IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ウエハ加熱装置 図1
  • 特許-ウエハ加熱装置 図2
  • 特許-ウエハ加熱装置 図3
  • 特許-ウエハ加熱装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ウエハ加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241018BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H05B3/20 310
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023072609
(22)【出願日】2023-04-26
【審査請求日】2024-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】北林 桂児
(72)【発明者】
【氏名】木村 功一
(72)【発明者】
【氏名】先田 成伸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮成
(72)【発明者】
【氏名】板倉 克裕
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-186765(JP,A)
【文献】特開2016-76532(JP,A)
【文献】特開2013-4810(JP,A)
【文献】特開2013-140913(JP,A)
【文献】特開2011-124466(JP,A)
【文献】特開2005-175490(JP,A)
【文献】特開2009-231401(JP,A)
【文献】特開2019-96765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H05B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハが載置される保持台と、
前記保持台の下方に配置された台座部と、
前記台座部から上方に延び、前記保持台と前記台座部との間に空間が形成されるように前記保持台を支持する支持部と、を備え、
前記保持台は、
ベース板と、
前記ベース板の下方に配置されたヒータと、
前記ヒータの下面に面接触するように配置された押え板と、を備え、
前記ヒータは、絶縁シートと、前記絶縁シートの内部に配置された抵抗加熱体と、を備え、
前記押え板の下面の放射率は、0.5以下で、かつ前記絶縁シートの放射率よりも低い、
ウエハ加熱装置。
【請求項2】
前記押え板の下面の算術平均粗さRaが1μm以下である、請求項1に記載のウエハ加熱装置。
【請求項3】
前記押え板の前記下面の放射率は0.2以下である、請求項1または請求項2に記載のウエハ加熱装置。
【請求項4】
前記ベース板は、セラミックスとシリコンとの複合体によって構成されており、
前記押え板は、コバールによって構成されている、請求項1または請求項2に記載のウエハ加熱装置。
【請求項5】
前記保持台はさらに冷却板を備え、
前記冷却板は冷媒の流路を備える、請求項1または請求項2に記載のウエハ加熱装置。
【請求項6】
前記冷却板は、前記ベース板と前記ヒータとの間に配置されている、請求項5に記載のウエハ加熱装置。
【請求項7】
前記押え板の下面から前記ベース板の下面に至る第一貫通孔と、
前記押え板の下方から前記第一貫通孔を通って前記ベース板にねじ結合した第一ボルトと、を備える、請求項6に記載のウエハ加熱装置。
【請求項8】
前記押え板の下面から前記冷却板の下面に至る第二貫通孔と、
前記押え板の下方から前記第二貫通孔を通って前記冷却板にねじ結合した第二ボルトと、を備える、請求項7に記載のウエハ加熱装置。
【請求項9】
前記第一ボルトおよび前記第二ボルトの少なくとも一方は、前記押え板と同じ材料で形成されている、請求項8に記載のウエハ加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウエハ加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ウエハプローバに用いられるウエハ保持体を開示する。ウエハプローバは、複数の回路が形成されたウエハを個々のチップに切断する前に、ウエハを加熱しながら各チップの電気性能を測定する検査装置である。特許文献1に開示されるウエハ保持体は、ウエハを吸着するチャックトップと、チャックトップを支持する支持体と、を備える。チャックトップは、ウエハを加熱する加熱体を備える。ウエハ保持体とチャックトップはそれぞれ、本開示におけるウエハ加熱装置と保持台に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-49108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の半導体の需要に応えるべく、加熱体によって保持台の温度を迅速に所望の温度に加熱することが求められている。また、用途によっては、保持台の冷却も含めた温度調節装置が求められる場合がある。しかし、従来のウエハ加熱装置では、保持台から外部に熱が逃げ易く、保持台の温度が所望の温度に到達するまでに時間がかかる場合があった。
【0005】
本開示の目的の一つは、保持台を迅速に加熱できるウエハ加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のウエハ加熱装置は、
ウエハが載置される保持台と、
前記保持台の下方に配置された台座部と、
前記台座部から上方に延び、前記保持台と前記台座部との間に空間が形成されるように前記保持台を支持する支持部と、を備え、
前記保持台は、
ベース板と、
前記ベース板の下方に配置されたヒータと、
前記ヒータの下面に面接触するように配置された押え板と、を備え、
前記ヒータは、絶縁シートと、前記絶縁シートの内部に配置された抵抗加熱体と、を備え、
前記押え板の放射率は、前記絶縁シートの放射率よりも低い。
【発明の効果】
【0007】
本開示のウエハ加熱装置は、保持台を迅速に加熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1に記載されたウエハ加熱装置の断面模式図である。
図2図2は、図1における第一ボルトの近傍を拡大して示す断面模式図である。
図3図3は、図1における第二ボルトの近傍を拡大して示す断面模式図である。
図4図4は、試験例1の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
<1>本開示の一態様に係るウエハ加熱装置は、
ウエハが載置される保持台と、
前記保持台の下方に配置された台座部と、
前記台座部から上方に延び、前記保持台と前記台座部との間に空間が形成されるように前記保持台を支持する支持部と、を備え、
前記保持台は、
ベース板と、
前記ベース板の下方に配置されたヒータと、
前記ヒータの下面に面接触するように配置された押え板と、を備え、
前記ヒータは、絶縁シートと、前記絶縁シートの内部に配置された抵抗加熱体と、を備え、
前記押え板の放射率は、前記絶縁シートの放射率よりも低い。
【0011】
放射率(emissivity)は、物体の熱放射のし易さを示す指標であって、0以上1以下の無次元量である。ヒータの絶縁シートよりも放射率が低い押え板は、ヒータから台座部への熱輻射を抑制する。この押え板によって保持台の下面から放射される熱を低減することで、保持台の熱が保持台の外部に逃げ難く、ヒータによって保持台を迅速に所望の温度に加熱することができる。また、保持台を迅速に所望の温度に加熱できることで、ヒータの消費電力を低減できる。
【0012】
<2>上記<1>に記載されるウエハ加熱装置において、
前記押え板の放射率は0.5以下であっても良い。
【0013】
放射率が0.5以下の押え板は、保持台の下面から放射される熱を低減し易く、保持台の温度を短時間で所望の温度に加熱できる。また、保持台の下方に配置される台座部の温度が高くなり過ぎることを抑制でき、台座部とその近傍の部材に対するダメージを低減できる。
【0014】
<3>上記<1>に記載されるウエハ加熱装置において、
前記押え板の放射率は0.2以下であっても良い。
【0015】
放射率が0.2以下の押え板は、より一層、保持台の下面から放射される熱を低減し易く、保持台の温度を短時間で所望の温度に加熱できる。また、保持台の下方に配置される台座部の温度が高くなり過ぎることを抑制でき、台座部とその近傍の部材に対するダメージをより低減できる。
【0016】
<4>上記<1>または<3>に記載されるウエハ加熱装置において、
前記ベース板は、セラミックスとシリコンとの複合体によって構成されており、
前記押え板は、コバールによって構成されていても良い。
【0017】
セラミックスとシリコンとの複合体は高剛性で変形し難いため、ベース板を薄くできる。ベース板の厚さが薄くなるほど、ベース板の熱容量が小さくなる。また、セラミックスとシリコンとの複合体自身の熱容量が小さい。熱容量が小さいベース板は、ヒータによって迅速に所望の温度まで昇温され易い。
【0018】
コバールは、ニッケルとコバルトとを含む鉄合金である。コバールの放射率は低いため、押え板の材料に適している。また、コバールの熱膨張係数は、セラミックスとシリコンとの複合体の熱膨張係数に近い。従って、押え板がコバールによって構成され、ベース板が上記複合体によって構成されている場合、ベース板の熱膨張係数と押え板の熱膨張係数との差に起因する保持台の反りが抑制され易い。
【0019】
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載されるウエハ加熱装置において、
前記保持台はさらに冷却板を備え、
前記冷却板は冷媒の流路を備えていても良い。
【0020】
冷却板を備える保持台は、冷却板の流路に冷媒を流すことで迅速に冷却される。ウエハの熱処理が終わった後、ベース板を迅速に冷却することで、新たなウエハの熱処理を開始するまでの時間を短縮することができる。また、冷却板によって保持台を低温に保持することもできる。
【0021】
<6>上記<5>に記載されるウエハ加熱装置において、
前記冷却板は、前記ベース板と前記ヒータとの間に配置されていても良い。
【0022】
ベース板とヒータとの間に配置された冷却板は、ベース板を迅速に冷却し易い。
【0023】
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載されるウエハ加熱装置において、
前記押え板の下面から前記ベース板の下面に至る第一貫通孔と、
前記押え板の下方から前記第一貫通孔を通って前記ベース板にねじ結合した第一ボルトと、を備えていても良い。
【0024】
第一ボルトによって押え板がベース板にしっかりと固定される。また、押え板によって、押え板の上方に押されたヒータが、ヒータの上面に接触する部材に密着するので、ヒータの熱がベース板に伝わり易い。
【0025】
<8>上記<5>または<6>に従属する上記<7>に記載されるウエハ加熱装置において、
前記押え板の下面から前記冷却板の下面に至る第二貫通孔と、
前記押え板の下方から前記第二貫通孔を通って前記冷却板にねじ結合した第二ボルトと、を備えていても良い。
【0026】
第二ボルトによって、押え板をしっかりと固定しつつ、第一ボルトの数を減らすことができる。ベース部につながることでベース部から保持台の下方への熱のリーク経路となる第一ボルトの数が減ると、ベース板の熱が保持台の下方に逃げ難い。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態のウエハ加熱装置を、図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係等を表すものではない。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0028】
<実施形態1>
≪ウエハ加熱装置≫
図1に示されるウエハ加熱装置1は、ウエハを保持した状態でウエハを所望の温度に保持するためのものである、ウエハ加熱装置1は例えば、ウエハプローバに用いられる。ウエハプローバは、回路が形成された半導体のウエハを個々のチップに切断する前に、ウエハを所定の温度に制御した状態で各チップの電気性能を測定する検査装置である。ウエハは、図1において省略されている。ウエハ加熱装置1は、保持台10と、台座部11と、支持部12と、ケーシング13と、を備える。以下、ウエハ加熱装置1に備わる各構成を詳細に説明する。
【0029】
≪保持台≫
本例の保持台10は、上から順に、ベース板2と冷却板4とヒータ5と押え板6とを備える。本例では、ウエハがベース板2の上面に載せられ、所望の温度に加熱または冷却される。ウエハはベース板2の上面に吸着される。図1では吸着に係る機構の図示は省略する。保持台10の全体形状は、ウエハの形状に合わせた形状である。例えば保持台10の全体形状は円板形状である。本例の保持台10は冷却板4を備えるが、冷却板4は必須ではない。
【0030】
[ベース板]
ベース板2の上面21には、熱処理されるウエハが載せられる。ベース板2は、熱伝導性に優れ、かつ熱によって変形し難い材料によって構成されている。そのような材料は例えば、銅、アルミニウム、またはこれらを含む合金である。ベース板2の材料は例えば、窒化アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム、または窒化ケイ素などのセラミックス、あるいはこれらセラミックスとシリコン(Si)との複合体でも良い。複合体は例えば、SiCの多孔質体にシリコンを含浸させたSi-SiCである。ベース板2の表面は例えば、ニッケルめっき層、またはアルマイト処理層を備えていても良い。ベース板2の上面21にさらに、銅などによって構成された導電板が配置されていても良い。
【0031】
ベース板2の厚さは例えば、5mm以上15mm以下である。ベース板2の厚さが5mm以上であれば、ベース板2の剛性を確保し易い。ベース板2の厚さが15mm以下であれば、ベース板2の熱容量が小さくなり易い。熱容量が小さいベース板2の温度は、ヒータ5による加熱および冷却板4による冷却によって迅速に変化し易い。ベース板2の厚さは、7mm以上12mm以下でも良い。
【0032】
ベース板2の材料の熱伝導率は例えば、100W/m・K以上である。熱伝導率は、更に200W/m・K以上、300W/m・K以上、特に400W/m・K以上であっても良い。アルミニウムの熱伝導率は約230W/m・K、銅の熱伝導率は約400W/m・K、銀の熱伝導率は約420W/m・Kである。炭化ケイ素の熱伝導率は約270W/m・K、窒化アルミニウムの熱伝導率は約150W/m・K、酸化アルミニウムの熱伝導率は約29W/m・K、窒化ケイ素の熱伝導率は約27W/m・K、Si-SiCの熱伝導率は約170W/m・Kである。
【0033】
[冷却板]
冷却板4は、必要に応じてベース板2を冷却する部材である。冷却板4の内部には流路41が形成されている。流路41には冷媒が流される。ウエハの加熱が終わった際、流路41に冷媒が流されることで、保持台10のベース板2が迅速に冷却される。その結果、新たなウエハの熱処理を開始するまでの時間を短縮することができる。
【0034】
[ヒータ]
ヒータ5は、ベース板2を加熱する部材である。加熱されたベース板2は、ウエハを熱処理する。ヒータ5は、絶縁シート50と、絶縁シート50の内部に配置された抵抗加熱体51とを備える。本例の抵抗加熱体51は、例えばステンレス鋼の箔を部分的にエッチングすることによって形成された回路パターンである。絶縁シート50はヒータ5の外形を構成する。本例の絶縁シート50は、ベース板2と同等の外径を有する円板状である。抵抗加熱体51の端子には、電力を供給する配線がつながっている。絶縁シート50は例えば、シリコーン、またはポリイミドなどの耐熱性に優れる樹脂によって構成されていても良い。その他、絶縁シート50は例えば、樹脂を含浸したマイカシート、またはセラミックスによって構成されている。本例のヒータ5は、回路パターンによって構成された抵抗加熱体51と、抵抗加熱体51を挟み込む2枚のポリイミドシートと、によって構成されている。ポリイミドの放射率は0.8程度である。
【0035】
[押え板]
押え板6は、ヒータ5の下面56に面接触するように配置されている。押え板6は、ヒータ5を冷却板4に密着させ、抵抗加熱体51の熱がヒータ5よりも上方の部材に伝達し易くする。押え板6に求められる特性は、ヒータ5の絶縁シート50よりも放射率が低いことである。ヒータ5の絶縁シート50よりも放射率が低い押え板6は、ヒータ5から台座部11への熱輻射を抑制する。ヒータ5の熱輻射を抑制する押え板6によってヒータ5の温度が上昇し易い。そのため、ヒータ5によって保持台10を迅速に所望の温度に加熱することができる。また、保持台10を迅速に所望の温度に加熱できることで、ヒータ5の消費電力を低減できる。
【0036】
ヒータ5を覆う押え板6は、ヒータ5を保護する役割も果たす。この押え板6の固定状態については後述する。
【0037】
押え板6の放射率の値は例えば0.5以下である。0.5以下の放射率を有する押え板6は、ヒータ5から台座部11への熱輻射を効果的に抑制する。押え板6の放射率が低いほど熱輻射を抑制する効果が高くなる。押え板6の放射率は、0.4以下でも良いし、0.3以下でも良いし、0.2以下でも良い。放射率は例えば、JIS R 1801:2002に規定される分光放射率測定法によって測定することができる。
【0038】
押え板6の放射率が絶縁シート50の放射率よりも低くなる限りにおいて、押え板6の材料は特に限定されない。例えば押え板6の材料は、ステンレス鋼またはコバールである。コバールおよびステンレス鋼(SUS304)の熱伝導率はいずれも約17W/m・Kである。押え板6の放射率は、押え板6の表面が金属光沢を有する状態で、約0.1である。コバールは、ニッケルとコバルトとを含む鉄合金である。特にコバールの熱膨張係数は、セラミックス、特にセラミックスとシリコンとの複合体の熱膨張係数に近い。従って、押え板6がコバールによって構成され、ベース板2が上記複合体によって構成されている場合、ベース板2の熱膨張係数と押え板6の熱膨張係数との差に起因する保持台10の反りが抑制され易い。一方、ベース板2が金属材料である銅、アルミニウム、またはこれらを含む合金によって構成されている場合、ステンレス鋼の熱膨張係数の方がコバールの熱膨張係数よりもベース板2の熱膨張係数に近い。ベース板2または押え板6に使用可能な代表的な材料の熱膨張係数の値を以下に示す。
・銅:17.7ppm/℃
・アルミニウム:23.0ppm/℃
・窒化アルミニウム:4.5ppm/℃
・炭化ケイ素:4.5ppm/℃
・酸化アルミニウム:7.2ppm/℃
・窒化ケイ素:2.8ppm/℃
・Si-SiC:3.0ppm/℃
・コバール:4.8ppm/℃
・ステンレス鋼(SUS304):17.6ppm/℃
【0039】
上記コバールは、熱膨張係数が小さく、繰り返しの温度変化によって変形し難い。押え板6は、ウエハを熱処理するたびに加熱されたり冷却されたりする。この加熱と冷却の繰り返しによって押え板6が変形すると、押え板6とヒータ5との間に隙間ができる恐れがある。隙間は、ベース板2の均熱性を低下させる恐れがある。コバールによって構成される押え板6を備えるウエハ加熱装置1では、押え板6とヒータ5との間に隙間ができ難く、そのため、隙間に起因するベース板2の均熱性の低下が抑制され易い。
【0040】
ベース板2と押え板6との熱膨張係数の差は小さい方が望ましい。ベース板2と押え板6とは、ボルトにより締結されている。このため、両者の熱膨張係数の差が大きい場合は、熱履歴によりベース板2にはベース板2が撓むような力が加わる。ベース板2の変形が生じると、ウエハが載置されるベース板2の上面21の平面度が悪化する。このような平面度の悪化を抑制するために、ベース板2の材料がセラミックス材料、すなわち窒化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、またはSi-SiCなどの場合には、押え板6の材料としてコバールを用いるとよい。
【0041】
押え板6の放射率は、同じ材料の押え板6であっても、押え板6の下面60の表面性状によって変化する。下面60の算術平均粗さRaは小さくなるほど、押え板6の放射率は小さくなる傾向にある。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠する。算術平均粗さRaは例えば、市販の接触式粗さ測定装置によって求められる。
【0042】
押え板6の下面60の算術平均粗さRaを小さくするには、下面60を仕上げ処理すれば良い。仕上げ処理は例えば、圧延またはバフ研磨である。下面60の算術平均粗さRaは例えば、1μm(マイクロメーター)以下である。算術平均粗さRaが1μm以下の下面60を有する押え板6の放射率は0.5以下を満たし易い。下面60の算術平均粗さRaは0.8μm以下でも良いし、0.5μm以下でも良いし、0.25μm以下でも良い。
【0043】
押え板6は、第一ボルト61によってベース板2に固定される。図2に示されるように、第一ボルト61は、頭部61Hと軸部61Sとを備える。第一ボルト61は、押え板6の下方から第一貫通孔10Aを通ってベース板2にねじ結合している。第一貫通孔10Aは、押え板6の下面60からベース板2の下面20に至る孔である。第一貫通孔10Aの内径は軸部61Sの外径よりも大きい。
【0044】
第一ボルト61によって押え板6がベース板2にしっかりと固定される。また、冷却板4と押え板6とに挟まれるヒータ5が冷却板4に密着し、ヒータ5の熱が冷却板4を通ってベース板2に伝わり易い。
【0045】
図3に示されるように、押え板6はさらに、第二ボルト62によって冷却板4に固定されている。第二ボルト62は、頭部62Hと軸部62Sとを備える。第二ボルト62は、押え板6の下方から第二貫通孔10Bを通って冷却板4にねじ結合している。第二貫通孔10Bは、押え板6の下面60から冷却板4の下面40に至る孔である。第二貫通孔10Bの内径は、軸部62Sの外径よりも大きい。保持台10が冷却板4を備えない場合、第二ボルト62および第二貫通孔10Bは必要ない。
【0046】
第二ボルト62によって、押え板6をしっかりと固定しつつ、第一ボルト61の数を減らすことができる。第一ボルト61はベース板2に直接つながっているため、ベース板2の熱が第一ボルト61を伝って保持台10の下方に逃げ易い。すなわち、第一ボルト61は保持台10の下方への熱のリーク流路である。ベース板2に到達していない第二ボルト62によって第一ボルト61の数が減ると、ベース板2の熱が保持台10の下方に逃げ難い。第一ボルト61の代わりに配置される第二ボルト62の数が多くなるほど、ベース板2の熱が逃げ難い。反面、第一ボルト61の数が少なくなりすぎると、保持台10の各構成部材の締結強度が低下する恐れがある。従って、第一ボルト61の数は少なくとも4本以上である。例えば、押え板6の中心に一本の第一ボルト61が配置され、その第一ボルト61を中心とする円周上に残りの第一ボルト61が等間隔に配置される。
【0047】
第一ボルト61および第二ボルト62の材料は特に限定されない。例えば、第一ボルト61および第二ボルト62は、押え板6と同じ材料、すなわち放射率が低い材料によって構成されていても良い。この場合、第一ボルト61および第二ボルト62からの熱輻射が抑制される。
【0048】
≪台座部≫
台座部11は、図1に示すように、ウエハ加熱装置1全体を支持する台座となる部材である。台座部11の材料は例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、またはシリコンと炭化ケイ素の複合体である。
【0049】
本例の台座部11は、下面には凹部11cが形成されている。凹部11cには、後述する支持部12を構成する固定軸12Sの下端部と、固定軸12Sを台座部11に固定するナット12Nとが配置されている。
【0050】
≪支持部≫
支持部12は、台座部11から上方に延び、保持台10と台座部11との間に空間が形成されるように保持台10を支持する。本例の支持部12は、複数の柱状部材によって構成されている。
【0051】
本例の柱状部材は、筒部12Cと、筒部12Cの内部に配置される固定軸12Sと、固定軸12Sを固定するナット12Nと、で構成されている。筒部12Cの上部は、保持台10の第三貫通孔10Cの内部に配置されている。第三貫通孔10Cは、図2の第一貫通孔10Aと同様、押え板6の下面60からベース板2の下面20に至る。第三貫通孔10Cの内径は、筒部12Cの外径よりも大きい。
【0052】
筒部12Cの上端面はベース板2の下面20に当接し、筒部12Cの下端面は台座部11の上面110に当接している。筒部12Cの長さは、第三貫通孔10Cの長さよりも長い。従って、保持台10と台座部11との間に空間が形成されている。この空間は、空気断熱層として機能する。従って、保持台10の熱が台座部11に逃げ難い。
【0053】
本例とは異なり、支持部12は、押え板6の下面60を支持していても良い。また、支持部12は、柱状である必要はない。例えば、支持部12は、台座部11と同じ外径を有する筒状部材と、筒状部材の内周面にかけ渡された梁部材とで構成されていても良い。この場合、梁部材の上に押え板6の下面60が支持される。
【0054】
≪ケーシング≫
ケーシング13は、風などの外乱要因から保持台10を保護する部材である。本例のケーシング13は筒状の部材である。ケーシング13の下部は、台座部11に固定されている。
【0055】
<実施形態2>
保持台10は、下から順に押え板6とヒータ5とが配置されていれば良く、ヒータ5よりも上側の構成の配置は特に限定されない。例えば、図1に示される冷却板4は、保持台10の最上段に配置されていても良い。すなわち、保持台10は上から順に、冷却板4、ベース板2、ヒータ5、および押え板6を備える構成であっても良い。この場合、冷却板4は着脱自在に構成されていても良い。
【0056】
<試験>
≪試験例1≫
試験例1では、図1に示されるウエハ加熱装置1に備わる押え板6の放射率の値が、保持台10の昇温速度に及ぼす影響を調べた。具体的には、押え板6の放射率の値が、保持台10から台座部11への熱輻射に及ぼす影響をシミュレーションによって調べた。シミュレーションは、Ansys社のマルチフィジックス解析ソフトウェアによって実施した。シミュレーションにおける主な条件は以下の通りである。
【0057】
[シミュレーション条件]
・押え板6の下面60と、台座部11の上面110との間隔:6mm
・押え板6の厚さ:2mm
・ヒータ5の熱量:1kW(キロワット)
・ヒータ5に熱量を付与する前のベース板2の上面の温度:25℃
・シミュレーション開始時の台座部11の上面110の温度:25℃
【0058】
シミュレーションでは、ベース板2の上面の温度が200℃になるまでの昇温時間tを調べた。昇温時間tの単位は秒である。また、ベース板2の上面の温度が200℃になった時間における台座部11の上面110の台座温度Tを調べた。シミュレーション結果を表1に示す。図4の横軸は押え板6の放射率である。左縦軸は昇温時間t、右縦軸は台座温度Tである。図4における丸印のプロットは昇温時間tを、三角印のプロットは台座温度Tを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
ヒータ5の絶縁シート50の放射率は、絶縁シート50の材料によって変化するが、おおむね0.6以上である。従って、押え板6を備えないウエハ加熱装置1における保持台10の加熱性能は、押え板6の放射率が0.6以上のウエハ加熱装置1における保持台10の加熱性能とほぼ同じと考えて良い。表1および図4に示されるように、押え板6を備えないか、または放射率が0.6以上である押え板6を備えるウエハ加熱装置1では、ベース板2の上面の温度を25℃から200℃に加熱するまでの昇温時間tが1429秒以上かかる。一方、放射率が0.5以下である押え板6を備えるウエハ加熱装置1では、昇温時間tは1363秒以下である。特に、押え板6の放射率が0.2のときの昇温時間t1は、押え板6の放射率が0.6のときの昇温時間t2よりも200秒以上短い。放射率を0.2としたことによる昇温時間tの短縮率は約15%である。昇温時間tの短縮率は、{(t2-t1)/t1}×100によって求められる。昇温時間tが短いと、ウエハを加熱するためのヒータ5の消費電力を低減できる。また、所定の時間内に熱処理可能なウエハの数が増加するので、ウエハの生産性が向上する。
【0061】
さらに今回のシミュレーションによって、押え板6の放射率が0.5以下であれば、台座部11の上面110の台座温度Tが80℃以下に抑えられることが分かった。特に、押え板6の放射率が0.2以下であれば、台座温度Tが70℃程度に抑えられることが分かった。台座温度Tが80℃以下であれば、台座部11、および台座部11に近接または接する部材が熱によるダメージを受け難い。例えばケーシング13の材料を必要以上に耐熱性に優れる材料にする必要がなく、ウエハ加熱装置1のコストなどを低減できる可能性がある。
【0062】
≪試験例2≫
試験例2では、ベース板2と押え板6の材料が、保持台10に及ぼす影響を調べた。上述の通り、ベース板2と押え板6との熱膨張係数に着目して、ウエハ載置面であるベース板2の上面の平面度を指標として検証を行った。
【0063】
ベース板2の材料には、SiCの多孔質体にシリコンを含浸させたSi-SiCを用いた。押え板6として、SUS304によって構成されるSUS板と、コバールによって構成されるコバール板とを用意した。SUS板とコバール板の厚さは共に2mmであった。SUS板とコバール板の算術平均粗さRaは0.21μmから0.25μmの範囲であった。また、初期状態におけるベース板2の上面の平面度は5μmであった。平面度は、JIS B 0621:1984に基づいて、市販の三次元測定機によって測定した。
【0064】
押え板6としてSUS板を用いたウエハ加熱装置1と、押え板6としてコバール板を用いたウエハ加熱装置1について、ヒートサイクル試験を実施した。ヒートサイクル試験では、20℃から200℃に加熱する工程と、200℃から20℃に冷却する工程とで構成されるヒートサイクルを1000回繰り返した。
【0065】
ヒートサイクル試験後に、各保持台10のベース板2の上面の平面度を測定した。その結果、SUS板からなる押え板6を備えるウエハ加熱装置1では、ベース板2の上面21の平面度は8μmであり、試験前よりも上面21の平面度が若干ではあるが悪化した。一方、コバール板からなる押え板6を備えるウエハ加熱装置1では、ベース板2の上面21の平面度は5μmであり、試験前後で上面21の平面度はほとんど変化しなかった。これらのことから、繰り返し加熱および冷却される保持台10においてベース板2と押え板6との熱膨張係数の差が小さい方が、上面21の平面度を維持できることが確認できた。特に、ベース板2の材料としてSiCの多孔質体にシリコンを含浸させたSi-SiCを用いた場合、押え板6の材料としてはコバールの方がステンレス鋼よりも優れていることが分かった。なお、保持台10に求められる性能としては、ウエハが載置される上面21の平面度が10μm以下であるとよく、5μm以下であればさらによい。
【符号の説明】
【0066】
1 ウエハ加熱装置
10 保持台
10A 第一貫通孔
10B 第二貫通孔
10C 第三貫通孔
11 台座部
11c 凹部
110 上面
12 支持部
12C 筒部
12S 固定軸
12N ナット
13 ケーシング
2 ベース板
20 下面
21 上面
4 冷却板
40 下面
41 流路
5 ヒータ
50 絶縁シート
51 抵抗加熱体
56 下面
6 押え板
60 下面
61 第一ボルト
61H 頭部
61S 軸部
62 第二ボルト
62H 頭部
62S 軸部
【要約】
【課題】保持台を迅速に加熱できるウエハ加熱装置を提供する。
【解決手段】ウエハが載置される保持台と、前記保持台の下方に配置された台座部と、前記台座部から上方に延び、前記保持台と前記台座部との間に空間が形成されるように前記保持台を支持する支持部と、を備え、前記保持台は、ベース板と、前記ベース板の下方に配置されたヒータと、前記ヒータの下面に面接触するように配置された押え板とを備え、前記ヒータは、絶縁シートと、前記絶縁シートの内部に配置された抵抗加熱体と、を備え、前記押え板の放射率は、前記絶縁シートの放射率よりも低い、ウエハ加熱装置。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4