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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241018BHJP
   H02P 23/12 20060101ALI20241018BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20241018BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
B62D6/00
H02P23/12
B62D119:00
B62D137:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020120594
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022024274
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小路 直紀
(72)【発明者】
【氏名】仲出 知弘
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131014(JP,A)
【文献】特開2020-019346(JP,A)
【文献】特開2018-183046(JP,A)
【文献】特開2003-081111(JP,A)
【文献】特開2019-206269(JP,A)
【文献】特開2019-014468(JP,A)
【文献】特開2017-114324(JP,A)
【文献】特開2007-022169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
H02P 23/12
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材と、
前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、
前記転舵機構を駆動する転舵モータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、
転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、
前記反力用統合角度指令値に基づいて前記反力モータを制御する反力制御部と、
前記転舵用統合角度指令値に基づいて前記転舵モータを制御する転舵角制御部と、を含み、
前記反力制御部は、
前記反力用統合角度指令値と、実操舵角または前記実操舵角の推定値との偏差に基づいて、前記反力モータに対するトルク指令値である第2基本指令値を演算する第2基本指令値演算部と、
前記反力モータの駆動対象に作用する前記反力モータのモータトルク以外の外乱トルクである第2外乱トルクを推定する第2外乱トルク推定部と、
前記第2基本指令値を前記第2外乱トルクによって補償する第2外乱トルク補償部とを有し、
前記第2外乱トルクが補償された後の前記第2基本指令値に基づいて、前記反力モータが制御される、操舵装置。
【請求項2】
前記転舵角制御部は、
前記転舵用統合角度指令値と、実転舵角または前記実転舵角の推定値との偏差に基づいて、前記転舵モータに対するトルク指令値である第1基本指令値を演算する第1基本指令値演算部と、
前記転舵モータの駆動対象に作用する前記転舵モータのモータトルク以外の外乱トルクである第1外乱トルクを推定する第1外乱トルク推定部と、
前記第1基本指令値を前記第1外乱トルクによって補償する第1外乱トルク補償部を有し、
前記第1外乱トルクが補償された後の前記第1基本指令値に基づいて、前記転舵モータが制御される、請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記手動操舵角指令値設定部は、前記手動操舵角指令値の生成に、前記操舵トルクに加え、前記第1外乱トルクに基づいて算出される推定トルクを用いる、請求項2に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操向のために操作される操舵部材と転舵機構とが機械的に結合されていない状態で、転舵モータによって転舵機構が駆動される操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操向のために操作される操舵部材と転舵機構とが機械的に結合されていない状態で、転舵モータ(ステアリングモータ)によって転舵機構が駆動されるステア・バイ・ワイヤシステムが開示されている。特許文献1に記載のステア・バイ・ワイヤシステムでは、操作反力モータを有する操作部と、転舵モータを有する転舵部と、操作部を制御する操作反力制御部と、転舵部を制御する転舵制御部と、自動追従システムとを備えている。転舵制御部は、最終的な目標転舵角に基づいて転舵モータを制御する。
【0003】
特許文献1の自動追従システムでは、最終的な目標転舵角は、次のようにして設定される。自動追従システムが作動していないときには、操作ハンドルの操作角に基づいて演算された目標転舵角が、最終的な目標転舵角として設定される。自動追従システムが作動しておりかつ操舵トルクが第1閾値以上である場合または自動追従システムが作動しておりかつ操作角が第2閾値以上のときには、操作ハンドルの操作角に基づいて演算された目標転舵角に1よりも大きな所定値を乗算した値が、最終的な目標転舵角として設定される。自動追従システムが作動しておりかつ操舵トルクが第1閾値未満でありかつ操作角が第2閾値未満であるときには、自動追従システムによって設定される目標転舵角が、最終的な目標転舵角として設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-224238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に記載のステア・バイ・ワイヤシステムでは、自動追従システムが作動している自動操舵制御中においては、操舵トルクが第1閾値以上になるか操作角が第2閾値以上になるのを待たなければ、目標転舵角に運転者の意図が反映されることはない。
この発明の目的は、自動操舵制御中において、転舵モータおよび反力モータに対して、運転者の意図を即座に反映させることが可能となる操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、操舵部材と、前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータと、前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部とを含み、前記転舵角制御部は、前記転舵モータの駆動対象に作用する前記転舵モータのモータトルク以外の外乱トルクである第1外乱トルクを推定する第1外乱トルク推定部を有する、操舵装置を提供する。
【0007】
この構成では、自動操舵制御中において、転舵モータおよび反力モータに対して、運転者の意図を即座に反映させることが可能となる。
この発明の一実施形態では、前記転舵角制御部は、前記転舵用統合角度指令値に基づいて、第1基本指令値を演算する第1基本指令値演算部と、前記第1基本指令値を前記第1外乱トルクによって補償する第1外乱トルク補償部を有する。この構成では、第1基本指令値が第1外乱トルクによって補償されるので、転舵角制御部の角度制御性能に対する外乱の影響を抑制することができる。これにより、転舵モータに対して高精度の角度制御を実現できる。
【0008】
この発明の一実施形態では、前記反力制御部は、前記反力用統合角度指令値に基づいて、第2基本指令値を演算する第2基本指令値演算部と、前記反力モータの駆動対象に作用する前記反力モータのモータトルク以外の外乱トルクである第2外乱トルクを推定する第2外乱トルク推定部と、前記第2基本指令値を前記第2外乱トルクによって補償する第2外乱トルク補償部とを有する。
【0009】
この発明の一実施形態では、前記手動操舵角指令値設定部は、前記手動操舵角指令値の生成に、前記第1外乱トルクに基づいて算出される推定トルクを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る操舵装置の概略構成を示す模式図。
図2】反力ECUおよび転舵ECUの電気的構成を説明するためのブロック図。
図3】手動操舵角指令値設定部の構成を示すブロック図。
図4】操舵トルクTに対するアシストトルク指令値Tacの設定例を説明するためのグラフ。
図5】指令値設定部で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図。
図6】反力用角度制御部の構成を示すブロック図。
図7図7Aは、反力モータ側機構の物理モデルの一例を示す模式図であり、図7Bは、転舵モータ側機構の物理モデルの一例を示す模式図である。
図8】外乱トルク推定部の構成を示すブロック図。
図9】転舵用角度制御部の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
[1]操舵装置1の概略構成
図1に示すように、操舵装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(ハンドル)2と、転舵輪3を転舵するための転舵機構4と、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト5とを含む。ただし、ステアリングシャフト5と転舵機構4との間には、トルクや回転などの動きが伝達されるような機械的な結合はない。
【0012】
ステアリングシャフト5は、ステアリングホイール2に一端が連結された第1軸7と、第1軸7の他端に一端が連結されたトーションバー8と、トーションバー8の他端に一端が連結された第2軸9とを含む。
トーションバー8の近傍には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、第1軸7および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTは、例えば、左方向への操舵のためのトルクが正の値として、右方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクTの大きさが大きくなるものとする。
【0013】
第2軸9には、減速機12を介して、第2軸9の回転角(以下、「ハンドル角」という場合がある。)を制御するための反力モータ13が連結されている。反力モータ13は、第2軸9に反力トルクを与えるための電動モータである。減速機12は、反力モータ13の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォームギヤ(図示略)と、このウォームギヤと噛み合い、第2軸9に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。反力モータ13には、反力モータ13の回転角を検出するための回転角センサ14が設けられている。
【0014】
転舵機構4は、ピニオン軸15とラック軸16とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸16の各端部には、タイロッド17およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸15は、減速機18を介して、転舵モータ19の出力軸に連結されている。減速機18は、転舵モータ19の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォームギヤ(図示略)と、このウォームギヤと噛み合い、ピニオン軸15に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。ピニオン軸15の先端には、ピニオン15Aが連結されている。転舵モータ19には、転舵モータ19の回転角を検出するための回転角センサ20が設けられている。
【0015】
以下において、減速機12の減速比(ギヤ比)をNで表し、減速機18の減速比をNで表す。減速比は、ウォームホイールの回転速度に対するウォームギヤの回転速度の比として定義される。
ラック軸16は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸16には、ピニオン15Aに噛み合うラック16Aが形成されている。転舵モータ19が回転すると、その回転力が減速機18を介してピニオン軸15に伝達される。そして、ラックアンドピニオン機構によって、ピニオン軸15の回転がラック軸16の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
【0016】
車両には、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ25、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)26、道路形状や障害物を検出するためのレーダー27および地図情報を記憶した地図情報メモリ28が搭載されている。
CCDカメラ25、GPS26、レーダー27および地図情報メモリ28は、運転支援制御や自動運転制御を行うための上位ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。上位ECU201は、CCDカメラ25、GPS26およびレーダー27によって得られる情報および地図情報メモリ28から得られる地図情報を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。
【0017】
この実施形態では、上位ECU201は、自動操舵のための転舵用自動操舵角指令値を、自動操舵角指令値θadとして設定する。この実施形態では、自動操舵制御は、例えば、目標軌道に沿って車両を走行させるための制御である。自動操舵角指令値θadは、車両を目標軌道に沿って自動走行させるための操舵角の目標値である。このような自動操舵角指令値θadを設定する処理は、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。自動操舵角指令値θadは、本発明の「操舵用自動操舵角指令値」の一例であるとともに、「反力用自動操舵角指令値」の一例でもある。
【0018】
この実施形態では、自動操舵角指令値θadならびに後述するアシストトルク指令値Tacおよび手動操舵角指令値θmdは、反力モータ13によって第2軸9を左操舵方向に回転させたり、転舵モータ19によって転舵輪3を左操舵方向に転舵させたりする場合には、正の値に設定される。一方、これらの指令値θad,Tac,θmdは、反力モータ13によって第2軸9を右操舵方向に回転させたり、転舵モータ19によって転舵輪3を右操舵方向に転舵させたりする場合には、負の値に設定される。また、この実施形態において、自動操舵角指令値θadは、ピニオン軸15の回転角として設定され、手動操舵角指令値θmdは、第2軸9の回転角として設定される。
【0019】
上位ECU201によって設定される自動操舵角指令値θadは、車載ネットワークを介して、反力ECU202および転舵ECU203に与えられる。反力ECU202は、反力モータ13を制御するためのECUであり、転舵ECU203は、転舵モータ19を制御するためのECUである。
トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTおよび回転角センサ14の出力信号は、反力ECU202に入力される。反力ECU202は、これらの入力信号および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、反力モータ13を制御する。
【0020】
回転角センサ20の出力信号は、転舵ECU203に入力される。転舵ECU203は、回転角センサ20の出力信号、反力ECU202から与えられる情報および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、転舵モータ19を制御する。
[2]反力ECU202および転舵ECU203の電気的構成
[2.1]反力ECU202
図2に示すように、反力ECU202は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、反力モータ13に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)31と、反力モータ13に流れる電流(以下、「モータ電流Irm」という。)を検出するための電流検出回路32とを備えている。
【0021】
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、手動操舵角指令値設定部41と、ハンズオンオフ判定部42と、切替部43と、反力用統合角度指令値演算部44と、反力用角度制御部45とを含む。反力用角度制御部45は、本発明の「反力制御部」の一例である。
【0022】
手動操舵角指令値設定部41は、運転者がステアリングホイール2を操作した場合に、当該ステアリングホイール操作に応じた操舵角(より正確には第2軸9の回転角)を手動操舵角指令値θmdとして設定するために設けられている。手動操舵角指令値設定部41は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTを用いて手動操舵角指令値θmdを設定する。手動操舵角指令値設定部41の詳細については、後述する。手動操舵角指令値設定部41によって設定された手動操舵角指令値θmdは、反力用統合角度指令値演算部44に与えられる。
【0023】
ハンズオンオフ判定部42は、運転者がステアリングホイール2を把持している(ハンズオン)か、把持していない(ハンズオフ)かを判定する。ハンズオンオフ判定部42としては、ステアリングホイール2に設けられたタッチセンサの出力信号に基づいてハンズオンオフを判定するもの、車内に設けられたカメラの撮像画像に基づいてハンズオンオフを判定するもの等を用いることができる。なお、ハンズオンオフ判定部42としては、ハンズオンオフを判定できるものであれば、前述の構成以外のものを用いることができる。ハンズオンオフ判定部42から出力されるハンズオンオフ判定信号は、切替部43に与えられる。
【0024】
切替部43は、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していると判定されているときには、上位ECU201によって設定される自動操舵角指令値θadを、反力用自動操舵角指令値θrfとして反力用統合角度指令値演算部44に与える。一方、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していないと判定されているときには、切替部43は、零を反力用自動操舵角指令値θrfとして反力用統合角度指令値演算部44に与える。
【0025】
反力用統合角度指令値演算部44は、切替部43から与えられる反力用自動操舵角指令値θrfに、手動操舵角指令値設定部41によって設定される手動操舵角指令値θmdを加算して、反力用統合角度指令値θrcmdを演算する。
反力用角度制御部45は、反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて、反力モータ13を角度制御する。この実施形態では、反力用角度制御部45は、操舵角θrt(第2軸9の回転角)の推定値^θrt図6参照)が反力用統合角度指令値θrcmdに近づくように、駆動回路31を駆動制御する。反力用角度制御部45は、操舵角θrtが反力用統合角度指令値θrcmdに近づくように、駆動回路31を駆動制御してもよい。反力用角度制御部45の詳細については、後述する。
[2.2] 転舵ECU203
転舵ECU203は、マイクロコンピュータ80と、マイクロコンピュータ80によって制御され、転舵モータ19に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)33と、転舵モータ19に流れる電流(以下、「モータ電流Ism」という。)を検出するための電流検出回路34とを備えている。
【0026】
マイクロコンピュータ80は、CPUおよびメモリ(ROM、RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、転舵用統合角度指令値演算部81と転舵用角度制御部82とを含む。転舵用角度制御部82は、本発明の「転舵角制御部」の一例である。
【0027】
転舵用統合角度指令値演算部81は、上位ECU201によって設定される自動操舵角指令値(転舵用操舵角指令値)θadに、反力ECU202内の手動操舵角指令値設定部41によって設定される手動操舵角指令値θmdを加算して、転舵用統合角度指令値θscmdを演算する。
転舵用角度制御部82は、転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて、転舵モータ19を角度制御する。この実施形態では、転舵用角度制御部82は、転舵角θsp(ピニオン軸15の回転角)の推定値^θsp図9参照)が転舵用統合角度指令値θscmdに近づくように、駆動回路33を駆動制御する。転舵用角度制御部82は、転舵角θspが転舵用統合角度指令値θscmdに近づくように、駆動回路33を駆動制御してもよい。転舵用角度制御部82の詳細については後述する。
[3]手動操舵角指令値設定部41の構成
図3に示すように、手動操舵角指令値設定部41は、アシストトルク指令値設定部51と、指令値設定部52とを含む。
【0028】
アシストトルク指令値設定部51は、手動操作に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値Tacを設定する。アシストトルク指令値設定部51は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTに基づいて、アシストトルク指令値Tacを設定する。操舵トルクTに対するアシストトルク指令値Tacの設定例は、図4に示されている。
【0029】
アシストトルク指令値Tacは、操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、操舵トルクTの負の値に対しては負をとる。そして、アシストトルク指令値Tacは、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。
なお、アシストトルク指令値設定部51は、操舵トルクTに予め設定された定数を乗算することによって、アシストトルク指令値Tacを演算してもよい。
【0030】
指令値設定部52は、この実施形態では、リファレンスEPSモデルを用いて、手動操舵指令値θmdacを設定する。
図5は、指令値設定部52で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図である。
このリファレンスEPSモデルは、ロアコラムを含む単一慣性モデルである。図5において、Jは、ロアコラムの慣性であり、θはロアコラムの回転角であり、Tは、操舵トルクである。ロアコラムには、操舵トルクT、電動モータ(アシストモータ)からのトルクN・Tおよび路面負荷トルクTrlが与えられる。Nはアシストモータとロアコラムとの間の伝達経路に設けられ減速機の減速比であり、Tはアシストモータによって発生されるモータトルクである。路面負荷トルクTrlは、ばね定数kおよび粘性減衰係数cを用いて、次式(1)で表される。
【0031】
【数1】
【0032】
この実施形態では、ばね定数kおよび粘性減衰係数cとして、予め実験・解析等で求めた所定値が設定されている。したがって、式(1)によって演算されるTrlは、仮想的な路面負荷トルクである。
リファレンスEPSモデルの運動方程式は、次式(2)で表される。
【0033】
【数2】
【0034】
指令値設定部52は、Tにトルクセンサ11によって検出される操舵トルクTを代入し、N・Tにアシストトルク指令値設定部51によって設定されるアシストトルク指令値Tacを代入して、式(2)の微分方程式を解くことにより、ロアコラムの回転角θを演算する。そして、指令値設定部52は、得られたロアコラムの回転角θを手動操舵角指令値θmdとして設定する。
[4]反力用角度制御部45の構成
図6に示すように、反力用角度制御部45は、反力用統合角度指令値θrcmd、電流検出回路32によって検出されるモータ電流Irmおよび回転角センサ14の出力信号に基づいて、反力モータ13の駆動回路31を制御する。反力用角度制御部45は、角度偏差演算部61と、PD制御部62と、外乱トルク推定部63と、外乱トルク補償部64と、第1減速比除算部65と、減速比乗算部66と、電流指令値演算部67と、電流偏差演算部68と、PID制御部69と、PWM制御部70と、回転角演算部71と、第2減速比除算部72とを含む。
【0035】
回転角演算部71は、回転角センサ14の出力信号に基づいて、反力モータ13のロータ回転角θrmを演算する。第2減速比除算部72は、回転角演算部71によって演算されるロータ回転角θrmを減速機12の減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θrmを第2軸9の回転角(実操舵角)θrtに換算する。
外乱トルク推定部63は、反力モータ13の制御対象(以下、「第1プラント」という。)に外乱として発生する非線形なトルク(外乱トルク:反力モータトルク以外のトルク)を推定するために設けられている。外乱トルク推定部63は、第1プラントへの入力値であるトルク指令値N・Trcmdと、第1プラントの出力である実操舵角θrtとに基づいて、外乱トルク(外乱負荷)Trtd、操舵角θrtおよび操舵角微分値(角速度)dθrt/dtを推定する。外乱トルクTrtd、操舵角θrtおよび操舵角微分値dθrt/dtの推定値を、それぞれ^Trtd、^θrtおよびd^θrt/dtで表す。外乱トルク推定部63の詳細については、後述する。
【0036】
外乱トルク推定部63によって演算される外乱トルク推定値^Trtdは、外乱トルク補償値として外乱トルク補償部64に与えられる。外乱トルク推定部63によって演算される操舵角推定値^θrtは、角度偏差演算部61に与えられる。
角度偏差演算部61は、反力用統合角度指令値θrcmdと操舵角推定値^θrtとの偏差Δθ(=θrcmd-^θrt)を演算する。なお、角度偏差演算部61は、反力用統合角度指令値θrcmdと、第2減速比除算部72によって演算される実操舵角θrtとの偏差(θrcmd-θrt)を、角度偏差Δθとして演算するようにしてもよい。
【0037】
PD制御部62は、角度偏差演算部61によって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、基本トルク指令値Trcmda(第2軸9に対する基本トルク指令値)を演算する。
外乱トルク補償部64は、基本トルク指令値Trcmdaから外乱トルク推定値^Trtdを減算することにより、トルク指令値Trcmdb(=Trcmda-^Trtd)を演算する。これにより、外乱トルクが補償されたトルク指令値Trcmdb(第2軸9に対するトルク指令値)が得られる。
【0038】
第1減速比除算部65は、トルク指令値Trcmdbを減速比Nrで除算することにより、反力モータ13に対するモータトルク指令値Trcmdを演算する。このモータトルク指令値Trcmdは、電流指令値演算部67に与えられるとともに減速比乗算部66に与えられる。
減速比乗算部66は、モータトルク指令値Trcmdに減速比Nを乗算することにより、モータトルク指令値Trcmdを第2軸9に対するトルク指令値N・Trcmdに換算する。このトルク指令値N・Trcmdは、外乱トルク推定部63に与えられる。
【0039】
電流指令値演算部67は、第1減速比除算部65によって演算されたモータトルク指令値Trcmdを反力モータ13のトルク定数Kで除算することにより、電流指令値Ircmdを演算する。
電流偏差演算部68は、電流指令値演算部67によって得られた電流指令値Ircmdと電流検出回路32によって検出されたモータ電流Irmとの偏差ΔI(=Ircmd-Irm)を演算する。
【0040】
PID制御部69は、電流偏差演算部68によって演算された電流偏差ΔIに対するPID演算(比例積分微分演算)を行うことにより、反力モータ13に流れるモータ電流Irmを電流指令値Ircmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部70は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路31に供給する。これにより、前記駆動指令値に対応した電力が反力モータ13に供給されることになる。
[4.1]外乱トルク推定部63の詳細な説明
外乱トルク推定部63は、例えば、図7Aに示す反力モータ側機構の物理モデル301を使用して、外乱トルクTrtd、操舵角θrtおよび角速度dθrt/dtを推定する外乱オブザーバから構成されている。図7Aにおいては、図1の減速機12のウォームホイールが12-wwで表され、減速機12のウォームギヤが12-wgで表されている。
【0041】
この物理モデル301は、第2軸9および第2軸9に固定されたウォームホイール12-wwを含む第1プラント302を含む。第1プラント302には、反力モータ13によるモータトルクN・Trcomと外乱トルクTrtdとが与えられる。外乱トルクTrtdは、ステアリングホイール2からトーションバー8を介して第1プラント302に与えられる操舵トルクTと、操舵トルクT以外の外乱トルクTrotherとを含む。操舵トルクT以外の外乱トルクTrotherは、ウォームホイール12wwとウォームギヤ12wgとの間の摩擦による摩擦トルクを含む。
【0042】
第1プラント302の慣性をJとすると、物理モデル301の慣性についての運動方程式は、次式(3)で表される。
【0043】
【数3】
【0044】
θ/dtは、プラント302の角加速度である。Trtdは、第1プラント302に与えられる外乱トルクを示している。
この実施形態では、外乱トルク推定部63は、物理モデル301の慣性についての運動方程式から構築される外乱オブザーバ(拡張状態オブザーバ)に基づいて、外乱トルクTrtd、操舵角θrtおよび角速度dθrt/dtを推定する。以下、具体的に説明する。
【0045】
図7の物理モデル301に対する状態方程式は、次式(4)で表わされる。
【0046】
【数4】
【0047】
xは、状態変数ベクトルである。uは、既知入力ベクトルである。uは、未知入力ベクトルである。yは、出力ベクトル(測定値)である。Aは、システム行列である。Bは、第1入力行列である。Bは、第2入力行列である。Cは、出力行列である。Dは、直達行列である。
前記状態方程式を、未知入力ベクトルuを状態の1つとして含めた系に拡張する。拡張系の状態方程式(拡張状態方程式)は、次式(5)で表される。
【0048】
【数5】
【0049】
は、拡張系のシステム行列である。Bは、拡張系の既知入力行列である。Cは、拡張系の出力行列である。xは、拡張系の状態変数ベクトルであり、次式(6)で表される。
【0050】
【数6】
【0051】
前記式(5)の拡張状態方程式から、次式(7)の方程式で表される外乱オブザーバ(拡張状態オブザーバ)が構築される。
【0052】
【数7】
【0053】
^xはxの推定値を表している。また、Lはオブザーバゲインである。また、^yはyの推定値を表している。^xは、次式(8)で表される。
【0054】
【数8】
【0055】
rtはθrtの推定値であり、^TrtdはTrtdの推定値である。
外乱トルク推定部63は、前記式(7)の方程式に基づいて状態変数ベクトル^xを演算する。
図8に示すように、外乱トルク推定部63は、入力ベクトル入力部91と、出力行列乗算部92と、第1加算部93と、ゲイン乗算部94と、入力行列乗算部95と、システム行列乗算部96と、第2加算部97と、積分部98と、状態変数ベクトル出力部99とを含む。
【0056】
減速比乗算部66(図6参照)によって演算されるトルク指令値N・Trcomは、入力ベクトル入力部91に与えられる。入力ベクトル入力部91は、入力ベクトルuを出力する。
積分部98の出力が状態変数ベクトル^x(前記式(8)参照)となる。演算開始時には、状態変数ベクトル^xとして初期値が与えられる。状態変数ベクトル^xの初期値は、たとえば0である。
【0057】
システム行列乗算部96は、状態変数ベクトル^xにシステム行列Aを乗算する。出力行列乗算部92は、状態変数ベクトル^xに出力行列Cを乗算する。
第1加算部93は、第2減速比除算部72(図6参照)によって演算された実操舵角θrtである出力ベクトル(測定値)yから、出力行列乗算部92の出力(C・^x)を減算する。つまり、第1加算部93は、出力ベクトルyと出力ベクトル推定値^y(=C・^x)との差(y-^y)を演算する。ゲイン乗算部94は、第1加算部93の出力(y-^y)にオブザーバゲインL(前記式(7)参照)を乗算する。
【0058】
入力行列乗算部95は、入力ベクトル入力部91から出力される入力ベクトルuに入力行列Bを乗算する。第2加算部97は、入力行列乗算部95の出力(Be・u)と、システム行列乗算部96の出力(A・^x)と、ゲイン乗算部94の出力(L(y-^y))とを加算することにより、状態変数ベクトルの微分値d^x/dtを演算する。積分部98は、第2加算部97の出力(d^x/dt)を積分することにより、状態変数ベクトル^xを演算する。状態変数ベクトル出力部99は、状態変数ベクトル^xに基づいて、外乱トルク推定値^Trtd、操舵角推定値^θrtおよび角速度推定値d^θrt/dtを演算する。
[5]転舵用角度制御部82の構成
図9に示すように、転舵用角度制御部82は、転舵用統合角度指令値θscmd、電流検出回路34によって検出されるモータ電流Ismおよび回転角センサ20の出力信号に基づいて、転舵モータ19の駆動回路33を制御する。転舵用角度制御部82は、角度偏差演算部101と、PD制御部102と、外乱トルク推定部103と、外乱トルク補償部104と、第3減速比除算部105と、減速比乗算部106と、電流指令値演算部107と、電流偏差演算部108と、PID制御部109と、PWM制御部110と、回転角演算部111と、第4減速比除算部112とを含む。
【0059】
回転角演算部111は、回転角センサ20の出力信号に基づいて、転舵モータ19のロータ回転角θsmを演算する。第4減速比除算部112は、回転角演算部111によって演算されるロータ回転角θsmを減速機18の減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θsmをピニオン軸15の回転角(実転舵角)θspに換算する。
外乱トルク推定部103は、転舵モータ19の制御対象(以下、「第2プラント」という。)に外乱として発生する非線形なトルク(外乱トルク:転舵モータトルク以外のトルク)を推定するために設けられている。外乱トルク推定部103は、第2プラントへの入力値であるトルク指令値N・Tscmdと、第2プラントの出力である実転舵角θspとに基づいて、外乱トルク(外乱負荷)Tstd、転舵角θspおよび転舵角微分値(角速度)dθsp/dtを推定する。外乱トルクTstd、転舵角θspおよび転舵角微分値dθsp/dtの推定値を、それぞれ^Tstd、^θspおよびd^θsp/dtで表す。外乱トルク推定部103の詳細については、後述する。
【0060】
外乱トルク推定部103によって演算される外乱トルク推定値^Tstdは、外乱トルク補償値として外乱トルク補償部104に与えられる。外乱トルク推定部103によって演算される転舵角推定値^θspは、角度偏差演算部101に与えられる。
角度偏差演算部101は、転舵用統合角度指令値θscmdと転舵角推定値^θspとの偏差Δθ(=θscmd-^θsp)を演算する。なお、角度偏差演算部101は、転舵用統合角度指令値θscmdと、第4減速比除算部112によって演算される実転舵角θspとの偏差(θscmd-θsp)を、角度偏差Δθとして演算するようにしてもよい。
【0061】
PD制御部102は、角度偏差演算部101によって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、基本トルク指令値Tscmda(ピニオン軸15に対する基本トルク指令値)を演算する。
外乱トルク補償部104は、基本トルク指令値Tscmdaから外乱トルク推定値^Tstdを減算することにより、トルク指令値Tscmdb(=Tscmda-^Tstd)を演算する。これにより、外乱トルクが補償されたトルク指令値Tscmdb(ピニオン軸15に対するトルク指令値)が得られる。
【0062】
第3減速比除算部105は、トルク指令値Tscmdbを減速比Nで除算することにより、転舵モータ19に対するモータトルク指令値Tscmdを演算する。このモータトルク指令値Tscmdは、電流指令値演算部107に与えられるとともに減速比乗算部106に与えられる。
減速比乗算部106は、モータトルク指令値Tscmdに減速比Nを乗算することにより、モータトルク指令値Tscmdをピニオン軸15に対するトルク指令値N・Tscmdに換算する。このトルク指令値N・Tscmdは、外乱トルク推定部103に与えられる。
【0063】
電流指令値演算部107は、第3減速比除算部105によって演算されたモータトルク指令値Tscmdを転舵モータ19のトルク定数Kで除算することにより、電流指令値Iscmdを演算する。
電流偏差演算部108は、電流指令値演算部107によって得られた電流指令値Iscmdと電流検出回路34によって検出されたモータ電流Ismとの偏差ΔI(=Iscmd-Ism)を演算する。
【0064】
PID制御部109は、電流偏差演算部108によって演算された電流偏差ΔIに対するPID演算(比例積分微分演算)を行うことにより、転舵モータ19に流れるモータ電流Ismを電流指令値Iscmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部110は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路33に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が転舵モータ19に供給されることになる。
[5.1]外乱トルク推定部103の詳細な説明
外乱トルク推定部103は、例えば、図7Bに示す転舵モータ側機構の物理モデル303を使用して、外乱トルクTstd、転舵角θspおよび角速度dθsp/dtを推定する外乱オブザーバから構成されている。図7Bにおいては、図1の減速機18のウォームホイールが18wwで表され、減速機18のウォームギヤが18wgで表されている。
【0065】
この物理モデル303は、ピニオン軸15およびピニオン軸15に固定されたウォームホイール18wwを含む第2プラント(転舵モータ19の駆動対象)304を含む。第2プラント304には、転舵モータ19によるモータトルクN・Tscomと外乱トルクTstdとが与えられる。外乱トルクTstdは、路面負荷トルクTrlと、路面負荷トルクTrl以外の外乱トルクTsotherとを含む。路面負荷トルクTrl以外の外乱トルクTsotherは、ウォームホイール18wwとウォームギヤ18wgとの間の摩擦による摩擦トルクを含む。
【0066】
第2プラント304の慣性をJとすると、物理モデル303の慣性についての運動方程式は、次式(9)で表される。
【0067】
【数9】
【0068】
θ/dtは、プラント303の角加速度である。Tstdは、第2プラント304に与えられる外乱トルクを示している。
外乱トルク推定部103は、式(9)の運動方程式に基づいて、前述した外乱トルク推定部63と同様な方法によって、外乱トルクTstd、転舵角θspおよび角速度dθsp/dtを推定する。つまり、外乱トルク推定部103は、式(9)の運動方程式から構築される拡張状態オブザーバ(前述の式(7)に対応する)に基づいて、外乱トルクTstd、転舵角θspおよび角速度dθsp/dtを推定する。
[6]反力ECU202および転舵ECU203の動作および効果の説明
図2を参照して、ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していると判定されている場合には、上位ECU201によって設定された自動操舵角指令値θadを反力用自動操舵角指令値θrfとし、これに手動操舵角指令値θmdが加算されて反力用統合角度指令値θrcmdが演算される。この反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて反力モータ13が制御される。また、自動操舵角指令値θadに手動操舵角指令値θmdが加算されて転舵用統合角度指令値θscmdが演算され、この転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて転舵モータ19が制御される。
【0069】
これにより、自動操舵制御中において、転舵モータ19および反力モータ13に対して、運転者の意図を即座に反映させることができる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御(転舵制御および反力制御(ハンドル角制御))を行いながら、手動操舵が可能な協調制御を実現できる。また、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、手動操作を行う際に運転者に違和感を与えない。
【0070】
ハンズオンオフ判定部42によって運転者がステアリングホイール2を把持していないと判定されている場合には、反力用統合角度指令値演算部44には、反力用自動操舵角指令値θrfとして、零が与えられる。したがって、この場合には、転舵モータ19は、自動操舵角指令値θadに手動操舵角指令値θmdが加算された転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて制御されるが、反力モータ13は、手動操舵角指令値θmdのみからなる反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて制御される。この場合、手動操舵角指令値θmdは、ほぼ零であるので、自動操舵中においてステアリングホイール2が中立位置で固定される。これにより、運転者がステアリングホイール2を把持していない状態において、自動操舵によってステアリングホイール2が回転して、運転者がステアリングホイール2に巻き込まれるといった事態を回避することができる。
【0071】
また、本実施形態では、図6に示すように、反力用統合角度指令値θrcmdに基づいて基本トルク指令値Trcmdaが演算され、外乱トルク推定部63によって演算された外乱トルク推定値^Trtdによって基本トルク指令値Trcmdaが補正されているので、反力用角度制御部45の角度制御性能に対する外乱の影響を抑制することができる。これにより、反力モータ13に対して高精度の角度制御を実現できる。
【0072】
同様に、図9に示すように、転舵用統合角度指令値θscmdに基づいて基本トルク指令値Tscmdaが演算され、外乱トルク推定部103によって演算された外乱トルク推定値^Tstdによって基本トルク指令値Tscmdaが補正されているので、転舵用角度制御部82の角度制御性能に対する外乱の影響を抑制することができる。これにより、転舵モータ19に対して高精度の角度制御を実現できる。
[7]手動操舵角指令値設定部41の変形例の説明
前述の実施形態では、手動操舵角指令値設定部41内の指令値設定部52(図3参照)は、式(2)に基づいて、ロアコラムの回転角θを演算している。
【0073】
しかし、図3に二点鎖線で示すように、指令値設定部52は、転舵用角度制御部82内の外乱トルク推定部103(図9参照)によって推定される外乱トルク^Tstdを考慮して、ロアコラムの回転角θを演算してもよい。
具体的には、指令値設定部52は、次式(10)~(12)のいずれかに基づいて、ロアコラムの回転角θを演算してもよい。
【0074】
【数10】
【0075】
^Tstd,HPFは、外乱トルク推定部103によって推定される外乱トルク^Tstdに対してハイパスフィルタ処理を施した後の外乱トルクである。
指令値設定部52は、式(10)のTにトルクセンサ11によって検出される操舵トルクTを代入し、N・Tにアシストトルク指令値設定部51によって設定されるアシストトルク指令値Tacを代入して、式(10)の微分方程式を解くことにより、ロアコラムの回転角θを演算する。そして、指令値設定部52は、得られたロアコラムの回転角θを手動操舵角指令値θmdとして設定する。外乱トルクTstdは、主として路面負荷トルクTrlを含んでいる。
【0076】
【数11】
【0077】
αは、所定の係数であり、^Tstdは、外乱トルク推定部103によって推定される外乱トルク^Tstdである。指令値設定部52は、式(11)の微分方程式を解くことにより、ロアコラムの回転角θを演算し、得られた回転角θを手動操舵角指令値θmdとして設定する。
【0078】
【数12】
【0079】
βは、所定の係数であり、^Tstdは、外乱トルク推定部103によって推定される外乱トルク^Tstdである。指令値設定部52は、式(12)の微分方程式を解くことにより、ロアコラムの回転角θを演算、得られた回転角θを手動操舵角指令値θmdとして設定する。
このようにして手動操舵角指令値θmdを設定した場合には、運転者は、、路面の凹凸等の路面情報をステアリングホイール2を介して感じられるようになる。
[8]その他
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、反力ECU202および転舵ECU203には、上位ECU201から同じ自動操舵角指令値θadが与えられている。しかし、上位ECU201は、反力モータ13用の自動操舵角指令値と、転舵モータ19用の自動操舵角指令値とを個別に設定し、対応するECU202,203に与えるようにしてもよい。
【0080】
前述の実施形態では、反力用角度制御部45および転舵用角度制御部82それぞれに、外乱トルク推定部63,103が設けられている。しかし、反力用角度制御部45に外乱トルク推定部63を設けなくてもよい。また、外乱トルク補償部64,104も本発明に必須の構成ではない。外乱トルク推定部103で推定される外乱トルク^Tstdは、外乱トルクの補償に用いずに、手動操舵角指令値θmdの設定のみに用いてもよい。
【0081】
この発明は、左転舵輪および右転舵輪がそれぞれ独立転舵される左右独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムにも適用することができる。この場合には、左転舵輪および右転舵輪のそれぞれに転舵ECUが設けられる。
また、この発明は、例えば、前輪および後輪がそれぞれ独立転舵される4輪操舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムにも適用することができる。この場合には、前輪および後輪のそれぞれに転舵ECUが設けられる。また、この発明は、4つの車輪がそれぞれ独立転舵される4輪独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムにも適用することができる。この場合には、車輪ごとに転舵ECUが設けられる。
【0082】
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…操舵装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、4…転舵機構、5…ステアリングシャフト、7…第1軸、8…トーションバー、9…第2軸、11…トルクセンサ、13…反力モータ、14…回転角センサ、19…転舵モータ、20…回転角センサ、41…手動操舵角指令値設定部、42…ハンズオンオフ判定部、43…切替部、44…反力用統合角度指令値演算部、45…反力用角度制御部、63,103…外乱トルク推定部、64,104…外乱トルク補償部、81…転舵用統合角度指令値演算部、82…転舵用角度制御部、201…上位ECU、202…反力ECU、203…転舵ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9