャフト17a、ピストン17bおよびシリンダ17cにより、レシプロ型の圧縮機17が構成されている。圧縮機17は、冷蔵庫22に搭載され、冷凍サイクルの一部を構成する。
【0022】
交流電源1は、一般的な商用電源である。交流電源1は、例えば、実効値100Vの50Hzまたは60Hzの電源である。
【0023】
以下、モータ駆動装置30の構成について説明する。
【0024】
整流回路2は、交流電源1を入力として、交流電力を直流電力に整流する。整流回路2は、ブリッジ接続された4個の整流ダイオード2a~2dにより構成される。
【0025】
平滑部3は、整流回路2の出力側に接続され、整流回路2の出力を平滑する。平滑部3は、平滑コンデンサ3eと、リアクタ3fとを有する。平滑部3からの出力は、インバータ4に入力される。
【0026】
リアクタ3fは、交流電源1と平滑コンデンサ3eとの間に挿入される。リアクタ3fは、整流ダイオード2a~2dの前後いずれに設けられてもよい。リアクタ3fは、高周波除去部を構成するコモンモードフィルタが回路に設けられた場合、高周波除去部のリアクタンス成分との合成成分が考慮されて構成される。
【0027】
インバータ4は、平滑部3からの電圧に交流電源1の電源周期の2倍周期の大きなリプル成分を含んだ直流電力を、交流電力に変換する。インバータ4は、6個のスイッチング素子4a~4fが3相ブリッジ接続されて構成される。また、6個の還流電流用ダイオード4g~4lは、各スイッチング素子4a~4fに、逆方向に接続される。
【0028】
ブラシレスDCモータ5は、永久磁石を有する回転子5aと、3相巻線を有する固定子5bとを有する。インバータ4により生成される3相交流電流が固定子5bの3相巻線に流れることにより、回転子5aが回転する。
【0029】
位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧、ならびに、固定子5bの3相巻線に流れる電流および印加電圧などに基づいて、固定子5bの磁極位置を検出する。
【0030】
本実施の形態において、位置検出部6は、ブラシレスDCモータ5の端子電圧を取得し、ブラシレスDCモータ5の回転子5aの磁極相対位置を検出する。具体的には、位置検出部6は、固定子5bの3相巻線に発生する誘起電圧に基づいて、回転子5aの相対的な回転位置を検出している。また、位置検出部6は、誘起電圧および基準となる電圧を比較し、ゼロクロスを検出する。なお、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧は、3相分の端子電圧から仮想中点が作られた際の電圧であってもよく、直流母線電圧が取得された際の電圧であってもよい。本実施の形態では、誘起電圧のゼロクロスの基準となる電圧は、仮想中点の電圧である。
【0031】
本実施の形態において、位置検出部6は、誘起電圧を検出する方式である。しかし、位置検出部6は、ブラシレスDCモータ5に流れる電流から位置を検出しても良い。位置検出部6は、インバータ4の直流母線に流れる電流をシャント電圧により検出し、通電状態および電流値から各相に流れる電流を検出する方式であってもよい。また、位置検出部6は、3相それぞれに流れる電流をセンサーおよびシャント抵抗などを用いて堅守する方式であってもよい。
【0032】
電流を検出する手段として比較した場合、直流母線の電流値から検出する方式は安価な構成となるが、各相の電流を分離するために波形にひずみが生じる場合がある。電流から位置を推定する場合および誘起電圧の場合において、誘起電圧から行う方式は、電流から位置を推定する場合よりも相対的に計算量が少なく、簡単な構成かつ安価に実現することができる。
【0033】
速度検出部7は、位置検出部6が検出する位置情報からブラシレスDCモータ5の現在の駆動速度を計算する。本実施の形態では、速度検出部7は、誘起電圧のゼロクロス検出からの時間を測定し、測定した時間から現在の速度として計算する。
【0034】
電圧検出部8は、インバータ4の直流母線間の電圧を検出する。一般的には、抵抗において分圧し、電圧をマイコンで扱える範囲に減圧、すなわち140V程度から5V以下に減圧した後、マイコンで逆算することにより、元の電圧を算出する。本実施の形態では、電圧を100分の1に分圧した値が用いられる。
【0035】
ピストン位置変更部11は、外部から入力される目標速度が0から0と異なる値に変化した時に、ブラシレスDCモータ5を駆動させ、圧縮機17のピストン17bの位置を動かす。
【0036】
一般的に、圧縮機17が停止した際のピストン17bの停止位置は管理されていない。したがって、ピストン17bは、ランダムな場所に停止する。その際、圧縮機17のピストン17bが上死点付近に停止した際は、ピストン17bに大きな摩擦力が働く。そのため、ピストン17bが通常動作するよりも大きなトルクが必要となり、ピストン17bを動かすことが困難な状態となる。したがって、圧縮機17の起動には、上死点付近からピストン17bを動かす特別な動作が必要となる。
【0037】
ピストン位置変更部11は、上死点付近からピストン17bを動かす特別な動作として、上死点から回転子5aを15度逆転した位相を中心に出力位相を変化させる。出力が変化する周期において、出力した位相に対し、回転子5aは完全には追従しない。ピストン位置変更部11による出力位相の変化は、あらかじめ決定された所定時間が経過することにより終了する。なお、あらかじめ決定された所定時間は、回転子5aを実際に動作させ、最大負荷にて移動できる期間より長く設定されてもよい。また、あらかじめ決定された所定期間は、圧力、各部位の摩擦係数およびイナーシャなどから計算によって求めても良い。
【0038】
トルク決定部12は、外部から入力される目標速度が0から0と異なる値に変化した際に、ピストン位置変更部11によりピストン17bの位置を上死点付近から移動させる動作に必要なトルクを出力する。トルク決定部12は、ピストン位置変更部11からの出力がある期間において、徐々にトルクを増加させる。トルク決定部12は、ピストン位置変更部11が動作していない時、速度検出部7から入力されるブラシレスDCモータ5の現在の速度と目標速度との差に基づいて必要なトルクを決定し、出力する。目標速度に対して、現在の速度が不足している場合には、トルク決定部12は、トルクを上昇させる。目標速度に対して、現在の速度が上回っている場合には、トルク決定部12は、トルクを減少させることにより、回転子5aの速度を目標速度に到達させる。
【0039】
出力決定部10は、トルク決定部12により決定されたトルクに基づくブラシレスDCモータ5のトルク定数、誘起電圧定数および抵抗値等から印加電圧を決定する。出力決定部10は、決定した印加電圧と電圧検出部8で検出された直流母線間の電圧とに基づき、PWMデューティ幅を計算する。
【0040】
また、出力決定部10は、位置検出部6および速度検出部7から受け取った情報、または、ピストン位置変更部11の出力を基に、出力、すなわちどの相に通電するかを決定する。ピストン位置変更部11からの入力信号がある場合、出力決定部10は、ピストン位置変更部11からの入力信号に基づき、出力する信号を決定する。ピストン位置変更部11からの入力信号がない場合、出力決定部10は、位置検出部6の位置情報と速度検出部7の速度情報とに基づき、出力する信号を決定する。
【0041】
通常、駆動波形には、矩形波および正弦波などがある。しかし、本実施の形態において、駆動波形は特に限定されない。例えば、矩形波の場合、矩形波は単純な構成かつ計算が簡易であるため、安価なマイコンで対応でき、低コストで実現が可能である。また、複雑な計算および電流検出などが必要となるが、より細かくモータの位置を検出することが可能となる。本実施の形態においては、より低コストで実現可能な矩形波駆動を採用している。
【0042】
本実施の形態では、モータ駆動装置30の駆動は、120度矩形波で行われる。したがって、上側アームのスイッチング素子4a,4c,4eをそれぞれ120度ずつずらして通電している。下側アームのスイッチング素子4b,4d,4fも同様に、120度ずつずらして通電している。スイッチング素子4aと4b、4cと4d、および、4eと4fは、それぞれ、お互いの通電期間の間に60度ずつのオフ期間が存在する。
【0043】
ドライブ部9は、出力決定部10で決定されるオン比率と、ブラシレスDCモータ5の電力供給タイミングと、あらかじめ決定されているPWM周期とに基づき、ドライブ信号を出力する。
【0044】
具体的には、ドライブ信号は、インバータ4のスイッチング素子4a~4fをオンまたはオフに切り換える。これにより、固定子5bには最適な交流電力が印加される。したがって、回転子5aが回転し、ブラシレスDCモータ5が駆動する。
【0045】
次に、本実施の形態におけるモータ駆動装置30を用いた冷蔵庫について説明する。以下の説明では、冷蔵庫を例にして説明するが、冷凍装置でも同じである。
【0046】
冷蔵庫22には、圧縮機17が搭載されている。圧縮機17は、例えば、レシプロ型である。圧縮機17は、ブラシレスDCモータ5、クランクシャフト17a、ピストン17bおよびシリンダ17cを有する圧縮機構により構成される。
【0047】
ブラシレスDCモータ5の回転子5aの回転運動は、クランクシャフト17aにより、往復運動に変換される。クランクシャフト17aに接続されたピストン17bは、シリンダ17c内を往復運動することにより、シリンダ17c内に冷媒を吸い込み、吸い込んだ冷媒を圧縮する。レシプロ型の圧縮機17は、吸入および圧縮の工程におけるトルク変動が大きく、速度および電流値が大きく変動する。
【0048】
圧縮機17により圧縮された冷媒は、凝縮器19、二方弁18、減圧器20および蒸発器21を順に通り、再び圧縮機17に戻る冷凍サイクルを流れる。このとき、凝縮器19では放熱され、蒸発器21では吸熱される。したがって、冷凍サイクルでは、冷却および加熱が行われる。冷蔵庫22は、このような冷凍サイクルを搭載する。
【0049】
二方弁18は、例えば、通電によって開閉動作が可能な電磁弁などである。二方弁18は、圧縮機17の運転中は開状態であり、凝縮器19と減圧器20とを連通させ、冷媒を流す。一方、圧縮機17の停止中は、二方弁18は閉状態であり、凝縮器19と減圧器20の間を閉塞し、冷媒の流れを抑制する。
【0050】
[1-2.動作]
以上のように構成された冷蔵庫22に搭載されたモータ駆動装置30について、図3A図5Cを用いて説明する。
【0051】
図3Aは、ピストン17bにかかる圧力と、回転子5aの回転角度との関係を示す図である。縦軸は圧力を示し、横軸は上死点を0度とした回転子5aの回転角度を示す。
【0052】
図3Bは、ブラシレスDCモータ5が正転方向での運転中に必要なトルクと、回転子5aの回転角度との関係を示す図である。縦軸はトルクを示し、横軸は上死点を0度とした回転子5aの回転角度を示す。
【0053】
図3Cは、ブラシレスDCモータ5が逆転方向での運転中に必要なトルクと、回転子5aの回転角度との関係を示す図である。縦軸はトルクを示し、横軸は上死点を0度とした回転子5aの回転角度を示す。
【0054】
図4A図4Cは、従来の構成における上死点からのピストン17bを移動させるための波形を示す。
【0055】
図5A図5Cは、本実施の形態における上死点からのピストン17bを移動させるための波形を示す。
【0056】
図4A図5Aとは、それぞれ上死点から起動させるために必要なトルクを示しており、縦軸は上方向に正転方向のトルクおよび下方向に逆転方向のトルクを示し、横軸は時間を示す。
【0057】
図4B図5Bとは、ピストン17bを移動させるために出力するトルクを示しており、縦軸は上方向に正転方向のトルクおよび下方向に逆転方向のトルクを示し、横軸は時間を示す。
【0058】
図4C図5Cとは、回転子5aの速度を示しており、縦軸は正転方向を正とした速度を示し、横軸は時間を表している。
【0059】
圧縮機17の停止中において、ピストン17bとシリンダ17c、クランクシャフト17aとシリンダ17c、および、クランクシャフト17aと回転子5aの間の接触部分は、運転中の冷媒に含まれたオイルが潤滑油として表面を覆った状態とは異なり、金属接触となる。金属接触は、オイルと比較すると摩擦係数が10倍程度に大きくなる。圧縮機17の停止中の接触部分の摩擦力は、ピストン17bの圧力に比例する。
【0060】
ピストン17bの圧力は、図3Aに示すように、角度(A)で示される下死点から、角度(C)で示される上死点の間で大きくなる。角度(A)より角度が小さい領域においては、ピストン17bにはほとんど圧力がかかっていない状態となる。特に、ピストン17bからの吐出が始まる角度(B)から角度(C)の間において、ピストン17bの圧力は最大となる。ピストン17bの下死点である角度(A)と上死点である角度(C)とにおいて、ピストン17bの圧力はほとんど変わらない。しかし、ピストン17bからの吐出が始まる角度は一定とはならず、圧縮機17の吸入と吐出の圧力および冷媒の温度等の条件によって変化する。ここで、一般的な冷蔵庫の運転条件において、ピストン17bの吐出が始まる角度は、300度前後となる。このため、停止中の摩擦力は、上死点手前において、非常に大きくなる。
【0061】
また、通常の正転方向への回転において、ブラシレスDCモータ5が出力する必要のあるトルクは、図3Bのようになる。上死点付近では、回転子5aの1度あたりの回転に対して、ピストン17bの移動量は小さくなる。このため、回転子5aにかかるトルクは小さくなる。そのため、角度(B)付近において、ピストン17bの停止状態から回転子5aを正転方向へ回転させようとした場合、静止摩擦力と回転に必要なトルクとを合成した結果、ピストン17bを動かすためには、非常に大きなトルクが必要となる。
【0062】
一方、逆転方向への回転において、ブラシレスDCモータ5が出力する必要のあるトルクは、図3Cのようになる。上死点付近から、逆転方向へ動かした場合、ピストン17bは圧縮ではなく吸入の動作をする。そのため、角度(B)付近でも非常に小さなトルクにより、逆転方向にて下死点まで回転させることができる。その結果、ピストン17bの停止中から回転子5aを逆転方向へ回転させようとした場合、摩擦力を少し上回る程度のトルクを出力することにより、ピストン17bを移動させることができる。
【0063】
一般的には、図4Bのように、徐々に出力トルクを大きくし、図4Aに示す必要トルクを出力トルクが上回るタイミング(D)にてピストン17bが動き始める。
【0064】
しかしながら、一旦、ピストン17bが動き出すと、金属接触が解消される。したがって、摩擦係数は10分の1となる。このため、図4Aのタイミング(D)に示すように、摩擦力は急減し、出力したトルクは必要なトルクに対して非常に大きな値となる。その結果、図4Cのタイミング(D)以降に示すように、回転子5aは急激に加速する。したがって、回転子5aは、電流を印加した初期の位置決めの位相に到達したときの速度が大きいため、位置決め位置に停止する際の速度変化は大きくなる。そのため、圧縮機は大きく揺れる。
【0065】
そこで、本実施の形態では、通電位相を上死点から正転方向に330度の角度を中心とした±30度の範囲において回転子5aを振動させ、かつ、出力を徐々に上昇させる。330度に印加される、すなわち330度に対して出力しているトルクとしてみると、図5Bに示すように、正転方向と逆転方向とは周期的に変化する。これにより、出力トルクが逆転方向のトルクを上回るタイミング(E)から、回転子5aは逆転方向に回転する。この時点で、金属接触が解消され、必要なトルクが減少する。しかし、一般的な方法とは異なり、逆転方向のトルクは徐々に減少し、0に近づいた後、正転方向のトルクが徐々に上昇し、0に向かって減少する。
【0066】
これにより、逆転方向にトルクが印加されている間、逆転方向に速度が上昇する。正転方向にトルクが上昇し、必要なトルクを上回っている間、正転方向に速度が上昇する。その結果、ピストン17bがタイミング(E)で動き始め、必要なトルクが急激に減少しても、ピストン17bの速度はあまり上昇しない。
【0067】
このような周期的な変化を伴うトルクが印加され、金属接触が解消された状態において、初期の起動位置まで、逆転方向に回転子5aを回転させる。これにより、大きなトルクを印加することなく、回転子5aを初期位置まで移動させることができる。したがって、ピストン17bを初期位置まで移動した際の速度上昇による振動が抑制される。
【0068】
また、ピストン17bの停止位置が上死点付近以外、例えば下死点付近に停止した場合であっても、図5Bに示すようなトルクを出力することにより、ピストン17bは、中心となる位相に緩やかに移動する。したがって、ピストン17bは、大きな振動となるような速度まで加速することはない。さらに、その後の初期位置への移動においても、通常の下死点付近での停止からの位置決めと同様に、振動は問題とならない。
【0069】
初期の起動位置は、図3Bの角度(B)に示す、必要なトルクのピークが表れやすい300度±30付近でない場合であれば、圧縮機17の吸入と吐出との間に圧力差がある差圧条件であっても、回転子5aを加速させ、上死点を乗り越えて、圧縮機17を起動することは可能である。
【0070】
本実施の形態のブラシレスDCモータ5は4極である。上死点および下死点に移動するブラシレスDCモータ5への通電は同じパターンとなる。したがって、上死点および下死点の中間となる270度に相当する通電パターンを出力し、その後、210度に相当する通電パターンを出力することにより、300度±30度の位相を回避することができる。
【0071】
同じ通電パターンにおいて、ピストン17bが下死点付近にあった場合には270度に相当する通電を行うと、ピストン17bは、270度もしくは90度へと移動する。その後、210度に相当する通電を行うと、ピストン17bは、30度もしくは210度へと移動する。このように、どのような場合であっても、ピストン17bは、300度±30度から起動することはない。そのため、差圧条件でも圧縮機17を運転させることができる。
【0072】
また、ブラシレスDCモータの極数を6極とした場合、下死点と300度とは同一の通電パターンとなる。このため、300度相当の通電を行った後、さらに260度相当の通電を行うことにより、初期位置の位置決めを300度±30度を回避、すなわち300度±30度の範囲からずらすことができる。例えば上死点付近に停止していた場合、ピストン17bは、300度へ移動し、その後260度へと移動する。一方、ピストン17bが下死点付近に停止していた場合、ピストン17bは、まず300度の通電と同じ位相である下死点へと移動し、その後、下死点から40度逆転方向へ回転した140度へと移動する。ピストン17bが60度付近に停止していた場合は、ピストン17bは、300度と同じ通電位相である60度へと移動し、40度逆回転した20度へと移動する。
【0073】
このように、冷蔵庫で一般的に使用されている4極または6極のいずれであっても、上死点付近のピストン17bを、上死点を含み周期的に変化するトルクを出力することにより、圧縮機17を安定して起動させ、かつ、ピストン17bが初期位置へ移動する位置決めにおける振動を抑制することができる。
【0074】
次に、本実施の形態のモータ駆動装置30が圧縮機17に用いられ、冷蔵庫22に搭載された場合について説明する。
【0075】
圧縮機17の起動と同時に、二方弁18を開の状態とし、減圧器20と凝縮器19とを連通させる。本実施の形態において、二方弁18は、圧縮機17の起動と同時に開の状態にするとしたが、同時には限定されず、時間的に多少前後してもよい。圧縮機17の駆動が継続されると、凝縮器19は高圧となり、減圧器20において減圧され、蒸発器21は低圧となる。
【0076】
このとき、圧縮機17において凝縮器19につながる吐出側は高圧となり、蒸発器21につながる吸入側は低圧となる。ここで、冷蔵庫22の庫内温度が低下し、圧縮機17を停止させたとする。この場合、二方弁18が開の状態のままでは、凝縮器19と蒸発器21との圧力が徐々にバランス、すなわち近い値となるよう変化する。圧縮機17の吸入側と吐出側との間の圧力差が0.05MPa以下の状態、すなわちバランスしたといえる状態になるまで、冷蔵庫22のシステム構成にもよるが、通常、10分程度かかる。
【0077】
圧縮機17の停止と同時に二方弁18を開状態から閉状態に移行させると、凝縮器19と蒸発器21との圧力差はほぼ維持される。このとき、圧縮機17の吸入側と吐出側とに圧力差が残る。冷蔵庫22の庫内温度が上昇した後圧縮機17を起動させる際に、圧縮機17の停止中に二方弁18を閉状態とし圧力差が保持された状態、および、圧力がバランスした状態とを比較すると、二方弁18を閉状態とし圧力差が保持された状態の方が、凝縮器19と蒸発器21との間に再び圧力差を設けるための電力が小さくすむため、省エネルギ化を実現できる。
【0078】
また、圧縮機17の停止中においても二方弁18を開状態のままにする場合、および、二方弁18が設けられない場合であっても、圧縮機17の停止から圧力がバランスするまでの10分程度が経過する前に庫内温度が上昇した場合においては、10分経過することを待つ必要がある。従来、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力差が0.05MPa以下の場合に限り、モータ駆動装置30を起動させることができるためである。
【0079】
これに対し、本実施の形態では、0.05MPaより大きな差圧でも起動させることが可能である。したがって、庫内温度が上昇した場合であっても、圧縮機17の運転が必要なタイミングでモータ駆動装置30を起動させることが可能となる。したがって、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力がバランスした状態で起動させる場合に比べ、凝縮器19と蒸発器21との間に圧力差を設けるための電力が減少する。よって、省エネルギ化が可能となる。
【0080】
なお、二方弁18は、三方弁または四方弁に比べ、冷蔵庫等のシステムを単純に構成することができる。したがって、圧縮機17の吸入側と吐出側との圧力差を単純な構成にて維持することができる。
【0081】
また、圧縮機17を冷蔵庫22の上部に設けた場合、冷蔵庫22において、使用者の手が届きにくいデッドスペースが小さくなり、使いやすい、すなわち利便性が向上する。一方、冷蔵庫22においては、床を支点として過震源である圧縮機17が最も遠い位置となる。このため、てこの原理により、圧縮機17の振動が冷蔵庫22に伝わりやすい。しかし、本実施の形態において、圧縮機17の起動前の初期位置への移動による圧縮機17の振動は抑制される。したがって、冷蔵庫22から発生する振動および騒音などは小さくなる。
【0082】
[1-3.効果等]
以上述べたように、本実施の形態のモータ駆動装置30は、レシプロ型の圧縮機17が有するピストン17bを駆動するブラシレスDCモータ5と、圧縮機17の駆動停止中に前記ピストン17bを上死点からずらすようブラシレスDCモータ5を回転させるピストン位置変更部11とを備える。
【0083】
このような構成により、モータ駆動装置30は、ピストン17bが上死点付近で停止した際に、ピストン17bがピストン17bを覆うシリンダ17cなどと金属接触となり静止摩擦力が運転中よりも大きな状態であっても、最も起動しにくい上死点付近からピストン17bを移動させることができる。したがって、差圧のかかっていない時と同程度のトルクにより、ブラシレスDCモータの起動処理が行われる。
【0084】
また、本発明の実施の形態のモータ駆動装置30は、ピストン位置変更部11がブラシレスDCモータ5を回転させる際、ブラシレスDCモータ5に通電する。ピストン位置変更部11がブラシレスDCモータ5に通電する位相は、上死点を含み、出力を周期的に変更するように設定される。
【0085】
このような構成により、モータ駆動装置は、上死点から動き出したとしても、逆方向の位相に通電される。したがって、ピストン17bの速度は大きく上昇せず、かつ、オイルが圧縮機を構成するピストンなどに回り摩擦力が減少する。したがって、ピストン17bによる振動を抑制しながら、上死点からの圧縮機17の起動処理が可能となる。
【0086】
また、本開示の実施の形態の冷蔵庫は、圧縮機17を筐体上部に備える。
【0087】
このような構成により、冷蔵庫22は、上部に設置された圧縮機17において、てこの原理により振動の影響が大きくなった圧縮機17の運転開始時であっても、筐体の振動が抑制される。したがって、静粛性の高い冷蔵庫を提供することができる。また、上部のデッドスペースとなりやすい部分に圧縮機17が設置されているため、使用者が実際に使用できる庫内収納容積を広げられ、利便性の高い冷蔵庫22を提供することができる。
【0088】
以上、本開示の技術を前記実施の形態を用いて説明したが、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示は、負荷トルク変動が大きな圧縮機を起動するためのモータ駆動装置に使用でき、圧縮機を用いた冷蔵庫、冷凍庫、ショーケース、その他の各種冷凍装置に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 交流電源(電源)
2 整流回路
2a,2b,2c,2d 整流ダイオード
3 平滑部
3e 平滑コンデンサ
3f リアクタ
4 インバータ
4a,4b,4c,4d,4e,4f スイッチング素子
4g,4h,4i,4j,4k,4l 還流電流用ダイオード
5 ブラシレスDCモータ
5a 回転子
5b 固定子
6 位置検出部
7 速度検出部
8 電圧検出部
9 ドライブ部
10 出力決定部
11 ピストン位置変更部
12 トルク決定部
17 圧縮機
17a クランクシャフト
17b ピストン
17c シリンダ
18 二方弁
19 凝縮器
20 減圧器
21 蒸発器
22 冷蔵庫
30 モータ駆動装置
201 ブラシレスDCモータ
202 ピストン
203 圧縮機
204 制御部
205 インバータ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6