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特許7573196非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
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  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20241018BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241018BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021548390
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028827
(87)【国際公開番号】W WO2021059728
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019177465
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】東郷 政一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-310181(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131234(WO,A1)
【文献】特開2012-252807(JP,A)
【文献】特開2003-261334(JP,A)
【文献】特開2004-171961(JP,A)
【文献】特開2009-032467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する、少なくともNi、Al、及びCaを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
一般式Li Ni Co Al Mn Ca (式中、0.8≦a≦1.2、0.85≦b≦0.95、0≦c≦0.06、0<d≦0.08、0≦e≦0.10、0<f≦0.02、0≦g≦0.10、1≦h≦2、b+c+d+e+f+g=1、MはFe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、及びZnから選択される少なくとも1種)で表され、
前記リチウム遷移金属複合酸化物において
i層に存在するLi以外の金属元素の割合は、当該複合酸化物に含有されるLiを除く金属元素の総モル数に対して0.6~2.0モル%である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Liを除く金属元素の総モル数に対して15モル%以下の量で、Co、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、及びZnから選択される少なくとも1種の金属元素を含有する、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子であって、Caは、前記一次粒子の中心部よりも、前記二次粒子の表面を含む前記一次粒子の表面及び表面近傍に高濃度で存在する、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、X線回折測定により得られるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出される結晶子サイズが400~800Åである、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、結晶構造のa軸長を示す格子定数aが2.870Å≦a≦2.877Åであり、c軸長を示す格子定数cが14.18Å≦c≦14.21Åである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物のX線回折測定により得られるX線回折パターンに、CaOに由来するピークが存在しない、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、X線回折測定により得られるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出される結晶子サイズが503~800Åである、請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池に関し、特にNi含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質、及び当該活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、一般式LiNiCo(式中、MはBa、Sr、Bから選択される元素であり、0.9≦x≦1.1、0.5≦y≦0.95、0.05≦z≦0.5、0.0005≦m≦0.02)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなり、かつBET比表面積値が0.8m/g以下である非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、α-NaFeO構造を有し、遷移金属元素としてMn、Ni、及びCoからなる群から選択される1種又は2種以上を含み、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にアルカリ土類金属とWが存在する非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-100295号公報
【文献】特開2018-129221号公報
【発明の概要】
【0005】
非水電解質二次電池の正極活物質にNi含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、充電時のLiの引き抜き量が多いため、充放電を繰り返すことにより層状の結晶構造が壊れ、容量が低下するという課題がある。なお、特許文献1,2に開示された技術は、充放電サイクル特性について未だ改良の余地がある。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有する、少なくともNi、Al、及びCaを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物において、Niの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85~95モル%であり、Alの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して8モル%以下であり、Caの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して2モル%以下であり、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、当該複合酸化物に含有されるLiを除く金属元素の総モル数に対して0.6~2.0モル%である。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える。
【0008】
本開示の一態様によれば、Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、電池の充放電サイクル特性の向上に寄与する正極活物質を提供することができる。また、本開示に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、充放電サイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2図2は、実施例3の正極活物質のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
非水電解質二次電池の正極活物質として、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、上記のように、充電時に複合酸化物から多くのLiが引き抜かれるため、充放電を繰り返すと複合酸化物の層状構造が崩れて電池容量が低下する。また、当該複合酸化物は、粒子表面の活性が高く粒子表面の構造がより不安定であるため、特に粒子表面から層状構造の浸食が進み易い。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定量のAlに加えて所定量のCaをリチウム遷移金属複合酸化物に添加し、Li層のLiの一部を他の金属元素と置換することにより、サイクル特性が特異的に改善されることを見出した。かかる効果の発現は、Li層における他金属元素置換によるLi層の構造安定化、及び遷移金属層におけるAl置換による遷移金属層の安定化と共に、Caの添加により粒子表面の構造が改質されて安定化し、粒子表面からの浸食が抑制されたことが主な要因であると考えられる。つまり、Li層の安定化、遷移金属層の安定化、及び粒子表面構造の安定化により特異的な相乗効果が生まれ、サイクル特性の大幅な向上につながったと考えられる。
【0012】
本明細書において、「数値(A)~数値(B)」との記載は、数値(A)以上、数値(B)以下であることを意味する。
【0013】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池用正極活物質、及び当該活物質を用いた非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0015】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0016】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0017】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0018】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0019】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0020】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11を構成する正極活物質について詳説する。
【0021】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0022】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0023】
正極活物質は、層状構造を有し、少なくともNi、Al、及びCaを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。Caは、例えば、当該複合酸化物の粒子表面又は層状構造内に化合物として存在している。以下、説明の便宜上、当該リチウム遷移金属複合酸化物を「複合酸化物(Z)」とする。複合酸化物(Z)は、例えば空間群R-3mに属する層状構造、又は空間群C2/mに属する層状構造を有する。正極活物質は、複合酸化物(Z)を主成分とし、実質的に複合酸化物(Z)のみで構成されていてもよい。なお、正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(Z)以外の複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。
【0024】
複合酸化物(Z)は、例えば、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子である。一次粒子の粒径は、一般的に0.05μm~1μmである。複合酸化物(Z)の体積基準のメジアン径(D50)は、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μmである。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0025】
複合酸化物(Z)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85~95モル%のNiを含有する。Niの含有量を85モル%以上とすることで、高エネルギー密度の電池が得られる。一方、Niの含有量が95モル%を超えると、Al及びCaの含有量が少なくなり過ぎて複合酸化物(Z)の層状構造の安定性を確保できず、粒子表面の浸食を抑制できない。Ni含有量の下限は、Liを除く金属元素の総モル数に対して90モル%であってもよい。
【0026】
なお、複合酸化物(Z)を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、又はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0027】
複合酸化物(Z)において、Niの含有量は、上記の通り、Liを除く金属元素の総モル数に対して85~95モル%以上である。また、Alの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して8モル%以下である。Alの含有量は、7モル%以下であってもよく、又は6モル%以下であってもよい。複合酸化物(Z)の層状構造の安定性の観点から、Alの含有量の下限値は、1モル%が好ましく、2モル%がより好ましい。Al含有量の好適な範囲の一例は、2~6モル%、又は3~5モル%である。
【0028】
複合酸化物(Z)におけるCaの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して2モル%以下であり、好ましくは1.7モル%以下、特に好ましくは1.5モル%以下である。Caは複合酸化物(Z)の粒子表面を改質し、粒子表面の浸食を抑制する効果があると考えられる。このため、複合酸化物(Z)にCaが含有されていれば、電池のサイクル特性は改善されるが、Caの含有量は0.05モル%以上が好ましい。この場合、サイクル特性の改善効果がより顕著になる。一方、Caの含有量が2モル%を超えると、抵抗が上昇して充電容量が低下する。
【0029】
Caは、複合酸化物(Z)の粒子表面及びその近傍、例えば粒子表面から30nm以内の表面近傍領域に存在することが好ましい。複合酸化物(Z)は、一般的に複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子であるから、Caは、一次粒子の中心部よりも、二次粒子の表面を含む一次粒子の表面及び表面近傍に高濃度で存在することが好ましい。即ち、Caは複合酸化物(Z)の一次粒子の表面及びその近傍に偏在しており、Caの単位体積当たりの含有率は一次粒子の内部よりも表面で高くなっている。複合酸化物(Z)におけるCaの分布は、TEM-EDX等により分析できる。
【0030】
複合酸化物(Z)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して15モル%以下の量で、Co、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、及びZnから選択される少なくとも1種の金属元素を含有することが好ましい。中でも、Co及びMnの少なくとも一方を含有することが好ましい。複合酸化物(Z)は、Co及びMnの少なくとも一方を含有し、かつFe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、及びZnから選択される少なくとも1種の金属元素を含有していてもよい。
【0031】
複合酸化物(Z)がCoを含有する場合、Coの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して10モル%以下であることが好ましい。Coは高価であることから、その使用量を少なくすることが好ましい。複合酸化物(Z)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して5モル%以下のCoを含有するか、又は実質的にCoを含有しなくてもよい。「実質的にCoを含有しない」とは、Coが全く含有されない場合、及びCoが不純物として混入する場合(正確に定量できない程度のCoが混入する場合)を意味する。また、複合酸化物(Z)がMnを含有する場合、Mnの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して10モル%以下が好ましい。
【0032】
好適な複合酸化物(Z)の一例は、一般式LiNiCoAlMnCa(式中、0.8≦a≦1.2、0.85≦b≦0.95、0≦c≦0.06、0<d≦0.08、0≦e≦0.10、0<f≦0.02、0≦g≦0.10、1≦h≦2、b+c+d+e+f+g=1、MはFe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo、及びZnから選択される少なくとも1種)で表される複合酸化物である。
【0033】
複合酸化物(Z)は、Li層と遷移金属層が交互に積み重なった層状の結晶構造を有する。そして、複合酸化物(Z)のLi層には、Li以外の金属元素が含有されている。Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、複合酸化物(Z)に含有されるLiを除く金属元素の総モル数に対して0.6~2.0モル%であり、好ましくは0.7~1.9%、より好ましくは0.8~1.8%である。
【0034】
複合酸化物(Z)のLi層に上記の割合でLi以外の金属元素が含有されていると、充電時のLiイオンが引き抜かれた状態においてLi層の構造が安定化し、サイクル特性が向上する。他方、上記割合が0.6モル%未満である場合、又は2.0モル%を超える場合は、サイクル特性の改善効果は得られない。Li層中のLi以外の金属元素は、主にNiであると考えられるが、他の金属元素を含んでもよい。詳しくは後述するが、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、複合酸化物(Z)のX線回折測定により得られるX線回折パターンのリートベルト解析から求められる。
【0035】
複合酸化物(Z)は、X線回折測定により得られるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズSが、400~800Åであることが好ましい。複合酸化物(Z)の結晶子サイズSが400Åより小さい場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶性が低下して、サイクル特性が悪化する場合がある。他方、結晶子サイズSが800Åを超える場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Liの拡散性が悪くなり、電池の出力特性が低下する場合がある。
【0036】
シェラーの式は、下記のように表される。
【0037】
S=Kλ/Bcosθ
上式において、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。なお、複合酸化物(Z)のX線回折パターンを取得するためのX線回折測定法の詳細については後述する。
【0038】
また、複合酸化物(Z)は、X線回折パターンの解析に基づく結晶構造のa軸長を示す格子定数aが2.870Å≦a≦2.877Åであり、c軸長を示す格子定数cが14.18Å≦c≦14.21Åであることが好ましい。
【0039】
上記格子定数aが2.870Å未満である場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、電池の反応抵抗が高くなる場合がある。他方、格子定数aが2.877Åを超える場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の出力特性が低下する場合がある。また、上記格子定数cが14.18Å未満である場合、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の反応抵抗が高くなる場合がある。他方、格子定数cが14.21Åを超える場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の出力特性が低下する場合がある。
【0040】
複合酸化物(Z)のX線回折パターンには、酸化カルシウム(CaO)に由来するピークが存在しないことが好ましい。なお、当該X線回折パターンは、後述の実施例に示すX線回折測定により得られる。CaOがX線回折測定で検出される程度含有されている場合、充放電容量の低下等が生じる場合がある。
【0041】
複合酸化物(Z)の製造方法は、例えば、Ni、Al、及び任意の金属元素を含む金属複合酸化物を得る第1工程と、第1工程で得られた金属複合酸化物と、リチウム化合物と、カルシウム化合物とを混合して混合物を得る第2工程と、当該混合物を焼成する第3工程とを備える。最終的に得られる複合酸化物(Z)の層状構造のLi層におけるLi以外の金属元素の割合は、例えば、第2工程における原料の混合割合、第3工程における焼成温度や時間等を制御することにより調整される。
【0042】
第1工程では、例えば、Ni、Al、及び任意の金属元素(Co、Mn、Fe等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば、8.5~12.5)に調整することにより、Ni、Al、及び任意の金属元素を含む金属複合水酸化物を析出(共沈)させる。続いて、当該金属複合水酸化物を焼成することにより、Ni、Al、及び任意の金属元素を含む金属複合酸化物を得る。焼成温度は、特に制限されないが、例えば、300℃~600℃である。
【0043】
第2工程では、第1工程で得られた金属複合酸化物と、リチウム化合物と、カルシウム化合物とを混合した混合物を得る。リチウム化合物としては、例えば、LiCO、LiOH、Li、LiO、LiNO、LiNO、LiSO、LiOH・HO、LiH、LiF等が挙げられる。カルシウム化合物としては、Ca(OH)、CaO、CaCO、CaSO、Ca(NO等が挙げられる。第1工程で得られた金属複合酸化物とリチウム化合物の混合比率は、例えば、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.1の範囲となるように調整されることが好ましい。
【0044】
第3工程では、第2工程で得られた混合物を所定の温度及び時間で焼成して、複合酸化物(Z)を得る。第3工程は、例えば、酸素気流下、450℃~680℃の第1設定温度まで第1昇温速度で焼成する第1焼成工程と、第1焼成工程により得られた焼成物を、酸素気流下、680℃超800℃以下の第2設定温度まで第2昇温速度で焼成する第2焼成工程とを含む、多段階焼成工程である。焼成は、例えば、酸素濃度60%以上の酸素気流中で行い、酸素気流の流量を、焼成炉10cmあたり、0.2mL/min~4mL/min、及び混合物1kgあたり0.3L/min以上とする。
【0045】
ここで、第1昇温速度は、1.5℃/min~5.5℃/minの範囲で1パターン以上設定され、第2昇温速度は、第1昇温速度より遅く、0.1℃/min~3.5℃/minの範囲で1パターン以上設定される。このような多段階焼成により、最終的に得られる複合酸化物(Z)の層状構造において、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合を0.6~2.0モル%に調整することができる。
【0046】
第1焼成工程における第1設定温度の保持時間は、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。第1設定温度の保持時間とは、第1設定温度に達した後、第1設定温度を維持する時間である。第2焼成工程における第2設定温度の保持時間は、1~10時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。第2設定温度の保持時間とは、第2設定温度に達した後、第2設定温度を維持する時間である。
【0047】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0048】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0049】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0050】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0051】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
[リチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)の合成]
一般式Ni0.87Co0.06Al0.03Fe0.04で表される金属複合酸化物のNi、Co、Al、及びFeの総量に対してCaの含有量が1.0モル%となるように、金属複合酸化物と水酸化カルシウム(Ca(OH))を混合し、さらにNi、Co、Al、Fe、及びCaの総量と、Liのモル比が1:1.02となるように水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)を混合した。当該混合物を酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり5L/minの流量)、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、650℃から780℃まで焼成した。この焼成物を水洗により不純物を除去し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。ICP-AESにより、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を分析した結果、Li0.99Ni0.86Co0.06Al0.03Fe0.04Ca0.01であった。
【0053】
[正極の作製]
正極活物質として、上記リチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、95:3:2の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0054】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/リットルの濃度で溶解させて非水電解液を調製した。
【0055】
[試験セル(非水電解質二次電池)の作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、負極としてリチウム金属箔にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解液を注入した後、外装体の開口部を封止して試験セルを得た。
【0056】
上記リチウム遷移金属複合酸化物について、Li層中のLi以外の金属元素の割合を下記の方法で評価した。また、上記試験セルについて、充放電サイクル特性を下記の方法でそれぞれ評価した。評価結果を表2に示す(後述の実施例、比較例についても同様)。また、表2には、リチウム遷移金属複合酸化物を構成するLi以外の金属元素とその含有量[(各金属元素のモル数/Liを除く金属元素の総モル数)×100]を併せて示す。
【0057】
[リチウム遷移金属複合酸化物のLi層におけるLi以外の金属元素の割合]
Li層に存在するLi以外の金属元素の割合は、リチウム遷移金属複合酸化物のX線回折測定により得られるX線回折パターンのリートベルト解析から求められる。X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
【0058】
測定範囲:15-120°
スキャン速度:4°/min
解析範囲:30-120°
バックグラウンド:B-スプライン
プロファイル関数:分割型擬Voigt関数
束縛条件:Li(3a)+Ni(3a)=1
Ni(3a)+Ni(3b)=y(yは各々のNi含有割合)
ICSD No.:98-009-4814
また、X線回折パターンのリートベルト解析には、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク製)が使用される。
【0059】
[充放電サイクル特性(サイクル試験後の容量維持率)の評価]
上記試験セルを、25℃の温度環境下、0.2Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/100Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.2Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを30サイクル繰り返した。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、30サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
【0060】
容量維持率(%)=(30サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
<実施例2~9>
使用する原料、及び原料配合比を変更して、表1に示す組成のリチウム遷移金属複合酸化物を合成したこと、実施例3においては、混合物1kgあたり10L/minの流量の酸素気流下、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、650℃から720℃まで焼成したこと、実施例4においては、昇温速度3.0℃/minで、室温から670℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、670℃から720℃まで焼成したこと、実施例5においては、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、650℃から750℃まで焼成したこと、実施例7、実施例8及び実施例9においては、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から700℃まで焼成したこと以外は、実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0061】
<比較例1~7>
使用する原料、及び原料配合比を変更して、表1に示す組成のリチウム遷移金属複合酸化物を合成したこと、比較例4及び比較例5においては、昇温速度3.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、650℃から720℃まで焼成したこと、比較例6及び比較例7においては、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から700℃まで焼成したこと以外は、実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0062】
実施例及び比較例のリチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)に対して、既述の条件で粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。実施例及び比較例の全てのX線回折パターンから、層状構造を示す回折線が確認され、CaOのピークは確認されなかった。一例として、実施例3の正極活物質のX線回折パターンを図2に示した。また、各実施例及び各比較例のX線回折パターンから、Li以外の金属元素の割合、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズSを求めた。その結果を表1にまとめた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、実施例の試験セルはいずれも、比較例の試験セルと比べて、サイクル試験後の容量維持率が高く、充放電サイクル特性に優れる。正極活物質にCaが含有されない場合(比較例4,6,7)は、サイクル試験後に放電容量が大きく低下する。また、正極活物質にCaが含有されていても、Alが含有されない場合(比較例1)、Li層中のLi以外の金属元素の割合が0.6~2.0モル%の範囲から外れる場合(比較例3,5)、及びCaの含有量が2モル%を超える場合(比較例2)も同様に、サイクル試験後に放電容量が大きく低下する。つまり、特定量のAl及びCaが含有され、Li層にLi以外の金属元素が特定量存在する場合にのみ、特異的な相乗効果が発現され、電池の充放電サイクル特性が大きく向上する。
【符号の説明】
【0066】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 溝入部
23 内部端子板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
図1
図2