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  • 特許-レーザ溶接装置およびレーザ溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置およびレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241018BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241018BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022530506
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2021020992
(87)【国際公開番号】W WO2021251239
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020099662
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】川合 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】王 静波
(72)【発明者】
【氏名】杉山 勤
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲三
(72)【発明者】
【氏名】石黒 雅史
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-052779(JP,A)
【文献】特開平08-215869(JP,A)
【文献】特開2017-047454(JP,A)
【文献】特開2007-014974(JP,A)
【文献】特開2003-103387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G01B 11/00 - 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバの入射端が接続されたレーザ発振器と、
前記ファイバの出射端と接続され、前記レーザ発振器からのレーザ光を前記ファイバを介してワークに導光して照射しながらレーザ溶接を行う溶接ヘッドと、
前記レーザ光が前記ワークに照射された溶接位置からの前記レーザ溶接に基づくプルーム光の強度を前記レーザ溶接中に検知するセンサと、
前記センサの検知出力に基づいて、前記レーザ光の照射方向と平行な方向の前記溶接ヘッドの高さを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記レーザ光の焦点位置に応じた前記プルーム光の強度の特性データを前記ワークごとに記憶するメモリを有し、前記センサの検知出力と前記特性データとに基づいて、前記溶接ヘッドの高さを制御する、
レーザ溶接装置。
【請求項2】
前記センサは、前記溶接ヘッドの近傍に配置される、
請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記センサの検知出力が前記ワークに応じたプルーム光の強度のしきい値以上であると判定した場合に、前記溶接ヘッドの高さを現状値よりも前記ワークに近づく方向に調整する、
請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記センサの検知出力が前回の前記センサの検知出力より大きいと少なくとも2回連続で判定した場合に、前記溶接ヘッドの高さを現状値よりも前記ワークに近づく方向に調整する、
請求項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
ファイバの入射端が接続されたレーザ発振器から、前記ファイバの出射端を介して出射されたレーザ光を溶接ヘッドによりワークに導光して照射しながらレーザ溶接を行う工程と、
前記レーザ光が前記ワークに照射された溶接位置からの前記レーザ溶接に基づくプルーム光の強度を前記レーザ溶接中に検知する工程と、
前記プルーム光の強度の検知出力と前記レーザ光の焦点位置に応じた前記プルーム光の強度の特性データに基づいて、前記レーザ光の照射方向と平行な方向の前記溶接ヘッドの高さを制御する工程と、を有する、
レーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ溶接装置およびレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光を被加工材に向けて照射するための加工ヘッドと、被加工材を加工ヘッドに対して相対移動させるための移動機構とを備え、被加工材を切断加工するレーザ加工装置が開示されている。このレーザ加工装置は、レーザ光の照射時に被加工材の加工点から放射される光の空間分布を、少なくとも2つの方向で検出するための光検出部と、第1方向で検出した信号強度と第2方向で検出した信号強度との比率を演算するための信号処理部と、レーザ加工時に、加工状態とともに比率を記憶するための記憶部と、記憶部に登録した基準比率と実際のレーザ加工時に取得した比率とを比較して、加工状態の良否判定を行う判定部とを備える。光検出部は、被加工材のレーザ照射側で、レーザ光の光軸周りに配置された複数の光センサを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-206806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、レーザ溶接中の焦点シフト量を把握してレーザ溶接の品質低下を抑制するレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ファイバの入射端が接続されたレーザ発振器と、前記ファイバの出射端と接続され、前記レーザ発振器からのレーザ光を前記ファイバを介してワークに導光して照射しながらレーザ溶接を行う溶接ヘッドと、前記レーザ光が前記ワークに照射された溶接位置からの前記レーザ溶接に基づくプルーム光の強度を前記レーザ溶接中に検知するセンサと、前記センサの検知出力に基づいて、前記レーザ光の照射方向と平行な方向の前記溶接ヘッドの高さを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記レーザ光の焦点位置に応じた前記プルーム光の強度の特性データを前記ワークごとに記憶するメモリを有し、前記センサの検知出力と前記特性データとに基づいて、前記溶接ヘッドの高さを制御する、レーザ溶接装置を提供する。
【0006】
また、本開示は、ファイバの入射端が接続されたレーザ発振器から、前記 ファイバの出射端を介して出射されたレーザ光を溶接ヘッドによりワークに導光して照射しながらレーザ溶接を行う工程と、前記レーザ光が前記ワーク に照射された溶接位置からの前記レーザ溶接に基づくプルーム光の強度を前記レーザ溶接中に検知する工程と、前記プルーム光の強度の検知出力と前記レーザ光の焦点位置に応じた前記プルーム光の強度の特性データに基づいて、前記レーザ光の照射方向と平行な方向の前記溶接ヘッドの高さを制御する工程と、を有する、レーザ溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、レーザ溶接中の焦点シフト量を把握できてレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成例を示す図
図2図2は、ワークに照射されるレーザ光と溶接位置から生じるプルーム光とを示す図
図3A図3Aは、ワークに形成された溶融池およびキーホールとレーザ光の焦点位置との関係を模式的に示す図
図3B図3Bは、ワークに形成された溶融池およびキーホールとレーザ光の焦点位置との関係を模式的に示す図
図4図4は、レーザ光の焦点位置とワークの溶け込み深さとの対応関係を示すテーブル例を示す図
図5図5は、レーザ光のワークに対する焦点位置に応じたプルーム光強度の分布例を示す図
図6図6は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置の第1動作手順例を示すフローチャート
図7図7は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置の第2動作手順例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至る経緯)
特許文献1では、レーザ光が照射された時に被加工材の加工点から放射される光の空間分布を複数の方向で検出するので、例えばレーザ溶接時の周囲環境の変動等の影響を受けて方向ごとの信号強度の比率の演算精度がばらつく可能性があった。この場合、レーザ溶接の品質が安定しない可能性がある。
【0010】
また、高出力のレーザ光を利用するレーザ溶接においては、加工ヘッドに内蔵される集光レンズが熱上昇により膨張し、レーザ光の入射角のずれが発生したり、集光レンズの屈折率の変化が発生したりすることがある(熱レンズ効果)。この場合、加工ヘッドから照射されるレーザ光の焦点距離が変化し、当初の焦点である溶接位置において焦点のずれが発生する。したがって、レーザ光のエネルギー密度分布が変化するのでレーザ溶接の品質が低下し、溶接不良が発生する可能性があった。例えば、溶接ビードの幅が不安定になったり、ワークの溶け込み深さが不十分になったり、レーザ溶接中にスパッタが発生することがあったりする。このような事態を回避するため、レーザ溶接の条件見直し、レーザ溶接の修正作業(リペア溶接)の実行等が発生するので、溶接現場での全体的な作業工数(タクトタイム)が増加する。
【0011】
そこで、以下の実施の形態では、レーザ溶接の作業工数を増大することなく、レーザ溶接中の焦点シフト量を把握してレーザ溶接の品質低下を抑制するレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法の例を説明する。
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係るレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0013】
(レーザ溶接装置の構成)
図1は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100の概略構成例を示す図である。レーザ溶接装置100は、レーザ発振器80と、コントローラ70と、光ファイバ90と、溶接ヘッド30と、センサ40と、シールドガス供給装置50と、マニピュレータ60と、を含む構成である。
【0014】
レーザ発振器80は、電源(図示略)から電力が供給されてレーザ光LBを発生させるレーザ光源である。レーザ発振器80は、単一のレーザ光源で構成されてもよいし、複数のレーザモジュールで構成されてもよい。後者の場合、レーザ発振器80は、複数のレーザモジュールからそれぞれ出射されたレーザ光を結合してレーザ光LBとして出射する。
【0015】
レーザ発振器80で使用されるレーザ光源あるいはレーザモジュールは、被溶接物であるワークWの材質あるいは溶接部位の形状等に応じて、適宜選択される。例えば、ファイバレーザ、ディスクレーザ、あるいは、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザをレーザ光源とすることもできる。この場合、レーザ光LBの波長は、1000nm~1100nmの範囲に設定される。また、半導体レーザをレーザ光源あるいはレーザモジュールとしてもよい。この場合、レーザ光LBの波長は、800nm~1000nmの範囲に設定される。また、可視光レーザをレーザ光源あるいはレーザモジュールとしてもよい。この場合、レーザ光LBの波長は、400nm~800nmの範囲に設定される。
【0016】
ファイバの一例としての光ファイバ90は、一端側(入射端)がレーザ発振器80かつ他端側(出射端)が溶接ヘッド30にそれぞれ光学的に結合され、軸心にコア(図示略)を有し、コアの外周面に接してコアと同軸に第1クラッド(図示略)が設けられている。
【0017】
コアと第1クラッドはそれぞれ石英を主成分とし、コアの屈折率が第1クラッドの屈折率よりも高くなっている。このため、レーザ発振器80で発生したレーザ光LBは、光ファイバ90の入射端に入射されて、コアの内部を出射端(上述参照)に向けて伝送される。また、第1クラッドの外周面には光ファイバ90を機械的に保護する皮膜または樹脂系の保護層(いずれも図示略)が設けられている。
【0018】
溶接ヘッド30は、光ファイバ90の出射端に取り付けられ、光ファイバ90を介して伝送されたレーザ光LBをワークWに向けて照射する。これにより、ワークWがレーザ溶接されることになる。溶接ヘッド30は、レーザ光LBを2次元的または3次元的に走査してワークWに向けて照射するように構成されており、レーザ光LBを走査する光走査機構を有している。また、溶接ヘッド30は、ワークWに向けて照射されるレーザ光LBの焦点位置を変化させるための焦点位置調整機構(図示略)を有してもよい。
【0019】
センサ40は、受光素子(フォトセンサ)を有して構成され、溶接ヘッド30からのレーザ光LBがワークWに照射された溶接位置(例えばワークWの表面)から生じるプルーム光PLM1(図2参照)の強度をレーザ溶接中に検知する。センサ40は、溶接ヘッド30の近傍に配置される。これは、図2を参照して後述するが、プルーム光PLM1は、溶接位置から溶接ヘッド30に向かって上方に放射される傾向があるためである。これにより、センサ40は、プルーム光PLM1の強度を的確に検知できる。
【0020】
ここで、プルーム光PLM1について、図2を参照して説明する。
【0021】
図2は、ワークWに照射されるレーザ光LBと溶接位置WLP1から生じるプルーム光PLM1とを示す図である。図2では、ワークWとしてSUS(つまりステンレス鋼W1)とリンセイ銅W2との接合がレーザ溶接の一例として示されている。レーザ溶接の対象となるワークW(ステンレス鋼W1,リンセイ銅W2)にレーザ光LBが照射されると、照射された溶接位置のワークWが少しずつ溶融し始める。図2の例では、ともに金属であるステンレス鋼W1およびリンセイ銅W2がレーザ光LBの照射により溶融していく。この溶融が時系列的に進行していく中で、ワークWのそれぞれを構成する金属の粒子(分子)がプラズマ状態に転移し、プルーム光PLM1として発光する。センサ40は、このプルーム光PLM1を受光し、プルーム光PLM1の強度を検知してコントローラ70に送る。
【0022】
シールドガス供給装置50は、例えば、図示しない複数のガスボンベおよび複数のバルブを有する。それぞれのガスボンベには、少なくとも1つのバルブが対応して設けられる。ガスボンベに接続されたバルブの開閉はコントローラ70の制御部71によって制御される。それぞれのガスボンベには、同じ種類のシールドガスが封入されてもよいし、互いに異なる種類のシールドガスが封入されてもよい。シールドガス供給装置50は、コントローラ70による制御の下で、ワークWに向けてシールドガスを供給する。なお図1では図示されていないが、センサ40は、レーザ光LBの照射方向に対し、シールドガス供給装置50と同一直線上となるように配置されてもよい。これにより、センサ40は、ワークWのシールドガスが噴射されてスパッタ等の障害物が無い溶接位置からのプルーム光PLM1の強度を的確に検知できる。
【0023】
コントローラ70は、制御部71と記憶部72と表示部73とを有する構成である。コントローラ70は、レーザ発振器80のレーザ発振を制御する。具体的には、コントローラ70は、レーザ発振器80に接続された電源(図示略)に対して出力電流およびオンオフ時間等の制御信号を供給することにより、レーザ発振制御を行う。また、コントローラ70は、選択されたレーザ溶接プログラムの内容に応じて、溶接ヘッド30に設けられた光走査機構(図示略)および焦点位置調整機構(図示略)の駆動制御を行う。また、コントローラ70は、シールドガス供給装置50およびマニピュレータ60のそれぞれの動作を制御する。
【0024】
記憶部72は、レーザ溶接プログラムを記憶している。記憶部72は、図1に示すように、コントローラ70の内部に設けられていてもよいし、コントローラ70の外部に設けられ、コントローラ70とデータのやり取りを可能に構成されていてもよい。また、詳細は後述するが、記憶部72は、レーザ光LBの焦点位置とワークWの溶け込み深さとがワークWの材質に関連付けられたデータを保存している(図2参照)。
【0025】
図3Aおよび図3Bは、ワークWに形成された溶融池およびキーホールとレーザ光LBの焦点位置との関係を模式的に示す図である。図4は、レーザ光LBの焦点位置とワークWの溶け込み深さとの対応関係を示すテーブル例を示す図である。図3Aは、レーザ光LBの焦点がワークWの表面近傍に位置する場合を示す。図3Bは、レーザ光LBの焦点がワークWの内部に位置する場合を示す。
【0026】
一般に、金属からなるワークWをレーザ溶接する際、図3Aに示すように、レーザ光LBが照射された部分が加熱されて溶け込みが生じ、溶融池800が形成される。また、レーザ光LBが照射された部分では溶融池800を構成する材料の激しい蒸発が起こり、その反力で溶融池800の内部にキーホール810が形成される。
【0027】
キーホール810が形成されると、レーザ光LBの大部分が、キーホール810の内壁面で複数回反射されながらキーホール810の内部に進入し、溶融池800に吸収される。キーホール810の内壁面で反射を繰り返すことにより、レーザ光LBが溶融池800に吸収される吸収率が向上してワークWへの入熱量が大きくなり、溶け込み深さが深くなる。また、ワークWの材質または溶接条件によって異なり、量も少ないが、一部は、キーホール810の入口付近のキーホール壁によって反射され、反射されたレーザ光LBがキーホール810の中に入ることなく、その外へ反射されて損失となる。
【0028】
また、キーホール810は、溶融池800の表面に形成されたキーホール810の開口811から溶融池800の内部に向けて延びる開放空間であるため、図3Bに示すように、レーザ光LBの焦点位置をワークWの表面から内部に、具体的には、キーホール810の内部に達するようにすると、キーホール810の内壁面に照射されるレーザ光LBのパワー密度が高くなって溶融池800に吸収される光量が増加し、図3Aに示す場合よりも溶け込み深さを深くすることができる。また、レーザ光LBの焦点位置をキーホール810の内部に達するようにすると、図3Aに示す場合よりもキーホール810の開口811を拡げられるため、キーホール810の内部にレーザ光LBがより到達しやすくなる。なお、レーザ光LBの焦点位置がワークWの表面から内部にあった場合、キーホール810の開口811付近においてレーザ光LBが収束した形でキーホール810の奥に入るので、キーホール810の入り口付近のキーホール壁によって反射されにくくなり、溶融池800によって吸収される光量が増加することも溶け込み深さの増加につながる。
【0029】
ワークWの表面を基準として、その上方、つまり、ワークWの外側にレーザ光LBの焦点位置が移動するにつれて、ワークWの溶け込み深さは浅くなる。一方、ワークWの表面を基準として、その下方、つまり、ワークWの内部の所定位置までレーザ光LBの焦点位置が移動するにつれて、ワークWの溶け込み深さは深くなる。なお、所定位置よりもワークWの内部深くにレーザ光LBの焦点位置が移動すると、ワークWの表面でのレーザ光LBのパワー密度が低下し、溶融池800の形成初期におけるワークWに対する入熱量が減少する。このため、溶け込み深さはかえって浅くなる。
【0030】
このように、キーホール810の内部に達するように、レーザ光LBの焦点位置をワークWの表面から内部の所定位置まで移動させることで、ワークWの溶け込み深さを深くすることができる。
【0031】
また、ワークWの材質やレーザ光LBの出力によって、図4に示す曲線の形状は変化する。このため、記憶部72には、ワークWの材質やレーザ光LBの出力、また、レーザ光LBの波長に関連付けられて、レーザ光LBの焦点位置に対するワークWの溶け込み深さがテーブル形式のデータとして保存されている。なお、図4の説明を分かり易くするために、グラフ形式でレーザ光LBの焦点位置に対するワークWの溶け込み深さの変化を示したが、実際には、図4に示す曲線の各プロットがデータ形式でワークWの材質等に関連付けられている。
【0032】
ワークWをレーザ溶接するにあたって、ワークWにおける溶接部位の形状と図4に示すデータとに基づいて、レーザ光LBの焦点位置を変化させることで、溶接部位の形状に応じて適切にレーザ溶接が行えるとともに、ワークWの接合強度を高めることができる。
【0033】
また、記憶部72は、レーザ光LBの焦点位置に応じたプルーム光PLM1の強度を示す特性データWPRP1(図5参照)をワークWごとに記憶する。
【0034】
ここで、特性データWPRP1について、図5を参照して説明する。
【0035】
図5は、レーザ光LBのワークWに対する焦点位置に応じたプルーム光強度の分布例を示す図である。図5の横軸はレーザ光LBの焦点位置(図3Aあるいは図3B参照)を示し、図5の縦軸はプルーム光PLM1の強度を示す。プルーム光PLM1の強度は、レーザ光LBの焦点位置に応じて略二次関数的に変動する。TH1はワークWに対応して予め設定されたしきい値である。特性データWPRP1は、焦点位置に応じて略二次関数的に変化する特性を示すデータとしきい値TH1とを対応付けて有する。なお、特性データWPRP1は、図5に示す特性に限定されず、レーザ溶接の対象物であるワークWの材質に応じて異なる特性を有してもよい。
【0036】
図5に示すように、焦点位置がゼロ(つまり、例えば図3AのようにワークWの表面にレーザ光LBが照射される)場合には、レーザ光LBが最も適切にワークWに照射されてワークWが深く溶け込んでいる状態であり、プルーム光PLM1の強度は極小値RV0が検知される。
【0037】
また、図5に示すように、プルーム光PLM1は焦点位置で最も弱く、焦点位置からずれると強度が増す傾向があることが知られている。したがって、レーザ溶接装置100は、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1を超えている場合にはレーザ光LBがワークWに適切に照射されていないと判定し、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満となるように溶接ヘッド30の高さを上下方向に制御する(図6あるいは図7参照)。
【0038】
この制御の動作手順については、図6および図7を参照して後述する。
【0039】
制御部71は、記憶部72に記憶されたレーザ溶接プログラムに従って、レーザ発振器80のレーザ光LBの出力強度(パワー密度)を制御する。制御部71は、記憶部72に記憶されたレーザ溶接プログラムおよびマニピュレータ60に設けられたエンコーダ(図示略)からのフィードバック信号に従って、マニピュレータ60に設けられたサーボモータ(図示略)に位置指令を送信し、サーボモータ(図示略)の回転速度および回転量を制御する。
【0040】
また、制御部71は、センサ40から得られる検知出力(つまり、プルーム光PLM1)に基づいて、レーザ光LBの照射方向と平行な方向となる溶接ヘッド30の高さを上下方向に制御する。
【0041】
表示部73は、制御部71による制御により、レーザ発振器80の出力状態、マニピュレータ60の動作状態および警告等を表示する。
【0042】
マニピュレータ60は、サーボモータ(図示略)およびエンコーダ(図示略)を関節軸(例えば図1では4つの関節軸)ごとに有する構成である。マニピュレータ60は、コントローラ70と接続され、関節軸ごとのサーボモータおよびエンコーダを動作させることで、前述のレーザ溶接プログラムに応じて所定の軌跡を描くように溶接ヘッド30を移動させる。
【0043】
次に、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100の動作手順(第1動作手順例、第2動作手順例)について、図6および図7のそれぞれを参照して説明する。図6は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100の第1動作手順例を示すフローチャートである。図7は、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100の第2動作手順例を示すフローチャートである。なお、図7の説明において、図6の処理と同一の処理については同一のステップ番号を付与して説明を簡略化あるいは省略し、異なる内容について説明する。
【0044】
第1動作手順では、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中にセンサ40によって検知されるプルーム光PLM1の強度がワークWの材質等に基づいて予め取得された特性データWPRP1のしきい値TH1以上となる場合には、レーザ光LBの焦点位置のシフトが生じているとして溶接ヘッド30の高さをマイナス方向(つまりワークWの表面に近づく方向)に移動させる。
【0045】
(第1動作手順例)
図6において、レーザ溶接装置100のコントローラ70は、ワークWへのレーザ溶接を開始する(St1)。具体的には、コントローラ70は、レーザ溶接プログラムにしたがい、レーザ発振器80にレーザ光LBを発生させ、光ファイバ90および溶接ヘッド30を介してワークWの溶接位置にレーザ光LBを照射させる。上述したように、このレーザ溶接により、溶接位置からプルーム光PLM1が発光する。センサ40は、プルーム光PLM1の検知(受光)を開始し(St2)、検知されたプルーム光PLM1の強度をセンシングした結果(検知出力の一例)をコントローラ70に送る。
【0046】
コントローラ70は、記憶部72に記憶されているしきい値TH1(図5参照)とセンサ40から得られたプルーム光PLM1の強度との比較により、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1以上であるか否かを判定する(St3)。プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満であると判定された場合には(St3、NO)、溶接ヘッド30から照射されているレーザ光LBの焦点位置が適切な状態であると推定できるので、ステップSt4の処理は省略されて、レーザ溶接装置100の処理はステップSt5に進む。
【0047】
一方、コントローラ70は、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1以上であると判定した場合には(St3、YES)、溶接ヘッド30の高さを現状値よりマイナス方向に調整するように制御する(St4)。つまり、レーザ溶接装置100は、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1以上であるために、溶接ヘッド30から照射されているレーザ光LBの焦点位置がワークWの表面から遠のく方向にシフトしていると推定する。したがって、レーザ溶接装置100は、溶接ヘッド30の高さを現状値よりマイナス方向となるように(言い換えると、溶接ヘッド30をワークWの表面により近づくように)溶接ヘッド30を移動させる。
【0048】
レーザ溶接装置100によるワークWへのレーザ溶接が終了していない場合には(St5、YES)、レーザ溶接装置100の処理はステップSt3に戻り、レーザ溶接装置100によるワークWへのレーザ溶接が終了するまでステップSt3~St5の処理が繰り返される。つまり、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接プログラムに基づくワークWへのレーザ溶接の開始から終了するまでの間、センサ40によるプルーム光PLM1の強度の検知を継続する。
【0049】
一方、レーザ溶接装置100によるワークWへのレーザ溶接が終了した場合には(St5、NO)、センサ40は、プルーム光PLM1の検知(受光)を終了する(St6)。
【0050】
これにより、レーザ溶接装置100は、ワークWへのレーザ溶接中にレーザ光LBが照射された溶接位置からのプルーム光PLM1の強度がワークWの材質等に応じて事前に取得(測定等)された特性データWPRP1のしきい値TH1以上である場合に、溶接ヘッド30の高さをマイナス方向に調整できる。したがって、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中に起こり得る熱レンズ効果等に基づく焦点シフトの量を適正に把握でき、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満となるように溶接ヘッド30の高さを調整できるのでレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【0051】
(第2動作手順例)
第2動作手順例では、レーザ溶接装置100は、第1動作手順に係る動作内容を実行するとともに、次の動作内容を実行する。具体的には、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中にセンサ40によって検知されるプルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値よりも大きいという現象が少なくとも2回連続で発生した場合には、レーザ光LBの焦点位置がワークWの表面から下方側にシフトが生じているとして溶接ヘッド30の高さをプラス方向(つまりワークWの表面の下方側から表面に近づく方向)に移動させる。
【0052】
図7において、コントローラ70は、ステップSt4において溶接ヘッド30をマイナス方向に移動させた後、継続的に行われているプルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値より大きいという現象が2回連続で発生したか否かを判定する(St11)。プルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値より大きいという現象が2回連続で発生していないと判定された場合には(St11、NO)、レーザ溶接装置100の処理はステップSt5に進む。
【0053】
一方、コントローラ70は、プルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値より大きいという現象が2回連続で発生したと判定した場合には(St11、YES)、溶接ヘッド30の高さを現状値よりプラス方向に調整するように制御する(St13)。つまり、レーザ溶接装置100は、溶接ヘッド30をマイナス方向に調整してもプルーム光PLM1の強度が増している傾向からレーザ光LBの焦点シフト量がより大きくなっていると推定する。したがって、レーザ溶接装置100は、溶接ヘッド30の高さを現状値よりプラス方向(言い換えると、溶接ヘッド30をワークWの表面により近づける方向ではあるが、上述したマイナス方向とは逆の方向)に溶接ヘッド30を移動させる。
【0054】
レーザ溶接装置100によるワークWへのレーザ溶接が終了していない場合には(St14、YES)、レーザ溶接装置100の処理はステップSt12に戻る。つまり、コントローラ70は、記憶部72に記憶されているしきい値TH1(図5参照)とセンサ40から得られたプルーム光PLM1の強度との比較により、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1以上であるか否かを判定する(St12)。プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満であると判定された場合には(St12、NO)、溶接ヘッド30から照射されているレーザ光LBの焦点位置が適切な状態であると推定できるので、ステップSt13の処理は省略されて、レーザ溶接装置100の処理はステップSt14に進む。
【0055】
一方、コントローラ70は、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1以上であると判定した場合には(St12、YES)、溶接ヘッド30の高さを現状値よりプラス方向(上述参照)に調整するように制御する(St13)。これにより、レーザ溶接装置100は、ワークWへのレーザ溶接中にレーザ光LBが照射された溶接位置からのプルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値よりも大きいという現象が少なくとも2回連続で発生した場合に、溶接ヘッド30の高さをマイナス方向とは逆の方向に調整できる。したがって、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中に起こり得る熱レンズ効果等に基づく焦点シフトの量を適正に把握でき、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満となるように溶接ヘッド30の高さを調整できるのでレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【0056】
以上により、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100は、光ファイバ90の入射端が接続されたレーザ発振器80と、光ファイバの出射端と接続され、レーザ発振器80からのレーザ光を光ファイバ90を介してワークWに導光して照射しながらレーザ溶接を行う溶接ヘッド30と、レーザ光LBがワークWに照射された溶接位置からのレーザ溶接に基づくプルーム光PLM1の強度をレーザ溶接中に検知するセンサ40と、センサ40の検知出力に基づいて、レーザ光LBの照射方向と平行な方向の溶接ヘッド30の高さを制御するコントローラ70と、を備える。
【0057】
これにより、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中にレーザ光LBが照射された溶接位置から生じるプルーム光PLM1の強度を常時取得でき、その強度からレーザ溶接中の焦点シフト量を適切に把握できる。したがって、レーザ溶接装置100は、プルーム光PLM1の強度が適切な値となるように溶接ヘッド30の高さを調整できるので、レーザ溶接の作業工数を増大することなくレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【0058】
また、レーザ溶接装置100では、コントローラ70は、レーザ光LBの焦点位置に応じたプルーム光PLM1の強度の特性データWPRP1をワークWごとに記憶するメモリ(例えば記憶部72)を有する。コントローラ70は、センサ40の検知出力と特性データWPRP1とに基づいて、溶接ヘッド30の高さを制御する。これにより、レーザ溶接装置100は、ワークWの材質等により事前に取得された焦点位置に対応するプルーム光PLM1の強度の特性を用いて、プルーム光PLM1の強度からレーザ光LBの焦点位置のシフトの有無を適正に判別できる。
【0059】
また、センサ40は、溶接ヘッド30の近傍に配置される。これにより、プルーム光PLM1が溶接位置から溶接ヘッド30に向かって上方に放射されるので、センサ40は、プルーム光PLM1の強度を的確に検知できる。
【0060】
また、コントローラ70は、センサ40の検知出力がワークWに応じたプルーム光PLM1の強度のしきい値TH1以上であると判定した場合に、溶接ヘッド30の高さを現状値よりもワークWに近づく方向に調整する。これにより、レーザ溶接装置100は、ワークWへのレーザ溶接中にレーザ光LBが照射された溶接位置からのプルーム光PLM1の強度がワークWの材質等に応じて事前に取得(測定等)された特性データWPRP1のしきい値TH1以上である場合に、溶接ヘッド30の高さをマイナス方向に調整できる。したがって、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中に起こり得る熱レンズ効果等に基づく焦点シフトの量を適正に把握でき、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満となるように溶接ヘッド30の高さを調整できるのでレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【0061】
また、コントローラ70は、センサ40の検知出力が前回のセンサ40の検知出力より大きいと少なくとも2回連続で判定した場合に、溶接ヘッド30の高さを現状値よりもワークWに近づく方向に調整する。これにより、レーザ溶接装置100は、ワークWへのレーザ溶接中にレーザ光LBが照射された溶接位置からのプルーム光PLM1の強度が前回の検知時の出力値よりも大きいという現象が少なくとも2回連続で発生した場合に、溶接ヘッド30の高さをマイナス方向とは逆の方向に調整できる。したがって、レーザ溶接装置100は、レーザ溶接中に起こり得る熱レンズ効果等に基づく焦点シフトの量を適正に把握でき、プルーム光PLM1の強度がしきい値TH1未満となるように溶接ヘッド30の高さを調整できるのでレーザ溶接の品質低下を抑制できる。
【0062】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示は、レーザ溶接の作業工数を増大することなく、レーザ溶接中の焦点シフト量を把握してレーザ溶接の品質低下を抑制するレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法として有用である。
【符号の説明】
【0064】
30 溶接ヘッド
40 センサ
50 シールドガス供給装置
60 マニピュレータ
70 コントローラ
71 制御部
72 記憶部
73 表示部
80 レーザ発振器
90 光ファイバ
100 レーザ溶接装置
LB レーザ光
W ワーク
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7