IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 芝浦工業大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ねじ部材の軸力評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/00 20190101AFI20241018BHJP
   F16B 31/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01M13/00
F16B31/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020081421
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175957
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細矢 直基
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-340710(JP,A)
【文献】国際公開第02/095346(WO,A1)
【文献】特開2006-226716(JP,A)
【文献】特開2010-008151(JP,A)
【文献】特開2003-240655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0328797(US,A1)
【文献】新倉孝典、細矢直基、橋村真治,実験モード解析によるボルト締結体の軸力検知,Dynamics and Design Conference 2016,日本,日本機械学会,2016年08月23日,No16-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
G01L 5/00 - 5/28
G01M 13/00 - 13/045
F16B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被締結物を締結しているねじ部材のねじ先側突出部の第1振動特性を取得するステップと、
取得した前記第1振動特性に基づいて、前記ねじ先側突出部の第1固有振動数を求めるステップと、
求められた前記第1固有振動数と、予め決定されている閾値とに基づいて前記ねじ部材の軸力を評価するステップとを備え、
前記閾値は、
第2被締結物を締結している前記ねじ部材の前記ねじ先側突出部の第2振動特性を、複数の目標軸力毎に、複数回ずつ取得するステップと、
取得された複数の前記第2振動特性それぞれに基づいて、前記ねじ先側突出部の1又は2の第2固有振動数を求めるステップと、
前記複数の目標軸力毎に複数の第2固有振動数の平均変化率を算出するステップと、
前記複数の目標軸力の1つである基準軸力に対応する前記平均変化率である基準変化率との差が所定割合以上となる前記平均変化率に対応する第3固有振動数を前記閾値に決定するステップと、
が実行されることで決定されており、
前記平均変化率は、前記基準軸力に対応する前記複数の第2固有振動数の平均値である基準平均値に対する前記複数の第2固有振動数の平均値の変化率である、
ねじ部材の軸力評価方法。
【請求項2】
前記基準軸力に対応する前記複数の第2固有振動数の変動係数を算出するステップをさらに備え、
前記所定割合は、算出された前記変動係数に基づいている、
請求項1に記載のねじ部材の軸力評価方法。
【請求項3】
前記複数の目標軸力と、前記複数の目標軸力毎に求められた前記複数の第2固有振動数の前記平均変化率とに基づいて、前記複数の目標軸力と複数の前記平均変化率との対応関係を求めるステップと、
前記対応関係と、前記第3固有振動数とに基づいて、前記第3固有振動数に対応する軸力値を求めるステップと、
をさらに備える請求項1又は2に記載のねじ部材の軸力評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結物を締結しているねじ部材の軸力評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の組み立て、分解、および、保守を容易にするためにボルトなどのねじ部材を用いて各部品同士が締結されている。ボルトおよび構造物に対する振動、並びに、経時変化等の影響で、ボルトの軸力が低下していく。軸力の低下は、ボルトの疲労破壊の原因となる。
【0003】
非特許文献1には、被締結物を締結しているボルトにおけるナットから突出した部分であるねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数が、軸力の低下にともなって低下する傾向に着目したボルトの軸力評価方法が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、軸力とねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数との関係を予め実験により求め、ボルトの軸力が適正軸力であるときの固有振動数に対して、低下したと判断できる固有振動数を閾値として予め決定することが開示されている。これにより、測定対象のボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数を測定し、予め決定された閾値と測定によって得られた固有振動数を比較することで、ボルトが緩んでいるか否かを評価できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】新倉孝典、細矢直基、橋村真治、「実験モード解析によるボルト締結対の軸力検知(Detection of bolt axial force of a bolted joint by experimental modal analysis)」、日本機械学会 [No.16-15] Dynamisc and Design Conference 2016 USB論文集 No.353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測定対象のボルトのねじ先側突出部が比較的長い場合、ねじ先側突出部の振動特性において、2つの曲げモード(つまり、重根モード)の固有振動数を示すピークが互いに分離されやすい。非特許文献1の評価方法において、2つの曲げモードの固有振動数それぞれの軸力の大きさに対する変化に基づいて、閾値が決定されている。
【0007】
ボルトの種類によっては、予め行われる実験によって得られる複数の振動特性に、2つの曲げモードの固有振動数を示すピークが互いに分離されている振動特性、および、2つの曲げモードのうち1つのピークのみ現れる振動特性が混在することがある。この場合、非特許文献1の軸力評価方法では、軸力評価に用いる閾値を適切に決定することができない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、より多くの種類のねじ部材の緩みを評価することができるねじ部材の軸力評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るねじ部材の軸力評価方法は、第1被締結物を締結しているねじ部材のねじ先側突出部の第1振動特性を取得するステップと、取得した前記第1振動特性に基づいて、前記ねじ先側突出部の第1固有振動数を求めるステップと、求められた前記第1固有振動数と、予め決定されている閾値とに基づいて前記ねじ部材の軸力を評価するステップとを備え、前記閾値は、第2被締結物を締結している前記ねじ部材のねじ先側突出部の第2振動特性を、複数の目標軸力毎に、複数回ずつ取得するステップと、取得された複数の前記第2振動特性それぞれに基づいて、前記ねじ先側突出部の1又は2の第2固有振動数を求めるステップと、前記複数の目標軸力毎に前記複数の第2固有振動数の平均変化率を算出するステップと、前記複数の目標軸力の1つである基準軸力に対応する前記平均変化率である基準変化率との差が所定割合以上となる前記平均変化率に対応する第3固有振動数を前記閾値に決定するステップと、が実行されることで決定されており、前記平均変化率は、前記基準軸力に対応する前記複数の第2固有振動数の平均値である第1基準平均値に対する前記複数の第2固有振動数の平均値の変化率である。
【0010】
さらに、本発明に係るねじ部材の軸力評価方法は、第1被締結物を締結しているねじ部材のねじ先側突出部の第1振動特性を取得するステップと、取得した前記第1振動特性に基づいて、前記ねじ先側突出部の第1固有振動数に起因する振幅の大きさである第1振幅絶対値を求めるステップと、求められた前記第1振幅絶対値と、予め決定されている閾値とに基づいて前記ねじ部材の軸力を評価するステップと、を備える。
【0011】
さらに、本発明に係るねじ部材の軸力評価方法は、第1被締結物を締結しているねじ部材のねじ先側突出部の第1振動特性を取得するステップと、取得した前記第1振動特性が、前記ねじ先側突出部の第2固有振動数を示す振幅のピークの数に基づいて、前記ねじ部材の軸力を評価するステップと、を備える。
【0012】
さらに、本発明に係るねじ部材の軸力評価方法は、第1被締結物を締結しているねじ部材のねじ先側突出部の第1振動特性を複数回取得するステップと、取得した複数の前記第1振動特性に基づいて、前記第1振動特性毎に前記ねじ先側突出部の1又は2の第1固有振動数を求めるステップと、求められた複数の前記第1固有振動数のばらつきを示す第1パラメータを算出するステップと、求められた前記第1パラメータと、予め決定されている閾値とに基づいて前記ねじ部材の軸力を評価するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より多くの種類のねじ部材の緩みを評価することができるねじ部材の軸力評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るねじ部材の軸力評価方法において用いられる試験システムである。
図2】打撃試験に用いられる供試ボルトを示す図である。
図3】ボルト/ナット締結体のねじ先側突出部近傍の拡大図である。
図4】供試ボルトに対する打撃試験よって得られた振動特性を例示する図である。
図5A】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図5B】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数の変化率と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図6A】打撃試験よって得られた振動特性であって、ねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークを1つ含む振動特性である。
図6B】打撃試験よって得られた振動特性であって、ねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークを2つ含む振動特性である。
図7A】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図7B】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数の変化率と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図8A】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図8B】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数の変化率と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図9A】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図9B】供試ボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数の変化率と供試ボルトの軸力との対応関係の一例を示すグラフである。
図10】第2実施形態の着想について説明するための図であり、供試ボルトに対する打撃試験によって得られたねじ先側突出部の振動特性の一覧を例示する図である。
図11】第3実施形態の着想について説明するための図であり、供試ボルトに対する打撃試験によって得られたねじ先側突出部の振動特性の一覧を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1~第4実施形態に係るねじ部材の軸力評価方法ついて、図面を参照しながら説明する。なお、ねじ部材は、ねじが切られている棒状の部分を有しており、物体を締付けるために用いられる部材である。ねじ部材は、例えば、ボルトおよびねじ等である。以下の説明では、ねじ部材はボルトであるとして説明するが、ねじにも同様に適用できる。以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の各実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。また、第1~第4実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、第1~第4実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
なお、第1~第4実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その説明を省略することもある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るねじ部材の軸力評価方法は、まず、ボルトの軸力とボルトのねじ先側突出部の曲げモードの固有振動数との対応関係(以下、振動数対応関係と称す。)を求める。そして、求められた振動数対応関係に基づいて、固有振動数の閾値を決定する。そして、固有振動数の閾値に対応する軸力値を求める。これにより、振動数対応関係、固有振動数の閾値、および、該閾値に対応する軸力値(以下、対応軸力値)を得ることで実際の被締結物を締結しているボルトが緩んでいるか否か、および、緩んでいる場合、どの程度緩んでいるかについて評価できる。
【0018】
以下、振動数対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値を得ることについて、ボルトA、ボルトB、ボルトC、およびボルトDを例に説明する。ボルトA、ボルトB、ボルトC、およびボルトDの寸法等の詳細は、後述する。
【0019】
<振動数対応関係の取得>
ボルトA~Dの振動数対応関係を求めるために打撃試験を行う。以下、試験条件について説明する。図1は、第1実施形態に係るねじ部材の軸力評価方法に用いられる試験システム100である。図2は、打撃試験に用いられる供試ボルト10を示す図である。供試ボルト10は、ボルトA~D等の試験対象のボルトの総称である。
【0020】
-試験条件-
試験システム100は、ボルト/ナット締結体1、加速度センサ3、ひずみゲージ4、インパルスハンマ5、スペクトルアナライザ(不図示)、および、センサインタフェース(不図示)を備える。
【0021】
ボルト/ナット締結体1は、被締結物2(「第2被締結物」の一例)、供試ボルト10及び供試ナット60から構成されている。
【0022】
被締結物2は、1辺が35mmの炭素鋼(C50)製の立方体である。被締結物2には、1つの面の中心から該面に対向する面にかけて供試ボルト10が貫通可能な穴があけられている。
【0023】
複数の被締結物を供試ボルト10および供試ナット60で締結するものとしていない理由は、複数の被締結物間の摩擦、並びに、被締結物の固有振動数、および、振動モードの違いの影響を排除するためである。
【0024】
供試ボルト10は、供試ナット60とともに被締結物2を締結している。供試ボルト10の締結時には、摩擦係数のばらつきを抑えて安定した締結となるようにするために、ボルト用軸力安定化剤(Fcom、東日製作所、密度:0.89g/cm(20℃)、粘度:約15000mPa・s(24℃))が供試ボルト10のねじ面と供試ナットの座面に塗布されている。
【0025】
図1の12は、ねじ先側突出部である。ねじ先側突出部12は、供試ボルト10のねじ部のうち、被締結物2に供試ボルト10が供試ナット60とともに締結された状態において、供試ナット60よりも頭部とは反対側に突出する部位である。
【0026】
図1の13は、ねじ先側突出部12の先端部である。先端部13は、インパルスハンマ5でねじ先側突出部12を加振しやすくするために、ねじ先側突出部12の先端から一定長さL2の範囲でねじやまを除去することで形成されている(図2参照)。本試験において、L2は、5mmである。
【0027】
図1のPおよびL3は、それぞれねじ先側突出部12におけるインパルスハンマ5で打撃を加える位置(以下、打撃点と称す。)、および、ねじ先側突出部12の先端から打撃点Pまでの距離を示す。本試験において、L3は3mmである。図1のEは、供試ボルト10の中立軸を通り、かつ、被締結物2の重心軸上に位置する測定点である。測定点Eが被締結物2の重心軸から大きくずれた位置に設定した場合、被締結物2の角近傍に加速度センサ3を取り付けることになる。この場合、加速度センサ3が取り付けにくい。さらに、加速度センサ3は、ねじ先側突出部12の曲げモード以外の振動モード(他の振動モード)も含めて測定してしまう。すなわち、加速度センサ3の取り付けを容易化すること、および、測定結果から極力他の振動モードを排除することを目的として、測定点Eを被締結物2の重心軸上に位置するように設定した。
【0028】
本試験において、供試ボルト10の頭部には、ひずみゲージ4の配線を通すための直径1.5mmの貫通穴(不図示)が2つ形成されている。
【0029】
なお、図1および2におけるd、L、w、およびcは、それぞれ、ねじ部の呼び径、供試ボルト10の呼び長さ、ねじ先側突出部12の長さ、および先端部13の直径である。
【0030】
供試ボルト10のさらなる詳細については後述する。
【0031】
加速度センサ3は、ねじ先側突出部12の振動特性測定に用いられる。加速度センサ3は、被締結物2における供試ボルト10の貫通穴が形成されていないいずれかの面に取り付けている。また、本試験において、加速度センサ3として、加速度センサ(352C15、PCB Inc.、感度:0.973mV/(m/s)、質量:2g、固有振動数:50kHz以上)が用いられている。
【0032】
ひずみゲージ4は、供試ボルト10の軸力を測定する。ひずみゲージ4は、供試ボルト10の棒状部における頭部の裏面から一定の距離の範囲内に取り付けられている。なお、棒状部とは、供試ボルト10の頭部を除く棒状の部位である。
【0033】
本試験において、4つのひずみゲージ4が用いられており、供試ボルト10の軸力は4アクティブゲージ法により計測される。4つのひずみゲージ4の2つは、頭部の裏面から距離aの位置であり、かつ、棒状部を挟んで互いに対向する位置に、ひずみゲージ4の測定方向(図2の破線矢印)が、棒状部が延在する方向に沿うように貼り付けられている。
【0034】
残りの2つは、頭部の裏面から距離bの位置であり、かつ、棒状部を挟んで互いに対向する位置に、ひずみゲージ4の測定方向が、棒状部が延在する方向に対して垂直な方向(図2の2点鎖線矢印)に沿うように貼り付けられている。
【0035】
本試験では、ひずみゲージ4として、ひずみゲージ(KFR-02-120-C1、共和電業、ゲージ長:0.2mm)が用いられている。なお、ひずみゲージ4の配線は、供試ボルト10の頭部に形成された貫通穴を通して、センサインタフェース(PCD-300A、共和電業)に接続されている。
【0036】
インパルスハンマ5は、ねじ先側突出部12を叩くことで、ねじ先側突出部12を加振させるものである。本試験では、インパルスハンマ5として、インパルスハンマ(タイプ8204、ブリュエル・ケアー、感度:22.26mV/N)が用いられている。なお、インパルスハンマ5には、インパルスハンマ5から供試ボルト10に与える入力の強度を測定するためのロードセルが取り付けられている。
【0037】
スペクトルアナライザは、加速度センサ3、および、インパルスハンマ5のロードセルによる測定結果を取得し、記録する。また、センサインタフェースはひずみゲージ4による測定結果を取得し、記録する。
【0038】
[供試ボルト]
本打撃試験では、供試ボルト10として、市販の高強度六角ボルト(材料:カーボンスチール、コーティング:四酸化鉄皮膜)を用いた。
【0039】
表1には、本試験で使用した4種類の供試ボルト10(ボルトA、ボルトB、ボルトC、ボルトD)の寸法を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示されているように、呼び径がM10またはM12であるの2種類の六角ボルトが試験対象とされている。本試験ではアスペクト比が0.7、1.7、および3.7のボルトを試験対象としている。なお、アスペクト比はw/dと定義される。
【0042】
表1に示されているように、ボルトA、および、ボルトDは、ボルトBおよびボルトCに対してひずみゲージが貼り付けられている位置が異なる。
【0043】
一般的に、市販のボルトは呼び長さLが長くなると、製造方法に起因するねじ部の真直度が低下する。このため、本試験では、Lが長い供試ボルト10であるボルトCに対して、ねじ部におけるひずみゲージ4を貼り付ける箇所を切除および研磨している。これにより、ボルトCの真直度を他のボルト(ボルトA、B、およびD)と同程度にしている。
【0044】
[供試ナット]
供試ナット60として、市販の六角ナット2種(材質:カーボンスチール、コーティング:四酸化鉄皮膜)を用いた。なお、本試験において、2種類の供試ナット60を用いている。2種類の供試ナット60は、M10のボルト(ボルトA、ボルトB、およびボルトC)とともに被締結物2に締結可能な大きさのねじ穴が形成されたナット(以下、ナット60Aと称す。)と、M12のボルト(ボルトD)とともに被締結物2に締結可能な大きさの穴が形成されたナット(以下、ナット60Dと称す。)である。
【0045】
[被締結物]
本試験において、被締結物2は、2種類用いられている。1つ目は、M10のボルト(ボルトA、ボルトB、およびボルトC)が貫通可能な貫通穴が形成された被締結物(以下、被締結物2Aと称す。)であり、該貫通穴の直径は、11mmである。2つ目は、M12のボルト(ボルトD)が貫通可能な貫通穴が形成された被締結物(以下、被締結物2Dと称す。)であり、該貫通穴の直径は、13.5mmである。
【0046】
[ボルト/ナット締結体]
ボルトAについて打撃試験を行う場合、ボルトA、ナット60A、および、被締結物2Aにより形成されたボルト/ナット締結体1を用いる。ボルトBについて打撃試験を行う場合、ボルトB、ナット60A、および、被締結物2Aにより形成されたボルト/ナット締結体1を用いる。ボルトCについて打撃試験を行う場合、ボルトC、ナット60A、および、被締結物2Aにより形成されたボルト/ナット締結体1を用いる。ボルトDについて打撃試験を行う場合、ボルトD、ナット60D、および、被締結物2Dにより形成されたボルト/ナット締結体1を用いる。
【0047】
[適正軸力]
適正軸力は、供試ボルト10の0.2%耐力の60%と定義する。このため、ボルトA、ボルトB、およびボルトCの適正軸力は、31.32kNとなり、ボルトDの適正軸力は、45.32kNとなる。
【0048】
[ひずみゲージの校正]
供試ボルト10に貼付したひずみゲージ4で軸力を正確に計測するために、ひずみゲージ4は、校正されている。
【0049】
引張試験機等で供試ボルト10に荷重を作用させ、ロードセル(LCW-C-50KN50SA3、共和電業)による荷重(軸力)測定と、ひずみゲージ4によるひずみ測定とを行った。供試ボルト10に作用させる荷重の大きさを変更して荷重とひずみの測定を複数回行うことで、軸力とひずみの関係を求めた。
【0050】
1つの荷重ごとに10回、軸力とひずみを測定した。また、1回の測定を行うたびに供試ボルト10を締結し直している。この測定は、ボルトA~Dに対して行われ、測定によって得られた軸力とひずみの関係に基づいて各々のボルトの校正係数を求めた。この校正係数を用いて、打撃試験においてひずみゲージ4の測定結果を軸力に変換する。
【0051】
-打撃試験-
図3は、ボルト/ナット締結体1のねじ先側突出部12近傍の拡大図である。打撃試験において、インパルスハンマ5により打撃点Pに打撃を与えることで、ねじ先側突出部12を振動させる。ねじ先側突出部12の振動は、片持ち梁の振動のようにとらえることができる。そして、ねじ先側突出部12の振動特性(「第2振動特性」の一例)を加速度センサ3、および、インパルスハンマ5のロードセルで測定した。
【0052】
供試ボルト10のねじ先側突出部12の振動特性を以下に示すステップ(S1)~(S5)を実行することで取得する。なお、本実施形態において、振動特性は、E-P間(図1参照)の相互周波数応答関数のことである。
【0053】
まず、供試ボルト10がある目標軸力で被締結物2が締結されたときのねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得する。本試験では、ねじ先側突出部12の振動特性を10回取得した。
【0054】
ここで、目標軸力について説明する。作業者は、供試ボルト10が被締結物を締結しているときの軸力が所定の軸力となるように締付トルクの大きさを調整している。このときに、作業者が、目標とする軸力が目標軸力である。
【0055】
ステップ(S1)において、供試ボルト10が目標軸力となるように被締結物2を供試ボルト10および供試ナット60で締結する。
【0056】
次に、ステップ(S2)において、インパルスハンマ5で打撃点Pに打撃を与える。
【0057】
次に、ステップ(S3)において、ロードセルによる測定結果(インパルスハンマ5による入力強度の測定結果)、および、加速度センサ3による測定結果、および、相互周波数応答関数(絶対値、位相、コヒーレンス)をスペクトルアナライザで取得する。
【0058】
ステップ(S1)、(S2)および(S3)により、供試ボルト10がある軸力で被締結物2を締結しているときのねじ先側突出部12の振動特性を1回取得することができる。
【0059】
次に、ステップ(S4)において、ステップ(S1)~(S3)を複数回繰り返す。ここで、ステップ(S1)~(S3)を実行する度に、供試ボルト10および供試ナット60を被締結物2から外し、供試ボルト10および供試ナット60で被締結物2を再締結する。なお、ステップ(S4)において、目標軸力は変更されない。
【0060】
次に、ステップ(S5)において、ステップ(S1)~(S4)を軸力の条件を変更して実行する。本試験では、目標軸力が、適正軸力の100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、および、10%について、ねじ先側突出部12の振動特性を10回ずつ取得した。なお、打撃を与える回数、すなわち、測定回数と、同一の目標軸力という条件下での供試ボルト10および供試ナット60による被締結物2の締結回数とは同じとなる。
【0061】
-ボルトA-
[振動特性]
図4は、ボルトAに対する打撃試験によって得られた振動特性を例示する。図4は、供試ボルト10がボルトAであり、目標軸力が31kN(適正軸力の100%)、16kN(適正軸力の50%)、および、3.1kN(適正軸力の10%)のときに得られた振動数と振幅の大きさとの関係を1つずつ示している。図4のグラフは、加速度センサ3で測定された応答のフーリエスペクトルをインパルスハンマ5のロードセルで測定された入力のフーリエスペクトルで正規化することで得られる。正規化する際、例えば、最小二乗法(H1推定法)が用いられる。
【0062】
図4の目標軸力が31kN、16kN、および、3.1kNの振動特性には、それぞれ、振幅のピークPk1、Pk2、および、Pk3が含まれている。ピークPk1、ピークPk2およびピークPk3を示すときの振動数は、それぞれ目標軸力が31kN、16kNおよび3.1kNのときのねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数(「第2固有振動数」の一例)に相当する。なお、図4の振動特性において、15kHz~20kHzの範囲に示される振幅のピークは、ねじ先側突出部12の曲げモードに起因するピークではない。なお、以下の説明において、曲げモードの固有振動数を単に、固有振動数と称すこともある。
【0063】
[対応関係]
図5Aは、ボルトAのねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数とボルトAの軸力との対応関係(つまり、振動数対応関係)の一例を示すグラフである。図5Bは、ボルトAのねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数の変化率とボルトAの軸力との対応関係(以下、変化率対応関係と称す。)の一例を示すグラフである。なお、本明細書において、単に対応関係という場合、振動数対応関係と変化率対応関係の総称を意味する。
【0064】
以下、図5Aおよび図5Bに示されている対応関係を得るプロセスを説明する。
【0065】
(S11)固有振動数を求める
まず、振動特性に基づいて、振動特性毎にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数を求める。固有振動数は、上述したように、振動数と振幅の大きさのグラフ(図4参照)において、ねじ先側突出部12の曲げモードに起因する振幅のピークを示すときの振動数を求めればよい。
【0066】
打撃試験において得られた振動特性には、曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが複数現れることがある。ねじ先側突出部12の一方向への振動(ボルトAの中心軸を含む一平面に沿った振動)(以下、第1モードと称す。)の固有振動数と、該一方向に対してある角度(例えば45度)傾いた方向への振動(ボルトAの中心軸を含み、かつ、前述の一平面に対してある角度(例えば45度)傾いた平面に沿った振動)(以下、第2モードと称す。)の固有振動数とが互いに異なる値を示すからである。なお、振動特性には、必ずしも、第1モードおよび第2モードに起因するピークの両方が含まれるわけではない。
【0067】
図6Aは、供試ボルト10がボルトAであり、目標軸力が31kNという条件下において、2回目の試験で得られた振動特性である。図6Bは、供試ボルト10がボルトAであり、目標軸力が31kNという条件下で、7回目の試験で得られた振動特性である。図6Aおよび図6Bは、各振動特性について、固有振動数に相当する振動数近傍が拡大されて示されている。
【0068】
図6Aに示されているように、2回目の試験で得られた振動特性には、ねじ先側突出部12の曲げモードに起因する振幅のピークとして、ピークPk4のみを含んでいる。第1モードと第2モードの固有振動数のうち、一方のみが励起された場合、図6Aに示されているように、振動特性には固有振動数に起因する振幅のピークは、1つのみ含まれる。
【0069】
一方、図6Bに示されているように、7回目に得られた振動特性には、ねじ先側突出部12の曲げモードの振幅のピークとして、ピークPk5およびPk6を含んでいる。第1モードおよび第2モードの固有振動数の両方が励起された場合、図6Bに示されているように、振動特性には、固有振動数に起因する振幅のピークが2つ含まれる。
【0070】
このように、同様の実験条件(すなわち、ボルトの種類、および、目標軸力がそれぞれ同一)であったとしても、試験ごとに、1つのみの振幅のピークのみが含まれる振動特性が得られる場合もあれば、2つの振幅のピークが含まれる振動特性が得られる場合もある。
【0071】
本実施形態では、振動特性にねじ先側突出部12の曲げモードの振幅のピークが、1つのみ含まれる場合、該振動特性から1つの固有振動数を求める。例えば、図6Aの振動特性において、固有振動数は、fa1と求められる。
【0072】
振動特性に、ねじ先側突出部12の曲げモードの振幅のピークが、2つ含まれる場合、該振動特性から2つの固有振動数を求める。例えば、図6Bの振動特性において、固有振動数は、fa2およびfa3と求められる。
【0073】
振動特性毎に1又は2の固有振動数を求めると、振動特性を取得したときの該振動特性から求められた固有振動数とボルトAの軸力とに基づいて、図5Aに示すグラフを作成することができる。
【0074】
図5AのC100は、目標軸力が適正軸力の100%のときに得られた複数の振動特性に基づいて求められたねじ先側突出部12の固有振動数と実際の軸力との対応を示すデータ群である。C90~C10は、目標軸力が適正軸力の90~10%のときに得られた複数の振動特性に基づいて求められたねじ先側突出部12の固有振動数と実際の軸力との対応を示すデータ群である。なお、各データ群のデータ数は、10(目標軸力毎の打撃試験の回数)+αである。αは、目標軸力毎のねじ先側突出部12の固有振動数に起因する振幅のピークが2つ含まれている振動特性の数である。
【0075】
(S12)平均変化率を算出する。
次に、求められた複数の固有振動数に基づいて、目標軸力毎に複数の固有振動数の平均変化率CRを算出する。
【0076】
平均変化率CRは、式(1)により求められるパラメータである。なお、CRの単位は「%」である。
【0077】
【数1】
【0078】
はじめに、複数の振動特性から求められた複数の固有振動数fに基づいて、目標軸力毎に複数の固有振動数fの平均値fiavを求める。すなわち、図5Aにおけるデータ群C10~C100それぞれの固有振動数の平均値を算出する。平均値fiavを算出する際、ねじ先側突出部12の第1モードに起因する固有振動数および第2モードに起因する固有振動数は区別されていない。すなわち、平均値fiavは、第1モードに起因する固有振動数と第2モードに起因する固有振動数とがまとめて統計処理された値である。
【0079】
複数の平均値fiavの中で、目標軸力が基準軸力であるときに得られた複数の振動特性に基づいて求められた複数の固有振動数の平均値を基準平均値fnavとする。基準軸力は、適正軸力と同じ大きさである目標軸力であり、例えば、ボルトAにおいては、31kNである。すなわち、基準平均値fnavは、データ群C100の固有振動数の平均値である。
【0080】
次に、目標軸力毎に、平均値fiavと基準平均値fnavを式(1)に代入して、目標軸力毎の平均変化率CRを算出する。
【0081】
平均変化率CRは、基準平均値fnavを基準としたときの目標軸力毎に求められた固有振動数の平均値の変化率であると言える。なお、以下の説明において、基準軸力に対応する平均変化率CRを基準変化率と称す。ここで、基準変化率は0%である。
【0082】
目標軸力毎に平均変化率CRが算出されると、算出された平均変化率CRと、該目標軸力との関係をグラフとしてプロットできる。図5Bにおける三角印が、平均変化率CRと目標軸力との対応関係を示すデータ点である。
【0083】
(S13)変動係数を算出する。
変動係数CVは、式(2)により求められるパラメータである。なお、CVの単位は「%」である。
【0084】
【数2】
【0085】
目標軸力毎に、複数の固有振動数fiと平均値fiavと、該目標軸力のときに複数の振動特性から得られた固有振動数の数であるnを式(2)に代入して変動係数CVを算出する。変動係数CVは、データ群C10~100それぞれにおける、固有振動数のばらつき度合いに相当する。
【0086】
なお、nは、同一目標軸力における測定回数と同じとは限らない。例えば、ある目標軸力のときに、ねじ先側突出部12の振幅のピークを1つのみ含む振動特性だけが得られた場合、固有振動数の数nと測定回数は同じになる。また、ある目標軸力のときに、ねじ先側突出部12の振幅のピークを1つのみ含む振動特性と、ねじ先側突出部12の振幅のピークを2つ含む振動特性とが得られた場合、固有振動数の数nと測定回数とは一致しない。変動係数CVは、第1モードの固有振動数と第2モードの固有振動数が区別されずにまとめて統計処理された値である。
【0087】
算出された変動係数CVは、図5Bにエラーバーとして示されている。例えば、データ群C100の複数の固有振動数の変動係数CVは0.8%であるので、基準変化率を示すデータ点の上下0.8%の範囲が、基準変化率の誤差の範囲である。
【0088】
以上のプロセスを経て、図5Aおよび図5Bに示される対応関係が得られる。
【0089】
[固有振動数の閾値および対応軸力値]
次に、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数と平均変化率CRと軸力との関係に基づいて、固有振動数の閾値を決定する。
【0090】
基準変化率との差が所定割合以上となる平均変化率CRに対応する固有振動数(「第3固有振動数」の一例)を求め、求められた固有振動数を固有振動数の閾値に決定すればよい。
【0091】
以下、固有振動数の決定について説明する。図5Bに示されている変化率対応関係に基づいて、基準変化率に対して0.8%低下したときの変化率、つまり、-0.8%を変化率の閾値とする。0.8%は、目標軸力が適正軸力であるときの変動係数CVの値である。上述したように基準変化率は0%である。これより、基準平均値に対して0.8%低下している値が固有振動数の閾値に決定される。ボルトAの場合、基準平均値(データ群C100の固有振動数の平均値)は、35.1kHzであり、基準平均値よりも0.8%低下している値は、34.8kHzであるので、34.8kHzが固有振動数の閾値に決定される。
【0092】
次に、対応軸力値を求める。対応軸力値は、ねじ先側突出部12の固有振動数が、軸力が適正軸力の時に比べて0.8%低下したときに相当する軸力値である。図5Bに示されている変化率対応関係において、変化率の閾値である-0.8%よりも大きい値をとり得ない平均変化率CRの中で、最も大きい平均変化率CR(以下、対応変化率CRtと称す。)を求める。CRが、-0.8%よりも大きい値をとり得ないとは、CRのエラーバーの最上点が-0.8%以下となることを意味する。すなわち、対応変化率CRtは、基準平均値と比べて、確実に固有振動数が減少しているといえるときの平均変化率CRである。図5Bにおいて、対応変化率CRtは、目標軸力が13kN(適正軸力の40%)であるときの平均変化率CRである。上述のように変化率の閾値を決定したとき、その閾値に対応する対応軸力値Ftは、13kNと求めることができる。
【0093】
以上のプロセスを経て、振動数対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値を得ることができる。
【0094】
[ボルトB]
図7Aは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数とボルトBの軸力との対応関係を示すグラフであり、図7Bは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数の平均変化率CRとボルトBの軸力との対応関係を示すグラフである。
【0095】
図7Aおよび図7Bは、ボルトBに対する打撃試験により得られた振動特性に基づいて、上述した(S11)~(S13)に従って求められたものである。
【0096】
ボルトBの適正軸力のときの変動係数は、0.9%である。よって、ボルトAと同様の方法で、変化率の閾値を決定する場合、変化率の閾値は、-0.9%となる。これにより、基準平均値に対して0.9%低下している値を固有振動数の閾値に決定される。
【0097】
図7Bに示されている平均変化率CRと軸力との対応関係において、-0.9%よりも大きい値をとり得ない平均変化率CRの中で、最も大きい平均変化率CR(対応変化率CRt)は、算出された平均変化率CRの中にはない。目標軸力が3.1kN(適正軸力の10%)のときの平均変化率CRが、-0.9%よりも大きいの値を取り得るからである。しかしながら、図7Bによれば、目標軸力が小さいほど平均変化率が小さくなる傾向がある。また、目標軸力を3.1kN(適正軸力の10%)よりもやや小さい値であるFVに決めて同様に打撃試験を行っていたならば、-0.9%よりも大きい値を取り得ない平均変化率CRが算出されると推定できる。よって、そのCRが対応変化率CRt、FVが対応軸力値と言える。具体的には、図7Bの白抜き四角で示されているデータ点が、対応変化率CRtおよび対応軸力値の関係を示すデータであることが合理的に求められる。なお、図7Bの破線のエラーバーは、該対応変化率CRtのエラーバーである。このとき、対応軸力値は、3.1kN(適正軸力の10%)よりもやや小さい約3kNと合理的に求められる。
【0098】
[ボルトC]
図8Aは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数とボルトCの軸力との対応関係を示すグラフであり、図8Bは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数の平均変化率CRとボルトCの軸力との対応関係を示すグラフである。
【0099】
図8Aおよび図8Bは、ボルトCに対する打撃試験により得られた振動特性に基づいて、上述した(S11)~(S13)に従って求められたものである。
【0100】
ボルトCの適正軸力のときの変動係数は、0.6%である。よって、ボルトAと同様の方法で、変化率の閾値を決定する場合、変化率の閾値は、-0.6%となる。これにより、基準平均値に対して0.6%低下している値が固有振動数の閾値に決定される。
【0101】
図8Bに示されている平均変化率CRと軸力との対応関係において、-0.6%よりも大きい値をとり得ない平均変化率CRの中で、最も大きい平均変化率CR(対応変化率CRt)は、目標軸力が6.3kN(適正軸力の20%)のときの平均変化率CRである。よって、対応軸力値を、6.3kN(適正軸力の20%)と求めることができる。
【0102】
[ボルトD]
図9Aは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数とボルトDの軸力との対応関係を示すグラフであり、図9Bは、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数の平均変化率CRとボルトDの軸力との対応関係を示すグラフである。
【0103】
図9Aおよび図9Bは、ボルトDに対する打撃試験により得られた振動特性に基づいて、上述した(S11)~(S13)に従って求められたものである。
【0104】
ボルトDの適正軸力のときの変動係数は、0.5%である。よって、ボルトDと同様の方法で、変化率の閾値を決定する場合、変化率の閾値は、-0.5%となる。これにより、基準平均値に対して0.5%低下している値を固有振動数の閾値に決定される。
【0105】
図9Bに示されている平均変化率CRと軸力との対応関係において、-0.5%よりも大きい値をとり得ない平均変化率CRの中で、最も大きい平均変化率CR(対応変化率CRt)は、目標軸力が23kN(適正軸力の50%)のときの平均変化率CRである。よって、対応軸力値を、23kN(適正軸力の50%)と求めることができる。
【0106】
<ボルトの緩み評価>
次に、評価対象のボルトの緩みの評価方法について説明する。評価対象のボルトは、手すり等の何らかの被締結物(「第1被締結物」の一例)を締結しているボルトである。評価対象のボルトは、供試ボルト10と同様、ねじ先側突出部12を有する。なお、供試ボルト10は、ねじ先側突出部12の先端部13においてねじやまが除去されているが、評価対象のボルトについては、ねじ先側突出部12の先端部13において、ねじやまが除去されていてもよいし、ねじやまが除去されていなくてもよい。
【0107】
評価対象のボルトと同種類、かつ、同じねじ先側突出部12の長さをもつ供試ボルト10の対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値を予め取得する。
【0108】
次に、評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性(「第1振動特性」の一例)を取得する。まず、評価対象のボルトによって締結されている被締結物に加速度センサ3を貼り付け、評価対象のボルトのねじ先側突出部12に振動を加える。そして、ねじ先側突出部12の振動特性を加速度センサで測定する。ねじ先側突出部12を加振させる方法として、例えば、インパルスハンマで打撃を加えることが挙げられる。測定された振動特性は、スペクトルアナライザで取得してもよい。
【0109】
次に、取得した振動特性に基づいて、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数(「第1固有振動数」の一例)を求める。このとき、取得した振動特性の中で、振動数と振幅との関係から、ねじ先側突出部12の固有振動数に起因する振幅のピークを示すときの振動数を求めればよい。ここで、図6Bに示されているように、得られた振動特性にねじ先側突出部12の固有振動数に起因する振幅のピークが2つ含まれる場合、それぞれのピークを示すときの振動数の平均値を固有振動数として求める。
【0110】
次に、求められた評価対象のボルトの固有振動数を、対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値それぞれと比較する。ここで、比較対象となる対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値は、評価対象のボルトと同種かつねじ先側突出部12が同じである供試ボルト10の対応関係、固有振動数の閾値、および、対応軸力値である。
【0111】
評価対象のボルトの固有振動数が、固有振動数の閾値よりも大きければ、評価対象のボルトが緩んでいると評価できない。評価対象のボルトの固有振動数が、固有振動数の閾値以下であれば、評価対象のボルトが緩んでいると評価できる。さらに、評価対象のボルトの軸力が少なくとも対応軸力値以下に低下していることが評価できる。
【0112】
また、評価対象のボルトが緩んでいると評価できる場合において、対応関係と評価対象のボルトの固有振動数を比較することで、どの程度緩んでいるかを評価できる。例えば、評価対象のボルトが、ボルトAと同種であり、かつ、ねじ先側突出部12がボルトAと同程度のボルトであった場合、図5Aおよび図5Bに示されている対応関係と、評価対象のボルトの固有振動数とを比較する。評価対象のボルトの固有振動数が、データ群C20の固有振動数の平均値と同じ程度であった場合、評価対象のボルトの軸力は、適正軸力値の20%程度(7kN)に低下していると評価できる。
【0113】
以上、説明したように、本実施形態によれば、予め固有振動数の閾値を決定する際、被締結物を締結しているボルトのねじ先側突出部12の振動特性を、複数の目標軸力毎に、複数回ずつ取得し、取得された複数の振動特性それぞれに基づいて、ねじ先側突出部12の1又は2の固有振動数を求める。そして、目標軸力毎に複数の固有振動数の平均変化率CRを算出する。すなわち、ねじ先側突出部12の2つ曲げモードの固有振動数を別々に統計処理するのではなく、まとめて統計処理を行っている。よって、打撃試験によって得られたねじ先側突出部12の複数の振動特性に、ねじ先側突出部12の第1モードの固有振動数に起因する振幅のピークと第2モードの固有振動数に起因する振幅のピークの両方が含まれる振動特性と、一方のピークのみが含まれる振動特性とが混在する場合であっても、固有振動数の閾値を適切に決定することができる。すなわち、得られる振動特性にねじ先側突出部12の固有振動数に起因する振幅のピークが1つ含まれる特性と2つ含まれる特性とが混在し得るボルトの緩みを評価することができる。よって、第1実施形態のねじ部材の軸力評価方法は、より多くの種類のねじ部材の緩みを評価できる。
【0114】
被締結物を締結している評価対象のボルトの固有振動数を測定により求めることで、該固有振動数と予め決定した固有振動数の閾値とを比較することで、評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価できる。つまり、評価対象のボルトの軸力を評価できる。
【0115】
また、固有振動数の閾値を適切に決定されることで、該閾値に対応する対応軸力値を求めることができる。対応軸力値を予め取得しておくことで、評価対象のボルトの固有振動数に基づいて、評価対象のボルトが緩んでいるときにどの程度緩んでいるかを定量的に評価できる。
【0116】
なお、ボルトA~Dについて、同様の方法で変化率の閾値(すなわち、固有振動数の閾値)を決定したときの対応軸力値が、それぞれ、適正軸力の40%、適正軸力の10%、適正軸力の20%、および適正軸力の50%であった。ボルトBおよびボルトCは、ボルトAよりもアスペクト比が大きい。言い換えると、呼び長さおよびねじ先側突出部12の長さが長い。したがって、本実施形態のように、適正軸力における固有振動数に対して、固有振動数が低下したと判断できる値を固有振動数の閾値に決定し、決定した閾値に基づいて、ボルトが緩んでいるか否かを評価する場合、アスペクト比が小さいほうが、ボルトが緩んでいることの検出精度は高いといえる。ボルトAは、適正軸力に対して40%程度の軸力が低下すれば、緩んでいると評価できるのに対して、ボルトBおよびCは、適正軸力の20%、および適正軸力の10%まで低下しないと、緩んでいることを評価できないからである。また、図5A図7A図8A、および図9Aによれば、全体的にボルトAおよびボルトDの固有振動数は、ボルトBおよびボルトCの固有振動数よりも大きい。よって、曲げモードの固有振動数が大きいボルトが、曲げモードの固有振動数が小さいボルトよりも緩みの検出精度が高いとも言い得る。
【0117】
一方、ボルトDの適正軸力に対する対応軸力値の割合は、50%であり、ボルトAの対応軸力値の適正軸力に対する割合と同程度である。よって、呼び径が異なったとしても、アスペクト比が同じであれば、ボルトが緩んでいることの検出精度は同程度になると言える。
【0118】
<固有振動数の閾値の決定方法の変形例1~2>
固有振動数の閾値の決定方法は、上述の実施形態に示した方法に限られない。以下、固有振動数の閾値の別の決定方法について、ボルトAに関する対応関係を例に説明する。
【0119】
(A)変形例1
基準変化率(つまり、変化率が0%)を変化率の閾値としてもよい。この場合、固有振動数の閾値は、データ群C100の固有振動数の平均値(35.1kHz)となる(図5B参照)。例として、ボルトAについて、上述した実施形態と同様の方法で対応軸力値を求めると以下のようになる。図5Bに示されている平均変化率CRと軸力との対応関係において、0%よりも大きい値をとり得ない平均変化率CRの中で、最も大きい平均変化率CR(対応変化率CRt)は、目標軸力が18.9kN(適正軸力の60%)のときの平均変化率CRである。よって、対応軸力値を、18.9kN(適正軸力の60%)と求められる。
【0120】
(B)変形例2
基準変化率に対して、基準変化率の変動係数に所定係数ks(>0)を乗算した値低下した値(図5Bにおいては、-0.8ks%)を変化率の閾値としてもよい。この場合、固有振動数の閾値は、目標軸力が適正軸力のときのデータ群C100の固有振動数の平均値(35.1kHz)よりも0.8ks%低下した値となる。ksは、被締結物の種類に応じて変更してもよい。例えば、ボルトが多少緩んでも支障がない締結物を締結しているボルトの固有振動数の閾値を決定する場合、ksを1より大きい値(例えば、ks=2)にしてもよい。一方、ボルトが少しでも緩むと差し支えがある締結物(階段の手すりなど)に使用されるボルトの固有振動数の閾値を決定する場合、ksを1よりも小さい値(例えば、ks=0.5)にしてもよい。
【0121】
<対応軸力値を求める方法の変形例>
以下、上述した実施形態の方法とは異なる対応軸力値を求める方法について、ボルトAに関する変化率対応関係を例に説明する。図5Bに示されているデータ点に基づいて、平均変化率CRと軸力との対応関係を示すフィッティングカーブを作成する。そして、作成されたフィッティングカーブ上における決定された変化率の閾値に対応する軸力を、対応軸力値として求めてもよい。
【0122】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0123】
<着想>
図10は、第2実施形態の着想について説明するための図であり、ボルトAに対する打撃試験によって得られたねじ先側突出部12の振動特性の一覧を示す図である。図10(a)~(j)はそれぞれ、軸力が適正軸力の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および100%となるように被締結物2をボルトAで締結するという条件下で得られた振動特性を示す。Pk10~100は、各目標軸力の条件下で得られた振動特性における、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークである。なお、図10(a)~(j)は、それぞれ、軸力が適正軸力の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および100%という条件下で1回目に行われた試験により得られた振動特性である。図10(a)~(j)を見ると、ボルトAの軸力が小さいほど、固有振動数に起因する振幅の大きさの絶対値(以下、振幅絶対値と称す。)が小さくなる傾向があることが読み取れる。例えば、目標軸力が適正軸力の50%以上の条件下では、振動数のピークPk50~Pk100の振幅絶対値がいずれも1000m/Nsを上回っているが、目標軸力が適正軸力の40%以下の条件下では、目標軸力が適正軸力の20%のときの振動特性(図10(b)参照)のピークPk20を除くピークPk10、Pk30、およびPk4の振幅絶対値が1000m/Nsを下回っている。ここで、振幅絶対値とは、振幅値0から固有振動数に起因する振幅のピークの最上点までの大きさである。したがって、振幅絶対値の閾値を予め決定しておくことで、評価対象のボルトの振動特性を取得し、取得した振動特性から求められた固有振動数に起因する振幅絶対値と、閾値とを比較することで、評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価できる。
【0124】
<振幅絶対値の閾値の決定>
本実施形態のねじ部材の軸力評価方法は、まず、試験システム100を用いて、供試ボルト10が緩み軸力で被締結物2を締結したときの振動特性を取得する。緩み軸力は、供試ボルト10の適正軸力よりも小さい軸力である。緩み軸力としては、供試ボルトと同種かつ同じ長さのねじ先側突出部12の評価対象のボルトが緩んでいると判断できる値であり、評価対象のボルトによって締結されている被締結物に応じて変更してもよい。
【0125】
次に、取得した振動特性に基づいて、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークを見つけ、振幅絶対値(「第2振幅絶対値」の一例)を求める。なお、取得した振動特性が、図6Bに示されているように、振動特性に曲げモードの固有振動数に起因するピークが2つ含まれる場合、振幅の絶対値が大きいピーク(図6Bの例では、ピークPk5)の最上点と振幅値0との差を振幅絶対値として求める。そして、求められた振幅絶対値を振幅絶対値の閾値に決定する。
【0126】
例えば、ボルトAについて、緩み軸力を3.1kN(適正軸力の10%)と決定し、ボルトAについて目標軸力が3.1kNのときの振動特性として、図10(a)に示されている振動特性が得られた場合、ピークPk10についての振幅絶対値である約800m/Nsを振幅絶対値の閾値と決定してもよい。
【0127】
<ボルトの緩み評価>
次に、ボルトの緩みの評価方法について説明する。
【0128】
評価対象のボルトと同種類、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じ供試ボルト10の振幅絶対値の閾値を予め決定しておく。
【0129】
次に、評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性を取得する。振動特性の取得方法は、上述した第1実施形態に示されている方法と同じである。
【0130】
次に、取得した振動特性に基づいて、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅を探し、振幅絶対値(「第1振幅絶対値」の一例)を求める。ここで、取得した振動特性に、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因するピークが2つ含まれる場合、2つのピークの中で大きい振幅値を示すピークの最上点と振幅値0との差を振幅絶対値として求める。
【0131】
そして、求められた振幅絶対値と、予め決定された振幅絶対値の閾値とを比較する。求められた振幅絶対値が閾値よりも大きければ、評価対象のボルトは、緩んでいると評価できない。一方、求められた振幅絶対値が閾値以下であれば、評価対象のボルトは緩んでいると評価でき、評価対象のボルトの軸力が、少なくとも予め決定された緩み軸力(ここでは、3.1kN)まで低下していると評価できる。
【0132】
以上、説明したように、第2実施形態では、被締結物を締結しているボルトの軸力が適正軸力から低下すると、ねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅の絶対値が小さくなるという傾向を利用してボルトの軸力を評価している。
【0133】
評価対象のボルトと同種かつねじ先側突出部12の長さが同じボルトについて、予め振幅絶対値の閾値を決定しておくことで、評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性を取得し、振幅絶対値を求め、振幅絶対値の閾値と比較することで、評価対象のボルトの緩みついて評価できる。
【0134】
そして、予め緩み軸力を決定し、評価対象のボルトと同種、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じボルトが被締結物を締結しているときのねじ先側突出部12の振動特性を取得し、取得した振動特性に基づいて、振幅絶対値を求め、求められた振幅絶対値を振幅絶対値の閾値に決定する。これにより、評価対象のボルトが緩んでいるか否かだけでなく、どの程度緩んでいるかを評価できる。
【0135】
また、第2実施形態によれば、振動特性にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが2つ含まれる場合、より大きい振幅値を示すピークに基づいて、振幅絶対値の閾値を決定する。よって、ボルトの振動特性が、ねじ先側突出部12の固有振動数に起因する振幅のピークが1つ含まれる特性と2つ含まれる特性のいずれである場合においても、振幅絶対値の閾値を決定できる。すなわち、得られる複数の振動特性にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが1つ含まれる特性と2つ含まれる特性とが混在するボルトの緩みを評価することができる。よって、第2実施形態のボルトの評価方法は、より多くの種類のボルトの緩みを評価できる。
【0136】
なお、振幅絶対値の閾値を決定するプロセスにおいて、ねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得してもよい。この場合、それぞれの振動特性から求められた振幅絶対値の平均値を振幅絶対値の閾値として決定してもよい。また、評価対象のボルトの振幅絶対値を求めるプロセスにおいて、ねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得してもよい。この場合、それぞれの振動特性から求められた振幅絶対値の平均値を、振幅絶対値の閾値と比較することで、評価対象のボルトの軸力を評価してもよい。
【0137】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0138】
<着想>
図11は、第3実施形態の着想について説明する図であり、ボルトCに対する打撃試験によって得られたねじ先側突出部12の振動特性の一覧を例示する図である。図11(a)~(j)はそれぞれ、軸力が適正軸力の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および100%となるように被締結物2をボルトCで締結するという条件下で得られた振動特性を示す。なお、図11(a)~(j)は、それぞれ、軸力が適正軸力の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および100%という条件下で1回目に行われた試験により得られた振動特性である。
【0139】
ボルトCの軸力が、適正軸力から適正軸力の50%までの範囲において、第1モードの振幅のピークと第2モードの振幅のピークとは、図11(e)~(j)の振動特性において、明確に分かれている。言い換えると、目標軸力が、適正軸力から適正軸力の50%までの間において得られる振動特性は、第1モードに起因するピークおよび第2モードに起因するピークを含む振動特性であると言える。
【0140】
しかしながら、図11(b)~(d)に示されているように、目標軸力が適正軸力の20%~40%では、第1モードの振幅のピークと第2モードの振幅のピークの境目が緩やかな曲線形状になっている。そして、図11(a)に示されているように、目標軸力が適正軸力の10%の条件で得られた振動特性には、第1モードの振幅のピークと第2モードの振幅のピークのうちの一方しか含まれていない。このように、ボルトCの軸力が大きいときに得られる振動特性の多くは、第1モードに起因する振幅のピークおよび第2モードに起因する振幅のピークの両方が含まれる振動特性であり、ボルトCの軸力が低くなると、第1モードに起因するピークおよび第2モードに起因するピークのうちの一方しか含まれない振動特性が得られるようになる。
【0141】
よって、評価対象のボルトの振動特性を取得し、取得した振動特性に第1モードのピークおよび第2モードの振幅のピークの2つが含まれるか、又は、一方の振幅のピークが含まれるかに基づいて、評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価できる。
【0142】
<ボルトの緩み評価>
次に、ボルトの緩みの評価方法について説明する。
【0143】
まず、被締結物を締結している評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得する。振動特性の取得方法は、第1実施形態と同様である。例えば、複数回とは、10回である。
【0144】
そして、取得した複数の振動特性の中に、第1モードの固有振動数に起因するピークと第2モードの固有振動数に起因するピークとの両方が含まれる振動特性が所定数以上含まれるか否かに基づいて、評価対象の軸力を評価する。例えば、所定数は1である。つまり、第1モードの固有振動数に起因するピークと第2モードの固有振動数に起因するピークとの両方が含まれる振動特性が1以上のとき、評価対象のボルトの軸力は緩んでいると評価できない。一方、得られた複数の振動特性に、第1モードの固有振動数に起因するピークと第2モードの固有振動数に起因するピークの一方のみを含む振動特性しか含まれていない場合、評価対象のボルトが緩んでいると評価できる。
【0145】
なお、所定数は必ずしも1でなくともよく、2や3でもよい。もし、所定数が1であり、1回目の測定で得られた振動特性に第1モードの固有振動数に起因するピークと第2モードの固有振動数に起因するピークの両方を含む場合、2回目の振動特性を得るまでもなく、評価対象のボルトが緩んでいると評価できないことになる。つまり、振動特性を必ずしも複数回取得しなくてもよい。
【0146】
以上説明したように、ボルトの軸力が低下していくと、該ボルトのねじ先側突出部の振動特性として、固有振動数に起因するピークが2つとも含まれる振動特性を得にくくなる。第3実施形態では、評価対象の振動特性に含まれる固有振動数に起因するピークの数に基づいてボルトが緩んでいるか否かを評価する。よって、ボルトの軸力を評価できる。
【0147】
また、第3実施形態によれば、得られる振動特性にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが1つ含まれる特性と2つ含まれる特性とが混在しうるボルトの緩みを評価することができる。第3実施形態のねじ部材の軸力評価方法は、より多くの種類のボルトの緩みを評価できる。なお、本実施形態は、試験により得られる振動特性に、曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが2つ含まれ得るねじ部材に有効である。図7Aおよび図8Aを参照すると、ボルトBおよびボルトCについては、特に高い軸力において、固有振動数のデータが2つの群(クラスタ)を形成している。他方、図5Aおよび図9Aを参照すると、ボルトAおよびボルトDについては、固有振動数のデータはほぼ1つの群(クラスタ)を形成している。これらは、比較的アスペクト比が大きいボルトの方が、小さいボルトよりも、打撃試験をしたときに、曲げモードの固有振動数に起因するピークが2つ含まれる振動特性を得やすいと言える。本実施形態は、比較的アスペクト比が大きいボルトに対して有効であると言い得る。
【0148】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0149】
<着想>
図8Aのグラフを参照すると、ボルトCの軸力が比較的大きい範囲よりも比較的小さい範囲の方が、試験回数による固有振動数の値のばらつきが大きい傾向がある。特に、軸力が10kNよりも小さい範囲における目標軸力毎の固有振動数のばらつきの方が、10kNよりも大きい範囲における目標軸力毎の固有振動数のばらつきよりも大きい傾向が読み取れる。また、図9Aのグラフを参照すると、ボルトDの軸力が20kNよりも小さい範囲における目標軸力毎の固有振動数のばらつきの方が、20kNよりも大きい範囲における目標軸力毎の固有振動数のばらつきよりも大きい傾向が読み取れる。
【0150】
よって、試験回数による固有振動数の値のばらつきの大きさを示すパラメータに基づいて、評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価できる。以下、ばらつきの大きさを示すパラメータは、変動係数であるとして説明する。
【0151】
<パラメータの閾値の決定>
本実施形態のねじ部材の軸力評価方法は、まず、試験システム100を用いて、供試ボルト10が緩み軸力で被締結物2を締結したときの振動特性を複数回取得する。ここで複数回とは、例えば10回である。緩み軸力は、供試ボルト10の適正軸力よりも小さい軸力である。緩み軸力として、供試ボルトと同種、かつ、同じ長さのねじ先側突出部12の評価対象のボルトが緩んでいると判断できる値を定めればよい。緩み軸力は、評価対象のボルトによって締結されている被締結物に応じて変更されてもよい。
【0152】
次に、取得された複数の振動特性それぞれに基づいて、ねじ先側突出部12の曲げモードの1又は2の固有振動数を求める。曲げモードの固有振動数の求め方は、第1実施形態と同様である。つまり、振動特性に、ねじ先側突出部12の第1モードに起因する振幅のピークと、ねじ先側突出部12の第2モードに起因する振幅のピークとの両方が含まれる場合、両方のピークからそれぞれ固有振動数を求める。
【0153】
求められた曲げモードの複数の固有振動数のばらつきを示す変動係数(「第2パラメータ」の一例)を算出する。まず、複数の固有振動数の平均値を求める。そして、上述の式(2)に、それぞれの固有振動数fと、複数の固有振動数の平均値fiav、および、固有振動数の数nを代入することで算出できる。そして、算出された変動係数を変動係数の閾値に決定する。
【0154】
例えば、ボルトAの緩み軸力を3.1kN(適正軸力の10%)と決定し、ボルトAについて目標軸力が3.1kNという条件下で、試験システム100で試験をしたとする。この場合、変動係数として、0.92%(図5Bの3.1kNの平均変化率のエラーバーの大きさに相当)が得られる。この場合、変動係数の閾値を0.92%に決定する。
【0155】
<ボルトの緩み評価>
次に、ボルトの緩みの評価方法について説明する。
【0156】
評価対象のボルトと同種類、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じ供試ボルトについて、緩み軸力を目標軸力として、変動係数の閾値を予め決定しておく。
【0157】
次に、評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得する。振動特性の取得方法は、上述した第1実施形態に示されている方法と同じである。複数回とは、例えば10回である。
【0158】
次に、取得した振動特性に基づいて、振動特性毎にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数を求める。固有振動数の求め方は、第1実施形態と同様である。つまり、振動特性に、ねじ先側突出部12の第1モードに起因する振幅のピークと、ねじ先側突出部12の第2モードに起因する振幅のピークとの両方が含まれる場合、両方のピークからそれぞれ固有振動数を求める。
【0159】
次に、求められた複数の固有振動数に基づいて、複数の固有振動数の平均値を求める。次に、複数の固有振動数、求められた平均値、および、固有振動数の数を式(2)に代入して、変動係数(「第1パラメータ」の一例)を算出する。
【0160】
そして、求められた変動係数と変動係数の閾値とに基づいて評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価する。求められた変動係数が閾値よりも小さい場合、評価対象のボルトが緩んでいると評価できない。求められた変動係数が閾値以上である場合、評価対象のボルトが緩んでいると評価できる。そして、評価対象のボルトの軸力が、適正軸力から少なくとも緩み軸力程度にまで低下していると評価できる。
【0161】
例えば、評価対象のボルトが、ボルトAと同種、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じであり、変動係数の閾値が0.92%と決定されており、評価対象のボルトについて、試験システム100によって試験された結果、変動係数が0.92%と算出されたとする。この場合、評価対象のボルトは緩んでおり、かつ、軸力は3.1kN程度まで低下していると評価できる。
【0162】
なお、ばらつきを示すパラメータは、複数の固有振動数の中の最大値と最小値の差(以下、大小差と称す。)であってもよい。この場合、大小差の閾値を決定するプロセスおよび評価対象のボルトについての大小差を求めるプロセスにおいて、変動係数を算出することに替えて、大小差を算出する。そして、大小差の閾値を決定するプロセスにおいて、算出された大小差(「第2パラメータ」の一例)を大小差の閾値に決定する。そして、評価対象のボルトの大小差(「第1パラメータ」の一例)と大小差の閾値とに基づいて評価対象のボルトが緩んでいるか否かを評価すればよい。評価対象のボルトが緩んでいる場合、当初決定された緩み軸力に基づいて、評価対象のボルトの軸力が、少なくとも緩み軸力以下に低下していると評価できる。
【0163】
以上、説明したように、第4実施形態では、被締結物を締結しているボルトのねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数の試験回数によるばらつきが、軸力が適正軸力から低下すると大きくなる傾向を利用して、ボルトの軸力を評価している。
【0164】
評価対象のボルトと同種、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じボルトについて、予めばらつきを示すパラメータの閾値を決定し、評価対象のボルトのねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得し、複数の振動特性から求められた複数の固有振動数のばらつきを示すパラメータを求め、求められたパラメータと閾値とを比較することで、評価対象のボルトの緩みついて評価できる。
【0165】
予め緩み軸力を決定し、目標軸力が緩み軸力と同じとする条件下で、評価対象のボルトと同種、かつ、ねじ先側突出部12の長さが同じボルトが被締結物2を締結しているときのねじ先側突出部12の振動特性を複数回取得し、取得した振動特性に基づいて、複数の固有振動数を求め、求められた複数の固有振動数のばらつきを示すパラメータを求め、求められたパラメータを閾値に決定する。これにより、評価対象のボルトのばらつきを示すパラメータが閾値以上の時、評価対象のボルトの軸力値を評価できる。
【0166】
また、ばらつきを示すパラメータを算出する際は、第1実施形態と同様、ねじ先側突出部12の第1モードと第2モードの固有振動数を区別せずに統計処理している。よって、得られる振動特性にねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数に起因する振幅のピークが1つ含まれる特性と2つ含まれる特性とが混在しうるボルトの緩みを評価することができる。よって、第4実施形態に係るねじ部材の軸力評価方法は、より多くの種類のねじ部材の緩みを評価できる。
【0167】
上述したように、図8Aによれば、ボルトCの軸力が比較的大きい範囲よりも比較的小さい範囲の方が、試験回数による固有振動数の値のばらつきが大きい傾向がある。しかし、図5Aおよび図7Aによれば、ボルトAおよびボルトBについては、軸力が比較的大きい範囲よりも比較的小さい範囲の方が、試験回数による固有振動数の値のばらつきが大きいという傾向が見受けられない。このため、本実施形態は、少なくともボルトのねじ部の呼び径が同じであれば、アスペクト比が比較的大きいボルトに対して有効であると言い得る。
【0168】
<その他変形例>
第1~第4実施形態ではそれぞれ、以下の条件(1)~(4)を満たしたときに、評価対象のボルトが緩んでいると評価する。
(1)評価対象のボルトのねじ先側突出部12の固有振動数が、予め決定されていた固有振動数の閾値以下
(2)評価対象のボルトの振動特性の振幅絶対値が、予め決定されていた振幅絶対値の閾値以下
(3)評価対象のボルトに対する振動特性を複数回取得したとき、複数の振動特性の中に、ねじ先側突出部12の固有振動数に起因する2つのピークが含まれる振動特性の数が所定数よりも少ない
(4)評価対象のボルトのねじ先側突出部12の曲げモードの固有振動数を複数回取得したときの複数の固有振動数のばらつきを示すパラメータが、予め決定されたばらつきを示すパラメータの閾値以上
【0169】
条件(1)~(4)の中で複数の条件が満たされたときに、評価対象のボルトが緩んでいると評価してもよい。このとき、いくつかの条件を予め指定してもよいし、条件(1)~(4)の中の所定の数が満たされたことをもって、評価対象のボルトが緩んでいると評価してもよい。所定の数は、1から4までのいずれであってもよい。また、所定の数が2又は3のとき、(1)~(4)の組み合わせ方法は特に問われない。
【0170】
第1~第4実施形態では、インパルスハンマ5でねじ先側突出部12を振動させることで、供試ボルト10および評価対象のボルトの振動特性を測定するとしたが、例えば、被発射物を発射して対象物にぶつけることで対象物を振動させる装置を用いて、ねじ先側突出部12を振動させてもよい。また、レーザを照射してねじ先側突出部12を振動させてもよいし、加振器により振動させてもよい。すなわち、供試ボルト10のねじ先側突出部12を振動させることができれば、インパルスハンマ5に替えてどのような装置等を用いてもよい。また、ロードセルが内蔵されていないハンマ(例えば、打音検査用のハンマ)でねじ先側突出部12を振動させてもよい。この場合、該ハンマにより、ねじ先側突出部12に与える入力の大きさを一定に保つためにロボットなどにハンマを持たせ、該ロボットを制御することでねじ先側突出部12に振動を与えることもできる。なお、レーザを照射してねじ先側突出部12を振動させる場合、レーザドップラー振動計を用いて、ねじ先側突出部12の振動特性を取得してもよい。この場合、非接触で遠隔からねじ先側突出部12の振動特性を測定することができる。また、ねじ先側突出部12の振動特性を取得するために、レーザ変位計や渦電流式変位計などを用いてもよい。なお、レーザ等、入力を一定にすることができる手法で、ねじ先側突出部12を振動させる場合、測定される出力値(すなわち、周波数応答)を入力値に基づいて正規化する必要はない。すなわち、入力を一定にすることができる手法を用いてねじ先側突出部12を振動させる場合に得られる振動特性は、周波数応答である。
【0171】
第1~第4実施形態では、供試ボルト10の軸力を4アクティブゲージ法で計測されることとして説明したが、別の方法で計測してもよい。例えば、供試ボルト10に貼り付けるまたは埋め込むひずみゲージの数は、4以外でもよい。また、ひずみゲージに替えて光ファイバセンサを供試ボルト10に貼り付けるまたは埋め込んでも、供試ボルト10の軸力を計測できる。さらに、デジタル画像相関法のような非接触方式を用いることで供試ボルト10の軸力を計測することができる。
【0172】
なお、適正軸力は、必ずしも0.2%耐力の60%でなくともよい。供試ボルト10が塑性変形するときの軸力が適正軸力として設定されてもよい。すなわち、供試ボルト10の降伏点に相当する軸力よりもやや大きめの軸力を適正軸力に設定してもよい。
【0173】
また、第1~第4実施形態では、供試ボルト10の先端部13は、ねじやまが除去されている。しかしながら、インパルスハンマ5によりねじ先側突出部12を振動させる手法以外で、ねじ先側突出部12を振動させる場合、必ずしも供試ボルト10のねじ先側突出部12の先端部分のねじやまを除去しなくてもよい。例えば、レーザを照射させる手法を用いる場合、ねじ先側突出部12の先端部分のねじやまを除去しなくてもよい。
【0174】
なお、第1~第4実施形態の打撃試験において、測定点Eは、被締結物2の重心軸上に位置するように設定した。しかし、測定点Eは、必ずしも被締結物2の重心軸上に位置していなくてもよい。測定点Eは、被締結物2の外表面ならどこであってもよい。例えば、測定点Eは、ボルト/ナット締結体1を形成したときに、供試ボルト10の頭部が位置する側の被締結物2の表面に位置していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、より多くの種類のねじ部材が緩んでいるか否かについて評価できる。したがって、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0176】
100 試験システム
1 ボルト/ナット締結体
2 被締結物
3 加速度センサ
4 ひずみゲージ
5 インパルスハンマ
10 供試ボルト
12 ねじ先側突出部
13 先端部
60 供試ナット
P 打撃点
E 測定点
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11