IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図1
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図2
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図3
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図4
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図5
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図6
  • 特許-溶接方法、および缶体の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】溶接方法、および缶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 33/00 20060101AFI20241018BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20241018BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23K33/00 Z
B23K9/02 S
B23K9/00 501K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023002519
(22)【出願日】2023-01-11
(65)【公開番号】P2024098801
(43)【公開日】2024-07-24
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 将広
(72)【発明者】
【氏名】橋崎 凌
(72)【発明者】
【氏名】嶋 和也
(72)【発明者】
【氏名】保積 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 皓治
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-302995(JP,A)
【文献】特開2009-183963(JP,A)
【文献】特開2010-203697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00 - 31/02、
31/10 - 33/00、
37/00 - 37/08
B23K 9/00 - 9/32、
10/00 - 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材と第2板材とを接合する溶接方法であって、
前記第1板材は、円筒形状の第1面部と、前記第1面部の端部である第1端部と、を有し、
前記第2板材は、円筒形状の第2面部と、前記第2面部の端部である第2端部と、を有し、
前記第1端部は、前記第1面部の径方向外側に向けて鋭角に立ち上がる第1曲げ部と、前記第1曲げ部よりも前記第1端部の先端側において前記第1曲げ部と反対方向に曲がる第2曲げ部と、を有し、
前記第2端部は、前記第2面部の径方向外側に向けて鈍角に立ち上がるフレア曲げ部を有し、
前記第1曲げ部と前記第2曲げ部と間の曲がりの内側において、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部と、前記フレア曲げ部と、を互いに接触させた状態で、前記第2曲げ部の径方向外側から加熱し、前記第1端部と前記第2端部とを溶接する、
溶接方法。
【請求項2】
前記第1板材と前記第2板材とを前記第1面部の軸に沿って互いに押圧しながら、前記第1端部と前記第2端部とを溶接する、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記フレア曲げ部は、前記第2端部が前記第1曲げ部に接した状態で、前記第1板材と前記第2板材とが前記第1面部の軸に沿って互いに押圧されることによって形成される、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記第2曲げ部と前記第1曲げ部との間の曲率半径は、前記第2端部の厚み以下である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記第1曲げ部と前記第2曲げ部との間の曲げ角度は、前記第1面部と第1曲げ部との間の曲げ角度と同等である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第1面部の軸に沿った方向における前記第2曲げ部の寸法は、前記第2端部の厚みの2倍以上である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項7】
鏡板と、円筒形状の胴体と、を溶接して缶体を製造する缶体の製造方法であって、
前記鏡板として、前記第1板材および前記第2板材のうち、一方の板材を用い、
前記胴体として、前記第1板材および前記第2板材のうち、前記一方の板材と異なる他方の板材を用い、
請求項1から6のいずれかに記載の溶接方法を用いて前記鏡板と前記胴体とを溶接する、
缶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接方法、および缶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、板材どうしを溶接する際に、板材どうしの間の目違いを低減できる溶接方法を開示する。この溶接方法は、2つの板材のL字状端部どうしを接触させたうえで、第2板材のL字型端部と第1板材のひさし部との間に隙間を設けることにより、板材どうしの目違いを隙間によって吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-148304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、溶接時において、板材どうしがずれにくい溶接方法、および缶体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における溶接方法は、第1板材と第2板材とを接合する溶接方法であって、前記第1板材は、円筒形状の第1面部と、前記第1面部の端部である第1端部と、を有し、前記第2板材は、円筒形状の第2面部と、前記第2面部の端部である第2端部と、を有し、前記第1端部は、前記第1面部の径方向外側に向けて鋭角に立ち上がる第1曲げ部と、前記第1曲げ部よりも前記第1端部の先端側において前記第1曲げ部と反対方向に曲がる第2曲げ部と、を有し、前記第2端部は、前記第2面部の径方向外側に向けて鈍角に立ち上がるフレア曲げ部を有し、前記第1曲げ部と前記第2曲げ部と間の曲がりの内側において、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部と、前記フレア曲げ部と、を互いに接触させた状態で、前記第2曲げ部の径方向外側から加熱し、前記第1端部と前記第2端部とを溶接する。
【発明の効果】
【0006】
本開示の溶接方法、および缶体の製造方法は、フレア曲げ部と、第2曲げ部および第1曲げ部と、が接触する。これにより、溶接時において板材どうしがずれにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1に係る缶体の斜視図
図2】実施の形態1に係る缶体の断面図
図3図2の拡大図
図4】実施の形態1に係る溶接装置にセットされた状態の鏡板および胴体の断面図
図5図4の拡大図
図6】実施の形態1に係る加圧後の鏡板および胴体の断面図
図7図6の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に至った当時、板材どうしの溶接方法の技術は、溶接の品質の確保と生産性の向上の両立が求められる状況であった。そのため、当該業界では、溶接の品質および生産性の向上を課題として、特許文献1に記載のように、板材の端部を変形させることにより、板材どうしの目違いを低減する技術が提案されていた。そうした状況下において、発明者らは、特許文献1に記載のような隙間が設けられる場合、隙間が目違いを吸収するバッファとなる一方で、板材どうしの位置合わせや溶接時における板材どうしのずれの原因になりうるという課題があることを発見した。特に、環境配慮、コスト面からも薄肉軽量タンクが求められる給湯装置の貯湯タンクには、たわみ易い薄肉の胴体および鏡板が採用されることがある。このような胴体と鏡板との溶接時には、特許文献1に記載のような従来の溶接方法では、板材どうしが更にずれ易くなる。そこで、発明者らは、この課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
そこで、本開示は、溶接時において板材どうしがずれにくい溶接方法を提供する。
【0009】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0010】
(実施の形態1)
以下、図1図7を用いて、実施の形態1を説明する。
[1-1.缶体の構成]
図1は、本開示の溶接方法を用いて製造された缶体1の斜視図である。図2は、缶体1を軸AXに沿って切断した断面図である。図中の軸AXは、第1面部11および第2面部21が成す円筒形状の中心を通る軸である。
缶体1は、略円柱形状の容器であり、給湯装置用の貯湯タンクとして使用される。缶体1は、2つの略半球状の鏡板(第1板材)10と、円筒形状の胴体(第2板材)20と、を有する。缶体1は、それぞれ個別の板材として形成された鏡板10と胴体20とが、アーク溶接によって接合されることで製造される。
【0011】
鏡板10は、円筒形状の第1面部11と、ドーム形状のドーム部19と、を有する金属製の板材である。第1面部11の厚みは、板厚T1である。本実施の形態において、鏡板10を構成する金属はステンレス鋼である。鏡板10は、製造時の加工によって加工硬化しており、胴体20よりも剛性が大きい。
【0012】
胴体20は、円筒形状の第2面部21を有する金属製の板材である。第2面部21は、第1面部11に沿った向きに配置され、それぞれの軸AXは一致する。第2面部21の厚みは、板厚T2である。また、第2面部21の内径D2は、第1面部11の内径D1と同等である。本実施の形態において、胴体20を構成する金属はステンレス鋼である。
【0013】
缶体1において、第1面部11の端部である第1端部13と、第2面部21の端部である第2端部23と、の間には、ビード30が形成される。ビード30は、溶接する以前の第1端部13および第2端部23の一部が、溶接によって溶融した後に固化した部分である。
【0014】
図3は、図2の断面図におけるビード30の拡大図である。図3に示すように、実施の形態1の缶体1において、第1面部11と第2面部21とは、径方向において揃った位置に配置される。また、鏡板10と胴体20とをつなぐビード30の断面形状は、径方向に対する膨出が少ない平坦な形状である。このようにビード30が平坦な形状である場合、ビード30における応力集中が低減される。なお、径方向外側方向DOは、第1面部11と第2面部21のなす円筒形状の径方向のうち、内側から外側に向かう方向である。
【0015】
[1-2.缶体の製造方法]
次に、鏡板10と胴体20とを溶接し、上述した缶体1を製造する方法について説明する。
[1-2-1.溶接工程の前工程]
図4は、溶接装置Wにセットされた状態の鏡板10および胴体20の断面図であり、鏡板10および胴体20を軸AXに沿って鉛直方向に切断した断面を示す。図5は、図4の拡大図であり、第1端部13および第2端部23を示す。
【0016】
図4に示すように、溶接装置Wは、クランプW1と、2つのトーチW2と、を有する。クランプW1は、2つの鏡板10を軸AXの方向に並べて保持し、2つの鏡板10の間に胴体20を挟んで保持する。このとき、軸AXは、水平方向とされる。クランプW1は、第1面部11および第2面部21の軸AXの方向に移動可能である。また、クランプW1は、第1面部11および第2面部21の軸AXを中心として、第1面部11および第2面部21の周方向に回転可能である。トーチW2は、アーク放電によって熱を生じさせ、生じさせた熱によって溶接を行う装置である。トーチW2は、第1端部13および第2端部23の付近に設けられ、鉛直上方から下方に向けてアーク放電を行う。また、図4に示すように、溶接装置Wは、胴体20の中央を固定するリング状の治具W3を有する構成としてもよい。治具W3は、胴体20の略全周を径方向外側方向DO側から締め付けて固定する器具であり、軸AXを中心として第1面部11および第2面部21の周方向に回転可能である。治具W3は、鏡板10よりも剛性が小さい胴体20がたわんで変形することを抑制する。また、治具W3により、胴体20を鏡板10に対して位置決めし易くなる。
【0017】
図5に示すように、溶接前の鏡板10の第1端部13には、径方向外側に向けて立ち上がる第1曲げ部15と、第1曲げ部15と反対方向に曲がる第2曲げ部17と、が形成される。第1曲げ部15は、第1面部11との間の曲げ角度が角度A1となる方向に立ち上げられて形成され、図5の断面において略直線形状である。また、角度A1は、鋭角である。第1曲げ部15は、第1端部13の全周に渡って形成されている。
【0018】
第2曲げ部17は、第1曲げ部15よりも第1端部13の先端13a側に形成され、図5の断面図において略直線形状である。第2曲げ部17は、第1曲げ部15との間の曲げ角度が角度A2となるとなる方向に曲げられている。本実施の形態において、角度A2は、鋭角であり、且つ、角度A1と同等である。このため、第2曲げ部17は、第1面部11に沿って延び、軸AXに平行な円筒形状である。また、第2曲げ部17は、径方向外側方向DOに対して直交する。
【0019】
第1端部13において第1面部11に沿った部分と第1曲げ部15との間には、湾曲する第1角部14が形成される。第1角部14は、第1曲げ部15を形成する加工によって形成された折り目であり、丸みを帯びた角である。
【0020】
また、第1曲げ部15と第2曲げ部17との間には、湾曲する第2角部16が形成される。第2角部16は、第2曲げ部17を形成する加工によって形成された折り目であり、丸みを帯びた角である。
【0021】
溶接前の第2端部23は、平坦な形状であり、軸AXの方向および第2面部21に対して平行に延びている。このため、第2端部23の厚みは、第2面部21と同様に板厚T2である。また、第2端部23の先端には、第2端部23に対して略直交する平坦な端面23aが形成されている。端面23aは、第1端部13の第1角部14に対向している。
【0022】
図4および図5のように溶接装置Wに対する鏡板10および胴体20のセットが完了した後に、溶接装置Wは、2つの鏡板10が軸AXの方向において互いに押し合う方向にクランプW1を移動させて加圧する。これにより、鏡板10と胴体20とは、軸AXの方向に沿って互いに強く押圧される。
【0023】
図6は、加圧後における、溶接装置Wにセットされた状態の鏡板10および胴体20の断面図であり、鏡板10および胴体20を軸AXに沿って鉛直方向に切断した断面を示す。図7は、図6の拡大図であり、第1端部13および第2端部23を示す。図6には、クランプW1の加圧方向を示してある。
【0024】
図6および図7に示すように、本実施の形態においては、クランプW1が移動し、鏡板10と胴体20とが、軸AXの方向に沿って互いに強く押圧されることにより、第2端部23には、フレア曲げ部25が形成される。
【0025】
フレア曲げ部25は、加圧によって第2端部23の端面23aに対して第1角部14および第1曲げ部15が強く押し付けられることによって形成されており、第2面部21から径方向外側方向DOに向けて立ち上げられる。フレア曲げ部25は、第2面部21との間の角度が角度A3となる方向に立ち上げられている。角度A3は、鈍角である。また、本実施の形態において、角度A1と角度A3との和は、180°以上である。
【0026】
フレア曲げ部25の形成時、端面23aは、第1角部14の湾曲の外側の面である外側面14a、および、第1曲げ部15のうち第1曲げ部15と第2曲げ部17との曲がりの内側の面である内側面15aの上を滑りながら、径方向外側に移動する。また、端面23aの径方向外側に向けた移動は、第2曲げ部17のうち第1曲げ部15と第2曲げ部17との曲がりの内側の面である内側面17aに対して接触して止まる。このため、本実施の形態においては、フレア曲げ部25の先端である第2端部23の端面23aは、第1曲げ部15および第2曲げ部17の内側面15a、17aに対して周方向に線接触する。
【0027】
ここで、本実施の形態においては、第2角部16の湾曲の内側の面である内側面16aの曲率半径は、第2面部21および第2端部23の板厚T2よりも小さい。このため、フレア曲げ部25の先端である端面23aは、第1曲げ部15および第2曲げ部17それぞれの内側面15a、17aに対して周方向に線接触し易い。
【0028】
また、本実施の形態において、フレア曲げ部25が形成される第2端部23は、鏡板10よりも剛性が小さい胴体20に形成されている。このため、第2端部23に対してフレア曲げ部25を形成し易くなっている。
【0029】
フレア曲げ部25が形成されることにより、溶接工程の前工程は完了し、溶接工程に移行する。
【0030】
[1-2-2.溶接工程]
溶接工程において、溶接装置Wは、クランプW1が軸AXを中心として鏡板10および胴体20を回転させつつ、トーチW2によってアーク溶接を行う。このとき、クランプW1は、鏡板10と胴体20とが互いに押圧し合う方向に向けて、鏡板10に対して軸AXに沿った方向の力を作用させる。これにより、端面23aは、第1曲げ部15および第2曲げ部17の内側面15a、17aに対して共に線接触し易くなる。また、端面23aは、2つの内側面15a、17aによって径方向内側および径方向外側から挟まれている。このため、端面23aは、径方向における移動を規制され、第1端部13と第2端部23とは、軸AXに沿った方向および径方向において互いにずれにくくなる。
【0031】
このように、端面23aは、その全周に渡って、内側面15a、17aに対しての径方向および軸AXに沿った方向を規制される。このため、鏡板10と胴体20との配置に起因するずれに加え、第1端部13および第2端部23のたわみによるずれも抑制することができる。
【0032】
溶接装置Wは、第1端部13の先端13aのうち、鉛直上方に位置する部分の位置を検出する図示しないタッチセンサを有する。溶接装置Wは、タッチセンサによって検出した先端13aの位置の情報を用いて、トーチW2を軸AXの方向および径方向に動かしながら、図7のターゲット範囲Rの内側を狙ってトーチW2にアーク放電させる。本実施の形態において、ターゲット範囲Rは、第2曲げ部17のうち、第1曲げ部15と第2曲げ部17との曲がりの外側の面である外側面17b、および、第2角部16である。外側面17bおよび第2角部16は、トーチW2により、径方向外側から加熱される。
【0033】
第1曲げ部15、第2曲げ部17は、トーチW2からの加熱によって溶融する。また、フレア曲げ部25は、第1曲げ部15および第2曲げ部17から伝導される熱により溶融する。このように、本実施の形態では、フレア曲げ部25、第1曲げ部15、および第2曲げ部17を溶融させることによって溶接を行うため、溶融する金属量を多くでき、安定した品質での溶接が可能となる。また、溶融したフレア曲げ部25、第1曲げ部15、および第2曲げ部17が、第1端部13と第2端部23との隙間を埋める溶加材のように作用するため、溶加材を使用することなく、第1端部13と第2端部23とを溶接することができる。
【0034】
ここで、本実施の形態において、第2曲げ部17の軸AXに沿った長さLは、第2面部21および第2端部23の厚みである板厚T2の2倍以上である。このため、ターゲット範囲Rを広くとることができ、第2曲げ部17の外側面17bの面積が大きくなって加熱し易くなり、溶接が容易になる。また、第2曲げ部17が長いことにより、第2端部23の端面23aが、第2曲げ部17の内側面17aから外れにくくなる。このため、溶接時において、鏡板10と胴体20とが径方向にずれにくくなる。さらに、第2曲げ部17が長いことにより、溶接時に溶融する金属量を増やすことができるため、溶加材を使用することなく、溶接の品質を安定させやすくなる。
【0035】
また、本実施の形態において、端面23aが第1曲げ部15および第2曲げ部17の内側面15a、17aに対して共に線接触し易いため、端面23aを介して、第1端部13から第2端部23に熱が伝わり易い。このため、フレア曲げ部25を溶融させやすく、溶接の品質が安定し易くなる。特に、本実施の形態において、端面23aは、トーチW2によって加熱される第2曲げ部17の外側面17bの反対側の面である内側面17aに接触する。これにより、トーチW2から外側面17bに加えられた熱は、内側面17aおよび端面23aを介して速やかに第2端部23に伝わるため、フレア曲げ部25をより溶融させやすくなる。
【0036】
さらに、本実施の形態において、第2曲げ部17は第1面部11に沿って延びる略円筒形状であるため、第2曲げ部17の径方向外側に位置するトーチW2は、外側面17bを加熱し易い。また、第2曲げ部17が第1面部11に沿い、径方向外側方向DOに対して略直交するため、端面23aが径方向外側にずれようとした場合に、第2曲げ部17の内側面17aによって端面23aの移動を規制し易い。
【0037】
トーチW2がターゲット範囲Rである全周分の外側面17bおよび第2角部16に対してアーク放電を行うことで、図3のように、第1端部13と第2端部23とはビード30を介して全周に渡って接合される。これにより、溶接工程が完了し、缶体1の製造が完了する。
【0038】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、溶接方法は、鏡板10と胴体20とを接合する溶接方法であって、鏡板10は、円筒形状の第1面部11と、第1面部11の端部である第1端部13と、を有し、胴体20は、円筒形状の第2面部21と、第2面部21の端部である第2端部23と、を有し、第1端部13は、第1面部11の径方向外側に向けて鋭角に立ち上がる第1曲げ部15と、第1曲げ部15よりも第1端部13の先端13a側において第1曲げ部15と反対方向に曲がる第2曲げ部17と、を有し、第2端部23は、第2面部21の径方向外側に向けて鈍角に立ち上がるフレア曲げ部25を有し、第1曲げ部15と第2曲げ部17と間の曲がりの内側において、第1曲げ部15および第2曲げ部17と、フレア曲げ部25の先端に位置する端面23aと、を互いに接触させた状態で、第2曲げ部17の径方向外側から加熱し、第1端部13と第2端部23とを溶接する。
この構成によれば、端面23aが第1曲げ部15および第2曲げ部17に接触することにより、フレア曲げ部25は径方向の移動を規制される。このため、溶接時において鏡板10と胴体20とがずれにくくなる。また、溶接時には、端面23aが第1曲げ部15および第2曲げ部17に接した状態で、径方向外側から第2曲げ部17が加熱される。このため、第2曲げ部17に加えられた熱は端面23aを介してフレア曲げ部25に伝わりやすく、溶接の品質が安定し易くなる。
【0039】
また、本実施の形態のように、溶接方法は、鏡板10と胴体20とを第1面部11の軸AXに沿って互いに押圧しながら、第1端部13と第2端部23とを溶接する、構成としてもよい。
この構成によれば、端面23aは第1曲げ部15および第2曲げ部17に接触し易くなり、径方向の移動を規制され易くなる。このため、溶接時において鏡板10と胴体20とがよりずれにくくなる。また、端面23aは第1曲げ部15および第2曲げ部17に接触し易くなるため、端面23aを介して第2曲げ部17からフレア曲げ部25に伝熱され易くなり、溶接の品質が安定し易くなる。
【0040】
また、本実施の形態のように、溶接方法において、フレア曲げ部25は、第2端部23が第1曲げ部15に接した状態で、鏡板10と胴体20とが第1面部11の軸AXに沿って互いに押圧されることによって形成される、構成としてもよい。
この構成によれば、フレア曲げ部25を形成する工程と溶接とを連続して行うことができ、溶接の生産性が向上する。
【0041】
また、本実施の形態のように、第2曲げ部17と第1曲げ部15との間の第2角部16の内側面16aの曲率半径は、第2端部の厚みである板厚T2以下である、構成としてもよい。
この構成によれば、フレア曲げ部25の端面23aは第1曲げ部15および第2曲げ部17に線接触し易くなる。
【0042】
また、本実施の形態のように、第1曲げ部15と第2曲げ部17との間の曲げ角度A2は、第1面部11と第1曲げ部15との間の曲げ角度A1と同等である、構成としてもよい。
この構成によれば、第2曲げ部17は、径方向と略直交するように延びるため、端面23aの径方向外側に向けての移動を規制し易くなる。このため、溶接時において鏡板10と胴体20とがずれることを抑制しやすい。また、第2曲げ部17は径方向外側から加熱されるため、径方向と略直交する方向に延びることにより、第2曲げ部17の加熱が容易になる。
【0043】
また、本実施の形態のように、第1面部11の軸AXに沿った方向における第2曲げ部17の寸法である長さLは、第2端部23の厚みである板厚T2の2倍以上である、構成としてもよい。
この構成によれば、第2曲げ部17の長さLが、第2端部23の板厚T2の2倍以上であることにより、第2曲げ部17は、内側面17aによって端面23aを径方向外側から押さえやすくなる。このため、溶接時において、鏡板10と胴体20とがずれにくくなる。また、第2曲げ部17は径方向外側から加熱されるため、径方向に交わる軸AXに沿った寸法を大きく設定することにより、第2曲げ部17を加熱し易くなる。さらに、第2曲げ部17の寸法が大きくなることにより、溶接時に溶融する金属量が増加するため、溶加材を用いることなく、溶接の品質を安定させ易くなる。
【0044】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0045】
実施の形態1の缶体の製造方法において、第1曲げ部15および第2曲げ部17が形成された第1端部13を有する板材は鏡板10であり、フレア曲げ部25および平坦な端面23aを有する板材は胴体20であると説明したが、これは一例である。たとえば、胴体20に第1曲げ部および第2曲げ部が形成され、鏡板10にフレア曲げ部および平坦な端面が形成される構成としてもよい。
【0046】
すなわち、缶体の製造方法は、鏡板10と、円筒形状の胴体20と、を溶接して缶体1を製造する缶体の製造方法であって、鏡板10として、第1曲げ部15と第2曲げ部17とが形成された第1板材、および、フレア曲げ部25が形成された第2板材のうち、一方の板材を用い、胴体20として、第1板材および第2板材のうち、一方の板材と異なる他方の板材を用い、上記実施の形態に記載の溶接方法を用いて鏡板と胴体とを溶接する。
この構成によれば、缶体1の製造時において、鏡板10と胴体20との溶接時に、第1端部13と第2端部23との位置ずれを抑制でき、また、溶接の品質を安定させやすくなる。
【0047】
実施の形態1では、第1面部11の内径D1と第2面部21の内径D2とは同等であると説明したが、これは一例である。例えば、内径D2は内径D1よりも大きく、フレア曲げ部25が形成される前の時点で、端面23aは第1面部11よりも径方向外側に位置する構成としてもよい。この場合、端面23aは第1角部14の外側面14aに接触せずに第1曲げ部15の内側面15aに接触するため、端面23aは内側面15aに沿って径方向外側に案内され易くなる。このため、フレア曲げ部25の形成がより容易になる。なお、フレア曲げ部25の形成前の時点で第2端部23を拡管することによっても、フレア曲げ部25を形成し易くすることができる。
【0048】
実施の形態1では、鏡板10および胴体20はステンレス鋼であると説明したが、これは一例である。鏡板10および胴体20は、それぞれステンレス鋼以外の金属であってもよい。また、鏡板10および胴体20は互いに異なる種類の金属であってもよい。
【0049】
実施の形態1では、溶接装置Wは、タッチセンサによって第1端部13の先端13aの位置を検出すると説明したが、これは一例である。例えば、溶接装置Wは、タッチセンサの代わりに、視覚センサ又はレーザ変位センサ等の光学式センサ等の非接触式センサによって先端13aの位置を検出してもよい。
【0050】
また、実施の形態1に記載の溶接方法において、溶加棒又は溶加ワイヤなどの溶加材をアーク雰囲気中に差し入れつつ溶接を行ってもよい。
【0051】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【0052】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上記実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0053】
(付記)
(技術1)第1板材と第2板材とを接合する溶接方法であって、前記第1板材は、円筒形状の第1面部と、前記第1面部の端部である第1端部と、を有し、前記第2板材は、円筒形状の第2面部と、前記第2面部の端部である第2端部と、を有し、前記第1端部は、前記第1面部の径方向外側に向けて鋭角に立ち上がる第1曲げ部と、前記第1曲げ部よりも前記第1端部の先端側において前記第1曲げ部と反対方向に曲がる第2曲げ部と、を有し、前記第2端部は、前記第2面部の径方向外側に向けて鈍角に立ち上がるフレア曲げ部を有し、前記第1曲げ部と前記第2曲げ部と間の曲がりの内側において、前記第1曲げ部および前記第2曲げ部と、前記フレア曲げ部と、を互いに接触させた状態で、前記第2曲げ部の径方向外側から加熱し、前記第1端部と前記第2端部とを溶接する、溶接方法。
これにより、フレア曲げ部が第1曲げ部および第2曲げ部に接触して、径方向の移動を規制される。このため、溶接時において第1板材と第2板材とがずれにくくなる。また、溶接時には、フレア曲げ部が第1曲げ部および第2曲げ部に接した状態で、径方向外側から第2曲げ部が加熱されるため、第2曲げ部に加えられた熱はフレア曲げ部に伝わりやすくなる。このため、溶接の品質が安定し易くなる。
【0054】
(技術2)前記第1板材と前記第2板材とを前記第1面部の軸に沿って互いに押圧しながら、前記第1端部と前記第2端部とを溶接する、技術1に記載の溶接方法。
これにより、フレア曲げ部は第1曲げ部および第2曲げ部に接触し易くなり、径方向の移動を規制され易くなる。このため、溶接時において第1板材と第2板材とがよりずれにくくなる。また、フレア曲げ部は第1曲げ部および第2曲げ部に接触し易くなるため、第2曲げ部からフレア曲げ部に伝熱され易くなり、溶接の品質が安定し易くなる。
【0055】
(技術3)前記フレア曲げ部は、前記第2端部が前記第1曲げ部に接した状態で、前記第1板材と前記第2板材とが前記第1面部の軸に沿って互いに押圧されることによって形成される、技術1または2に記載の溶接方法。
これにより、フレア曲げ部を形成する工程と溶接とを連続して行うことができ、溶接の生産性が向上する。
【0056】
(技術4)前記第2曲げ部と前記第1曲げ部との間の曲率半径は、前記第2端部の厚み以下である、技術1から3のいずれかに記載の溶接方法。
これにより、フレア曲げ部は第1曲げ部および第2曲げ部に線接触し易くなる。
【0057】
(技術5)前記第1曲げ部と前記第2曲げ部との間の曲げ角度は、前記第1面部と第1曲げ部との間の曲げ角度と同等である、技術1から4のいずれかに記載の溶接方法。
第2曲げ部は、径方向と略直交するように延びるため、フレア曲げ部の径方向外側に向けての移動を規制し易くなる。このため、溶接時において第1板材と第2板材とがずれることを抑制しやすい。また、第2曲げ部は径方向外側から加熱されるため、径方向と略直交する方向に延びることにより、第2曲げ部17の加熱が容易になる。
【0058】
(技術6)前記第1面部の軸に沿った方向における前記第2曲げ部の寸法は、前記第2端部の厚みの2倍以上である、技術1から5のいずれかに記載の溶接方法。
これにより、軸に沿った第2曲げ部17の寸法が、第2端部の厚みの2倍以上であることにより、第2曲げ部は、フレア曲げ部を径方向外側から押さえやすくなる。このため、溶接時において、第1板材と第2板材とがずれにくくなる。また、第2曲げ部は径方向外側から加熱されるため、径方向に交わる軸に沿った寸法を大きく設定することにより、第2曲げ部を加熱し易くなる。さらに、第2曲げ部の寸法が大きくなることにより、溶接時に溶融する金属量が増加するため、溶接の品質を安定させ易くなる。
【0059】
(技術7)鏡板と、円筒形状の胴体と、を溶接して缶体を製造する缶体の製造方法であって、前記鏡板として、前記第1板材および前記第2板材のうち、一方の板材を用い、前記胴体として、前記第1板材および前記第2板材のうち、前記一方の板材と異なる他方の板材を用い、技術1から6のいずれかに記載の溶接方法を用いて前記鏡板と前記胴体とを溶接する、缶体の製造方法。
これにより、缶体の製造時において、鏡板と胴体との溶接時に、鏡板と胴体との位置ずれを抑制できる。また、溶接の品質を安定させやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示は、板材同士の溶接方法に適用可能である。特に、貯湯タンク等の胴体と鏡板とを有する容器の製造のための溶接方法に対して、本開示は好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 缶体
10 鏡板
11 第1面部
13 第1端部
13a 先端
14 第1角部
14a 外側面
15 第1曲げ部
15a 内側面
16 第2角部
16a 内側面
17 第2曲げ部
17a 内側面
17b 外側面
19 ドーム部
20 胴体
21 第2面部
23 第2端部
23a 端面
25 フレア曲げ部
30 ビード
W 溶接装置
W1 クランプ
W2 トーチ
W3 治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7