(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】織物及び織物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 15/567 20210101AFI20241018BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
D03D15/567
D03D11/00 A
(21)【出願番号】P 2020061080
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 倫子
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭14-011649(JP,Y1)
【文献】実開昭49-007279(JP,U)
【文献】特開平05-311574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風通織りで織られた方形模様を有する織物であって、前記方形模様における一のマス目の表地に縦皺を同マス目の裏地に横皺を有しており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の表地に横皺を同マス目の裏地に縦皺を有していることを特徴とする、織物。
【請求項2】
風通織りにより方形の模様を有する織物を製造する方法であって、
精練
後における収縮率の差が1~30%である少なくとも2種類の糸
であって、精練前の絹糸を用いて織る第一工程、並びに
前記織られた織物を
精練する第二工程、
を含む、織物の製造方法。
【請求項3】
風通織りにより方形の模様を有する織物を製造する方法であって、
精練後又は加熱後における収縮率の差が1~30%である少なくとも2種類の糸を用いて織る第一工程、並びに
前記織られた織物を精練又は加熱する第二工程、
を含む、織物の製造方法であって、
前記第一工程において、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率と、同マス目の裏地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が、1~30%であることを特徴とす
る製造方法。
【請求項4】
風通織りにより方形の模様を有する織物を製造する方法であって、
精練後又は加熱後における収縮率の差が1~30%である少なくとも2種類の糸を用いて織る第一工程、並びに
前記織られた織物を精練又は加熱する第二工程、
を含む、織物の製造方法であって、
前記第一工程において、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が1~30%でありかつたて糸がよこ糸よりもより縮み、同マス目の裏地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が1~30%でありかつよこ糸がたて糸よりもより縮むことを特徴とす
る製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な模様を有する織物及び織物の製造方法の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
風通織りはいわゆる多重織りの一種であり、表裏異色のたて糸・よこ糸を用いてそれぞれ布面を構成し、文様の部分で表と裏との配色が逆になるように織った二重組織の織物を指す。風通織りは、前記のように異なる色による模様を表裏交互に連続させる事ができるため、意匠性の高い織物が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、風通織りにより得られる模様は平面的であり、立体性に欠ける。また、表裏を異色の糸により織らなければ模様を描く事ができない。従って、単一色の糸を用いて風通織りの織物を製造しても、意匠性の高い織物を製造できない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する織物及び特定の製造方法により上記課題が解決できる事を見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
[1]風通織りで織られた方形模様を有する織物であって、前記方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ていることを特徴とする、織物、
[2]風通織りで織られた方形模様を有する織物であって、前記方形模様における一のマス目の表地に縦皺を同マス目の裏地に横皺を有しており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の表地に横皺を同マス目の裏地に縦皺を有していることを特徴とする、織物、
[3]風通織りにより方形の模様を有する織物を製造する方法であって、
精練後又は加熱後における収縮率の差が1~30%である少なくとも2種類の糸を用いて織る第一工程、並びに
前記織られた織物を精練又は加熱する第二工程、
を含む、織物の製造方法、
[4]前記第一工程において、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率と、同マス目の裏地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が、1~30%であることを特徴とする、[3]に記載の製造方法、並びに
[5]前記第一工程において、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が1~30%でありかつたて糸がよこ糸よりもより縮み、同マス目の裏地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が1~30%でありかつよこ糸がたて糸よりもより縮むことを特徴とする、[3]に記載の製造方法、
の発明に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、色彩だけで無く、立体的な形状による高い意匠性を有する織物を得る事ができる。また、同一色の糸を用いて織物を製造した場合でも、高い意匠性を有する織物を得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】
図1の組織図に基づいて織られた風通織りを横方向から見た模式図である。
【
図3】実施例1の風通織りの表地を写した写真である。
【
図4】実施例2の風通織りの表地を写した写真である。
【
図5】実施例3の風通織りの表地を写した写真である。
【
図6】実施例4の風通織りの表地を写した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
I.織物
(1)織物1
本発明の織物1は、風通織りで織られた方形模様を有する織物であって、前記方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ている織物である。なお、本発明における「方形」とは、正方形だけで無く長方形を含む四角形を意味する。また、前記「四角形」は、四辺が直線であり四隅の角度が正確に90°の四角形を含む事はもちろん、精練・加熱等により糸が収縮する事により、四辺や四隅の角度にわずかに歪みが生じているものも含まれる。また、本発明における「表地」及び「裏地」は、2つの布地の位置関係を説明するために便宜上用いられている用語であり、具体的な用途における表裏(例えば、衣服における表地と裏地のような関係)を意味しない。
【0008】
通常の風通織りは、1のマス目の表地と同マス目の4辺に隣接するマス目の表地が同一色である場合には、マス目の境目が分からなくなるため意匠性が乏しくなってしまう。しかしながら、本発明の織物は前記のような立体的な形状を有しているため、仮に全てのマス目が同一色であった場合でも、立体性のある高い意匠性を発揮できる。織物の素材については特に制限されず、絹、綿、麻及び羊毛等の天然繊維であってもよいし、ポリエステル、ナイロン、レーヨン及びキュプラ等の化学繊維であってもよい。
【0009】
(2)織物2
本発明の織物2は、風通織りで織られた方形模様を有する織物であって、前記方形模様における一のマス目の表地に縦皺を同マス目の裏地に横皺を有しており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の表地に横皺を同マス目の裏地に縦皺を有している織物である。通常の風通織りは、1のマス目の表地と同マス目の4辺に隣接するマス目の表地が同一色である場合には、マス目の境目が分からなくなるため意匠性が乏しくなってしまう。しかしながら、本発明の織物は隣り合ったマス目が縦横異なる皺を有しているため、仮に全てのマス目が同一色であった場合でも高い意匠性を発揮できる。なお、織物の素材については特に制限されず、絹、綿、麻及び羊毛等の天然繊維であってもよいし、ポリエステル、ナイロン、レーヨン及びキュプラ等の化学繊維であってもよい。
【0010】
II.織物の製造方法
本発明の織物の製造方法は、風通織りにより方形の模様を有する織物を製造する方法であって、
精練後又は加熱後における収縮率の差が1~30%である少なくとも2種類の糸を用いて織る第一工程、並びに
前記織られた織物を精練又は加熱する第二工程、
を含む方法である。以下に、本発明で使用する織機、使用する糸及び各工程の詳細の順に説明する。
【0011】
1.使用する織機
前記の通り、本発明の方法は、風通織りにより織物を製造する事を基本とする。したがって、本発明の方法で使用する織機は、風通織りを製造できる織機である。このような織機の例として、例えば自動織機としては、ジャガード織機及びドビー織機が挙げられる。本発明の方法で使用できる具体的な織機の例として、例えば、ボーナス社製の電子ジャガード装置(商品名「MJ4」)を搭載した津田駒工業株式会社製自動織機(商品名「ERレピアルーム」)、澤染織工芸株式会社製のジャガード装置(商品名「ダイレクトジャガード」)を搭載した株式会社NS製の自動織機(商品名「NS-5」)、株式会社山田ドビー販売社製のドビー装置(商品名「AX」)を搭載した株式会社NS製の自動織機(商品名「NS-5」)等が挙げられる。これら織機を用いて、風通織りを織るための設定を行い使用できる。具体的には、例えば、ドビー織機を用いて織る場合、綜絖枠は
図1及び
図2における領域Xのたて糸を通すために4の倍数数、領域Yのたて糸を通すために4の倍数数用いる。綜絖枠を8枚使う場合、領域X用の綜絖枠を1~4番、領域Y用の綜絖枠を5~8番とすると、端の方形の1マス(X1とする)に必要なたて糸を綜絖枠1~4番の綜絖に順通しする(1234123412341234・・・の順に通す)。次にX1の隣の方形の1マス(Y1)に必要なたて糸を綜絖枠5~8番の綜絖に順通しする(567856785678・・・の順に通す)。次はY1の隣のマス(X2)もX1と同様に1~4に通す。これを生地の端まで繰り返す。綜絖に通した糸は、筬に通す。筬は1羽に2の倍数数で引き込み、表地用のたて糸と裏地用のたて糸は同じ羽に引き込む。綜絖、筬に通したたて糸を織機にかけ、組織図通りに製織することにより、風通織りの織物が得られる。
【0012】
2.使用する糸
本発明の方法では、精練又は加熱後における収縮率の差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%である少なくとも2種類の糸を用いる。前記のような収縮率の差を有する糸を用いることにより、後述するような立体的な意匠性を有する織物を得る事ができる。このような糸の素材は、前述のような収縮率の差が得られるものである事を条件として特に制限されない。このような糸の素材として、例えば、絹、綿、麻及び羊毛等の天然繊維であってもよいし、ポリエステル、ナイロン、レーヨン及びキュプラ等の化学繊維が挙げられる。
【0013】
なお、前記「精練」とは、繊維中の夾雑物を除く等、漂白又は漂白するための準備工程を意味する。具体的には、後述のように、アルカリ類と界面活性剤を用いて、溶解、分解、乳化、けん化、酸化等により繊維中から夾雑物を除く方法を意味する。また、前記「加熱」の条件は、後述の第二工程における加熱を意味する。精練又は加熱後における前記収縮率を、絹糸の収縮率を測定する場合を例に挙げて説明する。
(1)検尺機で33.75mの糸を巻き取り、綛状にする。
(2)前記巻き取って得られた綛を2g/L炭酸ナトリウム水溶液で浴比1:30で、98℃の温度にて30分精練する。
(3)精練後風乾して再度綛を測長する。
(4)精練・風乾後の綛の長さを精練前の綛の長さで割る事により収縮率を求める。
使用する糸の種類により、上記(3)の条件を適宜変更して収縮率を求める。
なお、精練又は加熱後における収縮率は、糸の素材、糸の撚り具合、糸の繊度等により適宜調整可能である。
【0014】
また、糸の色については、一般的に織物に使用されている色であれば、特に制限されない。第一工程で使用する糸を全て同色にしてもよいし、異なる色の糸を使用してもよい。本発明の方法においては、立体的な模様を得る事ができるため、第一工程で使用する糸を全て同色にしても、高い意匠性を有する織物が得られる。
【0015】
3.本発明の方法の概要
図1は、風通織りを織る際の組織図である。縦軸の数字がよこ糸の番号を表し、横軸の数字がたて糸の番号を表している。
図1の組織図に基づいて風通織りを織った際に得られる織物を横方向から見た模式図が
図2に示されている。
図2の波線及び波破線がよこ糸を、前記波線及び波破線により囲まれている円がたて糸を表している。
【0016】
図2において各よこ糸及びたて糸に振られている番号は、組織図におけるたて糸及びよこ糸の番号に対応している。なお、
図2においては、よこ糸が1~4しか記載されていないが、これら各よこ糸の隣によこ糸5~8、具体的にはよこ糸1の隣によこ糸5が、よこ糸2の隣によこ糸6が、よこ糸3の隣によこ糸7が、よこ糸4の隣によこ糸8が存在する。前記組織図に基づいて風通織りを織る事により、1のマス目(領域X)についてはたて糸1、3、5及び7並びによこ糸1、3、5及び7が方形の表地を、たて糸2、4、6及び8並びによこ糸2、4、6及び8が同方形の裏地を形成する。
【0017】
一方、隣のマス目(領域Y)においては、たて糸10、12、14及び16並びによこ糸2、4、6及び8が方形の表地、たて糸9、11、13及び15並びによこ糸1、3、5及び7が方形の裏地を形成する。このような領域X及びYが互い違いに連続する事により、方形模様を有する織物を製造できる。本発明の方法における第一工程は、精練後又は加熱後における収縮率の差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%である少なくとも2種類の糸を用いて織る工程である。本発明の方法により、前記のような織機を用いて風通織りを織る際に、収縮率の差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%である糸を様々に組み合わせて使用する事で、立体的な意匠を有する織物を得る事ができる。
【0018】
本発明の方法における第二工程は、前記織られた織物を精練又は加熱する工程である。精練は、織物を精練する際に用いられている一般的な手法、具体的は、アルカリ類と界面活性剤を用いて、溶解、分解、乳化、けん化、酸化等により繊維中から夾雑物を除くいかなる操作も含まれる。これらの操作において使用する試薬、温度、時間等の条件は、第一工程で使用された繊維の種類等に基づいて適宜変更可能である。
また、加熱を行う場合における加熱温度は、第一工程で使用された繊維の種類等に基づいて適宜変更可能である。このような加熱温度の具体例として、例えば、織物を含んだ環境温度を、70~180℃、好ましくは80~160℃となるまでの温度としてよい。なお、加熱前の織物を水で濡らしたり、加熱中に水蒸気を供給してもよい。
上記のように精練又は加熱をする事により、第一工程で織られた風通織りを構成するたて糸及びよこ糸が収縮し、その収縮率の差により、様々な立体模様を含む風通織りの織物を得る事ができる。
【0019】
4.第一工程の実施形態に基づく説明
【0020】
本発明の方法においては、前記のように収縮率の差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%である糸を様々に組み合わせて使用する事で、立体的な模様を有する織物を得る事ができる。以下に、具体的な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態はあくまでも本発明を説明するための一形態にすぎない。したがって、以下の実施形態が本発明の範囲に影響を与えないことは言うまでも無い。
【0021】
(1)実施形態1
実施形態1は、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率と、同マス目の裏地用のたて糸及び/又はよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%である少なくとも2種類の糸を用いて風通織りを織る形態である。例えば、2種類の糸(糸Aと糸B:精練又は加熱により糸Aは糸Bよりも1~30%縮む)を用いて第一工程を行う場合を例に挙げて説明する。
【0022】
前記のように、
図2の領域Xについてはたて糸1、3、5及び7並びによこ糸1、3、5及び7が方形の表地を、たて糸2、4、6及び8並びによこ糸2、4、6及び8が方形の裏地を形成する。一方、隣の領域Yにおいては、たて糸10、12、14及び16並びによこ糸2、4、6及び8が方形の表地を形成し、たて糸9、11、13及び15並びによこ糸1、3、5及び7が方形の裏地を形成する。本実施形態においては、糸Aをたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15並びによこ糸1、3、5及び7にし、糸Bをたて糸2、4、6、8、10、12、14及び16並びによこ糸2、4、6及び8にする。このようにする事で、領域Xにおける表地及び領域Yにおける裏地が糸Aで構成され、領域Xにおける裏地及び領域Yにおける表地が糸Bで構成される。第一工程におけるたて糸及びよこ糸の組み合わせを上記のようにして得られた織物を、第二工程において精練又は加熱する事により、糸A及び糸Bが収縮する。
【0023】
また、各領域における表地及び裏地は、たて糸及びよこ糸ともに同種の糸で形成されているため、均一に縮む。ただし、前記の通り、糸Aは糸Bよりもより縮むため、糸Aで構成された領域Xの表地及び領域Yの裏地が平面になる一方で、糸Bで構成された領域Xの裏地及び領域Yの表地が糸Aで構成された面の収縮に追随できず、糸Bで構成された面が糸Aで構成された面から膨れ出た立体的な模様を形成する。このようにする事で、方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ている織物が得られる。
【0024】
なお、前記実施形態1の例において、一のマス目の表地のたて糸及びよこ糸(共に糸A)並びに同マス目の裏地のたて糸及びよこ糸(共に糸B)をそれぞれ同じ糸とした上で、それぞれの糸の収縮率(糸Aの収縮率と糸Bの収縮率)を変化させている。しかしながら、同一のマス目における一面、例えば表地を形成するたて糸及びよこ糸を常に同じにする必要は無く、収縮率の異なる糸を組み合わせて使用してもよい。この場合、一のマス目の表地のたて糸及びよこ糸の内最も収縮率の高い糸の収縮率と、同マス目の裏地のたて糸及びよこ糸の内最も収縮率の高い糸の収縮率との差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%であれば前記立体的な模様を有する風通織りを得る事ができる。
【0025】
(2)実施形態2
実施形態2は、本発明の第一工程において、方形模様における一のマス目の表地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%でありかつたて糸がよこ糸よりもより縮み、同マス目の裏地用のたて糸の精練後又は加熱後における収縮率とよこ糸の精練後又は加熱後における収縮率との差が、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、さらに好ましくは2~15%でありかつよこ糸がたて糸よりもより縮む形態である。例えば、2種類の糸(糸Aと糸B:精練又は加熱により糸Aは糸Bよりも1~30%縮む)を用いて第一工程を行う場合を例に挙げて説明する。
【0026】
前記のように、
図2の領域Xについてはたて糸1、3、5及び7並びによこ糸1、3、5及び7が方形の表地を、たて糸2、4、6及び8並びによこ糸2、4、6及び8が方形の裏地を形成する。一方、隣の領域Yにおいては、たて糸10、12、14、及び16並びによこ糸2、4、6及び8が方形の表地を形成し、たて糸9、11、13、及び15並びによこ糸1、3、5及び7が方形の裏地を形成する。本実施形態においては、糸Aをたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15並びによこ糸2、4、6及び8にし、糸Bをたて糸2、4、6、8、10、12、14及び16並びによこ糸1、3、5及び7にする。このようにする事で、領域Xの表地及び領域Yの裏地におけるたて糸が糸Aでよこ糸が糸Bで構成され、領域Xの裏地及び領域Yの表地におけるたて糸が糸Bでよこ糸が糸Aで構成される。
【0027】
第一工程におけるたて糸及びよこ糸の組み合わせを上記のようにして得られた織物を、第二工程において精練又は加熱する事により、糸A及び糸Bが収縮する。また、各領域における表地及び裏地は、同じ糸A及び糸Bで形成されているため、表地と裏地との間における収縮率の差は生じにくい。しかしながら、糸A及びBの収縮率の差により、領域Xの表地及び領域Yの裏地においては縦方向の収縮が強くなる結果横皺が、領域Xの裏地及び領域Yの表地においては横方向の収縮が強くなる結果縦皺が生じる。このようにする事で、方形模様における一のマス目の表地に縦皺を同マス目の裏地に横皺を有しており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の表地に横皺を同マス目の裏地に縦皺を有する風通織りの織物を得る事ができる。
【0028】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、実施例が本発明の範囲に影響を与えないことは言うまでも無い。
【実施例】
【0029】
1.使用した糸
各実施例において以下の糸を使用した。なお、いずれも精練前の白色の絹糸である。
A :南久ちりめん株式会社製 八丁撚糸(収縮率23.6%)
B :江一株式会社製 駒糸(収縮率21.1%)
C :南久ちりめん株式会社製 八丁撚糸(収縮率37.0%)
D :南久ちりめん株式会社製 変り八丁撚糸(収縮率28.5%)
E :南久ちりめん株式会社製 平糸(収縮率21.7%)
F :南久ちりめん株式会社製 八丁撚糸(収縮率39.4%)
G :南久ちりめん株式会社製 変り八丁撚糸(収縮率25.2%)
H :南久ちりめん株式会社製 平糸(収縮率21.2%)
【0030】
2.使用した織機
株式会社山田ドビー販売社製ドビー装置(商品名AX)搭載型株式会社NS製自動織機(商品名NS-5)
【0031】
3.実施例1
図1及び2におけるたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15並びによこ糸1、3、5及び7を糸Aとし、たて糸2、4、6、8、10、12、14及び16並びによこ糸2、4、6及び8を糸Bとして、ドビー織機にて
図1の組織図に基づき風通織りの織物を製造した。糸Aと糸Bとの収縮率の差は、2.5%であった。
【0032】
前記得られた風通織りの織物を、以下の条件にて精練した。
(1)前処理(常圧槽)
炭酸ナトリウム26%、石鹸2%、キレート剤(平安油脂化学工業株式会社製、商品名「ハイキレート220」)0.8%、ハイドロサルファイト0.6%、分散剤(ミヨシ油脂株式会社製、商品名「ペレソフト」)1.2%owf(on the weight of fiber)の前処理水溶液で浴比1:33、96~98℃で1時間処理した。
(2)精練(高圧槽)
炭酸ナトリウム10%、石鹸7%、アルコール洗剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「モノゲン」)2%、分散剤(平安油脂化学工業株式会社製、商品名「ホフナール」)0.4%、キレート剤(平安油脂化学工業株式会社製、商品名「ハイキレート220」)0.4%、ハイドロサルファイト0.6%owf(on the weight of fiber)の精練水溶液を用いて、浴比1:33、圧力0.2MPa、120℃で40分処理した。
(3)仕上げ練(常圧槽)
炭酸ナトリウム2%、アルコール洗剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「モノゲン」)1%、キレート剤(平安油脂化学工業株式会社製、商品名「ハイキレート220」)0.4%、ハイドロサルファイト0.3%owf(on the weight of fiber)の仕上げ練溶液で浴比1:33、96~98℃で50分処理した。
(4)仕上げ練の後、水洗し、風乾させて精練後の織物を得た。
【0033】
実施例1で得られた風通織りの表地の写真が
図3に示されている。
図3から明らかなように、本発明の風通織りにおいて、前記方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ていた。また、糸A及び糸B共に白色の糸であるにもかかわらず、得られた織物にはその表地に非常に特徴的な立体模様が現れていた。
【0034】
4.実施例2
糸Aをたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15、糸Bをたて糸2、4、6、8、10、12、14及び16、糸Cをよこ糸1、3、5及び7、糸Dをよこ糸2及び6並びに糸Eをよこ糸4及び8とした以外は、実施例1と同様に行った。なお、領域Xの表地を形成する糸の内最も収縮率の高い糸は糸Cであり、領域Xの裏地を形成する糸の内最も収縮率の高い糸は糸Dであり、これら糸の収縮率の差は8.5%であった。
実施例2で得られた風通織りの表地の写真が
図4に示されている。
図4から明らかなように、実施例1と同様に、前記方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ていた。また、実施例2で使用した糸は全て白色の糸であるにもかかわらず、得られた織物にはその表地に非常に特徴的な立体模様が現れていた。
【0035】
5.実施例3
糸Aをたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15、糸Bをたて糸2、4、6、8、10、12、14及び16、糸Fをよこ糸1、3、5及び7、糸Gをよこ糸2及び6並びに糸Hをよこ糸4及び8とした以外は、実施例1と同様に行った。なお、領域Xの表地を形成する糸の内最も収縮率の高い糸は糸Fであり、領域Xの裏地を形成する糸の内最も収縮率の高い糸は糸Gであり、これら糸の収縮率の差は14.2%であった。
実施例3で得られた風通織りの表地の写真が
図5に示されている。
図5から明らかなように、実施例1と同様に、前記方形模様における一のマス目の表地が平面であり同マス目の裏地が前記表地から膨れ出ており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の裏地が平面であり同マス目の表地が前記裏地から膨れ出ていた。また、実施例3で使用した糸は全て白色の糸であるにもかかわらず、得られた織物にはその表地に非常に特徴的な立体模様が現れていた。
【0036】
6.実施例4
糸Aをたて糸1、3、5、7、9、11、13及び15並びによこ糸2、4、6及び8にし、糸Bをたて糸2、4、6、8、10、12、14及び16並びによこ糸1、3、5及び7にした以外、実施例1と同様に行った。実施例4で得られた風通織りの表地の写真が
図6に示されている。実施例4の風通織りは、
図6に示すように、方形模様における一のマス目の表地に縦皺を同マス目の裏地に横皺を有しており、前記マス目の4辺に隣接するマス目の表地に横皺を同マス目の裏地に縦皺を有していた。また、実施例4で使用した糸は全て白色の糸であるにもかかわらず、得られた織物にはその表地に非常に特徴的な立体模様が現れていた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の織物及び織物の製造方法により、立体的な模様を有する意匠性の高い風通織りが得られる。特に、本発明の風通織りは、立体模様を有するため、全て単一色の糸で製造した場合でも高い意匠性を提供できる。したがって、色彩のみに頼らない意匠性豊かな織物を提供でき、新しいファッションを提供できる。