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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】情報処理方法、プログラム、通信装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/374 20210101AFI20241018BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20241018BHJP
【FI】
A61B5/374
A61B5/256 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024547830
(86)(22)【出願日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2023003626
【審査請求日】2024-08-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515059979
【氏名又は名称】VIE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】今村 泰彦
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507992(JP,A)
【文献】特開2018-68511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置が実行する情報処理方法であって、
生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得すること、
生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得すること、
前記第1生体信号及び前記第2生体信号を所定時間ごとに分割すること、
前記所定時間ごとの前記第1生体信号と前記第2生体信号とに周波数変換を行うこと、
分割された所定区間の第1生体信号の周波数変換後の第1パワースペクトルを含む第1特徴データと、前記所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた前記所定時間の第2生体信号の周波数変換後の第2パワースペクトルを含む第2特徴データとの類似性を判定すること、
前記類似性に基づいて、前記第1生体信号と前記第2生体信号とを同期させる同期処理を行うこと、を実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記周波数変換後に所定の周波数帯域を抽出することをさらに実行し、
前記判定することは、
前記所定の周波数帯域の第1パワースペクトルと第2パワースペクトルとを用いて前記類似性を判定することを含む、請求項に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記第1パワースペクトルに基づく第1エンベロープと、前記第2パワースペクトルに基づく第2エンベロープとを算出することをさらに実行し、
前記判定することは、
前記第1特徴データに含まれる前記第1エンベロープと、前記第2特徴データに含まれる前記第2エンベロープとの類似性を判定することを含む、請求項に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記判定することは、
前記第1特徴データと前記第2特徴データとの相関値を算出することを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記同期させることは、
前記所定区間の同期処理に用いた補正値を、他の区間に適用して同期処理を行うことを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項6】
同期処理後の第1生体信号と第2生体信号とを用いて差分信号を生成することをさらに実行する、請求項1からのいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
通信装置に
生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得する第1取得ステップと、
生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得する第2取得ステップと、
前記第1生体信号及び前記第2生体信号を所定時間ごとに分割する分割ステップと、
前記所定時間ごとの前記第1生体信号と前記第2生体信号とに周波数変換を行うステップと、
分割された所定区間の第1生体信号の周波数変換後の第1パワースペクトルを含む第1特徴データと、前記所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた前記所定時間の第2生体信号の周波数変換後の第2パワースペクトルを含む第2特徴データとの類似性を判定する判定ステップと、
前記類似性に基づいて、前記第1生体信号と前記第2生体信号とを同期させる同期ステップと、を実行させるプログラム。
【請求項8】
生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得する第1取得部と、
生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得する第2取得部と、
前記第1生体信号及び前記第2生体信号を所定時間ごとに分割する分割部と、
前記所定時間ごとの前記第1生体信号と前記第2生体信号とに周波数変換を行う周波数変換部と、
分割された所定区間の第1生体信号の周波数変換後の第1パワースペクトルを含む第1特徴データと、前記所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた前記所定時間の第2生体信号の周波数変換後の第2パワースペクトルを含む第2特徴データとの類似性を判定する判定部と、
前記類似性に基づいて、前記第1生体信号と前記第2生体信号とを同期させる同期部と、を備える通信装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、プログラム、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体センサを備えるワイヤレスイヤホンが知られている。例えば、特許文献1には、左右の耳に装着するワイヤレスイヤホンが、センサにより取得された生体信号をクレードルに送信する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-195179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載された技術においては、ワイヤレスイヤホンが生体信号をクレードルに伝送する場合、クレードルは、左右それぞれの生体信号を別々に処理したり表示したりする。しかしながら、従来技術では、左右それぞれの生体信号を別々に処理するため問題にならないが、左右のワイヤレスイヤホンから生体信号を無線通信することを考えた場合、通信遅延等により、受信側の通信装置が左右の生体信号を受信するタイミングに誤差が生じてしまうおそれがあった。この場合、左右の生体信号に基づくデータを処理する場合に、適切に処理することができないという問題があった。
【0005】
開示技術は、このような事情に鑑みてなされたものであり、通信端末がワイヤレスイヤホンから受信した左右の生体信号を適切に同期できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示技術の一態様である情報処理方法は、通信装置が実行する情報処理方法であって、生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得すること、生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得すること、第1生体信号及び第2生体信号を所定時間ごとに分割すること、分割された所定区間の第1生体信号に基づく第1特徴データと、所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号に基づく第2特徴データとの類似性を判定すること、類似性に基づいて、第1生体信号と第2生体信号とを同期させる同期処理を行うこと、を実行する。
【0007】
本開示の他の態様に係るプログラムは、生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得する第1取得ステップと、生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得する第2取得ステップと、第1生体信号及び第2生体信号を所定時間ごとに分割する分割ステップと、分割された所定区間の第1生体信号に基づく第1特徴データと、所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号に基づく第2特徴データとの類似性を判定する判定ステップと、類似性に基づいて、第1生体信号と第2生体信号とを同期させる同期ステップを含む。
【0008】
本開示の他の態様に係る通信装置は、生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得する第1取得部と、生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得する第2取得部と、第1生体信号及び第2生体信号を所定時間ごとに分割する分割部と、分割された所定区間の第1生体信号に基づく第1特徴データと、所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号に基づく第2特徴データとの類似性を判定する判定部と、類似性に基づいて、第1生体信号と第2生体信号とを同期させる同期部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通信端末がワイヤレスイヤホンから受信した左右の生体信号を適切に同期させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の概要を説明するための図である。
図2】本実施形態に係るイヤーピースの構成を示すブロック図である。
図3】本実施形態に係るイヤーピースの外形を示す図である。
図4】本実施形態に係るイヤーピースのIV-IV断面を示す断面図である。
図5】本実施形態に係る通信端末の構成を示すブロック図である。
図6】被験者Aのα波の変動を示す図である。
図7】被験者が両目を閉じている所定の4秒間のパワースペクトル密度を表した図である。
図8図6に示すEP-L、EP-R、及び、EP-DiffとPM-T7、PM-Cz、及び、PM-T8の相関係数のマトリックスを表した図である。
図9】同期部による同期処理前の第1生体信号及び第2生体信号の例を示した図である。
図10】判定部が、第1エンベロープと第2エンベロープとの類似性を判定する例を示す図である。
図11】同期部による同期処理の例を示す図である。
図12】実施形態に係る通信端末Mの処理の一例を示すフローチャートである。
図13】本実施形態に係る特徴データ抽出部の処理に関するフローチャートである。
図14】本実施形態に係るハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
図1を参照しながら、本実施形態の概要を説明する。本実施形態に係るイヤホン2は、第1イヤーピース2Rと、第2イヤーピース2Lとを備える。第1イヤーピース2Rは、使用者Hの片方の耳に装着される。第2イヤーピース2Lは、使用者Hのもう一方の耳に装着される。第1イヤーピース2Rおよび第2イヤーピース2Lは、スマートフォンと通信可能なように構成されている。スマートフォンは通信端末Mの一例である。
【0013】
<イヤーピースの構成>
続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係るイヤホン2の構成要素について説明する。イヤホン2は、第1イヤーピース2Rと、第2イヤーピース2Lとを備える。第1イヤーピース2Rは、構成要素として、メインセンサ271(第1センサ)、リファレンスセンサ272(第3センサ)、グランドセンサ273(第5センサ)、第1A/D変換部274、および第1送信部275を備えている。
【0014】
メインセンサ271は、使用者Hの第1生体情報を電気信号として取得可能な位置に設けられる。メインセンサ271の配置位置については後述する。メインセンサ271は、センシングした第1生体情報を第1A/D変換部274に出力する。
【0015】
リファレンスセンサ272は、使用者Hの第3生体情報を電気信号として取得可能な位置に設けられる。リファレンスセンサ272の配置位置については後述する。リファレンスセンサ272は、センシングした第3生体情報を第1A/D変換部274に出力する。
【0016】
第1生体情報及び第3生体情報は、例えば、使用者Hの脳波に関する情報である。一般的に、脳波には、α波(8~13Hz)、β波(14~25 Hz)、θ波(4~7Hz)、δ波(1~3 Hz)、及び、γ波(30Hz以上)等の複数の周波数帯域の種類を含む。したがって、第1生体情報及び第3生体情報は、複数の周波数帯域の脳波を含んでもよい。
【0017】
グランドセンサ273は、接地電位情報を電気信号として取得するセンサである。グランドセンサ273の配置位置については後述する。グランドセンサ273は、センシングした接地電位情報を第1A/D変換部274に出力する。
【0018】
第1A/D変換部274は、各情報をアナログ情報からデジタル情報へ変換する。また、第1A/D変換部274は、変換した各情報を第1送信部275に出力する。
【0019】
第1送信部275は、第1A/D変換部274から取得した、メインセンサ271から出力される第1生体情報およびリファレンスセンサ272から出力される第3生体情報を、通信端末Mに送信する。また、第1送信部275は、第1A/D変換部274から取得した、グランドセンサ273から出力される接地電位情報を、通信端末Mに送信してもよい。なお、第1送信部275は、第1A/D変換部274から取得した、メインセンサ271から出力される第1生体情報とグランドセンサ273から出力される接地電位情報との差分である第1差分情報を生成し、通信端末Mに送信してもよい。同様に、第1送信部275は、第1A/D変換部274から取得した、リファレンスセンサ272から出力される第3生体情報とグランドセンサ273から出力される接地電位情報との差分である第3差分情報を生成し、通信端末Mに送信してもよい。
【0020】
上述した例において、第1送信部275は、第1生体情報または第1差分情報を第1チャンネルで通信端末Mに送信する。また、第1送信部275は、第3生体情報または第3差分情報を第3チャンネルで通信端末Mに送信する。なお、第3チャンネルは、第1チャンネルと同じチャンネルでも異なるチャンネルでもよい。また、上述した各生体情報又は接地電位情報は、第1A/D変換部274によりサンプリングされた情報を含む。
【0021】
第2イヤーピース2Lは、構成要素として、メインセンサ281(第2センサ)、リファレンスセンサ282(第4センサ)、グランドセンサ283(第6センサ)、第2A/D変換部284および第2送信部285を備えている。
【0022】
メインセンサ281は、使用者Hの第2生体情報を電気信号として取得可能な位置に設けられる。メインセンサ281の配置位置については後述する。メインセンサ281は、センシングした第2生体情報を第2A/D変換部284に出力する。
【0023】
リファレンスセンサ282は、使用者Hの第4生体情報を電気信号として取得可能な位置に設けられる。リファレンスセンサ282の配置位置については後述する。リファレンスセンサ282は、センシングした第4生体情報を第2A/D変換部284に出力する。
【0024】
第2生体情報及び第4生体情報は、例えば、使用者Hの脳波に関する情報である。第2生体情報及び第4生体情報は、第1生体情報及び第3生体情報と同様に、複数の周波数帯域の脳波を含んでもよい。
【0025】
グランドセンサ283は、接地電位情報を電気信号として取得するセンサである。グランドセンサ283の配置位置については後述する。グランドセンサ283は、センシングした接地電位情報を第2A/D変換部284に出力する。
【0026】
第2A/D変換部284は、各情報をアナログ情報からデジタル情報へ変換する。また、第2A/D変換部284は、変換した各情報を第2送信部285に出力する。
【0027】
第2送信部285は、第2A/D変換部284から取得した、メインセンサ281から出力される第2生体情報およびリファレンスセンサ282から出力される第4生体情報を、通信端末Mに送信する。また、第2送信部285は、第2A/D変換部284から取得した、グランドセンサ283から出力される接地電位情報を、通信端末Mに送信してもよい。なお、第2送信部285は、第2A/D変換部284から取得した、メインセンサ281から出力される第2生体情報とグランドセンサ283から出力される接地電位情報との差分である第2差分情報を生成し、通信端末Mに送信してもよい。同様に、第2送信部285は、第2A/D変換部284から取得した、リファレンスセンサ282から出力される第4生体情報とグランドセンサ283から出力される接地電位情報との差分である第4差分情報を生成し、通信端末Mに送信してもよい。
【0028】
上述した例において、第2送信部285は、第2生体情報または第2差分情報を第2チャンネルで通信端末Mに送信する。また、第2送信部285は、第4生体情報または第4差分情報を第4チャンネルで通信端末Mに送信する。なお、第4チャンネルは、第2チャンネルと同じチャンネルでも異なるチャンネルでもよい。また、上述した各生体情報又は接地電位情報は、第2A/D変換部284によりサンプリングされた情報を含む。
【0029】
続いて、図3および図4を参照しながら、イヤーピースの外観形状および各センサの配置態様の一例について説明する。図3は、イヤーピースの外形を示す図であり、図4は、イヤーピースのIV-IV断面を示す断面図である。第1イヤーピース2Rと第2イヤーピース2Lとは、左右の耳に入れるのに適した形態が異なるのみで基本的な構造は共通しているので、第1イヤーピース2Rを例にとって説明する。
【0030】
第1イヤーピース2Rは、ハウジング21、イヤーチップ22およびウイング23を備えている。ハウジング21は、内部に空洞を有する部材であり、この空洞部分には、スピーカ24およびバッテリ25が収容されている。また、イヤーチップ22は、ハウジング21から突出したノズル26に取り付けられている。
【0031】
ノズル26は、筒状部材の一端にフランジを形成したような形状を有している。具体的には、ノズル26は、第1イヤーピース2Rの装着時に着用者の外耳道に位置付けられる筒状部31と、ハウジング21に固定されたフランジ部32と、第1方向Xに筒状部31及びフランジ部32のそれぞれの内部をつなぐ音導部33と、を有している。
【0032】
筒状部31は、ハウジング21から突出するように第1方向Xに延在しており、筒状部31の先端側には、イヤーチップ22を着脱可能に係止するための係止突起35が形成されている。フランジ部32は、筒状部31の基端側に形成されている。音導部33は、スピーカ24からの音が通る通路として機能する。このようなノズル26は、剛体として形成されている。この特性を有する限り、ノズル26を形成する材料は限定されるものではないが、一例としては、硬質のABS樹脂を挙げることができる。
【0033】
ハウジング21は、ノズル26のフランジ部32を固定したノズル固定部40と、ノズル固定部40からノズル26とは反対側に延びて且つノズル固定部40よりも拡張した拡張部42と、を備えている。ノズル固定部40は、ノズル26の筒状部31を挿通させる開口50と、ノズル26のフランジ部32に当接して開口50からのノズル26の抜け落ちを規制する規制部52と、規制部52と拡張部42との間をつなぐ部分であってフランジ部32を囲う囲繞部54と、を有している。ノズル固定部40におけるノズル26の固定は、例えば、フランジ部32を囲繞部54に嵌め込むことで行うこともできるし、フランジ部32を規制部52又は囲繞部54に接着することで行うこともできる。
【0034】
拡張部42は、全体として、ノズル固定部40から離れるにつれて徐々に拡張するように形成されている。拡張部42の内部には、ノズル26側にスピーカ24が収容されていると共に、このスピーカ24の収容部分よりも拡大したところにバッテリ25が収容されている。また、拡張部42は、拡張が終了する端部42aに配線用の開口60を有している。この開口60を通じて、スピーカ24及びバッテリ25が基板70に配線接続されている。また、開口60は、第1イヤーピース2Rの組み立ての際にスピーカ24及びバッテリ25をハウジング21内に入れるのにも使われる。
【0035】
拡張部42は、拡張が終了する端面42bが平坦面に形成されている。端面42bには、基板70を固定したプレート72が載置されていると共に、基板70及びプレート72を覆うカバー74が取り付けられている。基板70には、無線通信を行うためのアンテナが設けられている。アンテナは、例えば、Bluetooth(登録商標)などの無線通信の規格に対応している。したがって、第1イヤーピース2Rは、ワイヤレスのイヤホンとして構成されており、モバイル端末、ラップトップなどの機器と無線で接続され、これら機器と音などのデータを通信する。基板70には、第1A/D変換部274及び第1送信部275が設けられている。
【0036】
ウイング23は、カバー74の周面に嵌め込まれる環状の取付け部80と、取付け部80から突出した耳当て部82と、を備えている。耳当て部82は、取付け部80から略U字状にイヤーチップ22側に向けて突出している。耳当て部82は、主として、第1イヤーピース2Rの装着時に着用者の外耳に引っ掛かるように機能し、第1イヤーピース2Rが着用者の耳甲介から落ちないようにサポートする。ウイング23は、ハウジング21と同様に、弾性及び柔軟性を有する材料で形成することができる。
【0037】
イヤーチップ22は、導電性を有する第1部材22Aと、第2部材22Bとにより形成されている。例えば、第1部材22Aと第2部材22Bとは異なる素材により形成され、それぞれ着脱可能である。なお、第1部材22Aの形状は、図3,4に示す例に限られず、装着者の外耳道の内壁に接触する部分があり、この接触部分が外耳道に適切に接するような構成であればよい。また、この接触部分の表面積は大きい方が好ましい。
【0038】
イヤーチップ22は、鼓膜側に位置する第1部材22Aと、ハウジング21側に位置する第2部材22Bとを含む。第1部材22Aは、例えば、導電性ゴムにより作成され、この導電性ゴムには、銀又は塩化銀が含有される。好ましくは、適切な導電性を確保するため、銀又は塩化銀を、導電性ゴムに含まれる導電性物質の所定質量%以上を含有させる。
【0039】
第1部材22Aは、金属系フィラーを含むシリコン素材で形成されてもよい。例えば、第1部材22Aは、金属系フィラーとして、銀、銅、金、アルミニウム、亜鉛、ニッケル等をシリコン素材に適切に配合することで導電性の高い素材を作成することができる。また、含有されるフィラーの全てを銀又は塩化銀にする必要はなく、フィラーの一部が銀又は塩化銀であればよい。これにより、銀又は塩化銀の含有率を減らせるため、ゴムの硬度を下げて、適度な硬度の導電性ゴムを作成することができる。
【0040】
第2部材22Bは、安価な非導電性の弾性体(例えばシリコンゴムなど)で形成されることが好ましい。
【0041】
ハウジング21は、例えば、導電性ゴムにより作成され、この導電性ゴムには、銀又は塩化銀が含有される。好ましくは、適切な導電性を確保するため、銀又は塩化銀を、導電性ゴムに含まれる導電性物質の所定質量%以上を含有させる。
【0042】
ハウジング21は、金属系フィラーを含むシリコン素材で形成されてもよい。例えば、第1部材22Aは、金属系フィラーとして、銀、銅、金、アルミニウム、亜鉛、ニッケル等をシリコン素材に適切に配合することで導電性の高い素材を作成することができる。また、含有されるフィラーの全てを銀又は塩化銀にする必要はなく、フィラーの一部が銀又は塩化銀であればよい。これにより、銀又は塩化銀の含有率を減らせるため、ゴムの硬度を下げて、適度な硬度の導電性ゴムを作成することができる。
【0043】
耳当て部82は、例えば、導電性ゴムにより作成され、この導電性ゴムには、銀又は塩化銀が含有される。好ましくは、適切な導電性を確保するため、銀又は塩化銀を、導電性ゴムに含まれる導電性物質の所定質量%以上を含有させる。
【0044】
耳当て部82は、金属系フィラーを含むシリコン素材で形成されてもよい。例えば、第1部材22Aは、金属系フィラーとして、銀、銅、金、アルミニウム、亜鉛、ニッケル等をシリコン素材に適切に配合することで導電性の高い素材を作成することができる。また、含有されるフィラーの全てを銀又は塩化銀にする必要はなく、フィラーの一部が銀又は塩化銀であればよい。これにより、銀又は塩化銀の含有率を減らせるため、ゴムの硬度を下げて、適度な硬度の導電性ゴムを作成することができる。
【0045】
上記のように構成することで、イヤーチップ22の第1部材22A、ハウジング21、および耳当て部82は、導電性を有する。本実施形態に示す例では、第1部材22Aをメインセンサ271として使用し、ハウジング21は、グランドセンサ273として使用し、耳当て部82は、リファレンスセンサ272として使用しているが、この例に限られない。また、ハウジング21の導電性の素材と、第1部材22Aの導電性の素材と、耳当て部82の導電性の素材とは、それぞれ同じでもよいし、異なってもよい。また、第1部材22Aの導電性を、ハウジング21及び耳当て部82の導電性よりも高くしてもよい。なお、上述したイヤーピースは、本開示技術の一例を示すものであり、生体情報を取得可能であり、独立して通信可能な少なくとも2つの生体情報測定装置であれば、本開示技術に適用可能である。
【0046】
図5は、本実施形態に係る通信端末Mの構成を示すブロック図である。通信端末Mは、情報処理部251、及び、記憶部261を含んで構成される。
【0047】
情報処理部251は、例として、第1取得部252、第2取得部253、分割部254、特徴データ抽出部255、判定部259、及び、同期部260を含んで構成される。
【0048】
記憶部261は、例として、第1生体信号262、第2生体信号263、第1特徴データ264、第2特徴データ265、及び、補正値266を記憶する。記憶部261は、図13に示すメモリ330に対応する。
【0049】
第1生体信号262は、第1イヤーピース2Rから取得する使用者Hの生体信号である。例えば、第1生体信号262は、第1生体情報、第3生体情報、接地電位情報、第1差分情報、及び、第3差分情報の少なくとも1つを含む。
【0050】
第2生体信号263は、第2イヤーピース2Lから取得する使用者Hの生体信号である。例えば、第2生体信号263は、第2生体情報、第4生体情報、接地電位情報、第2差分情報、及び、第4差分情報の少なくとも1つを含む。
【0051】
第1特徴データ264は、第1生体信号262に関する特徴データである。第1特徴データ264は、例えば、第1生体信号262の時間成分の特徴データ、又は周波数成分の特徴データを含む。後述するように、第1特徴データ264は、第1生体信号262のピーク値、第1生体信号262の周波数変換後の第1パワースペクトル、所定の周波数帯域の第1パワースペクトル、及び、第1パワースペクトルに基づく第1エンベロープなどのうち、少なくとも1つを含んでもよい。
【0052】
第2特徴データ265は、第2生体信号263に関する特徴データである。第2特徴データ265は、例えば、第2生体信号263の時間成分の特徴データ、又は周波数成分の特徴データを含む。後述するように、第2特徴データ265は、ピーク値、第2生体信号263の周波数変換後の第2パワースペクトル、所定の周波数帯域の第2パワースペクトル、及び、第2パワースペクトルに基づく第2エンベロープなどのうち、少なくとも1つを含んでもよい。
【0053】
補正値266は、第1生体信号262と第2生体信号263を同期させる際に用いられる補正値である。補正値266は、少なくとも一方の生体信号をシフトさせるのに用いられるシフト値を含み、その詳細は後述する。
【0054】
第1取得部252は、第1イヤーピース2Rから第1生体信号262を取得する。例えば、第1取得部252は、Bluetooth(登録商標)による通信によって、通信端末Mから第1生体信号262を取得する。Bluetooth(登録商標)による通信は、図14に示すネットワーク通信インタフェース320によって実現される。
【0055】
第2取得部253は、第2イヤーピース2Lから第2生体信号263を取得する。例えば、第2取得部253は、Bluetooth(登録商標)による通信によって、通信端末Mから第2生体信号263を取得する。
【0056】
分割部254は、第1取得部252又は第2取得部253が順に取得する生体信号を、所定時間ごとに分割する。例えば、所定時間を10秒とする場合、分割部254は、第1取得部252又は第2取得部253が順に取得する生体信号を10秒ごとに分割する。なお、分割する所定時間の間隔は任意に設定可能である。
【0057】
判定部259は、分割された所定時間(所定区間ともいう)の第1生体信号262に基づく第1特徴データ264と、所定区間の第1特徴データを基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号263に基づく第2特徴データ265との類似性を判定する。判定部259の処理の一例は、図9及び図10を用いた後述の説明で示す。シフトについては、例えば、-2秒から+2秒まで設定時間ずつ所定区間をずらす。
【0058】
同期部260は、判定部259により判定された第1特徴データ264と第2特徴データ265との類似性に基づいて、第1生体信号262と第2生体信号263とを同期させる。例えば、同期部260は、判定部259により判定された類似性の指標の一つである相関値が一番高くなる時点より求められる第1生体信号262と第2生体信号263との時間的なズレ量(補正値)を用いて、一方の生体信号を補正値だけ時間的にシフトさせ、第1生体信号262と第2生体信号263とを同期させる。以上により、通信端末Mがイヤーピースから受信した左右の生体信号を適切に同期させることができる。
【0059】
通信端末Mは、特徴データ抽出部255を含んでもよい。特徴データ抽出部255は、第1生体信号262及び第2生体信号263それぞれから第1特徴データ264及び第2特徴データ265を抽出する。
【0060】
特徴データ抽出部255は、例えば、周波数変換部256を含んでもよい。周波数変換部256は、第1生体信号262と第2生体信号263とに周波数変換を行う。周波数変換部256は、例えば、α波、β波、θ波、δ波、及び、γ波等の複数の周波数帯域の脳波を含む第1生体信号262及び第2生体信号263に対して、FFT(Fast Fourier Transform)処理、ウェーブレット変換などを適用し、周波数成分(例、パワースペクトル)を算出する。
【0061】
特徴データ抽出部255が、周波数変換部256を含む場合、判定部259は、第1特徴データ264に含まれる第1生体信号262の周波数変換後の第1パワースペクトルと、第2特徴データ265に含まれる第2生体信号263の周波数変換後の第2パワースペクトルとの類似性を判定してもよい。判定部259は、例えば、所定区間分の周波数成分の第1パワースペクトル及び設定時間ずつシフトされた所定区間分の周波数成分の第2パワースペクトルの類似性を判定してもよい。以上により、特徴が出現しやすい周波数成分を特徴データとして用いることで、類似性の判定を容易にすることができる。
【0062】
特徴データ抽出部255は、例えば、周波数帯域抽出部257をさらに含んでもよい。周波数帯域抽出部257は、周波数変換後に所定の周波数帯域を抽出する。好適な例として、周波数帯域抽出部257は、周波数変換部256が算出した周波数成分にバンドパスフィルタを適用して、α波のパワースペクトルを抽出する。
【0063】
特徴データ抽出部255が、周波数帯域抽出部257を含む場合、判定部259は、所定区間分の周波数成分のうち、所定の周波数帯域の第1パワースペクトルと、設定時間ずつシフトされた所定区間分の周波数成分のうち、所定の周波数帯域の第2パワースペクトルとを用いて類似性を判定してもよい。判定部259は、例えば、α波の第1パワースペクトル及びα波の第2パワースペクトルの類似性を判定してもよい。以上により、特徴として利用可能な波状が形成されやすい所定の周波数帯域を設定し、この所定の周波数帯域のパワースペクトルに基づいて類似性を判定することが可能となる。
【0064】
特徴データ抽出部255は、例えば、エンベロープ算出部258をさらに含んでもよい。エンベロープ算出部258は、第1パワースペクトルに基づく第1エンベロープと、第2パワースペクトルに基づく第2エンベロープとを算出する。エンベロープ算出部258は、例えば、複数の周波数帯域の第1パワースペクトル及び第2パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して、第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出してもよい。また、エンベロープ算出部258は、所定の周波数帯域の第1パワースペクトル及び第2パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して、第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出してもよい。好適な例として、エンベロープ算出部258は、α波の第1パワースペクトル及びα波の第2パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して、第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出する。ヒルベルト変換を行うことにより、第1パワースペクトル及び第2パワースペクトルのパワー値の違いによらない第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出することができる。
【0065】
特徴データ抽出部255が、エンベロープ算出部258を含む場合、判定部259は、所定区間分の第1特徴データ264に含まれる第1エンベロープと、設定時間ずつシフトされた所定区間分の第2特徴データ265に含まれる第2エンベロープとの類似性を判定してもよい。例えば、判定部259は、所定区間ごとに、第1エンベロープと、設定時間ごとにシフトされた第2エンベロープとの相関値が一番高くなる時点を判定してもよい。以上により、左右のパワー値の違いによらないエンベロープを特徴データとして用いることで、より適切な類似性の判定を行うことができる。
【0066】
上述した判定部259は、分割された所定区間の第1生体信号に基づく第1特徴データと、第1特徴データの所定区間を基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号に基づく第2特徴データとの類似度を判定してもよい。判定部259は、例えば、分割部254が第1生体信号262及び第2生体信号263を10秒間隔で分割した場合、所定区間の第1生体信号262を基準にして、その区間に対応する10秒間の第2生体信号263を時間的にシフトさせる。判定部259は、所定区間の第1生体信号262の第1特徴データ264と、第2生体信号263を時間的にシフトさせた区間の第2特徴データ265との相関値を算出する。これにより、第1特徴データ264と第2特徴データ265との類似性として、客観的な相関値を用いるため、類似性の判定精度を高めることができ、第1生体信号と第2生体信号との同期処理をより適切にすることができる。
【0067】
上述した判定部259は、第1特徴データ264を示す振幅値と、第2特徴データ265を示す振幅値との類似度を算出してもよい。判定部259は、例えば、所定区間の第1パワースペクトルの振幅値と、設定時間ずつシフトされた所定区間の第2パワースペクトルの振幅値との類似度を算出してもよい。これにより、振幅値を用いて類似度を算出することが可能になるため、類似性の判断を容易にし、かつ処理負荷を軽減させて、第1生体信号262と第2生体信号263との同期処理を行うことができる。
【0068】
ここで、発明者らによって行われた、脳波に含まれるα波を用いて、生体センサを備えたイヤーピースそれぞれから取得される生体信号に対し、本開示技術の同期処理が好適に作用するか否かを確認する実験内容について説明する。
【0069】
<実験の概要>
(被験者)
本実験は、3名の被験者A~Cに対して行われた。まず、本実験について説明する。
【0070】
(取得項目)
株式会社ミユキ技研の脳波計であるPolymate Mini(ポリメイト(登録商標))を用いて、参考値となる被験者の脳波信号が取得される。また、第1イヤーピース2R及び第2イヤーピース2Lと同様のイヤーピースを用いて、被験者の両耳から脳波信号が取得される。
【0071】
(取得方法)
同一の被験者に対し、上述の脳波計により、国際式10/20法による被験者の頭部のT7(左中側頭部)、Cz(正中中心部)、及び、T8(右中側頭部)に電極が装着され、また、上述のイヤーピースが被験者の左右の耳に装着された。被験者は、15秒間ごとに両目の開閉を繰り返し、少なくとも120秒間(開閉を1サイクルとすると、4サイクル)、上述の脳波計及びイヤーピースから脳波信号が取得された。
【0072】
(処理)
脳波計が取得する各脳波信号と左耳のイヤーピースが取得する脳波信号は、第1のパーソナルコンピュータに送信される。右耳のイヤーピースが取得する脳波信号は、第1のパーソナルコンピュータとは異なる第2のパーソナルコンピュータに送信される。第2のパーソナルコンピュータは、右耳のイヤーピースから受信した脳波信号を第1のパーソナルコンピュータに送信する。第1のパーソナルコンピュータは、各脳波信号に対して上述した同期処理を実行する。第1のパーソナルコンピュータは、同期処理後の左耳のイヤーピースが取得する脳波信号と右耳のイヤーピースが取得する脳波信号との差分信号を生成する。また、差分信号と、左右の脳波信号と、脳波計が取得する脳波信号とを含む各脳波信号には、周波数変換及びバンドパスフィルタが適用され、α波のパワースペクトルがそれぞれ抽出される。
【0073】
(評価指標)
本実験では抽出された各脳波信号の類似度を評価する指標として、左耳の脳波信号から得られたα波のパワー、右耳の脳波信号から得られたα波のパワー、及び、左耳の脳波信号と右耳の脳波信号の差分信号のα波のパワーと、脳波計から得られたα波のパワーとのそれぞれの相関係数(相関値)が用いられる。
【0074】
(被験者Aの例)
本実験における被験者Aのデータ例について説明する。図6は、被験者Aのα波のパワーの変動を示す図である。図6は、脳波計及びイヤーピースが取得した各脳波信号に対し、上述の同期処理後の各脳波信号のそれぞれについて、4秒間の時間窓を、0.5秒ずつスライドさせ、各時間窓の脳波信号に周波数変換及びバンドパスフィルタを適用して、α波のパワーを算出して時間順にプロットした図である。例えば、図6に示すパワーは、α波のパワーのピーク値を示す。EP-L、EP-R、及び、EP-Diffのそれぞれは、左耳の脳波信号から得られたα波のパワー、右耳の脳波信号から得られたα波のパワー、左耳の脳波信号と右耳の脳波信号の差分信号のα波のパワーを表している。なお、EP-Diffは、左耳の脳波信号と右耳の脳波信号との同期処理後の差分信号である。PM-T7、PM-Cz、及び、PM-T8のそれぞれは、T7、Cz、及び、T8に装着した脳波計から得られたα波のパワーを表している。
【0075】
図6に示す例では、各脳波信号のα波のパワーも、被験者が両目を開けているときは下降する傾向にあり、両目を閉じているときは上昇する傾向にある様子がわかる。α波は、リラックスした状態で発生するものと言われており、眼を閉じた状態でリラックスすることにより、眼を開けた状態よりもα波がより発生したものと考えられる。これにより、いずれの脳波信号も各デバイスから適切に抽出していると言える。
【0076】
図7は、被験者が両目を閉じている所定の4秒間のパワースペクトル密度を表した図である。図7におけるEP-L、EP-R、及び、EP-Diffのそれぞれは、左耳の脳波信号のパワースペクトル密度、右耳の脳波信号のパワースペクトル密度、左耳の脳波信号と右耳の脳波信号の差分信号のパワースペクトル密度を表している。PM-T7、PM-Cz、及び、PM-T8のそれぞれは、T7、Cz、及び、T8に装着した脳波計から得られた脳波信号のパワースペクトル密度を表している。
【0077】
図7に示す例では、いずれの脳波信号も、8~13Hzの周波数帯域であるα波のパワースペクトル密度について、10Hz付近でピークが形成されている。これにより、脳波計及びイヤーピース共に、被験者の脳状態の特徴(例、α波)が適切に抽出できると言える。また、イヤーピースであっても、脳波計と同様にα波のピーク値を抽出することができると言える。
【0078】
図8は、図6に示すEP-L、EP-R、及び、EP-Diffと、PM-T7、PM-Cz、及び、PM-T8とのそれぞれの相関係数のマトリックスを表した図である。まず、脳波計は頭部の所定位置の頭皮から脳波信号を取得しているのに対して、イヤーピースは耳から脳波信号を取得している。すなわち、それぞれのデバイスでの脳波信号の取得位置が異なる。脳波信号の取得位置の違い、取得デバイスの違いにより、脳波計で取得される脳波信号と、イヤーピースから取得される脳波信号とは、全く同一の波形にはならないという前提で、本実験は行われている。したがって、本実験では、相関係数が0.3以上もあれば、脳波計から取得されるα波のパワー値と、イヤーピースから取得されるα波のパワー値との類似度は高いものとして評価することができる。
【0079】
図8に示す例では、いずれの相関係数も0.3以上であることが示されている。したがって、脳波計から取得されるα波のパワー値とイヤーピースから取得されるα波のパワー値の類似度は高いことがわかる。
【0080】
以上の実験結果により、生体センサを備えたイヤーピースによって、脳波に含まれるα波を適切に取得可能であることがわかる。また、脳波に含まれるα波を用いて、生体センサを備えたイヤーピースそれぞれから取得される生体信号に対し、本開示技術の同期処理が好適に作用することがわかる。
【0081】
<判定及び同期処理の例>
次に、図9~11を参照して、判定部259及び同期部260の処理の例について示す。図9は、同期部260による同期処理前の第1生体信号262及び第2生体信号263の例を示した図である。図9に示す例では、実線Rは、第1イヤーピース2Rから取得した所定の1秒間の脳波信号自体を表し、破線Lは、同じ時間区間の第2イヤーピース2Lから取得した1秒間の脳波信号自体を表している。図9に示す例では、600Hzでサンプリングし、1秒間÷(1/600)=600データポイントのサンプリング値がある。
【0082】
図10は、判定部259が、図9に示す第1生体信号262の第1エンベロープと、第2生体信号263の第2エンベロープとの類似性を判定する例を示す図である。図10に示す例では、判定部259は、第1エンベロープを基準にして、-2.5秒から+2.5秒まで1データポイント(例、1/600秒)ずつシフトさせた1秒間の第2生体信号263の第2エンベロープそれぞれと、第1エンベロープとの相関値を算出し、その相関値の変動を示すグラフを表す。図10に示す例では、第2生体信号263を254データポイント時間的に前にずらすことで、相関値が一番高くなる。
【0083】
図11は、同期部260による同期処理の例を示す図である。図11に示す例では、同期部260は、判定部259が算出した相関値の中で最も高い相関値に合わせて、第2イヤーピース2Lから取得した1秒間の脳波信号を254データポイント分、時間的に前にシフトさせる。これにより、第1イヤーピース2Rから取得した所定の1秒間の脳波信号と、同じ時間区間の第2イヤーピース2Lから取得した1秒間の脳波信号を同期させることができる。
【0084】
<動作処理>
次に、図12及び図13を参照して、実施形態に係る動作について説明する。図12は、実施形態に係る通信端末Mの処理の一例を示すフローチャートである。
【0085】
ステップS11で、第1取得部252は、生体センサを備える第1イヤーピース2Rから第1生体信号262を取得する。
【0086】
ステップS12で、第2取得部253は、生体センサを備える第2イヤーピース2Lから第2生体信号263を取得する。
【0087】
ステップS13で、分割部254は、第1生体信号262又は第2生体信号263を取得して所定時間が経過した場合、第1生体信号262及び第2生体信号263を所定時間ごとに分割する。
【0088】
ステップS14で、特徴データ抽出部255は、分割された所定区間の第1生体信号262に基づく第1特徴データ264と分割された所定区間の第2生体信号263に基づく第2特徴データ265を抽出する。
【0089】
ステップS15で、判定部259は、分割された所定区間の第1生体信号262に基づく第1特徴データ264と、所定区間を基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号263に基づく第2特徴データ265との類似性を判定する。
【0090】
ステップS16で、同期部260は、類似性に基づいて、第1生体信号262と第2生体信号263とを同期させる。
【0091】
図13を参照して、特徴データ抽出部255の処理の詳細な例ついて説明する。図13は、本実施形態に係る特徴データ抽出部255の処理に関するフローチャートである。同図に示す例では、ステップS21で、周波数変換部256は、第1生体信号262と第2生体信号263とに周波数変換を行う。
【0092】
ステップS22で、周波数帯域抽出部257は、周波数変換後に所定の周波数帯域を抽出する。
【0093】
ステップS23で、エンベロープ算出部258は、第1パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して第1エンベロープを算出し、第2パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して第2エンベロープを算出する。この後、図12に示すステップS15において、各エンベロープを特徴データとして類似性が判定される。
【0094】
<変形例>
上記実施形態又は各実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。また、本発明は、上記実施形態又は各実施例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の開示を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素は削除してもよい。さらに、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0095】
特徴データ抽出部255は、周波数変換部256及びエンベロープ算出部258のみを含み、周波数帯域抽出部257は含まなくてもよい。この場合、エンベロープ算出部258は、周波数変換部256が算出した周波数成分の第1パワースペクトルと第2パワースペクトルに基づく第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出する。エンベロープ算出部258は、例えば、周波数変換部256が算出したα波、β波、θ波、δ波、及び、γ波等の複数の周波数帯域を含む周波数成分第1パワースペクトルと第2パワースペクトルにヒルベルト変換を適用して、第1エンベロープ及び第2エンベロープを算出する。
【0096】
また、上記の実施形態では、生体信号の特徴データとして、生体信号のピーク値、生体信号の周波数変換後のパワースペクトル、所定の周波数帯域のパワースペクトル、及び、パワースペクトルに基づくエンベロープなどを例に挙げて説明したがこれに限られない。生体信号の特徴データとして、生体信号に含まれる特徴的なノイズが用いられてもよい。このノイズの発生位置を合わせることで、少なくとも2つの生体信号の同期をとることが可能になる。
【0097】
また、上記の実施形態では、周波数帯域抽出部257が、α波のパワースペクトルを抽出する例を挙げて説明したがこれに限られない。周波数帯域抽出部257は、例えば、β波、θ波、δ波、及び、γ波等のα波以外の周波数帯域のパワースペクトルを抽出してもよい。
【0098】
また、上述した同期部260は、所定区間の同期処理に用いた補正値266を、他の区間に適用して同期処理をしてもよい。同期部260は、例えば、ある区間の同期処理に用いた補正値266を、以降の予め決められた区間分の同期処理に適用してもよい。これにより、予め決められた区間分は、特徴データの抽出、類似性の判定等の処理を省略することができ、同期処理の処理負荷を軽減することができる。予め決められた区間が経過すると、再度特徴データの抽出等が行われる。
【0099】
通信端末Mは、同期処理後の第1生体信号262と第2生体信号263に所定の処理を実行する事後処理部を備えてもよい。事後処理部は、例えば、第1生体信号262と第2生体信号263の差分信号を算出してもよい。これにより、第1生体信号262と第2生体信号263に含まれる共通のノイズを相殺でき、品質の良い生体信号を取得できる。また、事後処理部は、第1生体情報と第4生体情報とをそれぞれメイン生体情報、リファレンス生体情報として処理し、第2生体情報と第3生体情報とをそれぞれメイン生体情報、リファレンス生体情報として処理するといった交差処理を行うことで、信号成分を増やしたり、又は電位差を増加させたりするクロスリファレンス処理をしてもよい。
【0100】
また、事後処理部は、例えば、同期処理後の生体信号から所定の周波数帯域の脳波を抽出してもよい。具体的には、事後処理部は、α波を抽出することで、例えば使用者Hがリラックスしている状態にあるかを確認することができる。また、事後処理部は、β波を抽出することで、例えば使用者Hがイライラしている状態にあるかを確認することができる。また、事後処理部は、θ波を抽出することで、例えば使用者Hが浅い睡眠状態にあるかを確認することができる。また、事後処理部は、δ波を抽出することで、例えば使用者Hが深い睡眠状態にあるかを確認することができる。また、事後処理部は、γ波を抽出することで、例えば使用者Hが集中状態にあるかを確認することができる。事後処理部は、ユーザの設定等に応じて、特徴データの抽出の際に利用した所定の周波数帯域とは異なる周波数帯域を抽出してもよい。
【0101】
<ハードウェア構成>
図14は、本実施形態に係るハードウェア構成を示すブロック図である。通信端末Mは、情報処理装置により構成され、例えば、携帯端末(スマートフォンなど)、コンピュータ、タブレット端末などの端末である。通信端末Mは、通信端末300とも表記する。
【0102】
通信端末300は、1つ又は複数のプロセッサ(例、CPU)310、1つ又は複数のネットワーク通信インタフェース320、メモリ330、ユーザインタフェース350及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス370を含む。
【0103】
ユーザインタフェース350は、ディスプレイ351及び入力装置(キーボード及び/又はマウス又は他の何らかのポインティングデバイス等)352を備える。また、ユーザインタフェース350は、タッチパネルでもよい。
【0104】
メモリ330は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであり、また、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリでもよい。
【0105】
また、メモリ330の他の例は、プロセッサ310から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。ある実施例において、メモリ330は次のプログラム、モジュール及びデータ構造、又はそれらのサブセットを格納する。また、メモリ330はコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体でもよい。
【0106】
1つ又は複数のプロセッサ310は、メモリ330から、必要に応じてプログラムを読み出して実行する。例えば、1つ又は複数のプロセッサ310は、メモリ330に格納されているプログラムを実行することで、情報処理部251の処理を行う。
【符号の説明】
【0107】
2 イヤホン
2R 第1イヤーピース
2L 第2イヤーピース
22 イヤーチップ
251 情報処理部
252 第1取得部
253 第2取得部
254 分割部
255 特徴データ抽出部
256 周波数変換部
257 周波数帯域抽出部
258 エンベロープ算出部
259 判定部
260 同期部
261 記憶部
271、281 メインセンサ
272、282 リファレンスセンサ
273、283 グランドセンサ
274 第1A/D変換部
275 第1送信部
284 第2A/D変換部
285 第2送信部
300 通信端末
310 プロセッサ
320 ネットワーク通信インタフェース
330 メモリ
H 使用者
M 通信端末
【要約】
通信装置が実行する情報処理方法は、生体センサを備える第1イヤーピースから第1生体信号を取得すること、生体センサを備える第2イヤーピースから第2生体信号を取得すること、第1生体信号及び第2生体信号を所定時間ごとに分割すること、分割された所定区間の第1生体信号に基づく第1特徴データと、所定区間を基準にして時間的に順にシフトさせた所定時間の第2生体信号に基づく第2特徴データとの類似性を判定すること、類似性に基づいて、第1生体信号と第2生体信号とを同期させる同期処理を行うこと、を実行する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14